【閲覧注意🎲・SS】続・ゾンビ映画を作ろう

  • 11◆wrMSm.CxZiIw25/07/22(灍) 23:31:49
  • 2二次元好きの匿名さん25/07/22(灍) 23:34:36

    【登場人物】

    主人公:千奈
    恋人:ことね
    仲間達:星南、麻央、莉波、手毬、美鈴、あさり
    援助:邦夫(十王財閥)

    死亡:咲季、リーリヤ、清夏、燕、学P、Daトレーナー、Voトレーナー

    失踪:広、佑芽

    未登場?:Viトレーナー、倉本財閥、優


    現在学Pとアイドル達は、自主制作したゾンビ映画の試写会を行っている。そのためどんな惨劇があろうとも、どんなグロ描写が入ろうとも、それらは全て虚構に過ぎない。実に画期的で安心安全な曇らせ防護策である。

  • 3二次元好きの匿名さん25/07/22(灍) 23:37:05

    【主人公】千奈

    武器:バール + 癇癪玉

    ゾンビを討つには非力だが、サポートや撹乱などといった戦術の起点として活躍する。学Pの死をきっかけに二度と挫けない決意を固めた勇敢な少女。皆からの信頼も厚い、陽だまりのような主人公。


    【恋人】ことね

    武器:モーニングスター

    脚本上では千奈の恋人。たとえ何があっても千奈を守る覚悟ができている。手毬にちょっかいをかけたり、積極的に味方を労ったりと、閉塞感を取り払うキーマンだが、死亡フラグを立てた過去がある。


    【仲間】手毬

    武器:二丁拳銃

    序盤に1組メンバーが次々と死んでしまった不憫な子。早くからゾンビに遭遇していたため責任感と仲間への想いは一際強く、覚醒した彼女の射撃を避けられる者はいない。美鈴のことは絶対に救ってみせる!


    【仲間】星南

    武器:ロングソード

    あさりがいない時に生存者を取りまとめるリーダー。判断力、戦闘力ともに一級品で、剣を振るう姿はまるでステージ上のパフォーマンスだ。なお、ことねへの矢印は至極当然のように健在である。

  • 4二次元好きの匿名さん25/07/22(灍) 23:39:20

    【仲間】麻央

    武器:鎖鎌

    格闘技を嗜んでいるので、柔術由来の変則的な道具をスタイリッシュに使いこなす。武器の特性から乱戦に強く、雑兵を一網打尽にしてきた。いつでもどこでも皆のことを気にかけている、情け深い王子様。


    【仲間】莉波

    武器:スレッジハンマー

    仲間を守るお姉ちゃんは世界一強い。偽姉……まさしく人の為の姉である。幾度となく味方を救っては、敵にとどめを刺してきた。敵を一撃で葬り去ることは、彼女なりのゾンビに向けた優しさなのだ。


    【仲間】美鈴

    武器:薙刀

    本来は高い実力を誇るが遅効性のゾンビウイルスに感染し、自分が自分でなくなる恐怖に怯えて行動不能に陥った。戦線を離脱しワクチンの開発を待つが、タイムリミットも近い。美鈴を救えるかどうかが物語の鍵を握っている。


    【仲間】あさり

    武器:ナイフ

    ワクチンを開発する十王財閥、もとい邦夫と連携を取りながら生徒達を導く立派な教師。千奈に癇癪玉を渡した人物でもある。戦闘描写も少なく実力は未知数だが、実質的には初期装備で無双する系のただのやべー人。

  • 5二次元好きの匿名さん25/07/22(灍) 23:41:12

    【失踪】広

    生存者陣営に属していたが、自暴自棄に陥った佑芽を追って教室を飛び出し、その後行方を晦ました。佑芽と共依存的に生きる、本作のインモラル要素を一手に引き受けた女。ちなみに学Pは『うめひろ』を学会に提出しようとしている。


    【失踪】佑芽

    15年間姉の背中を追い続けたが、姉はついに天国へと勝ち逃げしてしまった。咲季を追いかけ身投げしようとしたところを、直前で広に止められる。以来"失う"ことを恐れるようになり、片時も広から離れようとしない。だって、広さえいればそれでいいから。

  • 6二次元好きの匿名さん25/07/22(灍) 23:45:39

    【時系列整理】

    -0日目-

     ・ゾンビハザード発生
     ・咲季死亡


    -1日目・昼-

     ・清夏、手毬を庇って死亡
     ・燕、襲われたリーリヤを助けるも不意打ちで死亡
     ・リーリヤ、燕に助けられるも数の暴力で死亡
     ・↑千奈ことね手毬、目撃で気が動転
     ・莉波とあさりが千奈達を救い、一同合流
     ・学P死亡、千奈が決意を固める


    -1日目・夜-

     ・昼の死亡者を全員が知る
     ・広佑芽、失踪
     ・ことね、手毬と謎の密約

  • 7二次元好きの匿名さん25/07/22(灍) 23:46:44

    -2日目・昼-

     ・武器調達
     ・ことね手毬、星南麻央の指導のもと実戦を経験
     ・十王財閥がワクチン開発中と判明、あさり交渉
     ・学園防衛
     ・千奈莉波美鈴、Daトレーナーと戦闘
     ・美鈴、ゾンビウイルスに感染


    -2日目・夜-

     ・美鈴、不眠に苛まれる


    -3日目-

     ・美鈴、思うように身体が動かず。手毬が異変に気づく。
     ・美鈴、血が変色


    -4日目-

     ・美鈴、不安症状がピーク。全員が異変に気づく。
     ・美鈴、実質的に戦闘不能に
     ・完全なゾンビ化までの残り時間が判明
     ・ワクチン開発促進のため、ゾンビのサンプル採取開始
     ・千奈星南莉波、Voトレーナーと戦闘
     ・美鈴のタイムリミットまで、残り4日

  • 8二次元好きの匿名さん25/07/22(灍) 23:48:21

    -5日目-

     ・何一つ成果を得られず
     ・学園長から朗報、製薬会社のデータがあれば開発が早まる
     ・美鈴のタイムリミットまで、残り3日


    -6日目-

     ・あさり以外の生存者、製薬会社に突入
     ・二手に分かれて探索を開始
     ・星南麻央手毬、強化ゾンビの群れに遭遇


    以上、前スレまでの出来事。

  • 9二次元好きの匿名さん25/07/23(ć°´) 00:38:12

    このレスは削除されています

  • 10二次元好きの匿名さん25/07/23(ć°´) 00:41:07

    〜10までkskの幕間〜

    「雨、だね。」
    「うう〜、じっとりしてるぅ……。あたし、外で走り回れないから雨なんてキラーイ!」
    「そう?わたしは雨好き。」
    「なんでぇ!?」

    ふふ。佑芽、すごく驚いてる。かわいい、ね。わたしの親友は、なんでこんなにも愛おしいんだろう。……なんて、分かってるくせに、見ないふりをしている。だって、世界/わたし、どっちも壊れてるから。
    今のわたしの頭の中は佑芽でいっぱい。人も娯楽もなくなったこの世界で、佑芽だけがわたしを満たしてくれる。ほら、指を絡めた手のひらはこんなにも温かくて、暑くても寒くてもこころはぽかぽか。

    「すごく、単純な理由だよ。佑芽がずっとわたしの隣にいてくれるから、雨は好き。」
    「…………!」
    「わたし運動不足だから、どれだけ走っても佑芽には追いつけないし、この世界で一度外に出たらわたしはお荷物にしかならない。でも、ね。わたしはわたしの意志で佑芽の隣にいたい。今みたいに、いつまでも。」

    そう言って、おもむろに佑芽の肩にもたれかかる。……居心地、いいな。ずっとこうしていたい。人もゾンビも入ってこない、ショッピングモールの色褪せたベンチで、半身を佑芽に預けた。打ちつける雨の音よりも早い心臓の拍動に従うように……。

    「すぅ……すぅ………。」
    「広ちゃん、寝たふりはダメだよ?ちゃんとこっち見てよ。あたし知ってるよ?"たぬきねいり"って言うんだよ、今の広ちゃん。」
    「う……とても恥ずかしいことを言った気がするから、あんまり見ないでほしい……。佑芽の方、見れない……。」
    「ダメですっ!どんな広ちゃんでも、あたしは広ちゃんのことが大好きだから。もっと、あたしの知らない広ちゃんを見せて?」
    「……佑芽は酷い、鬼、あくま。そういうところが、好き。」
    「鬼でも悪魔でもいいよ。それでも広ちゃんは、あたしと一緒にいてくれるもん。」
    「ふふ、きちく。」

    ……最初は、壊れた佑芽を見ていられなくて、佑芽と共に生きる決意をした。そしたらね、佑芽。わたしも壊れちゃった。きっと今のわたしの目、あなたにそっくり。黒くて、深くて、光を通さない、吸い寄せられるような澱んだ目。
    普通なら喜ぶところじゃないと思うけど、今のわたしは佑芽とおそろい。とっても嬉しい。あなたとわたしは、運命共同体。

    佑芽。どこまでも2人で墜ちていこう、ね。

  • 11二次元好きの匿名さん25/07/23(ć°´) 06:40:08

    スレ立ておつ
    楽しみにしてるで

  • 12二次元好きの匿名さん25/07/23(ć°´) 13:32:14

    映画だって分かってるけどドキドキする……
    保守支援

  • 13二次元好きの匿名さん25/07/23(ć°´) 14:33:06

    これ途中まで映画じゃないと思ってた…
    映画の完成度高すぎて本物かと思った

  • 14二次元好きの匿名さん25/07/23(ć°´) 21:20:28

    保守

  • 15二次元好きの匿名さん25/07/24(㜍) 05:46:55

    保守

  • 16二次元好きの匿名さん25/07/24(㜍) 06:11:39

    物語は、星南麻央手毬の3人が強化ゾンビの群れに遭遇したところから再開する。
    ……それは、考えたくもない最悪のシナリオ。複数人がかりで初めて互角に戦える異形の生物が、悍ましいうめき声を上げながら徒党を組んでいる。奴らを相手に善戦、で済めばよいのだが。

    『ゔぁりあれ。がれ。』

    「……ははっ、ねえ、星南。」
    「ええ────最悪ね。逆に笑えてくるわ、こんなの。」
    「先輩方……来ますっ!」

    『ががっれ!』

    何度聞いても忌々しい、人ならざるものの不気味な咆哮。その音が耳に届くと同時に、奴らは凄まじい跳躍をもって3人に襲いかかる。

    「ここはボクが食い止めるっ!星南と手毬は、この部屋で起動できそうな装置を探すんだ!早くっ!」
    「無茶です有村先輩っ!あんな数の強化個体を相手に……!」
    「手毬!……今は、麻央の言う通りよ。あの数が相手では、闇雲に3人で戦ってもじっくり嬲られるだけ。麻央の一対多の継戦能力を信じましょう!」
    「で、でもっ……!」
    「いい?ここは製薬会社の跡地。現代の科学と技術が集合した天然の武器庫よ!ゾンビに対抗し得る道具や兵器を精選して、少しでも勝てる手立てを探すの!」
    「……っ、分かり、ました!」ダッ…!
    (頼んだわよ、麻央……!)

    よく見れば周囲には、謎の薬品や書き殴られた数式、レポートの束から軍需物資になりそうなものまで、様々なものが乱雑に置かれている。製薬とは名ばかりの、法を犯した危険なものだらけだ。もしもこれらを活用できたなら……。
    だが、それらを待ってくれるゾンビ達ではない。視線を外した星南や手毬に容赦なく飛びか『がぎゃあっ!?』ザシュッ

    「────抵抗は無駄だよ。格闘技を嗜んでいるからね。」

  • 17二次元好きの匿名さん25/07/24(㜍) 06:13:33

    味方に武器が当たる懸念を捨てて、麻央は持てる全ての力で鎖を振るった。斬って、縛って、絡めて、掴んで、引き寄せて。相手がどんなに強かろうと関係ない。仲間を傷つけ仇なす者は、真っ向から叩き潰す。それが有村麻央という人間の矜持にして、麻央を麻央たらしめる強さの源だ。

    『じゃぐりれ!』ザシュッ
    「うぐぁっ!?」ビッ

    (くそっ、少し頬を裂かれた……!いや、この程度で狼狽えるな。この手を止めたらみんなやられてしまう。ボクは……………っ!?しまった!!)ジャラッ

    『あれえり……!』ニタァ

    麻央が怯んだタイミングで弛んだ鎖を、別のゾンビが握り締めていた。これでは、丸腰同然だ。不敵な笑みを浮かべたゾンビが一斉に麻央に襲いかか「有村先輩、しゃがんで!」

    「っ!」サッ

    ダダダダダダダダダダダダダダダダダ

    『ぎゃぎいっ……!』

    音の方向を見ると、固定式の大きなガトリングガンを操作する手毬の姿があった。まるで"何かの強度を測りたがっていた"かのように聳え立つ機関砲の連撃が、麻央を取り囲むゾンビを蜂の巣にする。

    「ナイスアシストだよ、手毬……っ!」フォォン
    『げがっ……!』ザシュッ
    「よし、もう一発…………………あ、あれ?た、弾が装弾されてない!?」

    麻央の窮地を救った手毬だが、まだまだゾンビは残っている。拳銃を扱う都合上、手毬は近づかれたら途端に弱くなる。その硬直が命取りだ。手毬がガトリングガンの機構に戸惑っているうちに、麻央を狙っていた一部のゾンビが着実に近づいてくる。……しかし。

    「させないわ!これでも食らいなさいっ!」

  • 18二次元好きの匿名さん25/07/24(㜍) 06:15:47

    「てやあっ!」ガンッ

    ジュワアアアァァァア……

    『が………べ…………!』

    「……やはり、流石のゾンビでも硫酸には耐えられないようね。」

    星南がゾンビに浴びせたのは、高濃度の硫酸。整然と積まれた硫酸入りのドラム缶を自慢の剣で次々と切断し、溢れ出した硫酸をドラム缶ごとゾンビにぶつけたのだ。

    「星南っ……!2人とも、見事だよ。これでボクも、随分と戦いやすくなった、なっ!」ジャラッ
    『りがっ!?』バシュッ

    「戦いに使えるギミックはまだまだ辺りに散らばっている……策と技術の力をもって、敵を一掃するわよ!」

    麻央が足止めし、手毬と星南がこの場にしかない強力なリーサルウェポンで確実に仕留める。地の利を活かして正面から戦う以上の破壊力で押し切ることこそが、僅かな時間で3人が編み出した秘策だった。

    「2人には、近づけさせないよ!」グルングルン
    「まとめて消えてもらうから!」ダダダダダ
    「まだまだ薬品はたくさんあるわよ!」ジュワアアア

    普通に戦っていたなら消耗どころか全滅もあり得た劣勢から、実力以上の相手と渡り合う3人。希望の灯は、まだ絶やさずにいられる。
    ……そして。

    「みんな、大丈夫!?今助けるよっ!」
    「え、援軍に馳せ参じましたわ!わたくしたちも共にっ!」
    「ちょっ麻央先輩ヤバそうなんですけど!?ことねちゃん、いきますっ!」

    ────この世で最も頼もしい増援の、到着だ。

  • 19二次元好きの匿名さん25/07/24(㜍) 06:17:45

    プルルルルル

    「莉波お姉さま!携帯が鳴っていますわ。」
    「あっホントだ。ピッもしもし?莉波です………『無茶です有村先輩っ!あんな数の強化個体を相手に……!』
    『手毬!……今は、麻央の言う通りよ。あの数が相手では、闇雲に3人で戦ってもじっくり嬲られるだけ。麻央の一対多の継戦能力を信じましょう!』
    『で、でもっ……!』
    『いい?ここは製薬会社の跡地。現代の科学と技術が集合した天然の武器庫よ!ゾンビに対抗し得る道具や兵器を精選して、少しでも勝てる手立てを探すの!』
    『……っ、分かり、ました!』

    ツー、ツー、ツー………!!

