【閲覧注意・🎲】ここだけ不知火カヤの中身が、大体ボンドルド卿だった世界線 Part.19(建て直し)

  • 1ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:03:58

    【あらすじ】
    おめでとう、セイア・・・
    ついに至聖所を見つけたのですね

  • 2ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:05:03
  • 3ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:06:46
  • 4ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:07:56
  • 5ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:09:53
  • 6ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:11:04
  • 7ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:13:21
  • 8ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:14:53

    ────────────────────

    そこは昏い、解剖室だった。
    いつもは獣の肉を裂く その場所で、カヤは自らの肉を裂いていた。

    ─── テクスチャを弄る。
    それを為すのに、痛みは必須だった。
    痛みが無ければ、改変したテクスチャも自然なものではなくなる。

    カヤ:
    「おや、ついにセイアさんが倒れましたか」

    施術中に報告を受けたカヤは、しかし それが起こりえることを良く知っていた。
    ─── 知っていたからこそ、上手く利用することが出来た。

    カヤ:
    「おめでとうセイア・・・
    ついに至聖所を見つけたのですね」

  • 9ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:16:19

    ようやく、施術が終わった。
    いつもの黒い外套を羽織る。
    外套の裾から、竜のそれのような尾が覗いた。

    カヤ:
    「貴方には沢山の お礼を言いたい」

    施術室の壁に掛けておいた、いつもの黒い仮面を手に取る。

    B装備(ビースト装備)とも また違う、恒久的なテクスチャの変更。
    それが為す意味を、カヤは よく理解していた。
    理解していたからこそ、今やらなくてはならなかった。

    カヤ:
    「是非とも
    また会いたいですね」

    竜の尾がついた身体は、カヤにとってよく馴染んだ。
    それはカヤにとっての本来の姿であり、決死の姿勢の表れでもあった。

    ────────────────────

  • 10ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:18:49

    ────────────────────

    正義実現委員A:
    「あ、ハスミ副委員長。 こんにちは」

    ハスミ:
    「・・・えぇ、こんにちは
    こちらに何か用ですか? 特に本部から指示は出ていなかったと思いますが」

    ティーパーティーの執務室へと続く廊下で、ハスミは一人の正義実現委員に遭遇した。
    手には、ツルギのそれに良く似た、しかし一回り大きい散弾銃が握られている。

    正義実現委員A:
    「えっと、ツルギ委員長からナギサ様の様子を確認してくるようにと・・・」

    ハスミ:
    「・・・そうですか」

    正義実現委員A:
    「そういうワケですから。 では───」

    ───── 銃声

    ハスミの横を通ろうとした正義実現委員の足元に弾痕が走った。
    撃たれた正義実現委員は、ビクリとするでもなく立ち止まった。

  • 11ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:21:17

    正義実現委員A:
    「・・・」

    ハスミ:
    「・・・一つ、言っておきましょう
    私は後輩の顔は出来るだけ覚えているつもりです
    ・・・・・・そして私の知っている その子は、そんなに丁寧な言葉遣いをする子ではありません」

    正義実現委員A:
    「ククッ・・・」

    堪らず、といった様子で正義実現委員に化けたソレは、腹を抱えて笑い始める。

    ???:
    「アッーハッハッハッハッ! 最高だよ、お前!!
    そうだよ、ずっと そういう展開を求めてたんだ!!!」

    ぐにゃりと、化けの皮が剥がれる。
    全身が黒ずんだかと思うと、次の瞬間には赤い肌をした背丈も体格も違う生徒が立ってた。
    手にはやはり、ツルギのそれに似た、しかし一回り大きい散弾銃を一丁握っている。

  • 12ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:23:23

    ハスミ:
    「・・・貴方ですね。
    先程からトリニティの内部を引っ掻き回しているのは。」

    ウェルギリア:
    「あれは簡単すぎたなぁ。
    だって、派閥の生徒に化けて あることないこと言うだけで 勝手に内ゲバで崩壊していくんだぜ?
    クソババアに言われたときは、もっとダルい仕事になると思ってたのに。
    おたく、ちょっとバカが多過ぎない? 二の足踏んでた私がバカみたいじゃん。」

    ハスミ:
    「・・・」

    ウェルギリア:
    「その点、お前はイイな。
    敵味方の区別が しっかりしてる。
    うん、殺されるなら お前みたいなヤツが良い。」

    ハスミ:
    「・・・何を言っているのですか?
    私は 貴方を殺しはしません。 ただ、拘束は させて頂きます。」

    ウェルギリア:
    「出来ると良いなぁ・・・」

    ウェルギリアはハスミの背後をチラリと見た。

  • 13ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:24:57

    ───── 銃声

    倒れていたのはハスミだった。

    ハスミ:
    (・・・なに、が。)

    薄れゆく意識の中で、背後から自身を撃ち抜いた下手人の影を見た。

    ─── それは後輩であり、部下であるはずの静山マシロだった。

    その影は、ハスミの前で歪み、”二人目の”ウェルギリアの姿をとる。

    二人目のヴェルギリア:
    「後輩ちゃん、ご馳走様。
    取り戻したかったら私を殺してみるんだね。」

    ウェルギリア:
    「じゃ、暫く寝てな。
    お前の出る幕は もうちょっと後なんだよ。」

    ウェルギリアの散弾銃が火を吹いた。
    ハスミの意識は途切れた。

    ────────────────────

  • 14ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:28:00

    ────────────────────

    ウェルギリアは もう一人の自分を吸収すると、ティーパーティーの執務室の扉を開けた。
    他学園の生徒会室にあたるその部屋には、最後の生徒会長である桐藤ナギサがいるはずだった。
    曲がりなりにも、彼女こそがトリニティ最後の楔であると、ベアトリーチェもウェルギリアも睨んでいた。
    蒼森ミネにも、歌住サクラコにも、内向きのリーダーシップはあっても、トリニティ全体を纏めるだけの求心力はないはずだった。

    これで、最高の戦争が幕を開ける。

    そう思っていたが、中には予想とは違う人物が立っていた。

    ???:
    「こんにちは、害虫さん☆
    ナギちゃんに用だった? 残念、私だよ。」

    ウェルギリア:
    「・・・聖園ミカ。」

    ここで初めて、ウェルギリアに緊張が走った。
    ベアトリーチェに良く似た、ピリついた表情をする。

  • 15ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:30:01

    ウェルギリア:
    「なんで お前がここに?」

    ミカ:
    「ん~・・・私が望んだの。
    えっと、さっきセイアちゃんが目の前で倒れちゃってね。
    それで・・・何ていうかプッツンってきちゃったの。
    いや、私がキレるのは可笑しいっていうのは分かってるんだけど、それでも・・・こう・・・どうしようもなくなっちゃって。
    それで一緒に捕まってた人に相談したら、ここにナギちゃんを狙ってる どうしようもない人が来るって聞いたの。
    酷いよね、ナギちゃんは何もしてないのに。」

    ウェルギリア:
    「・・・シスターフッドの異端、I.O.(イノクラティア・オクルス)。
    ヴィルトゥオーソのイカレの差し金か。」

    本人も纏まっていないであろう経緯の羅列から、ヴェルギリアは自分にとって重要な情報だけを拾い上げた。
    ヴィルトゥオーソが関わるとロクなことが無いと知っているのである。

    ミカ:
    「それで・・・ちょっと聞いちゃったんだけど、セイアちゃんが倒れたのって貴方のせいなの?」

    その証拠に、目の前には顔こそ笑っているものの目は全く笑っていない怪物が佇んでいる。
    ヴェルギリアが100人以上喰らって、ようやく立てるステージに素で立っているスペックの怪物。
    それを、今から恐らく十中八九 相手にしなくてはならない。

  • 16ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:31:13

    ヴェルギリアは嗤った。

    ここが正念場である。
    物語の脇役で終わるか、世紀の大悪党に飛躍するか。

    秋(とき)が、来ていた。

    ヴェルギリア:
    「・・・そうだと言ったら?」

    アレはどちらかというとセイア本人の神秘の暴走故の事故のようなものだが、それを聴けるほど目の前の生徒が冷静ではないことは分かっていた。
    もう、感情が一杯一杯のところで踏ん張っている。
    それは、ささいなことで決壊する。

    ミカが、無表情になった。

    ミカ:
    「そっか。
    じゃ、〇すね?」

    ヴェルギリア:
    「掛かってこいよ! 大悪党(ヴィラン)の成り損ないが!!」

    銃声が、響いた。

    ────────────────────

  • 17ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:45:16

    ────────────────────

    ミサキ:
    「・・・ハァ・・・ハァ・・・!」

    夜の廃墟を、駆ける。
    ただでさえ熱があるのに身体を酷使したせいか、喉の奥から血の匂いが上ってきた。
    口の中からも、若干血の味がする。

    息は、切れている。
    身体も、鉛のように重い。
    しかし、足を止めるわけにはいかなかった。

    ???:
    (どうして足掻くの? もう全部 諦めなよ。
    この世界は苦痛で、虚しい。 それは ずっと前から分かっていたことのはずでしょう?)

    朦朧とする意識の中で、誰かが囁いた。
    暫く考えて、それが自分だと気付いた。
    姉さんに、ずっと甘えてきた自分である。

    ミサキ:
    「うる・・・さいっ・・・!」

    目の前には誰もいないのに、気が付けば叫んでいた。
    後ろから付いてきてくれていたヒヨリが驚いたのが気配で分かった。

  • 18ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:46:33

    本当なら、ヒヨリを連れてくるべきではなかった。
    自分達の安全を確保しようとしてくれた防衛室スタッフの人達を裏切っての、姫の奪還作戦である。
    策も何もあったものでもない。
    ただ、罪を償うには こうする他なかった。
    そこに、ヒヨリは何も言わず付いてきてくれたのである。
    そしてそれを自分は受け入れてしまった。
    まだ甘えているところがある、と思う。

    不意に、足元が揺れた感じがした。
    自然と、路地裏の泥濘の中に倒れ込む。

    雨が降っていた。
    泥濘は、不思議なほど暖かかった。

    ヒヨリ:
    「ミサキさん・・・。」

    ヒヨリが、身体を持ち上げてくれた。
    汚泥が衣服に着くのを、一切 躊躇していないのが手つきから分かった。
    不意に涙が出そうになった。
    あまりに温かく、あまりに情けなかった。

    ヒヨリは屋根があるところに、ミサキを運んだ。
    汚泥に塗れたミサキのジャケットを脱がせて脇に畳むと、自分の上着をミサキに被せる。

    そして、自分は立ち上がった。

  • 19ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:48:03

    ミサキ:
    「ヒヨリ・・・?」

    身体が まるで自分のものではないかのように動かない。
    もう このポンコツは、ずっと前から限界を迎えていたのだ。
    そして、止まってしまった以上、もう動き出すことは出来ない。

    ヒヨリは雨の中に戻っていく。

    ヒヨリ:
    「・・・ミサキさんは ここにいて下さい。
    私は・・・そうですね。 薬でも買ってこようと思います。 お金はないですが・・・へへ・・・。」

    嘘だ。
    長い付き合いから、直感的に分かった。
    そして、ヒヨリがなぜ自分に何も言わずついてきたのかを、ようやく理解した。
    ヒヨリは知っていたのだ。
    自分の身体が限界であること、そして自分を苛む罪の意識も。

    ミサキ:
    「だめ・・・やめて・・・一人に、しないで。」

    口から出たのは、結局そんな甘えた一言だった。
    本当はもっと、ヒヨリのことを考えた説得の言葉を投げかけなければならなかったはずなのに。
    分かっていた、はずなのに。

  • 20ホットドリンク大好き25/07/25(金) 21:50:04

    ヒヨリ:
    「大丈夫です。 直ぐ戻って来ますから・・・。」

    そう言って、ヒヨリは雨の廃墟街に消えていった。
    十中八九、アリウスに向かったのだろう。
    自分の代わりに、姫を助けに行ったのだ。

    雨に濡れて、暗い夜を一人きりで。

    それもこれも、自分の甘えが招いた事態だった。

    ミサキ:
    (・・・死にたい。)

    心の底から出た言葉だった。





    しかし、死が許されるはずも無かった。

    ────────────────────

  • 21ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:17:55

    ────────────────────

    ミサキ:
    「・・・」

    気が付けば、また雨の中を歩いていた。
    得物を杖のようにして、手負いの獣のように歩く。
    頭の冷静な部分が、得物がダメにならないかと つまらないことを心配していた。

    なにか、恐ろしいものに突き動かされているという気がする。
    それは死よりもずっと恐ろしく、魂に ずっと短剣の先を突きつけてきた。

    〇ねば、魂は肉体から、この虚しい世界から解放される。
    しかし、今 〇ねば魂は きっと恐ろしいところに行く。

    それは、きっと地獄と呼ばれるところなのだろうと思った。
    自分自身が作りだした、自縄自縛の無限地獄だ。

    ミサキ:
    (だから、何? そこに堕ちることと、今の苦しみに何の違いがあるの?
    仮に今 死んで、その後に無限の苦しみがあるとして、それは この世界と何が違うの??)

