【閲注・SS・🎲】RED SIN

[1 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 12:10:41]

※独自設定有り
※キャラ同士でデスゲームするし煽り合う
※全員一度は死ぬくらいの覚悟で見たほうが良い
※メイン登場人物はスレ画の14人
※時間軸ふわっと
※安価、ダイスあり、選択によってはロストもあり
※広域ホスト規制されがちのため保守ご協力をお願いします
※感想・質問があるととても嬉しいです

[2 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 12:13:56]

過去スレ

【ホラー・SS・🎲】ヨドヒ様の村｜あにまん掲示板

【ホラー・SS・🎲】夢間の館｜あにまん掲示板

【ホラー・SS・🎲】起きたら知らん施設にいた｜あにまん掲示板

[3 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 12:18:30]

誰寄りの視点で開始するか？

①潔

②千切

③國神

④凪

⑤凛

⑥玲王

⑦士道

⑧烏

⑨乙夜

⑩雪宮

⑪愛空

⑫冴

⑬カイザー

⑭ネス

dice1d14=1 (1)

[4 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 13:53:28]

新作嬉しい

[5 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 13:58:54]

潔さん視点か。めちゃくちゃいいと思う

[6 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 14:10:25]

立ておつ
今回登場人物たくさんということでワクワク

[7 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 14:37:43]

　目を覚ました瞬間、息が詰まるほどの静寂が耳を塞いでいた。
　慌てて顔を上げると、そこは見知らぬ学校だ。一難高校に似てる訳でもない……が、学校という作りである以上、どことなく似通ってしまうのは仕方ないのだろうか。
　壁に並ぶ掲示物はどこか古びていて、誰かの手が触れた痕跡もない。それが不気味だった。
　立ち上がると、椅子の軋む音がやけに大きく響く。見回せば、潔以外にも何人かが、眠るように机に突っ伏していた。
　凪、凛、ネス、千切……全員、ブルーロックで見た顔ばかりがそこにいる。
　「ここ」は青い監獄でもない、見覚えのないただの学校の教室だ。

　「……七人の、生贄」

　乱暴な書体で書かれたそれに目が留まる。黒板に白いチョークで描かれた文面はこの通りだ。

『七人の生贄を捧げれば、扉は開かれん』

　生贄。日常生活で生きていれば聞くはずのない言葉である。いや、あんな罵倒が飛び交う青い監獄では聞いたことがあってもおかしくはないかもしれないが。生贄裏抜けとかありそうだし。
　そう思考を飛ばしているうち、やがて、教室のスピーカーから音がした。ノイズの混じる、聞き覚えのある声。

「やあやあ、才能の原石どもよ」

　絵心――いや、絵心そっくりの誰かの声だった。潔にはそれがわかる。

「七人の生贄が揃えば、扉は開かれる。そういう文字を目にした筈だ。つまり――それまでは、誰も出ることはできないと思って貰って構わない。全員の支度が整ったら、体育館まで全員で来るように」

　音声が途切れ、再び沈黙が落ちる。

[8 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 14:47:25]

「……なんだこれ、クソくだらねえ」

　最初に吐き捨てたのはカイザーだった。どうやら起き出していながら慎重に周囲を観察していたようだ。抜け目がないというべきか、油断がないというべきか。
　次に顔を上げたのは殺し屋忍者コンビだ。乙夜は頭の後ろで手を組んで、背もたれにだらっと寄りかかっている。

「アガんね～、つかここどこ？」
「知らんわ。というかこのメンバーの選定基準なんやねん」

　言われて、潔はメンバーを起こしながら顔と名前を改めて確認していく。

「う……寝ずらいと思ったら……」

　千切豹馬。マンシャイン・C所属、青い監獄最速の韋駄天。

「はっ！？　どこだよここ！　凪、おい起きろ！」
「う～……めんどくさい……」

　御影玲王、凪誠士郎。同じくマンシャイン・C所属のコンビ。

[9 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 14:50:47]

デスゲームものやったー！

[10 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 15:05:30]

「え～？　新しい祭りの予感？」
「……チッ」

　士道龍聖、糸師凛。P・X・G所属のツートップ。

「……どうなってんだ？」
「カイザー！　無事ですか！？」
「これは……何がどうなって……」

　潔と同じくバスタードミュンヘン所属、國神錬介、アレクシス・ネス、雪宮剣優。

「……なーに？　ここじゃあアウェイって感じか。なぁ、天才ちゃん」
「うるせえ、話しかけるな、我儘主将」

　オリヴァ・愛空。糸師冴。愛空はユーヴァース所属であるが、糸師冴に至っては現在絶賛レ・アールの下部組織で活躍中の筈である。
　糸師凛と糸師冴は一瞬顔を合わせた途端、冴が興味なさげに目線を逸らした。凛が立ち上がろうとするのを士道がからかって、怒りの矛先が士道に向かう。

[11 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 15:07:03]

　雪宮が頭が痛そうに額を抑えてから、控えめに挙手をした。

「とりあえず、体育館に行かないといけないんだよね？なら行った方がいいんじゃないかな。状況が分からないと動きようもないよ」
「知らね～、それより探検したい♪」
「ゲスピンクに同意してやる。不本意だがな。推定誘拐犯の言うコトをまんまと聞いてどうする」

　ネスはカイザーの言葉に「その通りだ」と言わんばかりに頷いている。早速意見が割れてしまった。このメンバーに集団行動なんて無理があるだろう。どう場を収めたものか……と思っていると、愛空が立ち上がって冴に目を向ける。

「青い監獄だけならともかく、天才ちゃんまで攫ったんだ、すぐは殺さないと俺は思うぜ。とりあえず目的を聞いてみるのは悪いコトじゃないと思う。なあ、そう思うだろ？」
「……まあそうだな。殺せるものなら殺してみろ、とも思う」

　吐き捨てるように笑った冴が、ぐるりと全員を見渡した。

「命を無駄にしたいバカは勝手にすればいい」

　そのまま一番先に教室を出て行った冴に続くようにして、雪宮も廊下に出て行った。玲王は少し考えてから凪を背負って後に続き、國神と千切も視線を交わしてから外に出る。烏と乙夜も軽口を交わしながら並んで、教室に残ったのは反対派と、潔と、愛空だ。
　愛空は全員が部屋から出るのを見守るつもりらしく、黙ったまま全員の挙動を油断なく見守っている。潔は士道、凛、カイザー、ネスに目を向けた。

「……一旦、出方を伺うのは悪いコトじゃないと思う。殺すつもりなら、とっくに殺されてると、俺も思うし……」

　少し考えて、潔は士道をちらりと見た。

「士道。ゲームだってチュートリアルとかあるだろ。ダルいかもしれないけど、それさえ乗り越えたら自由にできるって思ったら、一瞬我慢する気にならないか？　それに、これだけのメンバーを集めたってことは、体育館で何か派手なことをするのかもしれないしさ」
「まぁ、そっか。じゃあ俺も行こ♪」

　くるっとターンしてからスキップをして廊下に向かう士道を見守ってから、潔はカイザーとネスに向き直る。カイザーは眉間に皺を寄せており、ネスも不安そうな顔だ。

[12 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 15:13:53]

「……この場、どうも不穏な気配がする」
「同感です！」
「だからこそ、数が多い方にいるべきなんだって。単独行動はなるべく避けようぜ、だから愛空も残ってくれてるんだろうし」

　愛空はその言葉にひらひらと手を振った。カイザーだけだと単独行動をしそうだし、ネスも抑止力としては弱い。それを愛空は見抜いていたのだろう。
　不安げなネス、冷静な愛空、説得する気満々の潔に見つめられ、カイザーは舌打ちをした。

「……お前のせいで死ぬことがあれば地獄に道連れにしてやる」
「そ、それは勘弁かも……」

　カイザーが椅子を蹴って立ち上がり、ネスも後に続いた。愛空と潔だけになった教室で潔が溜息を吐くと、ぽんと背中に手をあてる。

「お疲れさん。説得、ナイスアシスト」
「あはは……まあ、カイザーが気難しいのは知ってるから」

　行こうぜと促され、潔は教室を愛空と共に出た。一度振り向き、紫色の空を映す窓ガラスを瞳に映してから、愛空に急かされ遅れて続く。
　非日常がすぐそこに口を開けていた。

[13 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 15:24:06]

見てくれてありがとう
14人分のキャラシを作ってあるから長くなる可能性もあるかも
継続キャラシもあります

[14 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 17:17:44]

　潔が体育館の扉をくぐると、ひやりとした空気が肌をなぞる。まるでここだけ季節が違うような感覚――そんな妙な寒さだった。
　照明は最小限で、天井の一角から落ちる光がステージ中央を照らしている。マイクなどはなく、ただそこに誰かが立つべき空間だけが用意されていた。

「遅いやんけ」

　烏がからかうように声をかける。潔は苦笑してそれを受け流すと、体育館をぐるっと見渡した。何の変哲もない、普通の体育館のように見える……が、いきなりステージの中央が開くと、中からぬいぐるみのようなものが出て来た。五角形のフォルムにブルーロックのマークを刻んで、手足をにょんと伸ばしたナニカ。

「ようこそ。君たちは選ばれた存在だ」
「しゃ、喋った……！？」

　ネスが愕然と声を上げる。人形の方から聞こえてくる声はおそらくも何もスピーカーなりが人形に仕込まれているのだろうが、不気味さも相まって本当に喋っているように思える。

「青い監獄という異常な環境で己のエゴをさらけ出した十四人。お前たちは無事に才能の原石としての価値を示して来た」

　声だけは耳に馴染んだ声のはずなのに、抑揚やリズムが妙に不自然だ。言葉をなぞるだけのAIのような、あるいは誰かが真似ているような違和感が残っている。それは他のメンバーも感じているようで、不愉快そうに眉根を寄せる人間も少なくない。

「これより選別が始まる。条件は単純。七人の生贄を捧げたうえで儀式を行えば、扉が開かれる」

　空気が明確にざわめいた。殺し合い。誰かがそう言いかけてやめる。鼻で笑うものもいれば、舌打ちをするものもいた。潔はただ、その言葉を聞くに務める。

「この空間から脱出したいなら、犠牲を払え。全員を救う道はない。選び、見届け、捧げろ。そうすれば、お前たちの望む出口が開かれる」

　ノイズと共に音声が切れる。残されたのは、湿ったような沈黙だけ。

[15 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 17:39:30]

「……てか、ここ学校じゃん、このまま殺し合え～って言っても、極限状態まで追い込んで殺し合う感じ？　最近のデスゲームでさえ飯は配給されるし寝床はあったりするのに……」

　乙夜が頬を掻きながら誰に問うでもなく言うと、先ほど音声を途切れさせた人形が立ち上がった。士道が興味深そうに目を輝かせ、千切などは引いたように身体を引く。

「才能の原石共よ。それぞれに個室を用意した。宿舎棟がこの学舎には併設されていて、それぞれに個室を割り振ってある。個室の中に、それぞれ必要なものを用意しておいた。諸君らの『生徒手帳』もそこにあるので、よく確認しておくように」
「なあ、質問とかにはある程度答えてもらえる感じ？　その様子だと」

　千切の問い掛けに、人形は四肢を動かした。

「通称ブルーロッ君は自己歩行が不可能だ。質問に答えて欲しい場合は連れ歩くことを推奨する」
「独占されたらどうすんだ？　奪い合いで殺し合わせようってか？」

　愛空の面白がるような茶々入れに、人形もといブルーロッ君はさらに手足を動かす。だが、細い足に対して身体が大きすぎるせいで微塵も歩けそうにないのが説得力を増させていた。

「個室にあるパネルからも声掛けが出来る。また、校内放送でも答えることが可能だ。それらが届かないような場所へはブルーロッ君の携帯を推奨する」
「いやここ天井スーピーカーあるやんけ」

　烏が指さした通り、天井には立派なスピーカーがあった。全員がつられるようにそれを確認して、再度ブルーロッ君に視線を向ける。ブルーロッ君は頭をかくような素振りをみせた。

「これは――演出だ」
「くだらねぇ」

　凛が吐き捨てた。多分全員同じ気持ちだろうなと潔ですら思った。

[16 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 18:52:59]

「以上で初期設定の提示を完了する」

　そう言い残し、ブルーロッ君はパタリとその場に倒れ込んだ。全員がどうする？　という顔で見つめ合って……雪宮がステージに近づくなり、ブルーロッ君のことを抱き上げた。

「取りあえず、宿舎棟まで案内してもらえますか？」

　敬語になってしまっているのは声が絵心のものだからだろう。ブルーロッ君からポーンと高い電子音が……というかこれはETCカードが挿入された時の音じゃないか？　という音が鳴り、今度は帝襟アンリの声で機械的な道案内が始まる。

「アンリさんちゃんの声まで出るんだ、ブルーロッ君……」
「本気でそう呼ぶのかよ？　つーか、こんなとこで寝ろとか、ありえねー」
「それは同感。つーか設備がマジで気になる」
「お嬢が気にしてんのはドライヤーだろ」

　凪、玲王、千切、國神が軽口を叩きながら雪宮に続いた。それ以外の面々もぞろぞろ歩いてゆき、最後尾は相変わらず潔と愛空だ。

「……この状況、どう思う？」

　沈黙が気まずく、潔は愛空に話しかけた。愛空は髭を指先で擦ってから、長々と溜息を吐く。

「正直、いいとは言えねぇな。兄弟げんかがいつ起きてもおかしくないのと、ドイツの二人がピリピリしてる。それから、士道。アイツもアイツで単独行動しそうだ。個室に行って、何があるかにもよるが……」
「……本気で殺し合いが起きるって思ってる？」

　愛空は潔の問いに目を丸めてから呵々と笑った。この男がこのようにして笑うと、まるで晴れ間が広がったように明るくなるのである。さすが元U-20代表の主将を務めていただけのことはある。

「起こったとしても、止める。火種の観察はしときゃいい。だろ？　こちとら目がいいんでね」
「そう、か……」

　潔が曖昧に返事をしたところで、先頭集団が宿舎棟についたらしい。

[17 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 18:58:16]

愛空かっけぇ....！！

[18 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 19:06:13]

　宿舎棟は校舎の裏手から接続されていた。
　平屋作りの建物に入ると長い廊下があり、左右の個室にはそれぞれ名前が割り振られている。

「各自の名前がドアに表示されている」
「立ち入り禁止とかは無いん？」
「各個室には鍵がかかるようになっている。今はロックが解除されているが、今夜22時の消灯以降は生徒手帳がカードキーの代わりとなる。なくさないように気を付けろ」

　ブルーロッ君の説明に士道がニヤリと笑い、凛が不愉快そうに舌打ちした。だが、他の誰も軽口を挟もうとはしない。ただ、与えられた部屋へと静かに散っていく。
　潔も愛空とその場で解散し、潔の名前が割り振られた個室に入っていった。
　シングルベッドと机、簡易ロッカー、シャワールーム。備え付けられたモニター。ホテルの一室と言われたら納得できそうではあったが、窓が無いのが不安を煽る。
　潔は机の上に置かれた薄い冊子に目を止め、手に取った。「生徒手帳」――そう、表紙に刻まれている。
　ぱらぱらめくれば、中には基本的な個人情報と、行動規範のような項目が記されている。カードキー代わりにもなるというのは、表紙が少し分厚いことから、そこにカードキーを仕込んでいると考えられるだろう。
　そんなことを考えていると、潔は最後のページに赤い文字で記載された文字に目を止めた

【死因】

　死因の隣はぐちゃぐちゃに塗りつぶされていて、本来なら何かが記載されていたであろうスペースがある。潔は知らず息を飲んだ。ただの文字列だというのに、あまりにも気持ちが悪い。
　生徒手帳を取りあえずポケットの中に仕舞って、潔は他のメンバーの様子を見に廊下へ出た。

[19 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 19:07:51]

自分用にMAP作ってあるんだけどみんなも見れたほうがいい？

[20 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 19:21:21]

見たいです！

[21 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 19:28:39]

取りあえず宿舎棟MAP
某ゲームを意識してるからわかる人にはわかると思う

[22 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 19:33:36]

最初の教室から体育館まで凛ちゃんいつ移動したのかな
士道と同タイミング？

[23 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 19:37:19]

学級裁判とかやってくれそうな感じかな？
何が起こるかわかんないからドキドキワクワク

[24 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 19:45:37]

>>22

描写漏れてた！ごめん！

士道と同じタイミングで出てってる！

[25 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 19:57:36]

うーん、不穏！一度は死ぬということは死んでも復活するのか？
みんな助かりますように

[26 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 20:20:08]

MAPはダ……参考かな
一度は死ぬというか【死因】という項目の横が塗りつぶされてる辺り物語スタート前に既に何回か死んでるのでは……
正しい生贄(人とは限らない？)を捧げるか見立てがあるのか儀式しないのが正解か……初期設定とか言ってるし……

[27 二次元好きの匿名さん 25/07/14(月) 20:36:21]

スレ主さん、どれがスレ主か分かりやすいようにコテ付けてもらうことは可能ですか？

[28 スレ主 25/07/14(月) 22:59:36]

　部屋のドアを静かに閉めて、潔は廊下に出た。空調が効いているはずなのに、どこかひんやりとした空気がまとわりつく。蛍光灯は等間隔に点灯しており、光量も十分なはずなのに、どういうわけか廊下が妙に長く感じられた。
　ポケットには、生徒手帳がある。最終ページに記されていた「死因」という二文字は、今も頭の中にくっきりと残っていた。
　食堂は宿舎棟の入り口近くにあったようで、それこそ青い監獄によく似た食堂だった。入り口の扉を開けると、大体の人間が揃っているようで、出遅れたなと潔は思う。
　士道がげんこつくらいはありそうな肉の塊を見てにやついている。ステーキのようだ。あんなものまで出してくれるとは驚きだが、果たして食べきれるのか……食べきれるのかもしれない。
　ネスはカイザーと並んで座っているが、妙に背筋を伸ばしていて落ち着きがない。数種類の食べ物を分け合って、味をノートに書き留めているようだ。
　乙夜と烏は、メニュー表をタッチパネルでいじりながら、挙動を確かめているようだ。
　凪と玲王は真ん中に座って、玲王が甲斐甲斐しく凪の世話を焼いていた。凪がゼリー飲料だけで済ませようとするのに対し、玲王が何やら言っているようだが、凪は突っ伏したまま唸るだけだ。
　國神と千切は斜め向かいの席に座っており、國神がつれなく無視しているところに千切が話しかけているようだ。

「や、潔」

　雪宮が声をかけてきた。トレイにはサラダと鶏肉を中心としたバランスのいい定食が揃っている。その表情はいつも通りのようでいて、どこか影があった。

「……生徒手帳、見た？」
「……ああ。一応」
「死因って……変だよな、あれ。なんなんだろう」
「まだ、判断できない。でも……他のみんなは、どう思ってるのかな」
「ぬりぃな」

　後ろから来たらしい凛が低く呟いた。ぎょっとして雪宮の方に後退る潔に、凛は舌打ちをする。

「俺の死因は『脳挫傷、急性硬膜下血腫』だった」
「え？」

[29 スレ主 25/07/14(月) 23:07:20]

>>27

コテつけました！これでいきます

[31 スレ主 25/07/14(月) 23:16:21]

　潔は目を瞬いた。あっさり明かされた死因に戸惑っているうちに、雪宮がトレイを持ったまま肩を落とす。

「俺は単純に『失血死』だったかな」
「なんだなんだ、飯時に物騒な話だな」

　愛空も寄って来て、話の輪に加わった。これで食堂に来ていないのは冴だけだ。

「俺はコイツと似てるが『頭蓋骨骨折、脳出血』だったか。部位がはっきりしてんのは脳がそんだけ大事だって言いたいのかね」
「……ま、まあ！　取りあえずメシにしようぜ。乙夜たちもなんか終わったみたいだし……」

　乙夜と烏がトレイをもって席に座るのを横目に見ながら、潔は割り込んで話題を逸らした。愛空が乗ってきて、凛もなんだかんだで腹が減っているのか舌打ちをしてから先にタッチパネルの方に向かう。潔はほっと息を吐いた。

「隠し事が多そうだな」

　不意を突くような一言に驚き、後ろを振り向けば、そこに居たのは冴だった。今のやり取りを全て見ていたらしい。表情を変えずに潔の顔をじっと見つめてから、冴は短く息を吐く。

