【SS】 鋼の指輪 月の微笑み

  • 1二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 21:26:21

    <トレーナー室 ある日の放課後>


    トレーナーが私に奇妙な質問を投げかけた


    「なあジェンティルキミの家族とかで指輪とか扱ってる人いなかったりするか」


    指輪

    その言葉に私は僅かに手を止める

    涼しい顔を保ったままでも耳は誤魔化せない

    貴方からそういう話題が出るとは思っていなかったから


    「家族にはおりませんわでも装飾職人との繋がりならございます」


    「そっか」


    その答えに貴方は何とも言えない表情をしていた

    そして続けてこう言った


    「誰かに贈るとかじゃなくて自分用にさ」


    ほんの少し胸の奥が疼く

    言い寄られることを防ぐための指輪だと

    そう説明されて私はその理由を呑み込んだ


    「つまり他の誰かに寄られないようにするために指輪を欲しているということなのですわね」


    「まあそうだな」

  • 2二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 21:27:23

    一瞬唇に笑みが浮かぶ

    だったら別に職人を頼る必要はありませんわ

    「今ここで私が作ればよろしいのでしょう手を出してちょうだいな」


    戸惑う彼の手を取って薬指のサイズを確かめる

    こんなにも冷たくて温かい指

    見た目に反して繊細な形

    どこか悔しそうな彼の表情を横目に私は思う


    これは誰にも触れさせたくない

    私だけの場所にしたい


    <数十分後>


    「ぴったりね着け心地は如何かしら」


    「ジェンティルこれはさすがに重すぎるも……」


    ふふっ

    当然でしょう

    あれは私が毎日使っている鉄球を削って作ったものですもの

    「せっかく私が手ずから作ったのに不満とは心外ですわ」


    「いやありがたいんだけど鉄球って指輪の素材じゃないよな……」


    彼の苦笑を見ながら私はゆっくり頷いた

    ならば職人に頼んで作って差し上げましょう

    「次の休日は空けておきなさいね当然付き添って頂くわよ」


    「助かるよありがとう」

  • 3二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 21:29:33

    こうして計画は軌道修正された

    けれどその後

    職人に依頼する際私は一つだけ条件を付けた

    貴方と同じ意匠の指輪をもう一つ

    私の指に合うサイズで用意してほしいと

    <数日後>

    「ありがとうなジェンティルすげえ豪華な指輪になったな」


    「御礼など不要ですわ職人達も慣れておりますし私のお願いなど造作もないこと」


    けれど彼の目は訝しげだった

    何かを感じていたのだろうか


    「ジェンティルも何か作ってもらってたんだよな」


    「ええ私も指輪を」


    そう言って左手を見せる

    薬指には彼と同じ意匠の指輪が光っている


    「……それ俺のと同じじゃないか」


    「ええ模様は揃えてありますサイズだけ違うわ」


    「誤解されるかもよ」


    「あら誤解される方が望ましいのではなくて貴方の目的を果たすためには最も効率的な方法でしょう」


    言葉に詰まる彼を見つめながら私は小さく息を吐いた

    「尤も……いずれ誤解じゃなくなるかもしれませんけれど」

  • 4二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 21:31:01

    私たちの指輪は二つで一つ

    それがただの偶然であるはずがない

    いつかそれが本当になる

    私はその未来を信じている


    <その夜 学園の外灯が消えかけるころ>


    一日の終わりにふと窓を見上げる

    白い月が静かに浮かんでいて今日が満ちた夜であることを思い出す

    私は学園の隅にある小さなベンチに座っていた

    薬指に嵌めた指輪が月光を受けて淡く光る


    そこへ遅れてやって来た彼は少しだけ息を切らせていた

    「ごめん待たせたな」


    「ええ大丈夫ですわ今来たところですもの」


    隣に腰を下ろした彼の手にも同じ意匠の指輪がある

    それを見た瞬間胸の奥にあった言葉がせり上がる


    「貴方今でもこの指輪をただの予防線だとお思いでして」


    「……正直迷ってるよ意味が変わってきた気がするからさ」


    「それはどういう意味で」


    「最初はただの盾のつもりだったんだでも今は……」


    彼の声が途切れる

    私はそれを待たずに彼の手に自分の手を重ねる

  • 5二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 21:32:03

    「この指輪は私にとってただの飾りではありませんの」

    「……知ってる気がするよそういう気がしてた」

    風が吹く
    小さな木の葉が舞い上がり夜の空気がそっと肌を撫でる
    彼の肩に触れそうな距離で私は言葉を続ける

    「いつか貴方がこの指輪を盾ではなく誰かとの約束に変えたいと思った時はその時こそ私の手を取ってくださいな」

    「……そっかそっかああ……そうだな」

    彼は薬指の指輪を見つめながら小さく笑った
    「そのときが来るまで外さないようにするよ俺は」

    「望むところですわ」

    お揃いの指輪が再び月に照らされる
    誰にも見られていない夜の片隅
    指先を通じて熱が伝わるその瞬間だけはまるで世界がふたりだけになったかのようだった

  • 6二次元好きの匿名さん25/07/27(日) 21:33:04

    終わり

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