    そういうことでは、ない。
    それが分からない自分が、駄々を捏ねる。
    もう、倒れたい。
    諦めたい。
    全てを投げ出して、足元の泥濘の中で微睡みたい。

    ─── この虚しいだけの世界から、逃げ出したい。

  • 22ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:19:58

    ミサキ:
    「・・・」

    しかし、足は止められなかった。
    もう身体は鉛のように重い。
    大事な得物を杖のようにして、足を引き攣るように歩かなければ1歩も前に進めなかった。

    杖が、雨で滑った。
    バランスを崩して、汚泥の中に倒れる。
    どこかを、擦りむいた。
    しかし、どこかはもう分からなかった。

    泥濘の中を、蛆虫のように這った。
    得物をとり、身体を支え、何とか立つ。
    何度 繰り返したか 分からないソレを、またやる。

    ─── 誰かが、立っていた。

    最初は ただの通行人かと思ったが、違う。
    ジャケットを見て、シャーレの先生だと気付いた。

    いつの間にか、数歩の距離にいた。
    とうに視界は曖昧になりつつあった。

    思考が、纏まらない。
    どうして、ここにシャーレの先生がいるのか分からない。

    ただ、前にいて邪魔だとは思った。

  • 23ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:22:08

    ミサキ:
    「・・・どいて。」

    ”・・・。”

    シャーレの先生は何も言わなかった。
    どんな顔をしているのかは、良く分からない。
    自分が どういう姿をしているのかも、良く分からない。
    ただ、所々がジクジクと痛んだ。

    ミサキ:
    「・・・退かないと、撃つ。」

    ランチャーを構える。
    震える手で、引き金に何とか指を添えた。

    ”・・・。”

    シャーレの先生は、退かなかった。
    ただ、雨の中で静かに佇んでいる。
    自分の進むべき道に立ちはだかって。

    ミサキ:
    「・・・」

    ここで撃てば、確実に目の前の大人を消し炭に出来る。
    『ヘイローを破壊する爆弾』なんて必要ない。
    姉さんも言っていた、大切なのは殺意なのだと。
    そう、やろうと思えば そこら辺に転がっている石ころでも目の前の大人は〇せるのだ。

  • 24ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:23:37

    ミサキ:
    「・・・」

    ”・・・。”

    ミサキ:
    「・・・」

    ”・・・。”

    ミサキ:
    「・・・」

    ”・・・。”

    ミサキ:
    「・・・はぁ」

    ”・・・!”

    引き金から、指を離していた。
    それどころか、得物を地面に投げ出していた。
    もう、全てが どうでも良かった。

    身体を、泥濘の中に投げ出す。
    全身を生ぬるさが包んだ。

    空は どこまでも暗く、雨は針のような光沢を放って降り注いでいた。

  • 25ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:25:55

    ミサキ:
    (・・・なにも、できなかった)

    姉さんに代わって家族を守ることも、姫を助けることも、ただ一人ついてきてくれたヒヨリを止めることも。
    ─── 人を、〇すことも。

    ミサキ:
    (こんなことなら、もっと早く死んでおくんだった)

    そうすれば、姉さんが私に騙されることも無かったはずなのに。
    姉さんは きっと、自分が賢いと思っていただろう。
    しかしそれは、きっと小賢しいだけだった。
    本当に賢いなら、もっと早く死ぬべきだったのだ。

    姉さんの優しさに、どこか甘えていた。
    もしかしたら、自分は まだ生きていても良いのではないかと淡い希望を抱いた。
    死んで悲しむ人がいるなら、まだ自分も生きるべきだと愚かな勘違いをしていた。
    悲しませてでも死ぬことが、大切な人達を守る最善手だったのに。

    ”・・・。”

    不意に、汚泥の中から抱き上げられた。
    寒い、と思った。

  • 26ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:27:07

    ミサキ:
    「・・・離して」

    ”・・・。”

    目の前の大人が、どういう人なのかは知らない。
    ただ、マダムのように恐ろしい感じはしなかった。
    こういう大人もいるのかと、他人事のように思った。

    ミサキ:
    「お願い・・・死なせて。 もう・・・疲れた。」

    ”・・・そっか。”

    ミサキ:
    「なにも、できなかった。 ねぇさんから みんなをまもるようにいわれてたのに。」

    ”うん。”

    ミサキ:
    「しにたかった。 でも、しぬわけにはいかなかった。」

    ”・・・うん。”

  • 27ホットドリンク大好き25/07/26(土) 00:31:03

    ミサキ:
    「・・・」

    ”・・・。”

    もう寒いとは思わなかった。
    泥濘とは違う、本物の温かさに微睡んでいた。

    ミサキ:
    「・・・・・・おねがい・・・たすけて」

    結局、最後に出たのは やっぱり甘えた一言だった。
    自分達が襲撃したシャーレの先生が、襲撃相手を助けるワケなんてないというのに。



    ”─── まかせて。 皆、助けるから。”



    ミサキ:
    「・・・」

    シャーレの先生は、真っ直ぐな目をして そう言った。
    それが真実だとは、思えなかった。
    しかし、甘えた自分は、どこか淡い希望を抱き始めていた。

    ────────────────────

  • 28ホットドリンク大好き25/07/26(土) 09:29:13

    保守

  • 29ホットドリンク大好き25/07/26(土) 16:34:40

    保守

  • 30ホットドリンク大好き25/07/26(土) 23:54:48

    ────────────────────

    アビドスの郊外にてラーメンの屋台が一軒 明かりと灯していた。
    そこに、4人の客がやってくる。

    アル:
    「─── やってるかしら?」

    カヤ:
    「えぇ、勿論」

    柴大将:
    「・・・」

    アル達 便利屋68を、『柴関』のエプロンを付けたカヤが出迎えた。
    見た目だけで言えば、完全に柴関ラーメンの従業員といった装いである。
    柴大将が普段見ないような難しい顔で、ムスッと腕を組んで隣に立っていた。

    アル:
    「よかったわ! 二人が仲直りできたみたいで!」

    アルが満面の笑みで言う。
    カヤは少し頬を赤く染めて、人間らしい笑みを見せた。

  • 31ホットドリンク大好き25/07/26(土) 23:56:17

    カヤ:
    「お恥ずかしながら、まだ完全に受け入れて貰えたワケではありませんが・・・」

    柴大将:
    「・・・まぁ、厨房を任せても良いくらいの腕前はあるからな。」

    ムツキ:
    「もー、大将はショージキじゃないんだから!」

    和やかな雰囲気を醸し出しつつ、便利屋68は席に着いた。

    カヤ:
    「柴関ラーメンへ ようこそ。 何になさいますか?」

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    十数分後 ───

    ムツキ:
    「んー・・・まだ大将の方が美味しいかなぁ。
    なんていうか、コシが足りないっていうか~・・・。」

    ハルカ:
    「えっと・・・その・・・えへへ・・・(目を逸らしつつ)」

  • 32ホットドリンク大好き25/07/26(土) 23:59:04

    カヤ:
    「・・・そうですか。」

    柴大将:
    「・・・そうかい。」

    柴関ラーメンの二人は残念そうにした。
    そのままラーメンの話題に持って行かれそうになるところを、カヨコが制す。

    カヨコ:
    「ラーメンご馳走様。
    ・・・それで、依頼の話は?」

    アル:
    「あっ、そうだったわね。」

    アルが佇まいを直した。
    気分は完全に外食だった。

    カヤ:
    「・・・柴さん。」

    柴大将:
    「いや、いい。 ここで聞くさ。」

    カヤ:
    「そうですか。」

    カヤが柴大将に目配せをしたが、結局 柴大将は その場に留まった。

  • 33ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:00:19

    カヤ:
    「─── では」

    カヤの背後から、見慣れない竜の尾が這い上がってきた。
    咄嗟にハルカが撃とうとするのを、カヨコが また制した。

    場に、異様な緊張感が張り詰め始める。
    それは日常に怪異が出現した感覚に似ていた。

    カヤ:
    「便利屋68の皆様を、傭兵として雇いたいのです。 報酬は・・・この額で如何でしょう?」

    そう言って、カヤは足元から金属製のケースバックを取り出した。
    鍵を開け、中を開くと、そこには夥しい量の現金が入っていた。

    カヨコの額に冷や汗が垂れる。
    これは真っ当な依頼ではないと容易に想像がついた。

    カヨコ:
    「社長 ───」

    アル:
    「・・・」

    今度はアルがカヨコを手で制した。
    いつになく真剣な表情をしている。

  • 34ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:01:57

    アル:
    「カヤさん、貴方とは良いビジネスパートナーであるつもりよ?
    多少 危険な依頼でも受けるつもりはあるわ。
    だから、その お金は一旦しまって頂戴。
    まずは話を聞いてから・・・ね?」

    諭すような声色だった。
    カヤが観念したような顔をする。

    カヤ:
    「・・・貴方には敵いませんね、アルさん。
    いいでしょう、正直に お話しいたします。」

    カヤは屋台のテーブルに前のめりに もたれ掛かると、少女が秘密をそっと打ち明けるように依頼の内容を語り始めた。

    カヤ:
    「実は・・・学園を一つ奪ろうと思いまして。」

    アル:
    「はっ?」

  • 35ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:04:14

    カヤ:
    「それで、今から単身で向かうのですけど、あなた方に援護を頼みたいのです。」

    アル:
    「はい?」

    カヤ:
    「それで、作戦の詳細なのですが・・・───」

    カヨコ:
    「社長・・・。」

    アル:
    「え、ちょっと待って? 私の聞き間違いかしら、ちょっと───」

    アビドスの郊外に、悲鳴に似た声が響いた。

    ────────────────────

  • 36ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:08:07

    カヤ:
    「─── まさか、受けて頂けるとは思っていませんでした。
    あの方達のプロ意識には頭が下がります。」

    柴大将:
    「それだけで動く子達じゃないと思うけどな。」

    屋台の片付けをしながら、柴大将が言った。
    カヤも、間借りした分や自分の調理器具を片付けている。

    カヤ:
    「そうですか?
    しかし ともあれ、これで勝負は分からなくなってきました。」

    柴大将:
    「・・・本当に行くのか?」

    カヤ:
    「えぇ、『今の私』は そういう生き物ですから。」

    柴大将:
    「・・・そうかい。」

  • 37ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:09:14

    再びの沈黙。
    カチャカチャと片付けをする音だけが夜闇に響く。
    ブゥン・・・と、どこかの電灯が鈍い音を鳴らした。

    柴大将:
    「・・・また、来いよ。
    今度は もっとジックリ、お前のラーメンの仕込み方を見てやるから。」

    カヤ:
    「・・・本当ですか? それは・・・嬉しいです。
    できれば、貴方の記憶にある『不知火カヤ』にも そうしてくれると嬉しいのですが・・・。」

    柴大将:
    「勿論だ。 ・・・今度こそ、ちゃんと向き合うさ。」

    カヤ:
    「ありがとうございます。」

    柴大将:
    「─── だから、また『お前』も来な。 ・・・待ってるから。」

    カヤが一瞬手を止めた。
    しかし再び直ぐに片付けを再開し始める。
    それ以降、二人の間に会話は無かった。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 38ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:12:40

    カヤ:
    「柴さん。」

    柴大将:
    「どうした、『カヤ』。」

    全ての片付けが終わり、柴大将は屋台を引いて、カヤは いつもの黒装束に身を包んで それぞれの道を行こうとする その瞬間、カヤは柴大将のことを呼んだ。
    柴大将も、カヤのことを呼んだ。

