もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart24

  • 1二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 22:52:53

    アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの24スレ目です。

    精神的な落ち込みこそあれでもアグネスの身体は順調に回復中です。そんな折に舞い込んだ国防委員会の命令―。

    彼女の家でもあるミネルバは、短い休息を終えてアプリリウス宇宙港から錨を引き上がようとしています。

    遠征の目的地はカスピ海の辺、ガルナハンとファウンデーション王国王都イシュタリア。

    与えられた任務は要人護送、対ファウンデーション王国軍事支援物資(ゲイツR)並びにガルナハン市に建設中の新型火力発電所部品の輸送―。

    プラント・友好諸国間の新条約締結が成るかどうかは彼らの双肩にかかっています。

    帰路はファウンデーション王国に滞留中のコーディネイター難民そして同行を希望するナチュラル親族難民の輸送。多くの期待と不安を背負った航海が始まります。

    一方、ロード・ジブリール率いるロゴスは勢力を急速に減退しつつも世界への影響力をなおも保持しています。
    プラントと地球連合の戦争も未だ収束は見通せません。ヘブンズベース司令部やスエズ基地は健在、パナマ基地からは地球連合宇宙軍が宙に上がっています。

    燻り燃え続ける戦火にアグネスとミネルバの戦友達は如何に対峙するべきなのでしょうか?

    おつきあいをいただければ。

  • 2二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 23:01:35

    前スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart23|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの23スレ目です。アグネスは、傷の快癒前から…bbs.animanch.com

    1スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たら|あにまん掲示板アグネスが士官学校卒業ザフトアカデミー、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSを書く予定です。お付き合い頂ければ。bbs.animanch.com

    2スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart2|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。はたして、アグネスは、ルナマ…bbs.animanch.com

    3スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart3|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。己を取り巻く不可解な状況に四…bbs.animanch.com

    4スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart4|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバとアグネスはその進撃…bbs.animanch.com
  • 3二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 23:06:02

    5スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart5|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバの活躍は起こるはずだ…bbs.animanch.com

    6スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com

    ※落としてしまった7スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。出世の点数稼ぎの場として『戦…bbs.animanch.com

    再建てされた7スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7(再立)|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。※不注意から一度スレを落とし…bbs.animanch.com

    8スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart8|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの8スレ目です。戦いに消耗したアグネスとミネ…bbs.animanch.com
  • 4二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 23:09:02

    9スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart9|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの9スレ目です。C.E.73年- C.E.7…bbs.animanch.com

    10スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart10|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの10スレ目です。遂に開始される『ロゴスとの…bbs.animanch.com

    11スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart11|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。『対ロゴス戦』は本編とはや…bbs.animanch.com

    12スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart12|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。対ロゴス戦争が変え行く世界…bbs.animanch.com

    13スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart13|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの13スレ目です。本編を上回るほどの規模とな…bbs.animanch.com
  • 5二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 23:12:04

    14スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart14|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの14スレ目です。激しい戦いの後、戦女神と大…bbs.animanch.com

    15スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart15|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの15スレ目です。アークエンジェル問題を何と…bbs.animanch.com

    16スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart16|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの16スレ目です。アグネスは目の前で次々と発…bbs.animanch.com

    17スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart17|あにまん掲示板北限の海で繰り広げられる戦い。この世界のアークエンジェルを巡る戦いは一つの帰結を迎えようとしています。アーモリーワンから戦い抜いて来たミネルバ、世間は『彼女』を武勲艦と持ち上げ、事実そうなのではありま…bbs.animanch.com

    18スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart18|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの18スレ目です。アグネスはひょんな成り行き…bbs.animanch.com
  • 6二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 23:16:50

    19スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart19|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの19スレ目です。アグネス・ギーベンラートが…bbs.animanch.com

    落としてしまった20スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの20スレ目です。一夜の間に繰り広げられるプ…bbs.animanch.com

    再建てした20スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20(再建て)|あにまん掲示板※落ちてしまっていたので建て直しました。書き込んでくださった方、申し訳ありません。もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、…bbs.animanch.com

    21スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart21|あにまん掲示板もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart21アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、と…bbs.animanch.com

    22スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart22|あにまん掲示板もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart22アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、と…bbs.animanch.com
  • 7二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 23:19:41

    いつも楽しく読ませてもらってます
    ありがとう!

  • 8二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 03:41:10

    幸先よく病室を後にする。

    看護師「アグネスさん、絶好調ですね」
    アグネス「はい?」

    看護師さんはニコニコ微笑んでいる。彼女から見てそうなら、きっと私は元気なのだろう。厄介な公務とデスクワークを終えて確かに気分は上々ね。

    看護師「でも調子に乗り過ぎちゃダメですよ。検査の時だけ元気な患者さんも多いんです」
    アグネス「まんま私ですね…。気を付けます」

    ただし絶好調状態は最初のうちだけ。バイタルチェックに血液検査、音波にMRI等々。病院内を盥回しでグルグル―。

    アグネス「(目が回る…。おやつで補ったエネルギーは作業後半で蒸発していたわ…)」

    でも、病院スタッフの皆さんにご挨拶とお礼をお伝して回れて良かった。もし今日遠征に発つなら、これが最後の機会になるかも知れない。

    彼方も事情を知っているのだろう。何時にも増して気合が籠った調べようだった。

    アグネス「(本当にお世話になりました…)」

    その後は部屋に戻って昼食、検査結果を受けた遠征参加の可否ご判断は食後になるとの事。

    看護師「今日はカレーライスです。ビーフカレー、インドって言うより日本料理ですね」
    アグネス「ほぉー」

    お米にカレースープが掛かっている。カレー味の合成医療食品が正しいのだが、まあそれは良い。コメの品種はジャポニカ米みたい。

    アグネス「(そうかビーフカレー。正しく日本料理ね。インド系の方はあんまり牛肉食べないイメージがあるし)」

  • 9二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 03:46:54

    日本食は身体に良いと西暦末期から有名だ。

    アグネス「いただきます。こういう種類のカレーは初めてかも」
    看護師「そうなんですか?きっとお口に会いますよ」
    アグネス「はい」

    もしゃもしゃ、ああ、美味しい。シンの顔が浮かんで癪だけど、日本食美味しい。これを機に色々食べたい。

    そこまで考えてハタと気が付く。

    そうか―。

    『平和を希求する』とはこういうことなのね。好きな物を好きな時に食べられること、夜は安全にぐっすり眠れること。【復讐の連鎖が云々】とか高尚なものとは限らない。それはそれで大事だが、もっとずっと身近なものなんだ。

    アグネス「(殺伐とした世界にどっぷり浸かって忘れていたわ。私は戦争終結後も将官級に出世するまでザフト軍に残るつもり。艦上勤務は平時でも大変。それはそうなのだけれど―でも今の気づきは大事にしたいわ)」

    昼食が終わると少しの時間が空く。
    もうお仕事はたくさんなので目を瞑ってうつらうつら過ごすことにする―。

    ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!

    気が着くと2時間ぐらい経っていた。エルスマン博士と女性主治医が診察にいらしている!

    タッド・エルスマン「失礼する。良いかな?」 女性主治医「失礼します」
    アグネス「どうぞ。お待たせしました。申し訳ありません」
    タッド・エルスマン「気にしなくて良い。むしろ休めていて何よりだ。さて、早速だが―」

    エルスマン博士曰く検査結果は良好、身体はもりもり回復しているとのこと。

  • 10二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 04:22:13

    タッド・エルスマン「もう左足は問題なく上げられるだろう?」
    アグネス「はい」

    腰掛けた状態から左足を優し目に蹴り上げる。その動作を5、6回お見せする。

    タッド・エルスマン「今朝はできなかったろうが…。おそらく左足首を回せるようになっていると思う。少し痛いだろうが、軽めにゆっくりやってみてくれ」
    アグネス「はい」

    言われた通りに左足首を軽く回し始める。激痛が走り一瞬、眼球の裏が真っ赤に染まる。

    アグネス「痛ッ…」

    痛いだけだ。ぐるっと足首は回って元の位置に戻る。

    看護師「やった!偉い!」
    タッド・エルスマン「ふむ…。この分なら」

    その後、右足の調子も確認する。足先をちょこちょこ、右下腿も若干は前後に動くようになって来た。

    タッド・エルスマン「よろしい。特務隊アグネス・ギーベンラート、本日夕刻より始まるミネルバ遠征任務への参加を許可しようと思う。先生、よろしいですか?」
    女性主治医「ええ。適切なサポートの下なら任務に従事できるものと診断します」

    病室内に緊張が走る。いよいよか。
    この診断が何を意味するか、博士と主治医、控えてくれている看護師さんはご存知だ。

    タッド・エルスマン「さて、そうと決まったのなら。私も準備を終えねば」

    エルスマン博士は主治医と看護師さんに視線を振る。お二人は力強く頷かれているが、私は話に付いて行けない。

  • 11二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 04:34:55

    アグネス「準備と言いますと?」
    タッド・エルスマン「『我々は君に責任を持つ』。私もミネルバに乗艦する」
    アグネス「えっ…」

    博士の思いもかけないお言葉に目が点になってしまう。

    はたして私の為にそこまでしてもらって良いものか?国防委員会からの依頼で断れなかったのか。
    エルスマン博士ほどのお方にはもっと別のお役目が相応しいはず…

    アグネス「誠にありがたいお話しではありますが…」

    丁重にお断りしようする私を博士は軽く制し、続きをお話し下さる。

    タッド・エルスマン「私の乗艦は第一に君の身体に対する責任に基づくものではある。だが目的はそれのみに止まるものでは無い。現地で策定された難民の乗艦予定者リストを確認した。ナチュラルの親族難民に難病罹患者や障碍者が散見される。重傷病者も」

    そうなの?よく逃避行できたわね。

    アグネス「(違うか。難病や障碍がある親族だからこそ国元に残せなかった。あるいは厳しい難民生活を送るうちに病変が顕在化したり身体を壊した方もいらっしゃるはず…)」

    戦時下にそうした重病傷者・障碍者を抱え込むのは国益に反するかも知れない。しかし同胞の難民のご家族・ご親族を選別して見捨てるのも違う。とは言え、彼らは未だ帰化前の外国人だ。

    アグネス「(難民として受け入れた後ならともかく。受け入れ前の段階ならプラントは彼らに義務を負ってはいない…。いや、どうだろう?)」

    地上コーディネイターを国外の民族同胞と捉えるなら。その家族・親族の扱いは。うーん。私はプラント国籍法・市民権法の専門家ではない。手に余る。

    アグネス「(しかし我が国は難民を最終的に受け入れる約束で彼らをファウンデーション王国に引き受けてもらった。既にある種の政治的・外交的義務は生じている。難民の中にはその約束を信じて当地まで辿り着いた人もいるはず)」

    結局の所、現実的には政治的判断になるのだろう―。我が国は人道に適った道を選んだようだ。

    女性主治医「だから私達はDMATみたいなものです。この病院の医療事務員も合わせてミネルバに。プラントの人道主義が本物か世界が見ています。あとアグネスさんもまだ重傷者カウントですから、お忘れなく」

  • 12二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 12:06:54

    保守

  • 13二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 12:10:40

    ただファウンデーションはがっつりスラム街が存在してたような国なんで
    人道面を重視するこのフェーズだと此処との提携は若干不穏な空気が漂ってるような...
    流石に預かり難民相手には酷いことはしないと信じたいけど

  • 14二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 16:28:10

    >>13

    事前にDPで切り捨てる準備や安楽死を進める準備も裏でやってそう

  • 15二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 21:47:42

    >>14

    プラントの重要人物が来てる前で変なことはせんやろ…

    せんよな?

    (なおブラックナイツ)

  • 16二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 04:10:01

    保守

  • 17二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 04:19:21

    彼女の使命感の籠った眼差しは今の私にとって灯台の光のようなもの。せっかく歴史的な任務に参加できるのだ、と思ってテンションを上げて行こう。

    タッド・エルスマン「私の下にも国防委員会とグラディス提督から正式な依頼が届いたよ。医療用コンテナと医療物資の積み込みを進めている」

    なるほど、私が寝ている間に準備は着々と進んでいたみたい。展開の速さに圧倒されそう。事前調整は有ったのだろうけれど、それでも動乱の時代に相応しいスピード感だわ。

    アグネス「(それなら私がどうこう言う問題ではない。でも―)」

    それはそうとて、私にはこの場で言うべきことがある。顔と体の向きを調整してお三方一人一人と視線を合わせる。

    アグネス「(真正面から見ると、エルスマン博士、ディアッカ先輩と面立ちも目の輝きもそっくりだわ。今日まで特に意識していなかった…)」

    背筋を真っすぐ伸ばしてしっかりお伝えしよう。

    アグネス「エルスマン博士、先生、看護師さん。本当に心強く思います。改めまして、今日までありがとうございました。遠征中、どうかよろしくお願いします」
    タッド・エルスマン「こちらこそ。道中共に助け合おう」 女性主治医「ええ。ご一緒に」 
    看護師「頑張りましょう!」

    畏まってお礼を述べる私にお三方は誠実な態度で応じて下さる。
    良し!気合が入って来たぞ。3人をお見送りしたら私も退院準備を始めよう。

    うん?あれ?博士が遠征にご同行するなら―。

    アグネス「レイは―」

    戸惑う私にエルスマン博士はそっと告げる。

    タッド・エルスマン「レイはファブラリウス市の病院に戻る。病院は副院長の指導の下、正常に機能している。私も通信状況を確認しながらリモート診療を続ける」

  • 18二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 04:45:20

    そこは心配していない。レイの話から彼方の病院も素晴らしい所である事は知っている。

    それでも一抹の不安が心を過ぎる。彼を一人残して本当に大丈夫か?

    アグネス「(何を馬鹿な…私はあいつの母親では無い。それに何より、レイは独りぼっちではない。ミネルバの仲間だけじゃない。今は病院スタッフにニューファンドランド犬もいる。もしかしたら患者友達もできたかも知れない)」

    周囲も彼を放っては置かないだろう。直ぐにブスっとした顔をする癖に濃厚に漂わせている『かまってちゃんオーラ』、きっといろいろな人が彼の力になってくれる。

    そしてレイはそのありがたさが分からない人間はない、と私は思う。

    アグネス「分かりました。もし叶うなら元の病院の方に『戦友をよろしくお頼みします』とお伝え願いませんか?」
    タッド・エルスマン「必ず伝えておこう。彼は出発前に君と話したいと言っている。会ってやってくれるか?」
    アグネス「勿論!直ぐにでも」

    思えば、この病院で目覚めて直ぐも同じ遣り取りをした。今日も返事も同じだわ。

    タッド・エルスマン「ありがとう」 

    診察終了と同時に制服に着替える。やはりスカートは未だ上手く履けないので看護師さんにお手伝いしてもらう。

    ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!

    レイ「入っても良いか?」

    ちょうど着替え終わったタイミングでインターホン画面にレイの小憎らしい顔が映る。

    アグネス「どうぞ!」
    レイ「失礼する」

    自動扉から現れる彼の顔色を確認する。健康状態は悪化していないようだわ。誤魔化しているなら自己責任だ。

  • 19二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 04:47:51

    看護師「じゃあ、私はちょっと席を外しますね」
    アグネス「すみません」 レイ「ありがとうございます」

    看護師さんは気を利かせて退出し部屋には私とレイ二人きりとなる。

    アグネス「(しまったわ…。何話そう?)」

    こいつと私の間の話題は本当に少ない。仕事の話題にこの前は犬の話題―。

    思えば異性の同僚・同期ならそんなもの、人当たりの良いルナマリアやメイリンが凄いだけと言えなくもない。

    レイ「忙しい所に悪いな」
    アグネス「いいえ。退院前に顔を見たいと思っていた。エルスマン博士を取るみたいで悪いわね。治療に差し支えはないと仰っていたけれど…」
    レイ「俺の事は気にするな。博士もお前も大事な任務だ」

    急に頭に血が上る。まだそんなことを言うのか!レイの両目を全力で睨みつけ言葉を叩きつける。

    アグネス「気にするわよ!私も周囲の人も。気にしていないのはあんただけ!こっちが馬鹿みたいじゃない!」
    レイ「…」

    突然の私の言葉にレイは驚いた表情を浮かべている。しまった…

    アグネス「(いけない…。どうして私は優しく言えないのか。レイもそんな意味で言った訳じゃないと分かるのに)」

    図星だったのだ。自分のせいでレイの治療に影響が出るかもしれないと罪悪感があった。同期の仲間達とのコミュニケーションは失敗続きだ。これではアカデミーの頃と変わらない。

    アグネス「ごめん。私が言いたかったのは―。要は『あんたは自分を大事にしなさい』ってこと。自分がそう言う柄じゃないって分かっているけれど…」

    頭の中がぐしゃぐしゃする。どうも距離感が分からない。レイだけじゃない。

  • 20二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 05:03:39

    『人は上か下か、自分は上に昇らないといけない』。私の人生は産まれた時からそればかりだった。他人に優位に立つ事しか考えないから対等な人間関係をきちんと築けない。

    そうした振舞いが体にも心にも染みついている。成人して早2年。誰のせいにもできない―。

    レイ「ありがとう。もう病院を脱走して皆に迷惑や心配を掛けたりしない。約束する」

    此方の気を知ってか知らずか、レイは神妙な顔でまた一つ私に約束を寄こす。

    アグネス「怒らないの?」  レイ「気にする人間だったか?」
    アグネス「『士別れて三日なれば、即ち更に刮目して見よ』!あとその約束は私以外のあんたの友人知人にも適用ね」

    私はこの遠征で死ぬこともあり得る。プラントには家族も縁者もいる。私の死後に馬鹿な真似をされては敵わない。

    レイ「分かった…。士別れて三日か―。お前から見て俺は変わったか?」

    なに?気持ち悪いことを聞いてくるわね。あんた周囲に壁を造っていたでしょ。私が知る訳無いわ!

    アグネス「うーん、元のあんたが良く分からないけど…。ちょっとは自分で物事を考えるようになったんじゃない?」

    『元のレイ』が何も考えていなかった訳では無いと思う。でも早老症(クローン故と誤解)のせいで意固地になっていた感は否めない。治療を受け改めて自分の命と向き合うと、何かしら思うことは有るのかも知れない。

    レイ「自分で考えるようにか。ああ、分かった!」  アグネス「分かったなら…良し?」

    ともあれ用件は済んだわ。レイがミネルバの遠征中にちゃんと養生しているなら問題ない。一安心だ。

    アグネス「積もる話は今度の機会にしない?私、退院準備が有るから…」

    私が話を切り上げようとした瞬間、レイの口から鋭い警句が飛び出す。

    レイ「ファウンデーション王国に気を付けろ!ブラックナイツにも気を許すな」 

  • 21二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 06:34:32

    でもDP向きの性格なんだよね

  • 22二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 09:55:45

    >>21

    個人的にはDPに向いてるかもしれんけど

    今のアグネスだとDPの施行された世界になれば、その世界でパイを取り合い夥しい人をひたすら自身が蹴落とし

    これ迄の戦線でコーディ・ナチュラル問わずアグネスがお世話になった人達がDPで職にあぶれて悲惨な末路を迎えるかもしれない

    (全て生まれ持った遺伝子で判断されるからアグネスにはどうする事も出来ない)

    ……諸々の日々を送るはめになるから遅かれ早かれ何処かで精神的に病んでって事も…

  • 23二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 16:27:54

    保守

  • 24二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 22:48:44

    保守

  • 25二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 01:26:22

    アグネス「急に何?ファウンデーション王国の事は元から警戒している。オルフェ宰相もブラックナイツも油断ならない相手だと理解しているわよ?」
    レイ「そう言う意味ではない…。いや…そう言う意味ではあるが…」

    どうも要領を得ない。レイは何を言いたいのか?

    彼の切羽詰まった顔を見るに精一杯の誠意は感じるのだが―。

    アグネス「何か話してくれるの?無理にとは言わない。ともあれありがとうね」
    レイ「…」

    僅かな逡巡の後、言葉を選びながら続きを話してくれる。

    レイ「アウラ女帝達は建国前から議長を盟友視している。現プラント政権に対しては面従腹背のはずだ。この遠征を妨害するメリットは彼女らに無いと思う。だが油断するな」

    レイの声は動揺で震え瞳の光は揺れている。
    本当に養父を裏切らずに済むギリギリのラインで私に警告してくれているのだ。

    アグネス「ありがとう。ブラックナイツについては?話せたら話して」

    彼の瞳をしっかり見詰め、決して急かしたりしないよう気を付ける。

    レイ「彼らは『全てにおいて卓越した能力を示し、他者と完全に融和できる個体』を目指して造られたコーディネイター。心理的洞察力・操作力が尋常ではないと聞く。心の弱みに付け込まれないよう気を付けろ」

    今度はあっさり話してくれた。『議長』の単語の有無でこうも違うとは!

    しかし―、ふむふむ、なるほど?
    スーパーコーディネイターのようなものか。それも優秀な遺伝子の粋を極めて造られた―。

    アグネス「つまり彼ら7人はキラ・ヤマト氏に近い存在?」
    レイ「それは…」

  • 26二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 01:36:53

    そこまで話してレイは口を閉ざしてしまう。今、彼に話せる限界はここまでなのだろう。或いはそれ以上の事は知らないのかも。

    アグネス「改めてありがとう。この情報だけど、グラディス提督達と共有して良い?」
    レイ「構わない。皆の事を頼む」

    そう言って軽く頭を下げるものだから驚いてしまう。レイから『頼む』と言われる日が来ようとは思わなかったわ。

    レイ「本当は俺も同行したかった…。皆が心配だ。ファウンデーション王国の事も見極めたかった。彼らの国と社会の在り様を…」
    アグネス「いや、無理だから。あんたの病気の事はさて置くとしても、ガルナハンでは重要な国際会議が控えている。政府要人も複数名ご乗艦される―」

    『国内の統合と包摂の為、政治的敗者には寛容であるべき』だが限度もある。今回ばかりは艦内に政治リスクのある人間の居場所は存在しない。

    レイ「ああ…。分かっている」

    曇った顔のレイの顔を見ると流石に可哀想になる。貴重な(?)情報も教えてくれた。一応、フォローしておくか。

    アグネス「武器供与と難民護送は何往復か必要だろうから…。要人無しの2度目以降に医師同伴なら或いは。何を見極めたいのか知らないけれど、それまでしっかり養生しなさい」

    良し。今度は優しく言えたわ。私偉い!しょぼくれ顔だったレイの表情も大分ましになったわ。

    レイ「ああ…。ありがとう。どうか武運長久を」
    アグネス「あんたも堅固で。帰ったら病院に顔を出す」
    レイ「別に出さなくて良い。俺から訪ねる。これで死亡フラグは折れたな」

    上手いことを言うようになったじゃない。感心感心。

    アグネス「ありがとう。助かったわ」

    病室を出るタイミングでお互いビシッと敬礼を交わし、レイを見送る。こういうの良いわね。

  • 27二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 01:45:28

    アグネス「(それにしてもブラックナイツ…。聞いた感じだと身体能力抜群で頭脳明晰な最高級コーディネイターと言った所か。でも心理的洞察力・操作力―心の隙を突く。うーむ)」

    ちょっと漠然としている。メンタリストってことかな。
    レイも伝聞でしか彼らの能力を知らないようだったから何とも云いかねるが―。

    アグネス「(私も彼らがコーディネイターである事までは予想していた。しかし七人揃ってキラ・ヤマト級の人材ならば話は別。将来的にはプラントにとって脅威になるかも知れない)」

    ミネルバに着いたらグラディス提督とトライン副長に可及的速やかにお伝えしよう。

    『不確実な事を言うな』と怒られるかもしれない。でもリスクは散らすに限る。抱え込んだら自爆する。

    レイのもう一つの警告についても考える。『心の隙を突かれるな』

    アグネス「(私の心の隙か。いろいろ有り過ぎるわ。うーん、省みるに自己肯定感に問題があるかも。戦場の体験は間違いなくマイナス。後は…)」

    自己分析は一筋縄には出来ない。考え出したらキリが無い。
    『自己肯定感に問題があるかもしれない』、『戦場の体験がマイナスになっているかも知れない』。

    この二つ思いついたのなら上々だ。残りはミネルバに着いてからで良い。手を止めることなく退院準備を続けよう。

    看護師「失礼します。ゆっくり話せました?」
    アグネス「お待たせしました。ええ、お気遣いありがとうございます」

    二人掛で荷物を纏める。大した荷物が無くて助かったわ。

    看護師「よーし!では出発します。エルスマン博士と先生は後発で」
    アグネス「はい。では―」

    車椅子にベッドから這って乗り移り前進開始だ。
    自動扉を出る際は空の病室に敬礼しておく。お世話になった人と空間に対して、ちょっとセンチメンタルかな。

  • 28二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 08:12:36

    アコードの能力を事情を知っているレイの方からある程度開示してくれたのは良いけど
    …この状態で心覗かれたら最悪レイ始末されない?大丈夫?

