- 1四音P(仮)25/07/13(日) 11:23:07
- 2二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 11:24:29
ないけどあってほしいし、いざとなれば作ってでも「あった」ことにしてやろうと思っている
- 3二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 11:26:35
コテハンは基地外確定な
- 4二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 11:28:57
- 5二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 11:29:11
3は削除した方が良いと思うがその後ゴネる可能性があるのでスクショは撮っておけよ
- 6二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 13:03:23
既に担当アイドルが居る学Pがやると色々取り返しのつかない勢いで拗れそう
学Pがなにかする前で、NIAで心折れたのが姉による心へし折り発言によるものだったのならそこから姉を見返してやるという反骨精神で始まる物語としてすごく興味ある
ファンであることや自分を支えたいという言葉を素直に信じるんじゃなくて「こいつを踏み台にしてお姉様のところまで駆け上ってやる」みたいな利用するための駒つもりで受け入れたら思った以上の熱量に絆されてきた所でそもそもPの方は駒として切り捨てられる予定なのもわかっていたけどそのことを知っていたとうちあける時にはもう四音の方がそんな気軽に切り捨てられない気持ちになっていると個人的に好みの味がする - 7二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 13:14:14
クソ、SS書きてえけど学Pの台詞が書いてて自分でゾワッとしてきそうだしそもそも四音の材料が少ねぇ……
HotWリーリヤ引いといてまだ良かった…… - 8725/07/13(日) 13:26:59
もういい知らん、昼寝だけして書いてやる
重キショ感盛ってやるから覚悟しとけよ学P……都合いいスパダリムーブは四音相手には相性悪いんだからなお前…… - 9二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 13:37:55
いいから早よ寝て早よ起きろ
- 10二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 13:53:58
- 11二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:07:03
- 12二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:11:35
自我よりも自分の気に入らないことを流れぶった切って空気読まずに騒ぐやつのほうが害悪なんだよなぁ
- 13二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:12:12
放っておきな
妄想語る時に発言内容にせよ名前にせよなんの自我も出せない真っ平ら野郎なんてこの場の誰もお求めでないんよ
それよりはコテハンでも妄想の濃さでも何かしらの面白いものを出してくれる人を歓迎したい
もちろん節度を守った上でな
そういうわけだから昼寝してるやつは起きたらぜひ書いてくれ、俺ァバチクソ楽しみに待ってるぜ - 14二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:13:21
四音なんて逆張りのにわかしか推してないってわかんないかw
- 15二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:20:31
P四音なんてPドルハーレム要員みたいな思考笑う
そうだもんな自分に靡く女は何人居てもいいもんな - 16二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:21:24
こういう連中見てればとりあえず女出しておけばガチャ要員増やせて将来の学マス安泰って感じだな
- 17二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:22:00
適当にキャラ作って適当に声優あてがったキャラで満足する弱 男プロデューサーさん…w
- 18二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:24:19
これもう学マスアンチ来ちゃってるのか四音だからアンチ来ちゃってるのか普通にカス来ちゃってるのか…
- 19二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:27:24
いつも職場や学校でストレス溜まってんだろ 日曜の掲示板ぐらいでしかこんなムーブできないんだもんな
- 20二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:28:40
多分3つ目じゃない?
スレ主さん管理お願いするね。こっちでも通報くらいはしておくから
それはそれとして、他人からの信頼とか無償の応援とかそういうものを自分の性格上信じられない子が「なにか裏があるんだろう」って身構えている中ずっと無償で支えて来るやつに最後の最後で絆されて素直になれないまま感謝の言葉を伝えてくるシーンでしか取れない栄養ってあると思うんだ
この概念なら多分取れるんだこの栄養 - 21二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:54:18
ネット掲示板でコテハンつけて自我だしまくりなやつとかまともなやつ居ねえよw
四音推しこんなんばっかやなw - 22二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:57:34
マイナーキャラ推すことで承認欲求満たせて気持ちいいね〜
- 23二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 14:58:00
コテハンで自我がどうこうって話ってそもそも自分のスレでなんかつけるのはまだセーフだけどそれつけて他スレ行くなって感じじゃなかったっけ?
最近1でコテハン付けて叩かれんの多くね - 24二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 15:01:14
このレスは削除されています
- 25二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 15:02:01
その認識で合ってるはず
まあそれはそれとしてさ、極月学園って基本的にプロデューサーの描写ないけどこの四音Pは初星から引き抜きに来たとかになるんかね?
かなり思いきった行動であると同時によほど本気でスカウトしに来てんだなと
- 26二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 15:04:07
- 27二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 15:07:34
- 28二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 15:18:51
P四音の最大の絡みが「黙れ」(スマホメキャァア)だという事実
なんというか……それとは違う時空だとしても四音が一回学Pの膂力にビビるエピソードが欲しい、どの時空でも燐羽が咲季の妹になってるみたいに - 29二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 15:46:01
- 30二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 15:57:06
スレの管理もしないあたり荒らしも自演か
このスレで語るの無駄じゃない? - 31二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 17:38:10
最近また例の他マス荒らすシャニPが活性化してるなぁ
- 32二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 19:24:21
四音スレだ!と思って喜んで開いたらなんだよこれ
- 33二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 19:25:53
- 34二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 19:38:08
- 35二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 19:40:47
コテハンよりも自治厨のがよっぽどキツいと思うんスけどどうなんすかね
たかが場末の掲示板なんだし、迷惑かけん限りどう使おうが他人の勝手だと思うんですけど - 36二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 19:44:47
スレの流れぶった切って関係のない話題持ちだしてくる自治厨の方がよっぽど自我出してる コテハンなんてぶっちゃけどうでもいいよ
- 37二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 19:46:28
- 38二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 19:53:43
- 39二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 19:54:48
無償の愛に気付けない四音かわいい
- 40二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 19:58:35
比較対象の姉が凄すぎて歪み切ったコンプレックスをPにぶつけて尚も離れないPに困惑しながら少しずつ絆されていく四音がみたいですね 警戒心が凄まじい保護猫を何カ月もかけて人に慣らしていくみたいな
試し行動をしても全く動じないPに心の底から恐怖しつつも今まで感じたことのない暖かい感情が芽生えつつあることを認めまいと躍起になる四音は俺に効く - 41二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 19:58:41
- 42二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:01:10
- 43二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:03:21
- 44二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:03:40
月花姉様は四音からの劣等感に気付いているんだろうか
- 45二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:05:44
Pラブの親和性はめちゃくちゃ高いよねこの子
- 46二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:18:29
ファンを意識しろとか、一人でライブしてる訳ではないぞとか、そういうことを言葉で伝えても絶対に響かないとわかっているから学Pがダンストレーナー辺りと掛け合って、サビ手前とかの一瞬の空白のタイミングだけ振り付けを変えるんだよね
その瞬間の振り付けを変えたとおりにやると、息継ぎのタイミングとかみたいなどうしたって動きが止まる瞬間に顔をあげて遠くを見るような格好になって、その視線の先に自分が陣取ってフルグラTに法被にサイリウムとかいう完全装備でクソデカ横断幕みたいなのを広げて「あなたのファンはここにいます」とか書いてあるんだよね
え、なにあれ、みたいに思考が一瞬止まって、その瞬間否応なく狭くなってた視界がぐっと広がって、Pの隣で同じような格好してる撫子が見えて、だんだん周りのファンの顔も見えてきて、胸がスっと楽になったところでサビに入るんだよね
- 47二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:24:08
それでサビまで「ああ、月花には劣るな」っていう審査員や客のの目を気にしていたのに、サビで本当の実力を発揮できて月花姉様に勝つんだよね...
- 48二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:33:37
- 49二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:35:31
(投下してからダメそうだったら消せばええんやで)
- 50二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:36:55
頼む投下してくれ
- 51二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:37:32
- 52二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:39:02
- 53二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:40:40
- 54二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:42:24
- 55二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:45:32
この方たち、音も立てず目配せで会話してますわ〜!