    「り、莉波先輩!今のって……。」
    「……うん、下の3人がピンチだね。」
    「参りましょう!今、すぐに!」
    ─────────────

    (咄嗟にかけた電話の意図、上手く伝わっていたみたいね……!流石よ、莉波!千奈!ことね!)

    「ここに来る途中で拾った強力な武器!喰らえ〜〜〜〜、ですわ〜〜〜〜〜っ!」ヒュゥゥゥウン、ドガァンッ!
    「麻央先輩、後ろ失礼しますよぉ!でりゃあっ!」ブォンッ!
    「討ち損ねた奴は、私が……!」ドゴォン!
    「みんなっ……!ことね、ボクの背中は任せたよっ!」ザシュンッ
    「今の私達なら、勝てる!もっと早く、撃ち続けて!」ダダダ
    「さあ、反撃の狼煙を上げましょう!たとえ強化ゾンビだろうと、初星学園のアイドルを敵に回した報いはきっちり受けてもらうわよ!」

    千奈は癇癪玉よりも威力の上がった手榴弾を投げ、ことねは麻央とともに足止めに回り、死角の個体は莉波が圧し潰す。もちろん、手毬の機銃掃射と星南の薬品攻撃も健在だ。

    ──────。

    これまでで、間違いなく最も激しい戦いを繰り広げて、どれ位の時間が経ったか分からない頃。全員が満身創痍となった末に、強化ゾンビの群れの討伐を成し遂げた。……彼女達の、勝利だ。

  • 20二次元好きの匿名さん25/07/24(㜍) 14:15:24

    このレスは削除されています

  • 21二次元好きの匿名さん25/07/24(㜍) 21:52:14

    千奈ちゃん、成長してるの良い。

  • 22二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 07:21:09

    保守

  • 23二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 08:05:33

    『ぐぎゃあ……!』バタリ
    「はあ………はあ………!これで、全て、かな。……流石にちょっと、堪えた…な………。」フラッ
    「麻央!」

    過去最大の窮地の中で、前線を張り続けた麻央。流石に体力の限界が訪れたのか、力無く尻もちをついた。

    「あ、れ……、ごめん莉波、ちょっと手を貸してもらえるかな。」
    「もう……!無茶しすぎだよ!会長と手毬ちゃんも目立った傷は無さそうで良かったけど、もしこのまま分散したままだったらどうなってたか……。」
    「でもあなた達は、私の一方的な呼びかけに応じて来てくれた。少し賭けではあったけど、結果が全てよ。」
    「ふう……あのガトリングガン、凄い威力だったな。持ち帰ったりは……できないか。」
    「手毬ったら、めっちゃデカい銃乱射してたじゃん!マジで何でもあるナ〜この建物。」

    「麻央先輩!そ、その、頬に切り傷がついていますわ……!」
    「大丈夫、噛まれてはいないよ。多少の切り傷なら、ゾンビになるまでの時間はある程度担保されていた筈。この位ならなんてことないよ。」
    「とはいえ、この中で一番消耗が激しいのはあなたよ、麻央。私が先頭に立つから、あなたは少しづつ体力を回復しなさい。」
    「ん、ありがとう星南。」

    やはり、激しい戦闘を終えた反動で身体に力が入らない。それでも、彼女たちは助け合って生を勝ち取ってきたのだ。今回もまた、仲間がいたから戦えた。一つ一つの勝ちを、胸に刻み込む。

    『……げれれ。』

    ────胸に、刻み込まれる。

  • 24二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 08:06:54

    「にしても凄いですよね〜、製薬会社って。そりゃ化学薬品があるのは分かりますけど、ガトリングガンって!意味わっかんねーって!」
    「やはり、ただの製薬会社ではなかったのでしょうか?おかしいですわ、兵器の範疇を超えていますわ!」
    「でも、あれがあったから私は強いゾンビにも勝てた。確かに謎は残ってるけど、それよりも目的のデータを探すのも忘れちゃダメだよ。」
    「手毬ちゃんの言う通りだね。麻央は私達でフォローするから、またみんなで行動しよう?バラバラだとかえって危険そうだし……。」
    「みんな、助かるよ。……こんな世界だから、おかしな話かもしれないけど。顔にこんな傷を負っては、アイドルとしてはもう輝けないかもしれないな……。」
    「……っ。今みたいな戦いは、できれば2度と起こしたくないわ。こんな所で足踏みしてはいられないもの、ひとまずこのフロアを去りましょうか。」

    積み上げられたゾンビの山を一瞥し、星南を先頭に部屋を去ろうとする一行。ゾンビという生物の核心には未だ迫れないが、ここは単なる製薬会社ではないのかもしれない。徐々に、きな臭さが増してきた。

    『……げれ。』

    (本当に、謎が多い建物ね…………あら?まだ生き残りがいたのかしら。私達との距離も遠いし、あそこからではできることも─────っ!?)

    部屋を出る直前、振り返った星南だけが見た、一匹の死に損ない。無様に地面を這いずりながら奴が手を翳したのは…………手毬が戦闘中に弾薬を補充したガトリングガン。

    (あの個体……笑っている!?まさか……まさかまさか!いや、私達とてここから即座に出来ることなんてない。気づいているのは私だけ。それに銃口の向いた先───示すのはっ!)

  • 25二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 08:08:14

    1秒にも満たない僅かな時の中で、星南の思考はこれまでのどんな瞬間よりも早く渦巻いていた。初めて、己の限界を感じた時より。去年、一番星を獲った時より。

    停止したに等しい時間の中で導き出された小さな結論。合理的でなくとも、馬鹿らしくても、身体を動かさずにはいられなかった。本能で、咄嗟に飛び出して。


    『……がりが!』ズダダダダダッ

    「ことねっ!!!!!!!!」バッ

    「も〜、なーんですか星南かい、ちょ、う─────え?」


    初星学園を背負ってきた一番星の身体から、決して見えてはいけないものが──残酷なほどに美しい鮮血が──けたたましい発砲音と同時に飛び散った。

  • 26二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 08:09:30

    「え。………………え?」

    「よか…………った。ことねは………ぶじ、なのね。」ギュッ

    「せ、星南お姉さまっ!?ち、血が、と、止まりませんわ!」

    「十王会長!?どこから──────アイツかぁっ!!」

    バンッ   ババンッ

    『ぐりれ……………っ』バタンッ

    「星南!?しっかりするんだ!星南っ!!」

    「そ、そんなっ……いったい、会長に何が……!?」

    星南の身体を穿つ凶弾を放ったのは、一匹の死に損なったゾンビ。最後の力でガトリングガンを操作し星南を……もといことねを狙った一撃が牙を剥いた。もっとも、ゾンビにとってはどれが誰などどうだってよい。最初に視界に入ったのがことね……ただ、それだけだった。
    そして、星南だからこそ、ことねを狙う悪意にいち早く気づけた。……本当に、ただ、それだけだった。

    「…………ごふっ…………ぐ……………っ!」ギュウウ

    「せ、星南会長!あ、あぁ……す、すぐに治療を……!」

    「………いい、のよ。もう、ておくれだって……じぶんのめが、そう……、いって、る……。」

  • 27二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 08:11:45

    「星南会長!なんで!なんでっ!あたしなんかを守ったんですか!ばかだよ!あんた、本当にばかだよっ!」

    「……ふふ………ごめん、なさいね………かって、に……から、だが、うごいた、……の………。」

    「そんなことが聞きたいんじゃねえんだよ!!!あんたがいなくなったら、あたしは、あたしはっ……!」

    「いいえ……、あな、たには………みんな、が………ちな、が。いる、でしょう……?」

    「───っ!」

    「ほら…………えがお、を……、みせ、て……?わたしの………スター………!」

    「そんなのっ………でぎるわげ、ないよぉ………!」

    「あなたには……ないてるかお、なんて………にあわない、もの………。」

    「うぅ…………!ゔぅう…………っ!!!」

    「………ふふ、かわい……い、かお、が………なみだで……くしゃ、くしゃ……ごほっ………!」

    「星南会長!喋んないでください!まだ……まだ何かどうにか出来る方法が………!」

    「…………ごめん、なさい………。そろ、そろ………げんかい…、かも……。こと、ね。わたしの、すたー。」

    「やだよっ………!やだよぉっ………!!」

    「どうか……みんなを……………まも………………………っ、て……………。せかい、を…………すぐっ……て…………!!!!」

    そうして、ことねの手を握っていた星南の指からは一切の力が感じられなくなって。涙が頬を伝いながら、ことねの手からするりと、力無く星南の身体は零れ落ちて。
    ……そのまま、二度と起き上がることはなかった。

  • 28二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 08:13:03

    本当は、もっと私の方を見てほしかった。
    本当は、もっとあなたと仲良くしたかった。
    本当は、あなたの内に秘めた光に憧れていた。
    本当は、私すらも追い越してみせて欲しかった。
    本当は、あなたの隣には、私だって立ちたかった。
    本当は……本当は……………本当は──────────。


    ことね。
    生きて。
    私の希望。
    私のスター。

    あなたなら、トップアイドルになれる。
    あなたがいる限り、初星学園は負けない。


    …………あら燕。何をそんなに怒っているの?

    何よ、貴様までこっちに来ることはなかったって。

    ふふ、これからも貴女とはいい勝負ができそうね。

    まだまだ負けてあげないわよ、だって私は………………





    十王星南─────死亡。

  • 29二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 08:21:58

    学P「そういえば、撮影が特に難航したのもこのシーンでしたよね。実際に死ぬわけじゃないのに、藤田さんがあまりにもガチ泣きしすぎちゃって……確か、50回は撮り直しましたよね?」
    ことね「ゔぅ〜〜〜!せなせんぱぁ〜〜〜〜〜い!!!」
    星南「はいはい……もう、あなたそんなに泣き虫だったかしら?………ってああ!燕も泣いてるじゃない!何よ2人して!」
    燕「ばっ、馬鹿者。これはっ、目に、ゴミが………!」

    麻央「劇に感情移入出来るのは素晴らしいこと……なんだけどね……。ここまで重いのは初めてかも。」
    莉波「あそこだけで丸一日使っちゃったもんね……。」

  • 30二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 08:33:37

    流石に星南も独善単独行動死じゃなくなってたか
    まあそりゃそうか

  • 31二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 12:14:52

    このレスは削除されています

  • 32二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 18:17:42

    保守

  • 33二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 23:30:20

    保守

  • 34二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 06:21:58

    道中に入る上映中の会話パートで俺の涙腺は守られている

  • 35二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 16:00:57

    ひしゅ

  • 36二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 00:03:37

    保守

  • 371◆wrMSm.CxZiIw25/07/27(日) 06:02:03

    セナチャ、当初は洋画にいる「俺は一人でも生き残ってやるぜ!あばy────うわあああああ!」系のキャラを押し付けるつもりでした。最初は。最初は。ホントに最初だけ。
    とはいえ、せめて何か特殊なキッカケは欲しいなと思う次第でした。ダイスほぼ無視だけど実はダイススレだったので。ホントに最初だけ。
    結果として「自分一人でことねに手を伸ばした末に死ぬ」という、文脈の含みを少しだけ残した形で決着させました。あにまんに潜む野生の先輩は、お手元のせなぬいを可愛がってあげてください。

  • 38二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 06:03:25

    「せな……せんぱい………、おきて………おきてくださいよ……。ねえ………!」
    「星南お姉さま……そんなの……そんなのってぇ……!」
    (………私の、せいだ。私があの時弾薬を全て使い切っていたなら、きっとこんな事には……っ!)

    「………くそっ…………!」ギリリ
    「麻央っ!………ダメ、それ以上は。拳から血が出てる。でも………悔しい、ね……っ!」

    「うああああああっ!!!ああああぁぁん!!!!」

    ゾンビを呼び寄せてしまうかも、なんて懸念を心の片隅に置いておく余裕なんてない。星南の死はみんなの心に暗い影を落としていく。血溜まりの中で、ことねの慟哭だけが、どこまでもどこまでも響き渡っていた。

    …………そうして、暫く後。

    「……ごめんなさい、みんな。あたし、もう動けますから。行きましょっか、んしょ………くっそ、背高いなこの人。」
    「待ってことね。…………何、してるの?」
    「何って……、星南先輩を背負ってるだけだよ。」
    「そうじゃなくて!………連れて、行くの?」
    「当たり前だろ。星南先輩を、こんな冷たくて無機質な場所にぽつんと置いていけるわけないじゃん。……連れて行くし、連れて帰る。初星学園に。」
    「……っそんなの、無理に決まってるでしょ、現実的に。」

    「─────は?」

    仲間内でも、不穏な空気が流れ始める。

  • 39二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 06:05:13

    「おい手毬、お前今なんつった?」

    「そんな状態の十王会長を、連れて行ける訳無いでしょ!その状態でまた戦いになったらどうするの!?まともに戦うのはもちろん、逃げることだって出来ないじゃん!」

    「……うるせーよ、そんなの、あたしだって分かってるよ!でも、置いていけるわけ……ないじゃん……!」

    「ことねだけじゃない、みんながことねをカバーするために動くんだよ!?私は…………っ、今のことねをカバーできるほど強くなんてない!」

    「じゃあっ、星南先輩をここに置いていくってのかよ!ずっと独りで、こんなところに!」

    「……っそう、だよ……。ことねのワガママでみんなが死ぬことだって、あるかもしれないんだから!そんなに十王会長を連れて行きたいなら、自分一人で勝手にやってなよ!」

    「………っ!お前、ふざけんなっ!今のは許せねえ、ワガママなんかじゃない!訂正しろっ!そもそも、お前があのガトリングガンなんか使わなかったら、星南先輩は生きてたんだっ!」

