- 1◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 20:44:05
のんびりと書いていきます。最期は晴れるよ、きっと、うん。
偉大なる元ネタ作品:
【閲覧注意】リーリヤの日記【見ないほうがいいよ】|あにまん掲示板4月◯日 今日は初星学園の入学式。 清夏ちゃんと一緒に、今日からここでアイドルを目指して頑張る毎日が始まる。 すごく楽しみで、希望がたくさん。 どんなことが起こるのかな? どんな人に出会えるのかな? …bbs.animanch.com前作です、よければどうぞ:
【閲覧注意】燐羽の備忘録【グール手毬曇らせ晴らし】|あにまん掲示板以下の作品を読んで思いついた燐羽視点のお話とちょっとした晴らしです。https://bbs.animanch.com/board/5147210/https://bbs.animanch.com/bo…bbs.animanch.com - 2◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 20:45:17
10月1日
センパイは暫く出張に行ってしまいました。
戻ってくるまでに自主レッスンをしようとも思いましたが、駄目って言われてしまいました。
残念です。
でも!
センパイと一緒に買った大切なストラップは、拾った優しい人が返してくれました。
自主レッスンはだめでも歌うのはいいって言ってもらえたんで、清夏ちゃんと一緒にステージに立てるように練習を欠かさないでおこう。 - 3◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 20:46:54
10月2日
一人っきりの寂しい部屋だったんだけど、なんと清夏ちゃんが引っ越してきてくれました!
最初は、きっと怒ってるだろうと思っていました。
けれど清夏ちゃんは「リーリヤはおっちょこちょいだから」って言って笑ってくれました。
いっぱいいっぱいお話しました。
私がセンパイを好きだったこと伝えると、清夏ちゃんは「気付かなくてごめんね」って謝ってくれました。
仲直りできてよかったぁ。 - 4◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 20:53:07
10月3日
今日は清夏ちゃんと一緒にレッスン!
歌のレッスンしかできないけど、それでもまた清夏ちゃんと一緒にレッスンできるのが嬉しくってたまらない。
センパイが戻ってくるまである程度形にしないと……。
あ、そういえばレッスン終わった後に今日は清夏ちゃんと一緒にシルヴェスタを観ました!
私がしるヴぇすたにつiて語ってると、清夏ちゃんは笑っていってくれmしta!「繝ェ繝シ繝ェ繝、縺ッ縺九o縺?>縺ェ縺」って……!
もう、恥ずかしいよ……!
- 5◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 20:54:30
- 6◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 20:58:09
お腹空いたんでご飯食べてきますね!ぼちぼち投下していきます!
- 7◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 21:08:02
【Side 学P】
抜け殻、今の自分を称するならばそれ以上に最適なものはないだろう。
俺は短期間に多くを失い過ぎた。
最愛の人を、そして最高の担当を。
……最愛の人を奪ったのは、紛れもなく俺の担当アイドルな筈なのに、未だに憎めずにいる自分がいた。
俺はきっと、清夏さんに恨まれているだろう。
仇も打てずに、今だってずるずると、葛城さんとの担当契約を切れずにいるのだから。 - 8二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 21:08:54
きたか……
- 9◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 21:48:25
葛城さんは記憶喪失といった数々の精神疾患が確認され、精神病院へと移送された。彼女の状態は芳しくなく、まずはそこで自分と向き合い、過去と向き合うことになる。
清夏さんへ行ったことといった諸々は、十王家と倉本家の御厚意で可能な限り隠されることとなる。事故は不慮のもので、死因も医療事故だと……。そして彼女の精神状態も、過度なプレッシャーによるものということになった。
「清夏さん」
額縁にある俺と清夏さん、そして葛城さんの三人が一緒に写った写真を何度も見直す。
葛城さんは何故――なんて野暮なことは言わない。俺という人間を愛していて、俺はそれを裏切った。そして傷心中に彼女を傷物にした。
俺が担当契約を切れずにいるのは、未だその彼女への行為に対する贖いができていないからかもしれない。
「Pくん、少しお時間よろしいですか?」 - 10◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 22:24:08
来訪してきたのはあさり先生だった。
「元気……とは言えませんが、以前よりは穏やかになったようで、先生も安心しました」
「ご迷惑をおかけして……」
俺がそう返すと、先生は真っ直ぐな笑顔を見せた。
「いいえ、生徒の様子を見守るの先生の役目ですから……とはいえ、このようなお話を持ってきているため説得力はありませんが……」
「?」
というのは、葛城さんと面会してほしい、という病院側の妙な依頼があったのだ。
「病院側のお願いだとしても、辛いと思います。無理にとはいいませんし、先生が何かあった時は……」
「……いいえ、大丈夫です。顔を、出してみようと思います」 - 11◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 22:36:48
ああは言ったものの、正直なところ、会うべきか、訪れる直前まで悩んだ。
この優柔不断さが自分がまだ葛城さんを恨めない理由なのかもしれない。
間違いなく、清夏さんも葛城さんを大事にしていた。最期のそのときまで。
そして俺は一度とはいえ葛城さんと結ばれた。
そんな彼女を捨ててしまうのは、きっと清夏さんにも顔向けができなくなるのではないか……そう思えてならないのだ。
とはいえガラスを一枚隔てた面会室で、葛城さんが連れられる直前まで俺の心臓は高まっていた。
会って、何を話そうか。
「センパイ!」
扉が開くと、ぱぁっと明るい顔を浮かべ、葛城さんが駆け寄ってくる。
その予想外の様子に俺は、驚いてしまった。 - 12◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 23:06:15
「センパイ、よかったぁ、出張が長いから心配してました。自主レッスンもあまりできなくて、不安だったけど……センパイが来てくれたんでそれも晴れました」
「葛城さん……?」
「どうかしましたか?センパイ、もっと近づきたいんですが……何故か近づけなくて……もしかして体調崩されてます?」
「え、ええ。移してはいけないので」
事前に葛城さんの容態は聞いていた。精神的な錯乱に、記憶の混濁。
自分が行ったことを覚えていない……という話だった。
だから、幼児退行ではないが自分が一番幸せだったときの状態に、回帰してしまってるんじゃないかって。
面会時間は十五分程度だった。
が、終始、葛城さんは楽しく話すため……本当に話したいことは何も話せなかった。
そして面会時間が終わり、退室する直前。
「今度は清夏ちゃんとレッスンの成果をお見せしますね!」
「え……?」
聞き捨てならない言葉であったが、もう追及することはできなかった。 - 13◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 23:19:49
面会後、葛城さんを担当する主治医さんの部屋に通された。
率直に感想を問われた。
葛城さんの状態も然ることながら、突然出てきた清夏さんの存在の示唆がどうしても気になって、仕方がなかった。
「葛城さんは入院した当初は食事も食べず、Pさんの名前をただ呼び続けていました。錯乱の状態も激しく、職員や部屋、果ては食事にさえも拒絶している……言わば恐慌状態でした」
「…………」
「しかし、ある日を境に、突然落ち着きを取り戻したんです。こちらとしましては容態が落ち着いたと思ったのですが……」
「……清夏さんのことを主張し始めた」
重々しく主治医は頷いた。
「部屋を変えようとしたり、その清夏さんを語る方を紹介してほしいと言ったりすると、葛城さんは表情を変えて『清夏ちゃんを私から奪わないで』と涙を流しながら懇願するんです」 - 14◆WsV5Czf1Hs25/06/30(月) 23:24:09
おい本当に晴れるんだろうな。
晴れるんですよね……? - 15◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 23:31:48