    カヤ:
    「ありがとう。」

    柴大将:
    「・・・あぁ。」

    初めて見る、『今のカヤ』としての子供らしい顔だった。
    しかしそれも、直ぐに黒い仮面で覆い尽くされてしまう。

  • 39ホットドリンク大好き25/07/27(日) 00:15:13

    カヤ:
    「─── また お会いしましょう。」

    柴大将:
    「そうだな。 ・・・また。」

    次が無いだろうことは、お互い分かっていた。
    分かっていたからこそ、後悔が無いように語り合えた。

    カヤは言った。
    力を得る為に、代償を支払い過ぎたのだと。
    もう、時間が無いのだと。

    ───── 最後の機会に、貴方と分かり合えて、本当に良かった。

    ────────────────────

  • 40二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 09:33:24

    生きて

  • 41ホットドリンク大好き25/07/27(日) 18:26:05

    保守

  • 42ホットドリンク大好き25/07/28(月) 00:36:27

    ────────────────────

    ───── (破壊音)

    トリニティ生徒A:
    「な、なんだ!?」

    トリニティ生徒B:
    「また敵対派閥連中の攻撃か!??」

    トリニティ生徒C:
    「確認とれました! 聖園ミカと不審な生徒が現在交戦中とのこと!!」

    トリニティ生徒A:
    「は? 派閥同士の交戦じゃないのか??」

    トリニティ生徒C:
    「情報によりますと───」

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 43ホットドリンク大好き25/07/28(月) 00:38:18

    ───── (壁が爆ぜる音)

    ミカ:
    「っ!」

    ウェルギリア:
    「ハハッ!」

    ───── (銃撃音)

    ウェルギリア:
    「・・・チッ」

    ミカ:
    「・・・ふぅ、ようやく追い詰めたよ」

    ウェルギリアが、壁に もたれ掛かる。
    ミカは油断することなく軽機関銃を向けていた。

    ウェルギリア:
    「あ~ぁ、負けちまった。
    やっぱり お前、チートだよ。」

    ミカ:
    「負け惜しみ? そういうの要らないから、セイアちゃんを返してくれないかな。
    ・・・まだ話さなきゃいけないことが沢山あるの。」

    ミカとウェルギリアは、数秒、睨み合った。
    やがてウェルギリアが嗤った。

  • 44ホットドリンク大好き25/07/28(月) 00:40:17

    ウェルギリア:
    「・・・いいぜ、『私達』に勝てたらな。」

    ミカ:
    「!?」

    ウェルギリアは逃げるように影に溶けて消えた。

    ミカ:
    「どこに・・・───」

    ???:
    「はぁ!? ナギサ様が攫われた!?」

    消えたウェルギリアを探していると、不意に誰かの声が聞こえた。

  • 45ホットドリンク大好き25/07/28(月) 00:42:20

    トリニティ生徒A:
    「そう! さっきアリウスから宣戦布告があって、その時に───」

    ミカ:
    「─── ねぇ。」

    トリニティ生徒B:
    「ひっ!」

    暗がりから現われたミカに気づき、その尋常ではない気迫に その場にいたトリニティ生徒は一様に固まった。
    捕まっているはずの彼女が外を出歩いているということを糾弾する者は誰もいなかった。
    そんなことを指摘すれば、何をされるか分かったものではなかったからだ。
    それだけ、危うい雰囲気を漂わせていた。

    ミカ:
    「その話・・・詳しく聞かせてくれない??」

    ────────────────────

  • 46ホットドリンク大好き25/07/28(月) 00:44:58

    ウェルギリア:
    「─── うぇ・・・『吐く』かと思った。」

    ウェルギリアはベアトリーチェの居室に跳んでいた。
    血を拭き取って傷の手当をしながら、軽く口元を抑える。

    今、『吐く』わけにはいかなかった。
    ただでさえ力が足りていないのだ。
    もっと喰べなければならない。

    ベアトリーチェ:
    「─── 大見得切った割には、みっともない幕引きでしたね。」

    少し手空きになったらしいベアトリーチェが、ウェルギリアに対して馬鹿にしたような言葉を口にした。
    ウェルギリアは憎々しげにベアトリーチェを睨み付ける。

    ヴェルギリア:
    「黙れ、クソババア。
    私が身体張ったからこそ、桐藤ナギサに手を伸ばせたことを忘れんなよ。」

    ベアトリーチェの横には、眠っている桐藤ナギサが倒れていた。

  • 47ホットドリンク大好き25/07/28(月) 00:46:28

    ベアトリーチェ:
    「えぇ、その点については感謝しましょう。
    つい先ほど、アリウスの名前で宣戦布告も完了しました。
    あちらに大義名分を提供した形になります。
    これで十中八九、こちらの招待に応じて頂けるでしょう。」

    ベアトリーチェは足元のナギサを睥睨した。

    ベアトリーチェ:
    「『治癒の大天使』・・・桐藤ナギサの収容は貴方に任せましょう。
    ・・・【人物は その位に応じた敬意を払われるべき】、でしたか?
    現実の地位とも違うようですが、貴方には そういう無駄な拘りがありましたね。」

    ウェルギリア:
    「あぁ、その点で言えば お前は最低だな。」

    ウェルギリアの首がチョーカーによって絞まる。

    ベアトリーチェ:
    「口を慎みなさい。
    私は”賓客を持て成す準備”がありますから、そちらは好きにすることですね。」

    それだけ言うと、ベアトリーチェは再び作業に戻っていった。

  • 48ホットドリンク大好き25/07/28(月) 00:48:00

    ウェルギリア:
    「・・・相変わらず品位は低いクセに、プライドだけは高いなぁ。」

    ウェルギリアは首のチョーカーを軽く緩めるような所作をした後、倒れ込んでいるナギサを丁寧に抱えた。

    ウェルギリア:
    「その点、お前は良いな。
    大切な お友達の為なら、自らの権威すら投げ捨てられる高い品位がある。
    ・・・うん、クソババアの糧にするのは勿体ないな。」

    薄明かりの廊下に、コツコツとウェルギリアの靴音が響く。

    ウェルギリア:
    「そうだ、お前もアツコと同じように【色彩】の贄にしよう。
    どうだ? 嬉しいか?? お前は神に捧げられるんだぞ?」

    眠ったままのナギサに独り笑いかける。
    ウェルギリアにとって、誰かを【色彩】の贄とすることは最高の敬意だった。

    ────────────────────

  • 49二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 07:13:58

    保守

  • 50二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 15:00:49

    保守

  • 51二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 21:00:50

    保守

  • 52ホットドリンク大好き25/07/28(月) 22:55:04

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    ベアトリーチェ:
    「・・・ふむ。
    まずは私のテクスチャを流用したモデルを生成するつもりでしたが、これは・・・」

    ベアトリーチェは目の前に並んだ培養液の水槽の列を眺める。
    その内の一つに手をついて詳しく検分した。

    ベアトリーチェ:
    「─── 失敗ですか。
    神聖に対して人格(キャラクタ)が上手く定着していないようですね。」

    ベアトリーチェは いくら待っても動き出すことのない肉人形を廃棄した。
    他のモデルも確認したが、全て人格を得るには至らなかった。

    ベアトリーチェ:
    「全く、何が気に入らないというのでしょう。
    ただのマイナスエネルギーの塊の分際で。」

    ベアトリーチェは古に封印され、そのまま忘れ去られた信仰を受肉させようと試みていた。
    ベアトリーチェが思う多くの無駄な神話は削除されたが、それでも力は並の神聖より ずっと上だし特殊だ。
    これが受肉すれば、かなり使い勝手の良い生徒が出来上がるはずだった。

  • 53ホットドリンク大好き25/07/28(月) 22:57:38

    ベアトリーチェ:
    「・・・やはり あの木人形に技術提供を依頼するべきでしょうか。」

    ゲマトリアの同志として紹介された協力者に頼めば、幾らかの対価とは引換えになるだろうが、研究に用いるかなりの資材と時間の節約になるはずだった。
    しかし、それは相手の技術力の高さを認めるようで、どうも業腹だった。
    特に、あの木人形(たしかマエストロとか巫山戯た自称をしていたか)とは どうも相性が悪い。
    何やら美学とか理念とか面倒臭いことを技術に求めてくるのである。
    技術を人間から完全に切り離された、一種の仮想ツールだと考えているベアトリーチェとは相反するものがあった。

    ベアトリーチェ:
    「・・・いえ、やはり技術を他者に依存するのは問題があります。
    ここは多少ムダなことをしてでも、自らの技術ツリーを育てるべきでしょう。」

    そう、あの腹立たしい木偶人形に依頼するのは、本当に研究が行き詰まったか、今すぐ関連技術が欲しいときだけにすればいいのだ。
    そう考え、ベアトリーチェは自らにとって屈辱的であるマエストロへの技術供与依頼から逃げることにした。

    ・・・それは後から思えば、決定的な過ちだった。
    ここで素直にプライドを捨ててでもマエストロの協力を仰げば、忌まわしい研究成果を生まずに済んだのだ。

    ベアトリーチェ:
    「ふむ、兵器として運用する為に人格から人間性を限界まで削っているのがエラーの原因かもしれません。
    ここは、私の人格データを移植してみましょう。 新規から生成しても良いですが、あるものは使うべきですからね。」

    ベアトリーチェは、この日の この決定を人生最大の汚点としている。
    この時の自分は、自分と似た人格が存在していることが どれだけ精神を掻き乱すか分かっていなかったのだ。

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  • 54二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 07:18:50

    保守

  • 55二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 15:00:48

    保守

  • 56二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 21:00:43

    保守

  • 57ホットドリンク大好き25/07/29(火) 23:24:21

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    ベアトリーチェ:
    「─── 次はない。 ・・・そういったはずですね?」

    ヴェルギリア:
    「・・・」

    ボロボロになったヴェルギリアがベアトリーチェの手によって引き摺られる。
    ヴェルギリアの顔に覇気はなく、どこか虚ろな諦観を宿していた。

    ベアトリーチェ:
    「・・・最後に もう一度 聞いておきましょう。
    ─── 私に服従しなさい。
    二度と命令に逆らわないというのであれば、今回の件は不問にしましょう。」

    ヴェルギリア:
    「・・・」

    底冷えするような語気で脅すベアトリーチェだったが、ヴェルギリアは虚ろな瞳で見つめ返すだけだった。

    ベアトリーチェ:
    「そうですか。
    それであれば望み通り、ゴミとして朽ちていきなさい。」

    ベアトリーチェはガラクタの山にヴェルギリアを、壊れた人形のように投げ捨てた。

    ベアトリーチェ:
    「全く・・・貴方は とんだ失敗作ですよ。」

  • 58ホットドリンク大好き25/07/29(火) 23:25:49

    ヴェルギリア:
    「・・・」

    ヴェルギリアの表情は動かない。
    何かを期待するように暫くヴェルギリアを睨み付けていたベアトリーチェだったが、遂に望むような答えが得られないと知ると、溜息を零して踵を返していった。

    ヴェルギリア:
    「・・・」

    虚ろな目で、暫く死んだように倒れていたヴェルギリアだったが、やがて のっそりと起き上がった。
    そして、手近な位置に鋭利なガラクタがあるのを見つけると、それで自らの身体を痛めつけ始めた。

    血が、吹き出る。
    それをヴェルギリアは やはり虚ろな目で眺めていた。

    手首を、何度も何度も切り裂く。

    やがて痛みに慣れた頃、今度は首に刃を立て始めた。
    やはり、血が出る。

    しかし、死ぬには足らなかった。
    何度も何度も刃を立てる。

  • 59ホットドリンク大好き25/07/29(火) 23:29:44

    やがて、ここまで切れば死ぬというところまで行った。
    躊躇は無かった。
    これで決して満たされない世界から解放されると思った。

    そうして生温かい血肉の中に刃物を突っ込み ───

    ???:
    「・・・」

    誰かに止められた。
    見れば、黒い仮面を被った少女がヴェルギリアの手を掴んでいた。
    強い力だった。

    ヴェルギリア:
    「・・・離せよ」

    ???:
    「・・・(首を振る)」

    暫く睨み合っていた二人だったが、やがてヴェルギリアの方が失血で意識を失った。
    仮面を被った少女が、意識を失ったヴェルギリアを抱き上げる。

    ヴェルギリアとアツコの、最初の出会いだった。

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  • 60ホットドリンク大好き25/07/30(水) 08:51:54