    「………!はあ!?私は、あの時できる最善を尽くしただけ!ことねなんかに文句を言われる筋合いなんてないっ!」

    「2人とも、喧嘩はそこまでにするんだ。どちらの言い分も分かるけど今は……」

    「「麻央 / 有村 先輩は黙っててくださいっ!!!」」

    「……っ。」

    「お前が謝るまで、あたしは絶対に許さない!たとえ謝ったとしても、星南先輩は連れて帰るんだ!」

    「言ってなよ。ことねにはもうウンザリだよ!そんなに自分勝手な奴だとは、思わなかった!」

    麻央を以てしても、ことねと手毬の口論は止まらない。それどころか、一歩間違えれば今すぐにでも手が出そうなほどに昂っている。一触即発という言葉すらぬるい。
    文字通り火花が散っていると錯覚するほどに激しく睨み合う2人。そして、そこに足を踏み入れる者が……1人。

    「─────ことねさん。月村さん。」

  • 40二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 06:07:05

    パシィン───────。

    「……………っ。」

    「……………っ!?」

    「ことねさんの、おばか!月村さんの、おばかっ!!」

    乾いた音が部屋中に反響する。見ると、ことねと手毬の頬には、くっきりと紅葉が映し出されていた。2人は、突然のことに放心している。千奈の震える手を見て、言葉にも詰まっている様子だ。目に涙を浮かべながら、千奈は再び口を開く。

    「…………どうして、生きているわたくし達で争わなくてはなりませんの?どうして、お二人はお互いをそんなにも睨みつけていますの?………そんなの、間違っていますわ!おかしいですわっ!!」

    「星南お姉さまも、そんなの望んでなんていませんわ。わたくし達が生きて、守りあって、笑いあって。そんな未来を、思い描いた筈ですわ。それなのに、お二人は、お二人はっ……!」

    「…………わたくしだって、星南お姉さまがいなくなってしまわれたのは悲しいですわ、悔しいですわ!これからどうすればいいのか、わたくしには全く分かりませんわ!でも………でもっ…………仲間同士でいがみ合うのは、やめてくださいませ、傷つけ合うのは………やめてくださいませぇ………!ひぐっ…………ぐすっ……………!!!」

    「ふえええええぇぇぇん……………!!」

    千奈の涙腺も限界に達したのか、ただでさえ途切れ途切れに紡がれていた言葉はすっかり嗚咽に変わってしまった。それでも、現状は変わる。今の2人には、十分すぎるほど効果のある説得だ。

    「「………ことね / 手毬。」」

    「「ごめんなさいっ!!…………え?」」

  • 41二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 06:08:18

    「なんで……ことねが謝るの。十王会長が攻撃を食らったのは実際私のせいだし……、ことねの気持ち、無視しすぎてた。だから……えっと………。」

    「いや………あたしも、頭に血が上りすぎてた。そりゃ、そうだよな。みんなが少しでも生きる確率を上げるべきだし………その………。」

    「………本当に、ごめんなさい。ことね。」
    「あたしも、星南先輩が死んで、おかしくなってた。ごめん、手毬、本当に。」

    かつてH.I.Fにユニットを組んで出場する夢を見たときも、ここまでぎこちない空気感はなかった。正解の分からない言葉を手探りで掴みながら、睨み合いはぎくしゃくしたコミュニケーションへと変わり始める。

    「その……千奈も、ごめん。痛かったよね、手。」
    「千奈、あたしを止めてくれて、ありがとう。そして、ごめん。」
    「えぐっ……ぐすっ………、いつものお二人に戻ってくださったなら、まずそれが一番ですわぁ………!うぅ、ふぇぇぇぇぇん………!!」
    「わああああ!ご、ごめん、千奈!ほ、ほら?私ことねとはもう仲直りしたから!ねっ!?」
    「お、おうっ!ほら!見て千奈!あたし達、肩だって組んじゃうから、な!?」
    「──っ!ふふっ……!良かった、ですわ………!」

    「……流石、千奈ちゃんだね。私、2人が争ってるのを見て、何にもできなかった。先輩として、不甲斐ないや。」
    「ボクも、同じだよ。あの空気感に圧倒されて、あれ以上踏み込むことが出来なかった。……見習いたいね。」

    「………はっ!お、お二人とも、ほっぺは痛くありませんか!?その、いけないことだとは分かっていたのですけれど!つ、ついぶってしまいましたわ……!申し訳ありませんわ!」
    「別に、あれ位当然でしょ。私もことねもおかしかったし。むしろぶたれるべきだったよ。」
    「お前調子取り戻すの早くね?……でも、あの時はあれが正解だったよ。ありがとな、千奈。」

    少しづつ、わだかまりが解けていく。……つくづく、倉本千奈という少女は、陽だまりの化身のような存在であると認識させられる。

  • 42二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 06:09:45

    「……とはいえ、星南お姉さまはどうすればよいのでしょうか。わたくし、やっぱり分かりませんわ、不甲斐ないですわ……。」
    「……手毬ちゃん、ことねちゃん。それなんだけどね。どうやらこのビルの裏手に、ちょっとした庭園があるみたいなの。少しの間運ぶことにはなっちゃうけど、そこに星南会長を埋めてあげたいんだ。どう……かな?」
    「……分かりました。その位なら、守れるはずです。……ことねは?」
    「はい、そうしましょっか。莉波先輩、ありがとうございます。あと、心配かけてすみません。」

    「ううん。手毬ちゃんもことねちゃんも、譲れないものがあったんだよね?仕方ないよ、時には、ぶつかることだってあるもん。お互いに守りたいものがあって、恨みそうになっても、最後まで手は出さなかったよね。偉いよ、2人とも。」
    「………うぅ………。」
    「う、ゔわぁ〜ん!莉波先ぱぁ〜〜〜い!!!」
    「よしよし、辛かったね。よく、頑張ったね。」

    「……凄いなあ、莉波にしか出来ないことだよ、これは。ボクは莉波のそういうところ、尊敬するな。」
    「……私は麻央みたいに、中々はっきりこうだって言えないから。だからせめて、受け止めてあげたいんだ。」

    「……あの、星南先輩は、あたしが背負ってもいいですか。せめて、最期まで近くにいたいんです、あの人の。」
    「それがいいよ、私は周囲を警戒してるから。ちゃんと、十王会長と一緒にいてあげて。」
    「……ん、さんきゅー手毬ちゃん。それじゃ、んしょ……うわわわわわっ!?」
    ガシッ
    「……っと、危ない。身長の都合は、やっぱりどうしようもないね。ボクが頭の方を支えておくから、ことねはしっかり身体を抱えていてあげてくれ。」
    「まおせん、ぱい……。ありがと、ございます。」
    「これ位当然さ。それに……ボクも、色々と思うところはあるからね。むしろ手伝わせておくれ。」
    (………麻央のそういうところ、私も尊敬してるよ。)

    「そ、それでは!みなさんで星南お姉さまをお運びしましょう!」


    陽だまりの少女、人の為の姉、リトルプリンス。星南の死で空いた心の距離を、それぞれが真摯に埋めていく。もうこんな悲劇など、起こさせてたまるか。

  • 43二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 06:12:12

    ザアアアァァァァァ……………、

    「んしょ……よいしょ。………星南先輩、今まで、ありがとうございましたっ!!!」
    「シャベルがあって良かったね。庭のお花も綺麗に手入れされてるし。きっと、星南会長も安らかにこっちを見てくれてると思うな。」
    「………やっぱり、寒っ。うぅ………。」

    朝から降りしきる雨をものともせず、土を掘り起こす。長身の星南を弔うための穴を掘るのは、いささか骨が折れる作業だった。星南を埋めた箇所に彼女の得物を深々と差し、柄の形をもって小さな十字を切る。

    「星南お姉さま。どうか、先生とともに見守っていてくたさいませ。わたくしは、必ず、この戦いを。揺れる世界を食い破って、生き続けてみせますわ。」
    「星南。最期まで、キミと対等に戦うことができなくてごめんよ。……キミが遺した未来への希望、繋いでみせる。」

    「………戻りましょう。まだ、戦いは終わってない。研究データを何としても入手しないといけないんですから。私達のためにも。………美鈴のためにも。」
    「────そうだな。行こっか。……手毬。」
    「……?」
    「………その、頼りにしてるから。」
    「当然、私も!………あっコホン。最前線は、よろしく、ことね。」
    「じぃー…………。」
    「あーっ!違う違う!あたし達、千奈だって、頼りにしてるから!ホントに!」
    「そ、そうだよ!千奈がいなかったら切り抜けられなかったピンチだってたくさんあるから!さっきだってそうだし!」
    「………!」パァァァァァ

    仲間を一人失い、分断の危機に陥りながらも、再度結びつきを強めた5人。まだ、ここに来た主たる目的は果たされていない。戦いは続く。
    この先何が待ち構えていようとも、彼女たちは歩みを止めない。そうでなければ、星南に顔向けできないから。誰も、救えないから。

    ───雨粒をしきりに落とす空は、まだ、哭いている。

  • 44二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 15:59:29

    保守

  • 45二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 21:09:19

    ほしゅ

  • 46二次元好きの匿名さん25/07/28(㜈) 01:52:33

    保守

  • 47二次元好きの匿名さん25/07/28(㜈) 04:07:05

    「傘でもあったなら、こんな冷たい空気の中、星南を置いていくこともなかったのにな。」

    星南亡き今、自分と4人を引っ張る重責は自ずと麻央にのしかかる。こんな雲さえなかったら、今頃は太陽の光が燦々と降り注いでいたのだろうか。髪が濡れて前髪が垂れてくる。ああ、鬱陶しい。中々目線が上に向けられない。
    麻央、そして莉波にとって、目の前で人が死ぬのはあれが初めての経験だった。降りた前髪は、麻央の顔を覆い隠して閉じてしまう。情けない顔を、していないだろうか。信じられないものを目の当たりにして、心が挫けそうになる。……自分一人だったならば。

    「麻央、早く中に戻ろう。……ここは、冷えるよ。」
    「麻央先輩、あたしタオルありますけどこれ使います?」
    「有村先輩、風邪引かないでくださいね。今後に障るので。」
    「もう一度、参りましょう。皆さまを救うために!」

    「……、そうだね。行こう皆。ボク達のやるべきことは、まだ終わっていない。」

    全身の水気を払って、隠れた右眼を顕にする。たとえどんなに雨が降っていても、雲の向こうには必ず太陽がある。止まない雨はない。
    心に再び決意を宿して、5人は進む。

    「そういえば!あたし、麻央先輩達が戦っている階層に降りる最中、変な扉を見つけたんです。……そこ、行ってみません?」

  • 48二次元好きの匿名さん25/07/28(㜈) 04:24:49

    「………やられる前に。」バンッ
    『げびっ……』バタリ

    「まとめて成敗ですわっ!」チュドォン
    『『ゔぁぐぁ……!』』バラバラ

    先の大災難を経て平静を取り戻した5人は、極めてクレバーに建物の中を探索する。不意打ち上等、やられる前にやれ。およそアイドルの胸中とは思えない精神だが、極限状態の中で育まれた戦闘の知見が彼女達の身を助けるのだ。

    「ことねが言っていたのは、ここかな?単独で行動している奴らばかりで助かったね。」
    「はい。この扉、です。鍵は掛かってるっぽいですケド……。」コンッコンッ

    軽く扉を叩いてみれば、これまた奥行きが察せられる。建物の構造はおおよそ頭に入ってきたが、全貌が分からないのはもはやこの部屋くらいだ。

    「……もしかして、私とことねちゃんで力いっぱい殴ったら、この扉破れちゃうんじゃないかな?」
    「そ、そんなことが可能なのでしょうか……!?」
    「……確かに、ワンチャンいける、かも。麻央先輩の嗜んでる格闘技が敵の戦闘機を破壊できるのとおんなじノリで。」
    「え、これって鍵とか探す方がいいんじゃないんですか?」
    「うーん……試す価値はあるかも。2人とも、頼めるかい?」

    「じゃあ行くよ、ことねちゃん!」
    「はいっ!」
    「「せーのっ……!」」

    ブンッ
    ドゴォォォン…………!!

    「うわ、本当にに砕けるんだこれ……。」
    「さすがことねさんと莉波お姉さまですわ!」

    日々のレッスンで積み重ねられた筋肉と、武器の破壊力は伊達ではない。適当な鉄扉など簡単に破壊してみせた。その足で、前人未到のラボラトリーに侵入する。きっと目当てのものは、この中に。

  • 49二次元好きの匿名さん25/07/28(㜈) 04:46:53

    このレスは削除されています

  • 50二次元好きの匿名さん25/07/28(㜈) 04:56:58

    「うっ……!けほっけほっ、酷い空気だな……。」

    むせ返るような湿気と、鼻をツンとつく薬品の微香。見渡す限り部屋は片付いていて───あえて言うなら殺風景で───デスクに置かれたパソコンが物言いたげに点滅している。うっすらホコリを被っている辺り、随分長いこと放置されていたのだろう。

    「へえ、つまんないへy────ひいっ!?こ、ことね!あれ!」
    「……白骨、死体だ。きっと、この部屋の主の。」

    ここで何があったのかは見当もつかないが、おそらく良いことはなかったのだろう。人工的な光だけが灯る無機質な室内と、やけに淀んだいびつな空気。答え合わせは必要あるまい。

    「莉波お姉さま!パソコンに、何やら文字が残っていますわ!」
    「あ、ホントだ。どれどれ……。」

  • 51二次元好きの匿名さん25/07/28(㜈) 04:59:26

     私は間違えた。
     初めはただの好奇心だった。
     人類の限界に挑みたかっただけなのだ。
     あんなもの、決して生み出してはならなかった。
     私にはもう止められない。
     こんな研究結果など、さっさと破棄しておけばよかったのだ。
     そうであれば、きっとまだ間に合っていたのに。
     世界中にばら撒いたデータの回収など、もう出来はしない。

     かつて、人類の誉と讃えられた私の研究。
     ……人の形をしたバケモノを作り出しておいて、何を言うか。
     日本だけではない。世界中で同時多発的に失敗の報告が相次いだ。
     間もなく、宇宙船地球号は沈没する。
     あらゆる生物が、生物の理を超克する。そのせいで。

     私が立っていたのは、巨人の肩の上ではなかった。
     きっと初めから、邪教の祭壇で小躍りしていただけだった。
     私の命をもって、最後に抵抗を。そして贖いを。


    「なに、これ……。どういう意味……?」

  • 52二次元好きの匿名さん25/07/28(㜈) 10:18:20

    ほしゅ

  • 53二次元好きの匿名さん25/07/28(㜈) 17:19:32

    保守ダヨー

  • 54二次元好きの匿名さん25/07/28(㜈) 22:58:04

    保守

  • 55二次元好きの匿名さん25/07/29(灍) 04:07:28

    「この白骨死体の人が書いた……んだよね、きっと。」
    「難しいお言葉ばかりで頭がこんがらがってしまいますわ……。」

    「うーん、なんか持ってないの?この人。」
    「えっ……ことね、よく触れるねそんなの。」
    「ボクも見てみようか──────!この名刺……この名前。」

    「莉波!ちょっとこれを見てくれないか。」
    「どうしたの?麻央。何か見つけ────これ……!」

    麻央が見つけた一枚の名刺。そこには、ある名前が記されていた。

    「この人って……倉本博士!?あの、ノーブル生理学・医学賞を受賞した……。」
    「莉波お姉さま……?」
    「ち、千奈ちゃん。これ………。」

    拾った名刺を、千奈に見せる。恐らくこのパソコンの主にして、世界中の混乱を前にこの世から去った大賢人。もしかすると、あるいは。

    「まあ!その方はわたくしのおじさまですわね!確か……わたくしのお爺さまのお姉さまの一番上のお兄さまの……あわわわ……。」
    「や、やっぱり、そうなんだね……。」
    「はい!確か細菌の研究をしているとお爺さまから聞いておりまして!わたくしも昔一度お会いしたことがある位で話したことは………!?─────もしか、する、と。」

    この、お方は。
    このダイイングメッセージを遺した人物は。


    「おじ、さま………?」

  • 56二次元好きの匿名さん25/07/29(灍) 04:21:15

    千奈の頭の中で、点と点が線で結びついていく。
    生化学の第一人者。
    倉本の資金力。
    誤謬。
    最先端の研究。
    致命的なエラー。
    パンデミック。

    ────全ての元凶は、倉本の出自を持つ者の、失敗………?

