もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart25

  • 1二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 01:30:50

    アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの25スレ目です。

    危険なデブリ帯を遂に突破しカスピ海の辺を目指して宙を直走るミネルバ、彼らの長い夜は未だ開けません。
    外の戦闘が終わっても忙しい艦内は戦場そのものです。

    彼らのスケジュールをよりタイトなものにしている要因はファウンデーション王国親衛隊ブラックナイツ。

    レイやラクス・クラインからもたらされた情報によれば、彼らはアグネスが大アウラと呼ぶアウラ・マハ・ハイバル氏によって創出された『コーディネイターを超える種』。

    その心理的洞察力と心理操作能力にパイロットと乗員、トラドール国務秘書官以外の乗客は神経を尖らせています。

    寝る間も惜しんで行われる対心理戦対策、アグネスの面談の順番はまだ先のようです。

    その間に彼女はファウンデーション王国とブラックナイツの脅威を直接伝える為、カナーバ前議長を訪問します。
    二人の話はやがて時代の巨人、ギルバート・デュランダル議長に及び―。

    アグネスはカナーバ前議長との会話から何を得ることが出来るのでしょうか?
    そしてミネルバは前途多難なこの任務を完遂することが出来るのでしょうか?

    おつきあいをいただければ。

  • 2二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 01:36:42

    前スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart24|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの24スレ目です。精神的な落ち込みこそあれで…bbs.animanch.com

    1スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たら|あにまん掲示板アグネスが士官学校卒業ザフトアカデミー、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSを書く予定です。お付き合い頂ければ。bbs.animanch.com

    2スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart2|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。はたして、アグネスは、ルナマ…bbs.animanch.com

    3スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart3|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。己を取り巻く不可解な状況に四…bbs.animanch.com

    4スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart4|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバとアグネスはその進撃…bbs.animanch.com
  • 3二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 01:41:08

    5スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart5|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバの活躍は起こるはずだ…bbs.animanch.com

    6スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com

    ※落としてしまった7スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。出世の点数稼ぎの場として『戦…bbs.animanch.com

    再建てされた7スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7(再立)|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。※不注意から一度スレを落とし…bbs.animanch.com

    8スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart8|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの8スレ目です。戦いに消耗したアグネスとミネ…bbs.animanch.com
  • 4二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 01:46:10

    9スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart9|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの9スレ目です。C.E.73年- C.E.7…bbs.animanch.com

    10スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart10|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの10スレ目です。遂に開始される『ロゴスとの…bbs.animanch.com

    11スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart11|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。『対ロゴス戦』は本編とはや…bbs.animanch.com

    12スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart12|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。対ロゴス戦争が変え行く世界…bbs.animanch.com

    13スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart13|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの13スレ目です。本編を上回るほどの規模とな…bbs.animanch.com
  • 5二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 02:00:27

    14スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart14|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの14スレ目です。激しい戦いの後、戦女神と大…bbs.animanch.com

    15スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart15|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの15スレ目です。アークエンジェル問題を何と…bbs.animanch.com

    16スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart16|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの16スレ目です。アグネスは目の前で次々と発…bbs.animanch.com

    17スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart17|あにまん掲示板北限の海で繰り広げられる戦い。この世界のアークエンジェルを巡る戦いは一つの帰結を迎えようとしています。アーモリーワンから戦い抜いて来たミネルバ、世間は『彼女』を武勲艦と持ち上げ、事実そうなのではありま…bbs.animanch.com

    18スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart18|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの18スレ目です。アグネスはひょんな成り行き…bbs.animanch.com
  • 6二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 02:06:18

    19スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart19|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの19スレ目です。アグネス・ギーベンラートが…bbs.animanch.com

    落としてしまった20スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの20スレ目です。一夜の間に繰り広げられるプ…bbs.animanch.com

    再建てした20スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20(再建て)|あにまん掲示板※落ちてしまっていたので建て直しました。書き込んでくださった方、申し訳ありません。もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、…bbs.animanch.com

    21スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart21|あにまん掲示板もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart21アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、と…bbs.animanch.com

    22スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart22|あにまん掲示板もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart22アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、と…bbs.animanch.com

    23スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart23|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの23スレ目です。アグネスは、傷の快癒前から…bbs.animanch.com
  • 7二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 02:20:58

    ※【スレを跨いで会話の流れがブツ切れになるので最後の部分を貼っておきます。今夜はここまでで】

    決めたわ。やはり誠実さには誠実さで報いたい。本心を!

    アグネス「私も同じ思いです。どうか勘違いであって欲しい、愚か者の暴走であって欲しい。『証拠が出るまではグレー』と。努めて距離を置いてきたはずの自分ですらそう思いました」
    カナーバ「そうだな…」

    溜息のような彼女の声が鼓膜を掠める。いや、私が零した物だったかも知れない。

    アグネス「(先の政変時にはっきり自覚したわ。自分がデュランダル議長にある種の好意を抱き始めていたことを。アスランの事をあれこれ言えない。自分は騙されるタイミングが無かっただけなのだ)」

    敵対が不可避になった時は凄く怖くて心細い思いをした。議長は、私から見て迷惑で鬱陶しい人間。公人としても総合点は赤点でさっさと辞めて欲しかったことに変わりはない。

    アグネス「(けれど…。確かに戦時の舵取り役として頼りに思っていたわ。それは認める)」

    しかし、諸々の疑惑に目を背ける訳にも行かない。ユニウスセブン落下テロ幇助とラクス暗殺未遂事件の黒幕、何方か一方でも死刑か終身刑を宣告されるに足る罪状だ。

    アグネス「デュランダル議長の才を惜しみます。祖国プラントと世界、彼自身の人生の為に。あのような事をどうして?単純な私利私欲が目的なら、あまりに大それた行いです」

    カナーバ前議長は私の言葉を飲み込むように肯く。

    カナーバ「それが本題だったな。ここは法廷では無い。裁判なら『疑わしきは被告人の利益に』。だが、今は議長がそれらの犯罪に関与したと言う前提で話そう」
    アグネス「はい。お願いします」
    カナーバ「よろしい。貴女が入手したラクス・クラインのメモは正鵠を得ていると思う。その上で『デュランダル議長は地球、プラントを一つに纏めた新しい世界秩序を創ろうとしているのではないか』、これが私の見立てだ」

    怖気が腹の下から這い上ってくる。やはりそこに行きつくか!
    これまで何度も脳裏を過ぎった考えが、遂に政府要職者の口から出てしまった。

    アグネス「(もう思い違いではすまされない。本気で向き合わないと―)」

  • 8二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 03:03:07

    おつー

  • 9二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 06:30:11

    立て乙

  • 10二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 06:31:31

    乙です

  • 11二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 14:21:02

    保守

  • 12二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 21:23:52

    保守

  • 13二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 03:28:24

    アグネス「やはり…。同志カナーバもそのようにお考えですか」
    カナーバ「驚かないのか?」
    アグネス「いえ。驚いています。でも随分前から薄々、察してはいました」
    カナーバ「そうか…」

    カナーバ前議長は少し拍子抜けしたような表情を浮かべる。彼女としては相当勇気のいる回答だったのだろう。私とて心臓バクバクだ。しかし、ここまでは未だ想定の範囲内と言える。

    アグネス「(そもそも『地球、プラントを一つに纏めた新しい世界秩序を創ろう!』と言う発想自体は、何もデュランダル議長の専売特許ではない)」

    例えば大西洋連邦大統領ジョセフ・コープランド氏。
    ロゴスの傀儡と化して久しいが、彼自身は本来、大西洋連邦内では穏健派の人物として知られていた。大統領選の公約は確か『プラントも含めた地球圏統一国家の樹立』。

    もっとも彼が当選できたのはロゴスの支援あってこそ。そんな公約など実現不可能なことは彼自身、選挙期間中に悟っていた事だろう。当選後の情けない体たらくは周知のとおりだ。

    アグネス「(【一つに纏めた新しい世界秩序】と【地球圏統一国家】はイコールでない事にも留意が必要だわ。それでも同時代の潜在的敵対国(当時)の国家元首が近似した政治目標を掲げていたことは軽視するべきではない)」

    もっと言ってしまえば、ユニウス条約下における国際関係そのものが『地球、プラントを一つに纏めた新しい世界秩序』とも定義可能だ。

    アグネス「ですから、デュランダル議長が統一的な国際秩序の構築を密かな政治目標としていたとしても、それ自体はさして目新しいアイデアではありません。十分あり得ることかと」
    カナーバ「なるほど。確かに」

    だからこそ余計に解せない。
    もし議長の望みがそこにあったのなら、それこそユニウス体制の守護者になるべきだった。

    ユニウス条約に言いたいことは山のようにある。それでも大多数のプラント国民は平和を望んでいた。コープランドの口車に乗った大西洋連邦国民もきっと同じだったろう。

    紛争の火種は各地で絶えることは無かったが、それでも戦後体制は2年近く機能していたのだ。

  • 14二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 04:07:04

    アグネス「(あっ…。やっぱり機能していなかったわ。連合の奴らにアーモリー1事変を仕掛けられた!ユニウスセブン落下テロで有耶無耶になってしまったけれど)」

    宣戦布告無しで奇襲攻撃を仕掛けられたのだ。大勢の戦死者が出た。リメンバー・アーモリーワンよ。

    アグネス「(本来はあれ一発で開戦不可避だわ。ファントムペインの存在を連合上層部は認識していた以上、『彼らの独断』何て言う言い訳は通用しない)」

    ふーむ、そう考えると。やっぱり穴だらけの条約を結んでサッサと退陣したカナーバ前議長の責任は大ね。

    カナーバ「何か私に言いたいことが―」
    アグネス「いえ!そんな。えーと…。大丈夫です」

    心臓が口から飛び出るかと思ったわ。セーフ…じゃない!何で私が、向こうがアウトよ。
    まあ、今は本題じゃないから勘弁してあげるわ!

    それに―。確かにあの事変はユニウス条約体制の危機ではあった。それでも大規模な武力衝突の前に外交で回避する余地はあったと思う。

    事変を奇貨としてプラントは外交攻勢を掛ける事も出来たはず。それどころか、災い転じて福となすでは無いが、条約締結後の初めての本格的な戦争危機だ。各国の平和維持に対する努力の試金石にすらなったかも知れない。

    それなのに―。

    アグネス「何故、デュランダル議長はユニウスセブン落下テロの幇助など…。ラクス・クライン暗殺未遂事件はまだ政治問題と理解できます。重大な国際法と国内法違反、戦争犯罪ではありますが。
    しかし、あのテロは完全に人間としての一線を越える人類文明に対する罪です。議長はハルマゲドンを望んだのでしょうか?『全ての戦争を終らせる為の戦争を勃発させ、戦後に理想の千年王国を築こう』とでも」

    カナーバ前議長は私の言葉にゆっくり大きく肯いた後、呼吸を整えてから答えを返す。

    カナーバ「当たらずとも遠からずだと思う。
    『大規模戦争を誘発し、全ての悪を【死の商人ロゴス】に帰してナチュラルとコーディネイターを糾合する。そしてザフト軍と連合軍をなし崩し的に反ロゴス同盟に再編して彼らを撃ち滅ぼす。そして、戦後はその枠組みを転用する形で世界秩序を再構築する』。私が思うに、彼の思惑は凡そ、このようなものだったのだろう」

    無茶苦茶な話だ。ロゴスと言う仮想敵が存在する間はそれで良いとして、その後はどうやって自身の求心力を維持するつもりだったのだろう。

  • 15二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 04:37:35

    そもそもロゴスは各国の政財界に根を張っている。どこまでやったら勝利とするつもりだったのか。

    アグネス「(もっとはっきり言えば、大西洋連邦首都ワシントンを如何するのか。和議に応じなければ攻め込むつもりだったのだろうか。アメリカ大陸上陸作戦、先ずは南アメリカ合衆国を解放してからになったのかな)」

    勿論、私は回答を持ち合わせていない。議長も大概、勢い任せだから考えていなかったのかも。そんな訳無いか。

    カナーバ「今から思えば、彼は既存の外交や条約の力に限界を感じていた節がある。実はプラント政府内には、アーモリー1事変以前からユニウス条約の強化を求める声があった。ブルーコスモスのテロ活動の激化を警戒してのものだ」
    アグネス「そのようなことが…」

    上層部はあの事変の予兆を捉えていた。ピンポイントでアーモリーワンと予想していた訳では無いだろうけれど。

    カナーバ「だがデュランダル議長は消極的な姿勢を示していたそうだ。『ブルーコスモスは組織というより主義者だろう。幾ら条約を強化した所でテロは防ぎ切れんよ』と。その時は私ももっともな意見と思った」

    流石にそれはどうなのか。0と100の間には様々な選択肢がある。条約強化の取り組みを怠る理由にはならないだろう。そもそも相手あっての条約だ。提案してみれば良かったのに。

    アグネス「それでも抑止効果はあったはずです。地球国家にも取り締まりを要請して…。後知恵になってしまいますが。国家間の外交努力を放棄するのは時期尚早であったのでは?」

    前議長は私の言葉を黙って受け止めている。彼女の目に私はどう映っているのだろう。

    カナーバ「そうだな。きっと彼は焦ったのだと思う」

    彼女が漏らした言葉には失望と微かな共感が混じり合っている。

    アグネス「それは議長職の任期にですか?」
    カナーバ「ままならぬ世界に、と言う方が正しいだろう。彼を肯定する積もりは毛頭ない。だが条約はあくまで紙切れだ。何かの拍子に力の均衡が崩れれば、あるいは何方かが建前を守らなければ戦争がまた起きる。一度、起こった戦争を制御するのは容易ではない。貴女もそこに立ちあったのだろう?」

    やはり見透かされている。『そこ』とはアーモリーワンのことね。あるいは月の裏側や東欧のことも含めてのものだろうか。その他の戦線に関しても。

  • 16二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 08:41:48

    保守

  • 17二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 15:43:49

    保守

  • 18二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 22:20:23

    ”そこ”の心当たりが多すぎる件について

  • 19二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 04:14:14

    脳裏に悲惨な情景がコマ送りフィルムのように過ぎる。これは不味いわ。心臓よ、落ち着け。

    アグネス「(嫌なものをたくさん見た。私は決して立会人などでは無かったわ。バリバリの当事者よ。各地で『任務』を実行した)」

    連合の蛮行は許されない。デュランダル議長の暗躍が仮にあったとしても、彼らの戦争犯罪が免責される訳もない。

    ではプラントはどうだろう?議長にまんまと踊らされた我等は。各個人が罪に問われることは無いにせよー。

    アグネス「(それはこの場の本題では無いわ。前議長の質問に先ずはお答えしなくては…)」

    一度、深呼吸して動揺しかけた精神を落ち着ける。もう一回、深呼吸…。良し。返事しよう。

    アグネス「はい。私はそこに居ました。戦火の只中に」

    前議長は私の顔を静かに見つめ、短くも心が籠った言葉を掛けてくれる。

    カナーバ「そうか…。ありがとう。貴女達には深く感謝している」

    交わす視線からは確かな温かさを感じる。ホッとするわ。私も大概、扱いやすい人間なのかも知れない―。

    カナーバ「やはり、私にはデュランダル議長の言葉全てが嘘偽りとは思えない。彼は私利私欲の人ではない。『まだそんなことを』と言われても仕方ないと承知しているが」
    アグネス「いいえ。そうは思いません。どうか同志の見立てを最後まで教えて下さい」

    私の人を見る目などたかが知れている。外れてばかりだ。他者に求めてばかりで自分に甘く、経験不足。それぐらいは自覚できるようになった。

    だから政治信条の違いはさて置き、困難な時代で国政を担い、各国指導者と渡り合った前議長の鑑識眼の方がずっと信頼できる。

    カナーバ「ありがとう。私が思うにデュランダル議長は『次の大戦争』を止めたかったのだと思う。コーディネイターとナチュラル間のみに止まらず、再び絶滅戦争が生じることを。あんな世界には二度としないと。
    『この分断と流血の歴史に終止符を打つ。その為の荒療治、外科手術が必要なのだ』。これが彼の言い分なのだろう。確かな根拠はない。だが、この時代を生きる者は多かれ少なかれ。似たような発想が心を掠めた事はあるだろう?」

  • 20二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 04:34:05

    中々、際どい事を言う。失言一歩手前だ。それだけ私のことを信頼してくれたのだと思うことにしよう。

    アグネス「人の内心は自由です。しかし言葉にすること、そして実際に行動を起こすことは次元が異なります」
    カナーバ「貴女の理解は正しい。そして議長は踏み止まれなかった。なまじ能力と地位があったものだから近道を選んでしまったのだろう。本来は遠回りしながら一歩一歩進んで行くべき道だ。どれだけの犠牲が出るか、彼自身理解していたはずなのに」

    嘆息する彼女にどんな声を掛ければ良いのだろう?私には分からない…。

    アグネス「(分からないことだらけね…。力も考えも及ばないことばかりだわ)」

    それでも分かったこともある。確信が持てたと言うべきか。

    アグネス「(デュランダル議長の隠された政治目標は『プラントを含む地球圏全体を一つの政治・経済共同体に再編し、恒久平和を実現すること』)」

    その為に地球の政財界に根を下ろすロゴスを排除し、最大の抵抗勢力である地球連合も事実上の解体に追い込む必要があった。その為には世界最終戦争を勃発させる必要があり、ユニウスセブン落下テロはそのためのトリガーだった。

    ラクス暗殺未遂事件は彼女の横やりを恐れてのこと。プラントに帰還されれば自身の政治的ライバルになる。
    国外に置いて置いても前大戦の事例から手勢を搔き集めて妨害してくる恐れが(議長の中で)あった。

    概ねこんな所だったのだろう。

    カナーバ「彼女には申し訳ない事をした。巻き込まれた周囲の方達にも。アスハ代表にもご迷惑を掛けることになってしまった。前大戦後、もっと別の方法を探せばよかった」

    まあ、それこそ後知恵と言うものだろう。そもそも隠遁はラクス本人の望み。襲撃リスクがあることは彼女達も承知していただろう。フリーダムを隠し持っていたくらいだし。

    アグネス「これはグラディス提督が常々口にしている言葉です。『先のことは誰にも分からない。私達は今思って信じたことをするしかない』と―。いえ、やはり私が口にするには重すぎます。どうかお気を悪くされませんように」
    カナーバ「いや、気を使わせて済まない。確かに金言だな」

    そのまま何と無く二人でカップに口を付ける。喉が渇いた所だ。温くなった紅茶はちょうど良い。

  • 21二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 08:45:31

    保守

  • 22二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 15:08:00

    保守

  • 23二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 15:29:04

    なんかまたアグネスのPTSDの症状酷くなってない?

