- 11◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 21:01:12
- 2二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 21:02:20
このレスは削除されています
- 31◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 21:02:42
WiFiで立て直し。
初歩的なミスで迷惑かけてごめんね。
レスくれた方、ハートを押してくれた方、応援してくれた方、全員に感謝だよ。 - 41◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 21:03:42
- 5二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 21:03:52
このレスは削除されています
- 6二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 21:07:48
前スレ見るに雰囲気出す為につけてるんだと思うよ〜
- 71◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 21:11:25
どこかに、こころを落とした。
どこだったっけ?
世界はモノクロで、
まるで、ゲームの世界みたい。
まあ、いいか。
こころなんて、あってもつらいだけ。
きっと、そう。
……でも、何かが、足りない。 - 81◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 21:16:15
- 9二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 21:25:17
希望 斬鉄
- 101◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 21:41:59
『希望:剣城斬鉄』
目を開けたら、天井があった。
白くて、やけに静かで──
なんだか夢みたいだった。
俺は、自分の手のひらを見た。
ちゃんと動くし、ちゃんと感触もある。
「ふあ……、ねむ……」
あくびをひとつ。
よく寝た、たぶん。
でも、なんか変な夢を見てた気がする。
世界がモノクロで、感情も味も匂いも、
全部ぼやけてて──
……いや、もう思い出せないや。
「ま、いっか」
起きたところは、ブルーロックの居室。
誰もいない。
音もしない。
でも、なんとなく、
全部が少しだけ、薄くなった気がした。 - 111◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 21:44:53
「……こころ、どっかに落としたんだっけ。俺」
言葉にしてみると、
少しだけ、胸の奥がくすぐったくなった。
そのとき。
「おーい!凪ーーー!」
すごい勢いで、ドアが開いた。
そこに立っていたのは──斬鉄だった。
やたら元気そうで、髪が風になびいていた。
「いた!やっぱここか!」
「……なに?朝からうるさいよ、斬鉄」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。お前、こころを落としたんだってな?」
「玲王が言ってた。凪が“何かをなくした”って。だから、俺が来たんだ」
俺は、寝ぐせのついた頭をかきながら、
のそっと、顔を上げる。
「え、それで斬鉄が来るの?」
「そうだ。俺は“希望”を探しに来たんだ!」 - 121◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 21:46:22
その言葉に、
少しだけ、胸がぴくりとした。
「……希望?」
「ああ、お前にはそれが必要だって思ったからな」
斬鉄は笑って、ズンズン近づいてくる。
目がまっすぐすぎて、ちょっとまぶしい。
「行くぞ、凪!希望を取り戻しに!」
「いや、でも、まだ目覚まし鳴ってないし──」
「目覚ましの前に起きるのもいいことだぞ!」
そう言って、
斬鉄は、俺の腕をがしっと掴んだ。
……うーん。逃げられないやつだ、これ。
「……わかったよ。行けばいいんでしょ、行けば」
立ち上がる。
足の裏が床に着いて、ひやりとした感触がする。 - 131◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 21:47:59
斬鉄は、俺の手を引いたまま、先を歩いていく。
「どこ行くの?」
「なんか“希望”がありそうなとこ!」
……めちゃくちゃ。
でも──その背中は、妙に頼もしく見えた。
俺は、斬鉄の後をのろのろとついていく。
静かな廊下に、俺たちの足音だけが響いていた。
光が、壁に反射して、淡くゆれていた。
まるで、水面を歩いてるみたいだなって、
少しだけ思った。
この先に“希望”があるかは、わかんないけど。
斬鉄と一緒なら、
まあ、探してみてもいいかな──
なんて。
そんなことを、ぼんやり考えながら。 - 141◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 22:00:06
ブルーロックの廊下は、いつもより静かだった。
──正確には、音がすべて、遠くなった気がする。
壁も床も、全部が白か黒か、
その間の灰色で、色なんてどこにもない。
「希望って、どこに落ちてるの?」
斬鉄に聞いてみたけど、
答えは当然、返ってこなかった。
「それがわかってたら、苦労しないだろ?」
そう言って、斬鉄は、
手近な扉をどんどん開けていく。
食堂、物資室、談話室。
俺はぼんやりと、その後ろをついていくだけ。
まるで、夢の中を歩いてるみたい。
「ねえ、斬鉄。こころって、落とすとどこ行くの?」
「机の下とか、けっこう怪しいと思う」
「……ロマンもへったくれもないね」
でも、言われた通りに机の下を覗いてみる。
………ホコリしかなかった。 - 151◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 22:08:52
「お風呂とかどうだ?癒し=希望って感じ、あるだろ?」
「……希望が溶けてたら嫌だけど」
俺たちは、無人の浴場に足を踏み入れた。
湯船は張られてなくて、鏡も曇ってない。
誰の気配も、残っていない。
でも、どこか、温かい気がした。
斬鉄がいるから、かな。
「なあ、凪。もしも希望って、すっごく小っちゃかったら、どうする?」
「見えないんじゃない?」
「でも、俺は見つけるぞ。ぜったいに!」
斬鉄の声は大きくて、まっすぐだった。
反響して、空の湯船に跳ね返る。
……その声が、少しだけ、色を持って聞こえた。
「ねえ、斬鉄。もう帰ってもよくない?」
「……帰りたいのか?」
「別に。疲れたわけじゃないけど……まあ、見つかんないし」
「じゃあ、俺が見つける。凪は帰ってもいいぞ!」 - 161◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 22:10:28
その言葉に、ふと足が止まった。
斬鉄は、こっちを向いていない。
ただひたすら、
どこかにある“何か”を探している。
「……なんで、そこまでするの?」
「だって、お前がなくしたものだろ?俺はそれを取り戻してやりたいんだ」
「希望って、そういうものだと思う。誰かが、誰かのために信じてるやつ!」
相変わらずまっすぐで。
バカみたいで、でも眩しくて。
俺が失くした“こころ”には、
こんな熱があった気がした。
……まだ、よくわからないけど。
斬鉄の背中が、少しだけ、色づいて見えた。
世界はまだ、モノクロのままだ。
でも、あの声が残した熱だけは、
確かにそこにあった。 - 171◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 22:29:14
斬鉄が、次の部屋を開けようとした、
そのときだった。
斬鉄のポケットから、ふわっと──
何かが、光った。
「……ん?」
斬鉄は、気づかずに前に進もうとする。
その背中に、俺は声をかけた。
「斬鉄。ポケット、光ってる」
「え?どれどれ……?」
でも、斬鉄が覗くよりも早く、
俺は、そっと手を伸ばした。
冷たい空気の中で、
その光はやさしく、きらきらと揺れていた。
指先で触れる。
……あたたかい。
ポケットの中にあったのは、
小さな、小さな、宝石だった。
透明で、輝いてて。
でも、形は歪で、不揃いで。 - 181◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 22:32:18
「……なに、これ」
目を凝らしても、色はわからない。
だって、世界はまだ、モノクロのままだ。
けれど、確かに感じた。
これは、きっと、あたたかくて──
やさしい光だった。
「斬鉄。これって……」
「……希望、じゃないか?」
斬鉄は、笑った。
何の迷いもなく。
まるで、最初からそこにあるって、
知ってたみたいに。 - 191◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 22:34:10
俺はその宝石を、胸に押し当ててみた。
ぎゅっ、と。
そうしたら、それはすっと溶けて、
俺の中に吸い込まれていった。
何も変わらない。
目に見える世界は、まだ白と黒のまま。
けど、胸の奥が、ぽかぽかしてる。
どこかで凍っていたものが、
やわらかくほぐれていく感じがした。
「……希望って、すぐそばにあったんだね」
ポケットの中。
何気ない時間。
誰かのそば。
そういう場所に、落とし物はあったりする。
気づけなかっただけで。 - 201◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 22:35:36
「な、言っただろ?絶対に見つけるって!」
斬鉄は、何も見返りを求めない顔で笑っていた。
ほんと、太陽みたいだ。
「……ありがと」
言ってから、ちょっと恥ずかしくなって、
ふいっ、と後ろを向いた。
でも、斬鉄はそれを聞いて、
誇らしげに「やったな、凪!」って叫んでた。
やっぱり、うるさいな。
でも──うるさいのも、悪くないかも。
心の中に、“あったかい”があるって、
こういうことなんだろうな。
そう思いながら、俺は斬鉄と並んで、
モノクロの廊下を歩いた。
でも、その足取りは、
たしかに少しだけ、軽くなっていた。
『希望:剣城斬鉄』 - 211◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 22:41:40
眠る前に、ふと思い立って、
俺はレオの部屋に行った。
ノックは面倒だから、そっと扉を開ける。
中は、ほんのり明かりが灯っていた。
レオはベッドに座って、本を読んでいた。
俺の姿を見ると、すぐに目を上げる。
「凪、どうしたんだ?」
「……うん、ちょっとだけ、話したくなって」
レオは本を閉じて、優しく笑った。
「何かあったのか?」
俺は、少しだけ照れながら言った。
「……斬鉄が、“希望”を見つけてくれたよ」
レオの目が、ふわっと細くなった。
「そっか……よかったな、凪」
その声が、心にすっと染み込んでいった。
ああ、伝えてよかった。
そう思いながら、
俺は静かに、その隣に腰を下ろした。 - 221◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 22:44:23
- 23二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 22:44:37
- 24二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 22:45:44
素敵なSS!