「俺には関係のないコトだが」

　それだけ言って去っていった冴の後ろ姿を見ながら、潔は手を強く握った。

[32 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 03:04:12]

これからどう展開されてくのかドキドキする
なんだか金城先生の過去作を彷彿とさせるものがある気がする
スレ主の文才がすごい

[33 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 09:51:41]

楽しみに待機してます！

[34 スレ主 25/07/15(火) 10:32:34]

悩んだけど安価します。

①食堂で誰かに話しかける？（話しかけるとしたら誰がいいかも教えて）

②このまま部屋に戻って部屋を改めて探索する（そのまま就寝ルート）

③その他（提案共にお願いします）

>>35

[35 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 10:52:22]

①
カイザーとネス
なんかすごい不安そうだから口に合う食べ物あったかくらいは世間話してみてほしい

[36 スレ主 25/07/15(火) 12:35:32]

　潔がタッチパネルでメニューを選ぶと、自動配膳機が開き、トレイの上に乗った料理が出て来た。様々な種類の料理があり、これが本当に出てくるのなら暫く食事には困らない……というか、隣接している厨房が一体どうなっているのか気になる。
　士道はとっくに食べ終わって食堂を後にしたようで、凪と玲王、國神と千切も食堂からちょうど去るところのようだった。
　乙夜と烏に雪宮と愛空が混じり、冴と凛はそれぞれ端で食事をとっている。そのなかで異質なのはネスとカイザーだった。二人で並んで座って、小鉢の料理を一口ずつ食べてはノートに書き留め……といった作業を繰り返している。何やら真剣な様子だ。
　潔は少し考えてから、二人の対面に腰を下ろした。

「よ、カイザー、ネス」
「……なんですかクソ世一。こっちは取り込み中です。飯の間くらい気分よく過ごさせてくれません？」
「相変わらずの言い様だな……いや、食事っていうよりは実験に見えたからさ。それ、何してんだ？」

　カイザーとネスが視線を交わす。数瞬の間があってから、カイザーが溜息を吐いた。

「実験という認識で間違いない。俺達はこの食べ物がどういう味なのかを一つ一つ確かめていた。時間経過も含めて」
「へ？　まさか、毒見！？」
「毒で殺すならここに集めた意味ないだろうクソ世一」
「もっと頭回して欲しいですね」

　二人息のあった声に潔は口元を引き攣らせた。だが、不可解をそのまま放置するわけにもいかない。咳払いをしてから手を合わせていただきますをすると、自分の食事を口に運びながら改めて続きを促した。

[37 スレ主 25/07/15(火) 12:39:43]

「味覚に疑似記憶を挿入されている可能性があると思ったが、何を食べても見た目通り、時間経過通りの味がする」

「味覚に……疑似記憶？　そんな真似するわけないじゃん」

「世一は暢気ですねえ。ここが……例えば、バーチャル空間だったら……とか考えなかったんですか？」

　バーチャル空間という言葉に潔は目を瞬いた。なるほど、そういう発想もあったのか。不可解な現実として受け止めている人間が大半であると思っていた潔は感心したように二人の顔を見比べる。

「バーチャル空間でそういった違和感を出すのって、まるで見つけて欲しいみたいじゃんか。そういったのはねーよ、多分。だから普通に飯食ったら？」

「なんで言いきれるんです？」

「えっと……勘？」

　潔の言葉に、ネスは大きく溜息を吐いた。カイザーは一口食べてはノートに記録する行動を繰り返している。どうやら止めるつもりはないようだ。

「まあ、気をはるのもほどほどにしておいたほうがいいっていう忠告ってコトで……」

「余計なお世話だ」

「うっせーよ、食堂で不審行動してるヤツに言われたくねーし！」

　その後は「それどんな味？」「クソ普通」といった他愛ない会話がなんだかんだで続き、潔が食べ終わっても続ける様子の二人を呆れた目で見てから、返却口にトレイを突っ込んだ。シャッターが閉まり、再び空いた時にはなくなっていたため、その仕組みが気になる人は気になるだろうなと面々を思い浮かべて苦笑する。

　食堂には糸師兄弟とさっきまで話していた二人しか残っていない。

「……折角だし、大浴場に行くか」

　着替えなどはロッカーに入っているのだろうか。自分達は青い監獄のジャージのままだが、正直ジャージ生活のほうが慣れているし、洗濯も楽そうでいい。世一は自室に向けて歩を進めた。

カイザー（27）

dice1d100=68 (68)

ネス（22）

dice1d100=87 (87)

[38 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 12:50:03]

継続キャラシだー！(歓喜)
そりゃ警戒もする

ちょっとは仲良くなったか？
生き残るにはみんなとコミュ取ってった方が良さそうな気がする

[39 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 13:40:51]

國神と千切は今のところいつも通り安定してそうで安心感ある

[40 スレ主 25/07/15(火) 18:29:56]

　潔は食堂を後にして個室へと戻ってきた。室内はすでに慣れたはずの空間なのに、わずかに違和感が残る。それは、あの「死因」の記述が頭から離れないせいかもしれない。
　潔は改めて部屋の備品を確認することにした。
　ベッド脇のロッカーには、ジャージと下着の替えが3セットとバスタオル、フェイスタオル、アメニティグッズ。シャワールームにはボディソープやシャンプーも完備されている。やはり、小綺麗なビジネスホテルのようだ。
　ふと思いついて壁に備え付けられたモニターを点けてみる。画面はすぐに起動し、メニュー画面が表示された。

【個室端末メニュー】
・校内MAP
・施設利用状況
・質問を送る
・呼び出し
・エンタメモード

　画面をタッチするとUIが立ち上がる。何か入力すれば、あのブルーロッ君の音声が校内放送か個室に返ってくるのだろう。しかし、潔は何も入力せず、そっと画面を閉じた。
　ポケットから生徒手帳を取り出して表紙を撫でる。固い表紙の中にICチップが仕込まれているのだと再確認するように。
　最終ページの「死因」は、相変わらずぐちゃぐちゃに塗りつぶされたままだった。見ても何かが分かるわけではない。そして、誰かに言わなければ大丈夫だ。
　潔はロッカーからタオルと着替えを手に取り、個室を後にした。
　宿舎棟の左側――脱衣所の暖簾をくぐる。
　中は意外なほど広く、まるで温泉のそれのようだ。扇風機が首を振って風を送っており、スピーカーの下にある時計はレトロなタイプ。しかし天井には空調がついていて、湯上りの身体を気遣った温度に設定されている。
　木製で統一されたロッカーや脱衣カゴが安心感を与え、ベンチや椅子まで完備されたうえ、大型の体重計や鏡まで備わっていた。千切が心配していたドライヤーをはじめとするアメニティもあるので、なかなか快適な生活が送れるのではないだろうか。
　潔はそこまで考えてから首を振って、がばっと服を脱いだ。生徒手帳だけはロッカーにいれて、脱衣かごには服を入れる。一応腰にタオルを巻いてから扉を開けると、白い湯気がもうもうと立ちこめる空間が広がっていた。

[41 スレ主 25/07/15(火) 18:42:31]

　大浴場と呼ぶにふさわしい広さで、奥には打たせ湯、壁際には洗い場、中央に大きな浴槽。湯の色はごく淡い白濁。
　誰もいないかと思ったが、二人の人物がすでに湯に浸かっていた。
　湯けむりの向こうで國神が頬杖をついており、隣には千切が肩まで湯に沈み、リラックスした様子で腕を広げて軽く会話を交わしていたようだったが、潔の姿に気づくと國神が先に口を開いた。

「潔。来たか」
「ああ。入ってたんだな」
「おう、風呂は普通に入れるみたいだ。シャワーも問題ない。お嬢はさっきサウナに入ってのぼせてたけどな」
「のぼせてねーし。國神が強すぎるんだっつーの」

　千切が口を尖らせながら笑う。國神は困ったように肩をすくめた。この空間に似つかわしくない、妙に健康的で清潔な空気が流れている。
　潔は少し間をおいてから、かけ湯をして湯に足を入れる。熱すぎずぬるすぎず、心地よい温度だった。

「……なんか、思ったより普通だな。風呂場も、湯も」
「ああ。むしろ、妙に整ってる分、不気味だよな」

　國神の言葉に、潔は無言で頷いた。千切は少し黙ってから、ぽつりと呟く。

「なあ、潔。これ、ゲームとかそういうのじゃないよな？」
「うーん、どうだろう」
「だってさ。死因とか、マスコットとか、放送とか……そういうのって、やりすぎじゃん。ドッキリにしては、えぐすぎるしさ」

　潔はその問いに答えず、湯を指ですくって眺めた。

[42 スレ主 25/07/15(火) 18:53:56]

「ま、一つ確実なことがあるぜ」
「ん？」
「潔。お前は人を殺さない」

　唐突に千切が言った。

「……は？」
「いや、なんとなくさ。ここで信じられる奴って誰だろうって考えた時に、最初に思い浮かんだのが潔だっただけ、次点で國神」
「なんで次点なんだよ」
「お前は力加減を誤ってうっかり！　とかありそうだから？」
「はぁ！？」

　騒いで湯をかけあう國神と千切にちょっと笑って、潔はそれ以上何も言わず、湯の中で指先を沈めた。ひとしきり千切をびしょびしょにして満足したらしい國神が静かに続ける。

「もし何か起きても……俺は、お前ら二人は絶対に守る。これは、信じてくれていい」
「なんで？」
「……元チームZのよしみだ」
「闇落ちしてもヒーローじゃん、よしよししてやる」
「やめろ」

　潔は「絶対に守る」という國神の言葉がじんわりと胸に響いて、不安がほぐれたような気がした。

[43 スレ主 25/07/15(火) 19:12:36]

　風呂上がりの身体が心地よく火照っている。潔は國神や千切と雑談しながら髪を乾かし、相変わらず長い千切のドライヤータイムに付き合うらしい國神と別れて部屋に戻って来て、そのままベッドに横たわった。天井を見つめながら、ふと思い出すのは食堂での会話や、「死因」の文字だった。考えても答えの出ない問いばかりが頭に浮かび、それでも身体の芯は眠りを求めていた。
　——寝よう。明日、また考えればいい。
　そうして目を閉じると、じきに意識が遠のいていく。

　ドンッ。

「んぁ……？」

　潔は目を覚まし、しょぼしょぼする目で部屋に備えられている時計を眺めた。時刻は深夜2時、丑三つである。
　どうやら潔の部屋が強い力でノックされたようだ。いったい、こんな時間に誰だろうか。潔は寝ぼけ眼のままドアを開けようとして、ふと、くだらない想像が頭を過る。
　――もし、この向こうに立っているのが、潔を殺そうとする人物だったら？
　ぞくりと背中をかけたものに潔は身震いをしてから、そのままベッドに戻った。ノックの追撃はないし、もしかしたら間違いだったのかもしれない。
　そうして目を瞑っているうちに、睡魔は潔の意識を攫って行った。

[44 スレ主 25/07/15(火) 19:16:37]

　翌朝、潔はゆっくりと目を覚ました。昨日の疲れが残っているはずなのに、身体は妙に軽い。のそのそと起き上がり、制服代わりのジャージを羽織って扉を開ける。

　途端に、嫌な匂いが鼻を刺した。

　視線を廊下に落とすと、そこには人が——

　「え……っ……」

　——千切だった。

　仰向けに倒れ、首のあたりに強い手形が見える。口はわずかに開いて黒い何かに汚れており、目は虚ろに天井を見つめていた。

　その姿を前に、潔は一歩後ずさり——そして、

「……っ、だれかっ！　誰か来てくれ！！」

　裏返った悲鳴が反響した。その声に、部屋から足音が響き始める。

誰が最初に来ると思う？

>>45

[45 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 19:20:53]

うーん　部屋も千切の隣だし國神で！

[46 スレ主 25/07/15(火) 20:16:02]

　最初に扉を開けて姿を現したのは國神だった。上半身裸にジャージだけを引っかけ、乱れた髪を手でかきあげながら廊下に出てきた彼は、潔の方へ駆けて来るなり足を止めた。

「……千切……？」

　低く息を呑む声。國神は一歩、また一歩と千切の元へ歩み寄り、膝をついた。首の手形、黒い液体が付着した口元、焦点の合っていない目。國神はそれらを見て、息を詰まらせながら、そっと指先を千切の首筋に添える。

「脈は……ない」
「……そんな！」
「潔。落ち着け」

　　國神は一度、深く息を吸い込んだ。震えかけた手を膝の上でぎゅっと握りしめ、それからようやく顔を上げてまっすぐに潔を見た。そこに責める色はない。ただ真剣で、何かを見極めようとするような目だった。その時、別の扉が開く音がした。

「……朝っぱらから何の騒ぎだ」

　現れたのは凛だった。眠たげな目をしていたが、千切の遺体に気づいた瞬間、その表情が強張る。続いて、玲王と凪が姿を見せ、さらに士道が、烏と乙夜が、ネスとカイザー、愛空が、……冴以外の全員が次々と扉を開けて顔を出す。
　ざわざわと音のない空気の中に、誰かの吐息と足音が重なっていく。

[47 スレ主 25/07/15(火) 20:17:59]

「え、嘘でしょ……？」
「千切……なんで……？」
「うわ、マジじゃん……」

　口々に声を漏らす中で、人混みから抜け出したネスが潔のそばに近づき、潔の手元を見下ろした。
　カイザーは無言のまま口元に手を添え、じっと千切の遺体を見下ろしているだけだ。その視線は何を考えているのか読み取れない。


「クソ世一、手が震えてますよ。……もしかして、君が？」
「違うッ！！　違う、俺は——！」

　潔が即座に否定する。だが、否応なく注がれる視線の数々が、その言葉の強さすら疑念に変えてしまう気がして、喉の奥が焼けるように痛んだ。
　すると、場に不釣り合いなほど軽やかな電子音とともに、廊下の天井からブルーロッ君の声が流れた。

「——校内における死亡者を確認。該当者：千切豹馬。状態：死。儀式まで残り6人」
「儀式……？」

　　放送が止むと同時に、空間に奇妙な沈黙が広がった。誰も、次の言葉を持っていなかった。

[48 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 21:48:43]

兄ちゃん？来てあげてくださいよ！才能の原石ﾀﾋんでますよ！？

[49 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 21:49:21]

>>48

部屋の中で兄ちゃんも死んでるかもしれないだろ！

[50 スレ主 25/07/15(火) 21:53:31]

「……刺殺とちゃうんやな」

　ぽつりと落ちた言葉に、数人が顔を上げる。烏は千切の首元から視線を上げるなり、軽く眉をひそめて全員を見遣った。乙夜が呆れたように肩を竦める。

「やって、あったやろ、立派なナイフが。俺と乙夜の部屋にあったのを確認しとったから、全員の部屋にあるもんやと思っとったけど……」

　その言葉に、場が揺れた。

「ナイフ？」
「え、どこに？」
「俺、見てないけど……」

　次々に声が上がり、混乱が広がる。誰かが駆け出したのを皮切りに、他の者たちも一斉に自室へと走り出していった。廊下にばらばらと足音が響き、空気が慌ただしくなる。
　その騒ぎの中、今まで姿を見せていなかった冴がようやく部屋から姿を現した。眠そうでも苛立ってもいない、ただ煩わしそうに眉をひそめている。

「……何の騒ぎだ？」
「部屋にナイフがあったって話になってんだよ。俺もこれから確認に行くとこ♪」

　冴は一瞬だけ目を伏せ、それから小さく息をついて呟く。

「……ここは自分に割り当てられた部屋もまともに確認しないバカばっかりだったのか？」

[51 スレ主 25/07/15(火) 21:58:43]

　その言い草に何人かが目を細めたが、今は追及する空気ではなかった。ややあってから全員部屋を確認し終えたらしく、その場に残っていた乙夜と烏、冴と凛、カイザーとネス、そして潔を除いた皆が再び廊下に戻り、沈黙が落ちる。そんな中で、潔がぽつりと呟いた。

「……夜中、俺の部屋のドアが叩かれた。ドンって、強く……二時くらいだったと思う。目が覚めたけど……開けなかった」
「それって……その時点ではまだ千切、生きてたってことか？」
「つまり犯人は、その時間帯に……」
「今部屋に確認に走った、ナイフの事を知らない人間が疑わしいな。ナイフで殺してないってコトは」

　疑念が交差する。誰かが息を呑む音が聞こえた。疑いの視線が、無差別に廊下をさまよい始める。
　誰もが、自分以外の誰かを疑っている。

「ナイフ、どうして確認にいかなかったんですか？　世一」
「え、だって、千切の死体をこのままにしておきたくなくて」

　チームZからの付き合いである千切の死体をこのままにするのはあまりにも人らしくないだろう。凶器を確認するのも大事だろうが、潔はそれを優先した。ネスはその説明に眉を寄せて何事かを考えているようだ。潔の答えに明確な矛盾はない。それでも、どうにも潔へのあたりが強いのは、ただの疑念では済まない何かがあるからかもしれない。

[52 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 21:59:16]

良かった、冴くん生きてた。良かった…

[53 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 22:05:27]

にいちゃ…頼むから死亡フラグたてないでくれ…

[54 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 22:12:00]

潔、ひょっとして、前ターンでカイザー殺したことあるのか？

[55 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 22:27:36]

部屋に確認に行ったのは國神 雪宮 凪 愛空 玲王 士道か？つまりこの中に……！？

[56 スレ主 25/07/15(火) 22:30:39]

「潔は、犯人じゃない」

　國神が低く、しかしはっきりとした声でそう言った。全員の視線が彼に向く。國神はまっすぐに潔を見据えたまま、言葉を続けた。

「昨日の夜、千切と潔と、三人で風呂に入った。……俺はそのとき二人のやりとりを見て……今みたいな結末になるなんて、とても思えなかった。潔があんなやりとりをした後に人を殺すなんて……俺には、思えない」

　國神は拳を握り、手を震わせながら千切の死体をじっと眺めている。昨晩、確かに千切は生きていた。千切が言った「お前は人を殺さない」という台詞がリフレインする。

「でも、それって風呂にいた時点の話ですよね？」

　割って入るように、ネスが声をあげた。淡々とした口調の裏に、明確な警戒心が滲んでいる。

「俺はその後、部屋に戻って寝た。ドアを叩かれて起きたけど、開けずに寝直した。本当だ！」

　潔がそう言うと、数人が顔を見合わせた。静寂の中、不意に誰かが振り返って言う。

「……雪宮。お前、ずっとそこにいたのか？」

　気づけば、雪宮はずっと壁際に立っていた。目を伏せ、黙ったまま。

「え、ああ。最初からいたよ。潔が叫んだとき、ちょうど廊下に出たところだったし」

　ゆっくりと顔を上げた雪宮は、どこか他人事のように笑った。
　その笑顔が妙にぎこちなく、無理に作られたもののように見えたのは、気のせいだろうか。

[57 スレ主 25/07/15(火) 22:32:54]

「取りあえず、死体、どうする？　ここに放置しておくのもどうかと思うんだけど」
「……ゴミ捨て場、見たか？」
「え？」

　冴は目を細めてゴミ捨て場がある方角を向いた。あそこはドアが閉まっており、中に何があるかわからないようになっていたため、潔もわざわざ行くこともないだろうと後回しにした場所だ。

「あそこの中には一般的なゴミの分別とは他に、棺もあった。隣にはそれを焼く設備も整っている。……つまり、あそこは火葬場というコトだ」
「ふざけんな！　千切を焼けってのか！？」
「どうどう、落ち着け落ち着け。天才ちゃん、いきなり焼けってのは乱暴だろ。葬式くらい上げたくなる気持ちも分かれ？」
「……フン。死体を放置して腐らせるよりはいいと思っただけだ」

　そっぽを向いた冴は、そのまま場を後にして部屋に戻ってしまった。愛空は國神を押さえつけているため追いかけられず、そのほかの人間は冴の動向にあまり興味がないようだ。
　凪は手持ち無沙汰にジャージの袖を引っ張っていたが、玲王の手が軽くその手首を掴み、引き戻した。それから、二人で玲王の部屋に入っていく。

[58 スレ主 25/07/15(火) 22:34:08]

