【閲覧注意】燐羽の備忘録【グール手毬曇らせ晴らし】

  • 1◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 20:38:05
  • 2◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 20:43:38

    「燐羽ぁ……雷止めてぇ……」

    ――こいつはいつも泣けば私が言うことを聞くと思っている。腹立たしいったらない。

    「まぁ、まりちゃんは可愛いですね」

    ――こいつはこいつで本気を出さないで、手毬を甘やかせてばかり。

    本当に腹が立つ。

    「はっ……」

    何度目だろうか、この夢を見るのは。
    私、賀陽燐羽はびっしょりと汗をかきながら飛び起きる。

    「チッ……」

    今更どうしようもならない夢だったことを悟り、私は爪を噛む。もうあの時期が戻らないなんて自分が一番にわかっているというのに、だ。
    ……顔を洗おう。
    立ち上がって洗面所に向かおうとしたときにスマホが鳴る。私に連絡を寄越す面子などそういない。
    どうせ手毬か、美鈴か。そのどっちかくらいだ。
    目をこすりながら画面を見て、私は言葉を失う。

    ――昨晩、秦谷美鈴が失踪した。

  • 3◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 20:51:27

    自分が極月学園へ転校して間もない頃、あの手毬が新たなユニットに所属するという話を美鈴から聞いた。
    正直なところ、驚いていた自分がいた。私と美鈴がいなければ満足に体力配分すらできなかったあの手毬が、なのだから。
    だけど、蓋を開けてみると凸凹だし、まだまだ未熟だけどある程度形になっていた。
    なによりも、手毬は花海咲季と藤田ことねという人物を信頼していた。
    ……寂寥の念があったことは否定しない。それでも、もう自分はSyng Up!から退いた身だ。だから傍観者として、手毬の行く末を見守ろうとも思っていた。

    そう決めた矢先のことだった。"Re;IRIS"の要となる人物である藤田ことねが失踪した。
    むしろその一件は、そこから起こる怒涛の出来事の発端にしか過ぎなかった。
    ――アイドル達の連続失踪事件。
    言葉にすればフィクションのようなおかしな話だ。マスコミは連日連夜、この一連の騒動を面白おかしく盛り立てている。
    私は極月学園の人間。言わば、対岸の火事以上の何者でもないワケだ。
    だけど何故だろう、他人事のようにはどうしても思えなかった。

  • 4◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 20:56:10

    「美鈴のおばか、連絡を寄越しなさいよ……」

    何度か美鈴に電話をかける。が、返答もないし、メッセージに既読すらつかない。
    思えば、こちらから電話をかけるなんて何時振りだろうか。一挙手一投足、何をするにしてももうとっくに捨てたはずの思い出がフラッシュバックする。なんで、今になってからなのだ。

    「…………そういえば」

    数日前か、美鈴から会えないか、といった旨の連絡があったことを思い出す。
    どうせ大した用事もないだろう、と無視していたが事ここに至って、自分が重大な選択ミスをしていたのではないかと気づかされる。
    あのとき、美鈴は何か思う所があって、SOSを私に投げていたのではあるまいか。

    「考えても仕方ない、か」

    たられば、の話は一生完結しそうにもない。
    そのため、燐羽は決心した。一度決別し、もう二度と足を運ばないと決めていた場所への再訪。
    初星学園へと行くことを決めたのだ。

  • 5◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 21:08:06

    「美鈴、いるんでしょ」

    ――初星学園、アイドル科学生寮。

    美鈴の部屋の扉を何度か叩く、が、返答はない。時刻は正午を回っている。もう起きている筈だが。
    いや、わかっているだろう。秦谷美鈴は失踪した、と。
    一縷の希望を抱いていたというのか。単に睡眠して学校行事に参加しなかった結果、行方不明扱いされているのではないか、と。

    「……あまり会いたくないけど、行ってみるか」

    学生寮を移動する最中、校内を、周辺の街を俯瞰する。
    かつて自分が通っていたころの、活気と新芽に溢れた明るい校風はもうどこにもなかった。いるのは野次馬のように誰彼構わずに聴きに回る取材陣だけだ。

