- 1二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 22:39:37
- 21着をねらえ!25/07/22(火) 22:42:05
このスレの主人公
イリフネ | Writeningイリフネ 二つ名: - ウマソウル:牝馬 学年:高等部1年 出身:東京 身長:170cm スリーサイズ:B81・W57・H90 好きなもの:アニメ、プラモ、特撮、レース 苦手なもの: - 脚質:逃げ 毛色:尾花栗毛 主な勝ち鞍: - …writening.netその母親
キンペイバイ 諸設定 | Writening【ウマ娘】 キャッチコピー>ミニマムボディの白金少女 誕生日>12月21日 身長>131cm(デビュー時)→136cm(ラストラン) 体重>片方でスイカ1玉分 スリーサイズ>B104・W52・H86(デビュー時)→B117・W5…writening.net - 31着をねらえ!25/07/22(火) 22:43:14
- 41着をねらえ!25/07/22(火) 22:47:06
【あらすじ】
未知なる強敵、やって来る大レースラッシュ。これから挑む難関に向けイリフネはウマ娘の戦う力「スキル」を身につけるため日々奮闘していた。
宇宙で行われた懇親会にてコーチとの信頼関係を築いたイリフネはついにスキル習得へと乗り出す。最初のスキル習得まであと一歩まで近づいたある日、イリフネの敬愛するお姉さま『ヒビノミライ』が「毎日王冠」への出走を決める。
しかし、そのレースには「疫病神」の異名を持つウマ娘も出走する予定なのであった…… - 5二次元好きの匿名さん25/07/22(火) 22:55:47
新スレ乙
- 61着をねらえ!25/07/22(火) 22:58:48
翌日、午前の授業が終わり生徒で賑わう廊下をほかのウマ娘をするすると避けながらイリフネは目の前を歩くヒビノミライの背を追いかけていた。授業終わりに一緒にご飯を食べましょうと声をかけたのに脇目も降らずに食堂は逆方向に歩く彼女の姿を見て、いつもとは違う様子を直感的に感じたイリフネは隣にいたダイナソアシーに一言謝って人混みの向こうに消えていくお姉さまへと駆けだしていったのだ。
しかし、お姉さまはどこに行くつもりなのか。トレーナー室はこの方向から行くと遠回りになってしまうし、職員室なら先ほど上った階段を逆に降りなければならない。この先に行っても数個の教室があるだけで、しかもムーバの教室は階層が違っている。この場所にお姉さまが来る理由というのがほとんどないのだ。
疑問に首を傾げつつ、だんだんと少なくなっていく人混みを抜け出し遂にお姉さまに追いついたとき、彼女の足はとある教室の前で止まった。家庭科室や理科室のような特別な用途の教室ではなく、中央トレセン学園にいくつもある普通の教室の1つにである。しかも、中等部のクラス教室ともなれば尚更来訪の理由が分からなくなる。
躊躇いなく開かれた木製の扉。自作したお弁当のふたを開けていた者、デバイスで動画を見ていた者、今まさに昼の微睡の中に落ちようとしていた者、突然の来訪に教室に残っていたウマ娘の視線が全てヒビノミライへと集まる。
そんな視線を全く気にする様子もなくずけずけと教室に踏み入ったヒビノミライは席に座ったままの1人の少女の前に立つ。
「貴方が“クローズドメイデン”」
ボリューム感たっぷりの白銀に近い葦毛の髪、短めのウマミミ、左ミミには黒いバラの飾り、白磁のような真っ白な肌にどこか悲し気な愁いを帯びた表情。薔薇の園に微笑みを浮かべる絵本のお姫様のように美しく、可憐な少女である。
「貴方様は…」
「私はヒビノミライ。貴方と同じように次の毎日王冠に出走する」
黒薔薇の少女が銀河の瞳の少女を見上げる。
「どうしてそれを私に教えてくださったのですか?私は…」
「挨拶は大事だと教えられた。そして、貴方がどのように評価をされていようとそれは私が貴方と走らない理由にはならない」
少女が言いかけた言葉をヒビノミライが遮るように答える。その言葉に黒薔薇の少女の瞳が僅かに揺れていた。 - 71着をねらえ!25/07/22(火) 23:00:27
「レース、楽しみにしている。貴方の“輝き”を私に見せてほしい」
そう言うとお姉さまは教室を後にする。残されたのは突然の出来事に呆然とする生徒と目を丸くしたクローズドメイデンであった。
いや、正確に言えばもう一人。お姉さまの大胆かつレースに対して礼儀を重んじる姿勢に感動しているイリフネもまたお姉さまを追いかけることを忘れ、トキメキにトランス仕掛けていた。しかし、うずく腹の虫が空腹と共にイリフネの意識を呼び戻すと、先を歩くお姉さまに追いつくために走りだす。
そんな彼女の耳に教室のごくごく小さな呟き声が針のように突き刺さる。
「なんであんな疫病神に…」「あいつとレースしたやつはほとんど不幸になるのにね」「いい子ちゃんぶっててもレースがあんなじゃなぁ」
それは悪意ある言葉のそれのように聞こえる。だが、どこか諦めと憐憫が言葉の節々から感じられて仕方がなかった。悪意のない、人を傷つける真実の言葉。教室から聞こえた呟き声はそういった類の言葉であった。そしてそれはおそらくあの少女に向けられた言葉なのだろう。しかし、あの虫も殺せなさそうな儚げな雰囲気の少女には全く似合わない言葉だ。だが、疫病神、その言葉をつい最近目にした覚えがある。
そこでようやくイリフネは思い出す。昨日、お姉さまが読んでいたあの新聞、弱小出版社の悪意が込められているようなあの見出しの記事。『疫病神ウマ娘』お姉さまは確かにあの記事を見て出走を決めたはずだ。ならお姉さまはどうして、そんな危なっかしい2つ名を付けられたウマ娘に会いに行ったのだろうか。行きよりも増えた疑問がイリフネの歩みを加速させる。
「お姉さま、もしかしてあの子って…」
「彼女は“とてもやさしい”だ」
追いついたお姉さまの背中。しかし、イリフネの言葉見透かしたようにヒビノミライは答える。その口元は微かに笑っていた。 - 81着をねらえ!25/07/23(水) 00:47:53
イリフネ'sメモ⑧
「競バ新聞」
ウマ娘レースについて詳しくまとめてある紙面媒体。主に週刊で、その週のレース予想と注目ウマ娘のレビュー、該当週の前週のレース結果などが様々なデータと共に掲載されている。
URAが出版元となり発行されている「トレセン日報」の他にも様々な出版社から発行されており、「競バ エイト」「東スポ」等は有名だろう。
しかしながら、予想紙という性質上直接的にURAと関わりのない出版社も出版しており、時折特定ウマ娘を貶めるような見出しの記事を発行してはその都度問題になっている。
また、競バ新聞の電子化に伴い紙媒体での発行部数が低下している他、最近ではウマ娘グラビア誌(現役・引退・ドリームトロフィーシリーズのウマ娘たち)でも専門誌レベルでウマ娘レースの解説・予想をしているものも多く、時代の過渡期を垣間見ることができる。 - 9二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 00:51:21
何が原因で疫病神と呼ばれるようになったのか…?
- 10二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 00:52:12
盾乙です
- 11二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 06:50:12
新スレ乙です。思ったより儚げなライバルが出てきたなぁ
いずれはイリフネとも同じレースを走るのだろうか?
それにしてもこの世界にもエイトや東スポあるんや……スポニチとか、グラビア欄めちゃくちゃ充実してそう
- 121着をねらえ!25/07/23(水) 12:43:35
イリフネは気になっていた。
チームに所属してからしばらくが経ち、お姉さまがどういうウマ娘なのか少しづつ分かってきた。カレーが大好きで、本を読むのがすごく早くて、いつも無表情なのにふとした瞬間に見せる微笑んだ顔がとても可愛らしい、超のつく天然さんでコーヒー豆を買いに行くお使いに大豆を買ってきてしまうこともあった。
それなのにひとたび走り出すと普段のぽやぽやとした不思議ちゃんな感じからキリッとした顔つきに変わり、圧倒的な強さで走り去ってしまう。まさにイリフネにとっての憧れのウマ娘。
だからこそ知りたい。憧れのお姉さまが疫病神と呼ばれるウマ娘が出走するレースに自ら望んで出ることを決めたのか。どうしてあの時、黒薔薇の少女を見て微笑んだのか。
「レースを見ればきっとわかる」「あの子はとてもやさしい輝き」
何度聞いてもお姉さまが答えてくれることはなく、いつものように不思議な言動をするだけだ。
だから決めた。お姉さまが教えてくれないのなら、自分自身の目で確かめるしかないと!