    保守

  • 61二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 15:00:42

    保守

  • 62二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 21:00:48

    保守

  • 63ホットドリンク大好き25/07/30(水) 23:24:42

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    ヴェルギリア:
    「・・・」

    目が覚めると、白いベットの上だった。
    それは確か、少し前にベアトリーチェが搬入させた物だったはずだ。
    そう、あれは確か・・・───

    アツコ:
    「・・・目が、覚めた?」

    聞き覚えの無い声が聞こえた。
    声のした方を向くと、見知らぬ少女がベットの側に設けられた椅子に座っていた。

    近くのテーブルに、救急キットが置かれている。
    使用した後があった。

    ヴェルギリア:
    「・・・余計なことしやがって。」

    何だが『貸し』を作ったようで、無性に腹が立った。

  • 64ホットドリンク大好き25/07/30(水) 23:26:55

    アツコ:
    「私が勝手にしたこと。 だから、気にしないで。」

    ヴェルギリア:
    「嫌味か?」

    アツコ:
    「嫌味? 私は本当のことを口にしているだけ。」

    ヴェルギリア:
    「・・・」

    全く相手にされていない、とヴェルギリアは感じた。
    悪意が分からないほどバカなのか、あるいは器が計り知れないほど大きいのか。
    なんとなく、ヴェルギリアは後者のように感じた。

    ヴェルギリア:
    「誰だ、お前? こんなことして何がしてぇんだ?」

    アツコ:
    「別に。
    助けるべきだと思ったから、助けただけ。
    ・・・それに、私は貴方に会ったことがある。」

  • 65ホットドリンク大好き25/07/30(水) 23:27:55

    ヴェルギリア:
    「は? お前みたいなヤツ知らねぇぞ??」

    アツコ:
    「そうだね。 抑えるべき人形の顔は、知らなくても良いかもしれない。」

    ヴェルギリア:
    「人形・・・あぁ、お前アリウスのロイヤルブラッドか。」

    言われてみれば、どこかで見たような気がしないでもなくなってきた。
    確かに、彼女とはアリウスを実効支配する過程で何度も顔を合わせたはずだった。
    しかしヴェルギリアの中でアリウスのロイヤルブラッドは物扱いだった為、顔や容姿は全く覚えていなかったのだ。

    ヴェルギリア:
    「それなら、分かるな。
    お前からアリウスの生徒会長の座を奪ったのは、私とクソババアだ。
    死にたがった私に生き地獄を味合わせるのは、理に適っているぜ。」

    アツコ:
    「? よく分からない。
    貴方は生きていることが嫌なの?」

    ヴェルギリア:
    「あぁ、すっげぇ嫌だ。
    だってずっと腹が減ってるんだぜ?
    それも、苦しいくらい強烈に。
    それでいて、何をしても満たされねぇんだ。」

  • 66ホットドリンク大好き25/07/30(水) 23:30:32

    アツコ:
    「お腹一杯ごはんを食べても?」

    ヴェルギリア:
    「そう。
    ずっと、ずっと腹が減ってるんだ。
    腹が減って、腹が減って、イライラするんだ。
    だから、死にてぇ。
    死んで、何も感じなくなりてぇんだ。」

    アツコ:
    「それは、今もずっと?」

    ヴェルギリア:
    「そう ─── ・・・?
    ・・・・・・・・・あれ?
    なんか ちょっとポカポカしてる。
    ・・・あれ、なんでだ??」

    アツコ:
    「・・・?」

    二人は首を傾げた。
    ヴェルギリアは ここで初めて、目の前のロイヤルブラッドの名前を知りたいと思った。

  • 67ホットドリンク大好き25/07/30(水) 23:32:16

    ヴェルギリア:
    「そういや お前、名前は?」

    アツコ:
    「アツコ。 私の名前は秤アツコ。」

    ヴェルギリア:
    「そっか。
    なぁ、もうちょっと話そうぜ。
    次は お前のことを教えてくれよ。」

    アツコ:
    「私? 私のことを言えばいいの?」

  • 68ホットドリンク大好き25/07/30(水) 23:34:46

    ヴェルギリア:
    「そ、例えば最近どうよ?
    私は この通りクソッタレなワケなんだが。」

    アツコ:
    「別に良くも悪くもない。
    ・・・強いて言えば、最近 仲良くしてくれる子達がいる。
    一緒に訓練を受けることに、なった。」

    ヴェルギリア:
    「へぇ、いいじゃん。
    私が直々に遊んでやろうかなぁ。」

    アツコ:
    「(嫌そうな顔)」

    ヴェルギリア:
    「ハハッ、何だその顔! ハハハッ!!」

    その調子で小一時間 二人は話し続けた。
    ヴェルギリアにとって、生きていて初めて楽しいと思える時間だった。

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  • 69二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 08:25:01

    保守

  • 70二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 15:00:46

    保守

  • 71二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 21:00:47

    保守

  • 72ホットドリンク大好き25/08/01(金) 00:53:16

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    ヴェルギリア:
    「─── で、最近どうよ?」

    アツコ:
    「・・・あんまり、良くないかもしれない。 サッちゃんが、隠し事をしてる。」

    ヴェルギリア:
    「・・・」

    何だか、痴話喧嘩の愚痴を聞いている気分になった。

    ヴェルギリア:
    「ホラよ。」

    アツコ:
    「うん。」

    ヴェルギリアは粗野な言葉遣いとは裏腹に、専門の教育を受けた侍女顔負けの丁寧な所作でアツコのティーカップに紅茶を注いだ。
    ゴスロリのドレスと相まって、アツコのメイドに見えなくもない。

  • 73ホットドリンク大好き25/08/01(金) 00:54:22

    ここ数年、二人は こうして紅茶を楽しむ時間を設けていた。
    訓練と称して嗜虐的な趣味を満たすことを覚えたヴェルギリアも、このときばかりはアツコと争うことは止めていた。
    アツコが幾らか茶菓子を持ち帰って、彼女が家族と呼ぶアリウススクワッドと楽しむことにも目を瞑っていた。

    全ては、アツコとの対話が何よりも有意義である為だった。

    その中で、ヴェルギリアは自然とアツコに給仕するようになっていった。
    生まれから給仕されることが自然だったアツコも、それを平然と受け入れた。

    ヴェルギリアにとってそれは、自分とアツコの器の大きさの差から言って当然のことだった。
    自分の器がどれだけ矮小で、アツコの器が どれだけ大きいかを、きっとアツコ本人より良く知っている。
    そもそも器が小さくなければ、器という言葉自体意識することはないだろう。

    アツコは ここ最近、人形から人に成りつつあった。
    それはベアトリーチェにとっては不都合な変化で、ヴェルギリアにとっては良い変化だった。
    アツコの器が、天子の器から王の器になっていく。
    ヴェルギリアにはそれが、何よりも輝かしいものに見えた。

  • 74ホットドリンク大好き25/08/01(金) 00:56:21

    アツコ:
    「・・・そうだ、前から聞いてみたかったことがある。」

    ヴェルギリア:
    「あ? 何?」

    ヴェルギリアは自分のティーカップに紅茶を注ぐと、やはり乱暴な言動とは裏腹に丁寧な所作で席についた。

    アツコ:
    「今でも、貴方は死にたい?」

    ヴェルギリア:
    「あぁ、死にてぇ。」

    ヴェルギリアは即答した。

    アツコ:
    「どうして? 今の貴方は、昔と違って充実しているように見える。」

    ヴェルギリア:
    「あー・・・飢えの紛らわし方は、覚えたからな。
    でも、やっぱり死には惹かれる。」

    飢えは、嗜虐趣味から得る優越感で誤魔化せる。
    しかし、死への羨望は強まる一方だった。

  • 75ホットドリンク大好き25/08/01(金) 00:57:40

    アツコ:
    「それは・・・やっぱり この世界を地獄だと思うから?」

    アツコの言葉に、ヴェルギリアは少し考え込む。
    難しい問いだった。
    アツコの言葉は いつも、少ないながらも本質を突いたものが多い。

    ヴェルギリア:
    「・・・昔は、そうだったな。
    でも今は、一種の舞台だと思えてきた。
    『結末は決まっていて』それ中で足掻く『虚しい世界』・・・クソババアの言葉を借りるなら、だが。」

    アツコ:
    「・・・」

    アツコは どこか、無知なりにベアトリーチェの欺瞞に気付いているところがあった。
    なんというか、理解力が高いのだ。

    アリウスの生徒が復唱している聖句、世界の虚しさを語るソレの本来の意味を、ヴェルギリアは知っていた。
    正に金言だと思う。
    あれだけ支配下の生徒に復唱させているベアトリーチェ自身が一番噛み締めるべき言葉だと思える辺りが、最高に皮肉が効いてて、初めて知ったときは爆笑したものだ。

    それを笑えると思っているからこそ、言葉の端々に真実が滲み出ていたのかもしれない。
    しかし、ヴェルギリアは敢えて それを是正しようとは思わなかった。
    欺瞞に踊らされるアリウス生徒を見ているのは最高の娯楽だが、真実に苦悩する生徒を見るのは もっと最高だからだ。

  • 76ホットドリンク大好き25/08/01(金) 00:59:21

    ヴェルギリア:
    「『結末は決まっている』・・・そこを足掻くと、無様な役を演じることになる。
    大事なのは結末自体ではなく、結末までの過程をどう演じるかということ。
    それなら私は、誰もが恐れる【大悪党(ヴィラン)】を演じたい。」

    アツコ:
    「・・・その為に、皆を〇すの?」

    ヴェルギリアは嗤った。

    ヴェルギリア:
    「あぁ、敬意を払っているからこそ〇す。
    お前の家族は一人を除いて最高だからな。
    どいつもこいつも真性の善人ばかりで握り潰したくなる。」

    それはヴェルギリアの本質に近い感情だった。
    敬意を払っているからこそ、自分自身が手を下すべきだと考えている。
    戦場で死んでこそ、戦った人間は永遠に輝くのだと信じてるからだ。

    アツコ:
    「─── ミサキは貴方の言うような子じゃないよ。」

    アツコはヴェルギリアが敢えて言及しなかった生徒に触れた。
    それは、ヴェルギリアが本当に嫌いな生徒の名前だった。

  • 77ホットドリンク大好き25/08/01(金) 01:00:41

    ヴェルギリア:
    「・・・お前ともあろう者が、目ぇ腐ってんのか?
    あれは、どう見ても偽善者だ。
    ただ苦痛から逃げる為に、死のうとしている。」

    ミサキを知って初めて、ベアトリーチェが自分を嫌悪する理由を理解することが出来た気すらした。
    自分と似たような思考回路をしている人間を見るのは、思いの外 虫唾が走った。
    アリウスでは別に珍しくもない厭世気質だが、ミサキの場合ヴェルギリアが敬意を払えるような人間に囲まれていることもあって一層目障りだった。

    アツコは言わずもがなだが、サオリの責任感の強さ、ヒヨリの いざという時に出る善性、アズサの信念・・・アリウススクワッドは、ヴェルギリアにとってミューズの塊だったのだ。
    その中に、かつての自分を思い起こさせる者が混じっている。
    回顧という意味では、確かにミサキもヴェルギリアにとってのミューズだったかもしれない。
    しかしそれは、極めて不快なミューズだった。

    アツコ:
    「違うよ。 ミサキは誰よりも優しい子。」

    アツコはヴェルギリアの思考を読んだのか、笑って否定した。
    朗らかな、優しい笑みだった。
    なんだかそれが馬鹿にされているように感じられて、反射的にヴェルギリアは喧嘩腰になった。

  • 78ホットドリンク大好き25/08/01(金) 01:03:16

    ヴェルギリア:
    「あ? 優しい奴が真っ先に死のうとするかよ。
    本当に優しい善人ってのは、サオリみてぇに率先して嫌われに行くようなヤツの事を言うんだよ。」

    言葉で殴り返すつもりが、何だか逆にアツコが一番喜びそうな言葉を口にしてしまったような気がする。
    そしてやはり、ヴェルギリアの悪意はアツコに相手にされなかった。

    アツコ:
    「そうだね。
    でも、貴方にも いつか分かる。
    ミサキは今、ただ自分に自信がないだけだってことが。」

    ヴェルギリア:
    「・・・ふぅん。」

    興味は無かった。
    考えるだけ、ストレスだった。
    しかし自分に最高のインスピレーションを与えてくれたミューズが言うのだから、きっと何か自分が理解していないことがあるのだとは思えた。

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  • 79二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 08:45:57

    保守

  • 80二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 15:00:48

    保守

  • 81二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 21:00:44

    保守

  • 82ホットドリンク大好き25/08/02(土) 02:05:59

    ────────────────────

    アル:
    「─── それで・・・そのアリウス? っていうところには どうやって行くの?」

    カヤ:
    「おや、気になりますか。 アルさん。」

    ヘリに乗っていた。
    トリニティ自治区に差し掛かった頃、そんな話が出た。
    それまでは野草関係の豆知識で盛り上がっていた。

    カヤ:
    「このままヘリで行く・・・そう申し上げたいところですが、アリウスのある地帯は少々特殊でして。
    トリニティ自治区の地下に張り巡らされたカタコンベからしか侵入できないのですよ。」

