【閲覧注意】IF『千奈「先生?」』

  • 1◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:06:42
  • 2二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 01:08:14

    IFがどうなるか分からんが千奈を頼む

  • 3◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:08:41

    お嬢様が涙を流したあの日から、私は今までのお嬢様の思い出話を致しました。それによって少しでも、虚となってしまったお嬢様が、心を取り戻してくださればと…
    初めてレッスンを見学させて頂いた時のこと、初めてライブを拝見させて頂いた時のこと、お友達の方がお屋敷にいらっしゃった時のこと…
    お嬢様は、どのお話に対しても僅かに反応をお示しになりましたが、やはり一番芳しい反応を示したのは…『先生』についてのお話でした。

    お嬢様は日を追うごとに心を取り戻しているように見えました。が、それと反比例するかのように、そのお体は急速に衰えていきました。

  • 4◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:10:06

    Pさんがお亡くなりになってから3週間ほどが経過したある日のことでした。

    「香名江」

    「もう一度、学園に行きたい」

    あの事件からもうすぐ4ヶ月、お嬢様の久方振りの意思表示に、私は飛び上がりたい気持ちを抑え、すぐに学園へ伺う手配を致しました。
    とはいえ、お嬢様は既に学園を退学なされております。未成年ゆえにニュースにも名が乗ることも御座いませんでしたが、同時期に引退したことで、被害者が誰であったのか、察しが付いている方も少なからずいらっしゃるはず。

    私はお嬢様と二人きりで、休日夜の学園を散策させて頂く事に致しました。

  • 5◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:11:10

    車椅子を押し、学園内の施設を巡る。
    教室、食堂、校庭、野外ステージ、講堂——体育館の周辺は、お嬢様に大きな苦痛を与えると考え避けました——…お嬢様はそのどれに対しても、思い出を噛み締めるかのように目を細め、静かに涙を流しておりました。

    そして、今日最後の目的地…最もお嬢様が行きたいと願った場所、かつて、お嬢様と『先生』が共に多くの時間をお過ごしになったお部屋…そして、『先生』が、最期に選んだお部屋…プロデューサー事務所へと足を踏み入れました。

  • 6◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:12:36

    『先生』の死から一月近く経つにも関わらず、事件やプロデューサー科の廃止の件等の混乱もあってか、『先生』の私物はそのままになっておりました。

    「香名江…少し…一人になりたい」

    「……承知致しました。何か御座いましたら、お呼び下さい。」

  • 7二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 01:13:44

    このレスは削除されています

  • 8◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:14:45

    先生との契約を解除されてから、この部屋に来るのは初めてだった。
    わたくしが通っていた時から、あまり変わっていなかった。
    景色も、匂いも、時計の針の音までも、変わっていたのは、わたくしがここにいた名残がないことだけ。
    ふと、部屋の端にある机の上にあった物に目が止まった。先生はいつも、あの机に向かってお仕事をしていた。そこにあったのは、一冊のバインダーだった。

    すっかり力の入らなくなった腕で車椅子の車輪を回し、机に近付いた。先生ならばきっと、最期を迎える直前まで、この机に向かっていたはず。わたくしは、バインダーを手に取り、開いた。

  • 9◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:16:02

    ……挟まれていた紙の束を見て、胸の奥が熱くなった。そこにあったのは、今までのわたくしのプロデュースの履歴とレポート、そして…恐らく、縊死なさる直前に書かれたと思われる殴り書きだった。

    読むのが怖かった。どんな恨み言を書かれているのだろうか。どれだけの侮蔑の目でわたくしを見ていたのだろうか。

    それでも…

    心を失ったはずのわたくしが、最後に抱いた小さな勇気。
    それでもわたくしは、先生の最期の思いを受け止めなければならないのだと。

  • 10◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:17:03

    一つ一つ文字を目で追う。読み落とすことのないように、恐怖に震える指で文字をなぞる。
    …だけど、ところどころインクが滲んだその紙に書いてあったのは、
    わたくしに対する懺悔と、自分自身への憎しみだった。

    「……なんで…」

    『俺が全ての原因だ』『俺があそこで選択を誤らなければ』

    ——違う…「なんで…」

    『自分が憎い』『自分を殺してやりたい』

    ——違う…!「どうしてですか…」

    『もしこれが罪滅ぼしになるのなら』
    『彼女を苦しめた原因を除くことができたなら』

    ——違いますわ…先生…!

