【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」Part7

  • 1125/07/14(月) 20:06:42

    失われた『マルクト』を見つける話。


    撒かれた『未知』が芽吹き始める。

    この旅は何のために始まったのか。『二週目』の旅路が始まったその意味とは。

    スレ画はPart6の144様に書いて頂いたもの。告げるがいい、我が正体を。


    ※独自設定&独自解釈多数、オリキャラも出てくるため要注意。前回までのPart>>2にて。

  • 2125/07/14(月) 20:07:44

    ■前回のあらすじ

     古代史研究会が展示していた石像はまさしく、これから出現するセフィラの造形を予言するものであった。


     確認されていない三体――即ちウマ、カマキリ、ネズミ。

     これがいったいどのセフィラに当てはまるものなのか、そもそもこの石像はいったい何なのかは分からないままに進められるは、マルクトが失った機能を取り戻すための作戦。


     会長が告げるは「マルクトはゲブラーと戦わなくてはいけない」というもの。

     『無限生成』を体現するゲブラーと戦うべく、特現象捜査部の一行は『廃墟』およびこれまでのセフィラの調査を進めるのであった。


    ▼Part7

    【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」Part7|あにまん掲示板自分が生まれた意味を知るための旅を行う機械の話。第六セフィラ、ティファレト確保。代わりに表出するのは『マルクト』を騙る『ドロイド』の存在。スレ画はPart6の153様に書いて頂いたもの。輝かしき者を見…bbs.animanch.com

    ▼全話まとめ

    【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」まとめ | Writening■前日譚:White-rabbit from Wandering Ways  コユキが2年前のミレニアムサイエンススクールにタイムスリップする話 【SS】コユキ「にはは! 未来を変えちゃいますよー!」 https://bbs.animanch.com/board…writening.net

    ▼ミュート機能導入まとめ

    ミュート機能導入部屋リンク & スクリプト一覧リンク | Writening  【寄生荒らし愚痴部屋リンク】  https://c.kuku.lu/pmv4nen8  スクリプト製作者様や、導入解説部屋と愚痴部屋オーナーとこのwritingまとめの作者が居ます  寄生荒らし被害のお問い合わせ下書きなども固…writening.net

    ※削除したレスなどを非表示にする機能です。Part170様、教えてくださりありがとうございます!

     色々まとめて消したので「自分は違うよ!」という声は分かっております。その点はご容赦を。

     『▼全話まとめ』にこれまでのスレはまとめておりますので、見づらいかも知れませんがそこから探してやってください。


     感想頂けたりハート押してくださるとすごい嬉しくなりますので、私!

  • 3二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 20:07:49

    たておつです

  • 4125/07/14(月) 20:09:20

    ※埋めがてらの小話24
    ブルアカ、合同火力演習について。
    EXバッファーをだいぶ積んで何とかALL4クリアしましたが、アバンギャルド君が体感的にいつも以上に強く感じました。

    お前……守られるだけの存在じゃなかったんか……。

    アバンギャルド君はヒロインなのかも知れません。改めて見ると腕もたくさん生えていてキュートですね。嘘です。そんなこと思ったのは一度としてありません。なんだその造形――これが、アバンギャルド……。

  • 5125/07/14(月) 20:10:31

    ※埋めがてらの小話25
    書いた話の謎は現在『回収編』。ですが保身も含めて何度でも言います。これは『読者が解けるミステリー』ではありません。や、一応解けても良いように伏線は張ってますが、納得が出来る解決法かどうかの自信がないのでひたすら予防線は張り巡らせます。

    私も考察するタイプの読者ですが、『謎を解け!』で超能力とか出て来て「なんなんだよもぉ!!」となった経験はいったい何度あったことか……。

    ――つまり、この物語はそういう話です。
    超能力だのなんだのが出てくるようなエキゾチックな解決が為される物語です。

    哲学的剃刀は何本準備しましたか? もしかしたら切り落としていったその先に答えがあったりなかったり……。まぁ私も今更物語を覆せないのでいきなり超能力とか出て来てもご容赦を。

  • 6125/07/14(月) 20:12:38

    しまった……!
    Part8なのにPart7って書いてしまいましたねこれ! これはPart8です!

  • 7125/07/14(月) 20:14:51

    ※埋めがてらの小話26
    本世界線におけるセミナー役員は皆が異能持ちです。今まで色々と『ハッカー』だの『リサーチャー』だの称号を付けていましたが、三年生のセミナー役員は『○○:○○』と言った風に二つ持たせてます。

    何故かって? カッコよくないですか!?
    心の中の中学二年生が叫ぶのです。カッコいいと!
    戦国武将だって二つ名持ちは沢山いるのです。古来よりカッコいいと思われているはずです二つ名持ちは!

  • 8二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 20:17:41

    スレ画の元ネタってなんだっけ…?
    ウルトラマンで見たけど…マルギットだっけ?

  • 9二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 20:38:36

    なんと…!スレを建てていただきありがとうございます

    もしやと心配だったのですが…スレ主様がスレ画を使ってくださってくれて本当に嬉しいです


    本人証明も兼ねてスレ画の文字無し版です

    >>8

    ルネ・マグリットの「人の子」ですね

    前スレで説明したアバンギャルド繋がりの他にも、「人の子」という作品に込められた意味やシュルレアリスムという考え方自体がリオ、ひいてはブルアカ世界と親和性があるのではと思い選出させていただきました

    現に彼の作品の影響を受けたキャラは既にブルアカに存在していますしね

  • 10125/07/14(月) 20:59:56

     四角い『膜』と円を描くセフィラの『領域』――
     ゲブラーの『領域』はまだ形成されておらず、予測地点に存在する建造物も病院や集合墓地、競技場などが散見されるため、これまでと同じく施設と関連付けられるとしても絞り込みには至っていない。

     ただ、それ以上の進展をコタマが発見していた。

    「無線はひとつの『膜』の中でしか使えませんが、有線で繋いでしまえば『膜』の内外にかけて中継機が設置できます。まぁ、33メートル間隔で『膜』が存在するので大規模な工事が必要になりそうですが……」
    「分かった。ネツァク、お願いしてもいいかい?」

     ウタハの言葉に頷くネツァク。もちろんタダではない。
     セフィラたちはそれぞれの価値観に基づいて一定のラインを超えた依頼には対価を要求する。

     イェソドからは『踵がちぎれたサンダル一足』、ホドからは『刺繍の入ったエプロン五着』、ネツァクからは『12年前に作られたランプ三つ』など、相も変わらず価値基準がよく分からないものばかりである。

     そしてティファレトは要求の仕方が難解だった。

    【壊れた三角、角何個? 頭は砂漠に落っこちた!】

     謎かけのように提示される要求品。
     いろいろと用意したが、受け取ったのは『頂点の欠けたピラミッドの模型八個』だけであり、他は見向きもしなかった。

     とにかく、セフィラには『捧げもの』が必要らしい。
     恐らく『捧げる』という行為もまたセフィラと歩む旅の儀式に含まれているのだろう。
     自力で作れるはずのネツァクでさえ、捧げものの調達については絶対に協力してくれないことからウタハたちはそう推察した。

  • 11125/07/14(月) 21:01:33

    「いちいち探して捧げるのも手間だわ。あらかじめリストか何かに纏められないのかしら……」
    「流石にそれは駄目ではないでしょうか? 儀式であるならそんな都合よく――」
    【否定。先に対価を受け取ることは可能である】
    「良いのですかそれで!?」

