【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」Part9

  • 1125/07/28(月) 09:55:06

    半神より何処かへと向かう旅の話。

    向かう先は天か地か。セフィロトを駆け上がると同時に落ちるはクリフォトの先。

    昏き森では無く煉獄より始まった此方の旅路。我らが向かうは至高天か嘆きの川か。


    ※独自設定&独自解釈多数、オリキャラも出てくるため要注意。前回までのPart>>2にて。

  • 2125/07/28(月) 09:57:32

    ■前回のあらすじ

     物質界の超越者たるゲブラーの戦いにより意識を失ったミレニアムの最強、美甘ネル。

     代わりに加わったのは正体不明、制御不能なミレニアムNo.2、一之瀬アスナ。


     信を置けずとも始まるのはキヴォトス三大校主催による晄輪大祭。

     次期生徒会長の白石ウタハが知るのはミレニアムの外の世界。


     揺籃は崩れ落ち、世界へ羽撃くは世界を変え得るかの存在。

     トリニティとゲヘナ。両校が睨み合う最中に理解したものは一体何か。


    ▼Part8(スレタイが間違ってます)

    【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」Part7|あにまん掲示板失われた『マルクト』を見つける話。撒かれた『未知』が芽吹き始める。この旅は何のために始まったのか。『二週目』の旅路が始まったその意味とは。スレ画はPart6の144様に書いて頂いたもの。告げるがいい、…bbs.animanch.com

    ▼全話まとめ

    【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」まとめ | Writening■前日譚:White-rabbit from Wandering Ways  コユキが2年前のミレニアムサイエンススクールにタイムスリップする話 【SS】コユキ「にはは! 未来を変えちゃいますよー!」 https://bbs.animanch.com/board…writening.net

    ▼ミュート機能導入まとめ

    ミュート機能導入部屋リンク & スクリプト一覧リンク | Writening  【寄生荒らし愚痴部屋リンク】  https://c.kuku.lu/pmv4nen8  スクリプト製作者様や、導入解説部屋と愚痴部屋オーナーとこのwritingまとめの作者が居ます  寄生荒らし被害のお問い合わせ下書きなども固…writening.net

    ※削除したレスなどを非表示にする機能です。荒しっぽい方へのミュート機能も備えておりますので見やすくなると思います。

  • 3125/07/28(月) 10:02:39

    ※埋めがてらの小話27
    スレ主は基本的に酔いながら書いてます。
    矛盾が無いよう努めておりますが、あまり信用しないで下さい。
    一応ロジックに矛盾が無いよう目を凝らしてはおりますが、正直自分があまり信用ならない――

  • 4125/07/28(月) 10:05:17

    ※埋めがてらの小話28
    ゲブラーが作れるものはイェソド、ホド、ネツァクのセフィラ目線における一年生組の機関です。
    三年生組とマルクトが接続できればティファレト、ゲブラー、ケセドの二年生組の機関を作れる可能性はありますが、少なくとも現状は不可能。

    神の如き機能を『神』と見出すか人間の『科学』と見出すかは、『マルクト』を起点に何処へ進んだのかに依るのかも知れません。

  • 5125/07/28(月) 10:06:34

    ※埋めがてらの小話29
    この話は『マルクト』および全てのセフィラが消滅するまでの話です。
    故に、原作の『預言者』たちとこの『セフィラ』たちとは明確に発生も起源も異なります。

    パヴァーヌ二章から妄想した結果なので原作への繋がりだとか無視してください。
    繋げようとしたらヒマリから人間味が失われるので……私は好きですがマイノリティだと思うので納得性を付与できないだろうと考えてはおります。

  • 6125/07/28(月) 10:08:36

    ※埋めがてらの小話30
    現時点における最大の謎は『会長の正体』です。

    謎が解けた方にとっては答え合わせが続くので退屈かも知れませんが、正直『超能力によるギミック』じみたことをしているので論理的解消からは破綻してます。

    あくまでこれはミステリーではなく『チート能力と対抗する生徒たち』の話なので、ロジックを組み立てるより気楽に構えてください。一応現状はロジックエラーを起こしていないつもりではありますが……。

  • 7125/07/28(月) 10:09:43

    ※埋めがてらの小話31
    会長は調月リオの死を許容してます。
    死んでも良い。死んだら死んだでも問題ない。その両方で。

  • 8125/07/28(月) 10:11:39

    【本車両はトリニティ自治区方面へと続きます。ゲヘナ方面へお乗りのお客様は2番線よりお乗り換えをお願いいたします】

     電車の中に響く音声。ウタハがそれを耳にしたところで、隣の会長が薄く笑った。

    「面倒だよねぇ正直。僕ら三大校の交友のための体育祭だなんて……。どうせまた、ゲヘナかトリニティが一位を取るんだろうけどさ」
    「二年前も?」
    「そうさ。ミレニアムに入るような学生はみんな運動苦手がほとんどだからねぇ。運動得意な学校だけにやらせればいいのに」

     晄輪大祭。キヴォトスが誇る他学区間での交友会を兼ねた体育祭。
     歴史を見るに主催としてはゲヘナ、トリニティ、アビドスの三校が行い、他の学園が自由参加で己が名声を上げるために参加するための行事であったらしい。

     しかし、アビドスの急激な凋落とミレニアムの急激な発展によって捻じ込まれてしまったのが二年前とのことらしい。
     そんな変化に直撃した病弱な会長はうんざりとしたような笑みを浮かべていた。

    「あの時は僕にとっての『会長』だったけど、そりゃもう困り切ったものだったよ。そういうのが嫌でミレニアムに来た生徒もいたのにさ」
    「確か……成績は下から数えた方が早かったとか……」
    「ドベだよ。普通に」

     会長が眉を上げて答える。
     そんな嘲るような表情からして相当に荒れたのだろう。実際の所、運動が得意というわけでもないウタハにしても突然キヴォトス規模での体育祭の運営側に組み込まれて参加を義務付けられたら嫌気が差すだろう。つまりはミレニアムにおいてそんな認識だった。晄輪大祭という行事は。

    「まぁでも、今年は荒れるだろうねぇ」
    「というと?」
    「僕たちじゃなくてゲヘナとトリニティさ。関係が死ぬほど悪化したからねぇ……」

     会長は遠い目をしながらぼそろと呟いた。「すぐに分かるよ」と。
     その言葉にウタハも敢えては追及しなかった。すぐに分かるなら、知って頭を悩ませる時間が短い方が良いからだ。

  • 9125/07/28(月) 10:13:48

     だから代わりに言った。

    「楽しみにするさ」
    「その方が良いよ……。一応『避難場所』は用意したから……」
    「不穏だね……」
    「僕だって正直行きたく無いんだよ……。はぁ、なんでかなぁ……」

     どうやら会長をして酷い状況にあるらしい。
     少々珍しい本気の会長の溜め息に戦々恐々としながらも、電車の窓から流れゆく景色を眺め続けた。

     トリニティ総合学園。
     二年おきに行われる晄輪大祭において今年の開催校。

     古き歴史を持つその学校は、最も新しきミレニアムサイエンススクールとは対極に位置していると言っても過言ではない学校である。

    「トリニティ……私は初めてなんだけれど、どういう学校なのかな?」
    「あー、『安定している』が一番かな」

     不意に呟いた言葉に対して律儀に返す会長。
     憂鬱過ぎて素にでもなっているのか、嫌味や皮肉のひとつも返って来なかった。

    「まず、トリニティはキヴォトスの各校と比べて際立った特徴がひとつある。それは『生徒会長』が三人いることだ」
    「責任を分担している――だったかな?」

     そう、と会長は頷いた。

    「トリニティは元々数多の学校、数多の派閥がひとつに合わさった連合なんだ。その中で実権を持つのはフィリウス派、パテル派、サンクトゥス派の三大組織――『ティーパーティー』と呼ばれる生徒会を築いているんだ」

  • 10125/07/28(月) 10:15:28

     ティーパーティーは三組織間で持ち回りにて運営されるらしい。
     今年はフィリウス、来年はパテル、再来年はサンクトゥスといったように、毎年度決まった順でホストとなる派閥代表を回しているとのことだった。

    「特に今年度は酷かったからねぇ……。去年まであんなに仲良かったのに。ゲヘナとトリニティ……」
    「本当に何があったんだい?」
    「見てもらった方が早いさ」

     会長がそう言ったところで電車が止まる。
     ふと会長が笑って席を立った。

    「すぐに分かるさ。本当に頭が痛くなる……」
    「それは……」

     会長をして『頭が痛くなる』などと、いったいどれだけ酷い状況なのか。ウタハは天才的な頭脳を以てして考えないよう極めて務めた。

    (会長になるって言ったの……間違いだったかな……?)

     いったいどんな化け物が他校に存在するのか。
     というよりそもそも、いま目の前にいる『ミレニアムの生徒会長』ですら化け物じみている。

     ならば他校はどうなのか。
     ゲヘナは? トリニティは? こちらの『会長』と同じぐらい正体の分からぬ存在ならば、到底やり合える気がしない。

     そんなことを思いながら電車の席を立つと、会長はウタハに笑いかけた。

    「ま、ゲヘナの生徒会長は君たちと同じ『一年生』だからね。歳はまぁ、近いし。君にとってのヒマリやリオと同じものだよ」
    「それは……全部を理解しようなんて思わない方が良いということかな?」
    「そ、いわゆる『天才』ってやつ……なのかもね」

  • 11125/07/28(月) 10:17:05

     もしくは『天災』。抗うなんて考えない方が良い存在。
     会長が話せば話すほどに膨れ上がる不穏さではあったが……ともかく。電車を降りた先に広がるのは真新しい建造物群と、遠くに見える古都の風景。

     トリニティ総合学園。
     キヴォトスにおいても裕福な家系のみが入れるという特級のお嬢様学校である。

     古くも荘厳な校舎。端末に映し出される競技場はいずれも伝統を誇る堅牢なコロシアム跡地。

    「まだ時間もあるし軽く食べてから向かおうか! まっずい伝統料理がたくさんあるからね!」
    「それは……会長命令かい?」
    「当然!」

     会長は酷く意地悪そうな笑みを浮かべて頷いた。

    「酸いも甘いも旨いも拙いも知ってこその発明だろう? 全部を体験するんだ『ウタハ』。全てを見て全てを受け入れ全てに抗い作るんだ。君だけに作れる何かを」
    「ははっ……。いつもの説教かな?」
    「そ、僕にはたくさん言いたい事があるんだよ。何かひとつでも残ったらいいなぁ~なんて思って。だから、頭の片隅ぐらいに残ってくれたら良いって最近は思うようになったんだ」

     それは酷く老いたような口調でもあった。死に逝く者の残す言葉。いずれ消える者の声。

    「前に言われなければこんなこと、気付くこともなかったと思ったんだけどさぁ」

     笑う会長は先に降りた保安部の後に続いて行く。
     そして案内されるは晄輪大祭運営委員会事務局。そこには、ティーパーティーのホストと護衛が待っていた。

    -----

  • 12125/07/28(月) 10:18:31

     ウタハと会長が通されたのは競技場脇に設置された晄輪大祭運営本部の会議室であった。
     中には優雅に紅茶を飲むフィリウス派の長であり今年度の『ホスト』を務める人物と、その護衛を行う数名の銃器を携えた部下たちの姿。

     やけに物々しいその中で、ホストは会長に瞳を向けて口を開く。

    「よくいらっしゃいました。ミレニアムの『会長』と……」
    「こっちは僕の助手で次期生徒会長。今年度中には交代するつもりだから顔合わせに連れて来たんだ」
    「そうでしたか。ええと、お名前は……」
    「私は白石ウタハ。あまり人と話すことに慣れているわけでは無いから、多少の無礼を働いてしまったら済まない」

     ウタハがそう言うと、ホストは微笑を浮かべた。

    「いえ、お気になさらず。悪意を持っているならまだしも、そうでなければ私たちは思い合える――ですから、問題ありません」
    「それは助か――」
    「ウタハちゃん。今のは『悪意を持っていると思わせないでね?』って警告だからね?」
    「うっ――善処するよ……」

     早速言葉に詰まると、ホストはたおやかに笑いながらも会長の言葉を一切否定しなかった。
     ホストもホストで相当に曲者らしい。不用意な発言は控えるべきなのかも知れない。

     そう考えていると、会長はホストに向かってこんなことを言っていた。

    「それで、この部屋の中で一番安全なのはどこかな?」

     安全? 随分妙な言い方だ。まるでこれから危険が訪れるような言い回し。
     ホストは笑顔のまま部屋の奥の机を指し示すと、会長は頷いてウタハの手を掴んだ。

    「じゃあ僕たちはあの隅に隠れていよっか」
    「こ、晄輪大祭の話し合いが始まるだけではないのかい……?」
    「まぁまぁ」

  • 13125/07/28(月) 10:20:08

     とりあえず言われるがままに部屋の隅の机の下に隠れて様子を伺う。
     すると、会議室の外からこんな声が聞こえて来た。

    『キヒヒッ! 相も変わらず古臭いなトリニティは! 我がゲヘナを少しは見習ってほしいものだな!』
    『古臭い以前にほとんど灰になったじゃ――いえ、やったのは私だけど……』
    『いっそトリニティもぶっ壊してやるのはどうだ? もちろんお前が突然錯乱したというシナリオだ!』
    『やるわけないでしょ……。外で待ってるから、早く済ませて』

     どうやらゲヘナの生徒会長が来たらしい。
     そしてその声でじゃきりと銃を構えるトリニティの護衛たち。物々しさが一息に増して、それから扉が開いた瞬間、ホストが叫んだ。

    「今です!」

     直後、開かれた扉に向かって言葉を交わすまでもなく一斉に掃射される。
     もちろんゲヘナ側も撃たれるだけじゃない。問答無用で撃ち返してきて、会議室は突然戦場へと早変わりした。

    「な、何が起こっているんだい!?」

     がなり立てる銃声に耳を押さえながらウタハが叫ぶと、会長はそっとウタハに耳打ちをした。

    「とんでもなく仲が悪いんだよねぇ。今のゲヘナとトリニティ」
    「各校の生徒会長同士が出合い頭に撃ち合うって……一体何があったんだ!」

     手榴弾が投げ込まれて室内で爆発。聞こえて来るのは先ほどまでの優雅さを投げ捨てたホストの罵倒と、銃弾と共に返されるゲヘナの生徒会長の嘲笑。

     仲が悪いどころではない。もはや憎悪か何かの因縁に塗れているとしか思えず、同時に何故そんな状況で晄輪大祭を開催しようとしたのかすら疑問に思えてきた。

     すると会長は、銃弾が飛び交うその中でひとまず何があったのかを説明し始めた。

  • 14125/07/28(月) 10:22:27

    「今年の6月まではゲヘナもトリニティも本当に仲が良かった……というより、関係が改善していたんだよ。それこそ連邦生徒会が仲介に入って恒久的な和平条約を締結させようってするぐらいには」
    「ああ、元々仲が悪かったんだっけか……」

     ウタハの脳裏を過ぎるのはキヴォトス史の座学である。
     何百年も昔、ゲヘナとトリニティは戦争を行っていたらしい。

     誰が始めたのか、どちらから始まったのかも分からず、互いが互いに何故戦争をしているのかすら分からないほど長引いてしまった暗黒時代。分派が多く散り散りになっていたトリニティはゲヘナに対抗するべく一致団結し、そして出来上がったのが現在のトリニティ総合学園の原型であるとされている。

     そんな成り立ちのせいか、何百年も経った今においても遺恨は残っているらしいのだが、会長が言うにはそんな確執すら溶けかけたのが今年の6月までのことであったらしい。

    「エデン条約。これが結ばれれば両校は古い遺恨を捨て去って共に仲良く手を取れるはずだったんだけど、よりにもよって調印式の前日にゲヘナで大きなクーデターが起こったんだ」
    「クーデター? どうして……」
    「よく分からないんだよねぇ……それがさ」

     会長もやや困惑気味に肩を竦める。
     反トリニティ派が当時のゲヘナ生徒会長に反旗を翻したのかとも思ったが、会長が語ったのは妙な話であった。

    「クーデターを起こしたのは当時の生徒会長の側近で、ゲヘナの治安維持組織を担う生徒だったらしいんだけど……生徒会長側と相打ちになったらしいんだ」
    「うん? 成功したわけではなかったということかい?」
    「そうらしいよ? それで、クーデターを起こした側と起こされた側、双方が疲弊しきったところで突然出てきたのが今のゲヘナの生徒会長。万魔殿の『議長』だね」

     つまりはいま嬉々としてホスト陣営目掛けて銃撃戦を指揮している人物である。
     話を聞くにクーデターを起こした側とも起こされた側とも無関係らしいが、漁夫の利を得た人物ということだろうか?

    「ね? 意味分からないでしょ?」

  • 15125/07/28(月) 10:23:48

     会長の苦笑にウタハも苦笑で返した。
     突然現れて全てをかっさらった謎の人物。それが議長であるらしい。

    「しかも就任した直後に前生徒会長派の生徒をダースじゃ足りないぐらい退学処分を下した上で、校則を片っ端から書き換えたってんだからやりたい放題だよね。退学だよ? 人権の剥奪なんて本当に徹底してるよね」
    「はは……本当に悪魔みたいだね」
    「もちろんそれだけじゃない。もっと怖いのはここからで……彼女、全ての暴力を合法化したんだ」
    「なんだって?」

     暴力の合法化。即ち、強盗だろうがなんだろうが一切咎めないという狂気の校則である。
     会長だってそこまではやらない。試合という形に落とし込んでの制定はしていたが、それより酷い無秩序の体現を議長はやらかしたのだと言う。

    「それで治安は一気に悪くなった……んだけど、どうなったと思う?」
    「それは……まさか不満の声が上がらなかったとでも?」

     会長は引き攣った笑みを浮かべた。それが答えだった。

    「無政府主義の実験場か何かかと思ったよ。暴力を抑制するルールを撤廃した代わりに市民へ銃器の保障を行ったんだ。おかげで今やゲヘナじゃ全市民がギャングを追い払える火力を持ってるし、素行の悪い客に対して店側が発砲することも許されている。逆に劣悪な店には客側が店を爆破してもお咎め無しさ。狂ってるよね……」

     だからこそ、と会長は続けた。
     双方が武力を持つが故に発生する謎の秩序。攻撃されないために大人しくする客と、攻撃されないためにきちんとしたサービスを提供する店。極めて危うい砂上の秩序が築かれ始めたのだと言う。

    「それでもまぁ、一応ある程度力を持った部活だとか人物に対しては指名手配もかけてはいるようだけど……正直効果を示しているわけじゃない」

     ほぼ野放し。
     そんな地獄みたいな環境で掲げられたのは『自由と混沌』――

     皆が無法たる狂気の世界でやりたい放題やり続けるという理解不能な秩序であった。

  • 16二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 11:00:41

    外にはこう伝わってるんだな

  • 17二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 13:51:07

    会長の「終わったことを知る」というのもかなり限定的なのだろうか。
    ミレニアム内に限定されてるとか、千年紀行を中断してから、あるいはその途中からとか。
    だとしてもあのSSと同じことが起こってるなら、過去の在籍者から分かることもあると思うけども……
    会長といえど、人の身を若干逸脱してるだけで、過去のこととはいえ、しかも期間が限定されていたとしても、起こったこと全部頭に入れられるほど人外でも無いか。

  • 18二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 14:21:46

    リオが死んでも良い理由が神秘の薄さにあるのなら(それほどまでに神秘が弱いなら)、リオが会長になることでミレニアムの神秘を薄めて何がしかを解決する、みたいな方向にも行きそう。
    ヒマリの下半身付随も本当に起こるなら、千年紀行の途中じゃなくて非存在に到達した結果であって、「脚のない幽霊」の暗喩で半ばこの世のもので無くなっていることを表していたり?