  • 24二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 16:29:27

    >>23

    鬱病は落ち着いたときの方が危険って聞くな

  • 25二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 22:20:02

    悪夢「追撃は任せろーー」

  • 26二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 04:37:40

    残りの紅茶を大事にゆっくり飲み込む。お互い示し合わせた訳でも無いのにペースが同じになるのは不思議なものだ。

    それから自然な形で彼女と視線が合う。もう余計なプレッシャーは感じない。
    むしろ、不思議な連帯感のようなものを感じるわ。彼女と私には政治的立場に大きな隔たりがあるのに…。

    アグネス「(飲まれては駄目よ。『それはそれ』、『これはこれ』。まだ肝心な話が残っているわ)」

    前議長がカップに付いた口紅を拭うのを待って話し掛けよう。

    アグネス「同志カナーバ。まだお伺いしたいことがあります」
    カナーバ「勿論、分かっている。聞こう」

    ありがたい。彼女も疲れているだろうに応じてくれた。ならば私も気を引き締めて、この機会を最後まで活かそう。

    アグネス「では…。デュランダル議長の思い描く新世界秩序はどの様な物だったのでしょう。EUモデルの国家統合を目指していたのでしょうか?それとも権限を強化した上で国際連合の再結成を目指していたのでしょうか?」
    カナーバ「分からない。不明だ。官邸の議長に直接聞くしかないが…。彼が素直に話すとは思えない」

    やはりそうなるか。出来れば彼の構想を把握した上で、敷かれたレールに乗るか下りるか判断したい所なのだけれど。

    カナーバ「それにしても不可解に思う。ロゴス討伐後の国際体制について、デュランダル議長が各国に根回しした形跡がない。片腕的立場だったカザエフスキー最高評議会議員も何も知らされていなかったそうだ」

    まあ、カザエフスキー評議員は議長の表の顔しかご存知なかったから仕方ない。対ロゴス戦も他の評議員と同じく事後報告だった。うーん、お気の毒に。

    それはそうとして―。

    アグネス「確かに不自然ですね。彼の目的を思えば終戦後から始めても遅いです。単純比較は出来ませんが。国際連合の場合は1941年時点で大西洋憲章、1943年中にテヘラン宣言。
    せめてプラント勢力圏下の大洋州連合とアフリカ共同体には抽象的にでも話を通しておく必要があったはずです。マハムール基地設置後は汎ムスリム会議にも」

    無論、他の友邦・盟邦にも伝えておくに如くはない。一から百までとは言わないが、事前に枠組みだけでも示しておかないと後から反発の声が出る。組み敷いた国からは言うまでもない。

  • 27二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 04:52:17

    カナーバ「私もそう思う。そこが解せない。自身の外交手腕に自信があったのか。あるいはロゴスとの戦いが長期に渡ると想定して準備に余裕があると踏んでいたのか」

    どうなのだろう?
    確かに議長は優秀な人物だ。己の才覚を頼み、変に根回しして諸外国の警戒を招くより、終戦直後の高揚感と国際世論を上手く利用して一気呵成に事を為すのが上策と考えていたのかも知れない。

    若しくは頭の良い人間にありがちな奢りから面倒な下準備を軽視したのかも知れない。彼の本業は遺伝子科学なのだ。実験室の感覚が根底では抜けなかったのかも。

    まあ、この話に関してはここで結論は出ない。分からないものは分からないとしておく。

    『国際統合による恒久平和を目標としながら、各国に根回ししないとは不可解だ』と。

    アグネス「それでは今後、我等はどのように…」
    カナーバ「同志。その先はまた次の機会に話そう」

    ピシャリと遮られてしまった。

    当たり前だ。国際会議前に今後の外交方針をベラバラ話すわけには行かない。私に話せば国防委員会やジュール国防委員に筒抜けになる。

    私は『国防委員会の用向きでは無く個人の良心で前議長を訪ねた』。その言葉に嘘は無い。でも、話した内容を上位者に秘密にするとは言っていない。彼女には彼女、私には私の務めがある。

    アグネス「差し出たことを申しました」
    カナーバ「そうは言っていない。まだ待って欲しい。後日、時間を設けよう。他に聞きたいことは?」

    少し凹んだと私を気遣うように彼女は声をかけてくれる。ご厚意に甘えるとしよう。

    アグネス「では最後に。議長とファウンデーション王国の関係について。私達は彼らの繋がりをどう捉えれば良いのでしょうか?」
    カナーバ「ファウンデーション王国か。新世界秩序内で特権的地位が約束されていたのだろう。国際連合における常任理事国のようなポジションが保証されていたのではないか」

  • 28二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 12:12:01

    保守

  • 29二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 18:30:36

    保守

  • 30二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 03:30:56

    保守

  • 31二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 03:48:37

    アグネス「『その代わりに来る世界最終戦争ではザフト主力の別動隊として全面協力してもらう』。そのような取り決めが議長とファウンデーション王国間に存在したと?」

    カナーバ「おそらくは。それも単なる損得だけの関係では無いようだ。トラドール国務秘書官とお話しして気付いたよ。彼女が一個人としてもデュランダル議長を慕っていることを。推し量るに他のブラックナイツも同様なはずだ。
    議長とハイバル王家の親交はメンデル襲撃事件以後も途切れることなく続いていた。そう考えるのが自然だろう」

    この前議長の意見は一考に値する。彼女は国務秘書官のプラント訪問以来、何度も交渉を行い、その一挙手一投足をつぶさに観察して来たのだ。これほど重要な証言はない。

    アグネス「(それにブラックナイツがデュランダル議長を慕うこと自体はさほど不自然な話では無い。彼らの関係を整理して考えるのなら―)」

    デュランダル議長にしてみれば、ブラックナイツは非命に斃れた友人(仮)の遺児のような存在。行末を気に掛けるのは人情と言う物だ。引き取って面倒を見るとまでは行かないにせよ。支援の手を差し伸べるくらいはしたのだろう。

    アグネス「(いや。間違いなく支援したのよ。ハイバル王家とのコネクションを維持する目的もあったのだろう)」

    足長おじさん方式だったのかな。当時のファウンデーション王国はユーラシア連邦内の一地方政権。直接、顔を出すのは容易でなかったと思う。

    アグネス「(疑問がもう一つある。ユニウスセブン落下テロについて。議長は事前にファウンデーション王国に伝達していたのだろうか。いや、流石にそれはどうだろう?)」

    私がアウラ女帝やオルフェ宰相なら猛反対する。諫めても止めないならリークする。落下地点が自国の領土にならない保証はない。もしそんな事態となれば国土が壊滅する。

    ユーラシア連邦からの独立を目指して力を蓄えてきたはずの彼女らが自国消滅のリスクを敢えて冒すとは思えない。そんな目にあうなら地方政権としての地位を保った方がましと言うもの。思い過ごしだろう。

    カナーバ「私も貴女と同意見だ。アウラ女帝やオルフェ宰相がテロを事前に知らされていたか甚だ疑問に思う。事後は分からないが…」

    もし事前に知らされた上であったなら最低だ。あのテロはエイプリル・フール・クライシスと比することはできない。

  • 32二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 04:14:31

    アグネス「仰る通り。彼女達は事後に初めて知ったのかも知れません。道徳的な問題を抜きにしても同盟相手にそんな重要な事を黙っているとは!もし私ならグーで殴っているかも」
    カナーバ「ふふふ…。グーで殴るか。ハハハ…」

    部屋に漂う陰鬱な空気を弾き飛ばすような笑い声が上がる。思わず口を突いた言葉が前議長のツボに入ったらしい。
    我ながら恥ずかしい言葉を漏らしてしまった。うーん、恥ずかしいわ。
    この場の清涼剤になったのなら儲けものと思うことにしよう。

    アグネス「(何にせよ、ファウンデーション王国はその後も議長の同盟者であり続けた。何もせよ、彼らの中では解決済みなのだろう)」

    テロの件は一旦置いて置こう。もう起こってしまった事だ。そう仕様も無い。より大事なのは目前の課題だ。デュランダル議長と繋がっているのはハイバル王家本体だけでは無かった。ブラックナイツとも直列繋ぎになっているらしい。

    議長と彼らの関係はレイとのそれに近いのだろうか。議長とレイは養父子で彼らは精々『おじと甥』くらいの関係だと思うが…。これは重要な情報なのだろう。どう活かせば良いかは未だ分からないが留意しておこう。

    アグネス「同志カナーバ、私から伺いたいことはこれで全てです。貴重なお時間を頂き誠にありがとうございました」
    カナーバ「こちらこそ。急ぎ危機を知らせてくれて感謝している」

    前議長はそう言うと席を立ち、扉まで見送りに来てくれる。前国家元首にここまでして貰えるとは。
    中々どうして。悪い気分じゃないわ。別に絆されたわけじゃないんだからね!

    カナーバ「是非また訪ねて欲しい。話したりない事もあるだろうし、話すべきことはこれからもっと増える。これは社交辞令では無い。その為にも自らの心身を労わるように」
    アグネス「身に余るお言葉です。必ずそのようにいたします」

    扉が開くと補佐官殿と看護師さんが待っていらした。時間を予想して戻って来てくれていたのね。

    カナーバ「貴女の武運長久を祈っている」
    アグネス「ありがとうございます。閣下に神のご加護がありますように」

    人前なので敬称を改め、少し仰々しい別れの挨拶を述べる。口にした以上、一応お祈りしておくか。

    アグネス「(アイリーン・カナーバ前議長に健康と幸運を。それから私の人生が全て上手く行きますように。神様お願いします)」

  • 33二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 12:17:06

    最後が切実だけど台無しだよ!

  • 34二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 14:07:43

    気持ちは分かるけど…!

  • 35二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 19:04:37

    バンダ〇「そんな未来は無い!!」

  • 36二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 19:04:39

    ファウンデーション王国首脳部にとっては自国存続すら絶対でないとか流石のカナーバも読み切れんわ…

  • 37二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 00:05:42

    保守

  • 38二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 04:27:16

    短いお祈りを終え、カナーバ前議長の船室を辞する。

    前議長と補佐官殿がドアに引っ込んでやっと肩から力を抜けるわ。

    看護師「お疲れ様です。アグネスさん、一先ず医務室に戻りましょう。少しでもお休みしないと。点滴はまだ掛かりますね。」
    アグネス「はい。引張り回すようなことになり申し訳ありません」
    看護師「いえいえ。お務めご苦労さまです」

    再会して早々に看護師さんは私の顔色をチェックする。結果は一々聞かない。悪いと言われたら心が折れそうだから。

    ゴロゴロゴロゴロ…ゴロゴロゴロゴロ…。車輪の音が通路に響く。操縦にも随分なれた。

    看護師「そう言えば、赤くならないんですね。」
    アグネス「赤く?」

    道中、看護師さんから不思議な事を聞かれる。

    看護師「はい。潜水艦映画を見ると夜の艦内は赤くなっているので」
    アグネス「ああ。なるほど」

    潜水艦は夜間に艦内の照明を赤色に切り換える。昼夜の区別を明確にして、乗組員の生活リズムを維持するためだ。
    確かに宇宙船も内部が極度の閉鎖空間である点は共通している。

    アグネス「ミネルバの場合、乗員は自分の船室に入れば照明を消せます。睡眠サイクルはそれで調整します」
    看護師「へぇー。なるほど」

    なお戦闘指揮所である装甲区画内は暗い。これは映画等のイメージ通りだ。でも、ここでは黙っておこう。

    アグネス「(別に機密って程でもないけれど、ボズゴロフ級やピートリー級の戦闘指揮所も同じだし。でも一応ね)」

  • 39二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 04:53:19

    なぜなら宇宙戦闘艦に関しては傾向が異なるからだ。ザフトのナスカ級やローラシア級は戦闘中もブリッジ照明を切り替えない。確か連合のアガメムノン級や鹵獲したガーティ―・ルー級も同じだったはず。

    アグネス「(やはりミネルバの独自の強みは伏せておくべきね。もうバレバレかもしれないけれど…。)」

    それに看護師さんとて私に軍艦の講義をして欲しいわけでは無いだろう。世間話で精神的疲労を軽減しようとして下さっているのだ。ありがたい気遣いだと思う。

    その後も彼女との他愛無い会話は続く。夜間病棟のお化けの話とか。身近な死者つまりは幽霊との交信だとか。

    看護師「それでですね…」
    アグネス「へぇー。そんなことが…」

    私に言わせれば、このC.E.に超常現象や心霊現象の入り込む余地は無い。ただそう言った概念も馬鹿には出来ない。

    ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』を引くまでも無く人類は虚構を信じて世界を作り変える力を持った唯一の生物だ。ご先祖様達はその脳内の突然変異を存分に活かして出アフリカを成し遂げ、今日まで続く文明を築いた。

    そして子孫の私達は、今晩も国家や宗教や共同体、経済といった想像力の産物に命を懸けている。
    その為なら負傷を押してモビルスーツに飛び乗り、核を撃ち放ち人工天体すら地球に落としてしまう。客観的な事実と想像上の現実との間で反復横跳び、綱渡り。末代まで大忙しだ。

    アグネス「(何より私自身が神様に祈ったばかり。これも認知革命の賜物。心の奥では主の実在を信じているけれど、学問的にはね)」

    となると、あるいは何時か人類は超常の力さえ手に入れる日が来るのかも知れない。
    うーん、流石にそれは飛躍し過ぎか。
    ホモ・サピエンスは所詮、類人猿の一種に過ぎない。何より人体の物理的な限界がある。

    アグネス「でも、それはそれで面白そうですね」
    看護師「でしょー。友達にも霊感の強い人が居まして」

    さて、もう少しで医務室だ。心理戦対策の順番が来るまで一休みしよう。

  • 40二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 08:02:52

    保守

  • 41二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 14:59:29

    保守

  • 42二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 17:11:26

    そういやステラもトダカもレイも生存√だからここのシンは防壁が弱いのか
    まだマユとか居そうだけど

  • 43二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 18:48:17

    >あるいは何時か人類は超常の力さえ手に入れる日が来るのかも知れない

    よもや艦内にその超常の力を持ってる人間(アコード)がいるとは普通思わんて

  • 44二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 23:33:55

    保守

  • 45二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 02:52:55

    車椅子を自動扉の前へ。室内の看護兵一人と目線が合う。もう一人は仮眠中らしい。
    艦内放送が突如、流れたのはちょうどその時のこと。車輪が扉のレールに乗った瞬間だった。

    アビー「特務隊、緊急招集。隊員は至急ブリーフィングルームに集合してください。繰り返します。特務隊は至急、ブリーフィングルームへ集合してください」

    看護兵「なに!?」 看護師「また敵襲ですか!?」

    私の前と横から戸惑いの声が上がる。どうやら私の休憩は雲散霧消したようだ。

    アグネス「落ち着いて下さい。接敵したならコンディションはレッドに切り替わります。別件なのでしょう」
    看護兵「ああ。確かに」
    看護師「へぇー。そう言うものなんですね」

    事情を推し量って話すと二人はすんなり納得して下さる。それはそれとて大事ではあるのだが…。もう皆、感覚が麻痺している。私も含めてね。

    アグネス「(はぁー、何だかな。もう何でも良いわ。アビーが担当しているなら、メイリンは仮眠中か)」

    ぐっすり休んで欲しい。私もそうする積もりだったのに。心の中で不満をぶちまけながら、コントローラーをポチポチして車椅子を回れ右させる。

    看護師「お着替えは必要ですか?」
    アグネス「いえ。制服のまま向かいます。その先は状況次第で」
    看護師「分かりました」

    言うが早いか、看護師さんは非接触タイプの体温計を私の額に翳している。

    看護師「うーん…。出来れば血圧と脈拍も」
    アグネス「至急だそうです…」
    看護師「じゃあ、向こうで測りましょう」

    話しながら看護師さんは看護兵から上腕式血圧計を受け取っている。まるでリレーのバトンパス、お見事。ゴールはブリーフィングルーム、今回も付いて来て下さるようだ。

  • 46二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 03:10:10

    ゴロゴロゴロゴロ…。パタパタパタパタ―。俄かに覚醒する艦内を私達は駆け抜ける。

    ブリーフィングルームの扉が開くとグラディス提督以外の全員が揃っていた。トライン副長、ハイネ先輩、アスラン、シン、ルナマリア、残念ながら私が最後だ。早く自分の足で走れる体に戻りたい。

    急ぎ敬礼してお詫びする。

    アグネス「遅くなり申し訳ありません」
    アーサー「いや。点滴中だったのか。ご苦労さま。事情は分かっている」
    アグネス「ありがとうございます」

    室内を見渡す。面談は何処まで進んだのだろう?

