- 11825/07/13(日) 00:57:05
- 21825/07/13(日) 00:59:33
初代スレ主≠現スレ主
見つけましたよ、杏山カズサ|あにまん掲示板ここだけ15年前に行方不明になった杏山カズサを探し続けていたレイサがいる世界。なお、カズサには30分程度道に迷ってたぐらいの認識しかない。bbs.animanch.com-----
リメイクスレ(こちらから読んでいただければ大丈夫です)
Re:見つけましたよ、杏山カズサ|あにまん掲示板ここだけ15年前に行方不明になった杏山カズサを探し続けていたレイサがいる世界。なお、カズサには30分程度道に迷ってたぐらいの認識しかない。bbs.animanch.com前スレ
Re:見つけましたよ、杏山カズサ 2|あにまん掲示板ここだけ15年前に行方不明になった杏山カズサを探し続けていたレイサがいる世界。なお、カズサには30分程度道に迷ってたぐらいの認識しかない。bbs.animanch.com - 31825/07/13(日) 01:15:23
■あらすじ
SUGAR RUSHの最後の音源は、物理媒体。つまりCD。
杏山カズサが居た『初代SUGAR RUSH』と、杏山カズサを探し続けた『SUGAR RUSH』を繋げるために
初代の曲。彩りキャンパスのみをベースボーカルとして。他の曲をボーカルのみで、最後のライブを音源化してCDにすることになった。
それはそれでいいけれど、と杏山カズサは胸のうちのもやもやを吐き出す。
自分が見つかる前から決まっていたラストライブ。作ろうとしていた『自分を探しつづけてくれるためのアルバム』。遺言染みた『SUGAR RUSH』最後の楽曲。
が、意を決して口に出したところで。
宇沢レイサが。S.C.H.A.L.Eのトリニティ支部がワカモに襲撃されたと連絡を受ける。
スケバンたちに案内されたアジトで、当てのないライブの計画を練り、手足が動かせなくなった宇沢レイサの世話をして。無為な時間を過ごしていた時。
先生が。テロリストであるSUGAR RUSHと不正行為を重ねていた宇沢レイサを逮捕すると、襲撃してきた。 - 41825/07/13(日) 01:58:54
(https://bbs.animanch.com/board/5221357/?res=191)
※
「”魂をね。『杏山カズサ』っていう入れ物に入れると杏山カズサになる”」
私は見ている。私を見ている。
他人の空似とかそんなんじゃない。間違いない。これは。目の前に居るこのスカした女は。私だ。髪の長さも。顔立ちも。メイクの仕方も。匂いも。仕草も。銃も。纏う雰囲気から声まで。
私だ。
「”スズミもそう。私が使うこのタブレット。『シッテムの箱』はね。いろいろな機能があるんだけど。その中の一つが、これ。みんなとの思い出を――。思い出を、保存、できるんだ”」
後ずさり。怖くて震えている私なんか見えてないみたいに。
怒りのあまり呼吸が荒くなっているナツなんて見えてないみたいに。
顔面蒼白で私と同じように目の前の自分に怯えるヨシミなんて見えてないみたいに。
先生は、手に持ったタブレットを。私が良く知る先生の記憶ですら、いつも持っていたそのタブレットを。とても。とてもやさしい眼差しと。いや。言葉では言い表せないやわらかい表情で。さらりと、画面を撫ぜた。
「”保存した思い出は大人のカードを使って、こういう風に、外に出すことが出来る。大人のカードは『シッテムの箱』から思い出を呼び出すときに使う、まあなんというか……。クレジットカードみたいなもの、でさ”」
「やめてよ……。先生。このひと、どかして……。どっかやって……。痛い。なんか。痛いの……」
震える声でヨシミが言う。自分の体を掻き抱きながら。
- 5二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 03:07:51
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- 61825/07/13(日) 03:12:15
「”これがみんなが消えちゃう理由”」
先生がそう言うと。ヨシミも、ナツも。私に銃を突きつけていたアイリも『居なくなった』。まるで初めからそこに誰もいなかったように。靴跡と匂いだけを残して。私たちに、恐怖だけを与えて。居なくなった。
その場にへたり込んだヨシミは小さく洟をすする。すすって。その背中を撫でにすら行けないナツが、気持ちを鎮めるためなのか。震える吐息を、大きく吐き出した。
