【閲覧注意・🎲】ここだけ不知火カヤの中身が、大体ボンドルド卿だった世界線 Part.19(建て直し)

  • 1ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:03:58

    【あらすじ】
    おめでとう、セイア・・・
    ついに至聖所を見つけたのですね

  • 2ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:05:03
  • 3ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:06:46
  • 4ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:07:56
  • 5ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:09:53
  • 6ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:11:04
  • 7ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:13:21
  • 8ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:14:53

    ────────────────────

    そこは昏い、解剖室だった。
    いつもは獣の肉を裂く その場所で、カヤは自らの肉を裂いていた。

    ─── テクスチャを弄る。
    それを為すのに、痛みは必須だった。
    痛みが無ければ、改変したテクスチャも自然なものではなくなる。

    カヤ:
    「おや、ついにセイアさんが倒れましたか」

    施術中に報告を受けたカヤは、しかし それが起こりえることを良く知っていた。
    ─── 知っていたからこそ、上手く利用することが出来た。

    カヤ:
    「おめでとうセイア・・・
    ついに至聖所を見つけたのですね」

  • 9ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:16:19

    ようやく、施術が終わった。
    いつもの黒い外套を羽織る。
    外套の裾から、竜のそれのような尾が覗いた。

    カヤ:
    「貴方には沢山の お礼を言いたい」

    施術室の壁に掛けておいた、いつもの黒い仮面を手に取る。

    B装備(ビースト装備)とも また違う、恒久的なテクスチャの変更。
    それが為す意味を、カヤは よく理解していた。
    理解していたからこそ、今やらなくてはならなかった。

    カヤ:
    「是非とも
    また会いたいですね」

    竜の尾がついた身体は、カヤにとってよく馴染んだ。
    それはカヤにとっての本来の姿であり、決死の姿勢の表れでもあった。

    ────────────────────

  • 10ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:18:49

    ────────────────────

    正義実現委員A:
    「あ、ハスミ副委員長。 こんにちは」

    ハスミ:
    「・・・えぇ、こんにちは
    こちらに何か用ですか? 特に本部から指示は出ていなかったと思いますが」

    ティーパーティーの執務室へと続く廊下で、ハスミは一人の正義実現委員に遭遇した。
    手には、ツルギのそれに良く似た、しかし一回り大きい散弾銃が握られている。

    正義実現委員A:
    「えっと、ツルギ委員長からナギサ様の様子を確認してくるようにと・・・」

    ハスミ:
    「・・・そうですか」

    正義実現委員A:
    「そういうワケですから。 では───」

    ───── 銃声

    ハスミの横を通ろうとした正義実現委員の足元に弾痕が走った。
    撃たれた正義実現委員は、ビクリとするでもなく立ち止まった。

  • 11ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:21:17

    正義実現委員A:
    「・・・」

    ハスミ:
    「・・・一つ、言っておきましょう
    私は後輩の顔は出来るだけ覚えているつもりです
    ・・・・・・そして私の知っている その子は、そんなに丁寧な言葉遣いをする子ではありません」

    正義実現委員A:
    「ククッ・・・」

    堪らず、といった様子で正義実現委員に化けたソレは、腹を抱えて笑い始める。

    ???:
    「アッーハッハッハッハッ! 最高だよ、お前!!
    そうだよ、ずっと そういう展開を求めてたんだ!!!」

    ぐにゃりと、化けの皮が剥がれる。
    全身が黒ずんだかと思うと、次の瞬間には赤い肌をした背丈も体格も違う生徒が立ってた。
    手にはやはり、ツルギのそれに似た、しかし一回り大きい散弾銃を一丁握っている。

  • 12ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:23:23

    ハスミ:
    「・・・貴方ですね。
    先程からトリニティの内部を引っ掻き回しているのは。」

    ウェルギリア:
    「あれは簡単すぎたなぁ。
    だって、派閥の生徒に化けて あることないこと言うだけで 勝手に内ゲバで崩壊していくんだぜ?
    クソババアに言われたときは、もっとダルい仕事になると思ってたのに。
    おたく、ちょっとバカが多過ぎない? 二の足踏んでた私がバカみたいじゃん。」

