- 1二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 09:57:42
- 2二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 09:59:26
やけに暑い夏なのに、今日だけはずっと涼しい。風が気持ちよくて、いつにも増してレッスンなんてどうでもよくなって。
わたしはプロデューサーと二人きりでお出かけ。青空も心地よさも、愛する人も、全てがあって──足りないものはひぐらしの声くらいだった。
都会に片足を突っ込んだ郊外の街。そんな中でもさらにクーラーの効いた、駅の真横の殺風景なオフィスを後にして、彼にしては珍しく「ふう」と一息つく。
「今回の外出はこんなところでしょう──お疲れ様でした、秦谷さん。」
「ええ。お疲れ様です、プロデューサーさん。」
こちらを向いて届けてくれた言葉に、わたしなりの気遣いをできるだけ込めて返した。
「…それにしても珍しいですね。秦谷さんの方から、今度のステージを直接見ておきたい、なんて言い出すとは。」
「まあ。アイドルとして当然でしょう?それに、お天気も良くてこんなに涼しいんです。ふたりでお出掛けできるなら、とっても素敵だと思いましたから。」
そっと並ぶ肩を近づける。彼の目線が追う。
普段なら立場上云々で一線退いてくるところだが、それでも言及しないのは疲れからか。それとも、少しずつでもわたしを受け入れてくれているからか。
──後者だったらいいなと思う。
「理解されているのであれば、常にしてほしいところですが……。今日は軽い打ち合わせと挨拶回りも兼ねていましたから、疲れたでしょう。ちょうど列車が出ますから車内で休んでくださいね。」
「ええ、そうさせていただきます。」
彼の、いつも通りの無自覚の優しさを受ける。 - 3二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 10:00:27
プロデューサーだから、というわけでもない──彼の根っからの優しさが、今、わたしだけに向けられている事実が、どうしようもなく愛おしい。
改札をくぐりながら、恋愛感情と呼ぶにはあまりに粘ついた、赤黒い気持ちがぐつぐつと沸き出すのを感じる。それを感じさせないように、なるべく丁寧な言葉を編む。
「……プロデューサーさんこそ、随分お疲れに見えます。…いかがでしょう?一緒に列車に揺られながら転寝などは。」
彼の眉が少し動く。
「ありがたい申し出ですが、書類の確認をしなければ。携帯で済ませられますので。」
分かりきったそっけない返答。
でも、わたしのプロデュースで詰まっている彼のスケジュールはすごく嬉しくて。…このままわたしにつながる情報だけで、頭を埋め続けてくれれば。
わたしにひたむきな彼の横顔が、大好きで。
「それに、俺まで眠りこけてふたりで寝過ごす…なんて、想像もしたくありませんから。」
「まあ。魅力的に思えますが。」
《──2番ホームに、列車が到着します。ご注意ください。》
無機質なアナウンスが響く。少しずつ強くなる、ホームにわたる風。視界の端でそっと何かが動く。
「…この列車ですね、足元に気をつけ──」
彼もその“何か”、いや誰かに気づいて目をやる。
…線路の方にふらふらと吸い寄せられて…倒れ込んだ。列車の轟音が近づく。
少し遅れて背筋が凍る。彼がわたしの眼前に手を伸ばす。彼の血色で網膜が満たされる。
少し嬉しいけど、同時に体の奥の何かが警告した。
世界が壊れる感覚がした。
ばん、と、破裂音とも打擲音ともとれる、なにかが激突する音が響いた。 - 4二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 11:54:21
保守
- 5二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 13:13:08
保守
- 6二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 14:27:32
埋め
- 7二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 15:06:35
彼の手で隠されなかった視界の隅に、嫌な色が飛び込んでくる。塊か液体かも分からない。脳に、がりがり、とストレスが刻み込まれる。
直視せずに済んだのは不幸中の幸いだろうか。
────直視?わたしはともかく、彼は?
