【閲覧注意・🎲】ここだけ不知火カヤの中身が、大体ボンドルド卿だった世界線 Part.18(建て直し・その2)

  • 1ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:36:05

    【あらすじ】
    あぁ・・・楽しい狩りでしたね、ホシノ。

  • 2ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:38:13
  • 3ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:39:57
  • 4ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:41:12
  • 5ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:42:27
  • 6ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:43:49
  • 7ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:44:53
  • 8ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:46:02

    ────────────────────

    レシーマ:
    「─── カヤ・・・じゃなかった室長 ───」

    過去最大級の過酷さを見せた狩りを終え、事後処理も終了しつつある中、レシーマはカヤの下を訪れた。

    ─── しかし、そこには辛うじて人の形を保っている汚泥の怪物がいた。
    影のような、しかしそれよりずっと悍ましいそれは、レシーマを見ると その歪んだ腕を伸ばす。

    レシーマ:
    「・・・。」

    夜の輪郭:
    【・・・。】

    そしてレシーマの怯えた表情を見て、動きを止めた。
    怯えさせるのは本意では無かったのか、壊れ物を前にした人間のように ゆっくりと後ろに下がった。

    そして個室にポツンと置いてあったパイプ椅子に腰を下ろす。
    しばらく見つめ合っていたレシーマと怪物だったが、やがて諦めたのか怪物はグジュグジュと湿った音を立てて本来の姿を取り戻していった。

  • 9ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:47:37

    カヤ:
    「・・・あぁ、これが目覚めですか。」

    そうしてレシーマの良く知る方のカヤが現われる。

    レシーマ:
    「カ ─── 室長、今の・・・。」

    カヤ:
    「おや、公の場でもないのですから、別に昔のようにカヤと呼び捨てにして貰っても構いませんよ?」

    レシーマ:
    「・・・まぁ、いいか。 で、カヤ・・・今のは・・・。」

    カヤ:
    「・・・貴方には見苦しいところを見せてしまいました。
    あれは私の宿痾そのものですよ。 もっとも、幾らかは『かつての私』でもあったようですが。」

    記憶を探りながらカヤは言う。
    レシーマはハッとした表情をして、カヤに寄り添った。

    レシーマ:
    「・・・痛くない?」

    カヤ:
    「・・・レシーマ、やはり貴方は優しい子ですね。」

  • 10ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:49:47

    カヤは席を立つ。
    普段は極めて”不動”に近い体幹をしているカヤも、このときばかりは不安定だった。
    レシーマが そっと脇に身体を入れて支える。

    カヤ:
    「私のことは良いのです。
    それよりもレシーマ。 貴方は私に用事があったのではないですか?」

    レシーマ:
    「あぁ・・・うん。」

    レシーマは気まずそうな表情でポケットから小さな結晶を取り出す。
    それは微かに蒼い光を放つ水晶のような何かだった。

    レシーマ:
    「これ、ラギアクルス希少種の落とし物。 ・・・本体は逃がしちゃったけど。」

    狩りの成果を報告して褒めて貰おうとしていた己を、レシーマは責めた。
    カヤが こんなに苦しそうなのに、自分は何て気楽だったんだろう。

  • 11ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:52:37

    カヤ:
    「─── 素晴らしいではありませんか。 貴方も もう、一人前の冒険家ですね。」

    カヤは震える手で、レシーマの頭を撫でた。
    レシーマは何故か泣きそうになった。

    レシーマ:
    「でも、仕留められなかった・・・。」

    カヤ:
    「生きて帰ることが出来たということが重要なのですよ、レシーマ。
    貴方が狩人を目指すのであれば反省する必要がありますが、貴方は冒険家を志しました。
    生きていれば次があります。 そしてその機会を得られるというのは、冒険家にとって得がたい資質なのです。」

    カヤはレシーマの頭から手を離した。
    レシーマの気持ちは幾らか落ち着いていた。

    カヤ:
    「─── 貴方が大成する姿を見届けられないのが、本当に残念ですよ。」

  • 12ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:54:29

    レシーマ:
    「─── あっ・・・。」

    気付けば涙が頬を伝っていた。
    心は凪いでいるのに、涙だけが止まらない。

    カヤ:
    「・・・貴方は可愛いですね、レシーマ。」

    カヤがレシーマの涙を拭う。
    その手があまりにも優しくて、レシーマの心は再び乱れる。
    残酷な真実に、心が ようやく追いついてきた。

    レシーマ:
    「・・・消えないでよ、カヤ。 貴方は私達の家族なんだから・・・!」

    カヤ:
    「・・・。」

    カヤはレシーマの涙を、泣き止むまで拭い続けた。

  • 13ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:55:42

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    カヤ:
    「─── ここに貴方達を連れてくるのは初めてですね。」

