- 1◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 18:33:06
- 2通りすがりの莉波P25/06/28(土) 18:34:33
貴方様でしたか
続きが待ち遠しいでございます - 3二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 18:44:33
- 4◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 18:48:34
「んーっ……」
朝、クーラーの冷風で目が覚める。
八月とはいえ、一番低い温度設定に加えて最大風量でエアコンをつけていると、部屋の中はかなり寒くなる。
うん、でもこのくらいがちょうどいいよね。
一日中閉めっぱなしにしている遮光カーテンの隙間から僅かに光が漏れているのを見て、慌てて安全ピンで留めた。
昨日買ってきたばかりの消臭ビーズを開封し、枕元に置く。
布団の中で眠る恋人の、首筋に朝黒く残るロープの跡にそっと口付けをした。
「どうしてこんなことになっちゃったんだろうね?」
- 5二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 18:59:06
初手から辛い
- 6二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 19:00:47
ああ、もうすでに……この世からはみ出したか……
- 7通りすがりの莉波P25/06/28(土) 19:04:01
おっふぅ...
- 8◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 19:12:41
もうすっかり慣れてしまった男の人の部屋。
几帳面に整理されたキッチンの戸棚から、インスタントコーヒーとダージリンのティーバッグを取り出して、お湯を沸かす。
コーヒーは彼の、紅茶は私の。
テーブルの上に放置されていた、すっかりアイスコーヒーになってしまったそれをシンクに捨て、そこに粉末を入れた。
ケトルの中の水が、ぶくぶくと沸き立っていく。
つい数日前までは、マグカップを用意するのも、お湯が沸くのを待つこの時間も、君と一緒だったのに。
少しだけ目を瞑って、数ヶ月前に思考を飛ばした──。 - 9◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 19:29:37
あの日、私はN.I.A.で敗退した。決勝で惜しくも、だったら格好もついたんだろうけど、なんてことない。気がついたら、負けていた。
三年生で後がない私にとって、N.I.A.での敗退は実質引退勧告だった。
泣いたし、叫んだし、やり場のない怒りが明後日の方向に飛んでいったりもした。
それでもそっと私を包み込んでくれた彼のぬくもりに溶かされて、私は思わず呟いた。
「好き」
そのとき彼はすごく驚いたように目を見開いて、それから優しく微笑んだ。
「俺もです」
そんな、言葉ではたった一往復のやりとり。それでも、これまでの時間と、お互いの体温が、全てを伝えてくれた。
こうして、私とP君は恋人同士になった。 - 10◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 19:48:24
幸せな日々が続いた。
色々なところにデートに行った。
二人で手を繋いだり。目が合うと思わず逸らしたり、でもまたすぐ見つめ合ってキスしたり。
いじらしくて、些細なことでどきどきして、顔が熱くなって。やりたいことを並べれば今日だけじゃ足りなくて、行きたいところを挙げていけば明日まで待ちきれないような、満ち足りなくて、満たされる日々。
そうして二ヶ月が経った頃、初めてを交換した。誰にも内緒の週末の小部屋の中、サテンが二人を模(かたど)って。初めても、二回目も、きっとその先もずっと。君とならって思っていた。
でも君は、いつも悲しそうな顔で私を抱く。
それは、どうして──? - 11◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 20:11:20
「ねえねえP君。覚えてる? 昔さ、二人で──」
「ええ、そうでしたね」
「こんなこともあったよね?──」
「はい、覚えてます」
「P君はあの頃──」
「……どうだったでしょうか」
繋がっているようで、繋がっていない会話。
デートの約束も、愛の証明も、全部私から始まって、必ず君で終わる。
一つ一つはすごく小さなもので、わざわざ取り沙汰すほどでもない。
でもどうしてか、まるで爪のささくれのように、やけに引っかかって仕方がない。
P君、キミは本当に──。 - 12通りすがりの莉波P25/06/28(土) 20:18:30
一体莉波の心情に何が...?