  • 19二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 18:04:51

    ふむ…

  • 20二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 01:20:47

    ほしゅ

  • 21二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 01:21:48

    というか、出会い頭に銃撃されるって、マコト様何やったの?すでに出会い頭に銃撃しまくったの?

  • 22二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 07:03:34

    アレな発言をしたとか…?

  • 23二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 07:42:31

    このキヴォトスにおいては
    「生徒会長というのはただの役職じゃないんだよ。自治区の象徴で『神性』の影響を伝播させる存在なんだ」
    と会長が言ってる。
    マコト様がその点でどこまで自覚的にやってるかは分からないが、ゲヘナの前生徒会長とのアレコレがあったことから、あくまでも「自由と混沌」の象徴としてポジショントーク(言葉だけでなく行動も)し続けるだろうし……
    トリニティと仲良くする以外なら何やってもおかしくないか……
    科学的な紅茶の淹れ方を要求するなり披露するなりしたのかな?????

  • 24125/07/29(火) 08:09:21

    「けれども気になるね。仲が悪い理由は分かったけど、仮にも学園のトップがあんな出会い頭に撃ち合いを始めるほどなのかい?」

     ウタハがそう言うと、会長は肩を竦めた。

    「さっきも言ったように、ゲヘナの治安が一気に悪化したんだ。犯罪を抑止する法が無くなった。それで……もしゲヘナの隣の自治区が裕福な生徒が多かったとして、ゲヘナの不良たちはいったい何処に向かうと思うかなぁ?」
    「まさか……」
    「そう、トリニティの治安も急激に悪化した。ゲヘナから大量に雪崩れ込んできた犯罪者たちにカツアゲされたり身代金目的の誘拐が起こったりとめちゃくちゃだ。元よりトリニティの治安は良かったからね。犯罪者に取ってもフィーバータイムってやつなんだよねぇ」

     あわれトリニティ。乱獲されるカカポのように次々と被害に遭っているらしい。

     ならば治安回復のためにトリニティ側が出来ることは一体何か――そこで話はエデン条約へと戻るのだと会長は続けた。

    「トリニティはエデン条約を再締結させてゲヘナ・トリニティ間で運用できる治安維持組織が欲しい。ゲヘナ側は二校に架かる治安維持組織を絶対に作りたくない。議長も結局はひとりだからね。流石にトリニティみたいに政治闘争へ送り込める人員がいないんだよ。それで揉めに揉めて今に至る、って感じかなぁ」

     ちらりと机から顔を出して部屋の様子を伺うと、双方何人かを残して倒れ伏す戦場の中、息を切らせて各生徒会長が叫んでいた。

    「何も出来ないそちらに代わって治安維持をして差し上げると仰っているのですゲヘナの角付き――っ!!」
    「海水魚と淡水魚をまとめて湯だった鍋に放り込むような愚行だと何故分からんお花畑の羽付き――っ!!」
    「まったく平行線だねぇ……。そろそろ始めない? 晄輪大祭の運営業務をさ」

  • 25125/07/29(火) 08:10:46

     会長がそう言うと、議長もホストも荒く息を吐きながら頷いた。

    「そうだな。挨拶はこのぐらいで充分だろう」
    「そうですね。続きはまたいずれ」

     ホストがポケットからベルを取り出して鳴らすと、外で待機していたと思しき両校の治安維持組織に属する生徒たちが中へと入り、手慣れた様子で人員の回収と壊れた調度品の搬出を行い始める。

     トップ同士のいがみ合いに慣れているのか、慣れるほどに付き合わされているのか。
     治安維持組織間も仲が良いとは言えないものの、どこか気まずさが勝っているように見える。

     それからあっという間に原状回復させられた会議室に改めて全員が席に着くが、会長の隣に座るウタハは早速頭を抱えたくなった。

    (チーちゃんも、こんな気持ちだったのかな……)

     どこもかしこも問題だらけな惨状を前に、少しだけ我が身を省みるウタハであった。

    -----

  • 26125/07/29(火) 08:12:30

    「ウタハも今頃会長の隣で職務を全うしているのでしょうね」
    「はぁ……何事もなければいいけど……」

     トリニティの景観を眺めながらウタハとチヒロが競技場へ向けて歩いていた。
     その後ろにはネルとウタハを除いた特異現象捜査部の面々。リオも怪我は治り切っていなかったが、マルクトの用意した車椅子に乗っており、コタマはアスナに手を引かれて振り回されている。

     その様子を遠巻きに眺める『かの存在たち』は、互いのみで通ずる独自ネットワークにて会話を行っていた。

    《雛鳥の状況はどうだ?》
    《異常なし。周辺に潜在的危険因子も発見されず》
    《わたくしたちで今度こそマルクトを守らなければならないものね》

     誰も居ない鐘楼の上にはイェソド。
     噴水の上に立つホドの姿は誰にも見えず、道路を闊歩するネツァクの姿もまた、誰にも見えていない。

     もちろんそれだけではない。

    《ふらふらきらきら知らない『世界』。ミレニアムに『お外』があるのは不思議だね!》
    《あまり遠くに行かないようにティファレト。あたしたちはミレニアムの中じゃないとスペックが落ちるんだから》

     空の上にはティファレトの影。ゲブラーはホドによって小型トラックの姿に偽装された状態で道路の上を走行中。

     トリニティへ向かったマルクトを追って第九から第五セフィラも現地入り。
     どう考えなくてもロクでも無いことが起こる前触れでしかないのだが、それを指摘できる人間は何処にもいない。

     それに、セフィラの機能はミレニアムの外という『異世界』においては機能に変容あるいは制限がかかってしまう。
     『王国』の『瞳』と『喉』はまともに機能せず、『勝利』も『峻厳』も作れる物がトリニティ基準に変わってしまっている。

  • 27125/07/29(火) 09:16:05

    《報告。女王が監視カメラの範囲外へ移動》
    《分かった。俺が行こう》

     ホドの報告を受けて即座にイェソドが姿を消した。意識を先行させて実体を移動させる根幹の技術群。
     その『脚』もミレニアムの内部と比べれば遅く、転移から転移の間に何十秒かの時間を要するものである。

     ビル群を駆けまわること三分。マルクトと預言者たちの姿を見つけたイェソドは、ビルの上へと転移して眼下の様子を監視する。そこで「おや?」と違和感を覚えた。

    (預言者の数がひとり減っているな……。いったい何処へ……)
    「あれ~? 何かいる気がしたんだけどなー」
    (ッ!!)

     背後から聞こえた声に驚いたイェソドは、振り返ることなく尻尾の先端に備わった第三の目を後ろに向けた。

     そこにいたのは先日加わった七人目の預言者。
     名前は知らないが敵ではないということだけは分かっている。

     イェソドの姿は現在ホドによる干渉を受けて見えなくなっているのだが、どうやらそれを察知して来たらしい。

    「ま、いっか! 別に嫌な感じとかじゃなかったし!」

     それだけ言うとその預言者はビルの屋上から『飛び降りた』。

    (飛び降りることの出来る高さなのか……?)

     疑問に思い飛び降りた先を見ると、預言者は器用にビルの窓縁に足をかけながらラダーを降るように、一階飛ばしで緩急を付けながら地面に着地。車椅子に乗っていた預言者が驚いて転げ落ち、飛び降りた預言者は他の預言者たちに窘められているようであった。

    (相も変わらず何を話しているかは分からんが……俺の役割はそれではない)

  • 28125/07/29(火) 09:17:53

     そう思いながらも覗いていると、マルクトの進行方向と交差する形で伸びる路地に武装した危険因子の集団を確認した。見たところ無力な二人を複数人で囲んで捕縛した、という状況だろうか。悪意や敵意を抱いていることから拐取の現場なのかも知れない。

     ここで重要なのは、件の集団の進行を見逃せばじきにマルクトたちと鉢合わせてしまうということだ。

    (仕方があるまい)

     イェソドは内心溜め息を吐きながら転移を開始する。
     あくまで姿を消したまま、出力も意識だけは残すように抑えた上で尾の先端をゆっくりと振り回しながら歩み続ける危険因子とプラスアルファの前へと出現する。

     当然誰も気が付かない。
     そんな集団に目がけてサマーソルトを放つように尻尾を目標へと振り上げると、直後、空気砲のような電流が走った。

    「んぎゃあ!?」

     路地に悲鳴が上がってバタバタと痙攣しながら倒れていく目標群。もちろん意識は残っているため問題は無いはずだ。

    「な、何が……ってか誰が……?」
    「た、助けとかじゃ、な……」

     何やら呻いていたが、イェソドは危険を排除できたことを確かめて頷いた。

    (よし、問題ないな)

     それから再び転移を行い高所を取る。
     それが、この日トリニティで起こった『最初の』特異現象であった。

    -----

  • 29二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 15:01:09

    キヴォトスゆえの引き金の軽さからか……
    あとマコト様が道化モードじゃなかった……

  • 30125/07/29(火) 20:58:23

     キヴォトスの空には、広告用モニターを付けた飛行船が飛んでいる。
     映し出されたのはクロノスジャーナリズムスクールによる放送。落ち着いた様子のキャスターが淡々と原稿を読み上げていた。

    【本番組をご覧の皆様、こんにちは。ニュースクロノスの時間です】
    【この放送はキヴォトス陸上大会の聖地『アスレチックスタジアム』の中継室からお送りしています】

    【本日はキヴォトス大運動会――即ち、「晄輪大祭」の開催日】
    【トリニティ総合学園主管の本大会は、これまでとは異例の複数スタジアムに分かれての競技となります】
    【トリニティ方面での渋滞が予想されるため、おでかけの皆様および選手の皆様は余裕を持った移動を心掛けることをお勧めします】

    【また、競技スタジアムが複数に分かれることから、クロノスジャーナリズムスクールの中等部から高等部にかけて複数のチャンネルより独自の放送が発信されます】
    【面白い、見やすいなど、気に入ったチャンネルがございましたらチャンネルの概要欄よりチャンネル登録と高評価をお待ちしております】

    【本放送および交通状況については引き続きニュースクロノスにて】
    【――さて、開会式を締めくくる選手宣誓が行われるようです。現場の方へとカメラを移しましょう】

     キャスターの言葉と共に映像は『アスレチックスタジアム』の檀上へと移る。
     ネット上で複数ライブ配信をしているクロノスチャンネルもそうだ。各チャンネルは各々の配信の色が出るような賑やかしを行い、チャンネル登録者数がぽつりぽつりと増えていく。

     そのうちのひとつが捉えたのはクロノス中等部に属する生徒二人が運営するチャンネルであった。

  • 31125/07/29(火) 20:59:34

    【おおっと! いま選手代表のお二人が檀上へと登りましたぁ!】
    【今年の選手代表は……百鬼夜行連合学院の「七稜アヤメ」選手と、ゲヘナ学園の「空崎ヒナ」選手ですね】
    【緊張状態にあるトリニティ・ゲヘナ間に対して代表選手にゲヘ――モガッ!? ムガガぁ――っ!!】
    【…………ええと、シノンちゃんが実行委員会に連れていかれてしまったので私が引き継ぎます。このまま檀上にご注目ください!】

     その音声と共にカメラがよりズームになって檀上に立つ二人の生徒にフォーカスが当たる。

     ひとりは笑みを浮かべるように口角を上げて選手一同へと顔を向ける百鬼夜行連合学院の生徒。
     もうひとりは目元にうっすらと隈を浮かべながらも無表情にマイクの位置を調整するゲヘナ学園の生徒だ。

     二人が同時にマイクへ向かって声を上げた。

    「選手一同を代表して宣誓します」
    「選手一同を代表して宣誓する」

    「「私たちは晄輪大祭に参加するものとして」」

    「正々堂々、スポーツの精神に則り、ひとつひとつの競技に全力で取り組むことを誓います」
    「正々堂々、スポーツの精神に則り、ひとつひとつの競技に全力で取り組むことを誓う」

     つつがなく終えた選手宣誓にアスレチックスタジアム中で歓声が上がった。

  • 32125/07/29(火) 21:00:48

     百鬼夜行連合学院代表選手は口角を上げながら檀上を降りていき、自らの居るべき列へと並ぶと横に立つ少女が潤んだ目で笑いかけた。

    「やっぱりアヤメはすごい……。私だったら絶対口ごもって何言うのか忘れちゃう……」
    「…………そんなことないよ」

     ゲヘナ学園代表選手は相も変わらず無表情で列へ並ぶと、隣に立つ少女が鼻息を荒くしながらひっそりと捲し立てた。

    「ちゃんと委員長の活躍はカメラに納めましたから!」
    「今すぐ出して。隠し撮りなんて止めて」
    「ああっ!」

     そして、開催式の閉幕と晄輪大祭の始まりを示すかのように、そのチャンネルでは締めの言葉が流れるのであった。

    【晄輪大祭、間もなくスタートです! チャンネルはそのままで】

     晄輪大祭――開幕。

    -----

  • 33125/07/29(火) 21:45:32

    「おや、ついに始まったようですね」

     空に打ちあがる花火を見ながらヒマリが呟く。どうやら開会式が終わったらしい。
     それに「そうだね」と頷くチヒロ。リオの車椅子を押すマルクトもどうやら興奮しているようで、初めて見るものへ頬を僅かに綻ばせていた。

    「リオ、リオ。見てください。あれは神輿というものでしょうか?」
    「百鬼夜行ね。応援に来ているようだわ。向こうにはそう言った風習があると聞くわね。健体康心、無病息災……そう言うものを祈ってとのことらしいわ」
    「ならば私もリオが元気になるようにリオを担ぎます」
    「……そうね。私が元気になれるように……」

     マルクトの言葉に意味も無く意味深な雰囲気を醸し出し始めたリオにチヒロが「ちょいちょい」と手を振った。

    「なんでそんなに儚げなのよ……」
    「儚げ? 陽射しが眩しかっただけなのだけれど……」
    「全快したら外に出ること。怪我してなくても引きこもってるんだからちゃんと外に出て自室に帰るようにして」
    「今までそんなこと言わなかったじゃない。どうして急に……」
    「マルクト、リオを黙らせて」
    「はい」

     車椅子の後ろからマルクトの手が伸びて、ああ言えばこう言うリオの口を塞いだ。
     むぐぐ、と声を鳴らしながら憎らし気にチヒロを睨むリオ。チヒロは一切受け取らずに溜め息を吐いて周囲を見渡し――足りない影に気が付いた。

    「あれ? コタマとアスナは?」
    「おや、いませんね。盗聴器でも仕掛けにいったのでしょうか?」
    「はあぁぁぁぁぁ……」

     ヒマリの言葉に今日一番大きな溜め息を吐くチヒロ。
     目を離せばすぐこれだ。多くの学校が参加するキヴォトス一大行事で余計なトラブルは起こして欲しくないのは当然のことであろう。

  • 34125/07/29(火) 21:47:25

     そんなときだった。
     口を押さえられたリオがもごもごを声を上げた。

    「ほっほいいはひあ?」
    「ちょっといいかしら? と仰ってます」
    「手を離していいよマルクト……。で、なに?」
    「さっきの通報なのだけれど、嫌な予感がするのよ」

     リオが言い出したのはここまで来る道中のこと。
     近道のために入った路地が交差する地点にて、何故だか倒れている集団を見つけたが故に晄輪大祭運営委員会へと通報した時のことであった。

    「見たところ、あれはゲヘナの誘拐犯と捕まっていたトリニティ生徒のように思えたわ。その全員が『強い電撃を浴びた』かのように痙攣していた。これは――」
    「関係ない、私たちには、絶対!」

     チヒロは言論を統制するかの如く捲し立てた。

    「む、無差別かも知れないし、『電撃』だって色々あるでしょ? それにセフィラたちはミレニアムから離れようとしなかったんだよ? ね、ねぇマルクト?」
    「はい。基本的に我々は要因が分からずともミレニアム外では何らかの不調を果たすなので『意図』がなければ出ることは無いです」
    「ちょっとまっ――」
    「やだ!!」

     チヒロは叫んだ。リオの言葉を遮ってまで声を上げた。

    「今日は休みのつもりだったよ――!? ただのんびり観光しようと思って、次の戦いに向けて羽を伸ばそうって思って――!! まだ確証は無いし誰にも見つかってないならホドが上手いことやってるってことでしょ!? じゃあ! もう! いいじゃん!!」
    「チヒロ……」

     狂乱の叫びをあげるチヒロに寄り添うリオ。それから口を開いた。

    「誰が一番見つけやすいと思うかしら?」
    「ふ、ぐぅぅぅぅ……っ!!」

  • 35二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 22:00:38

    チヒロが平穏を求めて子供っぽくなってるのめっちゃ可愛い

  • 36二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 00:15:25

    保守

  • 37二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 05:56:41

    良くないんだよなぁ…

    しかもこれ>>28見る限りまだ起きるんだよなぁ…

  • 38二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 06:33:16

    どうでもいいことだけど、シノンはこのときクロノスにいないんじゃ
    原作時空で1年生だから

  • 39125/07/30(水) 07:40:37

    >>38

    ※特に掘り下げないので今のうちに言っておくと、中学生時代のミヤコのスチルからSINONMAINETのアカウントは存在していたので、「中学生シノンもマイとの先輩後輩コンビで活動していたっぽい&クロノスが中高一貫だったら」の結果こうなりま……半分嘘です。報道関係者のキャラ作るのが面倒だったのでそれっぽい理由をひたすら探してました。


    シノン15歳に衝撃を受けた先生も多かろう……(特に二次創作界隈)

  • 40二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 10:45:06

    リオ……
    神秘が弱いから……
    回復も遅い……?
    会長は死んでも良いと思ってると公開されたけど、リオの神秘が弱すぎて「願い」が効きにくすぎるが故に、『自分では助けられない』と独白してるほどだから……
    千年紀行の達成のためにはリオは「不要」(障害にもなり得る。これまでセフィラを捕らえられてきた理由でもあるが。)だからリオの死を見越してるってだけで……
    嫌いだからとか価値が低いからとか興味がないみたいな理由で死んでも良いと思ってるわけじゃないと思うんだ……
    普通に悲しんでくれると思うんだ……

  • 41二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 15:38:58

    >>39

    むしろ曲がりなりにも理由あったのか……

  • 42125/07/30(水) 22:12:31

    念のため保守

  • 43125/07/30(水) 23:21:53

     頭を抱えるのも無理はない。
     学内だけではなく企業とのやり取りも行っているチヒロはエンジニア部の中で最も多忙である。

     マルクトとの出会いによりその多忙さは更に極まっている。
     医務室で目が覚めてから完治するまでも研究こそ行っていなかっただけで仕事はしていた。

     故に、休みを取る時は何が何でも絶対に取る。そうでなければやっていられない。

    (分かってる。分かってるけどさぁ……!!)

