ここだけノエル先生が『一周目の記憶』を引き継いだ世界 12

  • 1スレ主25/06/28(土) 21:33:19
  • 2スレ主25/06/28(土) 21:34:34
  • 3スレ主25/06/28(土) 21:35:38

    このスレのノエル先生
    ・フランス事変後に修道院に隔離されて間もなく『一周目の記憶』を自覚する
    ・隔離後すぐに代行者として就任。この時点でエレイシアに対する報復を決意し復讐者として生きる
    ・エレイシアが目覚めて代行者になるまでの六年半でひたすらに自己研鑽&限界を超えるための代償を払い続ける。その甲斐あって原作とは非にならない強さを得る
    ・人間以上の耐久を得るための一環で左足を聖別化した義足に改造してもらってる
    ・偶然にも手に入れた十四の石を用いて人外と化す。外見の変化は肌が白くなったくらい。完全に適応してからは恐らく瞳孔も十字になってると思われる
    ・幻想種の中で神獣に区分される『白鯨』モビーディックの遺骸を直接的な経口摂取で取り込み、更に肉体の存在規模を拡張させる事に成功している
    ・現時点での強さは少なくともシエルとの連携でなら後継者をも斃せるまでになっている
    ・というよりシエルとの連携の末に二十七祖のクロムクレイに引導を渡すという大快挙を成しえてしまった
    ・↑の功績もあって教会から『焔(ほむら)のノエル』という異名をつけられる
    ・着実に強くなっていってる事と『一周目の記憶』の自分を反面教師にしてる事もあって大分精神が安定している
    ・ただし完全な復讐者として生きているので高い身分だの裕福な生活だのと言った人並みの幸せには全く固執していない。もはや彼女が望んでいるのはロアやシエルに対する復讐のみとなっている
    ・そんなんだからマーリオゥからは『手を焼かせる制御不能の猪』と厄介に思われてる
    ・ここまで復讐鬼に振り切っているものの、無辜の人々が死徒に虐殺されるのを何よりも許せない代行者としての正義感もちゃんとあったりする
    ・実はシエルを誰よりも憎み蔑んでいる一方で、憎んでいる故に誰よりも彼女を気にかけていたりする。シエルの理解者

  • 4スレ主25/06/28(土) 21:36:38

    9スレ目の神絵

  • 5スレ主25/06/28(土) 21:40:43

    現在の状況
    ・ノエルが先輩に無理やり志貴の血を吸わせようとしたところでアルクが襲来する
    ・そして、とうとう何ヶ月にも渡って調子に乗りすぎたツケがこれから嫌というほど彼女に襲いかかる

  • 6二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 21:51:12

    ノエルさんが完全勝利できる√っておそらく死徒化する事に思い当たらなかった√でかつシエル√だった時の場合よね
    割と可能性ありそうだけどどうだろ

  • 7二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 22:34:06

    「……おまえ、なんで来て、くれたんだ」
    「それに答える前に、ちょっと大人しくしててね。首のそれ治すから」

    アルクェイドが俺の首筋に手を添える。すると、微かに何かが流れてくるのを感じた。
    途端に、痛みと気持ち悪さと喪失感が消えていく。見やると、どうやら血も止まっているようだ。
    それに伴って、突き破られていた血管や神経、筋肉や皮膚が細胞単位で急速に修復していくのが実感できる。
    死という暗闇に霧散しかけていた遠野志貴の意識が、生に向かって明確に浮上していく。

    「………よし。半分ほど死徒になってるおかげで、再生速度も速くできたわ。
    けれどこの感じだと、あと数十秒でも遅れていれば手遅れになっていたかしら。本当、間に合って良かった」
    「……すごい。完全に治ってる。ありがとう、アルクェイド」
    「ふん。シエルに惚気きって一度フった男に感謝されても嬉しくないんだから。かつての運命の人の好みとして助けてあげただけよ」
    「はは………そう言われると、何も返せないな」

    そういう割には、心から安堵している微笑みを浮かべているが。
    本人に言うと殴られそうなんで、口にするのはグッと我慢しておこう。

    「とりあえず、コレは邪魔ね。えいっ!」

    アルクェイドが右腕を払うと、俺を縛り付けていた椅子の拘束具が全て破壊される。半年以上に渡ってずっとずっと無力感を味わっていた俺は、いとも簡単にあっさりと自由の身になった。

    「うん、これでよし。見たところ何処も鬱血はしていないようだし、これと言った外傷も他にないみたいね!」
    「ああ。それは、そうだな。……それで………」
    「わたしが何故ここに来たか、よね? それは、」

    「――――わたしの中にある自分の血(ちから)を取り戻しに来た。そうでしょう、アルクェイド?」

    自分がここに訪れた理由。それをアルクェイドが語る前に、先輩が彼女に代わって口にする。
    ノエルが説明していた事を思い出す。あの女は、先輩を死徒にした魔薬には真祖の血も入っていると言っていた。
    それならアルクェイドがここに来たのは、14年前のように先輩を殺して自分の血を取り込む為なのか?

  • 8二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 22:51:29

    おおいに大暴走してこのあーぱー吸血鬼と言われるのかアルクェイド貴女……なんて発言のシリアス展開になるのかまったく分からないけどたのしみです

  • 9二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 23:01:04

    10まで保守しないと落ちちゃうので保守します

  • 10二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 23:02:55

    とてつもなく珍しいくらいに同情するわと言ったアルクはシエル先輩に何を思うのか
    ノエルをどうするのか……非常に楽しみ保守

  • 11スレ主25/06/28(土) 23:03:51

    因みに今のアルクェイドのドレス姿は↓の格好です

    つまり14年前のフランス事変と同じ装いという事ですね

  • 12二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 23:05:13

    まぁノエルからしたら後どれぐらいシエルから絞り取れるかどうかで
    絶対後悔やら懺悔はもうしないだろうからなんか虚しいな

  • 13二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 23:08:28

    祖を二体単独で始末してる以上簡単にはくたばらないとは思うがアルク相手だとキツいだろうからなぁ
    とはいえ魔薬の原理血戒にノエルが自爆機構セットしてる可能性もゼロじゃないし最後まで気は抜けないな

  • 14二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 23:18:45

    あのドレス姿のアルクに、ノエル先生が倒されるのか……これ以上ない因縁になるよなあ……

  • 15二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 23:22:01

    >>11

    リメイクゲームだと髪ロングであの有名な白くてカッコよくてお姫様なドレスだったけど漫画だと違うんだね

    髪短いし……

  • 16二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 23:55:25

    「―――――貴女は、どう思っているの?シエル」
    「…………………」

    アルクェイドが瞳孔を細めて、四肢を失った先輩に向き合う。
    その顔はとても冷ややかな表情だが、同情の念も見え隠れしている。

    「わたしとしては、そのつもりで来てはいるわ。
    貴女とは相容れない敵同士ではあるけど、それ故にお互いにお互いを理解している腐れ縁だからね。
    そんな貴女がこうして死徒にされて、ロアだった頃と同じ姿にされて、これ以上ないほどその尊厳を辱められているのはハッキリ言って不快だわ。わたしとしても、そんなのは見たくもない。
    だから血を取り込むついでに、介錯として一思いに殺してあげると考えていたわよ」
    「…………考えていた、とは?今は、違うと?」
    「ちょっとだけ、ね。……質問よ、シエル。
    貴女は、どうしたい?このままここでわたしに殺されるか、それとも―――――志貴の為に、志貴と一緒に生きることを選ぶか」
    「…………!!」
    「わたしね。あの日の夜に貴女たちのもとから去った後、一度冷静になって色々と考えたの。
    志貴が好きなのは今も、これからもずっと変わらない。でも志貴はわたしじゃなくて貴女に愛を向けている。ええ、今もそこを気にしてないかと言われれば気にしてるわ。酷く、それはもう酷くよ。
    でもだからと言って、考えを改めずに貴女を引き裂いてしまえば、志貴を強引に奪おうとすれば、どうなるかは既に思い知っている。同じ過ちはわたしだって繰り返したくない。
    だから、今ここで貴女にこうして問いかけているの。貴女の意思を無視せずに、貴女の選択を聞き届けた上で殺すか生かすかを決めたいと考えているのよ。
    そして、できればわたしは貴女に生きる事を選んでほしい。だって、仮に貴女をこの場で殺してしまえば、志貴から嫌われてしまう。
    もし嫌いにならなかったとしても、貴女という唯一わたしを止められるブレーキを失ったら、今度こそわたしは志貴の意思や尊厳を無視して城へと連れ帰ってしまう。
    わたしは、そんな事はしたくない。志貴に嫌われたくない。貴女をこの手で殺したくもない。
    もう一度訪ねるわ、シエル。―――――貴女は、どうしたいのかしら?」

    「…………アル、クェイド。それ、は…………………」

    アルクェイドは、徹頭徹尾、大真面目に語った上で、先輩にそう問いかけた。

  • 17二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 23:58:55

    凄い冷静に相手をおもんばかってる…………
    あのアルクが……貴女って吸血鬼姫は…悪い生き物じゃないんだね、なんだかんだ…

  • 18二次元好きの匿名さん25/06/28(土) 23:59:54

    生きて欲しい…ね
    けど平穏な道はもうノエルが燃やし尽くして無くしてしまったからなぁ…
    残る道はノエルがいなくなろうとも苦難だけが襲いくる地獄のような道しかない
    そういう意味でもノエル先生は最低限の領分では勝ってるのか

  • 19二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 01:14:44

    「……わたしは、吸血鬼です。人間の血を飲まないと、死んでしまう化け物です」
    「うん、知ってるわ。どのみち生きるという事は、そうしないといけないものね」
    「けど、本当は血なんて吸いたくない。吸血鬼として生きるぐらいなら、自分から死を選びます」
    「うん、それも知ってる。貴女は、ロアとして多くの人間を殺した。それを繰り返すかもしれない可能性が僅かでもあれば、迷いなくそうするでしょうね。
    でも、志貴をそこの壁に埋まってる女に人質にされていたからできなかった。違うかしら?」
    「そう、ですね。でも、わたしは……この半年間の中で、越えてはいけない一線を、越えてしまった。
    夢幻にすぎないとはいえ、大切な人を………こ、殺して、食べちゃったんです。笑いながら、血を、吸ったんです。
    彼にも、いつかそうして手にかけるかもしれないと思うだけで………怖くて、たまらないんです……っ!」
    「…………………じゃあ、ここで死ぬ?
    志貴の想いを一方的に無視して、自分が怖いからというそれだけの理由で、ここでわたしに介錯される?
    貴女の志貴に対する愛の大きさは、運命の人と共に生きていきたいという覚悟は、たったその程度のモノだったの?」