その後の記憶はまばらだった。
彼は真っ青な顔でわたしを気遣ってくれて…いっしょに立ち尽くしていた。
駅には一応の救急車が来て、人型と思えないシルエットの影がビニールシート越しに浮かぶ。
彼が携帯を──おそらくタクシーを呼ぼうして──取り出したが、明らかに手が震えていた。
まともにタップできていない。
異常だった。
彼のこんな姿は初めてだった。
わたしが代わりに電話をかけて、彼の袖をゆっくり引っ張って駅を出た。
タクシーの中で彼はずっと下を向いていて、なぜかわたしに謝るばかりだった。
自然に腕を組めたのはすごく嬉しかったけれど、こんな状況でも彼のことばかり考えてしまった自分が分からなくて──わたしも決してキズが浅い訳では無いのに。
運転手さんは、何も知らないまま、ミラー越しにこっちを見ていた。
その目が、なんだかやけに気まずそうで、今でも覚えている。 - 8二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 16:39:11
ほしゅ
- 9二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 17:15:45
美鈴も余裕ないの、良い
- 10二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 18:57:21
保守
- 11二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 19:02:46
主です、退勤次第更新しますので少々お待ちください。
ありがとうございます!
あの子の苛烈な人への欲望に焦燥が加わるとどうなるんだろう、傲慢さの隙間に何が見えるんだろう?と考えてばかりでした。嬉しいです。
- 12二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 20:35:36
うめ
- 13二次元好きの匿名さん25/07/26(土) 23:35:39
ほしゅ
- 14二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 01:50:23
学園前で一緒に降りた彼はぼろぼろで、とても1人にはできなかった。
他の先生方にはわたしから話す必要がありそうだな。…彼の保護者みたいで、ほんの少しだけ嬉しかった。
心配を塗り潰すくらいのぐじゅぐじゅした気持ちがひとりでに歩き始める。
ちょうど暗くなってくる時間。
図ったように虫が鳴き始めた。
彼がいつも話しているあの女の先生──あさり先生はプロデューサーの異常をすぐに理解してくれて。
最も信頼している担当アイドルが傍にいられるなら付き添ってあげてほしい、と。
わたしも現場にいたのですが、なんて考えはすぐに吹き飛んだ。
彼にもいるであろう同年代の、同性の、友人たちよりもわたしが選ばれたような感じがして。
彼に触れたい。
彼を染め上げたい。
彼を手に入れたい。
そんな邪な雫がぽつぽつと降り続けて、水溜まりが出来ていた。 - 15二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 02:01:23
「…こんな形で手に入るなんて思いませんでした。」
ぎゅっと握り込んだ彼の部屋の鍵。
他ならぬ彼自身が渡してくれた。
彼の手にたくさん触れた、かび臭い金属──すごく愛おしくて、なおさら力がこもる。
少し散らかったリビング。1人用にしては大きくて、2人用にしては小さいソファに座った。
鉛のように動かない彼に、ゆっくりと触れる。
彼のジャケットを脱がせてあげる。
彼のネクタイを解いてあげる。
彼のシャツのボタンを───
「…秦谷さん。」
「なんでしょう?」
「…そこまではさすがに」
「いいえ…こんな時くらい、頼ってほしいです。」
すぐに言葉を遮る。真正面から彼の目を見る。
毒を放り込まれた泉のような、不穏な陰りが美しかった。
彼は黙り込んだ。
「……すみません。情けなくて。あなたを不安にさせて、心配までかけてしまって。」
手首がかちかちと震えているように見えた。
あまりに弱々しい。
彼について回り、彼をプロデューサーたらしめる理性のカーテンが、ぼろぼろに裂けているのを感じる。
そっと指を絡ませて、抑え込むように手を握った。
彼は何も言わずに力を返してくれた。
愛おしくて気が狂いそうだった。 - 16二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 03:20:12
結局わたしは帰されて。
翌日、彼は学園に体を引きずって来た。
どうにも生気の灯らない顔、それでも身だしなみは整っている。アンバランスな風体が不安を掻き立てた。
いつも通りのレッスン。
いつも通りの営業。
…けれど、わたしと二人きりでコミュニケーションをとる時は別だった。
縋るような目。
時折「秦谷さん」と、消え入るように呼ぶ声。
その癖に用件は無かったりする。
『呼んだだけ』というやつだろうか、彼のかわいい石灰色の脳が、わたしでいっぱいになる時間が増えた。
「…。」
わたしが彼にいくら近付こうとしても、距離を置こうとしなくなった。
ぼろぼろのカーテンはついに消え失せたようだ。
見る間にエナジードリンクの増えたデスクで、PCにぼう、と向き合う彼の、きっとカフェインに塗れた頬を浅く撫でた。
彼が一瞬息を詰めたのが分かった。
わたしの、わたしたちの世界が、はじまりつつあった。 - 17二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 03:41:20
彼の唇が荒れ始めた。
無意識のうちに皮を剥く。
