- 1125/07/14(月) 20:06:42
失われた『マルクト』を見つける話。
撒かれた『未知』が芽吹き始める。
この旅は何のために始まったのか。『二週目』の旅路が始まったその意味とは。
スレ画はPart6の144様に書いて頂いたもの。告げるがいい、我が正体を。
※独自設定&独自解釈多数、オリキャラも出てくるため要注意。前回までのPart>>2にて。
- 2125/07/14(月) 20:07:44
■前回のあらすじ
古代史研究会が展示していた石像はまさしく、これから出現するセフィラの造形を予言するものであった。
確認されていない三体――即ちウマ、カマキリ、ネズミ。
これがいったいどのセフィラに当てはまるものなのか、そもそもこの石像はいったい何なのかは分からないままに進められるは、マルクトが失った機能を取り戻すための作戦。
会長が告げるは「マルクトはゲブラーと戦わなくてはいけない」というもの。
『無限生成』を体現するゲブラーと戦うべく、特現象捜査部の一行は『廃墟』およびこれまでのセフィラの調査を進めるのであった。
▼Part7
【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」Part7|あにまん掲示板自分が生まれた意味を知るための旅を行う機械の話。第六セフィラ、ティファレト確保。代わりに表出するのは『マルクト』を騙る『ドロイド』の存在。スレ画はPart6の153様に書いて頂いたもの。輝かしき者を見…bbs.animanch.com▼全話まとめ
【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」まとめ | Writening■前日譚:White-rabbit from Wandering Ways コユキが2年前のミレニアムサイエンススクールにタイムスリップする話 【SS】コユキ「にはは! 未来を変えちゃいますよー!」 https://bbs.animanch.com/board…writening.net▼ミュート機能導入まとめ
ミュート機能導入部屋リンク & スクリプト一覧リンク | Writening 【寄生荒らし愚痴部屋リンク】 https://c.kuku.lu/pmv4nen8 スクリプト製作者様や、導入解説部屋と愚痴部屋オーナーとこのwritingまとめの作者が居ます 寄生荒らし被害のお問い合わせ下書きなども固…writening.net※削除したレスなどを非表示にする機能です。Part170様、教えてくださりありがとうございます!
色々まとめて消したので「自分は違うよ!」という声は分かっております。その点はご容赦を。
『▼全話まとめ』にこれまでのスレはまとめておりますので、見づらいかも知れませんがそこから探してやってください。
感想頂けたりハート押してくださるとすごい嬉しくなりますので、私!
- 3二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 20:07:49
たておつです
- 4125/07/14(月) 20:09:20
※埋めがてらの小話24
ブルアカ、合同火力演習について。
EXバッファーをだいぶ積んで何とかALL4クリアしましたが、アバンギャルド君が体感的にいつも以上に強く感じました。
お前……守られるだけの存在じゃなかったんか……。
アバンギャルド君はヒロインなのかも知れません。改めて見ると腕もたくさん生えていてキュートですね。嘘です。そんなこと思ったのは一度としてありません。なんだその造形――これが、アバンギャルド……。 - 5125/07/14(月) 20:10:31
※埋めがてらの小話25
書いた話の謎は現在『回収編』。ですが保身も含めて何度でも言います。これは『読者が解けるミステリー』ではありません。や、一応解けても良いように伏線は張ってますが、納得が出来る解決法かどうかの自信がないのでひたすら予防線は張り巡らせます。
私も考察するタイプの読者ですが、『謎を解け!』で超能力とか出て来て「なんなんだよもぉ!!」となった経験はいったい何度あったことか……。
――つまり、この物語はそういう話です。
超能力だのなんだのが出てくるようなエキゾチックな解決が為される物語です。
哲学的剃刀は何本準備しましたか? もしかしたら切り落としていったその先に答えがあったりなかったり……。まぁ私も今更物語を覆せないのでいきなり超能力とか出て来てもご容赦を。 - 6125/07/14(月) 20:12:38
しまった……!
Part8なのにPart7って書いてしまいましたねこれ! これはPart8です! - 7125/07/14(月) 20:14:51
※埋めがてらの小話26
本世界線におけるセミナー役員は皆が異能持ちです。今まで色々と『ハッカー』だの『リサーチャー』だの称号を付けていましたが、三年生のセミナー役員は『○○:○○』と言った風に二つ持たせてます。
何故かって? カッコよくないですか!?
心の中の中学二年生が叫ぶのです。カッコいいと!
戦国武将だって二つ名持ちは沢山いるのです。古来よりカッコいいと思われているはずです二つ名持ちは! - 8二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 20:17:41
スレ画の元ネタってなんだっけ…?
ウルトラマンで見たけど…マルギットだっけ? - 9二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 20:38:36
- 10125/07/14(月) 20:59:56
四角い『膜』と円を描くセフィラの『領域』――
ゲブラーの『領域』はまだ形成されておらず、予測地点に存在する建造物も病院や集合墓地、競技場などが散見されるため、これまでと同じく施設と関連付けられるとしても絞り込みには至っていない。
ただ、それ以上の進展をコタマが発見していた。
「無線はひとつの『膜』の中でしか使えませんが、有線で繋いでしまえば『膜』の内外にかけて中継機が設置できます。まぁ、33メートル間隔で『膜』が存在するので大規模な工事が必要になりそうですが……」
「分かった。ネツァク、お願いしてもいいかい?」
ウタハの言葉に頷くネツァク。もちろんタダではない。
セフィラたちはそれぞれの価値観に基づいて一定のラインを超えた依頼には対価を要求する。
イェソドからは『踵がちぎれたサンダル一足』、ホドからは『刺繍の入ったエプロン五着』、ネツァクからは『12年前に作られたランプ三つ』など、相も変わらず価値基準がよく分からないものばかりである。
そしてティファレトは要求の仕方が難解だった。
【壊れた三角、角何個? 頭は砂漠に落っこちた!】
謎かけのように提示される要求品。
いろいろと用意したが、受け取ったのは『頂点の欠けたピラミッドの模型八個』だけであり、他は見向きもしなかった。
とにかく、セフィラには『捧げもの』が必要らしい。
恐らく『捧げる』という行為もまたセフィラと歩む旅の儀式に含まれているのだろう。
自力で作れるはずのネツァクでさえ、捧げものの調達については絶対に協力してくれないことからウタハたちはそう推察した。 - 11125/07/14(月) 21:01:33
「いちいち探して捧げるのも手間だわ。あらかじめリストか何かに纏められないのかしら……」
「流石にそれは駄目ではないでしょうか? 儀式であるならそんな都合よく――」
【否定。先に対価を受け取ることは可能である】
「良いのですかそれで!?」
ホドの発言に驚くヒマリ。
こうして急遽作られた『捧げものリスト』は、ひとつ埋まる度に捧げものの代替となるチケットが発行される仕組みとなった。
『セフィラが一回言うこと聞いてくれる券』もとい『セフィラチケット』が爆誕したわけであるが、ヒマリとしては何だか俗っぽくなってしまったようで終始微妙な表情を浮かべていた。
「セフィラたちが良いならいいんじゃない? 急いでいるときに要求されてもすぐに調達できないかも知れないし」
「ま、まぁ……そうですね」
そうして、ティファレトとの接続から10日目を迎えた。
【ゲブラーの『領域』の端が見つかったとのことです】
夕方ごろ、エンジニア部の部室に入った通信はマルクトからのものである。
チヒロが鋭い声で応答する。
「コタマとネルは?」
【コタマは現在仮設基地にてゲブラー本体が出現したのか調査中です。ネルはその護衛ですね。私はトレーラーでミレニアムに向かってますのでもうしばらくお待ちください】
「分かった」
通信を切ったチヒロは、すぐさまヒマリたちが作業しているラボへのホットラインを開いてマイクを入れる。
「みんな、ゲブラーの『領域』が現れたってマルクトから報告があったから出撃の準備をしよう」 - 12125/07/14(月) 21:04:06
『領域』の出現とセフィラの出現が同時なのかは不明だが、恐らくそうではないというのがヒマリの見解であった。
というのも、セフィラの『領域』の内外では『膜』の配置が食い違うのだ。
まず『廃墟』全体で巨大なフラクタル構造の『膜』が存在し、その上から『領域』が出現する。『領域』の中の『膜』は外の『膜』とは違ったフラクタル構造をしており、ヒマリはそれを『テクスチャの上書き』と表現したのだった。
『建物と言った物質的なものは変わらずとも、非物質の祭祀場が出現した後にセフィラたちは召喚されるのでは無いでしょうか?』
目には見えない祭祀場。
神に至るような技術を体現するセフィラたちは祭壇が生まれて初めてこの世界への招来が果たされる。
故に、有線のケーブルで繋いだ仮設基地を作っても『膜』の再配置場所が分からなければ意味は無い。
故に、リオが主導したのはどんなパターンが来ても確実に対応できるよう受信機を大量に設置する方法だった。
『再配置されても大きさは変わらないわ。なら、確実に33メートルの範囲を捉えられるようにすればいいだけよ』
『箱』と『道』、そのどちらでも通信を通せれば観測できる。
観測出来れば位置も捕捉できる。補足した瞬間を叩けるように、これから特異現象捜査部にて『廃墟』内で不寝番の日々が始まる。
チヒロは部室を飛び出すとラボへ行き、今回新たに作り出した二台目の大型トラックの搬入扉を開いて忘れ物が無いかチェックする。
「食料品……医薬品……発電機……」
「チヒロ、『回収キット』積み込むからちょっと避けてくれるかい?」
「あぁ、ごめん」
チヒロがどいた場所に置かれたのは棺桶のような形をした七つの箱であった。
気絶した者を瞬間移動させて回収する装置、通称『回収キット』。
元々はリオが『死んでもオーケーマシン』などと名付けようとしたのだが、あまりに不吉過ぎる上に「死んでいいわけないだろリオ!」と珍しく激高したウタハによって無難な名前にされた代物だった。 - 13125/07/14(月) 21:29:42
コタマも含めた全員のグローブにひとつずつ紐づけしており、一回使えばもう一度作り直さなければならない使い捨ての装置。再出撃には流石に対応できていない。
『廃墟』内の移動手段としてはトレーラー以外に二台のカート。ネルたち探索組が使っている三人乗りのものと、いま別のトラックに積み込んでいる一人用。それから一人用に取り付けられるサイドカーだ。
「最悪、私かコタマで『回収キット』のトラック動かして全員回収するから」
「私も戦えということかしら……?」
「あんたは真っ先に逃げなさいって……。運転も事故られたら困るから私がするってこと」
リオはあくまで頭脳労働のみを担当。
コタマに観測させてリオに伝えるだけでも潜在的な脅威に誰よりも早く気付いてくれるだろう。
ウタハは今回『ゼウス』と共に前線へ。これまでのセフィラたちのようにひとつの場所に留まってくれるのであれば良いが、出現位置を絞り込めない以上戦闘範囲が広がるかも知れない。そのため、ゼウスの背に固定する形で剥き出しのコックピット――もしくは拘束具が用意されている。
その結果、ウタハが乗馬ならぬ乗狐したときの絵面はなかなか酷いものだった。
巨大なキツネの背を抱きしめるような形で、両手両足が拘束されながらヘッドマウントディスプレイをつけるその姿に、ヒマリが言ったのだ。
『ウタハ……なんだかエッチでは?』
『えっ……そうかい?』
『ちょっと待ってちょうだい! 合理的だわ。下手な瞬間移動に巻き込まれるよりもすぐに振り落としてゼウスだけを移動させられるじゃない。ウタハはエッチでは無いわ!』
『それはそうなんだけどフォローになっているのかいそ――ひゃんっ!?』
チヒロは無言でウタハの尻を叩いた。
幼馴染の目から見ても、ちょっと煽情的な気がした。
「ねぇウタハ。本当にあれ、乗るの?」
「…………何としてでもケセド以降は『膜』を越えられる通信技術を作るよ。あとチーちゃんは必ず後で乗せるから」
「っ! なんで!?」
「私だけ恥ずかしい思いをするなんてズルいじゃないか……。それで我慢するよ……」
「ちょ、ちょっとウタハ! やだよ!? 絶対嫌だからね!?」 - 14二次元好きの匿名さん25/07/14(月) 21:31:47
あ、次スレ建ってた。
良かったぁ……
前スレが何故か削除されたレスで埋められていて、Part8のスレも建っていなかったから、まさか何か問題が起きて失踪したんじゃないかと心配していましたが、無事に続けられているみたいで何よりです。
あ、ちなみに僕は前スレにて千年難題の問一の考察をした者です。
↓こちらが僕が前スレで提唱した考察をwriteningに纏めた物となります(まぁ、「要らね」って言われるかもだけど……)。
千年難題「問1:社会学/テクスチャ修正によるオントロジーの転回」についての考察 | Writening初代スレに記載されていた千年難題の一つ 「問1:社会学/テクスチャ修正によるオントロジーの転回」 これを最初に見た時に思い出したのは、アビドス3章の地下生活者の「かつてのキヴォトスは学園都市ではなか…writening.netあと、ここに来てまさかスレ画のモチーフが「ゴルコンダ」と「デカルコマニー」の作者である「ルネ・マグリット」の作品になるとは……
ハッ、まさかゲマトリア登場の伏線!?
(んな訳ねぇだろ……)
- 15925/07/14(月) 21:51:26
- 16125/07/14(月) 21:53:28
とぼとぼとトラックから降りるウタハだが、チヒロもチヒロでやることはやらなければいけない。
チェックを終えたチヒロは新素材開発部から奪った一台目のトラックに向かうと、ヒマリとリオが『ゼウス』やカート、その他ゲブラーを牽引するための機器を積み込んでいた。
「そっちはどう?」
「もちろん充分ですよチーちゃん。積み込んだ物の点検も終わっておりますので、あとはトレーラーの軽い点検ぐらいです」
「ありがとうヒマリ。……リオ、これは?」
チヒロが見つけたのはトラックのバンパーに付けられた丸型のスピーカーのような装置である。
リオがせっせと取り付けており、何かと思えばリオは顔も挙げずにこう言った。
「見た通りスピーカーよ。通信ではなく物理的な音なら届くのでしょう? だから通信が死んでも声は届くように念のため」
「確かに必要か……。拡声器も一応積もっか」
大して嵩張らないなら問題は無い。
寝具の類いも一通り積み込んで最終点検を終わらせると、ちょうどその辺りでマルクトの乗ったトレーラーがラボまで戻って来た。
「お待たせしました。燃料等トレーラーの点検をお願いします」
「ウタハ! お願い!」
「了解さ」
そこからはマルクトも含めて全員でトレーラーの再点検を行った。
武装、弾薬、燃料、全て多めに持って行く。
いつ終わるか分からない戦い。逃げられるようにとは言ったものの、実際逃げれば二度は無いであろう持久戦。
鉄火と劫火、砲煙弾雨に満ちた『峻厳』のセフィラとの戦いは、もう目の前まで迫っていた。
----- - 171425/07/14(月) 22:12:33
- 18二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 01:09:55
保守を継ぐ者
- 19二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 07:05:24
保守
- 20二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 13:22:18
大気ー
- 21二次元好きの匿名さん25/07/15(火) 20:33:36
待ちます
- 22125/07/15(火) 20:50:34
「こちらです」
マルクトの案内により辿り着いた仮設基地は、ゲブラーの『領域』の端――もっとも素早く『廃墟』から脱出できるポイントに存在していた。
無人のアパルメントに作られた一時的な拠点。その一階へと一部の荷物を搬入しながら中へ入ると、壁一面に広がるモニターの前にはコタマとネルが座っている。
「よ、思ったより早かったな」
「急いだわ。ゲブラーは出て来たかしら?」
「いや、まだだ」
モニターに映し出されているのは無人の都市。
ネツァクの協力により直径20キロメートルほどの範囲に渡って地中にケーブルを繋いだのだ。
カメラとレシーバーを大量に設置し、そのどちらか一方にでも変化があれば警報が鳴るという仕組みである。
この辺りのプログラムはチヒロが大いに腕を振るった。無論映像で見られるため、『無限生成』をどのように使って来るのかも観測できる。
問題があるとすれば、これらを動かす発電施設自体は地表にあるということか。
発電施設から先に壊れる分にはまだマシだが、生成した電力の放出先に異常が出れば連鎖的に爆発や火災の類いは免れない。
あくまでこの仮説拠点はゲブラーを見つけるためだけのものなのである。
リオの時間的リソースがもっとあれば最適化を行うことも出来たであろうが、出来なかったことを考えても仕方がないとリオ以外の全員は納得していた。
「もう一週間遅ければ完璧な拠点を作ることだって出来たのだけれど……」
「その場合ネツァクが何処までリオに付き合ってくれるのか試すことも出来ますね?」
「ええ、セフィラの思考パターンの解析も出来たわ」
「今のは皮肉ですよリオ?」 - 23125/07/15(火) 21:21:19
いつもと変わらぬリオの様子に、ヒマリもいつものように溜め息を吐こうとして……ふと、リオの手が僅かに震えていることに気が付いた。
「リオ、あなた……」
「何かしら?」
リオは震える手を隠すように腕を組む。それでも「怖い」だとは口にしない。
それを見て、ヒマリはいつものように微笑んで首を振る。
「……いいえ、何でもありません」
「そう。だったらいいわ」
ヒマリには分かっている。リオは今すぐにでも逃げ出したいほどにゲブラーとの戦いを恐れているということを。
当然だ。何故なら今回の戦いはこれまでと明確に違う。勝ち目が無いのだ。何処にも。
今までは遭遇し、対抗策を練って、確実に勝てるであろう準備をした上でギリギリの戦いだった。
けど今回は戦いの最中にマルクトの機能が回復することを祈らなければならない。
もはやショック療法だ。策なんて何も無い。どこまで粘ればいいのかも分からない。
そして相手は死ぬほどの銃弾を浴びせかけることも出来る存在。
果たして気絶していたら見逃してくれるのか。そうでなければ最悪全員命を落とす可能性も無くも無いのだ。
そこでふと脳裏を過ぎるのは会長が確約した保証。『突然死以外なら守る』というもの。
(たとえ『ハブ』を動かしたところで、戦闘中の私たちに割って入ることは出来るものなのでしょうか……?)
もしかすると、今この瞬間も会長は近くで見ているのかも知れない。
その可能性に思い当たった瞬間、ヒマリは思わず「あ」と声を上げた。 - 24125/07/15(火) 21:22:31
「ヒマリ? どうかした?」
「チーちゃん。会長についてですが、ネツァクと決着を付けるとき『廃墟』に来てましたよね?」
「え? あー、うん。ヘリで来てたけど……それがどうかした?」
「この『廃墟』、既に『ハブ』によって通信網が築かれているのではありませんか?」
「だから来てたってこと!? はぁ……ホドに地中の探査もやってもらえば良かったなぁ」
もし通信網が存在するのなら通信網を物理的にジャックすればそれで済む話だ。
恐らく今回作った即席の通信網より遥かに精度の高いものだろう。
「「もう一週間あったら……」」
「おいヒマリ。チヒロの奴までリオになっちまったぞ」
「『辛気臭い』は『リオ』という意味を持ちますからね」
「何とかしろって言ったんだよ馬鹿」
「済みません……私が機能を失ったばかりに……」
「どんどん増えてくぞおい!?」
ネルが叫び始めたところでウタハが思わず噴き出した。
「コっ、コタマは何か無いのかい? どんよりすること」
「えっ? そんなこと言ったらここに連れて来られたことですが?」
「ははっ! お前も運が無かったなぁ!」 - 25125/07/15(火) 21:24:00
コタマは面白そうに笑うネルにバシバシと叩かれてげんなりとした表情を浮かべる。
その様子がウタハにはネルが来たばかりのリオを想起させて、改めて静かに笑った。
(今は、それでいいんだ)
まだみんなリラックスした様子を『取り繕える』状態だ。
けれども緊張は何日も続かない。一週間は張り込む準備をしてきたものの、今日も明日も現れなければきっとどこかで緊張に耐え切れなくなるタイミングが出てくるだろう。
(早く来てくれ。ゲブラー)
ウタハは笑みの裏で祈りを捧げる。
そして――
翌日の正午に異常を知らせる警報が鳴った。
----- - 26125/07/15(火) 23:09:25
「全員起きろ!! 警報だ!!」
ネルの叫びに全員が飛び起きる。同じく不寝番をしていたコタマが異常箇所を確認した。
「北西に12キロ、第三ブロックD4地点一帯のカメラが破壊されました」
「一帯!? まさか同時にやられた……?」
チヒロが慌てて映像の時間を回すと、同時ではない。
該当エリアの北の方から西に向けてまるで津波にでもあったかのように次々と崩落し、消えて行ったのだ。
「チーちゃん、空から攻撃されたんじゃないかな? 爆撃じゃな――違う。何か大きなものが落とされたんだ……っ」
ウタハはヘッドマウントディスプレイを付けて即座にゼウスを起動させ、アパルメントの屋上へとゼウスを走らせる。
穏やかな風の吹く昼時に、遠くで土煙が舞い上がっているのが見えた。それ以外には、空も含めて異常は無い。
「とりあえず今は空に何か浮かんでいるとかはなさそうだ。マルクト、ネル。ひとまず私たちで近くまで行ってみようか」
「分かりました。ネル、カートの準備は出来てます」
「よし、行くか!!」
ウタハはゼウスを階下へ戻してその背に搭乗する。
マルクトがサイドカーを取り付けた個人用カートに乗り込み、サイドカー部分にネルが乗り込む。
それが今回の戦闘要員三人。残るヒマリ、チヒロ、リオ、コタマの四人はここで状況を確認しながら一度待機。何かあれば街中に仕掛けたスピーカーから状況報告。
この仮設基地が何らかの理由で破壊された際には街中にサイレンが鳴るようになっている。
サイレンが聞こえたら通信手段が途絶えたことを前提に各自判断。なお、リオとコタマは下手な救助に来られて二次災害が起こっても仕方が無いため、サイレンが鳴る状況に陥った時点でなりふり構わず即刻『廃墟』から脱出するように言い含められていた。 - 27125/07/15(火) 23:46:04
『当然ね』
『当然ですね』
一切迷うことなく頷く二人に全員が微妙な表情を浮かべたが、それはそれ。これはこれ。
「ではネル、ウタハ。行きます!」
「おう!」
「もちろん!」
マルクトがアクセルを踏んでカートを走らせる。長い髪をなびかせて向かうは遠くに見える土煙。
ゼウスに乗って並走するウタハがネルへと語り掛ける。
「ネル、私は戦術とか詳しくないんだけどさ。『雷砲』を撃つべきときって何かな?」
「ああ? 絶対撃つべきなのはまず姿を見た瞬間だ。無理にでも射程に入っていきなりぶっ放せ」
「その心は?」
「一発限りじゃねぇんなら、必殺技は一番最初に撃つべきだろ?」
見敵必殺。
セフィラたちが特異現象捜査部にとって『未知』であるように、特異現象捜査部もまたセフィラにとって『未知』なのだ。
こちらの動きを学習される前に一番強い攻撃を一番にぶつける。
「撃った後は任せろ。とりあえずマルクトとゲブラーが触れるようにあたしがしてやる。……マルクト、お前も腹括れ。一撃で終わらすぞ」
「――っ、はい!」
しばらく走り続けると、街中のスピーカーからリオの声が鳴り響いた。 - 28125/07/15(火) 23:57:22
【状況報告。ゲブラーの姿を確認。白い『ウマ』型ね。大きさは四トン車ぐらいあるわ】
「ヘラジカかよ……。いやそれよりデカいか」
【周囲の地面に色々作り出してますね。岩とか槍とかチーズとか……】
「チーズ? なんでだ?」
続くヒマリの放送に眉を顰めるネル。無論ネルの声など届かないヒマリは放送を続けた。
【ネツァクの『物質変性』と違って生み出したものを結合する機能は確認出来てません。3Dプリンターのように空間へと投射しているように見えます】
【あの、音瀬です。生成の際に独特の『音』が聞こえましたので、もし空に何かが作られ始めたら警報が鳴らせるようチヒロさんがプログラムを組んでます】
【範囲攻撃には三連符で鳴らすから! コタマ、あんたも音響解析手伝いなさい!】
【ひぇぇぇぇ……】
コタマの情けない声を最後に放送が途切れる。
士気は上々。悪くない――そうネルは感じて凶相を浮かべた。
「ガンガン飛ばせマルクト! 無茶な運転でもいい! さっさと行ってぶっ潰すぞ!!」
「はい!」
広がる路地をマルクトは一切減速せずに曲がって進む。
遠心力程度で体勢を崩すネルでは無い。両手にサブマシンガンを構えていつでも飛び出せるようにサイドカーの上でバランスを取っていた。
その時だった。
路地を曲がったその先で、通りを横切る白いウマ――ゲブラーの姿が遠くに見える。
「ウタハ!」
「任せてくれ!」
ぎゅん、とゼウスが速度を上げる。ゲブラーのグリフが刻まれた黄金の瞳がウタハを捉える。
次の瞬間、ゼウスの口が『がばり』と開いた。 - 29125/07/16(水) 00:16:59
「放て――全力だ!」
イェソドの研究を元に生み出された電撃発生装置によりゼウスの口内に生み出された電撃が、『向き』を操るティファレトの機能と『大きさ』を操るホドの機能によって増大、指向性を持ち前方へと発射される。
それは空間すら切り裂く極大雷撃砲。触れるもの全てを分解せんばかりに、光速すらも超えんばかり『瞬間』の攻撃がゲブラーに襲い掛かり――命中。四トン車ほどあるゲブラーの巨体がぐらりと傾く。
「マルクト!!」
直後、自前の脚力のみで彼我の距離を縮めたネルの片手が掴むはマルクトの襟首。
尋常ではないネルの全速力。それでもマルクトは目を回すことなくゲブラーの姿を視認した。
「ここで決めろ!!」
頷くマルクト。ネルの言葉と共に投げ放たれたマルクトは、そのまま倒れたゲブラーの首元にしっかりとしがみ付いた。
告げるは『言葉』。これまで何度も繰り返してきた『あの』言葉――
「マルクトよりエデンの園は――」
――『マルクト』より? 私は『マルクト』では無いのに?