    「――――――――――っ」

    先輩が、息を呑む。アルクェイドは容赦なく、されどシエルという人間の意思を重んじて発破をかける。
    ………コイツは今、先輩を試している。そして、同時に期待している。
    おまえの覚悟は、今まで遠野志貴と積み上げてきた思い出は、そんな簡単に切り捨てられるようなモノではない筈だろうと。

    「…………し、だって。

    ――――――わたしだって、遠野くんと、一緒に生きていきたいに、決まってるじゃないですか。

    彼と一緒に、笑って、愛し合って、恋人らしい事をいっぱいして、苦難を共に乗り越えて………失った幸せを掴み取りたいって……………思っていないワケが、ないでしょう………っ!!!」

    「――――シエル、先輩」

    今この瞬間、この人は、心からの本音を口にした。代行者としてでも、吸血鬼としてでも、学校の頼れる先輩としてでもない。
    俺を一人の人間として愛し、俺と一緒に苦楽を過ごしたい。そういう、人生の伴侶として俺と支え合いたいという“普通の恋(ねがい)”だった。

  • 20二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 01:24:48

    ノエルはアルクに対しては血を使った事への謝罪というか謝るぐらいはやりそうだけどね
    でも復讐を邪魔するモノに対してはなんであろうと燃やし尽くすとも決めてるしどうなるのか…

  • 21二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 01:28:47

    ここまで来たら全員にとってのバッドエンドで終わらないかな
    正直志貴の自刃エンドが一番丸く収まってた

  • 22二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 01:56:53

    ノエルによって死徒として蘇ったとはいえ
    この√でシエルと志貴が二人ともに生き残って過ごすのはあまりにも都合がいい話ではあるから片方(おそらくシエル)は確実に死ぬだろうな
    本来なら志貴の命と引き換えにシエルが蘇らなければならない訳だし

  • 23二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 10:02:33

    「ええ、そうですよ。これが、わたしの本当の想い。嘘偽りのない、切なる願いですよ。
    でも、だからこそ……その願いを自分の手で壊してしまう未来が、何よりもイヤなんです。
    当たり前でしょう!?遠野くんには、最期まで人として生きてほしい。けれど、わたしが側にいたらいつか血を吸って、吸血鬼にしてしまうかもしれない。
    わたしは、そんな事になったら堪えられない。怖ろしくて、怖ろしくて仕方がないんですよ………!」

    ……先輩は酷く狼狽している。この人は、自分が望んでいる幸福を自分の手で踏み潰してしまう事を怖れている。
    14年前の惨劇のトラウマが、この人に本当の願いを選ぶ事を邪魔している。

    「だから、志貴の目の前でわたしに殺される事を選ぶの?
    貴女はそう望んでいても、それを見せつけられる志貴はどういう気持ちになるかしら。
    それもまた、志貴を憂いての事かもしれないでしょうけど……もう少しコイツの気持ちに寄り添う事を考えたらどう?
    本当にこの男を心から愛しているのなら、死徒の本能に向き合いながら生きていく覚悟ぐらい括りなさい。
    自分を律し、他者の幸福を重んじる。それが貴女という人間の美点でしょう、シエル」

    対するアルクェイドは、どこまでも冷静だった。言葉を選びながら先輩を諭していた。
    一度頭を冷やして考えを改めたというのは、どうやら本当らしい。一方的な暴力ではなく、ちゃんとした言葉で説得するという意思が、俺にも分かるぐらいに伝わってくる。
    こう思うのは今のコイツに対して失礼かもしれないが、総耶で好き勝手に暴れていた時とはまるで別人だ。

    「………分かっています。それも、分かってはいるんです。でも、それでも……わたしは………!」
    「……ああ、もう!相変わらず鉄みたいに頑固な女ね! いいわ、ならこうしましょう。
    志貴、貴方の想いをこの女に聞かせてあげなさい。どうやらコイツ、わたしの説得じゃ何を言われても死ぬ意思を曲げないみたいだし、貴方の方からも言うべき事を言ってやって。
    貴方の言葉なら、面倒くさいほど頭でっかちなシエルも考えを改めてくれるでしょう」
    「……俺が、か」
    「ええ、容赦なくズバズバと言ってちょうだい。ていうか言わないといけないわ。
    それでも尚考えを改めない、志貴の為に生きるという覚悟と勇気が持てないというのなら―――――わたしが、貴女を殺した上で志貴を貰うからね。シエル?」

  • 24二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 12:11:06

    というか志貴に関してはシエルが死んだ後に教会に来なければ巻き込まれなかったのかな?
    ノエルも地の文で邪魔をしてきたから巻き込んだって言ってるけど変わらずに日本で過ごしてたなら被害を受けるのはシエルだけで済んだかも?

  • 25スレ主25/06/29(日) 14:29:00

    >>24

    まあぶっちゃけるとそうですね

    例えノエル先生にとって志貴クンも気に食わないとしても復讐の邪魔さえしなければノータッチでした

    仮に志貴が教会の門を叩かずに遠野邸で生活する道を選んでいれば直接的な被害を受けるのはシエル先輩だけでしたね

    もっとも魔薬にアルクの血が使われている以上、どのみちアルクがやってきてノエル先生もシエル先輩も彼女に殺されるという後味の悪い結末になってたでしょう

    でもまあこの時点でアルクは大分柔軟になってるからこの場合でもシエル先輩を殺さずに城にお持ち帰りする可能性もあり得ると思いますよ

    アルクって先輩の事も何だかんだで大好きですし

  • 26二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 16:01:37

    アルクが対話してるのが凄い嬉しい
    あんなに複雑で嫌いあって殺しあう仲なのがこんなにもちゃんとお互いに気持ちを吐き出してどうにかこの場を納めようとしてるのがなんだかとても凄い嬉しい
    アルクとシエル先輩って本当に好き

  • 27二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 21:59:17

    保守

    アルクが来たのでちょっとだけ戦闘お休みだから嬉しいのと三人が三人幸せを考えてるのが本当に素晴らしい

  • 28二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 22:05:46

    ここまで考えが回ってるかどうかは別にしてシエルに組み込まれた二つの原理血戒にノエルが予め細工を仕掛けてたりしないかな?
    駆動させるならともかく暴走させてオーバーヒートさせる方なら前者よりも仕掛けやすいだろうし
    何より用心深いノエルさんがそこらへんを考慮してそうでもあるし

  • 29二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 23:57:25

    そう口にするアルクェイドの目は、声色は、本気のそれだった。
    自分が幸せを壊す未来を怖れるあまり、今を生きている恋人からの言葉も無下にするような選択をすれば、そんな女に恋人を名乗る資格はない。好きな人と一緒に生きるという覚悟も持てないようであれば、その覚悟と愛を持っている自分がソイツを手中にして共に生きてやる。
    今しがた先輩に告げたコイツの言葉には、暗にそういう意思が籠っていた。

    なら、そうはさせない為に俺からもこの人を説得しなくちゃいけない。

    「――――先輩、聞いてください」
    「……遠野くん」
    「俺は、これまで貴女に何度も何度も救(たす)けられてきた。貴女のおかげで、今の俺がある。
    貴女が俺を手にかけてしまうかもしれないと怯えているのなら、そういう未来になるのが怖いと言うのなら、それこそ俺と一緒に支え合って生きていけばいい。
    それでも不安が拭えないなら、アルクェイドにも目をかけてもらえばいい。コイツが俺を強引に自分のモノにしないように、先輩が俺の血を吸ってしまわないように、お互いに暴走しないよう監視していけば大丈夫な筈だ。
    いや、絶対に大丈夫。アルクェイドも、俺も保証する。先輩は吸血衝動に呑まれたりしないし、させない。
    貴女の善(つよ)さと弱さは、俺もコイツも嫌ってぐらいによく知っている。挫けそうになったら、折れそうになったら、溺れそうになったら、その度に俺たちで支え合っていけばいいんだ。
    だから―――――どうか、生きる事を諦めないで。お願いします、シエル先輩」
    「――――――――――」

    今ここで死を選ぶよりも、これからを生きてほしい。
    死徒になったとしても、先輩が先輩のままであれば、そして俺たちと一緒に支え合って生きていけば、いつか必ず幸せは掴める筈なんだ。
    だから、俺は尚更に諦める訳にはいかない。過程はどうあれ、アルクェイドという救いの手が来てくれたおかげで俺と先輩はノエルのもたらす地獄から解放された。
    だったら、どんな苦難がこの先に待ち受けていようが怯んでたまるか。
    この人が自分一人では幸せを見出せないとしても、俺がこの人を幸せに導いてみせるんだ。

  • 30二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 00:07:40

    なんか希望を持ち始めちゃってんな
    志貴に関しては手段はどうであれシエルと再会できる機会という奇跡を手に入れられた以上高望みしすぎのような気がする
    かといってノエルのツケを回収されないのももどかしいので
    ここにいる全員に等しく絶望を与えられる&失意の最期を迎えて欲しい感

  • 31二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 01:04:04

    「聞いたでしょう?これが志貴の意思よ。
    それで?ここまで言わせておいて、尚も考えは揺らがないかしら?」
    「………遠野、くん………アルクェイド。わたしは………わたしは、」


    「――――――わたしは、なに?」


    「!」

    瞬間、教会の扉だった瓦礫が弾け飛ぶ。アルクェイドは即座に反応し、飛んでくる瓦礫片を片手で一掃する。
    砂ぼこりの中からゆっくりと出てきたのは――――――憤怒の顔を剥き出しにしているノエルだった。

    「ノエ、ル……!」
    「ああ、まさか真祖の姫サマがご来訪なされるだなんて思ってもみなかったわ。
    でも考えてみればそうよね。確かにそこの女におまえの血が流れているんだからおまえはそれを取り戻しに来る筈よ。14年前の時も総耶でもそうだったのをすっかり失念していたわ。
    ――――で、おまえさ。今なんて言おうとしたワケ?」
    「…………っ!」
    「瓦礫に埋もれながらずーーーっと大人しく聞いてやってたけど、おまえもしかして『一緒に生きたい』だなんて口にしようとしなかった?
    いやぁ、それはおかしいわよね?今のおまえは人類の敵なんだからここで無様に死んだ方が世界にとっての幸福に繋がるってのにさ。穢いモノは須らく地上から消え失せなきゃならないじゃないの。そうでしょ、そうよね?
    なんであの時のようにまた絆されようとしてんの?なんで言いくるめられてんの?おまえはまたそうして私を一人にして置いていくの?
    違うわよね、あってはならないよね、もう前提がおかしいよね。何を勝手にゴミみたいな希望を抱いてやがるの?
    いい?おまえはね、エレイシア――――ここで!私に!ぶち殺される事が!おまえにとっての最善で相応しい末路なんだよっ!!」

    先輩に顔を向けるなり、ノエルは狂態を晒しながら怒りのままに言いたい放題を口にする。
    だが、この場で怒りを覚えているのは何もこの女だけじゃない。

    「……ねえ、なんで邪魔するの?今―――――わたしが、志貴と一緒にシエルを説得していたでしょう?」

  • 32二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 01:19:07

    というか十四の石って魔性特効だからある意味アルクに対しても属性的に有利ではあるのか
    死徒みたいに吸血鬼特効もノエルの場合にはかかってるだろうから白鯨の力を全部焔に変えられるならまだ太刀打ちできるかも…?