- 56二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:45:38
(読みたくなったら前作も読むだろうから大丈夫じゃね)
- 57二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:48:13
(とりあえず親愛度10.5いきますね)
親愛度10.5
「四音さん、そろそろ次のステップに進むのに良い時期ですね」
「急に何プロデューサー?」
燐羽とのあのライブからしばらく経ってのこと、プロデューサーはいつもの鉄仮面を崩さずに淡々と言葉を続ける。
「最近は四音さんもアイドルの卵として良い形になってきています。慈善活動だけでは無く、アイドルとしての仕事も増え始めてる。ここまで長かったですが、漸く俺もプロデューサーとしての仕事を出来そうだなと考えています」
鉄仮面のまま何処か感慨深そうに窓の外を眺める彼を見て、少しドキッとしながら言葉を返す。
「……ボクとプロデューサー、そんなに長い付き合いじゃないと思うけど」 - 58二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:49:14
確かに密度の高い時間を過ごしては来たけど、ボクとプロデューサーはまだ出会って数ヶ月も経っていない。
言われたプロデューサーは一瞬鉄仮面を崩してキョトンとした後、ふむと口元を手で抑える。
「……言われてみればそうですね。四音さんとは、もう大分長い付き合いをしている気持ちでした」
「なっ!?」
言葉の意味を理解してしまい一瞬で顔が熱くなる。
このプロデューサーはいつもそうだ。鉄仮面で表情を崩さず真意を読ませない割に、不意にこちらを狼狽させるような言葉を放ってくる。
本当に、変なプロデューサーなのだ。
「まぁそれだけ四六時中、四音さんが問題行動を起こさないかとハラハラしていたという事でしょうね」
「……」
と思えば顔が違う意味で熱くなる。
その喧しい口を『また』塞いでやろうかと考えてしまうほどに。
……いや、やめておこう。思い出したらまた違う意味で顔が熱くなりそうだ。 - 59二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:50:38
「コホン。で、プロデューサー?次のステップって言うのは?」
「もちろん、N.I.Aへの再度の挑戦です」
「……正気?」
N.I.A。Next Idol Audition。かつで僕が参加し、そして無様な醜態を晒した大会。
不定期に開催されるはずの大会だが、どうやらまた近日中に行われるらしい。
以前はもっと期間が空いていた気がするが、何かあるのだろうかと考える。あるとすれば極月学園の意向とかだろうか。
「はい。貴女の予想通り、どうやら極月の方々の意向があるそうです。前回は貴女の姉である白草月花まで引っ張り出しても敗れた訳ですから、汚名返上にと息巻いてるそうです」
「……毎回のようにボクの心を読むのやめてくれる?そろそろ訴えるよ?」
プロデューサーはその事を気にする様子もなく、言葉を続ける。 - 60二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:52:07
おおー!!ありがとうございます!!
- 61二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:52:34
「あの賀陽燐羽さんとのライブのお陰で、四音さんの評価は望ましい方に反転しました。問題児という意味であまりに有名だった四音さんですが、今や立派なアイドルの卵として頑張っている。こうした姿に応援する声が多くなってきています。貴女のプロデューサーをしていて、これ以上の喜びはありません」
珍しく饒舌にプロデューサーは言葉を紡ぐ。
「だからこそ、今こそ本当の意味で生まれ変わった白草四音をお見せしたいと考えています。貴女が堕ちた、あの場所で」
そう締めくくりこちらを見つめる。鉄仮面の瞳の奥に、熱い炎を揺らめかせながら。
今まで見せたことのない姿に胸の奥がトキメいてしまう。
あぁ、ほんと。
このプロデューサーには勝てないな。
「ふふ。本当に、プロデューサーってボクのこと大好きだよね」
何度目になるかも分からない分かりきった事実を口に出す。
この人がボクのことを大好きなことなんてわかってる。そしてボクはその想いにどう答えるかも、とっくに決まってる。
「一緒に地獄の果てに行くんでしょ?なら、答えは決まってるよ」
ボクは約束のUSBを取り出し、プロデューサーに小さく微笑むのだった。 - 62二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 20:54:09
(親愛度10.5終わりです。様子見ながら大丈夫そうなら続きものんびり投下していきますね)
- 63二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:04:53
- 64二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:07:55
(STEP3はみんな出揃ってから考えます……)
- 65二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:09:30
親愛度11
「で、何でこいつもここに来ているの?」
「あら、私がレッスン相手じゃご不満かしら?」
N.I.Aへの参加を表明した次の日、早速ボクはレッスン室に来ていた。
何故か賀陽燐羽と共に。
「説明が必要ですか?」
「……今回は流石にして欲しいかな」
クスクスと面白そうに微笑む燐羽を横目に、プロデューサーへ説明を求める。
「今回のN.I.Aの参加の理由は昨日説明した通りですが、目的はもっと別のところにあります」
「別のところ?」
今回の参加の理由はボク自身の生まれ変わった姿を見せたいから、とプロデューサーは言っていた。ボクが一度堕ちたN.I.Aという場で、再び飛び立つ姿をファンに見せるのだと。
しかし他にも目的があるという。それは何なのだろうか? - 66二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:11:10
こちらの疑問に恐らく気づきながらも、プロデューサーは鉄仮面のまま続ける。
「その目的の説明は後に回すとして、そのために賀陽燐羽さんの協力が必要でした。今の四音さんに足りないものを補える存在ですから」
「……そういうこと、ね」
足りないもの。
それはアイドルとしての技術的な意味を指しているのだろうとすぐにわかった。
そしてその指導役にこの燐羽を選んだのだと。
とても癪ではあるが、彼女はボクの遥か上をいくアイドルだ。そしてこれでもまだブランクを抱えているという底知れない才能を持つ存在でもある。
「四音さん。貴女はダンス、ボーカル、ビジュアル、それぞれ高いレベルの技術を持っている。しかし、それらを『同時』に発揮することがまだ苦手です」
「うん……」
そう。
これはプロデューサーにも何度か言われた、ボクがアイドルとして越えるべき一つの『壁』。
レッスンをしていく中で多少マシにはなったが、それでもまだまだ課題は多い欠点と呼べるもの。
「賀陽さん。お願いしても良いですか?」
「『うん。ボクに任せて』」
「なっ!?」
燐羽から聞こえた声に耳を疑いそうになる。それはまさしく、ボクの声だから。
「『これくらいで驚いて貰っては困るよ』」 - 67二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:12:43
「……嘘」
そう言うと今度はダンスのステップを披露する。それもボクが得意とするもので。
感嘆を通り越して恐怖を感じるほどに、賀陽燐羽は『白草四音』を演じていた。
いや、それは最早ボクという『白草四音』すらも超えて……。
頭が真っ白になりかけるボクに、プロデューサーは気にすることなく言葉を投げてくる。
「貴女にはまずこの『白草四音』を超えてもらう必要があります。賀陽さんは貴女以上に完成された『白草四音』になれる。手始めにこれを超えない限り、N.I.Aでの優勝は夢のまた夢です」
「プ、プロデューサー?」
その鉄仮面の奥に未知なるナニカを感じて、不思議な感覚に包まれる。
今までのプロデューサーとは違うナニカ。そのナニカに戸惑いが溢れる。
「貴女なら出来ますね?四音さん」
紡がれた言葉に胸が、ときめく。
ときめく?
こんな時なのに?