     言ってしまえば今のセフィラたちは透明化して瞬間移動しまくる迷惑極まりない守護天使だ。
     それでも現実を受け入れられないチヒロは縋るようにマルクトを見た。

    「ま、マルクト……? ゲブラー戦から色々変わったって言ってたでしょ? ミレニアムの外でも魂の観測と『精神干渉』は……」
    「出来ません。あくまでミレニアム限定です。声を届かせるにはミレニアムにセフィラたちと一緒に戻るか、機械体に戻ってセフィラに直接触れ、その状態を維持するほかありません」
    「変わらないよねぇ……!!」

     内心さめざめと泣き続けてやりたい気持ちが溢れていたが、分かっている。仕方ない。やるしか、ないのだ。

    「イェソド……」
    「そうね。『瞬間移動』は厄介だわ」
    「それからホド。後は見つけ次第。『波動制御』の透明化を一斉に解除したらトリニティで混乱が起きるから、位置情報だけ確認して手探りで探していく。マルクト、イェソドを捕まえるのに良い方法ない?」
    「そうですね。イェソドは最も過保護ですので、私がピンチになれば近くに来るかと思います」
    「今更だけど、過保護なセフィラって人間臭過ぎない? とはいえ、ピンチかぁ……」

  • 44125/07/30(水) 23:23:27

     誰かに襲わせる、というのも胸糞が悪いしイェソドが来る前に自分が我慢できないだろう。
     そう思ってヒマリとリオを見ると二人は頷いた。

    「当然です」
    「マルクトを誰かに襲わせるのが合理的ね」
    「二人とも……」
    「ち、ちがっ――なんてことを言うのですかリオ!? 私は当然反対ですからねチーちゃん!?」

     慌てたように手を振ってリオを睨むヒマリ。
     そこでマルクトが口を挟んだ。

    「でしたら、飛び降りなんて如何でしょうか?」
    「飛び降り――っ!? ってそっか。ひとりで落ちる分には問題無いんだっけ?」

     今のマルクトは人間体でさえなければセフィラとの接続で得られた追加機能を使うことが出来る。
     ティファレトとの接続で得たのは自身にかかる重力を操作する機能。他者には使えないため極力軽装備にする必要はあるが、ゲブラーとネツァクで得た追加機能を組み合わせれば装備の切り替えも容易に行える。

    「私ひとりであれば怪我もしませんが、イェソドなら恐らく心配してやってくるはずです」
    「じゃあとりあえず……高い場所でも探す?」
    「死に場所を探しに行くのもなんだか憂鬱ね」
    「リオ、あんた……」

     ノンデリオにげっそりとしながらも、チヒロたち四人はマルクトの飛び降り現場に適切そうな高い場所を探しに向かった。

    -----

  • 45二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 01:01:43

    保守

  • 46二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 09:14:24

    待機ですよ

  • 47125/07/31(木) 09:16:56

    「おやぁ? ウタハちゃん何だかグロッキーだねぇ? 大丈夫?」

     会長に呼び掛けられてウタハは手元の紙面から目を離す。
     目元を押さえて頭を上げると、ペンを片手に書類の内容を精査する会長の姿がある。

    「いや……こんなに多くの書類を目にするのは初めてでね……」

     親指の付け根をぐりぐりと揉み押しながら首を回すと、会長は「まぁねぇ?」と同意した。

    「ミレニアムじゃ基本的にデータされてるからねぇ? ま、紙媒体の良さは相手の環境に依存しないってところだけど、慣れないと疲れるよねぇ~? ニヒヒッ」
    「まったくさ。外の広さを実感しているよ……」

     そして再び手元の紙へと視線を落とす。いまウタハが確認しているのは競技に関する備品管理の書類であった。


     晄輪大祭実行委員会、事務室。
     ホストと議長は既に現場へと向かっており、残っているのは会長とウタハ、それから各校の生徒会部員たちが数名。ゲヘナとトリニティの部員たちが互いに睨みを利かしているが、表立って争うことはなく妙な緊張感が続いている。

     まさに一触即発。そんな中で会長は大きく伸びをすると、周囲を見渡しながら意地の悪い笑みを浮かべ始める。嫌な予感がしたウタハが「会長?」と言いかけた――次の瞬間だった。

    「ゲヘナとトリニティ、今年はどっちが総合優勝取れるんだろうねぇ~?」
    「「――ッ!!」」

     突然投げ込まれた一言で空気が変わる。
     トリニティ生がゲヘナ生を睨みつけながら叫んだ。

    「そんなの――今年もトリニティに決まってますわ!!」
    「なんだと!? 我ら新生ゲヘナが羽付きに負けるわけがない!!」

     当然の如く始まるのは喧々囂々の口喧嘩。その中に「まぁまぁ」と割って入る会長。ウタハは即座に出入口付近まで距離を取る。

  • 48125/07/31(木) 09:17:59

    「いやぁ! やっぱりお互い士気が高いっていうのはいいねぇ~? でもさ、そんな君たちだからこそ分かるんじゃないかな? もしも自分たちが二位に転落したら、自分たちの尊敬する生徒会長がどれだけ落ち込むかって……」

     その言葉を受けて両校の生徒たちは一瞬表情を曇らせる。そこに生まれた間隙を突くように、会長はニンマリと笑みを深めた。

    「自分たちのリーダーこそ最高……そうだろう? だったら勝たないと、『何が何でも』。『みんな』で笑って『合法的に』勝てるよう……さぁ、『みんなで仲良く笑い合いながら頑張ろう』!」

     両校の生徒の瞳にゆらりと熱が入った気がした。
     絶対に青春などでは決してないタイプの熱意の高まりを感じた気がした。

    「さ、お互い握手でもして健闘を祈ろうよ。いいかい? こうやって笑うんだ」

     あまりに含みが多すぎる言葉は過ぎた毒か、あるいは薬か。
     ゲヘナとトリニティ。険悪だった生徒たちは学校を越えて微笑みながら互いに握手を交わし始める。

    「そうですね。ここは『仲良く』仕事に取り掛かりましょう」
    「そうだな。お互い『協力』するべきだもんな」

     その様子を満足げに眺めた会長は、自分の仕事を手伝っていた保安部の面々へと向き直って無言で退出を促し始めた。当然ウタハにもだ。早足でウタハの近くまで歩いて行くと、ウタハは会長に耳打ちされた。

    「よし、さっさと出よう。巻き込まれたら怖いし」
    「いやいや会長、あの、どうして火に油を注ぐようなこと……」
    「え? いやだってじれったいだろう? 燻るよりかは健全じゃないか。それにみんな笑ってるし」
    「牙を剥き出しにするタイプの笑顔だね」

     そうしてウタハは会長と共に事務室を出ると、会長はさっそく自前の端末で今日のタイムスケジュールを確認し始めた。

  • 49二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 16:53:01

    「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」を促した?会長??

    まあ、良くも悪くも全力で取り組むのは、良い青春の1ページになるだろうから、良いか。
    良いか??????

  • 50125/07/31(木) 23:01:01

    念のため保守

  • 51二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 03:35:59

    会長、以前本人も自覚してない才能を発掘する能力があることも提示されてたけど、神秘に書いてあるのかな?才能の方向性。
    神秘の元ネタが悪魔だったり天使だったり古い神々だったりするわけだから、それぞれの神格の権能みたいなのが割とはっきり記述されてるのかな?

  • 52二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 09:22:42

    うーむ…

  • 53125/08/01(金) 09:51:29

     会長は画面にいくつか操作を加えると、それから端末をウタハに渡す。

    「とりあえず今日の競技の中でゲヘナとトリニティが管轄する競技に印をつけて置いたから頭に入れてね。さっき煽ったから確実に工作されるだろうからさ」
    「煽らなければ良かったんじゃないかな?」
    「そうはいかないんだよねぇ……。『期待』されてたしさぁ」
    「期待?」

     タブレットを受け取りながら首を傾げるウタハ。
     会長は辟易とした様子で肩を竦めて見せた。

    「ほら、ホストも議長も事務室に着くなりすぐに部下を置いて出て行ったでしょ? 直前まで撃ち合いしてたってのに自分たちの部下を置いてさ。当然空気は最悪になるよねぇ? 僕たちはまだ残っているのに。……じゃあ、僕たちに求められているのは何かな?」
    「うん……そうだね……」

     ウタハは政治なんて分からない。この手の機微はヒマリやチヒロあたりが得意だろうが、ひとまず考えてみて自分なりの答えを口にしてみた。

    「……やっぱり、仲裁かな?」
    「30点」
    「うぅん……手厳しいね」
    「三分の一は当たってるって意味だよウタハちゃん」

     そして会長は指を一本立てた。「仲裁」と。

    「足りない二つのうちの一つは『無視』。一切関与しないって形で空気になることだよ。自分たちは何も見てませんってやつさ。それでもうひとつが『容認』かな」
    「ゲヘナとトリニティの争いを認めるってことかい?」
    「そう」

     会長が指を二本と続き三本目を立てる。
     中立的容認、つまりは『どちらにもつかないけど争いだけは認める』という立場である。

  • 54125/08/01(金) 09:54:38

    「晄輪大祭は進めるけど工作だとか何とかは証拠を残さないように頑張ってね、って立場かな。あと僕たちに迷惑はあんまりかけないでねって威圧も兼ねてるから、『ミレニアムそのもの』を相互確証破壊兵器の立ち位置にさせるって目論見とも言えるけどね」
    「……済まない。あまりピンと来ないかな」
    「はぁ……もうちょっと自覚が欲しいところかなぁウタハちゃんにはさ」

     会長が溜め息を吐きながら肩を落とす。
     それから言った。『ミレニアム』とは何なのかを。

    「いいかい? 僕たちは『キヴォトス三大校』の一角なんだよ? 要は『ミレニアム』がゲヘナかトリニティのどちらかについた瞬間、均衡は崩れて『キヴォトス最大の連合』が生まれるってわけさ。特にキヴォトス全土における技術提供の発信源はミレニアムなんだから、僕たちが何処かに与した時点で何処かの学校目線だと無視できない脅威になるんだって。怖いねぇ、政治闘争って!」

     皮肉気に口角を上げる会長であったが、ミレニアムの立場についてはウタハにもよく分かった。
     トリニティとゲヘナ、三大校の二柱が敵対した時点で巻き添えを食らうようにミレニアムも面倒な立場に叩き落とされたのだ。

     両校が良好であれば技術提供の根本たるミレニアムは添えるだけ。政争に巻き込まれることもなかっただろう。ウタハはそこに少々の同情を感じた。会長の『ミレニアム内での傍若無人振り』にも。

    「勘違いしてそうな顔してるねウタハちゃん」

     表情でも読まれたのか、会長の発した言葉に顔を上げるウタハ。
     会長は溜め息を吐きながらウタハの肩を叩いた。

    「面倒だとは思ったけれど、裏を返せば好き勝手やっても特に問題ないってことだよ。何せホストも議長も『わざわざ』僕たちの前で銃撃戦をやってくれるぐらいにはこっちの理解力に背中を預けていないからね。彼女たちが意図するところに気付いても良いし気付かなくても良いぐらいには僕たち無関係なんだから」

     そもそも、と会長は続けた。

    「仲間でも身内でもない人は赤の他人でしょ? だったらストレスなんて溜め込む方が馬鹿を見る。僕が『身内』にマウントを取り続けるのは単にそれが楽しいからさ!」
    「なるほど、ロマンだね?」
    「……納得されても困るんだけどなぁ?」

  • 55二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 14:18:22

    保守

  • 56二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 22:27:25

    大気

  • 57二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 04:46:40

    保守

  • 58125/08/02(土) 08:01:00

     会長は何だかしっくりこないといったように苦笑する。
     遅れてウタハは気が付いて、思わず微笑んでしまう。

    「チーちゃんじゃなくて悪かったね、かな?」
    「いやごめんよ。実のところ僕もまだ掴めていないんだ、君たちとの距離感がねぇ? セミナー会長としての僕、起業支援家としての僕、ミレニアム生徒会長としての僕に、一人でいるときの僕。そして、君たちと関わる時の僕。一番最後の顔はまだ慣れていないんだよねぇ……」
    「会計とはどうなんだい?」
    「ぐっ……嫌なとこ突くなぁ~ウタハちゃんは」

     困ったような顔と笑み。何故だかその姿は、会長の体躯の小ささを改めて気付かされるものだった。

    「あの子はさ、本当に馬鹿なんだよ。能力だけはあったから夢を捻じ曲げて利用して何度も騙して、あの子だって騙されたって気付いているのに何でか僕を友達なんて言うんだ。都合が良すぎて笑っちゃうよねぇ?」
    「…………」

     ウタハは何も言わなかった。
     これは会長の独白で、それに対して答える資格を持つ者はメト会計ただひとりなのだろうから。

    「あー、ほら。そんなことよりタブレット。ちゃんと見て、仕事だよ」

     会長の言葉に従うように渡されたタブレットを付けると、そこには晄輪大祭のタイムスケジュール。競技名の隣には丸印の中に『ゲ』の字と『ト』の字、それから『ミ』の字が書かれている。

    「それぞれの競技の準備スタッフを書いておいたから覚えておいて。ゲヘナとトリニティが準備している競技は確実に何か仕込まれるだろうから要注意。一応レーンがあるようなものは全部ゲヘナもトリニティもまとめて端に追いやったけどさ」
    「そこは流石にしっかりしているんだね。ちなみに両校の隣は?」
    「SRT特殊学園。知ってる? 今年に開校した連邦生徒会長直下の特殊部隊養成学校。練成完了は来年になるだろうけど、ヴァルキューレからトップクラスの成績を持った生徒たちを育てているらしいから何かあっても大丈夫でしょ」
    「それなら問題無いか……分かった」

  • 59125/08/02(土) 08:33:26

     タイムスケジュールを見ると、午前は個人競技が集中しており12時に昼休憩が挟まれるらしい。

     現在午前8時。9時から各競技場で競技が始まる。
     12時から13時が昼休憩で、そこから16時まで団体競技が続き、オオトリを飾るのが例年通りの学校別リレー競争――ではない。

    「全校一斉フルマラソン……? えーと、確か……」
    「トリニティスタジアムからアスレチックスタジアムに向かってみんなで走る『妨害前提』のマラソンだね。最終得点がゴールした生徒の順位によって割り振られるバーリトゥードデスマラソン」
    「全校にとっても狙い目の最終競技だったかな?」
    「自分の所属校以外全員倒してゴールすれば捲れるからねぇ? ゲヘナとかトリニティ以前に全校が色々仕込んで来るだろうさ」

     ルートは伏されているものの、スタートとゴールは告知されているために全力で妨害工作が行われていることだろう。

    「あ、ちなみにルートも公然の秘密だよ? 参加する全校に対してこっそり僕が教えちゃったから」
    「その言い振り……生徒会長レベルというよりも草の根で広めたってことかい?」
    「ご明察。面白くなりそうだろう?」
    「同意だね会長。今でこそ大人しいけど、盤外戦術ならエンジニア部の得意分野。新素材開発部を前に『えげつない』と言わせしめた仕込みのノウハウが役に立ちそうだね」

     部活対抗戦を思い出してふと笑うウタハ。

     今でこそセフィラとの戦いに全てを費やしているが、思えばそもそも毎日研究と開発をして、資料や金銭に困れば新素材開発部を襲撃しては和気藹々と回収をしていたことを思い出す。

     マルクト――いや、その前から。未来から来た後輩と出会う前の『日常』から見れば、今もなお『非日常』は続いているのかも知れない。

    (そうか、随分と変わっていたんだね。私たちの『日常』は)

  • 60125/08/02(土) 08:55:53

     晄輪大祭で賑わう通りを歩くウタハの胸中を過ぎったのは懐古の情だったのかも知れない。

     ベンチに座ってパフェを食べようとする生徒や、屋台で買ったと思しき焼きとうもろこしを食べる生徒。
     競技会場へ向かいながら友人たちと談笑する生徒にカメラで自撮りする生徒たち――皆が今日と言う日に浸っていた。

     私たちもあの中にいたのだ。
     今でこそセフィラとの戦いに身を費やしてひたすら前へと走り続けているが、ミレニアムの危機なんて知らずに歩くような速さで同じ明日が来ることを盲目的に確信しながら過ごしていた日々があったのだ。

     別に悪いことでは決してない。前も、今も。
     ウタハはマルクトたちとセフィラを集める今の状況を悪いこととは思っていないのだ。

     確かに命の危険はあるし、この前だって死にかけた。
     キヴォトスに住まうとって意識することの無かった『死』を肌身に感じた場面も増えてきた。

     でも、みんな生きてる。
     終わってから「大変だったね」なんて呆れ顔で笑って、次は絶対に怪我をしないよう万全を尽くすこの日々に充実感を覚えていないと言ったら嘘にはなるが……同時に一切気が抜けない日々だったのも確かだである。

     良きにせよ悪しきにせよ、私たちの日々は留まることなく変わり続けている。
     なればこそ、今一度何も知らなかったあの時のように『日常』の中で盤外戦術の限りを尽くす青春の日々へと回帰するのも悪くは無い。