    ハスミ:
    「・・・」

    ウェルギリア:
    「その点、お前はイイな。
    敵味方の区別が しっかりしてる。
    うん、殺されるなら お前みたいなヤツが良い。」

    ハスミ:
    「・・・何を言っているのですか?
    私は 貴方を殺しはしません。 ただ、拘束は させて頂きます。」

    ウェルギリア:
    「出来ると良いなぁ・・・」

    ウェルギリアはハスミの背後をチラリと見た。

  • 13ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:24:57

    ───── 銃声

    倒れていたのはハスミだった。

    ハスミ:
    (・・・なに、が。)

    薄れゆく意識の中で、背後から自身を撃ち抜いた下手人の影を見た。

    ─── それは後輩であり、部下であるはずの静山マシロだった。

    その影は、ハスミの前で歪み、”二人目の”ウェルギリアの姿をとる。

    二人目のヴェルギリア:
    「後輩ちゃん、ご馳走様。
    取り戻したかったら私を殺してみるんだね。」

    ウェルギリア:
    「じゃ、暫く寝てな。
    お前の出る幕は もうちょっと後なんだよ。」

    ウェルギリアの散弾銃が火を吹いた。
    ハスミの意識は途切れた。

    ────────────────────

  • 14ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:28:00

    ────────────────────

    ウェルギリアは もう一人の自分を吸収すると、ティーパーティーの執務室の扉を開けた。
    他学園の生徒会室にあたるその部屋には、最後の生徒会長である桐藤ナギサがいるはずだった。
    曲がりなりにも、彼女こそがトリニティ最後の楔であると、ベアトリーチェもウェルギリアも睨んでいた。
    蒼森ミネにも、歌住サクラコにも、内向きのリーダーシップはあっても、トリニティ全体を纏めるだけの求心力はないはずだった。

    これで、最高の戦争が幕を開ける。

    そう思っていたが、中には予想とは違う人物が立っていた。

    ???:
    「こんにちは、害虫さん☆
    ナギちゃんに用だった? 残念、私だよ。」

    ウェルギリア:
    「・・・聖園ミカ。」

    ここで初めて、ウェルギリアに緊張が走った。
    ベアトリーチェに良く似た、ピリついた表情をする。

  • 15ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:30:01

    ウェルギリア:
    「なんで お前がここに?」

    ミカ:
    「ん~・・・私が望んだの。
    えっと、さっきセイアちゃんが目の前で倒れちゃってね。
    それで・・・何ていうかプッツンってきちゃったの。
    いや、私がキレるのは可笑しいっていうのは分かってるんだけど、それでも・・・こう・・・どうしようもなくなっちゃって。
    それで一緒に捕まってた人に相談したら、ここにナギちゃんを狙ってる どうしようもない人が来るって聞いたの。
    酷いよね、ナギちゃんは何もしてないのに。」

    ウェルギリア:
    「・・・シスターフッドの異端、I.O.(イノクラティア・オクルス)。
    ヴィルトゥオーソのイカレの差し金か。」

    本人も纏まっていないであろう経緯の羅列から、ヴェルギリアは自分にとって重要な情報だけを拾い上げた。
    ヴィルトゥオーソが関わるとロクなことが無いと知っているのである。

    ミカ:
    「それで・・・ちょっと聞いちゃったんだけど、セイアちゃんが倒れたのって貴方のせいなの?」

    その証拠に、目の前には顔こそ笑っているものの目は全く笑っていない怪物が佇んでいる。
    ヴェルギリアが100人以上喰らって、ようやく立てるステージに素で立っているスペックの怪物。
    それを、今から恐らく十中八九 相手にしなくてはならない。

  • 16ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:31:13

    ヴェルギリアは嗤った。

    ここが正念場である。
    物語の脇役で終わるか、世紀の大悪党に飛躍するか。

    秋(とき)が、来ていた。

    ヴェルギリア:
    「・・・そうだと言ったら?」

    アレはどちらかというとセイア本人の神秘の暴走故の事故のようなものだが、それを聴けるほど目の前の生徒が冷静ではないことは分かっていた。
    もう、感情が一杯一杯のところで踏ん張っている。
    それは、ささいなことで決壊する。

    ミカが、無表情になった。

    ミカ:
    「そっか。
    じゃ、〇すね?」

    ヴェルギリア:
    「掛かってこいよ! 大悪党(ヴィラン)の成り損ないが!!」

    銃声が、響いた。

    ────────────────────

  • 17ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:45:16

    ────────────────────

    ミサキ:
    「・・・ハァ・・・ハァ・・・!」

    夜の廃墟を、駆ける。
    ただでさえ熱があるのに身体を酷使したせいか、喉の奥から血の匂いが上ってきた。
    口の中からも、若干血の味がする。

    息は、切れている。
    身体も、鉛のように重い。
    しかし、足を止めるわけにはいかなかった。

    ???:
    (どうして足掻くの? もう全部 諦めなよ。
    この世界は苦痛で、虚しい。 それは ずっと前から分かっていたことのはずでしょう?)