  • 29二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 12:30:28

    アグネスが偶に口にしている「高級(最高級)コーディネイター」は
    考えによっては「目の色が違うわ!」に匹敵するⅭ.E.の業を示した概念な気が
    生体をランク付けして金を出す富裕層向けの高額商品としてのビジネスも成り立っていたし
    一種の経済動物みたいだなって...

  • 30二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 20:10:59

    保守

  • 31二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 00:19:23

    保守

  • 32二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 00:46:10

    セントバーナード犬「はぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっ」

    病院のロビーに着くと巨大なもこもこがお座りして待って居た。傍にはハンドラーと運転手さん、手隙の数名の医師と看護師。レイ付き看護師さんもいらっしゃる。

    看護師「ミニ壮行会です。ごめんなさい。急に決まったから…」
    アグネス「いえ…本当にありがとうございます」

    これはかなり嬉しいわ。

    セントバーナード犬「ヒーヒー、クンクン…はぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっ」
    セントバーナード君はムクリと起き上がり私の車椅子の隣に駆け寄る。超大型犬種ゆえ車椅子に座った状態で撫でることが出来る。

    アグネス「ありがとう。もっと貴方と触れ合いたかったわ」
    セントバーナード犬「はぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっ」

    私の呟きを耳にした医師とハンドラーが励ますように言葉を掛けてくれる。

    医師「今日は仮。本当の退院の時にまた会えますよ」
    ハンドラー「ええ。この子は一度会った人の事を忘れません。お待ちしています」
    アグネス「ありがとうございます」

    ちょっと感激!

    レイ付き看護師「仮退院、おめでとうございます。バレルさんはあの後、治療で来られなくて…。無事に帰還して地球の事やファウンデーション王国の様子など教えて欲しいと」

    問題ない、あいつとはもう挨拶済みだわ。二重にするのも何か気不味い。

    アグネス「本当にお世話になりました。レイにはさっき会ったばかりですので大丈夫です。土産話を待つようお伝えください」
    看護師「はい、確かに。こちらこそお会いできて光栄でした。どうか武運長久を」
    アグネス「貴女もどうか健やかに」

  • 33二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 00:58:11

    名残惜しいが我等は互いに己が務めを果たすのみ。お世話になった皆様に見送られて病院を後にする。

    アプリリウス中央エレベーター昇降ステーションまではあっという間だ。

    アグネス「お世話になりました。行ってきます」
    運転手「行ってらっしゃい。武運長久を!」
    アグネス「はい!」

    武運を皆から祈るわ。一応、この遠征は戦闘目的では無いのだけれど…。突っ込むのも無粋ね。

    ステーションでは軍務でかつ特務隊の私は順番待ちを回避できる。軍が事前に押さえた便に看護師さんと乗り込むやエレベーターの籠は中間施設地帯目がけて急上昇を開始する。

    看護師「アグネスさん、見て!町がもう小さくなってます」
    アグネス「ええ。あっと言う間ですね」

    ちょっとはしゃぎ気味の看護師さんに調子を合わせる。飛行機や客船にのったような気分なのだろう。変に冷めた態度を取るのも格好悪い。一緒に楽しまなくちゃね。

    さて中間施設地帯宇宙港の軍港側に到着、そこは修羅場となっていた。

    軍港所属の将兵にミネルバ・月軌道艦隊クルーが脇目も振らず駆けまわっている。

    その中の一人が私に気付き敬礼してくれるので私も答礼する。

    ミネルバクルー「アグネス、看護師さん!よくぞ…。アグネス、身体は大丈夫か?」
    アグネス「それなりに」
    ミネルバクルー「良かった。おーい、ヨウラン!アグネスが来たぞ」
    ヨウラン「おお…」

    別に呼ばなくても良いわよ!忙しそうだし、悪いわ。
    お断りしようとアタフタしている間に浅黒い肌の戦友がダッシュで駆け付けて来る。

  • 34二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 01:07:10

    ヨウラン「アグネス、元気か?!お帰り!看護師さんはようこそミネルバへ。ヨウラン・ケントです」
    アグネス「ヨウラン、ただいま。忙しい所に悪いわね」 
    看護師「メカニックの方ですね。初めまして。よろしくお願いします」
    ヨウラン「こちらこそ。よろしくお願いします。さあ此方へ!」

    彼の後ろに続き少し回り道して搭乗橋に向かう。この車椅子ならタラップを昇れるのだが彼の騎士道精神を尊重しよう。それはそうとして―。

    アグネス「これは…。もう戦場ね」
    ヨウラン「急だからな。それに荷物も機体も多い」
    アグネス「ガルナハンの火力プラントの部品と難民用の食糧と衣服、医療物資その他ね。それとモビルスー24機。デスティニー3機、レジェンド1機、セカンドステージシリーズ4機(インパルス、セイバー、カオス、ガイア、アビス)、AWACSディン2機、供与するゲイツR14機―」

    相変わらず一杯一杯だ。ペイロードと言う概念と喧嘩するのがミネルバの宿命らしい。

    ヨウラン「モビルスーツは26機になったぞ。ジン長距離偵察複座型を2機追加。デブリ帯の航路の安全は別動隊が確保してくれているけど、万一の為だって。ゲイツR6機の手足・頭・胴体を一旦外してから積んでスペースを空ける。現地で1機は組み立てて見せて技術指導を。ファウンデーション王国側からも了承を得たって。あとエルスマン博士の医療用コンテナを追加で貨物スペースに」

    なるほど。良い判断だと思う。トラドール国務秘書官か国元のシュラ・サーペンタイン国防長官のご決断なのだろう。

    アグネス「それにしても―流石、ミネルバ。過積載ギリギリを攻めるわね」
    看護師「アグネスさん?それって大丈夫なんですか?」

    看護師さんは軽く不安がっているみたい。言葉を尽くして安心させなくては!

    アグネス「戦力の補充がないよりずっと良いです。戦時下では良くあること。クレタに降りる時はこんなものではありませんでした」
    ヨウラン「いや…いい勝負だろ、これ…。あっ、着きましたよ」

    搭乗橋を渡り終えミネルバのタッチの敷居を車輪で乗り越える。

    看護師「ありがとうございます」
    アグネス「ありがとうね」
    ヨウラン「どういたしまして」

  • 35二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 01:25:12

    案内と軽い説明を終えたヨウランは手を振って持ち場に戻って行く。我等は我等の持ち場へ。
    看護師さんと一緒に医務室へ向かう。入室すると同時に軍医殿・看護兵と敬礼を交わす。

    軍医「アグネス、お帰り。看護師さん、ようこそミネルバへ。医療班一同歓迎します。派遣医療チームと我らミネルバ衛生班、一心同体となって任務を完遂しましょう」
    看護師「はい。ありがとうございます」

    そう言った後、軍医殿は医務室を見回して見せる。

    軍医「帰路はここのみでは手狭になるでしょう。クルーの部屋割りを調整して臨時医務室を増設予定です。アグネスのベッドは取り合えず、そこだ。」
    看護師「はい!」  アグネス「了解」

    確かに帰り道は難民の搭乗スペースを空ける必要がある。いや、そもそも往路の時点で―。

    アグネス「看護兵さん。私の部屋って今どうなってます?」
    看護兵「それが…メイリンとルナマリア、アビーさんの3人部屋になっています」

    やはり。カナーバ前議長初め要人の方々と補佐官の部屋が必要なのだ。士官相当官以上の物を確保しないといけない。

    看護兵「男子に関しては…。アスランさんはハイネさんとガイアパイロットで3人部屋に。シンはショーンさんとデイルさん、アビスパイロットの4人部屋になっています」

    ふーむ、止む無し。この分だと他のクルーやパイロットにも似たようなことが起きているはず。帰路は更に混みあう。軍人なら状況に適応しなければ。

    アグネス「軍医殿、ガイアとアビスのパイロットは誰になりましたか?ちょっと時差ボケになっていて…」
    軍医「入院中だったから仕方ないさ。ガイアはバクゥハウンド小隊長、アビスはアッシュ隊の小隊長が任じられたよ」
    アグネス「ありがとうございます」

    粗方、軍医殿は説明を終える。彼は休むよう目線で促すが、私にはまだ為すべき事がある。

    アグネス「申し訳ありません。軍医殿、艦内電話をお借りします」 軍医「構わないが…。誰に?」
    アグネス「グラディス提督とトライン副長に」

  • 36二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 10:02:02

    保守

  • 37二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 19:16:05

    保守

  • 38二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 23:14:57

    軍医殿に許可を貰い艦内電話をブリッジに繋げる。

    タリア「アグネス?おかえりなさい。何か」
    アグネス「ただいま帰任しました。提督とトライン副長に取り急ぎお伝えしたいことがあります。お時間をいただけませんか?」

    グラディス提督は労い微笑んだ後、私の言葉を聞いて困惑の表情を浮かべる。

    タリア「このタイミングで副長まで…特務隊の要件なの?」

    確かに出発前の修羅場、その点は私もかなり迷った。先ずは直接の上官であるトライン副長にするべきかとも。しかし結論は変わらない。

    アグネス「通常任務と特務隊の立場、その両方に当たると思案します。特権を行使してでもお伝えしたいと思います」
    タリア「そう…。副長もブリッジで一緒よ。でも私の彼も手が離せない。拡声モードにするから今話しなさい。ブリッジクルー5人も居るけれど、構わない?」

    ブリッジクルーの5人と言うと火器管制担当のチェンさん、索敵担当のバードさん、操艦のマリクさん、それにオペレーターのメイリンとアビーか。

    5人とも他国で言えば士官か准士官、あるいは曹長相当だろう。問題ない。

    アグネス「構いません。私は病院を出る際、特務隊レイ・ザ・バレルより警告を受けました。私の所感・心証でありますが、その言葉には信憑性がありました」
    タリア「レイが!?そう…。良い判断ね。言ってみなさい」

    事情を聴いたグラディス提督は顔つきを一変させている。やはり一度、敵対した相手からの警告は気になるようだ。

    アグネス「2点あります。ファウンデーション王国について、そして王国現政権の要であるブラックナイツについて。まず1点目、『ファウンデーション王国アウラ女帝等は建国前からデュランダル議長を盟友視しており現プラント政権に対して面従腹背の構えと推測される。今回の任務を妨害するとは考えづらいが警戒を怠る事の無きように』と」

    グラディス提督は感心とも満足とも取れる表情で頷いている。

  • 39二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 23:24:31

    タリア「そう…。レイが―」

    この方は政変直後からレイの苦しい立場を擁護し庇っていた。人間誰しも厚意を厚意で返されれば嬉しいものだ。

    タリア「ご苦労さま。当然、我等も無警戒ではないわ。そうよね、アーサー」
    アーサー「はい。提督」

    トライン副長が冷静な表情で顔を覗かせた。この分なら大丈夫そうね。では次ぎ行こう。

    アグネス「2点目はブラックナイツについてです。レイの情報では、彼らの正体は特殊なコーディネイターであるとの事。『全てにおいて卓越した能力を示し、他者と完全に融和できる個体』を目指して造られたと。特に彼はブラックナイツの心理的洞察力・操作力の高さについて注意を促していました。各自が心の弱みに付け込まれないよう備えておくべきとも」

    2点目の警告を伝え聞くとグラディス提督は押し黙る。

    タリア「…」
    アーサー「提督!?」

    この雰囲気、もしやグラディス提督とトライン副長は何かご存じなのか?

    タリア「分かっているわ、アーサー。アグネス、その話は後で時間を設けるわ。今は医務室でゆっくり休みなさい」
    アグネス「了解しました」

    司令官にして特務隊長が時間を設けるとまで言って下さった。これで一応、用件は果たしたと言えよう。グラディス提督の敬礼にお答えして通信を終える。

    看護師「アグネスさん、お疲れじゃないですか?」
    アグネス「え…ええ」

    画面が消えると脳からゴバッと血液が下りる。上官との遣り取りは疲れる。当然だわ。

    看護師「おやつを食べたらお休みしましょう。かなり疲労が溜まっていると思います」
    アグネス「はい…。あれ?おやつ…」

  • 40二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 23:26:57

    艦長が闇に堕ちろされたら一環の終わり

  • 41二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 23:33:41

    軍医「先の便で届いているぞ」

    怪我もしてみるものだ。至れり尽くせりでありがたい。半歩間違っていたら死んでいたけれどね。

    ちなみに今日のおやつはマカロン。正確に言えば『マカロン・パリジャン(風の合成医療食品)』。5個をペロッと平らげ、紅茶を飲んで一服。途端に睡魔が押し寄せてきたわ。

    アグネス「食べて直ぐ寝たら駄目ですね…」
    看護師「座ったまま目を瞑る分には大丈夫です。先生には内緒です」
    軍医「ゴホン!」

    薄れゆく意識の向こうで軍医殿と看護師さんが面白い遣り取りをしている。
    うーむ、うう…。駄目だわ。瞼が―。

    メイリン「コンディションイエロー発令、コンディションイエロー発令。艦内警備ステータスB1。以後、部外者の乗艦を全面的に禁止します」

    イエローの声と共に脳は急覚醒、ほぼ反射的に跳ね起きる。メイリンの艦内放送だわ。

    アグネス「うぉっ!痛ッ!!」

    看護兵、看護師「アグネスさん!」

    痛みが後から押し寄せてきた…。主に右足から電撃とじんわりした痛みが交互に押し寄せる。自分の現状を再確認して落ち着こう。

    アグネス「(ここはミネルバ医務室のベッド。自分で剝ぎ取った毛布は下半身に寄っている。それは別に良い!)」

    遂にその時が来たのか。寝ている場合じゃなかったわ!

    メイリン「発進は定刻通り。各艦員は最終チェックを急いで下さい。砲術B班は第三兵装バンクへ。パイロットはブリーフィングルームへ集合して下さい」

  • 42二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 23:40:29

    うぉぉォォォォォ!ブリーフィングルームに行かねば!

    アグネス「看護師さん、ブリーフィングルームに急ぎます」
    看護師「おお…。これが職業病、じゃなくって!分かりました。ご一緒します」
    アグネス「ありがとうございます。お願いします!」

    ベッドを這って隣に停めた車椅子に転がり込む。リモコンスイッチ・オン!
     
    軍医、看護兵「行ってらっしゃい」
    アグネス、看護師「行ってきます!」

    医務室からブリーフィングルームに進む間も艦内放送は続く。

    メイリン「ミネルバ、発進シークエンススタート」
    アーサー「本艦はこれより戦闘ステータスに移行する」
    メイリン「FCSコンタクト、兵装要員は全ての即応砲弾群をグレードワンへ設定」

    この活力に満ちた空気に身を置くのも久しぶりだ。嘘、全然久しぶりじゃないわ。

    まだ、頭が本調子じゃないみたい。

    看護師「何かすごいですね。私も慣れないと…」
    アグネス「どうか自然体で。直に適応しますから」

    更衣室に突撃する。ちょうど中からルナマリアが出てくるところだったわ。

    アグネス「アグネス!看護師さん、お疲れ様です」
    アグネス「ルナマリア!先に行っていて!」  看護師「お疲れ様です」
    ルナマリア「うん。じゃあ、先に!」

  • 43二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 23:46:27

    時の流れはまるで急流の様だ。一度動き出したら流れ落ちるまで止まらない。

    アグネス「(カナーバ前議長方も乗艦済みか。出発式の間も寝落ちしていたみたい…)」

    まあ、無駄に長い話を聞くのも煩わしい。ショートカット出来て良かったわ。

    看護師「パイロットスーツはこうしてっと。研修しておいて良かった」
    アグネス「ありがとうございます。これはまだとても一人では着られません」

    彼女は『研修で』と言うが、手慣れた調子で着せて下さる。流石、我らコーディネイター。一度の研修で十分ね。

    メイリン「本艦はこれより発進します。各員所定の作業に就いて下さい。繰り返します、本艦はこれより発進します。各員所定の作業に就いて下さい」

    アグネス「さあ!行きましょう!」
    看護師「お…落ち着いて」

    エレベーターの前に進むと、そこではアスランとハイネ先輩が待って居る。敬礼!

    アグネス「ハイネ先輩、アスラン先輩!」
    ハイネ「おっ。頑張っているな。看護師さん、ミネルバにようこそ」
    アスラン「…無理するな。看護師さん、よろしくお願いします」
    アグネス「はい!」  看護師「よろしくお願いします」

    4人で一緒にブリーフィングルームへ。入室と同時に皆で敬礼を交わす。

    ブリーフィングルームからは慌ただしい軍港管制官のオペレーションが確認できる。

    アプリリウス軍港管制官「システムコントロール、全要員に伝達。ミネルバ緊急発進シークエンス進行中。デフロック警報発令。デフロック警報発令。ミネルバリフトダウン継続中。モニターAチームは減圧フェイズを監視せよ」

  • 44二次元好きの匿名さん25/07/04(金) 23:51:46

    港は順調に進んでいる模様だわ。艦内の様子はどうだ?ヴィーノやヨウラン達は…。

    モニター画面の一区画、モビルスーツ格納庫のカメラに視線を遣る。

    マッド・エイブス「モビルスーツ全機、装備のロック、忘れるなよ!」
    ヴィーノ・ヨウラン「了解!」

    整備班長も気合が入っているご様子。良し!

    せっかくなのでモニターからパプリリウス港内全体を見渡してみる。
    嬉しいことに最高評議会議員、十数名の60人議会議員に合わせて大勢の市民が見送りに来てくれている。

    手を振りたい所だが、流石にブリーフィングルーム内なので我慢する。向こうから見える訳でも無いからね。

    アプリリウス軍港管制官「ゲートコントロールオンライン」
    バート「軍港発進ゲート内減圧完了。いつでも行けます!」

    最終段階となった所でグラディス提督の短い訓示が流れる。

    タリア「全艦に通達する。本艦はこれよりアプリリウス軍港を発ち地球カスピ海、国際自由都市ガルナハンとファウンデーション王国王都イシュタリアへ向かう。任務内容は事前通達の通りだ。この戦争の速やかな終結と世界の行く末を切り開く為、ミネルバ各員の一層の奮励努力を期待する」
    アグネス、一同「はい!」

    ブリッジのグラディス提督は一度、息を吸い込みブリッジクルーに下命する。

    タリア「ブリッジ遮蔽。コンディションレッド。ミネルバ発進する」
    メイリン「コンディションレッド発令、コンディションレッド発令。ミネルバ発進します」
    マリク「機関始動!ミネルバ発進!」

    改ミネルバ級380mの巨体(元は350m)がゆっくりと軍港出入口から宙に漕ぎだす。
    母にして恐るべき死の虚空に―。この瞬間は何度体験しても感無量だわ。

  • 45二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 04:20:00

    ラクスからのメッセージになんか情報があったか

  • 46二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 11:48:38

    保守

  • 47二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 15:28:19

    宇宙港を発してミネルバはL5の宙へ。アプリリウスが急速に遠ざかる。ミネルバは巨大な天秤型コロニー群の間を音も無く進み続ける。

    私達は変事有らば、即時に飛び出す気構えだ。そうして緊張感の中、待つ事暫し。

    メイリン「安定軌道に入りました。コンディションをイエローに。コンディションイエロー。パイロットはブリーフィングルームで待機してください」

    アグネス「(ほぉっ…)」  看護師「はぁー」

    艦内放送を聞き安堵のため息が漏れる。私だけではない。後ろの看護師さんもブリーフィングルームに詰めた28人のパイロット隊からも。

    シン「待機ってことはまだ何かあるのか?」
    ルナマリア「…そうね。もしかしたら…」

    ルナマリアから意味深な視線が私に向けられる。ふーむ、何だろう?特に喧嘩をした覚えもない。さっき挨拶をしたばかりだわ。

    私が脳内に『?』を浮かべていると扉が開きトライン副長が入室、メイリンも引き連れている。

    弛緩し掛けた空気が一気に引き締まり、全員が直立不動の姿勢となる。

    彼らがアスラン初め私達に対して敬礼して下さるので揃って答礼する。

    アーサー「着席。ブリーフィングを行う。提督のやるなら今しかないという判断だ。アスラン、アグネス、ルナマリア、前に出てくれ」
    アスラン、アグネス、ルナマリア「了解」

    この指示で察する。昨日拾ったカードについてのお話しだろう。アスラン達3人に託したものだ。

    前に進み出るとトライン副長は私に声をお掛けになる。

    アーサー「先ずアグネス。君は仮退院する際に特務隊レイ・ザ・バレルから警告を受けた。私達に対するものだ」
    アグネス「はい。トライン副長」

  • 48二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 15:34:21

    アーサー「ブリッジクルーはその内容を共有済みだ。この場でパイロット隊にも伝えて欲しい。
    アグネス「了解しました」

    なるほど、グラディス提督も考えたものだ。

    出港直後でパイロットがブリーフィングルームに集まっているタイミングなら、トラドール国務秘書官に不審がられず皆に警告を伝えられるという訳ね。

    アスラン達が驚きの視線を私に向ける。彼らに事前報告する時間が無かった。まあ、手間が省ける。良しとしよう。

    アグネス「2点あります。まず1点目―」

    皆に視線を配りながらブリッジに上げたのと同じ内容を伝達する。

    『アウラ女帝等が建国前からデュランダル議長を盟友視し』、王国はプラントに面従腹背の姿勢と強く推測される事。

    ブラックナイツは『全てにおいて卓越した能力を示し、他者と完全に融和できる個体』を目指して造られた特殊なコーディネイターであること。

    彼らは心理的洞察力と心理操作能力に長けている為、各自が心の弱みに付け込まれないよう備えておくべきこと。

    アグネス「私が特務隊レイ・ザ・バレルから伝えられた警告は以上です。これは本官の所感・心証でありますが、彼に私達を欺く意図はないと確信しています」

    私からの連絡を受け、座席の戦友達にざわめきが広がっている。

    デイル「シン、知っていたか?」
    シン「え…。いや…。アウラ女帝が建国前からデュランダル議長と知り合いだったってことは…」
    デイル「それは俺達も察していたぞ。それより―」

    皆、ファウンデーション王国については『まあ、そうだろうね』くらいの扱いだ。それよりブラックナイツの事情に関心が高まっている。

    ショーン「『全てにおいて卓越した能力を示し、他者と完全に融和できる個体』ってなんでしょう?身体・頭脳ともに優秀でメンタリストの適性があるとか?」

  • 49二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 15:44:16

    ハイネ「さぁ…。王族だから資金力があったのかもな。さて皆、静かにしよう!副長、申し訳ありません」

    その場はハイネ先輩が収めて下さる。彼らも軍人、先任の注意でその場がサァーっと静まる。

    アーサー「よろしい。皆の気持ちは分かるが話を進めたい。実はこの警告の前に別の筋からも、留意すべき情報がもたらされている。メイリン頼む」
    メイリン「はい」

    トライン副長の指示で部屋の明かりが消され、モニター画面に一枚の写真が拡大して映し出される。

    それは研究施設内、科学者や研究員たちの日常風景を撮影したものだ。
    金髪ロングヘアの女性と彼女の肩に親し気に手を置く栗色の髪の女性がこの写真の主役。

    何処か高貴な雰囲気を漂わせる前者は、研究資料が入っていると思しき段ボールを大切そうに抱えている。後者は写真を撮られたこと気に気づきちょっと驚いた表情を浮かべる。
    二人の気安い雰囲気から察するに、この写真を撮影した『誰か』はおそらく同性の研究者仲間だろう。

    だが問題はそこではない。

    アグネス「(これは…アウラ…女帝…?)」
    シン「これは…アウラ…女帝…どうして?」

    金髪の女性は件の幼帝とよく似ている。ちょうど時間を早送りにして彼女を30代まで成長させたかのようだ。
    写真には書き込みがあり、黒ペンで引かれた矢印と文字がこの女性の名を『Aura MaHa Khyber』と知らしめている。

    アグネス「(女帝の同姓同名の女性親族か?母親、おば、歳がやや離れた従姉妹か族姉。しかしよく似ている)」

    この写真の女性は大アウラとでも呼ぶべきか。大スキピオとその甥の小スキピオみたいに。

    大スキピオの全名は『プブリウス・コルネリウス・スキピオ・アフリカヌス・マイヨル』
    小スキピオの全名は『プブリウス・コルネリウス・スキピオ・アフリカヌス・アエミリアヌス』

  • 50二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 16:34:25

    おっここで例の写真がでてくるか
    事情知らないとまさか金髪女性が薬浴びてコナン君現象起こした女王本人だとは思わないよなあ...
    あと後ろの黒い長髪の研究員(たぶん若議長)にも気づくかな?