    「謝らなければいけないのは…貴方が真に憎むべき相手は…最も罪深いのは…全部…!」

    「わたくしだったはずですわ…」

  • 11◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:18:07

    先生は、最期の瞬間まで、わたくしのことを考えてくださっていたのですね。
    それでも、全て自分のせいにしてしまえば、わたくしが悲しむことは分かっていたはずですのに…先生は、とてもおバカさんですわ。

    そして、紙の端までびっしりと書かれた遺書も、もう間もなく終わろうとしていました。
    最後の一文をなぞった時、死んだはずのわたくしの心に、
    残酷にも、一際明るい炎が灯るのを感じました。

    『いつかまた、貴方と話すことが出来たなら、その時は──』

    「ぁ…うぁ…」

    「うわあああああああああん!!!」

  • 12◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:22:03

    「……倉本さん」

    「起きてください、倉本さん」

    「……え?」

    「…せん、せい…?」

    「はい、お久し振りですね、倉本さん」

    「先生…本当に、本当に先生ですの…?」

    「今回はちゃんと本物です。…正直、こんなに早く来てほしくはなかったのですが…複雑な気分ですね…おっと、」

    「先生!先生!!お会いしたかったですわ!!わたくし…ずっと…」

    「いきなり抱き着くのは止めて下さい、危ないので……俺も、会いたかったです…ずっと…俺は…」

    「「会ってきちんと謝りたかったんです」」

    「ん?」「あら?」

    わたくしと先生は、顔を見合わせて笑いました。それから、色々なことを話しました。
    一方的に契約を解除なさったことを、先生は何度も謝りました。わたくしも負けじと、自身のわがままで先生を苦しめてしまったことを、何度も謝りました。
    お互いにいっぱい、いっぱい謝って、それから笑って、抱き締め合いました。痛いくらいに、お互いの温もりを混ぜ合うように。

  • 13◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:24:06

    「あのレポート…読んでしまったと思いますが…」

    「えぇ、えぇ!読みましたとも!ひどい内容でしたわ!自分のことばかり責めて…わたくしがしてしまった事はそっちのけで、全く責めてくださらないんですもの…」

    「……申し訳ありません、ですが…」

    「…わかっておりますわ…先生はそういう方ですものね…わたくし達、きっと似た物同士なのですわ!」

    「…そうかもしれませんね」

    そう言って笑うと、先生は少しかしこまった様子で、

    「改めて言わせて下さい。いつかまた貴方と話すことができた時に、ちゃんと伝えたいと思っていたことがあったんです。」

    「俺は、貴方を…」

  • 14◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:29:00

    その先生の言葉で、
    抜け殻となったわたくしの中に、最後まで残った一欠片の気持ち、
    その正体をやっと、知ることができました。

    「も、もう…先生は変態さんでしたのね!こんなちんちくりんな生娘にそんなことを言うだなんて…」

    「まぁもっとも…もう生娘ではなくなってしまいましたけれど…」

    「倉本さん…」

    「……こんな…こんな汚れたわたくしでも…本当によろしいのですか…?」

    「……貴方は汚れてなんかいません。貴方がそんなことで憂いているのなら、どれだけ時間がかかろうとも、俺が絶対に晴らしてみせます。もう、突き放すような真似はしません。」