- 13◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 20:27:29
クーラーの風で目が覚めた。時計を見ると、まだ四時前だ。もう一眠りしようかなと枕に再び頭を沈めたところで、ふと床に何か落ちていることに気が付いた。
P君のジャケットの下あたりに、黒い革小物。名刺入れだろうか。
昨日寝る前にジャケットをかけたときに、落としてそのままなのだろう。
私は隣で眠るP君を起こさないようにゆっくりとベッドから降りて──何も服を着てきなかったことを思い出し──服を着直してから名刺入れを拾った。
「……」
一瞬。ほんの一瞬、魔が差した。
スマホの暗証番号すら私には隠さないP君が、決して見せてくれなかったのがこの名刺入れだった。
別に、浮気を疑っているわけじゃない。何か嘘をついているんじゃないかと、勘繰っているわけじゃない。
ただどうしても──どうしようもなくこの名刺入れに、私は強く惹きつけられた。
そっと、名刺入れを開く。フラップの部分に、パッと見分かりにくいけど、ポケットが一つ。指を潜らせると、何かが当たった。
ゆっくりと引っ張り出す。
折りたたまれた──これは、写真? - 14二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 20:28:14
これ学Pが悪くても莉波の勘違いでも救いがないな
この人のSSに救い求めてもしょうがないんだけど - 15◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 20:40:41
感覚的にわかった。
直感? シックスセンス? どちらでもいいけど、つまりそういうようなもの。
この写真は、絶対に見てはいけないと、そんな予感が大音声(だいおんじょう)で頭の中に響く。
だめだ、見るな、やめて、やめて──。
そんな心の叫びも空しく、私の手は止まろうとしない。気が付けば、丁寧に折りたたまれたその写真を開いていた。
写真に写っていたのは──P君と、P君にとてもよく似た、もう少し小さい男の子。この子は、一体――。
「……見てしまいましたか」 - 16通りすがりの莉波P25/06/28(土) 20:47:07
女性じゃなくて一安心した自分がいた
でも救いはないんだよなぁ... - 17二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 20:53:12
P君はP君では無かったのか…?
- 18◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 20:56:00
「──っ!?」
突然背後から声をかけられて、心臓が飛び跳ねそうなくらい驚く。
今まで聞いたことのないくらい、低い声。
「あ、えーと、これは違くて……」
意味のない言い訳をしながら、おそるおそる振り向くと、やっぱりP君はそこに立っていて。けれど、怒ってはいなかった。
むしろ──。
「P君……?」
すごく悲しそうな、悲痛の面持ちだった。
P君は私の手──写真と私の顔を交互に見て、一瞬苦しそうに顔を歪めた。
その反応を見て、私は嫌でもわかってしまう。
ああきっとこれから。私はすごく辛いことを知ることになる。
「その写真の男の子は、俺の弟です」 - 19◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 21:11:20
ぐわん。
頭を思いっきり殴られたような衝撃が襲った。ぐらぐらと脳が揺れて、視界が曲がる。
「ちょ、ちょっと待ってよP君。弟さんがいるの?」
「……正確には、"いました"」
「今はいないってこと……?」
「…………亡くなりました。数年前の、夏の終わりに」
──俺の弟は体が弱く病気がちでした。毎日学校に通うことすら満足にできなくて、親戚も多い地元に、預けられていたんです。
それがある夏、急に元気を取り戻して、活発で、よく外で遊ぶようになりました。
お姉ちゃんができたんだ、と。毎日そう笑っていたそうです。
そしてその夏の終わり、秋の帳(とばり)が降りてくるのと同時に、俺の弟の命もそこで閉じました。最後まで、お姉ちゃんの名前を呼びながら。 - 20通りすがりの莉波P25/06/28(土) 21:17:20
いやまさかね...
えそんな訳ないっすよね? - 21◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 21:23:11
「この学校であなたを見かけたとき、直感しました。そして、あなたの口から夏の思い出を聞いて、確信した。この人が、俺の弟に最後の夢を与えてくれた、恩人なのだと」
「……だから、私をスカウトしたの、かな」
「それもあります。が、それだけではありません」
「……?」
「俺が、あなたに一目惚れしたからです。弟の初恋の相手に、俺は初恋をしました」
「俺はあなたが、俺をあの夏の少年だと勘違いしていたことを知っていて、あなたの告白を受け入れました。自分に向けられたものではないとわかっていながらも、愛するあなたと結ばれることを優先したんです」 - 22通りすがりの莉波P25/06/28(土) 21:28:01
つっら
- 23◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 21:30:39
ぽつ、ぽつと引っかかっていた小さな点が、結ばれていく。
私が彼を年下だと勘違いしていたのは。
彼がいまだに私に敬語を使うのは。
彼が私を抱くときに、悲しい顔をしていたのは。
あの夏の話をするときに、彼が急に口籠るのは。
すべて、あなたには無い思い出だったから──?
