【SS】グラスのグルメ 大阪編

  • 1二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:30:39

    大阪、新世界。
    春となって日差しが日に日に増す中、その光を浴びて堂々とそびえ立つ通天閣を中心にレトロな雰囲気が漂う歓楽街。
    年季の入った暖簾や店構えのこじんまりとした立ち飲み屋、スマートボールやレトロゲームを扱うゲームセンターが立ち並んでいて、数十年前から時が止まってしまったかのような錯覚を覚えてしまう。

    「話には聞いていましたが…なかなか、凄いところですねぇ。」

    そんな場所に一人、グラスワンダーは足を踏み入れていた。
    周囲の光景から完全に浮いている。
    普段の私服姿に目立たぬ様につば広帽を被っている彼女の佇まいは深窓の令嬢というに相応しい姿で、このような場所にいるような見た目ではなかった。
    ここに彼女がいるのには理由があった。
    シニア期のレースを終え、ドリームトロフィーリーグに参加することを決めた彼女であったが、またしても足を怪我してしまったのである。
    そんな彼女に一つの話が舞い込んできた。
    それはレースの展開予想や解説の仕事である。
    今はクラシック戦線が始まる時期だ。
    グラスワンダー自身は怪我もありクラシック戦線を走ることは叶わなかったが、だからこそファンは彼女であったらどう走るか話を聞きたいとオファーが来たのである。
    その仕事を快く承諾した彼女は明日の桜花賞のために関西に前日入りし、空き時間に気晴らしのため大阪観光に出た結果ここに辿り着いた。
    ジッとしていると、どうしても足の怪我のことを意識してしまうからだ

    (大阪の名所、といことでつい来てしまいましたが…どうしたものでしょうか。)

    困ったように眉をハの字に曲げながら、彼女は商店街を歩く。
    彼女の横を通り過ぎる者は誰しもが一度物珍しそうな目を向けて行く。
    レトロな景観に伴うように道行く人々も年齢層が高い。
    中にはまだ昼間だというのに顔を赤らめた者も見かけられた。
    はしたない、内心そう思いながらも顔に出さぬよう、彼女は行く。
    商店街をくぐり抜けた先には通天閣に通じる広い通りがあり、そこにはどこでも見かけるようなチェーン店の飲食店もいくつか見受けられた。

  • 2二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:31:51

    そうしてたどり着いた通天閣のふもと付近にはホームレスであろう人々が地べたに寝ころんでいる。
    治安や景観の良さがもてはやされる日本という国ではあるが、この地域に関してはそういったものは微塵も感じられなかった。
    思わず、普段は笑みを絶やさない彼女も真顔になる。
    日本の情緒、詫び寂びの概念や居合道のような静かな美意識を尊ぶ彼女にとって、やや受け入れがたい光景ではあった。

    (いけませんいけません…平常心平常心…。)

    少し息を整えてから、通天閣に入り展望台へと足を進める。
    入場料を支払うことで入れる展望台は話に聞くだけあり、一望できる眺めは素晴らしいものであった。
    地上で見た景色とは大違いだ。
    心地よい日差しと春風に身を任せながら、ぼうっと景色を眺める。
    そうしてジッとしていると、やはりどうしてもレースのことが頭に浮かんだ。

    (はたして本当にまた、走れるのでしょうか…いや、走れたとしても…。)

    嫌な考えがグラスワンダーの頭に浮かび上がる。
    ジュニア期を終えた後に一度骨折した足が原因で、他の個所にも度々異常が出てレースを回避することも多々あった。
    不調によって練習を詰め切れず不甲斐なさを感じた数も覚えていない。
    広大に広がる景色を前にすれば気持ちも和らぐかと思ったが、残念ながらそうもいかなかった。
    日差しがきつくなってきたことを感じ、少し重い足取りでグラスワンダーは展望台を後にする。
    そんな自分自身を情けなく感じる思いが重なり、さらに気分が重くなった。
    小さくため息を一つ吐き、通天閣から出る。
    大阪観光とはいったものの、次の行き先は考えていなかった。
    それ以前に、心が沈んだせいでもう観光する気も失せてきていた。
    あてどなく新世界を彷徨う。
    ふらふらと歩いているうちに、グラスワンダーはあることに気づいた。

  • 3二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:32:52

    「お腹…空きましたね。」

    思わず口からつぶやきが漏れた。
    お昼時を少し過ぎた頃合いだからだろうか、どこからともなく美味しそうな揚げ物の香りが漂って来る。
    ふと足を止めて周囲を見れば、似たような趣の串カツ屋がいくつも並んでいた。

    (そういえば、串カツといえば大阪の名物でしたね。)

    顎に指を当てそんなことを思いだす。
    いつの日か彼女の友人であるスぺちゃんことスペシャルウィークが語っていたことを思いだした。


    『そういえばオグリキャップさんがタマモクロスさんと串カツ屋さんに行ったらしいんです!』

    『串カツ、ですか?』

    『はい!レースの帰りにタマモクロスさんが案内してあげたみたいで…羨ましいなぁ、私も今度食べに行きたいなぁ…。』


    食堂での会話の中でそんなことを聞いた気がする。
    となれば土産話に串カツを食べて帰ろうか、と思ったが、店構えからして一人で入るには少々敷居が高かった。
    どうしようか、と考えながら歩いているとふとその内の一店舗が目に留まった。
    一件他の店と変わりはない、しかし他の店に比べると暖簾や明かりの灯っていない提灯、古い看板には丁寧に掃除されている形跡があった。
    店自体は年季が入っているが、大切に使われているようである。
    そこにグラスワンダーは好感を覚えた。
    店前にはランチタイムのサービスメニューが書かれたボードが置かれており、串カツの盛り合わせ、ご飯、みそ汁というシンプルなもの。
    チラッと店内を覗いてみると、テーブル席が二つに八人ほどが座れるカウンター席が並んでいる。
    昼の書き入れ時が終わったのか客はテーブル席に二人とカウンターに二人、空いているので問題なく入れそうだ。
    それを確認し、少しドキドキとしながらも店の暖簾をくぐる。

  • 4二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:33:36

    「あの~、すみません、お一人入っても大丈夫でしょうか?」
    「はいいらっしゃい!カウンターの方へどう…ぞ…。」

    店長らしき男性の元気のよい声が飛んでくる。
    大柄でまるっとした体形の、眼鏡の男だ。
    店長はグラスワンダーを見て目をぱちくりとさせるが、改めて笑顔を浮かべながらカウンター席に座るように促した。
    カウンター席に座ると、さっそく店長がお冷とお手拭きを持ってくる。

    「ただいまの時間でしたらランチメニューご用意できますけど、いかがされますか?」
    「表に書いてあったものですね~、ではそれでお願い致します。」
    「はい、少々お待ちください!」

    小さく頭を下げて注文を頼む。
    愛想のよい接客であった。
    食事となると、重くなった気分も少し和らいでくる。
    注文を待ちながら店内を見渡すと"ソース二度漬け禁止"の張り紙が貼られていた。
    これはグラスワンダーも聞いたことがある。
    共用の容器に入れられたタレに串カツを浸して食べるので、衛生面での観点から口をつけたものを浸してはならないという意味だったはずである。
    しかしその横にもう一枚の張り紙があった。

    (キャベツの使い方…ですか?)

    そう書かれた張り紙には写真と共に説明分が添えられている。
    目を凝らしてみれば、串カツにタレを再度浸したい場合は添え物として出されるキャベツでスプーンのようにすくってかけるとのことだった。
    なんとも驚きの使い方であるが、キャベツといえば揚げ物には定番の添え物だ。
    試してみないと分からないが理にかなった使い方であるかもしれない。

  • 5二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:34:32

    「おまたせしました!盛り合わせランチになります!」

    そうしているうちに、グラスワンダーの前にランチセットが置かれた。
    串カツが八本にご飯とみそ汁、そして付け合わせのブツ切りにされたキャベツ。
    串カツは網が敷かれた銀のトレーに大小さまざまなものがのせられており、揚げたての香ばしい香りが食欲をそそる。

    「串カツ右から牛、豚、鳥、エビ、うずら、レンコン、アスパラガス、紅しょうがになります!キャベツはおかわりできますんでお声かけくださいね。」
    「わかりました~、では、いただきます。」

    お手拭きで軽く手を拭ってから手を合わせる。
    まずグラスワンダーが手に取ったものはレンコン。
    席に置かれていたソースにタップリと浸して、まずは一口。
    パリっとした衣を噛んだ先に歯ごたえのあるレンコンの食感、そして瑞々しい旨味が口の中にあふれた。

    (これは…美味しいですね…!)

    衣の中のレンコンの旨味がしっかりと閉じ込められいるおかげで、味の濃いソースに浸して食べてもその旨味を感じることができる。
    おそらくは油の温度管理と揚げ時間を丁寧に扱っているのだろう。
    衣が油でべたつかず、それでいてレンコンにはしっかりと火が通っている。
    もう一口レンコンを食べてから、グラスワンダーはご飯に手を伸ばす。
    濃いソースのおかげで思わずご飯が欲しくなってしまった。
    次に気になっていたキャベツだ。
    張り紙の通りソースをくぼみ利用してすくい、残っていたレンコンにかける。
    そしてソースに浸されたキャベツを口にした。

    (ソースが思った以上に合いますね…しょっぱさがキャベツの甘みを引き出しています…!)

    キャベツをそのままソースに浸す、初めての行為に少し躊躇いはあったが予想以上に美味しいものであった。

  • 6二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:35:25

    残ったレンコンを口にして、ご飯をもくもくと口に運んだ。
    そのまま流れるようにエビをソースに浸し、食べる。
    上手い具合に火を通されたエビはプリプリとしていて、柔らかいのにしっかりと歯ごたえがあった。
    そしてご飯、キャベツ、エビとローテーションを繰り返し、みそ汁をすすって一息着く。
    次にグラスワンダーが手を伸ばしたのは、紅しょうがであった。

    (耳を疑いましたが…意味そのまま、紅しょうがですよね…これは。)

    衣の上からでも分かる、桃色に染まった具材。
    よく見かける千切りにされたものではなく、輪切りにされたものを揚げたもののようだった。

    (添え物にされるのが一般的なはずですが…しかし…。)

    躊躇いが生まれる。
    紅しょうがははたしてこのように食べる物なのかと。
    だがここまで食べた二種の串カツは間違いなく美味なものであった。

    (…いざ、参ります!!)

    意を決してソースに浸した紅しょうがを食べる。
    軽く咀嚼し、味わってみたが──

    (……紅しょうがの酸味とソースの酸味が喧嘩していません、ただ少々ソースを浸しすぎたせいかしょっぱさがキツい…ですが…!)

    ご飯を、思わず大口で頬張ってしまう。
    大和撫子を志す身として、はしたない──そんな思いが心をよぎる。

  • 7二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:36:04

    しかしそれでもグラスワンダーはご飯を運ぶ箸を止められなかった。
    美味い。
    しょっぱさがご飯によって中和され、さっぱりとした酸味の名残が口の中に残る。
    これは先に肉類を一本食べてからの方が良かったか、グラスワンダーはそう思った。
    そして残った紅しょうがはソースをかけることなく、一度目に浸したソースが残っている部分のみの状態で口へ。

    (思った通りです、紅しょうがはソース控えめにするべきですね…)

    元の素材の味の濃さを失念していたためにしょっぱいと思ってしまったが、控えめにすればご飯がなくとも美味であった。
    夏場に汗をかいた後に食べるとまた違った美味しさがあるかもしれない。
    疲れた体に気力が付きそうな味だ。
    口がさっぱりしたところで、次にグラスワンダーが選んだのは牛。
    ソースに浸して、ぱくりと。

    (さっぱりとした口に濃厚な味が…肉汁の旨味を衣の食感とソースがひきたて、丁寧に揉みこまれた下味のコショウの風味が微かに鼻をつきます!)

    またしてもご飯を、大口で。
    そして、キャベツを、ソースに。
    恐ろしい。
    揚げ物を食べているというのに、このキャベツの存在が口の中を油っぽさで満たさせない。
    ソースが美味しいこともあってキャベツだけでもどんどん食べてしまいそうになる。
    ここで、グラスワンダーはあることに気づいた。

    (ご飯が…もうこれだけしか…!?)

    標準的なお茶碗より少し大きなものによそわれていた、ご飯。
    それがもう、尽きようとしていた。
    残る串カツは豚、鶏、うずら、アスパラガス。

  • 8二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:36:26

    悩んだ。
    グラスワンダーは一瞬だけ悩んだ。
    そして店内を一瞥すると、お茶碗を小さく掲げて店長に声をかける。

    「すみません、おかわりをいただいてもよろしいでしょうか~?」
    「は、はい!すみませんがおかわりは料金かかって──」
    「構いませんよ、それと、量は大盛でお願いします。」

    少しばかり気恥ずかし気に口元を隠しながら、グラスワンダーはそう告げる。
    グラスワンダーは見てしまったのだ、店内に掛けられた数々の品札を。
    ししとう、玉ねぎ、しいたけ、マイタケといった野菜類とキノコ類。
    ホタテ、キス、ししゃも等の魚介類、ささみの大葉巻き、ウィンナー、チーズといったものまで様々なものが並んでいた。
    さらに串カツ以外にもピリ辛キュウリ、冷っこ、冷やしトマトといったものまで。
    ランチのみ、そのつもりであったが気が変わってしまった。
    キャベツを一枚、食べているうちに大盛のご飯がカウンターに置かれる。

    (ここまできたら気の向くままに食べてしまいましょう。)

    それからグラスワンダーは食べた。
    相性抜群の豚とアスパラガスを続けて食べ、濃厚なうずらを楽しみ、程よくしっとりと脂の残る鶏肉を口に。
    一旦みそ汁をすすり、続けて追加の串カツとおかわりのキャベツを注文した。
    気を惹かれたものから次々と頼んだ。
    玉ねぎ、ししとうとまるで味の違う野菜を食べ比べる。
    火が通ったことで甘みが引き出された玉ねぎ、ツンと鼻を付く心地よい刺激とほんのりとした苦味がたまらないししとう。
    ししゃもを一本贅沢に頬張り幸せをかみしめ、次にキスを手にしたとき、グラスワンダーは不意に手を止めた。
    カウンターの上にあるものが設置されていることに気づいたのだ。

  • 9二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:37:08

    (……うう、少し邪道かもしれませんが…いや。)

    マヨネーズ。
    白身魚にとって、強力な矛となる調味料。
    グラスワンダーはそれを手にした。
    控えめにソースに浸したキスにマヨネーズをかける。

    (用意されているものですから…使わせていただきます!)

    そして口に──


    (分かっていたんです…キスにマヨネーズ…そんな…そんな…)

    (美味しいに…決まっています!)


    さっぱりとした白身魚にマヨネーズのに濃厚な味、そこに切れ味鋭いソースが味を引き締める。
    約束された勝利の味に、たっぷりよそわれたご飯がまたしても瞬く間に口へ運ばれていった。
    茶碗がもう空になってしまった。
    そこで一旦、一息つく。

    (ふぅ…思った以上に美味しいですね、お腹がもう…)

    (……3分目といったところでしょうか、早いペースで食べてしまっていますね~。)

    「すみません~、追加でピリ辛きゅうりと冷やしトマト、チーズとささみの大葉巻きをお願いします。」
    「は、はい!」

  • 10二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:38:12

    「ふぅ、ごちそうさまでした。」

    一時間後、グラスワンダーはゆっくりと時間をかけて腹八分目まで串カツを堪能した。
    ゆっくりと手を合わせ席を立つ。

    「すみません、お勘定をお願い致します~。」
    「はい、ありがとうございます、こちらお会計で…」

    差し出された伝票を見てグラスワンダーは苦笑する。
    値段ではない、伝票が二枚目までおよんでいることに気づいてしまったのだ。
    最初は訝し気にみていた新世界の景色であったが、その景色の内側を覗いてみればこのような素敵な場所があるとは思わなかった。
    会計を済ませ、店長に軽く一礼する。

    「美味しかったです、串カツを食べたのは初めてでしたが、とても楽しませていただきました。」
    「あ、あ…ありがとうございます!」
    「お店も綺麗に使われてますし、大切にされてるんですね、このお店を。」

    にっこりと笑みを浮かべて店長に告げる、すると店長は大きく目を見開き、そして不意に俯いた。
    どうしたのかとグラスワンダーが首を傾げると、店長の肩が微かに震え始める。

  • 11二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:42:06

    「あ、あの~、私…何か失礼なことを言ってしまったのでしょうか?」
    「ち、違うんです、嬉しくて…!」

    店長は眼鏡をずらして目頭をこすり、顔を上げると赤くなった目をグラスワンダーに向けた。

    「貴女…グラスワンダーさん、ですよね?」
    「あらあら…バレてしまっていましたか~。」
    「すみません、俺ファンなものですから、分かってしまって…。」

    少し気恥ずかしそうに眼鏡の位置を直しながら店長は言う。

    「実はこのお店が今あるのも、貴女の…グラスワンダーさんのおかげなんです。」
    「まぁ…。」
    「去年までの話です、このお店は閑古鳥が鳴いてて…お恥ずかしい話、自分の努力が足りなかったんですが。」

    一息ついて、店長が続ける。

    「そんなとき、応援してたグラスワンダーさんのクラシック期の有馬記念を見て、変わろうと思えたんです!」
    「!」

    グラスワンダー、クラシック期の有馬記念。
    朝日杯を圧倒的な強さで制するもクラシック期は怪我でレースから離れ、復帰するも以前のようなレースができていなかった。
    世間からは怪物は終わった、もう無理だと、言われ続けた。
    それを覆したのが有馬記念。
    説明不要の女帝エアグルーヴ
    メジロ家からは天皇賞春を制したメジロブライトとティアラ路線二冠のメジロドーベル
    クラシック二冠のセイウンスカイ、マイルから長距離まであらゆる重賞で活躍するキングヘイロー
    強烈な末脚で菊花賞を制したマチカネフクキタル
    他にもあのサイレンススズカの影を踏んだウマ娘、前年の有馬記念を制したウマ娘もいた。

  • 12二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:42:29

    有馬記念に相応しい、早々たる顔ぶれである。
    その顔ぶれを制し、グラスワンダーは勝利する。
    朝日杯から一年、怪物が折れた翼を再び広げ不死鳥の如く蘇った姿に観客全員が歓声を送った。

    「そうですか…ずっと、応援してくださっていたんですね。」
    「はは…でも正直諦めてたんですよ、あのグラスワンダーさんでも怪我で勝てなくなったんだ…俺もこのままダメになるんだって。」
    「…。」
    「でも、やっぱりグラスワンダーさんは違いました。それから店を綺麗にして、メニューも増やして、ランチも始めて…やれることやったらお客さんも増えたんです。」
    「それはきっと貴方の努力の賜物です、ただ──」

    グラスワンダーが一際穏やかな笑みを浮かべた。

    「私の走りで貴方に夢を与えられて、良かったです。」
    「グラスワンダーさん…!」
    「これからも私は走ります。では…失礼いたしますね、これからも応援よろしくお願いします。」

    一礼して店を出るグラスワンダーの背に、深々と店長が頭を下げて見送った。
    店を出てみれば大分日差しも弱まり、涼しい風が頬を撫でて通り過ぎていく。
    そうして周囲の景色を見てみれば、店に入る前は馴染めなかった風景が一変して悪くないものに見えた。
    ずっと変わらぬ意匠のままこの風景を見守って来たであろう商店街。
    時が止まってしまったかのような場所だが、昔から変わらぬようにこの場所を愛しているのであろう人間たちがそこにいる。
    色眼鏡をかけずに見てみれば、グラスワンダーが一方向からしか見ていなかった日本の情緒がそこにあった。
    日本人はこの景色を見て幼少期の思い出を想起して郷愁に浸ったりするのだろうか。
    そう思うと少しばかり、グラスワンダーは母国のアメリカが恋しくなる。
    帰りに便箋を買い家族へ手紙でも書こうか、そんなことを思いながらゆっくりと歩みだし、グラスワンダーは新世界に別れを告げた。

  • 13二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:43:52

    自己満SS終わり!
    こういうグルメ系見たかっただけ!

  • 14二次元好きの匿名さん22/04/11(月) 23:45:19

    乙です
    僕こういうの大好き!!

  • 15二次元好きの匿名さん22/04/12(火) 02:44:36

    何故…自分はこんな時間に、 腹の減るssを

  • 16二次元好きの匿名さん22/04/12(火) 11:00:30

    感想おおきに!
    大人なトレーナーさんたちはご飯をビールに置き換えて味を想像してみてもええかもしれんな!

  • 17二次元好きの匿名さん22/04/12(火) 21:48:28

    ええやんかおじさん「ええやんか」

  • 18二次元好きの匿名さん22/04/13(水) 01:32:14

    いっぱい食べる君が好き

  • 19二次元好きの匿名さん22/04/13(水) 13:06:08

    ええやん、過去作品とかあれば教えて欲しい...

  • 20二次元好きの匿名さん22/04/13(水) 15:30:31

    >>19

    ありがとう!ただウマ娘SSはここに来て初めて書いたから過去作は無いんだ!

    気に入ってくれて嬉しいよ!

  • 21二次元好きの匿名さん22/04/13(水) 18:39:36

    カンニング竹山かな?

  • 22二次元好きの匿名さん22/04/13(水) 18:59:26

    >>21

    お、正解

    元馬のネタ仕込みたかったから気づいてもらえて嬉しい

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