    「あ、ああ……、!ああぁあ…………!!?」

    理解できない。理解したくもない。それでもここまで情報が揃ってしまっては反証する方が難しい。激しい頭痛が千奈を襲う。疑念が確信に変わり、脳内を怨嗟の声が支配する。お前のせいか。お前たちのせいか。

    大好きなお友達がいなくなってしまったのも。
    敬愛するお姉さまの命が失われてしまったのも。
    この世界が不可逆的な混乱に陥ったのも。
    全部。全部。

    「………あぁ……これは、わたくしの……………!」

    倉本の、せいか。


    「違うっ!!!!!!」

  • 57二次元好きの匿名さん25/07/29(灍) 10:51:36

    ほしゅ

  • 58二次元好きの匿名さん25/07/29(灍) 17:21:08

    保守

  • 59二次元好きの匿名さん25/07/30(ć°´) 00:09:10

    ほしゅ

  • 60二次元好きの匿名さん25/07/30(ć°´) 04:45:29

    「ふぇ…………?」

    慣れ親しんだ温もりを、肌に感じる。 ……ことねだ。ことねが千奈の背中に手を回して、一回り小さな千奈の体躯を包みこんでいる。

    「違う。千奈は何もしてない、千奈のせいじゃない。今この世界に起こってることと、千奈は何にも関係ない。全部、不幸が連鎖しただけだ。」
    「ことねさん……。」
    「もし千奈がアイドルじゃなくっても。どこか全く別の場所で出会っても!……きっとあたしは千奈のことを好きになった。そこにいるだけでみんなを照らしてくれて、思わず笑顔にしてくれるような光。あたしが好きになった子は、そういうあんたなんだよ、千奈。」
    「し、しかし!みだりに作用した家の力のせいで、この世界は狂ってしまいましたわ。わたくしがやったことでも、そうでなくとも!……わたくし達倉本の行動には、あらゆる責任があるのです。放棄された責任は、果たさなくてはなりませんわ!そのためなら、わたくしは……。」

    千奈は思い詰めている。教科書を塗り替えるどころでは済まない人類史上最大級の動乱は、己の身内が引き起こしたのだと。自分の立場がどこにあるのか見失い、深刻な自責に苛まれ、無意味な贖罪を希求している。
    ……ことねが、それに気づかないわけがない。今の千奈は父親がいなくなった時の自分みたいで。言葉を探しながら、真っ直ぐ千奈を見据える。

    「じゃあさ……どうすんの?その責任って。まさか自分がソイツの肩代わりも兼ねて、罪滅ぼしにボロボロになるまで戦って自分も死にます〜とか、言うつもりじゃないよね?」
    「そ、それは……。」
    「千奈にできること、他にあるでしょ。責任責任言うんだったら、アイドルとしての責任も果たしきれてないじゃん。世界が大変なことになってるならさ、そこに勇気を与えるのがあたし達の、千奈の責任なんじゃないの?きっと、プロデューサーもそう言うと思う。」
    「………先生。」
    「………あたしも、前はそうだったから。大人ってほんとばかで浅はかじゃん。問題事からは無条件に遠ざけられて、あたし達は自分を追い詰めることしかできない。でも、前を向いて輝きながら進む、やめたは言わない。それがアイドルで、あたし達なんだ。」

    だからさ。
    世界、救おう。
    アイドルの責任果たして、見せつけてやろーよ。

  • 61二次元好きの匿名さん25/07/30(ć°´) 05:01:50

    「……ことねさん。」

    「ありがとうございます。わたくし、危うく自分を見失うところでしたわ。倉本千奈は、みなさまのために進め続けなくてはいけませんわね。」
    「……ん、泣かなかったじゃん。千奈は偉いナ〜。頭撫でちゃお。」
    「も、もう!からかうのは後にしてくださいませぇ!」
    「ひひっ、後ならいいんだ♪」
    「はぐぅ!?」

    倉本千奈。世界に羽ばたく倉本財閥の令嬢にして、希望の光で全てを満たす天性のアイドル。彼女の責任は、彼女が生きる限り果たされ続ける。
    涙は流さない。先生との誓いだって、決して破らない。

    「……ねえ、終わった?あなた達の惚気を悠長に聞いていられるほどの余裕なんてないんだけど。」
    「あ、わりーわりー。美鈴ちゃんといっつもじゃれ合ってる手毬に言われても説得力ねーけど、その通りだわ。」
    「はあ!?み、美鈴とはそんなんじゃ……!ない……か、ら……。」
    「月村さん、紅くなったお顔も、とってもお可愛いですわ!」
    「あれえ?ねー千奈、浮気?ことねちゃんの方が可愛いよねえ?言ってくれないと、また頭撫でちゃうぞ?」
    「え、ええっ!こ、ことねさんは勿論可愛くて愛らしくてとっても素敵な方ですわ!けど、つ、月村さんも……。」
    「うっさい!ばか!このぽんこつども!」

    「………ふふ、あの子たちを見てると、やっぱり自然と笑顔になっちゃうね。」
    「これもまたアイドルの一つの姿……なのかな?」

  • 62二次元好きの匿名さん25/07/30(ć°´) 05:23:22

    「ほーら、そこまでにしたまえ。手毬も言っていたけど、時間は有限だ。ボク達の目的は研究データを持ち帰ること。もう少し、この部屋を調べるよ。」
    「はいっ!……おじさま、どうか安らかにお眠りくださいませ。」

    麻央が手拍子を鳴らし、気を引き締め直す。そう、一連のゾンビハザードの根源を見つけたところで、それが進展になるものてはない。オブジェにこびりついた煤が如何に動こうとも舞い散って、やたらと作業が滞る。

    「ううん……専門的な学術論文って感じのものばっかりで、どう持ち帰ったらいいんだろう……。」
    「もうこのパソコンごと持ち帰ったらいいんじゃないですか?」
    「いや、そもそもこれは精密機械だからね。雨や戦闘で破損する可能性は見過ごせないよ。それに……なんか後ろに夥しい数の配線とモニタが繋がってて何をどう弄ったらいいか……。」

    「はあ、学園長も結構な無茶を言うよなー……お、千奈、なんか見つけた?」
    「はい、引き出しに何か小さなチップみたいなものがありますの。新品のゆーえすびー?とえすでぃーかーど?と書かれていますけれども……。」
    「それだぁっ!!」

    データサイエンスや機械に強い面々はいないが、デジタルネイティブ世代としてのデバイスへの嗜みはある(もっとも、千奈がその限りであるようには見えないが)。これがあれば、パソコンから研究データを取り出すことが可能になるはずだ。肝心のバックアップも十分、一縷の望みが見えた。

    「麻央先輩!これ、使ってみましょうよ!」

  • 63二次元好きの匿名さん25/07/30(ć°´) 05:37:16

    「よし、差し込めたみたいだ。これで……。」

    キミツジョウホウガ、キケンニサラサレテイマス
    キミツジョウホウガ、キケンニサラサレテイマス

    「!?」

    ロウエイヲソシスルベク、プログラム=オメガヲキドウ
    クラモトコーポレーション、バクハジュンビヲカイシ

    「なっ、なに!?怖いんですけど!?」

    マモナク、スベテノデンリョクキョウキュウヲテイシシマス
    マンガイチ、コレガゴサドウデシタナラ、
    カンリニンハスミヤカニ、コードヲニュウリョクシテクダサイ

    「そ、そんな……!一体どうしたら……!?」


    プログラム=コンプリートマデ、アトイップンデス

  • 64二次元好きの匿名さん25/07/30(ć°´) 10:59:45

    オールひろゆき来たか…

  • 65二次元好きの匿名さん25/07/30(ć°´) 19:15:58

    これ星南会長の墓ごと吹き飛ぶのでは…

  • 66二次元好きの匿名さん25/07/30(ć°´) 22:37:43

    このレスは削除されています

  • 671◆wrMSm.CxZiIw25/07/30(ć°´) 22:42:37

    約一ヶ月経っても読んでくれてる人がいるのは嬉しいのですが、このままでは1の大学の成績が千奈ちゃんの座学の成績そっくりになりそうなので、今日はスキップします。そうしたら、明日は7月31日ですね。あら……?

    いったい誰ですの……
    軽い気持ちで『7月中に終わらせたい』
    だなんて言い出したおばかさんは……

  • 68二次元好きの匿名さん25/07/30(ć°´) 23:46:05

    おつ
    頑張ってクレメンス

  • 69二次元好きの匿名さん25/07/31(㜍) 07:02:10

    朝保守

  • 70二次元好きの匿名さん25/07/31(㜍) 15:18:53

    保守

  • 71二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 00:00:38

    保守

  • 72二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 08:38:57

    保守

  • 73二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 16:30:05

    保守

  • 74二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 23:12:32

    保守

  • 75二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 08:02:51

    保守

  • 76土日だやったあああああぁぁぁあ25/08/02(土) 09:46:49

    学P「倉本さん、誕生日おめでとうございます」
    広「おめでとう、千奈」
    千奈「まあ……まあっ!ありがとうございます!先生と篠澤さんにお祝いしていただけるなんて、わたくし感無量で「千奈ちゃあああああああああああんっ!!!」ひええええええええ〜〜〜〜〜〜〜!!」

    どんがらがっしゃんすってんころりんはらはらり〜

    The Loading Niceboat....

    千奈「もう!わたくし花海さんを受け止められるほど力持ちではありませんのよ。わたくしの非力さを甘く見ないでほしいてすわ!」
    佑芽「えへへ……ごめんごめん。じゃあ改めて!千奈ちゃん、お誕生日おめでとう!」
    千奈「ありがとうございます、花海さんっ!」
    学P「なんということだ、花海さんのタックルを真正面から受け止めてなお、倉本さんが五体満足でいられるなんて。」
    佑芽「あはは……千奈ちゃんへの愛情が溢れちゃいました……」
    広「ねえ佑芽、わたしにはやってくれないの?」
    佑芽「えっ……広ちゃんはダメだよ!前にやったら3日間も立てなくなっちゃったじゃん!」
    広「わたし達の関係は、所詮映像の中の作り物でしかなかったんだね、佑芽は酷い。わたしはこんなにも佑芽のことが好きなのに。」
    佑芽「ち、違うよぉ!広ちゃんはもちろん大好きなんだけど、千奈ちゃんもおんなじ位大好きで、ええっと……その……。」
    広「……ふふ、からかいすぎちゃった。冗談。ごめん、ね。」
    佑芽「な、なんだとぉ〜〜!広ちゃんのいじわる!そんな広ちゃんには、全力のハグをプレゼントしちゃいますっ!」
    広「おっ……ふ………。」
    千奈「ず、ずるいですわっ!誕生日も映像も、主役はわたくしですのよ!わたくしだって、花海さんとぎゅっとしたいですわあ!!」

    莉波「麻央、今日はブラックでいいの?」
    麻央「うん……今日は天然のお砂糖がたっぷり摂取できるからね。これがあれば、どんなゾンビが相手でも負ける気がしないよ。」
    燕「ふん、先日泣きながら遊園地のゾンビから逃げ回っていた奴のセリフとは思えんな。有村、あの時のお前の怯えた様は、星南ともども滑稽だったぞ?」
    星南「な、仕方ないでしょう!?スタッフの方々の特殊メイクが本格的すぎて、その、怖かったんだから!」

  • 77二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 18:42:52

    保守

  • 78二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 01:35:28

    ほしゅ

  • 79二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 05:33:07

    >>63

    マンガイチ、コレガゴサドウデシタナラ、

    カンリニンハスミヤカニ、コードヲニュウリョクシテクダサイ

    マモナク、オール=デリート、カンリョウシマス


    「は?は!?はあっ!?何言ってるのこのぽんこつ機械、そんなの、分かるわけないでしょ!?」

    「ど、どーすんだってこれ!データは取れんの?建物爆発!?全っ然意味分かんねーんだけど!?」


    あまりにも自明なことをついつい叫ぶ。建物の振動と甲高い警告音が恐怖を煽る。誰もこの状況なんて理解できない。察せられるのは、このままここに居たならきっと爆発に巻き込まれて死ぬということだけだ。データの抽出は不可能だし、爆発を止められる手段も分からない。


    -ノコリ、サンジュウビョウ-

    -ケンキュウインハ、スミヤカニダッシュツシテクダサイ-


    「麻央、逃げよう……!もうこれ以上は間に合わないよ!」

    「で、でもっ!ボク達は星南を失ってまでここに来たんだ!ここで引き返すなんてボクには……!」

    「麻央先輩!ここで全員死んでしまう方が本末転倒ですわ!」

    「………くっ……!」ダダッ


    苦渋の決断で、5人は階段を駆け下りる。特に麻央と手毬の表情は苦虫を噛みつぶしたように歪んでいて、今にも歯軋りが聞こえてきそうな勢いだ。


    -ノコリ、ジュウゴビョウ-


    「はっ………はあっ…………。千奈、急げっ!」

    「ひぃっ……、はひい……!ま、まにあいませんわ〜!」


    しかし初動が遅かった。建物内に流れる不快なアナウンスが、嫌でも耳に入ってくる。研究室を飛び出し疾走したとて、まだここはビルの中層。飛び降りるには高すぎるし、駆け下りるにも時間が足りそうにない。


    -ノコリ、ジュウビョウ-


    (なにか……なにかないのか……っ!?)