  • 33二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 07:18:40

    ノエルとそれ以外は平行線だからもう殺し合うしかないよね

  • 34二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 10:16:17

    希望を語っている今はノエルが邪魔で
    身体吸血鬼に吸血鬼の血とかいろいろズタボロだからどうにかしなきゃいけないし
    けどこのままハッピーエンド完!にはいろいろと問題多いから難しそうだし
    でも報われるべきだよぉっ!って気持ちは変わらないし
    どっかで確実に調子乗りまくったツケは払われるべきだし……
    とりあえず姫様に大暴れしてもらおう
    それで一回ノエルは痛い目みてもらおう
    なんかずっとノエルのターンすぎるし…
    でも皆さんのこと大好きだなあ

  • 35二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 10:23:56

    >>34だけど

    思ったんですけどノエルに襲い掛かるツケって物理的な殴る蹴るなのか言葉によるレスバトルなのかどっちなんだろ?とふと思った……

    普通に考えたら物理的な殴る蹴るなんだろうなあ

    まぁ言葉でもこれでもかぁ!ってぐらいには言葉責めされて欲しい気持ちあるなぁ


    あと前回のルートじゃ先輩同じ吸血鬼の姿形にはなったけど精神までいってはなくて今回はマジで身も心も吸血鬼になっちゃった(耐えてるけどもう無理)だから前回のルートとの対比が素晴らしいなと思います!

  • 36二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 10:39:34

    思ったんだけどこの場にシエルが元々抱えていた「実り」「剣」「城、即ち王国」の三つの原理
    「アッファンバウムの原理」
    ノエルが組み込んだ「ロズィーアンの原理」「パラノダリアの原理」という合計6つの原理血戒
    そして真祖たるアルクェイドの心臓が揃ってるからやろうと思えばフランス事変の際に起こりかけていた儀式が起こせる…?
    というかこの外側に二十七祖が漁夫の利狙ってたらヤバくない…?

  • 37二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 19:52:22

    このレスは削除されています

  • 38二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 22:39:06

    保守

  • 39二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 00:19:26

    今まさに答えを聞き出そうとしたところを不躾にも遮ってきた無礼者(ノエル)に対し、アルクェイドは激情の目を向ける。
    以前に先輩に煽られた際にノエルが見せた怒気も凄まじかったが、今のアルクェイドの放っているそれも尋常じゃない。

    「邪魔をするな、ですって?おまえこそ今まさに私がエレイシアに身の程を分からせているところを邪魔してきたじゃないのよ。
    まさか扉を蹴破ってぶつけてくるとは思わなかったわ。もし私が今も普通の人間だったら、衝突した時点でトマトのように潰れてたでしょうね」
    「そう。それでさっさと死んでくれていたら良かったのだけれどね。
    貴女、自分がどれだけ意味のない事をやっているのか分かってる?シエルに復讐したい、見返してやりたいというその気持ちは、わたしにも理解を示せるわ。
    けど、この女を死徒にしただけに飽き足らず、志貴も巻き込んだのは怒りでどうにかなっちゃいそう。加えて、シエルを死徒にした薬にはわたしの血を使っている始末。あまつさえ、蘇生させる為だけに原理血戒すらもわざわざ二つも拵えて埋め込むだなんて、本当に余念と妥協がないのね。
    そうまでしてやる事が、復讐と呼ぶのも甚だしいただの八つ当たりと来た。シエルを苦しめる為だけに、志貴にもじわじわと苦しみを与え続けて、そしてシエルを使って志貴を殺そうとした。

    ああ、まったく。本当に―――――――――――図に乗るのも大概にしろ。豚にも劣る下郎めが」

    ………怒っている。かつては俺と先輩に向けていたその怒りを、今度は俺たちを守るためにノエルへと向けている。
    その瞳はすでに金に染まっている。並みの生物なら人間だろうが人外だろうが、それだけで心停止してもおかしくはない。
    だが、ノエルはその怒りと殺意の奔流を正面から受けきっている。その表情に怯えはなく、寧ろ――――笑ってすらいた。

    「ええ、全くもってその通りよ。アルクェイド・ブリュンスタッド。
    私のやってる“コレ”は、復讐という大義名分の下にやってるだけの八つ当たり。傍から見れば意味のない、ただ私が満足する為に何度も何度も反芻している虐殺に過ぎない。
    そりゃあ、生殺与奪の権利を自分の手で奪い取れたんだから調子に乗っても仕方ないでしょう?そうは思わない?」

  • 40二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 00:23:34

    というかノエルさんって追い込めば追い込む程覚醒するタイプだから
    最期あたりは別作品であるけどヒロアカの荼毘みたいになりそうで怖い…

  • 41二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 00:43:42

    アルクが反論するにはちと厳しいかもな…
    ノエル側も口撃の威力が跳ね上がってる上に負い目がないからダメージが全くない
    なによりかつての総耶でのアルクの行動と今のノエルの行動が被る上に
    アルク側にはノエルが最低限でも越えないでいた復讐を邪魔しない人々の安寧を護るというラインがはなからない訳だし

  • 42二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 00:59:25

    「第一、私にそんなコト言う前に過去の自分の行動を顧みればどう?おまえだって、あの夜の校舎での時にシエルを愉しそうに引き裂いていたじゃないの。それを志貴クンの前で見せつけるようにしちゃってさ。
    さっきは頭を冷やしただとか色々とほざいてたけど、そういう過去の行いがある時点でおまえが私を上から堂々と説教垂れるとか、あまりにも筋違いで厚かましいんじゃないかしらぁ?」
    「……そうね。確かにわたしはあの時、自分の感情を剥き出しにしすぎていた。
    シエルの事も、志貴の気持ちも、一方的に暴力で潰そうとした。話し合おうとしなかった。向き合おうとしなかった。その事実は否定しないし、否定しようがないわ。
    けど――――“お前”と違って、今はその事実(かこ)を悔いている。この状況になったのは、お前にここまで図に乗らせる切っ掛けを作らせてしまったのは、間違いなくわたしが暴走した事にある。
    だから、同じ轍は踏まない。わたしは、もう自分の感情を優先したくはない。暴力で全てを理不尽に潰すんじゃなくて、話し合いでこの2人と和解したい。
    それが、今のわたしの気持ち。わたしの心からの信念。だからこそ、八つ当たりと自覚して尚も2人を奪おうとするお前を許す訳にはいかない。
    よくも、わたしのお気に入りをこうまで痛めつけてくれたわね。今からその返礼をきっちりとしてあげるから、文字通り心胆から覚悟しなさい」

    自分の行いを悔いている。そう口にしたアルクェイドの目は、顔は、心は、過去を忘れない上で今と向き合うという強い意思が明確に表れている。
    ……俺は、この表情を、この意思をよく知っている。何故ならその善(つよ)い意思を持っている人がもう一人、今もこうして側にいる。
    基本的にどこまでも自由奔放で、自分の行動に対する責任感というものをほとんど持ち合わせていない。そんなお転婆で、悪く言えば傍迷惑なお姫様の面影は、ある意味ではもうどこにもなかった。

    「……ふふ、くっくく。ふふふふふふ、ふふふふふふふふ。
    いやあ、なーんか私が斃されるべき悪みたいな雰囲気になってるけど、本当に斃されるべき悪(ゴミ)はおまえとそこに転がってるボロクズだからね?
    誰のせいでロアという吸血鬼が生まれた?誰のせいで巡り巡って14年前の地獄が引き起こされた?誰のせいで私は全てを失って、こんなクソみたいな人生を送る羽目になった?」

  • 43二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 01:07:11

    ノエルとシエルの和解は…もう無理だろうな…
    引き金を先に引いたのがシエルの時点でね…
    志貴死亡√である種分かり合えたのって裏切りがなかった側面が大きかった訳だし
    なんというかアルクともまた前提が違うしね

  • 44二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 10:14:21

    そうか、アルク参戦でうおー!って気持ちは高ぶったけど余計に自分の人生おかしくした元凶来たからノエルにとっちゃ全員潰す場所になっちゃった訳か
    まあまだツケが終わってないのでねそこが楽しみっすよね

  • 45二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 10:31:47

    「全部、全部おまえたち吸血鬼のせいに他ならないのよ。おまえたちはどこまでいっても奪う事しかできない。護れるものなんざ何もない。
    事実(かこ)を悔いている?殺したくない?生きる事を選んでほしい?話し合いで和解したい?
    あーあー、くっせぇ~~~~~~。ホントくっせぇわねぇオイ!あまりに偽善臭すぎて鼻も耳も腐っちまいそうよ!三流のギャグよりも寒いコトを平気で口にできるその厚顔無恥ぶりは流石吸血鬼どもの大元ね。感服したわ!」

    「何とでも言うといいわ。どうあれ、お前は復讐の為だからという理由を免罪符に度を超えてやり過ぎた。
    14年前のロアへの報復に固執するあまり、死徒を狩る代行者でありながらシエルを死徒に堕とした。その時点でお前にもはや正当性を主張する資格はない。
    いつまで経っても過去に囚われているような憐れなヤツに何を言われようと、わたしは容赦も慈悲も与えないわ。
    お前は、自分と向き合う事はこれまで散々して来たのでしょう。じゃないと、そこまでの強さと妄執には至れない。
    けれど自分としか向き合わず、シエルにも本気で向き合おうとしなかった。シエルを化け物としか認識せず、一人の人間として向き合う事をただの一度もしなかった。
    そんなんだから、ロアを殺すという誓いよりも恋を優先されたのよ。復讐よりも他者の幸福を重んじたシエルと、今も復讐を割り切る事ができていないお前とでは、どちらが善(つよ)いのかは比べるべくもないわ。ハッキリ言うと、虚しいわよ」

    「あっそう。やっぱりおまえともそもそもの論点がズレてるわね。その主張は、あくまでおまえの観点からによるものでしかないでしょう?
    シエルと一度でも向き合っていない?はは、当たり前じゃん。何で私が、自分の全てを奪った悪魔とお互いに寄り添わなきゃいけないワケ?そこの悪魔は、ただただ冷徹に冷酷に吸血鬼を殲滅する為だけに生きるマシーンであれば良かった。コイツ自身もそう思っていたのに、ほんの少しの間知り合っただけのガキに無様にも絆されやがった。
    いつまでも過去に囚われている?それも当然よね。コイツは確かにロアの被害者よ。でも同時に一番の加害者でもある。対して私は何もできずに、目の前で故郷と家族と恋人が蹂躙されていくのを徹頭徹尾容赦なく見せつけられたのよ?」

