- 1125/06/30(月) 23:11:00
自分が生まれた意味を知るための旅を行う機械の話。
第六セフィラ、ティファレト確保。
代わりに表出するのは『マルクト』を騙る『ドロイド』の存在。
スレ画はPart6の153様に書いて頂いたもの。輝かしき者を見よ。輝かしきその者を。
※独自設定&独自解釈多数、オリキャラも出てくるため要注意。前回までのPartは>>2にて。
- 2125/06/30(月) 23:12:00
■前回のあらすじ
ミレニアムEXPOで発生したテロ事件を解決した一行は、次なるセフィラ――ティファレトとの対決に向かう。
かのセフィラが持つのは絶対たる『重力操作』。天地を分かつ開闢の機能を前に一度は敗北するも、正体不明たる『二体目』の助力もあってか何とか生還する一同。
新兵器『サムス・イルナ』を携えてティファレトの確保に向かった一同は死闘を経て作戦に成功。
しかし、その後に露見したのは悪夢のような事実。『マルクト』は既に死んでおり、二度と帰ってくることもない――
ならば目の前にいる『マルクト』は誰なのか。
全ての機能を失ったマルクト。謎が謎を呼ぶ中で、次なるセフィラ、ゲブラーの出現が刻一刻と迫っていた――
▼Part6
【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」Part6|あにまん掲示板マルクトと共に真理探究の旅を続ける話。ミレニアムEXPOテロ事件編、完結。なお、この物語はPart11前後で完結する予定です。スレ画はPart5の181様に書いて頂いたもの。誰も抱かぬ孤高のピエタ、罪…bbs.animanch.com▼全話まとめ
【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」まとめ | Writening■前日譚:White-rabbit from Wandering Ways コユキが2年前のミレニアムサイエンススクールにタイムスリップする話 【SS】コユキ「にはは! 未来を変えちゃいますよー!」 https://bbs.animanch.com/board…writening.net - 3二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 23:24:03
ついにpart7…
- 4二次元好きの匿名さん25/06/30(月) 23:53:10
建て乙です
- 5二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 00:59:39
- 6二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 01:12:39
うめ
- 7二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 01:22:09
どんどんコールサイン04に近づいていくマルクト
✌️ピースピース✌️ - 8二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 02:33:46
まさかトキは…
- 9二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 02:37:24
大気ー
- 10二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 02:37:47
たておつです
- 11二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 08:36:03
待ちます
- 12二次元好きの匿名さん25/07/01(火) 15:59:14
追いついた
ガンバッテネ - 13125/07/01(火) 20:52:00
ヒマリとマルクトが向かった古代史研究会のブースは、博物館のように透明のガラスケースが等間隔で配置された展示場だった。
とはいえ既にいくつか撤去された後であり、説明文の付いた台座のみを残してケースはそこには無かったが……軽く流し読んでみても推定年数と発見場所、それから考えられる考察が書いてあるだけで特に気になることはない。
「おーいヒマリ! こっちだこっち!」
ネルの声に顔を上げると、ネルたちはブースの奥の方。ひときわ大きなケースの前に集まっていた。