「で、なんであたしまで巻き込まれてるのさ」
明らかにやる気のないげんなりとした顔のダイナソアシーは校舎にもたれかかり、ジトッと親友を睨みつける。
「ふふ…よく聞いてくれたのですワトソン君」
「だれがワトソンじゃい」
対してイリフネは茶色のチェック柄のコートにハンチング帽、パイプ(ハッカ入り)に虫眼鏡とどこかの私立探偵のような恰好でばっちりとキメている。
「最近巷では“疫病神ウマ娘”なる噂が流行っているのです。私はその噂全然知らないのですが、お姉さまと同じレースに出るというのなら話が違うのです!危なくないか私が調査するのです!つまるところ、ホシの張り込みなのです!」
どこかから取り出した紙パック入りの牛乳とあんぱんをダイナソアシーへと手渡す。本気で張り込むつもりらしい。わざとらしく襟を立て、校舎の影からちらりと顔を出す。イリフネの視線の先にはあの黒薔薇の少女がいた。 - 13二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 18:08:26
なんとなくイリフネのCVには菱川花菜なんてどうかなってふと思った
- 141着をねらえ!25/07/23(水) 23:48:45
「それ、中等部のクローズドメイデンさんのことでしょ?」
「知ってるのです!?」
むしゃりとあんパンを食らい険しい表情を浮かべるイリフネに対して、ダイナソアシーは非常に軽い態度で言う。思いもよらない角度からの情報に思わず牛乳が鼻から出かける。
「結構有名なんだけど…ま、イリフネはこういう陰口みたいな噂とは縁のないタイプだからね。せっかくだから教えてあげるよ」
クローズドメイデン
中等部に所属する葦毛のウマ娘。トゥインクルシリーズに登録しており、現在はシニアクラスのレースを戦場としてレースをしている。実力としてはそこまで高いものでもなく、直近のレースでは掲示板入りこそあるものの1着を取ったことはなく、G1級レースの出走は運よく出走できた1回のみでそのレースでも特に何か見せ場があったわけでもない。
容姿こそウマ娘の中でも上位のレベルではあるが、飛びぬけたお嬢様でもなければ変人奇人といったわけでもない。トレセン学園にはたくさんいる背景のような生徒そのものであった。
ある1点を除けば。
彼女が疫病神と呼ばれる所以、それは「彼女とレースしたウマ娘の多くが健の炎症や重度の筋疲労、歩調の乱れ」などのレース続行に関わる重大な怪我や不調が発生するという現象にある。どれだけ健康優良児や常日頃から身体のケアをしているウマ娘であっても、クローズドメイデンと走れば高確率で故障し、しかもそれが1回のレースでたまたまそうなったわけではなく、彼女の出場したほとんどのレースでそうなっているとなれば疫病神というあだ名をつけられるのもしょうがないことであった。
「今じゃみんな、あの子を恐れて近寄りすらしなくなったらしい。周りが怪我してるのに本人だけケロッとしてるから、恨みもたくさん買ってるらしいよ」
今さっき、誰かが入れ損ねたごみを拾ってごみ箱に捨て、クローズドメイデンはまたベンチへ腰かける。同時多発手的に同じレースに出たウマ娘が怪我をする、そんな超常的な現象など信じがたいが、事実としてクローズドメイデンは疫病神と呼ばれ、疎まれている。しかし、どうにもイリフネには引っ掛かるところがあった。
「あんな綺麗な子がそんな悪い子だなんて信じられないのです…」 - 15二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 23:52:57
ママのCVは能登麻美子だし、イメージ元のCVは福井裕佳梨だから、ほっこり系の声質な感じがする
最近のウマ娘だとシーザリオ(オフのすがた)な感じ - 16二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 07:22:19
- 17二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 07:29:39
- 18二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 17:15:03
保守
- 19二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 23:45:57
- 20二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 07:27:26
正直、ヒビノミライもどういうレースをするのかまったくわからないんだよな
劇中でのスキル主体のレースというのも何気に描写は初めてだし、期待 - 211着をねらえ!25/07/25(金) 16:47:54
それからイリフネ達はクローズドメイデンの張り込みを続けた。
ある時は大荷物を持っていた生徒の荷物を一緒に持って目的地まで運んだり、ある時は街中で交差点を歩くアヒルの親子が渡りきるまで黄色い旗で交通整理をしたり、またある時は迷子になってしまった子供の手を引いて親を探したり、いくら時間が経っても悪辣さの一つもなく、むしろ本人の善性が垣間見えるだけであった。
「むむむ…やっぱり、悪い子には見えないのです」
時間が経てば経つほど彼女のいい面ばかりが見え、疫病神という異名を信じられなくなる。それでもまだどこか疑念が魚の骨のように喉奥に引っかかって仕方がなかった。
夕暮れ時、もう今日の張り込みは終わりにしようという雰囲気になった頃、クローズドメイデンの進行方向から松葉杖をついて歩くウマ娘がやってきた。
「あの松葉杖の、確かこの前クローズドメイデンと一緒に走ったレースの後に重めな肉離れになった子だよ」
それをクローズドメイデン自身もよくわかっているのだろう、そのウマ娘の姿を見たとたんに表情が曇った。
「あの、お怪我の具合は…」
彼女が何かしゃべろうとするよりも先に、松葉杖を握る手とは反対の手がクローズドメイデンを突き飛ばした。突然のことに困惑し、口をパクパクとさせる。
「よくそんな能天気でいられるね。こっちはあんたのせいで滅茶苦茶なんだよ!」
クローズドメイデンを突き飛ばした少女の目は血走り、とても正気とは思えない顔をしていた。瞳からは大粒の涙がとめどなく溢れ、苦しみや悲しみに耐え食いしばった口元がぐにゃぐにゃに歪んでいる。
「わ、私はただ、お怪我をされたと聞いてからお体の具合が心配で…」
それも彼女にとっての優しさや思いやりのつもりだったのだろう。だが、それは松葉杖の少女からしてみれば火に油を注ぐ行為以外の何物でもない。
「心配…?そんなことしれる暇あったら…直せよこの足!早く元通りにして見せろ!!」
激情に任せ、松葉杖が天高く振り上げられる。アルミ製のボディーが夕焼けの赤を反射し、凶器のように赤黒く染まる。 - 22二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 17:00:19
誰かが止めないとやべーことになりそう!?
- 23二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 22:53:47
これは2面性もあるパターンか?
- 24二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 08:11:01
気遣いが気遣いにならない状況ってのはあるからなあ
- 25二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 18:04:14
なんかあかんことになりそう
- 261着をねらえ!25/07/26(土) 22:54:20
恐怖に目をつむるクローズドメイデンであったが、ふわりと香る爽やかな香りに恐る恐る目を開けるとそこにいたのは金のウマ娘。風にたなびくサラサラの金髪が黄昏の色に輝く。このウマ娘が助けてくれたのだろう、松葉杖が掲げられた頂点から全く動いていないことに気づく。
「殴るのはめっ!なのです!」
幼い子に言い聞かせるようにイリフネはクローズドメイデンを殴りつけようとした少女を叱る。一方、いきなり現れたウマ娘に少女は驚きを隠せない。物理学的に考えるのなら振り下ろす側の自分の方が圧倒的に有利なはずなのに目の前の金髪のウマ娘は片手でいともたやすく受け止め、そして抑え込んでいるのだ。いったいどれほどの力を持っているのだろうか、少女の背に冷や汗が一粒流れ落ちる。
「それで人を殴っちゃだめなのです」
そのまま松葉杖を持った手ごと下げさせると、そこでようやく手を離す。松葉杖の少女は一歩下がると苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「なんなんだよお前!」
「私はイリフネなのです」
「名前じゃねぇよ…なんでソイツなんか庇うんだよ!ワタシはこいつのせいで目標だったレース走れなくなったんだぞ!」
涙交じりに叫ぶ少女にクローズドメイデンの表情が曇る。
「私は何も知らなかったのです。どうして彼女が疫病神なんて呼ばれてるのかも、そんな名前が似合わないくらいいい子だってことも、今日、全部初めて知ったのです」
「今日初めて知ったやつを庇うっていうのあんたは」
「知ってからどのくらいたったのかとか、そんなことは関係ないのです。こうしてこの学園にいるのならそれはもう無関係なんかじゃない…それはあなたもなのです!」
指さすイリフネに少女は驚く。だが嘘や損得勘定があるようにも見えない。それほどにイリフネというウマ娘の瞳は透き通って見える。 - 271着をねらえ!25/07/26(土) 23:36:04
「知ってるような口きくなよ!」
「確かに私はあなたのこと何も分からないのです。でも、あなたが周りからどれだけ大切にされているのか、それは見ただけでわかるのです」
イリフネが少女へと一歩、また一歩と近づき距離を詰めていく。その威圧感に後ろに下がろうにも松葉杖と怪我した足では上手く下がることができない。
「その松葉杖、きっと病院から借りたものですよね」
「そうだけど…」
「それは病院の先生があなたが普段の生活に困らないようにと貸してくれたものなのです。その綺麗な制服はあなたの親御さんが買ってくれた物のはず。今ここで衝動的に彼女を殴っていたらそれらは全部汚れていた…あなたを思ってくれている人の優しさを裏切ることになるのです」
胸がチクりと痛む。怪我をしやすい体質ですっかりかかりつけになり、今回も具合を見てもらい、早く元気になってまた走れるように頑張ろうと言ってくれた病院の先生。心配してわざわざ遠方の実家から慣れない新幹線まで使ってお見舞いに来てくれた両親。イリフネの言葉に彼らの顔が浮かぶ。