  • 46二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 10:40:10

    平行線というよりもシエル自身は天秤にかけて志貴を選んだ自分よりも
    天秤にかけた際に復讐に囚われながらも関係ない無辜の人々(シエルは元から対象外、志貴は復讐の直接邪魔した上にその後の障害とある以上除外)を選んだノエルの方が弱き人々を守護者・代行者としての責務を果たしていると思っている点で視点が違うんよね
    妄執に囚われた復讐鬼としての側面と市井の人々の安寧を護る主の忠実な代行者としての側面があるけどアルクの後者の側面を殆ど知らないというね

  • 47二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 11:18:35

    「で?そんな私が、復讐を割り切れていない虚しい女って?知った風に上から物を言うな。おまえもシエルの事を人間として見ていない癖に。
    うん。最初から分かってたけど、やっぱりおまえたちはどこまで行っても他者の気持ちを理解しないのね。結局、自分の主観でしか物事を語れないイキモノってコトか」

    違う、とは言えなかった。ノエルの立場からすれば、そういう認識でしかないのは当たり前だった。
    自らの人生を奪ったロアへの復讐。延いてはこの星に生きる全ての吸血鬼を殺し尽くす為に、この女は代償に代償を重ねながら力をつけてきた。
    話し合いの余地があるとかないとかの問題じゃなく、どこまでも平行線でしかない。
    この女にとって復讐を自分から諦めるという事は、俺がシエル先輩を諦める事と同じなんだ。
    だから、ここまで来てしまった時点で、もはやどちらかが死ぬまで殺し合うしかない。俺はその上で、シエル先輩と一緒にここから生き延びなければいけない。

    「おまえたちはクソだ。何をほざいても結局は罪なき弱者(ヒト)を愉しんで殺す。本当に救いようがないし、始末に負えない。
    今この瞬間も、わたしが味わったような地獄を齎されている人々がいると思うと本気で胸が張り裂けそうったらないわ」

    ノエルは瓦礫の散らばる床を一歩ずつ、踏みしめていく。ナイフは手元にないが、最低限先輩を庇えるように彼女の側に寄って警戒する。

    「だから―――――だから、私は最期まで吸血鬼を殺し続ける。一人でも多くの人々を護れるように、そして私自身の復讐を一歩でも成し得る為に、身も心も心火に捧げて尽くを燃やし尽くす」

    歩みは止まらず、手に持つ得物からは黒く燃える焔が噴き出す。アルクェイドは、それまでと変わらずにただ目の前の復讐鬼を見据えている。

    「こんなところで、早々にリタイアなんてあっちゃあならない。一度志した以上、何があっても屈してはいけない。折れてはいけない。考えを、在り方を、生き方を変えてはいけない。

    故にこそ―――――――私の復讐を邪魔する者は、例え真祖の姫だろうと関係なくブチ殺すのみだ!!」

    そして、その瞬間を以って猛々しい淡河と共に黒い焔が白い化身に突貫した。

  • 48二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 11:23:09

    『自分の主観でしかモノゴトを語れない生き物』ってさ貴女も当てはまると思いますよぉッ!!!!!!
    皆最初は自分の主観でモノゴト語るじゃん!!!!
    貴女もそうだよね!ブーメランじゃないんですかぁ?

  • 49二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 11:56:19

    ノエルはただ人から化け物になった存在
    アルクは元々化け物
    シエルは人の形をして生まれた化け物
    ノエルからしたらそんな奴らが人の営みを理解してる風に装ってマウント取ってきたらブチ切れる訳で…

  • 50二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 20:40:31

    というかこの状態ってノエル側も総耶の頃よりも遥かに強くなってるだろうからどうなるのだろうか
    個人的に焔がアルクですら激痛を感じるレベルになってると嬉しい

  • 51二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 23:39:42

    その瞬間(とき)、視界が燃え盛った。
    よく見ると、ノエルは既にハルバードをアルクェイドに降り下げていて、そこから焔が扇状に拡がっている。
    対するアルクェイドの方は、それを片手で受け止めた上で、魔力の波のような薄い膜(バリア)を展開して焔を防いでいる。
    それが、今の一瞬で起こっていた。俺は今まで、本当にこの女の気まぐれで生かされていたんだと今更に実感した。

    「へえ、それ“ヴローヴの時もやってた”わね。でも、病み上がりに等しい状態でそれをどこまで展開していられるかしらぁ!?」

    ノエルの焔が、更に熱量と勢いを増幅させてアルクェイドに襲いかかる。
    焔の波が届く範囲はその全てが燃えている。先輩を縛り付けていた教壇も、美しいステンドグラスも、瓦礫の山も、黒い焔の膨大な熱に晒されて成す術もなく融解し始めている。
    ガラスは兎も角、石である教壇や瓦礫がこんなにも速く解けるという事は少なくとも摂氏2000度近く、或いはそれ以上の熱量になる。
    それが拡散している余波熱だけでこうなっているという事は、当然だが中心の熱源は更に尋常じゃない温度になる。

    「………っ!」

    中心で焔を抑えているアルクェイドの手は、徐々に指先から燃え始めている。
    膜の向こう側に立っているノエルの床はドロドロに赤熱化し、既に固体を保てなくなっていた。
    目の前の常軌を逸した焔を前に、アルクェイドは微かに眉をひそめる。
    今の時間帯は深夜……それも、吸血鬼にとって最も力が活発化する月齢の満月だ。無論、その影響はコイツも受けるし、何なら死の線が一切視えなくなる。
    それは今この瞬間だってそうだ。今のコイツは最も死から遠い状態にある。にも関わらず、あの焔はこの状態のアルクェイドさえ燃やすほどの高温だとでも言うのか……!?

    「…………シエル。一度しか言わないからよく聞きなさい」
    「……アル、クェイド?」

    そう言ったアルクェイドは、唐突に空いてる方の手を自分の口に持っていって、そのまま指を“噛み千切った”。
    突然の行動に俺たちが動揺する間もなく、アルクェイドは自分の手も厭わずに強引に中心のハルバードの切っ先を掴み、焔の波を膨大なエーテル波で吹き飛ばした瞬間―――――ノエルを教会の入口の方へと投げ飛ばした。

  • 52二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 23:46:58

    余波で2000℃以上という事はおそらく中心温度は6000度から10000度か…?
    地球の中で一番熱いであろう核の温度がおよそ6000℃だとしたらこれ以上火力が上がるとアルクも相当なダメージを負うぞ…

  • 53二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 06:48:00

    保守

  • 54二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 09:03:15

    投げられたノエルはそのまま音速もかくやという速度で遥か後方へと吹っ飛ばされていく。されどほんの一瞬、垣間見えた表情に驚愕は無かった。
    それを確認したアルクェイドは、噛み千切った自分の指を先輩の目の前に放り投げた。

    「ほら、指(ソレ)を食べてちょうだい。今は満月だし、元々バカみたいに再生力の高い貴女にはそれだけでも十分でしょう」
    「食べろ、って…………何を、考えているんですか?」
    「決まってるでしょう。今から外であの狼藉者に鉄槌を下してくるのよ。貴女はその間にさっさと四肢を再生させてから、志貴と一緒になるべく遠くまで避難しなさい。事が済めば、わたしも早々に追いつくわ。
    そうね……合流場所はわたしの城にしましょう。貴女にはロアの記憶もあるんだし、自力で城までの道のりを辿れるでしょう?
    ―――――それじゃ、すぐに終わらせてくるから志貴をお願いね」
    「待っ……!?」

    一方的に言うだけ言った後、アルクェイドは先輩の静止を受ける事もなくノエルを吹き飛ばした方へと跳んでいった。
    後に残された俺は、すぐに思考を切り替えて先輩を説得する事にした。

    「先輩、今は状況が状況です。アルクェイドがノエルを止めてくれている内にさっさと逃げましょう。
    アイツが負けるとは思えないけど、万が一ノエルが勝ってしまったらその時こそ俺たちも終わりです」
    「で、ですが遠野くん……今のノエルの力は未知数です。アルクェイドすら手に余るかもしれない。
    もし逃げている途中で追いつかれたら、どうしようと言うんですか……!?」
    「その時はその時です!………先輩、ごめん。ちょっと我慢してください」
    「え―――――むぐっ!?」

    先輩の口に、アルクェイドの指を入れて食べさせる。この人に再び『生きた血の味』を覚えさせるのは途轍もない罪悪感に襲われるが、ここでじっとしてるよりは一秒でも早く出ていった方がずっといい。

    「んっ……、ん、っぐ…………」

    先輩は無理矢理入れられながらも指を飲み下す。すると切断された手足から血管や筋肉、骨や神経がみるみる内に伸びていく。
    やがて、再生は1分前後で終わった。真祖の血肉を摂取したとはいえ、仮にも飢餓状態で再生力が幾らか落ちていただろうにも関わらずこうも速く終えるのは流石というべきか。

  • 55二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 09:14:43

    シエルは死んでいる筈なのにノエルによって蘇生させられたという事実を無視してる現状はちょっと志貴側にとって都合が良過ぎるので
    こちら側の願いも結局叶えられないだろうな

  • 56二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 11:47:11

    みちみちと音を立てて肉が再生していく様を見るのはなかなかにキツイものがあったが、皮肉というべきかこれ以上のグロテスクな拷問を何度も見せつけられたので、吐き気を催さないぐらいには慣れ切った。

    「さ、行きましょう。先輩からすればノエルは放っておけないかもしれない。けど、俺やアルクェイドからすれば先輩の方がずっと放っておけません。
    だから、立ってください。ここを生きて脱出して、その後の事はその時に考えて臨機応変に行動すればいい。
    ……それでも、貴女がノエルや今の自分自身に負い目を感じて立てないというのなら、俺が今すぐ貴女を抱えてここから連れ去ります」
    「………遠野くん……………」

    言いながら先輩の手を取る。死徒に近づいてる影響で発達した聴覚が、遠くで響き渡る轟音を拾う。
    戦いはもう始まっている。さっきの様子からして、今のノエル相手にはアルクェイドでも確実に勝利できるとは言い難い。
    アイツの実力を信用していないワケじゃないが、仮に優勢だったとしても戦いの余波がここまで襲ってくる可能性だって十分に考えられる。何れにしろ、この街から少しでも距離を取るのが今は最善だ。

    「……遠野くんは、わたしが怖くないんですか。遠野くんだって、吸血衝動に蝕まれる痛みと悍ましさは身をもって知っている筈です。
    今のわたしは、それなんですよ?貴方と一緒に逃げるとしても、不意に我慢できなくなって、ズタズタに引き裂いて、その首筋に容赦なく牙を突き立てるかもしれない。貴方の事を、本当にただの血袋(エサ)として見てしまうかもしれない。
    それでも、貴方は意思を変えずにそう言うんですか?」