「……死体を置いておくにしても、どこに置くかだよ。千切の部屋でいいかな……ベッドに寝かせておいてやろうぜ」
「……そうだな」

　潔と國神が千切の死体に近寄ると、乙夜と烏、そして愛空が死体に近寄った。手伝うつもりなのか、興味なのか。ネスとカイザー、凛は逆に離れて部屋に戻るようで、士道がゴミ捨て場に向かうのを雪宮が追いかけている。
　潔が千切のポケットを探って生徒手帳を取り出した時、乙夜が「あ」と声をあげた。

「なあ、お嬢の爪。……黒い液体、ついてね？」
「え？」

　言われて見て見ると、千切の爪の間に黒い液体がこびりついていた。黒い液体といえば、千切の口元にもついていた。國神は千切の硬直が始まった手をとってうやうやしく眺めてから、目を見開く。

「……皮膚だ」
「は？」
「皮膚片がある。つまり、千切は誰かを引っ掻いたんだ」
「ちゅうことは、や」

　烏が後を引き継いで顎に手を当てる。死体を前にしているとは思えないほど冷静に状況を検分し、彼はそのまま言葉を紡いだ。

「ひっかき傷があるヤツが犯人ってなるんちゃうん？」

[59 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 22:37:08]

早いけどこの時点で國神はシロって信じたいかな
千切の遺体を見るに手で絞めてるならテンプレ的に引っ掻くのは多分手首〜腕にかけて＆國神はこの場面での登場時上裸で該当するあたりは露出している
だから

でもこれダ◯ロンと違うから千切と親しい人の気持ちの問題以外の面で犯人見つける必要ないんだよね…

[60 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 22:37:57]

つまり士道が裸ジオ体操をしていなければ怪しい……！？

[61 二次元好きの匿名さん 25/07/15(火) 22:42:40]

カイザーとネスめちゃくちゃ警戒しててすこ
凪がジャージの袖引っ張ってるの気になるけど特に何も関係ないかもしれない

[62 スレ主 25/07/16(水) 00:14:31]

　烏の言葉に、一瞬の沈黙が落ちる。乙夜が視線を動かし、愛空が口元に手を添えて何かを考えるそぶりを見せる。國神が言葉を失って、震える吐息を飲み込んだ。
　引っ掻いた痕。皮膚片。黒い液体。これらは十分、証拠になりうる。

「ってことは、だ」
「……全員の腕を見りゃいいのか？」
「いや、俺達はジャージを着用してるだろ。引っ掻くなら顔とか……首とか」
「顔に傷があるやつ、いたか？」

　乙夜、國神、愛空が口々に話始めたところで、潔は自分のジャージを脱いだ。ジャージの下に着ているTシャツも部屋に備え付けてあったもので、ライムグリーン一色の眩しいTシャツだ。
　半袖になった潔の腕に、当然ひっかき傷はない。そんな潔を見て、國神もそれに倣ってジャージを脱いで上裸を晒すなり、無言で腕を出す。

「言うた手前しゃあないのう」

　烏はダークブルー、乙夜は若草色、愛空はネイビーと蛍光イエローのTシャツを着用していた。それぞれ、その腕には傷らしいものは見当たらず、また、ジャージで隠れていた首にもひっかき傷のようなものは見当たらない。

「つまり、このメンバーはシロ判定ってことで」
「そうだな、他は……御影、凪、ネス、カイザー、糸師兄弟、雪宮、士道……8人か」
「かぁ～～ッ、多いわ！　しかもどいつもこいつも同意せんような奴らばっかりやないかい」

　國神が指折り数えた面々に、烏がぴしゃりと頭を叩いた。潔はジャージを改めて着込みながら、改めて手にしたままだった千切の生徒手帳を見下ろす。表紙の角が少し擦れており、ページの端がひどく折れていた。それを直そうとして最後のページがぱらりと開かれた時、そこに書かれていた文字が皆の前に晒される。

[63 スレ主 25/07/16(水) 00:16:18]

「なんて書いてある？」

　愛空がひょいと潔の手元を覗き込んで「は？」と声を出した。
　続けて國神、乙夜、烏も覗き込むが、動揺に首をひねる。

「心タンポナーデ……って、何？」

　乙夜の言葉に、愛空が苦々しい顔をしながら低い声でぶつぶつと呟き始めた。

「心臓が圧迫されると、拡張して血液を取り込むことができなくなって、ポンプ機能が著しく低下しちまう。このせいで全身への血液供給が不足してショック状態に陥り、最終的に心臓が停止して死亡する。この現象のことだな」
「キャプテンなんで知ってんの？」
「昔付き合った女がミステリーオタクで、こういうのを仕込まれてんだよ……あー、思い出して胃痛が……」
「いや付き合う相手くらい選べよ」

　思わず突っ込んだ潔に愛空は笑った。

[64 スレ主 25/07/16(水) 00:19:43]

「心タンポナーデは、出血性ショックと異なってな、ある程度の時間が経過してから症状が顕著になることもあるが、急速に進行すれば致死なんだと」

「病死ってこと？　でも首に痕が……」

「口元の黒い液体は？」

　次々と上がる疑問の声。

　死体の状態と、手帳に記された死因との食い違いに、全員の脳が追いつかない。千切は、病気で死んだのか？　誰かに殺されたのか？　いや、この状況は他殺でしかありえない。

「つまり、手帳の死因と今の死因は関係ねぇのか？」

「てかこの黒い液体は……何だ？」

　國神が千切の指先に鼻を近づけてすん、と臭いを嗅ぐ。それから思い切り顔をしかめた。

「……血の臭いがするな」

「おかしいんとちゃう？　酸化したにしてももうちょい時間かかるやろ」

「だよなー、わけわからんコトだらけでわかんねーから、とりま身体検査からいっとく？」

　乙夜の提案に、全員が顔を見合わせた。

「やるか。このまま疑心暗鬼が広まってもよくねえしな」

　愛空が力強くそう宣言し、國神が頷く。烏と乙夜は目線を交わしてから肩を竦め、潔もまた、控えめに頷いた。

　――「犯人を見つけたらどうするつもりなんだ」という言葉を飲み込んで。

誰から身体検査する？

玲王、凪、ネス、カイザー、凛、冴、雪宮、士道

>>65

[65 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 00:48:48]

なんとなく様子の不自然だったユッキーで！

[66 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 08:37:51]

疑心暗鬼はよくないが…犯人探しも危険やぞ！
ドキドキする…

[67 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 11:55:35]

死因書いてある人が“前回”死んでて塗りつぶされてる人が生き残ったのかと思ったけど
死因書いてある人が“今回”死ぬ方があり得るのかな、でも書いてある死因は違うのか
他の人の死因の書かれ方が気になるけどこの状況では明かしてくれなさそう

認識書き換え系だと黒い液体になるタイプの神話生物が自分を人間だと思い込んでいる可能性もあるかな
そもそも最初の方の殺人では全員殺していないor強制発狂か無意識に操られて殺したとかありそう、時間経過で必ず死人が出るタイプ

[68 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 13:16:21]

國神千切は本当に安心感あるなあとか思ってた矢先にこれだよ

[69 スレ主 25/07/16(水) 13:32:17]

「……次、雪宮でいんじゃね？」

　乙夜の声に、数人の視線が壁際に向いた。雪宮はその場にいない。当然だ。

「さっき、士道のあと追ってっとったな。……ゴミ捨て場やったっけ、あの方向」

　烏が顎で方向を示すと、國神が一歩前に出た。愛空が軽く肩を掴んでその動きを制御する。

「……一番ぎこちなかったの、雪宮だったよな。確かに、あいつから見せてもらえたら皆安心するかも」

　潔の言葉に皆が頷いた。千切の死体を國神と愛空が持ち、潔が千切の部屋を開けば、ほとんど潔の部屋と同じような状態の室内が目に入る。國神と愛空がベッドに千切を寝かせたところで、潔はそっと机の引き出しを開けた。中にはナイフと、その下にノートと筆記用具が入っている。おそらく、食堂でノートを書いていたネス達はあの時にはもうナイフの存在を認識していたのだろう。
　そのあとは特に合図も何もなくぞろぞろと廊下を歩き、他の扉よりも重いドアを開けて、ゴミ捨て場に入っていく。
　中は薄暗く、ゴミ捨て場特有の妙に甘い匂いが漂っていた。奥にドアがあり、おそらくあそこが焼却炉に続いているのだろうとすぐわかった。なぜなら。

「……棺桶」

　乙夜が指差した先には、木製の棺が七つ、無造作に並べられていた。

「やべー場所だな……完全に遺体を置くための場所じゃん」
「およよ？　大勢でどーしたの？」

　愛空の呟きに反応する形で振り向いた士道が嬉しそうに笑っていた。雪宮は潔達からさりげなく目線を逸らす。

「今、ちょっと身体検査をしててな。ジャージを脱いで貰っていいか？」

[70 スレ主 25/07/16(水) 13:53:48]

「ふーん」

　興味なさそうな返答とは裏腹に、士道はジャージを躊躇いなく脱いだ。その下にはTシャツを着てすらいない。上裸である。その小麦色の肌にはぱっと見傷跡など見当たらない。
　烏と愛空が近づいて、愛空が士道の腕を掴んだ。潔も近寄るものの、そこに傷らしきものは見当たらない。烏が潔に目線をよこし、小さく首を振った。首にも痕がなかったのだろう。

「なんかお目当てなかった感じ？　もう一枚いっとくか？」
「ちょ、待て馬鹿！　誰もお前の全裸見たかねえよ！」

　ズボンを下ろしかけた士道を潔と愛空が同時に止める。士道は「えー」と不満そうに口を尖らせながらも、しぶしぶTシャツを下ろした。

「ここは通行止め。身体検査のお時間でーす」

　國神と乙夜は部屋の出入り口に陣取っていたらしい。雪宮は苦々し気に顔を歪めてから、長々と溜息を吐いた。

「なんで身体検査されなきゃいけないんだ」
「千切が最後に犯人を引っ掻いた可能性がある。ひっかき傷のある人間が犯人の可能性が高い。だから、お前の潔白を証明してくれ」

　潔が真っ直ぐに告げると、雪宮は黙って自分のジャージのチャックを下ろした。中に着込んだ赤橙のTシャツが眩しいが、するりと落とされたジャージによって見せられた両腕には傷がない。
　潔が息をつきかけたその時、國神が目を見開いて雪宮の胸倉を掴んだ。乙夜が髪をそっと持ち上げる。長めの前髪と後れ毛が肌を覆っていたその下に、赤黒く腫れた細い引っ掻き傷があった。

[71 スレ主 25/07/16(水) 14:41:53]

「……これ、何の傷？」

　乙夜が静かに問いかけた。雪宮の首筋を人差し指でとんとんと叩きながら、言葉を濁さずに。その場の誰もが、言葉を待っていた。
　雪宮は口を引き結び、視線を床に落としたまま、ぽつりと答える。

「……俺が、自分でひっかいた」
「は？」
「自分で……？」
「嘘だろ」

　ぽかんとする烏、訝しむ愛空を置いて、強い口調で言いながら國神が一歩前に出て雪宮を押した。雪宮を見る目には怒気が満ちている。

「ふざけんなよ……千切のこと、なんだと思ってんだ……」
「本当のことを言ってるだけだよ。昨日の夜、ずっとイライラしてて……シャワーを部屋で浴びたんだけど、なかなか乾かないし、髪が顔にかかるのがうざくってさ。合わないシャンプーだったのか、首筋もなんだかかゆいし、かきむしっただけ」

　淡々とした声だった。でもその淡々さが逆に、嘘を言っているように聞こえる。

「……じゃあ何で黙ってた？」

　愛空が問いかけると、雪宮はほんのわずかに顔をしかめた。

「黙ってたわけじゃない。言うタイミングがなかっただけ」
「言うタイミングなんて、いくらでもあっただろ！」

　國神が怒鳴るように言った次の瞬間、拳を構える。だがその腕を、潔と愛空が同時に抑え込んだ。

[72 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 14:51:13]

うぉぉ…ドキドキする…

[73 スレ主 25/07/16(水) 14:56:26]

「やめろ、國神！」
「落ち着けって……今はまだ確定じゃねえんだよ！　殺す動機がねえだろ！」

　國神の肩がびくりと震えたまま、ぴたりと場が凍りついた。その沈黙を破ったのは、後ろから聞こえた複数の足音だった。

「……何の騒ぎだ？」

　振り返ると、ネスとカイザーが揃ってゴミ捨て場に入ってくるところだった。顔をしかめ、ネスが顎を引きながら場を見回す。
　國神を抑え込んでいる潔と愛空。胸倉を掴まれている雪宮。一歩引いて全体を観察している乙夜と烏。乱闘騒ぎを期待してか、ニヤついている士道。それらの顔を一通り見渡してから、カイザーと目線を合わせた。

「……世一じゃなかったってワケだ」

　その呟きに、今度は潔の方が目を見開いた。この主従、潔に対するあたりが強すぎやしないだろうか。潔が流石に声を上げようとしたところで、國神が雪宮の胸倉を掴んだまま唸るような声で言った。

「お前らも脱げ、傷があるか確かめる」
「傷？　なんの話だ」
「千切が犯人を引っ掻いてるんだ。犯人にはひっかき傷がある可能性が高い」
「あいあい、そーゆーコトね」

　カイザーは國神の言葉を鼻で笑い、青い髪をふわりと広げた。青薔薇があらわになり、首筋がはっきり見える。ジャージの前をあけ、そのまま下膊を晒してみせた。そして、皮肉るように笑う。

「これでいいか？　というか、そもそも反抗はナイフの存在を知らない人間に絞った方がいいと思うがな」
「つまり、凪誠士郎、御影玲王が怪しいって言いたいんだね？　カイザー」
「ああ。どうせここに居る人間は全員身体検査を済ませているんだろう？」

　カイザーは全員の視線を受け取ってから、合図も待たずにさっとジャージを着直した。ネスに目線をくれれば、ネスも同じように傷のない肌を晒してからささっとジャージを着る。傷に関する潔白はこれで証明された。

[74 スレ主 25/07/16(水) 15:07:20]

「……この二人もこう言ってることだし、部屋に戻ったっぽい二人を確認しに行ったら？」
「……」

　國神は黙って雪宮を睨みつけたまま、動かない。雪宮は両手を上げて微笑んだ。ぎこちない微笑みを見て、潔はそこで雪宮が眼鏡をかけていないことに気が付いた。
　愛空が國神の肩を叩いたことで、雪宮が解放される。雪宮はわざとらしくせき込んでからジャージを着直して、チャックを上までしっかりあげる。例の傷跡も隠れてしまった。

「じゃ、いってらっしゃい」

　舌打ちした國神が肩をぶつけて立ち去ろうとしたその時、出入り口から退いたカイザーが双眸を細めながら雪宮に声をかけた。

「露骨に安心したな。流石に膂力で勝りそうな男二人は怖かったか？」
「……君までなんだよ。そりゃ疑われたら怖いさ」
「ふぅん」

　その言葉を聞いて、カイザーは満足したのか「行くぞ」とネスに声を掛けて一番最初にゴミ捨て場を出て行った。雪宮もその後に続いて出ていき、士道が「つまんねーの」と言って歩いていく。烏と乙夜、國神と愛空、潔がその場に残った。

「……御影と凪の身体検査をする」
「難しいと思うけど。だってあの二人っていうか、御曹司のほうがべったり過保護じゃん」
「潔白のためって言えば協力してくれるんじゃねえか？」

　國神の言葉に冷静に突っ込む乙夜と、なんとか折衷案を出そうとする愛空。烏は顎に手を当てて何事かを考えているようだった。おそらく、この中で一番観察眼が鋭いのが烏だ。何か彼にしか見えていないビジョンがあるのだろうか。

[75 スレ主 25/07/16(水) 15:27:13]

「烏はどう思う？」
「んー……まあ納得せんと動かん奴もおるやろうし、身体検査はしといたほうがええな。けど……乙夜」
「ちゅーす」

　烏に呼ばれて、乙夜がふざけて敬礼をした。それから、するりとドアを開けて外に出ていく。

「……今のは？」
「雪宮の監視に行ってもらってん。アイツなら早々バレる事もないやろ」
「おお、忍者の末裔は流石だな」

　大袈裟に感心した素振りを見せる愛空に、なんとなく場の雰囲気が和んだ。こういった所が、この男の器なのだろう。國神も幾分か力が抜けた様子で、大きく息を吐いた。

「……守るって言ったのに守れなかった俺が情けねぇからって、人に当たってたらしょうがないよな」
「お前は情けなくなんかない！　誰も千切が殺されるとは思わなかったって」

　潔がフォローするも、國神は力なく笑うだけだ。その背中を愛空と烏が交互に叩く。バシンといい音がした、かなり痛そうだ。

「ま、それじゃあ身体検査に行こうや」

　烏の一声で、全員が玲王の部屋に向けて動き出す。潔は一度振り向いて棺を確認してから、一番最後に扉を閉めた。

[76 スレ主 25/07/16(水) 16:31:03]

　廊下を進む足音は自然と重くなる。やがて扉の前で立ち止まってノックをすると、少ししてから薄く扉が開き、玲王が警戒心を露わに顔をのぞかせた。

「なに？」

　苛立ちというよりは子猫を守る母猫のような警戒心が詰まった声音だった。國神が潔を制して前に出る。

「身体検査をしてる。ひっかき傷の有無で、潔白を確かめてるんだ。……協力してくれ」
「はぁ？　なんだよそれ。俺達が協力する義理あんのか？」
「殺人犯だと思われたままでいいのかよ」
「知らね、勝手にやってれば。人殺しとか、冗談じゃねーっての。凪に傷とかあるわけないし」
「だから、それを証明しろって言ってんだよ」

　段々と扉を開いて怒鳴り合うようにして声を張り上げていく二人にいつ割り込むかと全員が気をはっていると、玲王の後ろから手が出てきて、がばりと扉が開かれた。凪が後ろに立っており、面倒くさそうに息を吐く。

「……うるさいし、めんどくさすぎ。ぬげばいいんでしょ」

　凪が先に動いた。するりとジャージを脱ぎ、ブラックのTシャツ一枚になると、腕と首を見せる。
　――見事に、傷ひとつない。

「……問題ないな」
「じゃ、次。御影」

　烏にそう促され、玲王は露骨に顔をしかめたが、仕方なさそうに舌打ちしながらジャージの前を開いた。パープルのTシャツがあらわになったところで袖を捲り、腕を晒す。玲王にも傷はなかった。

[77 スレ主 25/07/16(水) 16:54:01]

「……シロ、だな」
「ってことは」
「やっぱ、雪宮……」
「は？　何？　アイツがどうかしたワケ？」
「実はな、アイツ……」

　愛空が後ろから事情を話そうとしたところで、廊下の奥から乙夜が戻ってきた。

「ちゅーす」
「……どうだった？」
「うーん、あいつの部屋、ちょっと血の臭いしたよ。中までは見てないけど」
「やっぱ黒じゃねえか……！」

　國神が低く唸るように言った次の瞬間、踵を返して雪宮の部屋に向かって走り出す。何が何だかわからない様子の玲王が不安そうに凪を見るが、凪は我関せずとベッドに戻っていった。二人はこのまままた部屋に篭ってしまうだろう。
　愛空、烏、乙夜、潔は國神を追いかけるが、國神はその拳を雪宮の部屋のドアに叩きつけた。ドンドンドン、と重いノックが響く。

「開けろ、雪宮！　中にいるんだろ、返事しろ！」

　数拍の沈黙の後、バン、と音を立ててドアが開いた。現れた雪宮は目を細め、言葉を吐き捨てる。

「……うるさいな。ドアが壊れたらどうするんだよ」
「ふざけんなよ……千切を殺したの、お前なんだろ……！」

　次の瞬間、國神が雪宮の胸倉を掴んで血を吐くようにそう言った。雪宮はそれを突き飛ばそうとして足を縺れさせ、もみ合う二人がそのまま部屋の中へと転がり込む。
　潔と愛空が慌てて追いかけた。乙夜と烏は何事だとドアを開けて出て来た面々を警戒しているようだ。

[78 スレ主 25/07/16(水) 17:19:32]

「國神！　やめろ！」
「止まれ！」

　國神を押さえ込もうとした愛空と、雪宮に手を伸ばした潔が、それぞれの体を抑え込む。愛空の力でもキレた國神は抑え込むのが難しいのか、羽交い絞めにしてもじたばたしているようだ。