  • 51二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 16:37:19

    メンデルの闇

  • 52二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 19:55:55

    アウラ女帝は薬を浴びて子供に戻りました!
    アグネス「えぇ....(困惑)」
    アコードは思考を読めるし他人の精神に干渉して洗脳もできます!
    アグネス「えぇ....(困惑)」

    あいつらの能力と背景トンチキ過ぎてまともな人間ならねーよ! って一蹴して信じんわな

  • 53二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 20:29:14

    他者と融和できるって言うの理想論で実態は優生思想を拗らせすぎて自分達は人類の頂点とか言い出す

  • 54二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 21:04:57

    >>53

    コンセプトの時点では融和出来る仕様だったんだよ、きっと…なお実際

  • 55二次元好きの匿名さん25/07/05(土) 21:12:04

    まぁ、そんな世界滅ぶしかないからな

  • 56二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 01:05:53

    保守

  • 57二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 01:09:50

    争いをしないのが本当の真のアコードだったみたいな理想あり得そうで

  • 58二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 02:55:58

    写真を目の当たりにし、ブリーフィングルームに衝撃が走る。しかし、トライン副長は敢えて淡々と会合を進める。

    アーサー「メイリン、写真の裏も映してくれ」
    メイリン「はい」

    メイリンは指示を受けて機材を操作し、スキャン済みの写真裏側を2分割したモニターの片側に映し出す。

    そこには女性の筆跡で数行のメモが記されていた。

    『ターミナルの調査より。18年前、コロニーメンデルにて撮影された物と判明しました。
    長い金髪の女性の名はアウラ・マハ・ハイバル氏。遺伝子研究者。
    ハイバル王家本家の遠縁、カイドゥ家出身。メンデル襲撃事件の際に行方不明に。

    彼女の研究テーマは【コーディネイターを超える種の創出】。
    デュランダル議長も同時期、メンデル遺伝子研究所に関与していたと言われています。

    ハイバル王家、ファウンデーション王国とデュランダル議長の同盟は想像以上に強固な可能性があります。彼らはこの大戦後の世界秩序についても何らかの協議を持ったかもしれません。どうかご用心を』

    裏面のメモを書き込んだ人物が誰かは予想が付く。あのカードの下にこんなものが仕込まれていたとは!

    ルナマリアを挟んでアスランに目線を遣る。トライン副長も同じく彼に視線を送っている。

    アスラン「この筆跡はラクス・クライン氏本人の物と私は判断します。彼女と私とは…その…。ご存知の通り浅からぬ係わりがあります」

    おお…、と部屋の空気がどよめく。元婚約者の証言なら、まず間違いないわね。

    目を丸くする者とそうかと納得する者、両方同時の人が多い。
    しかし、ふーむ、ふむふむ。

    アグネス「(現時点で『間違いがない』と言えるのは、写真の裏面の字を書いたのがラクス本人である事のみ。この写真を『彼女が本物と信じている事』までは確かだと考えても良いかも知れない)」

  • 59二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 03:13:46

    ではその先は?

    ターミナルが母胎の一つたるクライン派がラクス本人に故意に偽情報を掴ませるとも思えない。彼らがこの情報を『真実であると信じている』であろうことも推測できる。

    ではこの写真が仮に本物で、裏面に記された補足情報が真実であるとすれば―。

    写真の女性は、やはりアウラ女帝の同姓同名の女性親族と推測される。ファミリーネームがカイドゥでなくハイバルなのは本家に養子になったか、通りの良い格上の姓を名乗ったかの何方かだろう。両方とも歴史上、ままある事だ。

    そしてターミナルの情報とレイの警告を合わせて考えるならブラックナイツが、大アウラが研究していた【コーディネイターを超える種】に当たると予想される。『全てにおいて卓越した能力を示し、他者と完全に融和できる個体』

    無論、彼女がそれを目指したとして上手く創り出せたかどうか、結果は分からない。

    ハイバル王家とデュランダル議長が『おば(仮)・姪』2代の関係だとしたら双方の関係は断金とも言えるかもしれない。ただこれもあくまで仮定の話ではある。

    アグネス「(いや…。大アウラの存在がどうあれ、後者はほぼ確定と言っても良いかもしれないわ)」

    アーサー「それと写真には少年期のデュランダル議長らしき人影も映っている。背後からではあるが、グラディス提督はご本人では無いかと仰っている」

    トライン副長はブロンド短髪の男性と大アウラの間、やや後方を歩き去る男性を指し示す。男性と言うより少年と呼ぶべきかもしれない。

    特徴的なワカメのような黒髪の長髪、背中を向けているから顔は確認できない。だが深い仲だった提督が仰るなら多分、間違いない。

    それに仮に他人の空似であったとしても、議長が同時期にメンデルと関わっていたらしい事は世人の知る所だ。

    アーサー「提督と本官は写真を入手後、情報の真偽と取り扱いについて協議中であった。
    ラクス様のお気遣いはありがたいが、彼女の手元に届くまでに情報が歪められ、或いはそもそも間違いの可能性もある。故に慎重な対処が求められた。しかし…」

    トライン副長はここで私に視線をお振りになる。良し!しっかり自信を持って肯こう。

  • 60二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 03:37:38

    アグネス「(私は嘘を言っていない。そして何度も言うけど、レイに私達を騙す意図は無いと確信できる)」

    だから副長のみならずブリーフィングルームにいる全員に見えるように大きく首肯する。

    トライン副長は私の肯きに目線で答えた後、話を再開する。

    アーサー「しかしアグネスから報告を受けて再度協議し、この資料を君達に知らせるべきと決定した。
    また君達に留意して欲しいのは情報の正誤に関わらず、王国が現時点でプラントの盟邦であることに変わりはないと言うことだ。
    国家間の関係は必ずしも友好・敵対二つに綺麗に分けられるものでは無い。我々の遠征目的地の一つはファウンデーション王国王都イシュタリアであるが、諸君は揺らぐことなく任務に精勤して欲しい」

    確かに国家間には『準敵対的な』友好関係は成立し得る。『国家に真の友人無し』とは昔からよく言われる格言だ。

    アグネス「(勿論、不義理な事ばかりする国は他国から信用されないし、確言に反して誠実な友好関係が数十年、数百年と継続する場合もある。プラントが友邦に対し何方を目指すべきか明白だわ)」

    ファウンデーション王国と今のプラントの関係がそうであるとまでは言わないが―。少なくとも現政権を快く思っていない事は確かだ。国力差から言って向こうが此方に内政干渉を仕掛ける余地は無いはずだけれど。

    アーサー「だが、それは我々がファウンデーション王国とブラックナイツに対し無防備で良い理由にはならない。グラディス提督も本官もこの遠征中、王国と彼らに警戒を決して怠らない。諸君らも艦内・艦外問わず十分な注意を心掛け任務に当たって欲しい」
    アグネス・一同「はい!」

    パイロット隊と同席した看護師さん全員が立ち上がって返事をする。私は立ち上がれない分、しっかり背筋を伸ばしてお答えする。

    アーサー「よろしい。これにてブリーフィングを終了、解散する。それと、悪いがアグネスは私に付いて艦長室まで来てくれ」
    アグネス「了解!」

    何だろう?もう話せる事は全部話したのだけれど…。まあ、来いと言われたら行くだけの事だわ。

  • 61二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 07:42:25

    内政干渉やらかす可能性あるでしょうね

  • 62二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 12:25:03

    >>61

    内政(精神)干渉ですね…あ、エンジェルレスキュー作戦の辺りでもうやってたか

  • 63二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 19:07:01

    実際はおば(仮)姪で2代どころか
    おば(仮)が小さくなっても尚同僚だった少年デュランダルに入れ込んだ末に…
    なので断金通り越してアレなレベルの関係性という…

  • 64二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 20:06:09

    絶対何かしでかすよなあ

  • 65二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 01:45:40

    保守

  • 66二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 02:00:06

    車椅子の向きを反転させ、先に出入口に進むトライン副長の背中を追う。

    ルナマリア「大丈夫?頑張って」 
    アグネス「ありがとう」

    離れ際、ルナマリアがエールを送ってくれる。頑張るも何もないが…。でも気持ちは嬉しい。

    アグネス「アスラン先輩、お手間をお掛けしました」
    アスラン「いや…。此方こそ。大事なメッセージだった」

    通り過ぎ際に小声でお礼をお伝えする。こういうの大事だわ。

    アグネス「メイリンもありがとう。変な事に巻き込んでごめん」
    メイリン「いいえ。私も知らなきゃいけない事でした」
    アグネス「そう言ってもらえると心強いわ」

    超高速で最低限の挨拶を終え、中の方達と敬礼を交わして廊下に出る。看護師さんも駆け付け、付き添って下さる。

    アーサー「じゃあ、行こう。そんなに時間は掛からない」
    アグネス「はい」

    合わせて3人でエレベーターを昇り、後ろを付いて廊下を進む。トライン副長の雰囲気的に艦長室で待つのは叱責ではなさそうだ。でも褒められるわけでもなさそう。今後の方策についての話か。

    アーサー「着いたな。君は入室しなさい。本官はブリッジに向かう。看護師さん、ご無礼ですが廊下でお待ちいただけますか?」
    アグネス「はい」  看護師「分かりました」

    トライン副長の敬礼に答礼し彼を見送る。さて―。

  • 67二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 02:16:00

    アグネス「(艦長室の扉の前ではやはり緊張するわ)」

    お待ちいただく看護師さんとアイコンタクトを取った後、インターホンで呼びかける。

    アグネス「グラディス提督、特務隊アグネス・ギーベンラート参りました」
    タリア「よろしい。入りなさい」
    アグネス「はい」

    ロックが外れたのを確認し、自動ドアのレールを車輪で踏み越える。グラディス特務隊長はデスクの向こう身体の向きを此方に向けて下さっていた。入室直後に互いに敬礼する。

    タリア「ご苦労だったわね。調子はどう?」
    アグネス「はい。グラディス提督。体調悪化の兆候はありません」

    その後の第一声は労いの言葉だった。一安心。やはり怒ってはない。

    タリア「よろしい。特務隊長としての用件よ。その積もりで話しましょう」
    アグネス「はい。グラディス特務隊長」

    つまり同格としての協議と―。これは面倒な遣り取りだが、私達の命令系統は複雑なのだ。

    タリア「では単刀直入に―。
    『ファウンデーション王国とデュランダル議長の紐帯が予想以上に強固な可能性がある』
    『王国の要たるブラックナイツは高い能力を期して造られた特殊なコーディネイターであり、相対する際はその心理的洞察力と心理操作能力に強い注意が必要と考えられる』
    この2点を特務権限でエザリア・ジュール国防委員にご報告しました」

    ほう!エザリアおば様に。ミネルバ出港直前の修羅場の中で報告を入れいたとは!

    アグネス「ありがとうございます」
    タリア「お礼を言われることじゃないわ」
    アグネス「と仰いますと?」

  • 68二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 02:29:31

    彼女は一瞬、答え辛そうな表情を浮かべる。しかし、直ぐに改め事情をお話し下さる。

    タリア「ジュール国防委員に情報源を問われ、全責任は私にあるという前提で貴女の名前を出しました。念のために伝えておくわ」
    アグネス「ご配慮に感謝します」

    今回の情報は『仕入れ先』を安易に明かせない。
    レイの事情は勿論だが、ターミナルなる組織の存在を最高評議会や国防委員会に知らせて良いのかも分からない。評議員の中にはご存知の方もいらっしゃると思うけれど…。そうした事情は外からでは分からない。

    タリア「故に現職の最高評議会議員に直接お伝えするのは憚られたわ。結局の所、両情報とも確固とした根拠はない。伝聞情報に過ぎないわ。その上で―。その…貴女は…」

    特務隊長が口籠る理由は容易に想像がつく。ユニウスセブン落下テロ後の時世では云い辛いのだろう。それなら自分か話すわ。

    アグネス「ジュール国防委員は前大戦時、ザラ派ナンバー2でした。そして私は出自的に旧ザラ派系。私の名前を出せば立場が近い彼女は信用して下さるかも知れない。決して偽りではないわけですし。何より他の選択肢が無かった。現職の評議員以外でそれに近い権限を持つ方となると―」

    事前相談が無かったのは時間制約がきつかったからか。おまけに私は寝落ちしていた。ちょっとやそっとなら起こしたはずだ。相当調子が悪かったのだろう。飛び起きた後は脳内物質がドバドバ出て気が付かなかったわ。

    タリア「ええ…。本当は貴女の名前も出したくなかった…。全ては私の責任よ。ジュール国防委員もそこは確約して下さったわ」

    真直ぐに私を見詰める蒼い双眸。もし情報が間違いなら吹聴した人間の信用はガタ落ちになる。下手をしたら将来のキャリアが閉ざされるかもしれない。彼女はそれを心配して下さっているのだ。

    アグネス「(この方がジュール国防委員に実際にどう話したのか。私は知らない。多分、知る必要もない。彼女は信頼に値する、以上!)」

    今は伸るか反るかの大勝負の最中だわ。あれこれ気にしても仕方ない。たくさん貰った勲章が多少のガードになると信じよう。

  • 69二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 03:06:31

    アグネス「了解しました。本官こそ、真偽不明な情報を持ち込み隊長にご迷惑を…」
    タリア「いいえ。貴女は務めを果たしただけ。でも、ここから先はジュール国防委員にお任せするしかないわ。私達は今思って信じたことをするしかない。目前の任務に集中せよ」
    アグネス「はい!」

    背筋を伸ばして正面から返事する。本国の方はジュール国防委員に投げておけば良い。良くはないかも知れないが…。多少のタイムラグは有るにせよ、エザリアおば様なら手を打って下さるだろう。

    それよりミネルバだ。この艦にはもっと差し迫った立場の者が乗艦している。

    アグネス「もし機会があれば、カナーバ前議長に事情をお伝えしてもよろしいでしょうか?国際会議にはファウンデーション王国も参加します。それとなくでも注意を促すべきと愚考します」

    おまけに私の任務の一つは彼女の話し相手になることだ。『情報を伝えない事=任務の懈怠』とは必ずしも言えないが…。それが為に特任全権大使たる前議長の職務に悪影響が出れば私は責めを受けざるを負わざるを得ないだろう。

    タリア「…」

    グラディス特務隊長は頭を押さえていらっしゃる。考えていなかった訳ではないらしい。でも判断を先延ばしにしていたみたいだわ。パンク寸前なのだ、彼女も。

    タリア「そうね…。分かったわ。ただし『あくまで噂』『こういう話が在る』としてお伝えしなさい。それで察せられないほど鈍い方ではないわ。手に余る様なら早めに私に伝えなさい」
    アグネス「了解!エルスマン博士に対しては?大アウラについて何かご存知かも知れません」
    タリア「同じことよ。もし機会があれば『あくまで噂』『こういう話が在る』として話を伺いなさい」

    これで大体出尽くしたか。

    アグネス「了解。任務に戻ります」
    タリア「よろしい。奮励努力せよ」

    互いに敬礼し、艦長室を出る。帰り際にふと気が付いたが何か部屋が狭い。荷物が多いのだ。

    アグネス「(これは中々…。ギリギリを攻めるわね。デススペースを如何に減らすか皆で格闘中だ)」

  • 70二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 10:43:41

    保守

  • 71二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 11:52:14

    保守

  • 72二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 12:31:07

    ミネルバにカナーバさんが乗艦中なので
    アグネス目線での議長、カナーバさん目線での議長は如何なものなのか情報のすり合わせとかやってみたら意外と面白いものが見えてきそう
    一般兵や平民の前だけの姿と顔、議会メンバー上層部の前だけの姿と顔を使い分けていただろうし
    失脚中とはいえ何かやらかしそうなのもあって、議長の思考等の推測判断材料が増えたら状況的に+に働きそう

  • 73二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 17:35:52

    ミネルバ隊で情報共有できたのは良いこと…なはずなんだけど、アコード達が手近な相手(協議などの場に出る主要人物の可能性が高い)に思考読みを仕掛けたら、警戒されているのがモロバレになるリスクも高まるんだよな。
    つくづくズルいよな…

  • 74二次元好きの匿名さん25/07/07(月) 22:27:15

    保守

  • 75二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 02:00:47

    退出すると看護師さんが律儀にそのまま待って居て下さった。何だか心苦しい。

    アグネス「お待たせしました。立たせたままで…。申し訳ありません」
    看護師「いえいえ。私達は体力勝負なので平気ですよ。気にしない、気にしない。ほんの少しでしたし。アグネスさんこそお疲れ様です」

    謝った積もりがかえって気を使われてしまった…。最悪。しっかりしろ。気を持ち直せ。

    アグネス「ありがとうございます」
    看護師「どういたしまして。では医務室に戻りましょう」

    さらりと通常業務に戻ろうとしていらっしゃる。流石だわ。しかし困った。

    アグネス「いえ…。行先はシミュレーター訓練室に。看護師さんはどうかお戻り下さい」

    本当は休みたい。しかし国防委員会が私をレジェンドのパイロットに選定していたわ…。よりによって入院中に!名誉に思うが、せめて歩けるようになってからにして欲しかった。

    看護師「そう言えば新しい機体に乗るんでしたね。では、ご一緒します。訓練中の体調悪化に備えないといけません」
    アグネス「本当にありがとうございます」

    快く同行して下さる彼女にお礼を言う。
    私だけ文句を言うのは見っとも無い。世界は自分が願ったように動くものでは無い。折り合いをつけて進まないとね!

    看護師「それにしても―。いろいろ大変ですね」
    アグネス「ええ」

    廊下を進みながら彼女の言葉に相槌を打つ。この場合『いろいろ』が何を差しているかは明白だ。しかし彼女も慣れたもの。職業柄、守秘義務との付き合い方を心得ていらっしゃる。

    アグネス「(ファウンデーション王国が油断ならない。ブラックナイツは凄いコーディネイター。そう言われても一看護師の立場にしてみれば『ふーん、それはそうと患者さんのお世話をしないと』くらいなのね)」

    無関心とも違う。彼女は堅実で健全なのだ。命と向き合う職業はそうでなければ務まらない。

  • 76二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 02:24:21

    看護師「ああ。自己分析は今日中に済ませておきます。書き出して心の整理をしておかないと。トラドール国務秘書官もご乗艦ですものね」
    アグネス「正しいご判断です。私も訓練の後に取り急ぎ行います」

    お話ししている間に訓練室に到着する。彼女は入室と同時に艦内電話で医務室に連絡を入れ、主治医の先生に訓練開始をお伝え下さる。

    その間に私は電動車椅子を横に着けシミュレーターに気合で乗り移る。

    アグネス「(痛ッ!痛い痛い痛い…)」

    無理な姿勢を取った為、右足に激痛が走る。我慢だわ。これもリハビリ、平気よ!
    左足はどうだ?
    座席について左足首を動かすと痛み無く回せる。お昼間より治っている!まだ引き攣った感覚やツッパリが残っているが大進歩だわ。良し!

    乗り込むや早速、シミュレーターを起動する。レジェンドの訓練はこれが初めてとなる。

    アグネス「(レジェンドは『量子インターフェイスの改良により一般パイロットにも操作可能な第2世代ドラグーン・システムを搭載する野心的な機体』とのこと)」

    第二世代ドラグーン・システムは機械的な動作補助による簡易化が可能となり超人的な空間認識力を必要としない。その一方、動作性能は第一世代ドラグーンに劣る。しかし前世代型と比べ精度と性能は向上している―。

    アグネス「(どっちよ?マニュアルに矛盾した事を書かないで欲しいわ)」

    その意を解するに『カタログスペックでは第一世代を上回る精度と性能』。しかし『ごく普通の一般パイロットではその性能を活かし切れず結果として第一世代に劣る』と言った所か。

    私に超人的な空間認識力は無いと思う。しかし『ごく普通の一般パイロット』でもない。
    スーパーエースパイロットだ。きちんと訓練すればプラス・マイナス・ゼロで第一世代ドラグーンと伍すことも不可能ではない、と自分を鼓舞する。

    アグネス「(この機体は地上では爆撃機ないし可動砲台として運用する。宇宙でも私はドラグーンを多用する積もりはない。主に可動砲台ないし攻撃機として用いる予定。オールレンジ攻撃は格好が良いけれど、うーん)」

    当然だが使いこなすべく訓練はする。と言うか、現在進行形でやっている!

