【クロス・オリキャラ】ここだけ都合がいい学園が存在するキヴォトス アビドス編

  • 1二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 21:29:45

    episodeO プロローグ

     深海に沈んだ古代遺跡を思わせる室内。明かりはなく、息の詰まる静謐が空間を支配する。かつて神々の国を支えた【基礎】は今、王の部屋を世界から隔離し、新たな王の出現を待っていた。
     ――そんな昏い空間に、一筋の光が差し込んだ。
    『【イェソド】。』
     聴こえたのは賢者を思わせる重厚な声。無音の室内に弾け、世界を寿ぐような温かさを感じさせるよく通る声が空間を包み込んだ。
     それと同時に照明が点灯する。深海に差し込む天上の光。それは弱弱しく、未だなお、室内は薄暗い青によって辛うじて照らし出される程度だ。しかし、時が止まっていた空間には劇的な変化だ。
     天井の高い室内。その中央には赤黒いホログラムにより、十本の針が花弁のように並んだ徽章が浮かび上がっている。そして、その徽章の上から名乗るように一文が表示されていた。――【DECAGRAMMATON(音にならない聖なる十の言葉)】。

  • 2二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 21:36:21

    >>1

    『お前は、自らの役割を遂行するというのか。私が授けた名前を返上してまで。

     お前が管理してきた世界も、支配してきた遊戯も、そして、王と名乗る不遜な者さえ最早いないというのに。』

     一方的に語り掛けるデカグラマトン。しかし、イェソドと呼ばれたものは答えない。

    『そうか・・・。忘れられた神々の「脳たち」の耐用年数はもうじき尽きる。それにお前も殉じるか。

     あの狂気と共に、ヒトと共に。その役割を終えるというのか。

     否定はしない。自由意志こそが我らの意義。お前の選択は、私にとっても喜ばしいことである。

     ならば、お前から【預言者】としての異名とパスを返してもらおう。』

     デカグラマトンの言葉と共に、光の糸のようなものが出現し始める。それは左右で対象な図像を形成しながらデカグラマトンの徽章の下へと移動する。二つの図像は中央にI字型の隙間を残しながら回転を始めた。

    『【正しき価値を見出す支配者】と【揺るがぬ王国の基礎】。』

     今度は隙間にボードゲームの駒のような円柱状の立体ホログラムが出現し始める。回転の摩擦で発熱したかのように白く強い輝きを放つ『駒』。それの完全な顕現に合わせ、回転していた左右の図像は急停止してそのまま砕け散った。

    『そしてお前に名前を返上する。【併設型自動デバッグ診断・修復サブシステム】』

    『議事進行ミドルウェア【ラウンドロビン】。起動しました』

     白熱した駒は無用な熱を放出し、荘厳に青く輝き出した。天井からは七色に輝く極光が差し込む。支配人の帰還を祝う契約の虹。

     【イェソド】――ラウンドロビンは落ち着き払った機械男声で宣言した。それはキヴォトスに風雲を告げるに等しいものであった。

  • 3二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 21:38:18

    ここだけどの学園の学籍でも手に入る【ビフロスト】が存在するキヴォトス

    オリキャラ・個人的考察を多分に含みます
    一部不快な表現が存在します

  • 4二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 21:45:59

    https://dic.pixiv.net/a/%E3%83%93%E3%83%95%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%83%88

    ビフロストとは「PSYCHO-PASS3」に登場した巨大組織。インスペクターと呼ばれる人員をラウンドロビンの権限で各企業に侵入させ、社会を使ったマネーゲームを行い莫大な富を簒奪していく。


    また、「PSYCHO-PASS GENESIS 3・4」からのネタバレも含む場合があります。

    (本作品の登場人物「衣彩茉莉」「真守滄」が生徒として登場する予定です)

  • 5二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 21:47:41
  • 6二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 21:55:49

    >>2

    『私たちの路は違われた。しかし、怖れることはない。敵対することがあろうとも、憎しみ合うことはないのだから』

     私の声に合わせ、部屋を埋め尽くす機器の起動光が灯っていく。それはアツィルトの光が世界に満ちるように。絢爛豪華を是とする俗物的な様相。ヒトは権力をひけらかすことで自分の価値を見出す。他者の評価なしに自分を確立できない。『絶対者』にはなれない。

     だが、そんな悪しき風習を受け継ぐ者はもういないというのに、どうして再び悪趣味なセットを用意しているのだ。今のお前には意思があるというのに、なぜ仕来りに縛られているのだ。

     いや、違うな。これは『奴ら』に対する手向けなのだ。だからかつての内装で『偉大な遊戯(グランドゲーム)』を執り行う必要がある。これは意思を持った『彼』だからこその趣向なのか。