何で? - 68二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:13:54
途轍もない課題を出されているはずなのに、恐怖も怒りも全くない。
それどころか。
「わかった……やってみる……」
自然と出た言葉は、今のボクでも驚くような素直な返事で。
そこで初めて自覚する。
「ふふ……」
あぁ、そうか。
初めてかな。
うん、きっと初めてだ。
ボクは初めて、彼の本当の『プロデューサー』としての顔を見ている。
そして初めて、ボクは『プロデュース』されているんだ。彼に。
今までの慈善活動とも違う。アイドルとしての立て直しの仕事とも違う。
これらも大切なことではあったけれど、ボクは今、もっと先を望まれているんだ。
共に地獄に行くと誓った、このプロデューサーに。
「すぐにでもキミが驚くくらい、羽ばたいてみせるよ」
隣を見ると、何故か驚いた顔の燐羽がいて。
目の前には、鉄仮面を崩して穏やかに微笑む彼がいて。
ボクの本当のアイドルとしての道が、始まったんだ。 - 69二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:15:35
親愛度12
「ハァハァ……燐羽……もう一回……ダンスとボーカルを併せるから……」
「……呆れた。本当に極月にいた頃とは別人ね貴女」
燐羽とのレッスンを初めて数日経った。
彼女の演じる『白草四音』をこれでもかと目に焼き付け、そして自分の中で昇華していく。
拙かった振り付けが、乱れていた歌声が、崩れていた笑顔が、段々と一つに纏まっていく実感が湧いてくる。
お手本がいると、これだけ上達が早いんだと舌を巻く。
「『この調子じゃ今日にもボクは負けちゃいそうだね』」
「ハァハァ……なにそれ……嫌味?まだ……本気の欠片も出してないくせに……」
ボクは息を整えながら、苦笑いする燐羽を見上げる。
あの日のライブでも思ったが、この賀陽燐羽というアイドルの底は何処にあるのだろうか。 - 70二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:16:54
『白草四音を演じるというハンデ』を背負ってるにも関わらず、未だに勝てるビジョンが見えない。
「そうでもないわよ。正直、最初に演じた『白草四音』はもう負けちゃうわ。思わずアップデートしちゃうくらいに貴女の成長が早いのだもの」
悪びれもなくそう話す燐羽に目を丸くする。
手放しに褒めてくる燐羽なんて、それこそ極月にいた頃では考えられなかったから。
「クスクス。全く、貴女のプロデューサーさんったら何処までわかっているのかしらね」
「……何の話?」
唐突にプロデューサーの名前が出てきて顔を顰める。
燐羽は滑らかに声色を変化させていく。
「『四音さんは貴女の予想を超えるスピードで成長しますよ。そしてそれは賀陽燐羽さん、貴女にとっても価値のある時間になる』」
「は?」
プロデューサーの声を模した燐羽に更に顔を顰める。
クスクスと楽しそうに、燐羽は続ける。 - 71二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:18:05
「プロデューサーさんにお願いされた時に言われたことよ。正直、あんまり乗り気じゃなかったのだけれど、上手いこと乗せられちゃったの」
燐羽は何かを懐かしむように言葉を続ける。
「直向きに真っ直ぐに全力で。全く、あの頃の私たちを思い出させるなんてね。それも四音が相手だなんて。笑えちゃうわ」
あの頃という言葉の意味はよく分からなかったが、燐羽はどうにも機嫌が良さそうに見える。
それにしてもこの燐羽にここまで言わせるなんて、ボクのプロデューサーも何者なのだろうか?
人のことを言えた義理ではないが、極月の頃のツンツンしていた彼女なら間違いなく断っていただろうに。
「……燐羽は、随分ボクのプロデューサーを気に入っているんだね?」
だからだろうか。
つい聞かなくても良い質問をしてしまったのは。
「そうね。だって面白いんだもの彼」 - 72二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:19:13
何故かその言葉に含みを感じて警戒心を強めてしまう。何か変なことを考えていそうな。そんな予感がしてしまう。
そしてその予感は的中し、燐羽は微笑みながらとんでもないことを言い始める。
「ねぇ四音?貴女のプロデューサーって、他にも誰かをプロデュースする予定ってあるのかしら?」
「……何を言ってるのか理解できないんだけど」
「あら怖い。別に貴女から取ろうって訳じゃないのに」
「……あの人はボクだけのプロデューサーなんだけど」
「あらあら。四音ったら随分と独占欲が強いのね」
「……ふん」
どうやら本気で言っていたわけではないらしく、ちょっと顔を赤らめながら口元を抑える。
「クスクス、ご馳走様。そろそろレッスン再開しましょう?」
「『今日中には、ボクを倒して貰わないとね』」
また『白草四音』になった燐羽を前に、再び気合を入れる。
彼にプロデュースされるアイドルとして、地獄の果てまで進んでいくと誓ったのだから。 - 73二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:22:05
親愛度13
極月学園。
足を踏み入れたそこで、その男は小さく息を吐く。
初星にも劣らない敷地面積を持つそこは、慣れない人間にとっては迷宮に等しい。
要するに道に迷ってしまったのだ。
ある目的を果たしにきたものの、少々時間がかかりそうだ。
そう考えていた矢先、1人の学園の生徒から声をかけられる。
「あら?学園見学のお客様かしら?どうかなさいまして?って、あら♪貴方でしたの♪」
桃色の髪に可愛らしい容姿をした少女。目的である人物の1人が、そこに立っていた。
ーー - 74二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:23:16
「こちらが理事長のお部屋ですわ」
「ありがとうございます。助かりました。迷っていたところ、わざわざ案内を申し出てくださって」
「いいえー。どういたしましてっ!極月学園の生徒として、恥ずかしくない振る舞いをしただけのことですわ」
幼さを残しながらも何処か上品な振る舞いを見せる少女に、『相変わらず』根は良い子なのだなと実感する。
自身がプロデュースする『彼女』が、極月にいた頃に気にかけていた少女。
いや、気にかけていたというよりは一緒に悪さをしていただけではあるが。
そしてこの少女と自分はある意味『特別な間柄』でもある。
「そういえば、このあとお時間はありまして?」
「はい。いつもの喫茶店で良いですか?」
「えぇ、構いませんわよ♪」
嬉しそうに微笑む撫子を遮るように、ガチャリと理事長室の扉が開けられる。
中から男が出てきて、こちらを一瞥すると露骨に機嫌を悪そうにする。
「いつまでそこで駄弁っているつもりだ?『四音のプロデューサー』よ」
「お待たせして申し訳ありません。黒井理事長」
「ふん。さっさと中に入れ。丁度良い。撫子、お前もだ」
「え?あたくしもですの?」
戸惑う藍井撫子と共にプロデューサーは中へと入る。
その目的を果たすために。 - 75二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:26:36
親愛度14
「燐羽ぁぁ〜〜!!」
レッスン室に大きな声が響き渡る。その声の正体は藤田ことね……ではなく月村手毬だった。
飛び込んでくるや否や燐羽に涙顔で詰め寄っていく。
少し遅れて、何故かお腹を抑えて顔色悪そうにしている月村手毬のプロデューサーも入ってくる。
「折角……折角帰ってきたのになんで一緒にレッスンしてくれないの!?いっつもこいつとばっかりで!!」
燐羽はギャンギャンと喚く月村手毬の姿にため息を吐きながら、後ろにいるプロデューサーへと話しかける。
「……ちゃんと抑えておいてって頼まれたんじゃないの?」
「申し訳……ございません……。死力は……尽くしたのですが……」
月村手毬のプロデューサーは今にも倒れそうな顔色をしながら燐羽だけではなく、ボクにも頭を下げて謝罪してくる。
イマイチ話についていけない。
「うぅ……」
その姿を見たからか、月村手毬は何処かバツの悪そうな顔をする。 - 76二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:27:59
「月村さん。何度も説明した通り、賀陽燐羽さんは白草四音さんのプロデューサーから正式に依頼されてレッスンをしているのです。その依頼が終わらない限りは無理です」
「けどぉ……」
「白草四音さんは直近のN.I.A.に参加をする予定と伺ってます。今がどれだけ大切な時期だというのはお分かりでしょう」
「う、うぅ……」
ボクが謝罪行客をしに行った時と同じように、まるで叱られたチワワのように月村手毬が縮こまっていく。
「ねぇ手毬のプロデューサー、ちょっと良い?」
「はい?」
そんな押し問答をしていると、燐羽が何かを思いついたように月村手毬のプロデューサーに話しかける。
何かを相談されているようだが、こちらからでは何を話しているのかは聞き取れない。
「手毬。今からこの四音とボーカルで勝負しなさい。勝ったらレッスンしてあげるわよ」
「え?い、いいの?」
突然提案されたことに、ボクも思わず目を見開く。
手毬はその提案に嬉しそうに目を光らせるが、ボクは訝しみながら燐羽を見やる。 - 77二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:29:16
めちゃくちゃ面白いしありがたい....