  • 80二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 05:41:42

    -キュウ-

    「………っ!ことね!ガラスを割って!」

    -ハチ-

    「っはい!」

    -ナナ-

    ガシャアアアアアンッ!!

    -ロク-

    「やああああっ!!」

    -コ゚-

    ジャラララララッ!

    -ヨン-

    「みんな、ボクに捕まるんだ!」

  • 81二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 05:45:03

    -サン-

    「「「「っ!?」」」」

    -ニ-

    ババッ

    -イチ-

    「間に合えええええええっ!!!!」


    -デリートシマス-



    駆け抜けて。砕いて。投げて。引っかけて。飛んで。

    ────直後、耳をつんざく轟音が、天川の遺構に鳴り響いた。

  • 82二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 06:04:57

    ゴオオオォォォォォォォオン…………………


    「……?」
    「どうしたの、佑芽?」
    「分かんない、なんかおっきな爆発が聞こえたの。」
    「……へえ。」

    佑芽の五感の強さはよく知っている。軍も政府も機能しないこんな退廃した世界で大規模な爆発だなんて、にわかには信じがたいけど。佑芽が何かを感じ取ったなら、きっとそれは真実なんだろう。……真横に積み上げられた数多の屍を一瞥して、再び佑芽に視線を戻す。

    「それよりさ、見て!広ちゃん!お姉ちゃんだよ!見つけたの!もー、黙ってどっかに行っちゃうなんてお姉ちゃんは悪い子だなあ。うりうりー。」
    「……っ!それ、は。」

    違う、違うよ、佑芽。それは咲季じゃない。
    ……佑芽が手に持っているのは、ばくおんライオン。大昔にお姉ちゃんとクレーンゲームをしたんだけど、その時に一撃で取っちゃったの!と以前佑芽が紹介してくれたっけ。

    「でもこのお姉ちゃんね、なんか匂いが変なの。ずっと泣いてるし、あたしが作ったご飯もちっとも食べてくれないの。ほら。」
    「……あ、あ。」

    佑芽、あなたには一体何が見えているの。何が聞こえているの。目の前にずいと差し出されたばくおんライオンを見て、わたしは慄く。初めて、怖いと思ってしまった。佑芽の無邪気な笑顔を見て、背筋が凍る。

    「ほーら、お姉ちゃん、好き嫌いはダメっていつもあたしに言ってたじゃん!ほら!ほら!!」

    わたしは、ばくおんライオンがペースト塗れになっていく様を無言で見つめる。選択した無言じゃなくて、本当に言葉が出てこない。何も、言えない、よ。咲季、あなたが落としたストラップだよね。なんで、こんなところにいるの?


    ……咲季、近くにいるの?

  • 83二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 06:06:12

    参考:ばくおんライオン

  • 84二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 06:19:54

    このレスは削除されています

  • 85二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 06:22:18

    「………っはあっ!!!ふ……はあっ………ゲホゲホッ。」

    ああ、危なかった。窮すれば通ずってのはこのことを言うのかな。上手くいくか分からない賭けだったけど、上手く飛び移れたみたいだ。
    あの時、ガラス越しに向かいのビルが見えて。ちょうど、ボクが持っている鎖がギリギリ届きそうな距離感。迷っている暇なんてなかった。鎖を伸ばして引っかけて、5人を乗せた命懸けのターザンだ。

    「……っつ!はあ、着地の衝撃で足を捻ったか。みんなー!無事かい!!」

    「……んいってて、はーい!あたしはここにいますよ!」

    「大丈夫です。間一髪、でしたね。」

    「んぐうぅぅぅぅ……舌を噛んでしまいましたわ……!」

    良かった、みんな無事だね。
    ふと後ろを振り返ると、さっきまでボク達がいたビルは跡形もなく吹き飛んでいた。下から上に向かって爆破されて、見るも無残な瓦礫が広がっている。……結局ボク達は、星南を失っただけだった。目的は何一つ果たされず、仲間を一人失った。根緒先生にも美鈴にも、星南にも、向ける顔がない……。
    ……でも、止まってる場合じゃないんだ。ボクも一応ゾンビから軽い傷を受けてしまっているし、さっきまで探索していた場所は見る影もない。一度学園に戻るほかない、よな。あとは、みんなの傷も確認しないと。 

    ことね、手毬、千奈、莉波…………、莉波?
    あれ、さっきの点呼でボクは────


    「─────莉波っ!!?」

  • 86二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 08:14:57

    すっかり忘れてたけどそういえば莉波って後半に合流する仲間枠だったな…

  • 87二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 12:32:06

    「莉波!どこだい、莉波ーーー!」
    「莉波お姉さまぁーーーーっ!」

    大地に降り立ち、瓦礫と土煙で視界が悪い中声を荒らげる。直前まで近くにいたはずの戦友の姿がない。何しろあの極限状態だ、あまり想像はしたくないが、もしかしたら─────
    いや、そんなはずはない。ここまでに数々の機転を利かせて白星を上げ続けてきた莉波だ。こんなことで倒れる彼女じゃない。そう言い聞かせながら瓦礫を掻き分ける。

    「……………う。」

    「……っ!今莉波先輩の声がした!こっち!」
    「姫崎先輩!どこですか!無事なら返事し、て─────」

    「………あ、て、まり、ちゃん……。」
    「─────あ、あ、」


    うわああああああああああああああっ!!!

    「手毬!急に叫んでどうし、た───────え。」
    「月村さん!何かあったのです、か……あ…………。」
    「………りな、み。」

    ガラクタの中で力無く倒れ伏していた莉波には、本来あるはずのものが失われていた。そこにあったのは、背中が焼け爛れ、全身に血を被り─────左足を失っていた莉波の姿だった。

  • 88二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 21:15:13

    ほしゅ

  • 89二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 21:15:40

    そんな…お姉ちゃん…

  • 90二次元好きの匿名さん25/08/04(㜈) 05:36:12

    朝保守

  • 91二次元好きの匿名さん25/08/04(㜈) 08:40:55

    このレスは削除されています

  • 92二次元好きの匿名さん25/08/04(㜈) 08:52:39

    「………ご、めん。……怪我、しちゃった……。」
    「─────。……!そ、そんなことを申し上げてる場合ではありませんわ!ええっと、手当ての出来るものは……!」
    「あし、が……。まずは止血だ!強く縛れるものは……こんなものしかないけど、せめて……!」

    惨状を目の前にして、4人の中を流れる時は止まった。生暖かい湿った空気が漂う。どうにか理性を取り戻し、急いで莉波の救出に取り掛かった。

    「手毬!そっちの岩、持ち上げて!あたしと千奈で莉波先輩引っ張り出すから!」
    「わかっ……てる!ふぬぬぬぬぬ……!」
    「────んぎいっ!」
    「ああっ!申し訳ありません莉波お姉さま!し、慎重に……慎重に……!」
    「くそっ血が止まらない!何か……何かないのか!?」

    麻央がジャケットを脱ぎ莉波の左足にあてがうも、血が止まる気配はない。そもそも、なぜ莉波だけが重傷を負ったのだ。
    思えば、体力のない千奈をサポートしながら最後尾を走っていたのは莉波だった。麻央に続いて手毬、ことね、千奈、最後に莉波と緊急脱出を試みたはいいが、一番後ろにいた莉波に爆風の余波が直撃してしまったのだろう。莉波の背の高さが幸いして千奈達は被弾を免れたが、その分莉波は熱波と崩落の衝撃を一身に受けてしまったことになる。満身創痍も甚だしい。

    「……もう、いい……よ………。わたしの……ことは……、おいて………!」
    「そんなこと、出来るわけありませんわ!星南お姉さまの分まで、全員で帰るのですわ〜!んぐぅ〜〜〜〜〜…………っ!!!」

    敬愛する仲間をまた失うのか倉本千奈。違うだろう。ここで諦めては倉本の名折れ。自分に出来ることを探し尽くさずして、責任は果たせない。
    それでも、変わらない現実はある。莉波の視界は朧げになり、いつその灯火が消えてもおかしくない。嫌だ、そんなことは─────

    「「「「お嬢様!!!」」」」

    はっとして、振り返る。そこにいたのは、

    「…………か、香名江!?それに、家の者がこんなにも!?」
    「遅くなってしまい、大変申し訳ございません。倉本財閥医療班────会長の御下命のもと、只今到着いたしました。」

  • 93二次元好きの匿名さん25/08/04(㜈) 09:14:35

    「お嬢様、お怪我はございませんか?応急手当が可能なものは揃えてあります。障るものがありましたら何なりと。」
    「なな、何故今になって………いいえ、そんなことを言っている場合ではありませんわね。みなさま!莉波お姉さまを……このお方をお救いくださいませっ!!今、すぐに!!!」
    「「「「はっ!!」」」」

    「なっ……え、えっ?あ、あの。」
    「ち、千奈!あの人達って……。」
    「……わたくしの家の者達ですわ。細かいことは分かりませんが、今は彼らに任せてくださいませ。腕は確かですわ。」
    「あ、ああ……。────莉波を頼みます。」

    (お爺様、香名江。いったい、どういうおつもりですの……?)

    窮地に現れたのは、倉本の家の関係者たち。なぜ今になって現れたのか。なぜ今まで何も干渉して来なかったのか。千奈としては香名江はもちろん、お爺様にも言ってやりたいことが山程あるが、山積している課題に比べれば大したことではない。…………本当に?
    と、とにかく、今一番大事なのは莉波の命だ。どんな応急処置だろうと、自分たちがどうこうするよりは彼らに任せたほうが確実に事態は好転し得る。それが分かっているだけに、どうにも癪だ。他の三人が固唾を飲んで見守る中、千奈はそれに加えて得も言えぬ悶々とした感情を抱えていた。


    ……それから少しして。

    「お嬢様、皆さま。お連れ様の救命措置が完了いたしました。暫くは絶対安静が不可欠ですが、命に別状はございません。」
    「……!ほ、本当ですかっ!莉波先輩無事なんですか!?」

    ずっと険しい表情をしていた一同の顔が、ぱあっと明るくなる。今だけは、子どものように喜んだっていいだろう。

    「よ、よかったあ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
    「あの、莉波の顔を見てもいいですか!」
    「勿論です、ただし、刺激なさらないようにお願いいたします。」

    ────雨が、上がった。

  • 94二次元好きの匿名さん25/08/04(㜈) 09:20:56

    「………香名江。少し、お話できますか?」
    「………お嬢様の命とあらば、謹んで。」

    莉波の生還を喜ぶその裏で。

    千奈の目に、炎が宿った。

  • 95二次元好きの匿名さん25/08/04(㜈) 09:32:12

    佑芽「わ゛、千奈ちゃんが怖い顔してる!」
    広「でも、あんまり怖くない。千奈は可愛い。」
    千奈「もうっ!わたくし真剣でしたのにい!」

    学P「メイドの皆さん、この度は友情出演ありがとうございます。」
    香名江「とんでもございません。私共は、常にお嬢様のためにあります故。大旦那様共々、可能な限り協力させていただくのが務めというものです。」

    リーリヤ「あっあの!姫崎センパイのあの火傷痕とか、隻脚とかって、特殊メイクだって聞いたんですけどホントですか!?その……不謹慎かもしれないんですけど、手負いの兵士みたいで、カッコいいなって!」
    香名江「はい。倉本お抱えの画家を招聘し、アートメイクとして施術させていただきました。お気に召したのならば何よりでございます。」
    清夏「マ!?メイクであそこまでできるの!?すっげー!あたしにもやってみてほしーんですけど!てか、Pっちもお願いしてガチ女装させてもらいなよ!Pっち背高いんだし、きっと映えるよ?」
    学P「遠慮しておきます。」

  • 96二次元好きの匿名さん25/08/04(㜈) 17:55:29

    間に挟まるほのぼのシーンが癒し😭

  • 97二次元好きの匿名さん25/08/04(㜈) 22:25:48

    保守

  • 98二次元好きの匿名さん25/08/04(㜈) 23:35:47

    ほっしゅ

  • 99二次元好きの匿名さん25/08/05(灍) 03:39:54

    >>92

    メイドたちが駆けつけたシーン、頭の中でTOKYO MERのBGM流れ出したわ

  • 100二次元好きの匿名さん25/08/05(灍) 10:11:24

    ほっしゅ

  • 101二次元好きの匿名さん25/08/05(灍) 16:08:06

    ほっしゅ

  • 102二次元好きの匿名さん25/08/05(灍) 23:21:42

    保守

  • 1031◆wrMSm.CxZiIw25/08/06(ć°´) 02:01:52

    試験(の日程)が終わりましたわ!!!!!☺️☺️☺️☺️

    試験(の成績)が終わりましたわ〜〜!!!😭😭😭😭

    トンチキダイススレもやりたいし、もう半月くらい6日目から進展してないし、ここから急ピッチで進めますわ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!