続きも楽しみ! - 251◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 23:02:53
>>24 ありがとう、とっても嬉しいよ!
『勇気:潔世一』
朝、目が覚めた。
まだ眠かったけど、昨日よりも少しだけ、
目覚めが良い気がする。
胸の奥がほんのり温かい。
斬鉄が見つけてくれた“希望”が、
まだ残ってる気がした。
「……ふぁー、ねむ……」
もう少しだけ寝てたいなって、
毛布にくるまった、そのとき。
バンッ!!
「凪ーーー!!!」
扉が勢いよく開いて、
騒がしいやつが飛び込んできた。
- 261◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 23:07:01
「……うるさ、何?」
「玲王から聞いた。次は“勇気”を探すんだろ?」
「あー……うん。そんな話もあったような」
「なら探しに行くぞ、“勇気”!」
「勝手に行ってきて……俺は寝てるから」
「ダメだ!!お前が落とした“こころ”だろ!自分で拾え!」
潔はベッドの端を掴んで、
ぐいぐい揺らしてきた。
「起きろって!」
「やだ……」
「ほら、行くぞ!ほら!!」
「いやだ……おやすみ……」
「早く行くぞー!!!」
「もう……さっさと帰れ、髪の毛むしるぞ」
「やめろよ!?俺まだ禿げたくないんだけど!?駄々こねてないで起きろってば!!!」
「……チッ……うるさいなーもう……」 - 271◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 23:12:29
やれやれ、と言いながら、
のそのそと身体を起こす。
潔は腕を組んで、その様子を見ていた。
顔は真剣だけど、どこか嬉しそうでもあった。
「……なんか、変わったな、お前」
「……うるさい」
「でも、まあ。よかった」
潔のまっすぐな言葉は、
時々まぶしすぎて、正面から見れない。
「で、“勇気”ってどこにあるの?潔のポケットとか?」
「入ってるわけないだろ!探すんだよ、手と足使って!」
「やだ、眠い」
「行くっつってんだろ、バカ!」
「あ?いまバカって言ったか?髪引っ張られたいのか?」
「やめろってば!!」 - 281◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 23:14:47
わちゃわちゃと、無意味なやりとりを続けながら、
でも、俺はちゃんと立ち上がっていた。
心の中の“希望”が、
次の“こころ”へ向かって、背中を押していた。
眠気が取れるのは、まだ先だろうけど。
潔のその声が、俺をまた前に進ませようとしてる。
──“勇気”か。
どこに落としてきたんだろう。
でもまあ、潔となら拾ってやってもいいかな。 - 291◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 23:39:13
ブルーロックの建物を出た瞬間、
ふわっ、と風が頬を撫でた。
「……外、出ていいの?」
「絵心さんに申請しといた。朝イチで通ったぞ」
「さすが、真面目」
潔は胸を張って、得意げに歩いていく。
俺はその後ろを、少し離れてついていった。
外は静かだった。
空も地面も、やっぱり白と黒と灰色しかない。
でも、風の音、草の揺れる音、
鳥の羽ばたく音──
全部が、なんとなく、賑やかに感じた。
「こっち、森の方に行ってみようぜ!」
潔が、ずんずん進む。
森の入り口は、思ったより暗かった。 - 301◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 23:41:26
「こんなとこに“勇気”あるの?」
「あるかもしれないだろ。怖い場所に必要なものじゃん?」
「じゃあ潔が先に行って。俺は後ろから見てる」
「なんでだよ!お前が探しに来てんだろ……!」
葉っぱをかき分けて進んでいくと、
急に視界がひらけた。
そこはブルーロックの裏手。
ぐるっと一周してきた感じだった。
「……なにもないじゃん」
「いや、上には何かあるかも!」
そう言って、潔は目の前の木に手をかけた。
「まさか……登るの?」
「見るだけ!鳥の巣とかあるかもしれないし!」
潔は器用に枝をつかみながら、
高いところへ登っていく。 - 311◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 23:42:34
俺は下で、ぼんやりと空を見ていた。
なんだか──
冒険、みたいだった。
ちょっとだけ、心が浮く感じ。
「潔、上から何か見えた?」
「うーん、鳥の巣はあるけど、中身は空っぽだなー」
「勇気は?」
「お前が落としたんだから、自分で探せよ!」
なんだそれ、って思いながらも──
俺はゆっくりと、一歩、木に手をかけた。 - 321◆DGCF6cUlCqNA25/07/19(土) 23:50:37
凄い中途半端でごめんだけど、今日は寝るね。
こころって奥が深いよね、書いてて楽しい。
それではまた明日、おやすみなさい。 - 33二次元好きの匿名さん25/07/19(土) 23:52:19
- 34二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 03:13:54
続き待ってるね
スレ主もゆっくり休んでね - 351◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 09:01:19
- 361◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 09:08:35
枝は細くて、
ところどころにひびが入っていた。
でも、握った感触はしっかりしてて、
上まで登れる気がした。
「うわ、凪!?そっちの木、けっこう高いぞ!?」
潔の声が聞こえる。
でも、やめようとは思わなかった。
眠気も、今だけはどっか行ってる。
「……うん、ちょっと登ってみたくなっただけ」
一歩。
また、一歩。
足元の枝が、パキッと鳴って、
思わず身をすくめる。
「……っ」
けど、落ちなかった。
まだ、登れる。
風が枝を揺らすたびに、
バランスが崩れそうになる。
手がすべって、足を踏み外しそうになる。 - 371◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 09:10:47
だけど──
「……まだ、いける」
自分の声が、少しだけ強くなった気がした。
そして、登りきった。
その瞬間、視界がひらけた。
ブルーロックの建物が見下ろせて、
森が広がってて、空は、広くて。
全部、まだモノクロのままだ。
でも、心の中で──
なにか、音がした。
ひとつ、小さく、コツンと。
風が吹いて、バランスを崩しそうになった。
ふと、下を見た。
───高い。 - 381◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 09:12:35
「……あー……登るのはよかったけど」
足がすくむ。
手が汗ばんで、うまく動かない。
「降りんの、こわ……」
それでも。
「……でも、降りなきゃ。宝石、見つけても意味ないし」
ゆっくりと。
ゆっくりと。
木の幹に手を回して、慎重に、一歩ずつ。
風が吹いても、葉が落ちても、
俺は、止まらなかった。
そして、ようやく地面に足がついたとき──
「……あった」
足元に、光るものが落ちていた。
小さな、小さな、宝石。
透明で、形も歪で。
でも──重みがあった。 - 391◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 09:14:51
手に取ってみる。
その重さが、胸に伝わって、
奥のほうまで、じんわり染みていった。
「勇気って……小さな一歩なんだね」
ほんの少しだけ、足を前に出すこと。
ほんの少しだけ、知らない場所に手を伸ばすこと。
それだけのことが、思った以上に、心を温める。
「凪!お前、あんな高いとこまで登るとか凄いじゃん!!」
走ってくる潔の声が、うるさくて、
でも、ちょっと嬉しかった。
俺は、宝石をぎゅっと握って、空を見上げた。
まだ、色は戻らない。
でも、俺の中には、またひとつ──
“こころ”が増えた気がした。
『勇気:潔世一』 - 401◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 09:19:32
夜になって、空気が少しだけ冷たくなったころ。
また俺は、レオの部屋の前に立っていた。
今度は、ノックをしてみた。
軽く、こんこんと。
「どうぞー」
声が返ってきたので、そっとドアを開ける。
レオはベッドに座っていて、毛布にくるまっていた。
目が合うと、優しく笑う。
「……また来たのか?」
「うん。なんか、伝えときたくて」
少しだけ黙って、でもちゃんと目を見て言う。
「潔と、“勇気”を見つけてきたよ」
レオの顔が、ぱあっと明るくなる。
「そっか……!よかったな、凪!」
その声を聞いて、
胸の中がまた少しだけ温かくなった。
ただ、それだけで、今日はもう十分だった。 - 411◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 09:24:03
- 42二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 09:43:29
楽しさをちぎりと
- 43二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 10:23:58
- 441◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 11:58:21
>>43 こちらこそ素敵なリクエストをありがとう!
