(SS)短冊に願うは

  • 1◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 13:46:31

    七夕前日———
    今学園の中心には大きな笹の木が設置されており、それぞれが短冊に願いを書き笹に吊るすのが学園で恒例のイベントとなっている。

    (皆、様々な願いを込めているな……)

    願いが書かれた短冊が数多く吊るされている笹を眺めながらそう思っているのはエアグルーヴ。
    彼女もまた、この笹に自分の願いを書いた短冊を吊そうとここに来ていたのだ。
    様々な短冊を眺めながら自分のものを吊るす場所を探しているとふと視線にもう一つの笹の木が映り込む。

    (あれは……トレーナー達の短冊が吊るされている笹の木か)

    よく見ればもう一つの笹の木にも願いが書かれた短冊は吊るされている。
    今年から学生達と同じようにトレーナー達もそれぞれの願いを短冊に書き笹に吊るすようになったのだ。

    (彼はもうあの笹に短冊を吊るしたのだろうか……)

    短冊を吊るす場所を探しながら何度も隣の笹を見てしまうエアグルーヴ。
    他人の願いをジロジロと覗き込む趣味は持ち合わせていない……が、自分のトレーナーがどのような事を書いているのか気になって仕方がなかったのだ。

    「少しだけ見てみるか……」

    そう呟きながら一旦短冊を吊るすのをやめ、隣の笹の木に向かっていったのであった。

  • 2◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 13:47:42

    「………無い」

    隣の笹に近づき見上げるエアグルーヴだったが、何処を探してみても自分のトレーナーの短冊が見つからない。別に凝視しているわけでは無いので探せばあるのかもしれない……が、それでも見渡せる限りには何処にも吊るされていない。
    七夕の日の数日前からこの笹の木は設置されているので時間的猶予はあった筈である。

    (さては明日が何の日か忘れているな……?)

    以前働き過ぎて行事の事をすっかり忘れていたトレーナーの事をエアグルーヴは思い出す。また棍を詰めているのならば注意せねば……そう思った時、自分の視界に時計が映りトレーニングが始まる時間を指し示していた。
    最も、今日はこれらの予定調整の為のミーティングではあったのだが。

    (今日はミーティングだ。それとなく彼に聞いてみてもいいだろう……)

    そんな事を考えながら自分の短冊を鞄にしまいながらトレーナー室へ向かうエアグルーヴなのであった。

  • 3◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 13:48:44

    トレーナー室へ移動し、トレーナーと今後の予定を再確認や調整を行いそれに合った練習方法を決めていくグルーヴ。
    何事もなく打ち合わせは進んではいたが話している最中、トレーナーの横にあった細長い紙の"束"が目に入ったのである。

    「今後の予定はこれでいいだろう。……それで、貴様の机に置いてある紙についてだが」

    そこまでエアグルーヴが言うとトレーナーは一瞬ハッとした顔をしたと思えば苦笑いを浮かべて彼女に話しかける。

    「……やっぱりバレた?」
    「その紙…七夕の短冊だろう? それにしてはかなり分厚いが」
    「いやぁ昨日まですっかり忘れててさ、いざ書こうとしたら願いが沢山あり過ぎて選べずに……」
    「それがこの短冊の束か………」

    そう呟きながら机の上にある短冊の束を見つめるエアグルーヴ。改めて見てみれば何十枚も重なっているそれに何が書かれているのか気になって仕方がない。
    元々それとなく聞くつもりではあったが意を決して回りくどくせずに直接聞いてみる事にした。

    「何を書いたか見ても構わないか?」
    「ま…まぁいいけど」
    「………?」

    若干歯切れが悪い回答に疑問を抱きつつ束を手にしたエアグルーヴが覗き込むと………

  • 4◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 13:49:57

    【エアグルーヴが健康で暮らせますように】
    【エアグルーヴの願いが叶いますように】
    【エアグルーヴがずっと一番でありますように】
    【エアグルーヴが…………