    カヤがレシーマ達を その部屋に連れてきたのは、つい最近のことだった。

    レシーマ:
    「・・・ここは?」

    カヤ:
    「・・・呪われた部屋です。
    私も、出来ることなら余り近づきたくありません。 ─── 黒歴史ですから。」

    その部屋には、分かり易い金銀財宝から、価値の分からない芸術品や骨董品が無数に並んでいた。
    素人目からでも、この部屋に恐ろしいほどの価値が集まっていることが分かる。
    いくらか そういったことを学んだ家族は、少し目眩すらするようだった。

  • 14ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:01:38

    しかし、それらすら この部屋の主役ではないようだった。
    部屋の中央に、石棺が置かれている。
    その周囲だけ、違和感を覚えるほど片付けられていた。
    もし誰かが踏み入れば、何かしらの痕跡は残してしまいそうなほど綺麗に清掃が為されている。
    カヤの言う、”元の持ち主”の石棺の中身に対する執着が、寒気のするほど伝わってきた。

    カヤが遂に石棺を開ける。

    ─── 中には無数の紙が入っていた。
    印刷されている文字を見れば、それはどうやら土地の権利書のようだった。

    ───── (嘔吐する音)

    経済を囓っている家族が、床に這いつくばって嘔吐した。
    どうやら その子には、石棺の中身の価値が分かったようだった。
    分からなくて良かったと、レシーマは思った。
    吐き気を催すほどの価値など、分からない方がいい。

    カヤ:
    「これは、この部屋の中にあるものでも最たるものです。
    血によって購われた、呪われた財宝。
    征服者であった『私』が、キヴォトス各地から奪った土地の権利を示すものです。」

    それを聞いて、吐いた家族の気持ちが分かるような気がした。
    いわば、これは征服者の財宝だった。
    これだけの土地を征服するのに、一体どれだけの血が流れたのか想像もつかない。

  • 15ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:02:43

    カヤ:

    「だからこそ、この価値は百の善の為に支払われなければなりません。

    最初は連邦生徒会の為に捧げるはずでしたが、それは受け取って頂けませんでした。

    ですから次に、旧い同僚が自立する為の資金として供出しました。

    その次に、ヴァルキューレ、SRTが自らの手で予算を獲得する為の組織<金の子羊>の初期資金としました。

    ・・・しかし、それでも、この部屋全体の価値からすれば微々たるものです。

    例えるなら、湖の水を桶で汲み取ったようなもの。」


    カヤはレシーマ達の方を向いた。

    その目には いつになく真剣な色が宿っている。


    カヤ:

    「貴方達は冒険家になりたいのですよね?

    それならば、きっと この部屋の価値が役に立つはずです。

    どうか この部屋を受け継いで下さい。

    そして善いことに捧げて下さい。

    貴方達であれば、それが出来るはずです。




    ─── 私はきっと、もう長くありませんから。」


    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


    ────────────────────

  • 16ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:04:31

    ────────────────────

    全てが つつがなく終幕を迎えた。

    あの狩りは、誰にも知られることなく後処理を終えた。
    あの群島にいた人々は、自分達が命の危機にあったことなど夢にも思わないだろう。

    ロストパラダイスリゾートも、先生と お祭り運営委員会、そして応援に来たRABBIT小隊によって残りの島の勢力と”話”をつけることに成功したようだ。
    何やらワカモも役に立つことが出来たらしい。
    だからだろうか、彼女は一部始終ご機嫌だった。
    彼女なりの青春を満喫できているようで何よりである。

    最後に、お祭り運営委員会の主催で宴が開かれた。
    カヤもまた、手勢を率いて屋台を展開した。
    諸事情により”肉”が余っていたので、お祭り運営委員会の出したモノより脂っこい感じになったが、夏の魔力によって総じて喜んで貰うことが出来た。