    ……ああ。諄いな。先輩のこういう頑固なところも愛おしくはあるけど、それはそれとして面倒でもある。
    アイツの言う通り、本当に鉄のように意地固で簡単には曲げてくれないなぁ。

    「はぁ……あのですね、先輩。大分前に俺が総耶で先輩に言ったコト、覚えてますか?
    ほら、先輩がロアの柩にあった死体を燃やした後、俺と途中まで一緒になって帰った時があったじゃないですか」
    「……あの時、ですか?勿論、憶えていますけど……?」

  • 57二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 12:28:00

    「俺、その時に先輩から『もし自分が本当に吸血鬼だったらどうするか』と言われて、こう返しましたよね?
    “いいです。そんなの。たとえ吸血鬼でも、俺は先輩が好きだよ”って。あれはその場の勢いで言った訳じゃないし、況してや嘘なんかじゃない。正真正銘、今も変わらない俺の心からの本心です。
    だから、今の先輩が何を言おうが俺は先輩を連れていく。吸血鬼?俺を血を吸うかもしれない?関係あるか。

    ―――――惚れた女を置き去りにして、一人のうのうと逃げ延びるなんてマネは俺にはできないよ」

    もっとも、意地が固くて面倒くさいのは俺も同じコトではあるんだが。
    ノエルがどうあっても復讐をやめないのと同じ様に、俺もこの人を見捨てて逃げるなんて割り切りの良さは持っていない。
    自分で言うのも何だが、俺はバカで欲張りだ。だからこそ、後先を考えずにこうして目の前の愛する人を諦めずにはいられない。
    惚れた女と一緒に生きようと思って何が悪い。救(たす)けようと思って、そうしようと行動して、何が悪い。

    「……………………」
    「……………………」

    しばしの沈黙が続く。先輩は、何も答えない。このままこの手を取るべきか、それでもここに残るべきか、二つの感情がせめぎ合っているのが見て取れる。
    しかし、葛藤している先輩には悪いが、いつまでも待ってあげられる余裕はない。ここで手をこまねいていても、状況は好転しない。寧ろ俺たちが死ぬだけだ。

    「―――――、っ!」

    不意に間近で響く爆音。咄嗟に振り向くと、教会の入り口辺りが燃えている。ほんの20分前ぐらいまで堅牢な扉が聳えていた面影は、もうどこにもなかった。
    察するに、焔の流れ弾がここまで跳弾してきたのだろうか。何れにしろ、長く留まってはいられない。俺の肉体は半分はまだ人間だから、ここでモタモタしているとそう長くない内に酸欠で死んでしまう。
    だが入り口を潰されたのは痛い。どこかに外へ出られるような隙間は無いのか?

    「………あ」

    すると、先ほどまでノエルが埋まってた場所―――――扉だった瓦礫の山―――――が全て壁ごと融解していて、外へと続く穴が出来ていた。
    恐らくはアルクェイドとぶつかった際に、ノエルの直線上の背後にあったが故に拡散した余波熱が集中したせいだろう。

  • 58二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 13:19:17

    というか故郷という場所からのバフもおそらくノエルは受けてるよね
    故郷で亡くなった人々の無念や怨みを一身に受けてる以上更にパワーアップする可能性が…?

  • 59二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 15:06:54

    とはいえ、融解している以上は当然だが床も赤熱化している。………というか思いきりドロドロになっている。
    これじゃあ俺は進めない。かと言って入り口の方を見やっても、瓦礫と燃え盛る焔が邪魔で進めそうにない。
    やっぱり、ここは先輩に動いてもらうしか、

    「……遠野くん、少し失礼しますね」
    「え?―――――っわ!?」

    先輩の声が聞こえた瞬間、足元が滑って視界が一転する。途端に何かに支えられたような感触を覚えた直後に、こちらを覗き込む先輩の可愛い顔が写った。
    どうやら今、俺は先輩にお姫様だっこをされているようだ。

    「ちょ、先輩!?」
    「動かないで。今からあの穴に向かって進みますので、じっとしておくように。
    魔術で熱から保護するように施しましたので、大丈夫な筈です。ほとんど熱を感じないでしょう?」
    「……あ。言われてみれば、確かに感じない。いつの間にやったんです?」
    「はい、貴方が出口を探そうと周囲を見回している時に。
    それよりも、先ほどアルクェイドがノエルの焔を吹き飛ばした際に、どうやら彼女が張っていた結界の方も破壊されたようです。
    ………今なら、外へ出ていけます。ほんのしばらく息を止めておくように」

    シエル先輩は予め注意してから穴の方へと歩を進めていく。俺は体内に熱気が入らないように呼吸を止める。
    そして、特に何事もなく、あっさりと俺たちは廃教会の外へと脱出できた。
    俺にとっては、ノエルに世話をされる際に街へと外出する事があったからせいぜいが一ヶ月ぶりだ。
    しかしこの人にとっては、半年以上―――――正解には七ヶ月以上ぶりに外の空気を味わう瞬間だった。

    「はは……やっと、やっと、本当の意味で外に出られましたね。
    ………ところで先輩は、裸足で平然と歩いていましたけど大丈夫なんですか?」
    「え?――――ああ、勿論大丈夫です。自慢する事でもないですが、わたしは熱への耐性も素で身に付いているので。
    況して、今は吸血鬼の身です。遠野くんに心配されるほど、ヤワではありませんよ!」

    そう言って、先輩は自慢げに微笑む。見たところ無理をしているような雰囲気も感じないし、これは本当に大丈夫………と、判断していいだろう。

  • 60二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 17:02:26

    「わかりました。……それで、こうして俺を抱えて脱出してくれたという事は、先輩も俺と一緒に生きてくれる気になってくれたんですよね?」
    「………それは…………」
    「まさか、とりあえずは俺を助けてあげただけ……なんて事はないですよね?
    もし、また戻ろうとすれば――――――そうだな。俺は、先輩の事が嫌いになっちゃうかも。いや、嫌いになるよ」

    俺にとってはちょっとした、されどこの人にとってはこれ以上ないほど利くだろう脅し文句。
    折角、やっとここまで来たんだ。ここはこう言って脅してでも、先輩をその気にさせなくちゃいけない。

    「………遠野くんは、本当にずるいです。あの時だって、そうですよ。
    わたしは代行者として、貴方を穢れた吸血鬼として処理しようとしたのに……貴方はそれを一切憎まないどころか、ありがとうと感謝さえした。
    今もまた、そんな事をわざとらしく口にして、わたしの気持ちを変えようとしてくる。そういう意地の悪いところは、嫌いです」
    「でも、こうでも言わないと先輩はまた俺を置いていく気でしょう?過程はどうあれ、折角こうして貴女と再会する奇跡に巡り合えたんだ。
    大丈夫、今はアルクェイドだっている。また一からやり直していけばいいんですよ。というか、俺がそうさせますんで」

    多分、この人は死ぬまで吸血衝動への恐怖と苦しみに苛まれるし、それが拭われる事もないだろう。だからこそ、俺が傍にいてその苦痛を少しでも和らげるように接しなければいけない。
    その為にも、今はこのまま逃げる事を優先するべきだ。先輩の方がずっと足が早いし、このまま抱えられたままでいいだろう。

    「………遠野くんは、本当にどこまでも変わりませんね」
    「褒め言葉として受け取りますよ。さあ、早くこのまま急いで、――――――っ!?」

    今まさに先輩を促し、アルクェイドの城を目指そうとしたその瞬間。
    街中の方から火山の噴火と見紛うほどの衝撃と爆発が垣間見えた。

    「アルクェイド……!」

    ありとあらゆる建物が黒く燃え盛っているのが遠目からでも分かる。あの中心では、アイツが凄まじい業火に晒されながらも俺たちを信じて戦っているんだ。

    「……………………………」

    先輩は、何を口にする事もなくそれを神妙そうに見つめている。俺たちは、ただアイツがノエルを止めてくれるのを信じてこの場を離れるしかなかった。

  • 61スレ主25/07/02(水) 17:17:27

    ――――Note.星を燃やす劫火――――
    真祖アルクェイド、焔の復讐鬼ノエル。
    断罪の白き化身が焔を討ち滅ぼすか、
    或いは黒き焔が化身を焼き焦がすか。

  • 62スレ主25/07/02(水) 17:42:11

    突然ですが『どうしてシエル先輩は外への穴が空いてたからってわざわざ赤熱化しているところを通ったのか?』の補足説明をします
    これについては当人はノエルの結界が壊れたと言いましたが実際には『外側から隔離する結界』が壊れたのであって『内側からの対死徒結界』はまだ機能していました
    その為赤熱化していない部分の壁や天井を壊そうとしても逆に触れた箇所からじわじわと溶けてしまうので、結界の機能が壊れている赤熱化部分を通るしかなかったというワケです
    とはいえその赤熱化部分も対魔性特攻の十四の石による焔の熱量で生じたものなので、一歩踏みしだく毎に直に肉を焼き焦がされる激痛を味わう羽目になります
    うまり今の先輩は志貴の前だから空元気を見せてるだけで全然大丈夫じゃありませんし普通に足首から下が焼け爛れてます

  • 63二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 18:30:39

    みんな決死の覚悟すぎて……好き

    うーんこれはなかなかにどろどろしてて良き

  • 64二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 18:37:10

    十四の石『主頑張れ〜』
    白鯨『ノエルちゃん応援してるよ』

  • 65二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 22:50:01

    保守

  • 66二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 23:57:09

    今のノエルは二十七祖の第10位以上の連中でもORTやゼル爺みたいな規格外中の規格外たちを除けば油断ならない域に達してそうだな

  • 67二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 23:58:39

    正直なんか抑止力から後押し受けそうな気もする
    シエルが潰れて役に立たなくなったからその分もリソースをノエルに渡した的な

  • 68二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 03:23:54

    ごうごうと、街(せかい)が燃えている。
    至る所が跡形もなく無惨に破壊され、黒い焔が侵食するようにその手を延ばしている。
    周囲の熱気は1000度を優に越え、それは中心に近くなるほど何倍にも熱量を増していく。
    あらゆる生物、あらゆる物体を瞬く間に燃焼し、炭化させ、気化させる灼熱地獄の世界。
    その只中に、人智を超えた2人の怪物がぶつかり合っていた。

    「―――――――!」

    一人は、最強の真祖にして原初の一、アルクェイド・ブリュンスタッド。

    「あっはははははははは!流石にこの程度じゃ死なないかっ!!」

    一人は、妄執と憎悪のままに生きる復讐鬼、代行者ノエル。

    2人が衝突し合っている範囲は、何もかもが固体から液体へと融解し尽くされ、液体はその尽くが気化しきっている。
    その範囲の温度は約6000度。即ち、地球内部の中心温度と同義であり、太陽の表面にも匹敵する。
    最早、2人以外にこの領域に介入できる生命は存在しない。
    絶え間なく吹き荒ぶ獄炎の熱風と、膨大なマナを用いた地球自転のエネルギーに相当する極大の真空波。
    怪物の中の怪物であっても、この世界に立ち入れる資格はない。
    戦いが始まってから約10分。今この瞬間、ここは間違いなくこの惑星で最も危険な領域と化していた。