    カヨコ:
    「じゃあ・・・一度降りて地下へ?」

    カヤ:
    「えぇ、その通りです。
    一度ヘリを降りて地下に潜ります。」

  • 83ホットドリンク大好き25/08/02(土) 02:08:22

    カヨコ:
    「・・・貰った資料によると、カタコンベのルートは一定周期ごとに変化するって書いてあるけど。」

    アル:
    「えっ。」

    カヤ:
    「あぁ、そのことですか。
    それならば問題はありません。」

    カヤは手元の端末を見た。
    そこにはトリニティ自治区の地図が表示され、ヘリ並の速度で動くナニカを示す点があった。

    カヤ:
    「カタコンベのルートパターンは全て把握しているつもりですが、『彼女』も それは理解しています。
    なので、今は特別に組まれた新規のパターンでルートが変化している可能性が高いのです。」

    ムツキ:
    「えー? じゃあ遊びに行けなくない??」

    カヤ:
    「えぇ、だからこそカタコンベのルートを無視してアリウスに辿り着く手段を用意しました。」

  • 84ホットドリンク大好き25/08/02(土) 02:10:48

    ───── (重低音の鳴き声)

    ハルカ:
    「ひっ、なんですか? 敵ですか??」

    ハルカがヘリの外に身を乗り出して銃口を地上に向ける。 しかし そこには鬱蒼とした深山が広がるだけだった。

    カヤ:
    「おや、良い勘をしていますね。
    そうです、『彼ら』は地下を進んでいます。
    そうして、張り巡らされたカタコンベを食い破っているのですよ。」

    カヨコ:
    「・・・巨大なモグラでも用意したの?」

    アルは人の2~3倍は背丈のある、ふっくらとした巨大モグラを思い浮かべた。
    ついでに安全ヘルメットとスコップを持たせてみる。
    ちょっとカワイイ。

    カヤ:
    「近いですね。
    もっとも、あなた方が想像する数倍は悍ましいものですが。」

    カヤはヘリの外に視線を投げる。 その意識は、地下を掘り進む存在に向いていた。

    カヤ:
    「あれは本来もっと地下深くに潜む、旧世界の生き残りです。
    きっと あまりに原始的な神聖なので、悪い大人達ですら その存在を忘れているのではないでしょうか?」

    ────────────────────

  • 85ホットドリンク大好き25/08/02(土) 08:02:05

    保守

  • 86二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 15:01:21

    保守

  • 87ホットドリンク大好き25/08/02(土) 23:09:43

    ────────────────────

    ヴィルトゥオーソ:
    「考え直してはくれないかい?」

    ツルギ:
    「・・・」

    誰も余人のいない正義実現委員会の執務室で、二人は密会していた。
    ヴィルトゥオーソの表情に余裕はなく、ツルギは険しい沈黙を保っていた。

    ヴィルトゥオーソ:
    「君なら、今のトリニティを押し留められる。
    分かっているはずだ、ツルギ。 このままいけば、トリニティは崩壊する。」

    ツルギ:
    「・・・トリニティを捨てた お前が言うのか?」

    ヴィルトゥオーソ:
    「必要なことだったんだよ。 それは これも同じだ。」

    ツルギ:
    「・・・」

    相変わらず、理詰めで物を考え過ぎる奴だとツルギは思った。
    こちらの感情を、一切考慮していない。
    もっとも、昔よりは幾らかデリカシーというものを覚えたようだが。

  • 88ホットドリンク大好き25/08/02(土) 23:10:53

    ツルギ:
    「お前の、考えは分かる。 ・・・だが、私は それを受け入れられない。」

    ヴィルトゥオーソ:
    「・・・なぜだい?」

    ツルギは殺気立った表情でヴィルトゥオーソを睨み付けた。
    そこにはトリニティ最強たる威厳があった。

    ツルギ:
    「─── 後輩を拐かされ、親友を傷付けられた。」

    ヴィルトゥオーソ:
    「だから、それは私が ───」

    ───── (銃声)

    『補償する』、そう言いかけて頬を散弾が掠めた。
    幾らか化けのテクスチャが剥がれて、中身の金属が見えた。

  • 89ホットドリンク大好き25/08/02(土) 23:14:02

    ツルギ:
    「そういう問題では、ない。
    ・・・分かるだろう、お前であれば。」

    ヴィルトゥオーソは苦々しい顔をした。

    ツルギ:
    「ここまでされて何もしないのは、問題がある。
    私 個人の感情を排しても、『最強』が臆したとなれば 今は それだけでトリニティの崩壊を招くだろう。」

    ツルギは手元から幾らかの書類をヴィルトゥオーソに投げ渡した。
    それは危機的な、裏工作の跡だった。

    ヴィルトゥオーソ:
    「・・・各派閥の、独立支援。」

    ツルギ:
    「そうだ。
    様々なルートを通っているが、全てアリウスからの工作だろう。
    あまりに露骨だが、そこまで深く見通せる人間は悲しいほど少ない。」

    首長の叛乱により肩身の狭いパテル分派が最も活発に独立に向けて動き、長らく首長が不在の状態が続くサンクトゥス分派は纏まりに欠け日和見、逆に最近まで首長自ら主導していたフィリウス分派が最も各派閥の独立を止めようとしていた。
    しかしその圧力も、その首長 ─── 桐藤ナギサがアリウスの手に掛かってしまったことによって弱まっている。

  • 90ホットドリンク大好き25/08/02(土) 23:17:01

    ここでトリニティを繋ぎ止めているのが、トリニティ最強たる剣先ツルギに対する恐怖だった。
    蒼森ミネの救護騎士団や、歌住サクラコのシスターフッドもトリニティの維持に動いてはいるが、両派閥の独断専行による不信感が募っており上手く連携がとれず、ツルギほどの圧力を持てていないのが現状だった。

    ─── つまり、今 ツルギは挑発に乗らなくてはならない状況にある。

    ツルギ:
    「後手に回ったな、お互いに。」

    ヴィルトゥオーソ:
    「・・・」

    理詰めでは、もうチェックメイトの段階にあった。
    トリニティはアリウスという共通の敵と戦う・戦ったという名目が無ければ、崩壊を防げないところまで来ている。
    数百年続いた結束が、昨日今日で滅びようとしていた。
    そしてそれは、何としても防がなければならなかった。

    ─── 戦争は、止められない。
    アリウスからの宣戦布告(しょうたい)が罠だと分かっていても、進む以外の選択肢がないのだ。

  • 91ホットドリンク大好き25/08/02(土) 23:19:55

    ツルギ:
    「・・・アリウスか。
    歴史の闇に葬られた旧い隣人と、もう一度 争うことになるとはな。」

    ヴィルトゥオーソ:
    「歴史の皮肉だね、旧き友よ。
    このまま いけば、今度 負けるのはトリニティだよ。
    ・・・いや、それ以前に私と争うことになる。
    捨てたとはいえ、母校が散り散りになるのは認めがたいからね。」

    ツルギ:
    「・・・好きにしろ。 私も、好きにする。」

    ツルギは もう片方の手にも散弾銃を握った。
    もう、内に渦巻く黒い怒りを抑えるのは限界に達していた。

    ─── ツルギは、最初から例え一人でもアリウスから全てを取り戻す気だった。
    後輩も、親友の仇も、自らの誇りも。

  • 92ホットドリンク大好き25/08/02(土) 23:21:34

    ヴィルトゥオーソ:
    「そうかい。
    なら、次は戦場で会おう。
    ─── 『一歩 間違えれば』トリニティを滅ぼし得た力、君に見せてあげるよ。」

    ヴィルトゥオーソは画像から画素が抜けていくようにして、その場から消えた。
    後には、最初から誰もいなかったかのように何も残らなかった。

    ───── (扉が開く音)

    正義実現委員A:
    「失礼 ─── あれ? お客様がいらしていたのでは?」

    ツルギ:
    「もう、帰った。
    それより用件は?」

    正義実現委員A:
    「え? でも誰も出てないって・・・。  ・・・まぁいいか。
    ハスミ先輩が意識を取り戻しました。 ツルギ委員長を お呼びです。」

    ツルギ:
    「あぁ、今行く。」

    長い仲だが、意見が一致するということは そんなになかった気がする。
    それが悪いということはなく、むしろ互いに弱いところを補い合ってきた。

    しかし、今。
    互いの意見は間違い無く一致しているという確信があった。
    ────────────────────

  • 93二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 06:00:42

    保守

  • 94二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 12:00:41

    保守

  • 95二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 18:00:42

    保守

  • 96二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 23:52:32

    保守

  • 97ホットドリンク大好き25/08/04(月) 00:30:09

    ────────────────────

    ミサキ:
    「・・・」

    アズサ:
    「・・・」

    気まずい、空気が流れていた。

    ヒフミ:
    「せ、先生。 何か場を盛り上げるようなことをした方が良いでしょうか・・・??」

    ”・・・うん、落ち着いてヒフミ。 もう少し様子を見よう?”

    トリニティの郊外に位置する廃墟で、二人は顔を突き合せていた。
    先生とヒフミ達は少し離れたところから様子を伺っている。

    ミサキ:
    「・・・帰る。」

    ヒフミ:
    「帰っちゃいますよ!? やっぱり私 ───」

    アズサ:
    「─── 待って。」

    ヒフミが出るよりも早く、アズサがミサキを呼び止めていた。
    その手は、確かにミサキの手を掴んでいる。

  • 98ホットドリンク大好き25/08/04(月) 00:32:07

    ミサキ:
    「・・・離して、欲しい。 やっぱり私が、貴方に会うべきじゃなかった。」

    アズサ:
    「そんなことは どうだっていい。
    ・・・酷い熱があるんだろう?
    私が見ているから、少し休むといい。」

    ミサキ:
    「熱があるから、何?
    私は死んでも休むべきじゃない。
    それだけのことをした。 ・・・貴方も知っているはず。」

    アズサ:
    「・・・」

    アズサは何でも無いようにミサキの後ろに回ると、そのまま首を絞めに掛かった。

  • 99ホットドリンク大好き25/08/04(月) 00:33:48

    ミサキ:
    「─── ぐっ! 何、を・・・。」

    アズサ:
    「大丈夫、意識を落とすだけだよ。
    安心して落ちるといい。」

    ミサキ:
    「私・・・私は・・・っ!」

    アズサ:
    「こんなに簡単に背後をとらせるなんて、いつものミサキでは考えられない。
    随分 判断能力が鈍っている。
    ・・・これでは きっと誰も助けられずに無駄死にしてしまう。」

    ミサキ:
    「・・・」

    それを聞いた途端、ミサキは糸が切れたように抵抗をやめた。
    直ぐに猛烈な睡魔が襲い掛かってくる。

    アズサ:
    「30分で、起こす。
    一緒に皆を助けよう。」

    ミサキは ようやく意識を手放した。
    3日ぶりの睡眠だった。

    ────────────────────

  • 100二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 09:00:46

    保守

  • 101二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 15:00:48

    保守

  • 102二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 21:00:49

    保守

  • 103二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 03:00:47

    保守

  • 104ホットドリンク大好き25/08/05(火) 04:01:41

    ────────────────────

    牢獄の中で、シスターフッドの異端『イノクラティア・オクルス(I.O.)』が忙しなく動き回っていた。
    もはや牢の番をしている生徒は おらず、白い修道服の生徒達が堂々と外に出て、大型のドローンから物資のコンテナを受け取っている。

    I.O.のメンバーはコンテナを開放すると、中から機械群を取り出した。
    それを組み上げ、時には牢獄を破壊しながら それらを建物に取り付けていく。

    牢獄は今や、機械仕掛けの要塞になりつつあった。

    そこに、一人の生徒が踏み込む。
    I.O.のメンバーは彼女を目にすると一礼し、決して奥に進むことを咎めることはなかった。

    その場にいる誰も、彼女を止める権限も力も持たなかった。

    やがて彼女は最奥、叛逆の主犯を拘束しておく為の一室に辿り着く。
    その部屋の前には牢の番 ─── ではなくI.O.のメンバーが部屋番として立っていた。
    白い修道服を纏った その部屋番は、彼女の姿を認めると、頭を下げて恭しく扉を開けた。