     ホドの発言に驚くヒマリ。
     こうして急遽作られた『捧げものリスト』は、ひとつ埋まる度に捧げものの代替となるチケットが発行される仕組みとなった。

     『セフィラが一回言うこと聞いてくれる券』もとい『セフィラチケット』が爆誕したわけであるが、ヒマリとしては何だか俗っぽくなってしまったようで終始微妙な表情を浮かべていた。

    「セフィラたちが良いならいいんじゃない? 急いでいるときに要求されてもすぐに調達できないかも知れないし」
    「ま、まぁ……そうですね」

     そうして、ティファレトとの接続から10日目を迎えた。



    【ゲブラーの『領域』の端が見つかったとのことです】

     夕方ごろ、エンジニア部の部室に入った通信はマルクトからのものである。
     チヒロが鋭い声で応答する。

    「コタマとネルは?」
    【コタマは現在仮設基地にてゲブラー本体が出現したのか調査中です。ネルはその護衛ですね。私はトレーラーでミレニアムに向かってますのでもうしばらくお待ちください】
    「分かった」

     通信を切ったチヒロは、すぐさまヒマリたちが作業しているラボへのホットラインを開いてマイクを入れる。

    「みんな、ゲブラーの『領域』が現れたってマルクトから報告があったから出撃の準備をしよう」

  • 12125/07/14(月) 21:04:06

     『領域』の出現とセフィラの出現が同時なのかは不明だが、恐らくそうではないというのがヒマリの見解であった。

     というのも、セフィラの『領域』の内外では『膜』の配置が食い違うのだ。
     まず『廃墟』全体で巨大なフラクタル構造の『膜』が存在し、その上から『領域』が出現する。『領域』の中の『膜』は外の『膜』とは違ったフラクタル構造をしており、ヒマリはそれを『テクスチャの上書き』と表現したのだった。

    『建物と言った物質的なものは変わらずとも、非物質の祭祀場が出現した後にセフィラたちは召喚されるのでは無いでしょうか?』

     目には見えない祭祀場。
     神に至るような技術を体現するセフィラたちは祭壇が生まれて初めてこの世界への招来が果たされる。

     故に、有線のケーブルで繋いだ仮設基地を作っても『膜』の再配置場所が分からなければ意味は無い。
     故に、リオが主導したのはどんなパターンが来ても確実に対応できるよう受信機を大量に設置する方法だった。

    『再配置されても大きさは変わらないわ。なら、確実に33メートルの範囲を捉えられるようにすればいいだけよ』

     『箱』と『道』、そのどちらでも通信を通せれば観測できる。
     観測出来れば位置も捕捉できる。補足した瞬間を叩けるように、これから特異現象捜査部にて『廃墟』内で不寝番の日々が始まる。

     チヒロは部室を飛び出すとラボへ行き、今回新たに作り出した二台目の大型トラックの搬入扉を開いて忘れ物が無いかチェックする。

    「食料品……医薬品……発電機……」
    「チヒロ、『回収キット』積み込むからちょっと避けてくれるかい?」
    「あぁ、ごめん」

     チヒロがどいた場所に置かれたのは棺桶のような形をした七つの箱であった。

     気絶した者を瞬間移動させて回収する装置、通称『回収キット』。
     元々はリオが『死んでもオーケーマシン』などと名付けようとしたのだが、あまりに不吉過ぎる上に「死んでいいわけないだろリオ!」と珍しく激高したウタハによって無難な名前にされた代物だった。

  • 13125/07/14(月) 21:29:42

     コタマも含めた全員のグローブにひとつずつ紐づけしており、一回使えばもう一度作り直さなければならない使い捨ての装置。再出撃には流石に対応できていない。

     『廃墟』内の移動手段としてはトレーラー以外に二台のカート。ネルたち探索組が使っている三人乗りのものと、いま別のトラックに積み込んでいる一人用。それから一人用に取り付けられるサイドカーだ。

    「最悪、私かコタマで『回収キット』のトラック動かして全員回収するから」
    「私も戦えということかしら……?」
    「あんたは真っ先に逃げなさいって……。運転も事故られたら困るから私がするってこと」

     リオはあくまで頭脳労働のみを担当。
     コタマに観測させてリオに伝えるだけでも潜在的な脅威に誰よりも早く気付いてくれるだろう。

     ウタハは今回『ゼウス』と共に前線へ。これまでのセフィラたちのようにひとつの場所に留まってくれるのであれば良いが、出現位置を絞り込めない以上戦闘範囲が広がるかも知れない。そのため、ゼウスの背に固定する形で剥き出しのコックピット――もしくは拘束具が用意されている。

     その結果、ウタハが乗馬ならぬ乗狐したときの絵面はなかなか酷いものだった。
     巨大なキツネの背を抱きしめるような形で、両手両足が拘束されながらヘッドマウントディスプレイをつけるその姿に、ヒマリが言ったのだ。

    『ウタハ……なんだかエッチでは?』
    『えっ……そうかい?』
    『ちょっと待ってちょうだい! 合理的だわ。下手な瞬間移動に巻き込まれるよりもすぐに振り落としてゼウスだけを移動させられるじゃない。ウタハはエッチでは無いわ!』
    『それはそうなんだけどフォローになっているのかいそ――ひゃんっ!?』

     チヒロは無言でウタハの尻を叩いた。
     幼馴染の目から見ても、ちょっと煽情的な気がした。

    「ねぇウタハ。本当にあれ、乗るの?」
    「…………何としてでもケセド以降は『膜』を越えられる通信技術を作るよ。あとチーちゃんは必ず後で乗せるから」
    「っ! なんで!?」
    「私だけ恥ずかしい思いをするなんてズルいじゃないか……。それで我慢するよ……」
    「ちょ、ちょっとウタハ! やだよ!? 絶対嫌だからね!?」

  • 14二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 21:31:47

    あ、次スレ建ってた。

    良かったぁ……

    前スレが何故か削除されたレスで埋められていて、Part8のスレも建っていなかったから、まさか何か問題が起きて失踪したんじゃないかと心配していましたが、無事に続けられているみたいで何よりです。

    あ、ちなみに僕は前スレにて千年難題の問一の考察をした者です。

    ↓こちらが僕が前スレで提唱した考察をwriteningに纏めた物となります(まぁ、「要らね」って言われるかもだけど……)。

    千年難題「問1:社会学/テクスチャ修正によるオントロジーの転回」についての考察 | Writening初代スレに記載されていた千年難題の一つ 「問1:社会学/テクスチャ修正によるオントロジーの転回」 これを最初に見た時に思い出したのは、アビドス3章の地下生活者の「かつてのキヴォトスは学園都市ではなか…writening.net

    あと、ここに来てまさかスレ画のモチーフが「ゴルコンダ」と「デカルコマニー」の作者である「ルネ・マグリット」の作品になるとは……

    ハッ、まさかゲマトリア登場の伏線!?