     ルールの穴を全力で突きに行く。
     何せその手のハッキングを得意とする者が自分たちの部活には大勢いるのだから。

    「そうだ。セフィラたちを連れて来て晄輪大祭を引っ掻きまわすのも……」
    「それやったら流石に僕も見逃せないからね? ほんとに」
    「ふふっ、冗談さ。いくらヒマリたちであっても流石にそんなことするわけな――」
    『わ、私のパフェがぁ!! 空に! 空に!』

     唐突に聞こえた声に顔を向けると、ベンチに座ってパフェを食べていた生徒の手から、パフェがゆっくりと空に向かって上昇し始めていた。

  • 61125/08/02(土) 08:56:54

     まるで『見えない手』が取り上げてしまったかのように、ふわふわと宙に上るパフェ。
     取り返そうとぴょんぴょん飛び跳ねるも、背の小ささも相まって赤いツインテールがふりふりと揺れるだけで指先が掠ることすらない。

     ウタハも会長も、思いがけない出来事に硬直し無言で空へと昇るパフェを眺めていた。
     パフェに合わせて視線を上に。10階建てのビルぐらいの高さまで昇ったところでぴたりと止まり、それからレーンに乗せられたかのように等速直線な動きで何処かへと飛んでいく。

    『ま、待ってぇ!! 私のパフェ~~!!』

     謎の力でパフェを取り上げられた生徒が銃を担いで泣きながらパフェを追いかけていく。

     その様子を、ウタハと会長は唖然とした表情で眺め続けていた。

    「…………ねぇ、ウタハちゃん」
    「な、何かな……?」

     棘の混じった声にウタハはひたすら会長から目を背け続けるが、視線の先は空飛ぶパフェだ。『特異現象』だ。思い当たる節があるせいで冷や汗が垂れる。

    「あれ、何だと思う?」
    「てぃ、ティファレト……かな?」
    「出ちゃってるじゃん! ミレニアムから!! セフィラが! 晄輪大祭だよ!? 連邦生徒会長も来るんだよ!?」

  • 62125/08/02(土) 08:58:37

     がしりとウタハの服を掴む会長。横目に伺うと会長はめちゃくちゃ焦っていた。見た事も無いぐらいに。

    「なんでいま出て来ちゃうかなぁ……!! EXPOだって何とかやり過ごしたのになんでよりにもよって晄輪大祭でさぁ!! 流石にバレたら揉み消せないって他学区じゃあさぁ!!」
    「か、会長……?」
    「しょうがない……ウタハちゃん、『クォンタムデバイス』は持ってる?」
    「いや、ラボに置いてあるけど……」
    「じゃあ10分で持って来させるから捕まえるよ。チヒロちゃんたちにも連絡!」
    「しかし、部室もラボもセキュリティが――」
    「会計ちゃんに全部破ってもらうから! 書記ちゃんにラボの中とか全部見せるけど『エンジニア部の部長』として全部飲み込んでもらうよ?」
    「う、あ、あぁ……分かった」

     会長は頭をガリガリと掻きながらウタハの手から端末を奪い取って各所へ連絡を送り始める。
     それからウタハに「屈んで」と命じ、言われた通りにすると会長はウタハの背中に飛び乗った。

    「会長!?」
    「そろそろ眠くなりそうだから移動は君に任せるよ。顔隠しておけば僕だってバレないでしょ。指示は出すからとりあえず飛んでったパフェを追って」
    「運動は苦手な方なんだけどね……」
    「僕よりマシだろう? ほら、走った走った!」

     ウタハはジャケットを頭まで被った会長を背負って走り出す。
     かくして、多くの学校が集う晄輪大祭にて隠れたセフィラを探し出すという狂乱の一日が始まった。

     イェソドの確保に画策するチヒロ班。ひとまずティファレトを追うウタハ班。そして何も知らずに盗聴器を仕掛けに行ったコタマ班。

     その裏で、当然何も知らないゲヘナの議長は策を練り始めていた。
     煩わしいトリニティを蹴落とすための、胡乱で雑な計略を。

    -----

  • 63二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 12:18:36

    この会長も、先生と出会ってたら先生ラブ勢になってたんだろうか……

  • 64二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 16:57:11

    というか何してんのティファレト…

  • 65125/08/02(土) 17:31:41

    >>63

    言われて確かにと思いましたが、会長は先生みたいな無辜の善人がぶっ刺さりそうですね……。そ、存在しないメモロビが見えてきそう……

  • 66125/08/02(土) 20:34:10

     晄輪大祭の只中を練り歩く八名の集団。彼女たちが進む姿を怪訝な表情で見る群衆。
     それもそのはず。晄輪大祭というイベントである以上、生徒たちのほとんどが体操服を着ているのだが、物々しく銃を手に歩くその頭には服装にそぐわない軍帽。そしてその先頭を歩む生徒は体操服の上から軍服モチーフのコートを肩にかけていた。

     万魔殿、議長――羽沼マコトである。

    「キヒヒッ! 平凡な群衆とは言えど、やはりこのマコト様の姿を目で追わずにはいられないらしいなぁ?」
    「その通りです議長!」
    「カリスマが溢れてます議長!」

     全肯定する万魔殿の部員に気分を良くした議長が笑みを浮かべる。
     実際は珍妙な格好をした集団でしかないのだが、そんなことをわざわざ告げる部員はいなかった。

    「例の計画はどうなっている?」
    「はい! トリニティ側の玉入れ用のお手玉を全て爆弾にすり替えました!」
    「よくやった。風紀委員長の方は?」
    「はい! お弁当に入っていたツナマヨサンドイッチを全て梅干し入りのおにぎりにすり替えました!」
    「上出来だ! キッキッキ……空崎ヒナの落ち込む姿が思い浮かぶよなぁ?」

     選手として競技に参加しながら行う治安維持活動。
     ようやく昼食にありつけたと思ったところで蓋を開ければ梅干しおにぎり。ツナマヨサンドイッチの口であるにも関わらず、だ。

    「他に報告は?」
    「はい! すり替えの際に風紀委員と交戦がありましたが、被害は軽傷者三名で済みました!」
    「ふむ……後で見舞いに行ってやるか。他は?」
    「おにぎり作りが思いのほか楽しかったです! それとヒナ風紀委員長のサンドイッチが非常に美味しかったです!」
    「キキッ、食後すぐに運動するのは身体に悪いからお前は30分ほど休むといい」
    「はっ!」

     命令を下すとその部員は列から離れて木陰のベンチで一息吐き始める。
     ついでに他の面々の顔色を見るが、体調の悪そうな者はいなかった。気力に満ちており問題ない。

  • 67125/08/02(土) 20:40:43

     むしろ顔色が悪いのは自分の方だろう、と議長は思う。
     学区外の諜報活動と情報統制に人員を割いた結果、ゲヘナの復興業務がほぼワンオペになってしまったのだ。

     おかげでまとまった睡眠を何か月も取れていない。
     一時間の休憩を日に五回は取っているため合計の睡眠時間はやや少ないぐらいだが、何せ書類の精査と学園の運営には気を使う。眠っていてさえ仕事をする夢ばかりだ。こんな業務を押し付けてきた風紀委員長に行う嫌がらせぐらいしか娯楽が無い。

     だが、これも三年生になるまでの辛抱だ。

     今年度でゲヘナを復興させ、来年度で優秀な人材を集めて教育を施せば、再来年度には万魔殿の皆と好きに遊びながら歪なキヴォトスを手中に収める計略へと専念できるはずである。

     そのためにはまず、キヴォトス三大校としてのゲヘナの格を落としてはならない。

    「良いか! ゲヘナは前回の晄輪大祭ではトリニティに敗北を喫している! エデン条約などという愚策をネチネチズルズル引きずり続ける腐った監視社会の羽付き共にだ! いっそ侵略してゲヘナの分校にしてやりたいところだが、今は未だ雌伏の時……。故に、まずはこの晄輪大祭で本当のゲヘナを見せ付けてやらなくてはならない! 何をしてでもだ!」
    「「はっ!」」

     二年前の晄輪大祭。情報統制ついでに調べてみればこれがまぁ酷かった。
     なかよしこよしで手を繋いでゴールテープを切るような間抜けさ。競争の本質を致命的に履き違えた愚かしい末路。

     自らの全力を賭すことに価値があるのだ。
     それを理解できなかった『彼女』に非を求めるのは難しくとも、今のゲヘナは『自由と混沌』――引っ掻き回して最後に勝つのがゲヘナであると世界に見せ付けてやらねばならない。

  • 68125/08/02(土) 21:22:18

    「諸君、トリニティに対して他に出来る妨害工作の案を出せ!」
    「議長! トリニティの走るレーン上に地雷を敷設するのは如何でしょう?」
    「採用する! 今すぐ人員を再編し作業に取り掛かれ!」

     指示を受けた部員がすぐさま手元の端末から必要な工数と人員を割り出す。
     しかし、その顔色が若干曇ったのを議長は見逃さなかった。

    「問題か?」
    「は、はい……。晄輪大祭の運営および工作班から必要人員を割り出したのですが……その、作戦遂行のための人員が足りず……」

     まごまごと答える部員。そこに横から口を挟む別の部員。

    「運営側の人員から補充して、抜けた穴をサツキ議員とイブキ議員に賄ってもらうのはどう?」
    「だ、駄目でしょ流石に! イブキ議員に仕事をさせるなんて、せっかく晄輪大祭を楽しんでるのに!」
    「じゃあ……やっぱり地雷敷設の人員を削る方が……」
    「それはならん」

     議長の言葉は鶴の一声だった。
     全員の視線を受けて議長は静かに息を吐く。

    「必要な人員を削ればボロが出る。十人必要だと試算出来たのなら、それは十人必要なのだ。下手に減らせば計略に支障が出る」
    「で、ではこの案はやはり廃棄すべきで――」
    「私の護衛から人員を補填できないか?」
    「「――ッ!!」」

     その言葉に動揺する一同。それは議長にとっても分かり切った反応だった。

  • 69125/08/02(土) 21:34:22

     なにせ『とにかく』襲撃される。下手に街を歩こうものなら退学処分という極刑に処した雷帝派閥がわらわら集まって来て鉛玉の雨を浴びせかけられるのも必然。じきにキヴォトスから出て行くことになるだろうが、そのせいで最後の花火と言わんばかりにめちゃくちゃ襲い掛かって来る。

     いま外を出歩けているのも各学区の治安維持組織が警邏に回る『晄輪大祭』だからだ。
     それでも危険なのだ。何なら風紀委員長への嫌がらせの一環で『護衛を連れずに歩く』を行うぐらいには狙われる。

    「い、いけません議長! それでは簡単に拉致られてしまいます!」
    「まぁヒナもいるしあいつに私を助けさせればいいだろう」
    「当てにし過ぎです! それにここから人員を割くとなると議長の『お世話係長』が足りなくなります!」
    「な、なにぃ……? というかなんだその役職は! いま初めて聞いたぞ!」
    「晄輪大祭に向かうバスの中で話し合って決めたのです! 議長の負担を減らすべく寝食全てをお世話する係が必要だと」
    「う、うぅむ……き、決めたのか。じゃ、じゃあ仕方ないな……」

     むしろ負担になっているとは流石に言えなかった。
     自由と混沌。自由……そう、自由であるべきだ。知らんところで勝手に妙な役職が生まれるのも自由。

     そもそも風紀委員会が勝手に規則を作り始めたときも「それも自由、か」と見逃したのだから追及は出来ない。

     そんなときだった。議長の脳裏に電撃が走る。

    「ならば私が直接地雷を仕掛ければ良いではないか!」

     議長は邪悪な笑みを浮かべた

     自分だって今は万魔殿の議長ではあるが、元は情報部。
     工作、諜報、改竄――現場作業の類いも別に苦手としていない。苦手なのは戦闘ぐらいだ。

  • 70125/08/02(土) 21:49:22

     そう思って一同を見渡すと、皆が口々に議長を讃えた。

    「流石です議長!」
    「どこまでもついていきます議長!」
    「晄輪大祭を乗り越えたら休暇を取りましょう議長!」
    「議長の業務は我々で何とかしますので一日ぐらい寝てください議長!」

     皆の期待と信頼を感じて頷いた。

    「ではこれより、私が手ずから羽付き共に鉄槌を下してやろう!」
    「「はっ!」」

     本末転倒のような倒錯劇。その先頭を歩む議長に続くは普通に議長の健康状態を心配している部員たち。



     そんな一幕を外から見ていた生徒は、今しがた聞いたゲヘナの工作内容を電話で伝えた。

    【その、ゲヘナが自分たちの工作活動を何故か往来の場で話していたのですが……】
    「いったい何なのでしょう……ゲヘナの生徒会長は……?」

     報告を受けたのは、同じく外に出てカフェテリアで紅茶を飲むティーパーティーのホストにしてフィリウス派の代表である。

     ゲヘナの生徒会長、かの存在は悩みの種でしかない。

     エデン条約締結直前に起こったクーデターと、それに伴う政権の混乱を横から全てかっさらった謎の人物。
     どれだけ諜報員を送り込んでも、あの日何があったのかなんて完璧な情報統制によって何一つ分からず、正体を見破られた手駒たちが手紙を渡されてトリニティへ送り返される毎日である。

     その手紙も「コーヒーの質が悪い。どうやらティーパーティーとは名ばかりで上品な味が分からないらしい」だの「海水混じりの紅茶を飲んで味覚が狂ったか?」だのと挑発的な文面ばかり。
     対抗するようにこちらもゲヘナの諜報員を見つけ出しては「繊細な紅茶の香りをお楽しみいただけなかったようですね」などを書いた手紙を持たせて送り返しているが、ゲヘナの諜報活動は病的なまでに量が多い。ひとり見かけたら百はいると言わんばかりで流石にうんざりしていた。

  • 71125/08/02(土) 21:57:08

     それに――あの議長だ。

     エデン条約の締結をのらりくらりと躱しながらも決して致命的な言質は取らせない屈指の政治家。
     責任問題すらあやふやにし、何なら自分たちこそ被害者であると狂った論理を展開する癖に民意を保つ扇動家。

     危険なんてものじゃない。何ならいまゲヘナからトリニティへと流れ込んでいる不良たちだって『学籍が無い』のだ。
     ゲヘナによる侵攻だと訴えたくとも、学籍が無い以上その管轄はヴァルキューレおよび連邦生徒会。退学処分なんて極刑を下す事例がそうそう存在しないが故に発生するバグであり、あの『議長』はそれを一度に大量生産したのだ。

    (狂ってます……。理解が出来ません……)

     そこまでしてエデン条約を阻止したかったのか。
     平和を願う和平条約も今や暴走し続けるゲヘナに首枷をつけるためのものにまで貶められた。

     そんな事態を引き起こしたあの『議長』が、往来で? トリニティの妨害工作を普通に話している?

     頭が痛くなる。何も考えていない愚物なら対処は楽だが、どれだけ詰めても詰め切れない狡猾さを有している。
     つまるところ、ゲヘナの生徒会長が最悪たる所以は『疑心暗鬼を誘発させる』ということにあるのだ。

    (本当に何も考えていないのですよね……? 私たちに聞かせることが目的では無いのですよね……?)

     カフェテリアで飲む紅茶の味が感じられない。
     眉間を押さえながら同席する護衛たちへと指示を飛ばした。

    「とりあえず仕掛けられたお手玉の爆弾をゲヘナのものと取り換えてください。もちろん中身の精査もお願いします。それから、他の競技用具全てに改めて点検を」
    「はい」

     ティーパーティーの部員が連絡を送る様を見ながら、テーブルに並ぶクッキーを一口。
     普段であれば香りをも楽しむ優雅な時間だが、今に限っては頭を回すための糖分補充以外の意味を為してはいない。

  • 72125/08/02(土) 22:30:41

     それから数分後、現場に向かわせた部員から報告が上がって来た。

    【シオリ様。お手玉の中に爆弾はありましたが……その、全てでは無いです】
    「はぁ……」

     これだ。往来の場で「全部に仕掛けた」と言っておきながら実態が違う。
     代わりに判明したのは全ての学校のお手玉がすり替えられていることと、むしろゲヘナ側のお手玉の方が爆弾の比率が高いという事実。

     これがただのミスなのか、それとも何も考えずに交換していたら被害が増すという『計略』なのかが分からない。
     下手に読み切ろうとすれば確実に裏を掻かれる。その上で全てを確認するなら時間も人員も奪われ続ける。ゲヘナに関わったが最後、訳も分からぬままに損しかしないという事実。

     かといって現状を放置すればトリニティの治安は悪化し続ける。
     病原を制圧し管理するためにはゲヘナに関わらざるを得ない。つまりは最悪の状況だ。

     深い溜め息を吐きながらティーカップに口を付けると、次なる報告が上がって来た。

    「あの……棒引きに使われる棒の両端に細工がされており、爆弾にされていたと連絡が……」
    「ゲヘナ以外であるという可能性はありますか?」
    「いえ……わざわざゲヘナの校章が印字された上にメモが挟まれておりまして、そこには『点検ごくろう!』と書いてあったと……」
    「っ、はぁぁぁぁ…………!!」

     ティーカップを叩き割りたい衝動に駆られて、寸で堪える。
     無警戒に往来で話していた計画なんて『知られても良い表層』に過ぎなかった。だから嫌なのだ。薄汚い角付き共が。

     ああいう手合いは仲間でさえも騙し切り策とやらを完遂するに違いない。

     そもそもで言えば、トリニティ総合学園が生まれたきっかけである数百年前の第一回公会議にしたってゲヘナによるトリニティ侵攻があったからだ。議長が度々口にする「アリウスですら見捨てた貴様らが」というフレーズにしたってゲヘナがいなければそんなことにはならなかった。

     根本的に和平なんて有り得ない両校の最初にして最後の和平条約を結べるタイミングがエデン条約だったのだ。

  • 73125/08/02(土) 22:48:40

     ゲヘナの前生徒会長だったらこんな事態には陥らなかった。愛を理解し善行に遵守するあの人柄。裏も表も無く善き存在であろうとする志。そんな彼女が突然『飛び級で卒業』なんて信じられなかった。確実にあの『議長』が何かをして、キヴォトスの平和を打ち崩したのだ。

     ならばこちらも、ただ攻められるだけではいけない。

    「皆さん、ゲヘナは私たちの脅威です。この晄輪大祭で何をしでかすつもりか分かりませんが、少なくともゲヘナに衆目が集まることは避けねばなりません」

     部員たちは静かに頷いた。

     公平中立を謳うクロノスだって注目を集められれば偏向報道を容易く行う。
     仮にゲヘナが総合優勝を果たしてカメラが集まったその時、あの議長は何を言うのか。

     いや、何を言おうが絶対にそんな事態を起こしてはならない。今年も晄輪大祭の一位はトリニティが守り切る。ゲヘナにインタビューなんてさせてはならない。

    「トリニティを……ひいてはキヴォトスを守るべく、『どんな手を使ってでも』ゲヘナを叩き落とします。よろしいですね」
    「「はい!」」

     そして、ティーパーティーの現ホストはチェス盤を動かすように策を練り始める。
     ゲヘナの混沌をトリニティの秩序によって調伏する、そのために――


     ――そんな状況を、よりにもよって理外の存在が見てしまっていた。

  • 74125/08/02(土) 22:59:29

    《重いと軽い。くるくる交換プレゼント! 当たりは重くて軽いは外れ?》

     強奪したパフェと共に並走するティファレト。なんだか色鮮やかでそれを持つ皆が笑っていたから自分も近くまで引き寄せてみたのだ。

     空の熱に甘露を垂らす球体。とろける茶色。甘い匂い。
     それが近くにあるだけで、ティファレトは胸が弾むような気持ちになった。

    《知らない色と知らない形! あなたはそう考える? ティファレトの元の人?》

     疑似人格。それは命を落とした者たちからのみ得られる情報。
     ティファレトの『先頭を立つ』疑似人格は幼い子供であった。千年紀行の只中で唯一生き残り、挺身の真理を得た子供の人格。

     無知で無垢で、純粋で傲慢な魂。その働きを真似することでティファレトはティファレトと成る。

    《ネツァク! ネツァク!》

     ホドの繋いだネットワークを介してネツァクへと呼び掛けると、返事はすぐに気だるそうなネツァクの意識がティファレトへと届く。

    《なにかしら?》
    《重いが正解! 軽いは間違い! 全部重いに変えちゃおう!》
    《…………イェソド。わたくしを運んでくださる?》
    《いま行く》

     短い通信を終えた後、ティファレトはパフェと共に空を飛び続ける。
     先ほどから自分を追いかけ続ける『見られては行けない眼』から逃れるように。

    -----

  • 75二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 03:14:24

    保守

  • 76二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 04:09:40

    雷帝を善人だと思ってるのが怖い、外から見ればそうなのか…?
    適当に廃棄した列車砲ですらキヴォトス崩壊クラスのモノだったのに

  • 77二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 04:19:45
  • 78二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 05:45:59

    >>77

    ここ同一時空だったっけか

  • 79二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 10:54:54

    そうなん…?