  • 104二次元好きの匿名さん25/08/06(ć°´) 02:24:44

    >>94

    「香名江、改めて教えてくださる?貴女は誰に命じられてわたくしのもとに来ましたの?」


    「……大旦那様です。」


    「では次に。このような窮地に至るまで、一切わたくし達に干渉しようとしなかったのは何故ですの?」


    「……っそれは。」


    「ええ、分かっていますとも。何も初めから倉本の救援を全面的に期待していた訳ではありませんわ。ただ、なぜ……なぜ!もっと早くに来てくださらなかったのです!助けようとしてくださらなかったのです!」


    「……私からは、お答えしかねます。」


    「そう……ですわよね。ごめんなさい、香名江。貴女に強く当たったところで、何にもなりませんのに。」


    「僭越ながら……お嬢様のお気持ちは甚く存じております。どうか私たちに、皆さまをお守りさせてくださりませんか。」


    「ええ。それはとても素敵な提案ですわね。是非、お願いしますわ。ただ一つ……わたくしね、ちょっぴり。いいえ、とても。怒っていますの。」


    倉本千奈……香名江の主人は、実に表情豊かで感受性の鋭い気品溢れる娘だ。よく表情は変わるし、思っていることが何でもかんでも顔に出る。


    そんな香名江が、初めて息を呑んだ。畏怖した。


    感じ取ったのだ。倉本財閥の頂点に立つ老爺と同じ目、見た者全てを従える獅子の如き風格。弱冠15歳の倉本千奈が備える、無二のカリスマ性。

    そしてその裏でたおやかに、されど沸々と燃える────炎を。



    「お爺様と、一度お話をしなくてはいけませんわね?」

  • 105二次元好きの匿名さん25/08/06(ć°´) 02:53:13

    「……あっ、千奈ちゃん!」
    「莉波お姉さま、お怪我はいかがでしょうか?」
    「うん……足はもう動かせないからまともに戦うことはできないかもだけど、痛みは結構引いてきたよ!ありがとうございます、千奈ちゃんも、千奈ちゃんのお家の人も!」
    「最悪の事態は免れたようでよかったですわ。……それで、皆さんに一つお話がありますの。」
    「お?なになに。」

    千奈の言葉を聞いて、ことね達が集まってきた。まるで、これから革命を宣言するかのような威厳が千奈から感じられ、思わず全員の背筋が伸びる。

    「皆さん……お分かりいただいたかと思いますが、倉本の力というのは、本当に強大ですわ。気分一つで人を救うことも、死なせてしまうことも、簡単に行える。莉波お姉さまを土壇場で治療したり……人類を死に至らしめる可能性のあるウイルスを作り上げたり。」
    「……っ!?お嬢様、まさかお知りになって……!」
    「────。」
    「………っ。」

    なんとなく、分かってはいた。孫を溺愛してやまないあの爺のことだ。あくまで可能性に過ぎないが、きっと───。
    ……言葉を使わず、手ぶり一つで従者を黙らせる。千奈は、戦いの技量が特別秀でているわけではない。それどころか、一人でゾンビと正面衝突したなら勝てるかどうかも怪しい。それでも、今の彼女には、有無を言わせぬ凄みがあった。

    「一連の騒動は、ひとえにわたくしだけの責任ではありませんわ。されど、わたくしが最善を尽くせていたなら、何かしら変わっていたこともあったかもしれません。」
    「最善って……千奈はいっつもあたし達のために出来ることを探してくれてたじゃん。それなのに……」
    「それは、わたくしという一人の娘だけの話ですわ。今わたくしがやるべきは、尽くすべき最善は……わたくしという倉本の力を惜しみなく使うこと。」

    「そのために……会って参りますわ。あの分からず屋なお爺様と。」

  • 106二次元好きの匿名さん25/08/06(ć°´) 09:35:21

    「ですので皆さん。わたくし、少しだけお爺様のもとへ行って参りますわ。今夜には戻って来ますので、どうか。初星学園で待っていてくださいませ。」
    「……千奈一人で行くの?私は反対。毎日ちょっとずつ削られてるでしょ、現に姫崎先輩すら深い傷を負ったのに、これ以上人が抜けたら本格的にギリギリの戦いになるよ。」

    それに異を唱えたのは手毬だ。これだけの間一丸となって戦っても、星南と莉波が前線に立てないような状態に陥ってしまった。少しでも互いを守り勝率を上げるためには、一時とはいえ千奈の離脱も容認し難い。

    「ワクチンの件。」
    「……。」
    「先の戦いで、わたくし達は何一つ成果を得られませんでしたわ。ですが、希望を失ってはいけません。学園長からも、わたくしのお爺様に関する話は一切出てきませんでした。もしも十王に加えて全ての倉本の力を結集させられたなら……まだ、間に合うかもしれませんわ。」
    「……ボクは、千奈に賭けるよ。」
    「有村……先輩。」
    「初星学園に戻れば、まだ根緒先生もいる。ボクが美鈴のことも、みんなのことも、守り抜いてみせるよ。」

    「……分かったよ、千奈も有村先輩もそんなに言うなら、ちゃんと成果持って帰ってきてよね。じゃなかったら怒るよ。」
    「うふふ、やっぱり、月村さんはお優しいですわね。秦谷さんのことでご自分が一番焦っているはずですのにわたくしに可能性を預けてくださること、心から感謝いたしますわ。」
    「はあ……勘違いしないでくれる?そうした方が得ってだけだから。」

    「千奈、あたし待ってるから。ちょっとの間離ればなれだけど、また会えるって、信じてるから。」
    「……ことねさん。」
    「しょーじき、怖いんだよね。星南先輩も、莉波先輩も、予期せぬところでやられちゃって。千奈も突然いなくなっちゃうんじゃないかって。……でも、千奈はやれる子だから。待ってる。」
    「はい、必ず、戻ってまいりますわ!ことねさんこそ、危なっかしい真似はしないでくださいまし?次は、わたくしの頭を撫でても構いませんので。」
    「よっしゃあ!ことねちゃんやる気出てきたぁ!」
    「私も、もう応援することしか出来ないけど……千奈ちゃん、また会おうね。」

  • 107二次元好きの匿名さん25/08/06(ć°´) 09:41:19

    このレスは削除されています

  • 108二次元好きの匿名さん25/08/06(ć°´) 10:00:39

    「香名江、あなたはわたくしと共に。」
    「はい、お嬢様。」

    「ということですので、他の皆様はわたくしのお仲間を全力でサポートしてくださいませ!」
    「承知いたしました、お嬢様。」
    ツツー……
    『こちら第2部隊、初星学園正面口まで全てのゾンビを制圧完了。どうぞ。』
    「こちら第3部隊、これよりお嬢様以外のお仲間を引き連れ、慎重に帰還します。どうぞ。」
    『了解、お連れ様の体調に最大限留意せよ、以上。』
    ガチャッ……

    「ハハ……倉本の私兵の方々の頼もしさときたら……。」
    (本当に、もう少しだけ早ければ、ボク達は………。)

    雨が上がったのが、とうの昔のように感じられる。大地は荒れ果て乾燥し、空は彼女たちの思惑など知ったことではないかのように土煙を運ぶ。光が不毛に眩しいのは、どうしてだろうか。


    「お嬢様、間もなくこちらに四輪駆動が到着いたします。1時間もあれば、倉本本邸へと到着が可能でしょう。」
    「ありがとう、香名江。」

    美鈴のタイムリミットまで48時間を切った今、これ以上の失敗は出来ない。千奈の頭の中からは、縋るような祈りと憤怒の炎が交互に顔を出す。

    (お爺様……。)

  • 109二次元好きの匿名さん25/08/06(ć°´) 16:40:06

    そうして、千奈と香名江を乗せた車は倉本本邸へと向かった。今やすべての道路が酷道と成り果てた街中を、巨大なタイヤをもって強かに走り抜ける。上下左右に激しく揺れる車内とは裏腹に、千奈の肝は据わっていた。
    その少し前、初星学園。あさりと美鈴は、倉本の護衛と対峙する。

    ───『こちら第1部隊、校内の残党処理、及び護衛対象との遭遇完了、どうぞ。』

    ───『こちら第4部隊、引き続き周囲に警戒しながら他部隊と合流せよ、どうぞ。』

    ───『了解、引き続き治安維持に努めます。以上。』

    ───『……それで、あなた達は倉本さんのお家の方々だと。校内のゾンビを一掃して、わたし達を護衛すると。そう仰るんですね?』

    ───『はい。"本日より"大旦那様から拝命を受け、全隊が教師と生徒の皆さまをお守りすることとなりました。よろしくお願いいたします。』

    ───『………。』プルプル

    ───『……一度銃を置いていただけますか?秦谷さんは、れっきとした人間ですので。』

    「ふう……突然あちこちから銃声が聞こえた時は何かと思いましたよ。常に秦谷さんと一緒にいておいて正解でした。」
    「あの、あさり先生。わたしを拘束しておかなくていいんですか?」
    「……はい、先生は秦谷さんのことを信じていますから。それに、秦谷さんが心の中でずっと震えていることも、知っていますから。過度な圧迫は、何のためにもなりませんからね!だから今は、先生に甘えてもいいんですよ?」
    「………っ。」ギュッ

    ツツー……
    『こちら第3部隊、お嬢様を除いた4名のお連れ様とともに間もなく帰投します、どうぞ。』
    「……っ!な、4人!?」

    一悶着ありそうな予兆こそあったが、あさり達もまた強力な味方を得ることに成功していた。鬼に金棒、虎に翼。それぞれが戦闘能力を有する初星学園のアイドルと教師に倉本の力が加われば、一騎当千は必至だっただろう。
    だからこそ、今の言葉は聞き流せなかった。一人足りなかった。あさりはまだ、惨劇を知らない。

  • 110二次元好きの匿名さん25/08/06(ć°´) 22:21:47

    またまたほっしゅ

  • 111二次元好きの匿名さん25/08/07(㜍) 05:38:04

    保守

  • 112二次元好きの匿名さん25/08/07(㜍) 07:19:02

    「……先生、戻りました。」
    「おかえりなさい、有村さん。……十王さんは。」
    「………。」フルフル
    「……そうでしたか。一度座りましょう。皆さんも、お疲れでしょうから。」

    程なくして、帰還したアイドル達。あさりの問いに対して、ことねが小さく首を横に振る。あさりも、これ以上追及することはなかった。

    「その様子だと……あまり成果は得られなかったようですね。」
    「……っごめんなさい。私達、何も……。」
    「まりちゃん……。」

    手毬は、拳を握って一際強い悔いを滲ませる。ふと美鈴の目を見ると、瞳孔が灰色に塗り潰されて、顔の血管が不自然に浮かび上がっている。美鈴がだんだん美鈴じゃなくなってきていると実感させられて、直視出来ない。
    本当は今すぐに美鈴を抱きしめてあげたい。けど、今の自分達にその資格があるとは思えなかった。

    「わたしはこれから、学園長と今日の分の交信を行います。何があったか……お話してくれませんか?十王さんのことも含めて。」
    「分かり、ました。」

    一同は力無く頷く。日が傾き始め、もうすぐ夜がやってくる。明けない夜はないと信じるには、些か覇気が足りなそうだ。世界崩壊のXデー以来学園長とは毎日話しているが、ここまで気が重いのは初めてだ。星南のことなど、どう伝えられようか。

    『根緒くん、今日もご苦労であったな。……して、こちらからも謝らねばならないことがある。』

  • 113二次元好きの匿名さん25/08/07(㜍) 11:50:07

    やはり面白い
    ほっしゅ

  • 114二次元好きの匿名さん25/08/07(㜍) 14:10:01

    『倉本爺のことなんじゃがな……。わしは、あのいけ好かないジジイとは定期的に話をしておった。この世界で、生徒達と可愛い孫をどう守るか、とな。』
    「……っ!」
    『昨日わしからアヤツに、諸君が製薬会社に向かうことを話しての。まさか、あれが倉本の息のかかっていた組織だとはわしも知らなんだ。奴の様子が変わったのは、それからじゃった。』
    「……様子が変わった、とはどういうことですか?」
    「あのゾンビウイルス、作ったのは千奈ちゃんのおじさん……だったんですよね。」
    「なっ、姫崎さん、そんなことが!?」
    『うむ……やはり、姫崎くん達は知ってしまっておったか。もともと、千奈くんの安全についてはわしに一任されておった。それを、事実上根緒くんに託したわけじゃが……、あのジジイは、パンデミックの元凶が倉本の人間だとは千奈くんに知られたく無かったのじゃろうな。』
    「じ、じゃあ、今になって倉本の家の方々がボク達の護衛に来たのって……!」
    『ああ、倉本の爺の独断じゃ。広い目で見たら千奈くんも関係者になってしまうから、今までは徹底的に干渉を避けていたという。しかしの、製薬会社の件についてはわしも本当に初耳じゃった。あのいけ好かんジジイと密談していたこと、そしてアヤツの勝手な行動でおぬしらを振り回してしまったこと、謝罪させておくれ。すまんかった。』

    そう言って、学園長は画面越しに頭を下げる。正直なところ、学園長に責任があるとはあまり思えない。それでも、高校生の彼女たちは、大人の覚悟というものを見た気がした。

    『色々言いたいことはあるじゃろうが、倉本のジジイが遣わした部隊の戦闘力は大したものじゃ。勝手な話じゃが、そこは安心して身を預けておくれ。』
    「……まさしく、本日よりお嬢様、根緒様、そして生徒様をお守りせよとの命を賜りました。どうぞ、我々を盾としてお使いくださいませ。」
    「そ、そんな、盾だなんて、出来るわけないじゃないですか!そんなことしたって、千奈も、ご家族の人も悲しむだけですって!」
    「藤田様、ご配慮ありがとうございます。しかし、大旦那様からの御命令は我らが命よりも優先されます故。」
    「くっそー、話通じねー人だなあ……。」

    『……ところで、星南と千奈くんはどこじゃ?画面からはよく様子が窺えんでな、顔を見せておくれ。』

    ……来た。

  • 115二次元好きの匿名さん25/08/07(㜍) 20:46:34

    保守

  • 116二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 03:04:53

    保守

  • 117二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 08:05:33

    保守

  • 118二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 14:49:41

    「あの……学園長。」
    『おお、藤田くんではないか。何じゃ、辛気臭い顔をしおって。』
    「星南先輩は……、死にました。あたしを庇って。だから……その……、ごめんなさいって言葉じゃ済まされないのは分かってます!けど……、ごめん、なさい……!!あたし……あたしぃ……!」

    話を切り出したのはことねだった。星南に対する感情も、思い入れも、星南を抱えて泣いたあの時に全て出し切ったはず。それなのに、涙が再び目に溜まる。自分が泣いて被害者面をしても、何にもならないってのに。
    涙のせいか、拒否感か、画面越しに映る邦夫の顔がうまく見えない。学園長は、どんな顔をしているんだろう。自分の孫を奪った女に、どんな目を向けているのだろう。視界に入れたくない。いくら千奈におだてられてやる気を出せたって、本当の藤田ことねなんてこんなちっぽけなんだ。あたしは、

    『………………藤田くん。』
    「……ずびっ……はいっ……!」
    『ありがとうの、星南のために、そこまで涙を流してくれて。』
    「………ふぇ?」
    『薄々、分かっておった。わしから見ても自慢のあの子がいないということは、きっと何かあったに違いないと。ただ、藤田くんのためにその身を挺したとは知らんかったがの。』
    「……おこらないん、ですか?あたし、あなたのお孫さんを、」
    『ハッハッハ!そんなことは言うまいて。星南は、時間さえあれば常に藤田くんのことばっかり話しておってな、倉本千奈くんもおるというのに節操もなく……。あの子がそこまで入れ込んだお主のことを謗るなんて、わしがあの子に顔向けできんわい。』
    「せな……せんぱい……。」
    『それにわしは、諸君のことを信じておる。もちろん、星南のこともな。若人が生きたいように生きられたなら、笑ってそれを認めてやるのがわしら大人の務めじゃ。ほれ、顔を上げい!』
    「うぅ………ぐすっ、うわああああああぁぁぁぁあん!!」

    (星南よ。お主の希望は、確かにここにある。どうか、遠くから見ていておくれ。初星の煌めきを。)