    シンの番まで終わった事は分かる。両目が真っ赤で顔色がすこぶる良い。きっとたくさん泣いてスッキリしたのだろう。エルスマン博士に感謝しないと。男性は『専門家』に弱いから。女性がそうであるように。

    アーサー「良し。全員揃った。皆、冷静にこれを見て欲しい。地上からのニュース中継だ」

    トライン副長は一声かけると部屋の電気を落とし、モニターを起動する。

    アスラン「これは…」

    大都市がミサイル攻撃を受けている。画面下側に『ファウンデーション王国首都イシュタリア』と表示される。
    降り注ぐ無数のミサイルの煌めき、それを迎え撃つ迎撃ミサイルと機関砲の光がまるでゲーム画面のように夜空を染め挙げている。

    攻撃に用いられているのはおそらく短距離ミサイルでは無い。中距離巡航ミサイルだろう。王国側の迎撃の主力はジン部隊。76mm重突撃機銃を使用している。プラント国民の血税、供与した甲斐があったわ。

    ニュースキャスター「先刻よりここイシュタリアにはユーラシア領より大量の巡航ミサイルが…。200本、220本以上のミサイル攻撃を受けています!攻撃は今も続いています!
    ファウンデーション王国タオ宰相は声明を発表、ユーラシア連邦・地球連合軍の一般市民に対する無警告・無差別の攻撃を断固非難し、即時停止を要求しています!」

    ヘルメットを被った女性キャスターの迫真の実況中継、不謹慎だが彼女にとっては一世一代の晴れ舞台だろう。
    トライン副長は私達にチャンネルを幾つか切り替えて見せてくれる。どの局も一斉に報じているわね。

  • 47二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 03:19:31

    アグネス「(ふむ。イシュタリアには各国の放送局が支局を設置済みか。こんな形で現地情勢を知る事になるとは)」

    ニュースを知った室内の反応はさまざまだ。

    アスラン「…」、シン「そんな…」
    ルナマリア「シン…。アスラン先輩…」

    アスランは眉を顰め、シンは衝撃を受けている。失望と無力感と絶望と怒り。二人を包む感情はそんな所だろうか。
    前者はまだ耐性がある。シンは危うい。出来ればPTSDの発作を起こさないで欲しい。

    ルナマリアはそんな二人を心配して見詰めている。一方、トライン副長とハイネ先輩は割合冷静だ。

    『強い非難に値するが、戦時下ではままある事。これを受けて最高評議会や国防委員会はどう出るのか?我々の任務に影響はあるのだろうか?』

    察するにそんな所だろう。別にお二人は情が薄いのではない。堅実なのだ。

    アグネス「(任務に影響が出ないかって?出るに決まっているわ。私達の目的地の一つあのだから。直にミネルバブリッジからもカナーバ特命全権大使とトラドール国務秘書官が共同声明を発表するはずよ)」

    ミサイル攻撃はオルフェ宰相の声明後も止まらない。それで終えるなら攻勢など掛けないから当たり前ではある。残弾はどれだけ残っているのだろう?もう直ぐ300発目だ。

    アグネス「(それにしても―綺麗、重ね重ね不謹慎の極みだけれど。夜間に交わされる砲火はどうしてこうも美しいのか。戦争を好きになってしまいそう)」

    もっとも朝日が昇れば、そんな馬鹿げた感想は砂漠に落とされた氷のように消え去さるだろう。
    オルフェ宰相の言葉が何処まで本当か現時点では判然としない。ただ、もし本当に無差別攻撃なら少なく見積もっても女性や子供を含む数十人、多ければ数百人以上の犠牲者が出ている。

    崩れた瓦礫から運び出される屍、親を亡くした子供に子に先立たれた両親。手足や顔を失った者達の人生は一夜にして変わってしまった。それを思えば薄情者の私でさえ、胸を突く物がある。

    網膜の裏に暗い炎がちらつく。あれは誰を送った光だったのか。変な音も聞こえる―。
    呼吸を整えて遣り過ごそう。頭を切り替えよう。

  • 48二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 08:44:17

    保守

  • 49二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 16:25:56

    保守

  • 50二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 23:26:56

    保守

  • 51二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 01:59:29

    その後も30分ほど地球連合の攻撃は継続される。止んだのは巡航ミサイルの本数が350発を数えた頃だ。これで作戦は終了なのか、あるいは中断なのか。遥か宇宙からでは何とも言えない。

    ニュースキャスターの絶叫中継は未だに続いている。しかし、何時までも視聴している訳には行かない。
    トライン副長は複数のチャンネルを確認した上で、一旦モニター画面を切る。

    シン「くそ!どうして!」

    直ぐ傍で呟くシンの言葉には怒気が漲っている。常のように大声でない分、逆にゾッとするわ。自然と彼に集まる視線、シンは気付いた途端に気不味そうな表情を浮かべる。

    アスラン「少し落ち着こう。シン」 ルナマリア「そうよ。冷静にね」
    シン「ああ…。すみません」

    謝れて偉い。己を客観的に見えるようになってよろしい。上から目線上等だわ。今思うことじゃないだろうけれど、シンもちょっとずつ変わってきている。良い傾向だと思う。多分ね。

    それはそうと敵の攻撃意図は私も気に掛っている。このタイミングであの場所となると―。

    アグネス「おそらく国際会議参加国に心理的圧力を掛ける為では?連合軍としてはミネルバの地球到着前に何としても一撃入れたかった。開催地のガルナハンはザフト・親プラント連合軍が守りを固めている。付け入る隙が無い。
    ゆえに近場で代わりを探すとなればとなれば―」

    幾つか候補は上げられる。バクーやトビリシ等も。しかし仮に連合の攻撃意図がプラント・親プラント国の離間目的なら、後者を闇雲に撃つ訳にもいかない。その点、ファウンデーション王国はちょうど良かった。

    連合から見れば王国はプラントの衛星国だ。属領とすら思われているだろう。フォックストロット・ノベンバーのリベンジだ。イシュタリア(アティラウ)なら連合勢力圏から攻撃が通りやすい―と自分の見解を皆に話してみる。

    ハイネ「一理あると思うが、言い切るにはまだ早いぞ。アグネス。まだ被害状況さえ分かっていないんだ」

    確かに。今話したことは所詮、ただの思い付きだ。

    アグネス「はい。申し訳ありません。早計でした…」
    ハイネ「いや、常に考えることは大事だいいぞ。それからシン、二人も平常心で行こう」
    シン「はい!」 アスラン、ルナマリア「はい」

  • 52二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 02:12:33

    ハイネ先輩に励まされ、皆の表情が少し明るくなる。自分では見えないけれど、私もきっとそうだ。

    そんな私達の遣り取りをトライン副長はじっと見守っている。顎に手を当て彼自身も思索を巡らせているようだ。

    アスラン「それで…。トライン副長、この後、私達はどう動くことになりますか?」

    少し焦れたようにアスランが問いかける。

    アーサー「それはまだ決まっていない。ただファウンデーション王国と我らザフトは当然、何かしらの対抗措置を実施するだろう。ミネルバパイロット隊にも追って指示が下りるかもしれない」
    アスラン「それは…」

    つまり連合に対する報復攻撃に参加を命じられる可能性があると。なまじ核動力機のパイロット隊に選ばれたものだから仕方ない。流石に元の任務が優先だろうけれど。

    アグネス「(仮に仕掛けるなら何処が良いだろう?アストラハンか、オレンブルクか、はたまたクリミアか。私ならこれを機に黒海艦隊の息の根を止め、沿岸国の安全を確立したい。ザフト基地があるディオキアが気掛かりよ。今夜の二の舞はごめんだわ)」

    ただ、当事国のファウンデーションから自軍の参加を求められるかも知れない。そうなると黒海は少し距離があるか。

    アーサー「何れにせよ。これは重大事態である。故に先に特務隊間で共有しておく。我々は如何なる命令にも即応できるよう心身のコンディションを万全にしておこう。私からは以上だ」
    アグネス・一同「了解!」

    皆で敬礼を交わしてこの場はお開きになる。また心配の種が増えた。種どころじゃないか。大木が投げつけられたに等しいわね。

    アーサー「それとアグネス。次の面談は君だ。士官室まで同行してくれ。看護師さんもお願いします」
    アグネス、看護師「はい」

    トライン副長からお呼びが掛かり3人一緒にブリーフィングルームを出る。遥か彼方の大惨事と同時に目前の問題に対処する。本当に忙しない。

  • 53二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 07:24:59

    ちくしょーユーラシア連邦許せねえー

  • 54二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 16:29:52

    保守

  • 55二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 23:45:08

    >>53

    (棒)

  • 56二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 05:03:31

    急ぎ足で士官室に向かう。

    艦内は慌ただしさと静けさが同居した奇妙な空気に包まれている。

    この不思議な均衡が成り立っているのは、事態を把握している者が極限られていることに寄るだろう。多分、知っているのは私達とブリッジクルーまでだろう。

    他の皆は自分の持ち場に就いているか面談中、さもなくば仮眠している。狭まったレクリエーションルームでニュース映像を見る余裕は誰にもない。

    アグネス「(最も知った所で、と言う話ではある。パイロット含め私達は軍艦乗りだもの。上から向かえと言われた先に航路を取るだけのこと)」

    もっとも私達、特務隊はその限りでは無い。国防委員会はどう判断するのだろう?

    この攻撃が報じられればファウンデーション王国に同情が集まる。評議会は王国の動向に疑念の目を向けていたし、プラント国民には支援疲れが出ていた。

    今夜の出来事はそれらを引込めさせるのに十分だ。軍事援助のペースも上げざるを得ない。首都を攻撃されたファウンデーション王国にしてみれば怪我の功名と言うべきだろうか。

    アグネス「(思っても口にするのは憚られるわね。それにあれだけミサイルを撃ち込まれたのだから。マイナスがプラスに転じる程とは思えないわ)」

    ともあれ今は車椅子の操縦中だ。よそ事を考えるのは程々にしなければ。脇見運転で事故を起こせば査定に響く。安全運転で士官室に到着、副長がインターホンで呼びかける。

    アーサー「エルスマン博士、お待たせしました。特務隊アグネス・ギーベンラート、看護師さんと一緒です」
    タッド・エルスマン「お気になさらず。お待ちしていました」
    アーサー「はい。失礼します」

    3人揃って入室しエルスマン博士に敬礼、博士からは文民式の答礼を受ける。

    それから私は入り口近くの椅子、トライン副長とエルスマン博士はテーブルを挟んで奥の長椅子に掛ける。看護師さんは私の横に立って下さる。

    看護師「じゃあ。脈拍と血圧測りますね」
    アグネス「おお…。ここで来ますか…」

  • 57二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 05:17:37

    看護師さんは博士と目で合図、そう言えばすっかり忘れていたわ。何と言うマイペース、やはり専門職はこうでなくては。上腕に巻き付けた帯がギュッとした後、じわっと解ける。

    タッド・エルスマン「あまり良い数値とは言えない。こんな状況で精神的な要素が大きいだろう。だが身体的な面でも注意が必要だ」
    アグネス「はい。ありがとうございます」

    一応、返事はするが博士の言葉は私と言うより隣のトライン副長に向けてのものだ。

    アーサー「了解しました。可能な限り配慮します。グラディス特務隊長にもお伝えします」

    ちょっと心許ないお返事だが止む無し。こんな状況でトライン副長が確約できる事柄などないだろう。エルスマン博士もお察しの上で注意喚起して下さっている。ありがたいわ。

    アーサー「さて―アグネス、疲れているだろうが状況は逼迫している。早速、心理戦対策の面談を始めよう」
    アグネス「はい!」

    トライン副長は私が提出した自己分析シートを取り出す。どうやら最初はあれに沿って話を進めるらしい。

    アーサー「ふむ。アグネス、自己分析シートによれば…。君は自分のことを『井の中の蛙だった』と振り返っているね。ザフトアカデミー時代、そしてミネルバ着任後も暫くの間。学校の成績や自分の技量を頼み、自信過剰になっていたと書いている」
    アグネス「はい。私は多分、いえ間違いなく…」

    少し言い淀んでしまう。素面では言い辛い。横に立っている看護師さんをつい見上げてしまう。

    看護師「…」グッ!

    彼女は軽くバッツポーズして私を励まして下さる。良し。恥ずかしがらずに言おう。その為の心理戦対策なのだから!

    アグネス「私は…ミネルバでいろいろな目に遭うまで…自分にとても自信がありました。モビルスーツ操縦は超一級で、女性としての魅力も抜きん出ていて…。この世界で最高クラスの人間なのだと思っていました。そしてそのことを周囲に証明して見せたかった。それで随分、我儘な振舞いをした覚えがあります。今も中々、改まりません」

    視線は前のトライン副長に向いているのに内心の目線は自分の胸の奥を眺めている。自己分析と言うよりまるで懺悔。本当は女性として魅力云々も男性に話すのは抵抗感があった。

    同性の看護師さんが傍に居てくれたからこそ口に出せた。

  • 58二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 05:29:41

    アーサー「そうか…。でも私が思うにそれらは必ずしも悪い事じゃないと思う」
    アグネス「副長がそう仰るのは私がそのように演じてきたからです。自分の利にならない者と思った人に対しては薄情な人間です、私は…」

    こんな事を他人に話す日が来ようとは思わなかった。いや、自分で考える日が来るとは思わなかった、と言うべきか。

    アグネス「(自分の望みや本心を人に晒すのは苦手だ。自分でも敢えて深くは考えないようにして来のだと思う)」

    本当の私を知る数少ない人は…誰だろう?パパとママか、何か違う気がする。

    アグネス「(ルナマリア・ホーク。身近な人の中で言うなら間違いなく彼女だ。嫌な面もばっちり知られている。酷い事もした。私なら背中から撃っていただろうに)」

    何時か彼女の真心に報いる事が出来る日が来るだろうか。叶うならそうであって欲しい。

    それと―そうよ!それと望みならあるわ!自分の本心とやらもね!見失うべきじゃない。うぉぉォォォォォ!

    アグネス「私は『トップレベルの人間になりたい』、それをずっと目指してきました。正確に言えばトップ・オブ・トップに。何と言っても今も優れているのですから!」

    勢いに任せに本音と人生目標をぶちまける。と言うか自己分析シートにそのまま書いた。トライン副長も事前にお読みになっているわ。

    話し終えた瞬間、身体に悪寒が走る。自分の内面を覗いていた目がぐっと現実世界に引き戻される感覚、『なんてことを言ってしまった』「もう後には戻れない」そんな後悔の念。

    これまで自分が積み上げてきた物が音を立てて崩れるような気がする。もうトライン副長の目をまともに見えない…。

    アーサー「うん。その意気や良しだ。君が優秀で向上心旺盛な努力家であることは私も皆もよく知っている。大いに期待しているよ。何時も助かっている」

    何やらさらりと流されてしまったわ…。拍子抜けしてしまう。安堵とも失望ともとれる不思議な感情の波に揺さぶられて気持ちが落ち着かない。一世一代の告白の積もりだったのに。

    アグネス「(まあ、案外、こんなものかも知れないわ。『自分を特別視し過ぎては駄目と気付いた』、そう言う趣旨を話したばかりなのに。我ながら困ったものだ)」

  • 59二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 08:22:37

    さすアサ

  • 60二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 14:55:52

    さすが副長
    言って欲しい言葉を的確に投げてくれる

  • 61二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 22:59:56

    保守

  • 62二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 03:39:52

    保守

  • 63二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 04:50:29

    トライン副長の穏やかな言葉に安心する。でも同時に少し困惑してしまう。私は別に懇談会に来たのではない。仮想敵と渡り合う術を身に付けに来たのだ。

    何より私を気遣ってのお言葉なら今は不要だ。厳しい指摘も覚悟の上よ。

    誠実で人の好いトライン副長のお顔を真直ぐ見つめる。無理にフォローしている風では無い。本心からそう思ってくれているらしい。

    アグネス「(正直、凄く嬉しい。身近で自分の頑張りを見てくれている人が居た。彼の言が正しければ他にもそれなりに。勿論、そう思わせるように計算ずくで振舞ってきたのだけれど)」

    ただ、実は最近はそうでもない。戦況が逼迫し始めてからは只々、必死だったわ。少しでもしくじれば身の破滅、ミネルバではそんな日々がずっと続いている。

    『もう無理だ』と。頭がおかしくなりそうな事が何度もあった。無邪気に周囲の男を勘違いさせて楽を出来たそれまでの人生とは何もかも異なっていた。

    アグネス「(でも剃刀を渡る日々の中、確かに得られた物もあったみたい。この事は自信を持って良い。自己肯定感ゲットだわ。継続は力なり。今後もしっかりしないとね)」

    それと、褒めていただいたのだ。トライン副長にお礼を言わねば!

    アグネス「ご評価いただきありがとうございます。以後も一層努力します」
    アーサー「うん。よろしい。さて―。エルスマン博士のご見解はいかがでしょうか?」

    副長はお隣のエルスマン博士に話を振る。彼は私達の遣り取り注意く観察していらした。

    タッド・エルスマン「私もトライン副長と同意見だ。付け加えるとすれば―」

    博士の蒼い瞳に宿る光は誠実だけれど甘くはない。ちょっと身構えてしまう。

    タッド・エルスマン「一つ質問を。ギーベンラート嬢、君は『将来、トップレベルの人間になりたい』と打ち明けてくれたね」
    アグネス「はい。そう申しました」
    タッド・エルスマン「それはどんな人間なのか。詳しく教えて欲しい。自己分析シートに記入してあるが君の口からも直接、聞きたい」

    単に内容を知りたいのではなく、私がどう話すのかノンバーバルな情報も確認したいのね。では、変に取り繕うことなくお答えしよう。

  • 64二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 05:20:33

    アグネス「先ずザフト軍人として戦功を積み上げて自分の隊を持ちたいです。その後も功績を重ねて、最終的には将官レベルになって退役。退役後は政治家になるか、財界人になるか―。そうした所を目指しています」

    既に『自分の隊』の目標は達成できたとも言える。でも率いた飛行中隊や今の教導航空団長はあくまで臨時の立場だ。何だか有難味が無い。出来ればジュール隊のような正規部隊の隊長に任じられたい。そこからが真のスタートだ。

    タッド・エルスマン「なるほど。君の目標は国家と国民、ザフトの利益とも叶う。ではプライベートではどうか。無理にとは言わない」

    そう言ってエルスマン博士はチラリとトライン副長に視線を遣る。副長はその意を察して私に念を押す。

    アーサー「ここでの話が外に漏れることは絶対にない。グラディス提督以外を除いて、あるいは国防委員会、直々の命令があれば別だが。ハラスメントをするつもりもない。ただ、これが心理戦対策であることは理解して欲しい」
    アグネス「ありがとうございます。承知しています」

    それに関しては全く疑っていない。言いにくいのは別の理由だ。人格を疑われたらどうしよう?
    もう一度、隣の看護師さんを見上げる。気付いた彼女は目線を合わせ勇気づけて下さる。

    どうもこうも無い。正直に、ありのままお答えしよう。弱点を洗い出すための面談なのだから。

    アグネス「プライベートでは、自分に相応しいパートナーが欲しいです。容姿端麗で能力と実勢がある、軍内で言うならFAITHレベルの方が良いと思っています!」
    アーサー「おおっ…。そうか」 タッド・エルスマン「なるほど」

    もっとも今の特務隊の中に意中の人はいない。御父君の前で考える事じゃないと分かっているけれど、ジュール隊長とディアッカ先輩は性的指向的に無理だ。ディアッカ先輩はバイの可能性もあるが。

    ハイネ先輩はピッタリ条件に合う。昔の私なら即、飛びついた。でも出会って暫くの間、先輩には何と無く近づきがたい、雲を掴むような所があった。今はそんな風に思っていないけれど。お付き合いするとなると神経を使いそう。

    うーん、自分から探さないと駄目か。今はとてもそんな余裕はないけれど。人生、そうそう上手くはいかない。

    エルスマン博士はそんな私をじっくり診察するように見詰めている。何だか怖い。博士はどう捉えたのだろう?