ヒマリとマルクトは顔を見合わせて、それから皆の方へと歩いて行く。
「ヒマリ。ティファレトから話は聞けたのかしら?」
「ええ、少なくとも今の機体とは異なることだけは確かだそうですが……どうしたのですか?」
「だったら余計におかしいわね……」
リオがケースの中を指差すと、そこには大理石で作られた七体の石像が置いてあった。
大きさはそれなりで、一体一体が両手で抱えられるほどのサイズだ。
作られているのもカマキリやウマなど、生物であるということ以外にジャンルが取っ散らかっており、一見すると精巧さ以外に法則は見受けられない。
マルクトがひとつずつ目で追って口にする。
「ウマ、カマキリ、ウシ、カイコ、トラ、ネズミ、オウム……まさか」
「これ、偶然にしては出来過ぎてるよね?」
チヒロがそう言ってマルクトは頷いた。
七体の石像はあくまで実際の生物を模ったものだが、その種別が半分も重なるのだ。セフィラと。 - 14125/07/01(火) 20:53:05
イェソド――トラ型。
ホド――オウム型。
ネツァク――ウシ型。
ティファレト――カイコ型。
残る石像はウマ、カマキリ、ネズミ。
まるでこれから現れるセフィラを予言するかのように鎮座するそれらは一体何なのか。
その台座の説明文には、このような文言が記されていた。
『推定製作年代:不明』
『発見場所:不明』
『※過去の出展の際に二体の盗難があったとのこと。もし似たようなものを見かけたらセミナーまで』
二体の盗難。それは明らかに何かを暗喩していることだけは確かであった。
「それから、これが古代史研究会の出していた広告よ。この石像の説明は無いけれど、丁寧に画像が貼られているわ」
「……フジノ部長は、なんと?」
「会長に指示されたらしいわ」
そう言ってリオは静かに溜め息を吐いた。
ヒマリたちを呼ぶ前、古代史研究会のフジノ部長から聞いた内容はおおよそチヒロの想定通りのものであったのだ。
『会長が一晩で作って来たのよ。一から十まで何を置くかまで指示されて……。でも置くだけでいいっていうから大した手間ではなかったわ。いくつか謝礼も出たし』
そこまでは別に良い。
問題は『これが何処にあったか』なのだが、それにはフジノ部長は妙な反応を見せていた。 - 15125/07/01(火) 21:08:07
『それが……いつの間にか置いてあったのよ。古代史研究会名義で契約された倉庫が突然見つかってね。その中にこれが置いてあったの。他にもいくつか物が置いてあったような跡はあったんだけど、結局誰が借りていたのかも分からず仕舞いでね。あ、『二年前』の話だから誰であっても卒業したと思うわよ』
またしても出てくる『二年前』というワード。
他に何か妙なことは無かったか聞いたチヒロに対して、部長は更に気味の悪いことを言ったのだ。
『そういえば、研究会の人数が何故か全部ひとり多かったのもその辺りね。一時期噂になったんだから。古代史研究会には亡霊がいる、なんて。何なら誰も知らなかった倉庫だってその亡霊が借りてたみたいな話になってプラズマ研究学会の連中が乗り込んできたりして……』
「ちょっと待ってください」
リオの話をヒマリが遮った。
「このセフィラ像と会長を結び付けるものが何一つ無いではないですか。というより、どうして更に謎が増えているのですか。ここはこう、『やはり会長だったのですね』という証拠か何かが出て来たとばかり思っていたのですが……」
ヒマリがそう言うと、その場の全員が『本当にそうだ』と言わんばかりに頭を抱えた。
セフィラの造形を予知したような石像。それが二年前に突然浮かび上がった倉庫の中にあり、その倉庫がいつ契約されたのかは不明。
そして何故か石像のみを残して使っていたと思しき者も行方を晦まし、同時期に上がった神隠し騒動。
「加えて言うなら、とりあえず気味が悪いからと保管されていたこの石像たちに突然スポットが当たったのは今回が初めてだそうよ。今まで研究会内部でも忘れられるぐらい死蔵されていて、それを突然会長が出展するよう指示を出した。説明文の文言も全て会長が決めた。その上、『自分の指示なく勝手に移動させることを禁じる』とまで言ったそうよ。全てがおかしいわ」 - 16125/07/01(火) 21:31:20
どうして会長がこの石像のことを知っていたのか。
会長が『はじまりの預言者』だったから? だとしても、誰も覚えていないのはおかしい。
では『はじまりの預言者』は会長ではなかった?
ならその倉庫はいったい誰が使っていたのか。
会長がこっそりと使っていた?