  • 77二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 02:43:56

    しかし、もし宇宙の実戦でオールレンジ攻撃を実行する際は2機編隊で仕掛けるべきだ。レジェンドがドラグーンを飛ばし、もう1機は本体を直掩してもらう。
    若しくは3機小隊で攻撃を敢行する。1機は観測手。レジェンドは彼の戦術データに基づいてドラグーンを飛ばす。一機は直掩、どうかな。

    アグネス「(どうもこうも軍人は戦場を選べない。僚機がいる前提で考えた。けれど常にそうとは限らない。本来は1機で完結できるよう造られた機体だ。両方に備えてしっかり訓練、訓練と!)」

    地上戦もトレーニング、大火力はやはり正義だ。ミサイルが切れないのは素晴らしい。とは言え瞬間火力はカオスに分があると感じる。ファイヤー・フライ誘導ミサイルが恋しい。

    朗報もある。国防委員会は私の激推しを入れて『MX-RQB516ビームランス』を予備装備に付けてくれた。出撃時は装備していこう。シミュレーターの中でブンブン振り回してみる。

    アグネス「(悪くないわ。ビーム無効化装備機も確認されている。ビーム装備だけでは不安よ。実体の対ビームシールドを装備したデスティニーが羨ましい。対艦刀いいな~)」

    地上戦もトレーニング、大火力はやはり正義だ。ミサイルが切れないのは素晴らしい。とは言え瞬間火力はカオスに分があると感じる。ファイヤー・フライ誘導ミサイルが恋しい。

    朗報もある。国防委員会は私の激推しを入れて『MX-RQB516ビームランス』を予備装備に付けてくれた。出撃時は装備していこう。シミュレーターの中でブンブン振り回してみる。

    アグネス「(悪くないわ。ビーム無効化装備機も確認されている。ビーム装備だけでは不安よ。実体の対ビームシールドを装備したデスティニーが羨ましい。対艦刀いいな~)」

    そこはグラディス提督もよくご理解して下さっている。この遠征、ミネルバにはテンペスト・ビームソードを収納したグフの対ビームシールドが艦載機と同数分積んである。

    見方を変えれば、結局、我等は棍棒頼りだ。アインシュタイン博士に呆れられてしまう。この任務がそうした事態を遠ざける呼び水になることを願うばかりだ。

    タリア「全艦に告ぐ。ミネルバはこれよりボアズ近傍を通過する。この宇宙要塞は地球連合の核攻撃により落命した忠勇なるザフト兵の神聖な墓標である。手隙要員は全員起立せよ。ご乗艦の皆様もご起立ください」

  • 78二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 03:11:10

    艦内放送だわ。着座のまま背筋をピンッと伸ばす。

    タリア「黙祷!」
    アグネス「…(ボアズに黙祷するのは初めて。ようやく戦友を悼む機会を得られたわ…)」

    この要塞が核の炎で沈んだインパクトは前大戦のザフトにとって決定的だった。死者の流した血と恨みを軽んずるべきではない。

    アグネス「(それにしても―。もうボアズを過ぎるのか。流石、ミネルバ足自慢だわ!)」

    タリア「直れ!」
    アグネス「…」 パチリ

    黙祷を終えると心が凪いだかのようだ。虚無感すら感じる。
    脳が極限まで活性化した中での祈り、その後で気持ちの置き場が無くなり途方に暮れてしまう…。

    看護師「アグネスさん、そろそろ夕食ですよ。ドクターストップ掛けちゃいますよ」
    アグネス「夕食…はい!」

    知らぬ間に歩み寄っていた看護師さんは、何処吹く風と私を散文的な現実に引き戻して下さる。やはりプロ『それはそれ』、『これはこれ』が徹底している。見習いたいものだ。

    訓練室を後にして通路をゴロゴロ…。途中で更衣室に寄ってお着替え。パイロットスーツに籠った嫌な熱気が抜けて気持ち良いわ。

    それから何とはなしにレクリエーションルームにも顔を出す。室内でシンとルナマリアが飲み物を飲みながらお話し中だった。それは良い、それよりも…。カプセル型の小部屋(?)がたくさん。おかげで部屋の広さは3分の1だ。

    シン「あれ?アグネス、大丈夫か?」  ルナマリア「訓練帰り?その体で…」
    アグネス「本当にね!まいちゃうわ。それはそうと…。この部屋は?奴隷船?」
    シン「カプセルホテル!難民用だってさ。俺も見るのは初めてだ。結構、無茶するよな…」
    アグネス「へぇー。これが日本の―」

    カプセルホテルはあくまでシンの喩えだと思うが…。もうとやかく言うまい。ここまで来たら乗せられるだけ乗せるまで。どうせ何往復かするのだろうし。

  • 79二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 11:32:17

    保守

  • 80二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 18:53:33

    保守

  • 81二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 21:27:54

    何処の部屋もギッチギチか

  • 82二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 01:02:35

    保守

  • 83二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 04:39:11

    アグネス「そう言えば二人とも夕食は?」
    シン「いや、忙しくて…」 ルナマリア「機体の調整とかいろいろね」 

    業務に追われているのは私だけでは無かったようだ。もう良い時間となのにシンとルナマリアも食事は未だとのこと。

    アグネス「じゃあ一緒に食べる?いや、駄目か…」

    私は治療用の専用食だ。食堂に行っても仕方がない。

    ルナマリア「じゃあ食後のお茶でもどう?シンは?」 
    シン「うん。来いよ」

    嬉しい申し出だわ。看護師さんをちょっと見上げる。どうかな?視線が合うと彼女は即、OKしてくれる。

    アグネス「先に行っていて。直ぐに行くから」
    シン「慌てなくていいよ」 
    ルナマリア「急がないで、ゆっくり食べて来なさい」
    アグネス「分かったわ!」

    二人と約束を交わしレクリエーションルームから医務室へ。皆、忙しい。時は貴重だ。モグモグ食べて食堂に急ごう。

    タッド・エルスマン「おや?お帰り」
    アグネス「エルスマン博士!?軍医殿、ただいま戻りました」 看護師「ただいまです」

    医務室に戻るとエルスマン博士と軍医殿が協議の真最中だった。傍には主治医と医療事務員、看護兵2人が立っている。何か気不味い…。

    看護師「じゃあ食事を用意しますね」
    アグネス「お願いします…」

    看護師さんはスルースキルを発動中だわ。お見事ね。

  • 84二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 04:55:34

    アグネス「(今日の夕食はポークステーキ風の医療食。嬉しい!)」

    分厚い肉(?)をホクホクしながら切り分ける。シンとルナマリアも今頃、食堂で食事を楽しんでいるだろう。艦上任務には食事ぐらいしか楽しみが無い。ならば名一杯楽しもう!

    タッド・エルスマン「ギーベンラート嬢、食事中に済まないが…。良いかな?食べながらで構わない」
    アグネス「はい!?どうぞ仰ってください」
    タッド・エルスマン「ありがとう。失礼する」

    こじんまりとしたテーブルに向き合う私の前に博士は歩み寄る。

    タッド・エルスマン「軍医殿から事情を伺った。ファウンデーション王国とブラックナイツに関して。私も役目柄、無関心ではいられない。ブリーフィングではどんなことが話し合われた?言える範囲で構わない」

    そう言えば艦内回線でブリッジに報告した際、軍医殿達も傍にいたわね。博士と話し合っていた内容はそれか。これは手間が省けたかもしれない。

    アグネス「軍医殿がお聞きになった事と結論は変わりません。それが別の情報源から裏付けられました。『ファウンデーション王国とデュランダル議長の結びつきは強固である』。それと…」

    ターミナルやラクスについてお伝えするか否かは先送りだ。話が脇道に逸れて混乱してしまう。

    アグネス「ブラックナイツはメンデルの遺伝子研究所に勤務していた方のアウラ・マハ・ハイバル氏が創出した【コーディネイターを超える種】であろうかと。『全てにおいて卓越した能力を示し、他者と完全に融和できる個体』。
    彼らの実態がそうであるかは未だ判然としませんが…。その身体能力と知能、心理的洞察力と心理操作能力の高さに十分な警戒を払うべき。それがブリーフィングの結論です。ここに共有いたします」

    話しながらチラッとエルスマン博士の瞳を覗く。その輝きは真剣さと興味深さと―ほかの言い知れぬ感状―が綯交ぜになったものだ。

    タッド・エルスマン「ほう!アウラ・マハ・ハイバル氏…。【コーディネイターを超える種】か!」

    彼の口から洩れた声は些か剣呑な響きを帯びている。メラメラ燃えるような雰囲気が少し怖い。

  • 85二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 05:12:06

    無論、エルスマン博士のお気持ちはお察しに余りある。彼は基礎医学、臨床医学、生化学、分子生物学、応用生体工学の専門家でありコーディネイターという種族の根幹を担うお方。【コーディネイターを超える種】という概念にきっと虚心ではいられない。

    アグネス「(エルスマン博士ご自身はコーディネイターの生みの親という訳ではない。しかし、その道の権威としては一過言有るのだろう。若しくは強烈な興味かも)」

    しかし『タッド・エルスマン氏』は最高評議会議員として一国を担ったお方でもある。直ぐにご自身の心理的動揺を制御し身に纏う空気を何時もの物に戻して下さる。

    タッド・エルスマン「ありがとう。特務隊として難しい立場なのに無理を言ってしまった。夕食も妨害して申し訳ない」
    アグネス「いえ。私も早めにお伝えしたいと思案していました」

    それどころか食事を進められずにいる私を気遣って下さる。もう危うい雰囲気は微塵も残っていない。

    ご厚意に甘えて放置しかけたお肉を一切れ、二切れと口に放り込む

    アグネス「(さっきは闇落ちしていたらどうしようと思ったわ。ディアッカ先輩の父君がそうなる筈が無いのに…)」

    取り越し苦労だったわ。さて―。もしゃもしゃ噛み締めたお肉を飲み込む。今度は私の番だ。

    アグネス「ご質問してもよろしいでしょうか?」
    タッド・エルスマン「勿論、何を話そうか」

    アグネス「メンデルの方のアウラ・マハ・ハイバル氏、私は彼女を大アウラとお呼びしていますが、彼女について博士はご存知でしょうか?」

    科学者・研究者のネットワークは国境を越え得る。そして研究者コミュニティは広いようで狭い。直接の面識はないまでも間接的には知り合っているかも。あるいは論文を読んだ事があるとか。

    タッド・エルスマン「ハイバル女史か。優秀な遺伝子研究者だったらしい。私もメンデル遺伝子研究所については詳しくない。聞く所ではアンチエイジング研究で一定の成果を上げつつあったらしい」

    アンチエイジング研究?予想だにしない単語が出て吃驚する。どうも彼女の人物像が分からない。

  • 86二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 05:24:08

    タッド・エルスマン「私はどうも此方の印象が強い。君も知っての通り未だコーディネイターの出生率低下は克服できていない。労働生産人口の維持と健康寿命の伸長はプラントにとって喫緊の課題だ。
    故にハイバル女史の研究には少なからぬ期待が掛かっていたのだが…。襲撃に遭われたこと、誠に残念に思う」

    なるほど、意義深い研究テーマだわ。単に労働生産人口の維持だけではない。アンチエイジングの効力が内蔵、生殖器までカバーしていたのなら。コーディネイター夫婦の妊活可能期間を延ばせるかもしれない。

    アグネス「(もし母胎が健康で卵子の老化も抑制されるなら―。夫婦の営みを根気よく続けるうちに或いは子供を授かれる方も増えたかもしれなかった…。本人にとっても無念だったろうし、社会にとっても巨大な損失だわ)」

    しかし肝心の【コーディネイターを超える種の創出】は何処に行ったのか?

    タッド・エルスマン「これは仮定の話だがハイバル女史の本命が【コーディネイターを超える種の創出】だった場合。アンチエイジング研究は研究資金調達を主眼としたものであったかも知れない。『自分が本当にやりたい研究の為に世間受けする研究でお金を集める』、研究者では良くあることだ」
    アグネス「なるほど…」

    世知辛い話だ。その場合、大アウラも相当な苦労をしていたのだろう。考えて見れば新しい研究分野を切り開くには膨大な資金と労力が必要となる。彼女が王族の出自であっても余裕綽々とは行かなかったはずだ。

    タッド・エルスマン「それと…思い出したぞ!確かハイバル女史とクライン夫人はご交流があったはず―」
    アグネス「クライン夫人と言いますと…。シーゲル・クライン元最高評議会議長の奥様の?」

    何とも摩訶不思議な組み合わせだ。独立運動家の妻と外国王族と考えるならギリあり得る範囲なのか。

    タッド・エルスマン「ああ、そのクライン夫人だ。共同研究者だった。ただ研究の中身までは分からない。メンデルは謎が多いからな」
    アグネス「…」

    この文脈で考えるとクライン夫人が共同研究していたのはアンチエイジングか【コーディネイターを超える種の創出】の何れかだ。勿論、科学者が手掛けている研究が2つとは限らない。全く別のテーマに取り組んでいた可能性も否定はできないが…。これで【コーディネイターを超える種の創出】の方だったらどうしてくれよう?

  • 87二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 05:38:07

    ラクスの出自の確信に近いとこまで来とるやんけ!

  • 88二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 11:44:49

    保守

  • 89二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 19:24:52

    凄い

  • 90二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 22:23:25

    あれ、これラクスがアコードだってかなり早い段階で判明するのではないか?

  • 91二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 02:23:07

    保守

  • 92二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 04:05:51

    エルスマン博士からご事情を伺った後、食事を再開する。顎を頭もフル回転だ。一刻千金とは今宵の事だろう。

    アグネス「(大アウラとクライン夫人には一方ならぬ繋がりがあった。デュランダル議長だけではない。ならば他の旧クライン派内にもファウンデーション王国の同盟者がいるのだろうか?)」

    最高評議会議員達やザフト高官の中にもファウンデーション王国と内通している者がいるのか?もしや私達はまんまと騙されていていたのだろうか―。

    アグネス「(穿ち過ぎだわ。落ち着け、私)」

    無論、国家の最高機関に属する人達と我等では見えている物が異なる。公に伏せられていること、特務隊にも知らせていないこと等も山のようにあるだろう。

    それを承知で敢えて言おう。もし議長以外の評議員に根っからのファウンデーション王国シンパが複数人居るならこれまでの出来事に整合性が取れない。余りにも議長のスタンドプレーが目立つ。

    アグネス「(やはり大アウラとクライン夫人は当人同士(+α)の関係と考えるのが自然だと思う。その『+α』に故クライン元議長が入っていたら大問題だけれど。何れにせよ、既にお三方ともお亡くなりになっている)」

    故に脅威判定は下げて差し支えないだろう。カナーバ前議長には念のため探りを入れたい所ではあるけれど。

    他に気になる事がもう一つ。
    もし『大アウラとクライン夫人の共同研究のテーマが【コーディネイターを超える種の創出】』で、『彼女らがその方法を発明していたとして』。産み出されたのは本当にブラックナイツ7人のみだろうか。

    クライン夫人の関与はともあれ、レイの警告から大アウラが少なくとも『それっぽいもの』の製造に成功していたと考える事は不自然とは言えない。

    アグネス「(もう一歩踏み込んで言おう。ヒビキ博士の事例もある。クライン夫人の関与を前提とするなら。ラクス・クラインはブラックナイツの同類の可能性がある、かも知れない。【他者より上へ】それが人の望み)」

    しかし、これはグロテスクな仮定だ。未だ安全性が確立していない、成長過程でどんな悪影響が出ないとも限らない新技術をいきなり母が我が子に試すなど…。出来れば考えたくない。

    あくまで想像実験として―。私なら10人20人と実績を積み上げてから我が子に用いる。せめて最初の被験者の乳幼児期を観察してから決断する。

  • 93二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 04:19:08

    自分の子供の前に他人の子供で人体実験など非人道的と非難されるべき考えだ。しかしこれが人情というもの。

    アグネス「(そう考えると、やはりラクスは違うのか…。ブラックナイツはメンデル襲撃時に生き残った被験者個体だけで。それがあの7人、そう考えるのが妥当なのか)」

    落ち着け!私は自分の想像力が作った迷路に嵌り掛けている。仮定の上に仮定を重ねすぎだ。何れも艦内では確かめようのない事ばかり。地に足を付けて目前の任務にこそ向き合うべきよ。

    アグネス「(警戒すべきは『ファウンデーション王国の面従腹背の外交姿勢(の疑い)』と『特殊なコーディネイター(仮)、ブラックナイツ』。この二つには些かの変化も無い。集中せよ!)」

    そんなことを考えながら食べていると、あら不思議!お皿の上が空っぽになっている。

    アグネス「ごちそうさまでした」
    看護師「はい。じゃあお茶に行きます?」

    さて、どうしたものか。シンとルナマリアとの約束も勿論、大事だ。
    しかし、それ以上にカナーバ議長の事が気掛かりになっている。国防委員会の用向きだけではない。これだけ傍証が揃ったなら急いで警告せずにはいられない。

    アグネス「エルスマン博士。カナーバ前議長にこれ等の事も含めお話ししたいと思います。お取次ぎをお願いできますでしょうか?」

    未だ医務室に留まっていたエルスマン博士にお願いする。ご無礼に感じられたらどうしよう?エルスマン博士はカナーバ前議長の取次役ではない…。

    タッド・エルスマン「良いだろう。だが今は無理だ。カナーバ前議長はグラディス提督とクラーゼク国防委員、トラドール国務秘書官の4人でご会食中だ」

    博士はご快諾して下さる。それは誠にありがたいが…えっ!?

    アグネス「もうトラドール国務秘書官…ブラックナイツと…。間に合わなかった…」

    心の底から震えが喉元まで競りあがってくる。どうしよう。手遅れか? 何に手遅れなのかも私には分からない―。

    タッド・エルスマン「落ち着きなさい。グラディス提督がフォローしているはずだ。面会の件は前議長の補佐官殿に話を付けて置く。安心して食堂に行きなさい。時間が定まったらコールする。業務用デバイスを持って行きなさい。」
    女性主治医「頭をリフレッシュも大事です」

  • 94二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 04:28:40

    私の顔色が余程、悪かったのだろう。博士と主治医は暗に気分転換を勧めて下さる。

    アグネス「誠に申し訳ありません…。本当にありがとうございます」

    『誠に』とか『本当に』を多用するのは良くないと分かっている。でも、そう表現するしかないのだから仕方ない。

    タッド・エルスマン「プラントの為の任務だろう?なら私が力添えをするのは当然のことだ。それまで息抜きしてきなさい」
    軍医「ああ。そうだぞ」

    皆が行って来いと背中を押してくれる。涙が出そう。これで約束破りは回避できるわ。

    アグネス「はい!行ってきます」

    医務室から一路食堂へ、サーキットを走るが如く車椅子を操る。

    看護師「ご安全に!」
    アグネス「はい!」

    調子に乗り過ぎたわ。懲罰房送りは御免よ。

    アスラン「うん?」
    アグネス「アスラン先輩!」

    その途中、仏頂面の赤服が視界に飛び込む。間が良いのか悪いのか、ともあれ敬礼を交わす。

    アスラン「そんなに急いで何処に?」
    アグネス「食堂でルナマリアとシンとお茶を―」

    答えながらアスランの瞳を覗き込む。不味いわ。彼も相当参っている。

  • 95二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 04:35:32

    世界とオーブの情勢、アークエンジェルの行方とキラ・ヤマト氏の安否、ますます不明確になる自分の立場。そこに降って湧いたファウンデーション王国問題まで加わってパンク寸前、と言った所なのだろう。

    アグネス「(フォローしないといけない。誰もが切羽詰まっている時期だからこそ、この人を放置してはいけない)」

    アグネス「よろしければアスラン先輩もご一緒にいかがです」
    アスラン「いや…、俺は。二人に悪い」

    本当に二人に悪いわ!置いて行こうかしら。同期の会に先輩を連れて行くのは気不味いと分かっている。

    でも一応。もう一声。勝手に自爆されても迷惑だわ。それに恩義もある。

    アグネス「私達は皆、明日をも知れぬ身です。今日語らなかったことを明日伝えられる保証はありません。だからこそ私は僅かな日常を、その瞬間を大事にしたいと思います。もしアスラン先輩にお時間があれば…」

    喰らえ!正論パンチ!!

    アスラン「そうだな…。君が正しい。お言葉に甘えよう」
    アグネス「ありがとうございます」  看護師「良いですね!行きましょう!」

    こうして3人食堂に入る。室内の皆と敬礼を交す中、シンとルナマリアを発見!壁際の席だ。

    アグネス「ごめん!遅れたわ。それと途中でアスラン先輩とお会いして…」
    ルナマリア「大歓迎よ!どうぞ」 シン「お疲れ様です」

    二人は気を悪くした素振りを微塵も見せない。むしろ嬉しそうにすらしている。心根の優しい人たちで良かった…。

    アスラン「…ありがとう」

    おお!アスランが微笑みを浮かべている。これで目的達成ね。もう話の内容は何でも良いわ。
    その後、各自が紅茶かコーヒーを自分で淹れて席に着く。私はコーヒーだ。

  • 96二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 09:13:05

    そうなんだよな…
    実際ブラックナイツどラクスがアコードだったのは正なんだけれども
    今まで製造されたのが彼彼女8人のみとは言われてないのがメンデルの恐ろしい所よ…
    ヒビキ博士もキラの前にカナード君を作ってたからね

  • 97二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 16:26:41

    保守

  • 98二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 22:07:33

    さすが初代アスラン係。
    アグネスがいれば安心だな!

  • 99二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 00:58:39

    私、ルナマリア、看護師さん、アスラン、シンでテーブルを囲んで座る。気を抜いて仲間と話が出来るのは何時以来だろう?

    そこからいろいろと他愛無い話で盛り上がる。アスランは基本、聞き役だわ。

    アグネス「…(じ~)」

    連れてきた意味があったか心配になり彼に視線を向ける。

    アスラン「?」

    良かった!彼の目元から緊張が抜けている。冷や冷やさせないで欲しい。

    やがて皆の話題が一巡した頃、ようやくアスランも言葉を発する。ルナマリアに対してだ。

    アスラン「―ご両親も心配だな。君にメイリン、姉妹で軍人なんて」
    ルナマリア「えぇ…フフッ。ていうか、私も心配ですよ。あの子…」

    アスランの心配をルナマリアはさらりと流している。この面子で互いの家族の話は禁句と思っていたが―、これは大事な事だわ。ホークご夫妻はどのようにお考えなのだろう?