    人に傅かれることに慣れていた その生徒は、ただ軽く手を振って挨拶をするだけで、何も言わず部屋の中へと入っていく。
    彼女が入ると、部屋の扉が閉じられた。

    部屋の中で、その生徒は一人きりになった。
    彼女自身が、それを望んだのである。
    I.O.は、愚直にその望みを尊重していた。

  • 105ホットドリンク大好き25/08/05(火) 04:05:20

    彼女は部屋の中でソファに座った。
    少しの間、天井を見上げてジッとし続ける。
    しかしやがて、彼女は席を立った。

    ─── やるべきことが、あった。

    牢獄の部屋にも関わらず、I.O.の手によって特別に設けられた金庫に手を伸ばした。
    鍵は、ずっと持っていた。

    ───── ガチャリ

    金庫が開く。
    中から小箱が出てきた。

    生徒は、小箱を手に取ると、その蓋を開く。

    ─── 中には一つの青リンゴが入っていた。
    しかしよく見ると、表皮は水面のように揺れ、淡い光すら放っている。

  • 106ホットドリンク大好き25/08/05(火) 04:09:10

    カヤに手渡されたコレは、『覚悟を決めた時にしか口にしてはならない』と言われていた。
    彼女ですら、口にしたものに どのような変化が訪れるのか予測できない代物である。

    しかし、今は これを口にするべきだった。

    ミカ:
    「私が始めたことだもん。 責任は、私の手で取らなきゃね。」

    生徒 ─── ミカは両の手で青リンゴを口に運んだ。

    ミカ:
    「ナギちゃん、セイアちゃん・・・待ってて。」

    ───── シャリッ

    淡い光を放つ青リンゴが、ミカの口に入った。
    ミカは青リンゴを落として、両手で自らの身体を抑え始める。

    ミカ:
    「例え・・・死んででも・・・絶対、助けるから。」

    ミカの翼に、神秘の炎が灯った。

    ────────────────────

  • 107二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 12:00:55

    保守

  • 108二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 18:00:44

    保守

  • 109二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 00:00:49

    保守

  • 110二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 06:00:45

    保守

  • 111ホットドリンク大好き25/08/06(水) 08:43:43

    ────────────────────

    ヴィルトゥオーソ:
    「やはり、行くのかい?」

    サオリ:
    「あぁ、勿論だ。」

    サオリは自らの得物を分解し、不備がないかどうか点検および整備をしていた。
    こうしている間だけは、一切の不安を忘れて集中することが出来る。

    サオリ:
    「姫・・・アツコが、攫われた。
    私が、先の一件でベアトリーチェを〇すところまで行っていれば、こうはならなかっただろう。」

    ヴィルトゥオーソ:
    「いや、それは我々のミスだ。
    君が気に病むことはない。」

    サオリは得物の整備を終えた。
    試しに薬室に一発の弾丸を入れる。

  • 112ホットドリンク大好き25/08/06(水) 08:46:41

    ───── (銃声)

    銃口から放たれた弾丸は、綺麗な軌道を描いて的に当たった。
    どうやら問題はないようだ。

    サオリ:
    「お前達は・・・約束を守ってくれた。 ・・・それだけで、十分だ。」

    ヴィルトゥオーソ:
    「・・・」

    サオリは外へ ─── アリウスの方角へと向かって歩き出す。
    それを止める者は、誰もいなかった。

    ヴィルトゥオーソ:
    「・・・君、脳だけは守るんだよ。
    他が どれだけ損傷しようと我々は それを直せる技術を持っているが、脳だけは完全に破壊されれば どうしようもないからね。」

    サオリ:
    「・・・ふふっ、善処しよう。」

    サオリは笑顔を隠すようにマスクを付けた。
    その周りには、確かに『憎悪』の黒い霧が立ちこめていた。

    ────────────────────

  • 113二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 15:01:03

    保守

  • 114二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 00:00:44

    保守

  • 115二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 00:01:23

    頭が残っていればってすごい技術

  • 116二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 06:01:17

    保守

  • 117二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 15:01:06

    保守

  • 118ホットドリンク大好き25/08/07(木) 15:02:43

    ────────────────────

    ベアトリーチェは一瞬 明後日の方向を一瞥すると、卓上に無数に散らばったチェス盤に また一つ駒を配置した。

    ベアトリーチェ:
    「・・・ようやく駒が揃いました。」

    ヴェルギリア:
    「あ”ー・・・随分 長かったなぁ。
    クソババアにしては、嫌に慎重だ。」

    ベアトリーチェ:
    「ふん、貴方の減らず口が どこまで続くか見物ですね。」

    ヴェルギリア:
    「お互いにな。」

    ヴェルギリアの獣耳がピクピクと動く。
    次に、ベアトリーチェの目が蠢動した。

    ヴェルギリア:
    「・・・聞こえるなぁ。
    足元から・・・これは、地下か?」

    ベアトリーチェ:
    「地下・・・ふむ、これは。」

    次の瞬間、ヴェルギリアの耳が轟音を、ベアトリーチェの眼が巨大な黒い影を捉えた。

  • 119ホットドリンク大好き25/08/07(木) 15:04:32

    ───── (重低音の咆吼)

    アリウスの地下から、何体もの巨大な生物が現われる。
    それはミミズのようで、しかし遥かにデカかった。

    ヴェルギリア:
    「あぁ、大ミミズか。」

    ベアトリーチェ:
    「正確には『ドール』でしょう。
    もしかして貴方はドールを『クトーニアン』の成体だと思っているタイプですか?」

    ヴェルギリア:
    「細けぇなぁ・・・。
    でっけぇミミズなんだから大ミミズで良いだろ。
    それより、どうする?」

  • 120ホットドリンク大好き25/08/07(木) 15:10:18

    ベアトリーチェ:
    「防衛室が あの旧い害獣を手懐ける技術を確立していたことは驚きですが・・・戦力的には どうということはありません。
    アレに関しては私が対処しましょう。
    貴方は、あの害獣と一緒に入ってきた『お客様方』を おもてなしするように。」

    ヴェルギリア:
    「了~解。」

    ヴェルギリアは影に溶けて消えた。

    ベアトリーチェ:
    「・・・さて、後は時間との勝負ですね。
    不知火カヤ、貴方はトリニティがアリウスの門を潜るまでに私を排除できるでしょうか?」

    『無理でしょうね』。
    そう付け加えようとして、止める。

    ベアトリーチェは、定期的にアリウススクワッドから手痛い しっぺ返しを食らっていたヴェルギリアを通して、敵を侮ると負け筋が太くなることを学んでいた。

    ────────────────────

  • 121二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 23:47:40

    侮ってくれたら楽なんですがね

  • 122二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 06:00:48

    保守

  • 123二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 12:00:48

    保守

  • 124ホットドリンク大好き25/08/08(金) 16:48:36

    ────────────────────

    ───── キィンッ

    瓦礫の山に、幾筋もの光の線が走った。
    次の瞬間、光の線は暖色を帯び始め、やがて沸騰する。

    爆発するように弾けた瓦礫の溶岩の中から、一人の黒い影が姿を現わした。

    カヤ:
    「─── さて、アルさん達は無事に侵入できたでしょうか?」

    紫光の線が入った仮面を被った人影 ─── 不知火カヤは肩に乗った溶岩を手甲で払いのけながら呟いた。
    灼熱の光を放つ溶岩の中から、己の身長ほどもある爬虫類のソレのような尻尾が姿を現わした。

    それは鞭のように纏わり付く溶岩を弾き飛ばす。
    輝く飛沫が偶々 近くの建物の窓に掛かり、ガラスがドロリと溶けた。

    カヤの尾は少し赤熱して陽炎を放っていたが、それはカヤの意に沿って別の生き物のようにうねった。
    カヤは身体の調子を確かめるように、手先を閉じたり開いたりする。

    カヤ:
    「不思議ですね。
    間違い無く死地にいるというのに、普段よりずっと好調です。
    やはり我々は、こういった場所でしか活きられない生物なのでしょうか?
    ─── ねぇ、ヴェルギリア。 聞いているのでしょう?」

  • 125ホットドリンク大好き25/08/08(金) 16:50:08

    観念したかのように、路地裏の影からドロリと人影が滲み出てきた。

    ヴェルギリア:
    「相変わらず、気持ち悪い奴だな。
    影の中にいるのに、何で分かるんだよ。」

    カヤ:
    「おや、これは異な事を。
    我々は永い付き合いではありませんか。」

    ヴェルギリア:
    「・・・」

    先日ヴィルトゥオーソに投げかけた言葉を、図らずも言い返された形になる。
    そして思いの外イラっとしたし、カヤのような人外に言われると気持ち悪い感じもした。
    ナチュラルサイコパス(ヴィルトゥオーソ)ではないが、今『火葬砲』が撃てたなら間違い無く撃っていただろう。

    カヤ:
    「おやおやおやおや・・・どうしたのですか?
    もしや貴方ともあろう方が、旧来の友人である私を歓迎してくれないのですか?」

    カヤが、両手を広げる。
    ヴェルギリアの目には、それが巨大な怪物が鎌首をもたげたように見えた。

  • 126ホットドリンク大好き25/08/08(金) 16:51:33

    ヴェルギリア:
    「・・・これは失礼を。
    アリウス生徒会、その庶務たる このヴェルギリアが、お相手を務めさせて頂きます。」

    ヴェルギリアが優雅に礼をする。
    その間も、片手には しっかりと得物たる大型の散弾銃が握られていた。

    カヤ:
    「・・・」

    ヴェルギリア:
    「・・・」

    先に動いたのはヴェルギリアだった。
    流れるような所作で、神速の早撃ちを見せる。

    その散弾を、カヤは尾で弾き落とした。
    竜の如き尾が、別の生き物のようにカヤの周囲でうねる。

    ヴェルギリアの視界を、炎が埋め尽くした。
    カヤの得物が、竜の息吹の如き勢いで世界を焼く。

    ヴェルギリアは光が生む影に消えることで難を逃れた。
    建物の屋上の影に出る。

    カヤ:
    「─── 今は、どうやら『一人』のようですね。
    もっと自分を増やさなくて良いのですか?」

  • 127ホットドリンク大好き25/08/08(金) 16:52:53

    真後ろから、声が聞こえた。
    振り返ると、影の上から得体の知れない怪異のように覗き込むカヤがいた。
    その背後にはやはり、ユラユラと尾が揺らめいている。

    ヴェルギリア:
    「・・・お前と一緒に入ってきた連中のことは調べてある。
    囮として雇ったんだろうが・・・私もマダムも お前を侮りはしない。
    まずは全力で、お前を抑える。 それが最善手だ。」

    カヤ:
    「なるほど、つまり我々に勝ちの目があるということですね。」

    ヴェルギリア:
    「?」

    カヤ:
    「あぁ、大丈夫。
    こちらのことですから。
    それよりも、もっと私を楽しませて下さい。
    今のところ、見知った動きばかりで退屈ですよ?」

    ヴェルギリア:
    「あ”? うるせぇな。」

  • 128ホットドリンク大好き25/08/08(金) 16:54:47

    ヴェルギリアは前傾姿勢で獣の如き構えを見せた。
    背後から、カヤのそれに負けないような大きさの獣尾が姿を見せる。

    ヴェルギリア:
    「直ぐに『贈り物』をくれてやるよ。 お前も好きだろ、【死】。」

    カヤ:
    「できるのですか? 貴方に。」

    カヤは油断なく火炎放射器を構えた。
    手甲が鳴り、背負子から空になった燃料カートリッジが排出される。

    ヴェルギリア:
    「今度は私が勝つ。」

    カヤ:
    「難しい話ですね。」

    ヴェルギリアが駆けた。
    カヤは、引き金を引いた。

    ────────────────────

  • 129二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 00:00:52

    保守

  • 130二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 06:00:47

    保守

  • 131二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 12:00:30

    保守

  • 132二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 18:01:32

    保守

  • 133ホットドリンク大好き25/08/10(日) 00:14:48

    ────────────────────

    ヴィルトゥオーソ:
    「まさか、君が最初に来るとはね。
    てっきり、私にヒナタを当てると思っていたのだけど。」

    サクラコ:
    「私は、貴方とは違います。
    いくら戦争とはいえ、あの子に辛い仕事を任せるべきではありません。
    ・・・これは、貴方と私で決着を付けるべき事柄です。」