「あなたも、その優しさを大事にしているのがよくわかるのです。松葉杖を使っていてもあなたの制服には皴の偏りもないし、挟んでいる方が不自然に汚れているわけでもない。普通に立つのもつらいはずなのに、よく手入れされているのです。すごく大事に扱っているのですね」
下に目を落とす、青紫と白を基調とし、胸元に大きなリボンが提げられた制服。これを始めて着たとき、両親は「可愛い」「似合っている」と褒めてくれた。それからこの制服はとても大事で、大切で、どんな服よりもお気に入りだった。
「それに、人に不満をぶつけてもそのあと、自分がモヤモヤして苦しくなるだけなのです。私も妹と喧嘩して酷いことを言ったときずっとモヤモヤして苦しかったのです。誰にもあんな思いはしてほしくないのです」
「じゃあ、今のこの苦しい気持ちはどうしたら…」 - 281着をねらえ!25/07/27(日) 01:22:32
すっかりイリフネの話に耳を傾けるようになった少女はスカートの裾をぎゅっと掴む。
少女もすでに暴力で心を晴らすということが間違いであるということは理解しているが、それはそれとして走れないことには変わりないし、目標にしていたレースで走るチャンスが潰れているという現実は変わらない。
「それなら、私に話してほしいのです」
想像もしていなかった申し出に少女は一瞬困惑の声をあげる。間違いを犯しそうになったところを止め、叱ってくれたのに眼前のウマ娘は未だ手をつなぎとめてくれている。
「どうして、そんなにしてくれるの…」
「理由なんてないのです。ただ、あなたが悲しそうな顔をしていたから、放っておけないだけのおせっかいなのです」
にっこりと笑顔を浮かべるイリフネ。理由のない優しさ、その言葉に嘘はないのだろう。どう考えたって傍から見れば自分は人に殴り掛かった加害者側だ。それなのに目の前のウマ娘はそんなことなど関係ないとばかりに距離を詰めて手を握ってくる。まっすぐにこちらの心を見つめている。
だから少女も少しばかり甘えてみようと思った。それが許されるようなそんな気がした。
湿っぽい制服の生地が優しく抱き留めてくれた。
「そしたら、最後の仕上げなのです!」
暫くの後、そう言うと、イリフネは振り返り、未だに腰が抜けたままのクローズドメイデンの手を取り立ち上がらせると、そのまま手を引き少女と向かい合う距離に連れてくる。互いに逸らされる視線。そんなことなどお構いなしに、イリフネは少女の手も取ると彼女の手とクローズドメイデンの手を繋がせる。
「これで仲良しなのです!」
古来から握手には仲直りの印としての側面もある。それまでいがみ合っていた者同士が手を繋ぐことによってより関係性を深めるのだ。
イリフネの手によって握られた手。クローズドメイデンの手がひんやりとして気持ちがいい。
「…ごめん、突き飛ばして殴ろうとして」
「もう大丈夫ですわ。それよりも、貴方の1日でも早い復帰をお祈りしています」
バツの悪そうに消え入りそうな声で謝る少女にクローズドメイデンはもう一方の手をつないだ手に重ね、祈るように言葉を紡ぐ。少女の濡れた瞳が黒薔薇を映す。
お互いの気持ちが晴れ、一件落着の雰囲気になったことでイリフネは満足そうに笑った。 - 291着をねらえ!25/07/27(日) 03:23:55
イリフネ'sメモ⑧
「松葉杖のウマ娘」
本名:『サイレントオナーズ』
中等部3年。姿勢を低くし潜るようにバ群を抜けていく潜水艦のような走り方が特徴的なウマ娘。朝はシリアル派。
ジュニア期ではなかなか勝ち上がれず、未勝利戦8回の後1勝クラスに勝ち上がり、クラシック期では秋頃から当確を表し始め、【セントライト記念】で4着と惜しい結果となったが初の掲示板入りを果たし、【福島記念】で重賞初制覇を遂げる。
年を明けたシニア期1年目では金鯱賞を制し、その勢いのまま自身の最大の目標であった【宝塚記念】出走に名乗りを上げる。しかし、宝塚記念を1ヶ月後に控えた【新潟大賞典】にてレコードで1着となるものの、レース後極度の肉離れを発症し全治6ヶ月の診断を下され宝塚記念回避を余儀なくされ、彼女が勝負服に袖を通すことはなかった。
この時の新潟大賞典は多くのウマ娘に故障が相次ぎ、『クローズドメイデン』が"疫病神"と呼ばれる一因にもなっている。
宝塚記念出走取り消し後は意気消沈し、本来の優しい性格も荒み、一時期は幻聴に悩まされるほどにまでなっていた。あれだけ喜んでいた勝負服は押し入れの奥底に捩じ込まれ、まともに歩けもしない自分の姿を情けなく感じている。
今は回復してきているが、自分がこうなった原因(と思い込んでる)であるクローズドメイデンを恨み、今回の凶行に至った。
好きなものはオウムガイ。幼い頃に買ってもらったオウムガイのぬいぐるみにノーチラスという名前をつけて大切にしている。 - 30二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 11:47:37
これは主人公
サイレントオナーズ、極度の肉離れにも関わらず全治6ヶ月で快方に向かっているのは名前の元ネタを思わせるしぶとさである
走りやノーチラスからするとナディアも入ってる子だな - 31二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 19:56:13
オウムガイのぬいぐるみなんてあるんですね
nuigurumi.buyshop.jp - 32二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 00:09:39
N-ノーチラス号はトップとも関連あるからね
- 33二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 07:26:14
朝age
- 34二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 16:35:36
保守
- 351着をねらえ!25/07/28(月) 22:51:35
「流石イリフネおねーちゃん♪」
イリフネがサイレントオナーズを見送っていると、後ろから抱き着く重みに半歩足が出る。耳元でささやかれた声がこそばゆい。
「もぉーソアラ~、見てたのなら助け船くらい出してほしかったのです」
「だってアンタ、気が付いたら飛び出して行っちゃってるんだもん。それに、こういうのはアンタの方が得意でしょおねーちゃん~♪」
「む~私はソアラのお姉ちゃんじゃなくて親友なのです!」
ダイナソアシーのイジりにむっとむくれるイリフネ。確かに、イリフネは大姉妹の長女であり、お姉ちゃんとしての自覚はもちろんあるが、親友相手にお姉ちゃん面もお姉ちゃん呼びもなんだかしっくりこないのだ。
「あ、あの先ほどは助けていただいてありがとうございました。なんとお礼を言ってよいのか」
二人の間、申し訳なさそうにクローズドメイデンが頭を下げる。いささか下げすぎな気もするが、丁寧なことはいいことだろう。
「いいのです、私は喧嘩が一番嫌いなので見過ごせなかっただけなのです。困ったり、悲しんでいる誰かのために、それが私のモットーなのです!」
ぽんと胸を叩くイリフネ。母に比べると無に等しい美乳が僅かに揺れる。
争いごと、悪口、喧嘩、そういうものにイリフネは目ざとい。それは多くの姉妹の仲を取り持つために磨かれたものでもあり、彼女の心情そのものである。この心情にのっとって誰も傷つかないうちに、誰も悪役にせず事態を収束させることがイリフネの処世術であり、その人格形成の大きな部分に彼女の母親の影響があることは語るべくもないだろう。
「…こういうことって今までもあったでしょ」
得意げに笑うイリフネの横、未だ目の前の黒薔薇の少女を信じられていないダイナソアシーは鋭い目つきで彼女を睨む。彼女の中の何かを見定めるような目に気圧されたクローズドメイデンはうなだれる様に首を縦に振った。 - 36二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 06:46:45
本当にペイバイちゃんの優しさを受け継いだ子なんやね
- 371着をねらえ!25/07/29(火) 16:14:54
「私も最初は偶然だと思ったんです」
クローズドメイデンの走ったレースで怪我人が出たのはクラシック期中頃からである。
とあるレースにてレース中に転倒し、骨折してしまったウマ娘が出た。誰もが彼女に対して憐れみと心配のまなざしを向け、同じレースを走っていたクローズドメイデンも転んでしまったそのウマ娘を心配して駆け寄り介抱した。今日のことが起こらないよう、神に祈ったクローズドメイデンであったが、彼女の次のレースでも同じように負傷するウマ娘が現れた。その次も、そのまた次のレースでも、彼女の前で多くのウマ娘たちが負傷し、レースの延期や棄権を余儀なくされていった。
最初はコースの管理が不十分であったことや、指導者であるトレーナー陣の問題によるところの大きい管理ミスによって引き起こされたものではないかという世間的な目が強かったが、ある日、1人のネットユーザーが「直近の負傷者が発生したレースの全てにクローズドメイデンが出走していた」という事実に気づき、これを発信すると瞬く間に世論は彼女を標的として見るようになった。
だが、現代のウマ娘レースに出場するウマ娘はURAによって手厚く保護されており、すぐさまに彼女に危険が及ぶといったことはなく、また大手メディアもこの問題を認知はしていてもそれを嬉々として発信するようなことはしなかった。
だが、ウマ娘レースの門戸は開かれすぎており、マスメディアに頼らずとも、一般民衆が彼女をネット上で愚弄しその悪評を誇張して吹聴するという悪意ある流れをだれも止めることはできなかった。その裏には負傷したウマ娘たちのファン、これからクローズドメイデンが走ろうとしているレースに出走予定のウマ娘のファンなど彼女がいることによってこれ以上自分の応援しているウマ娘に危害が加わることを恐れた者たちが多く、彼らはクローズドメイデンがこれ以上レースをしないことを望んでいた。 - 381着をねらえ!25/07/29(火) 22:22:27
ネットで言われ続けるのならまだいくらか自衛の方法はあったが、彼女がいるのはトレセン学園。より直接的な被害者の多いこの場所で、彼女が心安らかに暮らすことなどできるはずもなかった。自分と同じレースに出走し、怪我をしてしまったウマ娘たちから罵倒、罵声を浴びせられ「お前がレースを走る資格などない」とまで言われることもあった。
担当トレーナーもなんとかしようと頑張ってくれてはいるが、彼女が作ってしまった敵は人間一人でなんとかできる範疇をとうに通り越してしまっていた。
「そんな、酷い…そんなのあんまりなのです。学園は何か対策してくれなかったのですか!?」
イリフネの悲痛な叫びに彼女は首を横に振った。
