【閲覧注意・🎲】ここだけ不知火カヤの中身が、大体ボンドルド卿だった世界線 Part.18(建て直し・その2)

  • 1ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:36:05

    【あらすじ】
    あぁ・・・楽しい狩りでしたね、ホシノ。

  • 2ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:38:13
  • 3ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:39:57
  • 4ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:41:12
  • 5ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:42:27
  • 6ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:43:49
  • 7ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:44:53
  • 8ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:46:02

    ────────────────────

    レシーマ:
    「─── カヤ・・・じゃなかった室長 ───」

    過去最大級の過酷さを見せた狩りを終え、事後処理も終了しつつある中、レシーマはカヤの下を訪れた。

    ─── しかし、そこには辛うじて人の形を保っている汚泥の怪物がいた。
    影のような、しかしそれよりずっと悍ましいそれは、レシーマを見ると その歪んだ腕を伸ばす。

    レシーマ:
    「・・・。」

    夜の輪郭:
    【・・・。】

    そしてレシーマの怯えた表情を見て、動きを止めた。
    怯えさせるのは本意では無かったのか、壊れ物を前にした人間のように ゆっくりと後ろに下がった。

    そして個室にポツンと置いてあったパイプ椅子に腰を下ろす。
    しばらく見つめ合っていたレシーマと怪物だったが、やがて諦めたのか怪物はグジュグジュと湿った音を立てて本来の姿を取り戻していった。

  • 9ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:47:37

    カヤ:
    「・・・あぁ、これが目覚めですか。」

    そうしてレシーマの良く知る方のカヤが現われる。

    レシーマ:
    「カ ─── 室長、今の・・・。」

    カヤ:
    「おや、公の場でもないのですから、別に昔のようにカヤと呼び捨てにして貰っても構いませんよ?」

    レシーマ:
    「・・・まぁ、いいか。 で、カヤ・・・今のは・・・。」

    カヤ:
    「・・・貴方には見苦しいところを見せてしまいました。
    あれは私の宿痾そのものですよ。 もっとも、幾らかは『かつての私』でもあったようですが。」

    記憶を探りながらカヤは言う。
    レシーマはハッとした表情をして、カヤに寄り添った。

    レシーマ:
    「・・・痛くない?」

    カヤ:
    「・・・レシーマ、やはり貴方は優しい子ですね。」

  • 10ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:49:47

    カヤは席を立つ。
    普段は極めて”不動”に近い体幹をしているカヤも、このときばかりは不安定だった。
    レシーマが そっと脇に身体を入れて支える。

    カヤ:
    「私のことは良いのです。
    それよりもレシーマ。 貴方は私に用事があったのではないですか?」

    レシーマ:
    「あぁ・・・うん。」

    レシーマは気まずそうな表情でポケットから小さな結晶を取り出す。
    それは微かに蒼い光を放つ水晶のような何かだった。

    レシーマ:
    「これ、ラギアクルス希少種の落とし物。 ・・・本体は逃がしちゃったけど。」

    狩りの成果を報告して褒めて貰おうとしていた己を、レシーマは責めた。
    カヤが こんなに苦しそうなのに、自分は何て気楽だったんだろう。

  • 11ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:52:37

    カヤ:
    「─── 素晴らしいではありませんか。 貴方も もう、一人前の冒険家ですね。」

    カヤは震える手で、レシーマの頭を撫でた。
    レシーマは何故か泣きそうになった。

    レシーマ:
    「でも、仕留められなかった・・・。」

    カヤ:
    「生きて帰ることが出来たということが重要なのですよ、レシーマ。
    貴方が狩人を目指すのであれば反省する必要がありますが、貴方は冒険家を志しました。
    生きていれば次があります。 そしてその機会を得られるというのは、冒険家にとって得がたい資質なのです。」

    カヤはレシーマの頭から手を離した。
    レシーマの気持ちは幾らか落ち着いていた。

    カヤ:
    「─── 貴方が大成する姿を見届けられないのが、本当に残念ですよ。」

  • 12ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:54:29

    レシーマ:
    「─── あっ・・・。」

    気付けば涙が頬を伝っていた。
    心は凪いでいるのに、涙だけが止まらない。

    カヤ:
    「・・・貴方は可愛いですね、レシーマ。」

    カヤがレシーマの涙を拭う。
    その手があまりにも優しくて、レシーマの心は再び乱れる。
    残酷な真実に、心が ようやく追いついてきた。

    レシーマ:
    「・・・消えないでよ、カヤ。 貴方は私達の家族なんだから・・・!」

    カヤ:
    「・・・。」

    カヤはレシーマの涙を、泣き止むまで拭い続けた。

  • 13ホットドリンク大好き25/07/11(金) 06:55:42

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    カヤ:
    「─── ここに貴方達を連れてくるのは初めてですね。」

    カヤがレシーマ達を その部屋に連れてきたのは、つい最近のことだった。

    レシーマ:
    「・・・ここは?」

    カヤ:
    「・・・呪われた部屋です。
    私も、出来ることなら余り近づきたくありません。 ─── 黒歴史ですから。」

    その部屋には、分かり易い金銀財宝から、価値の分からない芸術品や骨董品が無数に並んでいた。
    素人目からでも、この部屋に恐ろしいほどの価値が集まっていることが分かる。
    いくらか そういったことを学んだ家族は、少し目眩すらするようだった。

  • 14ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:01:38

    しかし、それらすら この部屋の主役ではないようだった。
    部屋の中央に、石棺が置かれている。
    その周囲だけ、違和感を覚えるほど片付けられていた。
    もし誰かが踏み入れば、何かしらの痕跡は残してしまいそうなほど綺麗に清掃が為されている。
    カヤの言う、”元の持ち主”の石棺の中身に対する執着が、寒気のするほど伝わってきた。

    カヤが遂に石棺を開ける。

    ─── 中には無数の紙が入っていた。
    印刷されている文字を見れば、それはどうやら土地の権利書のようだった。

    ───── (嘔吐する音)

    経済を囓っている家族が、床に這いつくばって嘔吐した。
    どうやら その子には、石棺の中身の価値が分かったようだった。
    分からなくて良かったと、レシーマは思った。
    吐き気を催すほどの価値など、分からない方がいい。

    カヤ:
    「これは、この部屋の中にあるものでも最たるものです。
    血によって購われた、呪われた財宝。
    征服者であった『私』が、キヴォトス各地から奪った土地の権利を示すものです。」

    それを聞いて、吐いた家族の気持ちが分かるような気がした。
    いわば、これは征服者の財宝だった。
    これだけの土地を征服するのに、一体どれだけの血が流れたのか想像もつかない。

  • 15ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:02:43

    カヤ:

    「だからこそ、この価値は百の善の為に支払われなければなりません。

    最初は連邦生徒会の為に捧げるはずでしたが、それは受け取って頂けませんでした。

    ですから次に、旧い同僚が自立する為の資金として供出しました。

    その次に、ヴァルキューレ、SRTが自らの手で予算を獲得する為の組織<金の子羊>の初期資金としました。

    ・・・しかし、それでも、この部屋全体の価値からすれば微々たるものです。

    例えるなら、湖の水を桶で汲み取ったようなもの。」


    カヤはレシーマ達の方を向いた。

    その目には いつになく真剣な色が宿っている。


    カヤ:

    「貴方達は冒険家になりたいのですよね?

    それならば、きっと この部屋の価値が役に立つはずです。

    どうか この部屋を受け継いで下さい。

    そして善いことに捧げて下さい。

    貴方達であれば、それが出来るはずです。




    ─── 私はきっと、もう長くありませんから。」


    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


    ────────────────────

  • 16ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:04:31

    ────────────────────

    全てが つつがなく終幕を迎えた。

    あの狩りは、誰にも知られることなく後処理を終えた。
    あの群島にいた人々は、自分達が命の危機にあったことなど夢にも思わないだろう。

    ロストパラダイスリゾートも、先生と お祭り運営委員会、そして応援に来たRABBIT小隊によって残りの島の勢力と”話”をつけることに成功したようだ。
    何やらワカモも役に立つことが出来たらしい。
    だからだろうか、彼女は一部始終ご機嫌だった。
    彼女なりの青春を満喫できているようで何よりである。

    最後に、お祭り運営委員会の主催で宴が開かれた。
    カヤもまた、手勢を率いて屋台を展開した。
    諸事情により”肉”が余っていたので、お祭り運営委員会の出したモノより脂っこい感じになったが、夏の魔力によって総じて喜んで貰うことが出来た。

    カヤ:
    「美味しいですか?」

    ホシノ:
    「・・・まぁ。」

    カヤ:
    「そうですか、それは良かった。」

    ホシノ:
    「・・・。」

    図らずもホシノと姉妹っぽい時間も過ごすことが出来た。 少なからずカヤは、宴の時間を楽しんだ。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 17ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:06:24