    アグネス「(お国の為に名誉な事だとか?そもそもご健在なのか…。友人面している癖に私はこの姉妹の事情を殆ど知らない…)」

    この話題は特大の地雷かも知れない。でもメイリンは大事な戦友だから。タップダンスを踊ってみよう。

    アグネス「あんたが心配しなくても、メイリンは上手くやっていたわよ?彼女は本当に頼りになるわ」
    ルナマリア「他所から見たらね。でも少し前までは…。何か、何時まで経っても軍人としては自覚がないって言うか、フラフラしてる所があって…」
    アスラン「そうでもないさ。俺もお世話になっている」  

    アスランの言葉はきっと彼の本心だろう。勿論、私達はルナマリアの言葉の半分は謙遜と分かってはいる。それはそうとて一応、指摘してみる。そのフラフラがメイリンの強みなのだ。

  • 100二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 01:17:53

    アグネス「フットワークが軽いって言いなさいよ。それともなにー?姉馬鹿?」
    ルナマリア「違ッ…。そうなのかな?」

    照れが混じった笑み。ルナマリアは聡い。妹の成長くらいちゃんと察しているだろう。もっと察しなさい。

    アグネス「だと思うけど?」
    ルナマリア「うん…。そうね」

    明るい彼女の頷きに、少しだけしんみりした感情が混じる。兄弟姉妹(きょうだい)って良いものね。羨ましい。

    アグネス「(居たら居たらで面倒だろうけど。親から蹴落とし合いをさせられるかも…―)」

    馬鹿らしい。そんな想像は不毛だわ。将来、結婚したら子供は二人以上欲しいけれど。今いる家族や友人と上手く付き合う事が最優先よ。

    アグネス「(願わくばホーク姉妹との友情がこれからも続き、もっと様々な事を打ち明け合える日が来ますように)」

    メイリンの後はヴィーノやヨウランの話もする。アスランはアカデミー時代の彼らの話を興味深そうに聞いてくれる。期が違うから彼は二人の事をよく知らない。

    シン「何時もお調子者だけど…。こんな風にヨウランは正義感が強い所があって。だから…」
    アスラン「ヨウラン・ケントが…。分かっている。いや…余り分かっていなかったかな、俺は…」

    口下手ながらシンはアスランに友人達の素顔を伝えようと試み、アスランもそれに応えている。悪印象が本当の意味で解けたみたい。ユニウスセブン落下テロ阻止作戦前の一幕、不謹慎ジョークは軍隊に付き物とは言え困ったものだ。

    アグネス「(でもヨウランはとっくに猛省済み。冗談好きは変わらないらしいけれど悪い事ではない。大事なのは今だ。切り替えて一緒に乗り切らないとね)」

    それはそうと―コールは未だ鳴らない…。イライラするわ。

    アグネス「(会食で話す課題は多い。単に話して終わりではない。持ち帰った後の処理が本番なのだ。仕方ない―)」

    そう分かってはいるが、やはりトラドール国務秘書官の動向が気掛かりだわ。カナーバ前議長とクラーゼク国防委員は上手く乗り切れただろうか?言っても小国相手。グラディス提督の補佐が有るから余程の事は無いはずと思うが…。

  • 101二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 01:52:45

    気も漫ろとなり掛けていると―。突如、艦内放送が流れ始める!頭上からメイリンの声が降って来る。

    メイリン「コンディションレッド発令。コンディションレッド発令。本艦はこれよりL1宙域に。デブリ帯を通過します。パイロットはブリーフィングルームへ集合して下さい」

    時の流れが加速する。本当に速い。もうデブリ帯とは。どうやら極限られた要員以外には航路を秘匿していたらしい。

    アスラン「行こう!」
    アグネス・一同「はい!」

    皆で一斉に席を立つ。私は立てないが細かいことは良い。更衣室に急がねば!

    アグネス「(これで時間切れでは無いわ。デブリ帯通過後にお伝えすれば良い事よ。ともあれ、ここを凌ぎ切る)」

    アグネス「着たままにしておけば良かったわ」
    ルナマリア「あんた。それはどうなのよ?!」

    部屋に飛び込むやルナマリアはパイロットスーツに早、着替え終わる。私は看護師さんの補助を受けながら必死だ。

    ルナマリア「先に行くわ」 アグネス「直ぐに行く」

    ルナマリアを見送ながら大急ぎ。痛い、痛い痛い痛い…。急ぐと足が痛い。

    看護師「大丈夫ですか?脂汗が…」
    アグネス「平気です」
    看護師「分かりました。これから戦闘ですか?」

    彼女の声に怯えの色はない。単純に私の体調と外部で起こり得る事象を気にしてのもの。故に安心してお伝え出来る。

    アグネス「航路はザフトの別動隊が押さえていると報告されました。戦闘リスクはさほど高くは有りません。しかし『戦場の霧』は何処にでも立ち込めます。連合もミネルバを黙って通したくはないでしょう」

  • 102二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 08:00:36

    保守

  • 103二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:53:40

    保守

  • 104二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 22:47:04

    保守

  • 105二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 03:39:49

    看護師「ではリスクは中くらいですね。分かりました。先生にお伝えします」
    アグネス「お願いします」

    看護師さんに医務室へ一報を入れてもらう。足を通してもらったパイロットスーツを自分で着込み準備完了だわ。

    通路を進みブリーフィングルームに入室すると、パイロット隊の過半が既に揃っていた。怪我で着替えに時間が掛かるせいだ。足を引っ張っているようで心苦しい。

    アグネス「(ウジウジしても仕方ないわ。最後にならなかっただけましと思うことにしよう)」

    勿論、後から来る人を悪く言う積もりも無い。ブーメランになって返って来るのが怖い。

    さて、座席に向かうとハイネ先輩がアスランに話し掛けている。

    ハイネ「アスラン。どうだ?」
    アスラン「はい…。いや、まあ」
    ハイネ「まあ、上手くやろうぜ。アグネス、足は良いか?」

    私にもお声を掛けて下さる。雰囲気的に他のパイロット隊員にもそうしていたのだろう。

    アグネス「はい!行けます」
    ハイネ「良し!その意気だ。頼りにしてるぜ」

    モチベーターが居てくれるのは本当にありがたいわ。気持ちが楽になった。任務前に互いに励まし合い士気を高めることは重要だ。残るパイロット隊達も続々と室内に飛び込んでくる。素晴らしい。意気軒昂では無いか、我が隊は!

    最後に入室したのはトライン副長だ。扉が閉まると同時に皆で揃って敬礼を交わす。

    アーサー「着席。本艦はこれよりデブリ帯を通過する。この空間はデブリ海とも呼称される。膨大な宇宙廃棄物が地球をリング状に取り巻く航宙の難所だ。幸いな事に我々は複数回の通過航行と実戦経験がある。しかし慢心は厳に戒めなければならない」

    トライン副長はまくらを述べた後、ご自身でスライドを操作する。メイリンやアビーはブリッジで多が話せないからね。モニターに表示されたのはミネルバのL1宙域以降の航路だ。

  • 106二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 03:57:23

    一同「ぉぉ…」

    周囲の空気が少し揺れる。やはり地球までの具体的なルートはブリッジクルー以外には伏せられていた。FAITHは質問すれば答えてくれたと思う。でも皆、一杯一杯だった。

    トライン副長の説明は続く。

    アーサー「皆も知っての通り、地球連合宇宙軍はレクイエム・ダイダロス基地攻防戦で壊滅状態となり残軍は月の表のアルザッヘル基地に寄っている。あの基地は地球連合にとって宇宙に残された最後の大規模拠点と言える。
    我々ザフトは月の裏のダイダロス基地を奪取して拠点化を完了。月面はザフトやや優勢の形で二分されている」

    つまり、『地球連合が宇宙艦隊を今大戦中に再建するのは容易ではない。アルザッヘル基地に十分な注意を払えば宇宙空間の安全は確保されたも同然』、プラント最高評議会と国防委員会、国防本部はそう考えていた。

    基地周辺宙域を完全封鎖は無理にせよ、厳重哨戒しておけば事足りる、と。

    アグネス「(彼らの慢心を私は笑えない。自分にも漠然と終戦も遠くないと思う気持ちがあった。戦争の主導権は此方にある。何時ヘブンズベースを攻めようか、等と)」

    ユーラシア連邦軍の退潮を肌で感じていたから変に気が大きくなっていたのだ。

    アーサー「しかし地球連合、中でも大西洋連邦の国力は我等の想定以上だった。彼らは自国のユニウスセブン落下テロ被害とロゴス暴露による政治経済の混乱を半ば無理やり押し切り、パナマから宇宙に軍を上げている」

  • 107二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 04:16:00

    トライン副長は必要に応じてスライドを切り替えながら説明を続ける。

    ボルタ・パナマから打ち上げられた連合軍の一部はザフトの哨戒網を潜ってアルザッヘル基地の友軍に合流した。残りはデブリ帯に潜伏していると予想される。打ち上げは今も断続的に確認されているとのこと。

    アーサー「無論、それらの部隊が我々を待伏せしようとしているかは不明だ。広大なデブリ帯で会敵を図ることは彼我ともに容易ではない。故に本艦は高速を活かし一気にこの宙域を駆け抜ける事が最大の防御である。しかし―」

    今回の任務は何時もと趣が異なる。
    まずミネルバがアプリリウスを発ったことは国際会議の出席予定国に通知済みだ。国威発揚を兼ねて宇宙港には評議員と国民が大勢見送りに来ていた。公開情報と言って良い。地球連合軍も当然察知している。

    アグネス「(コンディションレッドが発令されるわけだわ。出港後の航路を厳秘としていたのは当然だったのね)

    トライン副長は説明を一旦区切るとモニターをスライドから光学に切り換える。画面に映るのは放棄されたコロニーの残骸だわ。この光学映像はブリッジからの物か、それとも?レーダー情報も隣に投影される。

    アーサー「これは極秘先行中の部隊からのものだ。ダイダロス基地所属のナスカ級3隻とジン長距離偵察複座型1個中隊がミネルバの航路の安全を確保・監視している。
    彼らから上げられた情報はブリッジとブリーフィングルームモニターで共有する。先行隊のみならず本艦パイロット隊も敵影在れば、即時に発進もあり得る。諸君は画面から情報を確認しつつ、緊張感を持ってこの場で待機せよ」
    アグネス・一同「了解!」

    この指示を以てブリーフィングは終了する。トライン副長の背中をお見送りする間も、ブリーフィングルームモニターが移す光景は移り変わって行く。

    画面が切り替わるたびに部屋内の空気は緩急を繰り返すのだから堪らない。

    アグネス「(当分はこれと睨めっこか。神経が磨り減るわ。それは何時も通りか)」

    何れにしても早くこの宙域を抜けたい。ここにはあまり良い思い出がない。

  • 108二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 12:08:15

    保守

  • 109二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 19:18:28

    保守

  • 110二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 23:10:24

    ミネルバ一隻で内憂外患状態だな……おいたわしや。

  • 111二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 00:18:43

    まぁ開戦してからほとんどそんな状態だったし大丈夫でしょ(白目)

  • 112二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 02:26:01

    浮遊する無数の金属片を蹴散らしながらミネルバは進む。大小のコロニーの残骸、浮遊する小惑星、無数の亡骸、この宙域を構成する物質は実に多様だ。

    アグネス「(世界樹の残骸もこの中に。崩壊前に内部の人間は全員脱出できたのだろうか?)」

    C.E.70年2月22日の攻防戦で砕け散った世界初の宇宙都市。前大戦当時の私はコロニーを奪取できなくて残念としか思わなかった。今は異なった感情を抱き始めている。かつてほど私は人の死に鈍感になれない。

    アグネス「(この心は戦時は弱さだ。追い払わなくては自分と味方が死ぬことになるわ)」

    隣から発せられたルナマリアの声が意識を目前の任務に引き戻してくれる。

    ルナマリア「あんまり得意じゃないんだけどね、デブリ戦」
    アグネス「私もそうよ。彼我にとって危険な宙域。敵もデブリ自体の中に入ろうとはしないと思うけれど。それこそ油断大敵よ」
    ルナマリア「ふふっ…。何だかアカデミー時代のレイみたいなこと言うわね。ちょっと調子狂うかも」
    アグネス「何よ!偶には良いでしょ」

    お互い軽口を叩き合う。私もルナマリアも不真面目な積もりはない。緊張を適度に緩和しているのだ。

    アグネス「(それにしてもじれったい。まるで潜水艦が出没する海域を航行する船舶みたい)」

    おそらくこれで喩えとして間違ってはいないだろう。連合が無理やりにでも宇宙に軍を上げ続けるのは軍事的に間違いとは言えない。

    『地球連合軍がデブリ帯に潜んでいる』事実のみで、地上・プラント間の移動リスクとコストは跳ね上がる。
    『何時敵が攻撃して来るか分からない』と言う心理的圧力自体が彼らの攻撃なのだ。連合軍の戦略は見事に成功していると言えよう。

    現に今回の遠征でザフトは本来必要が無かった先行分艦隊の派遣を強いられ、私達ミネルバ乗員とパイロット隊は消耗を強いられているのだから。

    アグネス「(パナマのマスドライバーを潰すしか手はないのか。しかし―)」

  • 113二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 02:54:39

    それは時間が出来た時に考えるべきこと。今ではない。

    現に偵察ジン隊と先発ナスカ級の光学・レーダー情報は途切れなく舞い込み続けているのだから。お陰で私も皆も目が銀ギラ銀、完全にテンションがおかしくなっている。

    そんな中で艦内放送が流れる。

    アーサー「全艦に通達。現在、ミネルバはデブリ帯航路の中間地点を通過した。引き続き警戒を怠る事の無きように」

    やっと真中か…。落胆の混じった感情が押し寄せる。こんなに自分は堪え性の無い人間だっただろうか?

    デイル「まだ真中か」 ショーン「もう真中と思わないと」

    背後から仲間の話声が聞こえる。そうだわ!軍艦のパイロットが何を言っているんだか。怪我を負って気が弱っているんだわ。心を強く持たないと!

    何とか気を取り直し光学映像とレーダーを睨み続ける。残り3分の一を切った!良し。このまま、このまま―。

    モニター画面の端に複数の機影を視認する!甘い幻想は瞬時に打ち壊される!やはり居たか…。

    アスラン「あれは!連合?」  ハイネ「やばい居るぞ!偵察ジンが危ない!」

    距離8000。巨大なコロニーの残骸の影から次々とウィンダム(?)が飛び出てくる。数は2個中隊30機程度。

    先行隊偵察ジンパイロット「うん?敵影捕捉!ウィンダムとダガーL混成。数30!撤収します」

    偵察ジン索敵担当の報告が一拍遅れで伝わる。画面の手元側から覗くのはスナイパーライフル。しかしあの機体の戦闘能力はさほど高くない。彼は務めを果たした。生還を!

    先行ナスカ級艦長「敵影捕捉了解。撤収を許可する。グラディス提督!報告の通りです」
    タリア「了解。今回は戦闘が主任務ではない。可能なら遣り過ごしましょう」
    先行ナスカ級艦長「了解」

  • 114二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 03:19:01

    指揮官同士の緊迫した通信が室内に響く中、私達の間には高揚感が漂い始める。皆、会敵した事に安堵しているのだ。

    これは冷静に考えるなら奇妙な心理と言える。戦術的に見れば敵に見つかり先手を取られた。本来は慌てるべき所。

    しかし現実的な人間の心理として、居るか居ないか分からぬ敵より目前に迫る脅威の方が目に見える分対処しやすいと思ってしまう。これは本能に近い。今回はそれで良いはずだが…。何れにせよ、余計な動揺は制御するべきだわ。

    ハイネ「全員注目。トライン副長、パイロット隊は何時でも行けます」

    その刹那、モニターに3本の光が走る。

    先行隊偵察ジンパイロット「うわっ!」

    危ない!敵モビルスーツ群の先頭3機が偵察ジンの背後からビームライフルを撃ち放ったのだ。

    幸いな事に偵察ジンは回避に成功した…。

    アグネス「(違う。敢えて殺さず追い立てて、母艦の位置を割り出そうとしている!?)」

    しかし偵察機に『帰って来るな!その場で任務を全うせよ!』等と言える筈もない。そうした非情な判断は本当に最後の最後に採るべきものだ。今は先遣隊の援護に全力を尽くすべき時よ。

    アーサー「了解。提督!」
    タリア「パイロットは搭乗機にて待機せよ!対艦対モビルスーツ戦闘用意。先行の分艦隊に通達、本艦パイロット隊が援護に向かいます」
    アグネス・一同「了解!」

    命令に即答するや皆で部屋を飛び出す。先行分艦隊は1隻につきザクの直掩が2機ずつ。偵察ジンを総計12機艦載してきた為、戦闘力は高いとは言えない。急がねば。

    先行ナスカ級艦長「感謝する」

    車椅子の背中から危機感と安堵が混じった艦長の声、早く助けに行かないとね。

  • 115二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 08:44:40

    保守

  • 116二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 17:02:50

    モビルスーツ格納庫に降り各自が己のモビルスーツの下へ駆け進む。私は車椅子をダッシュさせてレジェンドの足元へ。この機体を傍から見上げるのはこれが初めてだ。

    シミュレーターで一度目の訓練を終えたその日に実戦とは!動乱の時代ならではのスピード感ね。

    ヨウラン「アグネスも行くのか?大丈夫か?」
    アグネス「命ぜられれば、当然!何時もの事よ」
    ヨウラン「そう言えば…分かった。頑張れ!」

    モビルスーツ昇降機に乗り込みコックピットへ。看護師さんに補助してもらい座席に着く。上手い、さすがプロ。足は全く痛まなかった。

    看護師「ご武運を!」
    アグネス「はい!貴女にも幸運を」

    コックピット起動、計器類が一斉に灯ると同時に私の脳内の戦闘スイッチもオンになる。

    タリア「ブリッジ遮蔽。熱紋監視、より一層厳に」
    アーサー「CIWS、トリスタン、クルヴェナール、クワール機動連装砲、起動。ミサイル発射管全門ナイトハルト、ディスパール装填」

    ブリッジで飛び交う指示が回線越しに聞こえる。

    先行ナスカ級艦長「分艦隊の集結は配置的に無理だ。却ってリスクが増える恐れもある。残る偵察ジン中隊は任務を続行させる。故に防御は当面、本艦単独で行わざるを得ない」

    ナスカ級1隻とザク2機で敵モビルスーツ2個中隊を相手取るのは不可能だ。あの艦は既に補足されてしまったのか?これの点は私達には知りようがない。

    タリア「了解。モビルスーツ隊発進開始。うちデスティニー3機は加速力を活かしてナスカ級の援護に急行せよ」
    アグネス・一同「了解!」

    この決断は決定的だ。モビルスーツ隊を発艦させ、ヴォワチュール・リュミエールの翼を広げたデスティニーを送り出せばミネルバの所在も敵に悟られる。3機の進行方向から敵に先行ナスカ級の位置も確定させられてしまう。

    しかし息を潜めて遣り過ごせる機は過ぎた。押し通るまでの事よ。

  • 117二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:53:42

    デスティニー3機か…
    連合兵はロックオンすらできるか?

  • 118二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 04:11:30

    保守

  • 119二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 04:35:38

    メイリン「全システムオンライン。発進シークエンスを開始します。カタパルトハッチ及び甲板エレベーター出口解放。射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常。進路クリアー。
    デスティニー、ハイネ・ヴェステンフルス機、アスラン・ザラ機、シン・アスカ機、発進どうぞ!」

    ハイネ「ハイネ・ヴェステンフルス、デスティニー、行くぜ!」
    アスラン「アスラン・ザラ、デスティニー、発進する!」
    シン「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」

    メイリンのオペレーションに導かれてザフト最新鋭モビルスーツ3機がミネルバを飛び立つ。その雄姿には見惚れるものがある。

    アグネス「(これは…。不完全ながら『コンクルーダーズ結成』とも評し得るわ。この光景を見ればデュランダル議長も感無量だろう)」

    これは強ち皮肉ではない。もしかしたら彼はアーモリーワンにタリア・グラディス艦長(当時)以下の将兵を配属した時にはこの構想を抱いていたのかも知れない。

    自らの駒になるザフト最精鋭部隊を育て上げる。それを用いて自らが思い描く世界秩序を打ち立て守護させる―。

    アグネス「(果たしてどこまで?当戦争勃発が議長の狙い通りなら。彼はもしや『全ての戦争を終らせる為の戦争』を望んでいる?)」

    流石に発想が飛躍し過ぎだ。そもそも何処までが彼の思惑か判然としていない。今は余計な事を考えるな。

    メイリン「全システムオンライン、進路クリアー、インパルス、発進どうぞ!」
    アビー「カタパルト推力正常。進路クリアー、レジェンド、発進どうぞ!」

    左右カタパルトでは私とルナマリアの発進シークエンスが同時進行している。オペレーターが二人居るのは心強い。

    アグネス「アグネス・ギーベンラート、レジェンド、出ます!」
    ルナマリア「ルナマリア・ホーク、インパルス、行くわよ!」

    さて、私はレジェンド発艦と同時にバックパックから高エネルギービームライフルを取り外す。インパルスのカバーに回るのだ。あの機体はドッキング・シルエット換装時が弱点。

    横目でルナマリア機を視認、虚空に躍り出たインパルスは青色に輝く。本体はドッキング済みだ。特段の事情がない限りその方が高効率言えよう。

  • 120二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 04:47:06

    メイリン「フォースシルエット射出!」
    ルナマリア「了解!」

    ルナマリアは驚くほどスムーズにシルエット装着を完了する。音も無くとはこのことだ。訓練の甲斐があったわね。

    ルナマリア「カバー、ありがとう」
    アグネス「どういたしまして。念のためよ」

    シンの搭乗時は余り思い至らなかった。あいつの技量に対する甘えが心の何処かに生じていたのだ。もしドッキング時に攻撃を受けていたらと思うと背筋がゾッとする。そうした場面が無かったのは幸いだったわ。

    後方ではセイバーとカオスもカタパルトから発進、ショーンとデイルが搭乗している。甲板エレベーターからはアビスとガイアが競り上がる。中々の戦力では無いか!

    タリア「ガイアは甲板にてミネルバの火力の底上げを。アビスとセイバーは艦の直掩。レジェンドとフォースインパルス、カオスは小隊を組み、デスティニー小隊の後を追うように」
    アグネス・一同「了解!」

    レジャンドとインパルス、カオスで編隊飛行開始する。コックピットモニターで光学映像を視認。ヴォワチュール・リュミエールの桃色の輝きが超高速で前方を疾走している。

    アグネス「(まだ偵察ジンは撃墜されてはいない!ともかく急ごう…)」

    レーダーには味方の偵察ジンを追い込む2個中隊の敵モビルスーツ群も表示されている。彼らは見慣れぬモビルスーツの急接近に気づき陣形を再編、散兵に近い形で飛行している。

    その間もコックピット回線からはブリッジ内の会話が流れ続ける。

    タリア「クラーゼク国防委員…」
    クラーゼク「すまないな。グラディス提督。その…トラドール国務秘書官殿がブリッジでの観戦をご希望で…。お断りするのも角が立つし…。入れてもらえないか?」
    タリア「えっ!…いえ、それは…」

    何とも下らない遣り取りだわ。いや…下らなくはないのだが…。今する事か!それ?
    外交も同盟も大事だけれど、この鉄火場に。正直に言えば煩わしいわ。

  • 121二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 08:42:23

    このタイミングだとスパイムーブにしか...
    てかこの土壇場で軍事上の機密等もある最新鋭艦のブリッジに他国の人間を入れるのは
    諸々の事を差し置いてもぶっちゃけ相当ヤバいのでは?