  • 65二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 08:15:09

    保守

  • 66二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 16:41:46

    保守

  • 67二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 23:06:50

    保守

  • 68二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 23:38:30

    容姿端麗かつ能力や実績がFAITHレベルともなるとプラントでもほんの一握りのエリートになりそうな
    特に相手も2世代目だと遺伝子相性も良くなければ婚姻統制に引っかかるのもキツイ
    エリート同士で気も合う理想のカップルでも遺伝子相性一発でグラディス提督や議長みたいになってしまうのが...

  • 69二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 03:38:21

    タッド・エルスマン「ありがとう。飾らず詳しく答えてくれて助かる」
    アグネス「はい」

    博士の前振りを聞き、早くも胃がキリキリし始める。トライン副長の時とは雰囲気が違う。

    何だろう?おかしなことを口にしただろうか?出世、出世と言い過ぎて呆れられてしまったのだろうか。

    タッド・エルスマン「さて、ギーベンラート嬢。これまでの話を総合するに―これは良い悪いでは無い。君は自らの社会的な地位や身分。ステータスに相当な拘りがある。そうだね?」
    アグネス「はい」

    一先ず肯いて見せる。博士の仰る通りよ。

    私はステータスに命を懸けていると言って過言ではない。そうでなければ、わざわざ軍に志願して最前線行きを熱望したりしない。思った以上の過酷さに根を上げそうだけれど。

    でも、基本的には今もそうだわ。手柄を上げて公私両方の場で褒められたい。自分が優れた人間だと証明したい。名誉が欲しい。上の立場に昇りたい。我儘を抑えれば問題ないはず。

    タッド・エルスマン「君は軍内のキャリアには明瞭なイメージを持っている。しかし、最終目標である『トップレベルの人間』の具体像は漠然としている。
    将来の目標として政治家と財界人を挙げてくれたね。しかし、それはその立場に立って為したい事が有るのでは無い。君の認識の中でそれらの地位が社会階層の最上位だから目指しているのだろう?」

    言葉をお聞きしてギクリとする。ザクリと言った方が近い。博士は何を指摘したいのだろう?恐ろしい。ゾワゾワして気持ち悪い。

    アグネス「それは…。しかし、誰だって―」

    上手く言い返せない。でも良いじゃないか、別に!
    将官のセカンドキャリアが政治家や実業家・企業の上級役員・顧問なのは万国共通だ。まるで私に中身がないみたいに言わないで欲しい!!

    タッド・エルスマン「将来、良き伴侶を得たいとも話してくれた。それ自体は素晴らしい。相手に求める条件も正直に答えてくれた。お見合い希望なら、最初はそれで構わない。愛は後から育めばいいから。しかし自由恋愛前提だとしたら―」

  • 70二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 04:22:21

    アグネス「いけませんか!口には出さぬまでも皆、心中で条件を設けているはずです!」

    思わず声が高くなる。私は聞かれたから正直にお答えしただけなのに!何かおかしなことを言っただろうか?!
    相手のスペック、ランクを見定めながら人付き合いをするのは当然だ。同ランクから伴侶を見つけ友人を作る。ランクの低い連中のことなど―。

    『低い人は何だと言うのか?』
    死んでも良い人なのか―違う。傍若無人に振舞って良いのか―それも違う。

    守らないといけない人達だ、仲間なら同胞なら。相手にしないといけないし、私も彼ら彼女らに相手にして欲しい。
    『同じ人間として』。私らしくない綺麗ごとみたいになってしまうが。要はそう言うことなのだろう。

    ステータスやパートナー云々はともかく、それぐらいは理解できるようになっている。

    それに人をランク付けしていることを悟られるようでは上に行けない。周囲から引かれてしまう。そこはミネルバに乗ってからずっと気を付けてきた。一々、揺らぐことではない。

    アーサー「アグネス、落ち着きなさい。エルスマン博士に失礼だろう?」
    看護師「アグネスさん…」

    気が付くと4つの瞳が心配そうに私を覗き込んでいる。私は馬鹿か。元最高評議会議員に何を言っているのだ。

    いや―違う。瞳の数は6つだ。エルスマン博士も私をずっと見てくれている。
    彼の眼差しに意地悪な気持ちなど少しも混じっていない。今の言葉は私を気に掛けてこそと思い至る。
    『かつての地位など関係ない。目前の人間の為に出来る事をしたい』と。

    アグネス「(私は何を怖がり怯えていたのか。自分らしくないことをした。これは心理戦対策だ。ヨシヨシなでなでしてもらう場ではない。付け込まれる前で良かったわ)」

    危ない、危ない。落ち着こう。自分の呼吸に意識を集中して感情の昂りを抑えよう。

    アグネス「申し訳ありません。冷静さを欠いてしまいました」
    タッド・エルスマン「大丈夫だ。きちんと自分で持ち直せた。それで良い」

  • 71二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 10:22:42

    保守

  • 72二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 17:02:32

    踏み込んできたな…
    しかしパイロットとか主要人物みんなにこれをやるエルスマン先生は大変どころじゃないぞ…

  • 73二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 23:52:35

    保守

  • 74二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 04:22:15

    エルスマン博士はやや口調を改めて会話を再開する。

    タッド・エルスマン「重ねて伝えるが、私は良い悪いの話をしている訳ではない。あくまで君の傾向の話をしている。そこは理解して欲しい」
    アグネス「はい。承知しています」

    博士と目線を合わせて短く回答する。乱れた心はやっと落ち着きを取り戻しつつある。

    タッド・エルスマン「よろしい。では意見を述べよう。初めに私は精神科医でない事は断っておく。その上で、一医学博士としての見解だ」
    アグネス「はい。お願いします」
    タッド・エルスマン「ギーベンラート嬢、君の人格的な特徴として自己肯定感の低さが挙げられる。普段、周囲に見せる強気な態度とは裏腹に、心の奥底では自分に対する自信の無さに悩まされている。私はそう見るがどうかな?」

    心にズキリと感覚が走る。自分が見透かされているようで凄く怖い。思い当たる節はある。でも、それを人前で認めるのが苦しい。

    アグネス「(違う…。自分で認めるのが怖いのよ。自分でも薄々、気が付いていたわ…)」

    でもそれを振り払って歯を食いしばって来たから今の自分がある。ここで肯いたら立ち上がれないかも知れない―。

    はっ!こんな心理状態になる時点で博士が正しいわ。

    アグネス「確かにそう思います。でも、どうしてそのようにお考えなのですか?」

    そこは是非、聞いておきたい。エルスマン博士は当てずっぽうに物を言う方でない。でも、何だかモヤモヤしてしまう。

    博士はそんな私の反応を予め想定していたように言葉を続ける。

    タッド・エルスマン「君に限らず、自己肯定感の低い人はステータスやステータスシンボルを強く、時に過度に追求する傾向にある。それらの喪失をやはり過度に恐れる傾向もある」
    アグネス「それは…でも…」

    それは皆、同じではないか!誰だって、人間なら―優れたモノが欲しい。傍に置きたい。自分もそうだと思われたい。その為に自分に利のある行動をする。

  • 75二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 04:57:37

    アグネス「(それが人類文明進歩の原動力ではないか!私の言うことが間違いだと言うなら人類皆、石器時代に戻って洞窟暮らしをするべきよ!―って、あれ?)」

    ああ…。またさっきの繰り返し…。博士は何も私を責め立てている訳ではない。私の人格的傾向の所見をお話ししてくれているだけだ。それなのに自分が攻撃されたと思い込んでまた頑なになり掛けている―。

    アグネス「(やはり此処が私の精神的弱点なのよ。眼を逸らすべきではないわ。息を数えて落ち着き続きを聞こう)」

    エルスマン博士はそんな私の様子を見定め、ペースを調整しながら説明を続ける。

    タッド・エルスマン「そうした人、つまりギーベンラート嬢、君は自分の価値を他者に壊される事に異常な警戒心を抱いてしまう。これは現実的な身命・財産の危険に限定されない。『自分を脅かす人間は私を認めない存在、自分の価値を認めないもの』そう思い込んでしまう、傾向がある」
    アグネス「はい…。仰る通り…です」

    正しく、先程の心理がそれだ。
    『なんでそんなことを言うの?』『酷い』『私は悪くないのに、どうして―』『私を否定しないで!』―図星だった。

    アグネス「(相手がエルスマン博士だからそれでも抑制できたわ。他の人から言われたら逆上していたと思う)」

    きっと『そんなことを言うお前はどうなのだ?!』と枕詞を付けて、相手の欠点を何個も何個も論ってやり込めようとしただろう。何とか言い返してやりたい、言い負かしてやりたいと。そんな態度を取っていたはずだ。

    アカデミーでヨウランと言い争いになった時のように。
    ちょっと泣きそう。ガックリ来てしまう。あの日からまるで成長できていない―。

    タッド・エルスマン「そんな表情をする必要は無い。聞きなさい。今話したのはあくまで全体的な傾向だ。繰り返すがそれ自体に良い悪いはない。自分の人格的な特徴を予め把握し悪意ある者に突かれないようにすることが重要だ」
    アグネス「はい…」
    タッド・エルスマン「また人間は多面的で常に変化を続ける生き物だ。今の君がそうであるように」

    俯いた顔をそっと上げる。今の私が―何だろう?

    タッド・エルスマン「自己分析シートと簡易心理検査、そして先程からの面談の様子を見て判断した。ギーベンラート嬢、君の自己肯定感は以前よりずっと高まっている。既に自分に自信を抱けるようになってきているはずだ」

  • 76二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 11:03:38

    アグネスのメンタルがケアされていく!この調子で身体も休めてくれ!

  • 77二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 17:53:09

    保守

  • 78二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 22:26:22

    がっつり踏み込んだな…

  • 79二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 03:57:09

    アグネス「そうなのでしょうか…。あまり実感が湧きません」

    エルスマン博士の言葉に内心首を傾げてしまう。頭の上にクエッションマークが浮かびそうだわ。揺らいだばかりだ。もし慰めなら止めて欲しい。

    タッド・エルスマン「湧かないのが普通だ。人は己の内心の変化に疎い。では整理してみよう」

    どうやら気休めを言っている訳ではなさそう。しっかり聞かなくては。

    タッド・エルスマン「先ず、君はミネルバの任務で重要な働きをして来たね」
    アグネス「それは、はい」
    タッド・エルスマン「言葉にして言ってみなさい」
    アグネス「開戦以来、多くの作戦に参加し任務を全うする事が出来ました。戦友と運にも恵まれていたのでしょう」

    博士は気遣わし気な表情を浮かべていらっしゃる。PTSDの症状を懸念しているのだろうか。

    タッド。エルスマン「よく頑張ってくれた。君は祖国と友邦の誰からも褒められる立派なことをした。苦しい思い出も多いと思う。だが、得られた物もあった。そうだね?」
    アグネス「得られたものですか…」

    つまり博士は『成功体験を積んで自分に自信が持てるようになったのではないか』と仰りたいのね。
    ごもっともな見方だと思う。実際、達成感を覚えたことは何度もある。

    だが―。果たしてこれは自信なのだろうか。分からない。私は目に見えない物を信じられない。少なくとも今は。

    アグネス「得られたものは…FAITH任命でしょうか。それに勲章・褒章・記章。とても名誉な事で嬉しく思いました。それで自信が付いたと言えばそうですが…」

    話しながら己を省みる。私の自己肯定感は任務達成で高まったのだろうか?

    まず低まっては無い。少なくともミネルバ赴任前よりは高い。それは間違いない。

    ただ、それ以上に徒労感が大きい。正直もう疲れた。勲章よりボーナスより休息が欲しい。燃え尽き症候群一歩手前、炉内の残り炭を搔き集めて機関車を動かしているようなものだ。

  • 80二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 04:16:31

    身体だって限界だ。戦時下で国民皆が耐える中、そんな泣き言を言うのは憚られるが…。
    ああ、なるほど、これが『平和が欲しい』と言うことね。

    それはともあれ―。

    アグネス「仰る通りです。任務を通じて達成感を得て、ミネルバ赴任前より自分に自信が付いたように思います」
    タッド・エルスマン「良い傾向だ。頑張った自分を褒めてあげなさい」
    アグネス「はい。そのようにします。ただ―」
    タッド・エルスマン「ただ?」

    結局の所、FAITHの地位や勲章・褒章・記章はステータス、ステータスシンボルであることに変わりはない。さっき博士に指摘された弱みは解決していない。

    アグネス「私にとって、達成感や自信はそれらのおまけのようなものでした。貰った瞬間に蒸発してしまう。その後に訪れるのは恐怖感。世間の掌返しが怖い。これは敵の付け入る隙ではないでしょうか?」
    タッド・エルスマン「そうだ。よろしい。君はしっかり自分を省みられている。自覚できればあと一歩だ。防備を固めている場所に敵は突っ込んでこないものだ。それに世間の目が怖いのは良く分かる。私も身に覚えがないではない」

    私に掛ける博士の声に共感の色が滲む。思えばこの方もこれまで大変な目に遭ってきた。

    大戦勃発、ディアッカ先輩の戦闘時行方不明、激しい政争、クーデター発生。ひょっこり返って来るディアッカ先輩。その際に息子のザフト離反を知り―。

    アグネス「(その後、何やかんや今に至る。公人としても父親としても本当に気苦労が絶えなかったはずよ)」

    だから、そうか。自分の価値や評価が壊されそうで不安なのは私だけじゃない。博士もおそらく私が見知っている多くの方々も。私達はそれも含めて折り合いを付けなくちゃいけないし、本来、付けることが出来るんだ。

    タッド・エルスマン「今、君は大規模作戦について話してくれた。では日々の任務ではどうか。私のような文民から見れば艦上勤務そのものが大変な仕事だと思う」
    アグネス「外からご覧になれば確かに。ただ私達としては当たり前の事をしているだけです。それでどうと言う事はありません」

    軍人でない人、艦上勤務でない者から見ればそうなのだろうけれど、こっちは慣れっこだ。それで褒められるものでもない。ああ、勤務態度が良くて成績優秀なら表彰してもらえるわね。

  • 81二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 04:31:12

    タッド・エルスマン「なるほど。しかし、閉鎖された艦内で大過なく勤務を熟し周囲と信頼関係を構築する。並大抵の事ではない。さほど意識していないようだが、提供された資料によれば乗員・パイロット共に君を頼りにしている人は多い」

    素直に喜べない。自分がいかに打算的で保身塗れな人間かよく分かっているから。
    此れまで散々、周りに気を使ってきた甲斐があった、と言うこともできるけれど―。

    アグネス「それは私がそう演じてきたからでしょう」
    タッド・エルスマン「そのお陰で助けられた人達がいる。君は他部隊と合同任務も多かったからミネルバの外にも居るだろう。もっと自信を持って良い。気付いていないようだから今伝えて置く」

    何やら太鼓判を押される。これは―博士はどういう意図でお話しされているのだろう?

    タッド・エルスマン「君は周囲に必要とされ信頼を勝ち得てきた。例え実感が無くても、そうした日々の努力が『今のアグネス・ギーベンラート』を形作っている。これまでの努力を大切にして欲しい。自分で自分をヤスリに掛けたい等と思わないだろう?」

    なるほど、継続は力なりか。頑張って来たんだものね。うん、散々周りに投資したのだ。
    回収するまで猫を被り通さなければ!

    そして出来れば再投資したい。叶うなら除隊するまで、あるいは私の人生が終わるまで。明日かも知れないけれど。
    それならその時だ。学校に像を立ててもらおう!

    アグネス「ありがとうございます。ちょっと、いえすごく嬉しいです。せっかく獲得した信頼ならお応えしたいです」
    タッド・エルスマン「大変結構だ。加えて言うのであれば…」

    博士は視線をもう一段切り替える。より親身な私の目線に近い眼差しだ。

    タッド・エルスマン「そうした計算さえもある程度は抜きにして。君に友愛の情を感じている人達もいる。いざと言う時は力になりたいと。君もそう言う人が居るように。それは紛れもない、君自身の価値だ」
    アグネス「それは…」

    『それは誰ですか?』という言葉が舌に張り付いて離れてくれない。胸から熱いものが込み上げて目がじんわり熱くなって、何とも困ってしまう。

    本当に誰と誰だろう?ルナマリアかメイリンか、散々世話を焼いてきたアスランやレイだろうか。お人好しのシンやお調子者のヴィーノやヨウランだろうか。

  • 82二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 04:39:54

    アグネス「(ああ…。私、まだシンに謝れていない…)」

    少し涙ぐみながらエルスマン博士に目を遣る。誰なのか、はたまた、そんな人は本当は居なくてこの面談の為の方便なのか。

    タッド・エルスマン「君は誰の力になりたい?ある程度、そう『ある程度は打算抜き』に。大体、それが答えと思って良い」

    『ある程度』で良いなら―。

    さっき名を上げた人達に加え、グラディス提督とトライン副長、ハイネ先輩・パイロット仲間達にアビーとお調子者コンビ以外の整備班組etc。勿論、目の前のエルスマン博士と隣に立って下さっている看護師さんも。

    それからパパとママ―。

    案外、多いわ。私はこんなにお人好しな人間だったか?
    自分はもっとクールで賢いと思っていた。人を都合よく使い、時に他者を踏み台にして上に行くのだと。

    アグネス「(あくまで『ある程度』よ。打算90%でも10%打算抜きなら範疇だ。絆されないわ!足を掬われる)」

    ちょっと自分に言い訳してみる。何の良い訳かは分からない。
    多分、自分のアイデンティティーを失いそうで怖いのだ。全く世界は怖いことだらけだ。

    でもこの怖さは悪くない。何だかフワフワ気持ち良い。

    アグネス「お力になりたい方が思っていたよりも大勢いて驚きました。ダンバー数150人は越えそうです」
    タッド・エルスマン「人間は社会的生物である、等と理屈を言うまでも無い。それが今の君だ。大事にしなさい。貴女は周囲にとっても自分自身にとっても価値ある存在だ。自信を持ち倦むことなく目前の困難を乗り越えなさい」
    アグネス「はい!」
    タッド・エルスマン「良い返事だ。よろしい」

    今のが纏めだったらしく、博士と副長は目線で合図し合っている。長いようで短い面談だったわ。やっと休める。

  • 83二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 08:11:38

    ここまでアグネスと絆を結んだ看護師さん、いつまでも看護師呼ばわりは少し寂しいので名前つけてあげてもいいんじゃないかと思うんだが…どうだろうスレ主さん?