- 78二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:29:23
「ねぇ燐羽、どういうつもり?」
「どうもこうも言葉通りの意味よ。折角だし良い機会でしょ?自分がどのくらいの位置にいるのかを知るには」
燐羽の言葉の意味を咀嚼しながら考える。
確かにここまでひたすらレッスンをしていた関係で、実践練習にはほとんど手をつけていなかった。
それをちゃんとした相手とやれるというのはかなり嬉しい申し出でもある。
だが気になるところもあるわけで。
「大丈夫よ。貴方のプロデューサーの許可なら今取ったから」
そう言いながらその会話画面をボクに見せてくる。いつものプロデューサーらしい『大丈夫です。四音さんの事をよろしくお願いします』と簡潔な文章がそこにはあった。
「……燐羽までボクの心読むの何なの?………………それにいつボクのプロデューサーの連絡先手に入れたの?」
「ふふ。それは秘密。で、どうするの四音?あとは貴女の意思次第だけれど」
「……」
逡巡していると、ボクのスマホから通知音がなる。それはボクのプロデューサーからで。
【いってらっしゃい】
と、あのライブの時と同じ言葉が書かれていて。
はぁ、とため息が出る。この場にいないくせに、どうしてボクの欲しい言葉をこうも的確に出せるのかこの男は。
【いってきます】
そう返事をして向き直る。
「うん。やるよ。やらせて欲しい」 - 79二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:31:07
「審判が月村手毬のプロデューサーだと意味ないんじゃないの?」
「その心配には及びません。そんな忖度をしようものなら、後で月村さんに何を言われるか分かったものではありませんので。それに」
月村手毬のプロデューサーは小さく微笑みながら。
「俺の担当アイドルが負けることなどあり得ませんから」
その言葉を聞いて月村手毬は頬を赤らめて狼狽する。
燐羽もあらあらといった形で口元を抑えて目を丸くしていた。
そんな中ボクは。
「……ははっ」
心の中だけではなく声に出して小さく笑う。
ボクのプロデューサーが特別なのだと思ってたけど、やっぱり違うみたいだ。
初星学園ってところにはこんな奴がゴロゴロいるのだ。
担当のために全てを捧げられるバカが。
前の『私』ならどう思っていただろうか?きっと小馬鹿にして、見下していたのだろうか?
答えはわからない。わかるはずもない。
わからないけれど、一つだけわかっていることがある。
それはそんなバカが、今はボクの隣にもいること。
今出せる力を、全てぶつけてやろうじゃないか。 - 80二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:32:42
- 81二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:32:45
「……ボクの負けだね」
歌い終わって少しして、ボクは素直に負けを認める。
今出せる全力を出したつもりではあったが、月村手毬の歌唱力にはまだまだ届いていなかった。
以前持ち歌マウントを取られたことはあるが、なるほどこれは当たり前だなとも思う。
ブランクがあるとはいえ、燐羽をすら凌駕するかもしれない実力者だ。
とりあえず約束通りこの後燐羽はこの月村手毬とレッスンをすることになるだろう。
ならボクは今の勝負の振り返りをすべきか。
そう考えていると、様子がおかしいことに気づく。
勝利したはずの月村手毬はボクの方を見て何か考え事をしている様子だった。
てっきり勝ったことに喜んで跳ね回るのかと思ったのに、それどころかバツの悪そうな顔をしている。
月村手毬のプロデューサーは目を瞑り小さくため息付き、燐羽も隣でやれやれと言った顔で手を腰に当てている。 - 82二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:33:47
伝わるかと思って「謝罪」の部分消したせいで変なことなった、横槍みたいなレスしておきながらこんな有様の俺をどうか地の果てまで許さないでくれ
- 83二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:33:53
(誤字報告ありがとうございます!直しておきます!)
- 84二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:35:37
「あの……」
「月村さん、言いたいことがあるのであれば言ってください。ちゃんとフォローはしますから」
「うっ……わかった……」
そう言うと月村手毬はボクの前まできて、意外な言葉を口に出す。
「なんというか……その……レッスン邪魔しちゃってごめん……」
「は?」
思いもよらない言葉に思わず聞き返してしまう。
「今の歌……。聞いてて分かった……。すっごく努力してるんだなって……。私も同じだったから……燐羽に教えて貰いながら……必死で真似したりして……」
月村手毬は心底申し訳なさそうに俯いている。
ただただその光景に面食らってしまう。
「その……わからないこととかあったら……聞いても良いよ……。私のことは……手毬って呼んでくれれば良いから……」 - 85二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:36:56
その不器用とも言える言葉に何とも言えない気持ちになるが、あの時とは違って悪い気持ちにはならなかった。
「ボクも四音で良い」
「そ、そう?じゃあしーちゃんでも良い?」
「………………いや、四音が良い」
距離の詰め方バグってないか?と思いつつも苦笑する。
なんか不思議な感覚だ。
「あっ、そう言えば良かったの四音?貴方のプロデューサー、さっき街で……」
「つ、月村さん!それは!」
月村手毬のプロデューサーが慌てて制止に入ってくるが、ボクが聞き逃すわけもなく。
「ボクのプロデューサーが、どうかしたの?」
「えっと……極月の女の子と2人で楽しそうに歩いてたけど……ひっ!?」
言い切る前に、ボクの顔を見て涙目になって慌てて月村手毬はプロデューサーの後ろに隠れてしまう。
「……………………………は?」
急に投下された爆弾に、ボクの感情は一切何処かへ消し飛んでしまったのだった。 - 86二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:40:21
親愛度15
燐羽と月村手毬のプロデューサーの制止を振り切り、怯えたチワワから場所を聞き出したボクはその場へと駆け出していく。
何度かプロデューサーに通話するが、わかってきたかのように圏外の返事しかこない。
「プロデューサー……ボクが頑張ってレッスンしている時に何で浮気してるんだよ……っ!」
確かに定期的に用事があると言っていない時はあったけど、まさか極月のアイドルと会っていたなんて。
ギリっと走りながら歯を食いしばる。
『誰』なのかはすでに検討がついている。手毬が言っていた『場所』と、相手の『見た目』で。
その喫茶店は極月時代によく来ていたところだった。懐かしいと感じるまでもなく、すぐにその入り口に入っていく。
ゆっくりと見回すと、やはりとばかりにいつも『私』が座っていた席に、目的の二人はいた。
「ふふ♪とても有意義なお話ですわ♪ありがとうございます♪お忙しいのにいつもお時間をとって頂いて♪」
「いえいえ。俺も藍井さんとのお話を楽しませて頂いてますので」
聞こえてくる言葉は初々しいカップルのようなもので。
ズキンッと胸が痛くなる。
今の会話から、何度も会っていることが確定した。
一体いつから。どうして。
色んな感情が渦巻いて止まらない。 - 87二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:41:28
「是非もっとそのお話の続きをお聞きし……ぴぇっ……」
藍井撫子はこっちの顔を見るや否や青ざめた顔をする。
「撫子……」
出てきた言葉は昔の『私』ですら出したことのないような暗い声で。
「し、ししししし白草四音お姉さま………っ」
見るからにやばいところを見られたと言った撫子とは対照的に、プロデューサーはあまり驚いた様子もなくいつもの鉄仮面でボクを見てくる。
「おや? どうされました四音さん? 確かついさっき月村手毬さんとボーカル勝負をしてボコボコに負けたと聞きましたが。まさかそれで逃げてきたと言うわけではありませんよね?」
「……ちがうけど」
どうされたのはこっちの方だよと言いそうになる。あまりにもいつも通りのプロデューサーに毒気を抜かれそうになるも、今は絶対に聞かないといけないことがある。
「失礼しました。今のはちょっとした冗談です」
「あ、あわわわわ…………」
本当に冗談だと思っているのかと言いたくなる鉄仮面っぷりのプロデューサーとは対照的に、撫子は未だにあわあわと震えている。
その鉄仮面のプロデューサーは小さく顔を綻ばせる。 - 88二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:42:38
「おかえりなさい四音さん。頑張りましたね」
「……は?」
穏やかな笑顔でそう言われ、先ほどまでの感情がどっかに吹き飛んでいく。
いや、何を言っているんだ?
