ここだけ病弱コハルその12

  • 1125/07/23(水) 19:38:26

    興奮するとすぐ熱を出す……どころか心臓発作を起こすくらい虚弱で病弱なコハルが主人公のエデン条約編再構成小説スレ

    体は弱くて脆いけど、原作同様正義感は強いし代わりに学力が上がってる。

    大変長らくお待たせいたしました……

  • 2二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 19:39:20

    あら懐かしい

    スレ落ちしないよう保守

  • 3二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 19:39:36

    建て乙
    お前のスレをずっと待ってたんだ!

  • 4二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 19:40:05

    初見だが興味あり
    前スレ紹介してくださる?

  • 5二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 19:41:30
  • 6125/07/23(水) 19:43:23

    前スレ(ssなし)


    ここだけ病弱コハルその11|あにまん掲示板興奮するとすぐ熱を出す……どころか心臓発作を起こすくらい虚弱で病弱なコハルが主人公のエデン条約編再構成小説スレ体は弱くて脆いけど、原作同様正義感は強いし代わりに学力が上がってる。現在過去回想。亜麻色の…bbs.animanch.com

    ひぃん機種変したせいで過去スレのリンク用意するの忘れてたよー

    1が1であることを証明する手段がないので、本物かどうかは続きを読んで判断して欲しいよー


    本当に長くお待たせしてすみませんでした、言い訳はあとにして前スレ(正確には前々スレ)の続きから始まるよー

  • 7125/07/23(水) 19:45:10

    【注意事項】

    ・原作批判、またはそれに繋がりかねないレスはお控えください。原作シナリオに言いたいことがある場合は別スレたててね!

    ・所詮二次創作であり落書きです。内容を間に受けないでください。展開に多少の粗があっても大目に見てね!

    なぜか連続投稿に規制かかってるよーひぃん
    なんか悪いことしたかなぁ

  • 8125/07/23(水) 19:47:18

    「改めまして……突然このような事態に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。それと、あのような手段を使わせてしまったこと、改めて謝罪させてください」

    「いえ、気にしないでください。事情は存じ上げませんが、困っているようだったので。アレも、別に減るようなものでもないですから、気にされるようなことでは……」

    すごく申し訳なさそうに頭を下げてくる貴人さんに、少しでも気持ちが楽になるよう微笑みを浮かべつつこちらも頭を下げる。……すごくきれいな姿勢だ。簡単な謝罪一つだというのに明らかに洗練されてる。少なくともティーパーティーの関係者なだけはあってか、かなり育ちがいいようだ。

    あれから歩くことしばし。モールのフードコートに辿り着いた私達2人は、適当な2人席をとって向かい合って座っていた。お昼時なのもあってか、フードコートは家族連れや友人だろう学生グループが何組も集まり、それぞれにぎやかな時を過ごしている。席が取れない可能性も考えてはいたので、なんとか無事に取れてよかった。正直体力的にそろそろキツかったから座って休めるのはありがたい。

  • 9二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 19:47:23

    連続投稿は一分以上空けないと駄目になったんだったかな…

  • 10125/07/23(水) 19:48:53

    「……ふぅ。ところで今更なんですが、貴方は一体……? あの追ってきてた人、ティーパーティーの方ですよね?」

    紙コップに注がれた水を口に含み、喉を潤しつつ、対面の彼女に質問を投げかける。……この水を用意するとき、少しばかりトラブルがあった。というのも、席を取って一息ついた矢先、すぐに立ち上がるのがキツかったのもあって、物珍しげに周囲を見渡していた彼女に水を取ってきて欲しいと頼んだのだが……

    「お水ですか……わかりました。――あの、すみません。ウェイターさんはどちらに……?」

    どうにも彼女が生きてきた世界は、私とはだいぶ水準が異なるようだった。いやまあ初対面の印象といい、ある程度予想はしてたけど……セルフサービスという概念がない世界で過ごしてきたようだ、彼女は。ほ、本物のお嬢様だぁ……
    とりあえず、こういったショッピングモールのフードコートはセルフサービスが基本であることと、ウォーターサーバーの位置とその使い方を一通り教えることに。結局立ち上がることになり、彼女はとても申し訳なさそうにしていたが、新鮮な経験だったから気分的には無問題だ。体力的には少し疲れたけど。

    閑話休題。

    私の質問に対し、彼女はぐっと息を呑み……ふぅ、と余分な息を吐いたかと思うと、少しばかり緊張した面持ちで私を見つめた。……改めて正面から見ると本当に端正な顔立ちをしている。帽子を目深に被っているが、それでもわかる美人さだ。

    「……今の今まで自己紹介もせず、不躾な真似を致しました。改めまして、私、名をきり……」

    「……? きり……?」

    「…………あー……き、『キリ』と申します。その、なんと言いましょう。私……現ティーパーティー幹部の方とそれなりに親しい位置にいる人間でして。その関係で、ちょっと外に出たらあんな騒ぎに……」

    彼女――キリさんはそう素性を明かしてくれた。現ティーパーティー幹部と親しい位置……実を言うと、政治関連にはあまり詳しくはないから何とも言えないんだけど、それでも外に出ただけでティーパーティーの人間に追い回されるくらいなんだから、相応の地位には居るのだろう。そんな人が、なぜわざわざ追いかけられてまでこんな一般的なショッピングモールに? 単なる買い物なら何もこんなところまで来なくてもいいはずだが……もっと相応しい場所ややり方があるだろうに。

  • 11125/07/23(水) 19:50:35

    「そう疑問に思われるのも最もです。実際、そう大した理由があるわけではないのですが……その……」

    そう疑問を口にした私に、言葉を濁したキリさんは、一瞬目を右往左往させると……しばしの沈黙の後、さぞや重たそうにその小さな口を開いた。

    「――『普通』、というものに触れてみたくてですね」

    「――はい?」

    ……普通に触れてみたい? ……どういうこと?