繰り返される言葉。私の脳みそに刻み込まれていくその言葉。
みんなが消えちゃう理由。みんながいなくなる理由。
一つのぼんやりした推測みたいなのがあった。それがなにかは。思考の中ですら。形にしたくないものだったのに。
推測は当たっていた。
ラストライブも。私を探し続けるアルバムも。『伝言』も。隠されてることも。
まるで崖みたいに。歩く道のその先が無いみたいな行動を続けていた理由が。今。結ばれた。
部屋に残るのは、私の後ろに立つスズミさんと。先生の横に立つ、私。
先生はタブレットに向かって「”お絵かきソフト出してくれる?”」と話しかけ、タッチペンですらすらと何かを書いて、私たちに画面を向けた。書かれているのは、〇が三つ。
「”トリニティの教えにあるよね。学校の名前にもなっている三位一体。はいカズサ。分かる?”」
「なにが……なにをしたいの、先生……」
「”ちょっとした授業だよ。補習みたいなもの? みんな、停学してるし”」
あはは。と笑った先生の顔が、とても恐ろしく見える。あんなに。あんなに、ずっと見ていられたらいいのに、なんて思ったのに。 - 7二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 03:14:57
たておつ
- 8二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 03:15:43
次スレ立ってた
- 9二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 03:17:40
スレ立てお疲れ様です
- 10二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 03:18:36
朝に落ちないように10コメ
- 111825/07/13(日) 03:36:25
にこにことした顔。疲れた目。決して威圧的にならないで、私と目線を合わせてくれる先生はいま、椅子の上から。私を見下ろしている。隣に”私”を置いて。タミコに銃を突きつけさせて。
私は答えた。答えさせられたと言ってもいいかもしれない。
「父と子、精霊」
「”正解!”」
ぴし、とタッチペンで私を差す先生は、しかし。私が答えた言葉を、タブレットには書き込まなかった。「”そう。ミッション校であるトリニティの回答としては、それが正解”」と言いながら。
私が答えたものとは違う言葉を、〇の中に書き込んだ。
書かれたのは。
「”シスターフッドみたいに経典を読む人たちなら当たり前に知っていることなんだけどね。こういう三位一体もあってさ”」
体。魂。霊。
三つの〇が、さらに大きな〇で囲まれて。その円に『杏山カズサ』と、私の名前。
「”杏山カズサを構成するモノ。体と、魂と、霊。人は、この三つで構成されてるって話。聞いたことあるかな”」
沈黙。
そして、沈黙は、答えになる。 - 12二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 04:17:41
このレスは削除されています
- 131825/07/13(日) 04:18:43
私たちのちっぽけな抵抗に、にこにこ顔を崩さないまま。
眼鏡を上げて先生は、補習を。続ける。
「”でもこれは、外の世界から来た――私のような人の話で。さっきも言った人と、そんな話になってさ。キヴォトスの子たちは違うのかもって。例えば、こういう風に”」
「……」
「”『霊』。経典では神を感じるための器官、らしいけど。それが外にあるんじゃないか。そもそも感じるための器官なのではなく、神そのものなんじゃないか、って。私はその人のことが好きじゃないんだけどね。なんせ、みんなのことを研究してるヤツだから。でも、だからこそ。私が知らないことを、知っている”」
『杏山カズサ』の円から消され、その外の〇に書かれた言葉は『神』。良く知ってる字。書類仕事を手伝っているときに嫌と言うほど見て、私の名前も同じようなクセで書く、その字。田や口を丸く書く、先生のクセ字。
誰かが咳き込んだ。
ワカモもスズミさんも”私”も。静かに私たちを威圧している。言っていることは解るけど。分かるんだけど。理解はできない。なのに、低くて落ち着いた口調の先生の声は、私たちの頭に、直接。情報を送り込んでくる。
先生は『神』と書いた円から一本の線を伸ばし。『魂』と繋いだ。