    ノエルが真空波を受け流しつつ、大振りの槍斧を矢継ぎ早に繰り出す。
    刃渡り50cm、総重量1tのそれは、本来なら新人でも軽量化の秘蹟でギリギリ扱える程度の量産武器に過ぎない。
    だがノエルは一撃をより重くする為に逆に重量化と耐久強化の秘蹟を施し、その上で軽々と変幻自在に太刀筋を変えながら振り回している。
    そして、“もう片方の手”には何時ぞやのシエルとの戦いで行使した蛇腹剣が握られていた。
    最大射程距離10mのそれには重量化は施しておらず、耐久強化と軽量化が仕掛けられている。
    こちらは攻撃の為ではなく、アルクェイドが腕を振るった瞬間に合わせてぶつける事で軌道をずらす目的が強い。
    その二つの得物を、ノエルはそれぞれの腕で別々に扱っている。
    人間の頃なら例え両方を持ててもこうまで変態的に扱うのはとても不可能だが、長年の経験と人外にランクアップした事による進化した五感がそれを可能にしていた。

  • 69二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 10:42:21

    基礎スペックに差があったとしても精神や執念の部分でアルクが圧倒的に劣ってるから底力や火事場の馬鹿力で覆されそうな気がする

  • 70二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 19:30:49

    保守

  • 71二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 23:25:27

    しかし、ノエルだけが一方的に攻め入れている訳ではない。
    アルクェイドは存在そのものが数値では表しようもないほどの膨大なマナで構成されている。
    彼女の周囲の空間は、その凄まじい超重度のマナによる影響で重力そのものにさえ歪みが生じている。
    死徒の攻撃は勿論、シエルの扱っていた第七聖典の洗礼であっても彼女の肉体を傷つけるには至らないだろう。
    加えて真祖であるアルクェイドは、星からマナを汲み上げる事で、相対する相手よりもワンランク上の域にまで存在規模を膨張させる。
    故に彼女を斃すには、星そのものを討ち滅ぼすほどの力が必要である。
    当然、そんな生命体はただ一つを除いてこの地上には存在しない。
    彼女の前では人間が培ってきた兵器など、何の障害にもならない。

    現に、ノエルの得物による攻撃は彼女の肌を傷つけるには至っていない。槍斧による刺突や叩き付けも、蛇腹剣の斬撃も、それ自体はアルクェイドには全く通用していない。
    そして、それは何も物理的な攻撃に限った話という訳でもない。

    「X(デケム)――――――はは!まあ当然効いちゃいないわね……っ!」

    前方より放たれる数秘紋の雷霆。総耶にて夜の公園で戦っていた時は五重の結界に隔離した上で全包囲から放っていたが、あの時と変わらずにアルクェイドの肉体はそれを難なく弾く。
    空間が歪曲するほどのマナの壁は、人の編み出した魔術を嘲笑うように一切の干渉を絶つ。

    そして、アルクェイド自身は空想具現化によって世界と同化している。
    本来なら何もする必要もなく、ただ“敵意”を対象に向けるだけで大気の爪が容赦なく引き裂く。
    それだけではない。仮に大気の雨あられに晒されようと抵抗してくるようならば、腕を振るって地球の自転エネルギーの衝撃波を直にぶつければそれで終わる。
    攻守ともに隙はなく、まともに正面からやりあえばどんな生き物であっても確実に潰される。
    まさに原初の一に相応しい、人間では決して敵わぬ絶対的な神に等しい存在。
    そんな神にも等しい白い化身には、それこそノエル程度がどう抗ったところで敵う道理など在りはしない。


    ――――――総耶でシエルと活動していた頃までの彼女ならば、の話だが。

  • 72二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 23:39:26

    仮にも祖を2体単独で始末してるもんね…
    焔の温度上昇もおそらくまだまだ上がり続ける上にその焔の性質が吸血鬼特効な訳で
    しかも十四の石って
    「神秘隠秘の究極のわざのうちのひとつであり、火の王として人を造り替えるのだという。人が有するはずのない幻想の内臓とも。」ってあるからまだまだ真価を見せてないだろうし

  • 73二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 00:05:42

    「………っ!」

    ノエルが禍々しく燃え盛る黒い焔を放つ。それを払う度に、肌を焼かれる痛みがアルクェイドを襲う。
    今のアルクェイドは戦闘を行いつつ、肉体を超高温にも耐えられるように適応させている。
    仮にヴローヴの放つ3000度は下らないファイアクライに晒されようが、火傷一つ付かずに戦闘を続行できる。
    中心温度6000度という灼熱地獄の中で普段と変わらないパフォーマンスを発揮できているのもそれの恩恵によるものだ。

    「っ、この……!」
    「ぅおっと!――――――あらあら顔から余裕が消えてるわよぉ!?」
    「喧しい!羽虫の如く跳び回る下郎の分際で……!!」

    口汚く罵りつつも、星の息吹と大気の爪で迎撃する。
    重ねて言うがアルクェイドは星の化身そのものである。故に彼女に炎は通用せず、仮にその肉体を燃やしたいのであれば実質的に星をも灼(や)くほどの劫火でなければならない。

    だが、ノエルの放つ焔はその域に達していた。
    彼女の秘める十四の石の生み出す焔は、使用者の憎悪の感情が深まれば深まるほどに、それに比例して火力を増していく。
    総耶でシエルから裏切られた事で失意に堕とされたノエルは、元々燻ぶっていた復讐心と狂気を更に膨張し加速させていき、一年というあまりにも短い時間で何倍にも焔の熱量を激烈に増大させていった。
    その果てに、彼女の焔はついには二十七祖をも焼き尽くせるほどまでになった。

    最早、今の彼女の繰り出せる焔は1000度や2000度どころの域ではない。
    今や彼女から直接的に放たれる獄炎の温度は6000度をも上回る、8000度にまで達している。
    特に今の彼女が全神経を集中させて放てば、その温度は約10000度――――――即ち、この地球上におけるありとあらゆる全ての物質を融かせるところまで至っていた。

    地球上の全ての物質が耐えられないほどの高温である以上、例え熱に適応させたとしても完全にはその熱量の干渉をシャットアウトする事はできない。
    アルクェイドは今、文字通り黒い焔によって灼かれていた。

  • 74二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 00:18:03

    いやこれシエルは最初から勝ち目がなかった可能性がある?
    総耶の時と違って自動蘇生&再生が封じられてる
    それに加えて死徒に対する超特効の劫火が手加減なしで襲いかかってくる上に
    死徒お得意の復元呪詛を劫火で封じた上で特大のスリップダメージを常に掛け続けるのってただのクソ.ゲーでは?

  • 75二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 01:23:00

    >>74

    しかもこのノエル先生の何がヤバイってそれに加えて今のところまだ白鯨の力を解放してないし、そっちも総耶の時から更に練度を上げてるだろうなってコト

    えっと、本人は未だにシエルに及ばないと心の奥底で思ってるかもしんないけどこれ今の先輩が勝てる可能性ある?

    いや先輩も先輩でイデアブラッド×6があるけどそれらを全部解放して五分五分じゃね……?

  • 76二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 08:07:03

    というか熱や焔のダメージって閾値超えると意味ないからなあ…
    アルクの許容限界を超えた6000℃以上の焔を継続して出せる以上耐性が無意味になる

  • 77スレ主25/07/04(金) 11:53:18

    >>76

    それこそ物理法則を塗り替える原理血戒でないと防ぎきれないでしょうね(下手に『6000度の熱量でもアルクには全く効いてない』とか断定するような書き方しなくて英断だったなという安堵に包まれてる顔)

  • 78二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 13:21:52

    でもこれノエルの身体耐えられる?

  • 79二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 18:10:53

    「くく、はっははははは!真祖の姫サマと言えども私の炎はちゃんと効くのね!
    じゃあもっと燃やして焼いて灼き尽くしてあげるわ!おまえには真っ黒に焼け焦げた襤褸切れがお似合いなんだよ!」

    流れは我が手中にありと言わんばかりに、ノエルは嘲笑いながら焔を暴風雨の如く放射する。
    だが、それでもアルクェイドの顔に余裕は無くとも焦りはない。
    向こうが自分をつぶさに観察しているように、彼女もまた冷静にノエルを見極め、その一挙手一投足に注視する。
    その中で、彼女はこの時点である一点に気づいていた。

    凄まじい熱量を纏って放たれる焔を、星の息吹で相殺する。
    その瞬間、アルクェイドの金色に煌めく双眸は、ノエルの手のひらが灼けているのを見逃さなかった。
    “やっぱりか。ま、そうならない方がおかしいわよね”――――――アルクェイドの中で一つの確信が生じる。
    彼女の肉体をも焼き焦がすほどの超高温を秘める劫火の熱量は、ノエル自身にとっても放つ度に皮膚が灼かれる痛みを伴わなければならなかった。
    無論、今のノエルは火の王として肉体と魂を作り変えられている故に自分の熱への耐性はある。幾ら火傷しようが魔力さえあれば即座に治癒するので、連発するコト自体には支障はない。

    しかし星を灼くほどの熱量を次から次へと惜しみなく放てば、当然だが相応に膨大な魔力を消費する。
    並みの魔術師なら例え自前のオドだけでなく、自らの命を熱量に変換して尚も一瞬で枯渇しうる。一発毎がそのレベルの魔力消費を既に数え切れないほど矢継ぎ早に繰り出している。
    如何に今のノエルが二十七祖をも凌ぐ超人であろうと、そんなものを無尽蔵に放てる訳ではないのは当然と言える。
    対して、アルクェイドは土地からマナを半永久的に汲み上げられる。供給地点を直死で殺されない限り、彼女は全力のスペックをほぼ常時保っていられる。

    「“貴様の方こそ、ただ勢いのままに忌々しい焔を垂れ流しているが、そのままではすぐに力尽きるだろうな。
    己の力量の底も計り切れぬ愚図が。この程度の物量で、星(わたし)を灼き盡(つく)せるでも思い上がったか?”」

    加えて、膨大な熱量を指向性を以って放てるのは自分も同じ事。
    アルクェイドはここで攻撃のパターンを変える……否、バリエーションを更に増やしていく。
    雷雲の轟く小規模のスーパーセル、瞬時に空気中の粒子を凍結させるほどの極低温の寒波。

  • 80二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 18:45:13

    そして、地球内部のマントルエネルギーと常軌を逸した圧力を周囲に展開し、それら全てをノエルに差し向ける。
    ノエルが星をも灼く焔で攻めてくるのなら、此方は真祖としての権利をフルに行使し、ありとあらゆる大自然の力で潰すのみ。