    疑問符が光輪のように頭上を回転しだした私に対し、キリさんは伏し目がちに説明してくれた。

    「その……不快な思いをさせてしまったら申し訳ないのですが……私は、一般的には裕福な部類の家に生まれた身です。おかげさまで、この年まで何不自由なく育ち、今ではこのトリニティに名高きティーパーティーホ――端くれとして生きています。……これまでの人生に不満がある、というわけではありません。ありませんが……」

    そこで一度言葉を区切ったキリさんは、コップに入った水を一口含んで喉を潤した。ただ水を飲んだだけだというのに、その所作に優雅さというか、不思議と洗練されたものを感じ取れるのは、本人の言う通り育ちの良さからか。

    「……裏を返せば、私は世間一般、所謂『普通』、というものを知らないのです。――少し話は変わりますが、私の友人に、とても一般的な生まれ育ちのトリニティ生の方が一人おりまして。多少抜けているところこそありますが、彼女はどんな人にも分け隔てなく優しく、控えめながら聞き上手で、いつも相手を尊重して……正しく柔和温順を絵に描いたような、そんな方です」

    友人について語るキリさんの口振りは、落ち着いてこそいるけれど密かに熱がこもっていて。その人のことをとても大切に思っていることが聞いていてよくわかった。

  • 12125/07/23(水) 19:52:36

    「キリさんは、その人のことが大好きなんですね」

    「だ、大好きという表現は直接的過ぎますが...…そうですね、彼女の人間性を大変好ましく思っていることは確かです。……そんな彼女なんですが、謙遜なのか、口癖のように自身のことをこう評するのです。『普通』で『平凡』、と」

    「平凡……」

    ……結構劣等感に苛まれてる人なのかな? 口癖のように自分のことをそう表現するってことは。如何せん会ったことがないからなんとも言えないが。なんにせよ、彼女がこうして、正直似つかわしくない一般的なショッピングモールに来た理由が大体わかったような気がする。

    「……私には、彼女の口癖を否定することが叶いませんでした。先も言ったように、私は生まれも育ちも、世間一般のそれからはかけ離れています。今までの私の経験してきた『普通』が、彼女の言う『普通』とイコールでないことは自明の理。……私には、彼女の言う『普通』がどういうものなのかが、わからないのです」

    それが、とても辛くて。

    キリさんは眼を伏せて、苦しそうに顔を歪ませた。

    「ヒフ――彼女が自身を『普通』だと言う度に、そんなことはないと否定したくて。でも、私の言葉には説得力がない。『普通』を知らない私では、彼女の『普通』を否定できない。……これまでは、曖昧な笑みを浮かべて誤魔化してきましたが……もうこれ以上、彼女が、私の自慢の友人を卑下することを辞めさせたかったのです」

    「……それで、このショッピングモールに?」

    「はい……ここならば、一般の方がたくさん集まっていそうだと思って。それを観察させていただくことで、『普通』について少しでも知ることができたらなと。その一心で、しんえ――ティーパーティーの方の眼を盗んで、この場に来たのです。……もっとも、すぐにバレてしまったのですが」

    そう言って、彼女は自嘲気味の笑みを浮かべた。

    「あとは知っての通りです。ティーパーティーに追われていた私が貴方にぶつかってしまい……今に至ります。――先ほどはありがとうございました。お陰ですぐ連れ戻されることもなく、少しの間ですが、彼女の言う『普通』に触れることができた気がします。全て、庇って頂いた貴方のお陰です」

    すっくと立ち上がり、こちらが恐縮するくらい丁寧に頭を下げてきた彼女は、そのまま自身の荷物を持って……え、待って。この流れで立ち去るの!?

  • 13125/07/23(水) 19:55:03

    「もう帰られるんですか? ま、まだここに来てそんなに経ってないのでは……?」

    「これまでお話ししたとおり、今回の件は徹頭徹尾私の自己満足によるものです。……確かにまだ物足りない気持ちはありますが……これ以上、私の我が儘で周りを振り回すわけにはまいりません。――それに、お体に障りそうなあなたをこれ以上巻き込むのは気が退けますから」

    お水のこと、教えてくださってありがとうございました。

    そういって、再び頭を深く下げたキリさんは、私に背を向けて歩きだした。少しずつ、少しずつだけれど、彼女の背中が小さくなっていく。何故だかその背がやけに寂しく見えて。

    まるで、親とはぐれて進むべき道を見失ったまま歩き続ける子供のように、私には見えた。

    「――待ってください!」

    気付いたときには、私の喉は声を振り絞って叫んでいた。
    一瞬何事かと周囲の視線が集まる。勿論、件の彼女の視線も。

    「……? どうしました……?」

    弾んだ息を落ち着かせるように深呼吸。

    「ふぅ、ふぅ……私も――」

    生まれついてこんな体の私には、『普通』の生活というものは縁遠い存在だった。これまでの学生生活ほとんどを病室で一人過ごしてきた私には。
    だから、『普通』がわからない彼女の気持ちは、私にはわかる気がする。
    幸い、今日は滅多にないくらい体調がいい日だ。こんな日たぶん二度とない。だから――