    「ちょっと、いるんでしょ」

    ノックすると、少し遅れて手毬が顔を見せた。

  • 6◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 21:15:07

    ……手毬ってこんな感じだった?
    解散してから太ったから、とかそういうのではない。何かこう……酷く焦燥し、思い詰めているようだった。

    「……どうかしたの?」
    「何もないよ。それで何か用?」
    「用がなきゃ来ちゃダメかしら。美鈴、探してるのよ」
    「…………」

    二人の間に沈黙が続く。

    「上がっていいかしら」
    「……うん」

    室内に上がると、思いの外片付いていた。だけど少し、いやかなり部屋に芳香剤がまかれているのか、逆に強い匂いをしていた。

    「あんた料理なんてしてたっけ」
    「最近始めたんだ。昨日は豚骨ラーメンを作ってて」

    成程、と私は部屋の過剰なまでの匂いの理由に得心する。確かに豚骨、となると部屋の匂いは気になる。

  • 7◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 21:25:30

    「美鈴に何があったか、知らない?」
    「知らない」

    あっさりと言われてしまった。
    手毬にしては冷静ではないかしら。もっと泣き喚いているかと……。

    「……聞くのは気が引けるけど、この学校で何が起こっているの?」

    藤田ことねに始まり、十王星南、有村麻央、葛城リーリヤに……消えた人間が余りにも多すぎる。

    「私にもわからない」
    「そう」

    ……何かを伝えようとしていた美鈴と何も伝えようとしない手毬。
    そして同時に進んでいる失踪の数々。無関係の偶然とは、とてもじゃないけれど考えられない。
    正直、悩んだけれど、私は手毬に対し、提案することにした。

    「協力しなさい。美鈴が何処に行ったのか、そもそもこの初星学園に何が起こっているのか。知らないまま帰れないわ」
    「…………嫌」
    「どうして!?」

    つい声を荒げてしまった。

    「次はあんたかもしれないのよ!? それはわかってるの!? 美鈴だって……」

    ここで、自分が言い過ぎていることに気付き、口を閉じる。
    結局、手毬と協力はできなかった。手毬、何かを隠しているのはバレバレなのよ。
    おばか……何か困ってることがあるなら言いなさいよ、私はそんなに頼りないっていうの?

  • 8◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 21:27:46

    ……調査は、早々と暗礁に乗り上げてしまった。
    ベンチに座り、メモがてらに記入していた失踪者の情報を整理する。

    「……葛城リーリヤ」

    その名前に覚えがあった。かなり前の話だ。

  • 9◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 21:35:53

    ――過去回想。

    「ん……あれって」

    何となく街に出ていた時、妙なアイドルの団体をみた。
    葛城リーリヤに、紫雲清夏、そして有村麻央。以前、極月のおばかさんが喧嘩を打られ返り討ちにした三人だ。
    すると、うちの一人、有村麻央が私を見つけたと思ったら三人で近づいて来た。

    「賀陽燐羽さんだね?」「こ、こんにちは」
    「何かしら」

    最近大人気の三人が雁首揃えて何の用だというのだ。まさか、今更私を連れ戻しに……と考えるのは自惚れが過ぎるか。

    「最近アイドルの失踪が多いから、キミも気を付けた方がいい。月村手毬さんと秦谷美鈴さんの元ユニットメンバーだから狙われるかもしれない」
    「そ、でもお生憎様。私はもうアイドルを辞めた身。誰も狙いやしないわよ」
    「そ、それでも……貴女は、手毬ちゃんと秦谷さんの大切な人ですから」

    食い下がってきたのは、葛城リーリヤだった。少し予想外ではあった。

    「キミに声をかけようって提案したのは、実はリーリヤなんだ」
    「……そう。でもどうして?」

    そのときの、葛城リーリヤの瞳の光は、今まで見た誰のものよりも強かった。

    「手毬ちゃんは、大切な友達だから」

    ――過去回想、終わり。

  • 10◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 21:43:00

    「……おばか、人を気にして自分が被害に遭ってちゃ世話ないでしょうに」

    きちんと葛城リーリヤとは話しておくべきだった。本当に、今日は後悔してばかりだ。

    「あ、待ちなさい」

    物思いに耽っていると、勝手知った人物が通ったため呼び止める。

    「燐羽ちゃん……」
    「佑芽じゃない。ちょうどよかった」

    彼女も既に大切な姉を失くしている。自分にも姉がいるから、その痛みは嫌という程わかる。
    だけど、既知の人物はかなり限られている。彼女に頼るしかないだろう。

    「ごめん、今はあまり話したくはないんだ」
    「……そう。無理はしないでいいわよ。もしよければなんだけど、手毬の……Re;IRISのプロデューサーを紹介してほしいの」
    「!」