『楽しさ:千切豹馬』
目が覚めた。
昨日より、少しだけまぶしい朝だった。
なんとなく、心が穏やかで。
呼吸が楽で、胸の奥がふわっとしてて。
「……んー……」
身体を伸ばして、またベッドに沈む。
ここ何日か、変な夢ばっかり見てた気がするけど、
今日は、なんかいい感じ。
「……もうちょっと寝よ……」
毛布にくるまって、目を閉じる。
ぬくもりが心地いい。
もうちょっとだけ、このままでいたい。
──ドンッ!
「凪、おはよー!!!」
いきなりドアが開いて、
赤い髪の暴風が突っ込んできた。
- 451◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 11:59:59
「……千切……早い……」
「玲王から聞いたぜ!次は“楽しさ”を探すんだって?」
「ん……そんな話、あったような」
「だったら、俺も付き合ってやる!」
「え、もう行くの……?」
「当然!時間がもったいないだろ?」
俺は枕に顔を埋めて、
もう一度寝ようとした。
「起きろー。……おい、凪!」
「やだ、ねむい……」
「いいから、外に出るぞ!」
「引っ張んないでよ……」
千切がベッドの端に手をかけて、
ぐいっと俺の毛布を引っぱる。 - 461◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 12:02:09
それでも、俺が動かないのを見て──
「なら、こうだ!」
──ドサッ!!
「ぐえっ……!?」
千切が勢いよく、ベッドにダイブしてきた。
毛布の中、急に体重が増えて、
息が詰まりそうになる。
「ちょ、重い……むり……しぬ……」
「起きるまで降りないからな!」
「いやマジで死ぬから降りて……」
千切の笑い声が、近くで響く。
くすぐったい声だった。
「……もう……わかったよ……」
なんとか千切を引き剥がしながら、
ゆっくりと身体を起こす。 - 471◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 12:03:59
「へへっ、やったな!凪、起床成功!」
「……朝からテンション高すぎ」
千切の笑顔は、まるで太陽だった。
どこか、斬鉄にも似てたけど、
もっと自由で、弾けてて。
──“楽しさ”って、こういうことなんだろうな。
まだ世界はモノクロだけど、
千切が笑うと、その周りだけ、
ふわっと明るくなる気がした。
「さーて、楽しさ探しに出発だ!」
「……俺、帰りたい……」
「ダメ!」
千切に引っ張られて、
また今日も、俺は歩き出すことになった。
でも、足取りはいつもより、少しだけ軽かった。 - 481◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 12:11:21
外に出ると、風が心地よかった。
「絵心さんにちゃんと申請しといた。俺、偉くね?」
「……うん。すごいね」
「もっとちゃんと褒めろよ~!」
「えらいえらい……」
千切はそれで、満足そうに笑った。
ブルーロックを抜けて、舗装された道を下っていく。
見慣れたはずの坂道も、
誰かと歩くと、少しだけ違って見えた。
「……なあ、凪」
「“楽しさ”って、落とすことあんのかな」
「あるんじゃない?知らないうちに落としてたんだよ、きっと」
「うわ……なんかそれ、寂しいな」
「でも今、探してるから。セーフじゃない?」
「そっか。そうだな!」
千切は納得したみたいに笑って、前を向いた。 - 491◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 12:12:54
歩く速度が少し、速くなったから、
俺も歩幅を合わせる。
誰かと歩いてるだけで、
不思議と、心が軽くなる気がした。
何気ない話。
くだらない冗談。
「この枝、凪の寝癖っぽくね?」とか。
「その石、顔に見えるんだけど!」とか。
そういうのが、ずっと続いてもいいかなって、
いま、ふと思った。
“楽しさ”って、
意外と、道端に落ちてるのかもしれない。
なんとなく、そんな気がした。 - 501◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 12:25:07
「なあ、凪」
下り坂の途中で、千切が急に立ち止まった。
「勝負しようぜ。どっちが先にブルーロックまで戻れるか!」
「……え、さっき下ったのに?」
「うん、だから今度は登る!」
「いや、意味わかんないんだけど」
「いいから行くぞー!!」
そう言って、千切は風みたいに駆け出した。
赤い髪が、朝の光にきらきらと揺れていた。
「……はあ……しょうがないな」
俺も、のそのそと足を動かす。
最初は、ゆっくり。
足取りも重かった。
でも──
「ぐずぐずしてたら置いてくぞ!!」
千切の声が、風に混じって響いた。 - 511◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 12:27:52
「……うるさいな」
走り出す。
少しずつ、少しずつ、加速していく。
足が地面を蹴るたび、
心臓の音が強くなっていく。
汗が額をつたって。
息が切れて。
それでも──もっと、早く。
「っ、はぁ……!」
風が、顔を打つ。
足が、痺れる。
でも、なぜか気持ちよかった。
前を走る千切の背中が、少しずつ近づいてきた。
「……あとちょっと……!」
俺は、腕を振る。
足を使う。
全身で、追いつこうとする。 - 521◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 12:29:39
あと数歩で──
「ゴールっ!!」
千切が最後に、ぐっと加速して、
俺の手が届くより少しだけ早く、
ゴールラインに飛び込んだ。
「俺の勝ちーっ!!」
両手を広げて笑う千切は、太陽みたいだった。
汗だくで、息を切らして、それでも笑ってる。
「……ずるい。最後、加速したでしょ」
「勝負ってそういうもんだから!」
笑い声が空に響いた、そのとき。
「……あ」
足元から、小さな音がした。
カラン。
地面に落ちていたのは、
小さな、小さな宝石だった。
丸くて、どこかあたたかい。 - 531◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 12:31:19
俺はしゃがんで、それをそっと拾った。
手のひらに乗せると、
じんわり温もりが伝わってくる。
色はまだ、俺には見えないけど──
これが、“楽しさ”なんだって思った。
「……楽しさって、誰かと一緒に見つけるものなんだね」
「なにそれ、名言?」
「ほんとうるさい」
千切の笑い声が、風に乗って広がっていく。
俺も少しだけ、息を吐いて、空を見上げた。
モノクロの世界に、ふと──
千切の笑顔だけが、色を持って見えた気がした。
『楽しさ:千切豹馬』 - 541◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 12:41:26
俺は、今日もレオの部屋の前に立ってた。
ノックをするのはもう、慣れてきた。
「どうぞ」
中から返ってくる声も、いつも通り優しかった。
扉を開けると、
今日もレオはベッドの上で、毛布に包まっていた。
「また来たんだ」
「うん。……千切と“楽しさ”を見つけてきた」
レオの目が、ふっと細まる。
優しく笑って、静かに言った。
「千切となら、きっと見つけられるって思ってた」
俺は、見えない宝石の感触を思い出しながら、
小さくうなずいた。
報告を終えて、俺はそっと壁際に腰を下ろした。
何も話さなくても、十分だった。
ただ、“誰かに伝えたい”と思ったその気持ちが、
今日の“こころ”だった気がした。 - 551◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 12:43:43
『悲しみ』『喜び』『怒り』『恐怖』
『期待』『憂い』『退屈』『興味』
『苦しみ』『愛情』『後悔』
───そして、『世界のいろ』
次は、どの『こころ』を『誰と』探しに行く?