    困惑する彼女に、私は手を差し出した。

    「――私も、『普通』がどういうものなのか知りたいんです。どうせなら、今日1日一緒に『普通』に触れてみませんか?」

  • 14125/07/23(水) 20:04:00

    ……それに、これは根拠のない勘だけれど……今の理由だけが、彼女がティーパーティーを振り切ってここに来た理由じゃない気がする。何か別のことでも悩んでいるような、そんな気がするから。
    そんな彼女を放っておけなくて、私はお節介を焼くことにしたのだった。


    ~以下言い訳タイム~

    大変申し訳ありませんでした(土下座)
    仕事で同僚、というか上司が急に辞めてしまい、人手不足で一時期火の車になってました。
    今は補充もされて大分落ち着いたのですが、一度途切れると筆が重くなること重くなること……この程度の文量を書くだけでこの体たらくです。
    本当はもっと先まで書いてから復帰するつもりだったのですが、このままだといつまでたっても復帰できねえなと判断したためこのタイミングで投稿することにしました。

    まさかハフバでティーパーティーイベント真っ只中の時になるとは思いもしなかったけどねーひぃーん!
    このssはせんちょもない頃に組み立ててるから、今のナギサとキャラが違うかもしれないよーごめんねー

    これから定期的な投稿目指して頑張るよー。ダメだった場合笛か支部に移籍すると思うよー。保守で負担かけるわけにもいかないからねー
    こんなダメ作者ですが、見捨てないでくれる人が一人でもいてくれたらありがたいです……重ね重ねすみませんでした

  • 15125/07/23(水) 20:05:38

    とりあえずなるたけ急いで続きは書き上げるよーせめて今週末までには!
    それまで申し訳ないけれど保守できる方は保守お願いするよー無理はしないでいいからねー
    ……執筆時間だけ36時間くらいにならないかなー

  • 16二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 20:23:22

    待ってたよー
    折角だしこの機に過去スレも読み直すか

  • 17二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 21:24:32

    ティーパーティーの端くれで普通を知らないキリさんと、病弱で普通を知らないコハルが触れる『普通』な1日の続き楽しみ

  • 18二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 21:30:14

    復活だー!
    しかしそっか1分の感覚って居ない時になったのか

    ネガティブな話で悪いけど深夜に変な無差別荒らしが居るから荒れても次建てよぐらいの気軽さでいい気がするよー!
    保守変わりに感想話したり出来るし
    その変なの事態も今のところ埋まりそうなレス数になってるのしか狙ってないし

  • 19二次元好きの匿名さん25/07/23(水) 21:57:46

    なっっっっっっっっっっっつ!?

  • 20二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 04:44:54

    ほしゅ

  • 21二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 10:06:53

    >>17

    それはそう。本当にそう。

  • 22二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 10:33:19

    このコハル概念、やっぱり好き。
    元気でいられないが故に本編と真逆の子に育つというのが。

  • 23二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 19:00:55

    コハルが懐かしい夢を見ている中、外ではツルギとハスミが戦ってんだよな

  • 24二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 19:06:06

    復活してる……嬉しい……!

  • 25二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 22:21:51

    ほし

  • 26二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 23:16:54

    あなたを待ってました!!!
    保守頑張ります!

  • 27二次元好きの匿名さん25/07/24(木) 23:25:32

    >>23

    そういやそうじゃん…!

  • 28二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 07:41:06

    ほしゅ

  • 29二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 15:38:44
  • 30二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 17:09:48

    >>1

    おかえり1。ずっと楽しみに待ってたぞ

  • 31二次元好きの匿名さん25/07/25(金) 22:32:23

    保守
    久しぶりすぎて第二次試験辺り読み直したわ


    やっぱつれぇわ

  • 32二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 07:06:29

    楽しみにしてる…

  • 33二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 09:17:36

    復活かんしゃあ〜
    正直すごく嬉しい…無理せず頑張ってね…

  • 34二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 17:59:07

    保守

  • 35二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 20:18:16

    このレスは削除されています

  • 36二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 03:55:19

    保守

  • 37二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 11:55:15

    保守

  • 38二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 19:48:11

    まだかなー?

  • 39125/07/27(日) 22:20:28

    「『普通』に触れる……と言いましたが、いざ触れようとなると、どうすれば触れられるものなのか悩んでしまいますね」

    困ったような笑みを浮かべるキリさんに、私は思わず首を振って同意した。うん、確かに……『普通』に触れるとは言ったものの、いざ行動に移そうとなると悩んでしまう。そも、普通の学生生活における『普通』ってなんだろう……病室育ちの私にはなんとも想像しがたい。
    とはいえ、こちらから誘った手前、こちらが行動しなければ。ただでさえ先ほど出会ったばかりなのに、体のことを気遣われて解散しかけたのだ。私の方から方針を示さなきゃ。

    うーん、普通の学生生活……普通……合ってるかはわからないけれど……

    「――じゃあ、まずは適当にモール内を歩いてみませんか? ウインドウショッピングってことで」

    これが『普通』かどうかはわからないけれど……もしも健康な体であったなら、友達と目的もなくフラフラ歩いてみたかったのだ。

  • 40二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 22:20:59

    >>39

    SS来たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

  • 41125/07/27(日) 22:21:38

    「ここに来てからずっと思っていましたが、なんだか人が沢山いらっしゃいますね……何かイベントでもやっているのでしょうか」

    「このモール自体開業したばかりなこともあるでしょうけど、こういう施設には人が集まるんじゃないですかね?」

    たぶん、きっとそう。病室育ちの私にはよくわからないけれど、こういう複合施設には色々なお店が集まるから、いろんな人が集まるってアイリが言っていた。放課後スイーツ部の皆も、私がいないときは、放課後になったらきっとこういう施設に来てスイーツショップ巡りをしているのだろう。私はこの体のせいでそういうことができないし、スイーツ部の皆も気を遣ってくれてか、私を加えて行動するときは専ら部室で既に用意したスイーツを食べるだけで、外に行くこと自体ないし。