  • 80125/08/03(日) 17:18:36

     車椅子に乗るリオは、路上から眼前に建つ10階建てのビルを眺める。
     周囲には誰も居ない。代わりにその屋上から顔を覗かせるのはチヒロとヒマリと、それからマルクト。身投げを模したイェソドの呼び出し作戦ではあるが、マルクトなら問題ないと知っていても気が気でないのが実のところであった。

    【リオ。周辺に誰も居ませんね?】
    「ええ、監視カメラの類いからもここは死角。飛び降りても大騒ぎにはならないわ」

     車椅子に乗っているからという理由で飛び降りる地表へと配置されたリオであったが、そもそも気にかかることがひとつあった。それは自分の身体が何故だか怪我をしやすくなっているということだ。

     色々とおかしいのだ。この負傷の具合は。
     ゼウスに庇わせたウタハが最も負傷が軽度で、ヒマリに庇われた自分がここまでの重症を負っている。
     もっと言えば庇ったヒマリも自分よりかは軽傷である。何故ここまで差が出るのか。

    (まさか……『廃墟』だったから……?)

     例えばの話である。
     『廃墟』は特別怪我が重症化しやすい、という可能性は無いだろうか。
     武器の威力が上がると言うよりも自分たちの身体が脆くなる可能性だ。

    (ヒマリはミレニアム最高の神性だと、マルクトは言っていたわね……)

     会長のレポート。それからゲブラーの話した『テクスチャ』への影響力。
     そこから導き出されるのは、『明星ヒマリは廃墟の中でも死に難い』ということではないだろうか。

     願いの箱庭、祈りが届く『テクスチャ』。
     銃で撃たれても軽傷で済むのが『テクスチャ』による影響を受けてのものであるとすれば、『廃墟』は『テクスチャによる影響力を受け辛い場所』ということも考えられる。

    (神性が高いとキヴォトスという『世界』にかけられた『攻撃』に対する抵抗力を維持できる……? いえ、それだけだと足りないわ)

     ゲブラーの攻撃は閉鎖環境におけるサーモバリック爆弾と同等の力を有していた。
     むしろヒマリだけでなくチヒロやコタマも含めて全体的に『怪我が軽すぎる』のかも知れない。

  • 81125/08/03(日) 19:04:44

     ならば何故か。考えられるのはひとつである。

    (千年紀行――私たちはセフィラを集める度に自分たちの『神性』による影響力が増している……?)

     そうであるなら、自分の神格は何なのか。
     派生して考えるなら、古代に存在した『旧人類』に近づいているとも言えるのでは無いだろうか。

     だとすれば、ケテルへと臨む頃には一体自分の身体はどうなっているのだろうか。
     きっと、『誰よりも死にやすい』と考えるのが合理に沿うだろう。

    「…………何とか、手立てを考えないと行けなっ――ひゃあ!!」

     そう呟いて顔を上げた瞬間現れたマルクトに驚いて腰を抜かす。
     飛ばされてきたのだ。イェソドに。すぐさまヒマリたちが居るであろう頭上を見ると、屋上からヒマリたちがこちらを覗いていた。続いて着信。電話に出る。

    【リオ、イェソドに触れることは出来ましたが……今更ながらマルクトが触れないと意味がありませんね、これ】
    「た、確かにそうね……。けれども、ヒマリたちが触れたということは連続して『瞬間移動』が出来なくなっているということではないの?」
    【そうですね……。とりあえず私たちも降りますので待っててください】

     通話が途切れてリオは目の前のマルクトへと視線を向ける。
     どうやってイェソドを捕まえるか思案しているように見えた。

    「マルクト、何か手はあるかしら?」
    「……思いつきません。『魂の星図』が見えないので『精神感応』による直接干渉も行えません」

     マルクトの瞳が金色に染まるが、やはりミレニアムの中でないと使えないようである。
     そこでふと思い浮かんだ……というより気になったのが、いまマルクトは接続で得た機能を何処まで使えるのかということだった。

     尋ねてみると、マルクトはゆっくりと瞳を閉じた。

  • 82125/08/03(日) 23:07:33

    「周囲への探査機能……半径5メートル。視覚情報は得られますが、音については人間と同程度です」

     次に手の平を下に向けると、手の平から鉄製の棒が生成される。
     そのまま続けて棒から白い薔薇の花弁が生えていく。生成機能と変性機能も働いてはいるが、いずれも平時より時間がかかっている。

    「重力緩和機能も問題なく……。あらかじめ棒を作っておいて飛ばされた瞬間に棒伝いに変性・接触でイェソドにアクセス……は、あまり現実的ではありません」
    「……だったら、乗り移りの方はどうかしら? イェソドから得た器物操作機能は?」
    「あれも一度乗り移ると再接続の類いが使えなくなるので有効ではないかと」
    「違うわ。イェソドに直接乗り移るのよ」
    「っ!」

     マルクトが驚いたように目を見開く。
     しかし、リオの見立てでは恐らく可能なはずである。セフィラの機体の制御権を奪えずとも精神の『接触』は行えると考えられた。

    「マルクト、あなた……方向さえ分かれば対象が見えなくても意識を送り込むことは可能かしら?」
    「……試してみる価値はあります」

     もちろん試すにしてもいくつか条件がある。
     まず、セフィラへ乗り移るにおいてマルクトは恐らく自身の意識の全てを送り込む必要があるだろう。
     中途半端な送り方では届かない可能性があり、一度見られて失敗すれば対策される可能性がある。全力を尽くすべきなのは間違いない。

     そうなると次に問題となるのが意識を送り込んで無防備になったマルクトの本体である。

     ティファレトから得た重力緩和も意識的に発動させる必要があるため、自らの意識を本体から離脱させた時点で使用不可能になることは十二分にあり得る。10階の高さから無防備で落ちて……死ぬことは無いにせよ確実に怪我は負う。機械体であっても自傷紛いの負傷は流石にヒマリたちが止めるだろう。

     そんなことを考えているとヒマリとチヒロの二人がビルから降りて来て合流と相成った。

  • 83125/08/03(日) 23:08:52

    「どうやら、何か思いついたようですねリオ」
    「ええ、聞いてくれるかしら? 私の案を」

     件の案を話してみると、ヒマリは「なるほど」と笑みを浮かべた。

    「乗り移りを試す価値はありそうですね。チーちゃん。三階ぐらいからなら私とチーちゃんでキャッチできますよね?」
    「まぁ……出来るんじゃない? 二人がかりだったら」
    「では、三階から飛び降りましょう。リオ、他に注意すべき点は?」
    「そうね……。ホドは監視カメラをハッキングして私たちの動向を知っている可能性が高いわ。イェソドがマルクトの保護に来たのはイェソドの独断と思うもの。ホドは私たちの声まで聞こえていない。だから飛び降りても問題ないマルクトの救助に来たと考えられると思うの」

     ミレニアムの外だからこそ、恐らく他のセフィラたちも自らの機能に何らかの制約が追加されていると感じたのだ。

    (だとしたら……、セフィラたちにとって『ミレニアム』とは何を意味するのかしら……)

     きっとキヴォトスの一地方以上の意味が課せられている。

     ミレニアム、セフィラ、そして『廃墟』――
     この世界には自分たちの知らない重大な『秘密』があるのかも知れない。

    『私はさ、世界の謎ってやつに興味がある』

     エンジニア部結成当初、チヒロの言っていた言葉が何故だか脳裏を過ぎる。
     世界の謎。恐らく私たちはそれに近づいている。恐らく知る必要の無かった重大な何かに近づいてしまっている。

  • 84125/08/03(日) 23:09:57

    「どうしましたかリオ?」
    「いえ……その、怖気づいただけよ」
    「ならいつも通りですね」

     あまりにあんまりなヒマリの言葉にリオは思わず項垂れる。
     が、ともかく大事なのは自分たちが『何に』向かっているのかということだろう。

     リオはそう納得して、『意識』を未来へと向け続ける。
     起こり得る全てを予測して、ただひたすらに『起こり得る未来』への対処を行い続ける。

    (全ては『或るがままに起こる』――。それなら、起こる全ては予測不能などではない)

     カチリ、と時計の針が傾ぐような音が聞こえた気がした。
     それは時計仕掛けのように、決まった道筋のみを辿る音――より深い根源から何かが聞こえたような気がした。

    「試しましょう? マルクトの、その機能を」

     新たなる可能性を見出すために、リオたちは次なるイェソドの捕獲計画へと移っていくのであった。

    -----

  • 85二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 03:39:20

    保守

  • 86二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 09:11:31

    捕獲計画進行中…

  • 87二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 17:04:01

    待機ー

  • 88125/08/04(月) 22:56:11

    念のため保守

  • 89125/08/04(月) 23:42:49

     特異現象捜査部の面々がセフィラ回収に向けて奔走する中、そんなことに全く気が付いていない者がいた。
     トリニティ総合学園の中を堂々たる振る舞いで歩く二人のシスター……いや、偽シスターの二人組。コタマとアスナの問題児コンビである。

    「それにしてもアスナさん……よくシスター服なんて見つけましたね」
    「なんか置いてあったよ! どう? どう?」
    「ふっふっふ……流石です。おかげで大聖堂にも潜入できました」

     ほくそ笑むコタマ。わざわざこんなところまで来た理由なんてひとつだけ。即ち盗聴器の設置。
     普段は人目に付くようなことの全般が苦手なコタマも、仕掛ける手口は大胆そのものである。

     コタマの『耳』とアスナの『勘』、二つ合わさればもはや潜入できない場所は無い。

     そうして一仕事終えて大聖堂から脱出し、物陰に隠れてシスター服を脱ぎ捨てる。もちろん服にも工作を済ませる。裏地にピンで留めたのはゲヘナのブラックマーケットで流通している小型の盗聴器。トリニティとゲヘナの仲が悪いと聞いていたためミレニアムが疑われることは多少なりとも避けられるだろう。

    「あとはトリニティの校舎内ですが……流石に下調べ無しでは難しいですね。今回は諦めましょう」
    「それじゃ次はどこ行くの? 潜入なんて初めて! ワクワクするよね!」
    「アスナさんも何かやりたいことはありますか? せっかく手伝ってもらいましたし、私も何か手伝いますよ?」
    「うーん……そろそろ身体を思いっきり動かしたいかなー」
    「せ、戦闘は駄目ですよ? 闇討ちならともかく、アスナさんがしたいのは正面戦闘ですよね……?」

     ネルにも迷惑がかかる、と伝えるとアスナは思いのほか素直に頷く。

     どうにもアスナは野性的な面が濃く見える。ゴールデンレトリバーがそのまま人になったような、人懐っこい大型犬。主人と認めた者への愛情と献身。内側から溢れて持て余しているエネルギーの発散先さえ見つけてやればアスナを御せるとコタマは考えていた。

    (そろそろ発散先を見つけないと暴走しそうですね……。なんだか先ほどからうずうずしちゃってますし……)

     学園の敷地内から速やかに脱出して大通りに戻りながら考えていると、ふと、良い案が浮かんで声を上げた。

  • 90二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 02:24:51

    保守

  • 91二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 08:00:40

    コタマの思いついた良い案とは

  • 92125/08/05(火) 09:43:14

    「そうです。アスナさん、晄輪大祭の選手として出場するのは如何でしょう?」
    「個人競技だもんね!」
    「え、あ、はい。ミレニアム生の大半は殆ど嫌々参加してますし個人競技なら代われると思いますよ」

     少々戸惑いながらも頷くコタマ。
     アスナと話していると時折会話が飛ぶのだ。本来間に入るはずの言葉のラリーをスキップするような、妙な感覚。

    「ちょうど選手っぽい生徒が居たので聞いてみましょうか? こっちです」

     道中で聞こえた音を思い出しながら進む先は競技会場付近の休憩スペース。

     大聖堂へ向かう時にちょうど見かけた――というより『耳かけた』というか、とにかくいつもの癖で盗み聞いたのは、絶望的な表情を浮かべて選手になったことを後悔していた生徒と、それを懸命に励ます生徒の二人組。晄輪大祭に対するミレニアム生の苦悶を代表するようで記憶に残っていた。

    「やはりまだ居ましたね。あの方なら代わってくれますよ」
    「行ってくる!」

     走り出すアスナを見送ってコタマは満足そうに頷いた。
     ただ頼む・聞くだけと言ったところで盗聴に関係ないものなら荷が重い。趣味に狂っているから人間皆がジャガイモに見えているだけで、盗聴と関係の無い時は億劫で苦手のまま。アスナの人柄なら問題なく事が済むだろう。

     そう思ってアスナから距離を置く。
     何だかんだと言っても晄輪大祭。出ている屋台も山海経や百鬼夜行といった普段目にしない食の数々。あんかけ焼きそばや焼き饅頭、ミレニアムの食文化には無いものばかり。

     コタマはアスナの分の焼き饅頭も買いながら、紙袋で渡されたそれをひとつ摘まんで口に含む。
     口にしたのは小豆餡の入った『おやつ』ではなく、昼食として食べられる野菜餡をベースにしたものである。

    「たまには良いかも知れませんね。外に出るのも」

     例えるならチョコバナナクレープしか食べた事のなかった頃に初めて口にする総菜クレープと言ったところか。
     悪くない。むしろ良い。普段頼むかと言えば頼まないが、こうした機会に恵まれた時こそ食べる物の意外性や否や。また一つ世界が広がったような気がする。

  • 93125/08/05(火) 09:44:35

     そんな饅頭がたくさん入った紙袋を抱えながらアスナの元へ向かうと、泣いて喜ぶ二人の生徒と嬉しそうにこちらを見るアスナの姿はそこにはあった。

     ――何故でしょうか。嫌な予感がします。

    「ねぇねぇコタマ! 頑張ろうね!」
    「……はい?」

     ――頑張ろうね? 何を? 私が?

     ざわめく心臓の音が聞こえる。何か致命的なものを間違えた『音』が聞こえる。
     アスナと話していた生徒『二人』は、救世主でも見たかのような目でこちらを見て頭を下げた。

    「本当にありがとう! あんな競技、ただの生贄だし!」
    「もう罰ゲームだよねあれ! 代わってくれるなら喜んで!」

     どうして、『二人』が感謝を自分たちに伝えるのだろうか。
     選手は『一人』なのだから、『二人』がさも自分のことのように喜ぶなんておかしい。

     そんな疑問の答えは、アスナの口からいともたやすく吐き出された。

    「代わってくれたよ! 『二人三脚障害物競争』の参加権!!」
    「……はい?」



    「……はい?」

     レーンの上。アスナと足を結んだ状態で立っている自分に気が付いた。

    (ににん、さんきゃく……しょうがいぶつ、きょうそう……?)

  • 94125/08/05(火) 09:45:47

     ――それは……なんですか?

     何故『二人三脚』という障害に『障害物競走』を重ねているのか分からない。

    (そもそも、二人競技? だから私も参加させられてるんですか?)