    私がそう言うと、佑芽は今まで見たことのない鬼気迫るような表情を見せて、強い言葉で――

    「駄目!!!」

    そう言った。

    「あ、その、ごめんね。でも、もう、私もPさんも、放っておいてほしいんだ。お願い、お願いだから……」

    そう懇願する佑芽の余りにも彼女らしくない悲壮な表情を前に、私はこれ以上何も言うことはできなかった。

  • 11◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 21:49:29

    また、振り出しに戻ってしまった。というか、もう詰みではないだろうか。
    彼女のプロデューサーはきっと、何かを悟っているのかもしれない。現状で一番の相手ではあるが、唯一といってもいい伝手である佑芽に拒絶された以上、会う手段はないだろう。

    「何が起こっているのよ……いったい……」

    学生の名簿とにらめっこしながら、もう為すすべないのか考える。
    考えろ、考えるんだ……思考を止めるな。

    「篠澤、広……」

    その名前と写真に、意識が向く。
    ……確か、佑芽と仲良かった筈だ。アイドルとは思えない細すぎる体、最初は何の冗談とも思ったが頭脳で彼女に並ぶ者はいない。
    頭に浮かんだ自身の案に、燐羽は自嘲する。

    「……ここにきて、探偵ごっこをすることになるだなんて」

  • 12◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 22:01:32

    その部屋は珈琲の香りが充満していた。アイドルの部屋、と呼ぶにはいささか殺風景が過ぎる。

    「ふふ、驚いた。燐羽が協力してくれるなんて、ね」
    「……協力じゃないわ。私は私が知りたいから貴女を利用するだけよ」
    「そういうとこ、手毬にそっくり」
    「おばか。手毬が私を真似しているのよ」

    改めて見なくても、痩身すぎて心配になる。それこそ、今回の犯人に襲われればひとたまりもないだろうに。

    「あんたはどう考えているの?」
    「これは、人間が行った計画的な犯罪なのか。それとも……私たちの知らない超常現象か」
    「……学園一番の才女って聞いたんだけど、オカルトの話?」

    ふるふる、と首を左右に振った篠澤広はまるで講義するように理路整然と根拠を語る。

    「現場には、痕跡が何一つも残っていない。計画的な殺人であっても、何かは残るもの」
    「じゃあ誘拐とかでは?」
    「考えにくい。二番の人……佑芽のお姉さん、花海咲季をずっと拘束し続けることは難しい。それにいなくなった人数を考えても、ばれずに監禁し続けるのは現実的ではない」

    確かに拉致は考えにくいけれど……。

    「いなくなった人の部屋も調べてみた」
    「鍵はどうしたのよ」
    「おじいちゃんに頼んだ、よ。話を戻すね。全員じゃないけど、いなくなった人の部屋を見ると、直前まで生活していた痕跡があった。強引に侵入して拉致した、という線はなくなる。自分の意思で外に出て、そしていなくなった。
    それでいて、特定の人物と会っていたことが証言されている」

    その人物が怪しいということね。

    「それは誰?」
    「――手毬」

  • 13◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 22:11:24

    「ふざけないで!」

    私は気が付けば、知り合って間もない相手に対し大人げなく怒鳴っていた。

    「あの手毬が皆を? ありえない、あのどんくさくて仕方ない子が、何一つ痕跡を残さずだなんて……」

    はっ、となって唇を噛む。彼女に怒ってもしょうがないというのに。

    「……私も、信じたくない。手毬がこんなことするとは思えないし、そもそも動機もない」
    「わかっている、わかっているわよ……」

    だけど、今日一日ずっと喉の奥でつっかえているこの気色悪さは何なのだろうか。
    思えば久しぶりに再会した手毬は、手毬らしくなかった。何かをひた隠しにし、私を避けようとしていた。
    内心で、手毬が当事者なのでは――というよくない予想をしてしまっている自分がずっといた。
    ありえない、ありえないと何度も否定しながら……その疑念は悪い方向に確信へと向かっていっている。

    「だけど、佑芽から聞いた」
    「聞いたって何を?」
    「……手毬から、いなくなった人の匂いがいっぱいするって」
    「匂い、ですって?」
    「千奈、莉波……私が知っている人の匂い。そして美鈴の匂いも」
    「……そんなバカなこと……」