  • 122二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 16:41:45

    保守

  • 123二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 23:14:08

    保守

  • 124二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 02:12:38

    ともあれ脳内を六分割し、偵察ジン、ナスカ級、デスティニー小隊、自分の小隊、ミネルバ、そして回線越しの音声に割り振る。視線は光学映像とレーダーに釘付けにする。

    徐々に敵の陣容が判明して来たわ。敵モビルスーツ部隊はウィンダム18機とダガーL12機より編制されている。全機、エールストライカー装備!

    アグネス「(ドッペルホルン連装無反動砲装備機が見当たらない。対艦攻撃は主任務では無かったのか?)」

    6分の1の意識はブリッジの遣り取りに回す。どうせ聞こえて来るなら、最初から脳の容量を割り当てて置く。

    クラーゼク「どうかな…。私としては―」
    タリア「…」

    困ったわ…。ミネルバには悪い前例がある。以前、中立国の国家元首たるアスハ代表を戦闘中にブリッジに上げてしまった。あの時のデュランダル議長の行動は今振り返って見ても意味不明だわ。

    それと比べれば、国務秘書官の申し出はまだそれなりの正当性がある。プラントとファウンデーション王国は事実上の同盟国・共同参戦国だ。やや間接的ながら共同戦線を張って戦っている。この攻撃は王国視点では自軍に対するそれに等しい。少なくとも建前上は。

    アグネス「(故にトラドール国務秘書官が本戦闘に『強い関心を表明すること』自体はプラントとして歓迎するべき。まして彼女も我等と浮沈を共にするのだから)」

    ただ、それを以て艦橋に入れて良いかとなると話は別だわ。

    アグネス「(うーん、しかし使節団長たるトラドール国務秘書官を『同盟国の将官級の観戦武官に類する者』と捉えれば。極端に無茶な要求ではないのか?)」

    彼女は武官としての立場も有する。歴史上、それに近い例が全くないとまでは言わない。しかし、せめて事前に協議や合意をしてからにして欲しかった。これではクラーゼク国防委員が困った声音になるのも致し方ない。

    タリア「クラーゼク国防委員。本官タリア・グラディスはイングリット・トラドール国務秘書官閣下のお申し出を武人として光栄の極みと存じます。しかし今は全艦で目前の戦闘に専念したいと願います。お立ち寄りはまたの機会に」
    クラーゼク「う…うむ」

    良し!グラディス提督のご選択は正しい。断れて偉いわ。そうよ!前回とは政府も状況も違うのだ。
    勿論、提督ご本人の内面も。あの時よりずっと頼り甲斐を感じるわ。

  • 125二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 03:36:43

    …イングリッドが闇に堕ちろでタリアの過去覗いたらギルとのあれこれでクネクネしないか?

  • 126二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 04:11:24

    その上でグラディス提督は一言付け加える。

    タリア「トラドール国務秘書官は何方に?」
    クラーゼク「私の傍に。レクリエーションルームだ」
    タリア「分かりました。ブリッジの戦闘モニターとレクリエーションルームモニターをリンクさせます。ご観戦はどうか、そちらで願います」

    苦肉の策、と言うか大妥協ね。どうかな?

    イングリット「ご無理をお聞き下さり感謝します。クラーゼク国防委員、グラディス提督。ファウンデーション王国を代表して今宵のザフト軍・戦闘艦ミネルバのご奮戦に感謝と強い連帯の意を表します。全パイロット・乗員の武運と勝利を祈念申し上げます」

    『感謝と強い連帯の意』、『武運と勝利を祈念』2ポイントゲット!同盟国からの精神的支援と言うやつね。

    アグネス「(この言葉をザフトに伝え、道中の戦闘を見届けることも使節団長たるトラドール国務秘書官のお役目に含まれるのだろう。軍事的知見を本国に持ち帰ることも含めて)」

    それをどうこう言っても仕方ない。皆、己の務めを果たすのに必死なのだ。

    タリア「ありがとうございます。艦の安全を守るべく努めます」

    メイリンが艦内モニターを同期させた気配が耳に届く。こうして回線越しの鬱陶しい会話がようやく一区切りつく。

    アグネス「(好きにしてくれれば良い。そっちはそっち、こっちはこっちだ…わ?!)」

    アグネス「え…」

    それまで偵察ジンを執拗に追い立てていた敵モビルスーツ群の内、ウィンダム15機が急速反転した!彼らは敵も味方も置き去りに散り散りにデブリに逃げ込んで行く!

    一方、片割れのウィンダム3機とダガーL12機は前進を止めない。スラスターを全開にして偵察ジンに吶喊、ビームライフルを遮二無二に撃ち掛ける。

    アグネス「(吶喊しているのは決死隊か!?)」

  • 127二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 04:41:10

    超高速で迫る桃色の翼が見えぬはずもない。彼らも私達ミネルバ隊の接近は探知している。

    狂気かそれとも冷徹な計算なのか?考えるのは今じゃない!

    ハイネ「正気か!?」 アスラン「ッ!」  シン「くそ…。この!」

    戦況の急変に即応して、デスティニー・ハイネ機はM2000GX高エネルギー長射程ビーム砲を発射する。アスラン機、シン機もそれに続く。長大な砲身から極太の光線が迸る。

    しかし―。その半瞬前にレーダーから光点が2つ消え去る。偵察ジンと先頭に立って吶喊して来たウィンダム1機だ。

    我等の戦友は唯では斃れなかった。スナイパーライフルで振り返りざまに先頭機を撃墜して見せたのだ。

    その刹那の後、暗黒空間を大ビームが薙ぎ払う。第一斉射に続き第二斉射、第三斉射と続く。

    『M2000GX 高エネルギー長射程ビーム砲』高威力と長射程、連射性を兼ね備える恐るべき兵器だ。ケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲をも凌駕する。ブラストインパルスのフルバーストを見慣れた私でさえ震えあがりそうになる。

    理不尽な程の大火力を前に、決死隊(と推測される)残り14機がこの宙域に漂う星屑に加わるまで本当に瞬く間だった。彼らも見慣れぬ新機体を十分に警戒し、分散突撃を仕掛けたようだが…。一溜りも無かった。

    アグネス「今の隊は囮かもしれない。ナスカ級に急ぐわよ」
    ルナマリア・デイル「了解」

    殆ど反射的に僚機に指示を飛ばす。助けようとした味方が殺されても落胆や失望を感じる暇も無い。

    今、脳内を過ぎるのは別の事だ。

    アグネス「(端から相打ち覚悟だったのか…。でも命の収支が合わない。敵味方で16機。偵察ジンは複座式、それでも15:2。威力偵察が目的だったのか?)」

    予断は禁物だ。目前の任務に集中。直前にデブリに逃げ込んだ15機はどうしたものか?ご判断を待つしかない。

  • 128二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 11:03:45

    保守

  • 129二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 12:12:43

    >>124

    改めて序盤ミネルバのデュランダル議長を見直すと

    国家元首なのにブリッジに上がり込んで前線に立とうとするわ

    中立国オーブのアスハ代表をブリッジに連れ込むわ

    軍事素人なのに横からあれこれ口を出してくるわ

    艦内で元カノとロマンティスクに耽るわ

    問題行動のオンパレードすぎて…

  • 130二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 17:23:31

    >>127

    名無し砲ってゲームだと中堅武器みたいな印象になりがちだけど、本来は必殺の威力のビームを照射してるんだよな。

    それが3機で斉射してくるんだから…

  • 131二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 18:12:45

    >>129

    だからこのスレのアグネスからもアグネスポイントがマイナスなわけでして…

  • 132二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 00:42:05

    保守

  • 133二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 02:58:11

    逃散したウィンダム1個中隊は複数のデブリ群に逃げ込んだ。

    シン「追わなくちゃ!」 
    アスラン「待て!シン。それが彼らの策かも知れない!」
    ハイネ「だが、あいつ等の目的が偵察なら…。情報を持ち帰られるわけには行かないぞ!」

    コックピット回線からデスティニー小隊の緊迫した声が流れ込む。

    どの言い分ももっとも。でも思考の混乱に巻き込まれたくない。交通整理を!

    アグネス「回線をミネルバブリッジとハイネ機に固定します」
    タリア「分かったわ」
    ハイネ「了解」

    ナスカ級は何処だろう。レーダーの信号を元に目を皿にして光学映像を確認する。味方艦は敵モビルスーツ隊の目を逃れる為、推力を絞って脇道に伏せている。
    そのためデスティニー3機は彼らを追い越し、前方に大きく突出した形になっている。

    ハイネ「グラディス提督。先程の攻撃が威力偵察であるなら。残敵を掃討しないとデスティニーの機体情報が連合軍上層部に伝わります」
    タリア「分かっているわ。でも既にデブリに逃げ込まれた以上、殲滅は容易ではない。
    また本艦の当宙域における目標は速やかな通行にある。追撃戦は30分のみ。もし信号弾が上がったら無条件で切り上げて。アグネス達はナスカ級を守りなさい」
    ハイネ、アグネス、一同「了解!」

    私達に後を託してデスティニー小隊はスペースコロニーの残骸群に向け突き進む。一抹の不安が過ぎる。ゲリラ戦は強力な兵器と対峙した側が用いる常套手段。デブリに深入りしてはいけない。

    アグネス「(そう言う話になっているのだから大丈夫よ!皆、馬鹿ではないわ。自分の任務に集中しないと)」

    アグネス「…!信号一致。当機から3時方向のデブリの影にナスカ級。直掩のブレイズとガナーのザク2機も。ルナマリア、デイル、確認できる?」
    ルナマリア「確認できたわ」 
    デイル「確認した。あそこに隠れていたのか」

  • 134二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 03:14:48

    良かったわ。信号弾打ち上げを要請しようか迷っていた。敵の更なる潜伏が疑われる状況下では避けたいことだった。

    アグネス「ナスカ級、応答を願います。ミネルバパイロット隊、特務隊アグネス・ギーベンラートです。これよりレジェンド、インパルス、カオスが貴艦を護衛します」

    コックピットモニターが灯ると同時に相手艦の艦長と敬礼を交わす。

    先行ナスカ級艦長「よく来てくれた。一旦ミネルバと落ち合う運びになった。この回線を固定してくれ」
    アグネス「了解。貴艦ブリッジと回線を固定します」

    これで此方の方針は定まったわ。ルナマリアとデイルに呼びかけよう。

    アグネス「護送するわよ。レジェンドが艦中央部、インパルスは左舷、カオスは右舷。それぞれ直掩のブレイズザク、ガナーザクと連携して」
    ルナマリア・デイル「了解!」

    近寄って見るとナスカ級も中々に大きい。255m。ミネルバが大きすぎて普段、感覚が麻痺している。

    アグネス「(偵察機は守れなかったわ。この艦だけは…)」

    私達は随伴飛行を開始する。5機の直掩を受けて艦はスラスターを再始動する。

    アグネス「(デブリの戦闘も気になる。でも確認している余裕はない。急があればブリッジから一報があるはず)」

    今はミネルバとの合流を急ごう。ここに長居してはいけない。このエリアはミネルバがこれまで通って来た航路と比べてもデブリが多い。

    だからこそ、わざわざ先に来て警戒してくれていたのだ。報いなければ。

    アグネス「(あと少しで合流ポイント。気を抜くな)」

    そう思ったのも束の間だった。危機感を露にした顔が回線から響く。

  • 135二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 03:32:56

    先行ナスカ級艦長「偵察ジンより入電。本艦に向けMk5核弾頭ミサイルが2本発射された!直下の小惑星の影にマルチランチャー装備ウィンダム1、護衛のエースストライカー装備ウィンダム2!既に発見した機と交戦中とのこと!」
    アグネス、ルナマリア、デイル「了解!!」

    レーダーに不気味な光が2個灯る。嫌な予感ほど的中する。

    高速で接近するミサイル、心臓が早鐘を打つ。最初からこの艦が標的だったとは考え辛い。本来、ミネルバを狙う予定が『隙が無いから別の首級を上げよう』と言うことか。

    止せ。今はどうでも良い。

    アグネス「墜とす!行きます。カオスも」
    デイル「おう!」
    先行ナスカ級艦長「了解。頼む」

    カオスと共にレーダーが示す光に向けて全力で突進する。最新鋭機ゆえかレジェンドが先行する。

    アグネス「(それでも―。今はもどかしい。デスティニーのヴォワチュール・リュミエールを目の当たりにした後では、レジェンドの加速力は物足りない)」

    ピコーン、ピコーンと鳴り響く警報音が五月蝿い。外したらどうしよう?核ミサイル迎撃なんて経験がない…。

    普通の戦術ミサイルと同じよ!何を今更、怖気づくな。

    アグネス「ミサイル捕捉!『ソリドゥス・フルゴール・ビームシールド発生装置』展開。
    高エネルギービームライフル照準合わせ。『GDU-X7突撃ビーム機動砲』、『GDU-X7突撃ビーム機動砲』、『GDU-X5突撃ビーム機動砲』全門分離。機体傍で発射スタンバイ」

    そうだわ!ここは砲数を生かすべき時よ。確実を期さねば。

    アグネス「『GDU-X7突撃ビーム機動砲』2基5門はカオスに回すわ。そっちに飛ばす」
    デイル「了解。レジェンドと戦術リンク。ミサイルを此方も補足。高エネルギービームライフル照準。『カリドゥス改・複相ビーム砲』、『ビーム突撃砲』発射スタンバイ!」

    良し。いざとなればCIWSを連射して肉迫する覚悟よ。この機体にはビームシールドもある。お守り代わりにね。

  • 136二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 03:49:09

    ピピピピピピピ…。ピピピピピピピ―。暗黒の宙を禍々しい兵器が高速で迫る。

    アグネス「発射!」

    引き金を引き高エネルギービームライフルを連射、傍に残した突撃ビーム機動砲16門の火力も合わせて核ミサイルに叩き込む。

    瞬時に網膜が蒸発し、脳を熔け落す程の光が全身を襲う。何発がどう当たったかは後で検証すれば良い。眦を引き裂きレーダーを睨みつける。まだ1本残っている。

    アグネス・デイル「発射!」

    カオスの高エネルギービームライフル1門とビーム突撃砲2基2門が火を噴く。私もレジェンドから飛ばした突撃ビーム機動砲2基10門を一斉掃射だ。

    直後にはカリドゥス改・複相ビーム砲は虚空を薙ぎ払う。
    幾本ものビームで撃ち抜かれたミサイルは、強烈な明かりで宙を照らす。

    デイル「うぉ!眩しい…」
    アグネス「(美しい光だわ。思わず見惚れてしまう…)」

    今度はしっかり見えた。カオスのビームライフルとレジェンドの突撃ビーム機動砲8門が同時にミサイルを撃ち抜いていた。軌道的を見るに、万一、撃ち漏らしてもカリドゥス改・複相ビーム砲がカバーできていたと推測できる。

    アグネス「(デイルにとって大きなお世話だったかも。そもそもレジェンド1機で2本を対処するべきだった)」

    私もまだまだ修行が足りないわ。数撃てば当たる戦法は万能ではない。

    タリア「信号弾上げ!ハイネ、ここまでよ。引き揚げなさい。核ミサイル装備機が居たわ。これ以上リスクは取れない。当宙域を即時に離脱します」
    ハイネ「了解!」

    彼方から流星のような輝きが宙に走る。無意識の気の緩みばに注意する。着艦するまで戦闘は続くのだ。
    レジャンドとカオスで編隊を組みナスカ級の元へ急ぐ。艦はちょうど回避運動を終えたばかりだ。

  • 137二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 10:50:39

    ジブリ「レクイエムを失っても我々にはまだ核がある! これが勝利の鍵だ!」

  • 138二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 18:07:30

    保守

  • 139二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 00:20:16

    保守

  • 140二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 00:32:22

    ナスカ級と直掩3機と合流する。チャンネルモニターにナスカ級艦長が顔を覗かせる。

    先行ナスカ級艦長「良くぞ。ご苦労…」
    アグネス「ありがとうございます」

    彼の労いの言葉には、どうやら感謝と安堵以外の感情も含まれているようだわ。嫌な予感がする。

    アグネス「それで敵機は?」
    先行ナスカ級艦長「1機撃墜、2機は取り逃がした。こちらの偵察ジンも1機喪失。相打ちだ。パイロットは戦死」

    やはりそうなってしまったか。護衛機に喰われてしまった。人命の損失交換比率で見れば2:2。人口比を考えればこちらの負けと言える。

    アグネス「…お二人の勇戦に敬意と感謝を」
    先行ナスカ級艦長「ありがとう」

    ともあれナスカ級はミネルバの傍へ。ちょうど同じタイミングでデスティニー小隊も帰還を果たした。これで私達の任務は一応、達成できたと言える。

    ルナマリア「ごめん。お先に」
    デイル「悪いな」
    アグネス「いいえ。ゆっくり休んで」

    インパルスとカオスはデュートリオンビームで充電した後、先に着艦する。バッテリー機は休憩タイムだ。ハイパーデュートリオンエンジン搭載機であるデスティニー3機とレジェンドは、4機小隊を組んで直掩任務を継続する。

    タリア「ハイネ小隊各員に通達。話が纏まったわ。本艦はナスカ級とポイントBに向かいます」

    コックピットデバイスに目標座標が送信される。ここよりも見通しの効く、待ち伏せされる恐れの少ない場所だわ。ミネルバの元々の航路の途中地点でもある。

    タリア「ここで残り2隻のナスカ級と偵察ジン中隊10機と合流。4隻で速やかにデブリ帯を抜けます」
    ハイネ・アグネス・アスラン・シン「了解!」

  • 141二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 00:47:08

    考えて見れば、元々はミネルバが『守られる側』だったのに逆転した形だ。この待ち伏せもあるいは分艦隊が月から付けられていた可能性もある。

    アグネス「(全て結果論ね。偵察網自体は有効に機能していたわ。細かい検証はこの鉄火場を越えてからで良い)」

    合流ポイントに向かう途中、ハイネ先輩が掻い摘んで状況を教えて下さる。

    ハイネ「デブリ戦でシンがウィンダム4機を撃墜。待ち伏せされた。足止めだと思う」
    アグネス「ご無事で何よりです。デスティニーの武装は長大、デブリ内で使いにくかったのでは?」
    ハイネ「ああ。でもあいつ、センスが良い。看破して、立体映像投影と『パルマフィオキーナ・掌部ビーム砲』を組み合わせて上手く対処した。仕上げに『フラッシュエッジ2・ビームブーメラン』。あっと言う間だ。ブリッジの皆も感心していた」
    アグネス「…彼は同期のエースですから」

    ハイネ先輩に返した言葉にほろ苦さが混じる。
    人間はどう化けるか分からない。今の彼はアカデミーで会った頃の落ち零れと同一人物とは思えない。

    アグネス「(私が見る目が無かっただけ…。見る人はちゃんと見ていたわ」

    ルナマリアは当時からシンのガッツを買っていたし、デュランダル議長はかなり早くからあいつの天才を見抜いていた節がある。後者は厄介の極みだけれど。

    気持ちを整理しつつ飛行し、ややあって合流ポイントに到着する。仲間の艦2隻は先に来て待って居た。幸運な事に攻撃は此方のみだったようだ。

    タリア「信号弾上げ。全モビルスーツ収容後、速やかに宙域を離脱する」
    アグネス・一同「了解!」

    眩い信号弾に導かれ、役目を果たし終えた偵察ジン10機が帰還する。直掩ザクも其々の母艦に着艦する。デブリ帯も残り4分の1以下、艦隊が出せる最高速で突っ切るのだ。

    他の機体が戻る中、デスティニー3機は哨戒飛行を命じられる。レジェンドの扱いはかなり難しい。この機体にはヴォワチュール・リュミエールのような加速装置が無い。

    ハイネ「頑張れるか?」
    アグネス「はい。行けます」

  • 142二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 00:54:45

    従来型核エンジンの数倍の出力を叩きだすハイパーデュートリオンエンジンなら問題ないものと判断した。もしもの時はミネルバからデュートリオンビームを受ければ良い。

    ハイネ「機体の話だけじゃないぞ。身体は大丈夫か?」

    痛みや極端な疲労は感じない。未だ脳内麻薬は切れていないのだろう。ちゃんと任務を全うしなければ!