勿論、クローズドメイデンに怒っている事態は学園にも報告済みで、学園上層部もそれを把握していた。そのうえで、現在の状況でクローズドメイデンを保護するような動きを取れば学園へのバッシング以上にクローズドメイデン個人に対しての攻撃がより狂暴化する可能性を過去の前例から否定しきれなかった。そのため、あくまで組織と個人という距離感を取りつつ、メンタルケアとレース出走登録について世間の影響を考慮しないという約束が学園のできるクローズドメイデンに害が発生しない最大限の対応であった。
「酷いことはたくさん言われてきました。私が走ることで不幸になる人がたくさんいるのも否定する余地もない事実です。誰にも傷ついて欲しくなんてありません」
その言葉を言うのに彼女はどれだけ自分の心を傷つけているのだろうか。スカートの裾を握る彼女の手がイリフネの目には痛いほど傷ついているように見えた。
「でも、もう一度、あと一度だけでいい…勝負服また着たいんです」
「絶対着れるのです!」
クローズドメイデンのうるんだ瞳から雫が落ちるよりも先にイリフネの手が彼女の肩を掴む。
「師匠が言っていました、『勝負服は心で着るもの』だと。GⅠレースに出るから勝負服を着るのではない、強い自分を解き放つために私たちは勝負服を着るのです。何故ならば!自分自身が折れず揺れずあきらめない限り魂は勝負服を着続けているのだから!」
実際には彼女の師匠からの受け売りであるのだが、そのまっすぐで力強い言葉は確かにクローズドメイデンの心を光照らしていた。 - 39二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 06:44:07
これはいいオマージュセリフ
「心に勝負服を持っている」は、アプリウマ娘のメインストーリー2部中編のラインクラフト復活劇を感じさせるね - 40二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 16:22:17
実際勝負服が変わると領域(固有スキル)の形も変わるからな
実際勝負服は心で着るというのはその通りなのだろうな
ましてスキルや感情の力が科学に落とし込まれたこの時空では - 411着をねらえ!25/07/30(水) 23:07:03
「貴方が優しいのは今日一日でよくわかったのです。優しさは強さ、貴方なら必ず勝負服をまた着れるのです。それに1度でもGⅠレースで走ったことがあるなんてとってもすごいことなのです!いやぁ憧れちゃうのです…私もいつか必ずGⅠに出て見せるのです!」
GⅠレースは全ウマ娘の憧れ。そういっても過言ではないほどの格と絢爛さを併せ持っている。毎年デビューしていく何千ものウマ娘たちはみなその高みを目指し、そして届かぬまま落ちていく。まず、勝ちあがることのできるウマ娘が全体の3割。OP戦、GⅢ、GⅡと才能と努力のふるいにかけられ、GⅠという舞台に上がることのできるウマ娘など全体から見れば極々一握りの存在だ。
1勝すれば一生の自慢、GⅠに出れば末代までの自慢なんて言葉もあるくらいだ。一度でもその高みに到達することのできたクローズドメイデンはまだレースに駆けだしたばかりのイリフネにとっては憧れの対象になりうるものであった。
褒めちぎるイリフネの言動にたじたじになっているクローズドメイデンにダイナソアシーが音もなく近づくと、彼女の耳元で囁く。
「さっき、お礼がどうとかって言ってたよね?」
「はい、なんとお礼をしたらいいのかと…断られてしまいましたが」
「じゃぁさ、あいつと一回レースやってくんないかな?」
突然の提案にクローズドメイデンの声から困惑交じりの気の抜けた声にもならない音が漏れる。つい先ほどまでクローズドメイデンの被害者がいたというのに、そんなことなど知ったことかという提案である。もしまた自身のせいで不幸が訪れ、今度はそれが助けてくれたイリフネに降りかかるかもしれないとなれば困惑せざるを得なかった。 - 421着をねらえ!25/07/30(水) 23:08:06
「いやさ、実はあいつ今年デビューしたばっかりのニュービー(新バ)なんだよね。まだ重賞の一つも出たことないらしいから、レースの世界の先輩として胸を貸してあげてくれない?イリフネもこの子とレースしたいよね~?」
「ん?なんかよくわかんないけどレースなら大歓迎なのです!たくさん強い人と戦って一日でも早くお姉さまに追いつくのです!」
イリフネ当人も状況を詳しく理解していないもののレースそのものにはかなり乗り気であり、こうなってしまってはクローズドメイデンも断るに断り切れず、結局短い距離ではあるもののレースをすることに決まってしまった。
「(ごめんねイリフネ。でも、あたしは真実を知りたいんだ。どうしてこんな虫も殺せなさそうな子が“疫病神”なんて呼ばれてるのか。その答えはきっとレースの中にあるはずだから)」
レースに純真無垢に喜ぶイリフネと表情の暗いクローズドメイデン。そんな二人の後ろを歩くダイナソアシーは黒薔薇の少女、その真価を見定めるため自慢の慧眼と眼鏡(を模した旧世代デバイス)を光らせていた。 - 431着をねらえ!25/07/31(木) 00:34:17
かくして、少女の思いつきで始まった野良レースは足への負担も考慮して芝、1000mの直線が選ばれた。クローズドメイデンの噂の真実の追求という側面もあるため、外部及び走行中のウマ娘本人が異常を感知した瞬間に強制的にレースを中断するという条件を事前に確認し合い、立会人を発案者のダイナソアシーが務めることとなった。
イリフネからは一緒に走ろうと誘われたが、彼女自身次のレースを控えており、トレーナーから野良レースは禁止というお達しを受けているため渋々という体で辞退となった。
さて、すでに始まっているレースでは逃げウマであるイリフネが先行する形となり、すぐ後ろをクローズドメイデンが追走している。スタート直後彼女を青い光が包んだのを見るに『集中力』の類のスキルを所持しているのだろう。名鑑で調べた限り彼女はここ最近は追い込みをメインにしているウマ娘、逃げを得意とするイリフネとのタイマンレースでは圧倒的に不利なはずだが、そこまで差を広げさせていないのは流石、GⅠ出走経験があるだけのことはある。ここから使用するスキルによっては未熟でスキルも習得できていないイリフネ相手ならば十分逆転勝利の可能性もあるだろう。
対してイリフネの方はどうかと言えば…
「軽いっ!軽いっ!体が滅茶苦茶軽いのです!!」
かつてないほどの手ごたえといつもよりも明らかに速く過ぎ去っていく景色にイリフネは圧倒的な高揚感を感じていた。いつもの重力に力で反発しシャカリキに足を動かす、空気が粘性流体であることを感じるようなあの感覚とは違う。体の底から力が沸き上がり何でもできるような万能感と全能感がよりスピードを加速させていく。
「まさか…まさか!私にもついに本格化が!」
ウマ娘には思春期頃に肉体の能力が飛躍的に向上する期間が存在する。『本格化』と呼ばれるこの時期は身体が急成長し、それに伴い身体能力も上がり、多くの場合はその力に万能感や全能感を感じるという。今自分に起こっているのはそれなのではないかとイリフネの胸が高鳴っていく。
足取りは軽く、胸は張り裂けそうなほどに高鳴り、澄み切った思考がキーンと唸り拾う音さえ彼女の感じる世界の速度から遅れていく。 - 441着をねらえ!25/07/31(木) 00:35:23
「…ップ!ストップ!ストォーップ!!」
つんざくような親友の声に我に返ったイリフネは急速にスピードを落としていく。ゴール板まであと数十メートルというところで完全停止したイリフネはむっと膨れるとぷんすか怒りながらダイナソアシーの元へと歩いていく。
「酷いのです!最高に気持ちよく走れてたのに!」
ぷりぷりと怒りをあらわにするイリフネであったが、親友の頬に大粒の汗が流れ、自信を見る眼が安堵に染まっているとなれば流石に何か異常が起きたのだと察することはできた。自分の感じていた高揚感という熱がすーっと冷めていく気持ちの悪さを感じながらも、ただならぬ様子の親友の言葉に耳を傾ける。
「イリフネ、あんた自分がどんな風に走ってたか覚えてる?」
「どんなふうにと言われても…すっごく走りやすくて本格化が来たのです!と喜んだのですが…ソアラの顔的になにか悪い感じっぽいのです」
イリフネが率直に話すとダイナソアシーは口元を押さえ「まさか…」「いやでも…」と思考の端から漏れ出た言葉を呟く。
「イリフネ、端的に言うけどあんたの走り方とんでもないことになってたよ。ストライドもピッチもいつも以上…いや、異常なくらい大きくて速かった。それにフラフラ体幹がブレてて、あのままだとあんた、確実に転倒してたよ」
「転倒!?」
イリフネ自身、体幹には自信がある方だったのだが、それが傍から見てもブレて危険な状態であったと言われればさすがに動揺の一つもある。あの高揚感がそうさせたのか、それとも一種の酩酊状態だったのか、今となっては確かなことは分からない。
「強力なスタミナグリード系のデバフだと思ってたんだけど、一体なんなんだ…」
真実を確かめようとしたのに余計に意味不明な状態になりダイナソアシーは大いに混乱していた。彼女たちの方へと手を振って駆けてくるクローズドメイデンの姿に、少しばかりの恐怖を感じるようになっていた。 - 45二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 07:26:04
これは厄介な固有スキル持ちか? 上げて落とすタイプの
ポケモンで言う「ちょうはつ」みたいな - 46二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 07:49:21
普通は「入る」ものである領域を「展開する」タイプの固有スキルの可能性もありそうだな
周囲に影響を与え本来その才能のない者ですら領域に手が届くところまで全体スペックを押し上げてしまう、みたいな
結果イリフネのような本格化前はそうなったように感じるし、
まだ未熟な者や大多数の器でない者はまだ出来上がってない体や才能ある走りがあるようにできていない体が崩壊を始めてしまう
とかそんな感じなのかな
紙一重だけど厳然な壁があって……みたいな子ならあるいは純粋に乗り越えるきっかけにできるんだろうけど、
領域に入れるやつが一握りを通り越して一つまみな以上そう言う子もまた一握りだからなあ - 47二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 17:33:29
使いこなすのが大変そう
- 48二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 23:38:07
プレッシャーを与えて萎縮させる、の反対の事をしている可能性……?