「雪宮、殺したなら教えてくれ。なんでお前が千切を殺したんだ？」
「だって……夢では死んでたんだ。生きているから、おかしいと思って……！」
「ふざっけんな！　何が夢だ、そんなのに逃げてんじゃねえよ！」
「だっ、待て待て！」

　愛空が拘束から抜けそうになる國神と必死に戦っている。ずっと制止役を買って出てくれている愛空の負担はいかほどだろうか。そんな風に一瞬よそ見をしたのがよくなかったのかもしれない。雪宮の手が、潔の首に回された。

「っ……！」
「雪宮、やめ……っ！」

　予想以上に強い力だった。このままだと、千切と同じ末路を辿るかもしれない。圧迫される喉の苦しさに顔を歪めた潔は、咄嗟に雪宮の足の甲を踏みつける。唯一狙える急所がそこだったからだ。

　「ッ……！」

　呻いた雪宮がバランスを崩したその刹那、潔は両手を突き出した。雪宮の体が背中から倒れ、次いで——

[79 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 17:31:00]

ひょっとしてみんなすでにわりと正気じゃない…？
何周かしてそうってこと考えたらそりゃそうか…

[80 スレ主 25/07/16(水) 17:48:10]

　ゴンッ。

　鈍い音が、部屋に響いた。雪宮の頭が机の角にぶつかったのだ。
　そのまま、崩れるように倒れた雪宮は、動かなかった。

「……う、そ……だろ……？」

　潔が呟いた。國神も、愛空も、黙ったまま雪宮を見下ろしている。
　静かに、床に広がっていく血の色——それは、何故だか不気味に黒かった。

「……黒い。血……黒……」
「もしかして、お嬢の血も……黒だった……？」

　乙夜と烏の冷静な言葉に対し、國神と潔は全身を震わせていた。雪宮に手を伸ばすこともせず、ただただ見守ることしかできない。
　——そのとき。廊下のスピーカーから、機械的な声が響いた。

「――校内における死亡者を確認。該当者：雪宮剣優。状態：死。儀式まで残り5人」

[81 スレ主 25/07/16(水) 18:08:50]

　ブツ、とノイズめいた音が走ってから、潔は息を吸い込む。

「違うんだ！　殺そうと思ったワケじゃない！　首を絞められたら、こわくって……つい……！」

　震える声で潔が叫んだ。全員の顔を見渡し、國神に目が止まる。静かにその言葉を聞いていた國神は「わかってる、大丈夫だ」と、小さく返した。だが、その視線は潔をまっすぐ捉えることなく、どこか宙を彷徨っていた。握られた拳が微かに震えている。

「まず、落ち着こうぜ」

　愛空が、いつものように低く通る声で口を開いた。目線は死体の方へ向いている。

「このまま放っておくのは可哀想だろ。いくら人殺しといってもな。せめて、ベッドに寝かせようぜ」

　それは、誰にともなく向けられた提案だったが、誰も反対しなかった。國神が頷き、潔が動き、烏と乙夜が手伝う。愛空の手によって持ち上げられた雪宮の遺体からはいまだに出血が見られるため、その下に烏がタオルを敷き、額に流れた血をそっと拭った。タオルに滲んだ血は、乾きかけた墨のように鈍い黒だ。

[82 スレ主 25/07/16(水) 18:19:37]

「なんか、インクみたい」

　思わず呟いた乙夜に烏がちらりと目線をよこすが、何も言わない。黙々と血痕を拭き取る。國神が床に飛び散った血をタオルで掬うように拭いている傍らで、潔は固く口を結んだまま、雪宮がぶつかった衝撃で落下したメガネを拾い上げた。何も言わず机の上に戻したところで、ふと影がかかる。

「なあ」

　唐突に、烏が声を発した。清掃用のタオルを手にしながら、その双眸で潔を見つめる。

「ほんまに……殺そうと思ったワケとちゃうん？」
「あたりまえだろ！」

　潔が反射的に叫ぶと、部屋にいた全員が視線を向けた。潔はぶるりと全身を震わせて黙り込む。そんな潔の様子に烏はほんの一瞬だけ目を細めると、「ふうん」と一言だけ返し、それ以上何も言わなかった。

「汚れたタオルは俺がランドリーに持っていってやるよ」

　愛空は潔の肩をぽんと叩いて、全員のタオルを回収した。完全には掃除しきれなかった血の痕が残っているが、これ以上は清掃道具を探さないと難しいだろう。ぼんやり見ていた潔は愛空が「気に病まなくていい」と言ってくれたことにこくりと頷いた。

「ほな、俺はこれで」

　烏がそう言って、部屋から出て行った。乙夜も後に続いて出ていく。残された國神と潔は気まずげに目を合わせて、それから、國神は潔を置いて部屋を出て行った。



次どうする？まだ学校の探索もしてないし、雪宮の言っていた「夢」について誰かに聞きにいってもいいし。
千切の生徒手帳は潔が持ってるし、まだ雪宮の部屋にいるから、千切か雪宮の死体を詳しく調べてもいい。
かなり非線形だから提案があればまとめて飲む場合もあるので、ご意見お願いします。

[83 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 18:53:13]

全部気になるといえば気になるけど
今しかじっくり見れなさそうだからまずは死体調べるに一票(細工される可能性もあるし)

以前のループの記憶が朧げに残ってるのが夢として出ているのか？
タイトルが赤い罪なのに血が黒い(インクに似ている？)のとか気になる〜生徒手帳の死因の文字が赤色なのもちょっと関係しているのかな
雪宮の今の死因は脳挫傷かな、記述変わってるんだろうか

[84 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 19:06:59]

部屋の中血の臭いがしたみたいだから部屋の中調べてほしいかな
あと雪宮の生徒手帳も見れるならみたい

[85 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 19:14:06]

雪宮の生徒手帳見られるなら死因がどうなってるか確認したいかも

[86 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 19:25:09]

今しか見られない雪宮関連を調べるのは賛成なんだけど
犯人(というと悪いけど)がそれするとめっちゃ怪しくね？と思うので誰かと一緒に行動したいね

[87 スレ主 25/07/16(水) 19:36:58]

方針は

・雪宮の部屋を調べる

・雪宮の生徒手帳を調べる

・雪宮の死体を調べる

でいいかな？

今潔しか部屋にいないから、誰を頼るか。

>>88

[88 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 19:44:05]

愛空

[89 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 19:48:15]

カイザーとネス明らかに潔を最初から最後まで疑ってて草
二人の疑い通りもうやっちまったよどうするんだ

[90 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 19:59:34]

案外「夢」でそういうシーンがあったのかも？普通に一番疑ってる方が割合高そうだけど
潔も夢見てたらなー、まあSANが減って殺人癖強制発狂もあり得る気もするが

[91 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 20:29:12]

>>39

読み返してたら見事なフラグが…

[92 スレ主 25/07/16(水) 22:34:53]

　部屋には、もう誰もいない。
　雪宮の死体だけが、血の滲むタオルに頭を預けたまま、静かに横たわっていた。潔はその姿を見下ろしながら、拳を握りしめる。
　しかし、そうしていても時間は元には戻らないし、何も進展しない。潔は小さく息を吸い、視線を机の上に向けた。先ほど拾い上げたメガネの隣に、もう一つ、目に付くものがあった。
　雪宮の生徒手帳だ。
　手に取ってパラパラと捲ると、死因欄に記されていた文字に目が止まった。
　そこに記されている死因は、相変わらず「失血死」のままだ。いや、文字列として目にしたのは初めてであるが、雪宮から昨晩聞いていた通りである。

「お、火事場泥棒？」

　開けっ放しの雪宮の部屋のドアから、士道が部屋の中を覗き込んでいた。潔は生徒手帳を胸に抱えて、どきどきと跳ねる心臓の音を聞く。士道はそんな潔を面白がるように笑うと、ひらりと手を振ってその場を後にした。
　――このまま一人で探索していると疑われる。
　潔は慌てて部屋を飛び出した。向かう先はランドリーだ。そこに向かった愛空の姿を思い出しながら、廊下を駆ける。
　ランドリーのドアを開けると、ちょうど洗濯機を回そうとしていた愛空がいた。飛び込んできた潔に目を丸める。

「おいおい、どうした？」
「愛空……お願いがある。雪宮の部屋、一緒に調べてほしい」

　愛空は顎に手を当てて擦り、暫く考えるような間を置いた。それから改めて洗濯機を回すと、潔の両肩をぽんと叩く。

「よし、いいぜ。お前もドイツのお二人からかなりきつくあたられてるし、アリバイ作りに俺といるのは悪いコトじゃない。力になるぜ」
「ホントか？！　ありがとう！」

　感謝されてまんざらでもないようで、愛空は少しばかり照れたようにはにかんだ。潔は雪宮の生徒手帳を見せ、そこにある死因を教える。愛空は僅かに眉をひそめた。

[93 スレ主 25/07/16(水) 22:38:26]

「失血死……じゃねえよな？　唇とか歯茎から出血してたって感じでもなさそうだった」
「うん。明らかに……えっと、なんだっけ、脳挫傷？　とかのほうが合うと思うのに」
「これアテにならなくなってきたな。じゃあまあ、死体を念のため調べてみるか」

　洗濯機が回るゴウンゴウンという音を聞きながら、二人で雪宮の部屋に戻る。凛とすれ違ったが、凛は潔に一瞥もくれなかった。

「っていうか、乙夜が言ってた血の臭いっていうのも気になるんだよな。どこからしたんだろう」
「最初にそれを見つける必要があるか」

　愛空とともにぐるりと部屋を見渡す。今や鉄錆の臭いでいっぱいになってしまったこの部屋で、ぱっとわかるもの。机は頭を打ち付けた箇所なので、もしそこなら手掛かりはない。ロッカーにも血が付いている様子はない。シャワールームの扉にもない。
　そこで潔はふとゴミ箱に目を止めた。それから。口元を覆う。そこには血の滲んだティッシュが突っ込まれていた。潔は摘むような仕草で取り出し、広げようとして——躊躇った。そんな潔の様子に気付いた愛空が代わりにそっとそれを確認し、首を傾げる。

「こんなのの血の臭いを嗅ぎ取れるのなんてそういないだろ。すげーな忍者の末裔……」

　そう呟きながら潔の手からティッシュを取り上げ、ゴミ箱に放り込む愛空に対し、潔は不意に雪宮の死体の方を振り返った。

「……あのさ。確かめていい？」
「おう。俺が付き合ってやるよ。何か気になってんだろ？」

　潔と愛空は互いに頷き、雪宮の遺体に向き直る。それから、まだ柔らかい雪宮の死体に触れ、　Tシャツの裾をめくってみるものの、腹部には外傷などない。愛空もそれはわかっているようで、潔が何を確かめたいのかと問う視線をむけるばかりだ。

[94 スレ主 25/07/16(水) 22:39:52]

　だが、潔が鎖骨のあたりまでTシャツをたくしあげると、とあるものが目に入る。

「……なんだこれ」

　愛空が息を呑んだ。中央から少し左、心臓の真上。
　そこには——小さなタトゥーが刻まれていた。

「……蛇、か？」
「みたい、だけど……あいつ、こんなタトゥーしてたっけ。モデルだし、気を遣うと思うんだけど」
「……ここにきてから掘られたのかもしれねえぜ」
「じゃあ、愛空にも？」
「いや、分からねえな。シャワールームの鏡で見た時はなかったんだが。……つーかこれ、蛇と、アサガオ？　か？」
「俺にはそう見える。……愛空、今日は大浴場で一緒に風呂に入ろう。千切と國神にこういうのがあったのかは、俺覚えて無くて。もしかしたら皆、見にくい場所にあるのかもしれない」
「んー……まあ、確かめておくのは大事か。いいぜ」

　潔は愛空から了承を貰うと、雪宮のTシャツを元に戻した。うつろに宙を眺める瞳に、思わず瞼を伏せさせる動きをとったものの、愛空が何か言う様子は見られない。

「とはいえ、まだ昼飯時だ。俺達朝飯も食ってないんだぜ。なんか食ってから、まず調べてないトコを調べるべきだろ。……どんなに落ち込んでても飯は食えよ。食えなくなったヤツから死ぬんだ」
「はは……それも彼女からの受け売り？」
「その通り！」

　大きな声で笑う愛空につられて笑いながら、潔は雪宮の部屋を共に出た。何をするにも、まずは腹ごしらえだ。



次どうしたい？色々意見が出ると嬉しいな
まだ絡んでないキャラもいるしね

[95 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 22:42:39]

愛空頼もしいな
タトゥーについてブルーロッ君に聞いてみるとか？答えてくれるか分からないけど…

[96 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 22:44:04]

愛空いい奴すぎる

[97 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 22:55:12]

いとしさんたち全然でないで引きこもってんな特に弟ｗ

[98 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 22:56:29]

シャワールームでタトゥーないか確かめる
潔に対して妙に不信感を抱いてるカイザーネスと千切の時に遅れてきた冴はちゃんと確認しておきたいかも

[99 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 22:57:09]

タトゥーと夢についてみんなに聞きたいな
やたらとあたりの強いドイツ主従も何か情報持ってそうで気になるけど
まだあまり話してない人たち優先で様子が見たい
雪宮みたいにSAN値がヤバめの人、他にもいるんでない？

[100 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 23:03:45]

ブルーロッ君、生徒手帳の死因て何？って聞いたら答えてくれるんやろか

[101 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 23:05:18]

全員の手帳を改めて調査するのも良さそう
潔の手帳が塗りつぶされてるのを愛空とか何人かに絞って言ってみて更に愛空と冴の「隠し事が多そうだな」を深掘りする

[102 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 23:28:22]

凛ちゃんと交流してほしいがネタが思いつかない
タトゥーと夢について聞き込みするときに掘り下げられるかな
継続キャラシの凛ちゃんだったらこの状況に耐性ありそうだ

[103 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 23:32:27]

個室端末メニューで出てた校内MAPとか施設利用状況もちょっと見てみたいんだよな
エンタメモードもちょっとだけ気になってる、本当にエンタメなのかこういう施設特有の悪辣系なのか

敢えて呼び出し使ってみる？部屋から部屋への呼び出しなのかな

[104 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 23:35:13]

糸師兄弟、まだ身体検査してないよね？ついでにタトゥーの確認もしてみては
あと潔を疑ってた主従と烏にも話聞いてみたい

[105 スレ主 25/07/16(水) 23:36:56]

　食堂は、昼食時にも関わらず静まり返っていた。雪宮の死を引きずっているのか、それとも他に気に病むことがあるのか。そんな中で、潔と愛空だけが向かい合ってテーブルに着いていた。トレイには、熱々のスープと適当なパスタ、簡素なサラダ。味は――少なくとも、空腹には応えてくれる。

「……で？　これからどうするんだ？」

　フォークを弄びながら、愛空が問う。潔は少し考えた末、小さく頷いた。

「まず、タトゥーのことをもう少し調べる。さっきの、雪宮の体にあったやつ。あれ、他にもあるかもしれない」
「まあな。蛇とアサガオの組み合わせなんて、何やら意味深だしな。調べものをすべきなんだろうが……スマホが恋しいねぇ」

　青い監獄初期のスマホ没収時代に慣れている潔とは異なり、愛空は新英雄対戦から参戦したため、そのあたりの慣れの度合いも異なるのだろう。潔は遠い日常を思いつつ視線を落とし、ぽつりと呟いた。

「……ブルーロッ君に聞いてみようか。タトゥーのこと」
「答えてくれるのか？　取り付く島もなかったらどうすんだ」
「それもあるけど、聞かないとわかんないだろ。だけど……どこ行ったんだろう、ブルーロッ君。最後に持ってたのって雪宮だよな？　雪宮の部屋にはなかったし、昨日の騒ぎの時には見かけなかったけど……」
「持ってるぞ」

　低く、芯のある声が食堂の静寂を切り裂いた。振り向くと、食堂の入り口に冴が立っていた。その腕には、確かに――ブルーロッ君のぬいぐるみがある。

「……えっ、冴。どこでそれを？」
「昨日、廊下に捨てられていた。ちょうど俺の部屋の前だったからな。誰も拾わなかったら可哀想だろう」

　冴はそのまま食堂に入ってきて、潔たちの隣の席に腰を下ろした。ブルーロッ君をテーブルにちょこんと置き、指で頭を撫でる。無表情からは遠い慈愛のようなものを感じる仕草に、潔と愛空は思わず顔を見合わせた。

[106 スレ主 25/07/16(水) 23:38:23]

「タトゥーの話、していたな？」
「……うん。実は、雪宮の体に、蛇と朝顔のタトゥーがあって」
「……なるほどな。俺にもある」

　潔が驚いて口を開こうとすると、冴はすでにジャージの前を開き、Tシャツをぐいっと引っ張っていた。現れたのは、孔雀とアマリリスを融合させた美しい黒のタトゥーだった。鮮やかに羽根を広げた孔雀の輪郭、その足元に絡むように咲く一輪のアマリリス。

「……冴。それ、いつから？」
「気が付いた時には、もうあった。こんな分かりやすい位置に彫られていて死ぬほど邪魔だ」
「孔雀ねえ、らしいじゃんか。天才ちゃん」

　愛空にからかわれながらも、冴はあくまで平然としていた。またTシャツの下に戻ったタトゥーに視線を落としたまま、潔はぽつりと呟く。

「ネスとカイザーのも、確認したい。……あいつら、何か知ってると思うんだ」

　冴はわずかに眉を上げて、潔を見やる。愛空の眉間にも皺が寄っていた。

「難しいだろうな。ネスはともかく、カイザーはそう簡単に肌を見せるタイプじゃない。……俺の愚弟もそうだ」

　その言葉で、潔は思い出した。凛の存在だ。死体騒ぎで顔を出したのを見ただけで、昨日から一度も顔を合わせていない。それ以外の面々とは何かしら会話をしているというのに。

「……そういえば、凛ってどこにいるんだろう」
「さあな。探すなら、俺もついていくぞ」

　その言葉に、愛空と潔はまたしても顔を見合わせた。弟思いと片付けるには兄弟げんかが熾烈な二人だ。一体、どういう思いでこの提案をしたのか。
　潔達が黙っているのを不審に思ったのか、冴が思い切り顰め面をする。

[107 スレ主 25/07/16(水) 23:40:46]

「なんだ、不要なら俺は部屋に戻るが」
「いや！　いやいやいや！　頼もしいからびっくりしたんだって！」
「そうそう！　いやー人手は多いに限るからなぁ！」

　わはははと笑いで場を誤魔化してから、潔は咳払いをした。ブルーロッ君が見つかったことで、まずしなければならない質問がある。

「ブルーロッ君！　質問だ。雪宮とか冴の身体にあるタトゥーってなんだ？　全員タトゥーがあるのか？」
「やあやあ才能の原石共よ。タトゥーはそいつが背負う罪の証だ」
「罪の証？」
「人を罪に導く可能性のある、七つの悪しき感情や欲望のコト……と言えば、察しがつくんじゃないか？」

　冴と愛空が眉間に皺を寄せる。数秒の沈黙を置いて、口を開いたのは冴だった。

「……七つの大罪」
「正解だ」
「七つの……あ？　そういえば七人の生贄って、まさか……」
「七つの大罪を、揃えろってコトか」

　愛空の動揺混じりの問い掛けに答えたのも冴だった。心底くだらないとばかりに溜息を吐いてからブルーロッ君をつつく。ブルーロッ君は沈黙し、何も言わなかった。潔は次に控えていた質問を口に出す。

「ブルーロッ君、次の質問だ。生徒手帳の死因ってなんなんだ？」
「それは罪を背負った人間同士が交錯した瞬間、生まれる予定だった死が記載されている」
「……つまりまだ発生してない、発生しないかもしれない死……ってコトか？！」

　愛空が立ち上がりかねない勢いで言った言葉に、ブルーロッ君は「ピンポーン！」と軽快なSEを鳴らした。クイズ番組のようで腹が立つ。

[108 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 23:46:43]

七つの大罪って聞いた瞬間に色欲で愛空と乙夜の顔がパッと浮かんで本当にごめんな

[109 スレ主 25/07/16(水) 23:53:47]