    カヤ:
    「美味しいですか?」

    ホシノ:
    「・・・まぁ。」

    カヤ:
    「そうですか、それは良かった。」

    ホシノ:
    「・・・。」

    図らずもホシノと姉妹っぽい時間も過ごすことが出来た。 少なからずカヤは、宴の時間を楽しんだ。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 17ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:06:24

    カヤ:
    「あぁ、楽しい宴でしたね。 リン。」

    リン:
    「まぁ・・・それは否定しません。」

    カヤとリンは、その足で帰路についていた。
    他の仲間達とは既に解散し、皆も皆で自分の帰路についているだろう。

    カヤ:
    「さて、今回の休日は如何でした?」

    リン:
    「そうですね・・・控えめに言って、最悪でした。」

    カヤ:
    「おやおや・・・。」

    リン:
    「ですが───」

    カヤとリンの目が合う。
    リンの目は、いつもより柔らかかった。

  • 18ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:08:00

    リン:
    「─── ・・・有意義ではあったと思います。 百鬼夜行の味も、知ることが出来ましたし。」

    カヤ:
    「おや、浮気ですか?」

    リン:
    「最初から貴方に気はありませんが。」

    普段なら正論パンチが飛んでくるところだが、冗談が返せるだけ余裕があるらしい。
    つまり、今回の休暇は成功だということだ。

  • 19ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:09:04

    カヤ:
    「さて、リン。 最後に寄るべきところがあるのですが・・・一緒に来て頂けませんか?」

    リン:
    「分かっています。 柴関ラーメンですよね。 構いませんよ。」

    カヤ:
    「おや、もう少し嫌な顔をするかと思いましたが。」

    リン:
    「一人では行き辛いのでしょう。 そのくらいは付き合いますよ。
    ・・・今回、貴方には何度も助けられたことですし。」

    カヤ:
    「リン・・・やはり貴方は可愛いですね。」

    リン:
    「・・・(ちょっと嫌そうな顔)。」

    夕焼けの中、二人は連れ添って柴関ラーメンのある方角へと歩いた。
    悪くない休日だった。

  • 20ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:10:34

    カヤ:
    「・・・。」

    リン:
    「・・・カヤ?」

    カヤ:
    「あぁ、何でもありません。 行きましょう、リン。」



    ???:
    『・・・。』

    夕焼けの影から、蛇のような瞳孔をした紅い瞳が覗いていた。

    ???:
    『やはり、彼女を子供と見るべきではありませんね。』

    影の中からジッと夕焼けの中を歩く二人を見つめていた紅い瞳は、やがて影に溶けるように消えていった。

    ────────────────────

  • 21ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:11:56

    ────────────────────

    麻薬取引の事務員:
    「─── 貴様、裏切ったな!?」

    応接室に いきなり乗り込んできた大人に、カイは嗜虐的な笑みを向けた。

    カイ:
    「おや? 取引先殿が これほど早く いらっしゃるとは珍しい。
    いつもであれば偉そうに遅れてくるクセに、都合の良いときだけは足が早いようだ。」

    血走った目で胸倉に掴み掛かろうとする大人を躱す。
    そして流れるように銃を突きつけた。

    麻薬取引の事務員:
    「ぐっ・・・!」

    カイ:
    「落ち着きたまえ。
    ここで私達が争ったところで建設的ではないだろう。
    なに、私も面倒事は ごめんだ。
    ここに今日のフライトのチケットと、フライト先で数週間は遊んで暮らせるだけの資金がある。
    どうだね、これで今回の件は手を打たないかい?」

    カイは そう言ってアタッシュケースを大人に差し出す。
    大人はカイを憎々しげに睨み付けたが、やがて冷静になると ひったくるようにアタッシュケースを受け取った。

  • 22ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:13:28

    麻薬取引の事務員:
    「・・・覚えていろよ。」

    カイ:
    「ククッ、それは貴方次第さ。 ─── 帰り道には気を付けたまえよ?」

    カイは貼り付けたような笑みを浮かべて、逃げ帰る大人を見送る。

    ─── 悲鳴と銃声が聞こえたのは、その直ぐ後だった。

    カイ:
    「・・・ふむ。 思ったより早かったね。」

    カイは応接室の扉を開ける。
    そこには無残にも何十発もの弾丸によって蜂の巣にされて気絶した大人と、それを囲む数人の黒いヴァルキューレ生徒が居た。
    黒ずくめのヴァルキューレ生徒は、カイの存在に気付くと瞬く間に取り囲んだ。
    洗練された動きで、それなりに修羅場を潜っていると自負するカイですら危ういと感じるほどだった。