  • 84二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 14:07:02

    ひょっこり返って来るディアッカ先輩。

    間違ってないがちょっと面白い

  • 85二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 17:29:35

    バットマンの映画であった「人の心は見えない。人間の”本性”(他人とっての)は、行動で決まる」って台詞がこのアグネスにドンピシャでハマるな。
    仲間のために必死で戦う月光のワルキューレ、それが本性でいいじゃないか

  • 86二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 00:29:37

    保守

  • 87二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 04:56:46

    >>83

    書き込みありがとうございます。


    アグネス付きの看護師さんの名前は【バーバラ・エレン・マツザワ】と設定します。


    ただ、話の中で名前は出ないかも知れません。


    このSSではアニメ本編・映画、小説等で名前が明示されている人物以外の本編名無しキャラ・オリキャラは肩書きや職業名、代名詞で話を進める事にしています。これは原作との距離感や自分の表現能力を考え、初期に決めた方針です。


    勿論、人間は各々が名を持った個人として尊重されるべき存在でそれが原作のテーマでもあると思います。ミーア然り、アレックスことアスラン然り。特にこのSSを書く切欠になった劇場版FREEDOMは個人の尊厳と自由の物語。


    何より、現実の私達の世界にも無名戦士など存在しません。戦争や大規模災害・事故を追ったドキュメンタリーを見るたびにそう感じます。しかし書き手の都合上、オリキャラに名を付けると話に収拾が付かなくなりそうなので。


    【バーバラ・エレン・マツザワ】の由来について。


    バーバラ・エレン・グッドウィンは英国女子王立空軍の隊員(看護師)です。


    彼女は第一次世界大戦に従軍し世界を席巻したスペイン風邪パンデミックに遭遇しました。そして休戦の僅か7日前、1918年11月4日に24歳でインフルエンザにより殉職しました。


    松沢フミは新潟出身の方。第一次世界大戦とロシア革命によりシベリアに取り残されていたポーランド孤児救済に当たった看護師の一人です。彼女は高い職業意識から病気を恐れず孤児の看病に当たり自身も腸チフスに感染。


    孤児達が7月8日に母国ポーランドに出発したのを見届けると間も無く20歳の若さで亡くなりました。


    あくまでイメージの話として、SS内で医療従事者(人体実験に参加した者等は除外)を描く際は、過去の勇敢な軍医や従軍看護師、新型コロナウイルスの対処に奔走された世界各国の医療関係者の姿を思い浮かべるようにしています。


    そのまんまなキャラクターにするかはどうかは別ですが。


    大戦争、人類全体を襲うパンデミック。それはS2型インフルエンザ大流行の翌年に産声を上げ、多感な十代を戦時下で過ごしたアグネスと周囲の人間の人物背景とも重なるように思います。書き手の私にとっても―。


    纏めるのに時間が掛かってしまいました。今夜はここまでで。

  • 88二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 09:26:30

    そのような方針をお持ちだったとはいざ知らず、差し出がましいコメをしてしまいました。
    現実でも長期入院していれば顔なじみの看護師さんくらいは苗字呼び位はするんじゃないか、くらいの考えでした。
    長レスでお手をわずらせてしまい失礼しました。

  • 89二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 18:16:24

    保守

  • 90二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 00:21:41

    保守

  • 91二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 03:13:00

    対面のトライン副長が書類を整理し始め、私はご挨拶の為に姿勢を整える。

    タッド・エルスマン「それと最後に一つ」

    そんな中、エルスマン博士はまるで思い出したかのように私に声を掛ける。

    アグネス「はい。何でしょうか?」
    タッド・エルスマン「君の恋愛観、結婚観についてもう一度問いたい。ハニートラップ対策と職務上の人間関係トラブル対策として。面談を通して認識に変化は生じたか?変わっていないならそれでも構わない。良い悪いはない。思ったことを言ってほしい」

    ああ、そう言えばそっちの話もあったわね。何かもうどうでも良く成り掛けているけれど。

    アグネス「(…って!どうでも良くないわ!しっかりしなさい、アグネス・ギーベンラート。修道女になるつもりは無いわよ、私。ガンガン、アタックして行かなくちゃ)」

    危うくアイデンティーが崩壊する所だったわ。

    さはさりながら、博士と話して『自分が自分に自信を持ち始めていること』は理解できた。私には確かな価値がある。無暗にステータスを追い求める必要は既に無くなっていたのだ。

    だから、もう男を漁る意味も無い。この部屋に来る前よりフラットに異性に接することが出来ると思う。今も周囲の環境のせいで大概な気がするけれど。

    アグネス「ステータスシンボルとしてトロフィーハズバンド(トロフィーワイフの男性版)を求める気は無くなりました。あくまで一時的なもので、気を抜けばまた同様の感情が湧いてくると思いますが…」
    タッド・エルスマン「過度でなければ問題ない。人間の自然な欲求だ。その為に周囲を裏切ったり、自分を傷つけたり、相手の人格を踏み躙るのでなければ非難されるものでは無い」
    アグネス「はい」

    博士の言葉に肯く。もうルナマリアと揉めたくない。勿論、メイリンやアビーとも。こりごりよ。
    それに省みると私は案外、恋愛偏差値が高くない。人の彼氏を取ったは良いが―いや良くないが―直ぐに捨てるか、自分が捨てられる。

    アグネス「『異性は玩具ではない。勿論、自分も違う。欲しがって捨ててを繰り返せば、何れじり貧になる』。今はそう思います。この気持ちが長続きするか、自信がありませんが…」
    アーサー「ほう!」
    タッド・エルスマン「構わない。前向きな変化だと思う」

  • 92二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 03:56:27

    何やらトライン副長まで感心して下さっている。微妙に気不味い。自分で言った通り、この感情は士官室を出た瞬間に蒸発するかも知れないから。

    アグネス「(ああ、だから今の気持ちを言語化して他者に表明する必要があったのね。宣誓とまではいかないけれど。なるほど、これも今夜の成果か)」

    ただ、それはそれとして博士にお聞きしたい事が有る。納得いく回答が得られるかは分からないが―。

    アグネス「ステータスシンボル云々はともあれ。自分の利益になるから人を愛する、と言う考え方は間違っているのでしょうか?子孫が欲しいから、安楽な生活がしたいから、他人に自慢できるから、役に立つから愛する。生物の基本原理だと、どうしても思ってしまいます」

    口にして直ぐ後悔する。悔した我ながらピントの呆けた質問だ。

    この面談は哲学談義ではない。実戦対策だ。第一、エルスマン博士は先ほど答えを言ってくれたではないか。何をクドクドと―。早く訂正しなくては。ちょっと自嘲してしまう。

    だがその前に博士が回答して下さる。凄く温かい声で―。

    タッド・エルスマン「決して間違っていない。ただ、それが全てでは無い。今ははっきり言えるよ。再会した時、息子に教えて貰った」
    アグネス「ディアッカ先輩がそう仰っていたのですか?」

    ディアッカ先輩…。前大戦が終わった後、親子で何をお話しされたのだろう?
    先輩は前大戦末期、アークエンジェルで何を見てきたのか。

    タッド・エルスマン「少し違う。息子は生き方で示してくれた。本当は私も妻と会って、産まれたばかりの彼を抱いた時に気付いていたのかも知れない。まったく…それだと言うのに…。はぁ…。ゴホン。
    使い古された言葉だが『愛は損得だけではない』。人生の先輩として確信を込めて君に贈るよ。私達の祖先は決して合理性だけでパートナーを選び子を育んで来た訳じゃない」

    博士の声には家族への感謝とディアッカ先輩に対する心配の念が籠っている。うーむ。こんな所で既婚者パワーを発動されるとは思わなかったわ。

    でも確かに自分の利益や必要性だけを追い求めれば夫婦生活は成り立たない。良い親にもなれないだろう。そして良い出会いも、勿論ないだろう。

  • 93二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 04:05:49

    アグネス「(愛については親世代の方から直接、思いを聞く方が分かりやすいか。未熟な身であれこれ観念を語るよりも。一般論が繰り返し説かれるのはそこに真理が有るからよ)」

    本当は博士に聞く前に自分のパパとママに聞くべきだったと思う。でも自分の親に聞くのは凄く怖い。

    アグネス「ありがとうございます。肝に銘じます」
    タッド・エルスマン「よろしい。励みなさい。私からは以上です。トライン副長」
    アーサー「エルスマン博士、ありがとうございます」

    トライン副長はエルスマン博士からバトンを受け取ると纏めの言葉を述べる。

    アーサー「では特務隊アグネス・ギーベンラート、これを以て対ブラックナイツ心理戦対策の面談を終える。ここで話した内容を自分の中できちんと整理し、ブラックナイツ相手のみならず普段の生活や通常任務にも活かすようにしなさい」
    アグネス「はい!」

    お二人と敬礼を交わし、看護師さんと一緒に士官室を後にする。点滴はまだ3分の1ほど残っている。

    看護師「お疲れですね。もうちょっとで医務室ですよ」
    アグネス「はい。もうクタクタです」

    今夜はもう何も起きないで欲しい。と言うか直ぐに明日が来るのだが。
    ゴロゴロゴロゴロ…。車椅子で小走りに通路を進む。医務室の扉が見えた!

    アグネス・看護師「ただいま戻りました」
    看護兵・女性主治医「お帰りなさい…」 

    自動扉の先には当直の看護兵とヘロヘロになった主治医の先生。どうやら彼女に振られたクルーの面談は終了したようだ。目線を交わして励まし合う。後はベッドに乗り移るだけ―。

    看護兵「アグネスさん…。お疲れの所、言い辛いんですが…」
    アグネス「はい?」
    看護兵「仮眠前に業務用デバイスを確認するようにと」
    アグネス「大丈夫です。元よりその積もりでした」

  • 94二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 04:29:01

    半分嘘だ。今日ばかりは見ないで寝る予定だった。まあ、仕方ない。
    デバイスを起動する。メールは何通か入っているが、取り合えず一番新しいから開いてみる。

    どれどれ…何!カザフスタン独立政府の首都アスタナが陥落していた!

    ユーラシア連邦残留派の現地勢力が決起したのだと言う。おそらくファントムペイン含むブルーコスモス派勢力が主力。話に聞くミケール大佐のネットワークなのだろうか?

    独立派政府は空港から同国南東部の最大都市アルマトゥイに向け脱出、追撃を振り切って一応は安全圏に。首都で徹底抗戦されると困るから敢えて見逃された感も否めないが―。

    アグネス「(カザフスタン北部・北東部からはユーラシア連邦中部軍管区の部隊を主力とする地球連合軍がユーラシア連邦残留派住民の保護を唱えながら進軍を開始。10個師団から15個師団程度。各地の基地に残留していたユーラシア連邦軍も呼応して出撃中とのこと)」

    ザフト・汎ムスリム会議軍の中央アジア進駐に先手を打つための戦略的奇襲との見方。厳冬期近くに一斉反攻とは恐れ入る。

    アグネス「(地球連合にしてみれば。ここで蹈鞴を踏んでいたらユーラシア連邦から独立を図る諸勢力は揃ってプラント・反ロゴス同盟入り。彼らにしてみれば独立の為の反ロゴス同盟入りなのだろうけれど)」

    実際、ガルナハンでは汎ムスリム会議と詰めの協議をする予定だった。

    もしそれが達成されれば地球連合の旧大陸における影響力は吹き飛ぶ。ユーラシア連邦は西だけでなく南部地域も喪失して国家存続の危機だ。

    アグネス「(確かに『今仕掛けないで何時仕掛ける?!』と言う話ではある。エスカレーターのように上がり続ける絞首台に身を任せる程、彼らも無気力では無かったのだろう)」

    イシュタリアへの攻撃は助攻だったのか。しかしどうする?反ロゴス戦争の主戦場は北大西洋か地中海、ヘブンズベールかスエズだと思っていたのに。若しくはパナマ。

    アグネス「(逆か、大西洋連邦としてはヘブンズベースへの脅威を遠ざける為にもここでユーラシア連邦に攻勢に出てもらいたかった。工業地帯は生きている。ムルマンスク港も健在だ。全力のレンドリースを実行中なのだろう)」

  • 95二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 09:22:45

    ヘブンズベースが健在だと連合が元気だなぁ…

  • 96二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 17:16:44

    保守

  • 97二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 23:01:22

    保守

  • 98二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 01:58:31

    ただ、大西洋連邦国内の政治・経済はデュランダル議長のロゴス暴露以来、相当な混乱状態にある。大規模なデモが発生し、ロゴスメンバーが襲撃を受けていた。

    あの分では工場でも大規模ストライキが起きているかもしれない。と言うか確実に起きているだろう。裏庭の南アメリカ合衆国から労働者を調達して間に合わせているのだろうか。

    一方のユーラシア連邦はどうだろう?

    ザフトはユーラシア初め連合国の工業地帯に空襲を行っていない。積極的自衛権の大義名分に反するし、そもそも余力が無かった。ユニウスセブン落下がある意味、代わりの役割を果たしているが全滅した訳でもない。

    旧ロシア地域の工場はほぼ無傷だ。むしろ北米の方が被害は甚大だった。ユーラシア東側(旧EU地域以東)の一般民衆にとって戦争の惨禍はまだ数百、数千キロメートル先の話だ。

    勿論、前線の兵士には厭戦感情が蔓延しているし、民衆の反ロゴス感情のうねりは政府も無視しえないレベルだと思うが…。

    アグネス「(だからと言って、国家が敗戦を受け入れるかと言えば話は別よ。自国が解体して構わない等と考える為政者は居ない。国民の大多数も敗北は受け入れがたいと思っているはずだ。少なくとも私が逆の立場ならそうだ)」

    『ロゴスが悪辣な組織であることは分かった。パンと平和を寄越せ、悪党共を叩き出せ』でも『それはそれ、これはこれ』。自分の家族を失うのは辛い事だが、自国の弱体化と広大な領土の放棄をすんなり受け入れる事など出来ない。

    此方の面目の立つ、名誉ある和議を結びたい。少しでも有利な条件で講和したい。そう思うのは私も彼らも同じはず。

    外からは伺い知れないが、ユーラシア連邦国内では国民総動員令発布、高齢者や身体・精神障碍者まで搔き集めて一日12~16時間勤務体制で労働奉仕をスタートくらいしていてもおかしくはない。 工場は24時間フル回転、徴兵対象を学生や女性まで広げれば兵士の補充は十分できる―。

    ユーラシアを追い詰め過ぎたのが悪かったのだろうか。此方から見れば自業自得の感は否めないが。

    アグネス「(しかし、ここでプラントに連邦独立派を切り捨てる選択肢はない。そもそも進駐予定だったし、ポイント・オブ・ノーリターンはとうに過ぎている)」

  • 99二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 02:43:37

    地球連合加盟国にロゴス追放を確約させ、応じないなら組み伏せ、ユーラシア連邦は独立を望む地域を手放してもらう。彼らが休戦に応じればそれに越したことは無い。だが必要なら地球連合の解体まで戦う。

    せめて連合がロゴス構成メンバーの引渡しと政府・軍上層部からのブルーコスモス派一掃を確約し実行しないと話が進まない。それが我等の選んだ道だ。今更引き返せない。

    アグネス「(『向こうが和平のテーブルに着いてくれるなら』か―。そこを考えると…。今更ながらデュランダル議長の手腕は大したものだったわ)」

    『戦う者は悪くない、戦わない者も悪くない、悪いのは全て戦わせようとする者。死の商人ロゴス』
    『ナチュラルでもない、コーディネイターでもない、悪いのは彼等、世界、貴方ではないのだ』

    無論、それは彼のペテンだ。事実を含んでいるが真実ではない。とは言え、政治的方便が必要な時局もある。
    何処かで運命が異なれば、私達は彼の指揮の下でザフト・地球連合双方の軍旗を掲げながらヘブンズベースに攻め込む未来もあったかも知れない。

    馬鹿らしい!そんなグロテスクな絵には乗れない。回避できて幸いだった。そもそも議長は世界を無茶苦茶にした元凶の一人だ。悪辣さはロゴスとどっこいどっこいだ。

    今の状況は決してベストではない。でも相対的に悪いものでは無い。要は普通の戦争だ。敵主力を撃滅し、場合によっては需要拠点を占拠して相手に停戦を強いる。基本道理に行けば良い。

    ユーラシア連邦と地球連合軍が中央アジアを手放さない?なら叩き出すだけの事だ!
    どの道、ガルナハン=ファウンデーション・ショックが発生した時にユーラシア弱体化のトリガーは引かれていた。

    アグネス「メールの件は済みました。皆さんおやすみなさい」
    看護兵「お…。おやすみなさい」 主治医・看護師「おやすみなさい。ともかく休んで!」

    毛布に包まると瞼の裏にふとアスランとシンの顔が浮かぶ。デスティニー小隊に出撃命令が下るかも知れない。ヴォワチュール・リュミエールの絶大な機動力がある。核の無限の動力も。

    アグネス「(いや…たった3機で孤立して運用しても意味はないか…。敵軍を撃退しても、味方の歩兵が付いて来ないと奪還した都市や領土の占領・確保が出来ないから…)」

    むにゃむにゃ…。ボンヤリとした頭が結論を出した辺りで、私の意識はストンと落ちて行った。

  • 100二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 08:41:50

    保守

  • 101二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 12:58:24

    北米まで戦線を広げて占拠してたらただでさえ人数の少ないプラントから送る部隊や総督のポジションの政治家や軍人の人事がパンクするので地球全土を制圧するにしても必要最低限度傀儡にして現地の人に任せるしかない

  • 102二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 20:08:36

    この世界でもプラントはエラい泥沼にはまってるんだなあ…

  • 103二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 01:38:00

    保守

  • 104二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 04:10:44

    アーサー「コンディションレッド発令。本艦はこれより大気圏に突入する」

    アグネス「はぁ!」パチッ!

    突如、空から降って来た声で意識が急覚醒する。艦内放送?!何時間経った?もう地球か!