    アグネス「はい。お気遣い感謝します」
    ハイネ「良し。分かった!『グラディス提督、4機小隊で行けます!』」
    タリア「了解。頼んだわ。『僚艦に打電。我に続け』」

    眼下の巨艦と3隻の大艦の後尾から噴き出る光が輝きを増す。

    デスティニー3機は桃色の翼を6枚広げ、私はレジェンドのスラスターを『べた踏み』状態にする。眼はレーダーと光学モニターに縫い付ける。

    こうしてミネルバを事実上の旗艦とした分艦隊は、小ぶりなデブリを蹴散らしながら前へ前へ押し進む。私達はそうはいかない。『小さめ』を含めて残骸を必死に躱しながら飛ぶ。

    さながら仲間を守りながら障害物競走を疾走するようなものだ。モビルスーツでオリンピックを催すならメダルが取れそうだ。ビームシールドを張る手もあるが万能ではない。

    アグネス「(余計な事を…。私が敵の指揮官で、もし第二波を仕掛ける余力が残っているならここで仕掛ける。気を抜くな)」

    さて、どうか―。

    敵影は無し。熱紋探査異常なし。現れては後ろに飛び去る星屑の密度は確実に下がって行く。

    タリア「デブリ帯、突破成功。ただし気を緩めるな。30分はこのまま航行する。ミネルバの離脱はその後だ」
    アグネス・一同「了解」

    もう少し。もう少し頑張る。一秒一秒が本当に長く感じる。永遠とも思える時間だわ。

    それもやがて終わりを迎える。

  • 143二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 01:27:00

    タリア「お疲れだったわね。ハイネ隊の着艦を許可します」
    ハイネ・アグネス・アスラン・シン「了解」

    任務完了、ホッとするわ。地球はまだ遠いけれど、もう直ぐだわ。

    アグネス「(それにしても…。連合の攻撃意図は何だったのだろう?本気でミネルバ撃沈を狙ったのか。やはり威力偵察が目的だったのか。遭遇戦の可能性も完全には排除できない)」

    あるいは政治的な理由だろうか。核をチラつかせて国際会議参加国に心理的圧力を掛ける。あるいは『奴らを只では通さなかった』と言う体面のため―。どれかが、若しくは全てが被っている可能性も大いにある。

    メイリン「レジェンド、着艦どうぞ」
    アグネス「ありがとう」

    ここで考えていても仕方ない。
    何れにせよ、デスティニーとレジェンドの戦闘データは敵に渡ってしまったと見るべきだ。

    アグネス「(元々、デスティニーは特殊部隊コンクルーダーズ用の機体だったわ。今日、ミネルバで中途半端に結成された形になった当部隊の目的。それは『最強のモビルスーツと優秀なエースパイロットを組み合わせた部隊で地球連合の戦力を一蹴し、戦意を阻喪させること』)」

    聞いた時は馬鹿な構想と思ったけれど、いざ目にすると良いところを突いているかも知れない。

    西暦時代に喩えるなら戦略原子力潜水艦には及ばずとも攻撃型原子力潜水艦との中間位は当たるのではないか。若しくは最強の戦闘力を兼ね備えた戦略爆撃機か。

    アグネス「(だから、機体の性能とパイロットの技量を世界に見せつけること自体は最初から予定されていたわ)」

    しかし、どうだろう?それは『ここぞ』と言う舞台でお披露目するべきものだったはずだ。今日ではない。

    やはり今回の事は望ましい事では無かったと言わざるを得ない。連合に一杯食わされてしまった。所謂、『初見殺し』が効かなくなってしまったのだ。

    それでもデスティニー小隊はまだ良い。パイロットは皆優秀だわ。初見殺しなどなくとも押し通せるだろう。

    同じサードステージシリーズのレジェンドを任された私は果たしてどうか…。今の技量では彼らに並び立てないだろう。分かっていたことだが一段格が墜ちる。足を引張らないように猛訓練が必要ね。

  • 144二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 03:17:23

    またアグネスの良くない癖が出てるような…

  • 145二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 06:48:15

    そろそろ連合も新兵器くらい来そうだ

  • 146二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 12:16:39

    保守

  • 147二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 19:26:40

    猛訓練より安静にですね…

  • 148二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 19:28:28

    無理する

  • 149二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 20:15:08

    バンダ〇「無理しないと死ぬ以外の道は用意してません」

  • 150二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 00:25:48

    レジェンドをカタパルトデッキに着艦させる。その後は流れるようにモビルスーツ格納庫に期待を移動させハンガーに戻す。

    アグネス「はぁー。ふぅー」

    ヘルメットを脱ぐと同時に麻痺していた体の疲労感が一度に噴き出す。強い倦怠感と虚脱感、じんわりとした痛み…。

    ヨウラン・ヴィーノ・整備兵達「お疲れさま!ハイネさん、アスランさん、アグネス、シン」

    足元から響く温かい言葉に意識を引き戻される。危ない、危ない。直ぐにお返事しないと人間関係に差し障るわね。
    コックピットを開放して自分の口で声を届けよう。

    アグネス「ありがとう、皆。ただいま帰りました」

    その後は看護師さんに担がれるように更衣室へ。蒸れたパイロットスーツを脱げた時の気持ち良さを何と表現したものだろう!

    看護師「改めまして。アグネスさん、お帰りなさい」
    アグネス「はい。ただいま帰りました」

    着替えと同時にロッカーに押し込んでいた業務用デバイスも確認する。予想通りと言うべきかカナーバ前議長との面会の予定が記されたメールを受信していた。彼女も忙しいらしく、まだ多少の猶予がある。

    メイリン「特務隊ハイネ・ヴェステンフルス、同アスラン・ザラ、同アグネス・ギーベンラート、同シン・アスカはブリーフィングルームに集合してください」

    前議長と話す内容を脳内で整理している所に艦内放送、今度は何だろう?

    アグネス「(まあ、行って見れば分かるわ)」

    更衣室を出てそのままブリーフィングルームに向かう。看護師さんも付いて来て下さる。お断りしようとしたけれど、曰く『貴女の今の状態は危うい』とのこと。

    アグネス「(仰る通りかも…。クラクラ、フワフワしているわ。平常状態ではない)」

  • 151二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 00:33:29

    電動車椅子を乗り回してゴロゴロゴロ…。ごく短い距離だけれど、肌の上で揺れる空気が心地良い。

    平常でないのは確かだわ。でも悪くない。サッパリした気分だわ。これはこれで『生きている』って感じね。生の実感と言うやつ。

    ハイネ「おう。お疲れ」 アスラン・シン「お疲れ」
    アグネス「お疲れ様です」

    小隊メンバーと通路の途中で合流する。差し詰め『サードステージシリーズ小隊』と言った所。機体性能の差から今後、この編制を組む機会が有るかは予想が付かないけれど。

    そのまま5人でブリーフィングルームの扉を開け座席に着く。勿論、私は車椅子のまま。間を置かず扉が開閉しトライン副長がご入室になる。

    皆で揃って副長の敬礼に答礼する。

    アーサー「楽にしてくれ」
    アグネス・一同「はい!」
    アーサー「皆、ご苦労。分艦隊3隻は無事にダイダロス基地の帰路についた。彼方の艦長方は随分、君達の働きをお褒め下さっていた」

    トライン副長は私達を労うと片手に持っていらした鞄を広げる。その中から束になった用紙を取り出すと数枚ずつ私達に配布なされる。中身は自己分析シートと簡易心理テストだった。

    アーサー「例のブラックナイツの心理攻勢対策だ。丁寧にやりたいが時間がない。取り合えずはこれで。シートとテストを埋めたら本官に提出すること。他のパイロット隊は既に回収済みだ。艦内各班で同じ取り組みを実施している」

    なるほど。自分の心理的弱点を事前に把握して付け込まれることを防止するのね。

    アーサー「そうだ。提出後は各班班長が医官同席の上で各員にフィードバックする。今遠征は医師が多くて助かった。パイロット隊は私とエルスマン博士が面談する。ご協力いただけることになった」

    班長達のフィードバックはトライン副長と軍医殿が行う。グラディス提督と副長ご自身はエルスマン博士同席の上で互いに実施するとのこと。

    アグネス「(エルスマン博士と軍医殿、それに私の女性主治医は精神科専門医ではない。それでも研修期間中に一度は体験しているだろうから、という訳ね。切羽詰まったタイミングだから仕方ないわ)」

    艦のデータベースに各員の個人情報記録が入っている。秘匿情報はグラディス提督が保管しているはずだ。これらと合わせてフィードバックを行うのだろう。

  • 152二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 00:50:32

    言うまでも無く、医師・医官、看護兵や看護師さんも同じ対策を行うとのこと。これらの作業と並行して艦を運行しなければいけない。仮眠の順番も回さないといけない。

    外の修羅場が終わったと思ったら艦内でこれ。軍人なら、その中でも軍艦乗りなら分刻み秒刻みのスケジュールが当然ではある。しかし―。

    アグネス「(それでも程度と言うものがあるわ。頭が爆発しそうよ。パイロット隊もクルーも…。当然のことながら、万一の敵襲の備えも怠ることは出来ない)」

    とは言え、この対策もまごうことなき防衛戦術行動、心の事前哨戒任務だ。疎かには出来ない。

    アグネス「(何れにせよ、やると決まった事なら真面目に取り組むだけだわ。これは就職活動や昇進試験ではない。変に隠し立てせず正直に、ちゃっちゃと自己分析シートを埋める)」

    横目で見ると隣の席のハイネ先輩はすらすらシートを埋めていらっしゃる。流石、割り切れる人間は強い。ブラックナイツにもしメンタリストの心得があったとしても、この人に付け込むのは無理なのではないだろうか。

    でも、残りの二人は苦戦中だわ。
    シンは頭を捻り、また捻り…。アスランは七転八倒している。無論、本当に転げまわっている訳ではない。

    アグネス「(アスランとシンの様子…。対策して無かったら本気でやばかったわね。この方法が果たしてブラックナイツの心理的洞察力・心理操作力の対策に十分かは分からないけれど―)」

    私にとっても皆にとっても良い機会である事は間違いない。軍人のメンタルケアは重要なのに後回しにされがちだ。

    アグネス「(あくまでこれは間に合わせ。でも本格的な物は後日やれば良い。今日明日を凌ぎ切れるかが大事だ)」

    なお簡易心理テストは『深く考え込まず』と言う趣旨の説明が記されていたので、自己分析よりずっと楽だったわ。

    アグネス「トライン副長。記入が終わりました。提出後は退出してよろしいでしょうか?」
    アーサー「ああ、よろしい。面談の番が来たらアナウンスが入る。それまでしっかり休みなさい」
    アグネス「はい…」

    まったく休めないわ。これからカナーバ前議長のお部屋に出頭よ。私が申し込んだことだけれど―。今夜は徹夜ね。

  • 153二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 01:02:34

    このレスは削除されています

  • 154二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 07:08:59

    これで、アスランが奴らは相手の心が読めるとか相手を洗脳できるとかって気付いたりしたら…
    マジで超能力だものアコード

  • 155二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 09:08:24

    これだけ対応してもイングリッドが乗っている問題が

  • 156二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 10:00:10

    保守

  • 157二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 17:40:15

    >>155

    カナーバ「思考が読めてもどうにもできない状況に持ち込むのが政治と言うものよ」

  • 158二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 17:48:12

    >>157

    アコードは戦場で経験や年季の違いに負けていたのでもしかしたら

  • 159二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 21:08:06

    議長が動いてたらその辺りは補強されそう

  • 160二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 23:09:17

    そう考えると議長+アコードの組み合わせほんと厄介だな…

  • 161二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 03:38:04

    看護師「アグネスさん、カナーバ前議長の所に行く前に医務室に寄りましょう。点滴した方が良さそうです」

    看護師さんからお声が掛かる。時間的にどうだろう?ギリ行けるか。

    アグネス「分かりました。でも先生方も、その…。お忙しいのでは?」

    と言うか修羅場だわ。今頃『ブラックナイツ心理戦対策』に掛かりきりになっているはず。

    看護師「アグネスさんがご記入中に状況をお伝えしておきました。今、一報を入れます」
    アグネス「お願いします。何から何までありがとうございます」
    看護師「いえいえ」

    看護師さんの艦内通信の後、ブリーフィングルームを退室する。その際はトライン副長と敬礼を交わし、目線でエールを交わし合う。

    アーサー「よろしく」
    アグネス「了解」

    なるほど。先ほどの言葉は半ば社交辞令、副長も私の事情はご存知らしい。直属の上官なのだから当たり前か。

    アグネス「(副長の目元。疲労感や心配な気持ちがそれなりに浮かんでいるわ。でも度を過ぎてはいない。流石ね)」

    ゴロゴロゴロゴロ…。

    医務室までの道中、何とはなしにトライン副長の事を思う。私と副長の交流は限られたものだ。お互いの立場も大きく異なる。それでも何度も死線を共に潜れば察せられることも多い。

    アグネス「(ブラックナイツの心理操作とやらが仮に在ったとしても。トライン副長には余り効力を持ちえないと思う。心理戦を仕掛ける側にとって、彼はハイネ先輩以上に厄介なはずよ)」

    トライン副長のメンタルは『鋼』とか『鉄壁』といった表現は当たらない。『形状記憶合金』のよう、とも違う。
    上手く言えないが『通常人の遥かな上位互換』としての強靭さがある。

  • 162二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 03:48:31

    私が知る限り、副長は強烈な感情表現や政治主張を周囲に示したことは無い。それでいて必要な意見具申が出来ないわけでもない。

    普段は上官であるグラディス提督を立てているが、時折、見せる素顔は常の印象に反してやや攻勢主義・積極主義よりだ。何れにせよ、決して考えなしの人では無い。

    アグネス「(時に驚き慌てる事もある。『ええぇぇ』ね。でも直ぐに平常運転に戻り、決して引きずらず命令を遅滞なく実行できる。変に恨みを引きずるタイプでもなさそうだわ)」

    つまり良い意味で『それはそれ』、『これはこれ』、『切り替えて前に行こう』が出来るお人なのだ。

    加えてこれまでの言動のニュアンスから察するに…。

    トライン副長は、人間が本来持つべき良識と正義感を社会の中央値より遥かに上位の水準で保持していらっしゃる。
    少なくとも『命令されたから』と言って戦争犯罪に手を染めたり、プラント国家・国民・国体そのものに対する反逆行為を働くような方では無い。

    これ等は『軍人として当たり前』と言われればその通り。でも将兵も人間である以上、そうそう上手くはいかないものだわ。彼本人と周囲を比べれば一目瞭然。私も耳が痛いわ。

    アグネス「(私が思うに副長は聖人と言うより―。『真っ白』では無く『明度が途轍もなく高い灰色』の人って感じ。相手がメンタリストであれ何であれ、これに付け込むのは容易ではないわ)」

    トライン副長がグラディス提督のお傍にいらっしゃる限り、ミネルバと月軌道艦隊は安泰かも知れない。

    一方、グラディス提督の方は危ういかも。議長とのあれこれ、夫との死別、国元に残している息子さん。付け込まれる隙と闇ばかりだわ。しっかり対策しないとね。

    そんな考え事をしている内に医務室に到着する。入室早々に主治医の先生から簡単な問診を受け、その後にブスリと点滴を刺される。

    アグネス「うぉぉォォォォォ。力が漲ります。汗をたくさんかいた後に塩を嘗めたみたい」
    女性主治医「落ち着いて下さい。錯覚です。身体は疲労困憊、限界が近いので。くれぐれもご無理をせず。いろいろ大変と理解していますが早めに仮眠をとってください」
    アグネス「はい!」

  • 163二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 04:07:25

    点滴棒で車椅子に点滴を固定してもらう。その間、僅かな時間も無駄には出来ない。彼女から現状をお聞きできる範囲でお伝え願う。

    女性主治医「この心理戦対策の発案者はミネルバの軍医さん。アグネスさんとエルスマン博士のお話しをお聞きしながら腹案を練っていたそうです。貴女が茶話会に出た後、博士と共に献策していました」
    アグネス「なるほど。私と博士の会話中、お静かと感じてはいました。軍医殿は心中でそのようなお考えを…」

    そもそも彼はこの艦の軍医・船医なのだからパイロットと乗員、乗客の心理状態に心を配るのも職務の内だ。軍艦における軍医の存在感の大きさは周知の事実。戦史でも度々触れられている。

    アグネス「(でも、ミネルバの軍医殿はその辺りに何と無く消極的な印象があったわ。私が勝手にそう思っていただけかもしれないけれど。それとも、これまでも見えない所でずっと取り組んで下さっていたのか)」

    あるいは―、『男子、三日会わざれば、刮目してみよ』。軍医殿とて同じことなのかも知れない。人間は常に学習し成長する生き物だ。それに目前に脅威が迫れば必死に対策を講じるのは自然な事だわ。

    女性主治医「上層部のご会食直後にエルスマン博士と軍医殿のお二人でグラディス提督に緊急上申していました。勿論、トラドール国務秘書官がお傍に居ないタイミングで。即時にご許可が下りて。
    提督の指揮命令系統の上に当たるカナーバ前議長とクラーゼク国防委員にはエルスマン博士が直接お声掛けをして、お三方で心理戦対策を講じたとのこと」

    なるほど、それでお茶会中にちっともお呼びが掛からなかったのか。それで、これから全艦で実施と言うタイミングで敵襲に遭ったと。その時に私の面会希望もお伝え下さったのか。

    女性主治医「グラディス提督は別行動中の月軌道艦隊に同様の対策を実施するよう電信した後、取り急ぎ軍医殿と面談したそうです。危険宙域を通過中ゆえ、副長を交えての対策は止むを得ず後に回したと」

    アグネス「(クラーゼク国防委員も観戦云々の折にあんな口調になる訳だわ。ブラックナイツ対策直後に当の本人を相手取らないといけないとは。気取られていないか…。正直、不安だわ)」

    まあ、それはここで考えても仕方ない。あの方達は何時もあんな感じだから(偏見)大丈夫かな。

  • 164二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 10:00:07

    保守

  • 165二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 17:18:13

    保守

  • 166二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 23:19:29

    保守

  • 167二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 06:09:17

    事情は一通り聞けた。そろそろ時間が迫っているわ。

    アグネス「お話し下さりありがとうございます。では行ってきます」
    女性主治医「ああ。私も」 看護師「行ってきます」

    私と看護師さん、主治医の先生の3人同時に医務室を飛び出る。
    私はカナーバ前議長と面会へ、看護師さんはその付き添い。主治医の先生は受け持つことになったミネルバ乗員の面談の続き、まだ私達の夜は終わってくれないのだ。

    看護兵達「はい。行ってらっしゃい」

    医務室の機能は看護兵二人と医療事務員さんが守っていてくれる。医療班が増強されていて本当に良かったわ。

    ゴロゴロゴロゴロ…。ゴロゴロゴロゴロ―。

    車椅子を操縦しながら必死に頭の中を整理する。結局、考えを纏める時間なんて無かったわ。

    私は準備も台本も、話す内容さえ漠然としたまま前国家元首に面会しようとしている。こちらとしては止むを得ない面はあるとは言え、本来は好ましい事ではない。

    アグネス「(あまりにも急展開過ぎて、グラディス提督やエルスマン博士と上手く情報共有が出来ていない。カナーバ前議長には何処から何処までお話しする必要があるのだろう?良く分からなくなってしまったわ…)」

    トライン副長と主治医の先生からお聞きした経緯から察するに、ファウンデーション王国とブラックナイツの件については提督と博士から粗方お伝えされているはず。もしかしたら大アウラとクライン夫人の事についても…。

    アグネス「(あれ?別に私、お会いする意味なくない?国防委員会からは『話し相手になれ』との任を仰せつかっているけれど…。この期に及んではどうでも良いわ。良くはないか…)」

    まあ、それ等も全て引っ括めて彼女の今のお考えを知りたい所ではある。今更、ジタバタしても仕方ない。既に車椅子は彼女の船室の扉の前だ。良し、ドーンと行こう。

    アグネス「失礼します。カナーバ元最高評議会議長閣下。特務隊アグネス・ギーベンラート、ご面会に参りました」
    補佐官「ようこそ。特務隊アグネス・ギーベンラート。前議長閣下がお待ちです。中にお入りください」

    インターホンで呼びかけると直ぐに返事が来る。有能そうな女性の声、前議長付き補佐官殿だわ。ロックの解除音と共に自動扉が開く。

  • 168二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 06:24:15

    補佐官「…!お疲れ様です。どうぞ。前議長閣下は奥のお部屋です。電動車椅子の操作はお一人でも?」
    アグネス「勿論、可能です」

    私の姿を目にした補佐官殿は一度目を軽く伏せた後、やや丁寧に私を奥に招き入れる。どうやら車椅子と点滴の欲張りセットが効いたらしい。別にそれを狙ってやってきたわけではないが…。

    補佐官「看護師さんはご無礼ですが、本官と一緒にご退出願います」
    看護師「分かりました」

    つまり面会は私と前議長二人きりか。うーん、私としては立会人が居てくれた方が気楽なのだけれど。仕方ない。
    背中では自動扉の開閉音、ごく短い室内通路の先には青服の影が見える。ササっと進もう。

    ゴロゴロゴロ…。

    車輪を進めた先にはスラッとした蒼い瞳に栗色の長髪の女性が姿勢良く立っている。

    敬礼!私がした敬礼に彼女も答え、その後、お互いに挨拶を交わす。

    アグネス「特務隊アグネス・ギーベンラート、ただいま参上いたしました。カナーバ元最高評議会議長閣下、ご多忙の折、誠にありがとうございます」
    カナーバ「今晩は。特務隊アグネス・ギーベンラート。こちらこそ。先程の戦闘任務、ご苦労さま。休む間もなく訪ねてくれるとは、本当にうれしく思う」

    微笑みを浮かべる彼女の顔には一見した所、疲労の色は見えない。

    アグネス「(つまり疲れているってことね。気づかれないようにしている。私もそうだわ。早めに切り上げよう)」

    挨拶の後は彼女の身振りに導かれ、車椅子のまま小さめのテーブルに着く。上にはティーセットが準備されていた。

    カナーバ「紅茶でもどうだろうと思っていたのだが…。もし点滴との兼ね合いが悪いなら―」
    アグネス「いえ。医師から特に注意は受けておりません。」
    カナーバ「それは良かった。少し待って居なさい」

  • 169二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 13:30:11

    保守

  • 170二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 19:47:51

    保守

  • 171二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 00:47:12

    この人(カナーバ)も大概超人だよなあ…

  • 172二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 04:48:23

    そう私に言い置くと、彼女は手ずからお茶を振舞ってくれる。

    美味しそうな茶菓子、ティーポットから並々とカップに注がれる琥珀色の液体、部屋に広がる甘くて爽やかな香り。

    カナーバ「どうぞ」
    アグネス「ありがとうございます」

    相手が元国家元首であることを思えば中々に新鮮な体験と言える。畏れ多いと思うべきだろうか。とは言え、立場的に飲まれてはいけない。前議長とタイミングを合わせて、ティーカップに口を付ける。

    少し苦い。体調のせいもあるのだろう。ともあれ礼儀として一言感想をお伝えしなくては。

    アグネス「ご相伴に与れて光栄に思います。これはユニウス市産の茶葉ですね。インド・ダージリン地方産の最高品質を本物以上の品質で再現している」
    カナーバ「当たりだ。どういたしまして。喜んでもらえて嬉しく思う」

    カナーバ前議長は少なくとも外見上、穏やかに応じてくれる。良し。感触は悪くない。さっさと本題を切り出そう―。

    カナーバ「今夜の面会だが、君は国防委員会から何か含まされてきたのだろう?その件のお話か」

    そう思った矢先に彼女の側から変化球が投げ返される!率直な質問が耳を突き、心臓は早鐘を叩く。

    でもこれはかえって楽かも知れない。立場を考えるなら悟られていて当然だった。それなら事前に考えてきた通りの本音をお伝えしよう。

    アグネス「いいえ。今宵のご訪問は私自身の意思によるもの。国防委員会の内意はあくまできっかけと大義名分に過ぎません」
    カナーバ「大義名分?」

    訝しむような彼女の視線に肯きお答えする。

    アグネス「はい。それ以前から『閣下のお話しをゆっくり伺う機会が有れば』と願っていました。ですので、此度の事はその理由付けにちょうど良いと感じていました。しかし今日はそれとも別件です。
    カナーバ前議長閣下、我が国の国益と閣下ご自身の安全の為、至急お伝えしたい事があります!」

  • 173二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 05:10:26

    そこまでお話しすると彼女は手でスッと私を制する。

    カナーバ「君は正直者だな。私が思っていた以上に…。少し驚いたよ」
    アグネス「…自分は立ち回りの上手い人間ではないと気が付きまして」

    半分本心、半分は方便だ。
    『上手に世渡りして勝ち馬に乗ってやる、相応しい男を捕まえる』。これが本来の私で今もそうだ。

    アグネス「(けれど…。忙しい現場に赴任して見るとアカデミーまでの自分では回らない事ばかりよ。私は自分が思っていたほど器用な人間では無かったわ…)」

    私ことアグネス・ギーベンラートは、『変に小細工を弄さず、産まれ持った才能とこれまで積んだ学歴、培った経験を元に直球勝負した方が成果を出せるタイプの人間』なのではないか。最近はそう思い始めている。

    別に馬鹿正直に生きる必要はないしその積もりも無い。けれども、ここはその直球勝負を仕掛けるべき所だわ。誤魔化しが効く相手でないなら曝け出して行こう。そう判断したから答えた。ノーガード戦法だ。