もっとおかしくなる。ならば何故石像だけを置いていったのか。セミナーで管理すればいいだけの話である。
そもそも、この石像はいったい『何』なのだろうか。何一つ合理が通らない。
「気持ち悪いですね……」
ぽつりと呟かれたマルクトこそが皆の思う全てであった。
「あとは、この説明文もおかしいと思わないかい?」
ウタハが指差したのは台座の一文。『※過去の出展の際に二体の盗難があったとのこと』の部分だ。
「セフィラは全部で十体。けれどここには『二体の盗難』って書いてある。それだと九体だ。一体足りない」
「マルクトを除いた……? それか前回はコクマーまで行ったって言ってたからケテルがカウントされていないのか……」
「なぁお前ら。傍から聞いててふと思ったんだけどよ」
不意にネルが口を開き、一同の視線を集めた。
「会長が最初の預言者じゃなかったとする。で、だ。そしたらまず会長はどこの誰だってなるよな。突然横から現れたよく分かんねぇヤツになっちまう。それともうひとつ。最初の預言者は何処に行っちまったのかってのも分からなくなるよな? だったらまず理屈の前に『役者の数』から考えた方が良いんじゃねぇのか?」
「確かにそうね……」
「で、その辺りを考えんなら一旦片付け終わらせて部室でやった方がいいだろ。長くなるぞこれ」
「た、確かにそうね……」 - 17125/07/01(火) 21:39:30
ブースの片付けのことなんてすっかり頭から抜けていたリオは僅かに動揺した。
それはチヒロも同じことで、反省するように眼鏡をかけ直して皆へと呼び掛ける。
「私も人のこと言えるわけじゃないけど、一旦後にしよっか。古代史研究会も私たちが居たら片付けが進まないし」
そう言って一同は速やかにブースの撤去と、それから展示物を見せてくれた古代史研究会にもお礼を述べて部室へと戻る。既に時刻は18時頃。話し合いを始める前にヒマリは一言、皆に告げる。
「明日からは研究などはひとまず抜きにしてマルクトと一緒に休暇を取りますよ。理由はもちろんお分かりですね?」
「なんで意味も無くちょっと脅すように言ったのヒマリ?」
「私に娯楽の楽しみ方を教えないと困ったことになりますよ?」
「もうなってるからねマルクト?」
チヒロが丁寧に突っ込みをいれながらモニターの電源を付けると、早速デジタル付箋が貼られ始めた。
とはいえ、『二年前』のことで分かっていることは少ない。出て来た『配役』は次の通りだ。
はじまりの預言者。
マルクト殺しの犯人。
二代目マルクトを作った人。
石像の持ち主。
神隠しに遭った生徒。
「ねぇ、最後のは『配役』に入れていいのかしら?」
「ただの噂だったら空欄にしておきましょう。正直、マルクトを見てから神隠しぐらいなら起こりそうだと思いませんか?」
「……それもそうね」
現状想定される配役を書き終えると、まず口を開いたのはリオだった。 - 18125/07/01(火) 22:06:28
「会長が何処かに関わっているのは間違いないとして……確か会長は病弱で入学時期が遅れた、で合っているかしら」
その言葉に答えたのはヒマリとチヒロとウタハの三名。
「ええ、フジノ部長が言うのは八月の終わりごろに入学したようですよ。ちなみに私が調べたところ、芋煮に薬品混ぜて捕まったのはそれから二か月後の十一月の初め頃だそうです」
「あとフジノ部長が会長と関わるようになったのは二年生に上がってからだってさ。その頃には会長に就任していたみたいで、プライベートな付き合い自体はなかったって」
「詳しくは聞けなかったけど、フジノ部長が一年生の時に一度古代史研究会から出て行く会長の姿が目撃されているね。確か泣いてたって……」
「泣く!? あいつが!? まったく想像できねぇ……」
驚いて声を上げるネルだが、思い返してみれば会長と古代史研究会の間にも接点があった。
そこでふと、ネルは別の可能性に気付いてしまった。
「なぁ……もしかして会長、本当にセフィラたちとは関係ねぇって可能性も無くねぇか?」
「どういうことかしら?」
「あー。だからよ……。例えばだ。例えば、『預言者』からセフィラとの冒険譚を聞かされていたダチが居たとする。んで、ある日突然そのダチが居なくなって、マルクトも殺されて取り残された。だからマルクト殺しの『犯人』に復讐したいってのと、どっか行っちまったダチを探してるってんのも矛盾はしないんじゃねぇの?」
病弱だった会長はセフィラ探索に行けなかったため『預言者』では無かった。
しかしセフィラの話は聞かされていたためセフィラのことだけなら知っている。
ネルが出したのは『会長、預言者の友達説』。配役が増えるという答えだった。
「……これ、割と否定材料無いよね?」
「だろ!」
