【SS】明星 オルフェーヴル

  • 1二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 18:41:26

    キャラスト Ep0的な感じの時間軸で

  • 2二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 18:42:29

    「答えて欲しい、姉上。なぜ、あの男をトレーナーに選んだのか。」
    いつにもまして直球な妹に、姉、ドリームジャーニーは顔にこそ出さなかったが少々戸惑っていた。
    「オルも、認めてはくれてはいるのでしょう?」
    「無論。あの男は結果を出した。だからこそ解せぬ。何故、あの男を選べたのか。」

    トレーナー室で留守居をしていたドリームジャーニーを訪ねた妹────オルフェーヴルの
    ややもすると言葉足らずな質問を、姉は完璧に理解していた。
    すなわち、そう遠くないデビュー、それに際してトレーナーが必要なこと。
    引く手は数多。そこからどう決めるのがよいのか、意見を聞きに来たということである。
    ドリームジャーニーは用意した紅茶を一口、ゆったりと飲むと、宥めるかのように
    リラックスした雰囲気で手にしたカップに目をやり、それから眼前の妹を見据えた。

  • 3二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 18:43:34

    「オルは人が戦うのに重要な動機というのを知っているかな?」
    「……報酬、富や大義、地位、名声───そんなところだろう。」
    オルフェーヴルは姉のふるまいとは対照的な剣呑とした質問に若干の緊張を示したが、
    ドリームジャーニーはそれを些末事かのよう気にも留めず、ゆっくりと首を横に振ると、言葉を続けた。
    「戦いに臨む理由として、その通り。」
    「けれども、実際に困難に直面して、それでも立ち向かう、戦い続ける動機は『共に戦う仲間のため』なんだよ。」
    「トレーナーさんはトゥインクルシリーズへ共に戦う唯一無二の仲間。」
    「結果が奮わないとき、挫けそうなとき、戦う力をくれるのはちっぽけな自分の等身大な心。」
    「『失望されたくない』『共に過ごした努力を無駄にしたくない。』『全力で信頼してくれるあの人の想いに報いたい。』」
    「互いを敬い、慈しむ。そう想える人だから、私は選んだ。……選ばれた結果は、オルもよく知っている。」

    姉、ドリームジャーニーのトゥインクルシリーズの成績はかならずしも順風満帆といえるものではなかった。
    けれども共に駆け抜けた波乱を、分かち合った雌伏と雄飛を懐かしむような姉の語り口はそれらすべてが宝物であるという具合で、自慢げすらにじみ出ていた。
    「どうだいオル、少しは参考になっていると、良いのだけれど」
    「───トゥインクルシリーズで、良き変化に出会えたのだな、姉上」
    「ええ、とても。」
    「愛、なのだな。」
    「……流石だオル。本当によく、理解している。」
    「───その上で問いましょう。オルフェーヴル、貴女の───貴女達の夢は何ですか。」

    テーブルを挟んで向き合う姉は遠く、その瞳は遥か未来を捉える。
    そのたおやかさは教導する者としての余裕の裏返しであり、
    悠然とした様には、容易く妹を蹴散らせる。そういう自信が伺える。
    ───ネバつく口内から喉へ、紅茶の渋みが落ちる。
    このままではいけない。返答を継ぐべく置いたカップの音と重なるように、ドアノックが聞こえた。

  • 4二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 18:45:30

    「どうぞ」
    わずかばかり軽やかに聞こえる姉の声に、オルフェーヴルは何も言わない。

    「ただいま、ジャーニー。それからオルフェーヴル、いらっしゃい。」
    入ってきた男、この部屋の主でもあるドリームジャーニーのトレーナーは目端を利かせると
    続けざまに挨拶をした。かつてとは違い、その所作にはそこはかとなく自信をくゆらせている。
    「邪魔している。───馳走になった、姉上。部屋の主も帰ってきたのだ。このあたりで出ていくとしよう。」
    「気にしないで、ゆっくりしていって構わないよ。」
    「よい、丁度話の終わったところだ。それに姉上に、蹴られたくはないのでな。」
    「?蹴る?ジャーニーが?」

    疑問符を並べた男と、心なしか普段より眉尻を下げて黙する女を置いて、妹は部屋を後にした。

    薄暮の帰り路、暴君と呼ばれる少女は一人佇んでいた。美しい栗毛は夕闇に溶けてくすんでいる。
    部屋を去ったオルフェーヴルは内心、自身が気圧され、逃げ出してきたかのように感じていた。
    姉は終始穏やかであったが、刹那にするりと間合いを詰め、妹の喉に一筋の刃を突きつけた。
    これより先は勝負の世界。他者を跳ね除け、踏み潰す。徒花を顧みぬの勝利。
    甘美と辛酸、悔恨と本懐を征く覚悟はあるのか。───と。
    通牒を突きつけてきた姉の、厳しい優しさに、妹はただただ吞まれてしまっていた。

    どんな夢を誰と分かち合うべきか。姉は理解していた。
    互いの欠けているもの。与えられるもの。献身が互いを高めあう究極のギブアンドテイク。
    そうして成し遂げた果ての景色。二人でなければたどり着けなかった先の輝き。忘れえない軌跡。
    「それこそが姉が、姉たちが追い求めた夢だったのであろうな。」

  • 5二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 18:46:35

    「───よいな、欲しいな。手に入れたいな。───我が物とするとも。」
    示された一筋。それがもたらした解はたちまちオルフェーヴルを昂らせる。
    その怒りは先ほどまでの卑小な自らを焼き殺す。それでもなお燃え盛るその闘争心。
    自身を満たし、支配する、抑えられないほどのフラストレーション。それこそが彼女をオルフェーヴルたらしめているのだ。

    「───これを解する者か」
    果たしてそれが現れるのか。そしてその先に待つ未来は。未だ、分からない。だが分からなくても征く、征くしかない。征くのだ。
    先がどうなるかなどどうでもよい。懸命に征くのだ。自らを主張し、認めさせる。
    オルフェーヴルとは何者かを。己が蹄跡で刻み付けるのだ。

    「それこそが覇道。“王”たる妾の征く栄光。」

    決意の頭上に、金色の一番星が煌めいていた。

  • 6二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 18:48:18

    おしまい

  • 7二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 18:51:25

    ありがとうございます楽しめました

  • 8二次元好きの匿名さん25/07/13(日) 19:12:24

    美事やな(ニコツ

オススメ

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