「どうりでややこしいワケだ……っていうか罪とやらが交錯？　したら俺はあの死に方を……」
「フン。どう死ぬのも同じだ」

　冴が吐き捨てて、そのまま立ち上がった。潔達は慌てて残りをかきこんで食べると、トレイを返却して冴に続く。パーティーリーダーのような振舞いをする冴は傲慢に見えるが、頼もしくもあった。
　迷いない足取りで宿舎棟を出て向かった先は、校舎の1Fにある教室――ではなく、図書室だ。薄く開いた扉の先に誰かがいる。冴が愛空と潔に手で「静かに」と命じると、二人は自然と口を噤んでいた。
　中にいたのは、机に向かって何かを呟くように手を動かしている凛の姿だった。両腕を大きく振って柏手を打ち、息を吸い込んでから唇を開く。

「ふるべ、ゆらゆらと、ふるべ」
「凛……？」

　思わず声を出してしまった潔に、冴が眉を吊り上げる。凛はそれでこちらの存在に気が付いたようで、兄の姿を見るなり目を見開いてから、盛大に舌打ちをした。

「何の用だ。ヘボ共と雁首揃えて」
「クソ愚弟が余計なコトしてないか見に来てやったんだ、感謝しろ」

　凛が再度舌打ちをする。それからそのまま出て行こうとするのを止めたのも冴だった。腕を掴んで凛を強引に引っ張り、その場に留める。兄弟の間に漂う冷ややかな空気を前に、潔と愛空はせめて殴り合いにならないよう黙っておくしかなかった。

「さっきのは布留の言だな？　お前がオカルトかぶれなのは知っていたが、そこまでアホだとは思わなかったんだが」
「うっせえよ。人のコト知った気になって言ってくんじゃねえ、クソ兄貴」
「まぁまぁ！　二人ともそこまでだ。ここで殴り合いなんてするワケに行かないだろ？」
「……チッ」

　冴の腕の力が緩んだ一瞬のスキを突いて、凛が抜けだした。潔がその背中に慌てて追いすがる。凛は心底鬱陶しそうに潔に目を向けた。

「凛。今タトゥーがあるか確認してるんだ。お前にはあったか？」

　凛は溜息を吐いてから、右腕のジャージをまくり上げる。そこには狼とマリーゴールドのタトゥーがあった。愛空もそれを見たらしく、口笛を吹いている。それから、凛は潔を振り払うようにして上の階に上がっていってしまった。

[110 二次元好きの匿名さん 25/07/16(水) 23:57:38]

朝顔はそれらしいものが見つからなかったけど
アマリリスの花言葉に「虚栄心」
マリーゴールドの花言葉に「嫉妬」
があったので糸師兄弟は七つの大罪に当てはまってるのかな

[111 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 00:09:54]

蛇→嫉妬
孔雀→傲慢
狼→憤怒
で動物の方も大罪モチーフに関連してそう
花言葉関係あるなら一緒に描かれた花の花言葉に対応した大罪持ちの相手と交錯すると死ぬとかかな

[112 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 00:27:23]

カイザーネスはこの状況というか潔に対して警戒心高めなのが逆にそっとしておいた方がいいような気がしてきた
あと引きこもり白宝が心配だから機会があれば乙夜にこっそり様子見てきてくれないか頼みたいね

[113 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 08:19:06]

タトゥー通りの死に方をした方がいいのか、してはいけないのか…

[114 スレ主 25/07/17(木) 11:21:56]

　凛が上の階へ姿を消してから、図書室には再び静けさが戻った。誰もいない静かな空間に、埃と紙の匂いが漂っている。

「……凛のことは、しばらく放っておこう」
「そだな。あれ以上食い下がっても、きっと刺激するだけだろ」

　潔の提案に、冴と愛空が頷いた。そして、潔が冴に向き直る。

「冴、布留の言ってなんだ？」
「知らないのか？　死者蘇生の言霊と呼ばれている呪文のようなモノだ。弟が昔見てたオカルト系の映画に出て来た」
「最近だとほらあれ、これの漫画でも見たよな」

　愛空が中指と人差し指を絡ませて顔の横に持ってくる。その仕草で潔もぴんと来て手を打った。

「なるほどな。確かにオカルトかぶれって言われたらそう見えるかも……でも凛が意味なくそんなコトを試すなんてちょっと違和感だよな」
「だから聞いたんだがな。それより、タトゥーのあれこれについて調べるなら、今がチャンスじゃないか？」
「図書室だし、なにかしらそれっぽい本はあるかもな」

　冴の提案に乗る形で、三人は手分けして棚を探し始めた。が、みちみちに詰め込まれた本を手に取ろうとして、ぐっと潔が引っ張った瞬間、周りの本も一気に抜け落ちて潔に降り注いできた。
　愛空が慌てて駆け寄って来て、潔の事を助け起こす。冴は潔より散らばった本が気になるようで、とある本を手に取る。

「……『復活と終焉の儀式――秘匿された禁書より』だと」
「まんますぎて怖いな……」

　他の本を潔と愛空が戻す中、冴がページを開く。中にはぎっしり細かい文字が並んでおり、冴は思い切り眉根を寄せた。潔と愛空も何か情報を得たいと思っていたため、冴の後ろから本を覗き込む。

[115 スレ主 25/07/17(木) 11:26:26]

「ふるべ、ゆらゆらと、ふるべ。……載っているな。だが、訓練を積んだ人間でなければ作用しないとも記載されている。……本当になんであんなコトを」
「天才ちゃん、その先にもなんか書いてあるぜ」

　愛空が示した指先に従って、冴はページをめくった。そこにかかれている言葉は原典をそのまま持ってきたようで、英語で書かれている。冴がそっとその単語を読み上げた。

「復活の、呪文……？」
「なんだかドラクエみたいだな……」

　潔がぼんやり感想を零したところで、冴が注釈を見つけて指でなぞる。

「使用する際のコストは、僅かな魔力と、幾分かの正気度。対象を一度灰色の粉に変化させた後、再び身体と魂を結びなおす。その後元の姿に復活させる。死亡した人間であっても、元の命を得られるだろう。ただし、完全な死体でなければならない。四肢などが外れていても構わないが、全てがそろっていないと復活は失敗する。対象を粉にする場合は対象と術者の魔力対抗が必要となる。対抗に成功した場合のみ、対象は粉になるだろう」
「灰色の粉……？」
「死体から粉に、粉から元の姿に、か？　なんでそんなプロセスを踏むのかねえ」
「それよりも！　これがあれば千切と雪宮を生き返らせるコトができるんじゃないか！？」

　愛空と冴は潔の言葉に渋い顔をした。暫く経ってから、愛空がゆっくり息を吐く。

「復讐殺人が起きないとも言えない。復活させるなら慎重にしないといけないのと……この情報をどこまで共有するか、だな」
「この本を持って帰って隠すのも有りだろ。愚弟みたいなヤツが出ないとも限らない」
「……みんなに共有すべきだと、俺は思う。情報の秘匿をしてたら、それこそ殺し合いにつながらないか？」

　潔の意見と二人の意見が対立し、沈黙が場を支配した。そこで愛空がパンパンと手を打ち鳴らす。

「一旦保留にするぞ。花と動物に関する何かも調べたい。また手分けして探さないか？」
「さっきと同じトコには……さすがにないか。うーん、調べものって苦手だ……」

[116 スレ主 25/07/17(木) 11:28:23]

　潔が漏らした言葉で気が抜けたのか、空気がいい意味で緩む。再び三人で手分けして本棚を当たった。さっきの本を持っていったのは、当然冴だ。潔達には要約した内容しか教えられなかったが、冴だけは全てを理解しているようである。海外で暮らした経験が長いがゆえに、英語の言い回しもすべて読み取ることができたのだろう。
　植物関連の棚を覗き込み、潔が見つけたのは、一冊の植物図鑑だった。だが、ただの図鑑ではない。

「『花言葉と神話』……」

　タトゥーの花が全部載っている可能性を鑑み、潔は先にそれをぱらぱらとめくっていった。そこには見覚えのある花たちと、それにまつわる意味が記されている。

アマリリス：虚栄心・輝くばかりの美しさ
マリーゴールド：絶望・嫉妬
アサガオ：あなたに絡み付く、はかない恋
ウツボカズラ：甘い罠・絡み付く視線
カトレア：魅惑的・成熟した大人の魅力
アネモネ：見捨てられた・見放された
ポピー：眠り・推測

「へぇ、ギリシャ神話が元なんだ……」
「抜け駆けとはいい度胸だな」
「うわっ！」

　後ろから掛けられた言葉に驚いて飛びのいた時、潔は本棚に頭をぶつけた。本が落ちて来なかっただけマシと言い聞かせながら、冴の手にその本が渡っていくのを見守る。ざっと目を通した後、冴は溜息を吐いた。

「……意図して選んだんだろうな。大罪にとれなくもない言葉がある」
「背負わされた罪に合わせて、花が刻まれてるってコト？」
「だろうな。こっちも見つけたぜ」

　顔を出したのは愛空だった。重厚な装丁の本には『七つの大罪と古代信仰』と書かれている。
　三人でざっと目を通すと、ページにはそれぞれの罪に関する逸話、象徴する動物や色、伝承での描かれ方などが載っていた。

[117 スレ主 25/07/17(木) 11:32:44]

「要点はメモしておいた方がいいな」
「うわ、俺ノート持ってくればよかった」
「職員室にあったメモを持ってきてある。使え」
「え……ありがとう？」

　冴から押し付けられたメモを受け取るなり、潔はぎこちなくお礼を言った。ボールペンもあったため、椅子がある場所に全員で戻って要点をメモする。

傲慢：孔雀
憤怒：狼
嫉妬：蛇
怠惰：熊
強欲：狐
暴食：豚
色欲：蠍

「対応悪魔なんかもあったがまずは動物だな」
「そう考えると……凛は憤怒で、雪宮が嫉妬、冴が傲慢？」
「人に言われるといい気分じゃないな。しかもタトゥーにするなんて……」
「まあまあ！　しっかしそう考えると俺のタトゥーは本当にどこにあるのかねぇ」
「それは今日大浴場で調べるから」

　二人の会話を聞いて、冴がゆっくり瞬きをした。

「出来る限り全員を集めて、タトゥーの話をする。そこで全員のタトゥーを確認すべく大浴場で一緒に湯を浴びる……そこで素直に来た奴にのみ復活の呪文の話をする」
「え？」
「協力姿勢があるか、隠し事がないかを知るにはいいだろ。俺も参加してやる」

　潔は冴があまりに協力的な姿勢であることに驚いて、それを飲み込むためにゆっくり呼吸した。乾いた唇を舐めて、言葉を紡ぐ。

「……どうしてそんなに協力してくれるんだ？」

[118 スレ主 25/07/17(木) 11:33:59]

　冴はその双眸を潔に向ける。ひやりと温度が下がるような視線が注がれて、潔は思わず身を固くした。

「確かめるためだ。お前のコトをな」
「……こいつのコトを？」

　愛空が疑問符を浮かべるものの、冴はそれ以上話してくれず、ブルーロッ君を置いてその場を立ち去ろうとした。潔は思わず追いかけようとするものの、冴が図書館を出たところで誰かにぶつかったらしく、舌打ちが聞こえてくる。

「あいて……ごめんってば」
「その声……凪か？」
「あ、潔もいたんだ」
「退け、邪魔だ」

　冴に押し退けられ、凪はぼんやりしたまま廊下に突っ立っている。潔は図書室を出てその顔を覗き込むものの、どこか眠そうな顔には疲れが滲んでいるように見えた。

「……玲王と一緒にいなくていいのか？　心配すると思うぞ」
「んー……だって、何もできなくて暇だし。エンタメモードのゲーム全部終わっちゃったし……」
「そんな理由で……」

　凪らしいと言えばらしいが、玲王と離れたがるような行動にはわずかばかりの違和感があった。後ろで見守っている愛空の存在が心強いがゆえに、潔はより突っ込んだ質問を凪にぶつける。

「玲王と一緒にいたくないのか？」

　凪は数回瞬いてから頬を掻いた。

「一緒にいたくないわけじゃないけど……玲王と一緒にいるとめんどくさい」

[119 スレ主 25/07/17(木) 11:35:42]

「めんどくさい？」
「うん……全部やってくれるんだけど、俺が俺じゃなくなる感じ……？　俺が玲王になっちゃう感じがして……？」
「うーん？」

　凪のふわっとした物言いを受けて、潔は首を傾げた。愛空もさっぱりわからないと言いたげにしかめっ面をしているため、この場にいる人間は誰も理解していないのだとわかって潔も安心する。
　凪はそんな二人を見てから欠伸すると、ひらりと手を振って上階に向けて歩き出した。

「じゃーね。玲王が探しに来ても、知らないって言っといて……」
「あ、おい！」

　冴と凪、二人とも謎を残すだけ残して去っていったため、潔は取り残されるなり頭を抱えた。愛空がぽんぽんと背中を叩く。

「まあ、情報は手に入ったんだ。ブルーロッ君もな。次はどうする？」
「あっ、夢について冴と凛と凪に聞くの忘れた！」
「ああ……雪宮が言ってたヤツか？」
「うん。見たかどうか確認しないと、紐解けないかなって思って」
「ふうん……大浴場で一緒にお風呂タイム！　の時に聴取でいいんじゃねえか？」
「来てくれなさそうなのって誰だろう。やっぱカイザーとかネスとかかな……」
「それは後で聴取したらいい。このスピードで殺人が起きるのはそうそうないだろ」
「……そっか」

　いよいよ次にどこに行くかという問題が乗っかって来た。図書室の時計では夕方ごろをさしているのだし、もう声掛けに回ってもいいのかもしれない。


このあとは全員に大浴場声掛けタイムのつもりだよ
他にやりたいことあればご意見どうぞ
出来る限り汲んで続けるつもりです

[120 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 14:14:30]

千切にもタトゥーあるのかな

[121 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 14:31:57]

まだ他に調べられそうなら他の施設の探索とか？

[122 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 15:02:46]

ナイフ気づいてなかったみたいに
気づいてない道具とか施設とかありそうだし探索もしたいね

[123 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 15:05:48]

千切にタトゥーあるか調べたい

[124 スレ主 25/07/17(木) 15:32:45]

「そういやお嬢にも、タトゥーがあるのか確認しといた方がいいんじゃねえか？」

　図書室を出た直後、ふと思い出したように愛空が言った。潔ははっとして足を止める。雪宮のタトゥーが胸にあった以上、千切にも刻まれていた可能性はある。当然、確認すべきだ。あの体は今、千切の部屋にあったはずだ。
　愛空と目線を交わして頷くと、千切の部屋に向かう。だが、そこの扉は開け放たれており、千切の遺体もその中になかった。
　千切の生徒手帳は潔が持っていた筈だ、おかしい……そう思ってポケットを探るも、そこに入っている生徒手帳は二個だけだ。潔自身のものと、雪宮のもの。

「生徒手帳がない！？」
「はぁ！？　落としたのか！？」
「わ、わかんない……」

　潔が揺れる声で答えると、愛空は頭をかき乱して「とりあえず探すしかねな」とつぶやいた。ドアが閉められないようにドアストッパーもつけたところで、ちょうど向こうから乙夜が歩いてくるのが見えた。潔は足を止めて声を掛ける。

「乙夜、千切の部屋のこと、何か知らないか！？」
「ああ……國神が抱えて、校舎の方に運んでいったよ」
「校舎……！？　なんでそんな……」
「聞くに聞けねー空気だったから流しといたけど。でもかなり上まで運ぶつもりっぽかった」

　頬を掻く乙夜に対し、潔と愛空は礼もそこそこに駆け出した。靴音が宿舎棟に響く。何が起こっているのか。なぜ國神が勝手にそんなことを──。
　校舎の階段を駆け上がり、二階から順番に教室を一つ一つ確かめていく。だが、どの部屋にも國神の姿は無い。千切の姿もだ。

[125 スレ主 25/07/17(木) 15:35:01]

　若干の疲労感を感じながらもたどり着いた四階、薄暗い廊下の突き当りには「プール」と書かれた場所があったが、その右手前に見慣れない重い扉が見える。
　――生物室、というプレートがかかっていた。
　中に入った瞬間、冷気が肌を打った。普段感じるはずのない、人工的な寒さ。薬品の匂いと、金属の匂いが鼻を刺す。

「……國神……？」

　潔が声を掛けると、國神がこちらを振り返った。彼の腕には、白い布に包まれた体が抱えられている。布……シーツの隙間から除く赤い髪でわかる。あれは、千切だ。

「何してんだよ國神、っていうか、ここ……」
「遺体安置所みたいになってるらしい。ここなら腐らせられずに済むだろ」
「それって……」

　國神は、まるで壊れものを扱うように千切の身体を冷蔵ロッカーの中に納めようとしていた。既に中には柔らかなクッション材が整えられている。用意周到だ。
　潔は言葉が出なかった。口を開こうとしても、喉が凍りついたように動かない。生物室に満ちる無機質な冷気と、國神の瞳の奥に潜む硬い意志が、なにより冷たかった。



國神の前でタトゥーを調べる（説得が必要になるかも）、復活について話す、その他選んでみてください

[126 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 15:41:59]

復活について話した上でタトゥーを調べる
タトゥーについては本に書いてあった絵柄の事を説明してからの方が良いかも

[127 スレ主 25/07/17(木) 16:53:03]

「國神……聞いてほしいことがある。もしかしたら、千切を生き返らせられるかもしれないんだ」

　國神の動きが止まった。ぎゅっと千切の身体を抱きしめるように力がこもる。

「ブルーロッ君に聞いて見たり、冴と話したりして情報を集めたんだ。……復活の呪文がある。死んだ人間でも、魔力と正気度を引き換えに元の姿に戻せるって……！」
「……魔力？　正気度？　胡散臭いな……」
「俺もまだ信じきれてない。でも、可能性があるなら、賭けてみたいんだ。……それに、七つの大罪っていうのも関係してるみたいでさ。俺たちの中には、その罪の証として、身体のどこかにタトゥーが刻まれてるらしい」

　國神がわずかに目を見開いた。彼も思い当たる節があるのだろうか。潔は國神に詰め寄る。

「千切も、もしかしたらその証を持ってるかもしれない。……だから、お願いだ。確認させてくれ」

　潔の必死の訴えに、國神はしばらく視線を伏せた。葛藤がその瞳の奥で渦巻いているのか、沈黙は長い。愛空がくしゃみをしたあたりで、國神が小さく頷いた。

「……わかった。……希望があるなら、賭けてみてもいい」

　國神は慎重に冷蔵ロッカーに千切を寝かせた。その顔には、静かな祈りと、わずかな期待が浮かんでいる。潔と愛空は無言で近寄り、ゆっくりと布をめくった。そこで、國神がふっと視線を落としながら呟く。

「……千切は右の膝にタトゥーがある」
「えっ、見たのか？」
「ああ。大浴場で一緒に確認した。潔に会った時には湯の中だったから見えなかったんだろうな。俺は背中の真ん中にあったぜ」

[128 スレ主 25/07/17(木) 16:55:28]

　言いながら千切のジャージの右足をめくっていく動作に、愛空と潔は二人で見入った。やがて晒された右膝にあったのは、凛と同じ狼とマリーゴールドのタトゥーだ。

「凛と同じ……」

「糸師凛と？」

「ああ。あいつは右の腕に。……國神のも見ていいか？」

　國神は無言で上裸になった。この寒い空間で裸を晒させるのは申し訳ないと思いつつも、潔と愛空は二人で國神の背中を確認する。そこに据えられているのは、狐とアネモネのタトゥーだ。

「……千切が憤怒、國神が強欲……？」

「それが対応してるってのは、あれか、なんか資料があったのか」

「うん。メモしてきた」

　メモを見せると、國神は僅かに眉を寄せた。それから自身の服と千切の服を元に戻す。

「こいつが憤怒……あんまイメージねえな」

「俺も。でも、自分への怒りとかならわかるかもしれない」

「俺の強欲も……そんなイメージか？」

「むしろ逆かと思うけどなあ、知らんで口聞くが」

　愛空と國神はほぼ面識がないが、國神の人柄はひと悶着で十分に伝わっているらしい。潔は苦笑してから、咳払いをした。本題が残っているのだ。

「で、復活を誰がやるかって話。俺と愛空は多分いける。國神も、多分俺達が教えたらできると思う。……誰が、やる？」

誰がやる？

>>129

[129 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 17:16:32]