    学生の集団、家族連れ、ビジネスマンっぽい人(ロボ)などが集った人の波に加わりながら、私とキリさんはフラフラとお店を見て回る。小柄で歩幅が小さいこともあり、私の移動速度はお世辞にも早くないのだが、キリさんはそんな私に歩調を合わせてくれていた。気を遣わせてすみません……

    「――コハルさん、あれはなんでしょう?」

    「あれは...…」

    意外と言うべきか。キリさんは落ち着いた風貌に反してとてもアグレッシブというか、好奇心旺盛な人のようで、目に映るもののほとんどに興味を引かれては立ち止まり、その都度私に聞いてきた。
    一応私が知ってる限り答えはしたけれど、如何せん私もこういうところに来るのは実は初めてなので、合ってるかどうか心配だ。物語の中の描写や知識が間違ってないことを祈ろう。

    そういえば、向こうの名前は聞いたものの、こちらが自己紹介していないことに気付いた私が先ほど自己紹介したんだけど、それに対して「コハル……小さな春ということですか、今日のような暖かくて気持ちのいい日に似合う、いいお名前ですね。差し支えなければ、コハルさんとお呼びしても?」と、ナチュラルに褒め言葉を交えて来たときには気恥ずかしくなりつつも舌を巻いた。上流階級の人ってこんな感じに相手を自然に持ち上げるんだ。普通の人がこんなこと言ってきたら多少不自然さが出るものだけど、それが全く感じられない。もしかしたら、彼女は天性の人たらしの気があるのかもしれない。

  • 42125/07/27(日) 22:22:40

    そんな彼女と目的を定めず歩くことしばし。キリさんが今日何度目かの足を止めた。

    「コハルさん、あのピカピカ光っている一角は一体?」

    「あれは……ゲームコーナーですね」

    彼女が足を止めた先には、煌びやかな電飾が明るく弾けている空間が。多様な色の光で彩られ、特徴的な電子音に満ち溢れたそこでは、アーケードゲームやデータカードダスなどのゲーム匿体がいくつも置かれていた。何人かの子供たちが各々ゲーム機に群がっている。

    「ここみたいな複合施設には1ヵ所はあるコーナーで、1回100円で遊べるらしいですよ」

    「へぇー。ゲーム、ですか……触ったことがないので、少しばかり気になりますね」

    少し気になるどころじゃない、うずうずとした気持ちを表情に隠しもせず、キリさんはゲーム機の群れを眺めていた。そんな気はしていたが、やはりこの手のものに触った経験はなかったようだ。

    「……ちょっと遊んでみましょうか」

    「いいんですか?」

    「はい。――こういうところで遊ぶのは、きっと『普通』のことですから」

    私自身、知識として知ってはいても、こういうところで遊ぶのは初めてだから、実際に触ってみたいのだ。PCゲームとかなら時々触れたことがあるんだけどね。すぐ目が疲れちゃうからそんなに長時間触れなかったけど。まあそのお陰で意外な繋がりを得られたものだから、人生どう転ぶかわからないものだ。ちょうど今のように。

    閑話休題。

    好奇心を押さえられないのか、目深に被った帽子越しでもわかるくらい目をキラキラさせたキリさんは、キョロキョロと辺りを見渡して……あっ、と声を上げて、ある匿体に視線を釘付けにした。
    それは、クレーンゲームだった。透明なケース越しに、中に商品が置かれているのが見える。……なんだろう、あの白いの。パッと見ぬいぐるみっぽいけれど、なんか微妙にキモい。

  • 43125/07/27(日) 22:23:57

    「それが、気になるんですか?」

    「ええ。このぬいぐるみ、よくヒフ……こほん、先ほどお話しした私の友人がとても好んでいるキャラクターなんです。確か……ぺ、ペロペロ様? みたいなお名前をしていたような……」

    ペラだかペロだかよくわからない、何故か舌を出してるキモい鳥のぬいぐるみを見つめるキリさん。まあ好きなものなんて人それぞれだしとやかく言うつもりも権利もないけれど、なんともマニアックな嗜好をお持ちのようだ、そのお友達は。
    キリさんはぬいぐるみを見つめたままそこから動く気配がない……もしかして……?

    「……よし。すみませんコハルさん、これを手に入れるにはどうすれば? お金を出せばもらえるのでしょうか」

    「(やっぱり)あー、えっと。これはクレーンゲームって言いまして。100円を入れて、このケースの中のアームをそこのレバーで操作して、ぬいぐるみを掴ませるんです。上手く持ち上げて、そこの端っこの穴に入れることができればそのぬいぐるみを貰えます。まあなかなか難しいって友達が言ってましたけど……」

    「100円……なるほど、自分で操作して手に入れるのですね。わかりました。では……あっ、あれ? ……。その、コハルさん――」

    ――時に小銭を持っていたりはしませんか? その……普段小銭を使わないものでして、細かい持ち合わせが……

    お財布を取り出したものの、中身を見ておろおろと狼狽えるキリさんの顔は、高貴なティーパーティーの人というより、年相応の少女のようにしか見えなくて。

  • 44125/07/27(日) 22:25:07

    「ふふふ……」

    「す、すみません! お見苦しい真似を……」

    「大丈夫です。こういうところには必ず……」

    辺りを見渡すと、それっぽい機械が目につく。あった! 両替機。ミレニアムのゲーム好きな子からゲーセンについてちょくちょく話を聞いてはいたけれど、それが役に立つ日が来るとは思いもしなかった。ありがとう、モモイ。

    「この機械に紙幣を入れたら100円で帰ってきますよ」

    「そんな機械があるなんて……便利な世の中ですね」

    感嘆しながら早速紙幣を機械に飲みこませるキリさん。――数秒もせずお金が帰ってきた。紙幣で。あれ?