    カナーバ「なるほど。つまり君は祖国と特命全権大使である私の身を案じて、国防委員会所属の特務隊と言うよりは個人の良心に基づき此処を訪れたと?」
    アグネス「端的に言えばそうなります」

    何だか回りくどいな。ただ、彼女の立場としては留意するべき所なのだろう。

    これで『国防委員会から直接の用事でないなら帰れ。小娘に用はない』と言われたら、その時はその時だわ。既に大体のことはお聞きのご様子だし、さっさと医務室に帰って寝る。

    しかし、そうはならなかった。私の返事を受け、カナーバ前議長はこれまでの探るような視線を一度に改めてくれる。

    カナーバ「ありがとう。同志ギーベンラート。よく馳せ参じてくれた」
    アグネス「個人の立場だから同志なのですね。分かりました。光栄に思います。同志カナーバ」

    こうして2度目の挨拶を交わし終え、ぐびっと紅茶を飲み干す。

    カナーバ「二杯目はいかがか?」
    アグネス「ありがとうございます。いただきます」

  • 174二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 10:12:26

    保守

  • 175二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 16:38:39

    原作でもコンパスの中でも最新鋭のミレニアムに配属されるほどの実力者なわけで…元から勝ち馬に乗る必要がないんだよな。

  • 176二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 22:50:46

    保守

  • 177二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 03:11:14

    私が返事をすると直ぐにお代わりが注がれる。萎んだ香りがもう一度、花開いたみたい。
    何だか一気に楽になった気分だわ。

    カナーバ「遠慮しなくて良い」
    アグネス「はい。ありがとうございます。いただきます」

    彼女の目線に促され、お茶菓子にも手を伸ばす。ご厚意を無下にするわけにはいかない。

    アグネス「(パイロットとしての体重管理?忘れたわ。そもそも負傷のせいで窶れ気味だし)」

    カップに満たされた紅茶の色は一杯目より濃く見える。でも口を付けると最初のより甘い。
    チラリと対面の前議長に視線を遣る。何食わぬ顔で紅茶を飲んでいるわ。

    アグネス「(うーむ。完全に前議長のペースに乗せられているわ)」

    まあ、彼女は仮にも一国の元首を務めた人物だ。特務隊とは言え一パイロットくらい手玉にとれないでどうする、と言う話ではある。変に張り合うのは得策ではない。むしろ頼りがいがあると安心するべきね。

    さて―。口に含んだ紅茶を飲み込んで思考をクリアにする。

    アグネス「同志。そろそろ…」
    カナーバ「そうだな。聞こう」

    短い遣り取りで和やかな空気がピリッと引き締まる。程よい緊張感だわ。続けよう。

    アグネス「ファンデーション王国と親衛隊ブラックナイツについて。そしてアウラ女帝の親族、アウラ博士とクライン夫人について。既にグラディス提督とアルスマン博士からお聞きのことかも知れませんが…」
    カナーバ「確かに彼らから報告を受けた。だが貴女からも是非、話を聞きたい。情報収集に一方ならぬ貢献をしたそうだな」
    アグネス「はい。了解しました。それでは―」

    前議長に促され、つらつらとこれまでのあらましをお伝えする。

  • 178二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 03:59:13

    自分が病院を仮退院する直前に特務隊レイ・ザ・バレルから重要な情報を託されたこと。

    その内容は二つ。

    『ファウンデーション王国とデュランダル議長の紐帯が想定以上に強固であること。故に王国はプラント現政権にとって潜在的な敵性勢力になり得る可能性があること』
    『王国の要たるブラックナイツは高い能力を期して造られた特殊なコーディネイターであり、相対する際はその心理的洞察力と心理操作能力に強い注意が必要と考えられること』

    アグネス「何処まで行っても私個人の所感に過ぎませんが…。私はこれらの情報を軽んじるべきではないと強く感じました。少なくとも特務隊レイ・ザ・バレルはそれを真実と捉えていると」

    カナーバ前議長は私の話を時折、肯きながら静かに聞いてくれている。感触としては悪くない。しかし―。

    カナーバ「そう信じた理由は?彼に対する戦友愛以外にもし有れば教えて欲しい」

    やはりそこは深堀されるか。ミネルバの皆が私の話を信じてくれたのはレイがこれまで積み上げた信頼があるから。カナーバ前議長は部外者だ。もう少し言葉を尽くそう。

    アグネス「特務隊レイ・ザ・バレルはデュランダル議長の事実上の養子であり、先の政変では私達に一時的対さえしました。
    そんな人間が敢えて養父の不利になりかねない嘘をつくとは考え難いです。私達ミネルバの戦友に対する戦友愛から警告を発してくれた、そう解するのが自然であると愚考します」

    ここまで話した所で彼女と視線が合わさる。

    カナーバ「なるほど。道理に適っていると思う。他に裏付けがあれば教えて欲しい」

    言葉は柔らかいが蒼い瞳が隠し事は許さぬと告げている。今までは話しやすいように視線を外してくれていたのに。参ったわね。

    アグネス「(ラクスからもたらされて情報を口にして良いものか?ターミナルと言う組織をカナーバ前議長は…。知らない訳はないと思うけれど)」

    そもそも彼女はプラント本国におけるクライン派のボスだ。プラントの前国家元首を務めた人物でもある。目が節穴でも組織の存在に気が付くはずだ。しかし同じような立場のデュランダル議長は詳しく知らない風でもあった。

    軽々に話して良い物だろうか。今更になってだけれど迷うわ。

  • 179二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 11:34:17

    保守

  • 180二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 19:57:39

    保守

  • 181二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 00:15:54

    保守

  • 182二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 02:52:55

    落ち着け。そもそもこの方は『グラディス提督とエルスマン博士から報告を受けた』と言っていた。主治医の先生の言ではその後の心理戦対策まで実施済みとも。

    二人がどういう言い方で前議長にお伝えしたのかは知りようがないが…。何れにせよ、ここは失言を過度に恐れるより話を先に進める方が吉だわ。

    アグネス「直接の裏付けにはなりませんが、傍証を入手しました。アウラ女帝の親族、ハイバル博士がコロニー・メンデルに勤務していた時の写真です。そこには若かりし頃のデュランダル議長の姿も。裏側のメモには彼女の研究テーマが『コーディネイターを超える種の創出』である旨、ラクス・クラインの筆跡で記されていました」

    『ラクス・クライン』、私がその名を告げると前議長の表情に微かな動揺が走る。

    カナーバ「…」

    彼女に対する警戒と畏敬の念であろうか。いや、警戒は少し違う。むしろ感謝の気持ちの方が大きいらしい。

    アグネス「(話の内容自体に驚いてはいない…。やはり事前に写真のことは知らされていたのね。それでも敢えて私に事情を聞いた理由は―)」

    カナーバ「グラディス提督からその写真の裏面のメモは見せてもらった。ただ、あれをどうやって貴女が手に入れたかについては明言を避けられた。出来るなら今、聞かせて欲しい」

    つまり、私がラクスか彼女本人と言わずともその使者と会ったのか知りたい。そして彼女の所在や連絡手段を知りたいと、なるほど。

    しかし、残念ながら前議長のご期待には答えられない。
    視線を少し上げ、無礼にならない程度に彼女と合わせてお答えする。

    アグネス「写真は先の政変の犠牲者に捧げられた花束に忍ばせてありました。善意の者に拾われることを期してものかと。拾ったのは私です」
    カナーバ「それでは写真を置いた者本人とは遭っていないのか?」
    アグネス「はい。残念ながら。私はラクス・クラインの意を受けたターミナル構成員か個人協力者がプラントないしミネルバに警告する為に置いたものと推測しています。ですが、それ以上は何も」

    ここでターミナルの名前を敢えて出す。彼女が写真裏面のメモを読んだと知って踏ん切りがついたわ。
    こちらだって探りの一つも入れたいでは無いか!どんな反応をするのだろう?

  • 183二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 03:38:44

    カナーバ「そうか。答え辛い事までどうもありがとう。グラディス提督とエルスマン博士のご説明を疑う気は毛頭ない。ただその情報の出所をより詳しく知りたかった。プレッシャーを感じさせたなら申し訳ない」

    どうやら私がラクスの手掛かりを持っていない事は想定の範囲内のご様子だ。前議長の表情に落胆の色はない。

    アグネス「(思い切って出したターミナルの名にも動じた風はない。この感じだとやはり以前から知っていたのか?この人の内心を上手く読み取れない…)」

    そもそも私のような小娘に容易に看破されるようでは外交委員や最高評議会議長、特命全権大使など務まる筈がない。
    読み切れなくて当然、しかしそれを承知の上で目を配るのも私のお役目だわ。思考を放棄しては駄目よ。

    アグネス「(彼女自身もターミナルの構成員なのでは?それも社会的地位を考慮すれば大幹部級の―)

    いや、おそらくそれは無い。もし前議長がターミナルを介してラクスと繋がっているなら、もっと有機的な連携を取っている。少なくともラクス暗殺事件直後には何らかのアクションを起こし、彼女達の保護に動いたはず。

    アグネス「(しかし、そうした行動を起こした形跡はない。それどころか、私達が明かすまで事件そのものをご存じなかったわ。やはり『ターミナルの存在は知っている』くらいの温度感と見るべきね)」

    ターミナルの話題は優先順位を下げて良いと判断する。重要な事だけれど、今は後回しだわ。

    それから会食後に起こった出来事を順番に教えていただく。それによると彼女は情報の出何処こそ気にしていたが、状況説明自体はグラディス提督とエルスマン博士から詳しく受けたとのこと。
    急場凌ぎとは言え、ブラックナイツに備えた心理戦対策も講じたそうだわ。一安心ね。

    アグネス「(それなら此方の用事は済んだわ。もう下がっても良さそう…)」

    そんなことを考えながら温くなった紅茶に口を付ける。偶然同じタイミングで前議長もカップを傾けていた。シンクロしたみたい。向こうもそれに気づいたらしく、目が合うと少し恥ずかし気な視線を送り返してくる。

    アグネス「(こんな顔もなさるんだ…。当たり前か。私も彼女も木石ではない。戦闘マシーンでも政治ロボットでもない。今、気が付けて良かったわ)」

    そのまま二人一緒にゆっくりカップの半分ほど飲み込む。こういうのも偶には悪くない。

  • 184二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 11:38:12

    保守

  • 185二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 12:11:10

    カナーバを売国奴視してた序盤から随分と変わったなあ…それだけ苦労してきたからだろうけど。
    お労しい

  • 186二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 20:14:22

    保守

  • 187二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 04:24:01

    カナーバ「詰問するような形になり申し訳ない。代わりと言う訳ではないが、貴女から私に質問したい事があれば聞いて欲しい。可能な限りお答えしよう」

    カップを皿に戻したタイミングで、カナーバ前議長は話を切り出す。

    滅多にない機会だわ。実はそろそろお暇しようとしていたのだけれど、予定変更。

    さて何から尋ねようか―。
    先ず目前の任務に関わることからにしよう。

    アグネス「ありがとうございます。では早速。同志カナーバはクライン夫人のお人となりをご存知でしょうか?」
    カナーバ「私も詳しくは知らない。生前のクライン夫人と面識はある。しかし、それは当時、黄道同盟の共同党首だった故クライン元議長の奥方としてであって。コロニー・メンデルやハイバル博士との関わりは今日、初めて知った」

    前議長のお答えは予想通り。私の両親も周囲もそんな話はしていなかった。彼女の前歴は当時、さして注目されていなかったのだろう人の過去を一々気にしていられるような社会情勢でなかった、と言うべきか。

    激動の時代だったと聞く。それは今も同じだが―。

    アグネス「(クライン元議長とクライン夫人の結婚が何時頃だったのか私は知らない。でも甘い新婚生活など夢のまた夢だった事だけは察せられる)」

    我等が自由条約黄道同盟『ZAFT』。その前身である黄道同盟は故シーゲル・クライン元議長と故パトリック・ザラ元議長によってC.E.50に結党された。

    そして同年中には理事国の弾圧により地下活動を余儀なくされた。お二人がプラント最高評議会議員に初選出されたのがC.E.57、党勢拡大によるZAFTの再結党がC.E.65年だ。そのことを考えると―。

    アグネス「(クライン夫妻にまともな結婚生活を送る暇があったのかさえ疑問だわ。夫は表の政治活動と裏のレジスタンス活動、更に本業もあったはず)」

    二人の娘、ラクス・クラインが誕生したC.E.55は特に酷い。

    前年に流行が始まったS型インフルエンザは流行を拡大、ナチュラルのコーディネイターに対する敵愾心は頂点に達しつつあった。地球においては「トリノ議定書」が採択され、暴動が続発した。

    そして、コロニー・メンデルがブルーコスモスに襲撃されたのもこの時期だ。

  • 188二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 04:36:58

    アグネス「(とすると…。この襲撃で大アウラは死亡したのか。そしてブラック・ナイツは間一髪で後にファウンデーション王国として独立するカスピ海北部の地方政権に亡命した)」

    トラドール国務秘書官達も相当な苦労をした事が察せられる。ハイバル王家の勢力圏に辿り着いても、そこはコーディナイターの彼女達にとって安住の地などではない。

    ナチュラルの国家であるユーラシア連邦の領土なのだ。自分達の正体抜きにしても、困難な時代に自治権を制限された属国がパラダイスであったとは考え辛い。
    ユーラシア連邦内の力関係を私は詳しく知らないが、歴史の通例としてはそうだ。

    ブルーコスモス運動が地上で猛威を振るい、王国独立の目途も立たない中、幼い彼女達はどんな気持ちで幼少期を送ったのだろう?せめて愛情を注いでくれる人は傍に居たのだろうか。

    アグネス「(閑話休題。そんなことを考えている場合じゃないわ)」

    間一髪はクライン夫人とラクスも同じことだ。本当にギリギリで夫の待つプラントに戻れたのだから。

    もっとも、帰ったら帰ったでクライン元議長は地下活動、自治権獲得運動の真最中ときた。一家の『プラント社会における』地位が固まるのは2年後の選挙結果を待たなければならない。

    なお、その後も夫は地下活動を続行する。

    アグネス「(頭おかしくなるね。ザラ夫人も同じようなものだったのだろうけれど。私のパパとママもよく当時を切り抜けられたものだわ)」

    いや、違う。切り抜けられなかった者は皆、死ぬか没落したのだ。時代の奔流は弱者に優しくない。
    残念ながら多くの女性や子供、高齢者、傷病者や障碍者にとってもそうだっただろう。

    当時を思い出すカナーバ前議長の蒼い目は輝きと闇が交互に過ぎって行く。私は本当に何も知らない。自治権獲得・独立闘争期に古参の同志達がどんなことをしていたのか。―私が子供の頃にパパやママが本当は何をしていたのか―

    きっと肝心なことは人生の最期まで教えてくれないだろう。

    カナーバ「同じ党の同志とは言え、私はクライン元議長ご夫妻の個人的なご事情を深くは知らない」

    黙って彼女の言に肯く。声音には懐かしさとほろ苦さがカクテルされている。

  • 189二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 04:54:40

    カナーバ「あくまで私から見てではあるが…。クライン夫人は決して悪人では無かったと思う。メンデルで何があったにせよ…。そうだな。これは断言できる!夫と幼い娘を残して早世することになり、彼女がどれほど心残りであったか。私には想像もつかない」

    今の私には前議長が偽りを言っているとは思えない。勿論、人間は多面的な存在で前議長の知らない所でクライン夫人が何をやっていたのか。分かったものでは無いが…。

    アグネス「(周囲から見て『クライン夫人が善良な人間でラクスの事を大切に思っていたこと』までは信じて良い)」

    もう一つ、ニュアンス的に前議長はラクスがブラック・ナイツの同類『コーディネイターを越える種』であるか否かはご存知ない。あくまで私の所感だけれど、これも確かだと思う。

    アグネス「分かりました」
    カナーバ「他に何かあるか?」

    もう一点、はっきりさせておきたい。目前の任務とこれからの国内外の政治動向を推し量るために不可欠な事だ。

    アグネス「はい。同志カナーバから見て、デュランダル議長はどのような方でしょうか?彼の政治が目指した所は?漠然とした問いとなってしまい申し訳ありません」
    カナーバ「彼か…」

    デュランダル議長はカナーバ前議長の事実上の後釜で同派閥の出身なのだ。ここで教えて貰っておかないと困る。
    何故なら―。

    アグネス「私達は良きにつけ悪しきにつけ、未だ彼が敷いたレールの上を走っています。例えばロゴスとの戦い等。彼とファウンデーション王国との奇妙な同盟関係も気掛かりです。同志のご見解をお聞かせ願えませんか?」

    あいつが撒いた種を摘むにせよ、奇貨とするにせよ。その背後の思想と目的を知っておいて損はない。

    アグネス「(彼が単に権力の為の権力が欲しいだけの場当たり的な機会主義者の可能性もないではない。そんな政治指導者は幾らでもいる)」

    『悪には悪のカリスマや信念があって欲しい』、『自分が戦う敵手は、立場は違えども偉大な存在であって欲しい』。人間はついそうした願望や思い込みを抱くものだ。

    だが、現実は往々にして散文的なものと相場は決まっている。ただし、相場はあくまで相場だ。勝手にそう当て込んで対峙するのも考え物だ。色眼鏡は外しておきたい。

  • 190二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 08:38:03

    "幼いアコード達がどんな生活を送ったか、愛情を愛情を注いでくれる人は傍に居たのだろうか"
    (例の写真…お揃いのローブを着て並んで歩く幼アコード達…デュランダル…とお手々繋いでる小アウラと幼オルフェ…)
    うっ、頭が

  • 191二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 12:12:41

    保守

  • 192二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 17:36:31

    >>190

    か、彼らなりに愛情感じてたかもしれないし…

    親が子供の姿って子供心にはどう感じるんだろうなあ。

  • 193二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 22:29:01

    保守です

    よく見たら愛情が2連続になってました>>190

  • 194二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 05:09:18

    カナーバ「…」

    カナーバ前議長の視線に私を量るような色が混じる。

    『旧ザラ派の人間に何処まで話して良いものか』、『国防委員会に余計な言質を与える事になりはしないか』。彼女が考慮しているのはこの2点だろう。

    アグネス「(訪問直後の会話で疑念を解いてくれたけれど。政治家としてはやっぱり気になるわよね。危ういタイミングだし)」

    しかし、直ぐに沈黙は破られる。

    カナーバ「ギルバート・デュランダル。私は彼の事を傑出した指導者であると確信していた。高邁な理想を抱く現実主義者。理念の為に目前の課題から眼を逸らすような真似はしない。
    故クライン元議長の思想を踏襲しコーディネイター・ナチュラル間の融和を掲げ、ユニウス条約体制下の世界平和秩序を維持してくれる人物。そう思っていたよ」

    平静を装って語られる言葉、私を信頼してくれたのか、同席した以上、もう今更と思ったのか。平静を装ってこそいるが、彼女の面差しには深い影が差している。思う所があって当然だと思う。ある種の責任を痛感しているのね。

    カナーバ「一緒に先の政変を戦った貴女に言うのは気が引けるが…。彼の大規模犯罪関与を信じたくない気持ちが今も心の中にある。キャンベル嬢の件はともかく、ブレイク・ザ・ワールドとラクス暗殺未遂事件に関しては―」

    ミーアの事は確定している。証人が居るのだから弁解の仕様も無い。あれだけで複数の国内法に抵触しているだろう。道徳的な責めは言うまでもない。要は公権力の濫用だし。

    アグネス「(とは言え、核攻撃直後の民心を安んずる為なら、後世の歴史家にギリギリの申し開きは出来る)」

    その後、ちゃっかり自己の権威確立のために利用していたからアウトだが、一応は戦時下のこと。
    しかるべき時に最高評議会に報告すれば、ギリギリ、刑事責任の免責&問責決議で済んだかもしれない。

    だが、残りの二つについては―。

    カナーバ「愚にも付かない事だよ。この期に及んで―『プラントにはいろいろな思いの人間が居る。デュランダル議長の支持者も一枚岩ではないだろう。その中の極一部が彼の考えを勝手に忖度した気になって、取り返しのつかない愚行を犯したのではないか。彼自身は潔白なのではないか』、そんなことを…。これは未練かな?」

    前議長の問いかけるような視線に私はどう答えれば良いのだろう?

  • 195二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 11:39:19

    おい議長!前任からの引き継ぎ段階であのカナーバさんが傑出した指導者であると確信して
    今でも彼自身は潔白なのではないかと思いを抱かせるくらいには彼女の脳を焼いてるじゃねーか
    罪づくりな奴やなホントに…

  • 196二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 17:59:03

    保守

  • 197二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 18:06:25

    >>195

    ザラ派が残党が回収し撃ってきた核弾頭をクライン派とオーブと連合による処理した事件を知って燻っている人たちに火をつけたら世界の掌握がうまくいくとか思ったんじゃ

  • 198二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 22:28:00

    保守

  • 199二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 00:22:25

    半ば独白めいた問いにどうお答えするべきか。微かに揺らぐ前議長の瞳をじっと見つめる。

    決めたわ。やはり誠実さには誠実さで報いたい。本心を!

    アグネス「私も同じ思いです。どうか勘違いであって欲しい、愚か者の暴走であって欲しい。『証拠が出るまではグレー』と。努めて距離を置いてきたはずの自分ですらそう思いました」
    カナーバ「そうだな…」

    溜息のような彼女の声が鼓膜を掠める。いや、私が零した物だったかも知れない。

    アグネス「(先の政変時にはっきり自覚したわ。自分がデュランダル議長にある種の好意を抱き始めていたことを。アスランの事をあれこれ言えない。自分は騙されるタイミングが無かっただけなのだ)」

    敵対が不可避になった時は凄く怖くて心細い思いをした。議長は、私から見て迷惑で鬱陶しい人間。公人としても総合点は赤点でさっさと辞めて欲しかったことに変わりはない。

    アグネス「(けれど…。確かに戦時の舵取り役として頼りに思っていたわ。それは認める)」

    しかし、諸々の疑惑に目を背ける訳にも行かない。ユニウスセブン落下テロ幇助とラクス暗殺未遂事件の黒幕、何方か一方でも死刑か終身刑を宣告されるに足る罪状だ。

    アグネス「デュランダル議長の才を惜しみます。祖国プラントと世界、彼自身の人生の為に。あのような事をどうして?単純な私利私欲が目的なら、あまりに大それた行いです」

    カナーバ前議長は私の言葉を飲み込むように肯く。

    カナーバ「それが本題だったな。ここは法廷では無い。裁判なら『疑わしきは被告人の利益に』。だが、今は議長がそれらの犯罪に関与したと言う前提で話そう」
    アグネス「はい。お願いします」
    カナーバ「よろしい。貴女が入手したラクス・クラインのメモは正鵠を得ていると思う。その上で『デュランダル議長は地球、プラントを一つに纏めた新しい世界秩序を創ろうとしているのではないか』、これが私の見立てだ」

    怖気が腹の下から這い上ってくる。やはりそこに行きつくか!
    これまで何度も脳裏を過ぎった考えが、遂に政府要職者の口から出てしまった。

    アグネス「(もう思い違いではすまされない。本気で向き合わないと―)」

  • 200二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 02:10:45

オススメ

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