    カヤ:
    「あぁ、楽しい宴でしたね。 リン。」

    リン:
    「まぁ・・・それは否定しません。」

    カヤとリンは、その足で帰路についていた。
    他の仲間達とは既に解散し、皆も皆で自分の帰路についているだろう。

    カヤ:
    「さて、今回の休日は如何でした?」

    リン:
    「そうですね・・・控えめに言って、最悪でした。」

    カヤ:
    「おやおや・・・。」

    リン:
    「ですが───」

    カヤとリンの目が合う。
    リンの目は、いつもより柔らかかった。

  • 18ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:08:00

    リン:
    「─── ・・・有意義ではあったと思います。 百鬼夜行の味も、知ることが出来ましたし。」

    カヤ:
    「おや、浮気ですか?」

    リン:
    「最初から貴方に気はありませんが。」

    普段なら正論パンチが飛んでくるところだが、冗談が返せるだけ余裕があるらしい。
    つまり、今回の休暇は成功だということだ。

  • 19ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:09:04

    カヤ:
    「さて、リン。 最後に寄るべきところがあるのですが・・・一緒に来て頂けませんか?」

    リン:
    「分かっています。 柴関ラーメンですよね。 構いませんよ。」

    カヤ:
    「おや、もう少し嫌な顔をするかと思いましたが。」

    リン:
    「一人では行き辛いのでしょう。 そのくらいは付き合いますよ。
    ・・・今回、貴方には何度も助けられたことですし。」

    カヤ:
    「リン・・・やはり貴方は可愛いですね。」

    リン:
    「・・・(ちょっと嫌そうな顔)。」

    夕焼けの中、二人は連れ添って柴関ラーメンのある方角へと歩いた。
    悪くない休日だった。

  • 20ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:10:34

    カヤ:
    「・・・。」

    リン:
    「・・・カヤ?」

    カヤ:
    「あぁ、何でもありません。 行きましょう、リン。」



    ???:
    『・・・。』

    夕焼けの影から、蛇のような瞳孔をした紅い瞳が覗いていた。

    ???:
    『やはり、彼女を子供と見るべきではありませんね。』

    影の中からジッと夕焼けの中を歩く二人を見つめていた紅い瞳は、やがて影に溶けるように消えていった。

    ────────────────────

  • 21ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:11:56

    ────────────────────

    麻薬取引の事務員:
    「─── 貴様、裏切ったな!?」

    応接室に いきなり乗り込んできた大人に、カイは嗜虐的な笑みを向けた。

    カイ:
    「おや? 取引先殿が これほど早く いらっしゃるとは珍しい。
    いつもであれば偉そうに遅れてくるクセに、都合の良いときだけは足が早いようだ。」

    血走った目で胸倉に掴み掛かろうとする大人を躱す。
    そして流れるように銃を突きつけた。

    麻薬取引の事務員:
    「ぐっ・・・!」

    カイ:
    「落ち着きたまえ。
    ここで私達が争ったところで建設的ではないだろう。
    なに、私も面倒事は ごめんだ。
    ここに今日のフライトのチケットと、フライト先で数週間は遊んで暮らせるだけの資金がある。
    どうだね、これで今回の件は手を打たないかい?」

    カイは そう言ってアタッシュケースを大人に差し出す。
    大人はカイを憎々しげに睨み付けたが、やがて冷静になると ひったくるようにアタッシュケースを受け取った。

  • 22ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:13:28

    麻薬取引の事務員:
    「・・・覚えていろよ。」

    カイ:
    「ククッ、それは貴方次第さ。 ─── 帰り道には気を付けたまえよ?」

    カイは貼り付けたような笑みを浮かべて、逃げ帰る大人を見送る。

    ─── 悲鳴と銃声が聞こえたのは、その直ぐ後だった。

    カイ:
    「・・・ふむ。 思ったより早かったね。」

    カイは応接室の扉を開ける。
    そこには無残にも何十発もの弾丸によって蜂の巣にされて気絶した大人と、それを囲む数人の黒いヴァルキューレ生徒が居た。
    黒ずくめのヴァルキューレ生徒は、カイの存在に気付くと瞬く間に取り囲んだ。
    洗練された動きで、それなりに修羅場を潜っていると自負するカイですら危ういと感じるほどだった。

    しかし、害意が無いことは良く分かっている。

    黒ずくめのヴァルキューレ生徒A:
    「申谷カイだな? ボスが呼んでいる、今日中に出頭して貰おう。」

  • 23ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:14:38

    カイはゾクリとした感覚が背中に走るのを感じた。
    組織的な暴力の香りを、裏社会を生きてきた嗅覚が嗅ぎ取ったのだ。
    それは、古巣のソレに良く似た匂いだった。

    カイ:
    「あぁ、デートの誘いだね。 それで、時刻は?」

    黒ずくめのヴァルキューレ生徒A:
    「『いつも通り』・・・と聞いている。」

    カイ:
    「ふむ、ならば時間があるね。」

    カイは倒れた大人からアタッシュケースを抜き取ると、ポケットに入っていたフライトのチケットを自分の分だけ抜き取った。

  • 24ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:16:11

    カイ:
    「少し めかし込むから君達は先に帰りたまえ。
    ここに、君達 全員分のフライトのチケットが入っているから、帰りは きっと快適な旅になるはずだよ。」

    黒ずくめのヴァルキューレ生徒B:
    「・・・我々には専用車がありますので、お気になさらず。」

    カイ:
    「そうかい。」

    しれっと賄賂を渡そうと試みたが、どうやら失敗したらしい。
    もっとも、成功したところで彼女達を どうこうできるワケでもないのだが。
    どちらかというと、彼女達のボスを ちょっと困らせる為に こういう遊びをしている。

    カイはアタッシュケースを回収した。
    中には雑紙を切って縛った粗末な偽札が入っている。

    思えば、これを作っていたときも童心に還ったような気持ちになったものだ。
    そして今も、歳柄もなく心が高鳴っている。
    『彼女』はカイにとって、錬丹の研究に次ぐ第二の青春だった。

    ────────────────────

  • 25ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:17:13

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「─── 失礼。 こちらの手配書に心当たりは ありませんか?」

    最初にカイが彼女と出会ったのは、まだ自身が山海経の錬丹術研究会の頂点に君臨していた頃だった。
    D.U.から一人の指名手配犯を追ってきた彼女は、当時カイに会う為に必要だったアポイントメントを全て無視して単身 乗り込んできた。
    面子や建前が重要視される山海経において、それは致命的な無礼だったが、カイは彼女を追い出そうとは考えなかった。

    否、追い出せなかったという方が正しい。

    彼女は当時から、常人を寄せ付けがたい狂気を纏うようになっていた。
    元来の目つきの悪さにプラスして、その正義に狂った昏い瞳が、全盛の権勢を誇ったカイをして危機感を抱かせた。

    カイ:
    (・・・これに下手な嘘を言えば、(組織的な)腕の2~3本は持って行かれるかな。)

    彼女が示した指名手配犯は、カイからすれば かなり有用な駒だったが、彼女と敵対しない為に切ることを瞬時に判断した。

    それが、彼女とカイの奇妙な関係の始まりだった。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 26ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:19:27

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「おい、カイ。」

    カイ:
    「なにかな?」

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「(捜査資料を見せる)コイツを知ってるか?」

    カイ:
    「ふむ・・・少し待ちたまえ。 確か先月の取引に名前が・・・あぁ、あったよ。」

    カイと彼女は不定期に顔を合わせる間柄になった。
    野良犬が餌をくれる人間を覚えるように、聞けば情報を出してくれるカイに彼女は近づいた。

    下手に嘘を付けば噛み付かれる危険な野犬であることは間違いないのだが、どうにもカイは この野良犬と接する時間を楽しみにしているところがあり、不利益を承知で情報を渡してしまうのだった。
    それは自分が作りだした薬物中毒者の奴隷にも似て、少し滑稽で、しかし不思議なほど愉快だった。

    利益を投げ捨ててしまえるほど、彼女はカイにとって魅力的だった。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 27ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:20:43

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「まさか、お前が捕まるとはな。」

    彼女との関係は、カイがキサキに後れを取って矯正局に入れられてからも続いた。
    利益で結ばれた人間関係が常態化していたカイにとって、それはシンプルな驚きだった。
    情報を提供できなくなった自分に、まさか彼女の方から訪れてくれるとは思ってもみなかった。

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「まぁ・・・自業自得だと思って しっかり心を入れ替えるんだな。
    最も、入れ替えるような心のストックはないと思うが・・・。」

    その日、カイは彼女と初めて くだらない罵り合いをした。
    喧嘩別れで その日は解散したが、不思議と心は愉快だった。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 28ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:21:47

    カイ:
    「やぁ。 こうして矯正局の外で会うのは久しぶりだね。」

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「・・・。」

    つい先日 牢の中で会ったはずのカイが訪ねてきたことに対して、彼女は露骨に面倒臭そうな顔をした。
    他人であれば多少 思うところもあっただろうが、彼女が そういう顔をしたことがカイにとっては酷く新鮮で、とても面白い出来事だった。

    目つきの悪いヴァルキューレ生徒:
    「・・・はぁ。 ・・・上がれ、話はそれからだ。」

    カイ:
    「ククッ、君なら そう言ってくれると思ったよ。」

    正直、カイが彼女の下を訪ねたのは一種の賭けだった。
    相手は狂っているとはいえヴァルキューレ生徒である。
    脱獄してきたばかりの自分を見たら、問答無用で連行してもおかしくなかった。

    ─── しかし、彼女は嫌そうにしつつもカイを受け入れた。

    それは、カイにとっては自分でも困惑するほどの歓びを感じる出来事だった。
    利害を超えた友を得ることが、これほどまでに嬉しいことだとは・・・。

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  • 29ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:22:58

    ────────────────────


    <道端の屋台にて───>


    カイ:

    「─── 待たせたかな?」


    カンナ:

    「・・・あぁ、20分は待ったな。」


    カイ:

    「大したことないね。」


    カンナ:

    「お前なぁ・・・。」


    カイはカンナの横に座った。


    カイ:

    「店主、椎茸と大根を。」


    店主:

    「あい。」


    カンナ:

    「お前、いつもそれだな。」


    カイ:

    「ククッ、そういう君も焼き鳥か牛筋ばかりじゃないか。 偶には野菜やキノコも食したら どうだい?」

  • 30ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:24:40

    カンナ:
    「・・・まぁ、偶には良いな。 店主、適当に見繕ってくれ。」

    店主:
    「はいはい。」

    頼んだものは直ぐに出てきた。
    カイとカンナは無言で それらを口に運ぶ。

    カイ:
    「不思議だね。
    山海経にいた頃は一皿 10万するフカヒレの姿煮込みやら、100g 100万のキャビアなんか食べたけど、こんな場末の屋台にある一つ80円の大根が一番 美味しいよ。」