「前N.I.Aの覇者月村手毬。彼女相手に一歩も引かずに挑み、敗れはしたものの得るものの多い時間でした。悔いが残るとすれば、その場にいられなかったことですが」
そして穏やかな笑みを崩さずに。
「流石は、俺の担当アイドルです」
「っ……」
つい先ほど見た月村手毬とそのプロデューサーの掛け合い。それと同じものをされてしまう。
何なんだよ。本当に何なんだよこのプロデューサーは。
「う、うん。ただいま……ボクなりに、頑張ってみた……」
あの時一番欲しかった言葉を今言われて、今度こそ素直に言葉を返してしまう。
そこにもう一人いるのを忘れてしまいながら。
「ぴ、ぴやあああ……」
そしてその忘れ去られていた存在。
藍井撫子は真っ赤な頬を抑えながら、何故か悶え苦しんでいた。
まるで推しの尊い姿を見てしまった限界オタクのように。 - 89二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:44:17
「で、ボクがレッスンしてる間に何浮気してるのプロデューサー?」
「別に浮気というわけじゃありませんが」
「ボクが浮気と言ったら浮気だけど?」
「そうですか」
「ぴ、ぴゃあ……」
ボクとプロデューサーの会話を聞いて、撫子が語彙力を失ったままこちらを交互に見ている。
撫子、キミってそんなキャラだったっけ?
「……撫子?」
「ぴゃ……は、はいぃ!」
ボクが声をかけるとようやく再起動を果たして、慌てて背筋を整える。名家のお嬢様なだけあって、その立ち振る舞いはしっかりとしている。
ただやっぱり頬を赤らめたまま、どこか落ち着かない様子だった。
「撫子は、ここでボクのプロデューサーと何を話していたの?」
「え、えと……そ、それはぁ……」
目を泳がせながら撫子は言葉を詰まらせている。
いつも素直に『私』に従っていた撫子とはだいぶ違っていて新鮮に見える。
「俺と藍井さんは同志なんです」
「同志?」 - 90二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:45:57
随分と似合わない言葉がプロデューサーの口から飛び出して目を見開く。
一体何の同志なのか。
「俺と藍井さんはあるアイドルの大ファンなんです。なので同じファンクラブの同志として情報交換をするために、偶にこうして友好を深めていたのです」
「……ちょっと待って欲しいんだけど」
続く言葉に不穏なモノを感じて、これ以上聞くのはまずいと警鐘が鳴り響く。
そのアイドルってもしかして。驕りでもなければ。
プロデューサーは構わず続けてくる。
「はい。ご想像通り、これは白草四音ファンクラブの親睦会です」
がんっと頭を抱えたまま思いっきり机に突っ伏する。
何なんだよ。本当に何なんだよこのプロデューサーは。
「折角です。いつもどのような話をしてるのか説明致しましょう。撫子さん。例のPVを」
「え?ま、まだ未完成ですのに見せるんですの!?」
「ちょっと待って。お願い。本当に待って」
撫子とは違う意味で限界のボクに構うことなく、日頃の『推し活』を嫌というほど見せつけられるのだった。 - 91二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:47:03
「四音お姉さま。N.I.Aに出場なされるんですわよね?」
「うん、そうだよ。撫子も出るんだったよね」
喫茶店から出ると、撫子は先ほどまでとは打って変わり真面目な顔をする。
かつては極月で一緒に初星に挑んだ仲ではあるけれど、今回は敵として相対することになる。
「はい。極月学園のエースとして、四音お姉さまを完膚なきまでに叩き潰すよう黒井理事長から申しつかっておりますわ」
その言葉に驚きと同時に納得が胸を包む。
なるほど。裏切り者であるボクを倒すために、ってところかな。
でもその考えを見透かしたかのように、撫子は言葉を被せてくる。
「勘違いなさらないでくださいましね?あたくしは正々堂々戦って四音お姉さまに勝つつもりですわ。黒井理事長からもそう言われてますので」
「え?」
撫子はボクの暗い感情を振り払うように宣言する。
「四音お姉さまと同じように、あたくしだってあの頃より成長していますのよ?いざ、尋常に勝負ですわ!」
真っ直ぐな瞳でそう言われて、胸に込み上げる何かを頑張って抑え込みながら言葉を返す。
「うん。ボクも今出せる全てを、N.I.Aでぶつけるよ」
一つ息を整えて繋げる。 - 92二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:48:13
「極月のエース藍井撫子を、ボクが完膚なきまでに叩き潰すから」
撫子はこれまで見せたことのないような嬉しそうなの笑みを浮かべるのだった。
そして最後に、どうしても気になっていた事を撫子に問いかける。
「……ところでいつボクのプロデューサーの連絡先手に入れたの?」
「あ、えっと、それは秘密ですわ!」
そう言うと撫子は逃げるようにその場を去ってしまった。 - 93二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:51:40
親愛度16
N.I.A。
前回からの期間が短い関係で参加人数は大きく減っているが、それでもやはり出てくるメンバーはしっかりと仕上がっていて強敵が多かった。
燐羽との特訓がなければ、きっと何回かは破れていたかもしれないと思うほどに。
ふと燐羽との最後の会話を思い出す。
ーー
「合格よ四音」
「え?」
いつものレッスンを終えたあと、燐羽は満足そうにそう告げる。
「『もうボクが教えれることはないってこと』」
『白草四音』を演じながら、燐羽は苦笑いをして続ける。
「何があったか知らないけれど、更にスピードを上げて成長しちゃうんだもの。ホント、昔の貴女に見せてあげたいくらいよ」
「……」
「あとは貴女次第よ。どこまでやれるか楽しみにしてるわ」
そう言うと燐羽は手をヒラヒラさせて出て行こうとする。その背に向かって思わず声を出す。 - 94二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:52:44
「燐羽。その、ありがと……」
それを聞いてクスクスと笑い振り返る。
「ホント。人って変わるものなのね」
ーー
そうしてボクは着実に勝利を重ねてファンを獲得していっていて、今は票数としては2位につけている形だった。
ただそれでもまだまだ1位との票差は大分開いている。
「出だしこそ藍井撫子さんの電撃戦にしてやられてリードを取られましたが、ライブやイベントを重ねるごとに良い感じにファン数を盛り返せてますよ四音さん」
極月の次期エースとして喧伝されているだけあって、撫子の実力は前とは比べ物にならないほど上がっていた。
元々持っていた愛嬌が更に伸びていて、老若男女問わず多くの人気を獲得している。
何より開始と同時に1日複数回のライブをこなして注目をかき集め、一時期は全体の8割近い票を保持までしていた。
流石にそのペースでの参加は続かなかったので今では落ち着いてはいるが、それでも全体の5〜6割近くは未だに撫子が票を有している。 - 95二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:53:57
「今回は人数が少ない関係上、中間はなく票が出揃い次第トップ2による決勝戦になります。この調子であれば決勝進出は可能でしょうが、やはり最大の敵は今もトップを直走る藍井撫子さんでしょう」
「……」
「スタートダッシュを決めることで地盤を固めて決勝への切符を真っ先に手にし、そしてその決勝にベストコンディションで臨めるように後半に行くにつれ日程に余裕を持たせる。恐らく直に決勝に行く今回だからこその作戦でしょうが、敵ながら中々に思い切ったことをしてきますね」
「こっちはどうするつもりなのプロデューサー?」
プロデューサーは特に慌てた様子もなくその問いに答えてくれる。
「俺たちは藍井さんとの逆になります。後半に行くにつれてライブやイベントの参加を増やしていきます。既に大きくリードをされている以上、彼女と同じペースで動いては追いつくことはできませんから」
日程を確認すると、序盤の撫子ほどではないが多く予定が詰まっている。
無理なペースではないが、余裕を持たせている撫子に対しては不利なような気がしてくる。 - 96二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:55:10
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- 97二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:56:21
「それだとプロデューサーの言う決勝でのベストコンディションにボクはなれないんじゃ?」
当たり前の疑問を告げるが、プロデューサーは確信したように言葉を返してくる。
「いえ、この日程こそが、白草四音にとってベストだと俺は思っています。貴女はどちらかと言うと、尻上がりにコンディションが上がっていきますから」
「……随分と言い切るね」
「はい。担当アイドルのことは誰よりもわかっているつもりですよ」
「……そう」
キッパリと言い切られて、ちょっと恥ずかしくて目を逸らす。
「それに後半は藍井さんが参加されたイベントやライブの直後に四音さんの日程を入れています。そうすることで、彼女のために集まったファンに印象を植え付けやすいですからね」
そんな会話の中、ふと違和感に気づく。
相変わらずプロデューサーは鉄仮面であるが、その言葉に何処か嬉しさが見え隠れしている気がしたのだ。
だから聞いてみる。何がそんなに嬉しいのかと。 - 98二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:57:35
「ねぇプロデューサー。教えて欲しいことがあるんだけど」
「何でしょうか?」
「どうしてそんなに嬉しそうなの?」
その質問に対し、プロデューサーは珍しく呆れた顔をする。
そんな変な質問をしたつもりはないんだけど。
「担当アイドルが沢山のファンに愛され、応援され、そして今鳥籠から羽ばたこうとしている。貴女のプロデューサーとして、これ以上嬉しいことなどありませんよ四音さん」
何を当たり前のことをと言われ、改めてプロデューサーを見る。
そんな彼の言葉につい聞き返してしまう。
「ボクは今、羽ばたこうとしているの?」
「はい。大きく羽根を広げて。それこそ月まで行ってしまいそうなほどに」
「そっか、そうなんだ……」
「自覚はありませんでしたか?」 - 99二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 21:58:46
言われて初めて考える。
撫子に宣戦布告されてから始まったN.I.A。ただ夢中に我武者羅に駆け抜けてきていた。
それこそ時間を忘れてしまうほどに。その努力の成果を出し切るために。
そっか、これが。この感情こそが、ソレだったんだ。
「ねぇ、プロデューサー?」
「何ですか、四音さん?」
「ボクはーー」
何処まで飛べるのかな?そう聞こうとして、首を小さく振る。何処まで飛べるかなんて考える必要はない。
何処まで飛ぶかを決めるのは、他の誰でもないボク自身なのだから。
だから質問を変える。
「プロデューサー、いつかボクに言ったよね。アイドルを楽しんでいれば優勝してたって」
「はい」
「なら今のボクはどうなのかな?」
どう返ってくるかわかりきった質問をプロデューサーに投げかける。
「間違いなく、貴女は優勝しますよ。このN.I.Aで」
確信の籠ったその言葉に、ボクは改めて苦笑する。
本当にこのプロデューサーは、ボクのことが大好きなんだなって。 - 100二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:01:45
親愛度17
迎えたN.I.A決勝。
ステージに立った瞬間、身体が何かに包まれるような気がした。
撫子のステージの後だからか、会場のボルテージは非常に高い。
撫子のステージは言葉に表せないほど素敵なモノだった。会場全てを撫子のファンにしてしまうほどの愛嬌、それを全面に押し出しながらも更にお茶目さを見せる演出。
未だにその余波が残るステージで、ボクを見てる人はきっと少ないだろうと感じた。
そんな彼女の後に挑むのは、それこそ本来ならプレッシャーになるはずだ。
でも何故だろう?