わずかに滲む血と共に、神経を洗う新鮮な痛み。
顔を歪めることはない。
わたしは保湿のためにリップクリームを塗ってあげるようになった。わたしもよく使うようになったから、消費ペースは面白いくらいだった。
彼の爪が欠け始めた。
爪同士で先端をがりがりと削ったり、噛み千切ったり。
誤魔化すように整えて、深爪になっていた。
見かねてガムを勧めてあげると、曇った瞳を細めて喜んでくれた。
折を見てわたしが包み紙を差し出すと、飽きの来たそれを吐き出した。
ほのかな温かさが指に残った。 - 18二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 09:22:23
目の前で誰かが轢かれたのを見ちゃったって感じ?
- 19二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 12:31:28
ほしゆ
- 20二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 15:44:09
ほし
- 21二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 20:11:03
ほしゆ
- 22二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 23:50:43
ほしゅ
- 23二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 00:30:49
すみません主ですスターマイン発表で正気を保っていられないので更新はもう少々お待ちくださいホンマに
- 24二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 07:30:11
とりまほしゅ
- 25二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 10:18:35
- 26二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 16:21:26
ほしゅ
- 27二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 20:39:25
保守
- 28二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 22:01:55
彼がシャツの袖を捲らなくなった。
手首を切るようになっていた。
失われた彼の血液を思うと胃が煮えそうだったが、それでも傷跡までが可愛らしかった。
いかにも『見られてしまった』という顔。
「痛みに安心する」と教えてくれた彼の受刑者のような顔つきがやけに明るく見えた。
いっそう彼の心に歩み寄りたくなる。
「まあ。……苦しかったんですね。」
「………。」
彼の奥底の、とめどない自罰意識を───途轍もないストレスからの逃げ道として、そして巻き込まれたわたしへの思いを解消する手立てとして選択された───それを汲んでみる。
「……はい。」
「そうですか……えらいですね、プロデューサー。」
「……え?」 - 29二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 22:05:48
「自分で自分に整理をつける──中々できることではありませんよ。……ええ、本当にえらいです。」
「そんなこと、」
まさかリストカットを褒められるとは思わなかったのだろう。
彼の小豆色の線に指を滑らせる。
くすぐったそうに震える手首。あまりにも可愛くて、すぐに壊れそうで──。
水飴のようなわたしの愛情を、乾きっぱなしの彼の器に注ぎ込む。
やがて有り余った糖分がべたつき、それ以外のモノを受け入れられなくなるように。
「………秦谷さん。」
か細い声。線香花火のように儚く、美しく、わたしの耳を刺す。
俯いた彼の瞳が、かすかに湿度を増したのが分かった。
あの日、確かにわたしは彼と一緒に悲惨なものを見たし、聴いた。
あの駅には近寄るだけでも体調を崩しそうだけれど──最早どうでもよかった。
彼の弱さを一身に飲み込むことが出来ているのだから。
わたしの妄執が煮詰められていく。
彼に聞こえぬように呟く。
「………もう一押し、でしょうか。」 - 30二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 23:29:49
お…?
- 31二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 23:46:35
美鈴とpはこれくらいジメジメしてる方がちょうどいい
- 32二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 00:48:58
じめじめP×美鈴いいよね…いい…
pixivも豊作で大変喜ばしいです - 33二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 02:55:26
ほしゅ
- 34二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 11:46:14
うめ
- 35二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 16:17:07
うめ
- 36二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 22:40:21
ほ!
