仮面を茶器で温めて【ちょっとSS】

  • 1二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 23:21:38

    「ありがとう、アヤメ委員長!」
    「この程度お安い御用だよ」
    「おっ、委員長ちゃん。丁度いい所に!」
    「は~い、ちょっと待ってて」

     ――嫌だった。

    「いやあ丁度人手が足りなくてねえ、ありがとう!」
    「あはは、今度は気を付けなよ」
    「あ、委員長! 木の上にボールが引っ掛かっちゃって……」
    「はいはい、ちょっと待って」

     ――誰も彼もが手を借りる。

    「ありがとう委員長!」
    「ちゃんと周り見て遊ぶんだよ」
    「百花繚乱の、ちょいと手伝ってくれないかい?」
    「了解、すぐ行くね」

     ――人の都合も、考えないで。

  • 2二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 23:22:39

    「……はぁ」

     か細く、空気に溶けるような小さな溜息を吐く。
     こんな姿、誰にも見せてはいけないから。
     皆の思う七稜アヤメは何時も笑顔で、誰からの頼りも断らずに受け入れる……そんな人物なのだから。

    「……」

     人気の無い廃屋の影。
     誰に見られる訳も無いのに、隠れるようにして縋る様に百蓮を抱く。

     ――どうして百花繚乱なんかに入ってしまったのだろうか。

     頭の中で繰り返される自問自答は、何時もと変わらず人を助けたかっただとか、流されるままだとか、明確な答えの無いモノばかりで。

     根底にある誰かを助けたい気持ちは嘘ではない。
     ただその頻度と内容に物申したくなるだけで。
     流されるままと言っても他に何かやりたいことがある訳でもない。
     結局は、自分で決めてここに居る……と、言えるのだろう。

    「……はあ」

     さっきよりも少しだけ、大きな溜息を吐き出して心の換気を行う。
     どれもこれも自業自得な話で、全て最初に受け入れた自分の責任と言う奴なのだろう。
     だから、文句は言えない。言えないのだけれど。

     ――こうやって、一人勝手に黄昏れるくらい許して欲しい。

    「――おや、珍しいですね。百花繚乱の委員長もそんな顔、するんですね」

  • 3二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 23:23:41

     突如、声が降って来た。
     驚きながら顔を上げると、冷めた眼差しを此方に向けるロングヘア―の少女が居た。
     すっと、血の気が引いていくのを感じる。

    「あ、あはははっ……今日はちょっと疲れちゃってね……」

     すぐさま立ち上がり、取り繕った笑顔を見せる。
     だが、何が気に食わなかったのか。彼女は私以上の溜息を分かりやすく吐き出して背中を向けた。

    「い~んですよ、別に。私も似たようなもんですから……ですが、これも何かの縁ですし何か飲まれます?」
    「あ~……ありがたいんだけど」
    「な・に・か、飲まれて行きます?」
    「……緑茶で」

     何とか会話を切り上げて逃げようとも思ったが、彼女の言葉がそれを許さなかった。
     渋々と廃屋のテラスに足を踏み入れ、用意された席に着く。
     彼女は黙々と年季を感じさせる茶器を使って、緑茶を入れていく。

     自身の素顔を見て、何も言わずに茶の完成を待たされるのは正直気分が悪かったが思ったよりも早くその時は来た。
     丁寧に注がれ、だけども適当に渡されるギャップに張り付けた笑みが崩れそうになりながらも一口頂く。

     ……美味しい。
     てっきり中身も適当に作られた物かと思えば、丁寧に作られた一杯だった。
     渋味を感じるが嫌味は無くスッキリと飲むことが出来た。

    「ふふっ、良かったです」
    「えっ……?」
    「あ、気づいてないんですか? 声に出てましたよ、美味しいって」

  • 4二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 23:24:44

     そう悪戯っぽく、けれどもしっとりとした笑みを浮かべた彼女にある人物の印象がかっちりと当てはまった。
     彼女も、似たようなものと言っていたっけ、なんて思いつつ確認を前に緑茶を一口。

    「……ふう。君は百夜堂の?」
    「あれ、バレちゃいました?」
    「私の感想を話してる時の顔がいつもの君に似ててね」

     そう伝えると、彼女はへにゃりと顔を歪ませ、疲れたような表情を夕日に向けた。
     その姿に何処か既視感を覚え――自室の鏡だった事を思い出して私の顔も歪んだ。

    「……ありがとうございます」
    「いや、その……ごめんね? 何だか嫌な事を思い出させちゃったみたいで……」
    「ああいえ、そうじゃないんですよ……」

     彼女はまだ琥珀色が残っている自身のティーカップに緑茶を注ぎ――一口目で苦い顔をしながら嚥下していた。
     机の下に置いてあった百夜堂のどら焼きの一つを投げ渡され、彼女は甘味に逃げるようにしてどら焼きを頬張っていた。

    「ただちょっと……嫌いなんですよね、百夜堂」
    「……それは、また」
    「ああいや、全部が全部嫌って訳じゃないんですよ? ただまあ……嫌なお客さんだとか、伝統と言う名の柵だとか……遣る瀬無い部分があるんです」

     嫌い。いつも笑顔で接客していると噂の看板娘からそんな言葉が出て来るとは思わなかった。
     そしてそれ以上に、彼女の言葉に共感している自分が居る事に驚きを隠せなかった。

    「でも別に、言ってしまえば些細な問題なんです。どれもこれも。……でも、積もり積もって重なって、店や近所で発散出来る訳もありませんし、偶にこうしてちょっとだけ変装してぼーっとしてるんです」
    「……」