チヒロの言葉に、ぱぁぁと顔を明るくさせるネルは普段の仏頂面とは違ってどこか幼く見えた。
ネルの推測であれば会長がマルクトを作る動機も生まれる。旅が始まれば消えた『預言者』が帰ってくる可能性があるなど、いくらでもこじつけられるからだ。 - 19125/07/01(火) 22:39:59
「じゃあ、私も一番無茶そうな推理をしてみようかな」
次に口を開いたのはウタハであった。
「会長が『預言者』で『石像の持ち主』で『古代史研究会』のメンバーだった、というのはどうかな?」
「ウタハ。それじゃあどうして古代史研究会のフジノ部長が会長の事を覚えていないの?」
「記憶操作さ。『廃墟』に行った会長は石像と最初のマルクトを見つけて『預言者』になった。けれども何かがあってマルクトが殺されてしまった。身の危険を感じた会長は類が他にも及ばないよう当時古代史研究会の部員だった生徒全員の記憶から自分の記憶を消して身を潜めた。そこで消し切れなかった痕跡が『神隠し』として騒がれるようになった、というのも有り得なくはないだろう?」
「マルクトと会う前だったら一蹴してたよそれ……」
チヒロの言葉にウタハが肩を竦めるが、『有り得ない』だなんていったいこれまで何度言っただろうか。
そのぐらい無茶苦茶なことがセフィラ探索の旅では頻発している。だったら記憶操作ぐらいあってもおかしくは無いだろう。しいて言うなら『神隠し』を受け入れるか『記憶操作』を受け入れるかぐらいの違いしかないのだから。
「でしたら私も突飛な発想をひとつ」
ヒマリの言葉に皆の注目が集まって――その口から放たれたのはまさに突飛なものだった。
「会長は遥か昔から続くセフィラ作りの達人でミレニアムの妖精。即ち特異現象そのもの。次に出現するセフィラの造形を決められる超越者であり、人知れず生徒に紛れて活動する影法師。次なる預言者を決める存在。そう、会長は人間ではなかったのです」
それには流石のチヒロも溜め息交じりに反論した。
「いやさ、流石にそれは飛躍が過ぎるんじゃない?」
「おやチーちゃん。もう忘れてしまったのですか? 私たちがどうして『マルクトを見つけたのか』を」
「…………っ」
チヒロは目を見開いた。
そう、『会長に言われた』からだ。行く気も無かったあの『廃墟』に、ペナルティとして無理やり調査をさせられた。それが全ての始まりである。 - 20125/07/01(火) 23:11:00
「会長は私たちがロボット兵の巡回パターンを読み解く、もしくは読み解けると考えていた……そう考えれば既にあの時から手の平で転がされていた可能性はありませんか? それなら『マルクトを作った』のも『石像を持っていた』のも『神隠し』の理由もある種の整合性が取れます。人のフリをしていた会長がマルクト殺しを受けて浮世に介入することを選んだとしたらどうでしょう?」
即ち、会長=ケテル説。
以前マルクトが例えたセフィラの一年生、二年生に従えばあの時の嫌な想像が現実だったとも考えられる。
「ちょっと待ってちょうだい」
リオの声に顔を上げる一同。ヒマリは微笑みながらリオを見つめた。
「どうしましたかリオ?」
「あの依頼は連邦生徒会長からのものだったはずよ。セミナーが巻き取って私たちに押し付けたのは確かだけれど、そもそも連邦生徒会長からエンジニア部に指名が入っていたのは事実。そして連邦生徒会長から私たちに指名が入ったのは、私たちからセミナーへ仕掛けたハッキング戦が原因じゃない」
そう、あまりに都合が良すぎるのだ。
間の変数があまりに多すぎる。そもそもエンジニア部の資金繰りから始まっているのだからそんな都合のいいことがあるはずも――
「――あ」
リオはひとつだけ思い至ってしまった。
推測に対して都合の良い状況が起こり続けることは有り得なくとも、無理を呑み込めばマルクトとの出会いを操作できる可能性が。
「リオ」
マルクトの声に顔を上げるリオ。考え込んでしまっていたのか、リオは皆が自分を見ていることに気が付いた。
「その、石像とかの話とは別になるのだけれど」
「いいから言ってください。じれったいですねぇもう」
ヒマリが口を尖らせる中、リオは「あくまで想像よ」と予防線を張ってから話し始めた。 - 21125/07/01(火) 23:18:14
「どうして連邦生徒会長が『廃墟』を禁足地に指定しようとしていたのか。もしそれが『廃墟』にマルクトもしくはイェソドが居る可能性を憂慮してのことだったらどうかしら?」
「リオ、あなたは……」
ヒマリの言葉を遮るようにリオは続けた。
「連邦生徒会長は『廃墟』にセフィラが居る可能性を想定した。だから調査を行いたかった。だからセミナーで内密の会合を開こうとして、そこに都合よく私たちがハッキング戦を仕掛けた。思い出してちょうだい。時間を決めたのはセミナーよ」