- 37二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 00:58:49
うめ
- 38二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 01:29:58
「…〜♪」
翌日になって、事務所に向かうわたしは浮き足立っていた。
「これ」を見せられた彼がどんな顔をするか、想像するだけで笑みがこぼれる。
下校中の小学生のように足が弾んだ。
…痒みを起こした手首を抑えながら。
きっと喜んでくれる。
もっと近くに感じてくれる。
もっと離れられなくなる。
わたしの深奥がぐつぐつと呻く。 - 39二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 01:34:46
このレスは削除されています
- 40二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 01:36:33
いつものように彼に紅茶を淹れて、彼の横に座り込む。
猫背がちになった彼の背筋が、少しだけ伸びる。
「プロデューサー。」
「……なんでしょう。」
つい息がこもってしまった。
きゅっと距離を詰めたから、パイプ椅子ががたんと鳴った。
彼の濁った瞳を見据える。独特の緊張感に包まれる。
「…体調の方はいかがですか?」
「…ええ、まあ…秦谷さんのおかげで、だいぶ保っていられている…とは思いますが。」
「ふふ。嬉しいです。」
なんだそんなことか、と聞こえるようだった。
実際、わたしが傍にいる時の彼は目に見えて調子がいい。喜ばしいことだった。
…時々、わたしを求める目線をくれることも。
「……今、すごく幸せなんです。」
彼が眉を顰めた。
不自然ではない。この数日、いちばん彼の近くにいたのはわたしなのだから。
一目瞭然に、彼のこころの器にはヒビが入っているのを分かっているのに。
少しだけきゅっと締めた唇は、うっすらと、血が固まったようなまだら模様を呈している。
とても美味しそうに。 - 41二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 08:05:27
ほしゅ
- 42二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 14:09:42
ほしゅ
- 43二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 14:37:18
「……わたしがどんなアイドルでありたいか、覚えていますか?」
「わたしがいないと生きていけない。みんな、そうなってほしいんです。」
「そう、みんなです。勿論あなたも。」
「でも。」
堰を切ったように溢れ出てくる。
これ以上言葉を紡げば、引き返せなくなる気がした。でも、それでよかった。
引き返す気なんてさらさら無かったから。
わたしは珍しく、少しだけ声が震えた
愉悦か緊張か、判断なんてつかなかった。
「わたしのことだけを考えてくれるプロデューサー。わたしに合わせてくれて。一緒に歩んでくれて。同じ感動だって分かち合いました。」
彼は、黙って聞いていた。
乳児のように、掌をかすかに握りながら。
彼の手に指を重ねる。
「あなたにたくさん安心と、高揚と、幸せをもらいました。あなたが用意してくれた道はいつも心地よくて。」
「…気がついたら、わたし、プロデューサーがいないとだめになって…生きていけない、って、思うようになりました。」
「でも、わたし、それが嬉しいです。幸せです。」
重ねた指を折り曲げて───恋人のように絡めて、弄ぶ。 - 44二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 14:55:04
「でも今は逆です。必要とされているんです。ただの担当アイドルとしてではなく、ひとりの女の子──秦谷美鈴として。あなたの心の奥底から求められて、満たされています。」
「……ふふ。今、わたしが消えたら、あなたはどうなってしまうのでしょう?」
彼が目を伏せた。
わずかに、指に力がこもる。答えは聞くまでもなかった。
「……ふふ、冗談ですよ。…絶対に消えません。」
「わたし、全部知ってます。わたしに惚れ込んでいることも。それでもわたしと一線を超えないようにする、プロデューサーとしての理性も。」
「でも、わたしから求められれば仕方ない。そんな思考が──愛おしいくらいの堕落が、少しずつ芽生えてきたことも。」
「…プロデューサー。」
ついに言葉として溢れそうになった彼への感情が、押し込められて、また這い出てきて、結局。
「大好きです。」
空調の音がやけに響いていたのに、事務所が、わたしたちの領域が静謐に沈んだ。 - 45二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 14:57:00
「溶けるように項垂れながら、ジャケットを脱ぐ時も。
爪を噛んでいる時も。
わたしの包み紙にガムを吐き出す時も。
弱っている時も。
それでも強がって平静を保っている時も。
営業の時に貼り付ける笑顔も。
それが終わった時の力の抜けきった顔も。
咽び泣くように眠る時も。
全部わたしだけの景色です。」
「だから、プロデューサーも。あなただけの秦谷美鈴を、見てほしいんです。」
徐ろに袖を捲る。
昨夜、手首につくられた赤黒い線を間近に見せる。
彼のものと、ぴったり同じ数。
「……ほら、見てください。おそろい、ですよ。」 - 46二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 15:53:14
うめ