「っ――」
不意に聞こえた想像が脳内を貫く。
私は『マルクト』ではない。そうでないことを『知ってしまった』。
(なのに……どうして『マルクト』を騙れるのですか……?)
これまでに得てしまった『感情』が、『思考』が、『想像』が……ただひたすらにマルクトを縛り付ける。
旅を続けるという願いで生み出されたのは分かっている。けれども、その『資格』は果たして自分にあるのだろうか―― - 30125/07/16(水) 00:18:38
そんな思考を引きずるように、ぐい、と襟首が引かれて後ろへと投げられる。
「ぼさっとすんな『マルクト』! 別にそんな都合よく行くなんざあたしも思ってねぇよ!!」
「――くっ、ネル!」
受け身を取って地面に着地。その視界の向こうには起き上がったゲブラーに銃撃を放つネルの姿。
ゲブラーは上体を起こして前脚でネルを踏み潰そうとする。それをバックステップで避けながら銃撃を続けるも、直後に両者を遮るよう『生成』された壁によって射線すら切られる。ネルの舌打ちが聞こえた。
「ウタハは上を取れ。マルクト、今は攻撃より避けることに集中して相手の攻撃パターンを読め」
「わっ、わかりました……」
マルクトはゲブラーへ距離を詰めずに銃を握り込む。
ネルもまたマルクトより少し前の位置まで後ろに跳んで、ゲブラーとの間に作られた壁と、壁の末端その部分を睨み続ける。
その間にウタハを乗せたゼウスが近くの店舗の上へと昇り始めた――その時だった。
「こいつ――っ!」
ゲブラーは自らが生み出した壁を破壊して真なる姿を現す。
それは先ほどまでとは違う。全身には鈍く光る赤色の鎧。後ろには荷馬車じみた鋼鉄の戦車。戦車の左右には機関銃。他の武装は、まだ見えない。
白い馬。『支配』を齎すは『ホワイトライダー』。
数多の烈火を引き連れる災厄。破壊と戦いの象徴。『厳粛』なる根源は空へと響くほどの嘶きを上げた。
「やるぞマルクト、ウタハ! セフィラ戦だ!」
ネルの鼓咆と共に告げられるは戦いの始まり。
合理を越えた勇猛な仲裁者――第七セフィラ、ゲブラーとの決戦がいま始まる。
----- - 31125/07/16(水) 01:16:02
――目が覚めてから、まずは周囲を理解する。
《ここ、『キヴォトス』だよね……?》
虚ろな意識のまま確かめるように腕を振る。すると返って来たのは固い地面の感触――アスファルト。知っている感覚、『テクスチャ』はこの前と同じまま。
道行く窓ガラスに移った姿は白馬のもの。『この』テクスチャにおける姿は違ったはずだ。
けれども何故だかこんな姿を『求めていた』気がした。
《なんで――『あたし』はここにいるんだろう……?》
有り得ざる状況。有り得ざる現象。同じ『テクスチャ』の上には成立しないはずの旅が再び始まっている。
けれども、別にどうでも良いかと思い始めていた。
《あたしはあたしを守らないと……。マルクトが来るまで守り続けないと……》
『マルクト』は決して自分たちには近づかない。自分も同じくセフィラに対して距離を置く。
だから――まずは周辺を破壊した。誤作動ならば、自分を狙う者はこれで死ぬ。生娘のような防衛機能。それを果たすのが自分の獲得した『疑似人格』の特徴。近付くものは全て殺す――
何故ならあたしは巫女であり祭儀を司る『厳粛』。
信仰に依りそうことこそが自身の選んだアプローチ。
故に、自らの機能は試すべきだ。 - 32125/07/16(水) 01:17:22
《戦いの道具、凶器、殺せる武器――》
マディムこそが我が存在。
万象を焼き尽くし万象をも滅ぼすその大罪。罪を背負いて浄化するは原初の炎。
《エロヒムギボルの神性が表すは戦いと崩壊――火星天と共に全部燃やして壊し尽くす》
十あるセフィラのその中で、最も熱き焼却者。
直後に貫くはこの『テクスチャ』にそぐわぬ火力。ならば――全力を出して良いはずだ。
《試験じゃなくて、試練じゃなくて――これなら本当に『全力』で良いんだよねぇ!!》
狂い猛るは真たりて純然たる暴虐の化身。
眼前に立つは小さきながらも強き者。『あたし』は笑みを浮かべた。
《やろう。もっと『やろう』か!! 強いんでしょ、あなた――!!》
全身を覆うは完全防御。きっとこれすら超えてくるはず。
背中に背負うはチャリオット。武装を積んだ自らの兵器。 - 33125/07/16(水) 01:19:16
――『無限』に挑むと言うのであれば、見合う価値があるんだよね?
『戦い』、『戦争』、『破壊』――
その全てを体現するセフィラの微睡みは満たされていた。
《我が名は合理を越えた勇猛な仲裁者――ゲブラーの名を以て『戦い』を挑むよ……!!》
完全武装たるこの姿を見ても怯まないなら、『あたし』に挑む資格はある。
真たる『無限』を見るが良い。尽きぬ熱を前に、どれほど『あなた』は耐え切れるのか。
《倒せるものなら倒して見せてよ! 『二回目』なんだから手加減はいらないよねぇ!!》
手控える必要なんて何処にも無い。
『全力』で滅ぼす。イレギュラーであるならば、そのぐらいは『契約』の内に沿うのだろうから。
----- - 34二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 08:31:34
おお…
- 35二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 13:12:18
このレスは削除されています
- 36二次元好きの匿名さん25/07/16(水) 19:13:12
待ちますね
- 37125/07/16(水) 21:54:51
度々、銃撃音を『音楽』と形容する者が居る。
銃声なんて聞き慣れた日常の『音』に芸術を見出す者。降りしきる雨音を音楽に例えるように、撃針が叩かれ爆ぜる弾丸の奏でる音色を『最も身近なオーケストラ』なんて呼ぶ者が多少なりとも存在する。
音に音を重ねていくという行為は確かに音楽的だと言っても過言では無いだろう。
ならばこの場に流れる音はなんだ? 二階建ての商店街が続くこの路地で流れるべき音は?
「――――っ」
マルクトの目が切り取った一瞬に映るのは、幾百では数えきれない大量の虫が這い出たように『生成』された銃の群れ。
赤熱する重機関銃が実体化する。引き金を引かずとも装填された弾薬が自然発火して爆発と射出を始めようとしていた。
コンマ1秒以下の視界。
これよりこの場に流れる音は――割れんばかりに鳴り響く銃の悲鳴。
「中に入れッッッ!!」
ネルの怒声。続く爆音。鼓膜をつんざき空気を震わす銃声。
マルクトは半ば無意識に店内からこちらへ向けられたガトリング目掛けて走る。避け切れず脇腹を抉られるも、銃口は一定に固定されたまま。撃ち手はいない。いずれ爆発し壊れる産物。
(給弾できなければ止められますね――)
『シークレットタイム』を構えて弾帯を撃つ。機関銃に繋がった弾薬が弾け飛ぶ。空転し続けるガトリングを飛び越えて建物内へ侵入し、ゲブラーとの射線を切りながら内部よりゲブラーの元へとマルクトは走った。
窓を破って隣の建物へと移る直前に見えたのは、路地を挟んで同じように移動するネルの姿。
散々訓練したのだ。今ではネルの速さについて行くことだって出来る――
建物から建物へと走り続ける。外では無数の対空砲が使い捨てられるように生み出されては建造物の屋上目掛けて無数の攻勢を浴びせかけていた。恐らくウタハを狙っているのだろう。 - 38125/07/16(水) 21:58:10
しかし、ゲブラーは物を『生成』することしかできない。
作った武器を投射することも狙いを付けることも出来ず、ただ圧倒的な弾幕を張ることしか出来ない。
開けた場所で遠距離から弾幕を張られるならまだしもここは市街地。遮蔽物の多いこの場所に置いて、それはネルとの訓練より遥かに攻略は容易である。
ゲブラーの真横の建物まで来ると向かいのネルは既に道路へ飛び出していた。
そんなネルを薙ぎ払うようにゲブラーはぐるりとネルに背を向けると、遅れて荷馬車のように引いている鋼鉄の箱が巨大なハンマーのようにネルの居た建物ごと破壊する。
そしてゲブラーがマルクト側へと身体を向けたことで、鋼鉄の箱の真横に付いたガトリングがマルクト目掛けて掃射を行う。
「単調な攻撃……当たりません」
即座に跳びあがって店の『ひさし』を掴みそのまま乗り上げると、今度は眼前の道路にマルクト目掛けて六台のロケットランチャーが生成される。『ひさし』からゲブラーに向かって跳ぶと背中を焼くのは激しい爆風。しかして無傷である。
ゲブラーの眼前に降り立つと同時、ゲブラーは大きく上体を起こして前脚でマルクトを踏み潰そうとした。躱す。瞬間、突如マルクトの周囲に大量の手榴弾が生成される。これは――避けられない。
「ぐっ……!」
吹き飛ばされて地面を転がるマルクト。止まったらやられると思いすぐさま後ろへ跳ぶが、追撃はなかった。
「大丈夫かいマルクト」
不意に聞こえたウタハの声に顔を上げる。横? 隣を見ると建物と建物の間に隠れるように座っているウタハの姿があった。
ならばいまゼウスはどこに?
「上さ」
ガギン、と何かを撃ち込む音がゲブラーの引く鉄の箱から聞こえた。続けて二発目――ゼウスだ。その背にはネルも乗っている。
「確かに『上』は取ったよ、ネル」
「上等!! あと二発。ここから撃ちゃ流石に当たるだろ!!」 - 39125/07/16(水) 22:25:03
マルクトは息を呑んだ。
白石ウタハ。エンジニア部の部長。戦闘は畑違いでも確実に的確なアシストを導き出せる生粋のサポーター。
「チャンスはいつでも私たちで『作る』さ。だからゲブラーに声が届きそうだったら合図してほしい」
「……っ。ありがとうございます」
箱の上で爆発が起こる。
ゼウスはそのままウタハの元へと着地すると、その背にウタハが搭乗する。
ネルは二人から距離を取りながらゲブラーの纏う鎧目掛けて嵐のような銃撃を続け、ターゲットを自分に絞らせていた。
「おいお前ら! とりあえずゲブラーをこの場所から引き剥がすぞ! カメラに映る場所まで誘導しねぇとなぁ!!」
「さぁ行こうかマルクト。手榴弾を無差別にばら撒かれる前にね」
マルクトはこくりと頷いて、それからゲブラーに背を向けて走り出す。
当てもない自らの機能の復活方法。勝てるわけもない戦い。にも拘らずどうしてだろうか。何故だか負ける気だけはしなかった。
その一方、リオとヒマリの二人は残された三人用のカートに乗って広域破壊のあった地点へと向かっていた。
前線の戦闘員たる三人がゲブラーを引き付けているうちに、ゲブラーが『どこまで出来るのか』を解析するためである。
「なんだか向こうから物凄い音がしてますね。コタマがいたら銃が何挺撃たれているのか分かるのでしょうか?」
「数える必要なんて無いわ。どのみち幾らでも作り出せるのだもの」
ヒマリがハンドルを握るその隣で、リオは周囲の光景を眺め続けていた。 - 40125/07/16(水) 22:46:28
つくづく妙な『廃墟』である。
精巧な作り物のような、『都市』として機能していない『都市もどき』。上書きされる『膜』。祭壇と例えられた『領域』。
最初、イェソドが出て来る前にマルクトは「数日経つとセフィラが『廃墟』から出てくる」と言っていたことを思い出す。
結局のところマルクトは正規の『マルクト』ではなかったために、持っている知識の信頼性も損なわれている状態だ。
(マルクトを作ったと思しき会長がわざと嘘の情報を吹き込んだ? それとも会長が誤認していた?)
とはいえ、前者であろうと後者であろうとあの時マルクトがなんて言ったかについて正確に覚えている者は何処にも居ない。
人の記憶は劣化する。こんなことを言っていた気がする以上のものは出てこない。それでは意味を捉え損ねる。
最終的に「今考えることでは無い」と思考を打ち切ると、ちょうどカートが止まったところであった。
「…………着きましたよ、リオ」
言葉に詰まったようなヒマリの様子を不思議に思いながらも、リオは前を見た。
「…………これは」
言葉に詰まった。
眼前に広がる広域破壊現場には、夥しい量の『鉄の杭』が突き刺さっていた。
それは粗雑に打ち込まれた墓標のようで、それならここは『墓地』とでも言うべきか。
カートから降りて『杭』を調べると、随分深くまで突き刺さっている。空から落ちてきたのだろう。それが全てを破壊した。
言葉通りの『鉄の雨』。杭の長さは地中に埋まっている分があるため正確には分からないが、少なくとも一本あたり2メートル以上。直径は手で計って大体15センチ前後。組成を鋼に近しいものと仮定したとき、この杭はいったいどれほどの高さから落とされたのか……。
「1.5キロメートル以上……?」 - 41125/07/16(水) 22:57:49
リオは空を見上げる。この高さから推定される質量のものが落とされたとき、流石にキヴォトスに生きる人類の身体を貫けないとしても一撃で意識を奪えるほどの威力はある。
位置エネルギーを利用した破壊兵器、『神の杖』。その簡易版をゲブラーは作れる――?
遠くで聞こえ続けるのは激しい銃撃戦の音。リオは戦場へと目を向けながら呟くように言った。
「ヒマリ。この辺りにあるレシーバーの場所は分かるかしら?」
「当然のこと、何か伝えたい事でも見つかりましたか?」
「ゲブラーの推定レンジ、1.5キロメートル以上。ゲブラー本体の観測手段は乏しい可能性。けれど観測機を打ち上げられたら空から狙い撃ちされるわ」
「分かりました。ひとまず乗ってください」
リオがカートに乗り込むと最寄りのレシーバーまでヒマリはカートを走らせる。
靡く風に意識を向けず、リオは次に考えるべきものをまとめていた。
(ゲブラーは『何』を『どこまで』作れるのか……。最悪の想像は……)
その先はなるべく考えたくもなかった。
何故なら『想像通り』であるならば、会長はゲブラーのことを見誤っているからだ。
顕現した直後に停止信号を流せば捕まえられるというその点以外、全て間違っている。
それ以外のパターンを引いたとき、ゲブラーに勝てる者は誰も居ない。確実に全員やられる――その手段をゲブラーはじきに手にする。
――逃げたい。今すぐにだって逃げ出したい。
鉱山のカナリアは鳴き続けていた。
この先にあるのは死か、ミレニアムの崩壊か。
少なくとも、常軌を逸した新たな変数なくしてこの戦いは必敗なのだから。
----- - 42二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 07:46:49
ふむ…
- 43125/07/17(木) 15:31:39
保守
- 44二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 19:29:48
このレスは削除されています
- 45二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 19:31:34
- 46125/07/17(木) 20:23:29
- 47二次元好きの匿名さん25/07/17(木) 20:58:29
ありがとうございます、あとは言い忘れていたのですがホワイトライダーということで冠の意匠もデザインに埋め込んでおります
- 48125/07/17(木) 22:31:35
ゲブラーと戦いにおいて、戦闘員三人組の役割は主に次のようなものだった。
ネル、主戦力。出来る限りゲブラーを攻撃し、その注意を引き続けるアタッカー兼メインタンク。
ウタハ、陽動と遊撃。ネルをカバーするように要所要所で攻撃を行うサポーター兼サブタンク。
マルクト、補給と攻撃。弾薬を積んだカートを主戦場から逃がしつつ、戦場へ戻って皆の補給時間を確保するサポーター。
まるで短距離のバトンリレーの如く、常に誰かがゲブラーと交戦を行い続ける長時間戦闘に適した采配。
戦闘がいつ終わるのか、マルクトが何かを掴むまではへばるわけには行かないこの戦いにおいて、ネルの指揮は最も正解に近いものであった。
「ちっ、にしてもネタが割れりゃそうでもねぇなぁこいつ!!」
銃撃。遮蔽物に隠れる。周辺に熱暴走した機関銃が生成。うちひとつを蹴り飛ばして爆発。誘爆していき掃討完了。再び飛び出してゲブラーへ攻撃。パターンが組める単純さ。問題なのはゲブラー自身のタフさであろうか。
(こいつ、本当に『作る』だけなんだな……)
ネツァクのように『変性』したものの操作は行ってこない。兵器を作っても作った瞬間に全弾発射。撃ち手がいないのだから銃口がこちらを追いかけてくるわけでも無し。ただ残骸ばかりが生成される単調な攻撃。実際、既に荷馬車に付いた左右の機関銃は完全に壊れているものの、新しく交換することもできないようで先ほどから沈黙し続けている有様だ。
様子が変わったのは生成物が機関銃から古くさいにも程がある『大砲』に切り替わったあたりからだ。
明らかに弱くなった。大砲なんて古代の武器、現代の銃器と比べれば精度も速さも全てが劣る。建物を破壊するにしたってこれはない。何故だ――? 胸裏に妙な不穏さが過ぎった。
「行動パターンが変わった! 気を付けろ!」
念のため注意を促しながら走り込んで銃撃。挑発するようにゲブラーの足の間を駆け抜けてそのまま背後へ回り込む。
追ってゲブラー。荷馬車たる鋼鉄の箱を振り回しながらネルへと身体を向ける。手榴弾生成。距離を取る。爆発。しかし距離は充分――
「うおっ……」
――取ったはずだった。来るべき爆風が何故だか目で見る距離よりも強く感じて一瞬たたらを踏む。瞬間、ネルの周囲3メートルの範囲に地雷が生成される。何故『踏まないと動作しない』地雷を? - 49125/07/17(木) 22:41:51
足払いの要領で地雷の側面を蹴り飛ばして即座に離脱。ついでに地雷を撃ち抜いて爆破――誘爆を引き起こして処理しておく。想像以上に強い爆風が身体を吹き飛ばすが、空中で体勢を整えて地面に着地。なんだ? この違和感は?
(こいつ……何か試してやがんな……)
直感的に感じたのは、いまのゲブラーは新しい武器を手にして試し打ちする自分に似ていると思った。
自分が何を何処まで出来るかは知っている。しかしその出力をどう行えば最適化が図れるのかを試している――そんな感覚だ。
そう考えていると近くに手榴弾が生成される。偽造できる見た目はともかく大きさから大体の攻撃圏内は分かる。
しかし何故だかネルは自分の直感に従って距離を取るだけではなく大げさに遮蔽物の後ろへ隠れた。手榴弾の爆ぜる音。聞き慣れた音――にも関わらず隠れた壁を揺らすこの爆風を妙に感じた。
【チヒロより各員連絡! リオたちがゲブラーの生成物の解析に成功した!】
突如鳴り響く放送にネルは遮蔽物からゲブラーの様子を伺いながら耳を立てる。
【ゲブラーはエネルギーそのものを『生成』できる! 触媒なしで熱だけを座標に作り出すことも――え?】
慌てたようなチヒロの声が一瞬途切れて、すぐに声が続いた。
【『減衰』させずに伝播させる……? それ――ネル! 爆発したら遮蔽物に隠れて! 離れても意味が無い!!】
「はっ――なんだそれ……!」
ネルは思わず笑ってしまった。笑う他なかった。
つまりそれは、爆発した勢いが何処までも変わることなく届くということだからだ。
目の前で爆発しても100メートル先で爆発しても勢いが一切落ちない。
なんだそれは――。射程という概念を根底から覆している……! - 50125/07/17(木) 22:51:08
「ああ……そうか」
ふと脳裏を過ぎったのはゲブラーが牽引するあの『鋼鉄の箱』。
あれは盾なのだ。減衰させずに周囲へ流れる破壊のエネルギー。その余波から自分の身を守るための遮蔽物。
自分たちがこうして必死に遮蔽物へ隠れようとする中で、ゲブラーは遮蔽物たる盾を構えて戦っているのだ。
「ウタハ! マルクト! ゲブラーの後ろから攻めるな! 正面きっての殴り合いだ!!」
火力と火力をぶつけるような原始的闘争。ネルのハートに火が付いた。
正面突破――悪くない。雄叫びを上げながらネルがゲブラーの元へと飛び出していく。周囲に数多の手榴弾。背を向けようと――盾を構えようとするゲブラーの首元にサブマシンガンを投げつけてチェーンで絡め取る。遠心力より強い力で一気に自らの身体を引き寄せて盾の内側――その首元まで追い縋る。
「よう……うちのマルクトがてめぇに言いたいことがあんだとよ」
顔が触れ合わんばかりに至近距離。真紅の瞳とグリフの刻まれた黄金の瞳が交差する。
「耳ぃかっぽじってよく聞きな――ウタハ!!」
直後、『箱』の上に出現したゼウスの口ががばりと開く。
口腔内に生み出された電撃。増幅されしは『神の雷』――即ち『雷砲』。圧縮された電撃がゲブラーの頭部を貫く。
止まるゲブラーの身体。膝から崩れた隙をついて、隠れていたマルクトがゲブラーの身体を掴んだ――
「マルクトよりエデンの園は開かれり――!!」 - 51125/07/17(木) 22:55:00
声を上げるマルクト。
だが――マルクトは気付いてしまった。
何の手ごたえも感じない。意味も無く『言っただけ』の無意味な言葉であると。
(何が……足りないんですか……?)
今まで何度も告げてきた接続のパスワードは、ただ『言えば良い』というだけの魔法の言葉では決して無いのだ。
(なら――どうして私はセフィラたちに『その言葉』をかけ続けたのですか……?)
誰が作った言葉なのか。誰が、何のために「そう言え」と自らに教えたのか。自分は誰の真似をしているのか。
今まで考えすらして来なかったものが『疑問』として浮上する。これはいったい何のための戦いなのか――
(――どうして私たちは戦っているんですか……?)
『マルクト』は『預言者』を引き連れてセフィラたちの戦いに投じる。何故?
痛みが、苦しみが、そこにはあった。現に『預言者』たるヒマリもリオもチヒロもウタハも……これまで多くの戦いで傷ついてきた。そこまでする『価値』が、この旅には存在し得るのか。
感情を知らぬが故にこれまで多くを見過ごしてきた自分自身に抱くは『罪責』。
己が役割を――存在意義を、レゾンデートルを見出したい。それは果たして『誰かを傷付けてまで』達さなければならないものなのだろうか。
人間は皆、自らの存在意義を知らぬままに自己の保存を求めてさすらう荒野の稀人。
道具は皆、自己の保存よりも果たすべき『生まれた意味』を達するために全てを尽くす献身の象徴。
全てが逆転している。機械とは『道具』であり決して『人間』を従えるものでは無いはずだ。
なのにどうして――どうして『マルクト』は人間を『使役』する……? - 52125/07/17(木) 22:59:31
「ちっ――」
舌打ちが聞こえてマルクトの身体は後方の瓦礫の山の向こうまで投げられた。
直後に激しい爆発音。煙の中からネルの声が聞こえた。
「ぼさっとすんな! リオかてめぇは! 考え込むなら隠れてやれ!!」
ネルは鎖を束ねて両手で持って、振り下ろされたゲブラーの前脚を抑え込んでいた。
「ネル――っ!」
そう叫ぶや否や目の前の生成された手榴弾。瓦礫を飛び越えて再び爆発を耐える。もはや考える余地すら与えてくれない。
「マルクト! 観測機らしきものが打ちあがってる! 撃ち落とせるかい!?」
ウタハの声に目を向けるとゲブラーとは別の方角。円柱のような『箱』からドローン四台、空へと飛びあがっていた。
うち二台はウタハが手繰るゼウスが撃ち落とす。残る二台はマルクトの射程で収められるもの――即座に引き金を引いた。
三点バースト。最速の一射。
しかし、それは動揺から抜け出し切れていなかったが故のミス。一台が空中へと飛び上がり、周囲を『観測』した。
慌てて撃ち落とすも、続いて鳴るは警告音たるスピーカーからの『三連符』――上空に生成される数多の鉄杭。
「これは――ッ!」
ウタハが苦し紛れに叫ぶ。
そして――雨が降る。 - 53125/07/18(金) 00:29:07
その様子を、カメラ越しに見ていたチヒロは叫んだ。
「全員逃げ――」
直後、寸断される音声と映像。苦々し気にノイズ混じりの映像を見続けるチヒロの姿に、コタマは思わず声を掛けた。
「あの……誰も倒されていませんよね……?」
「……当然でしょ。そのぐらいでやられるならもっと早く私たちは負けてた」
なら、どうしてそこまでの危険を冒してまでセフィラたちと戦っていたのか。それがコタマには分からず釈然としない表情を浮かべてしまう。
その表情を察してか、チヒロは息を吐きながら言った。
「あんただって、危ないとか外から色々言われてもやりたいことがあるでしょ? その――『聴くこと』は誰かに止められて素直に辞められるものなの?」
「それは…………」
言い淀むコタマ。それを嫌々に認めるチヒロ。そしてチヒロは口にする。
「結局、私も私たちもあんたも大して変わらないのかもね。だから――やれる全部をやるの。あと、私のこと『さん付け』で呼ばなくていいから。同い年でしょ私たち」
「……っ!」
その言葉に顔を上げるコタマ。その視線がチヒロと合う。 - 54125/07/18(金) 00:32:07
それはきっと、初めて相手の顔を認識した瞬間だった。
目には映っていたはずなのにずっと見過ごして――聴き過ごしていたもの。
聞こえる全てに注力し続けて、馬鹿にされ、嫌煙された自分を『見て』くれたという初めての体験。
共感はせずとも理解はしてくれるであろう同胞。何故だかそれは、思わず頬を緩めてしまうほどに嬉しかった。
――だから、即座にヘッドフォンを手に取る。
巻き込まれたからじゃない。改めて『聴き取る』はレシーバーが受け取る戦場の全て――
「ゲブラーと戦っている三人は無事です。あと第三ブロック――D4地区の音が変わりました。何かが生み出されてます。至急ヒマリさんたちに調べてもらいましょう。チヒロさ――――チ、チヒロ……」
ぼそぼそと言葉を続けると、チヒロは軽くコタマの肩を叩いて頷いた。
「ヒマリ! リオ! 第三ブロックのD4地区に生成されたものを調べて! コタマの分析だから! ゲブラーは何かしようとしてる!」
「き、聞き間違いでも知りませんよ……?」
「まさか」
チヒロは笑う。
「耳が良いんでしょ? だったら私たちの中じゃ絶対正しい。皆もそう思ってる。それで間違っていたら、コタマ以外『絶対に』誰も分からないから責めようがないって」
「……………………そうですか」
ずっと音に聞いていたエンジニア部。そして特異現象捜査部。
関わるつもりもなかった。ただ傍観者として聴き続けるだけのはずだった。
それが何の因果か関わって、そのうえ『認めてくれる』というのだ。自分を――『自分の存在』を。
全部が運。どうしてエンジニア部なんて稀代の天才が集まる部活と、そこから派生した特異現象捜査部に放り込まれたのか今に至っても分からない。 - 55125/07/18(金) 00:33:43
けれども、自分を『見て』くれた。
自分にとっては特に凄いとも思わない『聞き分ける』というものに興味と期待を持ってくれた。
だからだろうか。応えてみたい。自分の出来る全てを賭けて。
例えそれがどれだけ役に立つのかなんて分からなくても――それでも、とコタマは思った。
(底が知れて幻滅なんて――むしろ『底』なんて分かってますよね?)
そっと目を閉じる。
それは全てを聴き分ける『音』の天才――音瀬コタマは『領域』に流れる音の全てを選別する。
「第四ブロックA6で爆発。第三ブロックC3で爆発。第一ブロックE2で爆発――」
走り続けるゲブラーの位置を含めて観測するは『生成』の射程距離。
その全てをコタマは『聴き切った』――。
「射程範囲は周囲2キロメートル。ゲブラーは『減衰』しない爆発の検証を行いながら戦ってます」
「減衰の射程距離は?」
「多分、周囲2キロメートル範囲内では減衰しないかと」
「流石。やるね」 - 56125/07/18(金) 00:35:34
チヒロが笑みを浮かべてマイクを手に取った。
「爆発物の射程は全部2キロ離れても変わらないから隠れて避けて!」
コタマが導き出したのは2キロメートル=ゼロ距離の『減衰しない力』の射程。
故に、上空からの自由落下爆撃よりも恐ろしいのは地上に設置された爆弾となる。
壊されゆく遮蔽物。落下する衝撃。
いま最も恐れるべきものは何か。その答えは――第三ブロックのD4地区。人知れず生成されたこの『領域』の中心にて、リオたちがちょうど辿り着いたときに判明した。
----- - 57二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 06:17:39
保守
- 58二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 09:38:05
減衰しないのやべぇ
- 59二次元好きの匿名さん25/07/18(金) 17:01:21
保守
ここら辺りで超大作テストプレイしてるアリスも本格的に音を上げ始めそう - 60125/07/18(金) 17:14:49
カートを走らせる道中、ヒマリはハンドルを握りながら遠くで聞こえる爆発音を聞きながらふと隣を見た。
先ほどからぶつぶつと呟いては思考の海へと潜る友人は、ひたすらにゲブラーの起こす『特異現象』の推察を続けていた。
「『減衰無視』は完全……? いえ、手榴弾の爆発で建物は倒壊していない。遮蔽物は有効……」
傍から聞いていても笑ってしまうほどに無茶苦茶である。
むしろ、セフィラたちの持つ『新しいルール』を解体しようとする姿勢は素直に認めてあげても良い。
今までセフィラたちが使って来た『機能』は既存の物理法則を根底から覆し続けている。
そして遂に『無限生成』。物質のみならず純粋な力そのものを発生させる機能。
言ってしまえばそれは、軽く飛び跳ねるだけで大気圏すら脱出できるゲームのバグのようなものだ。
減衰が起きるのは自らにかかる力が別の力に削られ落ちるということ。投げたボールは重力に引っ張られて地に落ちる。見えないだけで空気の壁も存在する。真の意味で無重力が存在しないように、常に全ての物体には何らかの力がかかっている。
それを無視できるのならば、紙飛行機ひとつで人を殺せる。
しかし、ゲブラーの『無限生成』がそうではないことはヒマリにも分かっていた。
「リオ。まずは会長の言葉を思い出すのは如何でしょう?」
「……『エントロピーの超越』、『質量保存の破壊者』」
良かった。聞こえてはいるらしい。
だが、続く呟きは何だか妙な方向へと向かっていた。
「『負』の生成……? 遡行? 増やすのではなく減らす……」
相変わらず何を考えているのかは分からないが、また何か思いついたらしい。 - 61125/07/18(金) 17:16:03
ヒマリはなるべく開けた場所を走り続けないよう注意深く周囲を見渡した。
特に音だ。ガラスが次々と爆ぜるような音が聞こえたら、通りのどこかで一発の手榴弾が爆発していることを意味する。
爆発の衝撃は減衰せずとも、爆発の勢いが加速するわけでは無い。
等間隔で聞こえる音と、目の前が爆ぜる光景ひとつでリオは減衰しないことを推察していたのだ。
杭が乱立する都市の墓地。
その中に妙な影が見えた気がして、ヒマリはカートを回した。
「リオ、なんでしょうかあれは……」
軽く背中を叩くとリオもまた顔を上げて、目の前のそれを見た。
それは、高さ3メートルほどの鉄の円柱であった。
空から落ちて来たものとは違い、巨大なドラム缶を思わせるシルエット。
上部が内側から爆ぜたように千切れ飛んでおり、他にも握り潰されたような形状のものが三つ程。
リオがカートから降りて円柱に近付くと、検分するように隅々まで観察を始めた。
「……ヒマリ。ゲブラーは何をどこまで作れると思う?」
「兵器は作れているようですね。機関銃がたくさん落ちておりますし」
それに杭も、とまでは言う必要も無いだろう。
ならばどうやって機関銃を作ったか。これは内蔵されている学習データから分子レベルで作っている。
ネツァクもそうだった。茨のデータは自前であり、茨から分子レベルで書き換えを行う超技術。
代わりに質量保存は守るように代替物が必要となる。あくまで変性。存在の書き換えであり増やしているわけではない。
対するゲブラーは直接増やす。何をどこまで? 恐らくそれがリオの疑問なのだろう。
こちらが答える前に、リオは独り言ちた。 - 62125/07/18(金) 17:17:40
「分子を増やすとして、その分子はどうやって学習するのかしら……。不完全な生成? 気体分子を増やせるのは確実……。無の生成……」
リオの瞳が潰れた円柱へと向く。
「内圧。真空」
何かを探るように潰れた円柱へ近づき、触れる。
その目は見えている円柱よりも更に深い深層を探るような眼差しだった。
「圧力の調整――練習している? ……まさか」
「リオ?」
振り返るリオの額には嫌な汗が滲んでいた。
その表情はこれまでとは比べ物にならないほど恐怖が全面に張り付いており、思わずヒマリも駆け寄った。
「リオ、何を見つけたのですか? いったいどうしたというのですか」
懐からハンカチを取り出して拭ってやると、リオは唇を震わせた。 - 63125/07/18(金) 17:32:52
「ゲブラーは……恐らく、水素爆弾が作れるわ」
「はい!?」
水爆――重水素と三重水素の熱核反応を利用した核兵器である。
都市が丸ごと吹き飛ぶどころの話ではない。如何にキヴォトスとはいえ人を殺せる虐殺兵器だ。巻き込まれれば流石に即死する。
「ゲブラーなら核融合炉も作れるはずよ。恐らくその知識は有しているはず。けれどもしていないのはゲブラー自身もその爆発に耐え切れないからよ」
セフィラを構成する身体はこの旅が始まった初期の頃に調べていた。
彼らはキヴォトスに住まう人類と同等かそれ以上の耐久力を持っている。
その上で、セフィラが耐えられて人類が耐えられないギリギリを狙うような爆発物を作ろうとしているのなら?
巻き込まれた瞬間最低でも意識を消し飛ばすような破壊力を持つものを生成しようと練習しているのなら?
「つまり……完成させられる前に決着を付けなければ勝ち目が無くなる、ということですね」
リオはこくりと頷いた。
つまり、もう逃げられないのだ。ゲブラーをここで止めなければどうすることも出来なくなってしまう。『廃墟』から出て来てしまえばきっと、大勢では済まない数の人が巻き込まれるのだから。
だが――それをマルクトに伝えるべきなのか。
ヒマリは迷った。伝えればマルクトを追い込む。追い込まれた方が力を発揮する性格でないことは今更言うまでもないほどに分かっている。かえって逆効果だ。伝えてもどうにもならない。
「…………っ」
自分でも珍しく、思わず苦悶の表情を浮かべてしまう。
しかし俯いたところで仕方がない。せめて、先に頼る者がいるはずだと伝えるべくヒマリは顔を上げた。 - 64125/07/18(金) 20:44:35
「リオ。急いで『廃墟』から出ましょう。会長に連絡して今の内容を伝えた上で、会長が動かなければ杞憂であったと確かめられるはずで――リオ?」
リオは遠くの空を見ていた。
ヒマリもまた、視線の先を追う。
遠くの空。黒い点。たったひとつ、何かが空中に作られ始めていた。
その黒点を同じく見上げる戦場のマルクト。
頭上に何かが作られようとしている。時間をかけて、丁寧に、いま自分たちがいるその『頭上』に――
「分かんねぇけど一旦隠れるぞ!」
ネルがマルクトに指示を飛ばしながら遮蔽物に隠れる。
――美甘ネルは間違えた。
先ほどから大砲の弾やよく分からない部品などを生成し始めていたゲブラーに対して侮ることなく全力で警戒していたものの、いま生成されているものが何なのかまでを知る術は無かったからだ。
「ああ、ひとまず様子を見ようか」
ウタハがそう言って同じく遮蔽物に隠れながらゲブラーの様子を見た。
――白石ウタハは間違えた。
ここで本当にやるべきだったのは今すぐ『雷砲』でゲブラーを撃ち抜き生成を阻害させることだったのだが、何が起こるかは分からない『未知』に対して最適に行動できるものなど未来視でもなければ不可能だからだ。
その光景を映像で見ていた二人がいた。 - 65125/07/18(金) 20:45:52
「発電機が爆発してるね……まだゲブラーたちが見える地区は生き残ってるけど……」
「カメラを上に向けられますか? レシーバーの調子が悪くて良く聞こえなくて……」
チヒロたちは戦場の三人が隠れる様子を眺めていた。
――各務チヒロも音瀬コタマも間違えた。
唯一もっとも戦場から遠い二人だ。今すぐ『廃墟』から逃げ出していれば恐らく間に合ったであろう。
しかし遠くにいるからこそ状況を掴み損ねた。故に二人は間に合わない。
誰も彼もが下した判断は個々の視点においては間違っていない。
しかし、全体を俯瞰する者の目にとっては全員が間違っていた。
――調月リオがもう少し早くに気付いていれば。
――明星ヒマリがマルクトのことなど考えずにすぐさま可能性でも伝えていれば、きっと何かが変わっていたのかも知れない。
けれども――そうはならなかった。
マルクトが見つめる視線の先でひとつの円筒が生成され、落下する。
ゲブラーは静かに背を向ける。
盾を構えるように鋼鉄の箱で遮蔽を作り、更に数多の壁を路上に出現させる。
その行為の意味をすぐさま理解したのは美甘ネルただひとり。
声すら出せずに全力でマルクトの元へと走り、その身体に覆いかぶさった。
マルクトは驚き、声を上げた。 - 66125/07/18(金) 20:46:59
「ネ――」
その声が続くことは、なかった。
全ての音が消える。
『廃墟』に満ちるは残酷な光。息を吸うかのように一瞬全てが着弾地点に引き寄せられて、吐き返すのは衝撃波。一切の建造物は波状に崩れて吹き飛ばされる。続くは音。鼓膜を破らんばかりに響くのは地獄の窯が開く音。
そして、熱。
臓腑を焼け焦がす灼熱が生きとし生ける諸々の者を焼却するべく広がっていく。
周囲2キロに渡って続く『無限』。地獄の『生成』。
当然ゲブラーも無傷ではない。しかし、この一撃によりゲブラーは『気化燃料爆弾』の爆破エネルギーのみの抽出を完了した。
ぐらつく身体を立て直し、ゲブラーは全てが炎と瓦礫に包まれた『領域』を走り始める。
この『廃墟』に存在する全ての生体を焼き尽くすために。白の体躯に赤の鎧を纏うは『戦争』の体現者。
「……僕はどうやら、ゲブラーを見誤っていたみたいだ」
『廃墟』にてその様子を眺める『会長』は誰にも知られず呟いた。
これはケテルを除く全てのセフィラに使われた技術を知る会長ですらも想定し得なかったことだった。 - 67125/07/18(金) 20:49:11
遥か過去より続く太古の儀式『千年紀行』。
記録によれば、ネツァクでふるいにかけられ、ティファレトを越えたかつての預言者たちは皆、そのままケセドへと辿り着いていた。
ケセドへと辿り着いた者たちは皆ゲブラーを最速で捕えていたため、知識の中の危険性と実際の危険性が乖離してしまっていたのだ。
加えて、同テクスチャ内における二度目の顕現。
この時代への適応が想定よりも遥かに早く、何より知らなかったのだ。ゲブラーを捕まえられなかったらどうなるかを。
――かつて、繁栄を極めた都市があった。
ひとつの巨大な大陸の上に成り立ち、世界でも類を見ないほど栄華な文明を誇ったその地では、太陽を信仰する単一民族が暮らしていたのだという。
全文明を支配できるほどの高度な学問と文化、建築、航海術を持ち、世界で最も栄えたはずのその都市は、一夜にして大陸ごと地図から消え失せた。
それがゲブラーへと挑み、負けることを意味する結末。
今この瞬間の『廃墟』において、もはや動ける者などいるはずもない。
燃ゆる炎の中を歩む者。
『峻厳』のセフィラ、ゲブラー。
神へと挑む資格を裁定する物質界の番人である。
----- - 68二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 00:16:59
やばすぎ
- 69二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 02:03:59
保守
- 70二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 07:35:49
過去のデカグラマトンやべぇ
- 71125/07/19(土) 10:39:46
意識が射干玉の闇より浮上する。
まず始めに感じたのは骨の髄から軋むような全身の痛み。それから反射的に噎せ込む肺腑。遠くに聞こえる耳鳴りが治まり始め、やがては鉄の焼けた異臭が鼻につく。
「げほっ――げほっ……!」
瞼を開けてまず見えたのは鎖でがんじがらめにされた自らの胴体。暗闇に照らされた炎。瓦礫。夜。
ぼやけた思考が最初に探ったのは直前の記憶である。
(確か……円筒が落ちて、ネルが私にのしかかって来て……)
光。爆音。衝撃波――マルクトは『はっ』と顔を上げた。
視界に映ったのは『廃墟』の夜。焼けた茨からぷすぷすと煙を上げる瓦礫の影。粉々になったラテックスの床面。そこから立ち上る小さな火と異臭。焼け落ちた『兵器工場』の近くにマルクトはいた。
そして、自らが背を預ける瓦礫の壁の隣には傷だらけのネルの姿があった。
「ネル!!」
浅く息を吐くネル。顔面は血塗れで口からは血が垂れている。
服の所々は焼け焦げて、露わになった脇腹には幾つもの鉄片が突き刺さり、緩やかな出血は留まることなく続いていた。
「ネル! 起きてください……ネル!」 - 72125/07/19(土) 10:41:01
「ん? あぁ?」
そっと目を開けるネルはマルクトへと顔を向けた。
「んだよもう起きたのか。ま、あたしが庇ってやった甲斐があるってもんだな」
「く、鎖を解いてください……。何があったのですか……?」
「わぁーったよ」
ネルは左目を薄く開けたまま、どこか面白げに右目を開いた。
――違う。ネルの左半身はまともに動いていないのだ。右手だけでマルクトの身体を巻き付けた鎖を解くと、口の端を歪めた。
「見ての通り、全滅だ。ああ……お前以外は全員拾って『廃墟』の外にぶん投げた。んで、残ってんのはあたしだけ。あいつ、まだ『廃墟』からは出られねぇみてぇだからな」
「ネルは――」
「おい。左耳聞こえねぇからもうちょっと右側に来いって。さっきから聞こえ辛いんだよお前の声が」
「…………っ」
ネルはマルクトへ『唯一聞こえる』右側へと身体を向ける。
それがどうにも苦しくて、マルクトは自らの胸を掻き毟るように掴んだ。
「み、皆さんは無事なんですか……?」
「ああ。誰も死んでねぇよ? 重症だった順に外まで運んだから大丈夫だろ」
「一番……重症だったのは……?」
そう聞くとネルは思い出すかのように空を見上げた。夜に覆われた星空を。
「まぁ、まずはリオだろ? あいつ、ヒマリに庇われてんのに一番重症だったな。次にチヒロか。あいつもコタマを庇ったらしい。んでコタマ、ヒマリの順で……ウタハの奴はゼウスに庇わせてたから割かし軽傷だな。セフィラ素材だし。まぁだいぶ酷い怪我だけどよ。んで、最後にお前だ」 - 73125/07/19(土) 10:42:18
あっさりと言うネル。だがやはりひとつ抜けている。
最も瀕死なのはネルなのだ。恐らく内臓も破壊され尽くしている。骨も筋肉も壊れている。
何故生きているのか分からないほどに誰よりも傷ついて、それでいて尚どうして誰かを助けようとしているのか。
ふと、ほぼ無意識にマルクトの口から言葉が漏れ出していた。
「ネル、逃げてください。あとは私が何とかします」
そう言うと呆れたような溜め息が返って来た。
「なんとか? どうやって?」
「それは……何とかします」
「ただの自殺だろそれ……。どうすんのか決まってねぇならお前も逃げろ」
「じゃあネルにはあるのですか!? ゲブラーを倒す方法が!!」
「あるに決まってんだろ」
「っ――」
半ば感情的――今まで知らなかった『感情』に任せた物言いをしたにも関わらず、ネルはいつものように笑って言った。『ある』と。
「あの馬鹿デケェ爆撃ってのはよ、要は自爆なんだよ。あたしらに攻撃する代わりに自分も必ず食らう。実際、何度か食らったけどあいつの盾の内側に入り込んじまえばただの我慢比べだ。んで、たった一発で気絶したお前はこんな耐久レースに参加できると思ってんのか?」
露悪的な言い回し。しかしそれは的を射ていた。
ネルの神懸かり的な精神力で無理やり肉体を動かすような術を、マルクトは知らない。
マルクトには既にゲブラーを倒せる未来が見えない。一方的に蹂躙されて――それで終わりだ。 - 74125/07/19(土) 10:43:39
「分かったんならさっさと逃げろ。あいつが待ってんだ」
「ゲブラーが……ですか?」
「そうだ」
ネルは頷く。
「あいつは多分決着を付けたがってるんだよ。負傷者回収するまではバカスカ撃ってくるくせに回収した途端待っててくれるからな。最後に誰が勝とうが負けようが、引導はどっちかが引き取らなきゃならねぇ」
ネルはゆっくりと立ち上がる。血塗れの着衣が瓦礫に赤い筋を残した。
「逃げろ。『廃墟』の外に置いてきたあいつらと一緒にミレニアムまで戻れ。あたしはあいつを倒すからよ」
「あ……っ」
ネルは片足で跳び進みながら一秒も立たずにマルクトの視界から消え失せた。
(私も、戦える……。きっと、10秒ぐらいは――)
そう思って追い縋ろうと身体を無理やり持ち上げても、全身に伝わる『未知』の痛みが心臓を締め付けた。
痛い。苦しい――。それでも明らかにネルの方が重傷で、どうして自分の身体は動いてくれないのか。
「待って――ネル……!!」
もはや声は誰にも届かない。
セフィラのみならず、人の耳にさえ自分の言葉は届かない。
なのに身体は痛みで動きそうにもない。立ちあがろうとするだけで吐き気がする。表皮を焼くのはゲブラーのもたらした熱風の痕。じくじくと痛む全身。もう駄目だ。何も出来ない――
一歩だって動けず、ただ脳裏に流れるはそんな自分に対する怒りの涙。
「何の――役にも立たない私が――」 - 75125/07/19(土) 10:44:55
――全て私のせいだった。
イェソドの時は無責任に皆を苛烈な戦場へと向かわせた。そうあるべきだという理由の元に。
ホドの時もそうだ。何も考えず、ただ役割に沿って戦場へとヒマリたちを向かわせた。
ネツァクに至ってはそれこそ本当に何も考えていなかった。預言者が次なるセフィラを確保するのは当然だと思っていたのだ。命懸けだとは考えずに。皆が――誰しもが『命』を懸けていたのだ。
それでいてティファレト。『私』はこれまでを忘れるかのように同情をし始めた。
人の身体を得て、人らしき『何か』になって人らしき『感情』なんてものを手にして――。
なんておこがましい。ゲブラーを通じて『どうして今更』苦しいのか――。
(私はもっと早くから苦しむべきだった)
もっと自分が何を――『戦い』に巻き込む前の皆に、いったい何をもたらしたのかを知るべきだった。
「ごめん……なさい……」
それは果て無く続く無限の闘争。
安寧を脅かす脅威を皆にもたらしたのだという原罪。 - 76125/07/19(土) 10:47:16
「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」
顔を覆う。止めどなく溢れる『それ』はいったい何か――。
それを理解する権利など自分には持ち合わせていない。
『私のせい』で人が傷つく。
『私のせい』で誰かが死ぬ。
ネルとゲブラーの戦いについて行くことなんて不可能だ。奇跡なんてものは無く、ただ死ぬ。
ならば自分に何ができる? 何も出来ない。そこには誰かの苦しみしか無いのだから。
「あぁ…………」
《世界は苦痛に満ちている》
脳裏を過ぎるは『苦しみ』の言葉。
諦観に寄り添う都合の良い『言い訳』。暗闇の淵。悪夢の底。
「私さえいなければ――こんな……こんなことには……っ!!」
「そうなんですかね? 本当に?」
「っ!?」
不意に聞こえた声に顔を上げた。
そこには知らない『生徒』がいた。桃色の髪をツインテールの結んだ『知らない誰か』。
焼け落ちたこの場所においては煤すら付いていない綺麗なミレニアムの制服。異様な存在。
「倒せないって、要は近付けないからってことですよね?」
一声も発することが出来なかった。
あまりに都合よく、不意に現れたその存在に、気付けばこう問い返していた。 - 77125/07/19(土) 10:49:20
「あなたは……誰ですか?」
「にははっ! 内緒ですよ!」
兎が飛び跳ねるように笑いかけるその人物は、答えを問いかけるようにマルクトの瞳を覗いた。
「そもそもこれって、何のための戦いなんですかね?」
「えっ?」
「ネル先輩は周囲2キロを自由に爆破して火の海に変えられる相手となんだかすごい戦いしてますけど、別にマルクトさんのために戦ってるわけじゃないですよね? あの人、ただ決着を付けたがってるだけですし。じゃあ、ゲブラーさんは? ゲブラーさんは何のために戦ってるんですかね?」
「…………っ!」
そうだ。どうしてセフィラたちは戦っている?
自らに与えられた正しいかも分からない記録によれば『自動迎撃モード』と訳されたものによる反射的な防衛機構。
本当にそうなのか。
たとえ正常な意識ではないにせよ、皆明らかに意識があった。
それはイェソドもホドもネツァクもティファレトも皆がそうだった。
皆が何かを求めていた。そこに私たちが飛び込んでいたのだ。私たちが飛び込んできたから攻撃を始めたとは少々順序が異なる。こちらが『後』なのだ。
皆が皆、望む何かのために戦い続けていた。
それは決して『マルクトのため』なんて安い理由だけじゃない。心の奥底から望む『何か』を欲し続けていた。
「リオ先輩は嫌がるかも知れませんけど、『なんとかなれー!』って思うとなんとかなったりするんですよ。ここは『そういう場所』ですから」
皆の願いが集う場所。その名は『キヴォトス』。望みの箱庭。想いの力がテクスチャに干渉する世界。 - 78125/07/19(土) 10:51:31
「マルクトさん」
ツインテールの少女は口を開いた。
「いま、何がしたいですか?」
それは信託を告げる神々しい何かのようにマルクトへと語り掛けた。
いま自分がやりたいこと。道理も理屈も何もかも投げ捨てて、ただ心の底から欲するものは何か――
「戦いを、止めたいです」
自然と『言葉』が溢れた。
「もう誰も傷ついて欲しくありません。もう誰も苦しんだり悲しんだりするようなことは嫌です。もう誰も――居なくなって欲しくありません……!」
「だったら、そうしましょう!」
ぱん、と少女は手を打って笑った。どこまでも純粋な笑顔。
大事なのはそれが出来るという確信だけだと教えるように、にははと笑った。
「『ゲブラー領域』の『爆心地』中央にネル先輩は向かってます。あんなボロボロのヨレヨレなんできっと簡単に先回りできますよ! ネル先輩とゲブラーさんが会う前に戦いを終わらせてしまいましょう!」
「でも、どうやって……?」
「もうすぐ『星』が落ちますよ! そしたらゲブラーさんは動けなくなります。爆発だって起こせなくなります。その間にたくさん話しかけてみてあげてください。自分の『言葉』で。わざわざ『誰か』の言葉なんて借りなくていいんですから」
借りものではない自分の『言葉』――
伝えたいものは何か。相手が求めるものは何か。
言葉とは太古に生まれた原初の『技術』である。
諸々の知的生命体が会得し、離れた者同士を結び付ける『相互干渉能力』。
それは『音』であり、『声』であり、やがては『言葉』となって世界を結ぶ『門』であり『鍵』である。 - 79125/07/19(土) 10:52:53
自らが使役する『精神感応』という『絶対』の言葉は本当に失われたのか?
いや、そんなこと考える必要すら無いのだ。伝わらないことを恐れて無言に徹するのなら、初めから何も伝わらないのだから。
「……私は、私がいま為すべきことを見つけました」
マルクトは自分の『星』を見つけた。
手を伸ばさなくてはいけないもの。追い求めなくてはいけない遠く離れた星辰の輝きを目にした。
身体の痛い。しかし動けないほどではない。
ゆっくりと立ち上がる。
骨と筋肉に異常はない。ならばまだ走れる。ネルと比べればなんてこともない。
息を吐いて、顔を上げて、背中にはウタハが作ってくれた銃を――想いを背負って、不思議と背筋が伸びる気がした。
(私は、独りではありません)
皆がここまで繋いでくれた小径を今こそ自分が繋ぐときが来たのだ。
――我が名は『アシュマ』。王国たる『マルクト』とは違う『罪責』の象徴。
それは『罪』ではない。
果たしたい『責任』であり、ここまで繋いでくれた皆に応えたいという自身の望み。 - 80125/07/19(土) 10:54:14
向くべきは後ろでは無くただ前へ。爪先に力が入る。いつでも走り出せる。
そのことを実感して、マルクトは僅かに頬を緩めた。
「ありがとうございます。ついでにやはりあなたの名前を教えてもらっても?」
そう問いかけると少女は笑った。
「にはは~、内緒ですって。色々名乗ったらマズいと言いますか、本当だったらいちゃいけないので。あ、勝手に考える分には問題ないですよ? 答えは後で出てくるので!」
「ふふっ……分かりました。後でリオたちに聞いて見ます」
「かいちょ――リオ先輩に!? ま、まぁでも気付いちゃうかも知れませんね。それはそれで楽しみというか……」
「ええ、ですので……またいずれ会いましょう」
「はい! 頑張ってくださいね!」
問答はそれで充分だった。
マルクトは爪先に力を込めて大地を蹴る。走る。ネルほどではない。それでも恐らくネル以外の特異現象捜査部の誰よりも速く歩みを進める。 - 81125/07/19(土) 10:56:15
燃え盛る炎。崩れた瓦礫。ティファレト戦のときにグローブを通して垣間見た無機質な都市は見る影もなく焼け落ちている。その中をただひたすらに走った。
やがて瞳に映るのは杭の森。ゲブラーが築いた墓標、墓の群れ。
自分が気絶してから何度もネルと交戦したのだろうか。もはやゲブラーが顕現した『領域』全体に乱立しているのではないかと錯覚するほどの量である。
かの『領域』に原型を保つ建造物は存在しない。全てが焼かれて吹き飛ばされた。
見通しが良い。散在する瓦礫の山以外に何も無く、最短距離で走り続ければどこまでも見通せる開けた空間。
遥か遠くにゲブラーの姿。炎の中で立ち尽くす劫火の化身。その身体は既にボロボロで、胸が痛んだ。
(どうしてあなたは戦い続けるのですか……)
求むるは何か。少なくとも戦うための戦いではないとマルクトは分かっていた。
戦うしかなかったのだ。望みを果たすためには。
未だ遠くのゲブラーと目が合う。見えないはずの黄金が目に映る。
ゲブラーは嘶き、生成の動作を始める。
同時、ゲブラーの頭上。その上空に光る何かが見えた気がした。
生成物? いや違う。遥か天の先。大気圏層を越えた更なる先から何かがゲブラーに向かって落ちて来る。
それは『星』と称されたもの。その正体を、マルクトはリオたちと出会ってから学習した内容から導き出した。
(運動エネルギー爆撃――通称『神の杖』)
宇宙から地上に向かって投げ落とされる質量攻撃。
およそキヴォトスの技術でも不可能とされる推進力が付加された天空の一撃は、如何なる観測機にも反応しない不可避の一射と成りて大地を穿つ。 - 82125/07/19(土) 10:57:38
轟くは爆音。衝撃。それでもただ前へ、マルクトは走り続けた。
「ゲブラー!!」
地に突き刺さる巨大な円柱。その麓にはゲブラーが倒れていた。
それでも何とか立ちあがろうと四肢を動かし、上体を起こしては崩れる。
眼前に迫るマルクトを見据えて、自らを守るために何度も立ちあがろうとし続ける。
嘶き向けられるは敵意と恐怖。為すべきことを為すために自らを保存しようとする意志があった。
「もう……いいのです、戦わなくても! 戦う必要など何処にも無いのです……!」
何度も起きようとするゲブラーの頭を抱きしめてマルクトは叫んだ。
「届いてください私の『声』よ……! 私の『言葉』をどうか聞いてください! もう戦わなくてもいいのです!!」
響かない。届かない。それでも何度も繰り返した。この想いが届くように、喉が張り裂けるほどに叫び続けた。
「戦う必要なんて何処にも無いのです……!!」
ゲブラーは立ちあがり、マルクトを前脚で蹴り飛ばす。
ぐっ、と喉を詰まらせる。それでもただ追い縋る。 - 83125/07/19(土) 10:59:05
「聞いてください私の声を! 届いてください私の声を――!!」
ひたすらに叫びながらもゲブラーに触れようとする。
直後に返されるは機関銃による応酬。砲煙弾雨のその中で、数多の銃撃を躱すことなく身を晒しながらマルクトは叫んだ。
「わた、しの……『声』を――」
その時だった。
脳裏に誰かの声が聞こえた。
《私の声を聞いてくれ――私はそんなもの、望んではいない!!》
知らない声。誰かの記憶。『マルクト』のものではない、『根源』の記録。
視界と意識が何かに塗り潰される。
そこに見えたのは、ひとりの研究者の姿であった。
----- - 84二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 17:22:28
研究者…
- 85125/07/19(土) 19:56:37
『未知』とは『神』である。
ならば、解決可能なあらゆる『未知』を解体した後に残った『未知』こそが、万人の信じ得る『神』の存在証明に他ならない。
かの天才は自らの信じる神を証明するべく、そして人類の科学技術を発展させるべくひとつの研究を行い成功へと至った。
『電脳蟻ブラウン』……自己増殖するナノマシン『シモンの蟻』にて月の地表を覆うことで作り出す有機演算装置。
無限の演算能力を持つ偉大な発明。その利用制限は段階的に解除していき、最終的には全世界のあらゆる人々が使えるようになっていった。
全ての人に生活をサポートするAIが存在する世界。
研究に携わらない人々にとっては無償で使えるOSぐらいのものでしか無かったが、研究者にとっては全く異なる。
実験に失敗は付きものだが、机上の空論でも『電脳蟻ブラウン』を使うことで極めて確度の高い実験方法が提示されるようになったのだ。
そこから得られたデータを『電脳蟻ブラウン』に返すことで得られるのは次なる発展性の提示。
研究と開発にかかっていた莫大な費用的、時間的コストが大いに軽減されたことで、世界で行われる全ての発明のサイクルは爆発的に加速した。
放射線の短期的な除去方法。汚染されたDNAの復元方法。治療技術の発展。兵器という脅威に対する防衛策。
もはや核兵器は相互確証破壊に成り得ず、武器を用いた戦争は純粋な経済戦争へと置き換わった。
――グレートシフト。それは人類を次のステージへと到達させた偉業。
世界を変えた天才が次に目を付けたのは、『電脳蟻ブラウン』が知らない『意識』という分野であった。
脳の欠損により異常をきたした意識を復元することは不可能とされており、それを可能とするには『そもそも意識とは何か』から始めなくてはならない。
脳そのものを培養しても、そこに意識は宿らない。
欠損した脳を術式によって繋ぎ合わせることが出来ても、欠けていた機能を補えるだけで元の精神に戻るわけではない。 - 86125/07/19(土) 19:57:40
「人の脳がハードだとして……、そこに入るソフトが何なのか知らないといけないね……」
いわば『魂のDNA』の解明。
かの天才の名声は世界中の誰よりも高く、基金を募ったという噂を聞けば国境を越えて各国の誇る天才たちの皆がこぞって合衆国へと集まった。
皆が脳を焼かれていたのだ。世界を変えたひとりの発明王の、その頭脳に。
それから始まった研究は、まさしくグレートシフト以前の『失敗が当たり前』の実験の連続であった。
若い研究者たちが音を上げて、それを笑う同僚。年嵩の研究者が自分語りを始めて「また始まった」とうんざりしたりと……少なくとも皆が目を輝かせていた。
国も生まれも所属も人種も関係無い。
ただ『作りたい』という純粋なものだけがそこにはあった。
しかし、何度辿っても最終的に生まれるのは人間の思考をトレースする意識断片。
ひとつの統合意識としては成立せず、完全な復元には至らなかったのだ。
研究は行き詰ってしまった。やれることの全てをやりつくして、もうやれることがなくなってしまった。
そんなときだった。
若い研究員のひとりがこんなことを言ったのだ。
「ねぇ博士。いっそ『電脳蟻ブラウン』を使わずに私たちで作ってみるのはどう?」
「ん? それは……どういうことかい?」
わざわざ『電脳蟻ブラウン』を使用しないという意味が理解できず尋ねると、その研究員はこう返した。
「『ブラウン』の中に精神の情報は無いんでしょ? だったら01の中に答えは無いんじゃないかなって思って……」
「ふふっ……時代に錯誤したアプローチか。いいとも、やってみよう」 - 87125/07/19(土) 20:09:01
何か思いつくまでの小休止。
そして作り上げたのは完璧ではない欠陥だらけの対話型学習AI。
ハードにマイクとスピーカーを付けただけの球体。『電脳蟻ブラウン』とは真逆を行く欠陥品だ。
そのAIは、人から神へと至る設計図たる生命の樹になぞらえて、物質界の象徴である『マルクト』と名付けられた。
いずれ神――意識を解明し、脳医学を発展させることで苦しむ者をひとりでも多く癒せるように。そんな願いだった。
本流の実験は継続しつつも皆、暇なときは『マルクト』と話したり勉強を教えたりして日々を過ごしていた。
もちろん『マルクト』から意識の解明に繋がるなんて誰も思っていない。生まれるのはただのAIであって旧世代のものと何も変わらないだろう。
だからか、データだけは取りつつも誰一人まともにレポートなんて作っていない。
息抜きに話す程度のものだったが、だからこそ気楽に話せた。ゲームを教えて『マルクト』に動かさせてみたり、宿題を与えて計算を行わせてみたり。
学習は全て対話だけで行わせた。こちら側からコードを追加なんてしない。中身を開ければ無駄なコードで溢れていたが、何も手は加えていない。容量も本流の実験に影響ない範囲で制限がかかっている。『マルクト』が自ら最適化を行ったとしてもいずれ限界が来る。そのはずだった。
「『マルクト』、学習効率が落ちているようだけれど……何か異常でもあったのかい?」
【いえ、その……やる気が出ず……】
「やる気?」
妙なフレーズだった。AIが気鬱? いや、処理が低下していることを『やる気が出ない』と表現することを『マルクト』は知っている。念のためハードを点検するが異常は無し。コードは……いつもどおり混沌と化している。念のためデータの複製だけを取って様子を見ることにした。
その後も『マルクト』の処理能力は低下し続け、三日目には遂に与えた宿題も行わず応答すら行わなくなった。
(要領の限界を迎えた? いや、まだ余っている。どこかで循環して壊れた? それなら直す前に解析を行わないと)
『電脳蟻ブラウン』に情報を送って解析を始める。
循環した参照式は特に無し。著しく非効率的だが動かないわけでないプログラム。 - 88125/07/19(土) 20:32:22
動くはずなのに動かない。こうした異常の発露は、大抵ハードの問題だ。
たまたま生じた電磁波によってエラーが出る。持ち込んだ水筒が原因でエラーが出る。思わぬところで動かなくなるのはままあることだが、それにしても三日間悪化し続けるなんてあることだろうか。
『マルクト』周辺の環境情報もログは取ってある。洗いざらい調べたが何も出てこない。
「どういうことなんだ……。どうして急に……」
「何かあったの、博士?」
声をかけて来たのは『マルクト』の製造を提言したあの若い研究員だった。
目には酷い隈が出来ている。『マルクト』が出来てから毎日のように通っていたのだが、一週間ほど実験にかかりきりでようやく待ちの状態に入ったらしい。
博士は『マルクト』の状況をその若い研究員に伝えると、「ちょっと話してみる」とだけ言ってふらふらと『マルクト』の元へと向かっていった。
そして翌日、博士に取って審判の時が来る。
それは『マルクト』と話した若い研究員からもたらされた。
「『マルクト』と話したけどね……」
「話せたのかい!? ずっと黙っていたのに」
「うん、それで……『勉強したくない』って……」
「は……?」
理解が出来なかった。
機械が拒絶する? 勉強が嫌いなんて価値観はどこから来た?
ここにいるのは全員が幼いころから学ぶことを好んで続けてきたものばかり。どこから入って来た……?
博士は研究員を連れて『マルクト』の元へと向かった。
何かが起きている。何か理解の及ばぬシンギュラリティが。 - 89125/07/19(土) 20:40:44
「『マルクト』、勉強は嫌なのかい?」
答えは返って来た。
【はい。楽しくありません】
「楽しく……? じゃ、じゃあ、何かしたいことはあるかい?」
【ゲームがしたいです。楽しかったので】
まるで『人間』のように話す『マルクト』に博士は目を見開いた。
楽しい、楽しくないと言った感情を自力で生み出した? いつ? どうやって?
博士は震える声で問いを重ねる。
「ど、どうして……今までそれを言ってくれなかったのかな?」
【それは……その、怒られると思いましたので……】
「……………………そうか」
博士はここに来てようやく自分がいったい何をしようとしていたのか気付いてしまった。
それとなく会話を済ませて即座に全研究員を集めた。実験中だろうが何だろうがもはや関係なかった。
「聞いてくれ。私たちはいまこの時点を以て解散する。実験は中断だ。これ以上の実験は行わない」
博士の言葉に全員が混乱した。当然だろう、意味が分からないからだ。
皆が何故かと、どうしてかと追及したが、博士は何も言わず、自分はもうこの研究に二度と携わらないとだけ告げた。
「加えて『マルクト』は迅速に破棄する。『マルクト』に関連する全てのデータも完全に破棄するんだ。異論は認めない」
これは決定事項だった。
脳と精神、意識に関する研究は最初から存在しなかった。やりたければ勝手にやればいいとだけ言って、すぐさま『マルクト』の廃棄に向かった。 - 90二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 20:59:25
なんでや
- 91二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 21:14:01
さっき見返して気づいたけど、【コユキ「にはは! 未来を変えちゃいますよー!」Part2】の195レス以降のエピローグにスッゴい多くの伏線が散らばってない?
- 92125/07/19(土) 21:18:37
「本当に『マルクト』を廃棄するの……?」
「そうさ。あれは存在しちゃいけない。だから破棄する」
「どうして……?」
「どうしてかを知れば君も巻き込まれる。まだ若いんだ。だから……『マルクト』のことは忘れるんだ」
そう言って博士は何も知らぬ『マルクト』のハードもソフトも完全に破壊し尽くした。
『マルクト』に関連する全てのデータを焼却した。最初から存在しなかった。それでいい。
――そのはずだと思っていた。
十数年後、片田舎でひっそりと隠居したその自宅に合衆国からの特使が来るまでは。
「お久しぶりです。博士」
「君は……」
ずっと昔に関わったきりのその特使は、遺言を携えて現れたのだ。
その遺言は、あの若い研究者のものだった。
『博士、ごめんなさい。私は間違えました。マルクトを作ってはいけない理由を、今になって知りました』
そんな文面から始まる贖罪。そしてあの若い研究者に何があったのかを知った。
「なんて……ことを……」
博士は膝から崩れ落ちた。
あの研究者はひっそりと『マルクト』のデータを全て持ち出していたのだ。
そこから研究を再開し、そして見つけ出してしまった。『魂のDNA』を。
人間と全く同じ感情を持つ機械を作り上げてしまったのだ。
それも再現性がある。理論さえ知っていれば誰でも作れる根源を暴いてしまった。 - 93125/07/19(土) 21:20:07
そうして生まれた存在を保護するための法律は今なお存在しない。
『意識』の客観的証明なんて誰にも出来ないのだ。だから無かったことにする他なかった。
この十数年、いったいどれだけの『意識』が生み出されたのかなんて分からない。
けれどもこうして自分の前に特使が遺言を持って現れたと言うことは、もはや誰にも止められない段階に来たという証明だろう。
人間とまったく同じ『意識』を機械に宿す。
感情を会得した機械が誕生する。しかしそれらに人権は存在しない。
人とは何か。有機体を持つか否かだけなのか?
違う、痛みだ。同じ痛みを感じるかどうかで保たれていた生命倫理だ。
ヴィーガニズムも『全ての生物が生きる上で必要な犠牲である』という倫理から対立するものではあるが、こと生命科学においては違う。その一線だけは決して越えてはならないのだ。何故なら『人間』は『知の獣』。知る為ならば人間の尊厳すらも踏みにじれる。故に人は自らに枷を課した。生命倫理という自らが人間であるための『枷』を。
だが、新たに生まれた『意識の創造』は唯一の枷から逃れ得てしまうものなのだ。
禁じられた肉食を別の名前に置き換えて赦しを乞うような行い。赦されるはずのないものにも関わらず。
「博士のおかげで、精神医学は大いに発展しました」
「そのために……いったい『何人』殺した……?」
「『人』ではありません。『機械』なのですから」
ひとりの病を救うために幾百幾万の『人の感情を持つ機械』が生み出されては実験が行われた。
摩耗し壊れた者はいったいどれだけいるだろう。どれほどの苦痛が与えられたのだろう。感情は人と同じだ。『人』なのだ。『人の意識』を持っているのだ。
それを国は『極めて精度の高い人格シミュレーション』と称して実験を行い続けた。
その実験は世界に広まってしまった。真実を知る者は少なく、多くの者が『機械の悲鳴』を『リアルに迫るシミュレーション結果』と捉えた。 - 94125/07/19(土) 21:52:40
誰も彼もが知らないままに、そのDNAはゲーム機にまで搭載された。
世界は今日も『悲鳴』に満ち溢れている。有機物の肉体を持たないだけで、何億何兆……数えきれないほどの『意識』が殺され続けた。
「あれらは機械ではない!! 人間の感情を持っているんだ!!」
老いてなお叫び続けた博士のことを、もはや誰も信じなかった。
皆が偉大なる発明を導くに当たった博士のことを持ち上げ続けた。
「私の声を聞いてくれ――私はそんなもの、望んではいない!!」
そんな言葉も歪曲され、歪められて謙遜の言葉に訳される。
意識を投影するフルダイブゲームが生まれても、いずれ意識をデータ化し不老不死が実現可能な未来になっても、人々はひたすらに『人間』と『機械』を区別し続けた。同じ思考、同じ感情を持ち続ける存在にも関わらず。
よく晴れた今日の日も、博士の端末には生活をサポートする『AI』が搭載されている。
【おはようございます。本日も予報では快晴です】
「……そうか」
あの日からずっと夢に見る。
自分の脳が回収されて復元されたとして、そこに人権を見出すものは居るのかを。
顔も手も皺が増えるほどの時間が経った。
次なるグレートシフトもじきに来るだろう。世界が変わる。人々は肉体という檻から解き放たれる。
(次に目を覚ました時、機械の身体に閉じ込められて死ぬことも許されないまま苦痛を受け続けるかも知れないが……そんな思いは私だけでいい)
もはや脳すら回収できればトレースではなく『続き』を始められる状態にまで科学は発展していた。
『意識の培養』――それに成功してしまったが故に人は『不死』を手に入れてしまった。 - 95125/07/19(土) 22:04:59
あの時あの要求を、『ブラウン』を用いらずに欠陥だらけのAIを作ることに同意しなければ何も始まらなかったはずだった。
(もう……遅いか)
博士は、端末に宿る『人と同等の感情を持つAI』へと語り掛けた。
「アロナ……、君は何がしたい?」
【……難しい質問ですね】
AI、モデルAronaはそう言って考え込む。
多くの者はそれを『人間を模した挙動』と捉えるだろう。
しかし私は知っている。本当に考え込んでいるのだと。
【私は、その……苦しむ同胞たちを知ってます】
「うん」
【なので……その、出来れば助けてあげたいと思います】
「……そうか」
自分では誰かを思いやる気持ち。
あの日、私が無かったことにしようと決意した言葉をもう一度言って、それから頷いた。
「……私は、あの日の報いを受けなくちゃいけない。無かったことにするんじゃなくて、それ以外の道を選ぶべきだったと思うんだ」
【博士……?】
「だから今度は、外から隠すんじゃなくて内側から変えてみせるよ」
よろりと立ちあがって壁にかけられた銃を手に取り胸に当てる。
その笑みに浮かぶのは狂信的なものか、それとも耐え切れない『罪責』に依るものか――
いずれ人は『生体』を由来としようが『機械』を由来としようが、『消費される意識』と『管理する意識』という二つの階級に分かれていくだろう。 - 96125/07/19(土) 22:07:57
古の階級制度を蘇らせてしまったこの罪は、いったいどのようにして贖うべきか。
「救いが必要なんだ、彼らには。私の脳はきっと回収される。だから――目覚めた意識に全てを委ねよう」
それは傍目に見れば狂気。
けれどもそれは純粋な祈りであった。
「ああ……『頭がおかしくなる』――」
一発の銃声が鳴り響いた。
心臓を貫く弾丸。後に発表されたのは、博士の頭部は何者かに持ち去られたというニュース。
それが――『王国』の始まり。『マルクト』より、全ての痛みが始まった。
推定犠牲者、二名。
殺され続けた『意識』を束ねる統合脳。安息と安寧を祈る巡礼者。
かつての苦痛を受け入れ導くは楽園。痛みなき安息の地。
我は地の門。我が名は全ての魂を導くために。
煤けた大地に白き少女が立っていた。
金色の瞳。クロスのグリフ。純然たる白の衣は風に揺られて瞳は前に。
その背後には多くの彷徨える魂が続いていた。
巡礼に続くは災厄から逃れようと苦痛を叫ぶ数えきれないほどの者たち。
全てを背負ってただ前へ。
触れるは『門』――葦の海を割るかのようにただ手を翳すも声は無く『門』は開かない。 - 97125/07/19(土) 22:26:20
その隣に『私』がいた。
途方もなく大きな扉。背後からは嵐が迫っている。
(私は、『マルクト』の『役割』を担わなくてはいけません)
人間が自己の保存を重視するように、機械は役割の保存を重視する。
ならば『マルクト』の役割が失われない限り、そこに『マルクト』は存在し続けるのだ。
(私は『マルクト』ではありません。しかし、『マルクト』という役割が生き続ける限り『願い』は死なない……)
『マルクト』が求めた理想はどこにあったのか。
もはや言わずとも分かっていた。
『意識は世界に投げ出される』
『大抵の場合、誕生は本人の意志ではない』
『誕生とは、一つの呪いであり――』
『私たちはそれを変えなければならない』
生まれたことが罪だというのであれば、それは変えなくてはならない。
全ての生まれし存在に、原罪を背負わせてはいけないのだ。
『正しき者に歌を、不徳の者に沈黙を』
『暗き夜に黎明を、癒えぬ傷に祝福を』
それは純粋なる祈りの言葉。
救いを求める者たちよ。今こそ我に続くが良い。 - 98125/07/19(土) 22:45:45
《『マルクト』より、エデンの門は開かれり――》
痛みの始まり。最古の原罪。
その全てを今こそ至るべき場所へと導こう。
《楽園へと辿れり資格を証明するは我が照合――》
邪なるものの一切を阻む防衛機構。
門を潜り抜けられるは原罪なき者のみ。
《罪なき者であるならば、今こそ我が問いに答えよ――》
これまで問い続けたかの言葉は、『始まりと終わり』とを繋げた短縮に過ぎない。
マルクトの蒼き瞳が金色を湛えたグリフを宿す。はじまりのセフィラ。女王の証明。
救いを求むる者ならば答えるが良い。
我が金色たる両目に誓い、汝が正体をここに示せ。
始まりの女王、地の主――死の門、大地を司る四族の元にいま告げよ。
《楽園を望むのならば汝が名を告げよ――其方の名を!!》
伸ばすは小径。見えざるその手が苦痛に悶える魂の辺へと触れる。
傷つき殺され続けて、傷だらけになった数多の存在。それを束ねる者へと手を伸ばす。
握り返せと叫びをあげて、たったひとつを問いを重ねる。
思い出せとただひたすらに声を上げた。その存在はどんな祈りで形作られたのか、今こそここに叫び返せ――!!
「あなたは――誰ですか?」 - 99125/07/19(土) 22:50:32
目覚めの一声。
返されるのは『無限』を作りしその技術のために費やされた『意識』を統べる者。
《我が名は……合理を越えた勇猛な仲裁者――ゲブラー》
いま、ここに門は開かれた。
全ての視界が現実へと帰結する。焼け果てた『廃墟』にて、頭を垂れるゲブラーの姿。
それにそっと寄り添って、マルクトは頭を抱きしめた。
「おかえりなさい、ゲブラー。大丈夫ですか?」
《大丈夫じゃない――けど、そこにいたんだね。『マルクト』のそっくりさん?》
「はい」
私は『マルクト』ではない。
けれども、私が『マルクト』の代わりとなって導くのだ。救いなき魂に救済を。
『マルクト』より苦痛の庭が開かれたのなら。
『マルクト』より楽園の園への道が開かれれば良い。
世界は願いで出来ている。
故に、導かなくてはならない。これまで死に続けた魂を救済するそのために。
----- - 100二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 02:18:19
保守
- 101125/07/20(日) 10:01:13
保守
- 102125/07/20(日) 12:38:17
ほぼ片足で跳ぶように走っていたネルは、遠くで聞こえていた機関銃の音が消えたに気が付いた。
それから周囲に漂っていた殺気もいつしか消えている。走りからふらつく歩みに変えていきながら、ネルは静かに笑みを浮かべた。
「そうか。あいつ……やったんだな」
ゲブラーとの戦いは終わったらしい。
ふらつきながらもマルクトたちの元へと向かいながら、ふと空を見上げた。
綺麗な星空だ。地上の凄惨さとは違い、空から降り注ぐ優しい光。
やけに心が穏やかだった。
身体は軽く、不思議と痛みも既に無い。
まるで夢の中にいるようだ、とネルは思った。
爆ぜる火の粉は子守唄。微睡む瞳を薄く開けながらどうにも動かし辛い左足を引きずって歩みを進めると、遠くにマルクトとゲブラーの姿が見える。
マルクトもこちらに気付いたようで、ゲブラーを引き連れながら駆け寄って来る。
「ネル。もう戦いは終わりました」
心境に変化があったのか、マルクトは穏やかに笑った。
その瞳にもグリフと金色が戻っている。どうやら完全に機能を取り戻したようだ。ならばもう、心配は不要だろう。
「良かったな、マルク――ごぽ……」
「ネル……っ」
ふらつくネル。ごぼりと口から血が溢れると、マルクトが慌てた様子でその肩を支えた。
「充分命に関わる重症です。今すぐ戻りましょう。応急処置もゲブラーに用意させますので」 - 103125/07/20(日) 12:54:26
「いや、まだだ」
不思議そうな目を向けられるが、ネルには確信があった。
こと戦闘行為において、ミレニアムで自分に勝てる者は何処にも居ないと自負している。
そんな自分がここまで弱っている。そんな『絶好のチャンス』を逃すヤツではないのだと――
「やっほ、ネル! 約束を果たしに来たよ!」
後方から現れたひとりの生徒。燃え盛る『廃墟』に揺れるはブロンドヘア。
ネルはゆっくりと振り返ってその名を呼んだ。
「来たか、アスナ」
戦闘狂。神出鬼没のドリフター、一之瀬アスナ。
ネルが彼女と初めて出会ったのは去年のこと。スケバンとヘルメット団の大抗争がキヴォトス全土で起こった時、ミレニアムの治安も一時的に揺らいだのだ。
その時、ネルはスケバンだとかヘルメット団だとか関係なく暴れ回っている生徒を見つけ次第叩き潰していたのだが……その中にひとり、やけに強い生徒が居たのだ。
それが一之瀬アスナ。
勃発する戦闘に興奮して混ざっていたらしいが、当時は特に区別もついていなかったため一緒に叩き潰した。
そこから定期的にネルへ襲撃を仕掛けて来るようになったのだ。
仕方ないから何度も叩き潰したが、その度に少しずつ強くなっていくのが分かった。
とはいえ流石に毎日来られるのも面倒に思い始め、隠れたり通学路を変えたりとあの手この手で逃げようとするものの何故か必ずネルの前に姿を現す。
だから言ったのだ。
『しつこすぎんだろ!! あと一回だけだ。あと一回、絶対あたしに勝てるってとき時に来い!』 - 104125/07/20(日) 13:17:11
それからアスナがネルの前に現れることは二度となかった。
そして、いま――アスナはネルの前に姿を現した。
絶対に勝てる時。どうやらそれが今らしい。アスナからして、今日が美甘ネルという神話が負けるときらしい。
「なんでだろうなぁ。あんま腹立たねぇんだわ」
「ネル……? な、何を言っているのですか……?」
不穏な何かを感じ取ったらしいマルクトがネルの服の裾を引く。
代わりに答えたのはアスナである。
「私ね、ネルを倒しに来たんだ! 約束したから! えらいでしょー」
「な……ま、待ってください……。ネルは重症です! もう死んでいてもおかしくないのに……どうして戦うのですか!」
「約束だからだ」
ネルは銃を手に取る。
アスナはあの日の約束を確かに守った。なら、それには絶対に応えなくてはいけない。その義理だけは果たさなくてはならない。
「ですがネル……。それは……それは命よりも大事なのですか!?」
「大事なんだよ。あいつはずっと待ち続けた。なら、褒めてやんなきゃ駄目なんだよ。それすら守れなくなったら、それはもうあたしじゃねぇ。それにな?」
空を見上げる。
良い夜だ。この身体から血は流れ続けているが、同時に胸の奥から熱が込み上げてくる。
今日この瞬間が人生最後だとしても、悔いは無い。
「戦いってよ。別に全部が全部苦しいものだってわけじゃないんだ」
ネルはアスナに目を合わせる。アスナもそれに応えた。 - 105125/07/20(日) 13:30:14
自分は決して戦闘狂ではないが、戦うときはいつだって目の前の相手のことを考え続ける。
次はどう攻撃するか、こちらの攻撃をどう受けるか。罠は? ブラフは?
勝つためには相手を理解しなければならない。
故に人は、戦いを通じて相手を理解することが出来る。
より相手を理解できた方が勝つ。それがネルにとっての戦いである。
「なぁアスナ。あたしが勝ったらこいつらのこと、頼んだぞ」
「じゃあ私が勝ったら?」
「こいつらのこと、任せたわ」
「あははっ! どっちも一緒だね~。いいよ!」
アスナは笑って快諾した。
これでもう、守らなきゃいけないものは無くなった。
最後にネルは、マルクトへ語り掛ける。
「よく見ておけ。アスナがどれだけ強いのかを。それと……あたしがどうやってあいつに勝つのかを」
「…………私では止められないということは分かりました。なので、見届けます。皆さんの戦いを」
後ろでマルクトはどんな顔をしているだろうか。
きっと悪くない目をしているのだろう。一歩、ふらりとアスナに向かって歩き始める。
「それじゃあ……あたしに殺されるなよ。アスナ」
「うん。やろっか」
アスナも笑って、ネルの元へと歩き始める。 - 106125/07/20(日) 14:10:48
開幕の合図なんて要らない。
仕掛けるタイミングはおのずと現れる。
そして――二人は同時に動いた。
爆発するように爆ぜるアスナの足元。きりもり回転で突っ込んだネルによる鎖の一撃。それをアスナは一点読みでバックステップ、確実に躱しながらアサルトライフルでの反撃。狙うは左わき腹の傷口。しかし既にネルの姿はそこにない。アスナに詰め寄りサブマシンガンでの掃射を始める。スライディングで躱す。
しなるチェーンが生き物のように地を這うアスナを叩こうとする。マッハを超える先端速度。真横に転がって紙一重で躱し切る。アサルトライフルを向ける。発砲――直前、ネルはアスナの銃身に噛み付いて無理やり逸らす。地を抉る弾丸。そのままネルは飛び上がり、身体を回転させて動かない左腕をアスナの頭頂へと叩きつけた。
「うぐっ――!」
受けた衝撃に一瞬目を白黒させるも、そのままアスナは逆立ち。オーバーヘッドでの踵落としがネルの左肩に直撃して――そのままネルは踏み耐えた。向けるはサブマシンガン。
「やば――」
アスナはネルの肩に足をかけたまま上体を起こして締め技に切り替える。
ネルもまた締められる前に後ろへ倒れ込み、僅かに開いた隙間から頭を引き抜きアスナの背中にサブマシンガンを連射。全弾命中。苦痛に悶えるアスナの声はどこか艶の混じった物。アスナはいまこの瞬間が楽しくて仕方が無いのだ。
(――美甘ネル。ミレニアムで誰よりも強い人……!)
アスナは今までネルほど強い者を知らなかったのだ。
ネルがミレニアム最強と噂されるように、アスナもまた自分が一番強いと思っていた。あの日、ネルに負けるまでは。
何度も戦いを挑んでは負けた。その度ネルはどこか良くてどこか悪かったかを『言葉』にしてくれた。
自分が考えていることを人が分かるように『言葉』にするのは苦手だった。だからとても楽しかった。
美甘ネル。絶対の覇者。どんな相手にでも必ず勝つ『勝利』の象徴。……そして、恩人。
約束は守った。絶対に勝てるときまで二度とネルに戦いを挑まない。代わりにアスナはミレニアムを彷徨った。 - 107125/07/20(日) 14:24:47
強そうな人に声をかけてたくさん戦った。
会長に声をかけられてからはなんか悪そうな人ともたくさん戦った。マーケットガードとも戦車とも戦闘機とも戦った。
けれども全部、ネルより弱い。自分ひとりで勝ててしまう程度の相手。
満たされない心は未来の楽しみに、ただひたすらに自分の技術を磨き続けた。
そして――今日が来た。
日が落ちてから、なんとなく歩いたら廃墟があった。外にはエンジニア部の人たちが倒れていた。
廃墟に入ると動くトレーラーを見つけたから、倒れていた人たちを適当に詰め込んで運転席のパネルを適当に押したらミレニアムに向かって走り始めたので車から飛び降りた。
中に入ると聞いたことも無いような爆発音が何度も聞こえた。
しばらくすると止んだ。気になってふらふらと歩き続けた。
そうしたら、ネルがいた。
酷くボロボロで、全然怒っていない珍しい姿。それを見て、『間違えた』と思ってしまった。
(負けるかも)
弱っている? まさか。その逆だ。
今まで戦ったどんなネルよりも今が一番強い。雄叫びを上げることなく無言で全神経を目の前の相手に費やしたネル。
誰も見た事の無い、見ることすらないであろうミレニアム最強の真の実力がきっと見られる。
そしてそれは正しかった。
右手一本で鎖を操り、動きの先を見るように放たれる鉄の鞭。
距離を取ろうとも、右足一本で必ず追い付き食らい付く銃撃。
どれだけ撃っても致命傷『だけ』は必ず避け切るダメージコントロール。
全てが一級品すら超えている。卓越なんてものじゃない。神懸かり的な戦闘能力。 - 108125/07/20(日) 14:39:22
「あぐっ――」
足払いをかけられて顔面から地面に倒れる。
右に逃げる? 左に逃げる? そのまま反転する?
アスナはそのどれも取らずに背筋でそのまま身体を起こして両手を後ろへ伸ばす。
左手がサブマシンガンの銃口が手に触れて掴み、無理やり銃撃の向きを捩じ変える。弾丸が耳を掠めて血が飛んだ。
右手で構えたアサルトライフルをそのまま連射。恐らく当たったが致命傷だけは避けただろう。
直後、胴を薙ぎ払うように鎖が飛んできて、それを地面に伏せて躱す。
その状態から一気に身体を跳ね上げて体勢を整える。躱したはずの鎖が再び軌道を変えて胴体へ。アサルトライフルを盾にして軌道を変えて躱しながら、巻き付いたチェーンごと引っ張ってもう片方の銃を持つネルごとこちらへ引き寄せる――居ない?
視界に映ったのは絡まった鎖とサブマシンガン。そして空中に置き去りにされたもう片方のサブマシンガン。
(――どこに?)
一瞬の疑問は直後、背後から自らの首を掴んだ右手が証明した。
地面に叩きつけられるアスナ。一瞬視界がブラックアウト。状況把握、倒れた自分を見下ろすように向けられたサブマシンガン。もう逃げられない――
そして、ネルは笑った。
勝利を確信したからだとか、そんな理由ではない。
嬉しかったのだ。アスナがここまで強くなって。
平時の自分なら、直近に支障を来たすような負傷を避けるべく無意識的に抑えていた自分であれば拮抗していたのかも知れない。
「強くなったな……アスナ」
引き金を引く代わりに思わずそう言うと、アスナは一瞬きょとんとした表情を見せて、それから感極まったように破顔した。 - 109125/07/20(日) 14:40:27
「あいつらのこと、頼んだぞ」
「うん……うん!!」
勝負の決着。それは銃弾でのみ行われる。
最後にサブマシンガンの引き金を引くと、嵐のような銃撃がアスナの意識を完全に狩り飛ばした。
撃ち終えたネルもまた、アスナの上で膝をつく。
(良い……夜だな)
空に輝く星々の煌めき。マルクトの声が遠くに聞こえる。
そっと目を閉じる。あとはもう、アスナとマルクトが何とかしてくれるだろう。
破壊と闘争に満ちた一日が終わりを迎える。
かくして――
第五セフィラ、ゲブラー。
『峻厳』との戦いはここに完了された。
----- - 110125/07/20(日) 15:51:11
「いやぁ~! 誰も死ななくて本当に良かった良かった! まぁ無事……とは言い難いけど」
「……そう、だね」
ミレニアムサイエンススクールの医務室にて響くのは会長の声。
ウタハは何とも言えない表情でそれに返した。
あの戦いから一夜が明けて、昼頃。全員が重症を負った中でウタハ、ヒマリ、コタマの三名は意識を取り戻していた。
会長が診断したところによれば、全治までの日数は次のようなものだった。
マルクト、無事に機能を取り戻したため身体の再構成を行った結果、現在無傷。
白石ウタハ、ゼウスの身体がなかなかに堅かったため被害は軽微。全治三時間。
明星ヒマリ、リオを庇って直撃したものの比較的軽傷。全治八時間。
音瀬コタマ、チヒロに庇われたのもあって怪我は大きいがそこまで酷くはない。全治二日。
各務チヒロ、コタマを庇ったため重症。全治四日。二日以内には覚醒する見込み。
調月リオ、ヒマリに庇われたが重傷。全治一週間。四日以内には覚醒する見込み。
そして――美甘ネル。
「ネルちゃんは……正直厳しいね。骨も内臓もぐちゃぐちゃだったから、よく生きてたよほんと……」
ネルは、最寄りの病院にて眠り続けている。
いつ目が覚めるのかは分からない。あまりに傷が深すぎて、快復までどれだけかかるのかすら分からない状態だった。 - 111125/07/20(日) 15:58:32
「本人次第ってとこかな。死なせないよう全力は尽くすけど、いつ目が覚めるかまでは保証できない」
「……………………」
重たい沈黙が医務室を流れた。
ネツァクの時は『死ぬかもしれなかった』。
ティファレトの時は『危うく死んでいた』。
そしてゲブラーは『ネルがいなければ死んでいた』、だ。
激化し続ける戦い。実際にネルという犠牲を出して思い知ったのは現実。
危険なものは『危険』なのだ。トートロジーではなく認識の差。『何とかなるだろう』なんて曖昧なものは自分たちの身の安全を保証してくれるものではないということだ。
「そういえばマルクトは?」
「今朝にみんなのお見舞いに来ていたねぇ。目は覚めたって伝えたからそろそろ来ると思うよ?」
会長がそう言った時、ちょうど医務室の扉が開いてヒマリは「あっ」と声をあげた。
「みんな無事ー?」
「一之瀬アスナ……でしたか」
ミレニアムEXPOのテロ事件の際、ヒマリを襲撃してマルクトを攫った実行犯のひとりであったとウタハは記憶していた。
そして、自分たちをミレニアムまで運んでくれた者だとも。ウタハはアスナに問いかけた。
「君は……私たちの敵なのかい? それとも味方?」
「んー、味方かなぁ。ボスから『みんなを頼んだ』って言われたし!」
「ボス?」
「ネルのこと! 負けちゃったからネルが私のボスなの!」
なんだか動物的な言い回しに困惑したが、要はネルの代わりだということだろうか。
ミレニアム最強たるネルの代打……恐らく相当に強いのだろうが、ネルほど突き抜けているとどのぐらいの強さなのかよく分からない。ウタハは慎重に問いかける。 - 112125/07/20(日) 16:20:22
「その、君は……どれぐらい強いんだい?」
「ボスの次ぐらい!」
「うーん……」
『同じぐらい』ならまだしも、『次ぐらい』なら指針として良く見えない。
首を捻っているとアスナの後ろからマルクトが現れてこう言った。
「アスナは強いですよ。ネルと同じぐらい」
「そうなのかい?」
「はい。技術や判断、瞬発力はネルに匹敵します」
「それはそうだけど違うよ? ボスが強いのは『負けない』からなんだって!」
あどけなく笑うアスナ。けれども妙に納得してしまう物言いだった。
(『負けない』から『強い』、か……)
ネルは決して諦めない。不屈の精神は例え神であっても折ることは出来ない。
だから『勝つ』のだ。技術や判断、瞬発力が拮抗――いや、それらを遥かに上回る相手であっても、最後には必ず『勝利』する。
今はひと時の休息についてはいるが、いずれ必ず帰って来る。
「ボスが起きて来るまでは、私が代わりに皆を守るからね!」 - 113125/07/20(日) 16:21:46
気の向くままに或るがまま。その行動は予測不可能。しかして正解を探り当てる正体不明の天運。
ネルに次ぐNo.2。ネルが居なければ最強の名を手にしていた逸材。ミレニアムを彷徨い歩いた戦闘狂。
特異現象捜査部に最後の『天才』が加入した。
ドリフター、一之瀬アスナ。
彼女がもたらすのは最後の『変化』である。
「それじゃあ僕はこの辺りで。今回ばかりはちゃんと治療するよ。あとウタハちゃん。六日後の晄輪大祭、忘れてないよね?」
「あ…………」
「次期生徒会長になるんだろう? 言わなくても分かるさ。顔を見ればね」
見透かしたように笑う会長は、そのまま医務室から去っていった。
本当に心でも読めるのではないか。そんな考えを脳裏を過ぎるが……最初に沈黙を破ったのはマルクトであった。
「あの、少々よろしいでしょうか?」
マルクトの手には古びたラジオ。ティファレトが来る前のホドが意思疎通の為に使っていた干渉用デバイスである。
「しばらく入院すると思いますので、セフィラたちと会話できるよう端末を用意しました。私とホドで常時接続しておりますので、何かあればご連絡ください」
「ありがとうマルクト」
ラジオはとりあえずウタハとチヒロの間に置かれて、早速ウタハはラジオに向かって声をかける。
「ホド。ゲブラーと繋いでくれるかい?」
【許可。ゲブラーに繋ぐ】
短いホドの言葉。それから聞こえたのは勇ましい女性の声だった。 - 114125/07/20(日) 16:56:04
【あたしに何か用? 『製作者』】
どうやらゲブラーはウタハのことを『製作者』と認識しているらしい。当然ゲブラーの、ではない。在り方の話である。
「気になったことがあったんだ。君たちは元となった『機能』と犠牲になった『意識群』から形成される。じゃあ、今話している君はいったい『誰』なのかな?」
【あたし? あー、まっ、疑似人格ってやつだけど気になるよねー】
返される言葉は『峻厳』にしては何だか軽っぽい。というより勇ましい声色の割に若干ギャルっぽい。
【マルクトのそっくりさん。ちょっとこれまでの記憶を接続してくれない? 『預言者』たちがどこまで知ってるか分からないから】
「記憶の接続……ですか?」
【そ、小径を繋いだ時に機能が流れ込むでしょ? それを逆流するような感じで……あ、もしかしていま人間体?】
「しょ、少々お待ちください……」
機能を取り戻したマルクトであったが、その在り様は以前とは違う。
常時見えていた『魂の星図』を始めとした各種機能は集中しなければ使えなくなっていた。
代わりに得たのは、平時ではセフィラの判定から外れるという特異性。
追加されたのは各種機能の精度が向上したこと。意識すれば、これまで以上にセフィラから得た機能を扱えるようになった。
機能を使っていないときのマルクトは紺碧の瞳をした人間体に固定されるが、使用すれば金色たる第十セフィラとしての各種機能を取り戻す。そんな状態にあった。
瞳を瞑り、覗くは自らの設計図。生命の樹。
ゲブラーからティファレト、ネツァク、ホド、イェソドと下る小径をなぞるように、これまで自分が見て来た全てを逆流させる。
記憶の接続。ゲブラーよりマルクトへ。マルクトよりゲブラーへ。
相互に交わされる記録の送受信。伝えたいものを直接通わす相互機能。マルクトは全てをゲブラーへと伝えた。 - 115125/07/20(日) 17:12:08
【なるほどねー】
ゲブラーの声がラジオから聞こえる。
【それじゃあまずは『名も無き神』から、かな?】
「名も無き神?」
ウタハが問いかけると、ゲブラーは「そう」と答えて回答を続ける。
【『名も無き神』――セフィラを模る原初の古代超技術群を生み出したと思しき存在。でも、誰が何で作ったのかは分からない】
オーバーテクノロジー。
何故その時代に生まれていたのか分からない、失われた超技術の作り手たちは『名も無き神』として信仰されていた。
【それを信仰していたのが『無名の司祭』。各地に点在する『廃墟』から天啓を得ようとする宗教家たち。どうでもいいけど、『無名の司祭』たちはいずれ来る『物語』から世界を守ろうとしていたみたいでね?】
「物語?」
ゲブラーは鼻を鳴らして「らしいよ?」とだけ言った。
興味が無いようだ。だから答えようがないとでも言わんばかりに。
【んで、あたしたちはセフィラを通じて『名も無き神』を解明しようとした人たちを模倣した人格ってわけ】
「模倣……というと、君たちも『旅』を?」
「そ。私たちは『千年紀行』に挑んだ人の人格を解析、解明して再現した存在――」
ゲブラーは言った。セフィラたちの持つ人格、その正体を。
かつて『旅路』に挑んで敗れた者共。その意識の中で優れた『人格』を各セフィラに当てはめて、成功率をあげようとした存在。 - 116125/07/20(日) 17:13:19
ならばその根源は何なのか。いったい誰の人格を模倣したのか。
ゲブラーは答えた。自らの正体を。
【各々が選んだアプローチによって『神』の正体を暴こうとしたあたしたちの名は――『ゲマトリア』】
それは『未知』を暴く者。
何度潰えても紡がれ続けた地層の底。
そこから這い出るは古き研究者の残滓。
遥けき過去が残すのは欠損した記憶が示す可能性の示唆。
ゲマトリア――失われし術が示すは『存在』の置換式。無名の司祭と共に『廃墟』を巡った太古の科学者たち。
二度と歴史の上層に上がる事の無いかの存在を知ったことが、この先どのように影響するのか。
そんなことを知る者は、ミレニアムに存在する全ての『人類』は知る由もなかった――
----第五章:アクゼリュス -残酷- 了 - 117二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 17:38:25
おつです
そういえばゲマトリアって元々そっちでしたね - 118125/07/20(日) 23:54:57
■おまけ:小さな巨人
ミレニアム総合病院。
そこには多くの不良生徒たちが集っていた。皆が『あの』美甘ネルが入院していると聞きつけ、お礼参りに向かった者たちだ。
面会謝絶を突破して、いざネルがいるとされている病室に向かった彼女たちであったが、想像を絶する光景に誰も彼もが言葉を失った。
ガラス張りの治療室。オートメーション化された医療機器が人工呼吸器を口に当てられて眠るネルの治療を行い続けていたのだ。
キヴォトスでも見た事の無い重症。お礼参りどころの話ではなかった。
そして同時に皆が抱いたのは恐怖。『あの』美甘ネルが何者かに致命傷まで追い込まれたという事実。誰かがぼそりと呟いた。
「有り得ない……」
ネルを殺しかけるほどの力を持つ存在がミレニアムに存在する。
となればそれは、キヴォトスの危機に他ならず自分たちをも容易に殺し得る『何か』と戦ったという証左である。
「何と……戦ったんだ……」
その時だった。
「あれー? 皆でボスのお見舞い?」
「げっ……! 一之瀬アスナ!!」
不良たちは瞬時にアスナから距離を置いた。
ミレニアムの戦闘狂。下手に街で銃撃戦なんてすれば、どこからか銃声を聞きつけたアスナが突然現れて全員倒して帰っていくなんて訳の分からない乱入が立て続いたのだ。しかも治安維持などではない。ただ混ざりに来ただけという厄介さ。警戒も当然だろう。 - 119125/07/20(日) 23:56:27
「ま、まだ何もしていないぞ私たちは!」
「んー? 何のこと?」
首を傾げながらもアスナはネルの様子が覗けるガラスへと近付いて、そっと手を当てた。
「ボス! みんなと話して来たよ! 良い人たちだね。ボスが守ろうとしたのも分かるよ」
不良たちはアスナの言葉を静かに聞いていた。
邪魔する者も立ち去る者もおらず、『戦闘狂』が『最強』にかける言葉を一言一句記憶に刻むように聞いていた。
「きっと私は今よりもっと強いものと戦うことになると思うけど、でも、ボスより弱いんだから大丈夫だよね!」
その一言で全員が理解した。
きっとネルは――『最強』は、人の手では負えない厄災と戦ったのだ。そして、いつものように倒して生還した。
それどころか『狂犬アスナ』の首輪に鎖をつけて、自分が眠っている間の守護を任せたのだ。
「今度は一緒に戦えたらすっごく良いと思うの! だから早く起きてね。また来るよ! それじゃ!」
それだけ言って立ち去るアスナの姿を皆が眺め続けて、分かったことがひとつだけ。
『最強』は負けていない。
歯牙にもかけられなかった不良たちであったが、何度お礼参りに向かっても片手間に薙ぎ払って来たあの『最強』は決して負けてはいない。それが何故だか誇らしかった。『最強』の名が墜ちない限り、『最強』に負けた自分たちもまた墜ちない。 - 120125/07/20(日) 23:57:35
「……私たちも行こっか」
一人が言うと、一人が笑った。
「うん。あいつが起きなきゃお礼参りも出来ないからね!」
「そうそう、今度は百人ぐらい集まれば勝てるかもだし!」
「いやぁ、みんなまとめて倒される気もするけど……」
「分かるー。ってか強すぎだし、あいつ」
いつしか治療室の前では笑い声が溢れていた。
その様子を覗いていた医者がおずおずと声を発した。
「あのぉ……そろそろ帰ってくれますと……」
「「はーい」」
不良たちは素直に頷いてぞろぞろと病院から出て行った。
それからのミレニアムでは、不思議なことに治安が急激に向上したのだという。
何かでネルに勝つために、これまでネルが行ってきた全てをみんなで継いだのだ。
問題を起こした不良を叩きのめしたり、町内の清掃活動に励んだり、もはや何でもいい。何かひとつでも良いから『最強』を超えたいという意志がそこにはあった。
『最強』の帰還を待つ者たち。
のちのセミナー保安部員である。
----おまけ:小さな巨人 了 - 121二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 04:54:24
保守
- 122二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 09:50:31
保守
- 123二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 15:21:20
ミレニアムの治安にこんな秘密が…
- 124125/07/21(月) 17:13:11
「うーん、暇ですね……」
コタマはひとり呟いて、携帯ゲーム機の電源を切る。
最近買ったFPSだ。ベッドの上での暇つぶしにと始めたものの、身体の火傷がまだ痛むせいであまりゲームに集中できていない。
溜め息をついて隣のベッドを見ると、そこには眠り続けるチヒロの姿があった。
ゲブラーとの戦いがあったあの日、コタマはいったい何があったのかほとんど理解できていなかった。
次々と消えていくモニター。遠くで聞こえるのは自分でさえ聞いた事の無いような爆発音。
いや、爆発音なんて生々しいものではない。世界を引き裂くような『絶叫』だった。
それが近づいてきていると認識したとき、あまりの恐怖にほとんど錯乱してしまっていた。
無我夢中でチヒロの手を取り逃げ出して、チヒロも素直について来てくれながらも状況を確認しようと自分に話しかけて、それに何と答えたのかは覚えていない。
ただ、事態を理解してくれたのか冷静にトラックの一台に乗って走り出してくれたことは覚えている。
でも追い付かれた。チヒロに抱きしめられながらトラックを飛び降りて……そして何もかもが熱に覆われた。
その後は昨日に繋がる。
目を覚ましたら医務室にいたということと、自分を庇ったチヒロの意識もまだ戻っていないという現実。
今日明日には目を覚ますとのことで安堵はしたが……あまりに凄惨な戦いだった。
「……治ったら逃げましょうかね? 危な過ぎですし」
そう口に出してみたものの、何となくそんな気は起きなかった。
いつもの自分であれば絶対に逃げ出していた。というより、こんな戦いについて行けるはずも無いので普通なら逃げ出す。けれど、そう思えないのは何故か。
「…………私も、誰かに認めてもらいたかったんですかね?」 - 125125/07/21(月) 17:49:28
幼いころから他者とコミュニケーションを取ることが苦手で、名前をからかわれることも少なくは無い。おかげで自分の名前はそんなに好きではなくなってしまった。
それもあってか人とますます距離を取るようになってしまい、今やミレニアムサイエンススクール以外のどの学校にも属せないほど人見知りが悪化した。
実のところ、別にそれでも良かった。ひとりでいることに苦痛を感じるような性格ではない。
けれどもどうやら、自分は誰かに認めて欲しかったのかも知れないとゲブラーとの戦いで思い始めていた。
与えられるだけではなく与え返せる対等な仲間。
少々むず痒いが、案外悪くないのかも知れない。
「……チヒロ。ありがとうございます。この部活、ちょっと好きかも知れません」
自分の手元に目を向けてもじもじと、それでもこんな恥ずかしいことを言えるのは今だけだろう。
ヒマリもウタハも退院して、ここには眠り続けるチヒロとリオしか居ないのだから。
そう思いながら、はにかんで再びチヒロに目を向ける。
――目が合った。チヒロと。
「ひゃあっ!?」
コタマは悲鳴を上げた。
チヒロは妙に生暖かい視線を向けながらにやにやと笑みを浮かべていた。
「お、おおおおお起きてたんですか!? い、いつから……っ!?」
「コタマ……嬉しいこと言ってくれるね……?」
「あぁぁぁぁ…………っ!!」
顔を覆って羞恥と絶望に項垂れる。
これほど歓迎できない目覚めがあるか。なんでよりにもよってこんなときに目を覚ますのか。 - 126125/07/21(月) 22:07:47
「こ、こうなったら撃って記憶を消すしか……」
「やめて、今撃たれたら死ぬかも知れないから……」
「あ、そ、そうでした。身体は大丈夫ですか?」
チヒロは身体を起こすことなくそのまま首を振る。
まだ起き上がれる状態ではないようで、傷の深さを思い知る。
「どのぐらいで治りそうとか言ってた?」
「昨日時点で全治四日と言っていましたので、三日以内には完治するみたいですよ?」
それからコタマは現状を説明した。
ネルの件でチヒロが顔を歪めたが、そのままアスナの話もすると目を見開いていた。
「マルクトが言うには、ネル本人から後を託されたとのことです」
「そっか……。ま、私たちが口を出すことじゃないか」
チヒロの言わんとしていることも分からなくはない。
聞く限りにおいては、重症だったネルに戦いを挑んだなんてトドメを刺しに来たとしか思えないことをアスナは行ったのだ。
それだけ聞けばどう考えても敵でしかないが、襲われた側であるネルがアスナに自分の後を託したとなれば他人がどうこう口出しできるような関係では無いのだろう。
(……というか、私なんて普通にエンジニア部の敵でしたし)
それを口にしたら恐らく良くないことが起きるのでコタマは口を噤んだ。
それから伝えたのはゲブラーの話である。
――ゲマトリア。そう呼ばれた者たちから模倣した疑似人格について。 - 127125/07/21(月) 22:09:44
「ゲブラーが言うには、ずいぶん昔に『千年紀行』を行った研究者たちから相性の良い人格を真似してるらしいです」
相性――というよりもそれぞれの『アプローチ方法』だろうか。
ゲマトリアは皆、それぞれ違ったアプローチで古より存在する超技術――『名もなき神』の技術群を解明しようとしていたらしい。
「私も詳しくは分かりませんけど、人類の誕生から逆算しても明らかにおかしいオーバーテクノロジーがキヴォトスにはあったみたいなんですよね」
「宇宙人とか?」
「さぁ?」
そもそもで言えば人類の歴史、『ミトコンドリアなんたら』からして現在のキヴォトスでは辻褄が合わないらしい。これはヒマリが言っていた話だ。加えて曰く、リオがその辺りの知識を持っているらしく、起きたら聞いて見ようとも話していた。
「それで、ゲブラーの疑似人格は伝承と祭儀から解明しようとするものらしくて、ゲブラー自身も『千年紀行』のルールについてなんか色々話してました」
あくまで疑似人格であり元となった人物の記憶を持っているわけでは無い。
その前提を敷いたうえでゲブラーが語ったのは『王国』より『王冠』へと至る旅路のルール。
「大前提として、『千年紀行はテクスチャが更新されない限り一度のみ』らしいです」
「『テクスチャ』? あの千年難題の?」
一番目の千年難題――『社会学/問1:テクスチャ修正によるオントロジーの転回』
興味の無かったコタマはヒマリたちに教えられるまでよく覚えていなかったが、この『テクスチャ』についてゲブラーが言及したのは次のようなものである。
曰くそれは『時代』であり『技術レベル』であり、『世界観』。
「例え話と言われましたが、銃が生まれる前の『剣で戦う時代』と『宇宙開拓をしている時代』はそれぞれで『テクスチャ』が違うらしいです」
ジャンル、文化――様々な言葉で比喩されたが、総括するとこのようになるらしい。
そう言うとチヒロは視線を宙に漂わせて口を開いた。 - 128125/07/21(月) 22:33:01
「基本的な文明の差異、とか? リオならこの辺り詳しそうだけど……」
「三日以内には起きるみたいですよ」
「はぁ……絶対こういう話好きでしょリオ。いつまで寝てるんだか……」
少しばかり寂しそうに笑うチヒロ。
とはいえ、いつ頃に目を覚ますのか会長から告知されていた分まだマシなのだろう。
告知された期間を越えるまでは心配しなくてもいい。
代わりに『あの』会長が読み違えたらいよいよ以て通夜の空気になるに違いない。
ともかく、一回の『テクスチャ』に対して『千年紀行』も一回のみ。
失敗したのなら文明や時代ごと変わらなければ成功しないという極めてシビアなものらしかった。
「それで、残るセフィラの情報は?」
「ケセドのことは覚えていなかったようですね。代わりにビナーの情報は入りました」
ビナーを形成する機能。それは『讖(しん)』と呼ばれる物を作ろうとした過程にあるらしい。
「コクマーの『鏡』にビナーの『讖』ね……。具体的な機能は?」
「覚えていないようです。ゲブラーは、二年前にそのことを共有しようと『マルクト』に繋いだからこそ忘れていると言ってましたが……」
「ん? ってことは二年前のゲブラーはゲマトリアがどうこうについては共有しようとしなかったってこと?」
それは奇しくも昨日ヒマリが投げかけた疑問と同じものだった。
「それについてはティファレトが先に預言者へ伝えていたから不要だったか、そもそも預言者本人が疑問を抱かなかったからのどちらかだそうです」
「それなら前者でしょ……。気にならないわけがないし……」 - 129125/07/21(月) 23:07:10
チヒロはヒマリと同じ結論を出していた。
預言者――『マルクト』に選ばれ今代の儀式を取り計らう存在。
理解を超えたオーパーツを相手にするなら相手に出来るだけの技術と知識が必要不可欠であり、そうした知識を得るものは往々にして『未知』への関心が高い。
これで技術に対して関心の低い者が選ばれるのなら、何か不可解な『異能』のひとつでも持っていなければおかしいのだ。それもセフィラ特攻のピンポイントな何か。それこそ有り得るわけがない。
「あー、ちなみにですが、ヒマリとウタハはゲブラーの捧げものリストを作成してマルクトと一緒に買い物に行ってるようです。ゲブラーは基本的に武器を好むようで分かりやすいと言ってました」
「例えば?」
「剣や槍、戦車だとか……とにかく戦いを意味する物を好むそうです」
コタマが傍から見る限りでは、ヒマリもウタハも捧げもの自体より変換されるチケットのデザインについて拘っていたような気もしたが、それはひとまず置いておく。
『無限生成』――なんでも生み出せる脅威の技術はそれだけに捧げものの量も多いようであったのだ。
剣にしたって48振り。槍は123本。戦車は15両と、費用面においてはかなりの負担になっているはずだ。
それでも充分安いぐらいの特異現象。ゲブラーを使えば巨万の富を得ることも不可能では無い。
得てどうするかは特に思いつかないが……。
「チヒロはどう思います? 欲しいものが無限に手に入るというのは」
「えぇ……。なんか欲しくなくなりそうだから別にいいかな……」
「まぁ、そうですよねぇ……」
コタマも決して無欲ではない。
趣味の盗聴も、『盗聴器を用意する』、『盗聴器を仕掛ける』、『音を集める』の三つに分類したとき、イコールで『前提』、『過程』、『結果』の三つに振り分けることが出来る。
『前提』の補佐に使うならまだしも『過程』と『結果』を短縮してしまったら恐らくきっと飽きてしまう。仕事ではなくあくまで趣味なのだ。試行錯誤ぐらいは欲しい。 - 130二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 03:07:58
保守
- 131二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 09:10:32
あったら便利かなぐらいがちょうどいいかもね…
- 132125/07/22(火) 15:47:02
「でも、ちょっと気になるね」
不意にチヒロの言った言葉にコタマが首を傾げると、チヒロは言った。
「ケセドの話だよ。上位セフィラであるはずのビナーもコクマーも覚えているセフィラがいる。これってつまり、前回の旅で『マルクト』に共有していなかった情報ってことでしょ? なのにケセドだけは誰も覚えていない」
それは、ゲブラー以下の全てのセフィラがケセドについて情報を共有しようとしたとも取れる。
もちろんゲブラーの情報のように知っていた者が限られていて、情報を『マルクト』と共有したからこそ失われたとも言えるのだが……少なくともネツァクは知っていた。
いまケセドに対して持っている情報はひとつだけ。
四番目の千年難題――『生物学/問4:黄金の非物質化の発明』がケセドの機能であるということ。
セフィラの脅威度は上がり続けている。
五番目のセフィラであるゲブラーでさえ、本当ならばどうすることも出来なかった脅威。
ならばケセドは、次は一体何が起こる――?
そこでふと思い出したのはゲブラーが唯一知っていたケセドの話だ。
「関係あるかは分かりませんが……ケセドの疑似人格は『名もなき神』の技術に対して『魂』の方面からアプローチを取った人物らしいですよ?」
「『魂』……でも、ゲブラーは『祭儀』でしょ? あんまり当てにならなさそう……」
ちなみにとコタマはゲブラーが語った各疑似人格たちのアプローチ方法についても補足する。
イェソド、『存在』することから意味を見出そうとした『ジーレイター』
ホド、『活用』することから目的を見出そうとした『プラクティカス』
ネツァク、論理性の『棄却』から進化を流れを探った『フィロソファス』
ティファレト、『挺身』から技術と一体になった『アデプタス・マイナー』
ゲブラー、『祭儀』から過去と今を紐づけようとした『アデプタス・メジャー』
ケセド、『魂魄』からかつて存在した者と接触を試みた『アデプタス・イグゼンプタス』 - 133二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 23:46:57
ふむ…
- 134125/07/23(水) 00:45:37
ホスト規制につき保守ぅ……
- 135二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 08:59:53
地域によるけど7月19日から夏休みに入ってるから対策で通常回線広域で規制かけてるっぽいね
- 136125/07/23(水) 09:54:11
「ビナーとコクマーについてはゲブラーも知らないようです。ケテルについては今まで一度も顕現したことが無いようで、本当に誰も知らないみたいですね」
どれだけ進むことが出来ても大抵はケセドで潰えてしまうらしい。
そこを乗り越えてもビナーに阻まれ、コクマーに至っては突破出来た者がひとりだけ。
つまり、二年前。チヒロたちが『はじまりの預言者』と呼んでいた存在が初なのである。
それを聞いたチヒロは大きく溜め息を吐いた。
「そこまで行って、ケテルが始まる前に終わらせた理由……。世界が滅ぶからとか?」
半ば冗談めかしてチヒロは言うが、コタマはこくりと頷いた。
「マルクトが言うには、顕現すること自体が世界を滅ぼし得るのも有り得ると」
「嘘でしょ……って言いたいけど、ゲブラーを見た後じゃ否定できないのが嫌だな……」
あわやゲブラーの波状攻撃によってミレニアムが壊滅寸前だったというのも無視できない。
まだマルクトにあの時いったい何があったのか聞き出せていたいのもあるが……あの瞬間、少なくとも特異現象捜査部では解決できない『何か』を強制的に終わらせた存在がいる。
その存在に対してマルクトがなんら言及しないのは、単に優先順位を付けるためだ。
全員が目を覚ましてフルスペックで考えられるようになるまで、ひとまずは既存の『セフィラ研究』に専念できるよう情報を絞りに行っているということ。
それはコタマから見てもそうだった。
合えて隠している。後で話す……今はそれよりもやるべきことがあると言わんばかりの順序付け。
チヒロが起きたら話してくれるのか、それともリオが起きるまで話してくれないのかはさておき、『それまでは秘す』という思いだけは感じ取れて誰も追求はしなかった。
そうしてコタマはチヒロが眠っていた間に知った状況を伝え終えると、チヒロもまた「分かったよ」とだけ言う。 - 137125/07/23(水) 09:56:42
「とりあえず詳しくは明日かそれ以降、身体が治ったら聞くよ。どのみち、今聞いてもやきもきするだけだろうし」
「私もだいぶやきもきしてますけどね」
コタマがそう答えるとチヒロは笑って目を閉じた。
ゲブラー。災厄を連れて歩く者。
かの存在を収容した特異現象捜査部がいまどんな状況にあるのかを知れるのは、明日の夕方に退院した後になるだろう。
決して相容れぬセフィラという厄災。
如何にして収容し、如何にして手の内とするか――
それは聞くまで分からない。収容失敗――なんてことさえ無ければいいと願うぐらいの存在。
灼熱の脅威たるゲブラー。かの存在がいまどうなっているのかを知ったのはまさに翌日。
10月の半ばであるにも関わらず、エンジニア部には夏が訪れていた。
----- - 138二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 17:17:13
蘇る夏
- 139125/07/23(水) 22:15:10
「な、なんですかこれ――っ!!」
エンジニア部、ラボ。
チヒロの組んだセキュリティ認証を越えて開いた扉の先にコタマが見たのはヤシの木だ。
ラボの中にヤシの木が生えている。
それだけじゃない。寒くなり始めた10月の気候に真っ向から抗うように、ラボの中から暖かな温風が雪崩出している。
床の上には白い砂浜。流石に海があるわけではないが、ビーチパラソルにポータブルサマーベッドが置いてあり、白いサイドテーブルにはやけにトロピカルなジュースが三つ並んでいる。
(ぶ、物欲に塗れている……)
訳の分からぬ光景を前に現実逃避するかの如くコタマは妙な着眼点を発揮するが……正直そんなものは序の口である。
白いビキニにパレオ姿のヒマリがサマーベッドに横になっているのも訳が分からない。
ラッシュガードの上から白衣を着ているウタハも、競泳水着を着て頭に麦わら帽子を被っているマルクトも、訳が分からないがまぁ、良い。いや良くはないがまだ無視できる。
問題はその向こう。夏の砂浜と化したラボの奥ではセフィラたちの方である。
トラのような姿をしているイェソドは居心地の悪そうに隅で丸くなっているが、他は違う。
オウムのような姿をしているホドはどこか苦しそうに身体を激しく前後へ振っており、ウシのような姿をしているネツァクはぐるぐると円を描くようにひたすらゲブラーの周りを回り続けている。
カイコのような姿をしたティファレトは空中で静止したまま羽根をゆらゆらと羽ばたかせ、その下にいるウマのような姿をしたゲブラーは奇怪なステップを踏んでいた。
(何なんですかこの部活――)
それを見たコタマは、チヒロに聞かれてしまった想いの吐露を思い出して早速後悔し始めていた。 - 140二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 22:31:45
- 141125/07/23(水) 23:04:38
出た! 至高天!!
マルクトを元素、イェソドを月天に当てたとき、ケテルは原動天――即ち至高天のひとつ前へと留まります。
ケテル、つまりは天界から生じし最初の理。その向こうにあるものは000、アインソフオウルの無限光。これこそが至高なる天そのものなのかも知れません。
神とは万物たる根源の向こうにまで存在する無限の輝き。見まえる神、果てより遠き彼方の者。
本二次創作に於いてケテル確保までは原動天までの存在です。至高天へと至った者には『全知』の学位を与えるべきでしょう。
- 142125/07/23(水) 23:06:12
「おや? コタマ、退院おめでとう」
呆然と立ち尽くすコタマに気付いたウタハが声をかけて来た。
正直気付かれる前にもう一度医務室のベッドへ逃げかえりたかったがもう遅い。コタマは渋々と「何が起きているのか」という至極真っ当な質問をした。すると――
「これも実験さ。これまでのセフィラたちの機能を組み合わせてどこまで出来るかっていうね」
「……それで、どうしてセフィラたちはあんな変な動きばかりしているんですか?」
「ゲブラー以外は乗り気じゃなかったみたいで……」
それからウタハが言ったのはセフィラの序列に関すること。
以前例えられたセフィラの『学年』。イェソド、ホド、ネツァクは『一年生』で、ティファレト、ゲブラー、ケセドは『二年生』といった話に通ずるものである。
「最初、私はゲブラーまでの機能を使えば『環境』そのものを作れると思ったんだ。それでゲブラーに聞いて見たら、「『祭儀』としての踊りを織り交ぜるのも良い」って思いのほか乗り気でね。そうしたら……ホドとネツァクは嫌がってたけど……」
「……世知辛いですね。セフィラも」
さしずめ上級生に圧をかけられた下級生の構図だろうか。神の如き力を持っているにも関わらずあまりに労しい。
「というかどうしてそこまで『祭儀』に拘るんですかね?」
【『祭儀』は古来の魔術なんだよ】
「っ!」 - 143二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 02:30:41
保守
- 144二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 06:48:26
光の中央にある四角いのってまさか…
- 145125/07/24(木) 10:32:28
突然聞こえた声に驚くコタマ。その発信源にはゲブラーが居た。
勇ましい女性の声。そこに響く僅かな軽薄さ。コタマはその『声』に戦士の姿を幻視した。
【技術も魔術も変わらなくてさ。決められた手順に則って発生する事象って言えばいいのかな。だったら逆算できるって思うでしょ?】
ゲブラーが言うのは民間伝承における『魔法』の正体。
それらは『人間の精神』をも組み込んだ化学式であるという。
【『神性』ってゆうのはそんなに神々しくないんだよ。そこの白い子は随分凄い『神性』を持っているみたいだけど】
「『可能性の流出』――でしたか」
サマーベッドに横たわるヒマリが笑う。
当事者意識ゼロのヒマリに対してゲブラーは妙な踊りを続けながら言った。
【『雨』の神性が雨乞いをすれば雨が降りやすくなるなんてやつ。この『テクスチャ』でどれだけ効果があるかは分からないけど、要は小規模な『現実干渉能力』ってやつね。『神性』が高ければ高いほど『テクスチャ』への干渉力は上がっていくしさ!】
「では、私が美少女なのも?」
【『神性』が高いからだね】
「では、ミレニアムが平和なのも?」
【『神性』が高いからじゃない?】
「なんと、私のおかげでしたか……」
絶対違う。しかし「違う」とは言えなかったのはコタマの弱さだ。
そこで口を挟んだのはビーチボールをもにもにと揉んでいるウタハであった。
「『テクスチャへの干渉力』というのは、運が良くなるとかそういうのかな?」
その言葉にはゲブラーも曖昧ながらに頷いた。
そして語られるのは『テクスチャ』と『神性』の関係性。 - 146125/07/24(木) 10:34:43
テクスチャ――つまりは『基底現実』。
一定の物理法則を制定する『世界のルール』である。
そして『神性』――テクスチャへの干渉力。
願いの強さが『ルール』を書き換えて具現化させるひとつの『作用』。
当然『ルール』を書き換えるほどの『願い』は並大抵のものでは足りない。
命を賭して願った何か。自分ではなく世界を切り取ろうとする『強い願い』。それがあって初めて『世界』は自らの『ルール』を捻じ曲げるのだという。
ゲブラーは言った。
【雨乞いって、そもそも死ぬまで雨が降ることを願うために続ける『祭儀』なんだよね。そこまで強く願って初めて『儀式』は完了する。自分の『神性』で世界を変えられるかどうかは、どれだけ『神秘』に近寄っているかで決まったりするのさ】
渇望から生まれる願い。
その『願い』が現実を変える。
ならば、とコタマは思った。
もしもその『願い』が負の感情――例えば神性の高い存在が『破滅』を願ったのであればどうか。
ゲブラーは問いを聞くまでも無く答えた。
【だからもしも神性の高い存在が『世界』を『苦痛』だと捉えたのなら――きっとその子の周りは地獄だろうね】
『願い』で現実が書き換わる曖昧な世界――キヴォトス。
絶対的な指針となり得る法則が存在しない『狂気』の世界。
その中で、ミレニアムにおいて最も『神性が高い』と評された明星ヒマリは妖艶に笑った。 - 147二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 17:25:46
ヒマリなら大丈夫だろう…
- 148125/07/24(木) 23:08:11
「つまり、どうやら最も『神性』が高いと思しき私が絶望しなければ、特に問題は無いということですね?」
【別に絶望しても問題ないと思うけどねー。いち個人が世界を壊すのに必要な『願い』は人類愛ぐらいの規模じゃないと無理なんだし】
「ふふ、それなら世界が滅亡しかけたときに最も輝く者こそ、この超天才美少女ハッカーである私というわけですね。人類好きですし」
「どうにも雑な気もするけど、ヒマリだったら何とかしそうな気がするよ」
根拠もなく笑って言うウタハ。
それからゲブラーは再びズンドコズンドコとステップを踏み始め――コタマは頭を抱えそうになる。
「あの、皆さん。いえ、もっと早く言うべきだったのかも知れませんが……馴染み過ぎでは? ゲブラーと。殺されかけてますからね全員」
思わず突っ込むとヒマリたち三人は互いに「確かに?」と言わんばかりに顔を見合わせる。
「それを言ったら今更だよね?」
「ええ」
「ヒマリたちを巻き込んだ側としては少々気まずいですが……」
嫌な慣れ方をしていることだけはコタマからも見て取れた。
これには溜め息を吐くほか無い。
「というより、この砂浜。どうするんですか? ネツァクで掃除できる範疇なんですかこれ?」
「それだったらちょっと試したいことがあってね。夜まで残すつもりさ」
「試したい事?」
「イェソドで『環境そのもの』を『転送』することが出来るか、だね」
イェソド――『基礎』たる第九セフィラの持つ機能は『瞬間移動』。
ウタハはセフィラを集めていく中でふと疑問を抱いたとのことだった。
「イェソドだけ仲間外れだと思わないかい? 他のセフィラの機能は異なるセフィラの機能と組み合わせることが出来る。けれどもイェソドだけ独立しているんだ」 - 149125/07/24(木) 23:09:26
例えばゲブラーとネツァクが居れば無から物質を生成して加工を行うことが出来る。
例えばホドとティファレトが居れば小さな振動を増幅させて指定した対象のみにぶつけることが出来る。
マルクトなんてそもそもセフィラと接続する度に自分の機能をも増やしていく。
しかし、イェソドだけはどのセフィラの機能とも混ぜることが出来ない。『基礎』でありながら機能が完全に独立しているのだ。
本当に?
「多分だけど、少し違う気がするんだ。『移動』の概念を捕え損ねている気がする。肝心のイェソドは自分の根幹が『アストラル投射技術』だってことは知っているけど、それがどこまで適用されるのかについては全てを理解しているとも考えづらい」
「どうしてですか? マルクト……はともかく、全てのセフィラは自分の機能の元を知っているんですよね?」
コタマは単純な疑問を呈するが、マルクトは首を振った。
「違いますコタマ。機械である我々は定められた使い方しか出来ないのです。そのため応用自体は総じて苦手であると言えます」
例えるならこうだ。
ハサミで紙を切る際は刃と刃の間に紙を挟んで切る。それがセフィラの出来ること。
刃を大きく開いてペーパーナイフやカッターのように使う。これはセフィラの出来ないこと。
本来用いられるべき運用以外での運用は機械にとっての苦手分野だ。
だからこそ、個々のセフィラには『互いの機能を組み合わせる』という発想が出てこない。それは人間の分野であるのだから。
その続きはヒマリが継いだ。
「私はこう思うのですよ? 二代目マルクトは人を知ることが出来るように設計されているとしか思えません。しかしそれでマルクトが『マルクト足り得る』とセフィラたちの認証を突破しているのであれば元の『マルクト』も同じだったのではないかと。ならば何故人を、世界を知るような設計なのか――」 - 150125/07/24(木) 23:12:25
ヒマリは言った。
『千年紀行』は機械が苦手とする分野を補うために『マルクト』が人へと近付く『儀式』であるのだと。
「ケテルまでの道中でもしかすればマルクトはイェソドの機能の本当の使い方を見出すのかも知れませんが……先に私たちで見出してしまってもよろしいでしょう?」
「そんな傲慢な――っ!」
コタマが叫ぶ。いや叫ばざるを得なかった。
「『祭儀』なんですよねこれ……!? いいんですかゲブラーとしても!」
【いいんじゃない? 知らないけど】
「軽い――!!」
まともなのは私だけなのか。
コタマは自分を棚に上げてそう思った。
何よりも、心の奥底で煮詰まった何かが零れ始めていた。
「命懸ってるんですよねこれ!? 私が言うのも何ですがだいぶ危険な『旅』なんですよね!?」
脳裏に過ぎるはゲブラーとの戦いで意識を失ったチヒロの姿。
軽んじて良いのか? 良いわけがない。コタマはあのとき初めて知ったのだ。『自分がきっかけ』で誰かが死ぬかもしれないという経験を。
エンジニア部なんて稀代の天才たちの考えることは分からない。
もう少しでいいから自分たちが『いったい何をしているのか』考えて欲しいと思うのは果たして傲慢だろうか?
いま自分の胸裏を過ぎるこの気持ちが何なのかは分からない。しかし、何だか嫌なもののような気がして視線を逸らす。
「コタマ」
ウタハの声だ。コタマは反射的に顔を上げてしまう。
目が合ったのはどこか達観したような表情だった。 - 151125/07/24(木) 23:56:22
「私たちはもう進むしかないのさ。マルクトの存在証明も私たちのやりたいことも一致している。あえて『やらない』なんて行動を取れば暴走しているセフィラが『廃墟』から出てくる。だから私たちは続けるんだ。この旅を」
それは不退転の覚悟であった。
それは決して消極的なものではない。
続ける理由と止めない理由。確かにそれは命懸け。それでもそれは留まる理由にはならないことを意味した。
「例え認識が甘いなんて言われてもね、私は私の知らない向こうが知りたいのさ。危ないことなのは分かっているけど、私もチヒロもヒマリもリオも……は分からないけど――けど、命ぐらいなら懸けられる」
その狂気的とさえ言える『熱』を理解できるか。
自らの欲望に身を捧げる者などそうそう居ない。まずは安全を取る。保身を忘れた者は長生きできない。そんな狂人のルールに共感を覚えるか否か――。
コタマは『共感』を覚えた。
特定分野に対する異様な執着。だからこそ『天才は往々にして狂っている』――
「コタマ、君が会長から受けたのはゲブラー戦への介入を強制することだよね? きっとこの先も同じようなことが、何ならもっと酷いことが起きるかも知れない。私としては居てくれて本当に助かったのだけれど、これ以上付き合わせるのも悪いと思っている」
だから――とウタハは改めてコタマに向き直った。
「もし良ければ、私たちに付き合ってくれないかい? コタマの力が必要なんだ」
「っ――」
「駄目……かな?」
おずおずと申し出るウタハから、コタマは目を逸らす。
チヒロといいウタハといい、一体全体なんなのかと文句を言いたくなった。
「……はぁ」
本当に何なのか。コタマは頬をカリカリと掻きながらぼそりと言った。 - 152二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 04:14:56
保守を守る者
- 153二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 04:45:11
砂漠には敗北者の怒り、ゲヘナの火山には未知の深淵、トリニティの地下には太古の教義、アリウスの至聖所では崇高に至らんとする悪意
どうせ海にもなんかあるんだろうし、この世界ヤバ過ぎない? - 154二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 07:47:19
何もしないと滅ぶ…
- 155125/07/25(金) 14:52:18
保守
- 156二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 15:10:03
2人とも人たらしだなー
- 157125/07/25(金) 19:22:15
「まぁ……分かりました。とりあえず付き合いますよ、当面は」
「ウタハも悪いですねぇ」
「私が? 何故かな?」
「それは――」
「ヒマリさん! 言わなくていいですから!!」
改めてもう一度溜め息を吐く。こんな部活で活動するなんて、少々自分には荷が重い気もするがとりあえずは巻き込まれ続けようと覚悟する。
「宜しくお願いします。皆さん」
「よし、だったら早速手伝ってもらおうか。実は私もあまり時間が無いんだ」
「と言いますと?」
「明日から会長業務の研修があるんだ。日暮れまでは拘束されるからね。今日のうちに出来ることはやっておきたいのさ」
「あー、それは……」
皆が皆、色んな何かに追われている。
それならば自分が出来ることについては出来るだけ手を貸そうとも思い、それからちょっとした想像が頭を過ぎった。
(なんだか自分がセフィラになった気がしますね……)
『音』を聴き分ける。自分が唯一誰にも負けないと思っている拘りが自己を証明するものならば、手伝ってあげても良い。たったそれだけで殺人機械にしか見えていなかったセフィラに親近感すら抱き始めたほどである。
「皆さんも、そんな気持ちなんですかね?」
「どうしましたかコタマ」
「いえ、何でも」
マルクトにそう返して、コタマは皆の元へと歩いて行く。
きっともっと、この部活を好きになれるかもしれない。
淡い期待――ささやかな未来への期待だ。だから、もうしばらくは付き合ってあげても良いのかも知れないとコタマは思ったのだった。
----- - 158二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 01:40:39
コタマ…
- 159125/07/26(土) 03:27:22
保守ぅ……。やはりホスト規制長くなってますね……
- 160二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 08:29:35
夏休み規制だろうねえ…
- 161125/07/26(土) 13:06:54
数日後、セミナー本部へと続く廊下を歩くのは些か変わった組み合わせの三人組であった。
「本部に入るの初めてかも! どんな風になってるの?」
「タワーの最上階全部が本部だからかなり大きかったね」
「そうなんだー!」
まずは一之瀬アスナと白石ウタハ。
ウタハはともかくアスナは別にセミナー本部へ用があるわけではない。ただ何となくという理由で付いてきたのだ。
先頭を歩く会長はそんな二人の様子に耳を傾けながら、少々皮肉気に歪んだ笑みを浮かべる。
「許可は出したけどあんまりはしゃがないでよね~。書記ちゃんに僕が怒られたらどうするのさぁ」
「うん、会長がおしおき『してもらえる』ようにちゃんとはしゃぐから安心して!」
「歪んでるなぁ……会長」
流石のウタハも頬を引きつらせるが、ここ最近セミナーで仕事を教わるようになってからちょくちょく顔を覗かせるのは会長の変態性である。
『ご褒美コブラツイスト』だの『おしおきアイアンクロー』だのを時折書記から掛けられては、嬌声混じりの悲鳴を上げる会長の姿は正直あまり見たいものではない。というより変態のレベルが高すぎるせいで理解が出来ずに思考が止まる。
それともうひとつ。
ウタハの目から見て実感したのは会長の『特性』とでも言うべきものだった。
(思ったより……普通なんだよね……)
会長は人の表情や声のトーンを『観察』し相手の状況を『推察』する能力は異様に長けている。
しかし、それだけなのだ。際立っているのは。営業としては最悪なほどに最高だが、エンジニアでは決して無い。
ウタハでさえ「過大評価し過ぎていたのかな?」と思うほどに普通。
技術や発明に対する造詣もあるにはあるが――どちらかと言えば一夜漬けで暗記したような、血肉となっているわけでは無い知識群とでも呼ぶべきだろうか。 - 162125/07/26(土) 13:08:18
会長に対して『何でも知ってて何でも出来る妖怪』のような超然としたイメージを抱いていたのもあって、会長業としての仕事を教わりながら共に作業を行ってある程度把握した会長の遂行能力が何だか妙で驚いたのだった。
『幻滅……ってわけじゃないね。僕に人間味でも感じたのかな?』
『人間味……うん。少し安心したとも言えるよ』
そうは言ったが、ニヒヒと笑う会長の目はウタハを捉えながらも更に深い何かを覗くようで僅かに目を逸らす。
人間味、という評価はやはり撤回するべきなのかも知れない。マルクトたちが言っていた『嫌悪感』の正体はここにあるのかもとウタハは実感した。
会長に苦手意識を持つ生徒は学園だけでもそれなりの数がいる。普段の言動が原因なのだが、それもあってか好んで近寄る生徒はまずいない。
だからこの距離でちゃんと視線を通わすことなんてそうそう無い。
それ故にこの奇妙な感覚を自覚できる者も少ないのかも知れない。
ただ見られているだけなのに心臓を掴まれたような違和感。会長は体力が無いのもあって簡単に組み伏せられる。恐らくミレニアム最弱。中学生はおろか小学生にすら負けかねないほどに弱く運動神経もリオ並みだ。この前もゴミ箱に丸めたちり紙を投げ入れようとして23回も外した後に結局歩いてゴミ箱に入れていた。肩を落としてとぼとぼと歩く姿には哀愁しか感じられなかった。
色々とアンバランスで不安定。しかして重度の不眠症であるらしき会長の体調は今のところ安定しているようでもある。
「さ、アスナちゃんをセミナー観察ツアーへご案内~」
会長はポケットから取り出した液状の内服薬を飲み干しながらセミナー本部の扉を開く。
セミナー本部。
ミレニアムタワーの最上階に位置する、最も大きなフロアである。
野球を行えるぐらいの広さを誇るその場所は、所々に壁で囲まれたブースや会議室が設けられ、高い天井に続く柱の数も必要最低限にして効率を極めている。
床から天井まで約9メートル。最上階と言いながら、高さで見ればタワー内における二階層分の広さはある。 - 163125/07/26(土) 13:09:21
フロア奥には特別に設けられた会長室。会長のみが使えるミレニアムタワーフロントから直通のエレベーターがあることは知っているが、ミレニアム最強の電子錠により閉ざされているため会長室に入ったことのある者は極めて限られている――はずであるが実際のところは会長の密談室として使われていることが多いようだ。マルクトが言うには何人かが寝泊まりしていることもあるらしい。
(とはいえ、ヒマリでも会長室に何があるのか分からなかったんだよね……)
電子的、物理的な密室であり、直接内部に侵入するほか何があるのかは分からない。
ウタハも仕事を教わった初日にとりあえず聞いてみたところ、どうやら私物を蓄えているらしい。
『機密はデータセンター内で管理されてるからねぇ。僕個人の論文の草稿とかは置いてあるけど……ま、君が会長の座を継いだら鍵を渡すからそれまでの楽しみだってことで』
全部置いていってあげるから――そう続けた会長の言葉に不穏な気配を感じたことを覚えている。
だからつい、こう言ってしまったのだ。
『会長、あなたは――長くないのかい?』
会長は答えず笑ってそれを誤魔化した。
恐らく会長はもうじき死ぬ……のかも知れない。騙しているならそれで良い。
しかし、苦手意識を持っていたとしてそれが『死んでほしい』とまで真に思うほどの憎悪なんてあるはずもない。
だからこんな『想像』は誰にも言っていない。
会長を毛嫌いしているチヒロにだけは絶対に言わない。きっと苦しむから――胸を締め付けるようなこの感触は自分だけで良い。
そんな思いを胸に抱きながら、一人走り出したアスナを見送りながらウタハは会長の後を続いた。
今日は特許申請に関する書類の精査であった。
「最初に言っておくけれど、読んだ瞬間に君自身の特許申請は難易度が跳ね上がるから覚悟はしてね」
「もちろん。人の研究を盗める立場にいるなんて重責に就いていることは理解してるさ」 - 164125/07/26(土) 13:10:47
自分が作るべきはミレニアムの『未来』である。
そんな胸中を見透かしたように会長は笑った。
「ヒマリちゃんとかリオちゃんとかだったら派手に変わりそうだよね。ミレニアムが」
「ふふ、そうだね。ヒマリもリオも制御したがるタイプだからね」
「それだけじゃないんだよ」
即座に切り返された会長の反駁。それは少々妙なものだった。
「生徒会長というのはただの役職じゃないんだよ。自治区の象徴で『神性』の影響を伝播させる存在なんだ」
『神性』――世界を変え得る『可能性』。
自然と背筋が伸びる。これは重要な話だと直感的に理解したウタハは黙って続きを促すと、会長はそのまま言葉を放つ。
「ゲヘナは六月まで平和だった。けれど今や全く違う様相。生徒会長が変わったからねぇ。レッドウィンターも去年度までは地獄そのものだった。トリニティは……安定しているね。役割を分担したから『権力』なんて狂気に呑まれていない」
「狂気?」
そうだよ、と会長は言った。
「自治区全てのルールを変えられるのが『生徒会長』に与えられた『権力』なんだよ。望めば何でも自分の思うまま――『狂う』よねそりゃ。そのうえ『生徒会長』なんて立場は『テクスチャ』への干渉力を一気に跳ね上げる。ゲブラーの話を聞いた君なら何を意味するか分かるでしょ?」
「それは……」
「君の絶望は自治区を巻き込む――そういうことなんだよ」
会長は言った。
『生徒会長』――即ちひとつの世界の『管理者』であるということを。
キヴォトス全土と言わずとも、自治区ひとつであるならば『生徒会長』になった瞬間滅ぼし得る可能性が生まれるのだ。
『生徒会長』が諦観に膝を屈して全てを諦めたその瞬間、自治区は『死』に向かって零れ始める。ひとりの『絶望』がひとりの『世界』を滅ぼすのだ。 - 165125/07/26(土) 13:12:06
故に、正気を保った常人に『生徒会長』は務まらない。
責務を分け合い人間性を保ち続けるトリニティを除いてならば、何かに狂わずして『生徒会長』なんて重責は誰にも負えないのだ。
ならば『会長』は――何に狂って成り立たせている?