    誰にも知られることのない一雫。邦夫の目に微かな水滴が光った。

  • 119二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 14:57:42

    このレスは削除されています

  • 120二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 14:58:55

    星南「ことね!ああ、泣き顔も可愛いわねことね!」パシャッパシャッ

    ことね「あの……流石に引くんですケド……。」

    学P「ご自分の推しとお爺さんが泣いているのを見た上での反応とは、とても思えませんね。ましてや自分が話の中心だというのに。」

    邦夫「なんじゃ星南よ、死ぬ直前、藤田くんの背中を抱きしめた瞬間のお主も可愛かったぞ〜!最期に魅せたあの表情、流石わしの孫じゃ!」

    星南「なん………!学園長、私あなたのこと嫌いです!」

    邦夫「ぐはあっ!?……プロデューサー、わし、星南に嫌われてしまったみたいなんじゃが……。」

    学P「血は争えませんね。」

    ことね「星南先輩、よくこれであたしの写真取りまくれますねホントマジ信じられない……♡」

  • 121二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 15:22:40

    >>118

    『ハッハハ……、と、すまんの。話を遮って。して、恐らくその様子だと研究データもあまり芳しい様子とは言えなそうじゃが……。』

    「ことねがうるさいので、ここからは私が話します。」

    『おお月村くん!達者かの?』

    「はあ!?ちょ、手毬お前……!」

    「怒るのか泣くのかどっちかにしなよ、鬱陶しい。」

    (こ、コイツ〜〜〜!!……はあ。でも、ちょっと吹っ切れたわ。)


    会話は手毬にバトンタッチした。ことねをあしらっておきながら、手毬の腹わたは心底煮えくり返っている。データも得られず、自分の手で美鈴を助けられるかも分からない。それでも、可能な限り平静を装うのだ。


    「まず千奈は、倉本の会長の所に向かいました。長いこと過ごしているメイドさんと一緒なので、きっと大丈夫……だと思います。」

    『おお、そうか。倉本爺のバカからはまだ何も聞いておらんが、最後に見た限りでは無事なんじゃな。』

    「はい、そしてワクチン用のデータですけど……お察しの通り、何も得られませんでした……!」

    『……そうであったか。ご苦労じゃった、手間を掛けさせてすまんのう。』

    「こんなこと言える立場じゃないですけど!お願いします、美鈴を、助けてください!私、そのためなら何でもします!」


    鬼気迫る勢いで画面に向かって叫ぶ。望み薄だと分かっていても、想いを伝えずにはいられない。自分たちの力では、何も為せなかった。

    データがあって初めてワクチンの開発が間に合うかどうかの瀬戸際。美鈴は、本当に助けられるの?息も忘れてしまうくらいに、心臓が張り裂けそうになるんだ。


    『……わしも、最善は尽くす。しかし、もし、もしも……。すまん、これ以上は言えん。』

    「………っ。」


    返ってきたのは、歯切れの悪い返答。生返事を疑って食ってかかりそうになるけど、そんなのが無駄だってことは手毬が一番よく知っている。本当に、分からないんだ。


    『わしにできる残されたことは、老体に鞭打って出来損ないの薬とにらめっこするだけじゃ。また明日連絡する。諸君も先に今日の疲れを……』

    プルルルルルル

    『む……一瞬失礼するぞい。────なんじゃあ倉本ぉ!こんな時間にわざわざ電話など………………!!!


    な、なんじゃとォ!!?』

  • 122二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 23:10:40

    >>120

    ことねの泣き顔も世界一可愛い

  • 123二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 08:35:04

    保守

  • 124二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 14:23:53

    保守

  • 125二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 20:05:08

    保守

  • 126二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 01:01:50

    保守

  • 127二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 08:11:39

    保守

  • 128二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 14:08:41

    ほしゅ

  • 129二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 22:49:16

    保守

  • 130二次元好きの匿名さん25/08/11(㜈) 05:56:09

    補習

  • 131二次元好きの匿名さん25/08/11(㜈) 12:01:49

    昼保守

  • 132二次元好きの匿名さん25/08/11(㜈) 17:10:18

    ほっしゅ

  • 133二次元好きの匿名さん25/08/11(㜈) 23:25:35

    保守

  • 134二次元好きの匿名さん25/08/11(㜈) 23:42:10

    ほっしゅー

  • 135二次元好きの匿名さん25/08/12(灍) 08:50:00

    保守

  • 136二次元好きの匿名さん25/08/12(灍) 17:27:52

    保守

  • 137二次元好きの匿名さん25/08/12(灍) 21:09:45

    保守

  • 138二次元好きの匿名さん25/08/13(ć°´) 01:10:33

    かなり早いけど一応深夜保守

  • 139二次元好きの匿名さん25/08/13(ć°´) 04:31:10

    『おい倉本ッ!それは、それは誠か!?』


    時は少し遡り、暮れなずむ夕陽が影を作る倉本邸。千奈は単身、否、香名江とともに祖父を訪ねていた。本邸のメイドには既に話は通してある。一切の滞りなく、されど厳かな空気に包まれて、千奈は屋敷の床を踏む。別荘でプロデューサーと初めて会ったあの日、彼もこんな風に緊張していただろうか。

    「大旦那様、香名江でございます。千奈お嬢様が参られました。」
    「失礼いたします、お爺様。」

    まぶたの裏にあの日の光景を映し出しながら、重い扉を両手で引く。今回は自分が申し出る立場だ。

    「よくぞ参ったな、千奈。────息災であったか。」
    「はい。お爺様も、またお髭が少し伸びたご様子で。」

    日本が誇る大財閥、倉本の総本山にして千奈の祖父。神奈川の雄。……世界が世界だ、いつもの柔らかな目は鳴りを潜め、鋭い眼光が千奈を見定める。これまでの千奈ならば、蛇に睨まれた蛙のようにすくみ上がっていただろう。

    (お爺様は、わたくしに対して大きな隠し事をしていらっしゃいましたわ。それに、過去先生をずうっとわたくしの先生にすると押し通したことだってあるではありませんか。……今のわたくしは、お爺様に対していにしあちぶを取れますわ!)

    「ねえ、お爺様。お爺様の……お爺様のっ………!」
    「ぬ?」
    (お爺様に聞きたいことはたくさんありますわ。あれも、これも、それも!この中からまず最初に仕掛けるべきは……!)

    「お爺様の、おばかさんっ!!!」
    「─────な。」

    「なんとおおおおぉぉあ!?」

    (ま、間違えましたわ〜〜〜〜〜!!)

  • 140二次元好きの匿名さん25/08/13(ć°´) 04:46:27

    (はあああああ、やってしまいましたわ……わたくし、せっかくお爺様に理性的な話を色々と持ちかけるチャンスでしたのに……あら?)

    「ぬおおおお……孫に、孫に嫌われた……。天災じゃ、天災が来るぞ、ここぞとばかりに十王の阿呆にまた煽られるなど、あっては……あってはならぬう……!」

    (なんだかよく分かりませんが、何かが効いていらっしゃるみたいですわ!これはもしかすると、畳み掛けるべきなのではないでしょうか!)

    「お爺様はいつもいつもわたくしのためを思って色々なことをしてくださいますわ。しかしお爺様の功績といえば、せんせ……かのプロデューサーをわたくしにあてがったこと位!わたくしの思っていることなんてちぃーーーーっとも、分かっていらっしゃらないんですもの!」

    「ぬあ!?」

    「今回もそうですわ!わたくしと連絡を取っていないのをいいことに!おじさまの失態を倉本全体で包み隠して、わたくしから知る機会を奪って!わたくし、とっても怒っていますのよ!」

    「ぐふぅっ……!」

    「お爺様がこれ以上勝手なことをなさるなら、わたくし、お爺様とはもう二度とお話いたしませんわ!だって、お爺様はわたくしの気持ちなど全く分かってくださらない、とんちんかんさんなのですから!ぷいっ!」

    「ぐわぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」ガタッガラガラドサッ

    「あっ、あれ?お爺様!?どうして転んでいらっしゃいますの!?起きてくださいませ、まだ何も聞いていませんわ〜〜〜!!」

    悲しきかな倉本爺、ついに千奈にそっぽを向かれてしまったことで、その威厳など放り投げて椅子から転げ落ちてしまった。私生活では孫をこよなく愛する一介の好々爺……なのだが、どうやら完全にノックアウトされてしまったようだ。
    舌戦とも呼べない何かを知らず知らずのうちに制した才媛、千奈。倉本の未来はまだまだ明るい、かもしれない。

  • 141二次元好きの匿名さん25/08/13(ć°´) 11:13:36

    保守

  • 142二次元好きの匿名さん25/08/13(ć°´) 12:59:09

    孫バカをナチュラルに利用したお嬢様つよい

  • 143二次元好きの匿名さん25/08/13(ć°´) 22:58:07

    ギリ保守

  • 144二次元好きの匿名さん25/08/13(ć°´) 23:51:13

    あぶねぇ…

  • 145二次元好きの匿名さん25/08/14(㜍) 05:36:26

    保守

  • 146二次元好きの匿名さん25/08/14(㜍) 10:16:14

    保守

  • 147二次元好きの匿名さん25/08/14(㜍) 19:15:45

    ほしゅ

  • 148二次元好きの匿名さん25/08/14(㜍) 23:27:53

    寝る前保守

  • 149二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 08:45:37

    保守

  • 150二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 17:50:39

    そろそろ保守

  • 151二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 22:50:57

    保守保守

  • 152二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 00:44:38

    保守

  • 153二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 00:58:29

    あと40レスぐらいしかないけど、作者飛んだ?

  • 154二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 07:57:17

    余裕はあるけど一応朝保守

  • 155二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 15:09:09

    保守

  • 156二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 23:39:11

    保守

  • 157二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 23:46:21

    ほしゅ

  • 158二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 07:44:19

    保守

  • 159二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 08:37:05

    保守保守

  • 160二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 16:07:40

    >>140

    流石にここで飛ばれたら続きが気になりすぎる、頼む帰ってきてくれ。

  • 161二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 20:47:28

    男は黙って保守

  • 162二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 21:29:54

    ほっしゅ

  • 163二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 23:20:35

    一応保守

  • 164二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 23:28:09

    保守は10時間おきで良いぞ。

  • 1651◆wrMSm.CxZiIw25/08/17(日) 23:29:46

    予想外にお盆で色々ごたついてました!落としてもらうか保守してもらうか、どちらかしっかりお願いしとけばよかったです、申し訳ない。保守本当に助かってます。
    残りレス数を見るに次スレまでもつれ込みそうですが、もう少しだけお付き合いください。どこかでぽっくり死なない限り絶対続きは書くので!広げた風呂敷は畳まないと……。

  • 166二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 23:32:14

    >>140

    「千奈、すまん……わしが、わしが悪かったから。いつものように陽だまりのような笑顔を見せておくれ……!」

    「まあお爺様。何がそんなに悪かったのか、わたくしにしっかり!ご説明してくださいますか?」

    「うむ、一方的にわしが千奈のことを考えたつもりになって、倉本の責任問題からおぬしを遠ざけたことじゃ。千奈よ、わしにできることがあれば何でも言っておくれ、今度こそわしはおぬしの力になろう」

    「まあ……まあ!それでこそ、わたくしの尊敬するお爺様ですわ!」


    寄る年波には勝てぬ、孫にも勝てぬ。千奈は両手の指を胸元で組みぴょんぴょんと飛び跳ねた。2人の会話は終始千奈のペースで進み、持ち前の愛嬌によってすっかり空気は弛緩している。

    千奈が向かい合っているのは日本に轟く財閥の長。話の飲み込みが早くて何よりだ。


    「では聞いてくださいますか?お爺様。……わたくしね。お友達を、助けたいんですの」

    「ふむ、続けなさい」


    千奈は順を追って話した。

    大切な友達がゾンビ相手に負傷したこと。

    このままでは彼女がゾンビになってしまうこと。

    自分達だけではどうすることもできないということ。

    そして、ゾンビ化を止めるために倉本の力が必要ということ。


    「────あのおじさまを輩出した倉本の科学力なら、必ず対抗できるはずですわ。どうかお力を貸してくださいまし!」

    「あいわかった!……香名江、扉の向こうにおるのだろう?」

    「は、はい!大旦那様、香名江はここに。」

    「千奈の話を聞く限りでは、十王は今ワクチン開発事業に全力を尽くしているのだろう?奴に伝えてはくれまいか。そのワクチン開発、倉本総出で全面的に支援すると!」

    「承知いたしました、ただちに」

    「…………っ!」


    千奈の顔がぱあっと明るくなる。その目に灯った炎に、少しばかり煌めきが足されたようだ。千奈が知る限り最強で──もちろん、先生の次にだが!──大局観に長けた男が、正式にこちらの味方として辣腕を振るう。これ以上頼もしいことがあろうか。


    「千奈、おぬしはわしについてきなさい。────全てを引き起こしたあの阿呆の部屋が、この屋敷の地下にあるでな」

  • 167二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 23:41:59

    >>166

    待ってた

  • 168二次元好きの匿名さん25/08/18(㜈) 03:41:25

    >>166

    時間が空いてもやっぱり文章の作りが上手くて読みやすい

    やはり天才か...

  • 169二次元好きの匿名さん25/08/18(㜈) 12:43:33

    保守

  • 170二次元好きの匿名さん25/08/18(㜈) 17:27:35

    >>165

    ”待”ってたぜェ!!

       とき

    この"瞬間"をよォ!!

  • 171二次元好きの匿名さん25/08/19(灍) 00:26:44

    保守

  • 172二次元好きの匿名さん25/08/19(灍) 00:26:46

    歓喜

  • 173二次元好きの匿名さん25/08/19(灍) 00:26:55

    保守

  • 174二次元好きの匿名さん25/08/19(灍) 04:11:15

    「わし自身がこの扉を開けるのも、いつぶりか。わしは科学に明るいわけではないが、やつは随分と生物学にのめり込んでおったのう」
    「あら?結構、片付いていらっしゃいますのね。」
    「従者の数はこの倉本本邸が最も多いからの、どこにおいても定期清掃は行き届いておる。……この部屋を掃除していたのはおぬしであったな、捜索を手伝え。十王の研究班の一助となるものが眠っているやもしれん」
    「承知いたしました」

    昼間見た研究室とは対称的な、塵一つない清潔な部屋が広がっていた。物が少ないのは同じことだが、主を失ってもなお生きた姿を残し続ける地下室に、ある種の感動を覚える。

    「世界が暗黒に包まれてから、ほとんどの倉本グループの者は周囲の地域住民とともに防護シェルターへと移動した。わしは地上で総指揮を執っておったが、核心へと踏み込む勇気までは持てなかったようじゃ」
    「お爺様はお爺様なりに、できることをなさっていたのでしょう?わたくしのことも……昔から、そうでしたもの。わたくしを喜ばせようといつも空回りしてばかり。ですけれど、お爺様の周りにはいつも多くの人が集まっていましたわ」
    「十王が今学園を離れているのは知っておったが、おぬしまでもが最前線に立っていたことまでは知らなんだ。これもまた認識を誤っておった、苦労をかけたな」

    それぞれに見える世界が全てではないと分かっていても。どうしても、認識の齟齬が悲劇をもたらしてしまうことがある。それはどんな慧眼でも見通せない渾沌。非常事態。これまでとは大きく意味が変わった、今を生きることの難しさ。
    よく分からない化学式が印字された紙に目を通しながら、祖父と孫はお互いを静かに讃え、微笑する。心地よいとは言わないまでも、かすかな安らぎを感じる距離感だった。
    そんな折、何かを発見した従者がこちらに歩み寄る。

  • 175二次元好きの匿名さん25/08/19(灍) 04:14:19

    「大旦那様、こちらを」
    「む。なるほど……確かに、これは……」
    「お爺様、何か見つかりましたの?」
    「ああ、この資料を見る限りではな。この中に図示されている細胞の変色や不自然な膨張が、ゾンビのそれと酷似しておる。数年前のものではあるが、これで少しは────」

    「大旦那様、お嬢様っ!」

    「か、香名江!?どうしましたの、その傷は!それに……」

    「今すぐ……今すぐ、ここからお逃げください!どうか!」

    香名江は体裁を繕う余裕もなく、ばんっ、と勢いよく扉を突き破る。自分の姿など気にしている場合ではない。様子を見るに命からがら、香名江は千奈に警告を促しに来たのだ。

    ────あの忌々しい緑色の血を吐きながら。

  • 1761◆wrMSm.CxZiIw25/08/19(灍) 04:16:21

    >>174

    ✕対称的

    ◯対照的


    誤字です。意味真逆じゃねえか!