    朦朧とする意識の中で、誰かが囁いた。
    暫く考えて、それが自分だと気付いた。
    姉さんに、ずっと甘えてきた自分である。

    ミサキ:
    「うる・・・さいっ・・・!」

    目の前には誰もいないのに、気が付けば叫んでいた。
    後ろから付いてきてくれていたヒヨリが驚いたのが気配で分かった。

  • 18ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:46:33

    本当なら、ヒヨリを連れてくるべきではなかった。
    自分達の安全を確保しようとしてくれた防衛室スタッフの人達を裏切っての、姫の奪還作戦である。
    策も何もあったものでもない。
    ただ、罪を償うには こうする他なかった。
    そこに、ヒヨリは何も言わず付いてきてくれたのである。
    そしてそれを自分は受け入れてしまった。
    まだ甘えているところがある、と思う。

    不意に、足元が揺れた感じがした。
    自然と、路地裏の泥濘の中に倒れ込む。

    雨が降っていた。
    泥濘は、不思議なほど暖かかった。

    ヒヨリ:
    「ミサキさん・・・。」

    ヒヨリが、身体を持ち上げてくれた。
    汚泥が衣服に着くのを、一切 躊躇していないのが手つきから分かった。
    不意に涙が出そうになった。
    あまりに温かく、あまりに情けなかった。

    ヒヨリは屋根があるところに、ミサキを運んだ。
    汚泥に塗れたミサキのジャケットを脱がせて脇に畳むと、自分の上着をミサキに被せる。

    そして、自分は立ち上がった。

  • 19ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:48:03

    ミサキ:
    「ヒヨリ・・・?」

    身体が まるで自分のものではないかのように動かない。
    もう このポンコツは、ずっと前から限界を迎えていたのだ。
    そして、止まってしまった以上、もう動き出すことは出来ない。

    ヒヨリは雨の中に戻っていく。

    ヒヨリ:
    「・・・ミサキさんは ここにいて下さい。
    私は・・・そうですね。 薬でも買ってこようと思います。 お金はないですが・・・へへ・・・。」

    嘘だ。
    長い付き合いから、直感的に分かった。
    そして、ヒヨリがなぜ自分に何も言わずついてきたのかを、ようやく理解した。
    ヒヨリは知っていたのだ。
    自分の身体が限界であること、そして自分を苛む罪の意識も。

    ミサキ:
    「だめ・・・やめて・・・一人に、しないで。」

    口から出たのは、結局そんな甘えた一言だった。
    本当はもっと、ヒヨリのことを考えた説得の言葉を投げかけなければならなかったはずなのに。
    分かっていた、はずなのに。

  • 20ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:50:04

    ヒヨリ:
    「大丈夫です。 直ぐ戻って来ますから・・・。」

    そう言って、ヒヨリは雨の廃墟街に消えていった。
    十中八九、アリウスに向かったのだろう。
    自分の代わりに、姫を助けに行ったのだ。

    雨に濡れて、暗い夜を一人きりで。

    それもこれも、自分の甘えが招いた事態だった。

    ミサキ:
    (・・・死にたい。)

    心の底から出た言葉だった。





    しかし、死が許されるはずも無かった。

    ────────────────────

  • 21ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:17:55

    ────────────────────

    ミサキ:
    「・・・」

    気が付けば、また雨の中を歩いていた。
    得物を杖のようにして、手負いの獣のように歩く。
    頭の冷静な部分が、得物がダメにならないかと つまらないことを心配していた。

    なにか、恐ろしいものに突き動かされているという気がする。
    それは死よりもずっと恐ろしく、魂に ずっと短剣の先を突きつけてきた。

    〇ねば、魂は肉体から、この虚しい世界から解放される。
    しかし、今 〇ねば魂は きっと恐ろしいところに行く。

    それは、きっと地獄と呼ばれるところなのだろうと思った。
    自分自身が作りだした、自縄自縛の無限地獄だ。

    ミサキ:
    (だから、何? そこに堕ちることと、今の苦しみに何の違いがあるの?
    仮に今 死んで、その後に無限の苦しみがあるとして、それは この世界と何が違うの??)