- 47二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 17:38:28
ほしゅ
- 48二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 18:39:49
今更なんですが感想いただけると喜びます(小声)
今日の更新は遅くなりそうです、保守レスありがとうございます - 49二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 21:33:49
- 50二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 22:48:14
- 51二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 00:39:31
ほしゅ
- 52二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 00:49:07
ss初めてでこのクオリティはやばい。
結構好き - 53二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 07:15:36
ほしゅ
- 54二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 12:33:58
ほし
- 55二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 15:31:26
スゴい…
湿度の高さが良い… - 56二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 19:54:46
ほしゅ
- 57二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 22:09:28
「………。」
彼は何も言わなかったが、代わりに瞼をふわふわ動かす。さながら泣きそうな幼児のように。
どんな喜びに震えているんだろう。
ひょっとすると、それは後悔や脅えのようなモノかもしれないけれど。
彼の負の感情も、すべてわたしが飲み込むつもりだった。
…喉が渇いて仕方がない。
「……たくさん、血が出ました。本来なら、全部瓶に入れて差し上げたかったのですが……残念です。」
味わったことの無いピリついた痛みと、どくどくと血液が抜け出る不思議な感覚を思い出して、つい体が震える。
きっと彼と同じ恍惚だった。嬉しかった。
彼は自分を責めるように──もしくは歓喜から──震えていて。
数秒瞳を泳がせた後に、わたしに顔を向けてくれた。虚ろにも、満たされたようにも見える、黒々とした透明さがあった。 - 58二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 00:46:38
蒸し暑くなってきた
- 59二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 04:46:45
ほしゅ
- 60二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 11:51:51
保守
- 61二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 13:23:45
うめ
- 62二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 16:24:05
保守
- 63二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 22:00:16
ほしゅ
- 64二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 00:12:25
うめ
- 65あ25/08/02(土) 00:14:09
保守
- 66二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 08:33:31
ほしゅ
- 67二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 12:15:05
保守
- 68二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 17:31:44
♡だったり保守レスだったり本当に嬉しいです…ありがとうございます
多分もうちょっとで終わります - 69二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 21:14:11
うめ
- 70あ25/08/03(日) 00:17:09
保守
- 71二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 03:18:40
このレスは削除されています
- 72二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 03:21:04
「……秦谷さん。」
「…はい。」
彼が重たそうに口を開く。指は絡ませたままだった。
「……まず、」
「今の俺が言えたことではありませんが……立場上言わなくてはなりません。」
「アイドルとして活動している以上、目に見える自傷はご法度です。…自身の立場と知名度を鑑みてください。」
「……むう。」
思っていた返答と違って、つい頬が膨らむ。でも。
───目に見えなければいいんだ?