見つけた『こころ』
■希望:剣城斬鉄 ■勇気:潔世一
■楽しさ:千切豹馬
- 56二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 12:44:05
怒りを馬狼と
- 571◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 18:43:05
『怒り:馬狼照英』
今日も、ちゃんと目が覚めた。
胸の奥がほんのりと、
やさしい温かさで満たされている。
“楽しさ”“勇気”“希望”──
なんとなく、心の中に積もってきてる感じがした。
悪くない。
そんなふうに思える朝だった。
「……ふぁ……」
布団の中はまだ、ぬくもりが残っていて、
目を開けていても、眠気は抜けない。
「……また、誰か来るのかな……」
なんとなく、そんな気がした。
昨日もその前も、毎日誰かがやってくる。
“こころ”を探すために。
今日は、誰だろう──。
そんなことを思いながら、まぶたを閉じた。
静かで、心地よい、うたた寝の時間。 - 581◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 18:45:40
扉が乱暴に開く音で、眠気が吹き飛んだ。
「クサオ!てめぇ、まだ寝てんのかコラァ!!」
……この声、間違いなく。
「……王様?」
「おう。アイツに頼まれた。義理はねえが、来てやったぞ」
「……起きてたんだけどな」
「言い訳すんな!」
次の瞬間、ベッドの端がぐいっと揺れる。
「ちょっ、えっ、ちょ、待っ──」
「ほら、起きろって言ってんだろが!」
王様の腕力に逆らえるわけもなく、
俺は布団ごと、床に引きずり落とされた。
「……ぐえ……」
「なにが“起きてた”だ。お前はいつもダラすぎなんだよ!」
「うるさいなぁ……俺の朝は静かなんだよ」
「静かすぎて腐りそうだから言ってんだ!」 - 591◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 18:48:19
怒鳴り声が部屋の壁に響く。
それでも、なぜか不思議と嫌な感じはしなかった。
「……で、今日は何を探すの?」
「“怒り”だ。アイツがそう言ってた」
「ふーん。王様が怒るのはいつも通りじゃん」
「バカ言え!俺の怒りは筋の通った怒りだ!義憤だ!!」
「……義憤ねえ」
しぶしぶ立ち上がる。
もう寝る気も、布団に戻る気も起きなかった。
王様は腕を組んで、ドアの前で待っていた。
その背中がやけにでかく見えたのは──
きっと、気のせいだろう。
「……じゃあ、行こっか」
「当然だ!」
大声で一喝されながら、
俺はのそのそと、王様についていった。
“怒り”──苦手な感情だ。
でも、王様となら、
まあ……見つけてやってもいいかもしれない。 - 601◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 20:28:54
ブルーロックの中を、
こうやって歩くのは、何日ぶりだろう。
最近はずっと、外に出てばかりだった気がする。
「まずは施設内を見てまわるぞ」
「怒りって、どこに落ちてるの?」
「この腐れ施設の中には、怒りのタネなんざ腐るほど落ちてんだよ!」
なんだそれ、と内心で思いながらも、
俺は黙ってついていった。
廊下を抜け、談話室の前を通る。
その扉が、少しだけ開いていた。
「誰だよ、ドア開けっ放しにしたやつは!」
いきなり、王様が怒鳴った。
ドアを乱暴に閉めながら、眉間にしわを寄せる。
「閉めたらいいだけじゃん」
「俺は“だらしねえ”って話をしてんだよ!」
「……そういうもん?」 - 611◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 20:30:50
次はランドリールーム。
中を覗くと、洗濯物が乾燥機の上に散乱していた。
「うおおおおおおい!!!誰だこんなことしたクソガキどもは!!」
「うるさ……」
「脱いだまま放置してんじゃねぇ!!畳むまでが洗濯だろうが!!」
王様は乱雑な衣類をひとつずつ拾い、
ぶつぶつ言いながら畳みはじめた。
「……やさしいね」
「うるせえ!!俺は怒ってんだよ!」
さらに歩く。
サッカーコート。
今日は誰も使っていないのに、
ボールが4つも転がっていた。
「なんで片付けねぇんだよ!!!クソが!!!!」
「勝手に定位置に片付いてくれればいいのにね」
「んなハイテク技術ここにはねえよ!!」
「……ブルーロックマンいるじゃん」 - 621◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 20:32:20
王様は怒りながらも、
ひとつひとつ丁寧にしまっていく。
その背中はまっすぐで、熱くて、
どこか──あったかかった。
「ねえ、王様。怒ってばっかで疲れない?」
「当たり前だろうが。怒るってのはエネルギーが要るんだよ!」
「じゃあ、なんで怒るの?」
王様は一瞬、立ち止まった。
少しだけ息を吐いて、俺を振り返る。
「……怒るってのはよ、“正したい”ってことだ。それがテメエらでも、自分でも……許せねぇことがあるなら、怒るしかねぇだろ」
その目は、まっすぐだった。
「……ふーん」
俺はその言葉を、胸のどこかにしまい込んだ。
わかるような、まだわからないような。
でも、少しだけ──
その“怒り”が、優しいものに見えた気がした。 - 631◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 20:47:22
歩きながら、ぼんやり考えていた。
“怒り”って、なんなんだろう。
王様は、いろんなことで怒る。
ドアが開いてても、
洗濯物が散らかってても、
ボールが片付いてなくても。
全部、誰かのために、
誰かの大切なものを守るために、怒ってる。
「……俺は、どうなんだろう」
つぶやいて、自分の胸に問いかける。
「……俺……何に怒ったことあったかな」
思いつかないようで、思い出したことがあった。
──あの日。
レオと別れた日。
「もっと強くなりたい」
そう言って、俺はレオから離れた。
本当はわかってた。
あれがどれだけ、レオを傷つけたか。 - 641◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 20:49:54
あの日、あの瞬間──
俺は、レオを、突き放した。
「……あれは、俺が、弱かったからだ」
強くなりたくて、でも怖くて。
それでも、前に進みたくて。
自分の弱さが、悔しくて。
「……もやもやする」
胸の奥が、ぐるぐるして、落ち着かなくて。
何かがうまく、言葉にできない。
「ねえ、王様」
「んだよ」
「怒りって、この“もやもや”のこと?」
王様は一瞬だけ、こちらを見て──
「……知らねえよ。テメェの胸に聞け」
ぶっきらぼうな声だった。
でも、その言葉が、変に心に刺さった。 - 651◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 20:51:21
俺は立ち止まって、
そっと胸に手を当ててみた。
熱がある。
心臓が、動いてる。
そこに“何か”がある気がした。
──カラン。
背後で、小さな音がした。
振り返ると、足元に何かが落ちていた。
宝石だった。
小さくて、ボロボロで。
歪で、傷だらけで。
でも、それはものすごく──重たかった。 - 661◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 20:54:06
手に取ると、掌にずしりと響いた。
心の奥の、ずっと奥にまで、届いてくる。
「……怒りって、自分を見つめ直すこと。そして、相手を思いやることなんだね」
王様は何も言わなかったけど、
代わりに前を向いて歩き出した。
俺は、宝石を胸に抱きしめて、
後ろからついていく。
ボロボロでも、重くても。
これは俺の“こころ”なんだと、はっきり思えた。
そして今、レオと話せることが、
何よりも嬉しかった。
“怒り”は、過去を悔やむことじゃない。
向き合って、抱えて、生きることだ。
そんなふうに、俺は思った。
『怒り:馬狼照英』 - 671◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 21:02:02
夜、空気が冷たくなってきたころ。
俺はまた、レオの部屋の前に立っていた。
コン、コン──と小さくノックする。
「……どうぞ」
中から聞こえる声も、だんだん馴染んできた。
扉を開けると、
レオは机の前で、何か書き物をしていた。
「今日も来てくれたんだな」
「うん。……“怒り”を見つけてきた」
レオは、少しだけ驚いたように目を見開いたあと、
ふっと、優しく笑った。
「王様と、見つけてきたのか?」
「うん。……ボロボロだったけど、重たくて、本物だった」
レオは、何も言わずに、ただ頷いた。
それだけで、少しだけ救われた気がした。
俺は、静かにその隣に腰を下ろした。
言葉じゃなくて、ここにいることで、
ちゃんと伝わる──そんな気がした夜だった。 - 681◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 21:05:08
『悲しみ』『喜び』『恐怖』『期待』
『憂い』『退屈』『興味』『苦しみ』
『愛情』『後悔』 ───そして、『世界のいろ』
次は、どの『こころ』を『誰と』探しに行く?