    「これは…………」

    エアグルーヴが短冊に書かれている願いを見た瞬間、彼が歯切れの悪い回答をしていた理由が即座に理解できた。
    当然であろう。この短冊の束に書かれている願いは全て彼女への願いであり、それを当の本人に見られているのだから。

    「……自分自身の願いはどうした」
    「トレーナーたる者担当の願いや望みが叶う事が全てだからね…よいしょっと」
    「…たわけ…………ん?」

    そんなやり取りを交わしつつ話の最中トレーナーが書類を持ち上げたその時、資料の一番下にあったであろう一枚の紙がひらりとエアグルーヴの目の前に落ちた。

    「これは…短冊か」
    「え……あ"っ!?」
    「全く…書いておきながら散らかして……ちゃんと整理整頓は———」

  • 5◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 13:51:02

    【エアグルーヴをずっと支えていけますように】

  • 6◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 13:52:09

    「———ッ」

    手に取った短冊を見つめながらエアグルーヴの耳と尻尾が跳ね上がる。動揺しながらトレーナーの方に向き直ると顔を押さえて赤面している彼の姿がそこにあった。

    「き…貴様……こ、この願いは……?」
    「見ての通りだよグルーヴ…ああ、見られてしまった……自分の秘密の願いが……」
    「———!!」

    突然の事に先程まで動揺していたエアグルーヴ。しかし次第に情報を整理でき、何よりトレーナーの言葉とその姿を見て書かれたその願いが悪戯でも冗談でもない事を理解し、普段の冷静さを取り戻す。

    「もっとその願いに胸を張れ……あるじゃないか…貴様自身の立派な願いが………!」
    「グルーヴ………」
    「だから…この短冊達は没収するぞ」
    「えぇ!?」

    "上げて落とす"トレーナーの心境はまさにそれを表しているだろう。だが彼を宥めるように彼女は続ける。

    「そう結論を急ぐな。この短冊は願いを書いて吊るすものだろう?」
    「そ、そうだけど……」
    「しかし現実的な話をしてしまうとこの願いがすぐに叶う保証はない……まぁ願いを叶えるために努力する事は前提の上でだがな」

    そこまで言うとエアグルーヴは大きく深呼吸し、トレーナーの正面へと立ちしっかりと彼の顔を見ると———

  • 7◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 13:53:15

    「だから……私がこの願いを叶えてやる」

    「———ッ!?」

  • 8◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 13:54:22

    「え……それって………」
    「その言葉の通りだ。貴様が書いたこの短冊願い…全て私が叶えてやる」

    エアグルーヴのその言葉に今度はトレーナーが動揺したがそれも当たり前だろう。彼が書いた全ての願い…つまり彼女への願いを叶えるというのはそういう事なのだから。
    驚きと感銘に浸っているトレーナーの姿を見ながら彼女は続ける。

    「だから……私の願いも叶えて欲しい」
    「ああ、自分に出来ることなら何でも言ってくれ」

    トレーナーのその言葉を受けてエアグルーヴは微笑みながら———

    「これからもずっと私の事を支えて欲しい……ずっと私の事を見て欲しい……」

    「ずっと、私のそばにいて欲しい……!」

    「!……任せてくれ、絶対に叶えてみせる」

    エアグルーヴの言葉と同時にトレーナーに差し伸べられた手。
    その手をトレーナーは優しくも力強く握り願いを叶えてみせると誓ったのであった…………

  • 9◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 13:55:26

    「さて今日のミーティングはこれくらいにしておこうか……グルーヴはもうあの笹に短冊を吊るした?」
    「この後吊るすつもりだ。……ああは言ったが貴様の…トレーナーの願いが書かれた短冊を蔑ろにする形になってすまない……」

    そう言って申し訳無さそうな顔で俯くエアグルーヴ。
    その姿を見てトレーナーは白紙の短冊を一枚取り出して何やら願いを書き始めた。

    「大丈夫、もう新たに書く願いは決まったから」
    「この願いは……なら私も……」

    トレーナーが書いた願いを見たエアグルーヴも白紙の短冊を一枚手に取り、願いを書き込んでいく。
    その願いを見たトレーナーは一瞬驚いたがすぐにいつもの表情に戻り微笑んだ。