    看護兵「アグネスさん!落ち着いて」
    アグネス「あっ…。はい」

    私を宥める声、止めて下さった、ありがたい。もし飛び起きればまた足に激痛が走る。

    アーサー「プロトコルR2発令。全艦、大気圏突入に備えよ。冷却システム、オンライン。融除シールド作動」

    上体を起こして医務室内を見回す。居るのはオンの看護兵一人のみ。残りの方、エルスマン博士や軍医殿達は仮眠中らしい。面談だなんだと大忙しだった。当然だわ。

    看護兵「アグネスさんも、もう暫く休んで下さい。これ博士と主治医の先生、軍医殿の厳命ですから。言うこと聞いてくれないと私が怒られます」
    アグネス「ああ…。はい。それはもう」

    私も、もう少し休みたい。艦内放送、切っておいてくれないかな。『コンディションレッド』を聞けば脳内の撃鉄が上がるように訓練されているんだから。

    アグネス「(まあ、そうも言っていられないか。耳栓しておけばよかった…。伝導するから無意味か)」

    ただ、最低限、把握しておきたい。体を横たえる前に業務用デバイスを起動と。

    看護兵「アグネスさん!」
    アグネス「すみません。少しだけ…」

    お小言を受けながら戦況を確認する。

    地球連合軍主力は旧カザフスタン北部、コスタナイ州、北カザフスタン州、パブロダール州、アバイ州より侵攻中(彼らの立場では国内進駐)とのこと。

  • 105二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 04:27:59

    コスタナイ市、ペトロパブル市、ペトロパブル市、セメイ市では民兵組織が武装蜂起。現地政府軍と交戦中。民兵にはブルーコスモス系武装組織も加わっている模様。ユーラシア連邦モビルスーツ部隊も各都市の空港を強襲。市街地戦になっている。

    アグネス(幸いな事に。現時点でカザフスタン北部の主要都市は何れも陥落までは至っていない。首都アスタナ陥落が引き金になってオセロゲームのように引っ繰り返るかもと心配したのだけれど、意外に粘っているわ)」

    そのアスタナにしても全域が陥落した訳ではなく、未だ戦闘が続いているらしい。

    やはり現地住民の対ユーラシア独立感情は相当根強いのだろう。あるいは地球を牛耳る大西洋連邦への反感の方が大きいのかも知れない。現地の独立政府軍は頑張って粘れば味方の増援が来ると希望を持っているのだろう。

    『連合軍の地上侵攻部隊は都市からまだ距離がある。先頭部隊がようやく国境を超えた所だ。ウィンダムやダガーLが突出して降り立っただけでは都市の占領は出来ない』と。

    アグネス「(でもスローターダガーは脅威よ。他のモビルスーツ部隊にしても、連合軍が人道的配慮をかなぐり捨てた攻撃に出れば弱小な現地軍に成す術はない。どう転ぶか、ここからでは何とも言えないわ)」

    一方、汎ムスリム会議はトルクメニスタン独立政府の要請を受諾し遂に北進を開始したとの報。陸路は首都アシガバードとマリに、海路は港湾都市トルクメンバシに向け進撃している。此方は現地政府と軍が出迎える形になっている為、今の所、抵抗を受けてはいない。

    航空部隊はザフトの支援の下、既にタークメンバシー空港とアシガバード空港に降り立った。空路で地上部隊が続々と入城している。トルクメニスタン方面の航空支援には月軌道艦隊からヴェステンフルス小隊も派遣されている。

    ヴェステンフルス小隊も派遣されている!?

    アグネス「(あー。ハイネ先輩にアスランとシン…。出撃を命じられたのね。私達より一足先に大気圏降下か…)」

    アグネス「ハイネ先輩達とはガルナハンで現地合流でしょうか?トルクメニスタンに一区切りついた頃に」
    看護兵「さぁ…。モビルスーツ隊の事は私には…。あと、そろそろ寝て下さい」
    アグネス「あっ…。はい」

    少し語気が強くなった彼女に急かされ、もう一度毛布に包まる。瞼を閉じても意識は直ぐに落ちてはくれない。

  • 106二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 11:40:21

    保守

  • 107二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 17:25:08

    保守

  • 108二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 23:33:33

    保守

  • 109二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 03:40:58

    中々、意識が落ちてくれない。

    デスティニー小隊―ヴェステンフルス小隊の3人が気掛かりだ。間違いなく疲労が蓄積されている。負傷している私ほどでは無いにせよ。

    アグネス「(ユーラシア連邦軍、ファントムペイン等地球連合の部隊が各地に取り残される形で残留している。ブルーコスモスも何処に潜んでいるか分からない。それを思えば必要な措置だとは思うけれど…)」

    幸いな事にと言うべきか。アシガバードと並ぶ第一目標、トルクメンバシの地球連合軍は無力化済みだ。軍港のカスピ海小艦隊分隊と陸上守備部隊はガルナハン戦後に私達、ミネルバモビルスーツ隊が襲撃、殲滅している。

    あの布石がまさかこんな形で生きようとは思わなかった。現時点でカスピ海の制海権はザフトが抑えている。

    アグネス「(ユーラシアが部隊を再配置したのなら話は異なる。でもさっき確認した限りでは大丈夫そう。現地の軍・治安部隊も独立政府に付いたらしい)」

    ただ、そこから先はどうなるか分からない。プラントにしても中央アジア進駐は『これから協議を詰めよう』と言う所だった。なし崩し的に始まって本国はパニックだろう。

    そもそもザフト軍主力は地中海(スエズ攻め)とジブラルタル(ヘブンズベース攻略部隊)に集められている。あとハワイとオーブを睨んでカーペンタリア。

    ユーラシア連邦南部は何方かと言えば優先度は低かった。ファントムペイン・テロリスト討伐と同盟国のお付き合いくらいの積もりだったと思う。本当に困ったわ。

    アグネス「(まあ、私が困っていても始まらない。きっと何とかなる!ハイネ先輩達は災難だけど、帰艦したらしっかり睡眠をとって貰おう。私ももう少し寝よう)」

    そう思っても…駄目だ。眠れない。そもそもミネルバは大気圏降下中だ。緊張するなと言う方が無理と言うもの。
    人工重力により負荷は感じないが、肌感覚で分かる。艦は高度をみるみる下げ、灼熱の大気を押し分けている。

    熱圏を突破し、今はちょうど中間圏に入った所だろうか。

    アグネス「(直に成層圏に達する。対流圏に入って雲間を覗けば…)」

    その先は広大なキプチャック草原と中央アジア砂漠地帯、中央ユーラシアの大地に抱かれた世界最大の湖カスピ海を見渡すことが出来る。

  • 110二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 04:03:55

    あの湖はアジアとヨーロッパを分ける境界線の一片。その線はカラ海、ウラル山脈、ウラル川、カスピ海、大コーカサス山脈、黒海、ボスポラス=ダーダネルス海峡と続く。

    地果て海尽きる所まで―。今日は何処まで見えるのだろう?

    アグネス「(両大陸の境と言えばファウンデーション王国首都イシュタリア(旧名アティラウ)もそうだわ。ウラル川の両岸に市街が広がっているから)」

    カスピ海北部の冬季平均気温は-10度まで下がる。11月から3月にかけて水面は凍結し、氷の厚さは2mに達する。

    厳しい気候だ。中央アジアは総じてそうだが…。今晩、いや昨夜に攻撃を受けた市民や難民はどうなっているのだろう?正直、あまり想像したくない。軍人に有るまじき態度であることは分かっているけれど。

    アグネス「(人の心配をしている場合じゃないわ。脳内物質の分泌が止まらない。これまで何度も何度も敵前降下をしたツケだ)」

    もうこれはこういうものだと観念した方が良いだろう。職業病と割り切ろう。

    それでも呼吸を整え、気を静め、漸くウトウトしかけた頃に―。

    アーサー「本艦はこれよりカスピ海、ガルナハン沖に着水する。全艦、衝撃に備えよ。繰り返す。本艦はこれより着水する。衝撃に備えよ」

    艦内放送!また目が覚めたわ。もう散々だ!

    看護兵「とう!」

    毛布の下で憤然としていると、掛け声を上げた看護兵が私を押さえにかかる。『衝撃に備えよ』だから。
    私の健康と心理面を考慮してベルトによる拘束をしないでいてくれたのだ。

    アグネス「ありがとうございます」
    看護兵「いいえ。頑張りましょう」
    アグネス「はい」

  • 111二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 04:21:35

    彼女の献身を目の当たりにし昂った心が解けて行く。

    見っともない。ただの八つ当たりだ。大気圏降下が成功した事に一安心するべき。ミネルバはザフト唯一の惑星強襲揚陸艦だ。私達は感覚が麻痺しているが本来、戦闘艦の大気圏降下は並大抵の事ではない。

    アグネス「(そう言えば乗艦しての着水は久しぶり。最近はモビルスーツで突っ込むことが多かったから)」

    確かユニウスセブン落下阻止作戦で南太平洋に降りて以来だ。ちょっとドキドキするわ。

    身構えて暫し、ミネルバ全体に軽い振動が伝わる。艦底が水面を割った!水圧が押し寄せる。これは…。

    アグネス「軽やかな着水ですね。流石、マリクさん。水飛沫の上がり具合も見たかったな…」
    看護兵「上手ですよね。また見る機会も有りますよ」

    ともあれこれでガルナハン(西暦時代のアスタラ)には着けた。
    ミス・コニール達は元気だろうか。

    看護兵「アグネスさんは歓迎式典はお休みで良いそうです。もうちょっと寝られます」
    アグネス「そうですか…。街の人達の事も気になっているのですが…」

    少し寂しい。歓迎式典には街の人達も出席するはずだ。
    お節介と分かっている。でも彼女達が戦後も元気に暮らしているか確認したかった。

    看護兵「きっと新型火力プラントの部品を下ろしている間に時間が取れますよ」
    アグネス「そうですね。うん…」

    カナーバ前議長のご様子も気掛かりだ。いろいろ有り過ぎた。会議に万全の状態で臨めるだろうか。
    でも仕方ない。私がここで考えた所で―。

    メイリン「レジェンド、インパルス、セイバーパイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り返す。レジェンド・インパルス・セイバーのパイロットは搭乗機にて待機せよ」

  • 112二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 10:26:18

    保守

  • 113二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 17:41:48

    保守

  • 114二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 20:43:10

    うーん容赦なし
    ギーベンラート小隊って事になるのか?

  • 115二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 04:22:12

    看護兵「あれ?何で?」
    アグネス「はぁー。やっぱりそうなるか」

    驚く看護兵の顔、『事実上のドクターストップが掛かっているのに』と言うことね。

    私の方は予感的中と言った所だ。何だか実家に帰ってきたような気さえする。

    アグネス「(なんて嘘よ。もう本当に止めて欲しい。行けと言われれば行くだけだけれど)」

    別の心配も頭を過ぎる。
    今の艦内放送、お休みになっているドクター達と看護師さんにも聞かれてしまっただろうか?
    もし私のせいで仮眠が妨げられたら心苦しい。トラブルが起きる前に早くモビルスーツに乗り込んでしまおう。

    ベッドの上をズリズリ這う。まったくこの足は何とかならないものか。

    アグネス「看護兵さん、パイロットスーツの着替えを手伝って下さい」
    看護兵「元よりその積もりです。あと…これ栄養ゼリーです」
    アグネス「ありがとうございます」

    車椅子に滑り込み成功、座ると同時にゼリーを飲み干す。本当は専用の朝食を食べている身なのだけれど、もうあれこれ考えるのは止めよ。業務用デバイスを抱え込んで出発準備は完了。

    アグネス「では行きましょう」
    看護兵「はい。アグネスさん、これ。入り畳み式電動車椅子です。レジェンドに積めますか?」

    看護師さんが引張り出してくれた物を見てちょっと考える。確かに今乗っているタイプは嵩張る。これなら―。

    アグネス「押し込めば。ご配慮、感謝します」
    看護兵「いいえ。良かった」

    看護兵は畳んだ車椅子と栄養ゼリーと特殊飲料水の入ったバックを担ぎ上げる。衛生兵は力持じゃないと務まらない。

  • 116二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 04:39:34

    彼女とお互い肯き合って一呼吸を置き、よーいドンで医務室を飛びだす。
    そのままの勢いで更衣室に駆け込み、ちゃっちゃと着替えを終わる。

    ルナマリアは先に行ったみたい。皆を追いかけなければ!
    畳んだ制服を持ってモビルスーツ格納庫に急降下だ。何だか降りてばかり。これから飛び立つのだからイーブンと思う事にする。

    エレベーターは格納庫に、下りて一番にすることは挨拶だ。

    アグネス「おはようございます、エイブス班長。整備班の皆さん、おはようございます。出撃命令があるかも。よろしくお願いします」
    マッド・エイブス、整備班一同「おはよう、アグネス。任せろ!」

    見渡して見るにヴィーノとヨウランが居ない。今はオフのようだ。

    オンの人達の表情は、案外しゃっきりしている。隈が出来ている人もいるが目には力が籠っている。面談の成果だろう。とは言え私達が出て行った後、しっかり休んで欲しい。

    さて、済んだ。リモコン、ポチ!ゴロゴロゴロゴロ―。レジェンドの足元に走り寄り大型昇降機に乗り移る。搭乗の補助の為、看護兵も一緒だ。

    看護兵「よっこらしょ」
    アグネス「どっこいしょ」

    何と無く口調を合わせてコックピットに移してもらう。軍服と専用食等が入ったバック、折り畳み式電動車椅子は座席の後ろに積んで固定する。

    地面に降りる機会は無いかも知れない。それならそれで構わない。と言うかその方が良い。

    アグネス「看護兵さん、ありがとうございます。行ってきます」
    看護兵「ご武運を!」
    アグネス「貴女にも!」

    コックピット開口部を閉じる。

  • 117二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 04:44:04

    ちょうどそのタイミングで、膝に置いていたデバイスに着信表示が映り込む。

    秘匿通信、このパスは国防委員会からだ。

    アグネス「はい。おはようございます。特務隊アグネス・ギーベンラートです」
    クラーゼク「おはよう。ギーベンラート女史。昨晩の働き、誠にご苦労だった」
    アグネス「ありがとうございます」

    艦内のクラーゼク国防委員からだったわ。ブリッジでは無く自室から通話している。

    クラーゼク「状況は逼迫している。現地情勢を君は何処まで把握しているか?」

    何処までとはどこから何処までか。こういう漠然とした聞き方は困るわ。ともかく整理してお話ししよう。

    アグネス「ファウンデーション王国の独立に触発され、ユーラシア連邦南部、つまり西暦時代の中央アジア5か国―ファウンデーション王国領を除くカザフスタン、キルギス、東アジア共和国領のゴルノ・バダフシャンを除くウズベキスタン、そしてトルキスタンには現地住民により連邦から独立を目指す自治政府が樹立されました。
    現地のユーラシア連邦軍、即ち中央アジア軍管区とトルキスタン軍管区の諸部隊の過半も独立政府側に付きました。
    しかし一部の部隊と中央アジアを本拠とするファントムペイン、ブルーコスモス派武装グループはそれに抵抗中です」

    プラント及び汎ムスリム会議は今さら言うまでも無く独立政府を支援する立場だ。

    我が国は中央ユーラシアからロゴス・ブルーコスモスの影響力を一掃したい。
    汎ムスリム会議は元からイスラム教徒多数派の中央アジアと地理的・宗教的繋がりが強い。各国独立の暁には連合国家たる自国に加盟して貰えば良い。

    アグネス「プラントと汎ムスリム会議は共同して中央アジア進駐を計画していました。今回の地球連合軍による中央ユーラシア反攻作戦はその矢先に起きました」

    クラーゼク「そうだ。ユーラシア連邦中央軍管区を主力とした地球連合軍は『連邦残留派住民の保護と分離主義者の鎮圧』を名目にカザフスタン北部・東部に進撃。各地に点在したユーラシア残留派部隊と武装組織も連携。我々も中央アジア進駐を前倒しにせざるを得ないだろう」

    クラーゼク国防委員は語尾を曖昧にしている。本当に前倒しにするか否か、最高評議会で決を採っていないようだわ。

  • 118二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 05:10:47

    クラーゼク「―ともあれ。汎ムスリム会議と直接国境を接する旧トルクメニスタンと旧タジキスタン、旧ウズベキスタンのスルハンダリヤ州は早急に確保しなければならない。汎ムスリム会議軍は北進を開始している。進軍には我等、ザフトの支援が不可欠だ」

    そこまではもう知っている。
    しかし朝一でこんな話を持ち掛けてきた以上、まだ何かあるのだろう。不自然に言及されていない地域が有る。

    アグネス「カザフスタン独立政府はいかがなさいますか?」
    クラーゼク「そう…。そのことだが…。我々としてはこう…。少し長引かせてほしい。いや!表現が悪かったな。より正確に言えば中央アジア戦線により多くのユーラシア軍を誘引したいと思っている。特に極東軍管区から!」

    何やら国家機密に該当しそうなことをペラペラ話し始めたわ。
    私に言ってどうするのか。お喋りの相手が欲しかった訳でもあるまい。

    クラーゼク「これは国防委員会内々の話なのだが…。東アジア共和国が対ロゴス同盟に加入する話が有っただろう?海軍をジブラルタルに派遣してくれると言う」
    アグネス「伺っています。てっきり立ち消えになったと思っていました。後に政変もありましたから。それに東アジア共和国は北京と上海が壊滅的、消滅的被害を受けています。痛手から立ち上がれていないのかと」

    あの時と今では状況が異なるわ。当時はデュランダル議長失脚前だった。窓口と言うかトップが変わっているのだ。

    クラーゼク「実は伏せて交渉を続けていた。ガルナハンの会議に合わせて東アジアから密使が派遣される手筈になっていた。何を隠そう、私はその協議の為に来たのだ」

    そすか。出港する前から、私に噛んで含めるような言い方をしていたのはそれが理由か。
    しかしこの話、ちゃんと最高評議会やカナーバ前議長と擦り合わせしているのだろうか。
    君子危うきに近寄らずと決め込んで良いものだろうか。

    クラーゼク「まだ交戦国だから―私達も共和国の戦力を正確に測れてはいないが。おそらく北海艦隊と東海艦隊の半分以外の艦隊は無事なのだろう。内陸部の部隊も多分」

    アグネス「(おそらく?多分?まあ、向こうも簡単には知らせないか)」

    ただ、ここまで話を聞いて大体の事情は察せたわ。ユーラシア極東軍管区から部隊を誘引どうこうと言うことは―。

  • 119二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 05:44:50

    クラーゼク「ファウンデーション王国独立の余波は極東にも及んでいる。旧モンゴルと黒龍江と北海道にユーラシアから独立の気運が高まっている。東アジア共和国にしてみれば『構成邦の統一』のチャンスだ。地域独立後の住民投票で東アジア本土と日本に合併しようと。モンゴルは中立地帯にする案が浮上している」

    気宇壮大で結構な事だ。何だかなぁ…。

    アグネス「プラントはそれを支持し必要なら援助する。引き換えに東アジア共和国は世界安全保障条約機構を脱退して連合陣営を離脱。プラントと単独講和に踏み切る。そして矛を返してロゴス・ブルーコスモス陣営に宣戦布告すると」
    クラーゼク「概ね、そう言うことだ」

    なるほど。全ての道はヘブンズベースに続く。
    もっとも連合が本拠地をパナマ等に下げた場合、どうなるかは分からない。今考えても仕方ないかも知れないが―。

    アグネス「(しかし現金なものね。東アジア共和国は元より戦線離脱と対ロゴス同盟参加を企図してはいたのだろうけれど。予想以上のユーラシア弱体化を目の当たりにして行け掛けの駄賃を受け取りたいと言い出したのね)」

    勿論、彼らにも言い分はあるだろう。ここで取れるものを取っておかないと東アジア共和国は大損だ。

    ユニウスセブン落下テロで二大都市を吹き飛ばされ、大西洋連邦から強いられたも同然の開戦で泣き面に蜂。何時まで経っても復興に本腰を入れられない。少しでも『元を取りたい』と思うのは自然な成り行きだ。

    クラーゼク「その『矛を返す』タイミングを我々と詰めている所だった。当方としても中央アジアの情勢を大変遺憾に思う。こんな事態を望んでいた訳じゃない。だが、これはまたと無い好機だ。ユーラシア・連合自ら脇腹を晒してくれたのだから―」

    そこまで話して国防委員は一度、言葉を区切る。ああ、なるほどね。

    クラーゼク「この辺りの機微を君も理解して欲しい。勿論、プラントは旧カザフスタン独立を断固として支持する。見捨てはしない。あくまでリソースの優先順位の話だ。
    現実問題、君達には過大な負荷が掛かっている。ザフトとしても精鋭を使い潰すわけには行かない。大規模な降下作戦の準備も間に合わない」

  • 120二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 06:02:56

    要は今からの出撃、『張り切りすぎなくて良い』と言う意味ね。
    『旧カザフスタン国境の敵軍を一掃してやる!』となるのはまだ早いと。何だかモヤモヤする。

    アグネス「(私は云わば攻撃型原子力潜水艦の艦長に当たる。戦略上の意図を知らされるのは当然か)」

    でも些か政治的方便の感も拭えないがけれど…。この方の表情から察するに―。

    クラーゼク国防委員は私達パイロットが生身の人間である事も考慮してくれている。これまではひたすら無茶振りされたと思っていた。昨夜、同じ艦で危機を乗り越えた経験が目の前の紳士に何かしらの影響を与えたのは確かなようね。

    でも一応、確認しておこう。一人で抱え込んだら自爆する。

    アグネス「このお話、グラディス特務隊長とトライン副長、ヴェステンフルス小隊長はご存知でしょうか?」
    クラーゼク「特務隊長タリア・グラディスと特務隊ハイネ・ヴェステンフルスには伝達してある。追って指示があると思う。先ずはトルキスタン軍管区の解放に注力してくれ」

    訂正、やっぱり無茶振りは健在なようだ。さも当然のように仰る!