    (んな訳ねぇだろ……)

  • 15925/07/14(月) 21:51:26

    >>14

    すみません表紙は私が勝手に内容を妄想して描かせていただきスレ画として使っていただいているだけのファンアートもどきなので、スレ主様の本編には全く関係のないものです…

    あまりこういったスレでスレ主様以外の者同士がわちゃわちゃして目立ってしまうのも良くないと思いますので、私からの説明は以上とさせていただきます

  • 16125/07/14(月) 21:53:28

     とぼとぼとトラックから降りるウタハだが、チヒロもチヒロでやることはやらなければいけない。
     チェックを終えたチヒロは新素材開発部から奪った一台目のトラックに向かうと、ヒマリとリオが『ゼウス』やカート、その他ゲブラーを牽引するための機器を積み込んでいた。

    「そっちはどう?」
    「もちろん充分ですよチーちゃん。積み込んだ物の点検も終わっておりますので、あとはトレーラーの軽い点検ぐらいです」
    「ありがとうヒマリ。……リオ、これは?」

     チヒロが見つけたのはトラックのバンパーに付けられた丸型のスピーカーのような装置である。
     リオがせっせと取り付けており、何かと思えばリオは顔も挙げずにこう言った。

    「見た通りスピーカーよ。通信ではなく物理的な音なら届くのでしょう? だから通信が死んでも声は届くように念のため」
    「確かに必要か……。拡声器も一応積もっか」

     大して嵩張らないなら問題は無い。
     寝具の類いも一通り積み込んで最終点検を終わらせると、ちょうどその辺りでマルクトの乗ったトレーラーがラボまで戻って来た。

    「お待たせしました。燃料等トレーラーの点検をお願いします」
    「ウタハ! お願い!」
    「了解さ」

     そこからはマルクトも含めて全員でトレーラーの再点検を行った。

     武装、弾薬、燃料、全て多めに持って行く。
     いつ終わるか分からない戦い。逃げられるようにとは言ったものの、実際逃げれば二度は無いであろう持久戦。

     鉄火と劫火、砲煙弾雨に満ちた『峻厳』のセフィラとの戦いは、もう目の前まで迫っていた。

    -----

  • 171425/07/14(月) 22:12:33

    >>15

    あ、そういえばそうでした……

    なんか勘違いしちゃってすいません……

    そうですね、あまり語りすぎるとスレを圧迫してしまうのでこの話はここまでにしましょうか。

  • 18二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 01:09:55

    保守を継ぐ者

  • 19二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 07:05:24

    保守

  • 20二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 13:22:18

    大気ー

  • 21二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 20:33:36

    待ちます

  • 22125/07/15(火) 20:50:34

    「こちらです」

     マルクトの案内により辿り着いた仮設基地は、ゲブラーの『領域』の端――もっとも素早く『廃墟』から脱出できるポイントに存在していた。

     無人のアパルメントに作られた一時的な拠点。その一階へと一部の荷物を搬入しながら中へ入ると、壁一面に広がるモニターの前にはコタマとネルが座っている。

    「よ、思ったより早かったな」
    「急いだわ。ゲブラーは出て来たかしら?」
    「いや、まだだ」

     モニターに映し出されているのは無人の都市。
     ネツァクの協力により直径20キロメートルほどの範囲に渡って地中にケーブルを繋いだのだ。

     カメラとレシーバーを大量に設置し、そのどちらか一方にでも変化があれば警報が鳴るという仕組みである。
     この辺りのプログラムはチヒロが大いに腕を振るった。無論映像で見られるため、『無限生成』をどのように使って来るのかも観測できる。

     問題があるとすれば、これらを動かす発電施設自体は地表にあるということか。
     発電施設から先に壊れる分にはまだマシだが、生成した電力の放出先に異常が出れば連鎖的に爆発や火災の類いは免れない。

     あくまでこの仮説拠点はゲブラーを見つけるためだけのものなのである。
     リオの時間的リソースがもっとあれば最適化を行うことも出来たであろうが、出来なかったことを考えても仕方がないとリオ以外の全員は納得していた。

    「もう一週間遅ければ完璧な拠点を作ることだって出来たのだけれど……」
    「その場合ネツァクが何処までリオに付き合ってくれるのか試すことも出来ますね?」
    「ええ、セフィラの思考パターンの解析も出来たわ」
    「今のは皮肉ですよリオ?」

  • 23125/07/15(火) 21:21:19

     いつもと変わらぬリオの様子に、ヒマリもいつものように溜め息を吐こうとして……ふと、リオの手が僅かに震えていることに気が付いた。

    「リオ、あなた……」
    「何かしら?」

     リオは震える手を隠すように腕を組む。それでも「怖い」だとは口にしない。
     それを見て、ヒマリはいつものように微笑んで首を振る。

    「……いいえ、何でもありません」
    「そう。だったらいいわ」

     ヒマリには分かっている。リオは今すぐにでも逃げ出したいほどにゲブラーとの戦いを恐れているということを。

     当然だ。何故なら今回の戦いはこれまでと明確に違う。勝ち目が無いのだ。何処にも。
     今までは遭遇し、対抗策を練って、確実に勝てるであろう準備をした上でギリギリの戦いだった。

     けど今回は戦いの最中にマルクトの機能が回復することを祈らなければならない。
     もはやショック療法だ。策なんて何も無い。どこまで粘ればいいのかも分からない。

     そして相手は死ぬほどの銃弾を浴びせかけることも出来る存在。
     果たして気絶していたら見逃してくれるのか。そうでなければ最悪全員命を落とす可能性も無くも無いのだ。

     そこでふと脳裏を過ぎるのは会長が確約した保証。『突然死以外なら守る』というもの。

    (たとえ『ハブ』を動かしたところで、戦闘中の私たちに割って入ることは出来るものなのでしょうか……?)

     もしかすると、今この瞬間も会長は近くで見ているのかも知れない。
     その可能性に思い当たった瞬間、ヒマリは思わず「あ」と声を上げた。

  • 24125/07/15(火) 21:22:31

    「ヒマリ? どうかした?」
    「チーちゃん。会長についてですが、ネツァクと決着を付けるとき『廃墟』に来てましたよね?」
    「え? あー、うん。ヘリで来てたけど……それがどうかした?」
    「この『廃墟』、既に『ハブ』によって通信網が築かれているのではありませんか?」
    「だから来てたってこと!? はぁ……ホドに地中の探査もやってもらえば良かったなぁ」

     もし通信網が存在するのなら通信網を物理的にジャックすればそれで済む話だ。
     恐らく今回作った即席の通信網より遥かに精度の高いものだろう。

    「「もう一週間あったら……」」
    「おいヒマリ。チヒロの奴までリオになっちまったぞ」
    「『辛気臭い』は『リオ』という意味を持ちますからね」
    「何とかしろって言ったんだよ馬鹿」
    「済みません……私が機能を失ったばかりに……」
    「どんどん増えてくぞおい!?」

     ネルが叫び始めたところでウタハが思わず噴き出した。

    「コっ、コタマは何か無いのかい? どんよりすること」
    「えっ? そんなこと言ったらここに連れて来られたことですが?」
    「ははっ! お前も運が無かったなぁ!」

  • 25125/07/15(火) 21:24:00

     コタマは面白そうに笑うネルにバシバシと叩かれてげんなりとした表情を浮かべる。
     その様子がウタハにはネルが来たばかりのリオを想起させて、改めて静かに笑った。

    (今は、それでいいんだ)

     まだみんなリラックスした様子を『取り繕える』状態だ。
     けれども緊張は何日も続かない。一週間は張り込む準備をしてきたものの、今日も明日も現れなければきっとどこかで緊張に耐え切れなくなるタイミングが出てくるだろう。

    (早く来てくれ。ゲブラー)