    「グルーヴも書けたようだし二人で吊るしに行こうか」
    「ふふっ…私もそのつもりだ。行くぞ、トレーナー」

    そう言いながら二人はトレーナー室を出て、笹の木がある場所へと向かっていったのであった。

  • 10◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 13:56:32

    翌日———

    【いつまでも理想のウマ娘でいられますように】

    「あれってエアグルーヴ先輩の短冊よね?」
    「"いつまでも理想のウマ娘でいられますように"だって」
    「先輩らしい願いだよね〜」
    「皆の理想でいようとする姿に憧れちゃうなぁ」
    「なぁ知っているか?エアグルーヴのトレーナーの願いもほぼ一緒の願いみたいだぞ?」
    「本当!?」


    【いつまで理想のトレーナーでいられますように】

    「なぁエアグルーヴのトレーナーの願い見たか?」
    「確か"いつまでも理想のトレーナーでいられますように"だったな」
    「周囲から理想のトレーナーと思われるようにか……」
    「普段から担当にたわけたわけと呼ばれている様だけど大丈夫か……?」
    「噂だと彼とエアグルーヴさんの願いがほぼ同じ内容ですって」
    「へぇーそんな偶然もあるんだなぁ」

  • 11◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 13:57:36

    そんな話題で賑やかな場所から少し離れた所から、エアグルーヴとトレーナーはその様子を眺めていた。

    「皆、私達の短冊の事で噂をしているようだな」
    「そりゃそうさ、何せ二人とも願いの内容がほぼ同じなんだからさ」
    「確かに、ウマ娘とその担当トレーナーの書いた願いが同じ内容ならばそうもなるか」

    ふと彼女が沢山の願いが吊るされている笹の木をじっと眺め、少し考えた後呟き始める。

    「それに、皆気付いてはいないようだな……あの願いの秘密を」
    「ま、あれだけ見たら普通の願いだからね。……本当はちょっと欲張ったようなものだけど」
    「しかし改めて考えれば私達はズルをしているのかもな……」
    「ズルなもんか。それにそんな事絶対に言わせないし言われたとしても逆に言い切ってやる。"これは二人で誓った願いだ"ってね」

  • 12◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 13:58:41

    するとエアグルーヴの耳と尻尾がピンと跳ね上がり、まるでトレーナーの言葉を噛み締めるかの様に目を瞑りながら深呼吸をし、自身を落ち着かせていく。

    「たわけ。だが、この願いはそのくらいの筋を通す覚悟を持たねばならない…それ程の願いだ」
    「そういう事。……だから改めてあの願いを君に誓わせて欲しい」
    「ああ、私からも貴様に…貴方にあの願いを誓わせてくれ。私達のこれからのためにも……な」

    二人は言葉を交わしながら向かい合い、互いの顔を目を逸らさずにじっと見つめ———

  • 13◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 13:59:46

    「いつまでも"皆の"理想のウマ娘でいられますように」
    「いつまでも"皆の"理想のトレーナーでいられますように」


    「いつまでも"貴方の"理想のウマ娘でいられますように」
    「いつまでも"君の"理想のトレーナーでいられますように」


    『そして………』

  • 14◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 14:00:51

    「いつまでも貴方と……」

    「いつまでも君と……」



    『一緒に添い遂げられる事ができますように』

  • 15◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 14:02:01

    以上、明日は七夕という事で一つ

    長文失礼しました

  • 16二次元好きの匿名さん25/07/06(日) 20:12:48

    一行レスが効くねぇ これだからあにまんは止められねえんだ

  • 17◆pRPTa/uI8M25/07/06(日) 20:35:05

    >>16

    これができるのがあにまんの強みよ

    読んでくれてありがとうねぇ

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています