【SS】ふるさと｜あにまん掲示板

1二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 04:55:59

突然、急に寂しくなることがある。
恋しくなるふるさとの匂い。ホームシック。
忙しさに身を任せている時は感じないのだけれど、ふと真夜中に目が覚めて、冷たいモヤモヤが胸の中に渦巻く。

「……トレーナーさんは……ううん、もう遅いし……」

LANEでトレーナーさんとお話したくなったけど、やめた。消灯時間はもう過ぎているし、トレーナーさんももう寝てるだろうから。起きていたとしても多分寝る寸前だろうし、私の都合で夜更かしに付き合わせたくはない。
だから、直接会いに行くことにした。私の『ふるさと』に。

2二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 04:57:03

ウマ娘の寮からトレーナー寮まで然程距離は無いけれど、真夜中の冷たい空気は肌に突き刺さるよう。
もちろん苫小牧の気温の方が低いけれど、それで寒さに強くなれるかと言えば別のお話で。
不思議とレースの時は寒くないのにな、と身体を震わせながらトレーナーさんの部屋まで歩いて行く。

「あ、どうも」「暗いから気をつけるんだよ」

すれ違った警備員さんにペコリと頭を下げる。
ウマ娘がトレーナー寮に行くのはよくある話で、大体は顔パスで通してくれる。
私も今回特に申請はしていないのだけれど、私の『ふるさと』に会いに行くのだから実質的に私の部屋に行くようなもの。だから何も問題はなかった。

3二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 04:58:11

「着いた……あれ？」

あっという間にトレーナーさんの部屋。
もちろんインターホンは押さない。お休みしてるトレーナーさんを起こしちゃいけないから。
この前お借りした合鍵を使って……開かない。いつ鍵を変えたんだろう？
私は首を傾げながら、ちょっとだけ時間をかけて、それでいて音を出さないように慎重に鍵を開けた。

「……ふふ、やっぱり寝てた……」

忍足でトレーナーさんの寝室に。
この時間帯のトレーナーさんは、私の前では見せてくれない気の抜けきった顔をしてるから好き。
もちろんいつもの顔も好きだけどね。

4二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 04:59:14

「……む……」

ベッドで横になるトレーナーさんの顔を見ていると、胸で燻っていた寂しさが晴れていく──のだけれど。
今日は、余計なものがそこにあった。

「……私には、こんなことしてくれないのに……」

寝ているトレーナーさんが抱きしめているのは、大きな私のぱかぷち。
私本人がいるのに、ぱかぷちを抱いて寝ているトレーナーさんに思わずじとっとした目線を向けてしまう。
もちろん、寝ているトレーナーさんは呑気な寝息を立てたままだけど。

5二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 05:21:28

なんで、こんなことをするんだろう──すぐに納得の行く理由が浮かんだ。

「……あ、そっか……トレーナーさんも寂しいんだ……」

聞いたことがある。ぬいぐるみを抱きしめて寝るのは心が落ち着く効果があると。
そこで私を模したぬいぐるみを抱くということは、トレーナーさんも『ふるさと』が恋しいということ。
言ってくれればいいのに……と思ったけれど、それを言ったら私もそう。トレーナーさんに何も言わずにここまで来ている。

「……似たもの同士なんですね、私たち……」

ふふ、と。寂しさは完全に消えて、口角が緩む。

6二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 05:22:29

「……じゃあ、お邪魔します……」

ゆっくりと、慎重に。起こさないように。
トレーナーさんの腕を解いて、ぬいぐるみをベッドの下に。

「ん……ぁ……タル、マェ……？」

トレーナーさんの目が開きそうになるけど、すぐに降りていく。そしてぬいぐるみが空いたスペースに、私が入る。

「ん……ぁ……zzz……」
「ふふ……」

やっぱりトレーナーさん、『ふるさと』が恋しかったんだ。
寝ぼけながらも私の体に腕を回すトレーナーさんに微笑みながら、私もトレーナーさんを抱きしめ返す。
心地安らぐぬくもりと匂いに、私の瞼もすぐに重くなっていった。

7二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 05:23:29

「おやすみなさい、トレーナーさん」

ああ、今夜はよく眠れそう──

8二次元好きの匿名さん25/07/12(土) 05:24:37

ぱちりと、朝の日差しで目を覚ます。
ぐっすり熟睡して迎える朝は気持ちが良い。ふるさとの力をしっかり充填できたし、これで今日一日も頑張れそう。
トレーナーさんは、まだ寝てるみたい。

「ふわぁ……ふふ、可愛い……」

寝相で私の胸に顔をうずめて寝てるトレーナーさん。その可愛らしさに母性がくすぐられちゃう。
言ってくれたら起きてる時でも抱きしめてあげるのに……ううん、むしろこっちからしてあげようかな？　それともリッキーたちの前では恥ずかしいのかな？　でも慣れちゃえば大丈夫だよね？

「それじゃあ、また学園で……」

名残惜しさに後ろ髪を引かれながら、トレーナーさんのベッドから出る。
このまま起きるまで待ってもいいのだけれど、トレーナーさんはきっと私の分まで朝食を作ってくれるだろうし、そこまで迷惑はかけられないから。
ちゅうっと、トレーナーさんの首筋に虫除けの痕だけを残して、そしてまた『ふるさと』の匂いが恋しくなった時のためにワイシャツを一枚お借りして、私はトレーナー室を後にする。
貰ってばかりだから、私もインナーとかを置いていった方がいいのかな？　でも、サイズが小さいし難しいよね──なんて、考えながら。