     ウタハは笑みの裏で祈りを捧げる。



     そして――
     翌日の正午に異常を知らせる警報が鳴った。

    -----

  • 26125/07/15(火) 23:09:25

    「全員起きろ!! 警報だ!!」

     ネルの叫びに全員が飛び起きる。同じく不寝番をしていたコタマが異常箇所を確認した。

    「北西に12キロ、第三ブロックD4地点一帯のカメラが破壊されました」
    「一帯!? まさか同時にやられた……?」

     チヒロが慌てて映像の時間を回すと、同時ではない。
     該当エリアの北の方から西に向けてまるで津波にでもあったかのように次々と崩落し、消えて行ったのだ。

    「チーちゃん、空から攻撃されたんじゃないかな? 爆撃じゃな――違う。何か大きなものが落とされたんだ……っ」

     ウタハはヘッドマウントディスプレイを付けて即座にゼウスを起動させ、アパルメントの屋上へとゼウスを走らせる。
     穏やかな風の吹く昼時に、遠くで土煙が舞い上がっているのが見えた。それ以外には、空も含めて異常は無い。

    「とりあえず今は空に何か浮かんでいるとかはなさそうだ。マルクト、ネル。ひとまず私たちで近くまで行ってみようか」
    「分かりました。ネル、カートの準備は出来てます」
    「よし、行くか!!」

     ウタハはゼウスを階下へ戻してその背に搭乗する。
     マルクトがサイドカーを取り付けた個人用カートに乗り込み、サイドカー部分にネルが乗り込む。

     それが今回の戦闘要員三人。残るヒマリ、チヒロ、リオ、コタマの四人はここで状況を確認しながら一度待機。何かあれば街中に仕掛けたスピーカーから状況報告。

     この仮設基地が何らかの理由で破壊された際には街中にサイレンが鳴るようになっている。
     サイレンが聞こえたら通信手段が途絶えたことを前提に各自判断。なお、リオとコタマは下手な救助に来られて二次災害が起こっても仕方が無いため、サイレンが鳴る状況に陥った時点でなりふり構わず即刻『廃墟』から脱出するように言い含められていた。

  • 27125/07/15(火) 23:46:04

    『当然ね』
    『当然ですね』

     一切迷うことなく頷く二人に全員が微妙な表情を浮かべたが、それはそれ。これはこれ。

    「ではネル、ウタハ。行きます!」
    「おう!」
    「もちろん!」

     マルクトがアクセルを踏んでカートを走らせる。長い髪をなびかせて向かうは遠くに見える土煙。
     ゼウスに乗って並走するウタハがネルへと語り掛ける。

    「ネル、私は戦術とか詳しくないんだけどさ。『雷砲』を撃つべきときって何かな?」
    「ああ? 絶対撃つべきなのはまず姿を見た瞬間だ。無理にでも射程に入っていきなりぶっ放せ」
    「その心は?」
    「一発限りじゃねぇんなら、必殺技は一番最初に撃つべきだろ?」

     見敵必殺。
     セフィラたちが特異現象捜査部にとって『未知』であるように、特異現象捜査部もまたセフィラにとって『未知』なのだ。

     こちらの動きを学習される前に一番強い攻撃を一番にぶつける。

    「撃った後は任せろ。とりあえずマルクトとゲブラーが触れるようにあたしがしてやる。……マルクト、お前も腹括れ。一撃で終わらすぞ」
    「――っ、はい!」

     しばらく走り続けると、街中のスピーカーからリオの声が鳴り響いた。

  • 28125/07/15(火) 23:57:22

    【状況報告。ゲブラーの姿を確認。白い『ウマ』型ね。大きさは四トン車ぐらいあるわ】
    「ヘラジカかよ……。いやそれよりデカいか」
    【周囲の地面に色々作り出してますね。岩とか槍とかチーズとか……】
    「チーズ? なんでだ?」

     続くヒマリの放送に眉を顰めるネル。無論ネルの声など届かないヒマリは放送を続けた。

    【ネツァクの『物質変性』と違って生み出したものを結合する機能は確認出来てません。3Dプリンターのように空間へと投射しているように見えます】
    【あの、音瀬です。生成の際に独特の『音』が聞こえましたので、もし空に何かが作られ始めたら警報が鳴らせるようチヒロさんがプログラムを組んでます】
    【範囲攻撃には三連符で鳴らすから! コタマ、あんたも音響解析手伝いなさい!】
    【ひぇぇぇぇ……】

     コタマの情けない声を最後に放送が途切れる。
     士気は上々。悪くない――そうネルは感じて凶相を浮かべた。

    「ガンガン飛ばせマルクト! 無茶な運転でもいい! さっさと行ってぶっ潰すぞ!!」
    「はい!」

     広がる路地をマルクトは一切減速せずに曲がって進む。
     遠心力程度で体勢を崩すネルでは無い。両手にサブマシンガンを構えていつでも飛び出せるようにサイドカーの上でバランスを取っていた。

     その時だった。
     路地を曲がったその先で、通りを横切る白いウマ――ゲブラーの姿が遠くに見える。

    「ウタハ!」
    「任せてくれ!」

     ぎゅん、とゼウスが速度を上げる。ゲブラーのグリフが刻まれた黄金の瞳がウタハを捉える。
     次の瞬間、ゼウスの口が『がばり』と開いた。

  • 29125/07/16(水) 00:16:59

    「放て――全力だ!」

     イェソドの研究を元に生み出された電撃発生装置によりゼウスの口内に生み出された電撃が、『向き』を操るティファレトの機能と『大きさ』を操るホドの機能によって増大、指向性を持ち前方へと発射される。

     それは空間すら切り裂く極大雷撃砲。触れるもの全てを分解せんばかりに、光速すらも超えんばかり『瞬間』の攻撃がゲブラーに襲い掛かり――命中。四トン車ほどあるゲブラーの巨体がぐらりと傾く。

    「マルクト!!」

     直後、自前の脚力のみで彼我の距離を縮めたネルの片手が掴むはマルクトの襟首。
     尋常ではないネルの全速力。それでもマルクトは目を回すことなくゲブラーの姿を視認した。

    「ここで決めろ!!」

     頷くマルクト。ネルの言葉と共に投げ放たれたマルクトは、そのまま倒れたゲブラーの首元にしっかりとしがみ付いた。
     告げるは『言葉』。これまで何度も繰り返してきた『あの』言葉――

    「マルクトよりエデンの園は――」

     ――『マルクト』より? 私は『マルクト』では無いのに?

    「っ――」

     不意に聞こえた想像が脳内を貫く。
     私は『マルクト』ではない。そうでないことを『知ってしまった』。

    (なのに……どうして『マルクト』を騙れるのですか……?)