- 16◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 23:32:59
一日考えてみたが、どう情報を整理していいか、わからなくなった。
今、葛城さんの心は恐らく、壊れる寸前なのだろう。
壊さないために、最後の事実――自らの手で清夏さんを殺めたこと――を忘却することで、自衛しているんだと思う。
でも葛城さんの様子を聞くに、確実に“何か”を目にしている。
幻覚幻聴の線を考えるのが自然なんだろうけど、何故か、そうじゃない何かが葛城さんの前に姿を現した。
それだけでなく、それが『紫雲清夏』を名乗っている……。
「Pくん!」
「あさり先生……?」
血相を変えて事務室へ飛び込んできたのはあさり先生だった。
どれだけ焦っても普段は必ずノックをする人だというのに。それほどに切羽詰まっているっていうことだろうか。
「病院から連絡があって……葛城さんが病院からいなくなったって……」 - 17二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 23:35:16
いやあれみんな死んでるんですけど、、、
- 18二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 23:39:27
お前らなぁ、ここの主は沙耶の唄をという純愛ものをベースに書くと仰っておられたんだ。
晴れるに決まってるからただただ見ていればいいんだ俺たちは。 - 19◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 23:42:48
昨日、俺が面会した日の夜まではおかしな様子はなかったという。
だが、朝になって交代でやってきた看護師さんが確認すると、部屋に葛城さんの姿がなかったという。
それだけではない。夜勤の当直だったはずの職員、そして警備員が複数人行方不明になっているという。
脳が理解を拒んだ。
葛城さんは一体、何を考えているっていうんだ。ここにきて、本当に葛城さんの真意がわからなくなり始める。
……いろいろなことをあさり先生は話していたけれど、殆どが頭に入らなかった。とりあえず、以降は警察が彼女を捜索するそうで、俺は何もせず待機していてほしい……とのことだった。
あさり先生は俺を想って、そう命じたのだろう。
が、居ても立っても居られなかった。 - 20◆je8PYTqP5Ydc25/06/30(月) 23:44:38
「それで私を訪ねてきたわけだ、ね」
俺が訪れたのは、篠澤広さんの部屋だった。
警察やあさり先生は何もするな、そう言った。それは俺を慮っていることもあるのだろうが、それ以上に俺にできることなど殆どないからなのもあった。
だから、恥を承知で藁にも縋る想いで、彼女の元を訪れた。
「彼女が病棟内で何を見ていたのか……それが知りたいんです。清夏さんと彼女が呼ぶ人は、ご存知の通り……葛城さんが見ている幻覚なのか、本当に実在するのか」
「なるほど」
「それに行方不明者も出ている。間違いなく、よくないことが起こっています。本来は警察に任せるべきなんですが、それでは葛城さんが傷ついてしまうかもしれません」
「色々あったのに、優しいんだね」
「……複雑ですよ。でも、許すにしても憎むにしても、まずは再会しないと」
「ふふ、そういうとこ、嫌いじゃない、よ。わかった」
おもむろに篠澤さんはPCを開き、操作し始める。
「一体何を……?」
「病院をハッキングして、監視カメラを見る。それが一番手っ取り早い」 - 21二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 00:06:24
このレスは削除されています
- 22◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 00:08:10
【Side 葛城リーリヤ】
センパイの泣き叫ぶ声がずっと頭の中で反響している。
驚いた清夏ちゃんの声や、クラクションの音。
それらが何度も繰り返されて、いつの間にか正しく声が聞こえなくなった。
誰がしゃべっても、音が割れた雑音の様にしか聞こえなくなった。
その日以降、私の中から音楽が消えて、世界が灰色に染まった。
声は聞こえないけど、なんとなく自分が今置かれている状況は把握していた。
何処かへ連れていかれるらしい。
だけど、正直なところどうだってよかった。
センパイもそこにはいないし、清夏ちゃんも何処かへ行ってしまった。
――あれ?
清夏ちゃんは何処に行ったんだろう。
喧嘩をしたことは覚えている。
だけど、なんで喧嘩をしたのかも、そしてどうなったかも、思い出すことができなかった。 - 23二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 00:16:06
- 24◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 00:30:46
目が覚めると、世界が激変していた。
地獄とは、このことかとも思えるような光景が私の周りに広がっていた。
いるのは、四方を壁に囲まれた簡素な部屋っぽい……だけど、掃除も何もしていないのか……赤黒のペンキをぶちまけたような、異臭も酷い本当に酷い部屋。なんで、私がこんな部屋にいなきゃいけないんだろう。
脱走して、トレーニングしたい。だけど、そうするとセンパイに迷惑がかかる。
それに……さっきから私に話しかけてきてくる、この……『肉塊』は、なんなのだろう。
耳を澄ませば、辛うじて何を言っているかはわかる。
でも、不快さがとても強い。
センパイでも、清夏ちゃんでもない人の声を、ここまで神経を割かないといけないのかな。
やだよぉ……辛いよ、とっても寂しい……。
センパイ、清夏ちゃん、助けて……。 - 25◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 00:45:07
自主レッスンをしようとしたら、いっぱいの肉塊さんが、何人にもなって私を止めに来ます。
首筋が少しだけ痛くなったと思うと、眠くなって倒れてしまう。
ひどい。
私はどうして、こんな場所にいるんだろう。
自分が何なのか、わからなくなる。ここは初星学園の何処なの?
レッスンができないのも辛いけど……何よりも、ご飯が本当に美味しくない。
昆虫職とか、生食とか……日本に来て驚いた食文化はいっぱいあったけれど、これは違う。
泥と血肉、そして砂利を混ぜて、それに腐った牛乳をぐちゃぐちゃに混ぜた……筆舌し難い最悪の味。それに匂いも最悪だ。シュールストレミングなど比較にもならない。
一口運ぶと、すぐに全部吐き戻してしまう。駄目だ、食べないと……体力がつかないのに。
センパイ、センパイ……会いたいよぉ……。 - 26◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 01:02:11
生き地獄……とはこのような場所のことを言うのかもしれない。
心がゆっくりとだけど、確実に擦り切れていくのがわかる。
センパイに黙ってオーバーワークをし過ぎたから、罰を受けたのかもしれない。
優しい清夏ちゃんを怒らせた報いなのかもしれない。
食事も喉が通らず、そして五感のすべてが痛みに変わっていく。何もかもが、いやになる。
ある朝。今日も食べ物が喉を通らずにいた。
苦しみしかない一日が始まる、そう諦めた矢先、予想外の嬉しいこともあった。
「清夏ちゃん?」
誰もいない筈の部屋で、突然何度も会いたいと願った制服姿の清夏ちゃんが姿を現した。
どうして?
それが頭の中でいっぱいになる。
『やっほー、リーリヤ。急にいなくなったから探したよー』
けれど、声を聴くとそれさえもどうでもよくなる。
「えと、どうして……私に怒ってるはずじゃ……」
血と肉の、最悪の世界の中で――はじめて綺麗なままの人を見た。それが、清夏ちゃんだった。
……でもなんで清夏ちゃんは私に怒ってたんだろう。
何か許されないことをしたはずなのに……。
『もう難しいこと考えなくていいよー』
そういって私を抱きしめてくれた。
……うん、そうだね。
初めて、ちゃんと聞き取れる声だった。それが愛しくて、たまらないんだから。 - 27◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 01:04:11
『あ、リーリヤ。朝ごはん食べてないじゃん』
「え、えへへ、美味しくなくて……」
だって本当に、ありえないくらい不味いから……。
『リーリヤって変な所頑固だもんねぇ。しょうがないなぁ、待ってて』
清夏ちゃんがそういって室外に出て行って数分すると、別の食事を持ってきてくれました。
「わぁ、美味しそう……!」
それは今まで見たこともないような美味しそうな焼きたての肉料理で、匂いさえもたまらずよだれが出てしまう。
「た、食べていいの!?」
『もっちろんだよ!』
「これ、清夏ちゃんの手料理?」
『ま、そんなとこかな?』
聞くや否や、私はその肉料理を口に運んでいた。
本当に美味しくて、こんなにご飯を食べて嬉しく思えるのは何時振りだろう?
気付けば涙が止まらなくなっていた。
食事がこんなにうれしいなんて!