潔で

[130 スレ主 25/07/17(木) 18:51:00]

「……誰が、やる？」

　静かにそう切り出すと、三人の間に短い沈黙が落ちた。國神がちらと潔を見やる。愛空も、潔の顔をじっと見つめる。けれど潔は、迷うことなくその視線を受け止めて、口を開いた。

「……わかった、俺がやるよ」

　國神の眉がわずかに動いた。愛空が、ふっと肩をすくめて笑う。

「ま、そう言うと思ってたぜ」
「潔、お前……」
「千切を死なせたのは、俺のせいだと思ってる。……あの時、もし俺が起きてたら……千切に心臓マッサージとか、できたかもしれない。……俺は千切に、殺さない人間って言ってもらったんだ。それすら、守れなかった」

　握りしめた拳がかすかに震える。言葉を吐き出すたびに口元が震えてしまうので、思い切り頬を叩いた。痛いが、でも、今はその痛みに耐えなければならない。

「だから……今度こそ、俺が千切を救いたい。……俺がやる」
「なら、任せる。……お前なら、きっと」

　國神が受け入れてくれたのを見て、潔は深く頷いた。強く拳を握りしめたままでいると、愛空がその手を軽く擦ってくれた。

「気負うなよ。そもそも魔力とか正気度とかわからねえんだからな。何も起きなくても気にしない。だろ？」

　愛空に促されて、國神も頷いた。潔は小さく息を吸い込んだ……が、それでは足りなかった。もう一度、今度は深く肺の奥まで空気を入れる。胸が痛いほどに膨らんで、それからようやく、ふっと吐き出す。
　――できる、できる。頭の中で繰り返す。けれど、手はわずかに震えていた。
　千切の顔を一度だけ見つめる。その眠るような表情に、潔は目を閉じた。
　身体の中に循環する魔力をとらえ、冴に教えてもらった呪文を口遊んだ。それは人の言葉に非ず、冷えた空気をさらに冷やす。
　國神が、愛空が、息を飲んだ。千切の身体が目の前で粉になり、かと思えば再構築されていく。
　――存在感、というものが強くなったような感覚を覚えた。千切は穏やかに寝息を立て始める。

「成功……した？」

[131 スレ主 25/07/17(木) 19:27:30]

　愛空がつぶやいたその言葉に、応えるように。

「……ん、ん……」

　寝息が震え、千切がゆっくりと目を開けた。

「……え？　え、ここ……？」

　瞳が薄く揺れながら焦点を結び、周囲を見渡す。潔と國神、愛空の顔を順番に見たあと、千切は困ったように眉を寄せた。それから、寒さにぶるりと身を震わせる。

「……わり、俺……何があったか、全然覚えてないんだけど……ここどこ？　寒くね？」
「千切……！　よかった……ほんとに……」

　國神がぎゅっと拳を握って、千切の肩に手を置く。愛空は少し離れたところで腕を組みつつ「……おかえり、お嬢」と呟いた。
　千切は戸惑いながらも、微かに笑って頭を掻いた。

「おー、ただいま？　ていうか、何がどうなってんの……？」
「あとでちゃんと説明する。……でもまず、ひとつだけ言わせてくれ」

　潔は、ゆっくりと千切の手を握った。

「戻ってきてくれて、ありがとう」


千切に何から説明する？全部秘匿してもいいし、逆に千切に聞きたいことがあれば。
ちな生徒手帳は潔が落としたのを國神が拾ってます

[132 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 19:30:37]

うわー！良かったーー！！
全部話していいと思うけど1番大事なのはなんだろな
死んだ時の状況聞きたいけど覚えてないのかー

[133 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 20:03:21]

記憶がないのは死ぬ直前の出来事だけ？
風呂に入ってた時のこととかは覚えてるのかな
もし死ぬ直前以外のことは覚えてるのなら生徒手帳の死因が元々書いてあったのか塗り潰されてたのか聞きたい 擦れて折れ曲がってたのも気になるし

[134 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 20:10:56]

一番最後の記憶はどの辺かは聞いてみたい

[135 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 21:36:29]

何から説明するか迷うけどまずはタトゥーの情報と死んでたことからかな
これまでに得た情報は全部話しても大丈夫だと思う

[136 スレ主 25/07/17(木) 21:41:03]

「移動しよう。ここじゃ寒すぎる」

　國神の言葉に頷き、三人で生物室を後にする。千切の足取りはまだおぼつかないが、潔が片方の肩を、國神がもう片方を支え、ゆっくりと廊下を歩いた。
　最寄りの教室の扉にはプレートがなかった。もともと使われていなかった空き教室らしい。愛空が先に入って灯りをつけると、古びた机が数脚並んでいるだけの、がらんとした空間が現れた。

「ここでちょっと休もう。椅子、こっち」

　國神が椅子を引き、千切を座らせる。千切は深く息を吐き、額に手を当てた。

「……なんか、すげー夢見て起きたみたいな感覚なんだけど……何があった感じ？」

　その言葉に、潔は小さく頷いて、少し表情を引き締めた。今、説明すべきだ。この状況で、何が起こったのかを。

「……千切。驚かせるかもしれないけど、ちゃんと聞いてくれ」

　千切が顔を上げる。潔は唾を飲み込んでから、言葉を選びながら話し始めた。

「千切、お前……一度、死んでたんだ」
「……は？」

　千切がぽかんと目を見開いた。けれど潔は、その反応を受け止めたまま、続ける。

「でも――復活の呪文がある。信じがたいかもしれないけど、それを使えば死んだ人間も戻ってこられる。……それで、俺が、お前を……蘇生させたんだ」
「…………は……？　マジで言ってんの？」
「俺も最初は信じられなかった。でも、ブルーロッ君や冴からいろんな情報を聞いて……」

　潔は言い淀むことなく、落ち着いた声で語った。國神や愛空が頷いてるのを見て、冗談の類ではなさそうだと千切は判断したのか、眉根を寄せる。

[137 スレ主 25/07/17(木) 21:50:39]

「それとは別なんだけど、どうやら俺たちの中には、七つの大罪に対応するタトゥーが刻まれてるらしい。罪を象徴する動物と花の組み合わせみたいだ。……千切の死因に関連してたとは、あまり思えないんだけど」
「俺と潔、愛空、それから糸師凛……みんな身体のどこかに刻まれてた。お前にもあったろ。右膝に、狼とマリーゴールド」

　國神の言葉に、千切が目を伏せた。しばらく何も言わなかったが、やがて、膝に触れながらぽつりと呟く。

「……そうな、國神には狐とアネモネ。姉ちゃんに花の種類聞いててよかったって話したんだっけ」
「ってことは、風呂の記憶はあんのか？」
「おう。夜中にどーにも寝つけないから、取りあえず水でも飲むかと思って食堂に行こうとしたんだよ。そしたら、そこでばったり雪宮に出会って……そこからの記憶が曖昧、って感じ」

　千切の言葉に、全員が目線を交わした。雪宮が加害者であることを、言うべきか、言わざるべきか。しかし、すぐに千切が笑う。

「お前ら分かりやすすぎな。俺、雪宮に殺されたのか。……なんでだ？　マジでわかんねえ」
「雪宮は夢がどうとか言ってたな」
「本人に事情聴取できねえの？」

　軽い口調で投げかけられた言葉に、潔は深呼吸してから言葉を口に出そうとした。しかし、愛空に遮られる。

「雪宮は死んだ。事故死だ。机に頭をぶつけて、今死体になってる」
「え……じゃあ、雪宮も生き返らせるのか？」
「それは……正直、迷ってる。またお嬢の事を殺すかもしれないしな」
「でも聞かないと始まらないだろ？　俺の事はちゃんと守ってくれよ、期待してるぜ？」

　冗談めかしてウインクする千切に、潔は肩の力が抜けた。自分が死んだという事実は想像以上に胸を抉っているだろうに、それでもなお気丈に振舞えるのは純粋に強さだと思ったからだ。まだ悩む愛空に対し、國神が千切に向き直る。

「今度こそ、俺が守る」
「……おう」

　拳をぶつけ合う二人を見て、愛空もやっと納得したらしい。両手をひらりと上げた。

[138 スレ主 25/07/17(木) 21:53:16]

「じゃあ生き返らせるってことで。そうだな……また潔がやるか？」
「あれ、すげえ疲れるんだよな。俺が連続でやるのは……」
「あー、魔力と正気度がどうのって言ってたよな。の割には普通だけど」
「まあ目に見えない蓄積があるんだろうな。お嬢も知りたいか？　復活の呪文」
「おー、あとで教えて」
「それより」

　國神が話に割り込む。

「千切。お前の生徒手帳の死因だが、心タンポナーデだったか？」
「え？　ああ、うん。そうだけど？」
「じゃあ死ぬ前と後で変わるってこともないんだな……」
「國神の死因はなんなんだ？」
「俺には失血死って記載があったな」
「失血死って割と多いのかもしれねえな」

　死因を中心に回る会話の中で、潔だけがひやひやとしていた。この場で死因を言わないのは不自然だろうか。手をぎゅっと握り込んだところで、潔が持ってきていたブルーロッ君がもぞもぞ動きだした。

「うわキモッ」
「なんだ！？」

　警戒する愛空と國神、ドン引きする千切をよそに、ブルーロッ君から「午後5時をお伝えします」とアナウンスが入った。それと同時に、教室のスピーカーから機械的な声が響く。

「――校内における復活者を確認。該当者：千切豹馬。状態：生存。儀式まで残り6人」

[139 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 22:21:12]

復活者もアナウンスされるのか

[140 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 22:23:36]

情報共有する前に全員に知れ渡っちゃったから復活者がまた狙われないか心配だね

[141 二次元好きの匿名さん 25/07/17(木) 23:57:40]

あれ潔のタトゥーって判明してたっけ？

[142 スレ主 25/07/18(金) 00:16:15]

　暫くの間、沈黙が場を支配していたが、愛空が一番に声を上げた。

「これでお嬢が生き返ったことは、全員に知らされたわけだ」
「みたいだな。ったく、心の準備する時間があっただけいいって思うか。ラグがあったのはなんでだ？」
「生存の状態が定着したからだ」

　ブルーロッ君の無機質な声が割り込んできて、全員がぎょっとした。丸っこい身体がもぞもぞと動く。國神が、やや緊張した面持ちで問いかける。

「……定着？」
「生き返っても、すぐ殺される例もあると言えばいいか？」

　一瞬、教室内の空気がぴたりと止まった。

「……冗談きついって」

　千切が口元を引き攣らせたが、雪宮の件もある。完全に冗談とは言いきれないのだろう。

「そんな事態には俺がさせねえよ」

　國神の声に、潔はふと目を伏せた。あの夜、千切の命を守れなかった自分と、今の國神の決意。それを思うと、この言葉の重みが違って聞こえる。

「そうは言っても、ここでくっついてるわけにもいかないだろ」
「なるべく集団行動はしたほうがいいかもな。ドイツの主従は徹底して二人行動をしてる。何かノウハウがあんのかもな」
「ツーマンセル的な？」
「おう。この後どうせ全員にタトゥー確認会の呼びかけするんだろ？なるべく集団で動こう。俺はこいつと、お前はお嬢と」
「了解だ。じゃあ……誰から声を掛ける？」
「一回俺の部屋に集まって、個室端末で施設利用状況を確認してから、二組で手分けって形が効率よさそうだがな」

　愛空の仕切りで場がまとまり、潔が目を瞬いているうちに、あれよあれよと段取りが決まっていった。自然と視線が國神と千切へ向かう。千切はもうふらついておらず、國神がそれでも傍を離れようとしないのが印象的だった。

[143 スレ主 25/07/18(金) 00:17:32]

「おーい、こっち」

　振り返った愛空が軽く手を振る。潔は小さく返事をして後を追った。
　赤紫に染まった廊下は、外の空がフィルターでもかけられたように奇妙に見えた。窓を開けようと手を伸ばしても、ぴくりとも動かない。潔はそのまま何も言わずに歩を進める。
　宿舎棟に戻ると、全開だった千切の部屋のドアを國神が静かに閉めた。國神が生徒手帳を返そうとすると、千切は「ありがとな」とだけ呟きそのままポケットの中に仕舞った。
　そのまま全員で愛空の部屋へ向かう。広めに設計されたはずの個室も、男四人が集まればやけに狭く感じた。
　愛空が端末を操作し、施設利用状況の画面を開く。表示された一覧に、自然と全員が顔を寄せた。

[144 スレ主 25/07/18(金) 00:19:00]

【施設利用状況】
● 宿舎棟
→個室：千切豹馬、國神錬介、潔世一、オリヴァ・愛空、雪宮剣優
● 校舎
→廊下：糸師冴
→図書室：ミヒャエル・カイザー、アレクシス・ネス
→情報処理室：凪誠士郎、御影玲王
→美術室：士道龍聖
→生物室：糸師凛

「凛は生物室にいるんだな……」

　潔がぽつりと呟くと、國神が画面を睨みながら応じる。

「めんどくさがり屋と坊ちゃんはまた一緒……いや、カイザーとネスもか。あいつら、本当によく組んでるな」
「というか、冴が一人で廊下ってのが怖えな。見張ってるつもりか？」
「もしくは誰かとすれ違うのを狙ってるのかもな。あいつ、情報の嗅覚だけは異様に鋭いから」

　愛空の言葉に、潔の背筋がすうっと冷えた。既に死人が出て、蘇生すらされた今――情報と行動の齟齬は、命に直結する。


潔+愛空ペア、千切+國神ペアで行動します
どっちが誰に接触する？あえて安価にしないので沢山意見ください
他の行動とかも出来る限り反映します

[145 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 00:21:56]

潔+愛空が冴かな
千切+國神は…凪達のほうがいいかな

[146 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 00:24:10]

愛空の安心感がエグいことに気付かされる
冴、凛、士道は愛空いないとキツそう

[147 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 00:27:45]

カイザーとネスも潔+愛空の方が良い気がするな
千切+國神に関してはさっきの蘇生アナウンスの件があるから接触する相手は慎重に選んだ方が良さそう

[148 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 00:29:07]

烏と乙夜は今頃どこで何をしているんだ
潔たちに協力してくれるほうで敵感は無いけど愛空ほどは味方って感じもしないんだよな

[149 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 00:44:40]

場所だけで見るとまだ行ったことない情報処理室と美術室が気になるんだよなー
でも接触相手慎重に選ぶべきなのはそうなんだよね

[150 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 00:45:44]

士道に行くんだったら物理でも抑えられる愛空がいいかな…

[151 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 01:05:31]

これって片方のペアが誰かと接触した後にもう片方のペアと合流とかできる？
疑り深そうな相手の所は2人で行くのは危なそうだから合流してから行きたい所だけど

[152 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 08:40:17]

潔+愛空ペアは士道と凛、千切+國神ペアは凪たちと接触がいいかな
もし合流することが可能であれば、カイザーたちと冴のところには4人で行きたい

[153 スレ主 25/07/18(金) 10:27:46]

「愛空がいると抑えられそうな面子の所に俺達が行った方がいいよな。士道とか、凛とか……カイザーとネスには4人で会わないか？」
「賛成。そいつらにまた殺されたらたまんねえからな。比較的穏やかそうなのはありがたい」

　潔の言葉に全員が頷き、千切がにやりと笑う。4人は割り振りも決まったところで廊下に出た。そのまま宿舎棟とから校舎への渡り廊下に出た瞬間、反対側から歩いてくる2人の姿が見えた。乙夜と烏だった。
　どこか気配を消すような歩き方。だが國神と千切に気づくと、乙夜が軽く手を挙げた。

「おー、そっちも行動再開か。ほんまに生き返っててビビるわ」
「何か見つけたんっしょ？」
「そう、復活の呪文ってやつで……あとで教える。そうだ、二人とも大浴場で一緒に風呂に入らないか？」
「なんか思惑があるんやな」
「ああ。七つの大罪のタトゥーが俺達にはあるらしくってな。それを全員で確認し合わないかという話になったんだ」

烏が肩をすくめる。

「なるほどなあ。俺はもう見つけとるで、乙夜も。やけど、全員で確認し合いたいんやろ？」
「ああ。皆で確認するコトで安心したいっていうか、死因も罪の交錯の結果ってコトなんだ。だから、今回の千切と雪宮の死は予定外だった……って感じみたい」

　乙夜と烏が納得したように頷いた。それから二人そろって了承の返事をしてくれる。だが、千切が首を傾げた。

「あれ、そういえばお前ら、利用状況には映ってなかったよな。どこに居たんだ？」
「ここ渡ってる奴って、利用状況に反映されへんねんで」
「……え？」

[154 スレ主 25/07/18(金) 10:29:47]

　千切が一瞬きょとんとした後、すぐに眉をひそめた。

「モニターで誰がどこにいるか、全部出てる訳じゃないのか？」
「施設のシステム上、この渡り廊下は監視対象やない。つまり、ここにいたら記録に残らないって感じ」

　乙夜の声は静かだったが、警告にも似た響きを持っていた。
　全員が一瞬静まりかえるものの、愛空がばしばしと烏と乙夜の肩を叩く。

「まあ協力してくれるなら何よりだ！　有益な情報もありがとうな。ほら、じゃあ俺達は解散するか。お二人は後で部屋に迎えに行くぜ」
「……で、どんな組み合わせで動くんや？」
「俺と愛空、千切と國神かな」

　それ聞いて、烏は双眸を細めた。それから誰が誰にアプローチするのかまで聞いてから、口守に指先を添えて考え込む。

「せやったら、自分がお前らに。乙夜がお嬢らについてくわ」
「え、いいのか？」
「これで参加せん奴らがおったら不公平やん。火種にならんよう、ちゃんと見届けたるわ」

　半ば烏が勝手に決めたような形だが、乙夜は不満を口に出すことはなかった。それならば、ということになり、三人パーティで行動することが決まった。
　千切と國神に乙夜を加えた三人を見送ってから、潔、愛空、烏はまず士道を探しに三階の美術室へ向かう。

[155 スレ主 25/07/18(金) 10:53:51]

　三階にある美術室の扉を開けると、空気の匂いが変わったのがわかった。
　絵の具のにおい。濃密で、乾ききっていない油彩が壁に張りついているような――そんな、重さのある空気だった。
　士道は部屋の中央、少し歪んだキャンバスに向かって立っていた。長身の背中がぐっと曲がっており、手には絵筆。迷いのない筆致で何かを――いや、何かを消すように塗っていた。彼の足元にはいくつもの破れたスケッチブックが落ちていて、その表紙はどれも泥のような黒に染まっていた。

「……士道」

　潔が声をかけた。士道の手が止まり、わずかに肩が揺れる。
　筆を下ろし、振り返った彼の目に宿るのは――どこか乾いた、しかし熱のこもった光。

「およよ？　潔。それから……ヒゲ主将に、カァカァ烏じゃん。なんだよ、俺のアート鑑賞ツアーか？」
「芸術の話で来たんじゃない。確認したいことがある」

　愛空が前に出て、言葉を切り出した。

「あんたの身体に――動物と花のタトゥーが刻まれてないか？」

　士道は少しの間黙った。それから、指先でシャツの裾をつまむ。

「タトゥー？　……あ～！！　アレ？　朝見せようとしたらお前ら止めたじゃん」
「あっ……下も脱ごうとしてたのってそういう意味か？！　そんな箇所にあるのかよ、うわー……」

　愛空がぴしゃりと額に手を当てた。爆笑する士道の笑い声が響く。

「ほんで、全員でそれを見せ合おうっちゅう話になったらしいねん。生徒手帳の死因がタトゥーの象徴する罪の交錯の結果？　みたいなんやから、死なんようにって話なんやと」
「じゃあ俺の罪の交錯の相手は決まってんな」
「え？」

　絵筆を静かに置くと、士道はぐっと伸びをした。それから身体ごと三人のほうに振り返る。

「俺、見たんだわ。殺す夢」

[156 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 11:06:33]

現在地どこだろうと思っていたら廊下がそういう仕組みになっていたのか

[157 スレ主 25/07/18(金) 11:36:07]

　士道の表情は笑っていたが、その目は焦点が合っていなかった。

「夢の中で殺したのは、……あの皇帝、ミヒャエル・カイザーだ」

　空気が張り詰めた。潔も愛空も、烏も一瞬だけ目を見開いて動きを止める。

「夢の中の俺さ、アイツのこと押さえつけてめちゃくちゃに殴り倒してんの！　あのお綺麗で生意気な顔が真っ赤になってくのが、妙に気持ちよかったんだよな。ああ、こいつ、俺の手の中で死ぬんだって――ゾクゾクした」