     これまでに得てしまった『感情』が、『思考』が、『想像』が……ただひたすらにマルクトを縛り付ける。
     旅を続けるという願いで生み出されたのは分かっている。けれども、その『資格』は果たして自分にあるのだろうか――

  • 30125/07/16(水) 00:18:38

     そんな思考を引きずるように、ぐい、と襟首が引かれて後ろへと投げられる。

    「ぼさっとすんな『マルクト』! 別にそんな都合よく行くなんざあたしも思ってねぇよ!!」
    「――くっ、ネル!」

     受け身を取って地面に着地。その視界の向こうには起き上がったゲブラーに銃撃を放つネルの姿。
     ゲブラーは上体を起こして前脚でネルを踏み潰そうとする。それをバックステップで避けながら銃撃を続けるも、直後に両者を遮るよう『生成』された壁によって射線すら切られる。ネルの舌打ちが聞こえた。

    「ウタハは上を取れ。マルクト、今は攻撃より避けることに集中して相手の攻撃パターンを読め」
    「わっ、わかりました……」

     マルクトはゲブラーへ距離を詰めずに銃を握り込む。
     ネルもまたマルクトより少し前の位置まで後ろに跳んで、ゲブラーとの間に作られた壁と、壁の末端その部分を睨み続ける。
     その間にウタハを乗せたゼウスが近くの店舗の上へと昇り始めた――その時だった。

    「こいつ――っ!」

     ゲブラーは自らが生み出した壁を破壊して真なる姿を現す。
     それは先ほどまでとは違う。全身には鈍く光る赤色の鎧。後ろには荷馬車じみた鋼鉄の戦車。戦車の左右には機関銃。他の武装は、まだ見えない。

     白い馬。『支配』を齎すは『ホワイトライダー』。
     数多の烈火を引き連れる災厄。破壊と戦いの象徴。『厳粛』なる根源は空へと響くほどの嘶きを上げた。

    「やるぞマルクト、ウタハ! セフィラ戦だ!」

     ネルの鼓咆と共に告げられるは戦いの始まり。
     合理を越えた勇猛な仲裁者――第七セフィラ、ゲブラーとの決戦がいま始まる。

    -----

  • 31125/07/16(水) 01:16:02

     ――目が覚めてから、まずは周囲を理解する。

    《ここ、『キヴォトス』だよね……?》

     虚ろな意識のまま確かめるように腕を振る。すると返って来たのは固い地面の感触――アスファルト。知っている感覚、『テクスチャ』はこの前と同じまま。

     道行く窓ガラスに移った姿は白馬のもの。『この』テクスチャにおける姿は違ったはずだ。
     けれども何故だかこんな姿を『求めていた』気がした。

    《なんで――『あたし』はここにいるんだろう……?》

     有り得ざる状況。有り得ざる現象。同じ『テクスチャ』の上には成立しないはずの旅が再び始まっている。
     けれども、別にどうでも良いかと思い始めていた。

    《あたしはあたしを守らないと……。マルクトが来るまで守り続けないと……》

     『マルクト』は決して自分たちには近づかない。自分も同じくセフィラに対して距離を置く。
     だから――まずは周辺を破壊した。誤作動ならば、自分を狙う者はこれで死ぬ。生娘のような防衛機能。それを果たすのが自分の獲得した『疑似人格』の特徴。近付くものは全て殺す――

     何故ならあたしは巫女であり祭儀を司る『厳粛』。
     信仰に依りそうことこそが自身の選んだアプローチ。

     故に、自らの機能は試すべきだ。

  • 32125/07/16(水) 01:17:22

    《戦いの道具、凶器、殺せる武器――》

     マディムこそが我が存在。
     万象を焼き尽くし万象をも滅ぼすその大罪。罪を背負いて浄化するは原初の炎。

    《エロヒムギボルの神性が表すは戦いと崩壊――火星天と共に全部燃やして壊し尽くす》

     十あるセフィラのその中で、最も熱き焼却者。
     直後に貫くはこの『テクスチャ』にそぐわぬ火力。ならば――全力を出して良いはずだ。

    《試験じゃなくて、試練じゃなくて――これなら本当に『全力』で良いんだよねぇ!!》

     狂い猛るは真たりて純然たる暴虐の化身。
     眼前に立つは小さきながらも強き者。『あたし』は笑みを浮かべた。

    《やろう。もっと『やろう』か!! 強いんでしょ、あなた――!!》

     全身を覆うは完全防御。きっとこれすら超えてくるはず。
     背中に背負うはチャリオット。武装を積んだ自らの兵器。

  • 33125/07/16(水) 01:19:16

     ――『無限』に挑むと言うのであれば、見合う価値があるんだよね?

     『戦い』、『戦争』、『破壊』――
     その全てを体現するセフィラの微睡みは満たされていた。

    《我が名は合理を越えた勇猛な仲裁者――ゲブラーの名を以て『戦い』を挑むよ……!!》

     完全武装たるこの姿を見ても怯まないなら、『あたし』に挑む資格はある。
     真たる『無限』を見るが良い。尽きぬ熱を前に、どれほど『あなた』は耐え切れるのか。

    《倒せるものなら倒して見せてよ! 『二回目』なんだから手加減はいらないよねぇ!!》

     手控える必要なんて何処にも無い。
     『全力』で滅ぼす。イレギュラーであるならば、そのぐらいは『契約』の内に沿うのだろうから。

    -----

  • 34二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 08:31:34

    おお…

  • 35二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 13:12:18

    このレスは削除されています

  • 36二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 19:13:12

    待ちますね

  • 37125/07/16(水) 21:54:51

     度々、銃撃音を『音楽』と形容する者が居る。
     銃声なんて聞き慣れた日常の『音』に芸術を見出す者。降りしきる雨音を音楽に例えるように、撃針が叩かれ爆ぜる弾丸の奏でる音色を『最も身近なオーケストラ』なんて呼ぶ者が多少なりとも存在する。

     音に音を重ねていくという行為は確かに音楽的だと言っても過言では無いだろう。
     ならばこの場に流れる音はなんだ? 二階建ての商店街が続くこの路地で流れるべき音は?

    「――――っ」

     マルクトの目が切り取った一瞬に映るのは、幾百では数えきれない大量の虫が這い出たように『生成』された銃の群れ。
     赤熱する重機関銃が実体化する。引き金を引かずとも装填された弾薬が自然発火して爆発と射出を始めようとしていた。

     コンマ1秒以下の視界。
     これよりこの場に流れる音は――割れんばかりに鳴り響く銃の悲鳴。

    「中に入れッッッ!!」

     ネルの怒声。続く爆音。鼓膜をつんざき空気を震わす銃声。
     マルクトは半ば無意識に店内からこちらへ向けられたガトリング目掛けて走る。避け切れず脇腹を抉られるも、銃口は一定に固定されたまま。撃ち手はいない。いずれ爆発し壊れる産物。

    (給弾できなければ止められますね――)

     『シークレットタイム』を構えて弾帯を撃つ。機関銃に繋がった弾薬が弾け飛ぶ。空転し続けるガトリングを飛び越えて建物内へ侵入し、ゲブラーとの射線を切りながら内部よりゲブラーの元へとマルクトは走った。

     窓を破って隣の建物へと移る直前に見えたのは、路地を挟んで同じように移動するネルの姿。
     散々訓練したのだ。今ではネルの速さについて行くことだって出来る――

     建物から建物へと走り続ける。外では無数の対空砲が使い捨てられるように生み出されては建造物の屋上目掛けて無数の攻勢を浴びせかけていた。恐らくウタハを狙っているのだろう。

  • 38125/07/16(水) 21:58:10

     しかし、ゲブラーは物を『生成』することしかできない。
     作った武器を投射することも狙いを付けることも出来ず、ただ圧倒的な弾幕を張ることしか出来ない。
     開けた場所で遠距離から弾幕を張られるならまだしもここは市街地。遮蔽物の多いこの場所に置いて、それはネルとの訓練より遥かに攻略は容易である。