『こっちのご飯は処理しとくね、差し入れ食べてるのバレたらセンパイに怒られちゃうよ~?』
「わ、わかった……! ありがとう!」 - 28◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 01:07:02
清夏ちゃんとの日々は見違える様に楽しく、幸せなものだった。それだけじゃなく、なんとセンパイとも再会ができた。
『ねー、リーリヤ、センパイとお話できてよかったね!』
「うん!」
センパイと会うの、最初は怖かった。肉塊にしか見えないのではないか、という恐怖があったから。
だけど、センパイは私の大好きなままの姿、声でいてくれた。
それを清夏ちゃんも喜んでくれた。
『ところでさ』
「どうしたの?」
突然清夏ちゃんは神妙な面持ちで私に相談事を持ちかけた。
『来週さ、H.I.Fあるんだけど……PっちもリーリヤのPさんもさ、私たちには早いっていうんだ。頑張ってるのに、ひどいよねぇ』
「そ、そうなの!? う、うう、私まだまだ未熟だから……」
『そんなことないって! だからさ、リーリヤ。勝手に申し込んじゃお! 勝ち進めて、優勝してセンパイを驚かせちゃおう!』
「い、いいのかな?」
『リーリヤは、あの日の約束……覚えてる?』
あの日の約束。忘れるわけがないよ。
「うん……!」
『きっと、またとないチャンスだと思うよ。私だけでも、リーリヤだけでもダメ。二人なら、きっと……!』
「うん、そう、そうだね!」
でも、どうしよう。ここから出るのは難しいよ。
『私に任せといて! 決行は今日の夜だよ!一回戦は極月学園の四音っちと撫子っちのペアだよ~』
「うん!」 - 29◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 01:08:05
というわけで、一旦前半?部分が終わったあたりでひと眠りしますね。
明日の日中も顔出せるとは思いますが、落ちてしまったらまた次の枠立てますね。
それではよい夢を! - 30二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 01:26:23
よい夢みれるか👋😁
- 31◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 01:33:02
一応今の段階で言えることは……『学P、井戸に落ちる!』といういどまじんネタはあります!
こうご期待! - 32二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 01:37:44
沙耶の唄って聞いた事ないな……って思ってたけど
本文の流れで思い出した
これ、俺が知ってるやつだったわ
…大丈夫よな?Pは死なねぇよな??
そこだけがめっちゃ不安になってきたわ
四音と撫子は…予想だが多分いかれるな - 33◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 07:59:39
おはようございます、スレ主です。
ちょっとずつ更新していきますね - 34◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 08:57:25
【Side 学P】
「…………」
言葉を失った。というか、何のコメントもできなかった、が正しかった。
葛城さんは確かに、何者かと会話している。その何者かが確実に彼女の目の前にいる。
解像度が低く完全にはわからない。今は、篠澤さんが解析をしている。 それにしても、この不気味な感覚は何だろう。
俺たちは触れてはいけない存在に、禁忌に触れている気がしてならない。一体、何が起こっているのか?
ドタ!
そのとき椅子に座って観察していた篠澤さんが、衝撃の余り椅子から倒れた。
「いたた……」
「大丈夫ですか!?」
「ん、大丈夫。でも、驚いた……こんなのありえない。生物として、こんな存在が……」
篠澤さんがパソコンの画面を俺に見せる。
それは葛城さんが『紫雲清夏』と信じる――その存在がはっきりと映された姿。
だがそれは生物と呼ぶには、あまりにもいろいろな部分が未発達だった。葛城さんの膝ほどしかない“それ”は、肉の塊としか呼べない。赤と黒が基調となったそれは、異形としか形容できず、真面に直視すれば精神に異常を来しかねない不定の狂気としか……。
「わからない、わからない、けど……これはまるで、分化最中の、生命体。リーリヤが何を話しているかはわからない。だけど……明らかに、人以上に高度な知能を持っている、ね」
「……葛城さんには、彼女が紫雲さんに見えているんですか」
「恐らく、ね。精神疾患の結果、Pとこの子以外は、すべて歪んで見えているのかも?」
「それにしてもあの生物はいったい……」
「私に覚えある、よ」 - 35◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 12:42:40
その生物に近い何かを研究していた知人が、かつて篠澤さんにはいたそうだ。
「でも、倫理的にまずくて、大学は追放になった。その後は消息不明……ということになっている」
「と言いますと?」
「この天川町の外れにある山間部に終の棲家を構えた、と聞いている」
なんという偶然だろう。この幸運を無駄にするわけにはいかない。
「となると葛城さんたちも……」
その場に向かっていると考えられる。ダメ元かもしれないが、知っている人物が少ない今のうちに、可能性は当たりたい。
「私も行く、よ」
「篠澤さんも? ですが……」
「危険。でも、リーリヤを助けられるかもしれない」
「……そうですね」
「それに、増援もいる」
そう告げる篠澤さんは細い体でいっぱいに胸を張りながら自信満々な表情を浮かべた。 - 36◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 15:28:44
「リーリヤが困ってるなら放っておけないわ!」「こんにちは!!!」
少しして合流してくれたのは、花海姉妹だった。
「やほ、佑芽、二位の人」
「あー!また二位って言ったわね!!!私は花海咲季よ!いい加減覚えなさい!」
「しかし、どうしてこの二人を?」
すると篠澤さんはにへらっと笑いながら答える。
「私は戦えない。咲季なら、違う。それに佑芽は」
「リーリヤちゃんの匂いは覚えているから任せてください!」
なんとも頼もしい味方だった。
時間は限られているし、日没も近い。自前の車に三人を乗せて俺たちは天川町はずれの山間部を目指すことにした。
車で進めるギリギリの山道を進むこと、三十分弱。
夜の帳はとっくに降りており、街灯もない道は非常に暗く、何もない。
「確かにリーリヤちゃんの匂いがする!山の奥から!」
「……うん、元博士の居場所に近いよ」
「佑芽さんがいて本当に助かりました」
「ふっふーん!さっすが佑芽ね!」
これから、下手をすれば命さえ落としかねない状況に向かうっていうのに、何とも気の抜けた空気だ。
だけど、どうしてか懐かしさを感じずにいられなくて、気が付くと表情が綻んでしまっていた。 - 37◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 17:25:40
皆で一緒になって離れずに、けもの道を進んだ先に、かなり老朽化したログハウスがあった。
生活感はなく、少なくとも数年は不在にしていたのが見て取れる。
「う、うわ!? 人骨!? どうなってるのよ……!」
「お姉ちゃん、こ、怖いよ……!」
室内は荒らされたようだった。書斎と思しき部屋には、椅子にもたれかかったまま息絶えたのか、既に白骨化した奇妙な遺体だけが残されていた。多くの資料が散乱しているが、見知らぬ国の言葉ゆえに内容まではわからない。
篠澤さんが、それを拾い上げて視線を落としている。かなり集中していて周りの声は届いていなさそうだ。
解読は彼女に任せた方がいいだろう。
「あ!リーリヤちゃんのPさん!この白い病院の服からリーリヤちゃんの匂いがします!」
「!?」
「くんくん……それに、とーっても近くに同じ匂いがします!そ、外です!」
俺は、咲季さんの「待ちなさい!」という忠告に耳も傾けず、急いで室外に出た。
葛城さんがいるのなら、俺は話さなければならない。
彼女が何を見て、何を考えているのか――を……。
「うわっ!?」
突然死角から勢い良く押され、俺は井戸に落下してしまった。
※画像はイメージ図です - 38◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 17:51:58
「う、うわ! Pさんが井戸に落ちちゃったよ!お姉ちゃん!」
「な、なんですって!? ロープか何かを探さないと……!」
遠くから声が聞こえる。
ここは……水こそ張っているが、長年使われていない枯れ井戸だ。
水があったから、怪我が少なく済んだともいえるかもしれない。
誰が俺を押したのか、であるが……暗くてはっきりとした表情までは見えないが、紛れもなくそこにいたのは葛城さんだった。
ライブ用の衣装を纏っているのがわかる。このログハウスで着替えたのか?