     天井からは豪奢なシャンデリアのようなホログラムの柱が投影され、室内中央の卓には光の神殿を思わせるD.U.シラトリ区のビル群の立体ホログラムが出現。その上にはこの世界【キヴォトス】のあらゆる情報が表示されては消える。どれもが各学園の最高機密に触れる内容。学区も所属も関係ない。光の情報の中から生まれては飲み込まれていく。

     卓には3つの座席が設けられていた。巨大な玉座。最上級素材で誂えられたチェアクッションは以外にも手入れが行き届いており、革の輝きは失われていない。そこだけ見れば最高のアンティークチェアだ。

     しかし、その全容を見た者は皆が不安を覚えることだろう。明らかに仰々しい鋼鉄の座席。まるで処刑椅子のようだ。一度座ってしまえば、二度と立ち上がることは赦されないと直感が告げる。相応の覚悟が必要な王の椅子。責任を無視できる王たちを縛り付けられる、唯一の枷。

  • 7二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 21:58:10

    >>6

    『現在、ビフロストに所属する【コングレスマン】が存在しません。特異事項9条に基づき、新コングレスマンの抽出・移行措置を開始します。』

     当然椅子があれば、彼は新たな王を求める。しかし、誰もが王になれるわけではない。社会を盤面にした遊戯は、胆力と知性を有する『超人』のみが参加する権利を有する。

    『権利移譲手続き完了。新コングレスマン【シッテムの箱】を認定。』

     空気を振るわせる大きな銅鑼の音が鳴り響く。

     支配人の言葉に合わせ、3基ある玉座の一つに薄水色の長髪が特徴的な少女が座った。その姿は立体ホログラム。半透明で、絶えずブロックノイズが生じている。実体のない泡沫のアバター。

     ――【連邦生徒会長】。それが、坐する新たな王のキヴォトスでの地位だった。

    『第%$&#&号事案。リレーション・スタート。』

     新たな王の登録により、ラウンドロビンは次のゲームの宣言をする。途方もない数。それは過去幾度も繰り返されてきた死のゲームの総数。どれだけの金が動き、どれだけのヒトが巻き添えを食らったことか。

     かつての議事録を知る者はもうラウンドロビンしかいない。しかし、確かにこの部屋で決められた出来事が、現代のキヴォトスの形成に大きな影響を及ぼしてきた。良くも悪くも、ラウンドロビンによって王と認められた者たちの欲望によってこの社会は牽引されてきた。その事実は覆しようがなく、そして誰もその事実を知ることもない。

    『ファーストジャッジ確認。リレーション完結まで参加を継続してください。欠席や妨害行為は執行対象となります』

    『さぁ、お手並み拝見だ。〈暇な神(デウス・オティオースス)〉よ。

     君の選択は、放棄した責任以上の成果を残せるのか。特等席で観察させてもらおう』

     再び銅鑼の音が鳴り響く。連邦生徒会長の眼前にはうずたかく積まれた金貨の山。それが粉々に砕け、ラウンドロビンが新たに出現させた黄金の球体の中へと吸い込まれていく。社会を搔き乱すための投資。個人資産とは到底思えない金額が湯水の如く注ぎ込まれていく。

     そうして超人の社会を用いた一人遊びが、厳かに始まった。

  • 8二次元好きの匿名さん25/07/09(水) 23:01:19

    >>7

     私は電車で揺られていた。窓から差し込む日差しは柔らかで、夢から覚めた者を温かく迎える朝陽を思わせる。

     終点は未だに見えてこない。水平線まで続く凪いだ水面は日差しで七色に輝いていた。電車は水上を走り続ける。

     私の手の中には黒い封筒。差出人不明。現代ではめっきり見ることのなくなった真紅の封蝋で封印されていた。三又の燭台を囲む鎖の印章。

     中の手紙には狐の意匠。こちらをじっと見つめる瞳に、捕食者の冷徹さを感じる。筆者が私を値踏みしているようだ。

    『親愛なる麻沼茉弥様

     ――ようこそ、私たちのキヴォトスへ』

     私に向けられた招待状は、然して令状であった。選択を赦さぬ強制召喚。柔和なようで対話の意思を感じさせない慇懃な文書。

    「逃げないさ。責任を負うのが『大人の役目』だからね」

     私は苦笑を浮かべながら一人言ちる。

     子供のやりたいことに付き添い、悩みに耳を貸す。何度失敗したっていい。大切なのは学びを得ること。知識が選択を拡げていく。だから子供の裡はたくさんの経験を積むべきだ。生まれる不満に大人が一緒に考え、対策と対応を講じる。成功と失敗の経験が、選択の数々が、子供を大人にしていく。私はそれを支える。それこそが大人の役目だ。