    「あ、あの、コハルさん? 紙幣が戻ってきてしまうのですが……」

    「えーと……あ、これ万札は対象外ですね。千円と五千円しか……」

    「……」

    「……」

  • 45125/07/27(日) 22:26:25

    結局、キリさんの万札を私の千円札と交換して、そこから両替して事なきを得た。キリさんは恐縮しっぱなしだったが、さっきのやり取りが面白かったから私は問題ない。

    「で、では、やってみます……!」

    「頑張って!」

    人生で初めてクレーンゲームを操作するらしいキリさん。端から見てても肩に力が入りっぱなしだ。大丈夫かな……?
    おぼつかない手付きでレバーを弄り、それに追従してアームが動く。あ、ズレた。

    「……。えっと、アームが戻らないんですが、位置を戻すにはどうすれば?」

    「えーと。基本的には一方向にしか動かなくて後戻りできないそうなので……」

    「……」

    キリさんの人生初めてのクレーンゲーム、初回は無を取得して終わった。

    「も、もう一回やってみてもいいですか?」

    「一回と言わず何回でもいいですよ。ただ一回一回お金がかかるので、使いすぎちゃわないよう気を付けてくださいね」

    「わかりました!」

  • 46125/07/27(日) 22:28:39

    ~15分経過~

    「やった、掴めた!」

    「おめでとうございます。あとは無事にそこの穴まで持ってこれれば「あ、落ちた……」あー、残念」

    ~更に15分経過~

    「アームの力が弱くてもどかしいですね……」

    「クレーンゲームってそういうものだって、友達が言ってました。それでも取れないようにはなってないそうなので、チャレンジあるのみです」

    ~それからどした~

    「あれだけあった100円が、もう……こんなに難しいなんて……」

    愕然とするキリさん。かく言う私も驚いている。クレーンゲームって取れるか取れないかギリギリの設定がされてるそうだけど、ここまで取れないとは。

    「うう……ごめんなさい、ヒフミさん……貴方を喜ばせたかったのですが……」

    「……。――キリさん、一回やってみてもいいですか?」

    「え? は、はい。大丈夫ですが……」

    キリさんは隣にずれてくれたので、台の前に立って100円を入れる。何気に私もクレーンゲーム初挑戦だから、なんかドキドキする。
    えっと、横で見てた限り、こんな感じで……アームの位置を合わせて……ここかな。
    ボタンを押すと、これまでと同じようにアームが開き、ぬいぐるみの元へと。少しズレたかな……でもいい感じに首もとに……あ。

  • 47125/07/27(日) 22:29:49

    「アームが商品タグに……!?」

    ぬいぐるみの首についていた商品タグ。たまたまそこにアームの鉤爪が引っ掛かった。アームはパワーが弱くてぬいぐるみ本体はなかなか持ち上がらなかったが、タグに引っ掛かったことで上手いこと持ち上がり……そのまま端っこの穴にホールインワン。

    「あ、取れちゃった」

    ぬいぐるみを取り出すと、ケース越しに見えた謎の鳥とご対面。……うん。やっぱりキモい。なんで舌出してるんだろこの子……。

    「……おめでとうございます。一発で取れるとは、流石ですね」

    「いえ、そんなことは。ビギナーズラックですよ。たまたまです。――じゃあ、はいこれ」

    「え?」

    キリさんにぬいぐるみを差し出すと、キリさんは驚いて固まったが、すぐに遠慮するように手を振った。

    「コハルさんがお取りになったものですから、私が受けとるわけには……」

    「いえ、私が取れたのはたまたまですし。今までキリさんがチャレンジした積み重ねであの位置まで移動してましたし。それならキリさんが取ったも同然ですから。受け取ってください」

    それに。私の嗜好に会わない、というのもあるけれど……先のない私が貰っても、仕方がないから。それなら、長く大事にしてくれる人が貰った方がよほどいい。キリさんのお友達とかね。

    「……ありがとう、ございます。彼女も喜ぶと思います」

    キリさんはぬいぐるみを抱いて、柔らかな笑みを浮かべた。ギュウと、謎の鳥が潰されて少しクシャっとなっていたのをよく覚えている。

  • 48125/07/27(日) 22:30:57

    それから、二人で他にも色々と見て回った。

    ゲームコーナーに置いてあった写真機、話に聞いていたプリクラの機械に流れで入ったり……

    「こ、コハルさん? これは一体何をどうすれば……?」

    「写真に文字をいれたり加工したりできるそうなんですけど……私もいまいちよくわからな『撮影まであと10秒です』あ、時間が……」

    結局普通の写真みたいになって、よくわからないままに撮ったからキリさんが困ったように笑った状態で撮られていて、それを見て二人して笑ったり。

    「あの、コハルさん。先ほどから鳴りっぱなしなんですが、これは一体……?」

    「注文した商品ができましたよーって合図です! お店に行って受け取って上げてくださいなるたけ早めに……!」

    フードコートにて小腹がすいたらしいキリさんに付き合って、ご飯を食べたり。

    「これが、ラーメンですか。食べるのに、フォークとスプーンを使うわけではないのですね」

    「パスタじゃないので、お箸ですね。山海経か百鬼夜行が発祥の食べ物ですから……確かセリカちゃんから聞いたような……あ、それ熱いので気を付けてくださ「~~~ッ!?」ああ……」