あくまで例えばの話である。
セフィラが居ないか確かめようとした連邦生徒会長。その会合相手が『二年前』にセフィラ絡みで何かを失った会長だったとすれば――
「偶然を装って『廃墟』の調査権を握った会長は『二年前』の犯人を捜している。だとすれば……マルクト殺しの『犯人』こそ『連邦生徒会長』で、その確証を得ようとしていたのが『会長』という線もあるわ」
この時の会長の立場は別にネルの『友達説』もウタハの『預言者説』も、何ならヒマリの『ケテル説』でも良い。
自分たちがマルクトを見つけたのは全部が全部、ただの偶然ではなかったという可能性への推測である。
「問題は『二年前』の会長がどの立ち位置だったのかまったく分からないことだけれども、『今』に限って言えばその可能性も――」
「本当にそうかな?」
その声の主はチヒロだった。
チヒロは眼鏡を一度拭き直してから掛け直し、言葉を紡いだ。
「全部逆の可能性は本当に無い?」
「どういうことかしら?」
「会長がマルクトを殺して作った、って可能性かな」
それにはマルクトが息を呑んだ。
誰も指摘しなかった悪意による推察。チヒロが始めるのはまさにそれである。 - 22125/07/01(火) 23:23:25
「『預言者』としてマルクトに選ばれた会長――もしくは会長の友達でも良いけど――が、旅を進めるにつれてマルクトに良くない影響が出たことを知った。だから壊してもう一度、一から全部始めようとした。マルクト殺し=会長=預言者って説も有り得るんじゃない?」
「会合とハッキング戦の件はどうなるのかしら?」
「簡単だよ。まだ二代目マルクトは未完成だった。本当だったら完成したときに始めるつもりだったけど、仮に前々から連邦生徒会長に打診されていて、会合を行うことを突っぱねていたとして……そんな時に私たちからハッキング戦の申し出が入ったから『それに合わせて』全部を調整した、っていうのも有り得るでしょ」
例え二代目マルクトが早産だったとしてもネツァクまで続けば身体は出来上がる。
悪くない賭けだ。加えて今度の『預言者』と会長との間には明確な上下関係がある。会長としての立場を使えば従わせることも誘導することも不可能では無い。
「セフィラたちは不死なんだから、不可逆的な変化が無ければ殺せば戻る。不可逆だったから消滅させた。まぁ、悪意全開で考えるならこういう感じかな」
とどのつまり、会長がセフィラ側だと盲信することの危険性を説いた推察である。
結局、会長をどこまで信用して良いのかは分からず仕舞いなのだ。
いずれにせよ、確かなことはひとつだけ。
「『予言の石像』がノイズね……」
明らかなる異物。合理からかけ離れた遺物。
こういった時、リオの脳裏に浮かぶのはこんな言葉であった。 - 23125/07/01(火) 23:24:30
(大した意味が無いか、その製造過程や発見のされ方に意味があるのか)
何か深淵たる合理がある可能性もあれば、本当に何て事の無い肩透かしな理由もあったりするのが現実である。
いずれにせよひとつ正しいことがあるとすれば、それは『情報が足りない』という一点に収まる。
実は何の意味も無くただの偶然だった――そんな可能性も考えながらリオは閉口した。
「いま思い浮かぶのはこの辺りかな?」
チヒロの言葉に皆が頷く。
ひとまずの考察はこれで終わりだと言わんばかりに、チヒロは一同を見渡した。
「じゃあ、明日からはとりあえず休暇だね。リオの買い物にも行かなきゃだし……ねぇ?」
「う……。そ、そうね……」
リオが肩を縮こまらせて頷いた。
明日から始まるのはエンジニア部――研究と開発狂いの天才たちの、およそ初めて執り行われる集団休暇であった。
----- - 24二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 00:20:27
保守
- 25二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 08:25:33
ふむ
- 26125/07/02(水) 13:45:41
保守
- 27二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 17:09:16
7体の像、2体の盗難、全部で9体、1体足りない
その1体に対応するのがどのセフィラなのかも気になるが、どうして2体が盗難されたのかも気になるな、どのセフィラとどのセフィラなのかにもよるが…
あとはダアトが結局どうなるかだな
おそらく元ネタである生命の樹の順番的に「ケセド→ビナー」のタイミングで登場すると思うけど…
もしかしたら盗難された2体は「ケセドとビナー」だったりするのかな?