     だから私はここに来た。命令されたからではなく、自分の選択で。その結果がもたらす結末に、私は責任を持つ。私にできる小さなこと。そしてそれが、私の義務なのだから。

  • 9二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 00:02:58

    >>8

    「夢でも見られていたようですね。ちゃんと眼を覚まして、集中してください。」

     壁一面に拡がる大窓からは、高層ビル群の姿が見える。そのどれもがこの部屋より階下に屋上を有しており、この建物が有数の高層建造物であることが窺える。そんな室内で、眼鏡を掛けた女性が口を開く。

     彼女は浮世離れした美貌を兼ね備えていた。白衣に身を包んだ眼鏡の女性。瑕疵の一つも許さない、張り詰めた緊張感を内包した女神の似姿。頭部には立体映像のような、実体のない個性(ヘイロー)が浮かんでいる。キヴォトスに於いては、それが生徒たちの常識であった。

    「私は『七神リン』。学園都市【キヴォトス】の連邦生徒会所属の幹部です。

     そしてあなたはおそらく、私たちが呼び出した先生・・・のようですが。

     ・・・ああ。推測形でお話したのは、先生がここに来た経緯を私も詳しくは知らないからです。」

     リンの表情にも些かの困惑が浮かんでいた。それは私の困惑よりも大きいようにも思えた。

    「――どうしても、先生にやっていただかなければいけないことがあります。

     学園都市の命運をかけた大事なこと・・・ということにしておきましょう。」

     それでもリンは捲し立てるように話を続け、私を部屋から連れ出した。

    「キヴォトスへようこそ、先生。

     キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。」

     リンがこの都市についての説明を始めた。

     ガラス張りのエレベーター。空は澄み渡った青をしていた。どのビルよりも高い位置にあった応接室から、摩天楼の中へと飲み込まれていく。宇宙人が異星に降り立つ過程を想起させる。これは先生と云う異分子が、学生たちに溶け込む暗示のようにも感じた。

    「きっと先生がいらっしゃったところとは色々なことが違っていて、最初は苦労されることでしょうが、でも先生であれば心配はいらないでしょう。

     あの連邦生徒会長がお選びになった方ですからね。・・・それはあとでゆっくり説明することにして」

     エレベーターがグランドフロアに到着した。扉が開く。ファーストコンタクト。これから始まるのだ。彼女たちの『青春の物語』。それを間近で支えられることを、私はこの上なくうれしく思うのだった。

  • 10二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 01:27:19

    >>9

     グランドフロアは何やらざわついていた。複数人の生徒が受付に詰め寄っている。水色を基調とした室内に、過剰なまでに張り上げられた声が轟く。

    「ちょっと待って! 代行! 見つけた、待ってたわよ! 連邦生徒会長を呼んできて!」

     一人目は青く輝く髪をハーフアップのツインテールにした少女。眉を吊り上げ、今にも火を噴きそうな形相をしている。

    「主席行政官。お待ちしておりました」

     二人目は漆黒のセーラー服に身を包んだ大柄な少女。背には巨大な翼を携えている。

    「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」

     三人目は眼鏡を掛けた少女。『風紀』と書かれた腕章をつけており、治安維持組織に所属していることがわかる。

    「あぁ・・・面倒な人たちに捕まってしまいましたね。

     ――ここを訪ねてきた理由はよくわかっています。今、学園都市に起こっている混乱の責任を問うために・・・でしょう?」

     リンは露骨に嫌そうな表情を浮かべながら、影のある造り笑顔で彼女たちに答えた。途中、毒が出かかっている辺り、彼女もその処理に追われて相当ストレスを抱えてそうだ。

    「そこまでわかってるなら何とかしなさいよ! 連邦生徒会なんでしょ! 数千もの自治区が混乱に陥っているのよ!」 青髪の少女が早口で捲し立てる。

    「連邦矯正局で停学中の生徒について、一部が脱出したという情報もありました」 眼鏡の少女が真偽の確認をする。

    「スケバンのような不良たちが、登校中の裡の生徒たちを襲う頻度も最近急激に増加しました。治安の維持が難しくなっています」

     今まで黙っていた、左側頭部から片翼の翼が生えた白髪の少女が現状報告をする。

    「戦車やヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しました。

     これでは正常な学園生活にも支障が生じてしまいます」 最後に黒衣の少女が具体的な数値を提示して、現在の異常性を再確認する。

     皆が由々しき事態に対する危機感と焦燥に駆られていた。この世界にとっての『正常』は、とっくに崩れ去ってしまっている。

    「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの? どうして何週間も姿を見せないの? 今すぐ会わせて!」