「”『神』というクラウドがキミたちの『魂』に接続されている。神さまそのものじゃない。あくまで、神様の一部――『神秘』を持つのが、キミたちなのではないか。私は初めてこの話を聞いたとき、妙にね。腑に落ちちゃったんだよ”」
ナツは何も言わない。ヨシミは何も言える状態じゃない。アイリはそもそも気を失っている。
宇沢は、うつむいたまま。動かない。
「”これが、みんなが消えちゃう理由だって”」
また繰り返される言葉。小さくため息を吐いた先生の表情は、未だにこやかで。
「だから」もったいぶるようなその言葉をあげつらった。「だから、その理由ってなんなの? ぜんっぜんわかんない。人の趣味にとやかく言うつもりはないよ。でも、みんなが消えちゃうとか、そんな話をスピリチュアルな話で片付けようとしてるなら、ナツの言う通りじゃん。ほんと、趣味が悪い」 - 141825/07/13(日) 04:47:48
咳払い。埃っぽく、酒臭い室内。私も一つ、咳払い。吐き捨てるように。唾でも吐いてやろうかと思うぐらい、気分が悪い。というか、若干。気持ちがふわふわしてきた。
「”そうだね……。私も、ずっとそう思ってきた。まさかそんな非現実的な話が。まして神さまなんてね。でも、私はね。いろんなものを見た。キヴォトスは、いろんなものを、私に見せてくれたから”」
「あの」
野太い声。
「この場には未成年もおります、先生。これだけお酒の気が充満する中に置いておくのは全くよろしくありません。わたくし達はお酒を扱いますが、わたくしたちなりに、秩序を壊さぬよう、ルールを定め、守らせておりますわ。せめて子どもたちだけは、別の場所に移動させたいのですが」
「”……それもそうだね”」
「タミコはわたくしが運びますので――」
「カズサ。壁壊してくれる?」
「は?」「はいはい、りょーかい」
私じゃない方の私は、腰だめにマビノギオンを――マシンガンを構え。ぶっ放した。静寂と轟音。自分の、聞き慣れた銃声は、意図しないときに聞くとうるさくて仕方ない。耳を塞ぎ、サイクロンの真ん中に居るように四方八方を反射する音と、巻き散らかされる煙にむせる。
音が止むと。
先ほどよりもさらに大きな穴が開いていた。この部屋の一面から壁が消えた。ワカモの長い髪がそよぐ。ああもう、風通し最高。息がしやすい。部屋どころか、建物中が換気されていくみたいだ。
「”これでいいかな?”」
「……感謝いたします」
いつ建てられたのかもわからないボロの木造の建物。窓という窓に目隠しされたワルモノのアジトは、鋭い木の折れ口を晒して。陽の光を存分に取り込む姿、風通しのいい姿に変えられた。私の手によって。先生の命令で。 - 151825/07/13(日) 05:55:11
きん、きん、と。熱された鉄の音をさせる銃を下ろした私は、くきくきと首を整える。ああ、わかるよ。それ撃つと肩凝るんだよね。
そういう仕草もまんま私。反吐が出る。
「”『神』と繋がるこの線を『神秘』をするなら”」
平然と話を続ける先生に、少し冷静さを取り戻してきた頭が状況を見始めた。みんな消えてしまうとのたまう先生の話は聞きたい。みんなの行動のその理由。私が形にしたくなかった推測。その答えなのだとしたら、そりゃもう。聞きたい。答え合わせがしたい。
そして。その答えを。
私は、いまの先生から聞きたくない。
「”『魂』に『神秘』が繋がって『体』を作り人を為し。『神秘』を通じ、『神』は『魂』と『体』の成長を感じる。こういう、双方向性の三位一体があったとしたら? 水は上から下に流れるように。『神』という蛇口から『神秘』が『魂』に流れ続けたとしたら?”」
ケガしてる宇沢は考えないとして、アケミはきっと動かない。アイツは自分の内側に入ったヤツを決して見捨てない。タミコを人質に取られた以上、そして一度抵抗を試み、失敗した時点で。このままヴァルキューレに潔く突き出されるまで。アイツは動かない。
ヨシミもダメ。子犬みたいに強がるくせに、一番脆いのは、たぶん。小さく震える姿を見る限り、変わってない。
「”アイリたちはね、カズサ。卒業してないんだ。退学もしてない。学生をずっと続けてきた。『神』の禅譲。青春の交代。学生を辞めることが、『神秘』を断ち切る方法なのだとしたら? 学生を辞めるというプロセスそのものが、一つの儀式なのだとしたら?”」
アイリは……あれ、どうなんだろ。酒の海の中に沈むアイリは、気を失っているのか、フリをしているだけなのか。痛そうなのは間違いない。背中とかザクザクになってそうだけど、まあ。起きてるなら、やれないことも、ない?