    佑芽がそんな悪質な嘘を吐くともいえない。何よりもさっきのあの、本当に彼女らしくない姿がその証明になっていた。

    「怒られてしまうかも、だけど、燐羽に渡しておく。佑芽とPの居場所を」

    篠澤広は最後までその理由を語らなかった。

    その翌日、彼女は他の皆と同じ様に……その姿を忽然と消した。

  • 14◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 22:19:01

    一晩中、考えて、考えて考えた。
    美鈴のこと、手毬のこと、そして広との話。全部ひっくるめて、どんなに考えても――手毬の可能性を否定することはできなかった。
    そして、それ以上に、広と解散したことを酷く後悔した。後悔してばかりだ。
    だからこそ、翌朝の私の行動は決まっていた。

    「おはよ」
    「…………燐羽ちゃん」

    およそ待ち伏せする形で、佑芽を待ち構えた。来る、という確信はなかった。
    彼女は私を拒絶した。だけど、だからといって引いてはいけない気がした。
    理由はわからない、けれど次は佑芽の番な気がして……だからこそ、嫌がられても彼女の傍にいるべきだと思った。

    「どいて」
    「どうしたのよ、戦いに向かうみたいな……アイドルっぽくない顔をしているわよ?」
    「……放っておいて、お願いだから!」
    「あっ!」

    すると、佑芽は私を追い越して途轍もない速さで駆け出した。

    「ちょ、なんていう足の速さよ!?」

  • 15◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 22:24:06

    結局、追いかけても佑芽を見つけることはできなかった。少なくとも校内にいるだろうということで、時間をかけて探すことにした。
    二十分くらいだろうか。
    一通りの場所を探しつくした辺りで……屋上への施錠が開いていることに気が付いた。
    探していないのは、あとはここだけだ。

    屋上への階段に上る度、足が竦む。心臓が脈打つのだ。
    「やめて、おねがい」、そう囁くのだ。
    何度振り払っても忘れることのない、幻想の手毬と美鈴が私の左右で囁くんだ。

    ――燐羽、来ちゃダメ。
    ――りんちゃん、家に帰ってお昼寝しましょう?

    うるさい。

    ――私の言うことを聞いてよ、お願いだから。
    ――りんちゃん、おいたは駄目ですよ?

    うるさいってば。
    今になって、今になってなんでっ……。
    その無限に続く言葉を振り払い、半開きになった扉を開いた。

  • 16◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 22:27:58

    私はその屋上の光景を見て、言葉を失わざるを得なかった。

    屋上の床は赤く濡れている。
    その真ん中で横たわるのは、何度も何度も心を揺らされ、私が私でいることができた存在。
    太陽。
    手毬、何故貴女がここにいるっていうの?
    何故、貴女は血を流して倒れているの?

    どうして、どうしてどうして……。

    「うぁっ……あああっ……手毬、どうして、どうして……」

  • 17◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 22:35:18

    大粒の涙が、無色の水が赤い血の海に堕ちて、朱色に染まる。

    「私、まだあんたに話したいこと……いっぱい、いっぱいあったのに、聞いてほしいことも……いっぱい。それなのに、あんたはなんで……私を無視して勝手に、勝手に死んでいるのよ。
     ほんとう、最後まで……わがままなんだから」

    既に動くことのない、手毬の頬に優しく触れる。背に突き立てられているナイフ。
    その表情は絶望に染まっておらず、ただただ悲しみに染まっているのだ。
    最期のときまで、泣いていたんだ。

    「おばか、おばかっ……私が泣いてるのよ、目をっ、目を覚ましなさいよ……」

    十分以上、ただその場で這いつくばって、手毬を抱きしめ続けた。
    泣いて、泣いて泣いて泣いた後、私は立ち上がり、ただ静かにある場所へと歩を進めるのだった。

  • 18二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 22:37:46

    曇らせ晴らし??

  • 19二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 22:39:00

    >>18

    晴らすためにはね、その前に沢山曇ってもらわないといけないんだ

    晴らしを書こうとしたら曇らせが長くなるのはよくあること。(n敗)

  • 20◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 22:40:33

    ――消えていく。

    私が、消えていく。
    もう体は動かないけど、あと少しだけ、動いてほしい。

    ――寂れた世界の果てを、前を向いてもう一度だけ進めるように。

    意識もなく、進んだ先にあったのはマンションの一角。前日、広からもらった住所だ。
    鍵は、閉まっていなかった。
    部屋を進むと、そこには佑芽と、そのPがいた。やっと見つけることができた、あの男が。

    「り、燐羽ちゃん、どうして……」
    「…………君は」

    私を見て、心底驚いているようだがそれ以上に――二人の心はもう限界を迎えている様にも見える。
    だけど、逃げるなんて許さない。
    あんたが……あんたらが手毬を殺したっていうのなら。

  • 21二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 22:42:37

    曇る人が増えただけじゃないですか!