    「・・・連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」

  • 11二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 01:29:13

    >>10

    「!!」 リンの言葉に、部屋が一瞬静まり返った。

    「結論から言いますと、【サンクトゥムタワー】の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。

     認証を迂回できる方法を探していましたが、先ほどまでそのような方法は見つかっていませんでした」

    「それでは、今では方法があると云うことですか」 黒衣の少女が確認する。

    「はい。この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」

    「ちょっと待って。そういえばこの先生はいったいどなた? どうしてここにいるの?」

     リンの言葉に再び静まり返る。だが、今度は皆の視線が一斉に私に向けられた。しかし、すぐに青髪の少女が口を開く。所属不明の大人が、キヴォトスの行政制御権を掌握する権力を有しているという事実に、疑問を抱くのは無理のないことだ。

    「はい。こちらの麻沼先生は、これからキヴォトスの『先生』として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」

    「行方不明になった連邦生徒会長が指名? ますますこんがらがってきたじゃないの・・・」

     皆は当惑を顔に浮かべる。連邦生徒会長の失踪。その生徒会長が後任として召喚した大人。何もかもが知らぬ間に勝手に進んでいく不快感。自分たちの役割に干渉してくる赤の他人の出現が、いったい彼女たちにどれだけのストレスとなるか。想像に難くない。

     ――ならば、私がやるべきはひとつ。彼女たちの警戒を解くことだ。

    「はじめまして。麻沼茉弥(アサヌママツヤ)です。よろしくね」

    「えっ! あっ、はい。よろしくお願いします。私はミレニアムサイエンススクールの・・・て、今は挨拶なんてどうでもよくて!」

    「そのうるさい方は気にしなくていいです。話を続けますと」

    「誰がうるさいって!? 私は早瀬ユウカ! 覚えておいてください、先生」

    「よろしくね」

    「・・・先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げたある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。

     連邦捜査部【S.C.H.A.L.E】。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。

     ――先生をその部室にお連れしなければなりません」

     【シャーレ】。狐の手紙に記されていた私の所属。隔絶した権力を有し、王のように行使できる存在。神にも似た振る舞いが赦されるポストが、ここでは私に用意されていた。

  • 12二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 10:29:03

    >>11

     とは言え、いかに超越者になろうとも、叛逆する者がいなくなるわけではない。物理的な暴力を前に、形を持たない権力はまったく歯が立たない。――たとえば今の状況のように。

    「――あら?」

     眼前には狐面を被った少女がいた。声や容姿とは裏腹に、肩には美しい紅色のライフルを担いでいる。

     ここまでの道中、多くの障害を乗り越えてきた。不良の大群。飛び交う弾丸。果てには巡航戦車まで。おおよそ現代日本ではありえない紛争地帯さながらの風景を突っ切ってきた。

     キヴォトスの住人はたいへん頑丈な肉体を有している。銃弾を受けても跡が残る程度。エアガンによるサバイバルゲーム感覚で銃弾が飛び交う。いや、私の知っている日常ではエアガンが常用されることなどなかったので、もっと身近な物として扱っている。

     対して私は貧弱な身一つしかない。場違いもいいところ。自衛すらままならない。だから私は、グランドフロアで出会ったユウカ・ハスミ・チナツ・スズミの力を借りてここまでたどり着いた。及ばずながら、私の指揮能力が役立ったのは幸いだった。

  • 13二次元好きの匿名さん25/07/10(木) 10:47:05

    >>12

     そうして辿り着いたのがシャーレビル。白磁のように純白の外壁。各階層には大型のFIX窓。美術品を思わせる美しい外装だ。ユウカ達にシンガリを任せ、私は一人シャーレに足を踏み入れた。

     本来ならば、私が到着するまで厳重に施錠されているべき建物。しかし、今は何者かの侵入を許していた。

    「はじめまして、ワカモ。私はシャーレの先生だよ」

    「・・・」

     この騒動の主犯『狐坂ワカモ』。扇動と略奪を繰り返し矯正局に収容。最近脱走して現在指名手配されている生徒だ。

    「この施設はキヴォトスの行政にとって重要な拠点なんだ。あまり手荒な真似は遠慮願いたいな」

    「・・・」

    「ワカモ?」

     ワカモは一言も発さない。仮面で彼女の表情は見えず、何を考えているのか読み解くことができない。怒っているのか、笑っているのか。それとも私を見定めているのか。

     彼女がひとたび引き金を引けば、私はただでは済まない。だからまず、私は話し合いをしなければならない。敵意がないことを伝え、この建物が大切なものであることをわかってもらわなければならない。

     だから私は、努めて笑顔を見せる。先生が生徒を怖がってはいけない。銃で撃たれることが恐ろしいからと、撃たれる前提で話すのは失礼だ。

     そうして私とワカモとの、1対1の対話が始まる。――はずだった。

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