- 1二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 20:26:13
「ったく……また電気ついてんじゃん」
夜風が頬を撫でる 自販機の前でホットゆずレモンを選びながら ふと校舎を見上げた時に見つけた トレーナー室の明かり
日中「今日は休め」ってわざわざ言ってきたくせに
「自分だけ頑張っちゃって なーにが『信頼してる』だよ……バーカ」
ペットボトル片手に スニーカーの音を響かせながら階段を駆け上がる
こういうとこ ほんとムカつく だから——
「おいっ トレーナー 抜け駆け禁止だっつーの」
ドンと勢いよく扉を開ける けれど そこに返事はなく
「……寝てるし」
机に突っ伏して ゆるんだ顔でスースー寝息を立てている
あれだけ大きな音出しても起きないって どんだけ疲れてんだよ
「……はぁ まじ バカ」
呆れながら近づいて 無防備な横顔を見下ろす
怒りなんか ほんとあっという間に抜けてった
「トレーナーがバカなら あーしは……そのバカに惚れてるバカ か」
そっと椅子の背に腰かけて 距離を詰める
指先で頬をつつけば 柔らかくて ちょっと温かい
眉間の皺に触れれば ふと顔が緩んで 寝言みたいに囁いた - 2二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 20:27:15
「……エスポ 頼りにしてるから……」
「……ずるい」
涙が出そうだった
こんな一言で 胸が苦しくなるほど嬉しくなるなんて
「わかってんのかな……あーしが どれだけあんたに救われてんのか」
自分じゃ 全然まだ足りてない 勝ちきれないし 馬体も幼くて スタイルだって全然
他の子と並ぶと 恥ずかしくて泣きたくなる
だけど——
「……今だけ あーしのこと見ててよ」
そっと彼の指を握る
わずかに反応して 手が動くのを見て 笑ってしまった
「チョロいなー あーしのトレーナー」
毛布を引っ張り出して そっと肩に掛ける
手元にあったメモ帳にペンを走らせる
——言葉にすれば簡単だけど 伝えるには勇気が要る
『今日も おつかれさま ちゃんと寝ろよ
……また明日 横で走ってるから』 - 3二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 20:28:33
「……エスポ 頼りにしてるから……」
「……ずるい」
涙が出そうだった
こんな一言で 胸が苦しくなるほど嬉しくなるなんて
「わかってんのかな……あーしが どれだけあんたに救われてんのか」
自分じゃ 全然まだ足りてない 勝ちきれないし 馬体も幼くて スタイルだって全然
他の子と並ぶと 恥ずかしくて泣きたくなる
だけど——
「……今だけ あーしのこと見ててよ」
そっと彼の指を握る
わずかに反応して 手が動くのを見て 笑ってしまった
「チョロいなー あーしのトレーナー」
毛布を引っ張り出して そっと肩に掛ける
手元にあったメモ帳にペンを走らせる
——言葉にすれば簡単だけど 伝えるには勇気が要る
『今日も おつかれさま ちゃんと寝ろよ
……また明日 横で走ってるから』って思わせてくれたのは—— - 4二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 20:29:35
「だからさ……あーしも いつかは ちゃんと応えたいんだよ」
気づけば 寮の前まで戻ってきていた
もう雪は止んで 足元に薄っすらと積もった白が 街灯の光に照らされてやわらかく光っていた
それでも まだ心はざわついてる
……あんな寝顔見せられたら ね
「好き だなんて 寝言で言ってんじゃねーよ バカ」
けど あれが夢の中の誰かに向けた言葉じゃなくて
ほんの少しでも あーしに向けたものだったとしたら
——なんて 淡い期待を抱いてしまうあたり 本当に自分もチョロい
「……ま いっか 明日はもうちょい 素直にやってみっかな」
少しだけ冷えたホットゆずレモンを飲みながら 笑ってみる
明日も 明後日も きっとぶつかったり 照れたり 逃げたりするんだろうけど
でもきっと あーしはこの人の隣にいる
そしてその景色を あーしだけが知ってる景色にしていく
——ちゃんと 追いついてやるからな
雪明りの下 エスポは空を見上げて 小さく拳を握った - 5二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 20:30:35
まぶたを開けた瞬間 背中に感じたのは 毛布の柔らかさだった
「……ん あれ……?」
首を回すと うっすらとした明るさが窓のカーテン越しに差し込んでいた
朝だった いつの間にか 椅子に突っ伏して寝てしまっていたらしい
「……毛布 なんで……?」
昨夜 誰かが部屋に来たのか そんなはずは——と立ち上がろうとして ふと目に入った
机の上に置かれた まだほんのり温もりの残るミルクコーヒー
その下には 小さな紙切れ
『いつもありがと ガンバって 無理はしないで』
直筆の 走り書き
その文字の癖に 見覚えがあった
「……エスポ……か?」
手にとって 指先で紙をなぞる
名前は書かれていない でも すぐにわかった
この不器用な字も 余計なこと言わず 伝えたいことだけ書いていくその感じも
なにより メッセージの最後にだけ滲んでいる——どこか 優しさの裏返しの照れ隠し - 6二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 20:31:37
椅子に腰を下ろし しばらく黙ってそれを見つめる
胸の奥に 温かいものが 少しずつ広がっていった
「……来てたんだな」
自分が眠っていた間に わざわざここまで来て
何も言わずに毛布をかけて 飲み物を置いていって
何があったのか 全部はわからない
けど 彼女の言葉じゃない「行動」が すべてを語っている気がした
ふと 左手に視線を落とす
薬指に なにか細いものが巻かれていた
それは 一本のウマ娘の尻尾の毛だった
「……まったく ロマンチストなんだか 茶目っ気なんだか」
苦笑しながら そっとそれを指から外し 胸ポケットに仕舞った
言葉にするには照れくさくて 本人には面と向かって言えそうにないけど
「……ありがとな エスポ」
今日もまた 彼女と向き合う
ちょっと素直じゃなくて でも走ることには真っ直ぐで 時々やたらとかわいい あの娘と
だからこそ もっとちゃんと 支えてやらなきゃな——と あらためて心に誓う朝だった - 7二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 20:32:55
おしまい
一枚絵が可愛らしかったので思わず書いてしまいました
実装が待ち遠しい娘の1人です
言葉では伝えきれない“好き”が行動や独り言に滲み出ていて
それを受け止めたトレーナーもまた不器用な彼女の気持ちをちゃんと感じ取っている
そんな静かな絆の深まりを書きました - 8二次元好きの匿名さん25/07/20(日) 20:52:38
いいね…この関係性