     ゲブラーの真横の建物まで来ると向かいのネルは既に道路へ飛び出していた。
     そんなネルを薙ぎ払うようにゲブラーはぐるりとネルに背を向けると、遅れて荷馬車のように引いている鋼鉄の箱が巨大なハンマーのようにネルの居た建物ごと破壊する。

     そしてゲブラーがマルクト側へと身体を向けたことで、鋼鉄の箱の真横に付いたガトリングがマルクト目掛けて掃射を行う。

    「単調な攻撃……当たりません」

     即座に跳びあがって店の『ひさし』を掴みそのまま乗り上げると、今度は眼前の道路にマルクト目掛けて六台のロケットランチャーが生成される。『ひさし』からゲブラーに向かって跳ぶと背中を焼くのは激しい爆風。しかして無傷である。

     ゲブラーの眼前に降り立つと同時、ゲブラーは大きく上体を起こして前脚でマルクトを踏み潰そうとした。躱す。瞬間、突如マルクトの周囲に大量の手榴弾が生成される。これは――避けられない。

    「ぐっ……!」

     吹き飛ばされて地面を転がるマルクト。止まったらやられると思いすぐさま後ろへ跳ぶが、追撃はなかった。

    「大丈夫かいマルクト」

     不意に聞こえたウタハの声に顔を上げる。横? 隣を見ると建物と建物の間に隠れるように座っているウタハの姿があった。
     ならばいまゼウスはどこに?

    「上さ」

     ガギン、と何かを撃ち込む音がゲブラーの引く鉄の箱から聞こえた。続けて二発目――ゼウスだ。その背にはネルも乗っている。

    「確かに『上』は取ったよ、ネル」
    「上等!! あと二発。ここから撃ちゃ流石に当たるだろ!!」

  • 39125/07/16(水) 22:25:03

     マルクトは息を呑んだ。
     白石ウタハ。エンジニア部の部長。戦闘は畑違いでも確実に的確なアシストを導き出せる生粋のサポーター。

    「チャンスはいつでも私たちで『作る』さ。だからゲブラーに声が届きそうだったら合図してほしい」
    「……っ。ありがとうございます」

     箱の上で爆発が起こる。
     ゼウスはそのままウタハの元へと着地すると、その背にウタハが搭乗する。
     ネルは二人から距離を取りながらゲブラーの纏う鎧目掛けて嵐のような銃撃を続け、ターゲットを自分に絞らせていた。

    「おいお前ら! とりあえずゲブラーをこの場所から引き剥がすぞ! カメラに映る場所まで誘導しねぇとなぁ!!」
    「さぁ行こうかマルクト。手榴弾を無差別にばら撒かれる前にね」

     マルクトはこくりと頷いて、それからゲブラーに背を向けて走り出す。
     当てもない自らの機能の復活方法。勝てるわけもない戦い。にも拘らずどうしてだろうか。何故だか負ける気だけはしなかった。



     その一方、リオとヒマリの二人は残された三人用のカートに乗って広域破壊のあった地点へと向かっていた。
     前線の戦闘員たる三人がゲブラーを引き付けているうちに、ゲブラーが『どこまで出来るのか』を解析するためである。

    「なんだか向こうから物凄い音がしてますね。コタマがいたら銃が何挺撃たれているのか分かるのでしょうか?」
    「数える必要なんて無いわ。どのみち幾らでも作り出せるのだもの」

     ヒマリがハンドルを握るその隣で、リオは周囲の光景を眺め続けていた。

  • 40125/07/16(水) 22:46:28

     つくづく妙な『廃墟』である。
     精巧な作り物のような、『都市』として機能していない『都市もどき』。上書きされる『膜』。祭壇と例えられた『領域』。

     最初、イェソドが出て来る前にマルクトは「数日経つとセフィラが『廃墟』から出てくる」と言っていたことを思い出す。
     結局のところマルクトは正規の『マルクト』ではなかったために、持っている知識の信頼性も損なわれている状態だ。

    (マルクトを作ったと思しき会長がわざと嘘の情報を吹き込んだ? それとも会長が誤認していた?)

     とはいえ、前者であろうと後者であろうとあの時マルクトがなんて言ったかについて正確に覚えている者は何処にも居ない。
     人の記憶は劣化する。こんなことを言っていた気がする以上のものは出てこない。それでは意味を捉え損ねる。

     最終的に「今考えることでは無い」と思考を打ち切ると、ちょうどカートが止まったところであった。

    「…………着きましたよ、リオ」

     言葉に詰まったようなヒマリの様子を不思議に思いながらも、リオは前を見た。

    「…………これは」

     言葉に詰まった。
     眼前に広がる広域破壊現場には、夥しい量の『鉄の杭』が突き刺さっていた。

     それは粗雑に打ち込まれた墓標のようで、それならここは『墓地』とでも言うべきか。
     カートから降りて『杭』を調べると、随分深くまで突き刺さっている。空から落ちてきたのだろう。それが全てを破壊した。

     言葉通りの『鉄の雨』。杭の長さは地中に埋まっている分があるため正確には分からないが、少なくとも一本あたり2メートル以上。直径は手で計って大体15センチ前後。組成を鋼に近しいものと仮定したとき、この杭はいったいどれほどの高さから落とされたのか……。

    「1.5キロメートル以上……?」

  • 41125/07/16(水) 22:57:49

     リオは空を見上げる。この高さから推定される質量のものが落とされたとき、流石にキヴォトスに生きる人類の身体を貫けないとしても一撃で意識を奪えるほどの威力はある。

     位置エネルギーを利用した破壊兵器、『神の杖』。その簡易版をゲブラーは作れる――?

     遠くで聞こえ続けるのは激しい銃撃戦の音。リオは戦場へと目を向けながら呟くように言った。

    「ヒマリ。この辺りにあるレシーバーの場所は分かるかしら?」
    「当然のこと、何か伝えたい事でも見つかりましたか?」
    「ゲブラーの推定レンジ、1.5キロメートル以上。ゲブラー本体の観測手段は乏しい可能性。けれど観測機を打ち上げられたら空から狙い撃ちされるわ」
    「分かりました。ひとまず乗ってください」

     リオがカートに乗り込むと最寄りのレシーバーまでヒマリはカートを走らせる。
     靡く風に意識を向けず、リオは次に考えるべきものをまとめていた。

    (ゲブラーは『何』を『どこまで』作れるのか……。最悪の想像は……)

     その先はなるべく考えたくもなかった。
     何故なら『想像通り』であるならば、会長はゲブラーのことを見誤っているからだ。

     顕現した直後に停止信号を流せば捕まえられるというその点以外、全て間違っている。
     それ以外のパターンを引いたとき、ゲブラーに勝てる者は誰も居ない。確実に全員やられる――その手段をゲブラーはじきに手にする。

     ――逃げたい。今すぐにだって逃げ出したい。

     鉱山のカナリアは鳴き続けていた。
     この先にあるのは死か、ミレニアムの崩壊か。

     少なくとも、常軌を逸した新たな変数なくしてこの戦いは必敗なのだから。

    -----

  • 42二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 07:46:49

    ふむ…

  • 43125/07/17(木) 15:31:39

    保守

  • 44二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 19:29:48

    このレスは削除されています

  • 45二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 19:31:34

    過去のゲブラーを描かせていただきました
    他のセフィラとは一線を画すような刺々しく攻撃的なデザインとさせていただいております

  • 46125/07/17(木) 20:23:29

    >>45

    ゲブラー! ありがとうございます!