    ユーラシア連邦トルキスタン軍管区だけで相当な広さだ。頭の中の地図の縮尺が合っていないのか?
    現地政府が味方で同盟国の大軍が後方から進軍して来るとは言え、決死の覚悟で当たらないと本当に死んでしまう。

    アグネス「(とは言え。核動力であるサードステージシリーズ4機を戦略兵器運用部隊と捉えれば。強ち過大な期待とも言い切れない。実際、コンクルーダーズのコンセプトは正にそうだった。大幅にスケールダウンしているけれど)」

    あれこれ考えても仕方ない。やれと命じられたら、やるのみよ。余勢をかってカザフも助けよう。
    ミネルバと現地を往来してコンディションを整えながらね。

    アグネス「了解しました。目前の任務に集中します」
    クラーゼク「良し。武運長久を」
    アグネス「はい。ありがとうございます」

  • 121二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 08:12:02

    誰も彼もが虫のいい話に見切り発車で食い付いてる…
    トップが代わっても戦術ミネルバなのは、元々精鋭思想が強い国だからか?

  • 122二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 14:37:54

    保守

  • 123二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 19:39:46

    保守

  • 124二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 23:45:53

    >>121

    これでもまだ原作ミネルバやアークエンジェルよりも僚機が多い方という

  • 125二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 05:30:00

    通信を終え業務用デバイスを落とし、座席の後ろに収納する。さて、これで出撃準備は整ったわ。

    程なくコックピットデバイスに通信が入る。ユーラシア連邦トルキスタン軍管区の戦況報告だ。

    ユーラシア連邦独立防空軍はウズベキスタン内に集結している。主力はウィンダムとダガーL、スカイグラスパーだ。制空権を取られてしまった。彼らは攻勢開始後、ウズベキスタン独立政府支配領域の各都市を襲撃している。

    更に東部の都市フェルガナに籠っていたユーラシア軍空挺部隊は首都タシケントを強襲、空挺作戦が決行されている。空挺部隊の他、ストライクダガーも連隊規模で降下、首都では激しい攻防戦が生じている。

    アグネス「(これは最悪、タシケントは落ちるかも知れない…。厄介ね)」

    汎ムスリム会議領アフガニスタンと接している南部のスルハンダリヤ州、州都テルメズ市近郊にはハンニバル級を旗艦とした機甲部隊が陣取っている。

    この部隊のせいで対ロゴス同盟軍とウズベキスタン現地政府の陸路の連絡は遮断されてしまった。

    部隊の主力はリニアガン・タンクとストライクダガー。ハンニバル級にデストロイが搭載されているかは不明。ただ、あの艦単体でも一般部隊にとっては十分な脅威だろう。

    アグネス「(旧ウズベキスタンのスルハンダリヤ州は、先ほどクラーゼク国防委員が『まず確保したい』と仰っていた地域の一つ。不味い事態ね)」

    一方、タジキスタン地域は比較的静穏だ。ユーラシア残留部隊の主力が歩兵だからだろう。彼ら3個師団は基地に立て籠もって援軍待ちのようだ。

    では、デスティニー小隊が駆けまわっている旧トルクメニスタンはどうなっているのかと言うと―。

    ユーラシア軍歩兵師団によりトルクメナバート市が陥落、ウズベキスタン国境近くの同国第二の都市だ。これは…いよいよ不味い。ウズベクへの道がまた閉ざされてしまった。

    極めつけは旧トルクメニスタン南東部マル州セルヘタバット市をユーラシア連邦軍に抑えられている事だ。都市近郊にハンニバル級を旗艦とする2個機甲師団が配備されている。

    アグネス「(セルヘタバット市はグシュギ川峡谷に位置する小さな町。汎ムスリム会議領アフガニスタン国境に位置する。かつてロマノフ朝ロシア帝国の大陸南下政策の前哨基地であり、ソ連のアフガニスタン侵攻の際の重要拠点でもあった)」

  • 126二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 05:45:55

    ユーラシア連邦も捨て置くはずがなかった。彼らの狙い通り、汎ムスリム会議のアフガニスタン方面からの進軍は頓挫している。

    なおハンニバル級のデストロイ搭載の有無は不明とのこと。あの機体は造るのも運用するのも多大な労力とコストが掛かる。おいそれとは行かないはずだが…。

    アグネス「(この戦局、ユーラシアは腹を括って戦争経済の破綻を省みず、あの機体の大量生産に踏み切った可能性もある。配備が間に合ったか否かは知りようがないけれど)」

    大西洋連邦の超大規模な―ほぼ無限と形容できる―援助もある。油断できない。

    とは言え、このままでは大西洋連邦も国家破綻を免れ得ない。数年、下手をすれば十数年分の国力と国民の生命・財産をまるで薪をくべるように注ぎ込んでいる。

    ロゴスに何処までお付き合いする積もりなのだろうか。軍部にブルーコスモスシンパが大勢いる以上、切れないのか。

    閑話休題。今は目前の状況に集中しよう。

    此方にとって戦況は芳しくない。プラント・汎ムスリム会議連合軍の北進で、成功しているのは旧トルキスタンの南部中部からカスピ海沿岸、首都アシガバードとカスピ海沿岸都市トルクメンバシを繋ぐラインまでだ。

    両都市の間に位置する都市ギジラルバートにもユーラシア連邦軍1個機甲師団が残留していた。これは先発したデスティニー小隊に撃破されている。残敵は現地政府軍と汎ムスリム会議軍が掃討中とのこと。

    これが唯一の朗報と言える。あとは無茶苦茶だ。とてもカザフスタン方面は追いきれない。

    確認が終わったタイミングで回線モニターが点灯し、グラディス提督のお顔を映し出す。別モニターにルナマリアも。先ずは互いに敬礼する。

    アグネス「(提督、早速目の下に隈が出来ているわ。お化粧直しの暇も無いものね)」

    ルナマリアも疲れていると思うが顔色は良い。私達はまだ10代だもの。グラディス提督もまだ一応、20代。まだまだ若いけれど。

    タリア「アグネス、ルナマリア、ショーン。おはよう。着いたばかりで悪いけれど。旧トルクメニスタン・マル州セルヘタバット市に向け出撃を命じます。当地の敵軍を撃滅し汎ムスリム会議アフガニスタン方面軍の北上作戦を支援するように」
    アグネス、ルナマリア、ショーン「了解!」

  • 127二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 05:54:09

    私達が向かう先はセルヘタバット!ここガルナハンから直線距離で1240㎞以上ある。

    核動力のレジェンド、プラント本国L4宙域からカーペンタリアに飛んで見せたセイバーは大丈夫だ。
    ただ攻撃に使う分を加味するとインパルスの電力が心許ない。必要とあれば現地部隊の電源車を借る必要がある。

    アグネス「(私達にこの命令が下ると言うことは、ヴェステンフルス小隊はウズベキスタンに派遣されたと言うこと。首都タシケントの失陥だけは防ぐ必要があるから)」

    さて、機体をカタパルトへ。飛び立つ場所は分かった。そこで為すべきことも。

    メイリン「カタパルト推力正常。全システムオンライン。針路クリアー。レジェンド、発進どうぞ!」
    アビー「インパルス、発進スタンバイ。シルエットはフォースを装備しています。全システムオンライン。進路クリアー、フォースインパルス、発進どうぞ!」

    アグネス「アグネス・ギーベンラート、レジェンド、出ます!」
    ルナマリア「ルナマリア・ホーク、フォースインパルス、行くわよ!」

    両カタパルトからインパルスと揃って出撃、すぐ後ろからショーンのセイバーも発進する。

    カオス・アビス・ガイアは直掩と予備兵力としてミネルバに残る。デイル達が居るなら安心して旅立てるわ。

    上空で3機編隊を組んで機体を旋回、ガルナハンの市街地が右下に見える。前来た時より綺麗になっている。これから国際会議と言う点を割り引いても―。

    ミス・コニール達が復興の歩みを弛まず進めていたことが一見して理解できる。
    今、街は朝日を浴びて起き出した頃、一番私が好きな時間帯だ。

    アグネス「(この一撃が我等にとって創世の暁にならんことを!ザフトとプラント、戦友と友邦の為に!)」

    目指す先は東南東の方角遥か彼方。少し長丁場になるかも知れないが頑張ろう!

  • 128二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 12:40:37

    保守

  • 129二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 20:51:01

    保守

  • 130二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 00:16:46

    保守

  • 131二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 04:20:53

    機体の速度を徐々に亜音速まで引き上げる。3機小隊で飛ぶから調整が難しい。
    セイバーの機動力を殺してしまうのは惜しいが止むを得ない。

    アグネス「(亜音速でセルヘタバット市まで約83分。ほぼ全てが汎ムスリム会議領空内であることは幸いだわ)」

    問題はその後だ。現地のハンニバル級にデストロイが搭乗していれば、大変な事態になる。
    まだ情報は届いていない。何とも言えない。連合軍とて切り札は最後まで取っておくだろう。

    ルナマリア「アグネスも『MX-RQB516・ビームランス』を持ってきたのね」
    アグネス「勿論よ。この武装を国防委員会に激押ししたのは私自身だし。あんたも忘れていなくてよろしい」
    ルナマリア「謎の上から目線!?まあ、良いけど」

    レジェンドとインパルスはこの武器を持ってきた。ミネルバに乗り込むセカンドステージシリーズの基本装備だ。

    ビーム兵器無効化装甲を搭載した敵機が何時出現するか分からないから。それに対デストロイ戦が生じた場合も心強い武器となるだろう。

    ショーン「変形機構の都合上、セイバーは持って来られません。ガイアも。その時はお願いします」
    アグネス「了解。ちゃんとフォローするわ」

    僚機とコミュニケーションを取りながら、カスピ海上空を南南東に横切って進む。
    カスピ海沿岸平野、ギーラーン州の州都ラシュトの外港バンダレ・アンザリーが後ろに吹き飛んでいく。

    沿岸平野の向こう側には雪に覆われたアルボルズ山脈、遥か南東に最高峰ダマーヴァンド山が聳え立っている。

    多くの神話や民話に彩られた重要な山だ。邪悪な王ザッハークが山中に鎖に繋がれていると言う。両肩に蛇を生やしているんだとか。

    アグネス「(彼は終末の時に解き放たれ、生き物の3分の1を貪る。英雄に打倒される事が前提なのだけれど―)」

    私達が生きるコズミック・イラ、別けても70年代は正に終末論的世界だ。我等はロゴス・ブルーコスモスと地球連合相手の戦いで手一杯。とても邪竜退治まで請け負うことはできない。それは地元の方にお任せしよう。

  • 132二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 04:49:49

    アグネス「ブリッジ、小隊はラムサール沖を通過しました」
    メイリン「了解です」

    湿原保全に関する国際条約が締結された地だ。てっきり広大で美しい干潟が広がっているものと思っていた。まさか湿地が無いとは!

    ショーン「カスピ海上空に敵影無し。飛び越えては来ないみたいですね」

    ショーンから入電、空戦専用機のセイバーはこの作戦の要だ。大いに頼りにしている。

    アグネス「了解。味方の偵察機も飛んでいる。連携を取りつつ進みましょう。これから旧トルクメニスタン領に接近する。領内では戦闘が続いている。警戒レベルを上げよ。」
    ルナマリア・ショーン「了解!」

    マーザンダラーン州の州都サリー沖を通過した。もうカスピ海の端が迫っている!
    アストラハンとタゲスタンのユーラシア防空部隊に動きは無し。おそらく戦力温存を図っている。当然の判断だろう。

    アグネス「ブリッジ、小隊はカスピ海を横断。ゴレスターン州上空に入りました」
    メイリン「了解」

    ここで狭い平原を横切り、アルボルズ山脈を飛び越える。左手にはコペトダグ山脈が連なる。汎ムスリム会議イラン領と旧トルクメニスタン国境に位置する山々だ。

    汎ムスリム会議は事前に国境地帯に軍を集結させては居た。あの山脈の積雪量は少ない方だ。それでも陸上部隊の苦労は並大抵のものでは無いだろう。

    アグネス「(この戦いの真の敵は地球連合ではない。地理・自然環境よ。険しい山脈、広大な砂漠、厳しい気象条件等、そもそも厳冬期に大規模な軍事行動を発動するなど、本来あり得ない。地球連合側にも言える事なのだが―。)」

    ザフト・汎ムスリム会議連合軍の場合、国境地帯に急峻な山脈が連なっている。守る側なら自然障壁になってくれる。でも進む側だと厄介極まる。『壁』を越えた向こうの現地政府が味方なだけましだ。

    アグネス「ブリッジ、現在地はラザヴィー・ホラーサーン州の州都マシュハド上空。セルヘタバット市まで残り270㎞、18分。戦闘に備えます。偵察部隊と戦術リンクを構築」
    メイリン「了解!現地の汎ムスリム会議軍には連絡ずみです!」

    さて、いよいよか―。

  • 133二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 12:43:35

    新しい機体、どこまで乗りこなせるか?
    大気圏内だからドラグーンじゃなくて連装砲塔としての使用がメインになるか。

  • 134二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 19:21:28

    保守

  • 135二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 23:56:55

    保守

  • 136二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 05:43:44

    コペトダグ山脈の東端に差し掛かる。ヒンドゥークシュの山並みが目前に迫っている。

    アグネス「AWACSディン、此方レジェンド。応答願います。セルヘタバット市周辺の戦況報告を願います」
    AWACSディン「了解。現在、汎ムスリム会議軍とユーラシア連邦軍は国境付近クシュク川の両岸で対峙。我等は左岸、敵軍は右岸。当方の渡河作戦は失敗した。戦闘で橋も崩落、汎ムスリム会議側のトルグンディ市とセルヘタバット市を結ぶ道路A338線と鉄道も途絶した」

    最悪じゃない。汎ムスリム会議軍は国境を出て直ぐ躓いたと言うことになる。せめて橋は抑えて欲しかった。中央アジアの重要な動脈が断たれた。

    AWACSディン「敵軍の配置は1個機甲師団と2個機甲旅団がクシュク川右岸に布陣、峡谷の西出口を塞いでいます。主力はリニアガン・タンクとストライクダガーです。ストライクダガーは約100機。ガンタンクは400両で川岸を固めています。ハンニバル級はやや後方に位置しています。残りの2個機甲旅団はセルヘタバット市域東端を守備中です」
    アグネス「了解。味方は?」
    AWACSディン「山岳部隊と機械化歩兵が中心の4個師団。戦闘車両に自走砲、ブルドック。後方から増援に機甲師団が1個。戦闘ヘリ2個連隊も出動」
    アグネス「了解!」

    これは不味い!下げないと味方が全滅するかも知れない。ミネルバブリッジに緊急通信を入れる。

    タリア「アグネス、何?」
    アグネス「クシュク川左岸の友軍を一旦、撤退させるべきです。デストロイが出れば一溜りもありません。私が直接言えば越権になります!」
    タリア「彼方も承知の上よ。逆侵攻の恐れがある。敵軍の渡河を防ぐ為、後退はあり得ない。貴女達が頼りよ。急かさないけれど、急ぎなさい」
    アグネス「了解!」

    手短に返事をして通信を終える。私が考える事ぐらい。現地司令部もとっくに検討済みか。

    確かに本当にデストロイが出るなら多少後退した所で意味はない。A338線に沿って引き上げれば即、市街地だ。敵が追撃して来れば民間人が巻き込まれかねない。

    しかし、急げと言われてもこの速度が限界だ。セイバーだけなら先に行ける。しかしショーンを単機で突出させるなど自殺行為だ。看過できない。堅実に行こう。

  • 137二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 05:55:49

    アグネス「AWACSディン、敵右岸の防空体制を報告してください」
    AWACSディン「自走リニア榴弾砲とブルドック、レーダー車を連携させている。榴弾砲80両、ブルドック連隊80両」
    アグネス「了解」

    西からの突破は可能だろうか?手薄な市東側を攻撃するべきではないか。
    一度、旧トルクメニスタン領に入って北からセルヘタバット市を強襲するのだ。

    その為には飛行ルートの変更を即時に行う必要がある。目的地まで残り90㎞、6分。結論を出すなら今だ!