なんて思ったりもした。
以前の彼にあったものが、明確に欠け落ちている。
わたしで、埋めてあげないと。
「…次回のステージの衣装は、グローブ等でどうにか調整します。少し暑苦しくなるかもしれませんが、誰にも見せないようにしてください。……俺にもです。」
「……?」
また彼が目を伏せた。
何か言いたげに、呼吸の音がより重く響いて、指をするすると解いて、それから。
ぎゅっと、彼がわたしの手首を握る。
猫が魚に掴みかかるように、かすかな飢えが滲んでいた。
「……今の俺には、どうしようもなく魅力的に見えてしまいますから。」 - 73二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 03:25:09
だめだ、と思った。
彼が秦谷美鈴に沈み込むように『頑張った』つもりだったけれど。
わたしの状態はもっと酷かった。
彼に迫られている。
はっきりと求められている。
彼の自制心を、めちゃくちゃに壊すほどに。
わたしも彼も、傷ついてよかった。
視界に、わたしたちの世界に色が増す。
心臓が重みを増す。
脳が泡状になるのを感じる。
───幸せ。
今のわたしはきっと、誰にも見せられない顔をしている。
「……まあ。」
喜びの色が、隠し切れなかった。
呼吸が少しだけ荒くなる。
自らを落ち着かせるように、わたしと彼の手が重なるように、手首を覆う。 - 74二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 03:28:44
「……俺はもう、自分を抑える自信が、ありません。」
どくどくと血が回る。
好き。抑えなんて効かない。大好き。
思わず力がこもる。
爪を立ててしまったらしい。
手首の傷に、鋭利でほろ苦い痛みが走った。
「…………。」
彼は、まっすぐわたしを見ていた。
傷跡が開いて滲んだ血液に、彼の指の腹が重なる。
指紋のわずかな溝に、わたしの、秦谷美鈴の痕跡が侵入していく。
指先に溶けるように吸い込まれる。
それを、何度も繰り返す。
さらさらとした血液が傷跡と指から溢れて、塗られて、お互いの手首から先のひとしきりを汚した。
ふたりの間の気流は、鉄臭いのに甘かった。
キャンバスを汚した彼は、満足そうに目を細める。
自己嫌悪と後悔と、少しの背徳を黙らせるように、唇をきゅっと結んで微笑んだ。 - 75二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 06:36:40
このレスは削除されています
- 76二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 06:38:21
だね。
『血色でーー』て書かれてて、Pが美鈴の前に手を出して視界塞いでる。代わりに矢面に立ったPの脳にその瞬間がこびりついてる。
美鈴が視界の端に血や肉片?が現れた描写もあるからワンチャンPの顔にかかってたりするじゃない?
- 77二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 09:52:02
ほしゅ
- 78二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 11:01:57
うめ
- 79二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 12:40:49
保守
- 80二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 15:29:57
保守
- 81二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 21:29:33
ほしゅ
- 82二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 00:14:01
保守
- 83二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 06:02:27
保守
- 84二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 09:14:56
保守
- 85二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 13:43:44
「……俺は、」
低くて、暖かくて、微睡むような彼の声。
「…音が、怖くなったんです。」
「昨日、食堂で…誰かが大きなトレーを落としたんです。」
「ばん、と大きな音が鳴りました。視界が真っ白になって…呼吸が制御できなくなって。」
「やっと気づきました。あの日から、俺はひどく弱くなったんです。誰かの大声でも、誰かが手を叩いただけでも、俺は辛くなります。」
「……ライブだって、気持ちのいいものに思えなくなりました。………情けない話、ですが。」
自嘲気味に微笑んで、それから。
「でも、」
「秦谷さんの声はいつも優しい。」
「言葉選びも。細やかな仕草も。全てが穏やかで、美しい。」
…何かが昂っていく。
血液が沸騰する感覚を覚えた。
これ以上言葉を紡がれたら、わたしは。
「俺は。」
「あなたのくれる音なら、どれだけ大きくて重たくても、いつまでだって聴きた───」
わたしの情愛が、体が、唇が。
勝手に、彼の口を塞いだ。 - 86二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 17:40:35
ほしゅ
- 87二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 19:34:17
このレスは削除されています
- 88二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 23:02:03
ほっしゅ
- 89二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 23:36:18
保守
- 90二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 02:01:52
ほしゅ
- 91二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 02:22:58
時間が止まった。
何もかもが分かるふたりの距離。
わたしの赤黒くて、甘くて、煮えたぎったそれを、彼の口腔と脳に流し込んだ。