    しかし、害意が無いことは良く分かっている。

    黒ずくめのヴァルキューレ生徒A:
    「申谷カイだな? ボスが呼んでいる、今日中に出頭して貰おう。」

  • 23ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:14:38

    カイはゾクリとした感覚が背中に走るのを感じた。
    組織的な暴力の香りを、裏社会を生きてきた嗅覚が嗅ぎ取ったのだ。
    それは、古巣のソレに良く似た匂いだった。

    カイ:
    「あぁ、デートの誘いだね。 それで、時刻は?」

    黒ずくめのヴァルキューレ生徒A:
    「『いつも通り』・・・と聞いている。」

    カイ:
    「ふむ、ならば時間があるね。」

    カイは倒れた大人からアタッシュケースを抜き取ると、ポケットに入っていたフライトのチケットを自分の分だけ抜き取った。

  • 24ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:16:11

    カイ:
    「少し めかし込むから君達は先に帰りたまえ。
    ここに、君達 全員分のフライトのチケットが入っているから、帰りは きっと快適な旅になるはずだよ。」

    黒ずくめのヴァルキューレ生徒B:
    「・・・我々には専用車がありますので、お気になさらず。」

    カイ:
    「そうかい。」

    しれっと賄賂を渡そうと試みたが、どうやら失敗したらしい。
    もっとも、成功したところで彼女達を どうこうできるワケでもないのだが。
    どちらかというと、彼女達のボスを ちょっと困らせる為に こういう遊びをしている。

    カイはアタッシュケースを回収した。
    中には雑紙を切って縛った粗末な偽札が入っている。

    思えば、これを作っていたときも童心に還ったような気持ちになったものだ。
    そして今も、歳柄もなく心が高鳴っている。
    『彼女』はカイにとって、錬丹の研究に次ぐ第二の青春だった。

    ────────────────────

  • 25ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:17:13

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「─── 失礼。 こちらの手配書に心当たりは ありませんか?」

    最初にカイが彼女と出会ったのは、まだ自身が山海経の錬丹術研究会の頂点に君臨していた頃だった。
    D.U.から一人の指名手配犯を追ってきた彼女は、当時カイに会う為に必要だったアポイントメントを全て無視して単身 乗り込んできた。
    面子や建前が重要視される山海経において、それは致命的な無礼だったが、カイは彼女を追い出そうとは考えなかった。

    否、追い出せなかったという方が正しい。

    彼女は当時から、常人を寄せ付けがたい狂気を纏うようになっていた。
    元来の目つきの悪さにプラスして、その正義に狂った昏い瞳が、全盛の権勢を誇ったカイをして危機感を抱かせた。

    カイ:
    (・・・これに下手な嘘を言えば、(組織的な)腕の2~3本は持って行かれるかな。)

    彼女が示した指名手配犯は、カイからすれば かなり有用な駒だったが、彼女と敵対しない為に切ることを瞬時に判断した。

    それが、彼女とカイの奇妙な関係の始まりだった。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 26ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:19:27

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「おい、カイ。」

    カイ:
    「なにかな?」

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「(捜査資料を見せる)コイツを知ってるか?」

    カイ:
    「ふむ・・・少し待ちたまえ。 確か先月の取引に名前が・・・あぁ、あったよ。」

    カイと彼女は不定期に顔を合わせる間柄になった。
    野良犬が餌をくれる人間を覚えるように、聞けば情報を出してくれるカイに彼女は近づいた。

    下手に嘘を付けば噛み付かれる危険な野犬であることは間違いないのだが、どうにもカイは この野良犬と接する時間を楽しみにしているところがあり、不利益を承知で情報を渡してしまうのだった。
    それは自分が作りだした薬物中毒者の奴隷にも似て、少し滑稽で、しかし不思議なほど愉快だった。

    利益を投げ捨ててしまえるほど、彼女はカイにとって魅力的だった。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 27ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:20:43