「センパイ! 驚かせてごめんなさい!」
よく見えない、が、今の葛城さんは何かに憑依されているような底の見えない表情をしているのはわかる。
表面上は笑顔であるというのに、奥底の心情が、何もわからない。
「聞いてください、私と清夏ちゃん、H.I.Fで白草さんと藍井さんを倒せました! もう私、未熟じゃないんです!」
「H.I.F……? 葛城さんは一体何を……」
「次は二回戦です……! 本会場で、相手が手毬ちゃんだから手強いけど、私、負けません!待っててくださいね!」
「待って、葛城さん!」
駄目だ! 一人じゃ井戸から這い上がれない。くそっ、ここまで来たのに……。 - 39二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 18:00:33
このレスは削除されています
- 40◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 18:02:12
ここでちょっとダイスだけ振っておきますね。
終盤少しだけ分岐します。
dice1d2=2 (2)
- 41◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 18:05:00
【side 花海咲季】
「待ちなさい!」
正直な話、篠澤広やリーリヤのPが何を言っているかはわからないわ。
だけど、リーリヤが正気を失って困っているってことはわかるもの。なら、友達として、お姉ちゃんとして放置はできない。
そうして訪れた不気味な場所、ここでまさか対面できるなんて。
「……咲季ちゃん」
「リーリヤ、貴女……どうしたのよ。やつれている、とは違うけど、とんでもな顔をしているわよ? それに……貴女いま自分が何をしたのか、わかっているの?! 当たり所が悪かったらP、死んでいたかもしれないのよ!?」
「センパイはもう私の傍からいなくなったりしません! 清夏ちゃんと同じ、私の所に戻ってきてくれたんです!」
清夏……? 一体この子は何を言っているの?
「リーリヤ、聞きなさい。清夏は一カ月以上も前に……きゃっ!?」
何か、ボールみたいな物体が私の腰当たりにぶつかり、そのまま転倒してしまう。
「な、なんなの!?」
「清夏ちゃんダメ! ご、ごめんね、咲季ちゃん。でも今は時間がないんだ。だからH.I.Fの決勝で会おうね!」
意味が解らない私を無視してリーリヤは下山していってしまった。
「あの子はいったい……何を言っているの? それに、清夏はどこにもいないじゃない……あっ!」
今はそれはいい、佑芽と一緒にPを井戸から救い出さないと! - 42二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 18:18:26
【side 葛城リーリヤ】
――少し時間が遡る。
『さっすがリーリヤ、衣装もきまってるね』
「清夏ちゃんもだよ」
私が黒、清夏ちゃんが白を基調とした衣装を着ている。これで準備完了だ。
「一回戦は観客が誰もいないね……」
『やっぱり最初はそうなるよね、二回戦目からは増えると思うから頑張ろう!』
「うん!」
相手は白草四音さんと藍井撫子さん。
前に少し嫌なことがあったから苦手意識はあるけれど、でももう、今の私は違う。
だから、負けません。
『行こう、リーリヤ。私たち二人で』
「あの日の約束を!」 - 43二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 18:20:22
次はちょっと閲覧注意強くなるよ
- 44二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 18:27:49
晴れる未来が見えないよお…
- 45二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 18:31:09
【side 藍井撫子】
「ぐぅっ、あああっ、痛い痛い痛い……!」
四音お姉様の声が聞こえるというのに、姿がはっきりと見えませんわ。
何度も立ち上がろうとしているのに、立ち上がれません。
どうして、私の綺麗な足がなくなっていますの……?
それに足の付け根が、熱くて灼けてしまいそう。
「し、四音おね、え、さ……ま……」
「くる、なっ、ぼ、ボクが何をしたって言うんだよ!? 痛いやめ、ボクの体に触っ……ぎゃあああ!?」
私の元へと流れてくるのは、熱を帯びた赤い水。
これは、お姉様の実在を証明する、喪失してはいけない命の要素。
お姉様の腹は裂かれ、そこから腸を始めとした様々な臓腑が露わになっています。
両目からは涙を流し、絶叫しますがこの場には誰もおらず……助けも見込めません。
「いやだっ、くるな、ばけもの! ボクはまだ何も為していないのに、し、死にたくっぐうううう!? おね、お願いだから、顔だけは、顔だけっ……」
もぞもぞと、お姉様の体を好き勝手に蹂躙している俗物が何か、とんと見当がつきません。
愚鈍な私にわかることなど、次の標的であるということ。
「月花、姉様……ごめなっ……うっ……愚妹で、ごめ――」
「お姉様っ、いやっ、どうしてっ……」
バケモノは姉様を貪食した後に、ゆっくりと私の元へ向かってきます。
嗚呼、私の命は、ここでお姉様と一緒に潰えますのね……。
せめてもの救いは、心地よいお歌が聞こえることでしょうか?
へたっぴで、粗削りもいい所ですが……私、この声は嫌いでなくってよ? - 46二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 18:32:23
昨日の美鈴NIAでの可愛い撫子ちゃんを見てここのエピソードを思いつきました!
担当させてくれ、撫子 - 47二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 18:42:41
【Side 学P】
「た、助かりました……」
俺は井戸から救出された。有難いことに軽い打撲程度だから動くことはできる。
「びっくりしましたよ……!」
「ごめんなさい、リーリヤを逃がしてしまったわ」
「いえ、無事で何よりです」
「……事情をいい加減話しなさい。リーリヤに何があったの? それに、清夏って」
……ここまで来て、何も話さないのはよくないだろう。
「事情は私が話す、よ」 - 48二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 18:59:31
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- 49◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 19:02:02
「失踪した博士は、あの生物を研究していた。人道に反する方法で0から創造したのだと思ったけど、違った」
到底信じられない話だが、あの生命体は異なる世界より来訪した存在だという。
かの生命体は人間を捕食し、記憶といった情報を吸収するという。
「どういうこと? じゃあなんでリーリヤが襲われないの?」
「……そこまではわからない。けど、記録を見る限り、あの生命体の精神性はリーリヤと同じ、女性らしい」
理由は不明だが、生命体は葛城さんと協力関係になっており、彼女には生命体が清夏さんに見えているという。
「それに、リーリヤ、妙なことを言っていたわ」
「妙な事?」
「Pも聞いたでしょ、あの子、H.I.Fに出るんだーって」
その言葉に俺も頷く。彼女は以前、『初』講演で用意した衣装を纏っていた。そして、清夏さんと一緒にH.I.F
に……。
「そうよ! 佑芽、リーリヤの匂いの他に、清夏の匂いはなかった? 本物かどうかはそれでわかるんじゃないかしら」
「う、うん。さっきからね、匂いを探してるんだけど……すっごく嫌な臭いがするよ。怖いよ……絶対清夏ちゃんじゃないよ!」
「……見に行ってみます」
「私も、行く」 - 50◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 19:14:08
俺と篠澤さんは、匂いの場所に辿り着いた。近づけば、嫌という程血の匂いがしており、異質な現場であることはすぐにわかった。
「これは……」
惨殺現場といって差し支えないだろう。
「…………あの生命体は、人間を食べる」
「そのよう、ですね……」
咲季さんと佑芽さんを連れてこなくてよかったと思う。これは、正に地獄だ。
「篠澤さん、大丈夫ですか?」
「うん」
まるで獰猛な野生動物が食い散らかしたようだ。その場にあったのは、二人の女子生徒と思しき遺体。
どちらも欠損は酷く、生存は絶望的だ。
「…………H.I.Fっていうリーリヤの主張と、辻褄が合う」
「合ってほしくなかったんですが……」
葛城さんは、優勝を俺に届けようとしている……あの生命体は相手を捕食してしまっているが、葛城さんの中では『勝利』するという光景に見えているのではないか?
「P、これ」
「……これは、清夏さんのイヤリング……?」
「……あの生命体は、女性。そして進化していく……だから」
「本当に清夏さんになろうとしている?」
「だとしても大変。これ以上、被害は出せない」
「そうですね」 - 51◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 19:58:50
本当に簡単にではあるが、極月学園の学生二人を埋葬した後、花海姉妹と合流した。
「……となると、H.I.Fを進めさせるといけないわね。佑芽、大丈夫?」
「う、うん。でも気持ち悪いよ……あの生き物、いろんな人の匂いがしてたから……うぷっ」
「無理してはいけません。二人を寮に……」
「だ、大丈夫です!」
だが姉妹は、最後まで付き合ってくれるそうだ。
「ああっ、まずいわよ!P!二回戦の相手は手毬って……」
「まずい、ね。手毬は今、学園」
そしてH.I.Fは、二回戦以降は学園にある会場にて行われる。となると、葛城さんと清夏さんは間違いなく学園に戻っている!