    古戦場で、二人は向き合っていた。
    乾いた風が、かつての戦争の爪痕を撫でる。

    ヴィルトゥオーソ:
    「甘いね、相変わらず君は。
    聖徒会の後継たるシスターフッドの長が、そんな覚悟で務まると思っているのかい?」

    サクラコ:
    「そう言う貴方は、合理的に過ぎます。
    ・・・まるで、かつての聖徒会のように。」

    ヴィルトゥオーソ:
    「・・・」

    ヴィルトゥオーソは苦々しい顔を見せた。

  • 134ホットドリンク大好き25/08/10(日) 00:24:43

    ヴィルトゥオーソ:
    「・・・そうとも。
    君が聖徒会が裏の顔の性質を色濃く受け継いでいるように、私もまた聖徒会が表の顔の性質を受け継いでいる。
    君と私はコインの裏と表さ、サクラコ。」

    空が、鳴った。
    天から巨大な鉄塊が降ってくる。
    古戦場に、砂埃が吹き荒れた。

    ヴィルトゥオーソ:
    『─── シスターフッドが聖徒会の諜報能力を引き継いだように、我々イノクラティア・オクルスは聖徒会の暴力を継承した。』

    砂煙が晴れると、サクラコの前に20m弱の機械仕掛けの天使が現われた。
    顔にあたる部分には無数のカメラが蠢き、背にはジェット噴射式の翼が備わっている。

    ヴィルトゥオーソ:
    『そういう意味では、現在のアリウスよりも私達こそが【戒律の守護者たち】の後継と言える。
    ・・・君は 自らの組織の闇と戦えるのかい、サクラコ。』

  • 135ホットドリンク大好き25/08/10(日) 00:25:43

    ヴィルトゥオーソの背後には、次々と機械仕掛けの天使が集結しつつあった。
    大きさこそヴィルトゥオーソには及ばないものの、生徒と比べれば遥かに巨大だ。

    サクラコ:
    「・・・それが変わる為に必要なことであれば。」

    対して、サクラコの背後にもシスターフッドの生徒が姿を見せつつあった。
    今までも ずっと影に潜み、銃撃戦の前になって ようやく姿が分かるようになる程には、隠密に優れている。

    これらがトリニティの斥候だということは理解していた。
    サクラコが自らの要領を理解した上で、この役割を買って出たのだろうということはヴィルトゥオーソには容易に想像がついた。

    昔から想定の3倍・・・いや30倍は裏が無いのがサクラコだったからだ。

    ヴィルトゥオーソ:
    (・・・さて、トリニティ全体を相手にどれだけ持つか。)

    大仰な口上の裏で、ヴィルトゥオーソは防衛線が維持できる限界の時間を冷徹に計算していた。

    ────────────────────

  • 136二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 09:00:54

    保守

  • 137二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 15:01:00

    保守

  • 138二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 23:39:24

    保守

  • 139ホットドリンク大好き25/08/11(月) 00:19:50

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    ベアトリーチェ:
    「最近の貴方の愚行は、目に余ります。
    ・・・貴方は一体、何を求めているのですか?」

    教育の方針上 続けている会食のタイミングで、ベアトリーチェはヴェルギリアに尋ねた。
    大机の対面に座るヴェルギリアは、しかし不敵に嗤った。

    ヴェルギリア:
    「ハハッ、分かってること聞くなよ。
    私を造ったのは お前なんだ。 誰よりも分かっているはずだろ?」

    ベアトリーチェ:
    「・・・」

    確かに、分かっていた。
    しかし それをヴェルギリアに言われるのは腹が立った。
    とりあえず戒めのチョーカーを絞める。

    ヴェルギリア:
    「ぐっ! クソがぁ・・・。」

    ベアトリーチェ:
    「・・・フン。」

    首を抑えて苦しむヴェルギリアを見て、少し溜飲の下がったベアトリーチェは食事を再開する。
    メインディッシュのウサギ肉のソテーにナイフとフォークを伸ばした。

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  • 140ホットドリンク大好き25/08/11(月) 00:21:11

    ────────────────────

    ベアトリーチェ:
    「─── ようやく緒戦が始まりましたか。」

    ベアトリーチェの赤い瞳が闇の中で蠢く。

    ベアトリーチェ:
    「・・・私ともあろうものが、子供相手に これだけの手間を掛けて。 私は、弱くなったのでしょうか?」

    以前の自分であれば、もっと簡潔かつ効果的な手を打った気がする。
    しかし今のベアトリーチェは、パッと思いつくような手を打つことで勝てるとは思えなくなっていた。

    もっと綿密で、1から10まで考え抜かれた作戦でないと満足できない。
    それでいて、自分自身が全身全霊で動かなければ飢えのような焦燥感が全身を苛む。

    優雅ではないことは自覚していた。
    しかし、何故か不思議な充足感があった。

    ベアトリーチェ:
    「─── そういう意味では、あなた方も弱くなりましたね。」

    ───── (重低音の鳴き声)

    ベアトリーチェは白い木の根のようなものに地面に繋ぎ止められた、巨大なミミズ状の怪物に手を伸ばした。

  • 141ホットドリンク大好き25/08/11(月) 00:24:24

    ベアトリーチェ:
    「かつては手のつけれられない害獣だった あなた方も、今では防衛室・・・いえ、不知火カヤに飼われる身とは。」

    かつてはベアトリーチェも、この強大な獣を使役しようと試みようとした時期があった。
    地を貪って進む この神聖の性質は、兵器として用いるに十分な性能を誇っていたからだ。

    しかし、結局その試みは失敗に終わった。
    考え得る手は全て試したが、地を貪る獣が傅くことは無かった。

    しかし、不知火カヤには懐いた。
    それは運や技術力の差だったのか、それとも根本的に技術思想が異なったのか。

    考えても詮無いことだったが、考えずにはいられなかった。
    自分は成果でも、不知火カヤに負けたのだ。

    ベアトリーチェ:
    「偉大な大人が、未熟な子供に負けるなど あってはならないことです。 ・・・あぁ、いえ違いますね。」

    ベアトリーチェは脳裏に自らの唯一にして最大の失敗作のことを思い起こした。
    あれを ずっと始末せずに側に置いたのは、アレが確かに自らの負のミューズだったからだ。
    自らを客観視するのに、性質の似た他人を側に置くのは極めて有用だった。

    ベアトリーチェ:
    「私は、不知火カヤを消滅させたい。
    そうして初めて、私は再び自らを最も偉大な存在だと肯定することが出来るでしょう。」

    ベアトリーチェは一度は止めた『食事』を再開した。
    白い木の枝が、地を貪る怪物を覆っていった。

    ────────────────────

  • 142二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 09:00:48

    保守

  • 143二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 15:00:48

    保守

  • 144二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 21:00:50

    保守

  • 145ホットドリンク大好き25/08/12(火) 01:02:48

    ────────────────────

    閃光が、走った。

    アリウスの暗い街並みが、激しい熱光によってドロリと溶ける。
    少し遅れて、熱風と共に炎が広がった。

    ヴェルギリア:
    「─── ゲホッ・・・ゴホッ・・・オェ。」

    ヴェルギリアが、瓦礫の中で身体を起こそうとしていた。
    肩の辺りを抑える。
    鈍い痛みこそするが、片腕が『解けて消えている』ようなことは無かった。

    ─── 必殺の武器を使わないだけの、力の差があるのだ。

    ヴェルギリア:
    「・・・ステータスを、弄ったな?」

    ヴェルギリアは誰もいないはずの虚空に向かって話し掛ける。

    カヤ:
    「─── おや、分かるのですか?」

    頭上から、声が響いた。
    見れば、そういう怪異のように壁にへばりついているカヤがいた。
    カヤに取り付かれた壁が、その握力に耐えきれずパキパキと危うい音を鳴らす。
    その背後には、やはり あの尾が揺らめいていた。

  • 146ホットドリンク大好き25/08/12(火) 01:05:18

    ヴェルギリアは反射的に散弾銃を放つが、やはり それは別の生き物のようにうねる尻尾によって弾かれてしまう。
    そして次の瞬間には、視界を覆い尽くすような猛火がヴェルギリアに迫った。
    建物の影へと、逃げるように消える。

    ヴェルギリア:
    (『生徒』の力を、超えてやがる。
    あれはマエストロの『複製(ミメシス)』とか、『止め処無い奇談の図書館(ライブラリ・オブ・ロア)』とか そういうレベルだ。)

    短い戦闘の中で、ヴェルギリアは そういった存在達を相手にしているときと同じ手応えをカヤに感じていた。
    『総力戦』で挑まなければ、力負けしてしまうようなソレに。

    ヴェルギリア:
    (時間稼ぎは・・・出来るだろうが・・・。)

    ヴェルギリアは自身を抑え込むのが限界に達してきているのを感じていた。

    恐らく、テクスチャの改造も含め、カヤは自分の存在自体を脅かすような代償を支払ってまで来ているはずだ。
    あの不知火カヤが、そこまで鬼札を切ってきている。
    それに応えないのは無作法とも言えるのではないか。

  • 147ホットドリンク大好き25/08/12(火) 01:06:35

    ヴェルギリア:
    (喰うか? 私自身を。)

    今ではないと、理性が囁く。
    しかし欲望は、当に飢えを訴えていた。

    ヴェルギリア:
    「ぐっ・・・!」

    そうしてヴェルギリアが飢えの誘惑に負けそうになっていると、不意に首に設けられた戒めが絞められた。
    ベアトリーチェからの、『待て』の合図である。

    ヴェルギリア:
    「・・・あぁ、分かってるよ。」

    自分の奥底にある勝利への飢えを理解しているのは、憎らしいがベアトリーチェ唯一人と言えた。
    アツコですら、いや彼女だからこそ この飢えは理解できなかった。

    ヴェルギリア:
    (『私達』は、勝利でしか飢えを満たせない。)

    それこそが、ずっとベアトリーチェが目を逸らそうとしてきた真実であり、ヴェルギリアが ずっと彼女に見せつけていたものだった。
    どれだけ取り繕おうとも、『私達』は下卑たケダモノなのだと。

  • 148ホットドリンク大好き25/08/12(火) 01:08:00

    それを見せつける度、ベアトリーチェはヴェルギリアを攻撃した。
    そして自らの下劣さを見せつける行為も、ヴェルギリアにとってはベアトリーチェへの攻撃だった。

    『私達』は、そういう”親子”であり”師弟”だった。
    互いに攻撃し合い、誰よりも憎みあってきた。

    ヴェルギリア:
    (・・・あぁ。 そういえばアイツは まだ来ないのか?)

    ヴェルギリアは『私達』に勝てたら お友達を返してやると約束した相手を思い出した。

    ヴェルギリア:
    (そうだ、アイツが来たら自分を喰ってやろう。
    それなら戦略的にも修正の効く範囲だし、クソババアも文句は言うまい。)

    そう決めた。
    それまでなら、何とか飢えに耐えられる。

    ヴェルギリア:
    (早くこい、聖園ミカ。
    ・・・じゃないと、約束が守れなくなるぞ。)

    ヴェルギリアは頭上に跳んで周辺ごと焼き払おうとしているカヤを見た。
    次の瞬間には、死んでいるかもしれなかった。

    ────────────────────

  • 149二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 09:00:49

    保守

  • 150二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 15:00:49

    保守

  • 151二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 21:00:23

    保守

  • 152二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 03:00:21

    保守

  • 153ホットドリンク大好き25/08/13(水) 05:49:04

    ────────────────────

    シスターフッドの生徒A:
    「─── ・・・以上が、報告に なります。」

    疲労困憊の様子のシスターフッド生徒の報告を、ハスミは受けた。
    通信が断裂した前線の様子が様々なデータと共に届けられ、朧気ながら その様子が分かってきた。
    これなら、的確な指示を各所に出すことが出来るだろう。