しかも反応からして意識的ではない……?
無意識に相手を上げて落とすデバッファーか。これにお姉さまはどう対応するのか - 49二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 07:22:47
- 50二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 16:51:58
聖鼻毛領域の方を先に思い出した
- 511着をねらえ!25/08/01(金) 22:15:08
謎が謎を呼ぶ帰り道、クローズドメイデンとも別れ寮への帰路に着いていたイリフネとダイナソアシーの二人は今日の夕食のメニューは何かと予想しながら、中身のない楽しい会話に花を咲かせ、校門まで通じる石畳の道にローファーの靴底を鳴らしていた。
メニュー予想が煮詰まり、ダイナソアシーの口からイワシのオレンジ煮なる珍妙なメニューが飛び出した頃、イリフネが急に立ち止まると道の脇へと小走りで駆けていく。何事かと後を追えば、ほとんど沈みかけ薄暗い夕暮れのなかで一人走る人影があった。
よく目を凝らして見えてくるのは、ふさふさ感のない根元でくっついていない円筒形の尻尾のようなものに、頭には耳っぽい何かのカチューシャを付けているこの学園で最も不思議なウマ娘──ヒビノミライであることが分かる。確かイリフネの話では彼女も毎日王冠に出走するようで、それもあってこんな時間まで一人で走り込んでいるのだろう。
「お~ね~さ~ま~!」
大きく手を振ってイリフネが呼びかけると、コーナーを曲がらずそのままこちらまでやってきた。相当に走り込んでいるはずなのに疲れの様子は見えず、額に汗の一粒も浮かんではいなかった。パリッとしている体操着からもそれが見て取れる。
「お姉さま、今日はどのくらい走ってたんですか?」
「今日は800週くらいかな」
目の前でウマ娘っぽくない不思議な少女と無二の親友が仲良くしている。その光景を見てダイナソアシーは言葉に表せないモヤモヤとした感情を抱え始めていた。嫌悪感などないはずなのにヒビノミライと仲良くしているイリフネを見ているとなんだか心が落ち着かない。
「こんな時間まで走り込みなんて熱心ですね。強者は驕らずってやつですか?」
だから少しだけ、意地悪な物言いをしてしまった。
「強者とかはよくわからない。私は皆のように“努力“して勝ちたいだけ」
だが当のヒビノミライはきょとんとしていて、それが余計にダイナソアシーのモヤモヤを加速させる。どうしてこんなフワフワしてる奴にイリフネは心底傾倒しているのだろうか。考えるほどに目の前の美術品のごとき美しさの少女にイライラとしてくる。
それが『嫉妬』であるということを自覚できるほどダイナソアシーはまだ大人ではなかった。 - 52二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 22:24:24
「皆のように」のニュアンスが違いそうなやつ
- 53二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 07:50:25
保守
- 54二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 12:06:41
メンタル面での成長も描かれていくかな
- 551着をねらえ!25/08/02(土) 21:32:14
それから幾日かの時間が流れ、時は10月初旬。毎日王冠が開催される東京レース場には多くの人が駆け付け、賑わいを見せている。
観客たちが集まる観戦席の下、選手たちの個別の控室ではレースに参加するウマ娘たちが招集時刻を今か今かと待っていた。緊張をほぐすために軽口を言い合う者、レースの作戦を最終確認する者、精神を統一している者、この時間をどうやって過ごすかはウマ娘とトレーナーによって大きく異なる。
ヒビノミライの場合はどうかというと、大人しい彼女には似合わず、控室には騒がしい声が響いていた。
「お姉さま!頑張ってさい!」
ぶんぶんと手を振って応援するイリフネは相変わらずで、ムーバはその後ろからファイト☆と手慣れた様子でエールを送る。視線を動かし、コーチの方を見ると、こちらもいつもと変わらずといった様子でグラサンの奥に隠れた瞳は表情を悟らせてくれない。
「行ってきます」
「…気をつけてな」
一方その頃、別の控室では…
「神様、仏様、シラオキ様!どうかこのレースでは何も不幸なことが起こりませんように~!」
全身を開運グッズと厄除け、魔除けグッズで固め、渾身の祈りを捧げる自身のトレーナーにクローズドメイデンは若干苦笑いを浮かべていた。体質かはたまた因果か、クローズドメイデンとレースに関する不幸に本人以上にトレーナーも悩んでいた。お祓いやお経等やれることはすべてやってみたが、とんと効果がないのでついには聞いたこともない神様にまで手を出し始めたらしい。
『“優しさ”は“強さ”、貴方なら必ず勝負服をまた着れるのです!』
胸に手を当てれば蘇るあの眩しいほどに明るい声。力強く、だけど優しく自分の願いを肯定してくれるその言葉を今一度胸にしまい、闘志を燃やす。
「私、勝ちたいです。もう一度、勝負服を着るために…だからトレーナーさん、私のこと見守っていてください」
トレーナーの瞳が震える。あれほど世間からバッシングされ、満足に守ってあげることもできず傷ついてしまった担当が、昔のように純粋な希望を目に浮かべ、未来のために走ろうとしている。何が彼女を変えたのか、それはトレーナーには分からない。だが、前を向き始めた教え子がらしくもなくお願いをしてきたのだ、これに応えなくして何がトレーナーか。
「もっちろん!特等席で見守ってるから、安心して走ってきて!」 - 56二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 01:00:35
いよいよレースだな……!
クローズドメイデンの異常性の正体、そしてお姉さまの走り、スキル主体の未来のレース……
見どころはたくさんあるぜ! - 57二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 08:10:59
保守
- 581着をねらえ!25/08/03(日) 10:40:50
地下バ道を抜ければ見えてくるのは澄み渡る秋晴れの空。きっと目一杯に深呼吸すればとても清々しいのだろう。そう思うほど、何度見てもレース前のこの景色は素晴らしいものである。張り切りすぎて一番に飛び出してしまったが、振り返れば続々とレースに出走するウマ娘たちがコースに現れ始め、皆観客たちの声援を浴び、それにこたえるように手を振ったりポーズを決めたり、学校で習ったファンサービス精神をいかんなく発揮し、それに魅せられたファンたちのボルテージも高まっていく。
そんな少女たちの晴れ舞台で輝く姿に見惚れていると、1人遅れてやってきたウマ娘が一人。ターフへと足を踏み出す直前、立ち止まって深呼吸をすると決心したように光あふれる場所へ踏み出す。
「帰れー!」「また壊しにきたのかー!」「疫病神!」
しかし、世間の目は厳しいままで、少女に向けるには似つかわしくない罵詈雑言の嵐はそのまま彼女が超えなくてはならない壁として、深い影を落とす。誰かが彼女を擁護したり、励ます言葉をかけようとしても悪意の大合唱にはさざ波の音はかき消されてしまう。
それだけではない。毎日王冠に出走するウマ娘たち、その多くもクローズドメイデンの出走には好意的ではなかった。このレースは秋のレースの玄関口・登竜門的側面があり、ここでいい成績を残し弾みをつけたいと考えるウマ娘は多い。このレースに夢への飛躍が大きくかかっているウマ娘も少なくない。だからこそ、事故や怪我を呼び込むと噂のクローズドメイデンには言葉にせずとも快く思わない感情が態度や視線から漏れ出てしまっていた。
誰の助けも得られないターフの上を一歩歩くたびにうなだれていく頭の中でクローズドメイデンは先ほどの気丈な心持から一変、「こうなるのなら出なければよかった」と弱音が顔を覗かせ始めていた。
このバッシングの嵐にさすがのヒビノミライも見て見ぬふりはできないと彼女に歩み寄ろうと近づく。その手が彼女の肩に触れようかという時、レース場全体に響く高笑いが観客も出走するウマ娘たちの視線をも奪い取る。 - 59二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 10:42:43
第三の人物!?