罪を交換した。
わたしの額が当たって、彼の黒縁の大きな眼鏡が、ほんの少しだけずれた。
頭がふやけて、自分でも何をしているのか分からなくなって。
次に呼吸を思い出したのは、彼がわたしを優しく引き離してからだった。
「……秦谷さん。」
困ったような、呆れたような顔。
それでも紅潮がほのかに乗っていた。 - 92二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 08:28:31
ほしゅ
- 93二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 10:26:46
ほっしゅ
- 94二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 15:40:41
ほしゅ
- 95二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 19:01:10
今は保守としか言えない感動のあまりなんて伝えたらよいなかわからない
- 96二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 22:40:51
ほしゅ
- 97二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 00:13:34
担当アイドルと唇を重ねる──。
以前の彼なら強く諌める場面だけれど。
「……何をしているんですか、なんて、言うべきなんでしょうね。」
にわかに悪い顔で笑いかけた。
『わたし』に塗れた彼の手。
巣を潰して蜂蜜を喰らう熊のように、無邪気で、悍ましくて、それでいて、抱き締めたくなる寵愛の実体がそこにあった。
彼は理性も、道徳も、感情の振れ幅も、前よりずっと弱くなっていて───そのひたむきさと優しさだけが据え置きだった。
記憶と怯えに蓋をした彼の弱さが。
それを飲み込もうと止まないわたしの欲望が。
澄んだ堕落と愛情で満たされた瘴気を形づくる。
この空間では、わたしたちの全てが赦される気がした。 - 98二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 00:28:30
ss初めてって書いてるけど解像度めちゃくちゃ高いしこんな雰囲気出る描写をかけるの文才が溢れ過ぎてる
- 99二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 00:45:40
- 100二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 08:35:36
ほしゅ
- 101二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 09:19:38
保守
- 102二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 09:42:54
これで冗長って言われたら俺が死ぬ
爪隠せてない - 103二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 10:57:16
保守
- 104二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 17:22:12
うめ
- 105二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 20:31:44
ほしゅ
- 106二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 23:08:03
ほしゅ
- 107二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 00:19:10
「プロデューサー。」
そっと語り掛ける。
わたしの劇毒で、彼の耳と脳をどろどろに溶かすつもりで。
「もっとわたしに、わたしの音に、溺れてください。」
「………あなたの、すべてになりたいんです。」
「食べるものはわたしが全部用意します。あなたが聴く音だって。」
「話し相手も、視界を満たすものも。」
彼の手首に、傷に、わたしの指を撫でつける。
「……あなたを苦しめる人も、傷つける人も、愛する人も。全部、秦谷美鈴でないといけないんです。」
「わたし以外の幸せなんて、にせものです。」
やさしく古傷の肉を削る。
彼の苦しみを掘り起こして、また癒す。
わたしに形作られた瘡蓋で、彼の何もかもを覆い尽くしたかった。
「……でないと、嫌です。」
わたし以外に触れる彼。
想像するだけで反吐が出る。
思わず、目元に水分が集中するのがわかる。 - 108二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 00:21:12
「だから。」
にわかに染み出す血液。わたしの喉がきゅう、と鳴る。
「わたしも、あなただけ見ます。わたしを愛するのも、傷つけるのも、全部プロデューサーだけがいいんです。」
血塗れの手を、彼の頬から耳の辺りに添える。
視線がかち合う。
色んなものが溢れて、涙が出た。
「わたしは、あなたと一緒ならきっと、音のない世界だって。」
まるで今日、世界が終わるように。
馬鹿みたいにすべてを込めた。
彼の耳をそっと塞いで、また唇を重ねて、舌を噛む。
溢れ出た彼の、鉄臭い理性を嚥下した。 - 109二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 08:16:35
保守
- 110二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 11:32:40
ほしゅ
- 111二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 14:59:56
ホシュ
- 112二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 18:47:32
ほしゅ
- 113二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 21:26:43
保守
- 114二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 23:06:39
うめ