    カンナ:
    「・・・店主の前で場末とか言うな。
    ─── 失礼、店主。 出禁にするなら、コイツだけにしてくれ。」

    カイ:
    「薄情なことを言うじゃないか。」

    店主:
    「いえいえ~、大丈夫ですよ。」

    店主は別に気分を害したようではないようだ。
    そもそもカイが失礼なことを言うのは、今に始まったことではないのだが。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 31ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:25:44

    カイ:
    「─── それで、君。
    例の件は上手く事が運んだようだね。」

    カンナ:
    「・・・あぁ、誰かのせいで随分 苦労した。」

    カイ:
    「はて? そんなヤツがいるのか。
    情報提供をした私と違って、不届きな輩がいるものだね。」

    カンナ:
    「マッチポンプだろ。」

    カンナは お気に入りの特性ウーロン茶を口に運んだ。

    カンナ:
    「─── 全く、ハルナが早期に見つけてくれたから良かったものの・・・。
    ・・・これだけ麻薬被害を広げて、どう 落とし前つける気だったんだ?」

    そう言って、カンナは赤ペンで加筆されたD.U.の地図を取り出した。
    地図は所々真っ赤に染まっている。

  • 32ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:27:55

    カイ:
    「ククッ、美食研究会の黒舘ハルナかい?
    昨日は随分と お楽しみだったようだね?」

    カンナ:
    「変な風に言うな。 普通に二人で食べ歩きしただけだろう。」

    ハルナはカンナと共に、口直しとでも言わんばかりに食べ歩きを楽しんでいた。

    カイ:
    「・・・まぁ、そういうことにしておこうか。」

    カイも特製ウーロン茶を口に運んだ。
    取り皿にはカンナに進められた牛筋が入っている。

    カイ:
    「落とし前といってもね。
    アレは中毒性が若干あるだけで、広がったところで大した薬害は出ないよ。
    放っておけば自然と毒は抜ける。
    解脱症状も大したものではない。 精々、今回潰れたチェーン店の料理が恋しくなるだけさ。」

  • 33ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:29:30

    カンナ:
    「そういう問題じゃないだろ。」

    カイ:
    「ん? 何か問題かな?」

    カンナ:
    「・・・(溜息)。 まぁ、お前がクズなのは今に始まったことじゃないか・・・。」

    カイ:
    「酷い言い草だ。 しかし、まぁ否定はしないよ。」

    他人の前では肩肘張っているカンナが、クズに気を遣ってもしょうがないと自分に肩肘を張らないのなら、それはカイにとって良いことだった。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 34ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:31:09

    カイ:
    「それにしても今回は手際が良かったね。
    いつもなら もう少し脳に筋肉が詰まったような動きをするところだったけど、随分と器用に立ち回ったものだ。
    今回 君が引き込んだ・・・副局長のコノカ・・・だったかな。 彼女の入れ知恵かい?」

    その話題を出すと、カンナは喉に魚の骨が刺さったような顔をして、倒れるように卓に伏せった。

    カンナ:
    「はぁ・・・やっちゃったなぁ・・・。 勢いで、また『噛んで』しまった。」

    カンナは自身の同士を増やすことを『噛む』と表現する。
    それは自身の思想を狂犬病に例えた蔑称で、おおよそカイくらいにしか通じない表現だった。

    カイ:
    「何を気に病んでいるんだい?
    君の仲間になるという判断は彼女が下したものだし、今までもそうだったじゃないか。」

    カンナ:
    「それはそうだが・・・。」

    『悪を ただただ攻撃し続けること』
    カヤと行動を共にする内に培われた、あるいは伝染した その思想や行動は、不条理の蔓延るキヴォトスにおいて少なくない賛同者を得た。
    ヴァルキューレは勿論、SRTから秩序に反するはずの不良まですらカンナに魅入られる者が続出した。
    今のカンナは、全盛のカイに匹敵する権勢を誇っているといえる。

    ・・・もっとも、カンナ自身は それを望んでいないようだが。

  • 35ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:32:45

    カイ:
    「辛いなら薬を処方するかい?」

    カンナ:
    「・・・効かないのは知っているだろう?」

    薬というのは勿論 麻薬で、強い鬱病に似た症状を持つカンナには正しい意味での特攻薬になりえた。
    しかし、彼女に麻薬は効かない。
    脳の中枢神経に働いて快楽物質を出すという意味では効くのだが、それに溺れることが出来ないのだ。
    それはカイもそうだし、ある種 才能と言えた。
    麻薬を製造・販売する者、そしてそれを取り締まる者は、麻薬を知っていても溺れることがない方が良い。

    カイ:
    「私も大概だが、君も傲慢だね。 他人の選択で自責の念に苛まれ続けるとは。」

    カンナ:
    「お前は もう少し自責の念を持つべきだと思うが・・・。」

    カイが他責の傲慢なら、カンナは自責の傲慢だった。
    悪を攻撃し続けなければ押し潰されてしまうほどの自責の念は、カンナに立ち止まることを許さない。
    正義を為すことを止めてしまったら、きっとカンナは自らの正義で自家中毒に陥ってしまうだろう。
    他人の選択にすら責任を感じる その思考は、カイには理解できないものだ。
    だからこそ、惹かれるのだが。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 36ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:35:43

    カイ:
    「─── ところで君。 最近、ここでシャーレの先生と食事をしたらしいじゃないか。」

    カンナ:
    「・・・何で知ってる?」

    カイ:
    「ククッ、これでも私は君の先輩だよ?
    情報筋だって、君が思うより広く持っているさ。」

    カンナ:
    「今は実質 同輩だろう。」

    カイとカンナは出された焼き鳥を摘まんだ。
    その後にウーロン茶を飲む。
    鳥の脂が流し込まれて口の中がスッキリした。
    カンナに教わった食べ方だが、これが中々悪くない。

  • 37ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:37:17

    カイ:
    「で、シャーレの先生は どうだい?」

    カンナ:
    「・・・良い人だ。」

    それだけ言って、黙る。
    カイは引っ掛かるものを覚えた。

    カイ:
    「・・・慕ってるのかい?」

    カンナ:
    「・・・まぁ、それなりにな。」

    その答えが、自分でも不思議なほど癪に障った。

    カイ:
    (・・・シャーレの先生か。 要注意人物だね。)

  • 38ホットドリンク大好き25/07/11(金) 07:39:58

    カンナ:
    「? 何か言ったか?」

    カイは笑顔を取り繕った。
    貼り付けた能面のように不自然だった。

    カイ:
    「いや何も。
    ・・・どうやら呑み過ぎたようだ。 私は そろそろ お暇するよ。
    ここは私が払うから、後は好きに食べるといい。 ・・・何やら迷惑を掛けたようだしね。」

    そう言って、カイは店主に推定される勘定よりも多めの金額を渡した。

    カイ:
    「おつりはいらないよ。」

    店主:
    「ありがとうございました~。 またいらしてください~。」

    カイ:
    「あぁ、勿論だとも。」

    席を立つ。
    そしてカイは、雑多な街並みに消えていった。

    ────────────────────

  • 39二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:03:03

    ────────────────────


    <アリウスの奥底にて───>


    ───── コツ…コツ…


    電灯の明かりが無機質に照らす地下通路で、場違いなハイヒールの靴音が響いた。

    赤い肌をした異形の大人、ベアトリーチェが地下通路の最奥の扉を開ける。

    それは牢の扉であり、ベアトリーチェが最も忌まわしいと考えている者を投獄する為にわざわざ造った特注の牢だった。


    そうでもしなければ、この中にいる子供は縛り付けることが出来ないと考えたのだ。


    ???:

    「─── 空は赤く染まり、空から塔が降ってくる。

    世界は極彩色に塗り潰され、未曾有の大災害が このキヴォトスに迫るだろう。」


    ベアトリーチェ:

    「・・・。」


    ???:

    「─── そして、クソババア。

    お前は憎悪に呑み込まれ、色彩の尖兵まで堕ちる。

    そして、ゴミみたいに死ぬんだ。 残念だったな、バ~カ!!」

  • 40二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:04:34

    ベアトリーチェ:
    「黙りなさい。」

    ベアトリーチェが睨むと、牢に繋がれた子供に付けられたチョーカーが締った。
    一瞬苦しそうにする子供だったが、直ぐに嘲笑に満ちた顔をベアトリーチェに向ける。
    ベアトリーチェは不快そうに目を細めるだけだった。
    チョーカーの拘束は直ぐに緩まる。

    ???:
    「ハァ・・・ハァ・・・マジで器ちっちゃいな。
    この前 仕入れたティーカップの方が容量あるんじゃね?」

    ベアトリーチェ:
    「減らず口を、また首を絞めますよ?」

    ???:
    「やってみろよ。 死ぬまで嗤ってやるぜ。」

    ベアトリーチェ:
    「相変わらず品の無い言葉遣いですね。 声帯の切除を検討しましょう。」

    ???:
    「あ~、やだやだ。
    言葉の表面だけに品性が表れると思っているバカはこれだから。
    自分の言動がどれだけ野蛮か分かってないんだろうな、カワイソ~。」

    ベアトリーチェ:
    「何を ───」

  • 41二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:06:02

    言い返しそうになって、やめる。
    コレに暴力は効かないし、言葉で心を抉る方法も効かない。
    かといって口で言い負かそうとしても、利益のない不毛な口論が続くだけというのは分かっていた。
    この口論がまた、目の前の下劣な存在と自分が同レベルであるかのように思えて嫌だった。

    ベアトリーチェ:
    「・・・貴方の品性の無さには、一度 目を瞑りましょう。 今回は貴方に取引を持ってきました。」

    ???:
    「最初から そう言えよ、頭悪いな。」

    ベアトリーチェ:
    「おや、そんな口をきいて良いのですか? ─── ウェルギリア。
    貴方が喉から手が出るほど求めていたであろう、自由を約束する取引ですよ?」