- 601着をねらえ!25/08/03(日) 10:43:25
「driiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!!!」
特徴的な笑い声にその主を探せば、いずこから飛び出してきた影が一つ。
頭の正面にドリルの装飾をあしらい、鋭い角形の目がビコンッと異彩を放つ。体操服姿にドリル戦車のようなフルフェイスの黒鋼の仮面をかぶったその人物は一見しなくても不審者なのだが、後方に鋭角に伸びた耳を納めるための装飾と数字の書かれたゼッケンが彼女を『ウマ娘』として何とか定義している。
「君は…」
「ついに見つけたぞヒビノミライ!ここであったが1万と2千年、このマスクドウマ娘界に輝く暁の星、まさか忘れたとは言わせないリル!」
そういってヒビノミライが何か言う前にまくしたて得意げに腕を組んで仁王立ちを決め誇らしげな様子の謎の覆面ウマ娘。みなポカンとしていたが、ヒビノミライだけは違っていた。
「久しぶりだねグレンラセツ。前に一緒に走ったシンザン記念はとても楽しかった。また一緒に走れてうれしい」
「──!やっぱりおぼえてくれたでスパイラル!流石我が終生の好敵手…って違う違う!なにを喜んでラセン!奴は突き抜けるべき壁リル…」
ヒビノミライの言葉に感激したのか、仮面の上からでもわかるくらいに喜ぶ様子を見せるグレンラセツと呼ばれたウマ娘は1人問答を繰り返し、仕切り直すようにわざとらしく咳をする
「ともかく今日のレース、勝ちは絶対に譲らないリル。正々堂々真剣勝負だリル!」
そう言うとグレンラセツは踵を返して発バゲートへと向かっていった。嵐のように現れ、嵐のように過ぎ去っていったが、図らずともクローズドメイデンへのバッシングはやたらと目立つドリル仮面のウマ娘の話題へとシフトし、スタートするまで彼女への罵倒でレース場の空気化が悪い方で一体化することはなかった。 - 61二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 10:48:01
ろ、露骨にロボだコレ――!!!
- 62二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 20:15:58
やはりライバルはガイナックス縛りなのか……!
- 63二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 23:49:55
このレスは削除されています
- 641着をねらえ!25/08/03(日) 23:51:07
『出走する全ウマ娘ゲートインしました。──スタートしました』
鉄製のロックが外れ重々しい解放音と共に一斉にウマ娘たちが飛び出すと共にほぼ全てのウマ娘の体から青いオーラが一瞬輝き、レース場の観客席向正面の電光掲示板には各ウマ娘が発動したスキルが表示されている。
現代のレースにおいて重賞レースではお決まりの光景となっているこれは所謂『集中力』『コンセントレーション』といったスタート用スキルの発動を示すものであり、現代のレースを青に始まり青に終わるなんて言うこともある。それくらい現代ではポピュラーな光景であり、むしろスタートというレースの勝敗に直結するような大事な要素に対して何の補正も持たないという方が珍しいのである。
だがしかし、どこにでも例外はいるということで団子状から徐々に縦長へと変わっていくバ群のはるか後方、ポツンと1人グレンラセツ。
「上出来上出来!今日のスタート40点!」
気丈に振る舞いシャカリキに足を動かす彼女。実は大のスタート下手であり、担当トレーナーとのトレーニングやスキル獲得訓練によって必須となる序盤用のスキル、特にスタート関連は習得しているはずなのだが、彼女の持つ不思議な因果故かほぼ100%の確率で出遅れてしまうのだ。今日もいつも通りの出遅れ癖を発動し、彼女の担当トレーナーは観客席で頭を抱えていた。
グレンラセツを除くと実質の最後尾、後方集団にてクローズドメイデンとヒビノミライの姿があった。先頭を行く逃げウマ娘はそこまでトップスピードに自信のあるタイプではないようでレース展開は非常に平坦であり、何か動くとしても最終盤でどうかといったところ。足をためやすいので後方のウマ娘にとってはありがたい状況であるが、徐々に形が整えられていくバ群において異様なプレッシャーを受けるウマ娘がいた。
そう、クローズドメイデンである。皆、自身のレースに集中はしつつも彼女が何かしでかすのではないか、また事故が起きるのではないかと心の中では恐怖し、彼女に敵意を向けていた。それは1人1人ではそれほど強いものでもないが、こうも集まってしまえばピンポイントな『牽制』となり、彼女の足を鈍らせてしまう。
10人以上のプレッシャーとそれによるデバフ、それを一身に受けるクローズドメイデンの額にはすでに汗が流れ始め、乱れた心は安定を忘れ『掛かり』出し、彼女からスタミナを奪い去っていく - 65二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 06:46:02
なるほど、ほぼアプリ版のレースの様子がそのまま見えているというわけか
- 66二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 12:40:08
保守
- 671着をねらえ!25/08/04(月) 13:22:20
なんでこんなことになったんだろう
勝ちたいはずなのに、励ましてもらったはずなのに、なのに実際はこんな体たらくだ。勇足で踏み出したターフの上で万人から否定され、走ることを望まれすらしていない。当然だ、だって私が走れば走るほどそれだけ多くのウマ娘が不幸になっていくのだから。
それでも私は勝ちたいと思っていた。勝負服に再び袖を通すことを望んでいた。誰かに望まれずとも自分のために走ろうと、そう思っていたはずなのに。
ゴールが遠い。体はまるで蛇に睨まれたように動きが硬く、フォームだってブレ始めてスタミナを余計に消費してるのは誰の目から見ても明らかだろう。
これでは走っている意味がない。
レース展開に絡むことも掲示板に入り人を驚かすこともない、レースの脇役A。輝く一等星を引き立たせるためのバックダンサー。いてもいなくても誰も気にしない。むしろいない方が喜ばれる。それが私──クローズドメイデンというウマ娘の現状。
疫病神と疎まれ、誰にも必要とされず、レースを"諦める"という不義理さえ働こうとしている。そんな事、許されるはずがないのに。
『わっ……わたじも゙っ゙……がぢだがっ゙だ……』
嗚呼、神様。こうなるのならもう高望みなんてしません。勝てなくていい、目立たなくていい、添え物として走らせてくれればいい。
栄光も名誉も私には怖くていりません。だから、せめて共に走る皆は、光ある場所で輝くべきウマ娘達に何の不幸も何の悲しみも与えないでください。
情けない、懺悔ですらない弱音が口の端を震わせ、視界をぼかしていく。
「そうか、君の心を曇らせている正体はそれか」
その声に横を向く。隣を走るウマ娘はまっすぐ前を見ている。だが、その瞳の銀河が私を見つめていた。 - 68二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 22:13:45
保守
- 69二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 06:55:04
ヒビノミライお姉さま!?
曇らせの対局に位置する「晴れさせ」属性なのか!? - 70二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 15:05:10
このレスは削除されています
- 71二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 21:12:27
シュインシュインスキルが出てきてると思うと面白いな
- 721着をねらえ!25/08/05(火) 22:31:51
「“恐怖”、“動揺”、“諦観”、“重圧”それらが君の“楽しい”、“勝ちたい”という思いを覆い隠している」
全てを見透かされているようだった。視線が交錯しているはずがないというのに果てしなく広がる彼女の瞳の銀河は確かにこちらを見て心を覗き見ているようなそんな薄気味悪さがある。
そして、彼女の言葉は紛れもない真実で、言語化できないクローズドメイデンというウマ娘が抱える現状を端的に、そして気味が悪いほど正確に言い当ててくる。彼女は本当にウマ娘なのだろうか。初めて会った時からうっすらと感じていた違和感、普通のウマ娘とは違う、だがそれは一部のウマ娘が持つスター性というものでもない、もっと根源的な決定的な違いのようにも思える。
その違いがクローズドメイデンの心にある真実を読み取っているのなら彼女はよほどの超能力者か、はたまた神か悪魔の御使いか。その答えはクローズドメイデンの中には存在していないが、黒薔薇の少女の答えはすでに銀河輝く瞳の少女の手の中にあった。
「そうか、君は…」
レースは間もなく第三コーナーの中間地点を超えるころ、下り坂で加速したバ群は槍のように緑の大地を疾走し、4コーナーの後に長い直線の待つレース後半へと差し掛かろうとしていた。
「負けた者の怨念に圧し潰されてしまったのか」 - 73二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 06:40:03
もう3スレ目だけど、未だにヒビノミライの底が知れないな
ウマ娘からかけ離れているはずなのに、レースの事を劇中で最も知り得ている - 74二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 15:09:02
このレスは削除されています
- 75二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 18:02:36
- 76二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 00:02:14
メイショウさんのところも、あれだけ馬がいる+冠名5文字だから4文字以内でやりくりするってなると、そのうち本当に出てくるかもしれないな
- 77二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 00:35:42
宇宙ウマソウル説と「罅の未来」と書く未来人説と両方説あたりが浮かんだがどれも違うような気がしないでもないヒビノミライの出自
- 78二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 09:46:55
人名としても成立するし、「転生してきた元人間」なんて可能性もワンチャン?