    『志貴とシエルを護り抜き、そしてアイツらと和解する』――――――その為だけに、今のアルクェイドは自分の感情(いし)で力を全開にして振るっていた。

    「“終わりだ。塵一つ遺す事も叶わずに去ね”」

    ノエルは依然として勢いを緩めずに焔を放っているが、そんなのは彼女が対応しきれないほどに四方からとめどなく攻めれば良いだけだ。
    アルクェイドの齎す天変地異の自然現象が、段々とノエルの周囲を狭める。
    彼女の尋常じゃないマナによって本来のそれより数段強くなっているスーパーセルは、寒波は、マントルは、圧力は、ノエルの焔を押し込んでいく。
    この時点で、ノエルは10000度にまで溜めて放つ余裕はなくなっていた。
    せいぜいが数千度の熱量を咄嗟の迎撃で引き出すのが精一杯。少なくともアルクェイドの目には、そう見えていた。
    それでいて、自身は余裕を取り戻して火傷も完治している。
    未だに灼熱地獄であるのに変わりはないが、これ以上灼かれてしまう前に決着を付ければそれも問題ない。

    どう考えても、現状は自分の掌の上だ。下手な慢心などせず、ここから一気に潰すつもりではある。
    だがこの状況下に於いて、アルクェイドはある疑念を抱いていた。

    「どうして―――――ここまで追い詰められて、白鯨(アレ)を出さないの?」

    不可解な懸念。それは白鯨の力を未だに解き放っていない事実だった。
    なぜコイツはそれを出してこない?それさえ早々に出してしまえば自分にダメージを与えられるのは向こうも分かっている筈。
    何か裏があるのか?それともこの期に及んで出し惜しみしている?或いは何らかの事情で出そうにも出せない?
    何れにせよ、この女があの力を出してこない内にさっさと叩き潰すべきだ。

    「―――――ねえ、おまえって真祖の癖に本っ当に鈍感すぎない?」
    「っ!?」

    此方の意図を察したのか、ノエルは愉しそうに口元を歪ませながらもそう言った。

  • 81二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 19:50:30

    駆け引きの主導権をノエルに握られてる辺り戦闘慣れしてない影響が出てるな
    というかノエルの狂った発言や言動は本心もあるだろうけどブラフの面も往々に含まれてるよね

  • 82二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 00:50:59

    おそらくシエルならノエルの意図に気付けてたよね

  • 83二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 10:29:58

    保守

  • 84二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 15:57:56

    真祖の攻略法的に肉体を砕くのは光体を出現させかねないからNG
    精神的に衰弱させてから止めを刺さないといけないが
    今の祖すらも滅ぼすに至ったノエルの精神力にアルクは圧倒されないでいられるかな?

  • 85二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 22:52:00

    保守

  • 86二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 00:01:45

    「ははははははは!一体いつから私が炎しか出していない気になってたのかしら!?
    周囲の状況を常に把握できるおまえならとっくに察知していたものと思ってたけど、もしかして目の前の対処にリソース割きまくってたの?
    ――――――そら、周りをもっとよぉぉぉく見なさいよ!意識してごらんなさい!」

    「――――!」

    そう言われるがままに周囲の状況把握に集中する。
    そして、何が起こっているのかを理解したアルクェイドは盛大に心中で舌を打つ。
    どうしてその異常に今まで気づけなかったのか。それはノエルの指摘した通り、矢継ぎ早に放たれる超高温の焔を迎撃する事に全ての意識を集中させていた事と、周囲を取り囲む黒い爆炎と熱風で物理的な視界を遮られていたせいだ。
    彼女の察知した異変は、今まさに全域が炎上しているゴーストタウンの“外側”で生じていた。

    何もない地面から、突如として巨大な“壁”が湧き出ている。
    その壁はまるで獲物をひと呑みにする鯨の大口の如く、焔に燃える街を取り囲んでいる。
    壁の高さは約100mであり、吸血姫の跳梁を許さぬと言わんばかりに聳え立っていた。
    そして、その巨(おお)きな隔離壁は全てが海水で構築されている。
    吸血鬼にとっては流水、特に海水への耐性は非常に弱い。さりとて、星の化身であるアルクェイドは海水なぞ物ともしない。
    しかし、それはあくまで神秘を纏っていなければの話。
    壁となって街を囲んでいる海水はそんな何の変哲もないただの水などではない。

    「――――お前、何時の間にこんなものを?」
    「ようやく気づいたか!いえね、実はもう5分前ぐらいからやってたの。解放した瞬間に気づかれるものと思ってたけど、おまえが想像以上に目の前の私に集中してくれるバカで幸いだったわ!
    さて―――――それじゃあコトに気づけた今なら、私の上を悠々と泳いでいる『アレ』も観える筈よねえ!!」

    ノエルがそう高らかに叫んだ瞬間、彼女を追い詰めていたアルクェイドの自然現象(こうげき)が唐突に『何か』に薙ぎ払われるようにして掻き消される。
    それを見たアルクェイドは動揺するよりも先に即座に頭上を見上げた。
    彼女の双眸がハッキリと、その視線の先にあるモノを観測する。

    ――――――途方もないほど巨きな白い化身が、満月の光に照らされる夜空を背後に、眼下の白い化身を見下ろしていた。

  • 87二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 00:04:41

    ※白鯨はノエルさんを応援しています※

  • 88二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 00:13:49

    これがノエル式のクロムクレイの大聖堂とカルヴァリアの星か…
    その上で吸血鬼の肉体だけでなく魂すらも焼き払い、死に至る苦痛を与え続ける焔はまさに苗床祭壇か

  • 89スレ主25/07/06(日) 00:22:42

    因みに空に浮かぶ白鯨の構図は大体こんな感じですね

    (※あくまで参考イメージです)

  • 90スレ主25/07/06(日) 00:41:44

    それとノエル先生が十四の石の焔を炎と呼んでるのは誤字ではなく意図的なものです
    彼女は自分が弱者側という認識がある故に『焔なんて大層な言い方は自分には相応しくない。本物の焔と比べれば自分のはどこまで行っても炎に過ぎないだろう』と考えているから……という設定ですね
    ノエル先生の自己肯定感の低さを考慮するとこういう認識を持ちそうだなぁと思いました

  • 91二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 09:11:11

    保守

  • 92二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 18:58:17

    保守

  • 93二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 22:58:54

    保守

  • 94二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 23:38:01

    それは、一つの浮遊する大山だった。
    月明かりに煌めく純白の身体には一切の穢れはなく、あらゆる不浄を洗い流す海流そのものだ。
    正確な規模(スケール)は読み取れないが、目測でも200mは優に超えていると断言できる。
    それが内包している魔力も尋常じゃなく膨大であり、下で焔を振り撒いているノエルなどとは比にならない。
    先に起こったアルクェイドの自然現象が不意に一瞬で掻き消されたのは、この白き海の化身が尾ひれで薙いだ事によるものだった。

    その鯨は、かつて19世紀後半にさる船乗りの男の片足を奪い、そして復讐に駆られた男とそれに協力した仲間たちの内、ただ一人を除いて悉くを海の藻屑に変えた大海原の怪物。
    魔術世界においては最高位の『神獣』として扱われ、存在そのものが人智を凌ぐ超兵器に等しい幻想種。

    その名は“白鯨(モビー・ディック)”。人の魔術など塵にすら及ばない、全ての生命の原初たる海の神秘そのものを体現せし神の獣である。

    「――――白鯨……!」

    その白鯨が、まるで品定めでもしているかのように白い吸血姫を猊下している。
    対して吸血姫は、かつて自分に苦い傷を負わせた『敵』を前に忌々しくその名を口にする。

    「はは、すっごいでしょ?総耶でおまえを相手にしてた時は極めて限定的にしか扱えなかったけど、あれから色々と鍛錬してここまで上達したの!
    ご覧の通り、今じゃあ私を供給源として顕現させれるようにすらなったわ!」

    形勢は逆転した。アルクェイドはここに来て、あらゆる不浄を灼き滅ぼす劫火の復讐鬼と、あらゆる不浄を水底に沈める海の化身を同時に対処せざるを得なくなってしまった。
    無論、それでもアルクェイドには勝算が尽きたワケではない。
    真祖の権限をここぞという時に行使する事で、『白鯨よりもワンランク上の存在規模になるまで持ちこたえる』作戦を即座に実行する。

    「ふぅ―――――これはちょっと、腹を括らなくちゃいけないかしらね」

    緊張か、それとも希望が薄れ始めた事による精神的な陰りか。
    アルクェイドは静かに溜息をつき、これから自身に襲いかかるだろう未来を覚悟した。

  • 95二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 00:11:40

    ここで時間稼ぎに出たか
    とはいえどの道二対一なのは変わらないしどれだけ時間を要するのかも分からないからなぁ
    白鯨より上の存在規模になるまで粘るとか5分や10分じゃとても足りないだろうし今のアルクには大分キツいぞコレ……

  • 96二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 00:51:06

    ノエルさんもアルクの性質を知らない訳がないだろうから速攻かけてくるだろうしどうなるのか

  • 97二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 10:19:27

    このレスは削除されています

  • 98二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 19:03:21

    保守

  • 99二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 23:58:50

    白鯨が、まるで歌っているかのように幻想的で、されど底の見えない深き大穴から響き渡るかの如き咆哮を上げる。
    同時にノエルもまた黒い焔を乱気流宛らにアルクェイドへ向けて掃射する。

    アルクェイドは即座にマナの障壁を展開。
    それに合わせて星の息吹を蹴り上げる形で吹っ飛ばす。
    腕を振り回しているだけでは迎撃はできても相殺はしきれない。
    況してや状況の利は完全に向こうにある。
    足は腕の数倍の筋力を備えているが、アルクェイドの場合はそこに限界までエネルギーを圧縮させてから放った。
    軌道自体は直線的ではあるが、威力は絶大という表現すら生温い。

    星を灼く焔と、全てを灰燼に帰す星の息吹が衝突する。
    小規模の島なら軽々と粉微塵に吹き飛ばすほどの息吹は、迫りくるノエルの黒い焔を正面から加速度的に押し潰していく。
    しかし、ノエルは舌打ちこそすれど焦りはない。反対にアルクェイドは更に警戒値を上げる。

    ――――瞬間、白鯨が動き出す。丹念に研磨加工された大理石すらも霞むほどに、純白で美しい絨毯を彷彿させる雄大な尾ひれを宙に泳がせる。
    途端に周囲の壁を成す海水が、磁石に引っ張られるように尾ひれへと集中し、球状の巨大な激流の水塊を形成していく。
    そして、宿主に迫る膨大なマナの波動に照準を合わせ―――――思いきり薙ぎ払った。