    ウェルギリア。
    そう呼ばれた生徒は、侮蔑の色に満ちていた目に真剣な光を宿し始めた。

    ウェルギリア:
    「お前が約束なんか守るものかよ。 おとと行きやがれババア。」

    ベアトリーチェ:
    「これを見ても、そう思いますか?」

    ベアトリーチェはウェルギリアの前に、一枚の紙の写しを投げ捨てた。

  • 42二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:07:29

    それは正式な形での契約書だった。
    事細かに条文が並べられており、最後に二人の署名があった。
    一人は当事者であるベアトリーチェ、そしてもう一人は───

    ウェルギリア:
    「・・・連名でゴルコンダの署名? ・・・本気か、クソババア?? ついに気でも触れたのか???」

    いくらベアトリーチェでも、一応は同列の大人であるゴルコンダの署名を捏造するまでして生徒に嘘を付くとは思えなかった。
    それをするのは、ベアトリーチェの雲より高いプライドが許さないはずだ。
    つまり、これを反故にするかどうかは置いておいて、ベアトリーチェはウェルギリアの協力を引き出す為に他の大人の手を借りたことになる。
    それは常では有り得ないことだった。

    ベアトリーチェ:
    「えぇ、本気ですよ。 これくらいしなければ、貴方は適当に手を抜くでしょう?」

    ウェルギリア:
    「・・・。」

    それは事実だった。
    この後の展開を知っているウェルギリアからすれば、ベアトリーチェの命令なんて形だけ守っておけばいい。
    後は勝手にベアトリーチェが自滅してくれるので、それで晴れて自由の身だ。

  • 43二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:10:52

    ─── しかし、それでは勝った気がしないのは事実。

    そう勝利。
    それが大切だ。
    常に勝利者でいたいと考えるのは、ウェルギリアも自覚する悪癖の一つだった。

    ウェルギリアの自由を約束する契約書。
    これが守られるかどうかは然程 重要ではなく、他のゲマトリアが絡んでいるということが大切だった。
    これが反故にされれば、ウェルギリアがゴルコンダの手を借りる切っ掛けが出来る。
    そうすれば、もしかするとベアトリーチェの最期はウェルギリアの手によるものになるかもしれない。
    それを考えるとゾクゾクした。

    勝利して、支配する。
    それこそが遺伝子にまで刻まれた、ウェルギリアの満足感だった。

    ウェルギリア:
    「・・・いいぜ。 ノってやる。
    それで お前の首は頂きだ クソババア。」

    ベアトリーチェ:
    「分かっているとはいえ、そうまでして野心を隠されないと逆に不快ですね。
    後、協力する気になったのであれば私のことは敬意を込めてマダムと呼びなさい。
    次 下劣なことを口走ったら、また首を絞めますからね。」

  • 44二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:13:40

    ウェルギリア:
    「─── 畏まりました、マダム。」

    縛りから解放されると、ウェルギリアは教養を感じさせる美しい所作で お辞儀をした。
    ベアトリーチェは気持ち悪そうに目を細める。
    躾けをしたのは自分だが、本性の下劣さを誰よりも知っている身からすると、ケダモノが礼服を纏っているかのようなバカバカしさがある。

    ベアトリーチェ:
    「─── 行きなさい。 そして、好きに『喰らう』と良いです。」

    ウェルギリア:
    「・・・それは、領内の生徒も?」

    ベアトリーチェ:
    「えぇ。
    どうせもう、『複製(ネメシス)』のパスが通った時点で大した価値はありませんから。」

  • 45二次元好きの匿名さん25/07/11(金) 15:15:26

    ───── ニタァ

    そうとしか形容の出来ない、欲望に塗れ切った笑みをウェルギリアは浮かべる。
    ベアトリーチェは、それを下劣だとは思わなかった。
    自分も、昂ったときは全く同じ表情を浮かべることは知っていた。
    それを下劣だと思うことは、自分を下劣だと認めることと同じだった。
    ・・・もっとも、虫唾が走ることは間違いないが。

    ベアトリーチェ:
    「心して掛かることです。
    ・・・私も、今回の相手は同格 ─── いえ、格上と見て相手をすることとします。」

    ウェルギリア:
    「・・・ほぅ。」

    ベアトリーチェが雲より高いプライドを投げ捨てて、相手を見下すことを止める。
    それはウェルギリアからすると、ベアトリーチェが自身最大のデバフを捨て去ったように見えた。

    ────────────────────

  • 46ホットドリンク大好き25/07/11(金) 22:34:11

    ────────────────────


    <トリニティ領の路地裏───>


    サオリ:

    「はぁ・・・はぁ・・・。」


    サオリは一人、路地裏を駆けていた。

    片腕を抑え、走り方も ぎこちない。

    足をケガしているようだ。


    ───── ガタッ


    サオリ:

    「!!」


    近くで物音がして、咄嗟に銃口を向ける。

    しかしそこには はぐれていた防衛室スタッフが立っていた。

    サオリは自然に手を差し伸べていた。


    サオリ:

    「大丈夫 ───」

  • 47ホットドリンク大好き25/07/11(金) 22:36:12

    防衛室スタッフ?:
    「─── バ~カ!」

    突然、味方のはずの防衛室スタッフが襲い掛かってきた。
    反射的にアサルトライフルの引き金を引く。
    しかし防衛室スタッフの方が1手早く、銃のマズルを掴んで腕力で銃口を逸らした。
    弾丸が明後日の方向に飛んでいく。
    そして、人外染みた膂力で引き寄せられた。

    そして、目の前で蜃気楼のように本来の姿に戻る。

    ウェルギリア:
    「やっほ☆ サッちゃん、久しぶり! 元気だったぁ??」

    それはサオリが良く知っている生徒だった。
    赤い肌に、黒い髪。 そして何よりマダムに良く似て白目部分が黒くなった蛇のような赤い瞳孔。
    全体的にマダムを一回りか二回り幼くしたような感じで、一目でベアトリーチェの親類と分かるオーラがあった。

    勿論 違うところもあり、髪には野性的なハネがあるし、肌には蛇のような鱗が所々生えている。
    それに何より、頭部には大きな狼耳が揺れていた。

    マダムの白いドレスとは対象的に、黒いゴシックロリータのドレスを着こなしている。

    サオリ:
    「・・・私は元気です。 レディも健勝そうで何より。」

  • 48ホットドリンク大好き25/07/11(金) 22:37:30

    ウェルギリア:
    「うんうん、言葉遣いがなっているようで何より!
    ─── ま、今更 媚びられたところで どうせ喰べるんだけどな!!」

    レディが、口を開く。
    マダムと同じ、肉食の歯が並んでいた。

    サオリは咄嗟に銃を手放して身を捻る。

    ───── シャクッ

    軽妙な効果音と共に、今さっきまでサオリが立っていた場所の背後のコンクリートが抉られた。
    まるで豆腐を犬が食べたかのような歯形が出来た。

    ウェルギリア:
    「・・・うぇ・・・まっず。
    避けるなよ、めんどくせぇ。 私の都合も考えろよ、サッサと喰われろ。」

    ウェルギリアが地面に唾を吐く。
    派手なゴスロリドレスと合わさって妙に絵になった。

    ウェルギリアはサオリのアサルトライフルを明後日の方向に放り投げる。

    そして自身の得物を取り出した。
    取り出したのは ───

  • 49ホットドリンク大好き25/07/11(金) 22:41:10

    1.AR

    2.SG

    3.MG

    4.HG

    5.SMG

    6.SR

    7.RG

    8.GL

    9.RL

    10.FL


    dice1d10=2 (2)

  • 50ホットドリンク大好き25/07/11(金) 23:50:10

    ─── ショットガンだった。

    背中から、1丁の長身な銃を取り出す。
    それはトリニティ最強と謳われる剣先ツルギのそれに似て、しかし1.5倍ほど銃身が長かった。

    ウェルギリア:
    「─── くたばれ。」

    通常のショットガンより重い銃声が響く。
    気付けば、サオリは路地裏の地面を転がっていた。

    しかし、まだ意識はある。
    サオリは跳ねるように立ち上がった。

    ウェルギリア:
    「・・・あ~ぁ、今ので気絶できれば楽だったよ?」

    サオリ:
    「・・・私には、まだ やるべきことがある。」

    ウェルギリア:
    「ふ~ん・・・。」

    ウェルギリアがジリジリとサオリとの間合いを詰める。
    そこにはもう、遊びの雰囲気は無かった。
    そして、『こういう時』のレディが自分より強いことは、サオリには分かっていた。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 51ホットドリンク大好き25/07/11(金) 23:52:30

    さて、どこまで持つか。
    サオリが そう考え始めたとき、不意に空から甲高い音が響き始めた。

    ???:
    『─── お待たせ! そして去ね!!』

    そして次の瞬間には、ウェルギリアが立っていた場所を機械仕掛けの巨人が殴り潰した。
    20mほどの その巨人の背にはジェット噴射の機構が備わっており、それは天使の羽に似ていた。

    サオリ:
    「─── ヴィルトゥオーソ!」

    ウェルギリア:
    「─── 酷いなぁ・・・私達、長い付き合いでしょ。 ヴィルトゥオーソ。」

    突然の空からの奇襲を、軽く躱したウェルギリアが、機械仕掛けの天使の腕を駆け上りながら言う。
    ショットガンが火を吹く。
    鉄の天使の、無数のカメラが蠢く頭部にクリーンヒットした。
    衝撃で、姿勢が仰け反る。

    ウェルギリア:
    「─── は?」

  • 52ホットドリンク大好き25/07/11(金) 23:55:19

    しかし追い詰められていたのはウェルギリアの方だった。

    悪い予感を覚えて横を見れば、鉄の天使の もう片方の掌から、太陽のような輝きが放たれている。


    ウェルギリア:

    「<火葬砲>!? ここでやるなよ・・・!!」


    ウェルギリアが影のように消えた。

    次の瞬間には、空を裂くような光の奔流がトリニティの廃墟を呑み込んだ。


    ・・・。

    ・・・・・・。

    ・・・・・・・・・。


    ヴィルトゥオーソ:

    『大丈夫かい? サオリ。』


    機械仕掛けの声が頭に響く。

    見れば、無数のカメラが こちらを覗いていた。


    サオリ:

    「・・・あぁ、すまない。

    迷惑を掛けてしまったようだ。」


    ヴィルトゥオーソ:

    『いや、君が謝ることはないよ。

    相手の出方を読み違えた私達の責任だ。

    むしろ、君が あの度し難いバカに喰われずに済んで良かった。 君は計画の要だからね。』

  • 53ホットドリンク大好き25/07/11(金) 23:57:20

    サオリ:
    「私と共にいた連中は?」

    ヴィルトゥオーソ:
    『・・・反応はない。 恐らく、全員 喰われただろう。』

    サオリ:
    「・・・そうか。」

    ヴィルトゥオーソ:
    『気に病むこともないよ。 最後に【吐き出させれば】良いワケだからね。
    それよりも、今は あのバカへの対策が必要だ。』

    サオリは頷いた。
    レディの能力は、いささか反則染みている。
    しかも、もう40人以上は喰べていた。
    戦闘能力も、各校の最強には及ばないにしても相当高くなってきているだろう。

    能力の一端である”喰べた人間の姿をコピー出来る”というだけでも、三頭政治のトリニティを崩せる可能性があることをサオリは知っていた。
    そして、それを検討するだけでもマダムが露骨に嫌そうな顔をしていたことも。
    だからこそ、アリウススクワッドを使う次善の策を採ったはずだったが・・・。

    サオリ:
    (アテが外れた今、なり振り構わなくなったということか。)

    サオリはカヤが匿っているであろう家族の身を案じた。

    サオリ:
    (私を襲ったということは、次は───)
    ────────────────────

  • 54ホットドリンク大好き25/07/12(土) 09:31:37

    保守

  • 55二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 14:30:57

    保守

  • 56二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 22:26:16

    保守

  • 57ホットドリンク大好き25/07/12(土) 23:16:55

    ────────────────────


    <アリウスの最奥にて───>


    ウェルギリア:

    「─── あ~ぁ・・・やられました、マダム。」


    ベアトリーチェ:

    「手間を掛けさせる割に、使えませんね。」


    ウェルギリア:

    「・・・申し訳ありません。 どうもあのナチュラルサイコパスは苦手でして・・・。」


    ベアトリーチェ:

    「言い訳は聞きません。 成果を示しなさい。」


    ウェルギリア:

    「・・・そう言うマダムは どうなのですか?」


    普段から本が積み上がって煩雑なベアトリーチェの居室だが、今は足の踏み場もないくらいだった。

    部屋の四方八方から赤い線が蜘蛛の巣のように走り、走り書きのメモやら写真やらに結びつけられている。

    そこにウェルギリアは、近年稀に見るマダムの本気を感じた。

  • 58ホットドリンク大好き25/07/12(土) 23:18:03

    ベアトリーチェ:
    「誰に口を利いているのですか?
    勿論、私は貴方と違って成果を挙げていますよ。」

    ウェルギリア:
    「ほぅ・・・? では、どのようなことが分かったのですか?」

    ベアトリーチェは確か、今まで見下していたカヤと その軍勢について分析し直していたところだったはずだ。
    たかが子供の軍勢と舐めていた時とは、異なる分析結果が出たはずだった。

    ベアトリーチェ:
    「えぇ、今まで見えてこなかったことが良く見えてきました。
    そうですね。 あの軍勢には”弱点がない”ということが良く分かりましたよ。」

    ・・・。

    少しの沈黙。
    真顔でアホなことを言うマダムが笑えて、ウェルギリアは つい吹き出した。

    ウェルギリア:
    「それは w・・・何も成果がないと同義なのでは ww・・・?」

    ベアトリーチェがウェルギリアを睨み付ける。
    ウェルギリアの首元のチョーカーが絞まった。
    ウェルギリアは嗤いながら苦しそうにする。

  • 59ホットドリンク大好き25/07/12(土) 23:19:50

    ベアトリーチェ:
    「・・・分かっていませんね。
    私は”弱点がない”ことを見つけたのです。 手ぶらで帰ってきた貴方とは違いますよ。」

    ウェルギリア:
    「ヒッー・・・ヒッー・・・! あー、失礼。
    ・・・そうですね。 確かに私も”弱点がない”ということには同意致しますよ。」

    チョーカーの戒めが弱まり、ウェルギリアは思い出し嗤いをしないように努めながら真顔でベアトリーチェに同意した。
    確かに、記憶にある限りカヤの軍勢というものには弱点らしい弱点がない。
    自分も中々チートだという自覚はあるが、アレもアレで大概だと思う。

    ベアトリーチェ:
    「ですから、業腹ではありますが子供の手を借りようと思います。 ウェルギリア、次はゲヘナに向かいなさい。」

    ウェルギリア:
    「ゲヘナに・・・? 今更あんな掃き溜めに何の用があるというのですか?」

    ウェルギリアの記憶にある限り、あそこに利用価値があるのはエデン条約の調印式までのはずだった。

  • 60ホットドリンク大好き25/07/12(土) 23:21:43

    ベアトリーチェ:
    「あるのですよ、今は。
    あの学園の生徒会長は、防衛室の前身となる組織の かつての天敵達を匿っています。
    それを、存分に利用しようではありませんか。
    あちらも、試し撃ちはしてみたいはずです。」

    ウェルギリア:
    「・・・なるほど、意図は分かりました。 交渉は、私が纏めて来ましょう。」

    つまるところ、タダで協力させろということだった。
    見下すことは一旦棚に上げても、吝嗇家である部分は捨てきれないらしい。
    ・・・とはいえ、無理筋でもない。
    こういう際どい交渉を口先八丁で纏めるのは、ウェルギリアの得意分野だった。

    ベアトリーチェ:
    「次も失敗の報告であったなら、例の契約書の件は白紙としますよ。」

    ウェルギリア:
    「マダムも、あまり私の表情筋と腹筋を試すようなことは 仰らないで下さい。」

    ベアトリーチェが睨み付ける。
    チョーカーが首を絞める前に、ウェルギリアは影に溶け込むようにして消えた。

    ────────────────────

  • 61二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 23:31:59

    ゲヘナ…出番だぞアルちゃん!

    アル「え!?」

  • 62ホットドリンク大好き25/07/12(土) 23:41:02

    アルは次のシーンに───


    1.出る。

    2.出ない。


    dice1d2=2 (2)

  • 63二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 08:44:35

    残念!

  • 64二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:17:09

    ウェルギリア
    敵か
    味方か
    あるいは敵の敵か

  • 65二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 23:23:20

    さて他の面々はどう関わってくるか

  • 66二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 05:13:46

    朝の保守委員会

  • 67ホットドリンク大好き25/07/14(月) 06:51:09

    ────────────────────


    <万魔殿、応接間にて───>


    ウェルギリア:

    「─── 如何でしょう、議長。 ・・・貴方にとっても悪くない話だとは思いますが。」


    マコト:

    「・・・。」


    確かに、悪くない話だった。


    ─── 万魔殿はクロノスの残党を出す。 ただし、何かあれば責任はアリウス持ちで。


    証書も したためられている。

    万魔殿は、人道的援助の名目でボランティアをアリウスに派遣する。

    ・・・もっとも、そのボランティアというのがクロノスの残党で、実際に指揮するのは万魔殿である上、用途も人道的援助とは程遠い腹黒の謀略なのだが。


    形としては確かに万魔殿がタダで力を貸すことになる。

    しかし、得るものを考えれば万魔殿に ─── 否、自分に都合が良すぎるほどだった。

  • 68ホットドリンク大好き25/07/14(月) 06:52:34

    マコト:
    「・・・一つ、聞こう。 正直に答えろ。」

    ウェルギリア:
    「・・・何なりと。」

    マコトはウェルギリアの魔物染みた目を正面から見据えた。
    狡猾そうな色をしているが、その奥にどこか純真というか、満たされない光を感じた。

    マコト:
    「─── お前、『好きなラーメンは?』」

    ウェルギリア:
    「・・・はい? えぇと・・・『柴関ラーメン』ですけど。」

    マコト:
    「キキキッ、通だな。 アビドスの、それも個人経営の店を挙げるとは。」

    ウェルギリア:
    「マダムの遣いでアビドスに寄る機会がありまして。 その時に。」

    マコト:
    「そうか。」

    嘘ではない。
    アビドスに行ったことがあって、柴関ラーメンに寄ったのも本当のことだろう。
    だが、それが好きかどうかは本人しか知り得ない情報だ。
    本当に好きかもしれないし、本当はカヤが出すようなタイプのラーメンが好きかもしれない。

    ─── だからこそ、それは背後で目を光らせる大人すら欺く暗号と化す。

  • 69ホットドリンク大好き25/07/14(月) 06:53:56

    マコト:
    「そろそろ昼時だな。
    流石に柴関ラーメンのものは出せないが、似たものは出せる。 食べていくと良い。」

    ウェルギリア:
    「良いですね。
    これも付き合いというものですから、仕方なく頂きましょう。」

    ウェルギリアが嗤った。
    首元を抑える。
    どうやら、少しチョーカーが絞まったらしかった。

    マコトが人を呼ぶと山盛りのラーメンが運ばれてきた。
    おまけにプリンも付いている。

    背後にいる大人に今までの会話を怪しまれないように用意させたものだったが、思いの外ウェルギリアは嬉しそうにした。
    特に、おまけに付いてきたプリンを見て目を輝かせる。

    それを見て、マコトはイブキがアイスクリームを前にした時を思い起こした。
    そして、もしかすると目の前のウェルギリアを名乗る少女は、見た目より ずっと幼いのかもしれないと思った。

    ────────────────────

  • 70ホットドリンク大好き25/07/14(月) 15:03:02

    保守

  • 71ホットドリンク大好き25/07/14(月) 23:15:34

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    一人の研究者が忘れ去られた祭壇を見つけた。
    ずっとずっと続く洞窟の奥、万年の氷の底、全てを呑み込む暗闇の中で。

    そして彼女は『教義』を見出す。
    旧き世界において封じ込められた【虚無】の教義を。

    ”哀れな旧き神聖。 貴方に価値を与えてあげましょう。”

    それから彼女は仄暗い神話を学んだ。
    全ては自らの成功と勝利の為に。

    研究者は やがて教義を自分に都合の良いように ねじ曲げ始めた。
    あれも要らない、これも要らない。
    もっと使い易く、もっと簡潔に。

    ”あなたは兵器。 私にとって最適なものであれば良いのです。”

    それは冒涜だった。
    しかし確かに、久しく為されなかった信仰でもあった。

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  • 72ホットドリンク大好き25/07/15(火) 00:02:30

    ────────────────────


    <アリウスの最奥、ベアトリーチェの居室にて・・・>


    ウェルギリア:

    「─── ただいま戻りました。」


    戻って来た途端、唐突にウェルギリアのチョーカーが絞まる。

    ウェルギリアは嗤った。


    ベアトリーチェ:

    「・・・一度、身体を清めて来なさい。」


    ベアトリーチェが至極面倒臭そうに言った。

    ベアトリーチェはニンニクの臭いが苦手だった。

    対して、ウェルギリアは好物である。

    風味も良いが、なによりベアトリーチェが露骨に嫌がるのが良い。


    ウェルギリア:

    「これは失礼。 なにしろ良い成果を挙げることが叶ったものでして。 早く ご報告さしあげねばと・・・。」


    ベアトリーチェ:

    「貴方の行動は全て視て知っています。

    だから、早く身体を清めて来なさい。

    その状態で近づかれたら、衝動的に戒めで首を捻り切ってしまうかもしれません。」

  • 73ホットドリンク大好き25/07/15(火) 00:10:38

    ウェルギリア:
    「ふふっ、それは恐ろしい。」

    ベアトリーチェ:
    「・・・。」

    死を恐れていない子供というのは、厄介だった。
    出自が出自だけに、近しい者を傷付けて脅すという手段もとれない。

    ─── なにしろ、神聖はともかくテクスチャデータ・・・遺伝子的には自分と ほぼ同一人物である。

    横に並べば、きっと母娘のように見えるのだろう。
    それが、ベアトリーチェには不快だった。

    鏡よりも正確に、自らの本性を写し出されているようで、吐き気する。
    自分は、これほどまでに下劣なのか。

    ふとした時の仕草や選択、口調に自分との共通点を見出すと、虫唾が走った。
    そしてそれは驚くほど多い。
    それが自らの本性の証明のようで、それもまた嫌だった。

    全く今 思えば どうして こんな存在を産み出してしまったのか。
    兵器としては確かに反則級だが、使い勝手が最悪だ。
    これに関しては、かつての自分を呪う他なかった。

    昔は、自らこそ偉大な存在に相応しいと断言できた。
    だが今は、少し自分が嫌いになってきている。

  • 74ホットドリンク大好き25/07/15(火) 00:24:01

    ウェルギリア:
    「─── お言葉通り、身を清めて参りました。」

    思考の海から戻ると、ウェルギリアが澄まし顔で近づいてきた。
    自分と同じバラの匂いが香ってくる。
    体裁の問題で他の生徒より(普段は)高い待遇を与えているウェルギリアには、”好きな”バス用品を揃える権利があった。
    つまり、無数にある選択肢から わざわざ自分と同じ香りを選んだことになる。
    癪には障ったが、匂い自体は不快ではなかった。
    少なくとも、忌々しいニンニクの匂いはしない。

    ベアトリーチェ:
    「・・・ふむ、まぁ良いでしょう。 近づくことを許します。」

    ウェルギリア:
    「感謝します、マダム。」

    ベアトリーチェ:
    「さて、話は戻りますが交渉は上手くいったようですね。
    その後に余所で餌を貰ってこなければ、お遣いは完璧と言えたのですが。」

    ベアトリーチェは軽くウェルギリアのチョーカーを絞める。
    一瞬苦しそうにするが、ウェルギリアは やはり直ぐに嗤う。
    ・・・もっと痛めつける箇所を増やしても良いかもしれないが、それは無駄であると長年の経験が言っていた。

  • 75ホットドリンク大好き25/07/15(火) 00:25:35

    ウェルギリア:
    「申し訳ございません。
    交渉先に強く言われて仕方が無く・・・。」

    ベアトリーチェ:
    「私の眼には積極的に行ったように見えましたが?」

    ウェルギリア:
    「直接 感じるものと、間接的に感じるものは異なります。
    私には、ゲヘナの生徒会長が強い圧を放っているように感じたのですよ。」

    ベアトリーチェ:
    「ふむ・・・確かにゲヘナの生徒会長が あそこまで頭が回るとは思いませんでした。
    もっと愚かだと思っていましたが・・・もしかすると道化を演じていただけだったのかもしれませんね。」

    幾らか子供を舐めることを辞め始めたベアトリーチェには、ウェルギリア越しに見たマコトが小さくない脅威に思えた。

  • 76ホットドリンク大好き25/07/15(火) 00:27:40

    ウェルギリア:
    「恐らく、バカっぽい方が素だとは思いますが・・・。」

    ベアトリーチェ:
    「相変わらず分かっていませんね。
    仮にそうだとしても、いざという時に頭が切れる人間は油断なりません。
    ・・・彼女も、いずれ抑えるべきなのかもしれませんね。」

    ウェルギリア:
    「しかし、今はカヤの方でしょう。
    わざわざ私にゲヘナまで交渉に行かせたということは、勝算があるのですか?」

    ベアトリーチェ:
    「えぇ、勿論です。
    大人のやり方というものを、ゲヘナの生徒会長も含めて貴方達に教授して差し上げますよ。」

    ────────────────────

  • 77ホットドリンク大好き25/07/15(火) 08:24:29

    保守

  • 78ホットドリンク大好き25/07/15(火) 15:45:36

    保守

  • 79二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 23:17:45

    カヤマコ共闘フラグ?

  • 80ホットドリンク大好き25/07/15(火) 23:19:52

    ────────────────────


    <数日後・・・>


    ウェルギリア:

    「─── あー・・・死にかけた。

    アイツらは もうちょっと躊躇っていうものを知るべきだよな、全く。」


    幾らかボロボロになったウェルギリアがベアトリーチェの居室に戻る。

    ベアトリーチェは相変わらず赤い蜘蛛の巣の中心に立ち、虚空を見つめている。

    よく見れば、幾つもあるベアトリーチェの眼がギョロギョロと忙しなく動き回っていることが分かった。


    ベアトリーチェ:

    「・・・あぁ、戻りましたか。 ウェルギリア。

    やはり貴方は性能だけは優れていますね。 相手の反撃を悉く潰す手腕だけは、認めてあげましょう。」


    ウェルギリア:

    「へいへい・・・どーも。」


    余裕がなくなり無意識に汚い言葉遣いをしてしまうウェルギリアだったが、ベアトリーチェは特に咎めなかった。

    ─── 咎めるだけの余裕が、ベアトリーチェにも無かった。


    他人より多く設けた眼を、フルに活用してリアルタイムで指揮を執っているのである。

    当然 脳に掛かる負荷も大きくなり、会話も雑になる。

  • 81ホットドリンク大好き25/07/15(火) 23:21:37

    ウェルギリア:
    「・・・それで? 私がワンマンで駆けずり回っている間、少しは進展したんだろうなぁ??」

    ベアトリーチェ:
    「えぇ、勿論です。
    ようやく、ここ連日の成果が出始めていると言えるでしょう。」

    ベアトリーチェが やったことは案外単純で、カヤと その軍勢を引っ掻き回すことに注力していた。

    偽の情報をSNSに流して炎上させる。
    偽の通報で無駄足を踏ませる。
    幾らかの機密を捉えて、それらを流出させる。
    電波ジャックによって、防衛室に都合の悪い情報を報道する・・・etc...

    最近 保護監察という名目で防衛室に占拠されたクロノスジャーナリズムスクール。
    その魔の手から逃れた残党達が、万魔殿の指揮下で良く働いてくれた。
    かつての天敵という評価も頷けるほど、クロノスの生徒達は神懸かった動きで防衛室を翻弄することが出来た。

    ─── もしかすると、平和な時代は彼女達にとっては逆に毒だったのかもしれない。

    そう思えるほどの動きだった。

    しかしベアトリーチェは それでは満足せず、『複製(ミメシス)』は勿論、貯め込んだ財貨をバラ撒いてまで兵力をキヴォトス全域に展開した。
    同じくキヴォトス全域に展開している防衛室の兵力と入り乱れる様は、巨大な獣同士が食い合っている構図にも見えた。

  • 82ホットドリンク大好き25/07/15(火) 23:23:35

    とはいえ、こちらの兵力は『複製』を除いて殆どが急増の兵力である。
    傭兵は勿論、防衛室に不満を持つ武装組織や ただ単に暴れたいだけの連中なども入り混じった数だけの烏合の衆だ。
    対して相手は一兵残らず訓練を施された正規兵である。
    今は数が恃みになるが、いずれ制圧されてしまうのは目に見えていた。

    ─── だからこそ、それまでに目的のモノを見つける必要がある。

    ベアトリーチェ:
    「・・・私は防衛室に”弱点はない”と言いましたね。」

    ウェルギリア:
    「あぁ、あれはオモロかったわ。」

    ベアトリーチェ:
    「それは半分事実で、半分は正確ではありません。
    確かに防衛室の兵力は数も多く、統制もとれ、質も優れています。
    軍隊としては一切の欠点がないと言えるでしょう。
    しかし、彼女達には守るものが多過ぎるようです。
    組織としての弱点はなくとも、そこを突けば手玉に取ることは難しくありません。」