- 791着をねらえ!25/08/07(木) 15:32:54
クローズドメイデンはさして特別な存在ではなかった。
トレセンではそれほど珍しくもない小金持ちの家庭に生まれ、成績は平々凡々、専属の担当トレーナーは着いたが少女漫画のようなイケメントレーナーではなく、そばかすと丸眼鏡の似合う芋ジャーの女トレーナー。珍しくもない、学園で石を投げればそれなりの確率で該当する人物に当たるようなそんな背景の人物であった。
そんな彼女には夢があった。それは幼少期に見たウマ娘たちのような煌びやかな勝負服を着ること。彼女は特に絢爛さを売りにするクラシックティアラ路線のウマ娘たちの煌びやかで華やかな勝負フックに憧れていた。多くのウマ娘たちがそうであるように彼女もまた憧れの自分になるため彼女はトレセン学園へとやってきた。
しかし、レースの世界はそう甘いものでもなく、メイクデビューでは惜敗、その後2度の未勝利戦を経てようやく勝ち上がれたのはクラシック期の春、桜花賞もオークスも終わっていた。だが、ティアラ路線にはもう1つのレース「秋華賞」が存在している。秋華賞に目標を定めた彼女は秋華賞の前哨戦に当たる「ローズステークス」の出走を決意、幸運にも出走枠に入ることができ、そのレースで劇的とはいかないまでも勝利することができた。
飛び跳ねて喜んだ。これで夢の勝負服を着ることができる、夢を叶えることができる。まさに人生の絶頂、世界の全てが輝いて見える幸せの渦中。その幸せは背後ですすり泣く声で現実へと引き戻される。
「わっ……わたじも゙っ゙……がぢだがっ゙だ……」
栄光の光を浴びる彼女の背後、光当たらぬ夢破れた少女たち。クローズドメイデンと同じく夢を抱き、憧れをかなえるためトレセン学園の門を叩き、血のにじむような努力の果てにレースに立ち、そして負けた。
彼女たちの多くはクローズドメイデンのように秋華賞出走のためにこのレースに出走したはずだ。だが現実は彼女たちは負け、クローズドメイデンが勝った。夢の舞台に出られる者とそうでない者、ただそれだけの違い。
しかし、クローズドメイデンの目には違って見える。順風満帆だったレース人生ではない。少し何かが違えば今涙を流しているのは自分だったかもしれない。そう考えると、負い目という傷が腐り始め罪悪感という弱さが顔を出し始める。まるで自分が勝ったからこんなことになっているのだとそう突きつけられるようなそんな感じがした。 - 80二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 16:03:50
> 血のにじむような努力の果てに
酷な話だがにじむ程度では足りない世界なのだなあ……
(あくまで例えとして)爆散する程の努力が求められる修羅の世界がレース道よ
- 811着をねらえ!25/08/07(木) 17:59:18
「可愛いィ~!」
その罪悪感は勝負服を着るとより重く感じられた。
自分の望んだ純白の勝負服。たくさん悩んで好きなものをたくさん入れて、いろんな人に相談してできた世界で1つだけの自分だけの勝負服。
だけど今はその白がくすんで見えて、頭の中ではあの時の光景がずっとループしている。
褒めてくれるトレーナーに対しても作り笑いでしか答えられなかった。
レースの最中であってもそれは変わらない。やっとたどり着いた夢の舞台、それなのに足取りは重く表情は暗い。目の前には同じ戦場で戦うウマ娘達、彼女たちも自分と同じように夢と憧れを追いこの場所に立っているはずだ。その決意と意思は強く、だからこそゴール板の向こう側にあの時の景色が広がっているのではないかと未来に怖気づき、汗が一粒額から零れ落ちる。
私以外のウマ娘が私よりも強かったら、こんな気持ちにはならないのだろうか。
レースが終盤へと差し掛かろうとしていた。クローズドメイデンは未だに最後尾でくすぶっている。
もし、勝てなかったとしても誰か一人を追い抜けば自分の後ろには負けた者が生まれてしまう。そう思えば思うほどに集団との距離は遠くなっていく。彼女たちには羽が生え、自分には鉄球の重りでもつけられているようで、軽やかに走り抜ける彼女たちに羨望すら感じる。
もし、あの景色を忘れることができたら、あの景色を乗り越えられるほどに自分が強かったら私もあのウマ娘たちと同じように翼はためかせ、踊るように走ることができるのだろうか。空想すれど、現実は勝者へ向けられる重圧に屈し、心が折れかけてしまっている。
勝者故の苦しみ。今まで経験したことのない痛み、象徴たる少女たちの涙が津波のように襲い掛かり魂ごと水底へと引きづっていく。
だが、クローズドメイデンの地獄はまだ始まったばかり。
最終コーナーを先頭集団が回ったその時、トップを走るウマ娘が転倒した。 - 821着をねらえ!25/08/07(木) 22:46:01
歓声が悲鳴へと変わっていく。常軌を逸した1ハロンタイムが出ている中での転倒。足の制御がきかなくなりもつれるようにして膝から転倒してしまったウマ娘はターフの上で蹲っていた。皆が動揺しどうなっているんだと騒ぐ中、レースの終了と共に救助隊が駆け付ける。レースを終えたウマ娘たちも心配そうに転倒したウマ娘を囲み、その中にはクローズドメイデンの姿もあった。
担架に運ばれるウマ娘は膝あたりから出血しており、土汚れと血で真新しい勝負服を真っ赤に染め、苦痛とレースを完走できなかった悔しさに大粒の涙を流していた。つい先ほどまで元気に走っていた彼女とは同一人物と思えないその姿に、誰もが息を飲み、言葉を失っていた。
周囲と同じくかける言葉を失ったクローズドメイデンはせめてもと、どうか彼女が一日でも早く健康になれますようにと心の中で祈っていた。
しかし、次に彼女が出走したレースでもまた怪我人が現れた。
その次も、そのまた次も…クローズドメイデンが出走したレースからは必ず怪我人が出る。その事象は噂となって急速に広まっていく。悲しむ者、嘆く者、人々の反応はさまざまであるが、一番悲嘆に暮れていたのは誰でもないクローズドメイデンであった。
当然のことである。毎回、出走するたびに目の前で事故が起こり続け、同年代のウマ娘たちが涙と共にターフを去っていくのだ。それを毎回見せつけられることが10代半ばの少女にとってどれほど精神的に苦痛なことであるか、筆舌に尽くしがたいだろう。
勝ったことへの罪悪感、壊れていくライバルたちを見続ける喪失感と精神的負荷、この二つがいつしか彼女から笑顔を、夢を奪っていってしまった。 - 83二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 23:33:27
やっぱりG1で発生したのがここまで広まった一因ではあったんだな
というよりこの時が災いの始まりであったから気付く者が多く急速に広まったというべきか
このクローズドメイデンの認識が周囲に本来の資質すら超えて飛翔させる力を不随意に流し込むかのような力に繋がったんかしら - 84二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 07:29:27
- 85二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 16:46:59
本人は何もしてないのに恨まれるのは辛い
- 861着をねらえ!25/08/09(土) 00:21:40
芯を捉えたヒビノミライの言葉にクローズドメイデンは言葉を返せない。
今でも彼女はあの悪夢に囚われ続けている。それは紛れもない真実であり、どうしようもない現実であった。
レースで負かしたウマ娘の姿を見て心を病んでしまうウマ娘は少なくない。10代という精神的に不安定な時期であること、他のスポーツに比べ世間の注目度も華やかさも1人だけが光の中に立つことを許される残酷すぎる構造、競い合い、そして夢を奪い奪われるのが同じ学園の仲間であるということ、それら全てが負の要素のみで構成されているわけではないが、ネガティブな方向に転びやすいのもまた事実である。
「負けた者たちの怨念に負けた」
ヒビノミライが言うようにどんなものであれ、勝者は少なからず敗者の怨念を背負っていくものである。それはより強いものへと託された願いであったり、純粋な恨みでもある。それらを背負いながら勝者は進まなければならない。それが勝者になった者の責任であり、散っていった者たちへの手向けでもあるからだ。
だが、それを抱え込める上限は人によって様々だ。1人分でさえ耐えきれない者、何人だろうとかまわず背負い込んでなおも強く光り輝く者。クローズドメイデンは前者側であった、ただそれだけのことなのだ。
「…あの日のこと、今でも思い出します。私の背後に座り込んで首を垂れる子たちの姿が。絞り出すような願いの悲鳴が」
あの日からクローズドメイデンはずっと悩んでいた。レースに勝ってしまったこと、それが他人の夢を潰すことになってしまったこと。心根の優しい彼女は誰にも不幸になってほしくなかった。自分の周りの人には常に幸せでいてほしいし、レースをすれば多くの人が喜んでくれるとそう信じていた。自分の走りで誰かを、あの日の自分のように笑顔にできたらと、そう願っていた。
だが実際は自分が勝ったせいで不幸になった人がいて、自分が走ったせいで悲しみに暮れる人たちがいる。なら自分はいったい何なのか、不幸を振りまきながら走ることが本当にウマ娘に求められていることなのだろうか。
「私が勝ったのは悪いことだったんでしょうか…」
集団の速度がまた上昇した。傍から見れば世紀の高速レースに観客は大興奮。その歓声がより彼女を除け者にしていく。 - 87二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 08:50:20
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- 88二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 17:51:46
保守
- 89二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 23:55:27
現実の競馬でも事故レース後の空気の察しあいっぷりはね……
お姉さまはなにか察しているようだが、どう出るんだろう - 90二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 09:22:16
帰省シーズンに入ったからまとまって更新くるかなぁ
- 91二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 17:26:47
ダービー勝ったルート後のキング状態のさらに強いやつか
- 92二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 00:38:02