    ハスミ:
    「・・・ご苦労さまです。
    後は我々が請け負いますから、貴方は休んで下さい。」

    シスターフッドの生徒A:
    「そういう・・・ワケには。 まだ、サクラコ様が前線に・・・。」

    ハスミ:
    「大丈夫です。
    既に、救護騎士団のミネ団長が救援に向かわれましたから。」

    シスターフッドの生徒A:
    「そう、ですか。 それなら、安心 ───」

    そこまで言って、シスターフッドの生徒は倒れた。
    ハスミは倒れた その生徒を抱き留めると、人を呼んで救護騎士団の下へと連れて行くように伝えた。

  • 154ホットドリンク大好き25/08/13(水) 05:50:53

    ???:
    「─── 代行とはいえ最高責任者が、二人揃って前線とはな。」

    ハスミの背後から、ノッソリと黒い影が現われた。

    ハスミ:
    「信頼の証と考えましょう、ツルギ。」

    ツルギは軽く顔を歪めた。
    それが穏やかな笑みであることは、長い付き合いであるハスミには容易に分かった。

    ツルギ:
    「・・・そうだな。 そう考えることにしよう。」

    実際、ティーパーティーが不在の今、代行が権利を半ば放棄したことは二人にとって都合が良かった。
    戦争中に、多頭政治などしている余裕はないのである。

    ツルギ:
    「陣容は?」

    ハスミ:
    「・・・幾つかの小派閥が集まっていませんが、おおよそ召集できました。」

    ツルギ:
    「主要派閥が集まっていれば、問題はない。 小派閥程度なら、後で幾らでも料理できる。」

    『勝てば』。
    その枕言葉は、二人とも敢えて口に出さなかった。
    弱気な発言は、自他ともに士気に関わる。

  • 155ホットドリンク大好き25/08/13(水) 05:52:02

    ツルギ:
    「・・・先行している機動部隊を、更に急がせろ。
    救護騎士団が先に向かった以上、それで ある程度 持つはずだ。 後は・・・。」

    ハスミ:
    「分かっています。
    追うようにして後詰めを出しましょう。
    急がず、しかし確実に。」

    ツルギ:
    「・・・余計な口出しだったか。」

    ハスミ:
    「いえ、戦術の摺り合わせは大事ですから。」

    ツルギ:
    「そうか。」

    ツルギはハスミに背を向けた。
    特に何も言わず、ハスミはツルギを見送る。

    正義実現委員A:
    「あの・・・委員長は?」

    一部始終を傍に控えて見ていた正義実現委員が、困惑気味にハスミに尋ねた。

    ハスミ:
    「・・・ツルギ委員長なら前線に向かいました。 後の指揮は、私が執ります。」

    ────────────────────

  • 156二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 12:00:21

    保守

  • 157二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 18:00:22

    保守

  • 158二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 00:00:26

    保守

  • 159二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 06:00:20

    保守

  • 160ホットドリンク大好き25/08/14(木) 08:50:21

    ────────────────────

    ミネ:
    「─── 私は悲しいです、■■■さん!」

    ヴィルトゥオーソ:
    『ぐぅ・・・!』

    20メートル級の鋼鉄の塊が、一人の少女の一撃によって怯んだ。

    ミネ:
    「確かに貴方には人の心を理解しようとしないところがありました・・・。
    しかし! 確かに貴方なりの優しさがあったはずです!!
    それなのに どうして かつての同胞に銃口を向けることが出来るのですか!!!」

    ヴィルトゥオーソ:
    『・・・【かつての同胞】だったから こそさ!
    君が他者を【救護】するように、正義実現委員会が己の【正義】を貫くように、私だって君達を止めることが【正解】だと信じている!!
    私を救ける気があるのなら、私を打ち倒すことだ、救護騎士団 団長、蒼森ミネ!!!』

    機械仕掛けの天使の、無数にある瞳が炎のような輝きを宿した。
    次の瞬間その腕から無数の銃口が生え、その全てから弾丸が飛ぶ。

  • 161ホットドリンク大好き25/08/14(木) 08:53:52

    弾丸の嵐によって古戦場に久方ぶりの戦塵が舞う。
    それが晴れたとき、そこにあったのは盾を構えて不動の姿勢を見せるミネであった。

    ミネ:
    「・・・覚悟は決まっているようですね・・・。
    そうであれば・・・参ります! 『救護が必要な場に救護を』!!」

    ヴィルトゥオーソ:
    『来い! 『無知なる者に啓蒙を』!!』

    機械仕掛けの天使と、一人の天使が衝突した。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    サクラコ:
    「・・・あの二人は相変わらず元気ですね。」

    セリナ:
    「えっと・・・大丈夫ですか?」

    怪我を負っているはずのサクラコが あまりに他人事なので、どこか他に悪いところがあるのではないかと心配した様子をセリナは見せた。

    サクラコ:
    「・・・いえ、ふと かつてを懐かしんでいただけです。」

    セリナ:
    「?」

    セリナは首を傾げるが、サクラコは気にした風もなく前線で暴れる二人を眺めた。
    それは いつかのトリニティでの日常風景でもあった。

  • 162ホットドリンク大好き25/08/14(木) 08:54:57

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    ミネ:
    「■■■さん!
    また先日も、無辜の生徒に対して強引な勧誘を図ったそうですね!! 申し開きを聞きましょうか!」

    ■■■:
    「人聞きの悪いことを言うね。
    私はただ、見所のある子に真理を探究する道の素晴らしさを説いただけだよ。
    そういう君もどうだい?
    救護の道を歩むのなら、一度 人体の神秘について好奇心の赴くままに暴くのも一興だと思うが??」

    ミネ:
    「・・・反省する気はないようですね。
    悪を悪とも思わない友人に、自分の行いを顧みさせることも また『救護』でしょう。」

    ■■■:
    「今 君が行うべき『正解』は、正式な手段で私に抗議することだと思うが?」

    ミネ:
    「またそうして話を有耶無耶にするつもりですね!
    貴方の そういった手段に、乗るつもりはありませんよ!!」

    ■■■:
    「君が そういった策謀に関して無防備なのが悪いだろう!
    いつも言っているが、君は救護騎士団を やがて率いるのだから───」

    ミネ:
    「─── 『救護』!」

  • 163ホットドリンク大好き25/08/14(木) 08:56:20

    ■■■:
    「へぶっ!? ・・・やったな!!」

    ミネ:
    「貴方なりの配慮は理解しているつもりですが、それでも正さねばならない事があります!」

    ■■■:
    「そうかい!
    君が そういうつもりなら、今日こそ その頑固な頭に柔軟さというものを授けてみせようか!!」

    ミネ:
    「結構です!
    そういう貴方こそ、今日こそ その拗くれた性根を叩き直して差し上げますから!!」

    ■■■:
    「言ったね!?」

    ミネ:
    「それは こちらの台詞です!」

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • 164ホットドリンク大好き25/08/14(木) 08:57:39

    ヒナタ:
    「あの・・・お二人とも こんな人目につく所で・・・。」

    サクラコ:
    「・・・。」

    ヒナタ:
    「えっと、サクラコ様? 先に行って頂いても大丈夫ですよ?」

    サクラコ:
    「・・・あぁ、いえ。
    別に待っているという気はありません。
    ただ少し、元気だな・・・と。」

    ヒナタ:
    「! す、すみません・・・後ほど謝罪を・・・。」

    サクラコ:
    「え? いえ、本当に そういうワケでは・・・。」

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    ────────────────────

  • 165二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 15:00:56

    保守

  • 166二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 21:00:27

    保守

  • 167二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 03:00:21

    保守

  • 168二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 09:00:20

    保守

  • 169二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 15:00:20

    保守

  • 170ホットドリンク大好き25/08/15(金) 19:32:25

    ────────────────────

    カヤ:
    「・・・そろそろ、急ぐべきでしょう。」

    カヤは焼け焦げたアリウスの街で独り呟いた。
    ガラスはドロリと溶け、木は未だパチパチと燃え盛っている。

    ───── 銃声

    至聖所(バシリカ)の方へとカヤが足を踏み出すと、どこからかソレが響いた。
    カヤは弾丸を やはり尾で叩き落とす。

    雷が落ちたかのような爆裂音が響いた。

    カヤ:
    「まだ、やるのですか?」

    ヴェルギリア:
    「・・・」

    カヤの視線の先には、額から血を流しドレスの所々が焼き焦げたボロボロのヴェルギリアが立っていた。
    未だ散弾銃を握る手は しっかりしているようだが、それも時間の問題のように見えた。

  • 171ホットドリンク大好き25/08/15(金) 19:37:24

    カヤ:
    「─── 前から気になってはいたのですが。」

    カヤは足を止め、ポツリと独白のようにヴェルギリアに尋ねる。

    カヤ:
    「何故、このシーンで私を『毎回』止めるのですか?
    貴方には分かっているはずです。
    ここで『彼女』を裏切った方が、貴方にとっては都合が良いということが。」

    実際、このシーンでベアトリーチェを裏切り、カヤに取り入った方がヴェルギリアの利益は大きい。
    ここで敗北したベアトリーチェは自滅の一途を辿るので報復も長くは持たず、仮にベアトリーチェに最後まで与し続けても得られるのは位階だけが高い彼女の奴隷のような身分だけだ。
    そんなものより、ヴェルギリアは自分の権利を拡充する意味での自由を求めているはずだった。

    カヤ:
    「私は、貴方の求めているものを与えられます。
    ベアトリーチェからの解放、それに貴方の権利を重んじた自由。
    ・・・今からでも遅くはありません、私に与するつもりはありませんか?」

    返ってきたのは、銃声だった。

    カヤは何度もそうしたように、全く動くことなく散弾を尻尾で弾く。
    地面に、二つ目の不自然な弾痕が出来た。

  • 172ホットドリンク大好き25/08/15(金) 19:38:35

    ヴェルギリア:
    「─── うるせぇ、しらねぇ、かちてぇ。」

    カヤ:
    「おやおやおやおや、『素』が出ていますよヴェルギリア。
    いつものように”大人びた”悪役のフリをしなくて良いのですか?」

    軽口を叩きながら、しかしカヤの圧力は増した。
    ついに、肘部に備え付けられた『必殺の武器』の用意を始める。

    カヤ:
    「─── 残念ですよ、ここで貴方に退場して頂くことになるかもしれないというのは。」

    ヴェルギリア:
    「・・・(中指を立てる)」

    大人げなくチートを持ち出してきたカヤに悪態をつきながら、ヴェルギリアは油断なく耳を動かした。

    ・・・音は聞こえている。
    もう近くまで来ているはずだった。

  • 173ホットドリンク大好き25/08/15(金) 19:41:00

    ───── 衝撃音

    カヤ:
    「おや。」

    ヴェルギリア:
    「─── 遅かったじゃねぇか。」

    ヴェルギリアはニヤリと嗤った。

    カヤとヴェルギリアの二人の視線の先には、瓦礫の山を全て焼き溶かして現われた、神秘の炎を纏うミカの姿があった。
    その姿はどこか、テクスチャが剥がれ掛けの生徒に似ている。
    しかしずっと神々しかった。

    その視線は確かにヴェルギリアの方を向いている。
    ヴェルギリアは焼け付くような敵意を感じた。

    『総力戦』を意識して挑まなければならないような生徒モドキが二人。
    一見すると不利だが、しかし確かにヴェルギリアが決めていた、鬼札の一枚を切ってしまうタイミングでもあった。

    ヴェルギリア:
    「恨むなよ、クソババア。」

    ヴェルギリアは自らの腕に歯を立てる。
    口の中に鉄臭い血の味とは別に、何か炭酸に似た刺激が走るのを感じた。
    やがてそれは焼け付くような熱に変わる。

  • 174ホットドリンク大好き25/08/15(金) 19:42:38

    カヤ:
    「─── !」

    ヴェルギリアの変化を察して、ノータイムでカヤが肘部から必殺の光線を放った。
    変身バンクだからと言ってカヤが攻撃を躊躇しないことは、ヴェルギリアの想像の範疇だった。
    水面に沈むように、フッとヴェルギリアは影に消える。

    そして再び建物の屋上にあった影に姿を現わしたとき、ヴェルギリアの姿は劇的に変わっていた。

    その姿は、黒いベアトリーチェといって差し支え無かった。
    肌の一部に鱗が生えていることや、毛質がベアトリーチェ本人と違って癖が強いこと、そして何よりドレスにスリットが入っており、幾らかオリジナルより動きやすそうに見え、全体的にベアトリーチェより野性味が強い。

    ヴェルギリア:
    「─── まだ、終わらせねぇ。」

    ヴェルギリアが指揮者のように腕を振り上げる。
    すると、先程までの少女形態のヴェルギリアが影という影から無数に湧き始めた。

    ヴェルギリア:
    「『簡易複製(リダクション)』・・・。
    マエストロのソレには技術的に遠く及ばないが、兵器として使う分には十分。」

    ヴェルギリアの無数の瞳が、カヤとミカを捉えた。

    ヴェルギリア:
    「─── さ、第二幕といこうか。」

    ────────────────────

  • 175二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 03:00:22

    保守

  • 176二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 09:00:23

    保守

  • 177二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 15:00:23

    保守

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