     一之瀬アスナを御しきれる。それがそもそもの間違いだった。
     アスナは放っておいて良いものでは決してない。好きに利用できるものでは決してないのだ。

     レーンの先に見えるのは『まず』まきびし。ただでさえ転びかねない二人三脚でまきびしを撒くとは殺意が高かすぎる。
     そして網。その先には回転する丸太やら何やら。難関たるキヴォトスニンジャアスリートを模したステージを模った訳の分からないステージが眼前の先へと続いている。

    「頑張ろうねコタマ! 私たちで一位を取ろうよ!」
    「いや、あの、え? なんですこの暗黒金持ちが主催したデスゲームみたいな競技は?」

     首を傾げるコタマ。そこで流れるクロノスの音声。

    【さぁ! 始まりました『二人三脚障害物競争』! ゴール出来るわけが無いで有名な、極めて平等な競技です!】
    「平等以前に競技として成立するかを考えてくれませんか!?」
    【ブックメーカーによる予想も出てます! オッズはミレニアムが最高! 有望株は今年新設のSRT! 次いでトリニティ! どんでん返しは起こるのかぁ!!】
    「競走馬か何かですか私たちは!!」

     コタマが叫ぶが時すでに遅し。
     レースの開始を告げるスターターも何故か手には単発式の空砲では無くサブマシンガンを空に向けて構えており、いよいよ以て頭がどうかしてしまっているとしか思えない。

  • 95125/08/05(火) 09:47:25

    「いちについてー」
    「他の参加者の顔ちゃんと見てますか!? 今にも死にそうな顔してますよアスナさん以外!!」
    「よーい」
    「いやちょ、まっ――」
    「どん!」

     ズダダダ、と撃ち鳴らされる銃声。凄まじい勢いで引っ張られる足。空が見えた。

    「アスナ、いっくよー!」
    「とまっ、とまれぇぇぇ!!」

     市中引き回しの如く引きずられるコタマと、それを一切省みることなくまきびし地帯へと突っ込んでいくアスナ。その後ズタボロになったコタマと満足げに笑うアスナがカメラに映し出されるが、それはもう少し先の話である。


    《なるほどね。生贄、挺身……この祭りはそういうものなのね》

     そして、この惨事を見て悪い学習をしてしまった者がいた。ゲブラーである。

  • 96二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 11:32:04

    まっずい

  • 97二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 13:42:23

    更なる番外編として、偽りの楽園を焼き尽くした地獄の解放者、もとい知名度皆無な天下無敵のゲヘナのリーダー、羽沼マコト議長を描きました

    姿としては三年生時とほぼ変わりませんが、雷帝を討ったあの日とその後のハチャメチャ議長、異なる二面性を重ねたデザインにしています


    新たなる地獄を象徴する衣、あるいは連日の襲撃と自業自得でいくら直してもズタボロな制服

    業火に抱かれてなお焼け残った白銀の髪、あるいはイブキの美容師さんごっこの尊い犠牲となったまばらなマコトヘアー


    そして背には、仲間と共に勝ち取った自由と混沌の証を

  • 98二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 13:44:32

    統合したものも
    ちなみになぜ後ろを向いているかは体操服バージョンとの兼ね合いなので気にしないでください

  • 99二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 14:22:23

    まさかの雷帝を討てのFA

  • 100125/08/05(火) 17:53:40

    >>97

    >>98

    マコトだぁあああ!! まさか描いて下さるとは! ありがとうございます!!

    わざわざ名前の上から「ゲヘナのリーダー」と上書きしてるのも芸が細かい……!


    晄輪大祭が無かったら出てくる必要皆無ではあったのですが、こう……機会があったのと「別の事件の主人公が別の作品で表層だけ(ここ重要)語られるの良いよね……」でつい出してしまいました。


    自分名義で作った飲食店をハルナたちに爆破されたりしているかも知れませんが、あれから今日も皆は元気でやっているようです。

  • 101125/08/05(火) 22:31:15

    《戦い、闘争、試合……。力を起源とする祭儀は音を起源とする祭儀に次いで根源に近いんだから、そりゃまぁどんな『テクスチャ』であっても存在するよね》

     この『テクスチャ』に現存する人類の耐久力は既に預言者たちから学習済みである。
     殺傷兵器が殺傷に至らない。だからこそ殺し合いの用途では使われず、こうした祭りに使用されるのだろう。

     先ほどから競技場の駐車スペースからドローンと受信機を生成して周囲の観察に務めているが、何処もかしこも爆発音や銃声が聞こえて来る。つまりはそういうことだろう。

    《大きな音を打ち鳴らして戦う太古の祭儀の再現。それならあたしも手伝ってあげるか!》

     ゲブラーは駐車スペースから走り出す。ホドによる偽装のおかげで誰が見ても小型トラックにしか見えず聞こえず、誰も不審には思わない。

     公道に出て競技場の近くを通る度に、ゲブラーは片端から武器や爆弾を競技場の中へと生み出し続ける。
     マシンガン、ガトリング、大砲爆弾火炎放射器各種様々。山のように積んでおけば必要な誰かが使うだろう。

     しばらく銃火器をばら撒いていると、空中のドローンが妙な光景を捉えた。
     埋められた地雷を掘り返して、すぐ脇の地面に埋め直していたのだ。

    《地雷が足りないってこと? ま、あたしが足してあげればそれでいいでしょ!》

     件の競技場に近付く頃には作業していた現存人類は立ち去っていたため、ゲブラーは直接地雷を埋設することにした。それはもうありったけに。

     もちろん爆発の威力は抑えている。
     直接命を捧げるような祭儀で無いことは分かっていたため、何メートルか吹っ飛ぶ程度に火力は低めで。

  • 102125/08/05(火) 22:32:45

    《よし、他にも足りなさそうな場所があったら分けてやろう! せっかくの『異界』なんだし、好きにやるなら今だけでしょ!》

     そうしてゲブラーは再び走り始めた。


     セフィラとは――本質的に『この』キヴォトスに混乱をもたらす存在である。
     それはキヴォトスが多くの世界を同時に内包するが故に機能不全。『ミレニアム』の外に別の世界が存在するという『異常』。

     『ミレニアム』をルーツとするセフィラたちだからこそ、『ミレニアム』の中では時に儀式、時に課題、時に試練としての役割を担うセフィラたちもタガが外れてしまう。

    (まぁ、流石に殺人だとかそういう禁忌に触れることは『出来ない』んだけどさ……。『強硬策』を取られる前に対処可能って実績は残しておかないとさぁ?)

     タクシーの中で若干強まった眠気に抗いながら、会長は『クォンタムデバイス』の調整を行い続けていた。
     セフィラがトリニティに大挙して何か色々としでかしている――冗談みたいな状況だが冗談ではない。

     どうしてこんな異常行動を示しているのかなんてすぐに分かった。
     マルクトの死だ。それも『器』だけではない。存在を構築する『名前』『器』『意識』のうちの二つを消滅させられた。

     特に『意識』だ。滅ぼす手段は『自分』ですら分からない。
     最も破壊しやすい『器』はともかく、客観性と言う防護機能に守られた『名前』までなら破壊する手段を知っている。

     けれども『意識』の破壊? それは自分の知らないケテルを除いた全てのセフィラでは決して行うことが出来ない。

     だからこそ警戒する。セフィラにかけられた『呪い』の解呪を行わずして直接根底から破壊する『本当の死』を。

    (晄輪大祭が終わったら……話をしようか、『連邦生徒会長』――!)


    「確かめたいことがある、とのことです。連邦生徒会長」
    「…………ミレニアムの生徒会長さん、かぁ」

  • 103125/08/05(火) 22:34:13

     連邦生徒会長のための個人車両、いつもと同じ運転手であったはずなのに語り出したその内容はまるで別人。

     ミレニアムの生徒会長――かの存在の正体は連邦生徒会長ですらも分からない。
     ひとつ言えることは、いまこの車両を運転している運転手は全く同じ姿かたちで中身に異物が混ざっているということか。

     あの『会長』に聞きたいことは沢山あった。

     どうして『憶えている』のか。もしくは『識っている』のか。
     何をどうやって『存在のすり替え』を行っているのか。明らかにおかしい。セミナーの『会長』は。

    「ひとつだけ良いかな? 会長さんに伝えて欲しいの」
    「伺いましょう」
    「もしも誰かが死んじゃうようなことがあったら、私は『無理やり』なんとかするよ? 晄輪大祭が終わるまでに解決してね。無理だったら『私』……頑張るから」
    「…………差し出がましいことではありますが」

     『名も無き』運転手は口を開いた。

    「悲しいものですね。だってあなた、『一回目』でしょう?」

  • 104125/08/05(火) 22:35:15

    「――っ!」
    「ああ、ご安心下さい。流石に私の空想までは報告しません。ただちょっと、『私は』SFが好きだっただけです。きっかけあっての当て推量。――っと、話し過ぎるのもよくありませんね。例えあなたが『一回目』と並行して数を重ねていたとしてもこの世界に住む方々にとっては『一回目』しか無いのです」

     何も、言えなかった。
     察しが良ければ気付いてしまう。それほどまでに自分の態度は明らかだったらしい。

     それは苦痛だ。知らなくても良いことを知ってしまうことは、どうしようも出来ない現実を知ってしまうのは苦痛でしかない。

     だから――今まで何度言ったか分からぬ言葉を口にした。

    「…………私の、ミスでした」

     世界は苦痛に満ちている。
     それを癒すために、正すために、『私』は先へと進み続けなければならない。


     晄輪大祭。午前の部。現在時刻は11時30分。
     もうじき最後の個人競技が始まる時刻であった。

    -----

  • 105二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 06:59:03

    この連邦生徒会長もミスしてるの…

  • 106二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 12:07:28

    昼 

  • 107二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 17:55:10

    大気

  • 108125/08/06(水) 21:39:48

    「ウタハちゃんさぁ。『クォンタムデバイス』にいくらか改良加えていたみたいだけど、正直君は……っていうか君たち割と見落としてるよねぇ?」

     公道を走るタクシーの中、ウタハは会長から呆れたような視線を向けられるも覚えが無かった。

    「見落としてる? 私たちが?」
    「そうさ」

     会長は先ほどから『クォンタムデバイス』に何らかの操作を行い続けていた。
     ウタハには何をしているのか分からない――というより、「画面は見るな」と言われて何をしているのかすら教えてもらえない。

    (そもそも、どうやって会長は『クォンタムデバイス』をたった10分で持って来たんだろうか……?)

     部室に置いてあったはずなのだから電車であっても数時間。戦闘機であってもここまで早くは持って来られないはず。
     にも拘らずあの発言からちょうど10分。自分たちの前に留まったタクシーの運転手が持っていたのだ。『クォンタムデバイス』を。

     どうやって持って来たのか分からないまま、流れでタクシーに乗り込んで今に至る。

     ティファレトと共にふわふわと浮かんだパフェはもう何処にあるのか分からない。ただ、会長は何かを知覚したかのように運転手へ道を示して進み続けている。

    「ねぇウタハちゃん。君たちは『クォンタムデバイス』がどうやって動いているか覚えているよね?」
    「……もちろん覚えているさ。マルクトの分け身を端末に取り込んで動かしていると……」
    「40点の回答だね。マルクトは自分の意志で『クォンタムデバイス』も、君たちがセフィラ戦で付けるグローブも動かしちゃいない」

     眠そうに瞼を下ろす会長。その頬には微かな笑み。

    「いいかい。ゴーストライド……『乗り移り』と『リソースの分割』ではマルクトの制御権の有無なんて違いがあるのさ。前者はイェソド由来の機能で意識を別の物体へと直接移して操れる。ただし連鎖して乗り移る度に使える機能が減っていく。対して後者はマルクト由来の機能……というか、標準機能の応用かな? 単細胞生物じみた反射での動作のみを行う機能で、マルクトは自分の本体と併用することが出来る。機能の減少も発生し得ない」

     会長はちらりとウタハに視線を向ける。
     それは問い掛け。ここから導き出される事柄は何か。ウタハは答えた。

  • 109125/08/06(水) 22:36:05

    「『リソース分割』だったらマルクトの意志に関係なく与えられた刺激に応じた機能が発揮される、で合っているかい?」
    「そう、つまりは無意識。だからマルクト自身が出来ないと思っていることも上手く使えば引き出してやれるってわけさ」
    「私たちに教えてくれないのかい?」
    「マルクトに選ばれた『預言者』だろ? 自分で考えなよ。それが君たちの役目なんだから」
    「……そうだね」

     会長はいつも試すように全てを語らない。課題のみを与え続けて、回答と答え合わせは遠く先。

     そんな会長に目を向けると、会長は窓の外を眺めていた。
     いつものニタニタ笑いも浮かべず何処か物憂げで、失意を宿した仄暗い瞳を外へと向けている。

    「……ねぇ、ウタハちゃん」
    「なんだい?」

     ぽつりと何処か呟くような声だった。

    「リオちゃんのこと……気にかけてやってくれるかい?」
    「唐突だね。そして今更じゃないかな?」
    「ケセドの機能は記憶を書き換えるようなものだ」
    「――――っ」

     ウタハは僅かに目を見開いた。
     それこそ唐突すぎるケセドの情報開示。続けて会長は口を開く。

    「もしも直視できない記憶が植え付けられたら、その日はひとまず眠ると良い。目を覚ませば全てが悪い夢だったと気が付くはずさ。それでも違和感が残ったのなら、それは君たちが忘れただけ。このことは特異現象捜査部の全員に必ず伝えて欲しい」

     その時のウタハの胸裏を過ぎったのは、妙な念の押しようだということか。
     頷かない理由は無いために当然頷いたが、どうしてか未来でも見えているかのような物言いがやけに引っかかった。

  • 110125/08/06(水) 22:37:41

    「ニヒヒッ、まるで未来でも見えてるんじゃないかって顔をしてるねぇ?」
    「心を読まれている気がしてきたよ……」
    「生憎だけれど僕には人の心なんて読めないし未来だって見えないさ。終わったことを後から知るだけ。たったいま何が起きているかなんて僕には到底分からないのさ。ずっと後手なんだ。先手なんて打てた試しが無い。だからずっと失い続けている。ずっとだ」

     窓に映る会長の顔に表情はなかった。事実を述べるだけの、淡々とした口調。
     感情の失った空虚さは、自分の知っている会長の姿からもっとも乖離したものであった。

    「ウタハちゃん。例えばだけど、一人が死ぬことで誰も死なない状況に陥った時、君は誰の命を差し出す?」
    「それは…………私の命、かな?」
    「ああ、そう問われれば誰しもがそう言うだろうね。『正しいから』だ。問われた人物が決められるならまずそう言うだろうね」

     そこから浮かべたのは自虐的で、『邪悪』な笑みである。
     にも関わらず、吐かれた言葉は抑えきれずに零れてしまったもののようだった。

    「だから僕は『悪』なんだ。自分の為に生贄を作って捧げる。ああ、いや、この話は忘れて良いよ? ほんのちょっとした……気の迷いさ」
    「それは『会長』の話かい?」
    「いいや、『僕』の話さ。……悪いね。こんなこと言うつもりなんてなかったのに。ま、気にしないでよ。僕は君たちを使い潰すだけだからさ」

     だからだろうか。
     支離滅裂な物言いに何故だかウタハは人間味を感じてしまう。そんな言葉にどう答えるべきか一瞬迷って、それから言ったのはまさに会長の隙を突くような一刺しだった。

    「『マルクト』を殺したのは会長かい?」
    「そんなわけ――っ!!」

     咄嗟に向けられたのは強い憎悪の表情。
     それはすぐに鎮静化して、気付けばいつものニタニタ笑いへと戻っていた。

  • 111125/08/06(水) 22:58:45

    「……酷いなぁウタハちゃんは。そういうのはリオちゃんの専売特許じゃないかな?」
    「真似、かな。リオだったら言いそうだと思ったんだよ。それに、私は顧客の望みは正しく受け取りたいと思うんだ」

     それこそがマイスター。望まれる結果を正しく出力するということ。
     何故かは分からずともずっと巧妙に隠し続けていた会長の芯に迫ったのなら、それを聞き出す責務こそが『マイスター』である。

     会長の願い。その輪郭は掴めても中身までは未だ分からない。
     求むるものが何なのかを知るまでに、自分が出来ることは聞き出すことだけである。

    「会長、私たちは会長の眼鏡に適うよう実績を積み上げ続けるよ。だからもしも信じてくれたなら、その時は是非とも教えて欲しい。望む全てを。私たちはそれを必ず果たすさ」
    「…………楽しみにしてるよ。君たちの成長を」

     そう言ったところでタクシーが止まる。
     どうやら会長の指定した場所へと辿り着いたようだった。

     辿り着いたのは個人競技が集中する午前の部の中で唯一の団体競技、『玉入れ』が開催される競技場であった。



    《まんまるいっぱい! 中身は爆弾? 火薬でいっぱい!》

     無邪気にふわふわと競技場の上を揺蕩うティファレト。
     眼下には多くの生き物たちが集まっている。

    「ミカさんミカさん! 今こそ練習の成果を見せるときですよ!」
    「くず籠にちり紙投げる練習って意味あったのかなぁ?」
    「その時はミカさんが何とかしてくれるでしょう?」
    「私だって苦手だよ!? ナギちゃん私のこと過大評価し過ぎ!!」

  • 112二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 00:31:36

    保守を追う者

  • 113二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 08:39:09

    保守

  • 114125/08/07(木) 16:30:01

    保守

  • 115二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 23:21:56

    まっずい

  • 116125/08/07(木) 23:49:51

     競技場に響く二人の天使。その声を掻き消すように、クロノスの報じる中継が競技場を包み込む。

    【トリニティ総合学園主催、エキセントリック玉入れ競争! 何やら妨害ありの何でもアリだそうですが、果たしてどこまでやって良いのか……! その不透明さはトリニティ選手も同じく不透明だそうです!】
    「ふざけるなー!」
    「せめて私たちには教えてくださいましー!」
    【どうやら本当に不透明なようですね! 競技場に集められた選手たちの困惑が溢れております!】

     避難轟轟の行く果てがトリニティなのか、それとも煽るクロノスなのかはともかくとして、競技場はある種大いに賑わっていた。

    【さぁて! 地面に散らばったお手玉にはまだ触れないで下さい! エキセントリック玉入れ競争のルールは単純! 学校ごとに割り当てられた籠へ地面のお手玉を投げ入れるだけです! 集計時に『籠の中』に『入っていた』お手玉を数えて一番多い学校が優勝です!】
    「普通の玉入れじゃん」

     放送を聞いて思わず呟いたのは百鬼夜行の生徒であった。

    「ただ籠の中にお手玉を入れればいいんでしょ? まきびしとか撒かれた二人三脚と比べたら普通でしょ」
    「き、気を付けてください!!」

     大声を張り上げたのは百鬼夜行の観客席、そこに座る幼い少女であった。

    「わざわざ言ってるんですよ! 『籠の中』に『入っていた』って! でしたらきっと『入れて終わり』じゃないと思いますよシズコは!!」
    「あ、シズコちゃんだ。頑張るからいつものやってー!」
    「にゃんにゃん! ――って、そうじゃないですよ先輩ぃーー!」