ナツはイケる。きっと。合図をすればいの一番に動く。私たちをわけわかんない言動で振り回すくせに、こっちの意図は秒で汲むのがナツだ。悔しいけど。頭の回転ではかなわない。まあ、汲んだフリされて、適当にごまかされることも山ほどあるけれど。
「”『体』っていう風船のような入れ物に水を注ぎ続けたら。限界まで注ぎ続けたら。……そうならないために世界が作った『例外制御』。これが、みんなが消えちゃう理由”」 - 161825/07/13(日) 06:16:58
「たら、たら、ってさあ。私、魚介類で唯一嫌いなんだよね。タラが。水っぽくて、臭みが強くて、身の裂け目がぬるぬるしてて。そんなこと言うならさっさと退学でもなんでも――」
軽口を返そうとして。私は口をつぐむ。
あやうく。また。アイリを不機嫌にさせてしまうところだった。
『……一緒に卒業したかったからに決まってるじゃん』。あの時のアイリの表情はわからなかったけど。あんなトゲトゲした声色は、私は知らなかった。女の子らしい苛立ち。がなり立てるわけでもなく。ごまかしもしない。ただ。”なんで私のことわかってくれないの?”という。普通の女の子らしい、苛立ち。
退学も、先に卒業することも、しなかった理由を。私はもう知っている。
遠くで爆発音が聞こえる。車が事故る音がする。銃声も聞こえる。トラックが走っている。電車が走っている。この部屋の外は日常がある。
私たちは今、非日常の中に閉じ込められている。でかい穴が開いた部屋の中に閉じ込められている。
咳払い。
私も、咳払い。
「”大人のカードはね。『神』から伸びる『神秘』を二つに分けるんだ。『シッテムの箱』に保存した思い出を使って。だから、スズミやカズサみたいに。同じ人を造――喚ぶことが出来る”」
気持ち悪い。
いま言いかけたことが。言い間違えたことが。
同じ人を――造る。
人を。私を。
みんなを、なんだと思ってんの? - 171825/07/13(日) 06:30:07
「”けどね、サビちゃったネジみたいに。アイリ達の『魂』が満杯になっちゃってるのに。『神秘』が動かせないんだ。ガッチリ固定されちゃって少しも、動かせないんだよ。だから、『魂』も『神秘』も無い、『体』だけが喚ばれる。大人のカードの仕組み。これも。例の人に言われて腑に落ちたことの、一つ”」
気持ち悪い。
「……その人というのは、黒いスーツを着た方、ですか」
それまで黙っていた宇沢がかすれた声を出した。
首を上げて。まっすぐ。先生を見ている。陽に照らされた宇沢は、拭くことが出来ない涙痕をそのままに。真摯な顔で。先生に”質問”した。笑顔は無く。泣いているわけでもなく。悲嘆もしてない。ただまっすぐ。先生を見ている。
にこやかな顔の片眉を上げて。先生は答えた。
「”黒服に会ったことがあるの?”」
「ええ、まあ……。見掛けただけ、とでも言いますか」
トラックが走っている。先ほどよりも近い道を。
身じろぎをする。背中にスズミさんの足があり、少し頭を下げれば、後頭部にゴリゴリと銃口が当たる。「かゆいのですか?」と聞かれた。うるせー。体拭いただけでお風呂入ってないんだよ。3日も! - 181825/07/13(日) 06:35:35
「宇沢」
「はい?」
ぐず、と鼻を鳴らして宇沢が私を見た。「先生が言ったことはどうでもいいけど。――みんなが消えちゃうってのは、ほんと?」。
嘘は許さないから。
視線に込めた私の言葉を汲んだ宇沢は、一度目を伏せて。
しっかり、私を見て、言った。
「本当です」
「ナツ。本当?」
「……ま、ね」
「ヨシミ」
首肯。
「アイリ――は、いいや。アケミも。知ってたの? 他のスケバンも?」
「わたくしだけです。……もう、長い付き合いですからね」 - 191825/07/13(日) 06:49:18
「そっか」
そっか。
……今はこれでいいよ。上書いた。しっかり上書きした。先生じゃなくて。みんなの口から。
みんなが消えちゃうっていうことを、教えてもらった。今はこれでいいよ。うん。
トラックが走っている。さっきよりも近い道を。薄い壁が振動している。床に散らばったガラス片がちりちりと音を出す。
よしんば先生の言ったことが本当だとして。そんな。『世界の例外制御』とやらが本当だとして。私にどうこうできるはずがない。そんな規模の大きい話、私がそもそも関われるはずがない。
ていうか、どうでもいい。そんな世界の話も。三位一体も。宇沢とアケミの犯罪も。テロ行為も。政治なんて知らないし。どうでもいい。