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「まさか、お前が捕まるとはな。」

    彼女との関係は、カイがキサキに後れを取って矯正局に入れられてからも続いた。
    利益で結ばれた人間関係が常態化していたカイにとって、それはシンプルな驚きだった。
    情報を提供できなくなった自分に、まさか彼女の方から訪れてくれるとは思ってもみなかった。

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「まぁ・・・自業自得だと思って しっかり心を入れ替えるんだな。
    最も、入れ替えるような心のストックはないと思うが・・・。」

    その日、カイは彼女と初めて くだらない罵り合いをした。
    喧嘩別れで その日は解散したが、不思議と心は愉快だった。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 28ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:21:47

    カイ:
    「やぁ。 こうして矯正局の外で会うのは久しぶりだね。」

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「・・・。」

    つい先日 牢の中で会ったはずのカイが訪ねてきたことに対して、彼女は露骨に面倒臭そうな顔をした。
    他人であれば多少 思うところもあっただろうが、彼女が そういう顔をしたことがカイにとっては酷く新鮮で、とても面白い出来事だった。

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「・・・はぁ。 ・・・上がれ、話はそれからだ。」

    カイ:
    「ククッ、君なら そう言ってくれると思ったよ。」

    正直、カイが彼女の下を訪ねたのは一種の賭けだった。
    相手は狂っているとはいえヴァルキューレ生徒である。
    脱獄してきたばかりの自分を見たら、問答無用で連行してもおかしくなかった。

    ─── しかし、彼女は嫌そうにしつつもカイを受け入れた。

    それは、カイにとっては自分でも困惑するほどの歓びを感じる出来事だった。
    利害を超えた友を得ることが、これほどまでに嬉しいことだとは・・・。

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  • 29ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:22:58

    ────────────────────


    <道端の屋台にて───>


    カイ:

    「─── 待たせたかな?」


    カンナ:

    「・・・あぁ、20分は待ったな。」


    カイ:

    「大したことないね。」


    カンナ:

    「お前なぁ・・・。」


    カイはカンナの横に座った。


    カイ:

    「店主、椎茸と大根を。」


    店主:

    「あい。」


    カンナ:

    「お前、いつもそれだな。」


    カイ:

    「ククッ、そういう君も焼き鳥か牛筋ばかりじゃないか。 偶には野菜やキノコも食したら どうだい?」

  • 30ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:24:40

    カンナ:
    「・・・まぁ、偶には良いな。 店主、適当に見繕ってくれ。」

    店主:
    「はいはい。」

    頼んだものは直ぐに出てきた。
    カイとカンナは無言で それらを口に運ぶ。

    カイ:
    「不思議だね。
    山海経にいた頃は一皿 10万するフカヒレの姿煮込みやら、100g 100万のキャビアなんか食べたけど、こんな場末の屋台にある一つ80円の大根が一番 美味しいよ。」

    カンナ:
    「・・・店主の前で場末とか言うな。
    ─── 失礼、店主。 出禁にするなら、コイツだけにしてくれ。」

    カイ:
    「薄情なことを言うじゃないか。」

    店主:
    「いえいえ~、大丈夫ですよ。」

    店主は別に気分を害したようではないようだ。
    そもそもカイが失礼なことを言うのは、今に始まったことではないのだが。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 31ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:25:44

    カイ:
    「─── それで、君。
    例の件は上手く事が運んだようだね。」

    カンナ:
    「・・・あぁ、誰かのせいで随分 苦労した。」

    カイ:
    「はて? そんなヤツがいるのか。
    情報提供をした私と違って、不届きな輩がいるものだね。」

    カンナ:
    「マッチポンプだろ。」

    カンナは お気に入りの特性ウーロン茶を口に運んだ。

    カンナ:
    「─── 全く、ハルナが早期に見つけてくれたから良かったものの・・・。
    ・・・これだけ麻薬被害を広げて、どう 落とし前つける気だったんだ?」