     百鬼夜行側から歓声が上がる。
     しかしてティファレトには生徒の区別だなんてつきはしない。分かるのは現存人類か、それとも預言者か。

     少なくとも、いまこの場に預言者もマルクトも居なかった。

  • 117二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 05:11:30

    保守

  • 118125/08/08(金) 08:48:32

    《もうすぐ響いて大競争! 慌てて始まる大抗争!》

     ゆらゆらと浮かんだティファレトは、ぽっかり空いた観客席へと着陸する。
     姿を消したまま眺めるは競技場にて賑わう者共。地面に散らばるは色んな爆弾。

    【それでは競技が始まりまーす!】
    『『おおー!』』

     拳を振り上げて皆が叫ぶは歓喜の一声。ティファレトもまた、完成に合わせるように羽根をぱたぱたと動かした。
     ティファレトは勝敗のルールなんて分からない。ただ皆が意気揚々と上げる拳に興奮しているだけである。

    そして、選手が地面に落ちていたお手玉を拾い始めた――次の瞬間だった。

    「あれ? なんか硬――」

     爆発。お手玉に触れた瞬間爆風と共に選手が派手に吹っ飛んだ。それも当然ひとりではなく同時多発的に。

    「な、な、な――」

     その光景を中継で見ていたゲヘナの議長が目を見開いた。

    「何が起きている!! 何故トリニティ以外も爆発しているのだ!! トリニティ側のお手玉を全部すり替えたのではなかったのか!?」
    「ぎ、議長! どうやら手違いがあったようで50個の爆弾入りのお手玉が会場に散ってしまったようです!」
    「何ィ!? というかあれは50個どころの騒ぎでは無いだろう!? 既に30は爆発しているぞ!?」
    「まさか……トリニティも我々の妨害工作を……?」
    「おのれぇえええ! 晄輪大祭を一体何だと思っているのだあの羽付き共は!!」

     自分のことは棚に上げて怒りに震えるゲヘナ陣営。そしてそれはトリニティ側も同じであった。

  • 119125/08/08(金) 08:50:01

    「ま、まさかあれから追加で爆弾を用意したというのですか!? あの盤石な監視体制をすり抜けて!?」

     ティーパーティーのホストでさえも予測し得ない大事故である。
     今回の晄輪大祭はトリニティが主催であり、不手際があればそれはまさしくトリニティの権威を落とすことに他ならない。

    「ここまで……ここまでやるというのですか!! あの角付きたちには血も涙も無いというのですか!!」

     中継越しに叫んだところで自分に出来るのはこんな事態に対する声明のみ。
     しかし不用意に発言すれば即座に終わりの崖っぷち。ティーカップを持つ手がカタカタと震え始める。

     そんな時だった。爆炎と爆風で狂乱の坩堝と化した競技場にて、混乱する選手たちの中で冷静に動く選手が居たのだ。

    「クルミ、籠が倒れないように押さえて」
    「はぁ、分かったわよ! ってか何なのこれ!! エキセントリックにも程があるじゃない!」
    「オトギ、お手玉は『何種類』ある?」
    「そうだねぇ……『触ったら爆発』と『握ったら5秒後に爆発』、あと『爆発しない』の三種類みたい」
    「ユキノちゃん、それぞれでサイズというか布地部分の張りが違うから注意すれば区別はつくよ」
    「分かったニコ。なら――SRT特殊学園の一期生として落ち着いて行動しよう。状況開始」

     SRT特殊学園。連邦生徒会長が発足させた対テロを始めとする大規模犯罪への対応を目的とした学校である。
     その練度は設立から一年と経っていない今においても群を抜いており、如何なる状況でも確実に対処を行えていた。運営側すら想定していない混乱の中でさえも、だ。

     そして、SRTの生徒たちが把握した現状はティーパーティーが独自に設置していた音声受信機にて偶然拾うことが出来たため、ティーパーティーのホストは決断する。

    「クロノスに繋いでください。彼女たちを通して本競技のルールを伝えます」
    「分かりました!」

     中継するクロノスへと回線を開きながら競技場内にて待機している人員にも指示を下す。
     このイレギュラーもルールであるとしてしまえばイレギュラーでは無くなるのだから。

  • 120125/08/08(金) 08:51:30

    【クロノス報道部です! ルールの開示と聞きましたが――】
    「ええ、このエキセントリック玉入れ競争では三種類のお手玉が存在します。触れた瞬間に爆発する誘爆性の高い爆弾、握ってから5秒後に爆発する爆弾、それから爆弾に偽装した爆発しないお手玉です」
    【な、なるほど! 先ほどから勝手に爆発しているのは1番目の爆弾ということなんですね!】
    「え、ええ、そうです」

     動揺を隠すように紅茶を一口。いや、カップの中身を一息に飲み干すホスト。

    【では、先ほどから浮き上がって選手たちを追いかけているあのお手玉は……?】
    「ぶっ――!!」
    「シオリ様!!」

     思わず紅茶を噴き出しながら画面を見ると、何故かお手玉がひとりでに浮き上がって選手たちの方へゆっくりと近付き、触れた瞬間に爆発していた。意味が分からない。

    「ふ、浮遊機雷です。浮きます。お手玉は浮いたりするものですよ?」
    【どうやって浮いているんですかあれ……?】
    「し――」

     知るか馬鹿、と言いかけてゆっくりと息を吐き、それからこう言い換えた。

    「知らない方が良いこともありますよ……?」
    【分かりました。その謎は後に取材ということですね!?】
    「え、ええ。いずれ、また、どこかで、調査の許可を出しますので」

     そうしてクロノスとの通信を切ると、慌てて入って来た部員が声を上げた。

  • 121125/08/08(金) 08:52:48

    「救護騎士団への要請も完了しましたが……その」
    「……な、なにかあったのですか?」
    「ゲヘナの救急医学部が勝手に救護騎士団と合流しました!」
    「げ、ゲヘナ……ですか。団長は何と言っているのですか?」
    「そ、その……何故か意気投合してます……」

     ホストは顔を覆った。
     救護騎士団。医療を担当する部活であるが、その性質上全ての救護は誰であろうと分け隔てなく行われるものであり、それはゲヘナであっても変わりは無い。

     つまるところ政治に関与することを否定した派閥である。
     トリニティのトップであるティーパーティーと言えど救護騎士団にはお伺いを立てることしかできず命令などは以ての外。手の出しようがない。

    「主よ……。もう……、好きにしてください……」

     絶望に喘ぐティーパーティー。
     それとは対照的に爆発するお手玉で遊ぶ観客席のティファレト。

     楽しそうにお手玉を浮かせては走り回る人間にこつんとぶつけて大爆発。その様を眺めながら羽をぱたぱたと動かしていた――その時だった。

    《ねぇ何してるのティファレト》
    《ひっ――!?》

     何も無いところから伸びた手が自分の胴体に触れると同時に聞こえた声。
     視線を後ろへ向けると、PDAを手に持ちながら胴体に手を押し当てる小柄な『何か』が居た。

     ティファレトでさえすぐに理解した。『何か』は本気で怒っているのだと。

  • 122二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 08:54:29

    このレスは削除されています

  • 123125/08/08(金) 08:55:47

    《全員来てるの? セフィラが? なんでミレニアムから出ているのさ》
    《ティ、ティファレトはマル――》
    《理由を聞いてるわけじゃないんだよ。他のセフィラの居場所は分かる?》
    《わ、分かんない……》
    《じゃあ今すぐ帰って。二度とミレニアムから出て来ないで》
    《う、うん! うん!》

     ティファレトはすぐさま飛び上がってミレニアムへと向け全速力で『落ちて』いった。

     途中ホドの欺瞞工作が剥がれかけていたが、高度はそれなりに高かったためそうそう気付かれることは無いだろう。
     そこまで見届けてようやく『クォンタムデバイス』を手に持つ会長は溜め息を吐いた。

    「はぁ…………。本当に困ったものだよ。捕まえられて良かったけどさ」
    「会長、今のはどうやって……?」

     思わずウタハが問いかけると、会長は『クォンタムデバイス』をひらひらと振りながら頬を歪めて笑った。

    「いくら見えなくたってそこに存在はしているからねぇ。ホドから得た観測機能を使ってネツァクから得た変性機能を原子レベルまで拡張。それからティファレトから得た操作能力でソナーみたいにぶつければ『ミレニアムの外』のホドの欺瞞工作なら破れるし、逆に自分たちの存在も感知させられないように近付ける。あとはイェソドから得た機能を使って自分の意識を分離させれば直接話しかけられるんだよ」

     さらりと会長は言うが、どう考えても使いこなしているのレベルを超えていた。
     明らかにセフィラの機能を完全に理解しているような言い振りで、言ってしまえば尋常ではない。

    「とりあえず、一番面倒だったティファレトは帰したから後はチヒロちゃんたちに任せればいいでしょ。飛ばれると本気で面倒だったしさ。ハードル走が終わる前に戻るよウタハちゃん。お昼休憩ぐらいは取りたいんだよねぇ僕」
    「あ、あぁ……そうだね」

     会長はあくびを噛み殺しながらふらふらと歩いて行く。
     その後ろを着いて行きながら、ウタハたちは競技場を後にした。

    -----

  • 124二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 13:56:36

    遠隔操作したってコト…?

  • 125二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 17:48:57

    操れる…?

  • 126二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 18:29:04

    普通にグローブ型のクォンタムデバイスを着けて近づいて触れた状態でティファレトに精神を分割して入れて説得しただけだと思うよ。
    これまでは単にクォンタムデバイス内の分割マルクトが反射的に限られた能力しか使えて無かったのを、今回の改造(会長によるソフトウェアアップデート)と経験で使える範囲でセフィラの能力を使える範囲でフルに使った。
    要はデバイスさえあればセフィラの能力を限定的かも知れないけど装着者が使えるようになった。
    だけどセフィラはミレニアムの神秘の存在だからトリニティではフルに能力を発揮できない、もしくは変質していて、マルクトでも非接触では今のところセフィラとの会話が出来ない。(視認した上で非接触で精神の乗り移りをして説得するのをこれから検証するところ。触れたら乗り移らなくても会話出来るっぽい?)

    まあ、能力の方はウタハへのデモンストレーションがあったからクォンタムデバイスで出来る事をやっただけで、実は前回の千年紀行で身に付けた能力の方を使ってるのかもしれないけど。
    自分の近くにヴァーチャル誰かを複製するだけでなく、離れたところから走行中のタクシー運転手にヴァーチャル誰かの精神をぶち込めるくらいだし。

  • 127二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 18:42:27

    神秘が願いの実現能力や願いそのものだとして、自治区が区長(今のテクスチャでは生徒会長)の願いで覆われた、あるいは満たされた箱庭ならば、願いの集合体みたいなセフィラが他の自治区に入ってしまうのは、存在そのものに重大なエラーが出るリスクありそうだな?
    いくら密度が高くてそうそう変質しないとは言え。

  • 128125/08/08(金) 21:37:48

    ※会長の台詞で流石に酷い誤字と脱字を見つけたので懺悔します……

    誤)ネツァクから得た変性機能を原子レベルまで拡張
    正)ネツァクから得た変性機能を大気中の分子レベルまで拡張

    他にもたくさんあることは分かっているのですが個人的にどうしてもスルー出来なかったのでスマヌ……

  • 129二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 21:42:47

    次スレの表紙が完成いたしました

    今のお話がオールスター的な感じなので、表紙もそれに則したものにしました

    構図のモチーフにした絵画はウィリアム・アドルフ・ブグローの「天使の歌」

    幕を下ろした者達と、今も舞台に立ち続ける者を

    何故この人選なのかはぜひスレ主様の過去作をご覧になってくだされば幸いです

    シュロ「アハハッ! 手前が"百物語"になれば良いんですよぉ」|あにまん掲示板bbs.animanch.com
    【SS】ホシノ「ただちょっと夢見が悪くてさ……」|あにまん掲示板身も凍るほどに冷たい夜だった。私は果てしなく続く砂漠を独り歩き続けている。理由は分からない。ただ、何かを探しているのは確かだった。ここじゃない。そう呟いた声が砂嵐の向こうへと消えていく。コンパスの針は…bbs.animanch.com
    【SS】マコト「雷帝を討て、空崎ヒナよ」|あにまん掲示板「む……少々時間が空いてしまったな」いつものように事務処理を終えて時計を見ると、時刻は15時を示していた。先生が来るまであと3時間。手持ち無沙汰になってしまった……。(そもそも事務仕事自体、ほとんどイ…bbs.animanch.com
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  • 130二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 21:52:29

    誤字だったんだ……

    普通に空気中の粒子でイメージしてたけども……

    コンクリートなのか金属かわからないけど、建物から植物に変性させてたから、少なくとも電子陽子中性子を操って変性させてたのかと……
    或いは願いを基にバラバラにして構成し直させてたのかと思っていたけども、ネツァクの能力、或いはクォンタムデバイスの出力に関わりがある?

    シンプルに、クォンタムデバイスや周りの物に干渉して飛ばしているのではなく、空気中の塵よりも小さい分子に干渉しているからこそ「セフィラにバレないソナー」が出来るという、誤解を極力なくして意味合いを限定したかったのだろうか。

  • 131二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 21:55:24

    >>129

    カスミェ……

    やつはヴィランだからか。


    シュロは気付かなかった。多分過去に紹介されてたんだろうけど。

  • 132125/08/08(金) 21:57:43

    >>130

    分子じゃねぇ粒子だ!!(科学ザコ先生ツーアウト)

    ホドとティファレトをフルスペックで運用すると放射線すら秒とかからず除去し尽くすことも出来ます(逆もまた然り)


    原子・分子・粒子の関係が毎回調べ直す付け焼刃知識なので全然違うのによく間違えます……(放射線と放射能も今調べ直しました)

  • 133125/08/08(金) 22:09:14

    >>129

    まさかのオールスター!? す、すげぇ……なんかすごいことが起きていることだけは分かる……!!

    とはいえちょっとだけ恥ずかしいですね。シュロの頃の構成なんて飛び道具が使いこなせていないので普通に読み辛いという……(苦笑)


    幼きイエスの位置にヒマリ。抱えるマリアは黒崎コユキ。ミレニアムの行く先に乞うご期待!




    ……ち、ちなみにさっきの原子・分子・粒子の認識が本当に合っているのか不安になってきたので、「なんかこう言ってるけど分子かな?」とか「粒子かな?」とかちょいちょい突っ込みを入れてくれると助かります。ほぼ確実にあなたが正しいです! 考証班を! 考証班の設立を希望する!!(強欲)

  • 134二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 22:33:31

    超弦理論っていう全てをヒモや輪ゴムの振動状態≒波の状態で捉える理論がありまして……
    他にも宇宙全体を場として捉えて(空間という空っぽの箱、入れ物ではなく、二次元に圧縮(巻き上げ)して捉えた時の布や紙やディスプレイが宇宙)、その場がごくごく小さいスケールで振動してそれが素粒子となると捉えるらしい場の量子論だとか……
    瞬間瞬間で電磁場の粒子になったり重力場の粒子になったりと、ある粒子が常に同じ性質の場を構成するのではなく、コロコロと違う性質の場を構成する粒子に変化し続けるループ量子重力理論とかもあったり……

    もしも暇な時間があるならカルロ・ロヴェッリの「世界は「関係」でできている」だとか「すごい物理学講義」だとかを読むと良いかもです……

    物理学素人でした……

  • 135125/08/08(金) 23:09:03

    調べる取っ掛かりが増えるので本当にありがてぇ……

    ティファレトの時なんてひたすら「結局重力って何なんですかぁ!?」と叫びながら調べ続けてましたが付け焼刃すぎて全く身になっていない……


    ということで、帰宅したらホスト規制を食らっていたので帰り途中に作った「現時点で判明しているセフィラの機能一覧」を載せます。ぐぬぬ……


    ▼セフィラの機能一覧(六章:晄輪大祭編)

    セフィラの機能一覧(六章:晄輪大祭編) | Writening▼マルクト: 【セフィラ接続】メイン機能(?)。セフィラへの接続および接続したセフィラの一部の機能を使用する。 【精神感応】メイン機能(?)。観測した『意識』に直接『言葉』を送り込む。 【生体電流】…writening.net
  • 136二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 03:10:49

    まあ創作ですし、このキヴォトスでは一時期謎フードが流行ってたくらいですし、「俺のキヴォトスでは無から有が作れる」とか「なんか伝われビーム⭐︎」くらいの感覚も持って気楽にやってくのが良いかと。

    無から有……かつてミレニアムにいた……記憶の書き換え……代表、まさか……?
    さすがにあっちはセフィロトではない、生まれつきか別の方法での超越者だよね。うんうん。
    と思って過去作見直してきたら、代表全知だった……
    なら会長の敵は少なくとも二人目の全知では無いことになるね。飛び級だとか研究だとかの時期が合わない。
    いやでもマルクトの消滅が出来るレベルの誰か……
    いやいや無い無い。
    それだったら会長も敵として特定出来てないとおかしいし。
    それに終わった物語のはずだし。

  • 137二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 08:21:16

    大気〜

  • 138125/08/09(土) 10:08:08

    「マルクト。もう一度聞くけど、本当に大丈夫なんだよね?」

     チヒロが心配するように顔を覗き込んで、マルクトは「はい」と頷いた。

     五階建てのビルの屋上。そこにはマルクトとチヒロの姿。眼下の地上には車椅子に乗ったリオと大きく手を振るヒマリの姿。イェソド捕獲作戦の只中である。

    「……そういえば、『クォンタムデバイス』とかグローブとかにマルクトの一部を残してるよね? あれとイェソドの『乗り移り』ってどう違うの?」
    「確かに、イェソドとの接続を行ってから話しておりませんでしたね」

     マルクトは思い出すように天を仰ぐ。

     イェソドを確保したあの頃から語彙も知識も大きく増えた。あの頃では上手く伝えられなかった『例え話』も今なら出来る――そう思って口を開く。

    「まず、全ての物体には『部屋』があると思ってください。ラジオの中には『ラジオの部屋』、車の中には『車の部屋』、セフィラの中には『セフィラの部屋』といったように」

     部屋には大まかに分けて二種類存在する。
     簡単な話だ。扉に鍵がかかっているか、そうでないか。

    「私の機能のひとつである『分身の設置』は、窓から部屋の中に携帯を投げ入れるようなものとなります。部屋には入らず、通話状態にしたままの携帯を投げ入れるので音は聞こえますしカメラ機能で周囲も見える――で伝わりますか?」
    「うん、大丈夫。『クォンタムデバイス』を作った時なんかそうだったけど、マルクトを一部でも成立させるデータさえあれば私たちでも『部屋』に投げ込めたよね」

     チヒロの言葉に頷くマルクト。

     『部屋』自体には入っていないため行える操作は少ないが、自身の『意識』は『部屋』の外にあるため普段と変わらず行動が出来る上に外部の協力者に頼んで投げ込めるという最もリソースの負荷が少ない機能である。