見つけた『こころ』
■希望:剣城斬鉄 ■勇気:潔世一
■楽しさ:千切豹馬 ■怒り:馬狼照英
- 69二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 21:06:01
- 701◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 21:38:13
>>69 こちらこそ読んでくれてありがとね。
『退屈:絵心甚八』
朝、また目が覚めた。
胸の奥に、重たいものが残っている。
でも、苦しくはなかった。
“怒り”って、たぶん、
そういうものなんだと思う。
受け止めたら、少しだけ強くなれる感じがした。
「……ふぁ……」
あくびをひとつ。
毛布の中はまだ温かくて、
外の空気が少し冷たく感じる。
「……今日も誰か来るのかな」
なんとなく、そんな気がして、目を閉じた。
最近は、それが日課みたいになっている。
うたた寝の時間は、静かで、好きだった。
- 711◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 21:40:17
──『凪誠士郎。俺の部屋まで来い』
唐突に、スピーカーから声がした。
「……ん?」
聞き覚えのある声。
冷たくて、少しだけ機械的な響き。
「聞こえなかったことにしようかな……俺、何もしてないし」
布団の中に潜り込もうとした、そのとき。
──『凪誠士郎。聞こえているなら、早く来い。3分以内だ』
「……うわ……」
でかいため息が、自然と口から漏れた。
「なんで朝から絵心のとこ行かないといけないの……」
ごねてみたところで、無駄だとわかってる。
のそのそと起き上がって、布団を適当に蹴飛ばす。 - 721◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 21:41:23
「やれやれ……眠い……めんどい……」
ぼやきながら、部屋を出た。
廊下は静かだった。
他の誰ともすれ違わない、早朝の空気。
絵心の部屋は、いつも遠く感じる。
そこに行くたび、なにかを試される気がして──
ちょっとだけ、背筋が伸びる。
「“退屈”か……」
なんとなく呟いてみる。
俺にとっては、聞き慣れた言葉。
でも、あいつにとっては、どうなんだろう。
それを、確かめる時間が来たのかもしれない。 - 731◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 21:51:21
絵心の部屋の前に立ち、ノックをひとつ。
「……凪誠士郎です」
返事はない。
でも、ドアは自動で開いた。
中に入ると、すぐに圧倒された。
モニターがずらりと並んでいて、
その光が、静かな空間をやけに明るくしていた。
床や机の上には、
書類やファイルが、山のように積まれている。
でも、それらはまるで、
整然と並べられているようにも見えた。
絵心は、その山の向こう側──
モニターに囲まれた席で、
タイピングを止めずに言った。
「退屈、探してみろ」
「……は?」
「そこらに転がってるだろう」
意味がわからなかった。 - 741◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 21:54:21
俺は仕方なく、
一番近くのモニターの前に立った。
映像がいくつも切り替わっている。
選手たちが走り、パスをつなぎ、ゴールを決め、
喜び、悔しがり、肩を叩き合っている。
何十本もの映像が、同時に流れている。
──でも、それを見ている俺は、
まるで何も感じていなかった。
ただ、ぼんやりと眺めるだけ。
「……退屈、って、こういうこと?」
つぶやいても、絵心は何も答えない。
モニターの光だけが、
顔の影をぼんやり揺らしている。
「……ねえ、絵心………さん」
呼びかけると、絵心の手がタイピングを止めた。
「アンタ、退屈したことある?」 - 751◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 21:56:01
少しの沈黙。
モニターの中では、
ゴールを決めた誰かが、両手を挙げていた。
「……さあな」
絵心は、少しだけ目を細めて言った。
「少なくとも、今は──それなりに楽しい」
それだけ言って、またキーボードを叩き始めた。
俺はそれを横目で見ながら、
モニターに視線を戻す。
次々に切り替わる映像は、まるで夢みたいだった。
でも、俺はまだ──
そこに入り込めていない気がした。
“退屈”というのは、
何かが足りないわけじゃない。
全部あるのに、心が動かない感覚。
そんな気がした。 - 761◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 22:09:38
モニターを眺めていると、
不意に、そこに映る自分を見つけた。
走っていた。
レオと、千切と、潔と、みんなと。
パスをもらい、ドリブルで抜け、ゴールを狙う。
仲間の声。
観客の歓声。
その中で、映像の中の俺は、
確かに“生きて”いた。
ボールを追い、少しだけ目を輝かせて、
ゴールの先を見ていた。
「……なんでだろう」
胸が、ずきんと痛んだ。
映像の中の自分は、今の俺よりずっと──
満足そうだった。
“あそこ”にいた俺には、走れる場所があった。
戦える仲間がいて、
信じられる誰かがいた。
それなのに。 - 771◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 22:13:15
「……俺、今、なにもしてないな」
映像を見つめながら、静かにそう思った。
ただ流れる日々。
誰かに連れられて、
ついていって、
こころを拾って──
それも、悪くなかった。
でも──何も生み出していない自分に、
急に気づいてしまった。
そのときだった。
──カラン。
書類の山の上から、何かが滑り落ちた。
目をやると、床に小さな何かが転がっていた。
俺はしゃがみ込み、それを拾い上げる。
宝石だった。
小さくて、軽くて、
手のひらの中で、ころころと転がる。 - 781◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 22:15:50
モノクロの世界では、色はわからない。
それでも、“輝いている”とわかる光があった。
それは、遠くからしか気づけなかったもの。
ぼんやり眺めるだけじゃ、見えなかったもの。
「……退屈って、離れた場所から見つめることなんだね」
自分のことなのに、どこか他人事で。
心がついてこなくて、それに気づくのが遅くなる。
でも、それを自覚できたとき──
少しだけ、何かが動き出す気がする。
そっと宝石を握る。
そのぬくもりは、昨日よりもはっきりしていた。
「退屈を自覚できるってことは、きっと……その先があるってことだよね」
誰に言うでもなくつぶやくと、
モニターの向こう側で、
誰かがまた、ボールを追いかけていた。
俺もまた、走りたくなった。
少しだけ。
ほんの、少しだけ。
『退屈:絵心甚八』 - 791◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 22:34:52
今日もまた、自然とレオの部屋の前に立っていた。
ノックをふたつ。
慣れた手つきで、静かに。
「どうぞ」
扉を開けると、レオはベッドに横になっていた。
毛布をかけたまま、俺に笑いかける。
「おかえり。今日は……誰と?」
「絵心。……“退屈”を見つけてきた」
「……絵心って、あの絵心?」
「うん。モニターばっか見てた」
レオは、クスッと笑った。
「らしいな。でも、凪がちゃんと拾ってきたなら……それでいい」
「……うん。ちょっとだけ、自分のことがわかった気がした」
レオは頷いて、俺の言葉を受け止めてくれた。
それが、今日一日を締めくくるのに、
ちょうどいい温度だった。 - 801◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 22:39:00
『悲しみ』『喜び』『恐怖』『期待』
『憂い』『興味』『苦しみ』『愛情』
『後悔』 ───そして、『世界のいろ』
次は、どの『こころ』を『誰と』探しに行く?