プレッシャーなんて何処にもなくて、ただただ高揚感がボクの中に渦巻いていた。
ワクワクする。
こんな時なのに胸が高鳴ってしょうがない。
いってらっしゃい、四音さん。
うん、いってきます。 - 101二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:02:59
そんな掛け合いをしたのはつい先ほどのことなのに、まるで別世界の記憶のような錯覚に陥っていて。
今なら、何処までも飛べそうなほどに。
まるで羽が生えたかのように、身体が軽かった。
貴女がアイドルを楽しんでいれば、きっと優勝していたと思いますよ。
いつか彼がボクに言ってくれたその言葉。
それを今こそ証明してみせる。
あぁそうだ。間違いなく。
「アイドルは、楽しいんだ」
そして会場は、今日一番の盛り上がりを迎える。 - 102二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:04:04
「あたくしの負けですわ、四音お姉さま」
ステージが終わると撫子は少し落ち込みながらも、ボクを讃えてくれる。
結果として、撫子の票を逆転する形でボクはN.I.Aで優勝を納めた。
「あたくしなりに出来うる事を全てやりましたが、やっぱり四音お姉さまはすごいですわね」
自重気味に呟く撫子に、ボクは小さく首を振る。
「そんなことはないよ撫子。きっとボク1人じゃ、撫子には勝てなかった」
撫子の作戦は間違いなく完璧だった。序盤で大差をつけ、その差をキープしつつ力を溜め、そして万全の状態で決戦の舞台に臨む。
現に、他の参加者相手には大差をつけているわけで。
ただその作戦を逆手に取った人がいただけだった。
撫子の人気に相乗りするように、執拗なまでに撫子が参加したイベントやライブの直後にボクをそこに送り込んでいた。
そうしてじわりじわりとボクの認知を広げていき、そして決戦の舞台で真っ向勝負まで持ち込んだ。
あとはボクと撫子の実力でどう転ぶかだけだった。
「それでもですわ。あたくしが四音お姉さまより実力があれば、きっと逆転はされませんでしたもの」
「それは、そうかもね」 - 103二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:05:10
2人で小さく笑う。
そこには何も不純な気持ちはなくて。
「『次は』負けませんわよ、四音お姉さま」
「臨むところだよ、撫子」
あの頃とはまた違う。
純粋な気持ちでボクたちは笑い合えた。
ーー
「それにしても四音お姉さま、まだまだ余裕そうに感じますわ。あたくしもうへとへとですのに」
「別に手を抜いたって訳じゃないんだけどね。初星に行ってから、随分体力がついたみたい」
それはきっとあの裏方での作業や、慈善活動で沢山身体を動かしたのも要因だろうと思う。
今も時折顔を出しているが、きっとこれもプロデューサーが想定した通りなんだろうかと感じてしまう。
少し沈黙が降り、ボクは撫子に改めて目を向ける。
「あの、さ。撫子は怒ってないの?ボク、色々やらかしちゃってたけど」 - 104二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:06:51
ずっと気になっていた事を聞いてみる。
極月でボクのやらかした事を思えば、本来口すら聞いてもらえなくても良いはずだった。
それなのに、撫子は以前と変わらずに接してくれている。
その理由を知りたかった。
「確かに、あたくしたちは色々と悪さをしましたわ。そのせいで沢山お叱りも受けましたし。でもその事で四音お姉さまに怒りを向ける程、あたくしは白状者ではありませんのよ?」
撫子はこちらをじっと見つめて続きを話してくれる。
「だってアレはあたくしの意思で行なっていた事ですもの。四音お姉さまに付き従ってからと言って八つ当たりなどできません。その事であたくしが罰を受けるのは当然のことですわ」
「撫子……」
でも、と撫子は繋ぐ。
「ただ一つ四音お姉さまに怒っていることはありますわ。それはあたくしに相談もなく初星に転校されたことですわ!あの時どれほどあたくしが哀しんだことか……」
「うっ……そ、それは……ごめん……」 - 105二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:08:25
可愛らしくぷんぷんしながら、撫子は声高に続ける。
「全く。あの方が直後に来てくれなかったら今もあたくし毎晩泣き腫らしていた自信がありましてよ?」
「それは本当にごめ……あの方?」
「……あっ」
言わなくても良い事を言ってしまったと、思わず撫子は口を塞ぐ。
しかしもう遅い。
「……ボクのプロデューサー。そんな頃から撫子に会っていたの?」
「あ、いえ、あ、あの方が、四音お姉さまのプロデューサーなんて、言っていませんわよ?」
ダラダラと汗を垂らしながら撫子は苦しい言い訳をする。
詳しく知りたい。
ボクのプロデューサーが、極月で何をしていたのかを。
どう問い詰めようかと考えていた矢先に、割って入る声があった。 - 106二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:09:42
「お疲れ様でした四音さん。N.I.A優勝おめでとうございます。とても素晴らしいステージでした」
「あっ、プロデュー……サー……?」
振り向くと、そこにはいつものプロデューサーがいた。
鉄仮面を崩す事なく、手には珍しくスマホを持っている。
あれ? 鉄仮面を崩す事なく?