「……それにあの子は決勝で私と闘うっていってたわ」
「さっすがお姉ちゃん! 決勝まで勝ち上がれるなんて!」
「ふっふーん!当り前よ!……じゃなくって、急がないと手毬が危ないわ!」
埋葬や捜索に既に時間を使ってしまっている。彼女らは徒歩だろうが、時間は刻一刻と進んでいる。俺たちは急いで車に戻り、学園を目指すことにした。
「……どうしてかしら、そんなことありえないのに私、手毬に食べられたことがあるような気がするわ」
「ふふ、奇遇だ、ね。私も」
「お姉ちゃんに広ちゃん、何を言っているの????」 - 52◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 20:12:19
【side 月村手毬】
な、なんでこんな夜にりーぴゃんは私を呼び出すの!?
「まぁまぁ、まりちゃんは怖がりですね」
「こ、怖いにきまってるでしょ!? もう深夜だよ!?」
「それは、確かにそうかもしれませんね。でもどうして葛城さんは……今少しお身体の調子がよくないと聞いていましたが……」
それにしても指定した場所が奇妙だった。何故、こんな深夜に学校の講堂を呼び出すだなんて、おかしいよ。
「あ、手毬ちゃん……! きてくれてありがとう!」
「え、りーぴゃん……?」
久しぶりにみたりーぴゃんの姿は私の知るりーぴゃんとは余りにも程遠かった。
以前はすごく綺麗だと思っていた黒色の衣装もボロボロだし、何よりも瞳が怖い。
彼女のいい所である真っ直ぐな光が、失われてしまっている。
「……まぁ」
美鈴はいつもになく真剣な表情をしている。何がどうなってるの?
「まりちゃん、走りますよ」
「えっ!?」
「逃げましょう。流石に様子がおかしいです」
美鈴が手を引いて、りーぴゃんに背を向けて無視して走り出す。
だが、びちゃり、という音と共に何かが私たちの前に落ちて、行く手を遮られる。
ボールほどの大きさではあるけど、とっても怖い。なに、これ……。 - 53◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 20:27:34
「……万事休すですか」
美鈴はぎゅっと、私の掌を握る力が強くなる。
ねぇ、いったいどういうことなの……?
「り、りーぴゃん、あ、あれ……なんなの?」
「手毬ちゃん、何を言っているの? 清夏ちゃんだよ?」
は?は?は?
何を言っているの?
「りーぴゃん、こんなときに冗談はやめて。あれの何処が清夏なの。それに清夏は一カ月前に……」
「清夏ちゃんは死んでいません! ずっと、ずっと私と一緒にいてくれてる! 今だって一緒に、H.I.Fの舞台に立っています!」
「そんなわけないじゃん! 清夏は、トラックと事故に遭って、そのあと病院の医療事故で……あんただって一緒に葬儀に出てたよ!」
「やめてっ……死んでいないよ、清夏ちゃんは……」
激しく激昂した後、狼狽し始めた途端に距離を保っていた謎の化物は私たちに対し、強い威嚇をし始めた。
「……私が相手になります。だからまりちゃんには手を出さないでください」
「美鈴!? 何言って……」
「まりちゃんが死んじゃったら、りんちゃんに顔向けできませんから」
「それは美鈴だって一緒でしょ……!」
後ろからは正気とは思えないりーぴゃんが、そして前からは化物が近づいてくる。
嫌だ、死にたくないよぉ……誰か、助けてっ。 - 54◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 20:29:44
少し離席するのでお待ちください……
日が変わるくらいには続き投げますね - 55◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 23:14:58
クライマックスです!!!
-------
【side 学P】
「えーい!」
秦谷さんと月村さんが襲撃される、間一髪のところだった。
モップを装備した佑芽さんがおもいっきり生命体を弾き飛ばすことで間に合った。
「う、佑芽ちゃん、ひどいよっ、清夏ちゃんのなんてことするの!?」
「ご、ごめん! でも美鈴ちゃんと手毬ちゃんを助けなきゃだから……」
場は一触即発の空気に包まれる。
このままではまずい。
「咲季さん、佑芽さん。秦谷さんと月村さんと一緒に脱出してください、遅れて追いかけてきている篠澤さんと合流して安全な場所へ」
「いいの……?」
「ええ、ここからは俺と葛城さん……そして清夏さんと話しますから」
「……わかったわ。外にいるから、何かあったら呼びなさいよ」 - 56◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 23:25:53
「センパイ!」
俺と葛城さん、そして清夏さんの三人になったことがわかると、明るい表情を浮かべて葛城さんは俺に抱き着いてくる。
「会いたかった……会いたかったです! みんな、みんな酷いんです……清夏ちゃんはここにいるのに、いるのにみんないないって……」
そう口にする葛城さんの表情に嘘や偽りはない。
正真正銘、この生命体に『紫雲清夏』の像を投影している。
そして、これは道中に文書を読み込んだ篠澤さんの仮説――。
「葛城さん、貴女は今……俺と清夏さん以外を正しく、認識できていないのではないですか?」
「……っ。そ、それは……そんなことは……」
「葛城さんは前から嘘が下手ですからね。騙せませんよ」
時間があるのなら、最後まで葛城さんの見る風景で一緒にいつづけたい。
だけど、もう多くの人が彼女を探している。
時間は限られている。だからこそ、酷だけど、それでも……やらなければいけないことがある。
「……清夏さん」
俺が名を呼ぶと、後ろの生命体は一度、動く。肯定、だろうか。
「俺にも、葛城さんが見えてる世界を見せてもらえませんか?」
「せ、センパイ駄目です!それは……」
「とっても辛いことなのでしょう。だけど、俺はもう葛城さんから逃げたくありません。ですから……お願いします」
そうお願いすると、生命体はゆっくりと近づいて、俺の頭にその触手を伸ばした。
途端、その場にいる葛城さん以外の全てが――血肉のグロテスクな世界に染まった。 - 57◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 23:40:01
食べていたものを戻しそうになるのを必死にこらえる。すぐにでも発狂してしまいそうな風景であるが――辛うじて正気を保てているのは、葛城さんがすぐそばにいてくれるからに他ならない。
『もう、Pっち、なんで来ちゃうかな……』
そして後ろには、ちゃんとさよならさえも言えなかった清夏さんの姿があった。
見間違えもしない。
俺が確かに知る、紫雲清夏がそこにいた。
「清夏、さん……」
「センパイ、私と清夏ちゃんの三人で生きましょう……? こんな世界でも、三人でいれれば怖いものはなにもありません。もう、離れ離れになるのは嫌なんです」
俺の胸に顔を埋め、涙を流す。
葛城さんが、完全に発狂せずにここまでこれたのは間違いなく清夏さんの存在と、俺がいるという唯一残った事実のおかげだ。彼女が、彼女のままでいられたのはそんなか細い可能性の線が、途切れずに残っていたからだ。
俺は、葛城さんに真実を告げるべきだろうか。
それが、本当に幸せになれるのだろうか?
……地獄の様な世界でも、俺が同じように彼女に寄り添えば、救えるんじゃないか。
一瞬、その思考に支配されかけたが……駄目だ。それでも、それでも……。
俺は、葛城さんに真実を――。 - 58二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 23:44:24
なるほど、ここでダイスか
- 59◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 23:45:54
「清夏さん、聞きたいことがあります」
『どうしたの?』
「俺にしたように、葛城さんを……元に戻すことはできますか?」
「センパイ!?」
何もない俺を、葛城さんと同じ世界に導くことはできた。
もしかすると、逆もできるんじゃないか?