    モール内のお店を見て回ったり。

    「こ、コハルさん……一般の方々は、あのように大胆な水着を着ていらっしゃるのでしょうか……?」

    「あ、あれは特殊な部類だと思うので見ちゃダメです! た、たぶん……」

    大胆という言葉では言い表せないほどにアレであれな水着を見て赤面したり。

    ……気がつけば、瞬く間に時が過ぎ去っていった。

  • 49125/07/27(日) 22:31:59

    「ふぅ……もう、こんな時間……」

    夕暮れ時。私とキリさんは二人、モールの屋上のベンチに座り、夕焼け空を眺めていた。
    ここの屋上にはアスレチックのような遊具が設置されていて、お客さんに解放されており、今も遊んでいる親子連れが何組か見受けられる。……ああいうので遊んだことないなぁ。きっと楽しいんだろうな。

    「……コハルさん。今日は本当に、ありがとうございました。貴方が声をかけてくれなければ、こんな体験はついぞしないままでいたでしょう」

    これが、『普通』なんですね。きっと。

    居住いを正したキリさんがそんな言葉をかけてくる。何も、そんなに感謝されるようなことじゃない。私の我が儘に近いんだから、むしろ私の方がお礼をいわないと。

    「こちらこそ、付き合っていただいてありがとうございました。『普通』に遊ぶって、そんな経験なかなかなかったので、すごく新鮮でした。……体のことがあるので、これで最後になりそうなのがアレですけど」

    「あ……」

    こんなに体調がいい日はもうなさそうなので、これが最初で最後になりそうだが……でも、満足だ。これで十分。

    これで悔いはない。

  • 50125/07/27(日) 22:33:06

    しみじみと今日を噛み締めていると、ふわりと手のひらが暖かいものに包まれた。……? キリさん? 急に私の手を握ってどうしたのだろう?

    「これで最後だなんて、そんな悲しいこと言わないでください。きっとまた、機会があります。いえ、作ります。だから、また来ましょう? また二人で。それに――」

    ――私たち、もうお友達のようなものでしょう?

    「キリさん……」

    「ずっと思っていましたが、もう少し砕けた呼び方でいいですよ。さん付けは不要です」

    「……。――じゃあ、これからは『キリちゃん』って呼んでもいいですか?」

    「それで構いませんよ。キリちゃん……ふふ、なんだか新鮮な気分です」

    そういって朗らかに笑うキリさん……ううん、もといキリちゃん。
    ああ、今日はいい日だ。お友達がまた一人増えた。

    ピリリリリッ!

    暖かい空気を裂くように、携帯の音が鳴る。この着信音は私のじゃない。となると、たぶんキリちゃんの携帯かな。

    「っ! ……ごめんなさい、少し席をはずします」

    「ああいえお構い無く」

    携帯をもって遠くへ離れていくキリちゃん。それを見送りつつ、少し息を整える。……体調がいい日とはいえ、少し疲れちゃったかな。

    ……あれ? なんだか向こうが騒がしいような……

  • 51125/07/27(日) 22:34:08

    「――わかりました、もう少ししたら戻りますので。心配をお掛けしてごめんなさい、ミカさん。――はい、はい。ではまた後程」

    まったくもう、ミカは。普段人を振り回す癖に、いざ自分が振り回される側に立たされると、途端に不安がるんだから。あれでよく人のことを心配症だの過保護だのと宣えたものである。

    (まあ、今日くらいは不安になって貰いましょう。私の気持ちも少しはわかるでしょうし。それに……)

    もう少しだけ、彼女と一緒にいたかった。コハルさん――私の新しいお友達と。

    嘘をついているような形になっているのが、少し心が痛いが……でも、今更私の本当の立場を明かしても、悪戯に彼女を混乱させるだけですし。……いえ、違いますね。自分の心のなかでくらい、嘘をつくのは辞めましょう。

    私の立場を明かしたとき、彼女の私をみる目が変わってしまいそうなのが、恐ろしい。

    ただでさえ、私の周囲には、私をティーパーティーホスト代理としてしか見ていない人が大半を占めているのだ。ごく一部……ミカと、セイアさんを除いては。
    だからこそ、彼女の前では、ティーパーティーホストもなにも関係ない、そんな間柄でいたい。だから、この事実は伝えずに、このままで――

    「……? やけに向こうが騒がしいような。何かあったのでしょうか」

    そんなことを考えていた折り、なんだか向こうの方が急に騒がしくなった。好奇心に引かれた私は、そちらへ向かい……

    「――これ以上はダメっ!」

    「っ!? コハルさん!?」

    子供の前に立ち塞がって、学生と相対する彼女の姿を見た。

  • 52125/07/27(日) 22:35:19

    「なんだ、このチビ? どけよ、おまえには用はねぇからさ」

    「私にはある! ……いくらなんでも、アイスをぶつけられたくらいで銃を向けるのはやり過ぎよ! こんな小さな子に……」

    状況はこうだ。今私の後ろにいる小さい子。この子がアイスを持って走っていたら、この学生……不良に運悪くぶつかってしまった。怒った不良が銃を持ち出して、今にも撃ちそうだったので、見ていられなかった私が両者の間に割って入ったのだ。

    「てめえ、このキヴォトスで今更なに言ってんだ? 死ぬわけじゃあるまいし、少しくらい痛い目みるだけだろうが!」

    「確かに死にはしないわ。でも、被害を受けたからって何をしてもいいなんて、トリニティの校則にも連邦法にも載ってない! それはただの私刑にしかならないの。……お願いだから冷静になって。クリーニング代が必要なら私が出すから……ぐっ!?」

    言葉を掛けるも、頭に血が上っているのか不良は私を蹴っ飛ばした。げほっ、変なとこ入った……!

