【SS】「Are You Ready?──恋の訓練開始」

  • 1二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 21:04:23

     放課後のトレーニングを終えた俺たちは、並んで学園の裏庭を歩いていた。
     夕焼けが差し込む空の下、わずかに火照った頬を扇ぎながら、隣を歩くシンボリクリスエスがふいにスマホの画面を閉じた。

    「……ラヴズオンリーユー──魅力的だった」

     ぽつりと、そんな一言を零す。
     ウマチューブで見ていたのだろう、彼女の少し揺れる睫毛と耳が妙に印象的だった。

    「表現力や演出、全てが繊細で──Powerfulだった、Emotionも」

    「うん、彼女は観客を引き込むのが上手いからな……勉強になった?」

     そう問いかけると、クリスエスは小さく「Yes」とだけ答えた。

     ──そして次の瞬間。

    「……トレーナー」
    「ん?」

     彼女はちら、と俺の方を見て、いつもよりわずかに熱を帯びた声で、言った。

    「……Love me?」

    「──Love you」

     その言葉が出るまでに、一秒とかからなかった。
    ……というより、条件反射だった気がする。
     それだけ、彼女が可愛い仕草でそう問いかけてきたから──とでも言えばいいだろうか。

  • 2二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 21:05:23

    「っ……Oh……///」

     その場にフリーズするクリスエス。

     普段は静謐で冷静な彼女が、肩をわずかに跳ねさせ、耳をピンと張り詰めて固まっている。
     目の端が熱を持って潤んでいるようにすら見える。

    「っ……クールに返すと思っていた……想定外……No data……Emotion overheat……」

     小さく、ぼそぼそと英語交じりに混乱しているクリスエス。
     頬が赤く染まり、夕焼けの色と重なって、なんだか余計に可愛く見えてしまう。

    「いや、だって……そんな顔で言われたら、嘘は言えないしさ」
    「──……そう、か……ふふ、なるほど」

     ぽつ、と笑った。
     普段見せることのない、ちょっと照れた、でもどこか嬉しそうな表情。

    「……じゃあ、これは新しいMissionとしよう」

    「ミッション?」

    「次は、私が──お前の心を奪う番だ」

     照れ隠しか、あるいは本気か。
     その宣言のあと、彼女はすっと前を向いて歩き出す。

     真っ直ぐな背筋と、ほんのり跳ねた黒髪のツインテール。
     そして、彼女の耳元が、ずっと赤いままだったのを──俺は見逃さなかった。

  • 3二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 21:06:47

     翌日の昼休み。
    「──トレーナー、少し時間を、くれないか」

     食堂でご飯をかきこもうとしていた俺の元に、現れたクリスエス。
     整った顔立ちに、凛とした声。でもどこか、ほんの少しだけ動きがぎこちない。

    「どうした? 昨日の続き?」

    「Yes──心を奪う任務は、準備段階に移行した」

    「……マジでやるのか、それ」

     半分冗談だったはずの宣言が、完全に彼女の中で作戦名になってしまっている。

     彼女は真面目だ。とにかく何でも全力。
     だからこそ、こういう“恋”とか“Love”とか、そういう分野には──まだ、ちょっとだけ不器用だ。

    「私はまだ、戦術を模索中──しかし昨日の反応より、Weak pointを発見した」

    「へ?」

     彼女は俺の左隣にすっと腰掛け、すぐさま耳元で囁くように言った。

    「急な英語で──動揺する確率、70%超。これは、有効な攻撃手段」

    「ちょ、攻撃ってなんだよ」

    「Love attack──……ふふっ」

     からかったつもりなのだろう。彼女なりの“いたずら”のつもりで、ふっと微笑んでみせる。

  • 4二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 21:07:56

     けれど、そんなことされたら、こっちの心臓の方がもたない。

    「……本気で可愛いとか、ずるいな」

    「っ……Oh……Again……///」

     また耳が真っ赤になって、クリスエスは椅子ごと体を後ろにそっと引いた。
     わずかに俯き、目を逸らす姿が、照れているのを隠しているようで……なんだか、嬉しそうにも見えた。