  • 177二次元好きの匿名さん25/08/19(灍) 11:08:40

    香名江…嘘だろ…?

  • 178二次元好きの匿名さん25/08/19(灍) 20:42:24

    あまり時間を空けない保守はちょっとなぁって感じだったんだけど

    >>171

    >>172

    >>173

    とかいう全く意図されてない連続保守で今書き込むわけにはいかないと思いつつ笑ってた


    と関係ない話をしつつ保守

  • 179二次元好きの匿名さん25/08/20(ć°´) 00:29:07

    寝る前の保守

  • 180二次元好きの匿名さん25/08/20(ć°´) 10:04:39

    保守

  • 181二次元好きの匿名さん25/08/20(ć°´) 18:10:23

    保守

  • 182二次元好きの匿名さん25/08/21(㜍) 00:47:50

    保守

  • 183二次元好きの匿名さん25/08/21(㜍) 06:49:03

    「香名江……ど、どうし、ましたの?その傷は……」
    「大旦那様、裏庭にヘリが待機しております。お嬢様を連れてすぐにそちらまで!」
    「な、なんじゃ、何が起きておる……!」

    その問いに答えるかのように、千奈達と共に行動していた召使いが携えたレシーバーが振動する。何の変哲もないバイブレーションなのに、いつもより急かされた気がして。

    ヴゥゥン、ガチャッ
    「こちら地下室!大旦那様とお嬢様はご無事だ!どうした──」
    『要人を連れて至急退避せよ!屍体の大規模暴走が発生!倉本本邸壊滅の恐れあり!左門から既に多数の屍体が……うぐあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

    ザザッ、ザザザァ……

    「おいっどうした!おい!応答しろ!」
    「……スタンピード、か」

    苦虫を噛み潰したような顔で、倉本爺はそう呟いた。頭の中で事例を反芻する。支社からの情報曰く、倉本の地方支部が壊滅的な被害を被ったゾンビの進軍。屍体の異常発生と強化状態で、自警団が散らされた猛烈な死の風。……迷っている暇はない。

    「香名江よ、すまぬ。千奈よ、おぬしも早く来い!このままでは、ここは屋敷ごと陥落する!」
    「し、しかし……!」

    「お嬢様、このような形となってしまいましたが、最期にお伝えさせてくれませんか」
    「かな、え……」

    迅速な判断を下した倉本爺と、未だ逡巡から動けずにいる千奈。見かねた香名江は、光の失われた灰色の瞳で千奈を見つめる。母のような、姉のような、そんなたおやかな瞳。

  • 184二次元好きの匿名さん25/08/21(㜍) 07:11:18

    「私は、一族代々倉本に仕え、倉本を支える。そのような使命を持って生まれてまいりました」
    「香名江、何を言っていますの!?まだ、間に合いますわ。貴女も共に……!」
    「いいえ、なりません。今も、私の自我が少しづつ消えてゆくのを感じております。私の命はここまで。最後まで……お嬢様に仕え使命を全うできない……こと。心より……悔いております……!」
    「そんな今生の別れのようなこと、言ってはなりませんわ!貴女はいつもわたくしの側にいて、わたくしを最も近くで支えてくれて……!」

    今にも涙が溢れそうな千奈とは反対に、香名江は大変落ち着いている。もうすぐ自分が死ぬということを、香名江ほ理解していないのか?緑色の血が全身から止めどなく噴き出し、見ていられないほどに膝が笑っている。

    「です……から……!お嬢様は……いき、て……!」
    「嫌ですわ!香名江が隣にいないだなんて、わたくしは……!」
    「今は、お側に……藤田様が……いらっしゃいます、でしょう?」
    「…………あ──!」

    「もはやこれまで!おぬし、千奈を無理やりにでも連れて参れ!」
    「はっ!……お嬢様、ご無礼を承知で抱えさせていただきます!」
    「ま、待って!香名江!香名江ぇーーーーー──────っ!」

    千奈と香名江の語らいも、そう長くは続かなかった。見かねた倉本爺が召使いに命じ、避難を優先する運びとなったのだ。召使いに抱えられた千奈は、身を乗り出して後ろを見やる。
    そこには、片膝をついた香名江と、コップに注がれ続ける水のように廊下を満たそうとする無数のゾンビ。千奈の叫びは、腐敗臭の押し寄せる屋敷の中を虚しく通り抜けた。
    千奈は、香名江から目を離せない。ジタバタと暴れ召使いを振りほどき、今すぐにでも香名江のところに行ってやりたい。しかしそれは、もう叶うことのないちっぽけな願い。

  • 185二次元好きの匿名さん25/08/21(㜍) 07:35:49

    「……はは、最期なのに、ろくなご挨拶もできなかったな」
    『ゔぇるうあ!』『ぐぎゅぎあっ!』『げべゃ!』
    「ああダメ、あいつら煩いし、もう、立って……られないわ……」

    硬い絨毯に右膝を力無く落とした香名江は、おもむろにスカートの中に手を伸ばす。もはや自制の効かない右手で、小銃を取り出して。

    ────そっと、こめかみに充てがった。

    「……っ!…………っ!!」
    「ただでは……死な、なイ。わたシハ、にんげン、とシテ……終わらセル!こレが、わタシなリのさいゴノ、テイコウ……!」

    敬愛する主人の姿を、小さく視界に収める。ごめんなさい、声は聞こえないけれど。どうか泣かないでお嬢様。貴女様は倉本の、私達の、世界の希望。貴女様がいれば世界はどこまでも変わっていける、取り戻せる。
    最期まで、支えることができなかった。貴女様の隣に居続けることは、できなかった。……でもきっと大丈夫。今の貴女様の隣には、素晴らしい方がいらっしゃるでしょう?
    ────ああなんてこと、笑って散って、そっと意志を託そうと思っていたのに。想いが止めどなく溢れてくる、思考が、言葉が、止まらない。心が、暴れたがっている!
    残された僅かな力を振り絞って、口角を吊り上げる。最期まで、微笑みを絶やさないで。

    「お嬢様、あなた……は、わたしたチ……ノ、キ、ボ………!」



    ばん。


    呻き、叫び、怒号、様々な雑音が響く混沌の屋敷の中。
    渇いた銃声だけがやけにはっきりと千奈の耳に届いて。
    それから時を数える間もなく、香名江は波に呑まれて。

    千奈が最後に目にしたのは、香名江の頭から噴き出す清冽な赤だった。

  • 186二次元好きの匿名さん25/08/21(㜍) 13:13:01

    かなえさんまで。。。

  • 187二次元好きの匿名さん25/08/21(㜍) 20:58:44

    保守

  • 188二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 01:22:30

    深夜中保守

  • 189二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 09:42:43

    朝保守

  • 190二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 17:53:28

    保守

  • 191二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 23:22:23

    寝る前保守

  • 192二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 07:58:47

    ほっほほ保守

  • 193二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 16:31:15

    保守

  • 194二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 23:29:27

    保守
    スレ主大丈夫?

  • 195二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 03:33:56

    「かな、え……」
    (貴女も、わたくしを置いていってしまいますの?)

    ───『紹介いたしますわ、香名江。この方が、わたくしとお付き合いしている藤田ことねさんですわ!』

    ───『えと、はじめまして。ふ、藤田ことねっていいます。先日から千奈……さんとお付き合いさせていただいてます!』

    ───『藤田様、お話はお嬢様からかねてより伺っておりますが……ご緊張なさっていませんか?私でよろしければカモミールティーをお淹れいたします。どうぞごゆるりと』

    ───『わ、うっま!……じゃなくて、凄く美味しいです!』

    ───『お口に合ったようで何よりでございます。……ふふっ、お嬢様が仰っていたように大変明朗なお方ですのね。藤田様のことをお話になる際、お嬢様はいつも声のトーンが一段階ほど高く……』

    ───『香名江!?な、何を言っていますの!?』


    在りし日の記憶が脳内を駆け巡る。大切な"家族"が、自分が想いを寄せる人と仲睦まじく談笑し、その輪に自分も入っていた。ささやかで、されどずっと続いてほしい、そんなひととき。どうしてこんなときに……。
    答えは簡単。それはもう二度と、叶うことのない光景になってしまったから。また一人、大事な人が目の前から消えていった。せぐり上げる涙を必死で抑えて────

    「いいえ」
    「わたくしは、もう泣きませんわ」
    「あれが最後ですの、先生と星南お姉さまに恥じない姿を見せるためにも。涙で炎を消してしまわないためにも。……わたくしは、動じませんわ」

    最後に見た香名江の強さは、きっと生涯忘れない。緑を吐きながらも抗い、赤を散らして主人と──自らの誇りを、護り抜いた。
    森羅万象が千奈を強くする。それを食い止めるが如く死の大波も加速する。この世界は、どこまで歪んでいくだろう。そして千奈は、いつまで前を見続けられるだろう。

  • 196二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 04:08:27

    「……!」グッ
    「ヘリが見えたぞ、急いで乗り込むのじゃ!」

    倉本邸は陥落したが、ギリギリで希望は繋がっている。あの時、地下室で見つけた資料。これがあればきっと、ワクチンの開発も急進するはず。ここを飛び立ち、すぐさま十王のもとへ────!?

    『だらあ』『りいぃあ……』
    「くそっ……しがみついてきやがって!大旦那様!当機は辛うじて離陸に成功しましたが、ゾンビ共が後方にへばりついているせいで高度が維持できません!」
    「ぬう……しかし、武器など誰も持ってきておらんぞ……!このままでは……」

    墜落する。
    どこまでもしつこい奴らだ。思考など介在しないくせに、こちらが嫌う手ばかり繰り出してくる。対抗する手段は────

    「……わたくしにお任せを」
    「お嬢様!?何を……な!おやめください!窓から身を乗り出すなど危険です!揺れが激しい現状、安全が保障できません!」
    (大丈夫。今のわたくしは自分でも驚くほどに冷静ですわ。狙うべきは……肘から二の腕!)

    撤退のままならない緊迫した状況の中、千奈は初めて手榴弾を取り出した。多勢に無勢の屋敷内とは違う。何度も何度も折れかけた、これまでの倉本千奈とは違う!

    「わたくしは……独りでも!やってみせますわああぁぁっ!」

    香名江の強さを心に宿し、千奈が携えた心の灯火は燎原の火となる。
    期待後方にしがみつく死の軍勢に向かって、一発、二発、三発。
    そのいずれも……吸い込まれるように、奴らの腕に命中した。

    『ぐるれうううういああああぁぁぁぁぁ………』

    奴らが地の底へ落ちて、断末魔が遠ざかる。完全な離脱、成功だ。
    重りから解き放たれた機体は反動から急上昇を遂げ……

  • 197二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 04:32:26

    「──っとととぉ〜〜!?」


    いけない、小さな千奈の体躯が外に投げ出され────!?


    「ぬえいっ!」

    ガシッ

    「……じ、寿命が縮んだわい……危なかった……」

    「はっ……お、お爺様!助けていただきありがとうございます!」


    機体から振り落とされそうになった千奈を、倉本爺が間一髪掴んだ。……とても頼りになる、しかしまだまだ危なっかしい。倉本爺はどこか成長した愛しの孫娘を、冷や汗をかきながら見つめるのだった。

    ────────────────────

    『ということがあったのじゃよ、十王! >>121 』

    「いやいやいやいや、待たんかあ!倉本、貴様そんなにわしの心臓を止めたいのか!?ずっと気が気でなかったぞい!」

    『だーっはっはは!とにかく今このヘリは、千奈も乗せて十王お抱えの研究所に向かっとる。要はおぬしがいるところじゃ。資料は先ほど電子化して転送した。あとは……分かるな?』

    「まったく……よいわ、この十王邦夫。倉本の力を味方につけ、全身全霊でワクチン開発に臨もうではないか!」


    「あの〜、つまり千奈は生きてるってことで、いいんですよね?」

    「勿論じゃ、藤田くん!千奈くんは先に初星学園で降ろしてもらうよう、倉本爺には要請した。深夜にはなるが、今日中には合流できるじゃろう」

    「よっしゃあ!……うう、良かったあ〜〜!あたし、マジで不安だったんだからぁ〜〜!」


    「……。」

    「月村くん。どうか最後までわしを信じてほしい。倉本の支援もあり、少しずつだが目に見える成果も出てくるようになった。秦谷くんは、必ず救う!十王邦夫の名にかけて!」

    「……っ!お願い、します!」


    多くのものが、手から零れ落ちていった。

    それでも事態は、トータルで見れば前進している。好転している。

    先の見えない暗闇に一筋の光が差すように。カタメコイメの熱々ラーメンを食べていたら目の前にキンキンの氷水が出されるように(?)。失ったものは大きくても、確かな希望と前進がそこにあるんだ。


    まだ、全て奪われたわけじゃない。

    アイドル達の戦いは、一歩ずつ終幕へと歩みを進める。

  • 1981◆wrMSm.CxZiIw25/08/24(日) 05:04:52

    スレ主です。浮上頻度が大きく落ちこんでしまいすみません。終盤に向けて色々と調整を図ってみたり、そもそも現在実生活が忙しかったりと、存分に文章に変える時間があまり取れておりません。

    たとえ座学の成績が千奈ちゃん級であったとしても、ご大層に世界をぶっ壊しただけでなくほぼ全キャラに何かしらさせている時点で、この物語肥大化の泥沼には気付けるでしょう。敢行してるけど(2敗)。
    ただもう少し山場は残っていますので、今日か明日のうちに次スレは立てます!最後までよろしくお願いします🙇

  • 199二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 05:31:23

    お疲れ様です、ゆっくりでも良いと思いますよ。完結までは見たいですが急ぐ必要はありませんし

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