    「…永遠に一緒にいると誓います。」

    「もう、俺たちを邪魔するものは、何もありませんから。」

    先生が、わたくしをまた強く抱き締めて言いました。

    「そんなセリフ…なんだか…わたくしの方が恥ずかしいですわ…」

    「…ですが…はい」


    「わたくしも、愛しておりますわ…先生」

  • 15◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:32:18

    一年後
    私はお嬢様と、もう一人の方が眠る場所へ参りました。
    お嬢様は慟哭のすぐ後、『先生』のレポートを抱き締めるようにして、そのまま倒れられました。
    間もなく病院に運び込まれ、懸命な治療が行われましたが、その三日後に帰らぬ人となりました。
    ちょうど、『先生』が亡くなってから一月後の事で御座いました。

    お嬢様のお顔は、まるでとても良い夢をご覧になっているかのように安らかに微笑んでおりました。最期の瞬間、抱えていたレポートの最後の一文を見て、私はお嬢様の想いを夢想致しました。

    そして私は、かなり無理を承知で、とある一つのことを実現して頂きました。
    これがきっと、私達がお嬢様にできる最後の奉公なのだと信じて。

    ○○○○
    倉本千奈

    二人分のお名前が彫られた、比較的新しい墓石。
    その前で手を合わせ、私は天に願いました。

    どうか、お幸せに。


  • 16◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:34:58

    というわけで、メリバ編でした。
    ここからは元スレ レス22以降のifルートになります

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    気がつくとわたくしは、ほんの前までは毎日通っていた──つまりここ数日はたと遠のいていた──事務所の前へ来ておりました。
中に先生がいらっしゃればいいのですが。
ノックをしようと右手を掲げたとき、話し声が漏れてきました。一つは先生の、そしてもう一つは、篠澤さんのものでした。
内容までは聞き取れませんでした。
しかしここ数日の篠澤さんの楽しそうなご様子。それでいて、どこかわたくしに対して遠慮がちになったような些細な変化。そしてなによりも、先生の事務所にいるという事実──。
考えずとも、わたくしの頭の中で、それは綺麗に繋がりました。

先生がおっしゃっていた新しい担当アイドルとは、篠澤さんのことでしたのね。
篠澤さんも薄情ですわ、言ってくださればよかったですのに。




    ……もう今更わたくしが会いに行っても、邪魔になるだけですわ。

  • 17◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:36:38

    「あ、倉本さん!」
    

お昼休み、なんとなく手持ち無沙汰で中庭をお散歩していると、クラスメイトの方に呼び止められました。


    「さっき、倉本さんの元プロデューサーって言う人が探してたよ。体育館倉庫に来てほしいってさ」

    
「先生が? そうおっしゃていましたの?」

    
「うん。あまり聞かれたくない話があるから、一人で来てくれって伝えてほしいって。でも、なんか引っかかるんだよね──」

    
「まあ……! わざわざありがとうございます! わたくし、早速行って参りますわ!」

    
「──あ、うん、じゃあね」

    

わたくしは思わぬ出来事に居ても立っても居られず、よく考えたらおかしいところがたくさんことにも気付かずに体育館倉庫に向かって駆け出しておりました。


    
「……うーん、倉本さんのプロデューサーさんってあんな人だったかな……?」

    

せめてその方のお話をあと十秒でも落ち着いて聞いていたのなら……。
    後悔先に立たずとは、きっとこのことですのね。

  • 18◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:37:39

    「先生?」

    
「やあ、よく来たね、千奈ちゃん」

    
「……ご、ごきげんようですわ。あ……あの、どちら様でしょう?」

    
「ひどいなぁ、千奈ちゃん。僕のこと、忘れちゃったの? 毎回ライブに行ってるのに」

    

「も、申し訳ありません! ファンの方でしたのね! ……あの、先生はどこに?」



    「先生? ああ、千奈ちゃんを裏切ったクソ野郎のことかい?」



    「わ、わたくしを気遣ってくださるのは嬉しいのですが、先生はそんなお方じゃありませんわ! あれは仕方なく……」



    「…………あー、もういいって、めんどくせぇ」

    

「あ、あの──きゃあ!? なにをなさいますの!?」



    「あのさ、わかる? お前、騙されたの。俺に」

  • 19◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:38:45

    ただでさえ小柄なわたくしの力では、大人の殿方に抵抗することなどできません。
    
必死に叫んで、身を捩って、腕を振り回して──。何をしても、容易く抑え込まれてしまいます。
    
私のファンを名乗るその男性は、瞳孔の開き切った異様な眼でわたくしを舐めるように視姦し、醜く歪んだ口もとからよだれが顔に垂れてきます。

    気持ち悪い、気持ち悪い。でも、声が出てきません。口は開いているのに、喉の奥が張り付いているみたいに。
    
何よりも辛いのは、こんなときどうしても先生のお名前を呼びたくなってしまうこと、呼んでももう先生は助けに来てはくださらないこと。一つ一つの事実が、わたくしの心に少しずつ蓋を閉じていきました。


    このまま、わたくしはこの化け物のような人間の、慰みものになってしまうのでしょうか。

  • 20◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:39:47

    ぎゅっと目を瞑り、途端に目の前が闇に包まれます。
    しばらくして、フっと、身体の感覚が消えたのを感じました。
    あぁ、きっと、人は本当に絶望した時、こんな感覚に陥るのでしょうね。

    お腹の下に当てられていた不快な、重さも熱ももう感じません。

    掴まれていた腕の痛みも、顔に掛かっていた生ぬるい吐息も。


    散ったはずの純潔の痛みすらも、何も。

  • 21◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:41:05

    走馬灯って、心が死ぬ時にも見えるものなのでしょうか?

    「…ら…とさ…」

    「…な…」

    遠く聞こえる、ここにいないはずのお二人の声…頭に浮かぶ、先生と、篠澤さんのお顔…
    …わたくしは、どうしてあの時、あの事務所の扉を開けなかったのでしょう。

    たとえどんな顔をされようとも、わたくしは先生に謝らなければならなかったはずでしたのに。
    篠澤さんに担当のプロデューサー様が付いたことを、祝福しなければならなかったはずだったのに。

    このまま死んでゆく心を眺めることしかできないなんて…わたくしは—

  • 22◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:44:41

    「……な………千奈!」

    「……え?」

    自分の身に何が起こっているのかわかりませんでした。長い悪夢から目覚めたような感覚。
    ですが辺りを見渡した時、ほんの数瞬しか経っていないことに気が付きました。
    先ほど聞こえた声は、走馬灯などではなかった。わたくしの目の前には、長い白髪をたなびかせ、わたくしの顔を不安そうに見つめる橙色の瞳がありました。

    「怪我は、手首がちょっとアザになってるだけ、かな?…ぎりぎりせーふ、とは言えない、ね…」

    「…篠澤さん…どうして…?」

    ふとその背後に目を向けると、先ほどまでわたくしを辱めようとしていたけだものと、それを抑えるスーツの殿方の、見慣れた後ろ姿がありました。

    いやでも何が起こったのか、理解せざるを得ませんでした。
    ぼやける視界の中、こちらを振り向いたそのお顔は…

  • 23◆HaBLx0H.oA25/06/30(月) 01:46:25

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    「……ん?」

    事務所の扉、磨りガラスの向こうに一瞬見えた人影と、微かに聞こえた遠ざかっていく足音…俺はその特徴の持ち主に覚えがあった。

    「…誰かいた?見てくる、よ」

    「いえ、結構です」

    「…恐らく倉本さん、ですから…」

    「………」

    篠澤広…倉本さんの代わりに俺の担当についたアイドルが、顔を歪めて、何か言いたげに俺と扉を交互に見やる。それでも構わず先ほどの話の続きを始めた。

    「…で、来週のレッスンは体幹の鍛錬をメインに——」

    「プロデューサー、本当にこのままで良い、の?」

  • 24二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 06:13:15

    うおお千奈ちゃんが救われるのか……涙

スレッドは6/30 16:13頃に落ちます

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