    ドクン、ドクンと心臓が脈を打つ。どうする?もし、敵を追い詰め過ぎて破滅的な結果を招いたら?

    混乱した敵軍が市街地に逃げ込めば何が起きるか分からない。民間人の退避は完了しているのか?私達は敵を撃破すれば味方が直ぐに占領してくれるものと思ってきた。蓋を開けてみれば押されているではないか。

    アグネス「(ルナマリアにも聞きたい。私だけでは負いきれない…。責任転嫁か、これは)」

    躊躇いと迷い。かつての失敗を繰り返すことの恐れ。感情の渦に引き込まれそうになる。そんな私の意識を―。

    AWACSディン「報告!ハンニバル級が発進シークエンス開始、中央ドーム開放、デストロイです」
    アグネス、ルナマリア、ショーン「!!!」

    鋭い、絶叫するような報告が引き戻す。

    AWACSディン「繰り返します。ハンニバル級よりデストロイ発進。A388線道路を外れ北西方向に。川下で渡河して側面から友軍を―」

    偵察機パイロットの声が何処か遠くに感じる。怖れていた事態、最悪の状況だ。

    でも不思議と驚きはない。むしろ『ああ、やっぱり居たんだ』と安堵さえ覚える。

    存否不明の脅威の警戒を続けるのは神経が磨り減る。目に見える大敵を相手取る方がよっぽど楽だ。加えて、私の場合難しい判断から解放された気楽さ。こういうのは理屈ではない。

  • 138二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 06:24:37

    アグネス「(楽になったか…。無事に切り抜けられるかは別なのだけれどね。そう全く別よ…)」

    任務の難易度としては最上位だ。せめてデスティニーが1機でも居てくれたらと思う。無い物は仕方ないではないか!

    アグネス「二人とも聞いた通りよ。セルヘタバットとトルグンディの中間、クシュク川に急行します。ともかくデストロイを落とす。敵の濃密な支援砲火が予想される。奮起を!」
    ルナマリア、ショーン「了解!」

    二人に伝えながら自分の弱気な心に発破をかける。負けるな、私。

    AWACSディン「デストロイ、モビルアーマー形態で左岸に渡河!汎ムスリム会議軍の砲火を物ともせず!南向きに方向転換…。高エネルギー砲『アウフプラール・ドライツェーン』の照準が―」

    砂と雪に塗れた山脈の狭間に閃光が走る。数十キロ離れた私達の目にもはっきり見えた。

    AWACSディン「高エネルギー砲『アウフプラール・ドライツェーン』が発射されました!クシュク川の屈曲に沿って北から南に!A388線上の味方縦列が消滅。左岸に布陣していた部隊の過半も…」
    アグネス「トルグンディ市の被害は!?」
    AWACSディン「少なくとも北部は壊滅…。国境検問所と鉄道基地も消滅した!」

    彼の回答を聞くまでも無かった。本当に酷いものだ。もう自分達の目で確認できる。

    アグネス「(現在地はグシュギ川峡谷上空、カスピ海南西岸から1245㎞、イラン高原を飛び越えやっと到着した)」

    眼下の光景は地獄絵図と言っても良い。影さえ残せず消し飛んだ戦友達、焼き崩れた街角。
    市民の避難は何処まで済んでいたのだろう?

    しかし、今私の頭を過ぎるのは別の事だ。巨大な悲劇を目の当たりにしても気持ちが冷めている。心が麻痺しているのだ。恐るべき事態だと言うのに。

    アグネス「(やり易くなったわ。これは敵失、多少はマシになった。デストロイを狭い渓谷で用いるとは!愚かな)」

    私達の接近を知って焦ったのか。あるいは戦果拡大の欲に目が眩んだのだろうか。どうでも良い。墜とそう。

  • 139二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 15:04:50

    呆れるほど有効な戦術だぜ…
    都市接収とかインフラ利用を考えなければな!
    得られるものが何もない荒れ地にしてどうすんだこれ

  • 140二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 22:01:30

    保守

  • 141二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 05:04:46

    デストロイを睨めながら上空旋回、付け入る隙を探す。敵機の位置はグシュギ川左岸、モビルアーマー形態で浮遊している。

    アグネス「回避運動、怠るな!『アウフプラール・ドライツェーン』のエネルギーチャージは済んでいるはず。直ぐに放たれる!」
    ルナマリア、ショーン「了解!」

    ソリドゥス・フルゴール・ビームシールド発生装置を起動、インパルスは対ビームシールドを敵防空陣地に向ける。セイバーは飛行形態のまま、空力防盾で機体下部を守る。

    これ等の装備では『アウフプラール・ドライツェーン』を防げない。でもリニア榴弾砲とブルドックの対モビルスーツミサイルを弾くのには十分だ。ストライクダガーのビームライフルにも対処できる。

    アグネス「編隊の一番下はレジェンドが守る。ソリドゥス・フルゴール・ビームシールド発生装置ならデストロイの1580mm複列位相エネルギー砲『スーパースキュラ』を防げるわ!」
    ルナマリア、ショーン「了解!」

    眼下のデストロイは私達の接近を察知、4門の長射程大出力ビーム砲が空を睨む。しかし未だ発射しない。
    ホバーでゆっくり後ずさり、右岸に戻ろうとしている。

    アグネス「(『国境の橋は落とした。北進して来た汎ムスリム会議軍は薙ぎ払った。鉄道基地も焼いた。一旦、自陣で守りを固めよう』と言った所か。味方の航空隊を待つつもりなのね)」

    その時、眼下の敵対空陣地が一斉に火を噴く!リニア榴弾砲80両が全火力を叩きつけてきた。デストロイの援護の為か!レーダー車と連携した統制射撃だ。

    回避しきれなかった数発の榴弾がビームシールド表面で弾ける!デストロイと補い合っている。更に空を向くストライクダガーのビームライフル100門―。

    アグネス「(隙が無い。デストロイが馬鹿正直に攻めて来ないとこうも堅いのか!)」

    これは不味いかも知れない。正直、この方面の連合軍を侮っていた。
    『私達は百戦錬磨、レジェンドとインパルスとセイバーならデストロイを撃破可能だ』と。その結果がこれだ。そもそもデストロイに切り込めない。

    脅威なのはデストロイの武装だけではない。共同で陣地防備を守るストライクダガー、リニアガン・タンク、自走リニア榴弾砲、ブルドック。あの規模の火力では対ビームシールドが溶け落ちるのも時間の問題だ。

    ルナマリアとショーンなら、ある程度は回避しながら接近できるかもしれないが…。

  • 142二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 05:17:45

    アグネス「(砲弾とミサイルも。あの数は命取りになる。ヴァリアブルフェイズシフト装甲で防げても電力が尽きる。フェイズシフトダウンと同時にゲームセット、二人の命は燃え尽きる)」

    そうなると私が―核動力機のレジェンドが斬り込むしかないか?

    バッテリー機のインパルス、セイバーと異なりハイパーデュートリオンエンジン搭載機のレジェンドは理論上、パワーダウンすることはない。

    私が連合陣地に何度か斬り込みを仕掛け、敵戦力を漸減する。そうしてデストロイを丸裸にしてから3機でアタックを掛ける。それしか勝ち目はないだろう。

    もっともハイパーデュートリオンエンジン云々は飽く迄、カタログスペック上の話だ。

    もし核エンジンのエネルギー消費量が供給量を上回り、更にバッテリーのチャージも枯渇すれば…。私の命はその瞬間に消し飛ぶだろう。私とて命は惜しいが…。今更惜しむ命でもないが―。

    アグネス「(考えても仕方ないわ。やれることをするだけよ)」

    回線をオープンに、ルナマリアとショーン、AWACSディンのパイロットに呼び掛ける。

    アグネス「本機、レジェンドはこれより敵防空陣地を強襲します。インパルスとセイバーは上空から援護、特にデストロイの注意を引き付けて下さい。AWACSディンは連携してデストロイの諸武装、特に高エネルギー砲『アウフプラール・ドライツェーン』の射線を監視してください」

    ショーン、AWACSディン「!!…了解…」

    僚機と友軍に指令を出す。何だか偉そうだけれど、実際に偉いのよ!私はFAITHで同じ身分のルナマリアよりほんの少しだけ先任なのだ。

    ルナマリア「了解…。行ける?」
    アグネス「勿論よ。あんたこそ気を付けて。蒸発しないように」
    ルナマリア「分かったわ。しっかり援護する」
    アグネス「ありがとうね」

    そうと決まれば四の五の言わず吶喊だ。奇襲は意表を突くことに意味がある。

    ビームシールドの展開領域をさらに広げ、機体全身を包み込む。それからGDU-X7・突撃ビーム機動砲2基10門とGDU-X5・突撃ビーム機動砲の内6基12門を前面に倒す。高エネルギービームライフルの照準はデストロイ円盤状バックパック中心に合わせる。

  • 143二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 09:14:09

    やはり物量は驚異というか「戦いは数だよ兄貴!」というか…
    これ迄の単体ならポンポン落とせていたダガーやらブルドックやらもデストロイという城塞が一機あるだけでこうも変わるか
    あと原作でもままあったけど、高性能機に乗ったエースが切り込んでいけない決め手になりきれない戦場だと一気に苦しくなるなザフト軍…

  • 144二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 11:01:49

    ミラコロで撹乱したうえで敵が追い切れない速度で敵陣に切り込めるデスティニーって、やっぱり凄かったんだなって…

  • 145二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 18:37:53

    保守

  • 146二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 00:28:58

    保守

  • 147二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 04:41:48

    アグネス「(上空から見て崩落した橋の周辺部、グシュギ川両岸のA388線道路を掠めるルートを選択。防空陣地に空白がある)」

    デストロイで橋周辺と川沿いを薙ぎ払う都合上、部隊を一時後退させたのだ。自分達が焼かれない為に。だからあのポイントは弾幕が薄いはず。

    アグネス「(吶喊するなら今だ!穴は直ぐ塞がれる!)」

    降下後の第一攻撃目標は、防空陣地の後方1000mに停船中の敵旗艦ハンニバル級と定める。
    直掩兼ビーム砲塔として上甲板の係留スペースにストライクダガー計12機を配置している。

    旗艦があの位置に停止している理由は汎ムスリム会議軍の砲火を避け、デストロイの攻撃に巻き込まれるリスクを考慮してのもの。しかし既に汎ムスリム会議軍の先鋒は壊滅した。直ぐに位置を変えるはず。やはり今しかない。

    アグネス「レジェンド、降下開始!」
    ルナマリア、ショーン、AWACSディンパイロット「了解!」

    バレルロールしながら捻り込むように急降下する。
    此方の狙い通り、デストロイの高エネルギー砲『アウフプラール・ドライツェーン』は旋回が追いつかない。

    代わりにバックパックの『Mk.62 6連装多目的ミサイルランチャー』からミサイルが一斉発射される。同時に熱プラズマ複合砲『ネフェルテム503』の閃光が空を焼く。

    全ては躱せない。複数の光線が目前の透明な盾を焼く。回避できないミサイルは『MMI-GAU26 17.5mmCIWS』で撃ち落す。機体を縦・横に回転、急旋回させる。未だ乗り慣れない愛機だ。カオスと微妙に感覚が違う。

    此方の意図を察知した自走リニア榴弾砲60門とリニアガン・タンク主砲400門も全火力を空に撃ち放つ!親の敵と遭遇したが如く!

    ブルドック60両もミサイルを乱れ撃ち。赤外線センサーが追い付かなくても構わないらしい。敵旗艦ハンニバル級はチャフを一斉に空中散布、艦対空砲の掃射を始める。

    ストライクダガー隊のビームライフルは脅威だ。敵も馬鹿じゃない。僚機と連携しながら偏差射撃を叩き込んで来る。

    回避しきれなかった攻撃がビームシールドに降り注ぐ。
    砲弾が!榴弾が!ミサイルが!ビームが!
    まるでゲリラ豪雨の最中にビニール傘を差したようだ。

  • 148二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 05:01:28

    回避運動と『MX2351 ソリドゥス・フルゴール ビームシールド発生装置』の防御で凌ぎ切れるか。
    発生装置の出力はずっと上限ギリギリだ…。もう少しで破られる!

    アグネス「(セーフ!良し。賭けに勝った!デストロイ直ぐ斜め上に到達したわ)」

    ここに来てデストロイは両腕部飛行型ビーム砲『シュトゥルムファウスト』を分離する。
    しかし発射はしない。本体の傍で両手を掲げ5連装スプリットビームガン2基10門でレジェンドを狙う。

    西ユーラシア政変時、飛ばした腕を各個撃破された戦訓を生かしての物だろう。

    アグネス「(感心している場合じゃない!反撃開始だ。フェイントを掛ける。垂直方向に宙返り―今だわ!)」

    GDU-X7・突撃ビーム機動砲1基5門をデストロイ本体に、GDU-X5・突撃ビーム機動砲2基4門を両腕に割り振る。連続砲撃だ!『連続』が大事。これは牽制攻撃よ。

    此方の攻撃を受け、デストロイは陽電子リフレクタービームシールド『シュナイドシュッツSX1021』を展開する。彼は本体と両腕を守る必要がある。

    アグネス「(これで良し。連合の陽電子リフレクタービームシールドは内側からの攻撃を透過できない。気勢を制した攻撃でシールドの展開を強制し、束の間だけでもデストロイの攻撃を中断させるのよ)」

    ピピピピピ―。ピピピピピ―!

    それでも警報音は止まない。敵支援攻撃が下から降り注ぐ。
    リニア榴弾砲とリニアガン・タンク部隊はレーダー車と連携して射角を即時に調整した。ストライクダガーもビームライフルの引き金を引き続けている。

    勿論、それらの大部分はデストロイの陽電子ビームシールドに阻まれる。彼らとて承知の上だ。一部でも私の下に届けば良い。実際、かなりの砲弾とビームがレジェンドの傍を掠め、幾発かはビームシールドに命中している。

    アグネス「(連合もこれまでの戦闘から学んでいる。デストロイが倒れ陽電子リフレクターの傘が壊れれば自分達の武運も尽きる。万難を排して撃墜を防がなばならないと)」

    だから此方も初手ではデストロイを狙わない。彼らの注意は良くも悪くもあの機体に集中している。
    それが此方のチャンスだ。

  • 149二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 05:14:17

    デストロイを中心に半円形に旋回しながら急降下を続行、激突する程の勢いで地上にダイブする。

    アグネス「突撃ビーム機動砲1基5門、突撃ビーム機動砲2基4門、発射!」

    デストロイの牽制に用いていないビーム砲を地上目標に叩き込む。ブルドック8両とレーダー車1両が爆発炎上!
    これでハンニバル級への道が開ける。そのまま捻り込むように滑空を続行する。

    背面プラントフォームは両側とも後ろに折り曲げデストロイに牽制砲撃を続行する。
    これでハンニバル級は既に指呼の間だ!

    ビームシールド内側から『MA-BAR78F 高エネルギービームライフル』の照準を合わせる。目標は甲板上のストライクダガー隊!

    アグネス「高エネルギービームライフル、連射開始!続き『GDU-X7 突撃ビーム機動砲』2基10門、発射開始!」

    刹那の邂逅。

    正面の陸上戦艦は全火砲を以てレジェンドを迎え撃つ。甲板上のストライクダガー中隊12機からはビーム弾幕を張り、42cm長距離無反動砲、60cm障害物破壊用臼砲、対空砲が一斉に火を噴く。

    もうこの段階では攻撃を無理に避けない。突進あるのみ!

    ―レジェンド被弾!ビーム8発以上、対空砲弾多数!ビームシールドは無事―

    アグネス「高エネルギービームライフル、突撃ビーム機動砲、全門命中!ストライクダガー6機撃破。ハンニバル級の艦橋破壊!」

    ビーム2門で敵モビルスーツ1機を仕留め、連射した高エネルギービームライフルの1発を艦橋に打ち込んだ。

    スフィンクスのようなハンニバル級、その両足と胴体前側に立つストライクダガー6機が爆発、死者の魂を煙ごと天に上げている。聳え立つブリッジは今や小火山と化している。

    即、プラットフォームの角度を調整する。デストロイを抑える必要がある。後方の敵も!
    連装砲は背後の牽制射撃に戻る。

  • 150二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 05:34:27

    そのまま地表ギリギリを飛行する。地面に腹部がこすれるほどに。

    ハンニバル級に肉迫すると同時にMX-RQB516 ビームランスを二閃、艦前部左側のカタパルトと艦後部のカタパルトを切り裂く。生じた開口部には高エネルギービームライフルを一発ずつ打ち込む。

    撃ち込まれたビームは艦内を破壊しモビルスーツ格納庫を貫く。たちまち誘爆し爆発が連鎖する。巨艦は腹の中から食い破られる。

    生き残りのストライクダガー6機は至近距離からレジェンドにビームライフルを発射する。
    敵に狙い撃ちされないよう地面擦れ擦れを必死に飛び回る。死角を上手く行かすのだ。

    ハンニバル級は全長250mに達する上に三次元に凹凸が多い形状をしている。その為、一旦、間合いに入られると弱い。艦の武装も強力なのだが位置が悪い。高所に偏っている。

    アグネス「(だから隙だらけだ。足元と横腹、それに―)」

    そして背中も!艦の真後ろ、この位置ならデストロイ等も狙えない。フレンドリーファイヤー必至だ。それでも撃って来た時に備えビームシールドは張ったままにする。

    小回りに旋回して艦の背後に回り込む。
    同時にプラントフォームを前に折り、突撃ビーム機動砲6基12門を後ろから前に向け串刺しにするように撃ち放つ。

    慌てて防ごうと飛び出してきたストライクダガー4機は射角を調整した突撃ビーム機動砲2基10門で焼き抜く。

    直後に大誘爆、巨艦は業火に包まれる。念のためビームランスで艦橋を真下から縦一文字に斬り上げ、開口部から高エネルギービームライフルを打ち込む。

    ハンニバル級に止めを刺し上空に飛び出す。一撃離脱だ。バレルロールしながら大旋回、竜巻のように高度を上げる。直ぐにビームと砲弾が追ってくるはずだ。

    AWACSディン「デストロイ主砲旋回!レジェンド、狙われています!高エネルギー砲『アウフプラール・ドライツェーン』です!」
    アグネス「了解!」

    上昇を止め、一気に高度を下げる。一拍後、私の頭上を超巨大な火柱が薙ぎ払う。
    真赤な光に網膜が焼き焦げたと錯覚する。タンホイザーが傍を掠めた時に似ている。

  • 151二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 12:39:44

    保守

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