    そういうことでは、ない。
    それが分からない自分が、駄々を捏ねる。
    もう、倒れたい。
    諦めたい。
    全てを投げ出して、足元の泥濘の中で微睡みたい。

    ─── この虚しいだけの世界から、逃げ出したい。

  • 22ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:19:58

    ミサキ:
    「・・・」

    しかし、足は止められなかった。
    もう身体は鉛のように重い。
    大事な得物を杖のようにして、足を引き攣るように歩かなければ1歩も前に進めなかった。

    杖が、雨で滑った。
    バランスを崩して、汚泥の中に倒れる。
    どこかを、擦りむいた。
    しかし、どこかはもう分からなかった。

    泥濘の中を、蛆虫のように這った。
    得物をとり、身体を支え、何とか立つ。
    何度 繰り返したか 分からないソレを、またやる。

    ─── 誰かが、立っていた。

    最初は ただの通行人かと思ったが、違う。
    ジャケットを見て、シャーレの先生だと気付いた。

    いつの間にか、数歩の距離にいた。
    とうに視界は曖昧になりつつあった。

    思考が、纏まらない。
    どうして、ここにシャーレの先生がいるのか分からない。

    ただ、前にいて邪魔だとは思った。

  • 23ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:22:08

    ミサキ:
    「・・・どいて。」

    ”・・・。”

    シャーレの先生は何も言わなかった。
    どんな顔をしているのかは、良く分からない。
    自分が どういう姿をしているのかも、良く分からない。
    ただ、所々がジクジクと痛んだ。

    ミサキ:
    「・・・退かないと、撃つ。」

    ランチャーを構える。
    震える手で、引き金に何とか指を添えた。

    ”・・・。”

    シャーレの先生は、退かなかった。
    ただ、雨の中で静かに佇んでいる。
    自分の進むべき道に立ちはだかって。

    ミサキ:
    「・・・」

    ここで撃てば、確実に目の前の大人を消し炭に出来る。
    『ヘイローを破壊する爆弾』なんて必要ない。
    姉さんも言っていた、大切なのは殺意なのだと。
    そう、やろうと思えば そこら辺に転がっている石ころでも目の前の大人は〇せるのだ。

  • 24ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:23:37

    ミサキ:
    「・・・」

    ”・・・。”

    ミサキ:
    「・・・」

    ”・・・。”

    ミサキ:
    「・・・」

    ”・・・。”

    ミサキ:
    「・・・はぁ」

    ”・・・!”

    引き金から、指を離していた。
    それどころか、得物を地面に投げ出していた。
    もう、全てが どうでも良かった。

    身体を、泥濘の中に投げ出す。
    全身を生ぬるさが包んだ。

    空は どこまでも暗く、雨は針のような光沢を放って降り注いでいた。

  • 25ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:25:55

    ミサキ:
    (・・・なにも、できなかった)

    姉さんに代わって家族を守ることも、姫を助けることも、ただ一人ついてきてくれたヒヨリを止めることも。
    ─── 人を、〇すことも。

    ミサキ:
    (こんなことなら、もっと早く死んでおくんだった)

    そうすれば、姉さんが私に騙されることも無かったはずなのに。
    姉さんは きっと、自分が賢いと思っていただろう。
    しかしそれは、きっと小賢しいだけだった。
    本当に賢いなら、もっと早く死ぬべきだったのだ。

    姉さんの優しさに、どこか甘えていた。
    もしかしたら、自分は まだ生きていても良いのではないかと淡い希望を抱いた。
    死んで悲しむ人がいるなら、まだ自分も生きるべきだと愚かな勘違いをしていた。
    悲しませてでも死ぬことが、大切な人達を守る最善手だったのに。

    ”・・・。”

    不意に、汚泥の中から抱き上げられた。
    寒い、と思った。

  • 26ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:27:07

    ミサキ:
    「・・・離して」

    ”・・・。”