　言葉だけを見れば狂気的であるが、士道の声に狂気はなかった。ただ、事実を語っているかのように静かだった。

「でも、起きて死体騒ぎになったらアイツはピンピンしててさ。あー夢だったんだって安心したわ。それまでやっちまったな～って思ってたし。あの時、手に残ってた感触が……夢だけど、確かだった」
「……それって、ただの記憶じゃないんじゃない……のか」

　愛空が自信なさそうに口だしをするが、士道は軽く肩を竦めるのみだ。

「こーゆーの、ゲームだったら前回の記憶？　だったりするのかもな！　ま、わかんないケド♪」

　士道はクツクツ笑うだけだ。「でもさぁ――」と続ける声に、初めて少しの苛立ちが滲んだ。

「なんで俺が殺したって記憶を見ないといけねぇワケ？　ムカつく～、つか俺の死因"脊髄損傷による呼吸停止、あるいは脳損傷"とか言ってちょー長いんだけど。つまりどゆこと？」
「……首の骨を折った時に出やすい死因だな、脊髄損傷による呼吸停止は」
「アハッ、じゃあ俺の首の骨を折れる人間ってコトじゃん♪　限られてくんねぇ」

　士道の言葉に、隣の愛空を潔はちらりと見た。愛空にもその視線が伝わったようで、苦笑で返される。士道はそのやりとりには興味がないようで、緩く息を吐いた。

「なあ～、潔。お前は見た？　誰かを殺す夢」
「……いや、まだ、俺はない。少なくとも今のところは」

　士道は「へぇ」と気のない声で返すと、再びキャンバスの前へ戻る。だが、筆は取らず、塗り潰された黒い絵の前で、ぼそりと呟いた。

[158 スレ主 25/07/18(金) 11:37:25]

「俺、次に夢を見たら……そいつ、本当に殺しそうな気がするんだよな。それくらい、リアルな夢だった」

　嫌な沈黙が落ちる前に、愛空が咳払いをした。それから、ぽんと士道の肩を叩く。

「とりあえず、タトゥー見せ合い会開催だ。大浴場に集合で、時間はまだ決まってないから、俺達が部屋に呼びに行く。いいか？」
「いいよん♪　俺あの皇帝のタトゥー楽ちみ～、青薔薇に隠れてたらウケちゃう。つかタトゥーだらけじゃん？　もうその時点で大ウケ」
「頼むから風呂場で乱闘は勘弁してくれよ……」

　愛空が苦労をにじませた声で言う。この二人はU-20戦で一緒の陣営だったのだ、きっとその時に色々あったのだろう。そういう意味で言えば士道と愛空もそこそこの顔見知りと言える。

[159 スレ主 25/07/18(金) 11:38:52]

　士道はガタガタ椅子を揺らしながら笑顔で二人との距離を詰めた。

「で、この後はどこに行く感じ？」
「あ、ああ……四階に凛がいるっぽいから、会いに行こうと思って。昼会ったんだけど、見せ合うって話はしてなかったから」
「え！　じゃあじゃあ、俺も行っていい？」

　士道がノリノリで挙手をしたとき、愛空が思い切り渋面をした。士道と凛といえば問題児ツートップであり、組ませたときの相性の悪さは青い監獄所属者なら当たり前に知っている。新英雄対戦でも度々喧嘩があったことは知らされていて、その度に各棟で「またやってる」と噂したものだ。
　烏が笛を吹く真似をしてから首を振った。

「あかんあかん、自分ら喧嘩するやろ。……この後どないするん？　自分」
「ゴミ捨て場にゴミ捨てて～、そのあと飯？　あでも先風呂入りたい。だから早く他の奴ら呼んできて風呂にしよーぜー」

　烏が頭を掻いてから「しゃあないのう」と言った。

「やったらこいつには俺がついとくわ。なんかあっても一人野放しにするよりはええやろ」
「俺ってば子守りされマン？」
「子守りやなくて猛獣使いになった気分やわ」

　軽口を叩き合う二人は相性が悪いとも良いとも言えないが、凛と鉢合わせる羽目になるよりはマシだろう。

「じゃあ、頼んだ。烏」
「おう。……俺も大浴場に揃うの楽しみにしとるからのう」

　烏が見据えたのは潔だった。笑ってない瞳が潔を見つめる。潔は身震いしてから、逃げるように美術室を離れるのだった。

[160 スレ主 25/07/18(金) 13:19:28]

　靴音が静かに響く。潔と愛空が階段を上がって四階に足を踏み入れたとき、その廊下の奥に人影があった。
　白いジャージに赤みがかった髪――冴だった。壁にもたれかかるように立ち、薄く目を細めてこちらを見ている。

「お前たちか。カス弟のもとへ向かうと思っていた」

　冴はそう言うと、壁から背を離し、二人に歩み寄る。距離が近づくにつれ、視線が一瞬だけ潔に注がれた。だがすぐに逸らされる。

「自分の弟を尾行してたのか？」
「あいつの動向は気にしている。それだけだ」
「気にしてる、ね」

　愛空が苦笑する。凛のことを冴は危険視しているようだった。それに、冴は何かを知っている。そんな風に思わせる空気があるのだ。

「大浴場に集合して、タトゥーを見せ合う流れになった。凛にも参加して貰いたいと思って声掛けに来たんだけど、冴も」
「参加しなかった奴から疑われる流れに持ち込んだのか。……仕方ねぇから参加してやる。疑いの既に殺されるのも面倒だしな」

　冴が花から溜息を抜いてそう言ったため、潔は軽く頷くと、生物室のドアに手をかけた。
　扉を開けると、ひやりとした冷気が漂ってきた。霊安室であるとわかった今は、並の人間なら心臓が縮んでしまうほど怖いかもしれない。

「……今さら揃って何の用だよ」

　凛は奥にいた。今は緑のランプが点灯した冷蔵ロッカーをぼんやりと眺めていたようだ。

[161 スレ主 25/07/18(金) 13:21:40]

「俺が何かやらかすと思ったか？」
「自覚があるなら話が早い」

　冴が静かに言い返す。

「全員のタトゥーを大浴場に集合して確認する流れになった。愚弟、お前も来い。疑われて暴れるだろうお前を管理してやるよ」

　冴が言うと、凛はふっと鼻で笑った。

「管理？　俺を放置してきたクソ兄貴の癖に？　今更、管理だと？」

　吐き捨てるような台詞の中に、潔は縋りつく幼子のような幻を垣間見た。まるで「どうしていなくなっちゃったの」と癇癪を起す子供のような……そこまで考えたところで、無言で出入口に向かおうとしていた凛の肩を愛空が掴んでいた。

「なんのつもりだ」
「了承が欲しいんだよ。協力してくれ、糸師凛」

　愛空はあえて名前で呼んだのだと潔は思った。凛はその台詞に暫く考えてから、潔に目を向けてくる。

「潔、お前は？」
「え？」
「え？　じゃねえタトゥーだ。わかってんのか、自分の」
「う、ううん……わからない……でも、罪を背負った人には必ずタトゥーがあるんだと思う」

　凛はその言葉に目を瞬いた。

「『七つの大罪と古代信仰』を読んだのか」
「ああ。誰が何なのか、確かめたい。全員でな。生徒手帳の死因は罪の交錯の結果？　だとかなんとかブルーロッ君が言ってたのもある」

　愛空が答えて、凛は再度舌打ちした。冴は無表情で弟の事を見つめている。

[162 スレ主 25/07/18(金) 13:23:37]

「……乗ってやる。だが、潔。お前も来るんだよな？」
「え、う、うん……」
「お前の罪を確かめるコトが条件だ」

　凛はそう言うなり、愛空の手を振り払った。それから、潔に一歩歩み寄って無表情で見下ろしてくる。

「罪の交錯、そう言ったな」
「うん」
「俺は人を殺す夢を見た。……よりによって接点がない男だ」

　先程告白してきた士道の顔がよみがえり、潔は思わず身震いした。冷気が原因ではないことは愛空にも伝わったのか、気づかわし気に目を向けてくれる。

「……誰？」
「御影玲王だ」

[163 スレ主 25/07/18(金) 13:25:58]

　その場にいた凛以外の全員が顔を見合わせた。先程の士道とカイザーもそうだが、凛と玲王にも接点はない。凛は淡々と言葉を続ける。

「起きて暫くして、あれは夢だったんだと思えた。リアルだが所詮夢は夢。その程度ではあったが……あれを本気にして動く人間も多くはないだろうな。例えば、雪宮剣優」
「……なんで言ってくれなかったんだ」
「言う必要もねぇだろ」

　タイミングも無かったと言われればそうなのだが、潔は眉間に皺を寄せた。凛は鼻から息を吐いてそのままその場を立ち去ってしまう。冴はその背中をちらりと見てから、潔と愛空に向き直る。

「俺も部屋に戻る。呼びに来るのか？」
「ああ、俺達で部屋に呼びに行く」
「そうか」

　静かに答えると、冴は凛の背中を追いかけて行った。冷えた空気の中に、愛空と潔が取り残される。愛空は髭をさすってから溜息を吐いた。

「まあ了承は得られたわけだ、俺らもそろそろ図書室に行くか」
「……うん」

　潔が不安そうに頷くと、愛空は肩を叩いた。その大きな手が齎す安心感に、潔は思わず笑みを見せるのだった。

[164 スレ主 25/07/18(金) 15:43:53]

　静まり返った廊下に、複数の足音が響いた。図書室へと向かっていた潔と愛空の前方に、三人の人影が現れる。
　千切、國神、乙夜――情報処理室で凪・玲王との接触を終えたであろう面々だった。

「よ、潔！」

　千切が手を振って駆け寄ってくる。國神と乙夜はそれに続き、自然に五人が合流する形となる。

「タトゥーの件、二人とも協力的だったぜ。凪のは熊とポピー。玲王は狐とアネモネだってさ」
「凪のは初めて出た図柄だな……熊ってことは怠惰か？」
「そーっぽい？　狐はなんだっけ、強欲？　でしょ。でねー、二人とも大浴場に集合はしてくれるって。御影のほうがなんか色々言おうとしてたけど、凪が『疑われるくらいならとっとと晴らしたい』って言ってくれたから、来てくれるっぽい」
「ありがとう、助かる」

　愛空が頷いた直後、背後から声がかかった。

「判決委員会の皆様、ご機嫌うるわしゅう？」

　五人が一斉に振り返ると、図書室の扉が静かに開かれ、カイザーとネスが現れた。
　カイザーは扉にもたれかかりながら、不適な笑みを浮かべている。その背後に、ネスがぴったりと寄り添うように立っていた。

「今度は五人がかりねぇ？　俺らが何をしたっていうんだ、世一？」
「別に罪人狩りに来たわけじゃない」

　愛空が穏やかに返す。カイザーは笑みを崩さずに愛空を見た。

「ただ、タトゥーの確認をしておきたい。全員の。……それだけの話だ」

　沈黙。数秒、誰も動かない。だが、その緊張を切り裂くように、ネスが口を開いた。

[165 スレ主 25/07/18(金) 15:45:56]

「……カイザーの身体を見るってコト？　お前たち全員でですか？」
「いっ、嫌なら、後で個別にでもいい！　でも、皆集まるみたいだから、一気に確認した方がいいと思って」

　潔がすぐにフォローする。だがネスは、その提案にすらひどく不愉快そうに鼻を鳴らした。

「人殺しと一緒に風呂なんて入れねぇですよ」

　潔はぎょっとして視線を泳がせた。國神が一歩前に出ようとするが、愛空がそれを制するように袖を引く。千切は何が何だかわからず潔に視線を向けてくる。

「ネス」

　それまで黙っていたカイザーが、低い声でその名を呼ぶ。「でも」と言い募るネスを手で制してから、カイザーは世一に歩み寄った。

「俺のタトゥーはどこにあるか確認していない。ネスのタトゥーは確認している。言ってやれ」
「……蛇と朝顔のタトゥーです」

　不服そうに顔を歪めて言うネスは首の後ろをさすった。おそらく、そこにタトゥーがあるのだろう。現状どこに刻まれているか不明な愛空と潔は視線を交わす。乙夜もあるという話は聞いているが、場所は不明だ。

「今で揃っている『大罪』はなんだ？」
「……カイザーと冴の『傲慢』、ネスと雪宮の『嫉妬』、千切と凛の『憤怒』、玲王と國神の『強欲』、凪の『怠惰』だ」
「一つの罪につき二人いるんだろうな。今出てない『色欲』は確認出来てないメンバーにいるんだろう」

　カイザーがそう言葉を吐いて、ふわりと青い髪を広げた。それから、その青い瞳で潔を射貫く。

「逃げずに来いよ、世一」

[166 スレ主 25/07/18(金) 15:49:08]

「ってことは、来てくれるってんでいいんだな？」

　千切が声を掛け、カイザーが頷いた。ネスに全員が視線を向けると、ネスは再度渋々といった顔ながらカイザーに続いて頷き、了承の意を示す。愛空が「よし」と声を出した。

「じゃあ七時くらいに個室に声を掛けに行く。それで順次集合して貰って、大浴場で確認だ！」
「今は……六時か？」

　図書室を覗き込んで、國神が確認する。押し退けられる形になったカイザーが國神をひと睨みするが、その前にネスが食ってかかった。

「オレンジ錬介！　イエローカードです！」
「はぁ？　時間見れねえんだからしょうがないだろ」
「はいはい落ち着いた落ち着いた。飯を食うでも、個室でのんびりするでも、なんでもいい。取りあえず集合の準備だけしといてくれ」
「あいあい」

　ひらりと軽く手を振ったカイザーに五人はほっと息を吐くと、では解散しようと宿舎棟のに向けて歩き出す……が、道中で乙夜がぽつりと言った。

「御曹司たちと違って、あいつら、千切に『どうやって生き返ったんだ』とか聞かなかったじゃん」
「確かに」
「本を見つけたんじゃねえか？」
「いや、でも、冴が本を持ってったじゃん……？」

　渡り廊下にさしかかったあたりでざわついていたが、そこで千切の腹から間抜けな音が鳴る。

「あ……そういえば生き返ってから飯食ってなかったわ」
「じゃあ飯食うか。復活記念の飯」
「おう。何にすっかな」

　歩いていく集団の最後尾で、潔は口元に手を当てて考え込んでから、数歩遅れて後に続いた。

[167 スレ主 25/07/18(金) 16:51:00]

　自動照明の光が白く差し込む、夕方の食堂。空調の音だけが響く中、潔たちはタッチパネルの前に群がっていた。

「カツ丼……いや、今は明太子定食とかのほうがいいか？」
「だな千切の復活祝いだろ？」
「ご飯のお供のベストだから普通にカツ丼でいいって。かりんとうまんじゅうあるからそれ頼むし……國神もなんか選べよ」
「ちょっと待て、今わかめスープ見極めてるから」
「わかめスープに見極めも何もあるのか？」
「あるっしょ。チュロスも見極めが大事。おすすめチュロスはミッキーチュロス。外さないから覚えておいて損ない」
「流石にミッキーチュロスはないだろ……」

　千切、國神、乙夜、愛空の四人は、タッチパネルに表示される無数の料理画像を前に和気あいあいとしていた。
　それを確かめてから潔は静かにその場を離れ、厨房に入る。給仕棚の奥、自動配膳では表示されない棚に、一部の調味素材と共にガラス瓶が保管されている。
　それは、「MEAD」と書かれた琥珀色の液体だ。潔は厨房にある器具を危うげなく使い、それを慎重に希釈した。
　ほどなくしてトレイに並べられたグラスに、氷とともに注がれる琥珀の雫。ほんのりと甘い香りが立ち上り、少しだけ空気が和らぐ。
　潔がトレイを抱えて戻ってきたところ、四人はちょうど「カツ丼VSとんかつ」で分裂している最中だった。気が付いた愛空がひらりと手を振る。

「おっ、それ何だ？」
「折角だし、お祝いにどうかなって思って。ジュースみたいなモンだよ、たぶん」
「たぶんって何だよ」
「でも、ほら。復活祝いってことで」

　潔に言われ、千切は照れ臭そうに頬を掻いた。じゃんけんでカツ丼に決着したのを皮切りに、他の面々も千切を小突いてくる。

[169 スレ主 25/07/18(金) 16:54:23]

「折角の潔チョイスなんだし、受け取っとけよ」
「うーん、それもそうだな。じゃあ潔、それ席に置いといてくれ。お前の分もカツ丼選んどくからさ」
「おう、まかせろ！」

　潔は各人が座る予定の席の前に、一杯ずつグラスを置いていった。蜂蜜の香りとともに、仄かにリンゴのような甘酸っぱさが漂う。
　カツ丼が調理されて配給されるまでに、そう時間はかからなかったらしい。千切たちがぞろぞろと戻ってくる。愛空が両手にトレイを持っていて、潔の分を担当してくれたようだ。潔の前にトレイが置かれ、全員が席についた。
　誰も何も言わずともグラスを持ち、千切に向き直る。千切はその視線を受け止め、複雑そうにはにかんだ。

「なんか、死んだって実感もないけど……取りあえず、乾杯。この後雪宮も生き返らせないとだし、ちゃんと食っておかないとな！　乾杯！」
「乾杯！」

　五人の声が重なり、グラスが重なり合う。それぞれ取りあえず口を付けてはくれるようだ。

「へぇ、甘っ。……これ、うまいじゃん」

　千切が嬉しそうに言い、國神もそれに続く。

「甘ったるいけど、悪くないな」
「うん、こういうの嫌いじゃない。ちょっとだけ、特別感あるし。女の子好きそう」

[170 スレ主 25/07/18(金) 16:58:30]

　乙夜が穏やかに笑いつつおどけてみせ、愛空はグラスを傾け、口を拭ってから、ぽつりと言った。

「……潔、これ酒じゃねえのか？」

「え？」

「いや、前に嗅いだ臭いに似てたような気がしてな……」

「気のせいだよ」

　そうか？　としきりに不思議がる愛空の背中を千切が叩いた。國神も既に箸を取り、カツ丼を食べ始めている。それを見た愛空は一度唸ってから追及を諦めたのか、箸をとった。

「雪宮結局潔が蘇らせるんでいいの？」

「いや、潔だけに任せるのも心配ではあるんだよな」

「あー……つか烏にも復活の呪文教えるって話してなかったか？」

「一回飯終わったら雪宮の部屋で端末確認してみる？」

「……じゃ、食ったら行くか。雪宮のとこ」

「ああ。できるだけ、早く戻してやらねーとな」

　話がまとまれば、あとは食事をするだけだ。千切など結局カツ丼だけでは足りなかったらしく、かりんとう饅頭を二回おかわりしていた。國神も結局見極めたわかめスープを選んだらしい。愛空はキムチを選んでいた。今日は色々体力を使ったから好きなものを食べたのだろう。

（55）

dice1d100=99 (99)

（70）

dice1d100=44 (44)

（80）

dice1d100=92 (92)

（70）

dice1d100=99 (99)

雪宮の蘇生、誰がやる？

>>171

[171 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 17:11:29]

なんの数値かわからないけど2回ファンぶってるのおっそろしすぎる

安価なら烏

[172 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 17:42:04]

蜂蜜酒…？

[173 スレ主 25/07/18(金) 17:53:28]

　夕方の廊下を出た瞬間、温度の落差を感じる。食事をとると代謝が上がるから、少し涼し目に冷房が設定されているのだろうか。食後の満足感に包まれながら、五人は並んで歩き出した。向かうは、雪宮の部屋だ。

「潔の判断、やっぱ正しかったよな」

　千切がぽつりと言う。口調は穏やかで、言っていることも自然なのに、どこか感情の芯が抜けているようだった。

「さんせー、潔が言ったとおりにして、間違いなかった。……俺なんでも協力するけど、なんなら俺が蘇生やろっか？」

　乙夜が隣から笑いかける。穏やかで、違和感のない笑顔。だが――どこか虚ろがある。

「まあでも、潔が復活させたいなら、それでいいしな。なあ潔、どうしたい？」

　愛空も同様に問いかける。口調も姿勢も普段と変わらないのに、視線だけが妙にまっすぐで、逸らす気配がなかった。
　國神が、皿を片付け終えて廊下に出てきたタイミングで、困惑した顔で潔を見る。