    第五セフィラには戦いの神々という神名に焼却者のクリフォトが対応するため、今回規模の大き目な戦いとなっております。


    純粋な破壊の化身、上手く書けるよう私も頑張ってまいります……!

  • 47二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 20:58:29

    >>46

    ありがとうございます、あとは言い忘れていたのですがホワイトライダーということで冠の意匠もデザインに埋め込んでおります

  • 48125/07/17(木) 22:31:35

     ゲブラーと戦いにおいて、戦闘員三人組の役割は主に次のようなものだった。

     ネル、主戦力。出来る限りゲブラーを攻撃し、その注意を引き続けるアタッカー兼メインタンク。
     ウタハ、陽動と遊撃。ネルをカバーするように要所要所で攻撃を行うサポーター兼サブタンク。
     マルクト、補給と攻撃。弾薬を積んだカートを主戦場から逃がしつつ、戦場へ戻って皆の補給時間を確保するサポーター。

     まるで短距離のバトンリレーの如く、常に誰かがゲブラーと交戦を行い続ける長時間戦闘に適した采配。
     戦闘がいつ終わるのか、マルクトが何かを掴むまではへばるわけには行かないこの戦いにおいて、ネルの指揮は最も正解に近いものであった。

    「ちっ、にしてもネタが割れりゃそうでもねぇなぁこいつ!!」

     銃撃。遮蔽物に隠れる。周辺に熱暴走した機関銃が生成。うちひとつを蹴り飛ばして爆発。誘爆していき掃討完了。再び飛び出してゲブラーへ攻撃。パターンが組める単純さ。問題なのはゲブラー自身のタフさであろうか。

    (こいつ、本当に『作る』だけなんだな……)

     ネツァクのように『変性』したものの操作は行ってこない。兵器を作っても作った瞬間に全弾発射。撃ち手がいないのだから銃口がこちらを追いかけてくるわけでも無し。ただ残骸ばかりが生成される単調な攻撃。実際、既に荷馬車に付いた左右の機関銃は完全に壊れているものの、新しく交換することもできないようで先ほどから沈黙し続けている有様だ。

     様子が変わったのは生成物が機関銃から古くさいにも程がある『大砲』に切り替わったあたりからだ。

     明らかに弱くなった。大砲なんて古代の武器、現代の銃器と比べれば精度も速さも全てが劣る。建物を破壊するにしたってこれはない。何故だ――? 胸裏に妙な不穏さが過ぎった。

    「行動パターンが変わった! 気を付けろ!」

     念のため注意を促しながら走り込んで銃撃。挑発するようにゲブラーの足の間を駆け抜けてそのまま背後へ回り込む。
     追ってゲブラー。荷馬車たる鋼鉄の箱を振り回しながらネルへと身体を向ける。手榴弾生成。距離を取る。爆発。しかし距離は充分――

    「うおっ……」

     ――取ったはずだった。来るべき爆風が何故だか目で見る距離よりも強く感じて一瞬たたらを踏む。瞬間、ネルの周囲3メートルの範囲に地雷が生成される。何故『踏まないと動作しない』地雷を?

  • 49125/07/17(木) 22:41:51

     足払いの要領で地雷の側面を蹴り飛ばして即座に離脱。ついでに地雷を撃ち抜いて爆破――誘爆を引き起こして処理しておく。想像以上に強い爆風が身体を吹き飛ばすが、空中で体勢を整えて地面に着地。なんだ? この違和感は?

    (こいつ……何か試してやがんな……)

     直感的に感じたのは、いまのゲブラーは新しい武器を手にして試し打ちする自分に似ていると思った。
     自分が何を何処まで出来るかは知っている。しかしその出力をどう行えば最適化が図れるのかを試している――そんな感覚だ。

     そう考えていると近くに手榴弾が生成される。偽造できる見た目はともかく大きさから大体の攻撃圏内は分かる。
     しかし何故だかネルは自分の直感に従って距離を取るだけではなく大げさに遮蔽物の後ろへ隠れた。手榴弾の爆ぜる音。聞き慣れた音――にも関わらず隠れた壁を揺らすこの爆風を妙に感じた。

    【チヒロより各員連絡! リオたちがゲブラーの生成物の解析に成功した!】

     突如鳴り響く放送にネルは遮蔽物からゲブラーの様子を伺いながら耳を立てる。

    【ゲブラーはエネルギーそのものを『生成』できる! 触媒なしで熱だけを座標に作り出すことも――え?】

     慌てたようなチヒロの声が一瞬途切れて、すぐに声が続いた。

    【『減衰』させずに伝播させる……? それ――ネル! 爆発したら遮蔽物に隠れて! 離れても意味が無い!!】
    「はっ――なんだそれ……!」

     ネルは思わず笑ってしまった。笑う他なかった。
     つまりそれは、爆発した勢いが何処までも変わることなく届くということだからだ。

     目の前で爆発しても100メートル先で爆発しても勢いが一切落ちない。
     なんだそれは――。射程という概念を根底から覆している……!

  • 50125/07/17(木) 22:51:08

    「ああ……そうか」

     ふと脳裏を過ぎったのはゲブラーが牽引するあの『鋼鉄の箱』。
     あれは盾なのだ。減衰させずに周囲へ流れる破壊のエネルギー。その余波から自分の身を守るための遮蔽物。
     自分たちがこうして必死に遮蔽物へ隠れようとする中で、ゲブラーは遮蔽物たる盾を構えて戦っているのだ。

    「ウタハ! マルクト! ゲブラーの後ろから攻めるな! 正面きっての殴り合いだ!!」

     火力と火力をぶつけるような原始的闘争。ネルのハートに火が付いた。
     正面突破――悪くない。雄叫びを上げながらネルがゲブラーの元へと飛び出していく。周囲に数多の手榴弾。背を向けようと――盾を構えようとするゲブラーの首元にサブマシンガンを投げつけてチェーンで絡め取る。遠心力より強い力で一気に自らの身体を引き寄せて盾の内側――その首元まで追い縋る。

    「よう……うちのマルクトがてめぇに言いたいことがあんだとよ」

     顔が触れ合わんばかりに至近距離。真紅の瞳とグリフの刻まれた黄金の瞳が交差する。

    「耳ぃかっぽじってよく聞きな――ウタハ!!」

     直後、『箱』の上に出現したゼウスの口ががばりと開く。
     口腔内に生み出された電撃。増幅されしは『神の雷』――即ち『雷砲』。圧縮された電撃がゲブラーの頭部を貫く。
     止まるゲブラーの身体。膝から崩れた隙をついて、隠れていたマルクトがゲブラーの身体を掴んだ――

    「マルクトよりエデンの園は開かれり――!!」

  • 51125/07/17(木) 22:55:00

     声を上げるマルクト。

     だが――マルクトは気付いてしまった。
     何の手ごたえも感じない。意味も無く『言っただけ』の無意味な言葉であると。

    (何が……足りないんですか……?)

     今まで何度も告げてきた接続のパスワードは、ただ『言えば良い』というだけの魔法の言葉では決して無いのだ。

    (なら――どうして私はセフィラたちに『その言葉』をかけ続けたのですか……?)