    目の前の大人が、どういう人なのかは知らない。
    ただ、マダムのように恐ろしい感じはしなかった。
    こういう大人もいるのかと、他人事のように思った。

    ミサキ:
    「お願い・・・死なせて。 もう・・・疲れた。」

    ”・・・そっか。”

    ミサキ:
    「なにも、できなかった。 ねぇさんから みんなをまもるようにいわれてたのに。」

    ”うん。”

    ミサキ:
    「しにたかった。 でも、しぬわけにはいかなかった。」

    ”・・・うん。”

  • 27ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:31:03

    ミサキ:
    「・・・」

    ”・・・。”

    もう寒いとは思わなかった。
    泥濘とは違う、本物の温かさに微睡んでいた。

    ミサキ:
    「・・・・・・おねがい・・・たすけて」

    結局、最後に出たのは やっぱり甘えた一言だった。
    自分達が襲撃したシャーレの先生が、襲撃相手を助けるワケなんてないというのに。



    ”─── まかせて。 皆、助けるから。”



    ミサキ:
    「・・・」

    シャーレの先生は、真っ直ぐな目をして そう言った。
    それが真実だとは、思えなかった。
    しかし、甘えた自分は、どこか淡い希望を抱き始めていた。

    ────────────────────

  • 28ホットドリンク大好き25/07/26(土) 09:29:13

    保守

  • 29ホットドリンク大好き25/07/26(土) 16:34:40

    保守

  • 30ホットドリンク大好き25/07/26(土) 23:54:48

    ────────────────────

    アビドスの郊外にてラーメンの屋台が一軒 明かりと灯していた。
    そこに、4人の客がやってくる。

    アル:
    「─── やってるかしら?」

    カヤ:
    「えぇ、勿論」

    柴大将:
    「・・・」

    アル達 便利屋68を、『柴関』のエプロンを付けたカヤが出迎えた。
    見た目だけで言えば、完全に柴関ラーメンの従業員といった装いである。
    柴大将が普段見ないような難しい顔で、ムスッと腕を組んで隣に立っていた。