見つけた『こころ』
■希望:剣城斬鉄 ■勇気:潔世一
■楽しさ:千切豹馬 ■怒り:馬狼照英
■退屈:絵心甚八
- 81二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 22:42:17
- 82二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 22:44:15
馬狼のSSありがとう!
気持ちが宝石になって見つかるの素敵だわ
そして毎回最後に玲王に会いに行く凪かわいい - 83二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 22:52:04
スレ主のSS好き
言葉の使い方とか心情の変化の描写が細かくて。
読んだらこっちも心が動く感じがする!
これからも楽しみにしてます! - 841◆DGCF6cUlCqNA25/07/20(日) 23:12:30
- 85二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 02:59:09
おやすみなさい〜
楽しみに待ってるよ - 861◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 09:20:07
- 871◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 09:22:36
そう思いながらも──
「……ちょっとだけ、うたた寝しよ」
目を閉じた。
習慣ってやつは、なかなか変えられない。
でも、それもまあ、俺らしいと思った。
短いまどろみのあと、
ゆっくりと立ち上がる。
ドアを開けて、廊下に出た。
──そのとき、ちょうど向こうから、
誰かが歩いてきた。
「……あ」
「おはようさん、凪くん」
「……氷織りん」
ちょっと意外な顔ぶれだった。
氷織羊。
あまり関わりはないけど、
名前も顔も、ちゃんと知ってる。 - 881◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 09:24:40
「まさか、会いに来てくれはったん?」
「ううん、偶然。でも……ちょうどいいかも」
「なんや、急に用事でも?」
「氷織りん、“期待”って、落としたことある?」
氷織りんの目が、ほんの一瞬だけ揺れた。
でもすぐに、やわらかな笑顔に戻る。
「……あるで。むっちゃ、ある」
その声は、やさしくて。
でも、少しだけ、寂しそうだった。
「じゃあ、一緒に探そっか。“期待”」
「ふふ。お誘い、光栄やわ」
氷織りんはふわっと笑って、
俺の横に並んで歩き出した。
静かな廊下を、足音がゆっくりと進んでいく。
“期待”―――。
それはどこかに落とした、誰かの願いの欠片。
きっと今の俺にも、どこかにある気がした。 - 891◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 09:36:03
どこに行くか、
特に決めていたわけじゃなかった。
けれど、なんとなく二人で歩いて、
ふらりと辿り着いたのは、静かな食堂だった。
早朝。
誰もいない室内に、
自販機の音だけが、静かに響いている。
「何、飲む?」
「そうやなぁ……ミルクティーでも」
俺はレモンティーを取って、
氷織りんの隣に、腰を下ろした。
「……あんまり、話したことなかったよね。氷織りんとは」
「せやね。でも、なんやろ。ずっと昔から知ってる気がするわ」
「へえ、なんで?」
「凪くんの空気……似てるんよ、昔の自分と」
氷織りんはそう言って、缶を開けた。
優しい音が、空気を切り裂いた。 - 901◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 09:38:29
「昔の……?」
「うん。なんも感じへんようにしてた。期待されるのも、裏切るのも、めんどくさいから」
ふっと笑う横顔が、少しだけ陰って見えた。
「ほんとは、誰かに見ててほしかってんけどな」
その言葉が、胸にずしんと響いた。
「見ててほしいけど、期待されるのは怖い──そんな感じ?」
「せやな。期待って、希望とよう似てるけど、ちゃうんよ。希望は自分のためにあるけど、期待は誰かのためにあると思う」
「……なるほど」
「それが重たいときもある。でもな──誰かに期待されてるって、ほんまはうれしいことやねん」
氷織りんは、小さく笑った。
その笑みは、少しだけ揺れていた。
俺は缶を持ったまま、静かに問いかける。
「……氷織りんは、今は自分に期待してる?」 - 911◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 09:39:52
少しの沈黙。
「……してる。今は、ほんのちょっとだけな」
それは、強がりじゃなかった。
本当に、“ちょっとだけ”でも、
自分に賭けてる声だった。
「……じゃあ、俺もしてみようかな。自分に」
「ええね。意外と向いてるかもしれへんで、そういうの」
二人の缶が、カツンと音を立てて軽くぶつかる。
それだけのことが、少しだけ心を温かくした。
“期待”―――。
それは、誰かの目に映る“可能性”。
誰かの声で、気づけることもある。
そういうこころが、確かにあるんだと感じていた。 - 92二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 09:51:48
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- 931◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 10:01:38
「……期待、されてるんだと思う」
ぽつりと、口に出してみた。
「日本のサッカーとか、未来とか、俺のプレーとか。……いろんなものから」
氷織りんは、静かに耳を傾けていた。
何も言わずに、缶を両手で包むように持って。
「でも、それって……正直、重たい。苦しくなる」
「……うん」
「上手くやらなきゃいけない気がして、自分のままじゃいけない気がして……投げ出したくなるとき、ある」
言葉にすると、
ほんの少しだけ、心が軽くなる気がした。
「でも」
俺は、自分の指先を見つめる。
「全部を背負う必要は、ないのかもしれない」
「うん」
「全部を抱えたら、潰れちゃうから。だから……」
視線を上げて、氷織りんを見る。 - 941◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 10:03:25
「手のひらですくえる分だけ、拾えばいいんだと思う」
「ほんの少しだけでも、それを自分のものにできたら──たぶん、自分に期待できる気がする」
氷織りんの目が、やさしく細まった。
「……凪くん、ええこと言うやん」
「……そう?」
「せやけど、ほんまそれやと思うで。期待って、全部を受け止めるもんやなくて……自分が『ええな』って思えたぶんだけ、もらったらええんよ」
氷織りんは、缶の中を覗き込んだ。
「……あ」
その声につられて、
俺も、自分の缶の中を覗き込んだ。
──そこには、ころころと転がる、
小さな宝石がたくさんあった。
色はわからない。
でも、はっきり“そこにある”って思える、
小さな輝きだった。
「……ちいさい」
指でつまめそうなくらい。
喉に引っかからない、苦しくないくらいの大きさ。 - 951◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 10:07:12
「すっと、飲み干せそうなくらいやね」
氷織りんも、そっと笑った。
「それくらいが、ちょうどええんやろな」
俺は、缶を傾けて、静かに飲み干した。
宝石は、するりと喉をすべって、
気づけば胸の奥で、ぽかぽかと温かく灯っていた。
「……期待って、誰かから届いたものを、自分で拾い上げるものなんだね」
「せやな。無理せんでも、拾えるときに、拾えばええ」
静かな食堂に、
二人の間だけに流れる、あたたかな時間。
“期待”というこころは、
こうして手に取ったとき、
ようやく意味を持つものなんだと思った。
誰かに押しつけられるものじゃなくて、
自分で、選ぶもの。
それを教えてくれた氷織りんの隣で、
俺はようやく、自分を少しだけ、
ほんの少しだけ、好きになれた気がした。
『期待:氷織羊』 - 961◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 10:12:23
夜の廊下を歩く足取りが、
いつもより少しだけ軽い気がした。
今日はノックしないで、そっと扉を開けた。
「……ただいま」
レオはベッドの上で読書をしていた。
顔を上げて、驚いたように笑う。
「おかえり、凪。今日は?」
「氷織りんと、“期待”を見つけてきた」
「……そっか」
そう言って微笑むレオの顔を、
今日はいつもより、まっすぐ見れた気がした。
「……なんか、ちょっとだけ自分のこと、好きになれた気がする」
レオの笑顔が、ふっとやわらかくなる。
俺は、それがとても嬉しかった。
だから、今日はいつもより胸を張って、
レオの隣に座ってみた。 - 971◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 10:13:57
『悲しみ』『喜び』『恐怖』『憂い』
『興味』『苦しみ』『愛情』『後悔』
───そして、『世界のいろ』
次は、どの『こころ』を『誰と』探しに行く?