「ぅぷっ……」
思わず吐き気が込み上げた。
私のこの想いは、勘違い?
真夏の蜃気楼のように、熱中症にあてられて見た幻?
わからない。こわい。こわいよ、P君。
「莉波さん、大丈夫ですか?」
「さわらないで!」
「──っ」
お腹を抑えて丸まった私を心配して、彼が駆け寄ってきてくれた。優しく背中に触れる温もりを、私は冷たく弾き飛ばしてしまった。
ああ、でもダメだ。
今は、今だけは。
「ご、ごめんね、P君。ちょっと顔、みたくないかも」
「………………そう、ですか」
冷たいドアの音がして、私は数ヶ月ぶりの一人の部屋でうずくまった。 - 24二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 21:32:32
何度でも言う、つらい
- 25通りすがりの莉波P25/06/28(土) 21:33:16
ちょっと泣いてくる
- 26二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 21:36:57
Pも莉波も悪くないのが…
- 27◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 21:43:00
気が付くと朝になっていた。P君が戻ってきた形跡はない。どうしよう、彼の部屋なのに、占領しちゃった。
私は急いで支度をして、『昨日はごめんね。学校行くね』とだけメッセージを送った。
当然授業なんて聞いていない。一応続けているレッスンも、ほとんど身が入らなかった。
私の思い出の男の子は、P君じゃなかった。じゃあ、私が好きなのはP君じゃないの?
不思議と、答えはすぐに出た。過去がどうとか、勘違いがどうとか、全部関係ない。
”今”の私が好きなのは――間違いなく、彼なのだから。 - 28二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 21:50:23
持ち直したな風呂入ってくる
- 29二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 21:51:41
ああ、もう……
- 30通りすがりの莉波P25/06/28(土) 21:52:59
ここからハッピーエンドはないんですか!?
- 31二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 21:56:05
- 32◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 21:57:46
彼に会おう。会って昨日のことを謝って。
それから改めて、この想いを伝えよう。
放課後になってすぐ、『今から行くね』。そうメッセージを送る。朝送ったメッセージはまだ既読になっていなかった。
ごめんね。きっとつらい思いさせちゃってるんだよね。スマホなんて、見ていられないんだよね。ごめんね、今会いに行くからね。
学園からP君の部屋までの距離を、全力で走る。
息が弾んで、胸が弾む。
彼に会ったら、すぐに抱きしめよう。キスしよう。そして、これからの未来を約束しよう――。
私は電車に飛び乗るような勢いで、P君の部屋に入った。
そして、天井からぶら下がるロープを、切った。
――――ドサッ。
終わり。 - 33◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 21:59:28
くぅ~疲!
莉波Pのみなさん、ごめんなさい。
あと、学Pの弟とかウルトラオリジナル設定作ってごめんなさい。……今更か?
次で最後です。
はあ……。 - 34通りすがりの莉波P25/06/28(土) 22:00:07
- 35二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 22:00:59
一個目のせいでハナから将来に期待できなくなるのホンマ…
- 36◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 22:07:07
- 37通りすがりの莉波P25/06/28(土) 22:13:20
じゃあピッチあげて莉波Pの愛が激重概念書いてくかぁ...
- 38◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 22:14:46
- 39◆HaBLx0H.oA25/06/28(土) 22:15:00
ああああ…好き合ってたのにすれ違っちまった…
佑芽が今からもう既に怖すぎるんだが、、、 - 40二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 22:17:24
このレスは削除されています
- 41通りすがりの莉波P25/06/28(土) 22:17:33
- 42二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 22:18:00
次回で堂々完結?毎日楽しみに見てたけどついに終わるのか
佑芽Pによる佑芽Pのための佑芽曇らせ楽しみにして待ってる - 43◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 22:19:16
- 44二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 23:31:39
初手絶望を叩きつけてくるの魔王かな?
- 45◆HaBLx0H.oA25/06/28(土) 23:35:35
- 46二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 23:43:52
このレスは削除されています
- 47◆WsV5Czf1Hs25/06/28(土) 23:45:02
- 48二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 23:45:40
ハピエンはなんぼあってもええですからね
その分バッドエンドもなんぼあってもいい
物語の結末は、多ければ多いほど、想像力が沸き立つのですわ - 49二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 00:08:33
今回が一番辛くなくて推しだから助かった…
誰も悪くない少しすれ違ってしまっただけなんだ… - 50二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 00:58:55
このレスは削除されています