「なんだ、この状況？」
「わ、わかんないんだけど……」
「おい千切、どうした？」

　國神は一番最初に千切へ声をかけた。千切はふっと國神を見て微笑む。

「なんだ？　今潔に蘇生を決めてもらおうと思ってたトコ。なんなら俺がやってもいいかな、潔が言うなら」
「……おい、本当にどうした？」

　國神が警戒するように潔を見た瞬間。千切が笑いながら國神の背中を叩いた。

[174 スレ主 25/07/18(金) 17:54:57]

「國神は心配性だな。潔が言うなら、それでいいのに」

　千切が、まるで無邪気な子供のように笑った。國神が不審そうに潔を睨み、不気味な空気が漂い始めたその時、廊下の角を曲がって現れたのは――烏だった。

「……ほう」

　鋭い目つきで集団を一瞥するなり、烏は即座に「何かがおかしい」と察したようだった。
　彼の視線が、潔の背後の千切と乙夜に向けられる。

「なんや、なんか、セミナーでも終わった後か？　全員新しい自分になった顔しとるやん」
「烏……」

　潔が返すより早く、國神が一歩前に出た。

「烏。ちょっと付き合ってくれ。こいつら、なんか……妙だ」
「あー……見たらわかるわ。目の奥が死んどるし」

　烏は苦笑して、潔に目を向ける。

「潔、お前がやれって言ったら、今の状態ならこの三人、殺し合いでも始めるで。……自覚あるか？」

　潔は言葉を失った。それから、頬を掻く。

「……今は、雪宮を生き返らせに行くトコで。でもそんなふうに見える状態なら烏もついてたほうがいいよな……烏、一緒に来てくれるか？」
「おう。まあ、復活の呪文とやらにも興味はあったからなあ」

　冗談めかして言うその声音であったが、目の奥では潔を本気で警戒していた。妙な空気になりながらも、雪宮の部屋に向かう。
　生徒手帳を翳して入ると、そこには死臭が濃く漂う雪宮の部屋がそのままそこにあった。さすがに六人も入ればキャパオーバーになりそうで、手狭なその中で潔は烏に近づく。

[175 スレ主 25/07/18(金) 17:56:16]

　呪文を何度か口頭で教えれば、烏、乙夜、千切の三人はそれを完璧に覚えたらしい。
　呪文の詠唱を繰り返し、発音・リズム・節回しまで正確に覚え終えたあと、乙夜はふと息を止めた。
　そして――頭を抱える。

「あ、あれ、あれ？　俺、なんで知ってんだ？　こんな、こんな言葉、俺知らねえし……でも知ってる？　知ってた？　いやでも知らない……ん？　どっちだ？」

　突然、早口になり、言葉が次々と口からあふれ出す。

「これ、教わった？　いや違う、前に……見た？　誰が？　俺？　俺じゃない、誰かが見た……ん？　でも目の奥で光ってて、それが焼きついて、言葉になって、音になって、形が消えて……え？　え？　なにこれ、なにこれなにこれなにこれ」

　声がわずかに裏返っていた。瞳孔が開き、焦点の合わない目が部屋の隅を見つめている。

「あの液体、手に触れた？　違う、それは血だ。誰の？　俺の？　いや違う、黒いのは内臓、内臓？　いやいやいや、違う違う、違わなくて、ぜんぶ同じで……って違うって言ってんだよ……！」
「おい、落ち着け。乙夜、おい、大丈夫か？」

　國神が前に出て、乙夜の肩を掴んで顔を見る。その瞳は完全に狂気に呑まれており、潔は口を覆った。國神に肩を掴まれてもなお、乙夜の口は止まらない。まるで言葉の濁流に飲まれているようだった。

「俺じゃない俺が俺の中にいる、喋ってる、でも知らない、でも合ってる、でもでもでも――！」

[176 スレ主 25/07/18(金) 17:58:27]

「――やめんかい」

　その一言と同時に、乾いた音が部屋に響いた。烏の平手が乙夜の頬を打ったのだ。
　思いのほか力が入っていたようで、乙夜は一歩よろめき、ぱちぱちと瞬きをする。

「……っ、あ、れ……俺……？」

　唇を震わせ、ぼうっとしたまま辺りを見回す乙夜。その顔色が一気に青ざめていく。

「正気に戻ったか。……この呪文、劇物やな。まあ死人を生き返らすモンを覚えて平気でいられるわけもないか」

　烏は短く言って、叩いたことを詫びるように肩に手を置く。乙夜が数回頷いたのを見てから、烏が潔に目を向けた。

「しゃあない、俺がやったるわ。凡どもはそこで見とき」

　烏は一度、深く息を吐いた。そして雪宮の遺体に歩み寄ると、その顔を覗き込む。既に死後硬直は解除され、ただ冷たい人形のように横たわる雪宮の身体。潔は眉をひそめた。
　烏はポケットから小さく畳んだタオルを取り出し、血の跡がまだ残る雪宮の口元を拭う。

「見苦しいまんまで生き返ったら、本人も気ぃ悪いやろ」

　冗談めいた口調とは裏腹に、その動作は丁寧だった。やがて彼は、雪宮の頭の近くに掌を翳し、静かに目を閉じた。

[177 スレ主 25/07/18(金) 18:01:15]

「……よっしゃ、いくで」

　低く呟いた次の瞬間――烏の口から、異質な響きが零れ落ちた。それは異国の祈祷のようでもあり、古代の言語のようでもあり。理解不能な響きが、奇妙な抑揚で連ねられていく。
　空気が震え、部屋の隅の影がわずかに伸びたようにすら見えた。
　その間、潔たちは言葉を失って見つめていた。千切も乙夜も國神も愛空も、無言でじっと烏の背中を見つめている。
　雪宮の身体が目の前で粉になり、かと思えば再構築されていく。
　――存在感、というものが強くなったような感覚を覚えた。雪宮は穏やかに寝息を立て始める。

「やった……」

　潔が呟いた瞬間、雪宮の身体がゆっくりと、微かに揺れた。手の指先が痙攣するようにわずかに動き、次いで、肩がかすかに上下する。

「っ、動いた……！」

　愛空がぽつりと呟く。さらに数秒後、雪宮の口がぴくりと開き、
　かすれた息が――絞り出されるように漏れた。

「……っは……っ、あ、あれ……？」

　目を細めながら、雪宮がうっすらと瞼を開けた。焼けるように乾いた呼吸とともに、微かに呻く。
　烏は、雪宮の頭を軽く支えてやりながら、口元で呟いた。

「目ェ覚ましたな。……おかえり、雪宮」

　雪宮は、ぼうっとした目で烏を見つめた後、視線を横にずらして――

「……潔……？」

　虚ろな声で、名前を呼ぶ。潔は、強張った表情のまま、ただ頷いた。
　その瞬間、雪宮の頬を一筋の涙が伝った。

[178 スレ主 25/07/18(金) 18:03:12]

雪宮に何聞く？何話す？
このまま全員参加風呂の会に引っ張ってはいくつもり

[179 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 18:21:42]

どこまで記憶があるかと夢の話は聞いておきたいな

[180 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 18:48:40]

自分の意志があったのか怪しい感じでサラッと黄金の蜂蜜酒っぽいの一服盛っとる……POWかCONかな振ったの

記憶と夢はもちろんだけど覚えてたら千切殺しにかかった状況も聞いておきたい気もする
あと勝手にタトゥーと生徒手帳見たって言っとく？いやでも風呂引っ張っていく時に言うかな

[181 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 20:54:36]

い、潔…
やたら周りに強くあたられてるけど、今の潔は本当に潔白なのにかわいそ…と思ってたのにお前…
周りの方が正しかったやつやんけ！

[182 スレ主 25/07/18(金) 20:59:46]

　雪宮が何度かまばたきを繰り返し、視線をさまよわせながら、わずかに震える手で自分の胸元を握った。

「……俺……生きてる、のか……？」
「うん。復活させた。烏が、呪文を使ってくれた」

　その言葉に、雪宮の視線が烏へと移る。けれど完全には理解が追いついていない様子で、彼の表情には困惑が色濃く浮かんでいた。

「……雪宮、覚えてるか。死ぬ前のコトとか、言ってた夢のコトとか、聞いてもいいか……？」

　潔の問いに、しばらくの間、雪宮は黙ったままだった。けれど、やがてぽつりと口を開く。

「色々整理が追い付いてないんだけど……取りあえず、潔達が部屋に押しかけてきたコトは覚えてるよ。それから、夢は……」

　拳をぎゅっとにぎってから、掌を見る。眼鏡がかかっていない瞳から、雪宮は涙を零した。

「夢の中で……俺、千切を殺してたんだ」

　國神は眉を顰め、烏は双眸を細めた。雪宮が顔を拭いながら続ける。

「真っ暗な廊下だった。千切がいて、俺はそのままその首を絞めた」

　その言葉に、潔が息を呑む。雪宮の声はなおも続く。

「首に手をかけて……締めて……感触が、まだ残ってる気がする。あれが夢だったのか、本当にやったのか、わかんなくて……そこで起きて水を飲みに行こうとしたら千切がいたから、なんで生きてるんだ？！　って混乱して、今度こそ殺さないとと思ったんだ」
「なーるほど、それで俺は殺されたワケか」

　千切がそう言った瞬間、雪宮がばっと顔を上げ、声を探すように顔を巡らせる。そして、見つけた。そこに、静かに立っている千切の姿を。

[183 スレ主 25/07/18(金) 21:02:18]

「……えっ……」

　雪宮が息を詰まらせた。千切は、やわらかく笑っている。

「よ。おかえり」
「……生きてる……？　嘘……俺が……」

　震える唇。引きつる喉。雪宮は立ち上がって千切に近づこうとして、力なく崩れかけた。愛空が慌てて支えに入る。

「落ち着け、雪宮。大丈夫だ。千切は生き返った」
「でも……でも俺、やったんだよ……！」
「殺したかもしれないけど、生き返ったから。大丈夫だよ」

　そう言ったのは潔だった。きっぱりと、強く。それから、手を差し出した。
　雪宮はしばらくその手を見つめ――おそるおそる自分の手を伸ばし、その手を握った。暖かい血が巡っていることが、潔にはわかる。

「……俺こそ、ごめん」
「……潔、だよな。多分……状況的に。いや、俺も悪いコトしたから、むしろ國神みたいに猛然と来られるものだと思ってたし」

　言われて國神はバツが悪そうに視線を逸らしたが、殺された千切はけらけら笑うだけだ。まるで暢気な様に、潔も流石に苦笑が漏れる。

「ごめんの内訳は他にもあってさ。お前のタトゥーと生徒手帳、勝手に見た、ごめん」
「え……あの中二病みたいなの？　なんだか恥ずかしいな」
「いやあ恥ずかしがる必要ないぜ、どうやらあれは全員に刻まれてるみたいだからな」

　愛空が割り込んでいってきた台詞に、雪宮が目を瞬く。

[184 スレ主 25/07/18(金) 21:04:10]

「この後、全員で大浴場に行って、タトゥーを確認しようって話になったんだ。タトゥーは俺達が背負ってる罪？　だとかなんとかってブルーロッ君が言ってたから、把握しておいたほうがいいかもって。愛空とか、多分あるだろうけどどこにあるか自分じゃわからない位置にあるっぽいし」
「それは潔もだろ」
「あ、う、うん」

　潔は突っ込まれて頷いた。そこでふと時計を見ると、もう七時を過ぎている。潔が「あっ」と言った途端、全員が時間に気が付いてにわかに慌てた。

「俺はランドリーで雪宮のタオル回収するぜ。雪宮、来るだろ？」
「うん……タオル、置いてた場所にないなって思ったら。流石に風呂に入るのにタオルは欲しいからね」

　愛空と雪宮が一緒に行動することになり、一足先に部屋を出る。

「じゃあ俺達は凪達に声かけてくる。もう部屋にいてくれてると思うし」

　千切がそう言うなり部屋を出ていくが、続くはずの國神は一度潔をじっと見てから去っていった。部屋に残されたのは、乙夜と烏、潔だ。

「じゃ、俺達も声掛けに行くか」
「うい」
「しゃあない、この三人で動くか」

　そう会話を交わした時、室内のスピーカーから機械的な声が響いた。

「――校内における復活者を確認。該当者：雪宮剣優。状態：生存。儀式まで残り7人」

[186 スレ主 25/07/18(金) 21:36:25]

　その後、各自の声掛けにより、大浴場には全員が集まっていた。一応腰にタオルこそ巻いている、……フルチンなのは士道だけだ。

「おいおい、お前ら恥じらいってもんがねえのかよ〜〜〜！　せっかくの全員集合タイムだぞ？　さっさと脱げ脱げ！」

　湯気の中で、士道が両腕を広げて仁王立ちになっている。凛が「うるせえよ変態」と吐き捨てるのに、本人は全く堪えていない。

「分かりやすい位置にあるヤツはいいな。俺は……タオルとった方がいいのか？」
「あ、愛空のは腰にある。これ……蠍と……なんの花だ？」
「あー、見たことある。それカトレアだよ。姉ちゃんの花占いの本にあった」
「蠍だと……色欲か」
「ちゅーす、俺も色欲。仲間」

　左太腿内側にある同じタトゥーを指さし、乙夜がぐっと親指を立てた。烏が盛大に溜息を吐く。

「まあわかりやすいっちゅうたら分かりやすいが」
「……俺と烏が同じタトゥーなの、納得いかないかも」
「俺もじゃボケェ」

　烏は足の甲に熊とポピーが。凪には右の脇腹に同じ模様が刻まれている。

「……やっぱ、あるんだな。みんな……」

　潔が呟いたその視線の先で、カイザーは青い髪を束ねながら背中を向け、その中央に咲く孔雀とアマリリス」のタトゥーを浮き上がらせていた。同じ模様を持つ冴はタオルなど取るまでもないので、左肩から鎖骨にかけてのそれを見せつけつつ濡れた紙の気を払うだけだ。
　凛は腕を組む仕草で自然に右前腕の狼とマリーゴールドをさらす。千切は片脚を湯縁にあげ、右ふくらはぎに同じモチーフの刻印があることを示した。
　ネスはカイザーの髪を一緒に整えようとして断られ、しゅんとうつむくと、首の裏から蛇と朝顔が湿った空気にさらされる。雪宮も心臓の上に刻まれた同じ図柄を撫でた。
　全裸の士道は――言うまでもなく、堂々と下腹部の豚とウツボカズラを見せびらかしていた。

[187 スレ主 25/07/18(金) 21:39:35]

「これで七つ、揃ったわけだな」

　誰ともなく呟いた言葉が湯気に溶ける。そして注がれるのは、潔への目線だ。十三の人間から向けられるそれに、潔は思わず身を固くする。
　一番最初に動いたのは、カイザーだった。潔を羽交い絞めにすると、そのまま「ネス」と短く呼ぶ。ネスは世一のタオルを外して、身体のあちこちを検めていった。

「わきの下……ない。じゃあタオルの下……もない。となると足の裏……？　もない。カイザー！ひっくり返していいですか？」
「あいあい」

　カイザーの握力で掴まれた手首が軋み、潔は思わず呻いた。だが、そんなのお構いなしに、全員の目の前で潔の身体にタトゥーがないかが確認されていく。
　凛も途中から参加して潔の身体をくまなくチェックしたが、潔の身体からタトゥーを見つけることはできなかったようだ。全員が不審な視線を向ける中、潔は取りあえずタオルを腰に巻いた。

「……俺、タトゥーない？」
「不自然だ。お前には背負うべき罪がないとでも言いたげだな」
「ブルーロッ君に聞くか」
「愚弟、答えてもらえると思ってるのか？」

　口々に話し出す面々の中、会話に参加していなかった雪宮が「あれ」と声を上げる。それから潔に近づいたと思えば、下膊を掴んで潔の手を自身に引き寄せた。潔は手を握ったまま、雪宮を見る。

「潔、手を開いて」

　有無を言わせない雪宮の声に、潔はそっと手を開く。雪宮を筆頭に、全員がその開かれた手に注目した。雪宮の指先が、手相に紛れたその一本の線をなぞる。

「潔のタトゥーって、これ？」
「はぁ！？」

　ネスが大声を上げて歩み寄り、雪宮を押し退けて潔の手にある線を見た。

[188 スレ主 25/07/18(金) 21:41:14]

「なんなんですこれ！？　な～にが七つの大罪ですか！　ツーペアでこれだけ揃ってるのに、お前だけ暴食を逃れるなんて、どういう小細工ですか世一！」
「小細工とかじゃないって！　お、俺も知らない……」

　潔が首を振ると、冴とカイザーが疑わし気にその顔を見た。だが、確信には至らなかったのか、すぐにその目線が外される。

「とりあえず、タトゥーが一人だけ違うのはなんでかはブルーロッ君に一応確認してみるとして、取りあえず全員の罪をこれで把握したワケだ。タトゥーが同じ奴は何か異変があればすぐに言うこと！」

　愛空が大声で場をまとめ、それぞれ適当な返事をする。解放された潔が湯舟にへたり込むのを見て、乙夜と愛空、そして千切が寄って来た。

「お疲れ、潔。大丈夫だったか？」
「そーそー、あんな風にされたら疲れるじゃんな」
「まったくだ。まあタトゥーがあるってことは証明できてよかったな」

　その光景を、國神と烏が遠巻きに眺めているのがわかる。潔がへらりと笑っても、笑顔は返ってこなかった。

「俺は大丈夫だから……取りあえず、身体洗ったりして消灯に備えようぜ。結構時間使ったから、案外すぐかも。千切は髪乾かすの時間かかるだろ」
「確かにそうだな……」

　散っていく三人を見て、潔はゆっくり息を吐いた。取りあえず身体を洗うべく腰掛けるものの、先ほどの三人以外からはなんとなく懐疑の視線を感じ、溜息を吐く。
　ここからは、過ごしにくくなりそうだと思った。

[189 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 21:44:03]

怖すぎる
潔が

[190 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 21:46:06]

潔怪しくなってきた…てかもうすぐ２００じゃん

[191 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 21:57:57]

視点主が死因塗りつぶしのタトゥー変更なのかそれとも潔だからなのか分からんなぁ
全員なんかの記憶とか干渉は受けてるっぽいけど、何人かあからさまに疑ってきているヤツには逆に聞きにいきたいぐらい情報欲しい
夜時間は夢が怖いし朝起きてしっかり目が覚めるまで間違って殺さないように部屋に留まれとか言いたくなるね

[192 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 21:58:48]

潔がちょっと怪しくなってきたね
正気っぽい烏や國神が居るからまだ問題は起きないかな…？

[193 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 22:04:01]

・傲慢：孔雀　アマリリス
冴、カイザー
・憤怒：狼　マリーゴールド
凛、千切
・嫉妬：蛇　アサガオ
雪宮、ネス
・怠惰：熊　ポピー
凪、烏
・強欲：狐　アネモネ
國神、玲王
・暴食：豚　ウツボカズラ
士道
・色欲：蠍　カトレア
愛空、乙夜

[194 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 22:05:40]

色欲に関しては正直みんな確かめなくても七つの大罪が二人ずつ振り分けられてるって察した時点で「まぁあいつらだろうな」とは思ってそう

[195 スレ主 25/07/18(金) 22:35:15]

　風呂上がりの余熱が冷める前に、消灯の時間が迫ってきていた。それぞれが着替え、髪を乾かし、足早に個室へと戻っていく。

　誰も言わなかったが、皆、部屋に鍵をかける音が静かに響く夜だった。不安というより、警戒という名の静寂が、宿舎全体を包み始めていた。

　潔もまた、個室でベッドに横たわる。眠ることはできなくても、きっと目を瞑ることはできるだろう。

視点主の変更が可能です。

誰にしますか？ >>197

[196 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 22:44:34]

千切

[197 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 22:45:26]

國神
正気そうだから

[198 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 22:48:09]

スレ主さん次スレお願いします
貼られるまで待機しますね

[199 スレ主 25/07/18(金) 22:53:33]

次スレです。よろしくお願いします

【閲注・SS・🎲】RED SIN 2｜あにまん掲示板

[200 二次元好きの匿名さん 25/07/18(金) 22:54:21]

全員生還できますように