見つけた『こころ』
■希望:剣城斬鉄 ■勇気:潔世一
■楽しさ:千切豹馬 ■怒り:馬狼照英
■退屈:絵心甚八 ■期待:氷織羊
- 98二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 10:14:08
『苦しみ』を二子と
- 99二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 10:49:24
ひおりんと凪あんまり関わりないのに書けるのすごいね
缶の中に宝石があったとこ好き
凪がノックせずに「ただいま」って言いながら玲王の部屋入るとこも - 1001◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 13:02:24
>>99 ありがとう!まずはお互いを知るところからかなーと思って会話を多めにしてみたよ。色々褒めて貰えて嬉しい!
『苦しみ:二子一揮』
目が覚めた。
ほんの少し、呼吸が深くなった気がした。
ここ最近、毎日“こころ”を拾ってる。
それは重たかったり、やわらかかったり、
きらきらしていたり──
でも全部、“自分の中にあるもの”だと、
ちゃんと思えるようになってきた。
「……今日は、誰が来るかな」
ぽつりとつぶやきながら、ベッドを出る。
昨日よりも早い。
いつの間にか“待つ前に動く”ことが、
少しずつ、自然になっていた。
- 1011◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 13:03:57
ドアを開けて、廊下へ。
とくに目的もなく、ぶらぶらと歩く。
まだ静かなブルーロックの建物。
誰ともすれ違わない、冷えた空気の中。
角を曲がったところで、
ふと、誰かとぶつかりそうになった。
「──っと、すみません、凪くん」
「……あ。二子」
優しい声と、いつもと変わらない落ち着いた顔。
「こんな朝から、めずらしいですね。お散歩ですか?」
「うーん……まあ、なんとなく」
二子は、ふっと笑って、首を傾げる。
「……“苦しみ”、探しに行くんでしょう?」
その言葉に、ぴたりと足が止まった。 - 1021◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 13:05:54
「……なんで、わかるの?」
「玲王くんから聞きました。次は“苦しみ”だって」
「……そっか。玲王は、なんでも話すなあ」
「ふふ、心配してるんですよ、きっと」
「……じゃあ、二子も来る?」
「はい。……僕も、それには、少しだけ心当たりがありますので」
俺は、前髪からのぞく二子の瞳の奥に、
何か映るものを見た。
そこには、
笑っていても消えない何かがあった。
“苦しみ”―――。
それを、知ってる人の目だと思った。 - 1031◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 13:18:01
「外、行きましょうか。大丈夫、ちゃんと申請しましたから」
そう言って二子は、折り畳み傘を開いた。
俺は軽く頷いて、その横に立つ。
外は、雨が降っていた。
音もなく降り続ける、
しとしととした、静かな雨だった。
「……なんか、めんどくさいな。濡れるし、足元ぬかるむし」
「それでも、見つかるといいですね、“こころ”」
そう言って二子は、傘を少し傾ける。
俺の肩にまで、ちゃんと傘が届いた。
二人で歩く。
ブルーロックの建物を出て、
濡れた地面を踏みながら、ただ、てくてくと。
葉っぱの上に、ぽたりと水滴が落ちる。
遠くの木が、揺れている。
濡れた地面には、
小さな足跡がいくつも残っていった。 - 1041◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 13:19:20
「……ねえ、凪くん」
「ん?」
「“苦しみ”って、なんだと思いますか?」
「……重たいもの?」
「……それって、怖いもの、ですか?」
「……うーん。よくわかんない。けど……うまく息ができなくなる感じかな」
二子は何も言わずに、傘の中で頷いた。
「それって、たぶん、“ひとりぼっち”の時かも」
ぽつりと、話を続ける。
「……一人でいるときに、どうしても考えちゃう。ぐるぐるって、どこにも逃げられないみたいに」
「……」
「それが、“苦しみ”かな。俺の中の」
二子は、また頷いた。
でも、それ以上、何も言わなかった。
ただ、傘を少しだけ俺の方へ傾けて、
二人分の雨を、ちゃんと受け止めてくれていた。 - 1051◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 13:35:26
「……いまは、苦しいですか?」
並んで歩く中で、二子がふいに問いかけた。
俺は、空を見上げる。
雨粒が、傘の布を叩いていた。
「……苦しくない。あったかい」
「そうですか。……では、昔はどうでしたか?」
──昔。
ふと、景色がにじんだ。
高校に通っていた時のことだ。
毎日ひとりだった。
授業が終わったら、
すぐに帰って、ゲームをして。
話す人もいない。
誰にも、見てもらえなかった。
孤独だった。
でも、孤独だって気づくこともなかった。
当たり前だと思ってた。 - 1061◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 13:37:27
けど──
「……なんとなく、わかったかも」
「ええ、僕も、たぶん同じです」
そう言って、二子は静かに笑った。
その時だった。
カラン、と傘に何かが当たる音がした。
一度ではなかった。
二度、三度──やがて連続的に音が響く。
見上げる。
空から、小さな小さな宝石が、
いくつも降ってきていた。
透明で、歪で、形も揃っていない。
だけどそれは、確かに“こころ”だった。
「……苦しみって、共感してもらえないことなんだね」
ぽつりと、俺は呟いた。
「誰にも伝わらないこと。誰にも理解されないこと。……それが、きっと、一番つらい」 - 1071◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 13:39:13
宝石が地面に跳ねて、
ぬかるんだ土に落ちていく。
そのひとつひとつが、
自分の涙のように見えた。
「そして、その苦しみは、雨みたいにたくさん落ちてくる」
「……でも、こうやって傘をさせば、大丈夫です」
傘の下で、二子が言った。
「これからも、凪くんには、苦しみから守ってくれる人がいます。きっと、たくさんいます」
「……そうかな」
「そうですよ。……僕も、その一人になれたら嬉しいです」
俺は、ほんの少しだけ、視線を伏せて、
小さく頷いた。
冷たい雨が降る朝だったけれど、
胸の中には、あたたかい灯がひとつ、
灯ったような気がした。
そして、そのぬくもりは、
“苦しみ”というこころを知ったからこそ、
生まれたものなんだと思った。
『苦しみ:二子一揮』 - 1081◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 13:42:37
夜の廊下を歩く足音は、どこか控えめだった。
扉をノックする音も、扉を開ける音も、
どれも少しだけ静かだった。
「……レオ」
ベッドに横たわっていたレオが、顔を上げる。
「ん、おかえり、凪。今日は……?」
俺は少し黙って、
けれど、ちゃんと前を見て言った。
「“苦しみ”を、二子と一緒に見つけてきたよ」
レオの瞳が、ふっと揺れる。
「……そっか」
「……昔のこと、思い出した。けど、レオがいるから、大丈夫だった」
レオは微笑む。
それは、言葉じゃなく、気持ちそのものだった。
俺はそっと、ベッドの端に腰を下ろす。
あの冷たい雨は、
今はもう、遠い昔のように感じた。 - 1091◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 13:44:37
『悲しみ』『喜び』『恐怖』『憂い』
『興味』『愛情』『後悔』
───そして、『世界のいろ』
次は、どの『こころ』を『誰と』探しに行く?