    そう言って、カンナは赤ペンで加筆されたD.U.の地図を取り出した。
    地図は所々真っ赤に染まっている。

  • 32ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:27:55

    カイ:
    「ククッ、美食研究会の黒舘ハルナかい?
    昨日は随分と お楽しみだったようだね?」

    カンナ:
    「変な風に言うな。 普通に二人で食べ歩きしただけだろう。」

    ハルナはカンナと共に、口直しとでも言わんばかりに食べ歩きを楽しんでいた。

    カイ:
    「・・・まぁ、そういうことにしておこうか。」

    カイも特製ウーロン茶を口に運んだ。
    取り皿にはカンナに進められた牛筋が入っている。

    カイ:
    「落とし前といってもね。
    アレは中毒性が若干あるだけで、広がったところで大した薬害は出ないよ。
    放っておけば自然と毒は抜ける。
    解脱症状も大したものではない。 精々、今回潰れたチェーン店の料理が恋しくなるだけさ。」

  • 33ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:29:30

    カンナ:
    「そういう問題じゃないだろ。」

    カイ:
    「ん? 何か問題かな?」

    カンナ:
    「・・・(溜息)。 まぁ、お前がクズなのは今に始まったことじゃないか・・・。」

    カイ:
    「酷い言い草だ。 しかし、まぁ否定はしないよ。」

    他人の前では肩肘張っているカンナが、クズに気を遣ってもしょうがないと自分に肩肘を張らないのなら、それはカイにとって良いことだった。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 34ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:31:09

    カイ:
    「それにしても今回は手際が良かったね。
    いつもなら もう少し脳に筋肉が詰まったような動きをするところだったけど、随分と器用に立ち回ったものだ。
    今回 君が引き込んだ・・・副局長のコノカ・・・だったかな。 彼女の入れ知恵かい?」

    その話題を出すと、カンナは喉に魚の骨が刺さったような顔をして、倒れるように卓に伏せった。

    カンナ:
    「はぁ・・・やっちゃったなぁ・・・。 勢いで、また『噛んで』しまった。」

    カンナは自身の同士を増やすことを『噛む』と表現する。
    それは自身の思想を狂犬病に例えた蔑称で、おおよそカイくらいにしか通じない表現だった。

    カイ:
    「何を気に病んでいるんだい?
    君の仲間になるという判断は彼女が下したものだし、今までもそうだったじゃないか。」

    カンナ:
    「それはそうだが・・・。」

    『悪を ただただ攻撃し続けること』
    カヤと行動を共にする内に培われた、あるいは伝染した その思想や行動は、不条理の蔓延るキヴォトスにおいて少なくない賛同者を得た。
    ヴァルキューレは勿論、SRTから秩序に反するはずの不良まですらカンナに魅入られる者が続出した。
    今のカンナは、全盛のカイに匹敵する権勢を誇っているといえる。

    ・・・もっとも、カンナ自身は それを望んでいないようだが。

  • 35ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:32:45

    カイ:
    「辛いなら薬を処方するかい?」

    カンナ:
    「・・・効かないのは知っているだろう?」

    薬というのは勿論 麻薬で、強い鬱病に似た症状を持つカンナには正しい意味での特攻薬になりえた。
    しかし、彼女に麻薬は効かない。
    脳の中枢神経に働いて快楽物質を出すという意味では効くのだが、それに溺れることが出来ないのだ。
    それはカイもそうだし、ある種 才能と言えた。
    麻薬を製造・販売する者、そしてそれを取り締まる者は、麻薬を知っていても溺れることがない方が良い。

    カイ:
    「私も大概だが、君も傲慢だね。 他人の選択で自責の念に苛まれ続けるとは。」

    カンナ:
    「お前は もう少し自責の念を持つべきだと思うが・・・。」

    カイが他責の傲慢なら、カンナは自責の傲慢だった。
    悪を攻撃し続けなければ押し潰されてしまうほどの自責の念は、カンナに立ち止まることを許さない。
    正義を為すことを止めてしまったら、きっとカンナは自らの正義で自家中毒に陥ってしまうだろう。
    他人の選択にすら責任を感じる その思考は、カイには理解できないものだ。
    だからこそ、惹かれるのだが。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 36ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:35:43

    カイ:
    「─── ところで君。 最近、ここでシャーレの先生と食事をしたらしいじゃないか。」

    カンナ:
    「・・・何で知ってる?」

    カイ:
    「ククッ、これでも私は君の先輩だよ?
    情報筋だって、君が思うより広く持っているさ。」

    カンナ:
    「今は実質 同輩だろう。」

    カイとカンナは出された焼き鳥を摘まんだ。
    その後にウーロン茶を飲む。
    鳥の脂が流し込まれて口の中がスッキリした。
    カンナに教わった食べ方だが、これが中々悪くない。