  • 5二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 23:25:44

     何処までも冷淡で、他人事な瞳。
     喫茶店の外から垣間見た満点の笑顔から遠く離れたその顔は、どうしても他人事とは思えなくて。

    「……ごめん、私もさ」

     美味しい緑茶と甘いどら焼き、アクセントと呼ぶには刺激の強い話に宛てられて、私の口は自然と軽くなっていた。

    「今日だけ、疲れてた、なんて……嘘でさ」

    「何でもかんでも、私を頼って来る人達に……毎日、うんざりしてて」

    「でも、百花繚乱の委員長として、断る訳にもいかなくて――」
    「いいじゃないですか、別に断れば」

     え、と。言葉が詰まる。
     視線を前に向けると、彼女はつまらなさそうに此方をじっと見つめていた。

    「や、でも、私が受け始めたんだし」
    「関係ないですよ、嫌ならやめちゃえばいいんです」

    「それは……ちょっと、無責任だと言うか」
    「そもそも委員長に仕事を投げてる奴らの方が無責任ですよ、一方的に抱え込まなくてもいいですよ」

    「でも……」
    「百花繚乱の委員長なんて肩書があるのがいけないんですよ、そんなに辛いなら捨ててしまえばいいんですよ」

    「それ、は……」

  • 6二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 23:26:45

    うお、もう寝る時間じゃないすか
    多分12時回ったらホスト規制かかるからここ迄やな、ほな……

  • 7二次元好きの匿名さん25/07/02(水) 23:48:22

    残ってたら続き書くで

    あとこの作品の根幹と言うか、インスパイア元と言うか

    仮面同盟【ソフトウェアトーク劇場】

    アヤメは印象的に合ってるけどシズコは全然印象と違うが、ごめん

    他に似合いそうなキャラ居らんかったんや……

  • 8二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 00:30:05

    期待させてもらうぜ

  • 9二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 00:47:55

    良スレの予感

  • 10二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 00:54:05

    期待

  • 11二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 10:27:43

    ええやんしっとりを感じる

  • 12二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 18:53:13

    お、残っとるやんけ
    飯食った後に更新するで、もうちょい待っといてな

  • 13二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 23:35:32

     その言葉は、きっと正しかった。
     けれど、何故だか私は、その言葉を否定したかった。

    「……嫌で、辞めたいのはその通りだけどさ。今すぐに全て投げ出したい程の物じゃ、なくて……」
    「へー……」

     彼女は濁った飲み物を睨みつけながら答える。
     まるで私の言葉など聞いちゃいないように、勝手気ままに飲み物と悪戦苦闘する姿はほんの少しだけ、心を軽くした。

    「感謝されるのは、嬉しい……頼られるのも、構わないんだけど……一度でも、嫌だって言ったら――もう誰からも頼りにされないかも知れない……私が、百花繚乱の名を貶めてしまうかも知れない……」

     取り留めのない感情を形成する前に吐き出したようで、要領を得ない。
     これでは彼女が言った通り、辞めた方が正解であると結論付けても致し方ない。

     だって、肯定しているのだから。
     勝手に背負った責任の重さを、逃げれば一先ずは助かる現実を。

     自然と俯く視線を止めるように、新たな緑茶が差し出された。
     ほのかに立ち昇る湯気が私の瞳を温めて――今頃、ほぼ初対面の相手に心の汚泥をぶちまけている事を思い出してしまった。

    「まあ、アヤメさんの考えは分かりましたよ。おかわりです、どうぞ」
    「いや、まだ一杯目が残って」
    「いいから、どうぞ」

     表情だけでも取り繕えているのか、そんな事は些事だと言わんばかりに飲み物を勧められる。
     ……既に取り返しのつかないところまで来ているのだと思い、腹をくくる様に二杯目に手を伸ばして。

  • 14二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 23:36:34

    「――んぐっ!? っごっほ!! ごはっ……」

     一杯目とは似ても似つかない苦みと何かと混じった香りに驚いてむせ返ってしまった。
     呼吸を整えながら彼女の方を向くと、白々しい笑みを浮かべながら自身のティーカップの底面を此方に見せつけてきた。
     コイツやりやがった……!!

    「ああすいません、つい失敗作を出してしまいましたぁ」
    「こほっ……どの口が」
    「とまあ冗談は置いておきまして」

     掴んでいた湯呑をひったくる様に奪われて、やはり味わうことなく嚥下して渋い顔を浮かべていた。
     ……アレ作ったのは冗談じゃないんだろうな、何て冷めた目で見つめていると彼女は指を一つ立ててみせた。

    「百夜堂のオーナー兼名物看板娘である私でも、こうやって食べ物関係でミスをするんです」
    「……でも百夜堂の看板娘はドジっ娘だって聞いてるけど?」
    「あれはそう言うキャラ付ですって……兎に角」

    「今は……今だけは、肩の力、抜きませんか?」

     疲れた、悲し気な笑顔だった。
     端々に表れていた取り繕った仮面を見透かすように、彼女は笑っていた。
     同情、ではなく、同類を見つめる瞳をしていた。

     どうやら彼女も、私の言葉に共感していたらしい。
     それが分かって漸く、本当に漸く肩の力が抜けるのが分かった。

    「そっか……うん、そうだね」

  • 15二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 23:37:43

    すまん、展開の修正しとったら全然進まんかったわ
    今日で終わらせる気やったんやけどな……難しいもんやで

  • 16二次元好きの匿名さん25/07/03(木) 23:54:35

    乙やで

スレッドは7/4 09:54頃に落ちます

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