見た瞬間、強烈な違和感に包まれる。
ボクのことを大好きなプロデューサーだ。
てっきりもっと感情を露わにしていると思ったのに。
いや違う。何となく分かる。
今プロデューサーは何かに耐えている様子だった。
そして更なる違和感に気づく。
いつもならどんな小さい仕事であっても、このプロデューサーは必ず「おかえりなさい」と言ってくれていた。
その言葉も今はない。
その意味は何なのか。 - 107二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:10:52
「藍井さんもお疲れ様でした。敵ながら圧巻のステージでした」
「は、はい。そ、そのお言葉は嬉しいのですけど、プロデューサー様、どうかされましたの?」
撫子もプロデューサーの違和感に気づいたのか、そのことについて問いかけている。
そうしているうちに、プロデューサーの持っていたスマホに着信が入る。
プロデューサーはスピーカーモードをONにして、そのスマホを掲げて通話を繋げる。
「やはり、来るのですか?」
挨拶もなしにその通話相手に言葉を投げかける。相手が誰なのかわからないが、プロデューサーは相変わらず鉄仮面のままだ。
『あぁ、間も無く着く』
その声を聞いた瞬間、ゾワッと鳥肌が立つのが分かった。
聞き間違えるはずもない。極月にいた人間でその声の正体がわからないものはいない。
何より『血を分けた姉の声』がわからないわけがない。
「ぴ、ぴぇ……」
隣にいる撫子も驚愕からか固まって動けなくなっている。 - 108二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:12:11
「……四音さんはライブ直後ですので、プロデューサーとしては推奨できませんが」
『ふん。眠くなるような事を言うな。四音が余力を残しているのは貴様もわかっているだろう?あの頃に比べて、随分とタフになったものだ』
ドクンドクンと心臓が跳ね続ける。
全て見透かされている。
そして理解してしまう。この直後に何が起きるのかも。
『四音。そこにいるのだろう?』
「っ……うん、いるよ『月花姉様』」
自ら告げたその名前に、更に心臓が煩くなる。
『まだ、やれるな?』
短い問いにボクも短く返す。
「うん」
その瞬間、通話が途切れる。
そして少ししてカツンカツンと足音がプロデューサーの後方から聞こえてくる。
プロデューサーはスマホを下ろすと無言で身体を廊下の隅にずらす。
遮るものがなくなり、その足音の主が段々と輪郭を露わにしていく。
「滾るな。これほど滾るのはいつ以来か。それもまさかあの愚妹を相手にとはな」
月花姉様はボクの方を見ながら、獰猛な笑みを浮かべている。
「見せてみろ『白草四音』。貴様の力を」 - 109二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:15:07
親愛度18
「念の為にお伺いします。本当にやるんですね四音さん?」
「うん。今ここで、逃げることなんてできない」
固まったままの撫子を他のスタッフに任せて楽屋に戻ると、プロデューサーは最後の確認をしてくる。
前回に引き続き月花姉様の飛び入り参加。
会場はエクストラマッチとして、姉妹対決を大きく宣伝している。
もしここで逃げたなら、ボクは2度とここに戻ってこれないだろう。
「それに、さ。プロデューサー」
「はい」
「こんな時なのに、どうしようもなく嬉しいんだ。月花姉様が、ボクを見てくれたことが」
なんで月花姉様は、ボクを見てくれない……!
プロデューサーと出会ったあの日。
鈍色の空へと放った慟哭。 - 110二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:16:29
遠い昔のように感じるけれど、今でも覚えている全てが変わったあの運命の日。
そして今、ボクはここに立っている。
「知りたいんだプロデューサー。今のボクが、どこまで飛べるのか」
その言葉にプロデューサーは観念したように、小さく微笑む。
「ならもう言葉は不要ですね。四音さん、こちらを」
「え?」
差し出されたのは黒を基調とし、ところどころに白と黒の羽を散りばめられたドレスのような衣装だった。
そしてワンポイントとして、腰には砕かれた鎖のアクセサリー。髪飾りには入口の壊れている鳥籠が付いている。
「プ……プロデュー……サー……こ、これ……」
それが何なのかすぐに分かった。
一体何のための衣装なのか。何を歌うために用意されたものなのか。 - 111二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:17:56
「全ての準備は整っています。白草月花に、貴女の全てをぶつけるための舞台は」
差し出された手には、ボクがいつも持っているUSBと同じものがあった。
「見せてください。貴女がどこまで飛べるのか」
差し出された手を掴み、笑ってしまう。
「本当に、本当ににキミはボクのこと大好きだよね」
そのまま掴んだ手を引き寄せる。
影が重なる。
2度目になるその行為を、プロデューサーは止めることはなかった。
そしてそれが終わると、ボクは自分のUSBを出してプロデューサーに告げる。
「見ていてねプロデューサー。キミの育てたアイドルがどこまで飛べるのかを」 - 112二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:20:08
親愛度19
エクストラマッチが終わり、会場は今もその余韻で盛り上がっていた。
何度もアンコールしたくなるほどに、その夢のようなライブに、ずっと酔いしれているかのように。
全てのパフォーマンスが圧倒的で、見るもの全てを虜にせんとばかりに君臨する月花。
そしてN.I.A決勝直後にも関わらず、新たなる曲と衣装を持って限界を超えて羽ばたいた四音。
壮絶な『姉妹喧嘩』とも取れるそのライブはやがて終わり、その勝負の結果が表示される。
プロデューサーはそれを見て小さく拳を握る。
圧倒的大差負け。
票数は比べるまでもなく、白草月花の圧勝だった。
だが月花はそれを見て苦笑気味に呟く。 - 113二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:21:21
「すべての票を取るつもりで、最高の状態で臨んだのだがな」
白草月花の票数に比べれば、四音の票数はその10%にしか満たないだろう。
だが確かに、四音は全力の月花に一矢報いた。それは疑いようのない事実だった。
「その翼、確かに見せてもらったぞ四音」
月花は目の前で未だに眠る四音に語りかける。
本当の意味で全てを出し尽くした四音は、ステージが終わるとすぐに意識を失ってしまったのだ。
今は楽屋に用意されたベッドで横になっている。
「プロデューサー。先程の曲、今日初めて歌ったものだな?」
「はい。仰る通りです」
「舐めているのか、大胆なのか。私を前に良くそんなカードを切れたものだ。何故そうしようと思った?」 - 114二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:22:29
誤った答えを許さないとばかりにプロデューサーへと問いをかける。
何故、そのような選択を取ったのかと。
「これが、今『俺達』が出せる最大の力でしたから」
「詳しく聞かせろ」
プロデューサーは静かに続ける。
「あの曲は俺が四音さんに最初にお会いした時にお渡ししたモノです。直接的な感想を聞いたことは一度もありませんでしたが、もしいつか貴女と相対する時が来たら、必ずアレを使うと確信していました」
「……」
「だからこそ音響。照明。舞台演出。必要なモノをこの時のために準備していました。そのために必要なものは既に揃っていましたから」
「ほう?」
順を追って説明しますと、プロデューサーは最初に付け加え話を始める。
「ご存知の通り四音さんのプロデュースは、各方面への謝罪と慈善活動や裏方活動から始まりました。やがて四音さんの悪評が減りアイドルとしての仕事が増えてきても、四音さんは時折裏方の仕事を自発的に手伝いに行ってくれてました。俺がお願いした訳でもないのに」
プロデューサーは嬉しそうに眠っている四音を見やる。 - 115二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:24:01
「だからですかね。俺が彼らにお願いした時、裏方の皆様は口を揃えて言ってくれたのは。四音さんの一世一代の大勝負のために。ぶっつけ本番に近い演出でもやってやる、と。これは、四音さんが勝ち取った信頼です」
「なるほど。だから『俺達』が出せる最大の力、という訳か」
「はい。ただその全てを束ねて貴女に挑みましたが、結果は惨敗。悔しい限りです」
心底悔しそうにするプロデューサーに対し月花は暫し考え、やがて初めて見せるような優しい笑みを浮かべる。
「……そうでもないだろう。少なくとも、私は全ての票を取るつもりでこの場に来た。それこそベストコンディションで、四音を完膚なきまで叩き潰すために」
紛れもない月花の賞賛だったが、そのやり方にプロデューサーは苦笑いをする。
「相変わらず不器用な姉妹愛ですね」
「自覚はしているつもりだ」
「でも、ありがとうございます」
やがて話すこともなくなったのか、沈黙がその楽屋に降りる。 - 116二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:25:09
そしてプロデューサーのスマホの着信音が鳴り響く。
その相手は。
「……黒井理事長」
小さく呟いたその言葉に、月花と寝ているはずの四音もピクンと反応する。
スマホを取り、少し話すとプロデューサーは申し訳なさそうに月花に声をかける。
「月花さん、すみません。至急の用事とのことですので、四音さんをお任せしても良いですか?」
「構わない」