  • 37ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:37:17

    カイ:
    「で、シャーレの先生は どうだい?」

    カンナ:
    「・・・良い人だ。」

    それだけ言って、黙る。
    カイは引っ掛かるものを覚えた。

    カイ:
    「・・・慕ってるのかい?」

    カンナ:
    「・・・まぁ、それなりにな。」

    その答えが、自分でも不思議なほど癪に障った。

    カイ:
    (・・・シャーレの先生か。 要注意人物だね。)

  • 38ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:39:58

    カンナ:
    「? 何か言ったか?」

    カイは笑顔を取り繕った。
    貼り付けた能面のように不自然だった。

    カイ:
    「いや何も。
    ・・・どうやら呑み過ぎたようだ。 私は そろそろ お暇するよ。
    ここは私が払うから、後は好きに食べるといい。 ・・・何やら迷惑を掛けたようだしね。」

    そう言って、カイは店主に推定される勘定よりも多めの金額を渡した。

    カイ:
    「おつりはいらないよ。」

    店主:
    「ありがとうございました~。 またいらしてください~。」

    カイ:
    「あぁ、勿論だとも。」

    席を立つ。
    そしてカイは、雑多な街並みに消えていった。

    ────────────────────

  • 39二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:03:03

    ────────────────────


    <アリウスの奥底にて───>


    ───── コツ…コツ…


    電灯の明かりが無機質に照らす地下通路で、場違いなハイヒールの靴音が響いた。

    赤い肌をした異形の大人、ベアトリーチェが地下通路の最奥の扉を開ける。

    それは牢の扉であり、ベアトリーチェが最も忌まわしいと考えている者を投獄する為にわざわざ造った特注の牢だった。


    そうでもしなければ、この中にいる子供は縛り付けることが出来ないと考えたのだ。


    ???:

    「─── 空は赤く染まり、空から塔が降ってくる。

    世界は極彩色に塗り潰され、未曾有の大災害が このキヴォトスに迫るだろう。」


    ベアトリーチェ:

    「・・・。」


    ???:

    「─── そして、クソババア。

    お前は憎悪に呑み込まれ、色彩の尖兵まで堕ちる。

    そして、ゴミみたいに死ぬんだ。 残念だったな、バ~カ!!」

  • 40二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:04:34

    ベアトリーチェ:
    「黙りなさい。」

    ベアトリーチェが睨むと、牢に繋がれた子供に付けられたチョーカーが締った。
    一瞬苦しそうにする子供だったが、直ぐに嘲笑に満ちた顔をベアトリーチェに向ける。
    ベアトリーチェは不快そうに目を細めるだけだった。
    チョーカーの拘束は直ぐに緩まる。

    ???:
    「ハァ・・・ハァ・・・マジで器ちっちゃいな。
    この前 仕入れたティーカップの方が容量あるんじゃね?」

    ベアトリーチェ:
    「減らず口を、また首を絞めますよ?」

    ???:
    「やってみろよ。 死ぬまで嗤ってやるぜ。」

    ベアトリーチェ:
    「相変わらず品の無い言葉遣いですね。 声帯の切除を検討しましょう。」

    ???:
    「あ~、やだやだ。
    言葉の表面だけに品性が表れると思っているバカはこれだから。
    自分の言動がどれだけ野蛮か分かってないんだろうな、カワイソ~。」

    ベアトリーチェ:
    「何を ───」

  • 41二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:06:02

    言い返しそうになって、やめる。
    コレに暴力は効かないし、言葉で心を抉る方法も効かない。
    かといって口で言い負かそうとしても、利益のない不毛な口論が続くだけというのは分かっていた。
    この口論がまた、目の前の下劣な存在と自分が同レベルであるかのように思えて嫌だった。

    ベアトリーチェ:
    「・・・貴方の品性の無さには、一度 目を瞑りましょう。 今回は貴方に取引を持ってきました。」

    ???:
    「最初から そう言えよ、頭悪いな。」

    ベアトリーチェ:
    「おや、そんな口をきいて良いのですか? ─── ウェルギリア。
    貴方が喉から手が出るほど求めていたであろう、自由を約束する取引ですよ?」