- 115二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 23:30:53
ホシュ
- 116二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 08:39:28
保守
- 117二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 16:14:17
保守じゃ
- 118二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 21:57:58
ほしゅ
- 119二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 00:01:19
ほしゅ
- 120二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 00:08:50
叙情的な文章は少し冗長なくらいがいいんだよ。
美鈴にはそれが似合う……。 - 121二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 03:07:13
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ふと我に返るまで、ずっとそうしていた。
酸素も理性もかなぐり捨てた時間が終わる。
わたしの味覚が書き換わるくらい、彼の人間性を口にして。
───どれくらいの時間が経ったのだろう。
互いの荒い呼吸音だけが木霊する。
「…秦谷、さん、」
発声の仕方も曖昧になるくらいに蕩けた彼の声。
愛くるしくて、そして黒砂糖のような、濁った甘みを孕んでいた。
わたしの食後でも、彼の獰猛性は落ち着く気配がなかった。
汗ばんだ額。
熱を帯びた瞳。
ほんの少し開いた口。
わたしからもたらされる新たな刺激を───給餌を、心の底から求めているように見えた。
嗜虐性をくすぐって止まない、飢えたけだもの。
わたしだって体が疼いてどうしようもなかったけれど、でも。
「………ふふ。」
「今日はもう、おしまいです。」 - 122二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 03:26:36
歪んだ方向に滑り始めた歯車を無理矢理に止める感覚だった。
……こうでもしないと、このまま、一線を超えてしまいそうで。
徐に、彼がふう、と息をつく。
「………ええ。」
期待と快楽と焦燥と、もしくはもっとたくさんの感情に肺を揺さぶられた声。
目の前の男の子はたぶん、わたしと殆ど同じ衝動に駆られていた。
「………もっと色んなこと、したいですよね。」
「わたしもです。でも、今日はだめです。」
わたしたちはきっと、お互いを削って、傷つけて、埋めて、愛して、それからまた削って。
そうやって、ゆっくりとお互いのピースを専用に作り替えていく。
2人が絶対に離れられなくなるように。
もっとのめり込むように。
もっと深く、愛し合えるように。
だから今日、そんな『ふつう』の愛し合い方で、お互いを消費したくなかった。
「プロデューサー……続きはまた今度、ですね。」
わざとらしく彼の唇に───わたしの味が残るそれに、指を当てて煽ってみた。
煽るだけ煽って、今日はそれだけ。 - 123二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 04:15:44
涙も血液も拭き終わって、わたしはようやっと椅子から立ち上がった。
ばつが悪そうに前髪を直す彼を見る。
「じゃあ……わたしは、これから生徒会の方に。」
「ええ。頑張ってくださいね。……俺の方は、しばらく終わりそうにありません。」
「……ふふ。お互い頑張りましょうね。どうか息災に。」
「もし辛くなったら、教えてください。」
「……ありがとうございます。」
『わたし』を充電した彼が、随分元気に見えた。
扉を開ける手前で、やっぱり口が動く。
「……ああ、プロデューサー。」
「なんでしょう。」
「今日、似たようなことはたくさん言いましたが。これだけ伝え損ねていました。」
さっきと比べて朗らかな気持ち。
軽やかに、それでも一言に込め切れるか分からないくらいの『たくさん』が詰まった言葉を包む。
言っておかないと、きっと降り積もって無駄になる。
投げ掛けるべき相手に詰め込んで、心を埋めてあげないといけない。
それにきっとわたしは、扉を開けるたびに、彼を見るたびに、想うたびに、変わらずこう感じるから。
「愛しています。」 - 124二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 04:17:01
扉が閉まってから。
手首を見る。
過去の自分が躍起になっていたそれを。
彼女の上書きで生まれた小さな起伏を。
血が滲む部分だけを、ゆっくりと撫でた。
独りごちる。
きっとしばらく収まらない心臓の暴走を、
網膜に刻まれた、最愛の人の惚け切った顔を、
幸せを生んで止まないその人の音を、
深い呼吸で押さえつけながら。
「………俺の方が、愛してます。」 - 125二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 04:19:06
終わりです。
書きたいもん全部書いてたらとんでもない長さになりましたが、見ていただけてとっても嬉しかったです。
ss書くのが思ったより楽しかったので、どっかでぼちぼち書きたいですね。
ありがとうございました。 - 126二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 08:22:43
文章力やばくて引き込まれてしまいました
贅沢言わないので毎日書いてください - 127二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 13:44:17
おつです 湿っぽくてよかった
- 128二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 18:11:21
良かった
- 129二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 18:19:50
ありがとうございました!次も楽しみにしてますね
- 130二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 23:21:17
軽率に書け