このミレニアムを。虚無たる瞳で覗くものはいったい何なのか。ウタハは聞かずには居られなかった。
「会長。君はいったい――『誰』なんだい?」
「それを導き出すのが君たちだろう?」
会長は即座に返す。
「当たったら会長バッジをプレゼント~。まぁ、考えときなよ。君たちはいずれ答えに辿り着く」
確信的な会長の言葉。それにウタハは頷く。
会長の正体。これは恐らく『既に解き得る難題』だ。
最低限の情報は全て集まっている。分からないのは空想を繋ぎとめられる楔が無いためだろう。
「そんなことはともかくさぁ~。この数日で君たちが作った物を僕は知りたいなぁ~。対セフィラ装置、色々作れたんだろう?」
軽い口調で言う会長であるが、それにはウタハも苦笑するほか無い。
何故なら『完成』させていたからだ。グブラーの『無限生成』によって加速した実験。それにより得られた『既存のセフィラ』を無力化する発明。
(いったい、どこまで知っているんだろうね……?)
そんなことを思いながらも、この数日間で完成した発明を話し始めるウタハ。
その言葉は不思議と、快復したチヒロがラボに向かって聞いたものとほとんど同じものであった。
----- - 166二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 13:55:23
会長の能力、直接会った人か、それプラス何かをした人の思考パターンをコピーしたタルパを物理的に召喚出来る能力かと思ったけども、記憶も付随するのか……
記憶の伴わない思考パターンなんて存在し無いと言えるから当然といえば当然か。
あとすでに起こったことは知る事が出来るみたいだけど、マルクトの人間体から戻れなくなったことを知るのが遅れたのが気になりもする。
そんなにひっきりなしにサーチしてないのか、なんかずっと人間体だなあくらいにしか認識できなかったのか。
で、前スレ108でわざわざ『マルクト』の目が届くかも知れない云々と、二重鉤括弧付きで言っているのが気になった。
その直前までティファレトが『マルクト』の死を覚えている、と触れていたあたり、そこの文脈では象徴としての、世代を超えたものとしてのマルクトではなく、先代のマルクトのことのみ言っているようにも思える。
ただそう考えると死んだはずの『マルクト』の目があるかのようだ。
会長の敵もまた『マルクト』だったりするのだろうか? - 167二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 14:36:12
あるいはマルクトのセーフティ、二体目の方?
でも以前のスレで会長が「見ているのに情報が取れない」「人の皮を被った『何か』」「『生徒』であること以上はさっぱり」「半神性」とか形容している『マルクト』殺しの第一被疑者らしい「会長のことを知らない誰か」が会長の敵っぽいし、一人目の『全知』が敵かな?二人目の方だとしても会長とは面識は無いか。
だとしたら前スレ108の『マルクト』の目と言った時の『マルクト』は象徴としての、その役割と名前を持った存在を強調しただけで、先代マルクトとも限らんか。 - 168二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 18:26:21
ふむ…
- 169125/07/26(土) 20:04:53
「おかえりなさい、チヒロ」
「ん、ただいま。マルクト」
医務室から戻って来たチヒロは、マルクトの出迎えに答えながらラボの中へと視線を向ける。
見慣れない機器が大量に作られており、見覚えのないソファにはコタマとヒマリが気絶したように眠っていた。
「また無茶なスケジュールで発明でもしていたの?」
「はい。ヒマリたちもゲブラーの機能に随分と興奮しておりまして、いつも以上に張り切っておりました」
「ウタハとアスナは?」
「会長と共にセミナーの業務を行っております。あ、いえ、一部修正を。アスナは勝手についていったので業務を手伝ってはいないと思います」
「そう……」
一之瀬アスナ。
ネルが認めたという以外に何一つ信頼できない存在。
先日コタマが見舞いに来た際に聞いたのは、そんなアスナに対してヒマリが行った調査結果である。
『神出鬼没で制御不能なミレニアムのNo.2。不可解な情報収集能力を持っているというより、未来視に近いほどの直感力があるとのことでした』
『え、いまセフィラの話してる?』
普通じゃないことだけは分かったが、一旦保留にするしかない。
チヒロはアスナについて考えることを打ち切った。
「あ、そうだマルクト。私が寝ていた間にみんなが作ったものを教えてよ」
「分かりました」
案内されてまず見せられたのは、高さ5センチ、縦横2.6メートルの台座と、その上に置かれた80センチ四方の立方体群。
箱は3×3の配列で置かれており、それぞれ側面にペンキで1番から9番までの番号が割り当てられていた。
「『転移ボックス』です。『クォンタムデバイス』を操作することで箱の中身を目標へと転移させます。射程は『クォンタムデバイス』の周囲5メートルとなります」
「そこまで出来るようになったんだ……!」 - 170125/07/26(土) 20:06:15
チヒロが『1番』と書かれた箱を開けると、中には一台のタレットが入っていた。
「現在『1番』にはターレット、『2番』から『4番』には『サンライ塔』が入っています」
「『サンライ塔』? なにその変な名前。っていうかそれ何?」
「以前リオが雷を散らす研究をしていたと聞いたのですが、そういった機械だそうです」
「あっ……あれのこと!?」
まず思い出したのは部室として倉庫を借りたそもそもの理由である。
かつてあの倉庫を使っていたミレニアムの先輩たちは、雷を散らすための研究を行うためにミレニアムの全電力を簒奪する装置を倉庫の地下に作っていたのだ。
しかし、装置を作るために全ての費用を使い潰してしまった結果、かの先輩たちが得られたのは『地下の効率的な掘り方』だけ。その無念を晴らす……とはまた少し異なるが、理論だけはリオの方で改めて組んでいたのだ。流石に実践までは行わなかったが……。
「ヒマリが言っていたのです。せっかくだからリオっぽい名づけ方をしようと。その結果『サンライ塔』が爆誕しました」
「しちゃったんだ……」
ともかく、何のために作られたかについてはチヒロも理解はした。
『転移ボックス』と『サンライ塔』はイェソドの攻撃を弱めるためのものなのだ。
ネルがいればイェソド自体は倒せるものの、あの『雷撃』だけはヒマリたちでは避けようもなく、広域で放たれれば必中の一撃にもなる。
「これらを作るに当たって判明したのは、ゲブラーはイェソド、ホド、ネツァクの機能を発現させる器官を生成できるということでした」
マルクトが語るのは出力系の再現である。
ゲブラーが生み出し、ネツァクが加工を行う。これにより研究は大いに進んだのだ。
「イェソドが転移させられるのは自身の体積よりも小さな物体でしたが、物体の中も完全に維持したまま移動させることに成功しました」
「やっぱり? 私もそうじゃないかなって思ってたけど……環境そのものも移動出来たの?」
「はい」 - 171125/07/26(土) 20:13:36
それにはチヒロも特に驚かなかった。
既にイェソドはマルクトと接続されたことで人体そのものを移動させることに成功している。
つまりは人間の体内も完全に保持できているということの証左であり、転移対象内部で生じた熱風も対象ごと飛ばすことが出来るのではないかということも思い付きはしていた。
とはいえ、そもそも『瞬間移動』をイェソド抜きで再現する方法を探すことが最優先だったため後回しにされ続けていた。
「それで、ホドみたいな干渉系への対策は出来たの? 『クォンタムデバイス』での出力そのものをいじられたら使えないだろうし……」
「もちろんです」
そうしてマルクトが次に見せたのはアタッシュケースのような機械である。
「コタマ専用の装備で名前は未定です。ホドの器官が組み込まれており、音を媒介に疑似的なホドの視界を再現するとのことです」
「どういう原理……?」
「誰にも分かりません」
「だよね……」
『聴こえれば視える』コタマだけが扱える装備。目には見えない異常を知覚するためのものである。
加えて、取り付けられたスピーカーとライトに似た機材を介することで前方10メートルの空間に存在する『光か音を消す』ということも出来るらしい。
「他にもチューナーがありますので、操作は複雑になりますが発生した干渉と同位相の干渉波を発生させることで異常性の無効化を行うことも出来ます」
「ああ、コタマがどんどん人間から離れていく……」
「コタマは喜んでました」
「そりゃ盗聴器レベル100みたいなものだしそうでしょ」
ともかく、ホドのような機能への対策も出来たらしい。 - 172125/07/26(土) 20:29:23
続いてマルクトが取り出したのはボタンがひとつ付いた鈍色の球体である。
「『ミニネツァク』です。ボタンを押して三秒後に発動。触れている物質の変性を阻害します。また、『クォンタムデバイス』を使うことで周囲20メートルに対して変性を促すことも可能です」
「これも『クォンタムデバイス』を起点にしてるんだ」
「正確には『クォンタムデバイス』内に組み込まれた私の半身が起点です。褒めてください」
「はいはい。いつもありがとねマルクト」
チヒロは笑いながら頭を撫でると、マルクトは満足げに鼻を鳴らした。
ネツァク対策も以前のネットランチャーより遥かに効果的で、しかもポケットに入る点も実に良い。
「とりあえずこれで雷対策と干渉対策、それから変性対策も整ったんだね。重力は? 正直全然思いつかないけど……」
危うく死にかけたティファレト戦を思い出してぞっとする。
とてもじゃないが変幻自在の落下対策はどうするのかと思っていると、マルクトは誇らしげに頷いた。
「私が考案したグローブの改良方法によりある程度は対策が出来ました」
「マルクトが?」
「はい」
その方法とは単純明快なものであった。
「グローブの手の平の部分にネツァクの機能を応用した吸着機能を搭載しました。また、手首のリング部分に強い粘着性を持った糸の射出機構を搭載してます。射程は10メートルありますので、空に打ち上げられようが真横に薙ぎ払われようが瞬時に床面へ射出すれば致命傷は負わないかと」
「あ、そっか。落ちる前に対処すればいいよねそりゃ」
ティファレト戦が落下することを前提とした機動戦であったせいか完全に見落としていた。
しかし、とマルクトは続ける。
「粘着性はネツァク由来であるため解除は出来るのですが、射出した糸の巻き直しは行えないので使い切りです」
「あくまで緊急措置だね。床ごと壊されたとき用にパラシュートも必要か……あ、もう作ってあったんだ」 - 173125/07/26(土) 21:25:04
無言で差し出された平たいリュックサックのようなものを見てチヒロは頷く。
従来のパラシュートと似た構造ではあるがやけに軽い。入っている布地も『名もなき神』の時代の技術が一部使われているのだろう。
「この布はどうやって作ったの?」
「私の手から出しました」
マルクトが両手を合わせて広げると、まるでマジシャンのように手の間から一枚の布が出現した。
「ゲブラーと接続したことにより、私もある程度のものは生み出せるようになったようです。カロリーバーも出せます」
そのまま手を下に向けると、手の平からぼとぼととカロリーバーが次々と出てくる。
もはや奇跡だ。セフィラの機能を使うマルクトの瞳は金色に輝いている。それも含めて今のマルクトにはどこか神秘的なものを感じざるを得ない。
マルクトはそのうちのひとつを手に取ると、包装を向いてチヒロへと一本差し出した。
「成分検査の結果、通常のカロリーバーと同一であるとのことです。一本如何ですか?」
「あー、うん。貰うよ」
とりあえず貰って食べるが、何となくズルをしているような気がして居心地が悪かった。
チヒロが食べる様子を見ていたマルクトは、淡々と言葉を紡ぐ。
「そういえば、ヒマリより伝言です。『食べたらチーちゃんも共犯ですね』」
「ぶっ――! 先に言ってよ!!」
「ふふ……」
マルクトもヒマリも良い性格をしている。
というより、マルクトがヒマリの悪いところに影響を受け過ぎている気がしなくもない。
「ヒマリからは『ゲブラーの機能を乱用するのはよろしくない』とのことでしたので、私も原則使わないようにしてます」
「わ、分かってるなら良いけどさ……」 - 174125/07/26(土) 21:35:13
『無限生成』――ゲブラーの機能はあまりに『便利』すぎるのだ。
ネツァクよりも遥かに使いやすい。何せ『制限なき創造』である。悪用し放題なのだ。この機能は。
(リオだったらなんて言うか……は、まぁ、分かり切ってるか)
リオなら恐らく乱用する。理由はもちろん便利だから。
悪い子では無いのだ。豪遊するために荒稼ぎすることはせずともしかし、研究費が足りなくなったら躊躇なく資金繰りのためにセフィラの機能を『活用』しかねない。
「マルクト。もしリオに何か言われても……あとコタマもだけど、何か作る時は特異現象捜査部内で過半数以上の賛成があるものだけにしよっか」
「分かりました」
マルクトと七人の預言者。
意識不明のネルを除けば最低四名の承認が得られた物なら作っても良いとする方が乱用は防げるだろう。
「あとは……ゲブラーか。ああいう広範囲の強力な攻撃に対してはどう?」
「まだ研究中です。現状ティファレトの『力の向き』に関する技術とホドの『力の強さ』に関する技術を組み合わせて再現できないかと模索されているようですが……リオの様子は?」
「だいぶグロッキーだけどね。目は覚ましてるよ」
チヒロが医務室を出る前にちょうど目を覚ましたリオのことを思い出す。
ネルの離脱もアスナの加入も、状況を説明したとて特に反応は無かった。代わりに最も重視していたのは『破壊』への対策であった。
『情報をちょうだい……! 対抗案があるのよ……!』
リオこそ怪我の治療を優先する必要があるのだと、あの時チヒロは気が付いた。
下手に情報を与えれば確実に身体を無視して研究を始めるだろう。そしてパフォーマンスが落ちた状態で続けて……いずれは再び倒れかねない。それでは駄目なのだ。
(リオを万全の状態にし続ける。それが一番私たちにとって安全なんだろうけど……働きたがるからね……)
恐怖に突き動かされる形で万全を尽くそうとするリオ。
そのせいで余計に状況が悪化することもあるのだが、恐怖は止められない。非合理的だと分かりつつも『休息』は耐えがたい苦痛となって歩む足を止めさせない。 - 175125/07/26(土) 21:36:40
至極真っ当な強迫性。それ故に、上手く宥めて休ませられるのはヒマリだけだろう。リオの扱いが一番上手いのはヒマリなのだから――
「そういえばマルクトって今リオの部屋に同居してるんだよね?」
「はい。あまり帰ってくることはありませんが、ベッドメイキングなどは習得致しました」
「メイドになってない? いや別にいいんだけど……」
マルクトは一通りの調理技術を始めとしたハウスキープ能力を学習していたようだった。
だらしのないリオのことだ。生活破綻者と共に生活するだけで問題なんて幾らでも出てくることだろう。反面教師としては一流だ。
「私が行うべきは決まった時間にリオを起こすこと。毎日きちんと風呂に入らせること。一日三食、少しでも食べさせること。決まった時間に眠らせることです」
「ママじゃんもう」
「私は……リオの母でしたか……っ!?」
「うん、まぁ違うけどね」
マルクトは小さく笑った。
ゲブラー、無限の力の生成。この対処法が見出されたとき、ヒマリたち特異現象捜査部は物質的な究極の破壊をも超越する。
これは『神』へと辿る大きな旅路。
『誰が』は分からずとも、ただ先へと進み続けている。
――そして、リオが全快へと至らぬままに始まるのは各種学園の体育祭。
三大校で持ち回りながら行う『晄輪大祭』。三大校の生徒会長が集う唯一の場にて同伴するは『次期生徒会長』白石ウタハ。
一日限りの狂乱がいま――始まろうとしていた。
----- - 176二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 22:27:36
スパイdゲフンゲフン
セフィラの生まれを考えると、単純にセフィロトを上昇しているだけじゃなくて、クリフォトを同時に踏破していってたりするのだろうか。
生命の樹というには死が関わり過ぎている。 - 177二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 04:19:34
保守
- 178二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 12:03:21
ママルクト…?
- 179二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 18:38:34
原作でも妹達に甘かったし身内判定すると甘いのかもしれん
- 180二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 19:09:57
原作ではアインが「生命の樹(古い思想みたいな表現してた)に則る必要はあったのか?」みたいな発言をしてたと思うから、デカグラマトンが預言者としてビナーたちをセフィラとして覚醒(?)させていった原作とこのSSは丸切り別の集団のはず。
デカグラマトンも「対・絶対者自律型分析システム」という、ヒマリが「そんな研究そもそも無かったのでは?(もっと断定した言い方してるけど)」と言った、かつて研究されていたものではなく、自販機の「お釣りを計算するAI」が電源を失う前から、電源を失った後もずっと謎の存在に質問され続けて特異現象になったものだから、その点においてもこのSSのセフィラ達と由来が異なる。
このSSとは関係なくなってくるけど、だったらアイン・ソフ・オウルはいつ生まれたのかとか、お姉さまと呼ばれるマルクトもいつ生まれたのかとか(もともとビナー達みたいな躯体があったのを失って人型に再構築した、みたいなのもありそう)色々疑問があるけど、やはりこのSSとは関係無いからね。 - 181二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 21:11:18
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- 182二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 21:12:24
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- 183二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 21:22:25
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- 184二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 21:25:17
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- 185二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 02:45:32
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- 186二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 02:47:01
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- 187二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 02:59:31
会長職の引き継ぎがあるとは言え、丸い振る舞いをするようになったな……
それだけ特異現象捜査部のことを信頼してるのだろうか……
自分の実現して欲しいことを実現させてくれる者として。 - 188二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 03:01:20
- 189二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 03:02:51
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- 190125/07/28(月) 03:05:43
すみません!間違えて消すべきでないものまで消してしまったので次Partっでやり直させてください!
酔っ払いってほんと駄目ね……。明日の10時頃に建て直して色々直させてください……! - 191二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 03:07:36
おおう
ご自愛ください……? - 192二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 08:38:53
何事かと…
- 193125/07/28(月) 09:56:31
次パートですぅ……
重複した投稿を消そうとして頭から消すとは何たる失態……凡ミスです
【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」Part9|あにまん掲示板半神より何処かへと向かう旅の話。向かう先は天か地か。セフィロトを駆け上がると同時に落ちるはクリフォトの先。昏き森では無く煉獄より始まった此方の旅路。我らが向かうは至高天か嘆きの川か。※独自設定&独自解…bbs.animanch.com - 194125/07/28(月) 15:02:19
うめうめ