みんなが消えちゃうっていうならそうならないために動きたいし。
どうしようも無いって言うなら、せめて。
せめて、みんながしたいように。
私にできることなんて。私がしてあげられることなんて。ちっぽけなモンなんだから。
それでもみんなが喜ぶなら、そうしよう。
だって。15年も私を探してくれてたんだから。自分たちが消えちゃうってわかってても。私と一緒に卒業したいって思ってくれてたんだから。
「あ、そうだ。ねえ宇沢。このワカモとかいうババアも知ってんの? この話」
あえて”さん”は付けない。ムカついてんのは本当。あんたが私の友だちにした仕打ちは、絶対倍にして返してやるから覚えてろよ。そういう気持ちを込めて。煽り文句と態度を叩きつけてやる。あー、気持ちいい。 - 201825/07/13(日) 07:07:11
ワカモから見たらクソガキがのたまう安っちい挑発なんか意味ないって思ったけど。
「え、ええ、ま」「存じておりますわ。彼女たちとは『貴女よりも』長い付き合いですから」
見事に効いてんじゃん。はっ。ざまあみろ、若作りババア。顔見たことないけど。
「……わたくしはワカモよりも年上なのですが」
「え”っ。そうなの?」
トラックが走っている。振動を感じる。腹に響くエンジンの音。みんなが乗っていた車とは段違いの馬力を感じる、低音と騒音。
ワカモの耳が動いた。
「ごめんごめん。アケミは綺麗だよ。いい筋肉だし――いい筋肉してるし? こんな加齢臭隠すのに香なんか焚いてる女よりよっぽど」
「鍛えた肉体を褒められるのは悪い気はしませんが、今は悪い気しかしません。もっと語彙を増やすべきですわ、キャスパリーグ」
トラックの音はもう、すぐそこ。
背後で身じろぎする気配。”私”も。眉根を寄せる。
「先生」
スズミさんが発した疑問にかぶせるように、私は声を張った。
「で、ワカモ婆ちゃんはなんでずっと仮面被ってんの? 口臭いから? それともその通り、顔隠すのに使ってる? いくつだっけ年齢。私の二倍はいってんだよね。あははっ。それで先生ラブ続けてんの? 先生だって困るでしょ。たるんでほうれい線がシワになってるような婆ちゃんに付きまとわれてさ。その年齢までなんもないんだから、脈ないって――」
ゆらり。銃剣の付いた銃口が、私にまっすぐ向けられる。 - 211825/07/13(日) 07:23:31
「人を刺す感覚は苦手なのですが」
ゆらり。ゆらり。
もはや忘我の領域のワカモは私にゆらゆらと近づいてくる。
「苦手を克服するには、ちょうどいいかもしれません」
「若い方がいいよね。先生も」
「――このクソガキが!!」
トラックは。もうすぐそこ。
「先生。私はちょっと外の様子を」
スズミさんの言葉は不意に途切れた。背後で。人の倒れる音。
「狙撃!?」
慌てて先生に駆け寄ろうとしたワカモに、私は近くに落ちている銃を二丁回収する。私のと。宇沢のハンドガンを。
直後。建物が揺れた。
いや。壊れた。
そのぐらいひどい衝撃に、バランスを崩すどころかちょっと吹っ飛んだワカモは、獣みたいに床にしがみ付いて、無様を見せないように必死に耐えていた。
エンジン音。濃い排気ガスの匂い。すぐさま耳障りなギアの音と、『バックします バックします』という音と共に、メキメキと。床が引っ張られるように斜めになっていく。 - 221825/07/13(日) 07:36:00
”私”に支えられた先生は、傾く部屋の中で「”とっとっと”」と不格好にバランスを取りながら、私を見た。
「”逃がさないよ”」
私が答えるまでもなく。部屋に飛び込んでくる、二つの人影。
「逃がすのが仕事なんだよねぇ!! あっはっは! これも依頼だから許してね、せ・ん・せ♡」
情け容赦ない銃弾の雨あられ。壁に掴まりながら、もはやぶら下がるように。背の小さい女性が、マシンガンをぶっ放した。先生の前に立った”私”は。
うわ。見たくない。
ぼろきれみたいになって。いつの間にか、居なくなっていた。
「ムツ――」
「久しぶりクソ狐。これ、つまらないものだけど」
ぱき、と小さな音がした。ワカモの顔に膝をぶち込んだ白黒の女性はそのまま、斜めになった部屋の中でなんとかバランスをとり。
先生に銃を突きつける。
「ぼさっとしてないで」
顎で。そこの穴からさっさと出ろ、と。促された。 - 231825/07/13(日) 07:38:53
■
(キリが悪いですが今日はこんな感じで)
(あまりにクソ夜中なのに、埋めお手伝いいただきありがとうございます!)