もしそうなら、2体の盗難はダアトを消そうとしているようにも思える行動だな…
あと個人的に考えてるのが1体だけ足りないセフィラがもしかしたら「コクマー」なんじゃないかって説。
これはブルアカ本編の話になるが、本来コクマーに分類される筈の「天王星」の記号がキヴォトスの生命の樹にはなくて、代わりに「ダアト」を意味する「冥王星」の記号が存在している(これに対応するセフィロトも一応ある)。
理由は、そもそも「天王星」と「海王星」、そして「冥王星」は生命の樹が成立した後に発見された天体だから。
だから、「ケテル」、「コクマー」、そして「ダアト」がどの星に分類されるかは複数の解釈が存在する。
それから、ダアトはアビスの存在とされている前スレの会長の「ケセドから先は未知数」って言葉も、アビスの存在とされているダアトを通過しないとビナー達が属する天上の三角形には至れない、って意味合いなんじゃないかな…
と、頭が悪いなりに考えた私の考察という名の妄言でした。 - 28二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 23:20:22
このレスは削除されています
- 29125/07/02(水) 23:21:43
『この世界』という言葉の範囲を尋ねられた時、大抵の者は『キヴォトス』を指すものだと思うだろう。
しかし、『あなたにとっての世界とは?』と聞けば大抵の者が思うのは『キヴォトス』ではない。普段住まう『学校自治区』を思い浮かべることだろう。
わざわざ電車やバスを乗り継いで他の学区に行くことなんてそうそう無い。
もちろん学籍を無くした生徒や停学中の不良、足が付くのを恐れる犯罪者なら学区間の移動もあるだろうが、大抵の生徒は理由無くして他所の学区に行くことはまず無い。何故なら別の学区に行かずとも不便は無いからだ。
それはミレニアムも同じこと。
マルクトを連れたリオたちは、ミレニアム中央区の繁華街へと訪れていた。
「人が、多いですね……」
昼頃の中央区。バスを降りたマルクトは、道行く人々や立ち並ぶ街並みを見上げては感嘆の声を漏らした。
それは魂の星図として見るよりも確かな実感を持って得られる『雑踏』という景色。鼓動が高鳴り、その事実を以てマルクトは自分が思いのほか興奮しているのだと理解する。
「ヒマリ、あれはなんですか? 不思議なカートに人が並んでます」
「自動ポップコーン販売機ですね。確か本日新しいフレーバーが出たらしいのでその行列でしょう」
「それほど美味しいのですか?」
「いえ、最近は迷走しているようで妙なフレーバーばかり出してますね。ひとつのベストセラーよりも数打てば当たる理論で二週間限定販売を繰り返しているみたいですよ」
「ヒマリ、鳩が集まってきました。ものすごい数です」
「そろそろ爆発しますね。危ないので離れましょう」
ヒマリの言葉に従って自動ポップコーン販売機から離れると――直後、繁華街で爆発が起こった。
突然爆ぜ跳んだ販売機は周囲の人々を巻き込みながらポップコーンと販売機の残骸を辺りに散らす。そこに群がる鳩たち。
「派手に吹き飛びましたね」
「ヒマリ? あの、大丈夫なのですか?」
「ええ、毎日のことですから」
「毎日このようなことが起きているのですか!?」
マルクトは目を丸くするが、ヒマリの言葉通り爆発に巻き込まれて吹っ飛んだ客たちは平然と立ちあがり、惜しんだり悪態を吐きながらその場から立ち去る。何なら鳩と共に地に落ちたポップコーンを掻き集める不良生徒もいた。恐らくブラックマーケットで売り捌くのだろう。もう滅茶苦茶である。 - 30125/07/02(水) 23:56:41