前シリーズからこのスレ主の曇らせ設定づくりは徹底している。その分、晴れたときが際立つのよ
- 93二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 08:43:35
保守
- 94二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 18:20:48
しっかり晴らして欲しいですね
- 951着をねらえ!25/08/11(月) 22:46:27
「あの人が言っていた。レースは誰しもが命を懸け本気で走っていると」
クローズドメイデンの発した弱音。それにこたえるようにヒビノミライの透き通った声が響く。
「本気だからこそ敗者の怨念や恨みを背負って勝者は戦い続けなければならない。それが勝った者の定めだと」
世の勝負事には必ず勝者と敗者が存在する。勝ち負けを決めることが勝負なのだからそれは当たり前のことであり、当たり前であるがゆえにそこにある責任を見逃されがちである。勝者になるということ、それはすなわち、自分以外の人間の屍の上に立つことと同意義であり、彼らの努力や夢を塗りつぶし奪い去ることに違いない。
そうなれば、負けた側が少なからず勝者に対して思うことがあるのは仕方のないことと言えるだろう。
「私は多くの者が競争に敗れ、散っていくのを見た。そこに恨みや怨念というものは確かにあったがそれは“願い”だった」
だが、その“怨念”は裏を返せば“願い”でもある。自分に勝ったのだからいい結果を残してほしい、自分はこんなすごい奴と戦ったんだと誇れるような奴になってほしい、自分の分まで頑張ってほしい、それは機体でもあり、敗者が勝者へと抱く希望でもある。
自分を負かした者が輝けば輝くほど敗者の輝きもまた増していく。怨念を背負った勝者の道程が、そのまま敗者たちの輝きの歴史となり、その存在を肯定する。
敗者が向ける勝者への期待、それは傍からみれば可笑しな光景に映るかもしれないが、勝負の世界で戦う者たちは今までもこうして思いを繋ぎ、願いを託しながら走り続けてきた。そのバトンを渡された者の中に、クローズドメイデンもいる。
「……」
その通りだと思った。結局のところ怖かったのだ。自分の夢を叶えるということは他者の夢を踏み潰すことだという当たり前の現実に向き合う勇気がなかった。誰にも不幸になってほしくない、“私以外”の全員が勝者になってほしい、優しさを言い訳にした『逃げ』ばかりして、本当に目を向けるべきことから目を逸らし続けていた。自分の憧れ、夢を自分自身が一番汚していた。
「私は…」
「Driiiiiiiii!その壁、掘穿つリル!」
クローズドメイデンが何か言いかけたその時、彼女とヒビノミライの間を黒い螺旋が駆け抜けていった。グレンラセツのドリル仮面が紅く目を輝かせる。 - 961着をねらえ!25/08/11(月) 23:51:37
『さぁ、先頭集団が間もなく最終コーナーに入ろうかというところ、最後方からグレンラセツ!グイグイ追い迫ってくるぞ!』
ウマ娘にはそれぞれに適正となる脚質がある。例えば“異次元の逃亡者“の異名を持つサイレンススズカは『逃げ』を得意とし2番手以降を大きく突き放すその走りは時に『大逃げ』とも呼ばれる。そして数ある脚質の中でも特に豪快でヒロイック性の高いのが『追込』である。終盤にバ群の後ろから全てのウマ娘を抜き去って勝つこの走り方は、爆発力と瞬発力、よく伸びる末脚があって初めて完成するどちらかと言えば才能が必要なタイプの走り方だ。有名どころで言えばゴールドシップなどがこれに該当するが、その豪快さと最後まで足を貯めて、最後の最後にすべてを蹴散らすその走り方はヒーローの逆転劇そのものでもあり、非常に人気の高い走り方でもある。
グレンラセツは後半での爆発力に非常に秀でたウマ娘であり、どんなに出遅れてもし全てを捲り上げて勝つそのレーススタイルに魅せられファンになる人も多い。頭の可笑しな黒鉄ドリル仮面さえなければもっと人気の出るウマ娘に成れたかもしれないが、この仮面こそが彼女のアイデンティティ、この仮面があって初めてグレンラセツというウマ娘は完成するのだ。
「穿孔!穿孔!穿孔ォ!何度躓き出遅れようと、意地が支えのレース道!前が壁なら無理やり通る!道がなくても貫き通る!!命の螺旋が真っ赤に燃える!!!見ろ!これがグレンラセツのレース魂だァァァ!!!!」
瞬間、レース場、画面越しにレースを見る者、その全てが幻視する。煮えたぎる活火山、噴き出すマグマ、咆哮する大地、その中心で壁を山を天を超える一条の閃光。はためく衣服は魂の装束、ここにない未来をつかみ取るための幻想(ヴィジョン)。それは一瞬ではあったが確かに人々の心に刻まれる。
「これが『固有スキル』…!」
観客席で観戦していたイリフネは今の瞬閃の光景に目を輝かせていた。ウマ娘が持つ魂の力『スキル』。その中でも、限られた者のみが持ち、女神が微笑んだその瞬間に訪れる数刻の奇跡。それを生でしかもGⅡレースで見られたとあっては興奮もやむなしである。
その証拠にイリフネだけではなく、観客席の全員がグレンラセツの走りに目を奪われていた。 - 97二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 00:02:20
> 限られた者のみが持ち、女神が微笑んだその瞬間に訪れる数刻の奇跡
ほぼほぼ領域入りと同様の扱いっぽいな
これはクローズドメイデンが引き起こしてるおそらくは彼女の魂の特性と何か関係がありそうか
それにしても元ネタから来ている啖呵が熱すぎてそれでもう面白い
- 981着をねらえ!25/08/12(火) 00:14:15
魅せられているのは観客だけではない。彼女の魂の輝きを間近で見たウマ娘達もまた視線が彼女へと向けられていた。固有スキルが見せる世界はウマ娘の魂の形そのものだと言われている。走る力を魂から引き出しているウマ娘にとって、他者の魂の形に触れるというのはそれ相応に大きな意味を持つ。
クローズドメイデンもまた、グレンラセツの輝きに目を奪われていた。それと同時に今の自分の現状がどうしようもなく情けなく思えてしまう。周囲の視線がグレンラセツへと向き、結果として彼女への圧が無くなり安堵を感じていることもそれを増長させていた。
「どんなウマ娘であっても光輝けると私は信じている。私が憧れたウマ娘というのはそういうものだから」
たった一人、クローズドメイデンと向き合うヒビノミライは言葉を紡ぎ、その瞳の銀河が確かにクローズドメイデンの中にある“何か“を見つめている。
「あなたは勝つことが怖いと言った。だがそれは勝つことそのものを恐怖しているのではない。勝つことで背負う怨念が増えることを恐れている。だが、レースの世界に生きることを決めたのならば、“怨念”という“願い”を託されて今ここにいるのならば、その義務を果たさなくてはならない。それが勝者が唯一することのできる敗者への報いだから」 - 991着をねらえ!25/08/12(火) 00:15:18
あの日と同じ思いをしたくないという“恐怖”、走るほどに不幸をばらまき続ける現実への“動揺”、自分以外の誰かに勝ってほしいという“諦観”、自分の起こしたことによる世間からの“重圧”、クローズドメイデンを縛るこれらは彼女が負けた者たちから向けられたまなざしを正しく受け止めきれずにいたことによって、彼女を縛る鎖となっていた。
だが、それらは本来、一歩先へ進んだ彼女への願いのバトンであり、その重みに驚いてしまっていただけなのだ。もし、落としてしまったこのバトンをもう一度、拾い上げてもいいと赦されるのなら──今度こそ、願いを受け取れるだろうか
「怖いのなら逃げてもいい、あなたの決断を非難するものはいないだろう。だけど傷ついてもあなたの輝きはまだ消えていない。もしまだあなたの中にある光が輝きを失いたくないというのなら、あなたを、あなた自身を信じて」
もうずいぶんと突き放されてしまったグレンラセツの後姿がとても眩しい。それは彼女がいつの日にか憧れたあのウマ娘たちの持つ輝きと同じだった。
今走りだせば、今追いつけば私も輝けるだろうか。あのウマ娘のように自分を信じることができたのなら…。
「私を信じる…」 - 100二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 07:37:15
このレスは削除されています
- 101二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 16:54:23
扉が開きそう
- 1021着をねらえ!25/08/12(火) 23:11:24
「頑張れー!」「お姉さまもメイデンさんもどっちも頑張れ!」
項垂れるクローズドメイデンを貫くような声が飛んでくる。ハッと振り向けば観客席から身を乗り出しそうになりながら声を張り上げるイリフネやトレーナーの姿があった。
『絶対着れるのです!』
思い出す、あの少女の力強い声。思わず吐露した心の声を彼女は強く肯定し、必ずできると背中を押してくれた。まだ走りだしたばかり、その瞳は遥か未来を見つめていた。きっと、クローズドメイデンもいつかの過去に輝かせていた瞳と同じ色。
「信じることは怖いです。私は“疫病神”で不幸を振りまくウマ娘だから」
何度も否定されてきた、何度も罵詈雑言を浴びせられてきた。仕方がないと思っていた。それは事実だから、変えようのない現実だから。自分がいることで誰かが不幸になる、黒い薔薇の凶兆のウマ娘。
だけど、そんな自分を救い背中を押してくれる人たちがいた、肯定してくれる人たちがいた、立ち上がるために手を伸ばしてくれる人がいた。
「でも、だからって…この魂、腐らせたくなどありません!」
『師匠が言っていました、『勝負服は心で着るもの』だと。GⅠレースに出るから勝負服を着るのではない、強い自分を解き放つために私たちは勝負服を着るのです。何故ならば!自分自身が折れず揺れずあきらめない限り魂は勝負服を着続けているのだから!』
彼女は言った、諦めなければ魂は勝負服を着続けているのだと、強い自分になるために勝負服を着るのだと。
なら、諦めてはいけない。もう一度勝負服を着るため、魂の勝負服を脱いではいけない。
「私はもう逃げません!勝ちたいというこの気持ちからも、繋がれた願いのバトンも!全部‼」
足を手を頭を全身を動かす。停滞していた時間を動かすように錆びついた鎖を引きちぎり、傷だらけの手で鍵を開ける。瞬間、差し込む光に手招きされる前に塞ぎ込んでた部屋の扉を開け放ち飛び出す。
「私は、私の弱さごと抱きしめて見せる!」
その瞬間、少女の世界は再び花開く。咲き乱れる薔薇の花園に白と黒の色を持つ薔薇が一凛、静かな笑みを浮かべ世界の全てを包み込む。その身包む輝く白い衣はクローズドメイデンというウマ娘の魂の輝き。純白の煌めきに黒が華やかに彩りを与える。
少女の魂は今、再び勝負服を身に纏う