    アル:
    「よかったわ! 二人が仲直りできたみたいで!」

    アルが満面の笑みで言う。
    カヤは少し頬を赤く染めて、人間らしい笑みを見せた。

  • 31ホットドリンク大好き25/07/26(土) 23:56:17

    カヤ:
    「お恥ずかしながら、まだ完全に受け入れて貰えたワケではありませんが・・・」

    柴大将:
    「・・・まぁ、厨房を任せても良いくらいの腕前はあるからな。」

    ムツキ:
    「もー、大将はショージキじゃないんだから!」

    和やかな雰囲気を醸し出しつつ、便利屋68は席に着いた。

    カヤ:
    「柴関ラーメンへ ようこそ。 何になさいますか?」

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    十数分後 ───

    ムツキ:
    「んー・・・まだ大将の方が美味しいかなぁ。
    なんていうか、コシが足りないっていうか~・・・。」

    ハルカ:
    「えっと・・・その・・・えへへ・・・(目を逸らしつつ)」

  • 32ホットドリンク大好き25/07/26(土) 23:59:04

    カヤ:
    「・・・そうですか。」

    柴大将:
    「・・・そうかい。」

    柴関ラーメンの二人は残念そうにした。
    そのままラーメンの話題に持って行かれそうになるところを、カヨコが制す。

    カヨコ:
    「ラーメンご馳走様。
    ・・・それで、依頼の話は?」

    アル:
    「あっ、そうだったわね。」

    アルが佇まいを直した。
    気分は完全に外食だった。

    カヤ:
    「・・・柴さん。」

    柴大将:
    「いや、いい。 ここで聞くさ。」

    カヤ:
    「そうですか。」

    カヤが柴大将に目配せをしたが、結局 柴大将は その場に留まった。

  • 33ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:00:19

    カヤ:
    「─── では」

    カヤの背後から、見慣れない竜の尾が這い上がってきた。
    咄嗟にハルカが撃とうとするのを、カヨコが また制した。

    場に、異様な緊張感が張り詰め始める。
    それは日常に怪異が出現した感覚に似ていた。

    カヤ:
    「便利屋68の皆様を、傭兵として雇いたいのです。 報酬は・・・この額で如何でしょう?」

    そう言って、カヤは足元から金属製のケースバックを取り出した。
    鍵を開け、中を開くと、そこには夥しい量の現金が入っていた。

    カヨコの額に冷や汗が垂れる。
    これは真っ当な依頼ではないと容易に想像がついた。

    カヨコ:
    「社長 ───」

    アル:
    「・・・」

    今度はアルがカヨコを手で制した。
    いつになく真剣な表情をしている。

  • 34ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:01:57

    アル:
    「カヤさん、貴方とは良いビジネスパートナーであるつもりよ?
    多少 危険な依頼でも受けるつもりはあるわ。
    だから、その お金は一旦しまって頂戴。
    まずは話を聞いてから・・・ね?」

    諭すような声色だった。
    カヤが観念したような顔をする。

    カヤ:
    「・・・貴方には敵いませんね、アルさん。
    いいでしょう、正直に お話しいたします。」

    カヤは屋台のテーブルに前のめりに もたれ掛かると、少女が秘密をそっと打ち明けるように依頼の内容を語り始めた。

    カヤ:
    「実は・・・学園を一つ奪ろうと思いまして。」

    アル:
    「はっ?」

  • 35ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:04:14

    カヤ:
    「それで、今から単身で向かうのですけど、あなた方に援護を頼みたいのです。」

    アル:
    「はい?」

    カヤ:
    「それで、作戦の詳細なのですが・・・───」

    カヨコ:
    「社長・・・。」

    アル:
    「え、ちょっと待って? 私の聞き間違いかしら、ちょっと───」

    アビドスの郊外に、悲鳴に似た声が響いた。

    ────────────────────

  • 36ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:08:07

    カヤ:
    「─── まさか、受けて頂けるとは思っていませんでした。
    あの方達のプロ意識には頭が下がります。」

    柴大将:
    「それだけで動く子達じゃないと思うけどな。」

    屋台の片付けをしながら、柴大将が言った。
    カヤも、間借りした分や自分の調理器具を片付けている。

    カヤ:
    「そうですか?
    しかし ともあれ、これで勝負は分からなくなってきました。」

    柴大将:
    「・・・本当に行くのか?」

    カヤ:
    「えぇ、『今の私』は そういう生き物ですから。」

    柴大将:
    「・・・そうかい。」

  • 37ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:09:14

    再びの沈黙。
    カチャカチャと片付けをする音だけが夜闇に響く。
    ブゥン・・・と、どこかの電灯が鈍い音を鳴らした。

    柴大将:
    「・・・また、来いよ。
    今度は もっとジックリ、お前のラーメンの仕込み方を見てやるから。」

    カヤ:
    「・・・本当ですか? それは・・・嬉しいです。
    できれば、貴方の記憶にある『不知火カヤ』にも そうしてくれると嬉しいのですが・・・。」

    柴大将:
    「勿論だ。 ・・・今度こそ、ちゃんと向き合うさ。」

    カヤ:
    「ありがとうございます。」

    柴大将:
    「─── だから、また『お前』も来な。 ・・・待ってるから。」

    カヤが一瞬手を止めた。
    しかし再び直ぐに片付けを再開し始める。
    それ以降、二人の間に会話は無かった。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 38ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:12:40

    カヤ:
    「柴さん。」

    柴大将:
    「どうした、『カヤ』。」

    全ての片付けが終わり、柴大将は屋台を引いて、カヤは いつもの黒装束に身を包んで それぞれの道を行こうとする その瞬間、カヤは柴大将のことを呼んだ。
    柴大将も、カヤのことを呼んだ。

    カヤ:
    「ありがとう。」

    柴大将:
    「・・・あぁ。」

    初めて見る、『今のカヤ』としての子供らしい顔だった。
    しかしそれも、直ぐに黒い仮面で覆い尽くされてしまう。

  • 39ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:15:13

    カヤ:
    「─── また お会いしましょう。」

    柴大将:
    「そうだな。 ・・・また。」

    次が無いだろうことは、お互い分かっていた。
    分かっていたからこそ、後悔が無いように語り合えた。

    カヤは言った。
    力を得る為に、代償を支払い過ぎたのだと。
    もう、時間が無いのだと。

    ───── 最後の機会に、貴方と分かり合えて、本当に良かった。

    ────────────────────

  • 40二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 09:33:24

    生きて

スレッドは7/27 19:33頃に落ちます

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