    「クリーニング代だぁ? ……お高くとまりやがってよ、トリニティのお嬢様はいいよなぁ? 金持ちで明日の飯の種も心配しないでいいんだからさ。あたしみたいなゲヘナの生徒なんて金で買えると思ってやがる……むかつくんだよ」

    よく見ると、その生徒の頭からは悪魔のような角が生えていた。ゲヘナの人……どうしてトリニティに……風当たりが強いなんてレベルじゃないと思うが……。
    「お、お姉ちゃん大丈夫!?」と、庇った子に声をかけられながら、どうでもいいことを考える。

  • 53125/07/27(日) 22:36:24

    「イラつくぜぇ……もういいや。どうせならお前ら二人まとめて的になってくれよ。憂さ晴らしにはちょうどいいや」

    ジャカッと、金属で形作られた暴力が私たちに向けられる。普通のキヴォトス人なら応戦するんだろうけど、私の愛銃はこの距離で使えるものじゃないし、手榴弾を抜いてる暇はなさそう。ならせめて……!
    引き金が引かれる直前、私は子供を抱えて私自身を盾にした。せめて一発位は保ってよ私の体……!

    発砲音。

    ……あれ? 痛くない?

    覚悟していたはずの痛みが来ないことに、不思議に思った私は後ろを振り返った。

    「――少々、おいたが過ぎるようですね」

    黒い、大きな翼が、私たちを守るように盾となって広げられていた。そこに着弾したのか、翼の一部から煙が上がっているが、ほとんどダメージは見当たらない。

    「な、おまえは……!?」

    「詳しい話は後程聞くとしましょう。トリニティの生徒に手を出した報い、まずはその体に直接言って聞かせます――ゲヘナ」

    「は、ハスミ先輩……!?」

    だいぶラフな格好こそしているものの、私の憧れの人……羽川ハスミが、私の目の前に立っていた。

  • 54125/07/27(日) 22:38:14

    それから暫くして。ゲヘナ生はハスミ先輩に叩きのめされてお縄となり。小さい子は親御さん(めちゃめちゃ謝ってきた)に連れられて無事に帰っていった。ハスミ先輩はというと今日は非番だったみたいで、たまたまこの場に居合わせたようだった。私が蹴られたところもバッチリ目撃していたようで、しきりに体を心配されてしまった。幸い今日は体調がよかったから、そう豪語して救護騎士団を呼ばれるような事態は避けられたけど。ご心配お掛けしてすみません……。
    去り際に、「貴方の正義を、見させていただきました。――その体で、よく頑張りましたね」と、お褒めの言葉を貰ったのは心に来た。……正義実現委員会への所属は認められなかったけれど、私の正義そのものは認められたんだ。それが、すごく嬉しい。

    「コハルさん!」

    「あ、キリちゃん」

    ハスミ先輩が去ったあと、タイミングを計ったかのようにキリちゃんが駆け寄ってきた。ティーパーティーに追われてる人だから、正義実現委員会の人の前には出られなかったのかもしれない。

    「大丈夫ですか!? お体のほうは……怪我は!?」

    「大丈夫です、体重が軽いので派手に飛んだだけですから」

    「そうですか……よかった……ですが、無茶しすぎです! もっと体を大事にしてください!」

    ホッと息をつきつつも、私に釘を刺すキリちゃん。心配かけてごめんね。でも、私より未来ある子を守った方がいいから。

    「しかし……ゲヘナの学生ですか。噂しか聞いたことがありませんでしたが……やはり、粗暴な方が多いのですね」

    「……ゲヘナの人全員が全員、ああいう人ではないと思います。そういう人が殊更目立つだけで、トリニティにもそういう人はいますし、なんなら他の学区にも」

    色眼鏡をかけて人を見るのは、危険だと私は思う。ゲヘナだから、という表現は、一部の人の印象をそのまま全体化させてしまっているだけだ。ゲヘナの人は決して粗暴な人ばかりじゃない、なんならさっきの人も頭に血が上ってただけで、普段からああじゃないと私は思ってる。……確かに、問題児は割合多めだとは思うけど。まあキヴォトスきってのマンモス校だし、人が多いぶん問題児も増えるだろうからそれは仕方ないのかも。

  • 55125/07/27(日) 22:39:21

    「……コハルさんは」

    私の言葉になにか思うところがあったのか、キリちゃんはすこし逡巡した後、私に聞いてきた。おそらく私が勘づいていた、彼女の悩みについて。

    「ゲヘナとトリニティが、わかり合うことはできると思いますか?」



    「ゲヘナとトリニティが、わかり合う?」

    「はい。――ゲヘナ学園とトリニティ総合学園。両校は長きに渡って対立してきました。トリニティはゲヘナを野蛮だと見下し、ゲヘナはトリニティをお高くとまっていると揶揄しています。両校の関係は最悪……いがみ合ってばかりで、ふとしたことで学園同士の争いが起きかねません。……そんな私たちでも、お互いに理解し合い、わかり合うことはできるのでしょうか。……コハルさんは、どう思われますか」

    「……私は」

    少し、考える。ゲヘナとの関係性……トリニティにとっては、長年の問題だ。本で読んで知っているが、両校の対立は本当に歴史が長い。トリニティが今のトリニティ総合学園として纏まるずっと前から、かの学園とは対立してきているのだ。まさしく水と油、不倶戴天、そんな両者がわかり合う……。