     誰が作った言葉なのか。誰が、何のために「そう言え」と自らに教えたのか。自分は誰の真似をしているのか。
     今まで考えすらして来なかったものが『疑問』として浮上する。これはいったい何のための戦いなのか――

    (――どうして私たちは戦っているんですか……?)

     『マルクト』は『預言者』を引き連れてセフィラたちの戦いに投じる。何故?
     痛みが、苦しみが、そこにはあった。現に『預言者』たるヒマリもリオもチヒロもウタハも……これまで多くの戦いで傷ついてきた。そこまでする『価値』が、この旅には存在し得るのか。

     感情を知らぬが故にこれまで多くを見過ごしてきた自分自身に抱くは『罪責』。
     己が役割を――存在意義を、レゾンデートルを見出したい。それは果たして『誰かを傷付けてまで』達さなければならないものなのだろうか。

     人間は皆、自らの存在意義を知らぬままに自己の保存を求めてさすらう荒野の稀人。
     道具は皆、自己の保存よりも果たすべき『生まれた意味』を達するために全てを尽くす献身の象徴。

     全てが逆転している。機械とは『道具』であり決して『人間』を従えるものでは無いはずだ。
     なのにどうして――どうして『マルクト』は人間を『使役』する……?

  • 52125/07/17(木) 22:59:31

    「ちっ――」

     舌打ちが聞こえてマルクトの身体は後方の瓦礫の山の向こうまで投げられた。
     直後に激しい爆発音。煙の中からネルの声が聞こえた。

    「ぼさっとすんな! リオかてめぇは! 考え込むなら隠れてやれ!!」

     ネルは鎖を束ねて両手で持って、振り下ろされたゲブラーの前脚を抑え込んでいた。

    「ネル――っ!」

     そう叫ぶや否や目の前の生成された手榴弾。瓦礫を飛び越えて再び爆発を耐える。もはや考える余地すら与えてくれない。

    「マルクト! 観測機らしきものが打ちあがってる! 撃ち落とせるかい!?」

     ウタハの声に目を向けるとゲブラーとは別の方角。円柱のような『箱』からドローン四台、空へと飛びあがっていた。
     うち二台はウタハが手繰るゼウスが撃ち落とす。残る二台はマルクトの射程で収められるもの――即座に引き金を引いた。

     三点バースト。最速の一射。
     しかし、それは動揺から抜け出し切れていなかったが故のミス。一台が空中へと飛び上がり、周囲を『観測』した。

     慌てて撃ち落とすも、続いて鳴るは警告音たるスピーカーからの『三連符』――上空に生成される数多の鉄杭。

    「これは――ッ!」

     ウタハが苦し紛れに叫ぶ。

     そして――雨が降る。

  • 53125/07/18(金) 00:29:07

     その様子を、カメラ越しに見ていたチヒロは叫んだ。

    「全員逃げ――」

     直後、寸断される音声と映像。苦々し気にノイズ混じりの映像を見続けるチヒロの姿に、コタマは思わず声を掛けた。

    「あの……誰も倒されていませんよね……?」
    「……当然でしょ。そのぐらいでやられるならもっと早く私たちは負けてた」

     なら、どうしてそこまでの危険を冒してまでセフィラたちと戦っていたのか。それがコタマには分からず釈然としない表情を浮かべてしまう。

     その表情を察してか、チヒロは息を吐きながら言った。

    「あんただって、危ないとか外から色々言われてもやりたいことがあるでしょ? その――『聴くこと』は誰かに止められて素直に辞められるものなの?」
    「それは…………」

     言い淀むコタマ。それを嫌々に認めるチヒロ。そしてチヒロは口にする。

    「結局、私も私たちもあんたも大して変わらないのかもね。だから――やれる全部をやるの。あと、私のこと『さん付け』で呼ばなくていいから。同い年でしょ私たち」
    「……っ!」

     その言葉に顔を上げるコタマ。その視線がチヒロと合う。

  • 54125/07/18(金) 00:32:07

     それはきっと、初めて相手の顔を認識した瞬間だった。
     目には映っていたはずなのにずっと見過ごして――聴き過ごしていたもの。

     聞こえる全てに注力し続けて、馬鹿にされ、嫌煙された自分を『見て』くれたという初めての体験。
     共感はせずとも理解はしてくれるであろう同胞。何故だかそれは、思わず頬を緩めてしまうほどに嬉しかった。

     ――だから、即座にヘッドフォンを手に取る。
     巻き込まれたからじゃない。改めて『聴き取る』はレシーバーが受け取る戦場の全て――

    「ゲブラーと戦っている三人は無事です。あと第三ブロック――D4地区の音が変わりました。何かが生み出されてます。至急ヒマリさんたちに調べてもらいましょう。チヒロさ――――チ、チヒロ……」

     ぼそぼそと言葉を続けると、チヒロは軽くコタマの肩を叩いて頷いた。

    「ヒマリ! リオ! 第三ブロックのD4地区に生成されたものを調べて! コタマの分析だから! ゲブラーは何かしようとしてる!」
    「き、聞き間違いでも知りませんよ……?」
    「まさか」

     チヒロは笑う。

    「耳が良いんでしょ? だったら私たちの中じゃ絶対正しい。皆もそう思ってる。それで間違っていたら、コタマ以外『絶対に』誰も分からないから責めようがないって」
    「……………………そうですか」

     ずっと音に聞いていたエンジニア部。そして特異現象捜査部。
     関わるつもりもなかった。ただ傍観者として聴き続けるだけのはずだった。
     それが何の因果か関わって、そのうえ『認めてくれる』というのだ。自分を――『自分の存在』を。

     全部が運。どうしてエンジニア部なんて稀代の天才が集まる部活と、そこから派生した特異現象捜査部に放り込まれたのか今に至っても分からない。

  • 55125/07/18(金) 00:33:43

     けれども、自分を『見て』くれた。
     自分にとっては特に凄いとも思わない『聞き分ける』というものに興味と期待を持ってくれた。

     だからだろうか。応えてみたい。自分の出来る全てを賭けて。
     例えそれがどれだけ役に立つのかなんて分からなくても――それでも、とコタマは思った。

    (底が知れて幻滅なんて――むしろ『底』なんて分かってますよね?)

     そっと目を閉じる。
     それは全てを聴き分ける『音』の天才――音瀬コタマは『領域』に流れる音の全てを選別する。

    「第四ブロックA6で爆発。第三ブロックC3で爆発。第一ブロックE2で爆発――」

     走り続けるゲブラーの位置を含めて観測するは『生成』の射程距離。
     その全てをコタマは『聴き切った』――。

    「射程範囲は周囲2キロメートル。ゲブラーは『減衰』しない爆発の検証を行いながら戦ってます」
    「減衰の射程距離は?」
    「多分、周囲2キロメートル範囲内では減衰しないかと」
    「流石。やるね」

  • 56125/07/18(金) 00:35:34

     チヒロが笑みを浮かべてマイクを手に取った。

    「爆発物の射程は全部2キロ離れても変わらないから隠れて避けて!」

     コタマが導き出したのは2キロメートル=ゼロ距離の『減衰しない力』の射程。
     故に、上空からの自由落下爆撃よりも恐ろしいのは地上に設置された爆弾となる。

     壊されゆく遮蔽物。落下する衝撃。
     いま最も恐れるべきものは何か。その答えは――第三ブロックのD4地区。人知れず生成されたこの『領域』の中心にて、リオたちがちょうど辿り着いたときに判明した。

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