    『■■■■■■■■■■■■■■■――――――!!!!』

    白き大海原の化身の叫びと共に、文字通りの大津波が星の息吹の奔流を呑み込む。
    真祖の姫は、周囲の赤熱化した灼熱地獄諸共に水の激流葬に放り込まれる。
    既に全焼していた街の内、津波の射線上にあった範囲は何もかもが海流のミキサーによって破壊され、その先にあった国道沿いの地域も含めて洗い流されていく。

    「あっはははははははは!すっごいすっごい!まるで世界一凄まじい規模の消火活動ね!
    ああでも、これで私の故郷も二度と見れなくなっちゃった!仕方がないよね、おまえという化け物を殺す為には遠慮とかしてられないし!
    まあこれで私自身の手で死骸も同然だった思い出の地を介錯できたと思えば寧ろスッキリしたかも!はは、ははは、クハハハハハハハハ!!」

  • 100二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 00:41:47

    ある意味これ自分の故郷を死徒の呪いから浄化してるとも言えるな…

  • 101二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 03:59:49

    目元から“蒸気”を上げながら狂態に耽る代行者。彼女の胸中を表しているかのように黒焔は更に吹き荒れていく。
    大津波が収まると、穿たれた箇所の水の壁が再び元のカタチに復元されていく。
    激流葬によって壊滅させられた範囲には文字通り何も残っていない。
    かつての惨劇にて撒き散らされた呪いの残滓も、活気付いていた過去が確かにあった街並みも、建物も、店も、学校も、全てがこの地上から消え去っていた。

    復讐に狂った代行者は、その有様を目の当たりにして深く悲しんでいる。そして同時に喜んでもいる。
    何しろこの戦いを以って、14年もの長い間呪いに侵食されきった己の故郷を救えるのだ。
    実のところ代行者自身、この数ヶ月の間で故郷の廃寂れた姿を目にする度に苦しめられていた。
    自らの怨敵であるシエルを好き勝手にしている時や任務で出張している時はその苦しみを忘れられたが、地面に空いた幾つもの大穴や死体と共に散乱している鳩の羽根が未だに残っている事が不快で気持ち悪くて仕方がなかった。

    凍り付いた街の一角や、茨に包まれた肉塊、虫の部位が生えているヒトだった異形の残骸たちは、それぞれの呪いの源泉を斃した事で汚染の影響からある程度は解放され、徐々に風化していった。
    それでも街全体の悲惨さと救いようのなさは変わらないし、これから先も復興の奇跡など永遠に在りはしない。
    全てが死に絶え、さりとて未だに地上にそのカタチを遺している。
    その哀しき事実は、ノエルにとっては『死にたくても死に切れずに故郷そのものが苦しんでいる』ようにも見えたのだ。
    だからこそ、機が訪れればその時に終わらせてやりたかった。
    何れ他の誰かの手で滅ぼされてしまうかもしれないのであれば、本当にそうなってしまう前に、この世の誰よりも故郷の事を考えてきたこの私の手で終わらせる。

    そして、その願いは今、他ならない自身の手で叶った。
    故郷を滅ぼされた少女は、復讐の果てで故郷を己の意思で破壊したと同時に救ったのだ。
    その結果を噛みしめた復讐鬼に、喜べない理由も意味もある筈がなかった。

  • 102二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 08:06:46

    焔は言わずもがな対吸血鬼中でもトップクラスの特効
    その上で白鯨というこれまた死徒及び吸血鬼が苦手とする流水という…
    これもう教会の中でも対吸血鬼に関しては右に出る存在はいないんじゃ

  • 103二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 17:13:38

    一方、クレーターもかくやと言わざるを得ない破壊痕の中心に、蠢く小さな影が一つ。
    自然現象の権化であり惑星上における原初の一、アルクェイド・ブリュンスタッドだ。
    しかし、今の彼女からはその絶対的な威厳を些かにも感じられない。
    如何なる穢れも寄せ付けない筈の純白のドレスは血と埃がこびり付き、所々がボロボロに破けている。
    特に両腕は咄嗟の防御に集中したせいで、傷だらけになっている上にあらぬ方向へとひしゃげていた。
    腕だけでなく、両足もまた滅茶苦茶に破壊されており、膝や脛から折れた骨が飛び出している。

    「っ―――――、かふっ………!
    ――――、――――、――――、ふ、ぅ………っぐ……!」

    口から血反吐を吐き捨て、呼吸も一定のリズムを掴めずに喘いでいる。
    ダメージを受けているのは表面だけではなかった。尋常ではない水流の衝撃と圧力のミキサーに晒された彼女の内臓は、心臓を含めてズタズタにされていた。
    特に肋骨に守られていない箇所は完全に挽肉も同然に潰れきっており、その肋骨に守られている臓器も、バラバラに粉砕された骨の破片で引き裂かれている。
    肺に至っては破片が表面を突き破って内部にまで入り込んでいるので、一呼吸する度に肉を裂かれるに等しい激痛が襲いかかってくる。

    外側も内側もボロボロであり、どう見ても死に体としか言えなかった。
    こうなればいっそ全身を一から新しく再構成した方が良いものの、今のアルクェイドにはそれが許されるだけの時間も体力もない。

    「ずい、分と……やって、くれたじゃない………。
    狼藉も、ここまで来ると……いっそ笑いたくなってしまうわ……!」

    ひしゃげた腕と足を歪に再生させながら、ゆっくりと、ゆっくりと、彼女は立ち上がろうとする。
    直死の魔眼で殺された訳ではないので、時間をかけてマナを吸収し活性化させれば何れは完治する。
    だが、それを悠長に待ってくれるほど敵は都合よく動いてはくれない。アルクェイドとてそれは戦う前から既に理解しきっている。
    故に彼女は、上空より猊下している白鯨と此方へ劫火を差し向ける焔の代行者を前に、次に取るべきアクションを開始した。

  • 104二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 23:17:30

    焔が迫りくる瞬間、アルクェイドはマナの出力を高めて強制的に放出し、自身の周囲の空間を歪曲させる。
    その結果、焔は彼女を灼き尽くす寸前に歪曲された空間によって軌道を僅かにズラされた。
    彼女はそこから半径20mの範囲を“自身と同質化”させ、先に行使していたマナの障壁をその全域に展開する。
    範囲そのものは決して広くはないものの、その分だけ範囲内の細かい空間操作にリソースを割く事が可能になる。

    アルクェイドはまず、岩盤を隆起させて急造のシェルターを作り出す。
    次に自分の肉体が最低限動けるところまで再生しきるまでひたすらに防御と迎撃に徹する。
    白鯨より上の段階まで存在規模を底上げする戦法は可能な限り迅速に済ませたかったが、この有様ではまず回復する事すら困難だ。
    想定を軽く上回る損害を被ってしまったアルクェイドは、手足と内臓の再生までに要する時間を演算する。

    「ダメージが大きいせいでマナの吸収に支障が出てしまっている。その上、防御と迎撃を兼ねる必要もあるから再生に回す分は更に落ちる。
    そこから完全に治癒しきるまでの時間を計算したら……だいたい30分、辺りになるかしら」

    自ら導き出した絶望の数字に、アルクェイドは苛立ちに歯噛みせざるを得なかった。
    もしもこれが、ただ単に物理的な超破壊による損傷に過ぎなければ完治には5分と要さない。
    しかし、彼女が直撃を受けたのは白鯨の起こした大津波。
    幻想種の頂点の一角であり、海の化身でもあるかの神獣は、言ってみれば星(ガイア)の神秘を内包している―――――というより存在自体が一種の自然現象である。
    言わば、神秘の性質的にはアルクェイドと同じなのだ。そんな同質の力を容赦なく叩き込まれたのであれば、あらゆる吸血鬼を滅してきた最強の真祖であろうと甚大な被害は避けられない。
    そして、彼女とて一個の生物である以上、想定外のダメージを負えば肉体性能にも相応の悪影響が生じる。
    直前までノエルの焔でじわじわと灼かれていた分の蓄積もあって、再生機能は著しく低下していた。

    「ハハハ!何よ何よ、ここに来て急に閉じこもっちゃってさ!
    そんな如何にも苦し紛れみたいなハリボテで私たちの攻撃を凌ぎきれると思ってんのかしらぁっ!?」

    間髪入れずに激烈な焔の奔流と、圧縮された水砲の一斉掃射が襲い来る。

  • 105二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 23:59:58

    焔は何とか凌ぎきれてはいるが、水害の如き激流はマナの障壁など物ともせずに岩盤のシェルターを破壊していく。
    弱々しい肉体で搾り出すようにして形成した壁など、顕現した海の神秘の前では時間稼ぎにもなっていなかった。
    それだけでは収まらず、焔の方も何合か発ち合っている内に勢いが徐々に増していっている。
    恐らくは白鯨と魔力を供給し合っている影響、とアルクェイドは推測する。
    実際に彼女の感覚は、両者の間に強いパスが通っている事を把握している。
    あれほどまでに焔を放ち続けているにも関わらず魔力切れを起こす様子が一切見受けられないのも、白鯨の魔力を利用しているのが原因だろう。

    「………全開だったら、こうは……ならなかったのになぁ」

    口惜しさを抑えきれず、真祖の姫らしからぬ弱音を吐き捨てる。
    そもそもノエルが病み上がりと罵ったように、今のアルクェイドは総耶で遠野志貴から負わされた傷をようやく完治させたばかりの状態だ。
    無論、完治しただけでスペックはまだまだ全盛には戻れていない。
    力を一部をロアに持っていかれ、同じく力の一部であった髪も失い、遠野志貴にバラバラにされ、そこから何とか再構築して復活できた矢先に再びナイフでざっくりと裂かれ、結局ロアに奪われた力も取り戻せずにおめおめと城に帰らざるを得なかった。
    そんな凄絶な敗北を刻んだ末での再起である。その上、吸血衝動に蝕まれているせいで尚更に力が弱くなっている。

    彼女はそれでも、そんな自分の現状を承知の上でノエルとこうして闘っている。
    遠野志貴が直死の魔眼で今の彼女を視れば、死の線が夥しいほどに這い回っている事だろう。
    アルクェイド自身も、そうなってるんだろうなという嫌な確信が何となくあった。

    「けど―――――負ける訳には、殺される訳には、いかないんだから……!」

    曇りが生じていた心に喝を入れて決起する。
    再生にはまだまだかかるし、仮に完治できたとしても油断すればすぐに同じ目に、或いはもっとどうしようもない死に体にさせられるだろう。
    だが、そんな懸念は彼女を諦めさせる理由にはならない。
    彼女の瞳は、まだ死ぬつもりは毛頭ないという意思が表れている。

  • 106二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 09:03:12

    ワクワクしてきますね!保守!

  • 107二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 18:03:53

    このレスは削除されています

  • 108二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 22:04:09

    >>90

    という事は限界を突破した時には炎から全てを焼き尽くす地獄の業火そのものの焔になりうるのか…?

  • 109二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 07:09:34

    続きますように

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