「まさかミレニアムの治安はとてつもなく悪いのでは……?」
「そうでもねぇぞ。銃撃戦なんてほとんど無いしな。ま、他所の学区は知らねぇけど……強盗とかあんま見かけねぇし」
「それは強盗犯がネルから逃げているだけでは無いの……?」
リオが呆れたような声を上げるが、ネルの言葉に同意を示したのはヒマリである。
「私が知っている限りでは、治安の悪さで言えばゲヘナが一番ですね。犯罪率が急激に増加して昨年比800%を既に超えたそうですよ?」
「ゲヘナに何があったのよ……?」
「それが分からないんですよチーちゃん。連邦生徒会も巻き込んで情報統制が敷かれているようでして、片手間で調べられる状況では無くなっているようです」
「相当だね」
ウタハがあっさりと言うが、別の学区の話だ。大した興味もなかったため話はそこで終わった。
「とりあえずチヒロ。まずはリオの買い物だろ? さっさと行こうぜ」
「そうだね。私も久しぶりに電子機器とか見たいし……」
そうしてまず向かったのは家具とインテリア用品のチェーン店だった。
視界いっぱいに広がるベッドやタンスと言った家具にスチールラックの並んだ陳列棚。高い天井。どこからともなく香って来る木の香りを肺一杯に吸い込むと、不思議と口角が緩むのを感じた。
「なんだか……ワクワクしますね」
「どうしてこういうインテリア用品店ってワクワクするんだろうね」
「それはねチヒロ。インテリアは人類の得た技術の結晶だからさ!」 - 31125/07/02(水) 23:57:42
そう言ってウタハは今にもスキップしそうな勢いで店の中へと進み始める。早速一人が自由行動を始めて瓦解する集団行動。
別に協調性が無いわけでは無いが、このメンバー内においてはそもそも気遣って集団行動を取るという原理は存在しない。
「私もちょっとその辺見てくるよ。何かあったら呼んで」
「では、マルクトは私と共に行きませんか?」
「分かりました。リオはどうしますか?」
「私もひとりで――」
「こいつはあたしが面倒見るから安心しな。ほらリオ、さっさと決めんぞ」
「あ、あぁ……」
ネルに手を引かれて遠ざかるリオ。マルクトは何も言わずに見送ると、その手をヒマリが掴んだ。
「では、まずは人間にとって最も必要でリオが最も軽んじている睡眠――寝具から見て行きましょう」
マルクト、初めてのウィンドウショッピングの始まりである。
----- - 32二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 00:18:09
- 33二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 00:23:44
ゲヘナの治安が悪化してるってことはまだちいかわがフィクサーだった頃か
- 34二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 02:04:22
たった800%?って思ったけど、多分犯罪自体がバカほど増えた代わりに犯罪のボーダーもバカほど上がったのかしらん
ガムの単純所持で取り締まってた→バイク泥棒を取り締まれなくなる、みたいな - 35125/07/03(木) 02:58:58
あ、少なく思ってくれてとても嬉しい……。
脳内設定上のざっくり計算だと7400%弱ほど増えてますが、ゲヘナの生徒会長が変わっているため犯罪の基準が大きくズレています。
……が、今回はミレニアムの話なので特に話に上がることもありません。
脳内設定では今年度で起こっているゲヘナ関連の犯罪件数は前生徒会長がとりあえずで定めた校則によると22万件に達した見込みになるそうです。怖いですね。