- 1◆cm9WymTZ/w25/07/08(火) 02:35:11
- 2◆cm9WymTZ/w25/07/08(火) 02:36:30
「トレーナーさん、……その、これから夜空を見に行かない?」
夕方、トレーニングとその振り返りを終えた、いつも通りのトレーナー室。担当のアドマイヤベガは唐突にそんなことを言い出した。
「私と?もちろん良いけど、珍しいね。」
この3年間を一緒に駆け抜けて、彼女のことは色々知ってきたし、信頼関係を築けたという自負はある。それでも、彼女の"好きなこと"の星空観察に誘われたのは初めてだった。
「良いの、今日は。じゃあ、20時にここに集合ね。私はフジさんに遅く帰ることを伝えておくから。」
「分かったよ、私も準備しておくね。」
「言っとくけど、泊まるわけじゃないから大層な装備は要らないわよ?…あっ、でも少し遠いからスクーターは用意しておいて。」 - 3◆cm9WymTZ/w25/07/08(火) 02:37:31
「お待たせ、待った?」「大丈夫、私もいま来たところよ。さ、行きましょ。」
月明かりの中走り出す。
「にしても、やっぱり珍しいね。アヤベが私を連れて行ってくれるなんて。」
会えなかった妹と会える、大切なひととき。いなくなったとしても、星空を眺める時間は重要なはず。今まで誰かを連れていくことは殆ど無かったのは、きっとそういうこと。
と、そこまで考えて気付いた。月明かりがあって星が見えない、つまり今日は星空観察に向いている日じゃない。
「別に、たまには良いでしょ。」
「今日は月明かりがあるから、星はあまり見えないはず。……もしかして、七夕だから?」
「……………」「そうよ。全く、貴方は変なところで勘が働くんだから……」
ちょっと困り顔になるアドマイヤベガ。そんな会話をしているうちに、山道のなかの開けた場所にたどり着いた。 - 4◆cm9WymTZ/w25/07/08(火) 02:38:35
「ここよ。いつも、私が星を見ているところの1つ。」
月明かりが邪魔をするけど、それでも月の反対側には満天の星空が広がっている。
息を呑む私。プラネタリウムには何回も行ったけど、人工のものとは全く違う空がそこにある。
そんな中でもひときわ輝いているのは、天の川を挟んで光る夏の大三角だった。
「……今年は晴れて良かったわ。織姫と彦星、会えないなんて寂しいもの。それに……」
「貴方も知っているでしょうけど、織姫の星の名前はベガって言うのよ。……重ねてしまうじゃない。」
隣のアヤベが小さく呟く。
「ねえ……。」
「もし、私と貴方が同じことになったら。貴方はどうするの?」「1年に1度しか、会えないとしたら。」
「まずそんなことさせないし、もしそうなってしまったとしても……そうだね、天の川を泳いで渡って、貴方を支えるよ。そう、約束したから。」
「……!」「全く……本当に、変な人。」
薄い月明かり。彼女の表情を知ることはできたけれど、さすがにそれは無粋かな、って。 - 5◆cm9WymTZ/w25/07/08(火) 02:39:36
(拝啓、あなたへ。)
(私のそばには、変な人がいます。いくら言っても、突き放しても、勝手についてきて、勝手に私を支える、変な人が。)
(始めは少し、鬱陶しかったけど。今は、それもいいなって思います。)
(今日はその人と、七夕の星を見に行きました。今年は2人、会えたみたいで、お姉ちゃんは嬉しいです。)
(いつか、私があなたに会うとき。私のことも、私の友達のことも。話したいことはいっぱいあるけれど。)
(あの人のこともたくさん、話したいの。私が生きた時間には、あの人も欠かせないって思ったから。) - 6二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 02:40:42
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- 7◆cm9WymTZ/w25/07/08(火) 03:12:35
おしまい
七夕の夜空を眺めてアヤベさんだったらどう思うかなあってなったので衝動で書きました - 8二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 03:16:56
乙
このくらいグイグイ行った方がアヤベさんにはいいかもしれないね - 9二次元好きの匿名さん25/07/08(火) 06:22:59
やっぱりアヤベさんは七夕とマッチするよね……すき