これは篠澤さんと議論した中で生じた仮説であるが、可能かもしれない。
『……できるよ』
「なんでですか! センパイ、嫌です、せっかく再会できたのに……」
俺はそのまま清夏さんと会話を続ける。
「葛城さんを……もとに戻してあげてくれませんか? 俺であれば……ずっと清夏さんと一緒にいることができます」
『どうして、Pっちはそこまでしようとするの?』
そんなの、きまってるじゃないか。
「……俺にとって葛城リーリヤさんは、大切な人です。だから、彼女には幸せであってほしいんです。彼女から……かけがえのない日常の喜怒哀楽を、奪いたくないんです」
「やめてっ、センパイのわからずや! なんでなんですか、私はただ……」
「葛城さん。こんな世界ですが、これは夢なんです。甘く優しい夢なんだ。葛城さんも覚えているはずです。清夏さんは、もう……」
「っ……きらい、きらい、みんな意地悪するから嫌いです!」
どん!と俺を押し、彼女は裏口から外へ出て行ってしまった。 - 60◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 23:52:50
「怒らないんですね」
『……複雑だよ。だけど、私の中の“紫雲清夏”という子は、こうすべきだと言っている』
「……」
『追いかける前に、少しだけ、私の話聞いてもらえるかな。それが終われば、どっちも戻すから』
「清夏さん」
『今の私も清夏って呼んでくれるんだね』
清夏さんは滔々と語り始めた。
目を覚ましたのは、生みの親である博士を捕食した後。
記憶も知識も、ほとんど何もなかったという。あるのは博士が遺したものだけ。
何とか情報を集めようとしたそのときに、テレビである映像を見たという。
――葛城リーリヤという、無垢な白い花。
『うん。たぶんそこで、私はアイドルとしての彼女に惹かれたんだと思う。そしてちょうどその時に……』
「紫雲清夏さんが亡くなった」
きっと、いくつかの偶然が折り重なったんだろう。
よいこと、よくないこと。それら全部のめぐりあわせ。
その果てに、この子は、紫雲清夏さんの記憶と出会った。 - 61◆je8PYTqP5Ydc25/07/01(火) 23:58:55
『悪いとは思ったけれど、知りたかったから……紫雲清夏の骨の一部を取り込んで、記憶を手に入れた』
申し訳なさそうに俺へと詫びをいれる。
『記憶を吸った後は、本来であれば、接触する気はなかった。でも、彼女に殺められたうえでも紫雲清夏という子は……葛城リーリヤを愛していた。それを知って、会いたくてしかたなくなった』
「……清夏さんはそういう方です。些細な入れ違い……いいえ、俺が葛城さんをこうしてしまったんです」
いまにも壊れそうな葛城さんの前に、『紫雲清夏』としてこの子は姿を見せた。
彼女曰く、葛城さんの五感が狂ったのは精神的な疾患が原因だという。
真面目な、真面目過ぎる葛城さんが心の崩壊を防ぐために架空の、俺と清夏さんだけの世界を作り出した。
『あたしが見えるようにしたんだ。そういう意味では、私がリーリヤを巻き込んだ』
「貴女なりに葛城さんを守ろうとしたのでしょう」
『優しいんだね、Pっちは』
微笑む姿は、間違いなく俺の知る紫雲清夏であった。でも、それは……再現でしかなく、記憶の残滓でしかない。
清夏さんはもうすでに、亡くなっているんだから。
『悲しいけど、今のリーリヤにもうあたしはいらないみたい。Pっちがいてくれる、そうでしょ?』
「ええ」
『うん、よかった。ちょっと甘やかしすぎてリーリヤ、我儘になっちゃってるから叱ってあげて』
「わかりました」
葛城さんを追いかけに行く寸前に、彼女は言う。
『――紫雲清夏さんの伝言。“ありがとう、さよなら。愛してたよ。リーリヤをよろしく”だって』
「……はい、清夏さん。さようなら」 - 62◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 00:12:36
葛城さんが何処に逃げたか、理由はわからないけど見当がついていた。
未だ世界は血肉に染まり、気を抜けば精神が持っていかれかねない……そんな狂気の世界だ。正直な所、今自分がいる場所なんてわからない。
ただ、葛城さんのいる場所へは間違いなく辿り着くことができた。
「センパイ」
「……葛城さん」
「リーリヤって呼んでくれませんか?」
「……ええ、リーリヤさん」
少しの間、沈黙が二人を包む。
だけど、それを破ったのはリーリヤさんだった。
「なんとなく……自覚するようになっていました。私が清夏ちゃんにしたこと、そしてそこから逃げたこと」
すぅっ、と息を大きく吸った彼女は一度目を閉じた後、ちゃんと開いて俺を見て、言った。
「私が、私が清夏ちゃんを殺しました」 - 63◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 00:21:34
わかっていたこと、理解していたこと。
だけど言えなかったこと。それを、彼女はようやく口にした。
「私はセンパイが好きです。それは、先輩と後輩とのではなく、一人の男性として……これまでも、そして今だって。
でもおんなじくらい清夏ちゃんも好きで、だから応援しようと思ったんです。でも、日が経過して、自分じゃないってわかるようになってからは……私の感情が屈折していってしまいました」
「俺も、リーリヤさんが俺に向けている感情に気付いていました。だけど、どうしたらいいかわからなくて、貴女を傷つけた。それだけじゃない。清夏さんが亡くなった後、自分を慰めるために貴女を利用した。俺は……最低な男です」
「……それでも、私は嬉しかったんです。二番目でも、センパイが私を見てくれたことが。そして、もう一度、今、私を見てくれたことも」
だから、これでもう後悔はありません。ようやく、自分の罪を贖えることができます――そう言って取り出したのは、日本にある筈のない拳銃。
「博士さんのログハウスにありました。ごめんなさい、包丁は怖くて……でも、これで終わることができます」
リーリヤさんは、そっと銃口を自分の喉元に向ける。
「清夏ちゃんに甘えて、私は清夏ちゃんにひどいことをさせてしまった。もう少し遅かったら手毬ちゃんや秦谷さんまでも。償うときがきたんです。本当の地獄で」
「リーリヤっ!」
「もう、怖くありません」
血肉の世界に、一つの光が迸った。 - 64◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 00:36:57
「せ、センパイ……なんでっ」
弾丸は、俺の左肩を撃ち抜いたが、致命傷ではないのでなんとかなるでしょう。
俺は葛城さんに覆いかぶさるように、上になる。
「っ! センパイのバカ!おばかっ、おばかさんですっ……もしかしたら死んでしまったかもしれないんですよ!?私はこれでよくって――」
「いいわけ、ないでしょう!」
「わからずやのセンパイのバカ! もう、弾がないのに……」
思えば、彼女とこんなに口論したのは、初めてだ。もっと早くできていたら、何かが変わったのだろうか?
いいや、わかりやしない。だけど、今はそれでよかった。
拳銃を捨てた葛城さんは、腕を絡みつけるように俺を抱きしめる。
「俺は約束したんですよ、清夏さんに……リーリヤさんを幸せにするって……俺を嘘つきにするつもりですか?」
「あんぽんたんです。ばかばかばかです……なんで、私なんか……」
俺がそう言ってみると、リーリヤさんは顔を赤らめてぽかぽかと胸を叩いてくる。
「やめてください、腕に響きます」
「なんでっ……センパイは、今更になって、私の欲しい言葉を全部……」
顔を赤くすると思えば、今度は涙を流し始める。今まで自分を守るために堰き止めていた数多の感情が、自責の念が込み上げて、押し寄せる。
「もう後戻りできません。いっぱい人を殺しました、センパイの大切な清夏ちゃんも……でも私は弱い子です。センパイと離れることもできません、だから」
こうやって贖おうとした。相変わらず頑固で、融通の利かない人だ。だけど、させない。
「もう離しませんよ。俺も一緒に罪を背負います。忘れないでください、俺はリーリヤさん、貴女を赦(はな)しません」
リーリヤさんは声をあげて泣いた。それは、清夏さんがいなくなって以降、初めての感情の発露だった。 - 65◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 00:39:09
◇
その後のお話になる。
「……本当によろしいのですか?」
「はい、そこまで甘えることはできません」
清夏さん――だった生命体に我々の五感は健全に戻してもらえた。
仕方のないことだが、リーリヤさんが初星学園に残ることはできない。だけど、一緒にいてくれた咲季さんや佑芽さん、そして篠澤さんやその友達である倉本さんがかなり便宜を図ってくれた。
そうして我々は、“高飛び”するような形でスウェーデンへと向かうことになる。言わば国外逃亡だ。
どうあっても、この国で隠し通すことは難しい。学園長や倉本家の力をもってしても、これが限界なのだ。
家族とも会わず、人里から離れた場所でひっそりと……これからの人生を過ごすことになる。
表向きは療養という形ではあるが。
だがそれは、アイドルという道を断つことであり、葛城リーリヤという少女の生きるための道を壊すことになる。それを以て紫雲清夏を始め数人のアイドルの人生を奪ったことへの贖いになる。一生外すことのできない十字架だ。
本来であれば、一生涯を精神病棟にて終える筈だったのだ。それがここまで抑えられたのは、ひとえに学園の献身のお陰だろう。
「どんな罪滅ぼしでも怖くありません。センパイと一緒です。それに、清夏ちゃんも見ていてくれるから」
リーリヤさんがアイドルを続けられない理由があった。
足が、動かなくなったのだ。精神的な負荷が、肉体にも及んで……車椅子で介助がなければならなくなった。
それが葛城リーリヤという少女の犯した行為に対する代償なのだった。 - 66◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 00:40:39
【side 篠澤広】
――研究リポート。
『紫雲清夏』を名乗っていた生命体――簡単のためXと呼称する――は私が引き取ることになった。当然、公表はできない。
隠し通す。それが私とリーリヤ、そのPとの約束だ。
勿論、人を食べるのはやめさせなければいけない。だから、色々と試した。まずは人間と同じ栄養素の食べ物を作った。ときには咲季のSSDも参考にした。
すると、人を襲うといった行動はなくなった。
それにちょっとずつだけど、意思疎通ができることになった。もう少しすれば、ある程度の会話はできるようになると思われる。
レポートっぽくはないけど、私個人の考えとしては……大丈夫だという確信がある。
彼女は紫雲清夏の記憶に触れて、葛城リーリヤに寄り添った。だから、時間はかかってでもわかりあえるはず。
もしかしたら、本当は侵略生物だったりして?
私がもし襲われたら、すぐ負けちゃう。
ままならないね。
でも、そうはならない。優しさと愛が、あるからね。 - 67◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 00:41:57
――20〇〇年8月×日。
センパイと私の故郷に引っ越して、結構な時間が経過してようやく生活にも慣れてきた。
車椅子の生活は慣れないけど、センパイが優しく助けてくれるから生活ができている。
家の周りは何もない。
草原が広がって、果てしない空が広がるばかり。たまに、初星学園にいた頃を思い出す。
ここには帰りに寄るようなゲームセンターもないし、メイドカフェも、アニメショップもない。
……でも、センパイがいてくれる。
それだけで、とっても嬉しいんだ。 - 68◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 00:42:57
――20〇〇年8月〇日。
私とセンパイの関係って、何なのだろうって考えてしまう。
あのとき以降、私のことを下の名前で呼んでくれる。色々起きる前に、その、センパイとえっちなこととか……してはいる。うん、してはいるけど、もう一回したい、なんて私の口では言えない。
それに今は私の体は不自由だ。ただでさえ普段から迷惑かけてるのに、更に我儘なんて言えないよ。
私はセンパイが大好きで、一緒にいることができる。
それだけで十分だよね。 - 69◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 00:44:30
- 70◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 00:46:42
【side 葛城リーリヤ】
日記を書き終えて万年筆を置くと、ごとん、と音がした。
「……勝手にいなくなったら、広ちゃん驚くんじゃないかな?」
私がそういうと、スマホに通知が入る。メッセンジャーに、文字化けした番号から、メッセージが届いた。
なんでメッセージなんだろう?
『あたしの声、今変に聞こえちゃうから』
そう返ってくると、私は小さく笑う。清夏ちゃん、相変わらず恥ずかしがりやさんだ。
『リーリヤの記憶の中の、あたしでいたいから』
わかっている、もう以前の状態じゃないってことも。でも、それでも構わないのに。
音はない。だけど、清夏ちゃんの喜怒哀楽はわかるよ。
少し笑って、そして涙を流している。いっぱい話したいのに、せっかくの機会なのに……何も言えないや。
気付けば私も、清夏ちゃんも泣いていた。だけど、それでも、これでいいんだって。
「もしも気が変わったら、私はずっとここにいるから。いつでも来ていいからね」
『うん、ありがとう。さようなら、リーリヤ』
いつか再会できるかもしれないし、そうでないかもしれない。
だけど私とセンパイはここにいるよ。
いつまでも清夏ちゃんの声を、面影を、笑った姿を――私は忘れないよ。 - 71◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 00:48:48
- 72◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 00:52:17
- 73二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 00:52:47
開花エンド...見たいです!
- 74二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 00:54:09
ただひたすらに乙。
名作だった。
開花エンドも書いていいんだよ? - 75◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 01:04:21
もろもろ後語りをば……
今回のエンドは「病院エンド」をリーリヤ向きに再解釈したものでした。
いやはや、グールと違って死者少なくてやりやすかった()
どっちでも広が生き残ってたのが奇跡的でしたね、そうでなければ書けませんでした。
甘いエンドかもしれないけど、それでもリーリヤが最推しだから、ね……?
あと最期の車椅子は、「しゅみたんの裏垢」エンドの意匠返しになります。
開花エンドはぼちぼちと書いていきます!明日になって落ちれなければここに投げますね - 76◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 01:33:17
以下、開花エンドです。
◇
食べていたものを戻しそうになるのを必死にこらえる。すぐにでも発狂してしまいそうな風景であるが――辛うじて正気を保てているのは、葛城さんがすぐそばにいてくれるからに他ならない。
『もう、Pっち、なんで来ちゃうかな……』
そして後ろには、ちゃんとさよならさえも言えなかった清夏さんの姿があった。
「清夏、さん……」
「センパイ、私と清夏ちゃんの三人で生きましょう……? こんな世界でも、三人でいれれば怖いものはなにもありません。もう、離れ離れになるのは嫌なんです」
俺の胸に顔を埋め、涙を流す。
葛城さんが、完全に発狂せずにここまでこれたのは間違いなく清夏さんの存在と、俺がいるという唯一残った事実のおかげだ。彼女が、彼女のままでいられたのはそんなか細い可能性の線が、途切れずに残っていたからだ。
それは俺にとっても同じだった。ここで全てを明かして、それを自らの手で壊していいのか?
葛城さんがいて、清夏さんが……元の日常に、戻るんだから。
俺は、葛城さんに真実を――。 - 77◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 01:40:19
【side 篠澤広】
光が――舞台より溢れた。
私は佑芽と咲季の速さについていけずに、結果として遅れてしまったけれど、ようやく合流できた。
だけど、遅かったかな?
「やほ、手毬に美鈴」
「なんで、ぽんこつまで……」
「なにやら大変なことになってしまいましたね」
青白い光、これはチェレンコフ光? いいや、それにしては人体に何も影響がなさすぎる。ただ、あの場所にいるのは――リーリヤと、Pとそして……清夏。
「に、逃げようよぉ」
「ちょっと手毬!抱き着かないでよ!いったいどこに逃げるって言うのよ!まったく、なにやってんのよ~!」
そう、今更逃げられない。車はだいぶ先にあるし、恐らくその浸食の速度はすさまじく、世界なんてあっという間に飲み干してしまう。
「お、お姉ちゃん! 観て!」
「なによあれ……花?」
舞台の硝子を突き破るように……白色とオレンジの花弁が、建物ごと飲み込む様に拡がっていく。それが一斉に種子をバラまき、風に乗っていくのだ。
初星学園など、天川町などあっという間に飲まれる。だけど何故だろう。
この学園と町だけは――他よりもマシな気がする。 - 78◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 01:47:23
【side 学P】
「センパイ……?」
「もう離しません」
心は既に限界だった。
一度目は清夏さんを失った時。二度目は葛城さんさえも、いなくなりかけたとき。
心は虚無となった。
契約も切れずにいたのは、唯一残された繋がりを残すためだったのではないか……今ならわかる気がする。
「リーリヤと、呼んでください」
「はい、リーリヤさん」
深く、永い抱擁だった。体を抱きしめるのをやめると、今度こそリーリヤさんさえも光となって消えて行ってしまうような……。
『もう、リーリヤもPっちも熱々すぎて妬けちゃうよ~』
「も、もう、清夏ちゃん! 茶化さないでよっ!もともと清夏ちゃんが取ろうとしたんだから!」
『あはは~、ごめんって。知らなかったんだよぉ~、今度からは三人でいつまでも一緒だよ』
そう、真実は毒なのだ。確かに、向き合う必要もあるが、正しい事でさえも体を蝕むのだ。どうして幸せそうに笑う二人に伝えられようか。
いいんだ、これでいい。ただ、もう誰も苦しまずにいれるなら……それで。 - 79◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 01:54:15
「わぁ、清夏ちゃんすごい! 衣装が変わっていくよ!」
『えへへ、とっておきなんだ』
清夏さんの髪型がポニーテールへと変わり、新たな衣装に変わっていく。そして彼女の背からは翼の様に、花が咲き誇り始める。
そうか、これは……進化なんだ。
H.I.Fの舞台に二人一緒に立ち、あの日の約束を果たすことでようやく完成するんだ。
「聞いてください、センパイ」『あたしとリーリヤのとっておきの唄』
――ときめきエモーション。
それは初めて聴く曲だった。だけど、これ以上ない二人だけの曲。
光が辺りを包みはじめ、花弁が拡がっていく。その中心にあるのは、俺とリーリヤさんに清夏さん。
喜びも、嬉し涙も、全部全部含んだ優しく温かい光。そして花弁が分裂し、光と共に二人の唄が拡がっていく。
「センパイ見てください! あんなに怖かった世界が、とてもきれいに変わっていきます!」
直観で理解した。世界が、新しくなるんだ。三人が傷つかない、優しい、そんな世界に。
「これで、ずぅっとずぅっと……一緒です!」
ええ、もう何があっても……それだけは、ずっと――。 - 80◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 02:01:17
【side 篠澤広】
一カ月ほどの時間が流れた。
比喩でもなく、何でもなく世界が変わってしまった。
ただ一つ、初星学園という“特異点”を除いて。
端的に言えば、肉塊の世界となり……美醜が反転した。正気を失いかねない、異常な形状をしていた生命体と人間が同化し、何らかの変調をきたしている。
何故、初星学園だけ比較的“変調”が穏やかなのか、それはきっとリーリヤと清夏、Pにとっても大切な場所だから。
「うん、大丈夫。腫瘍はそこまで大きくないよ、それ以外に苦しい所はない?」
「大丈夫ですわ。篠澤さん、休まれていますか?」
「休んでるよ」
とはいえ、緩やかに……だが確実にこの安全地帯と呼べる場所にも同化が起こり始めている。指が増えたり、本来ない部位が生えてきたり、人により色々だ。
千奈は、主に脚部に腫瘍ができはじめ、ゆっくりとだが異形になり始めている。
本人が言うには「前より速く走れるようになりましたの!」と言ってはいるけれど。 - 81◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 02:10:00
変わらないでいようとする人もいれば、変わろうとする人もいる。
「収穫の時間よ! 今日も収穫量で勝負なさい!」
「あ、お姉ちゃん、待ってよぉ~!」
皮肉なものに、世界は変わる以前よりも自然が豊かになり、異形が跋扈していることを除けば作物の生育も著しく早くなり――リーリヤと仲の良かった私たちが食いつなぐ程度には食事が事足りている。咲季と佑芽に感謝だ、ね。
……誰もがこんなに明るい訳ではない。
ことねは、顔に変異が始まってからは部屋から出てこなくなった。それだけでなく、家族との連絡が取れないことで早い段階でことねは焦燥していたのもあった。
星南や莉波が献身的に様子を見て、食事などの面倒を見ているから大事には至っていない。だけど二人にも変異が起こっていて、いつ正気を失うかはわからない。
麻央や燕は、定期的敷地外に出て食材や生存者を探しに出ている。前者はまだしも、後者は絶望的。
それに、やはり初星学園は安置な意味合いもあって、外に出ている時間が長ければ長い程……変異も加速している。時間は限られている。 - 82◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 02:15:47
たぶん、一番見てて辛いのは手毬と美鈴。
二人はこの敷地内にいる時間が限りなく少ない。
かつてのユニットメンバーである賀陽燐羽の行方を捜索している。元々初星学園の生徒だったけど、極月に移動してしまってたため消息が不明となってしまった。
日に日に二人の表情から笑顔が消えた。美鈴も、ほとんど寝ていない。
私?
私は博士が遺した暗号に近い研究記録を日本語や英語を始めとした主要な言語で翻訳し、編纂した。
既に正気を失った状態で書かれた文書も多く、解読に苦労したけれど他の皆の様子を見る以外にやることはない。
それも一カ月すれば、全部終わった。
もし私たちの全員が正気じゃなくなった後に誰かが見つけてくれることを願っている。
私は皆の中で一番変位が少ない、けれど、どうしてだろう。
最近は、何故か……今までよりも頭が回らなくなっている。気のせいだろうか?
ともかく……編纂が、間に合って本当に……よかった。
ままならないね。本当に。 - 83◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 02:18:35
〇月×日
今日は本当にうれしい日でした。
なんと私と清夏ちゃんで挑んでいたH.I.Fに優勝することができました!
大変だったけど、嬉しいです。
舞台裏に戻るとセンパイは私と清夏ちゃんを抱きしめてくれました。
そして、愛してる……と言ってくれたんです。
嬉しくって、恥ずかしくって……でもこれ以上にない幸せでいっぱいです。
ありがとう、清夏ちゃん、ずっと私の親友でいてくれて。
ありがとう、センパイ、ずっと私を信じて、好きでいてくれて。 - 84◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 02:19:55
はい、というわけで『開花エンド』でした!
とんでもないメリバですね、りりやとしゅみたん、P以外は普通にバッドですが……
これにて本当に完結です。
読んでいただきありがとうございました!
可能な限り落ちるまで質問やリクエスト等に答えれたらな、と思います。
あと、『沙耶の唄』名作だからやってね! - 85◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 02:22:48
次はなんか普通のリーリヤと清夏とセンパイのイチャラブ書きたいですね!
『開花エンド』はかなり急いで書いた書きなぐりですが、よければ……! - 86二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 02:24:36
よければ初星アイドル達の末路を...!
- 87二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 02:25:34
まさか令和に、まさか学マスで、沙耶の唄の名前を目にするとは。
残しときゃ良かったなぁ、またやりたくても高くて手が出せねーや。 - 88◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 02:30:37
- 89二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 02:34:16
あ、そうか今ならDL版があるんか
パケ版しか頭にないのは悪い癖やね。 - 90◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 02:35:14
一応書いときますか、箇条書きですが……
・花海姉妹
精神が強いため、皆の中では比較的に進行は遅め。
咲季と佑芽はほぼ同時に正気を失い、異形化する。異形化後も一緒にいることが多い。
・ことね、会長
ことねは精神的にまいってるのもあって早いうちに発狂。会長に襲いかかるが会長は決して拒絶せず、最後までことねを看取って自分も異形に。
・莉波、麻央、燕
麻央・燕は敷地外に出ている回数も多かったため、早い段階で正気を失い始める。
莉波は最後まで献身的に二人を看病するも、二人は勿論のこと好きだった人が消えていく中でゆっくりと異形に。
・手毬、美鈴
たぶん一番悲惨。何度目かの捜索以降、そもそも敷地に戻らなくなっている。二人で助け合ったが、最終的には異形になってしまっている。燐羽とは……は想像にお任せします。 - 91◆je8PYTqP5Ydc25/07/02(水) 02:37:36
・千奈、広
千奈も比較的元気に振舞ってたが生徒会メンバーや仲良しの子らが倒れていく中で次第に焦燥。でも最後まで泣かずに皆の傍にいつづけた。
広は次第に脳の衰えが顕著になり、可能な限り自分の記憶と知識を紙に遺していくが最終的には正気を失う。皮肉なことに異形になった後の方が体は丈夫になった。
以上ですかね?