    ウェルギリア。
    そう呼ばれた生徒は、侮蔑の色に満ちていた目に真剣な光を宿し始めた。

    ウェルギリア:
    「お前が約束なんか守るものかよ。 おとと行きやがれババア。」

    ベアトリーチェ:
    「これを見ても、そう思いますか?」

    ベアトリーチェはウェルギリアの前に、一枚の紙の写しを投げ捨てた。

  • 42二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:07:29

    それは正式な形での契約書だった。
    事細かに条文が並べられており、最後に二人の署名があった。
    一人は当事者であるベアトリーチェ、そしてもう一人は───

    ウェルギリア:
    「・・・連名でゴルコンダの署名? ・・・本気か、クソババア?? ついに気でも触れたのか???」

    いくらベアトリーチェでも、一応は同列の大人であるゴルコンダの署名を捏造するまでして生徒に嘘を付くとは思えなかった。
    それをするのは、ベアトリーチェの雲より高いプライドが許さないはずだ。
    つまり、これを反故にするかどうかは置いておいて、ベアトリーチェはウェルギリアの協力を引き出す為に他の大人の手を借りたことになる。
    それは常では有り得ないことだった。

    ベアトリーチェ:
    「えぇ、本気ですよ。 これくらいしなければ、貴方は適当に手を抜くでしょう?」

    ウェルギリア:
    「・・・。」

    それは事実だった。
    この後の展開を知っているウェルギリアからすれば、ベアトリーチェの命令なんて形だけ守っておけばいい。
    後は勝手にベアトリーチェが自滅してくれるので、それで晴れて自由の身だ。

  • 43二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:10:52

    ─── しかし、それでは勝った気がしないのは事実。

    そう勝利。
    それが大切だ。
    常に勝利者でいたいと考えるのは、ウェルギリアも自覚する悪癖の一つだった。

    ウェルギリアの自由を約束する契約書。
    これが守られるかどうかは然程 重要ではなく、他のゲマトリアが絡んでいるということが大切だった。
    これが反故にされれば、ウェルギリアがゴルコンダの手を借りる切っ掛けが出来る。
    そうすれば、もしかするとベアトリーチェの最期はウェルギリアの手によるものになるかもしれない。
    それを考えるとゾクゾクした。

    勝利して、支配する。
    それこそが遺伝子にまで刻まれた、ウェルギリアの満足感だった。

    ウェルギリア:
    「・・・いいぜ。 ノってやる。
    それで お前の首は頂きだ クソババア。」

    ベアトリーチェ:
    「分かっているとはいえ、そうまでして野心を隠されないと逆に不快ですね。
    後、協力する気になったのであれば私のことは敬意を込めてマダムと呼びなさい。
    次 下劣なことを口走ったら、また首を絞めますからね。」

  • 44二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:13:40

    ウェルギリア:
    「─── 畏まりました、マダム。」

    縛りから解放されると、ウェルギリアは教養を感じさせる美しい所作で お辞儀をした。
    ベアトリーチェは気持ち悪そうに目を細める。
    躾けをしたのは自分だが、本性の下劣さを誰よりも知っている身からすると、ケダモノが礼服を纏っているかのようなバカバカしさがある。

    ベアトリーチェ:
    「─── 行きなさい。 そして、好きに『喰らう』と良いです。」

    ウェルギリア:
    「・・・それは、領内の生徒も?」

    ベアトリーチェ:
    「えぇ。
    どうせもう、『複製(ネメシス)』のパスが通った時点で大した価値はありませんから。」

  • 45二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:15:26

    ───── ニタァ

    そうとしか形容の出来ない、欲望に塗れ切った笑みをウェルギリアは浮かべる。
    ベアトリーチェは、それを下劣だとは思わなかった。
    自分も、昂ったときは全く同じ表情を浮かべることは知っていた。
    それを下劣だと思うことは、自分を下劣だと認めることと同じだった。
    ・・・もっとも、虫唾が走ることは間違いないが。

    ベアトリーチェ:
    「心して掛かることです。
    ・・・私も、今回の相手は同格 ─── いえ、格上と見て相手をすることとします。」

    ウェルギリア:
    「・・・ほぅ。」

    ベアトリーチェが雲より高いプライドを投げ捨てて、相手を見下すことを止める。
    それはウェルギリアからすると、ベアトリーチェが自身最大のデバフを捨て去ったように見えた。

    ────────────────────

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