  • 22◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 22:43:08

    最期はちょっとだけ晴れます!信じてください!

  • 23二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 22:43:44

    お、おい……。
    佑芽には手を出すなよ……頼むから……。

  • 24二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 22:45:12

    >>23

    原作でも死んでる....

  • 25◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 22:46:40

    私が懐から包丁を取り出すと、二人は驚いて私を見る。
    ――でしょうね。そのナイフで、手毬を殺したんだから。
    だけど二人は、抵抗する素振りを見せない。
    私は一歩、一歩と二人の元へ進んでいく。

    「……何が起こってるか、正直言うとわからない。だけど、これだけは、これだけはいえる。あんたたちが、手毬を殺した。その事実だけはわかる」
    「…………否定は、しない」
    「何か弁明してみなさいよ。しょうもない嘘は通じないから」
    「ま、待って!」

    私とその男の前に、佑芽が割って入る。

    「全部、全部話すよっ、だから、この人には、手を出さないで、お願いだからぁ……」

    顔をくしゃくしゃにして涙を流す佑芽を見て、漸く自分が本当に酷い顔をしていることに気付く。
    ……手毬、美鈴、わかっているわよ。この二人を殺したって、何にもならないことを。
    ぶらん、と私は包丁を持つ手をおろす。
    それを見た佑芽は静かに、顛末を話し始めた。

  • 26◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 22:52:49

    ……なによ、その話。

    頭が真っ白になった。
    佑芽が感じたどす黒い匂い、手毬の言葉、そして……佑芽が最期に残った愛しい人を守る為にあの場を訪れていたことを。
    なんだ、私と、同じじゃない。
    いいや、衝動で二人を殺めようとした私と一緒にするのは烏滸がましい、か。
    包丁をおとし、膝を折り、気付けば私はまた泣いていた。

    おバカ、本当に手毬はずっとおバカ。
    私を頼りなさいよ……いつだってそうだったくせに、なんで肝心な時に頼んないのよ。
    美鈴も、もっと私に相談しなさいよ。
    なんで皆揃って、私を守ろうとしてんのよ……。

    佑芽も、そのPもまた泣いていた。みんなみんな、全部失って、もう何もなくって……。
    ――ごめんなさい。もう二人の前に姿を見せないわ。
    そうとだけ残して、私は二人の家を出た。

  • 27二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 22:53:28

    多分上記の二作品で明確に晴れてるの美鈴くらいしかないから、一人でも多く晴らすだけで二作品より曇らせじゃなくなるのがすごい

  • 28◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 22:55:14

    数日が経過した。
    半日もしないうちに、佑芽とそのPは裸で抱き合う様に眠りについて、目覚めることはなかったという。
    再び初星学園の屋上を訪れた私は、虚ろな表情で――フェンスを越えたぎりぎりの場所で立っていた。

  • 29◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 23:00:47

    佑芽とPが逃げたとは思っていない。諸々の容疑を全部被せられて逮捕されることも恐れていなかっただろう。
    ただ、もう、離れ離れになりたくなかったんだろう。
    佑芽がPを守ろうとしたように、Pも佑芽を守ろうとした。
    私が……手毬に対し、そうしたように。

    学園はこの数日で今まで以上の激動を迎えた。失踪事件は、手毬が起こしたことだけれども、それを信じる聡明な人間はいない。すべてPに被せられる。
    残酷な話だけど、そういう流れで世論は収まりはじめている。

    「美鈴、お姉ちゃん…………手毬」

    気付けば静かに、手毬の歌を、口ずさんでいた。
    何度も、何度も、CDが擦り切れる程に聞いて……生活の一部と言っても過言ではない、彼女の、彼女らしい歌。
    歌い終えると、一条の涙がこぼれた。