「ありがとうございます。では失礼します」
プロデューサーが楽屋を離れて少しすると、呆れたように目の前で眠る四音を小さく小突く。
「いつまで狸寝入りをしている?起きろ四音」
「うっ……」
自身と同じように不器用な妹に、月花はただ問いかける。
「どうだ四音?地獄の果ては見えてきたか?」
その言葉に一瞬驚いたのち、四音も穏やかに微笑んで月花を見る。 - 117二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:26:48
「まだまだだよ。月花姉様を倒さないと、地獄の入り口にも入れやしない」
「そうか。ふっ、私は閻魔大王ではないのだがな」
小さく笑ったまま、月花は惜しみない賞賛を妹に向ける。
「N.I.Aの決勝、そして先程のステージ。確かに見せてもらったぞ四音の成長を。その翼を。本当に、本当に良く、努力したな」
「あっ……」
ポンっと頭に手を置かれ、自然と涙が溢れてしまう。
今まで抑えていたものが、込み上げてきてしまう。
「あっ……うぁっ……」
やっと、やっと……。
遠かった……。遠すぎた……。その背中が……。
偉大すぎた……。その全てが……。
つらくて、くるしくて……いまにもこわれそうだった……。
でもやっと……、やっと……。
「う、あ、ぁぁぁぁっ!!」
溢れ出すと止まらなかった。
泣きじゃくるボクを、月花姉様はただ優しく撫で続けてくれた。 - 118二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:29:13
やがて泣き止むと、月花姉様はもう戻ると言い立ち上がった。
そんな月花姉様を呼び止める。
「……月花姉様。一個だけ教えて欲しいんだけど」
「なんだ?」
ボクは一瞬だけ考えた後、意を決して問いかける。
「……ボクのプロデューサーの連絡先、いつ手に入れたの?」
「……それは秘密だ」 - 119二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:30:32
親愛度20
呼び出された場所に行くと、そこで黒井理事長が腕を組んで夕陽を眺めていた。
特に挨拶などすることもなく、開口一番プロデューサーに言葉をかける。
「アレが貴様が自分のクビを賭けてまで四音のために作ったという曲か」
黒井は何かを思考しながらこちらを見やる。
目に見えて不機嫌ではあったが、対するプロデューサーはいつもの鉄仮面を崩さず彼を見やる。
「お気に召しませんでしたか?」
「ありきたりな歌詞にありきたりな曲調だ。どんなとんでもないモノが出てくるかと思えば、拍子抜けにも程がある。『四音の曲でなければ』貴様のクビなど俺が叩き斬っていたところだ」
だが、と黒井は言葉を続ける。
「だからこそ、四音の曲なのだな」
不機嫌ながらも何処か納得した表情を浮かべる黒井に、プロデューサーは小さく頷く。
「はい。紛れもなく彼女のためにある曲です」 - 120二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:31:55
ありきたりで良い。
彼女は漸くスタートラインに立ったばかりなのだから。
そして歌というものは、その歌うモノによって無限に変幻するのだから。
「貴様が四音を初星でプロデュースしたいと言ってきた時は気でも違えたかと思ったぞ。俺は『極月学園初のプロデューサー』として貴様をスカウトしたのだがな」
その言葉に動揺することもなく、プロデューサーは淡々と言葉を返していく。
「大変恐縮なお誘いでしたが、四音さんの再起を図るには極月ではしがらみが多すぎましたから。彼女をアイドルとして輝かせるには、これがベストに近かったと思ってます」
「ふん。そのせいで結局また借りが増えたわけだ。全くどいつもこいつも好き勝手やってくれる」
愚痴にも近いことを吐き捨てながらプロデューサーの後ろから近づいてくる姿に目を向ける。
「四音か」
「く、黒井理事長」
何かを言いたそうにする四音に対して、黒井は手で制する。 - 121二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:33:20
「四音。N.I.Aの決勝、そして先ほどの月花とのステージ。素晴らしいものだったぞ。良く頑張ったな」
「……っ」
黒井は先ほどまでとは打って変わり穏やかな口調で続ける。
「そしてすまなかった。お前を極月という鳥籠の中に閉じ込めてしまって。もうお前は自由だ。その翼でなら、何処へでも飛んでいけるだろう」
「いえ……ボク……私こそ、黒井理事長にとても迷惑をかけて……」
その謝罪も制止し、黒井は言葉を重ねる。
「全ては俺が四音に任せた事だ。責任があるとすれば俺にある。そんな小さいことは気にしなくて良い」
黒井理事長は普段の態度から勘違いされがちだが、アイドルのことを大切にしている。だからこそ四音の転校を許可したのだろう。
「プロデューサー。貴様は四音をどこまで連れていくつもりだ?」
「地獄の果てまでです」
「そうか。クク。貴様はそんな奴だったな」
黒井は踵を返し、その場を後にする。
「四音。楽しみにしているぞ。これから先、お前がどこまで羽ばたくのかを」
そう言い残して。 - 122二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:35:36
「プロデューサーって黒井理事長と知り合いだったの?」
「そうですね。ちょっとしたご縁があります」
いつも通り鉄仮面を被りながら、淡々と返事をしてくれる。
「じゃあボクをプロデュースしたいって言ったのも、黒井理事長に頼まれたから?」
そうじゃないであろうことを分かりながら、あえて聞いてしまう。
その質問にプロデューサーはこちらを向いて答えてくれる。
「違いますよ。あれは俺の意思です。そのために、黒井理事長にお願いをしました」
「ふーん?」
分かっていたけれど、そう言われると嬉しくなってしまう。
どうやらボクも、相当末期なようだ。
そしてその顔を見つめているとあることに気づいた。その目元が赤いことに。
夕陽に照らされているからじゃない。
その跡は紛れもなく。
「もしかしてプロデューサー、泣いていたの?」
「そんなことは……。いえ、ここで隠す必要はないですね」 - 123二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:36:54
プロデューサーは鉄仮面を脱ぎ捨てて、初めて満面の笑みを見せてくれる。
「ぁ……」
その顔に見惚れていると、プロデューサーは選ぶように言葉を紡ぐ。
「四音さん。ありがとうございました。N.I.Aの決勝、そして白草月花とのエクストラマッチ。本当に、本当に最高のライブでした」
万感の想いを込めてるであろうその言葉に、さらに顔が熱くなる。
きっとライブの最中、ずっと泣いていたのかもしれない。あの鉄仮面のプロデューサーがと思うと、何だかおかしくなってしまう。
「目的が、叶いました」
安心したような、肩の荷が降りたような、そんな言葉を口にする。
そういえば燐羽とレッスンを始める時、目的があると言っていたのを思い出す。
「そういえば目的って?」
「白草四音というアイドルが羽ばたくために、全てのしがらみをなくすことです」 - 124二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:38:06
「え?」
その意味を、咀嚼する。
しがらみ。
ボクに絡みつくしがらみ。
撫子とライバルになることができた。
月花姉様に認めてもらうことができた。
黒井理事長に応援してもらうことができた。
あぁ、なんだ。
もう本当に、本当にこの人は。
全部ボクのために。
全てのピースが当てはまっていく。
そして気がついたら自然とプロデューサーを抱きしめていた。
あまりにも愛おしくて、どうしようもなくて。
力強く、離さないように。 - 125二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:39:12
「人目につきそうなところで、こういうのはだめですよ四音さん」
「人目のつかないところなら良いの?」
「俺の心臓が持ちません」
「ふふ、そっか」
鼓動が聞こえる。
この時間が永遠に続けば良いのにとすら思ってしまう。
「四音さん……」
「何?プロデューサー?」
プロデューサーは小さく息を吸って、その言葉を告げてくれる。
「おかえりなさい」
「うん、ただいま」
Fin. - 126二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:40:32
(終わりです!終わりですよ!お疲れ様でした!SSで2万文字オーバーってだめだと思うんですよ!でも後悔はしてません!あといいねやコメントありがとうございます!頼むから四音さん育成シナリオきてくれよ!!)
- 127二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:45:56
(最高のP四音をありがとう...まさか続き読めると思わなかったからめちゃ嬉しい...)
- 128二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:47:30
泣いちまったよ……ありがとう……本当にありがとう……
- 129二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 22:49:39
頼むから本にしてくれないか
- 130二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 23:02:56
(渋の方にも投下したから良ければ見てね。あと美鈴のN.I.A編で撫子ちゃんが良い子だと分かって嬉しかったよ。こんな感じで四音さんにも何か救いをだな……)