見つけた『こころ』
■希望:剣城斬鉄 ■勇気:潔世一
■楽しさ:千切豹馬 ■怒り:馬狼照英
■退屈:絵心甚八 ■期待:氷織羊
■苦しみ:二子一揮
- 110二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 13:47:26
恐怖を蜂楽と
- 111二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 14:05:30
追いつきました
一般的に負の感情と呼ばれている感情も人との関わりの中で必要なものであったかい時があるという表現の仕方が素敵です
続きを楽しみにしていますが体調にはお気をつけください - 112二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 14:25:17
- 1131◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 18:20:22
- 1141◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 18:27:56
『恐怖:蜂楽廻』
目が覚めた。
いつもの天井。
だけど今日は、ほんの少し、
空気がざらついている感じがした。
「……」
俺は、ゆっくりと身体を起こす。
もう慣れた動作だ。
眠気はあるけど、立ち上がるのは、
昨日よりずっと、自然だった。
ベッドを出て、ドアを開ける。
今日も、誰かがいるかもしれない──
けれど廊下は、がらんと静かだった。
「……あれ?」
ぽつりと呟く。
昨日までは、誰かが来ていた。
それか、誰かが歩いていた。
でも、今日は誰もいない。 - 1151◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 18:29:17
しばらく歩いてみる。
サッカーコート。
食堂。
モニタールーム。
どこにも気配がない。
「……誰もいないじゃん」
ちょっとだけ、退屈。
いや──ほんの少しだけ、不安。
ふと、誰かの部屋の前を通る。
扉の隙間から、微かに聞こえる寝息。
「……蜂楽の部屋?」
そっと扉を開けると、
布団に潜り込んだ蜂楽が、すやすやと寝ていた。
「……まだ、寝てるのか」
ため息交じりに呟く。 - 1161◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 18:30:52
「……おーい、蜂楽」
肩を軽く揺すってみる。
「むにゃ……ぱすた……おかわり……」
「……寝言、聞きたくないんだけど」
なおも眠り続ける蜂楽。
見ていて、ちょっとだけ癪だった。
……俺だって、眠いのに。
とりあえず、部屋の隅にある椅子に座った。
「……起きるまで待つか」
小さくあくびをして、
俺は、眠る蜂楽の寝息を聞きながら、
静かに目を閉じた。
部屋の中には、穏やかな呼吸音と、
どこからが届く風の音だけが流れていた。 - 1171◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 20:10:25
夢を、見ていた。
広い、グラウンドだった。
空は、真っ白。
地面は、黒。
その間に、自分がぽつんと立っていた。
前方には、見慣れた奴らがいた。
レオ、潔、千切、斬鉄、
王様、氷織りん、二子──
みんなが、いた。
でも、誰もこっちを見ていなかった。
「おーい……」
声を出す。
けど、届かない。
足を動かして、走る。
手を、伸ばす。
なのに、距離は縮まらない。
声を張り上げても、誰も振り向かない。 - 1181◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 20:12:01
目の前にいたはずの、みんなの輪郭が、
ふいに、霧の中に吸い込まれるように、
すうっと、消えていった。
気づけば、自分だけだった。
音も、色も、何もない世界に──
たった、ひとり。
「―――」
その時だった。
「凪っち!」
ぱちんと、現実に引き戻されるように、
俺は目を開けた。
そこには、蜂楽がいた。
「おはよー。寝落ちしてたんだね!」
俺はしばらく、何も言えなかった。
心臓が、どくどくとうるさかった。
息を吸っても、胸が詰まるようだった。 - 1191◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 20:13:37
「迎えに来てくれてありがと!」
「“恐怖”、探しに行くんでしょ?一緒にさ!」
蜂楽は、にかっと笑った。
その笑顔は、いつも通りだった。
底抜けに明るくて、無防備で、
それでいて、どこか無邪気だった。
だけど、思った。
──さっきの夢。
あれはきっと、“恐怖”だったんだ。
誰にも気づかれないこと。
置いていかれること。
一人きりで、取り残されること。
「……」
俺は、何も言わなかった。
ただ、心臓の鼓動が、
まだうるさいままだった。 - 1201◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 20:14:38
蜂楽は、話を続けた。
「こわいのって、たぶんね、急にくるんだよ!しかも、自分でも気づかないくらい、ずーっと隠れててさ」
「だからさ、見つけた方がいいよ。絶対!」
俺は、ぼんやりとその言葉を聞いていた。
隣でしゃべる蜂楽の声。
その明るさが、今だけは、
ちょっとだけやさしく感じた。
二人きりの部屋。
その小さな空間が、
不思議と、あたたかかった。 - 1211◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 20:46:52
「……そういえば、凪っち」
ふと、蜂楽が言った。
「さっき、寝てたとき……どんな夢、見てたの?」
俺は一瞬、黙る。
思い出す。
誰もいなかった世界。
誰も振り向かなかった時間。
「……みんなが、俺のこと見てくれなかった」
ぽつりと、そう口にした。
「声かけても、誰も返事しなかった。手を伸ばしても、届かなかった」
蜂楽は、静かに笑った。
「そっか。……多分それって、“恐怖”だよね」
笑顔は変わらないけど、
その声は、ほんの少しだけ柔らかかった。
「俺もね、知ってるんだ、そういうの」
蜂楽は、ほんの少しだけうつむく。 - 1221◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 20:50:24
「捨てられたときも、いじめられたときも、味方してくれなかったときも。──声、届かないなって思ったよ」
「いっつも笑ってたけどさ、心臓がどくどくして、自分だけぐらぐらしてる気がして、どうしようもなくなってさ」
「“かいぶつ”に話しかけたりして。──それでも、誰も返事してくれなかった」
でもね、と蜂楽は顔を上げた。
「今、こうして、凪っちと話してるでしょ?」
「ちゃんと、自分で見つけられたんだよ、“恐怖”」
「手を伸ばしたくなくて、触れたくなくて、でも……目を背けたままだと、もっと怖いから」
蜂楽は、俺の胸にそっと手を伸ばす。
指先が、服の上から、心臓に触れた。
「……ほら、ちゃんとあったよ、ここに」
ゆっくりと、手を引くと──
蜂楽の掌の中に、小さな、小さな宝石があった。
ほんのり光を放っている。
でも、その光は痛々しいほどに歪で、
ところどころ、ひび割れていて。 - 1231◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 20:51:53
「こわいって、壊れそうになるから“怖い”んだよね」
「でもさ──」
蜂楽は、にこっと笑った。
「受け入れると、不思議とちょっと、楽になる」
俺は、そっと呟いた。
「恐怖って、受け入れるものなんだね」
「……そして、次にどう1歩を踏み出すかが、大事なんだ」
蜂楽の笑顔は、変わらず、明るかった。
「うん、そうだね。怖くったっていいんだよ、それでも笑えるから、前に行ける」
「凪っちは、もう知ってるでしょ?その1歩」
ふと、胸の奥が少しだけ、
あたたかくなった気がした。
恐怖に触れたはずなのに、
どこか安心している自分がいた。
静かな部屋の中、
宝石が小さく光を灯していた。
『恐怖:蜂楽廻』 - 1241◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 20:55:29
夜の廊下は静かだった。
俺は、ゆっくりと歩く。
いつもより、ほんの少しだけ、
足音を気にしながら。
レオの部屋の前に立ち、扉をノックする。
「……凪。今日はどうだった?」
扉を開けたレオが、柔らかく微笑む。
俺は、少しだけ目を伏せて、小さく呟く。
「今日は、蜂楽と“恐怖”を見つけた」
「……そっか。怖くなかった?」
「怖かった。でも、ちゃんと、あったよ。ここに」
俺は、胸をぽん、と叩いた。
レオは何も言わず、ただそっと頷いた。
その静かな頷きが、
今夜は何より、あたたかかった。 - 1251◆DGCF6cUlCqNA25/07/21(月) 20:57:14
『悲しみ』『喜び』『憂い』『興味』
『愛情』『後悔』───そして、『世界のいろ』
次は、どの『こころ』を『誰と』探しに行く?
見つけた『こころ』
■希望:剣城斬鉄 ■勇気:潔世一
■楽しさ:千切豹馬 ■怒り:馬狼照英
■退屈:絵心甚八 ■期待:氷織羊
■苦しみ:二子一揮 ■恐怖:蜂楽廻
- 126二次元好きの匿名さん25/07/21(月) 20:57:50
悲しみを糸師凛と