    「……ごめんね、ありがとう。またね」

  • 30◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 23:04:11

    堕ちようとする私を遮るように、番の鳩が私の前を通過し、あわやのところで私は後ろに倒れ込み、事なきを得る。

    「どうして……」

    そのとき、屋上の入り口から気配がする。
    閉校のはずでは……?
    振り返ると、そこにはありえない奇跡が、そこにあった。

    「手毬……?」

    ありえない。ありえない、だって、手毬はあのとき……。
    それに、今目の前にいるのは、手毬と言うには余りにも小さすぎる。五歳くらいの、小さな女の子だった。

  • 31◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 23:11:01

    そんなバカな話が……と思ったけれど、そもそもの話が、おかしな話ではないか。
    グールなんていう存在があったのだ。今更……この程度の奇跡、奇跡と呼ぶには烏滸がましいだろう。

    「あなた……名前は?」
    「……てまり」
    「そう、いい名前ね」

    静かに、その幼い手毬と名乗る子を抱きしめる。

    「……なんで、ないてるの?」
    「なんででしょうね。ごめんなさい、驚かしてしまったかもしれないわね」
    「まぁ、すぎたことはいいよ」


    勿論、手毬の行為は許されることではない。
    それは死をもって贖えることでもない。私も、そして目の前のこの子も一生背負い続ければいけない十字架だろう。
    それでも……それでも、私は最期に遺された愛しい人の欠片を抱きしめる。

    ――あなたにまだ話せてないことばっかりあるんだ。
    ――聴いて欲しいの。
    ――あのね。

  • 32◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 23:13:17

    終わりです!!!
    こんにちは、異常葛城愛者です。

    最初にオチを思いついたのですが、書いてると色々ぐだってしまいましたが無事完結できました。
    美鈴の曇らせスレ見てて今日思いついたんですが何とかなりました。
    初スレ立てなので拙い所もあったかと思いますが、読んでいただきありがとうございました。

    無理にリーリヤを捻じ込んだけどほんまに無理がありましたね。

    読んでいただきありがとうございました!

  • 33二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 23:17:10

    乙です。それはそれとして、この小さな手毬燐羽の幻覚ってことないですよね?燐羽手毬と美鈴の幻聴聞えてるっぽいので・・・

  • 34◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 23:17:49

    >>33

    小さな手毬は存在してます!!!!

  • 35二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 23:20:54


    不幸中の幸いというか地獄の中の安らぎみたいな作品だった

  • 36◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 23:22:14
  • 37二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 23:23:01

    美鈴も燐羽への嫉妬で蘇ってほしいまである

  • 38二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 23:26:06

    >>32

    いやお前かい!!!



    おつでした!


    よかったです涙

  • 39二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 23:34:40

    >>36

    完全に俺好みのメリバでいいなら

    清夏がいなくなって、リーリヤに依存するしか無くなってた学Pが、警官を襲い、拳銃を奪って警官を射殺

    「ねぇ、リーリヤ逃げよう?誰にもリーリヤを奪わせなしないから。」

    から始まる逃避行とかどうでしょう。

    んで、各地を転々として逃げるけど、最後は逃げきれなくなって

    追い詰められた先、リーリヤは清夏の件を告白、自ら全ての罪を背負い命を絶って学Pだけは救おうとするが、学Pに「でも、今の俺には葛城さんしかいませんから」って心中してくれる。

    とかどうでしょう。

    少なくともリーリヤの心は救われると思う。

  • 40二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 23:36:54

    おつです、これ燐羽視点なのはそうなんだけど曇らせを晴らすSSでは無いような?自分で燐羽曇らせて晴らしてるだけに感じる

  • 41◆je8PYTqP5Ydc25/06/29(日) 23:38:41

    >>40

    燐羽エピ書きたかったのは事実ですが個人的にはこれで手毬も美鈴も救われた気がするんです。

    勿論事実は消えませんが、それでもちょっとでも手毬の苦痛が救われれば、それは燐羽だけでなく三人の救いになるんじゃないかなって

  • 42二次元好きの匿名さん25/06/29(日) 23:48:54

    >>27

    その美鈴もメリーバッドエンドなんすよ

  • 43◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 00:11:25

    だいたい「リーリヤの日記」を晴らす続編も思いついたんで時間ある時にかいていきますね

    『沙耶の歌』が原案になってます
    よろしくお願いいたします。

  • 44二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 00:15:48

    >>43

    じゃあホラーじゃん…

  • 45二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 00:19:06

    >>43

    まさかこの時代に沙耶の唄が出てくるとは

    でもそれなら純愛になりそうだwktk

    待ってるやで

スレッドは6/30 10:19頃に落ちます

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