    「……難しいかもしれません」

    「……やはり、貴方でもそう思われますか「でも」……?」

    「不可能ではないと、思います」

    少し、深呼吸。長話になるから、息を整えないと。

  • 56二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 22:40:07

    >>48

    >>確かセリカちゃんから

    アビドスにも友達いるのかコハル

  • 57125/07/27(日) 22:40:30

    「今のままでは、難しいかなって。お互いに、相手への差別意識が強すぎてわかり合う以前の問題ですから。……でも、これから先、お互いに意識を変えることができれば……ゲヘナやトリニティといった記号じゃない、等身大の相手を見ることができれば……わかり合える可能性はゼロじゃないと、個人的には思います。彼女たちも、私たちと変わらない、血のかよう人間ですから」

    ――それに、これは私の感情論でしかないけれど……未来永劫、お互いにお互いのことを見ずに嫌いあって、ずっと憎み合うなんて……悲しすぎるじゃない。

    「……まあそのためには、なにか切っ掛けが必要なんですが、まずその切っ掛け自体が難しいですよね。どう考えてもゲヘナとトリニティ、両方巻き込んだ大事になりそうですし……それでも、まだ諦めるには早いですから」

    私がその未来を見ることがなさそうなのが、残念だけれど……それでもいつか、その未来に繋がるように今行動することはできる。その積み重ねが、いつか、花開くことを願って。

    「そうすれば、いつか、ゲヘナとトリニティの生徒同士、笑い合える日が来る。そんな気がするんです。そんないつの日かが、きっと来る。――私はそう願っています」

    ……少し格好つけすぎたかな? そう自嘲しながらも、キリちゃんを見ると、彼女は私を見つめたまま固まっていた。あれ? キリちゃん?

    「……キリちゃん?」

    「……はっ。す、すみません。少し、思うところがありまして……」

  • 58125/07/27(日) 22:41:32

    ――ゲヘナとわかり合えるか? ……ナギちゃん熱でもあるの? そんなの無理だよ。向こうがどれだけ頭おかしいのかわからないでもないでしょ? あ! もしかして、忙しくて疲れてるの? 肩でも揉んであげよう――

    ――……ふむ。ゲヘナとわかり合えるか、か。……現状では絵に描いた餅のようなもの。率直にいって不可能だと言わざるをえないね。私たちと彼女たちは互いに天敵のようなものだ。お互いの憎しみは、理由あるものと言うより、本能的な忌避感に近い。虫が嫌いな人が虫と触れ合うことができると思うかい? ……もっとも、政治的に必要ならわからなくもないよ。連邦生徒会長が行方不明になる前まで推進していた"条約"のようにね。本人不在で半ば空中分解しているが――



    「……切っ掛け、ですか。――ありがとうございます、コハルさん。おかげで、色々と見えた気がします」

    そう言って、キリちゃんは笑った。憑き物が落ちたかのような顔だった。

    それから数日後のことだ。私が、突然手の平を返したように、急に正義実現委員会に加入することが許可されたのは。

  • 59125/07/27(日) 22:42:59

    あの日のコハルさんとの語らいは、大変ためになるものだった。体調の優れないセイアさんの代理として、ティーパーティーホストの責務を持った私には、今後のトリニティの未来のために行動する義務がある。そのためには、ゲヘナとの関係改善は急務だった。
    それでも、あのゲヘナだ。ティーパーティー内外からも、私の幼なじみを筆頭に反対意見が多数を占めていて、かくいう私自身も懐疑的だった。

    その色眼鏡を、彼女が砕いてくれた。

    ゲヘナもトリニティも、同じ血のかよう人間。ゲヘナという記号ばかり見ていた私には、衝撃的な考えで……これまで私が見落としてきた事実だった。思えば、私を含めて、私たちティーパーティーはゲヘナの人間を理解できない生き物だと決めつけて、人扱いしていなかった節があるかもしれない。

    「――これは、それに気付かせてくれたお礼です。コハルさん」

    ティーパーティーの執務室。お気に入りのカップで紅茶を味わいながら、おもむろに懐からあるものを取り出す。銀の懐中時計。パチりと蓋を開けると、精確に今を刻み続ける文字盤の上に、あの日プリクラなる写真機で撮った二人の写真が入っている。
    ……今頃コハルさんはどうしているだろう。一度は断られた正義実現委員会加入を認められて、驚いたのだろうか。喜んだのだろうか。もし喜んでくれたのなら、手を回した甲斐があるというものだ。ハスミ副委員長が驚くほど素直に認めて話が早かったので、そこまで苦労しなかったが。

    「――ナギサ様。そろそろ会議のお時間です。ご準備を」

    「――わかっています」

    パチりと懐中時計を閉じ、懐にしまい込む。切り替えなければ。今の私はコハルさんの友人キリちゃんではなく……ティーパーティーホスト代理、桐藤ナギサなのだから。

  • 60125/07/27(日) 22:47:04

    今回はここまでー! ひぃん間に合わないかと思ったよー
    これがこの物語における分岐点、ナギサがエデン条約締結にこだわった理由でもあるよー
    そして! 実は作中度々出てきたキリちゃんの正体とは! 桐藤ナギサのことだったんだよー!(な、なんだってー!?)

    ……はい。次回はハスミとツルギの決着か、ハナコと図書委員会シスターフッドそして先生による踊る会議模様のどちらをお届け予定です。
    ただしまた週末ギリギリになりそうだよーごめんねーそれまで保守してくれると嬉しいよー

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