トレウマSS【夢路】

  • 1◆kfKgOyUisM25/07/02(水) 20:52:57

    「しばらくの間、お暇をいただきたいですが」


    『大切な話がある』
    そう呼び出され、訪れたトレーナー室。
    どこか深みを感じる香りと共に、ドリームジャーニーの声が静かに響いた。


    思いもしない発言に驚きながら理由を聞くと『アネゴに会いに行く』ため。

    アネゴことステイゴールド。自分とジャーニーの旅路の始まりともいえるウマ娘。
    そんな彼女は今世界のどこかを旅している。もちろん何処にいるかも分からない。
    嵐のように消え去りそしてまた次の旅に出る、らしい。

    その彼女に会いに行くのだ、生半可な旅じゃあない。いつ会えるのか、そもそもどうやって彼女の居場所の糸口を掴むのか。様々な疑問や不安が頭をグルグル回る中、一つ確かに分かっていることがある。

    その旅路を、きっと自分は共には歩めないだろう。

  • 2◆kfKgOyUisM25/07/02(水) 20:54:04

     ジャーニーの旅立ちの日時はもう少しだけ先のこと。
    だが長いかと思っていた日々はあっという間に流れていき、ついに出発日当日になっていた。


    搭乗に関するアナウンスやゴロゴロとキャリーケースを引く音が聞こえる、忙しない空気が広がる空港。旅に出るジャーニーを見送るために絶対に予定を入れないようにしてここまで来た。

    「お忙しいはずなのにお見送りに来てくださるとは…。
    ありがとうございます、トレーナーさん」

    「気にしないでよジャーニー。一緒に旅してきたじゃないか」

    「ええ、ですがそれも一度ここまで。これからは、私は私の旅を。貴方は貴方の旅に出る。
    この旅の路がどこまでなのか、どんな路を進むのか。今は何も見えませんが」

    そういうと目を閉じて何かを考える素振り。やがて目を開く。

    「ああ、きっと。私と貴方はまたいつか一緒に旅に出る。
    不思議とそう感じて止まないのです、トレーナーさん」

    嗅ぎなれた香水の匂いを漂わせながら彼女は言った。

  • 3◆kfKgOyUisM25/07/02(水) 20:55:05

    「さて、そろそろ時間だ。ではトレーナーさん。今日はありがとうございました。
    また、いつか。この旅の先で会いましょう」

    「ああ、またな。体調には気を付けて」

    背を向けて検査場口に足を進め始めるジャーニー。
    次に彼女の姿を目にするのはいつになるのだろう。

    …あぁいけない。一つ、送らないといけない言葉を言い忘れていた。
    いつかこの旅を終えた彼女と、また共に旅に出るために。



    「ジャーニー!」

    珍しく、少し驚いたように振りむく彼女。

    「いってらっしゃい!」

    眼鏡越しに、目と目が合う。
    人目も場所も考えず、つい大きな声が出てしまったので恥ずかしかったが。
    ゆっくりと、けれどしっかり笑顔を浮かべた彼女を見れたことに比べれば些事だということにしておこう。

  • 4◆kfKgOyUisM25/07/02(水) 20:56:44
  • 5二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 21:42:00

    爽やかな旅立ちと別れのお話で雰囲気がとても良かった!空気感が好き!いいもの読ませてくれてありがとう!

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