    ウェルギリア:
    「手玉に取れても、どうこうするのは無理じゃね?」

    ベアトリーチェ:
    「えぇ、今は そうです。
    ですが別に、今直ぐどうこうする必要もないでしょう?
    私はただ、この『戦争』を振り出しに戻したいだけなのですから。

    ─── あぁ、ようやく見つけました。」

  • 83ホットドリンク大好き25/07/15(火) 23:26:03

    突然、ベアトリーチェはニヤリと嗤った。
    口が裂け、白い肉食の歯が覗く。

    ベアトリーチェ:
    「ウェルギリア、今すぐ この場所に向かいなさい。」

    ウェルギリア:
    「えぇ・・・今、私 疲れてるん ───」

    ベアトリーチェ:
    「─── ロイヤルブラッドです。 この場所に、確かにいます。」

    ウェルギリア:
    「・・・へぇ。」

    ウェルギリアも、嗤った。
    ベアトリーチェに よく似た笑みだった。

  • 84ホットドリンク大好き25/07/15(火) 23:27:48

    次の言葉を発する間もなく、ウェルギリアは影に溶けて消える。
    ロイヤルブラッド ─── 秤アツコを迎えに行ったのだ。
    アレはアツコに、どこか異常なまでに執着していた。
    きっと確実に連れ去ってくるだろう。

    ベアトリーチェ:
    「・・・不知火カヤ。
    貴方が私から盗んだものを、全て返して貰います。」

    ベアトリーチェは居室に積み上げられた本の中から、チェス盤と その駒を引っ張り出した。

    ベアトリーチェ:
    「そうして初めて、このグレートゲーム(戦争)は成立するのですから。」

    ベアトリーチェは白の駒を並べる。
    そして、反対側に黒の駒も並べ─── 予備の黒の王駒を自陣の背後に置いた。

    ────────────────────

  • 85ホットドリンク大好き25/07/15(火) 23:33:37

    >>79

    その二人が共闘する可能性があるのは最終編くらいです。

  • 86二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 00:29:44

    次からクロスオーバーを付けて欲しい

  • 87二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 00:31:51

    あくまで任意だから付けなくても良い

  • 88ホットドリンク大好き25/07/16(水) 09:10:39

    >>86

    >>87


    リゾート編が長引いたから こんなこと言うのもアレだけど、他作品とブルアカのクロスオーバーがメインじゃないから付ける気はないかな。


    あくまで if 世界線での話を広げていくのがメインで、クロスオーバー要素は二次創作特有のエンタメとして楽しんでくれると嬉しい。

  • 89二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 14:03:02

    了解した

  • 90ホットドリンク大好き25/07/16(水) 22:43:01

    ────────────────────


    <とあるスラムにて・・・>


    ミサキ:

    「ゲホッ・・・ゴホッ・・・こっち、こっちに行けば・・・!」


    ヒヨリ:

    「ミサキさん・・・。」


    アツコ:

    「・・・。」


    昏い路地裏を、薄汚いネズミのように這い回る。

    こんなときに限って、息が苦しく、身体の所々に痛みが走っている。

    ミサキは、自分の肉体を今日ほど呪ったことは無かった。


    ミサキ:

    (こんな・・・ときに・・・っ!)


    ───── ドンッ


    遠くで、爆発音が聞こえた。

    それは自分達に良くしてくれたアリウス出身の防衛室スタッフが また一人やられた音だと直感的に分かった。

    どこかに置いてきたはずの心が、ズキリと鈍い痛みを放つのを感じる。

  • 91ホットドリンク大好き25/07/16(水) 22:50:06

    追われているのだ。
    それも、アリウス最悪の刺客に。

    辛い、苦しい、嫌だ、怖い ───

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    サオリ:
    「皆を、頼む。」

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    ミサキ:
    (・・・。)

    しかし、諦めることは許されなかった。
    責任が、ミサキの小さな肩に重く のしかかる。

    自分が死ぬのは、怖くない。
    他人に期待していないよりも ずっと、自分自身には何の希望も残してはいない。
    だが、家族が傷付くのを見るのは、ずっとずっと恐ろしかった。

    ミサキ:
    (お願い・・・私はどうなってもいい。 だから家族だけは・・・。)

  • 92ホットドリンク大好き25/07/16(水) 22:56:11

    ウェルギリア:
    「─── 見~つけたぁ。」

    祈りも虚しく、目の前の影から赤い魔物がズルリと滲み出すように姿を現わした。
    マダムに良く似た嗜虐的な笑みは、確かにミサキ達の方へと向けられている。

    ミサキは心の何か大事な部分がポッキリと折れるのを感じた。

    ミサキ:
    「・・・ぁあ。」

    ─── やっぱり、世界は どこまでも虚しいものなんだ。

    ────────────────────

  • 93二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 02:52:01

    カヤー!先生ー!早く来てくれー!

  • 94二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 10:30:47

    カヤ
    先生
    サオリ
    誰でも良いから助けて

  • 95ホットドリンク大好き25/07/17(木) 16:38:33

    保守

  • 96ホットドリンク大好き25/07/17(木) 23:15:09

    ────────────────────

    ───── (銃声)

    ───── (爆発音)

    ───── (銃声)

    ───── (銃声)

    ───── (銃声)

    ・・・。
    ・・・・・・。
    ・・・・・・・・・。

    ウェルギリア:
    「─── アツコ? 私 言ったよね?? 逃げるなって。」

    ミサキ:
    「・・・っ。」

    ヒヨリ:
    「う・・・うぅ・・・。」

    アツコ:
    「・・・。」

  • 97ホットドリンク大好き25/07/17(木) 23:16:27

    ウェルギリア:
    「それなのに こういうことされると、私 悲しいなぁ・・・。
    ・・・貴方の大切なコレ、壊しちゃった方が良い? また変な気を起こされると嫌だし。」

    アツコ:
    「・・・やめて。」

    アツコの声を聞いて、ウェルギリアは嗜虐的な笑みを浮かべた。

    ウェルギリア:
    「え~ぇ・・・どうしよっかなぁ・・・。
    貴方の苦しむ顔も良いけど、絶望した表情も見たい気が───」

    アツコ:
    「───『彼女』が求めてるのは私・・・そうでしょう?」

    ウェルギリア:
    「・・・。」

    ウェルギリアは黙り込んだ。
    下劣な戯れ言を許さないだけの『威厳』が、アツコにはあった。

  • 98ホットドリンク大好き25/07/17(木) 23:19:18

    アツコ:
    「私は、逃げない。 だから、他のメンバーは見逃して欲しい。」

    ウェルギリア:
    「・・・はぁ。」

    ミサキ:
    「ダメ・・・姫。 ・・・行ったら・・・殺される。」

    アツコ:
    「うん。 でも、私が行けば一人で済む。」

    アツコは、迫るようにウェルギリアに近づいた。

    アツコ:
    「・・・貴方には貸しがあったはず。
    約束してくれる? みんなを自由にしてくれるって。」

    ウェルギリア:
    「・・・うるさい。 今、私がアツコと話している。」

    ウェルギリアは明後日の方向を向いて文句を垂れると、アツコに向き直った。

  • 99ホットドリンク大好き25/07/17(木) 23:21:12

    ウェルギリア:
    「いいよ。 約束してあげる。
    私は、貴方を除くアリウススクワッドを自由にする。
    ・・・その代わり、貴方は逃げない。 ・・・いいね?」

    アツコ:
    「その名にかけて、誓って。」

    ウェルギリア:
    「へぇ、そこまで賭けるワケ?」

    アツコ:
    「私が今まで約束を破ったことがある?」

    ウェルギリア:
    「なるほど・・・確かに。
    じゃあ、煉獄と地獄の案内人である私、『ウェルギリア』の名にかけて約束してあげるよ。
    私はもう、貴方の家族を追わない。」

    アツコ:
    「・・・うん、約束だよ。」

  • 100ホットドリンク大好き25/07/17(木) 23:24:04

    アツコはウェルギリアの手をとる。
    そして ゆっくりと影に染まっていく。

    ミサキ:
    「ひ、め・・・。」

    ヒヨリ:
    「・・・姫、ちゃん。」

    アツコ:
    「元気でね、二人とも。 ・・・サオリに、風邪を引かないようにしてって伝えておいて。」

    そうして、影に呑まれるようにしてウェルギリアとアツコは消えた。

    後には、傷だらけの二人が残った。

    ────────────────────

  • 101ホットドリンク大好き25/07/18(金) 08:13:20

    保守

  • 102二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 17:14:31

    拐われたアツコ

    原作と違うのは敵陣営も味方陣営も強化されていることだ

  • 103ホットドリンク大好き25/07/19(土) 03:09:21

    保守保守

  • 104二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 10:16:12

    昼の保守委員会

  • 105二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 11:34:39

    ────────────────────


    <地下基地にて・・・>


    カヤ:

    「─── やられました。

    秤アツコさんを、ウェルギリアに奪取されました。」


    ヴィルトゥオーソ:

    「こちらも暗澹たるものだよ。

    サオリさん は何とか持って行かれずに済んだけど、彼女につけていた私の部下は殆ど喰われてしまった。」


    カヤ:

    「・・・非常に拙い事態ですね。

    今回の襲撃でウェルギリアが喰べた人数は100名を超えます。

    そろそろ、私でも相手が難しくなってくる頃合いです。」


    カヤもヴィルトゥオーソも、部下が喰われたことよりも その人数に注目していた。


    ヴィルトゥオーソ:

    「残酷だけど、そうだね。

    彼女は『喰べた人数だけ成長する』特異体質というか、神秘持ちだからね。」


    カヤ:

    「『他人に化ける能力』に、『影を使った瞬間移動』・・・これ以上 厄介な特性が生えてくると面倒になります。

    サオリさんに準備をさせてください。 そして貴方はトリニティへ。」

  • 106ホットドリンク大好き25/07/19(土) 11:36:32

    ヴィルトゥオーソ:
    「うん? 次はトリニティなのかい?
    セイア君のことは残念だけど、あれは彼女の神秘によるものだ。
    ベアトリーチェを先に排除できない以上、あの出来事は放置する他ないと思うが?」