    「……Mission report──Loveは、予測不能」

     ポツリと呟くその横顔が、すごく優しかった。

    「でも──私の心は、少しずつ、確かに奪われている」

     自分の胸に手を当て、ふっと笑って、そしてまっすぐ俺を見る。
     強い目だけど、今はそれがとても柔らかく感じた。

    「……次のステップに移行する。今日の夕方、トレーナー室、来られるか?」

    「……ああ。もちろん」

     何かを覚悟したような彼女の横顔に、俺は自然と、頷いていた。

  • 5二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 21:09:07

     放課後、トレーナー室。
     カーテン越しの光が赤みを帯びる頃、ノックの音が控えめに響いた。

    「……入ってるよ」

    「Permission to enter──許可を求む」

     いつも通りの、でもどこか緊張が混じった声。
     ドアを開けて現れたクリスエスは、髪をきちりとまとめ、制服の襟も一段と丁寧に整えられていた。

     その姿に、俺も自然と背筋を正してしまう。

    「今日の任務は……“伝達訓練”」

    「……伝達?」

    「Yes──“Love”の……気持ちを、どう届けるかのトレーニング」

     彼女はそう言って、鞄から一枚の小さなメモを取り出す。
     そこには丁寧な筆記体で、短い英語のフレーズがいくつも書かれていた。

    ・You’re important to me.
    ・When I see you, my heart gets warm.
    ・I want to stay by your side.
    ・I love you.

     「告白英会話帳」みたいなそれを見て、俺は思わず苦笑してしまう。

  • 6二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 21:10:08

    「……自習したの?」

    「……少しだけ。苦手な分野だから、Preparationが必要だと判断した」

     クリスエスは照れたように、でもどこか誇らしげに言った。

    「で……これを俺に?」

    「Yes──Missionの目的は、“心を奪う”ことだから」

     真面目すぎて、なんだか笑ってしまいそうになるのに、目はすごく真剣で。
     だから、俺もふざけずに頷いた。

    「わかった。じゃあ、受け取る準備はできてるよ」

    「……Thanks」

     そう言って、クリスエスは一呼吸おいて、メモを胸に収めた。

  • 7二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 21:11:13

     そして──

    「You are……important to me」

    「……うん」

    「When I see you……my heart……warm……」

    「俺も、そうかも」

     段々と声が震えてくる。手が、袖が、少しだけ揺れていた。

    「I……want to stay──by your side」

    「……もちろん、ずっとそばにいるよ」

     そして──最後の一文を、言えずに、クリスエスは俯いた。

    「……Last one is……too much」

    「……言わなくても、伝わってるよ」

     俺は椅子を立ち、そっと彼女の肩に手を置く。

  • 8二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 21:12:14

     その瞬間、クリスエスは顔を上げ、潤んだ瞳で、言った。

    「でも、言いたい──Properly」

     そして──

    「……I love you」

     それは、恐ろしく真っ直ぐで、不器用で、そしてあたたかい“告白”だった。

     俺も、目をそらさずに答えた。

    「──Love you too」

     言葉はシンプルだった。
     でもそれだけで、クリスエスはほんの少しだけ口元を緩めて、ぽつりと呟いた。

    「Mission──Complete」

  • 9二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 21:13:14
  • 10二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 21:38:11

    助かる

  • 11二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 00:26:11

    アメリカウマ娘は進んでるなぁ

  • 12二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 00:55:07

    これだよこれ……
    一切動揺せずに愛を告げられる大いなるスパダリと、恋する少女があまりの熱と輝きに真っ赤になって撃沈する姿
    これがウマ娘で見たかったんだ
    ありがとう。ほんとうにありがとう。作品群載せてるところ教えて。

  • 13二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 02:06:00

    赤面を///で表現する文化ってまだあったんだ

オススメ

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