(SS)まるで犬みてえだな、お前

1◆l7elE92Qk0.U25/06/28(土) 22:55:37

「ボス、本日もよろしくお願いします」
「ああ、わかった」
そう言いながら彼女は帽子を脱ぎ、そっと頭を差し出す。

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まずは耳を握る様に持ち、指の腹で優しく擦る。力は込めずにふんわりと。
そして手のひらで耳を寝かせ、先端に向かってそっと撫でる。
手のひらが先端を通過すると、彼女の耳は自然と天を仰ぐ。

次は頭頂部と耳の周りを力いっぱい撫でる。わしゃわしゃと撫でまわす。
初めは少々躊躇した。なにせ女の子の髪をぐしゃぐしゃにするのだから。
だが、彼女はこれを好む。初めの頃は躊躇すると、無言で俺の手を掴み、自らの頭に押し付けた。

"もっと撫でろ"

まるでそう言っているかのように。

今度は首元からもみあげにかけてゆっくりと手を入れる。
手櫛で髪を梳きながら撫でる。あるはずの感触が無く、明確な種族の違いを感じながらゆっくりと撫でる。
顔の横は滑らかな感触。あるはずの器官はそこに無く。ただ種族の違いを指で感じる。

彼女の精悍な顔を撫でまわす。無作法に揉みしだく。
頬を、顎を、目の下を。ただ無作法に揉みしだく。
彼女は目を細め、俺の手を堪能する。帽子を胸元に抱きかかえ、ただ身を預けて。

2◆l7elE92Qk0.U25/06/28(土) 22:56:38

「ボス、ありがとうございました。もう大丈夫であります」
「ならよかった。また何か有ったら言ってくれ」
「ありがとうございます！　では、失礼しました！」
いつもの調子でトレーナー室を後にした。嬉しそうに尻尾をはためかせながら。

……ここのところ、この行為が日課になっている。
思えば、"これ"は偶発的に始まったことだ。

ある時、落ち込んでいる彼女を励まそうと、咄嗟に頭を撫でてしまったことがすべての始まりだ。
失礼な言い方になってしまうが、思わず撫でてしまったのだ。まるで幼子を慰める様に。

俺の手に気が付きハッとした彼女と目が合った時、我に返り手を引っ込めようとした。
だが、阻まれた。彼女の手によって。ただ無言で、いつもとは違う不安そうな目で見つめられて。

以来、何か有ると俺に撫でて貰いに来るようになった。
初めはそう何度も無かった。せいぜい週に一度有るか無いかだ。
だが、最近はそうでもない。毎日のように求めてくるようになっていた。

近頃上手く行っていないのだろうか？　そう問いかけてもはぐらかされる。
悪い事だとは思いつつ、彼女の動向をそっと探ったり、クラスメイト達に聞き込みもした。

何も成果はなかった。むしろ上手く行っているようだ。クラスメイト達は口を揃えてこう言った。

"いつも嬉しそうですよ？　それにトレーナーさんの事ばっかり話すんです！"

何か、この行いが良い方に作用しているのだろうか？　今は何もわからない。
……年頃の女の子だ。もしかすると、家族が恋しいだけなのかもしれない。
一度、帰省させるのも手、かな。

3◆l7elE92Qk0.U25/06/28(土) 22:57:39

帽子を脱ぎ、彼の前に頭を差し出す。最早日課と化したこの行い。
大きな手が私の耳を掴む。彼の体温を直に感じながら、ただ撫でられる。
それは、幼き日の追体験。父の手の様で、父ではない大きな手。

速まる鼓動に反比例して安らぐ心。ただ彼を感じる。
それは偶然の産物。落ち込む私を慰めてくれた、彼の優しさ。

いつしか日課となってしまったこの行い。ボスも不審に思っているだろう。
けれども、やめられない。この温もりと安らぎ。そして興奮。

私は撫でられる。ただ撫でられる。
まるで、主人に甘える犬のように。

不肖フェノーメノ、ボスの手を煩わせていることに大変遺憾であります……！
けれども、求めてしまうのです。ボスの、あなたの手を。

ボス、お許しください。

どうか今は、私を撫でてください。

ボス、私を撫でてください。
優しく、撫でてください。

ボス。