    カヤ:
    「それも重要ですが、今回はそうではありません。
    恐らく、今回のベアトリーチェは我々に対する侮りが一切無いでしょう。
    ・・・となると、次はトリニティを引っ搔き回しに入る可能性が高いです。
    【養分】は多ければ多いほど良いですから。」

    ヴィルトゥオーソ:
    「・・・となると、ナギサ君が?」

    カヤ:
    「残念ですが、我々は今 後手に回っています。
    阻止は難しいでしょう。
    貴方は事後処理に回って下さい。
    ・・・完全に止めろとは言いません。
    ただ、少しでも長く留めてください。」

    ヴィルトゥオーソ:
    「・・・了解した。
    ・・・それで、君はどうする?
    まさか、単身で向かうとは言わないよね。」

    カヤ:
    「彼女の領地においては頭数は意味を成しませんからね。
    そうですね ───」

  • 107ホットドリンク大好き25/07/19(土) 11:43:01

    1.便利屋68

    2.FOX小隊

    3.カンナと、その群れ

    4.一般通過スオウ

    5.特に誰も呼ばない


    dice1d5=1 (1)

  • 108ホットドリンク大好き25/07/19(土) 11:59:27

    カヤ:
    「─── ここはやはり、便利屋68の皆さんを お呼びしましょう。
    彼女達のチームワークと機転は、単純な戦力に勝るものがあります。
    今回は特に、そういった力が必要ですから。」

    ヴィルトゥオーソ:
    「なるほど。 適任だね。
    ・・・ふむ。
    話は変わるが、『あの子』は まだ来ないね。」

    ヴィルトゥオーソは円卓の横の空席に視線を投げる。

    カヤ:
    「彼女の師についているのでしょう。
    ゴルコンダは、きっと今回のベアトリーチェの結末にも干渉してくるでしょうから。」

  • 109ホットドリンク大好き25/07/19(土) 12:02:04

    ヴィルトゥオーソ:
    「そうか・・・。
    あの子がいれば、『複製(ミメシス)』なんて度し難いものを考慮する必要も無くなるのだが。」

    カヤ:
    「だからこそ、でしょう。
    事態の収拾に彼女の神秘は うってつけです。」

    ヴィルトゥオーソ:
    「なるほど。
    全てはゴルコンダのシナリオ通り・・・というワケか。」

    カヤ:
    「そうとも限りませんよ?」

    ヴィルトゥオーソ:
    「うん?」

    カヤ:
    「彼の者のシナリオに、シャーレの先生は考慮されていません。
    今回の結末は、きっとそこがキーになってくるでしょう。」

    ────────────────────

  • 110二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 19:14:09

    保守

  • 111ホットドリンク大好き25/07/19(土) 23:30:12

    ────────────────────


    <ゲマトリアの会議室・・・>


    セイアは夢の中で夢を見ていることを自覚した。

    それはいわゆる、明晰夢だった。


    ─── ミカと良く話し合う為に少し休もうとして、眠ってしまったようである。


    明晰夢の中では、異形の大人達が円卓を囲んで議論を進めている。

    やがて、木人形のような大人が、赤い大人と口論を始めた。


    マエストロ:

    「─── 貴下の計画には賛同しかねる。

    あまりに被害が大きく、それでいて生み出すものは皆無だ。

    私は文明と、それによる創造を愛している。 貴下の行おうとしていることは ケダモノ染みた破壊に過ぎない。」


    ベアトリーチェ:

    「─── ・・・ケダモノ? 私にケダモノと言ったのですか??

    マエストロ。 それは私にとってどれだけの侮辱であるか理解しての言動なのでしょうね。」


    ゴルコンダ:

    「お二人とも、落ち着いて下さい。」

  • 112ホットドリンク大好き25/07/19(土) 23:33:40

    ???:
    「・・・。」

    セイアは、ふと写真を抱えた大人の後ろに小柄な影があることに気付いた。
    体格からして自らと同じような生徒であろうそれは、ジッとセイアのことを見つめていた。

    セイア:
    (まさか・・・こちらを認識しているとでも?)

    ありえない話ではなかった。
    夢の中の存在が、観測者を察知できない道理はない。

    黒服:
    「ふむ・・・『カナリア』が何かを感じ取っているようです。
    今回は この辺りで解散した方が無難かもしれません。」

    ベアトリーチェ:
    「・・・なるほど、確かにネズミがいるようですね。
    少し、話過ぎました。 ・・・マエストロ、貴方の私に対する侮辱は忘れませんからね。」

    マエストロ:
    「その点については同意できる。 私も、貴下から受けた非礼は決して忘れまい。」

    ゴルコンダ:
    「・・・この議題は回を跨ぎそうですね。 さて、我々も帰りましょうか?」

    夢の中から、次々と大人が消えていく。
    自分と同じような影だけが、夢から覚めるまで ずっとセイアのことを見つめていた。

    ────────────────────

  • 113二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 09:18:18

    保守

  • 114二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 18:10:07

    保守

  • 115ホットドリンク大好き25/07/20(日) 23:39:15

    ────────────────────

    セイア:
    (・・・ここは?)

    セイアは いつの間にか、再び夢の中にいた。
    見覚えのない聖堂の廃墟のような建物の真ん中にポツンと意識がある。
    建築様式から言って、記憶にある限りアリウスのものに近い気がするが確証はない。

    セイア:
    (ミカは・・・。)

    焦燥のあまり、本来あのタイミングで言うべきではないことを口走ってしまった気がする。
    しかし、『彼女』の計画の一旦を耳にした以上、問わねば、聞かねばならないことだった。
    しかも言うだけ言って、自分は再び夢に落ちて・・・。

    なんにしろ、間が・・・間が悪すぎる。

    ???:
    「─── 次はトリニティかよ。 幾ら何でも人使いが荒すぎじゃね?」

    ???:
    「黙りなさい。
    貴方には それくらいしか能がないのですから、有効に使うべきでしょう。」

    ???:
    「・・・。」

  • 116ホットドリンク大好き25/07/20(日) 23:40:41

    静謐な聖堂で、何者か達が食事をしていた。
    大きな長方形の机に3人が座っている。
    上座には前の夢でも見た赤い大人が陣取り、中位の席には白いジャケットを羽織った少女が、最も下位の席には赤い大人にソックリな少女が座っていた。

    ベアトリーチェ:
    「『桐藤ナギサ』・・・彼女を今のトリニティから消してしまえば、かの学園の三頭政治は完全に崩壊します。
    代行としてシスターフッドの歌住サクラコ、救護騎士団の蒼森ミネが台頭するでしょうが、あの二人は折り合いが悪いことは調べがついていますからね。」

    ???:
    「・・・。」

    白いジャケットを羽織った少女 ─── 確か彼女はアリウススクワッドの秤アツコと言ったか ─── は目の前に供された食事に一切 手を付けていなかった。
    それはまるで、今この場に在席しているということを拒絶しているかのようだった。

    ウェルギリア:
    「・・・ふぅん。
    ババアにしては良く練った作戦だなぁ。
    そうすりゃ、誰も暴走を止められなくなるってワケか。」

    ベアトリーチェ:
    「・・・言葉遣いには気を付けなさい。
    戒める手間が惜しいから見逃しているのであって、決して貴方の無礼を許したワケではないのですから。」

    赤い大人が睨み付けると、対面に座る赤い少女のチョーカーが絞まった。
    苦しそうにする赤い少女だったが、やがて嘲りに満ちた哄笑に変わった。

    ウェルギリア:
    「「へへっ、確かに忙しすぎて色々 詰めが甘くなってきていると見える。」」

  • 117ホットドリンク大好き25/07/20(日) 23:42:56

    突然、背後から赤い少女と全く同じ声が聞こえた。
    次の瞬間、セイアは首元を掴まれるようにして その意識が捕らえられた。

    セイア:
    「うぅ・・・っ!」

    ウェルギリア:
    「つ~かまえた☆
    チョロチョロ追ってきてると思ったら、ここにきて ようやく明瞭化してくれたねセイアちゃ~ん!
    ダメだよ~、夢で覗き見するなら もっと自我を消さなきゃ~。」

    セイア:
    (なぜだ・・・? 目の前には、確かに”食事をしている同一人物”がいるはずだが・・・。)

    ウェルギリア達:
    「「【聖徒会】が『複製(ミメシス)』によって発生したのと似たような原理だよ。
    もっとも、マエストロのそれよりはずっと単純で簡潔な仕組みだけどな。」」

    ウェルギリア:
    「とはいえ、こういう単純な手品でこそ人は騙せる。 ・・・それは お前も例外じゃないってこと。」

  • 118二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 23:44:15

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  • 119ホットドリンク大好き25/07/20(日) 23:46:14

    ベアトリーチェ:
    「何を偉そうに。
    ・・・しかしまぁ、ネズミを捕らえた手腕は評価しましょう。
    トリニティの件ですが、貴方の望み通り少し休憩を挟んでからとします。」

    そう言って、赤い大人は口元を拭って退席する。

    ウェルギリア:
    「自分が寝たいだけだろ。」

    ベアトリーチェ:
    「・・・ネズミにすら気付けないようでは、この先 支障をきたしますからね。」

    赤い大人は、少しフラフラした足取りで聖堂から消えていった。

    ウェルギリア:
    「さて、セイアちゃん。
    お前は綺麗な檻に入れてあげようね。
    ・・・今頃 魂を失った身体はどうなってるかなぁ。
    きっと お友達の前で死にかけているだろうね。
    あぁ、その絶望の表情を間近で見れないのが本当に残念だよ。」

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  • 120ホットドリンク大好き25/07/21(月) 09:10:51

    保守

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