  • 139125/08/09(土) 10:10:28

    「対して、私がセフィラたちに行っている『接続』と『停止信号』は違います」
    「あー、それ。聞きたかったんだよね。何となくそういうものとしか分かってなかったから」
    「あの頃はまだこの世界のことを知りませんでしたので。今は沢山学びました」

     ふんす、と鼻を鳴らすとチヒロは「しょうがないなぁ」とでも言わんばかりに頭を撫でる。
     他者との接触の心地よさも、あの頃の自分では知らなかったもののひとつだ。

    「『意識』を持たない物体の『部屋』は鍵の付いていない空き部屋、『意識』を持つ生命体の『部屋』は鍵の付いた『一人部屋』かつ『誰かがひとり、中にいる』ものとしたときに、セフィラの『部屋』は明確に異なります」

     『部屋』の中にいる者が『意識』であるなら、多くの願いを背負ったセフィラの『部屋』からは気が遠くなるような人数の『意識』と思しきものが存在する。

     それは『意識』と呼ぶには不完全で、囁く大勢の声である。
     救済を求める願いだけは読み取れる。しかし具体的なものまでは分からない『意識』の断片。

    「彼らは目覚めると『声』を上げ始めるのです。そうして上がる『声』こそがセフィラの機能を成立させ、いわゆる『暴走』――もしくは『自動迎撃』を発生させるのです」
    「マルクトたちが確保する前のセフィラに近づけないのもそのせいってこと?」
    「はい。彼らはセフィラの気配に敏感です。察知した瞬間『声』の干渉を嫌って逃げ出すか、仲間を求めて襲い掛かって来るか……。ともかく、セフィラの機能の活性化が加速します」

     例えばイェソドであればそれこそ果てまで逃げ続けるだろう。誰も追いつけない移動手段を持つが故に、世界の誰にも追い付くことは不可能である。

     ホドも恐らく逃避型。逆にネツァクは襲撃型。ティファレトは襲撃型で、ゲブラーは逃避型。

     そう言うとチヒロは眼鏡を押し上げながら考え込むように言った。

  • 140125/08/09(土) 10:28:47

    「生命の樹の縦軸に照応してるのかな……。中央のマルクト、イェソド、ティファレト、ケテルは置いておくとして……、例えばホド、ゲブラー、ビナーは逃避型、みたいなさ」
    「対照性を持つことは有り得ると思います。あのセフィラの配置図が何処から来たものなのかは分かりませんが……あれを見つけたのはヒマリでしたでしょうか?」
    「うん、前にハッキングを仕掛けまくったときに見たものの中にあったんだってね? まぁヒマリだったらデータに残っていれば見つけて来るから本当に偶然なんだろうけどさ。問題は『今は見つからない』ってところなんだよねぇ……」

     それは前に話した『セフィラに関する情報を消し回っている存在』についてであった。
     結局あれも消した者については『はじまりの預言者』なのか『マルクト殺し』なのか分からないままである。

    「……と、話が逸れました」

     脱線しかけた話を戻しながらマルクトは再び『部屋』の話を行う。

    「ともかく、セフィラの『部屋』には大勢の『何か』がいると思ってください。窓も閉め切られ、先ほど言った『携帯の投げ入れ』も行えない密室です。『停止信号』は、中から聞こえる『声』を遮断するために緊急措置として壁で囲ってしまうものとなります」
    「『声』が響かなくなるからセフィラも活動を停止するってことか。『接続』は?」
    「扉をノックして『部屋主』を呼び出します。この『部屋主』に当たるのが意識断片を統括する『疑似人格』なのです」

     セフィラとの『接続』はこの世界のデジタルセキュリティに順序こそ違えど酷似した形式で行われる。

     扉を叩いて『部屋主』を呼び出す。『私はマルクトです』と名乗って『そこにいるのはイェソドですね?』と照合を行い、扉の向こうの存在が『私はイェソドで合ってます。あなたもマルクトですね?』と確認を経て扉にかかった鍵が開けられる。有り体に言ってしまえばこのような形となる。

    「これにより『部屋主』が呼び出しに応じて覚醒。室内の『意識』の統率が果たされ、私は玄関先で『疑似人格』と対話を行えるようになる。これが『接続』となります」

     ここまでがマルクトに備わっている基本機能であり、『役割』でもある。
     数多の『意識』を統括する統括意識――もしくは『疑似人格』を呼び出して混沌を収める巡礼者。

     そこまで言うと、チヒロは自身の顎を撫でながら視線を宙へと漂わせた。

  • 141125/08/09(土) 10:57:15

    「ということは、イェソドの『乗り移り』は扉を開けずに中に入る……とか?」
    「その認識で合ってます」

     イェソドから得た機能はまさしく、概念的な『瞬間移動』である。
     ノックせずとも鍵が付いていようとも、問答無用で直接『部屋』の内部に転移する機能。

    「『部屋』の中に入りさえすればどんなに散らかっていたとしても掃除して自分が使いやすいように片付けられますので。……リオの部屋より簡単です」
    「あぁ…………まぁ、酷い状態だったんだってね?」
    「掃き溜めでした……。人間の愚かさを垣間見るほどに……」

     思わず遠い目をするマルクト。しかし今はマルクトも同居しているため清潔な状態を保っている。
     リオも数日に一度しか部屋には戻ってこないが、いつ戻って来ても良いようにベッドメイキングから何からと完璧に整え続けていた。

     もちろんそれだけではない。栄養が偏りがちなリオのために学園から支給される金銭の全てを料理の研究にも使っていた。

     ネルを勧誘していたときにアバンギャルド君へと乗り移って作っていたときと今とは全く違う。
     市販の冷凍炒飯の再現などではなく、料理の腕も上げて今やオリジナルレシピも作れるほどに上達していた。

    「リオは偏食家ですので……。ピーマン、ナス、グリーンピース、ブロッコリーなどを出すと無言で睨みつけて来ますし……」
    「子供じゃん……」
    「ハンバーグや唐揚げを出すと目を見開いてほわほわし始めます」
    「ガキだよそれ!! 8歳児か何かなのあの子!?」
    「パクチーを出したら無言で泣き出しました」
    「あ、それは私も無理。セロリも辛い」
    「そうなのですね……」

     ちょうどセロリの入ったクラムチャウダーでも作ろうと考えていたところで少々落ち込むマルクト。

     どうやらセロリを苦手とする者がミレニアムには多いのかも知れない。昔のアビドスで流行っていたと聞いたために試していたのだが、自治区によっては得手不得手もあるのだろう。

  • 142125/08/09(土) 12:06:56

    「また脱線してしまいましたね。とりあえず、『乗り移り』は直接『部屋』の中へと入る手段と考えてください。基本的には『意識』の無い空き家に使う追加機能です。少なくとも、暴走状態にあるセフィラに使うことは出来ません」

     統率の取れていない『何か』が叫び続ける密室へ鍵を開けずに入ればどうなるかなんて、少なくとも良い結果になることだけは無いと誰でも分かる。

     しかし、『接続』したセフィラであれば違うはずである。

    「既に鍵が開かれ『部屋主』が統率している『部屋』であれば、私が直接乗り込んでも問題ないと考えられます。少なくとも、蹂躙されるようなことにはならないかと」
    「ま、試す価値はあるってことね。屋上に来ておいてなんだけどさ」

     そう笑ってチヒロはマルクトから距離を取る。

     イェソドの『瞬間移動』は周囲の物質を押しのけて発現されることは既に分かっている。出現位置に重なってしまえば、イェソド戦の時のウタハのように弾き飛ばされるのだから正しい判断である。

     そしてあの時とは違う点がひとつ。今のイェソドは『瞬間移動』のクールタイムが大幅に伸びているということだ。

     本来のイェソドであればマルクトを地上へ転送した後に自身も飛ばすことで誰であっても触れる間もなく移動が行える。にも拘わらず、ついさっき行った飛び降りにおいてチヒロたちは見えないイェソドに触れることが出来た。

     ここまで揃えばマルクトにだって分かる。『ミレニアムの外』ではセフィラの機能がおかしくなる。

    (……そういえば、私の『人間化』が進んだのも『外』まで誘拐されたときでしたね)

     ゲブラー戦の前の会長は『自己認識による変容』について話していたが、あれは正しく全てだったのだろうか。
     もしかすればあの時の『人間化』はネツァクの変性を無意識に発動させたのではなく、人間に『書き換え』られかけたのでは――

    「行ける? マルクト」
    「あ――はい。問題ありません」

  • 143125/08/09(土) 12:16:40

     マルクトは屋上の縁に立ち、改めて眼下を見下ろす。
     五階建て、15メートル弱。このまま地面に叩きつけられれば1時間ほどむち打ちに苦しむ高さ。例え死ななくとも怪我をして痛みが伴うともなれば一切の恐怖が無いとは言えない度胸試しの類いである。

     息を深く吸って、吐いて、マルクトはチヒロに向き直る。

    「では、地上に着き次第チヒロに向かって飛びますのでイェソドを捕まえておいてください」
    「了解。ま、上だけ見ててよ」
    「はい」

     そして――マルクトは屋上より背中から空へと身を投げ出した。
     瞬間ぶれる視界。気付けば地面。視線は屋上。見えるのは『見えない何か』の上に飛び乗るチヒロの姿。

    (『意識』を前に先行――投射)

     無空を翔るマルクトの『意識』。チヒロへ向かう最中にぶつかるは『見えざる』イェソドの本体――投射完了。

     これまで決して入る事の無かったセフィラの『部屋』にて目を覚ます。
     そこは、月明かりが差し込む暗闇の宮殿であった。

    (これが――イェソドの心象領域……)

     今までは謂わば玄関口での応答だったが、ここはその奥。イェソドという存在を構築する意識の核である。

     暗闇を照らす月光の輝きを反射した白亜の宮殿はどこか神秘的でもある。
     その只中にひとりぽつりと立ち尽くすマルクト。周囲には何もいない。マルクトは声を上げた。

    《イェソド! 居るのですかイェソド! ヒマリたちが少々怒っているのでミレニアムまで帰って欲しいのですが!》

  • 144二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 12:17:35

    セロリを食べた覚えがない……
    市販のコンソメスープの素には多分セロリかその香料も入っていて、このセロリが無いとあの風味にはならなかったように思う。
    だから、風味付け程度の出汁の素としてセロリを使うようにすればワンチャン……
    セロリ本体を食えるかはまた別の話。

  • 145125/08/09(土) 12:17:49

     月明かりの下で『言葉』だけが残響。しかして何も返ってこない。
     もう一度叫ぼうとしたときに、影からずるりと『何か』が現れた。

     ――神は。
     ――私たちは、どうして。

    《っ――!》

     それは崩れかけた状態で『固定』された意識の断片だった。
     影から次々と現れる『意識』の数は幾千幾万にも昇るほど。救いを求めるようにマルクト目掛けて手を伸ばす。

     ――助けて。
     ――もう、死にたくない。

     伸びる手のひとつがマルクトの『意識』を掴む。救いを求めて縋りつく。
     それは恐怖だった。知らぬ何かに飲み込まれる。数多の願いが呪いとなってマルクトの全てを奪わんとしがみ付く。

    《ま、待っ――》

     ――楽園へ。
     ――此処より遠い場所へ。

     次々と湧き上がる願いの根源。マルクトへと縋る手が二つ、三つと増えて、それから聞こえたのは祈りの『言葉』。詠うは願い。果てまで届かんばかりの『声』が月光の宮殿に満ちていく。

    《《イェソドより、元界への顕現を――》》

    《済まない雛鳥。遅れた》

  • 146125/08/09(土) 12:22:31

     ぐい、と首元を掴まれるに似た感触。
     視線を向けると、そこにあったのはトーガを腰に巻く、均整の取れた肉体を持つ男性の姿。

     『意識』がイェソドの内部より放逐される。しがみ付いていた断片のいくつかがその勢いに耐え切れず手を離す。その最中においてもマルクトは叫んだ。

    《イェソド――! 今のは――》

     はっ、と目を覚ます。

     トリニティの空。倒れた自分の身体と、その下敷きになったヒマリの身体。リオは何でもない場所で車椅子から転げ落ちている。そして――マルクトの胸に前脚を置くイェソドの姿。

    《雛鳥よ。今はまだその時ではない》

     イェソドとの再接続を示す『言葉』の照応。
     しかし、そんなことより聞かなくてはいけないことがマルクトにはあった。

    《あの者たちは――あの者たちこそが皆の背負う『原罪』なのですか――!?》

     イェソドの心象領域。これまで歩んだセフィラたちの中で最も『犠牲者』の少ない技術であるにも関わらず、そこに居たのは苦しみに悶える『意識』の群れであった。

     救いを求めて啜り泣くしかない無力な存在。そこに怨嗟の声は無く、純然たる嘆きだけが響いていた。

     それは闇だ。暗闇だ。彼らに救いは訪れなかった。何故なら救いを与えるべき神が『棄てられし者』には居ないのだから。

    《救世の主は人間にのみ与えられる。俺たちには居ない。どうすることも出来ない》
    《ま、待って下さい……。あなたでさえそうならば、ホドは、ネツァクは、ティファレトは、ゲブラーは……いえ、それより先のセフィラたちはどれほど多くの悲しみを背負っているのですか……!!》

     唇を噛み締めるように問いかけると、イェソドはゆっくりと首を振った。

  • 147125/08/09(土) 12:26:05

    《今はまだ、その時ではない。直視する必要は無い。ただ、『知る』だけで良い》
    《…………っ!》

     それでも『知って』しまった。
     分かっていたつもりだった。この旅は、『千年紀行』は遥か昔より繰り返し行われていた。

     『マルクト』が『預言者』を見つけることで始まる救済の旅路。

     しかし果てまで届かず失敗すればどうなるのか。
     『預言者』は死ぬ。セフィラたちは死した『魂』を抱えて再び死に至る。それは内包する『意識』の断片もそうなのだ。肉体を失って尚も殺され続ける。『何か』に。痛みだけを残して再帰する。

     つまるところ、生命の樹とは浄化槽なのだ。
     死した『魂』は上層にて積み上げられ、許容量を超えた端から下へと零れ落ちる嘆きの連鎖。

     進めば進むほど抱える『魂』が増える――ではない。
     溢れた『苦痛』が下へと零れ落ち続けている。セフィラというフィルターでさえも濾過しきれない『嘆き』が下へと堆積し続ける。

    《ご、ごめんなさい……》

     自分は『王国』ではない。誰かの『罪責』である。
     最も新しく――そして『王国』と偽る自分だからこそ、その『苦痛』は知らなかった。知識としては知っていたはずにも関わらず、対岸の火事の如く生まれた悲惨を理解することすらなく、ただ無垢で在り続けた。

    《私が『知』らなかったから――!》

  • 148125/08/09(土) 12:44:27

     だが、現実は違った。一度彼岸へ向かえば今まで知らぬ焼け焦げた死臭が酷くこびりつく。
     それを知らずして呑気に『存在意義を知るため』などと、夢想の耽溺にも程がある。

     死体はそこに在ったのだ。
     苦痛はそこに在ったのだ。
     叫びがそこに在ったのだ。

     遠目に眺めて『救う』などとは傲慢にも甚だしい。ただ自分は遠巻きから口を出す群衆のひとりに過ぎなかった。そこに居る者たちの切望など何一つ知ることも無く。

    《雛鳥よ、まだ知らずとも良い。気に病む必要も無い。少なくとも、気に病むという情動を俺はまだ知らない。俺もまた、何も知らぬのだから》

     イェソド――『基礎』たる月天。『王国』たるマルクトが『王冠』へと辿るに当たって『必ず』通る中軸の原点。『王国』の消失と共に『記憶』を失われて尚、『マルクト』へと付き従う門の番人。

     『マルクト』に最も近しきセフィラの言葉にマルクトは顔を上げた。
     『記憶』を破損して自らの暗闇を歩みながらも嘆き苦しむ魂を調停する彼の存在は、酷く険しい茨の道を歩んでいるのだろうから。

  • 149125/08/09(土) 12:46:24

    「あの……そろそろ退いてくれますか? 少々――というよりだいぶ苦しいのですが……」

     自分の身体の下から聞こえる声にマルクトは、さっと上体を起こした。

    「イェソド。とりあえず今は戻ってください。私はもっと皆の痛みを知らなくてはならないと気付けました」
    《雛鳥よ。決して死ぬな。真に『王国』で在ろうとするならば》
    「…………当然です」

     イェソドの姿が掻き消える。
     それから下敷きになったヒマリを起こして何でもないところでじたばたと藻掻くリオを助け起こした後でヒマリが言った。

    「今更ですが……その、イェソドにホドの場所を聞くべきだったのでは?」

     マルクトは天を仰いだ。

    「私のミスでした……」
    「何となくですがその台詞は取っていけないように思えますよマルクト?」

     そして――ティファレト、イェソドの回収は完了した。

     残るはホド、ネツァク、ゲブラーの三体。
     ネツァクは今、『午後の部』第一種目にして最後の個人競技である500メートル走の競技場にいた。

    -----

  • 150二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 14:11:43

    会長の敵はダアトなんだろうか。
    セフィロトの中で隠されてる、あるいは隠れているわけだし、「よく分からない」ということに繋がる。
    原作ではセフィロト自体が「消えた概念」扱いされているっぽいし、会長が知らなくてもおかしくはない。

    ちなみにイスラエル・リガルディの「柘榴の園」を読むと「ダアトは無い。ティファレトとケテルを繋ぐパスがすでにダアトが持っているとされる性質を持っている。」と書いてあったり。
    あくまでリガルディの思想であって、色々な流派がある内の一つに過ぎない。

  • 151二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 14:47:05

    >>150

    過ぎない(けど)。


    リガルディis誰?というと、アレイスター・クロウリーと決別したクロウリーの直弟子。

    柘榴の園は図書館で借りて読んだだけだからもはやうろ覚えなんだけど、なんかクロウリーとはちょっと違う考え方違う、みたいなことも書いてあったような……?


    とはいえ黄金の夜明け系の内側でしっかり学んだ人だから、資料としては良いかなって。

  • 152二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 16:17:57

    >>134

    >>144

    >>150

    >>151

    似たような文体的に以前すごく長い考察を垂れ流してた人だよね?

    前にも提案というか忠告されてた気がするんだけど、考察するのは良いとして、あんまり取りとめのない独り言みたいのをつらつらと長く書いてるのは流石に目に余るからもう少し控えた方がいいと思うよ

  • 153二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 16:31:02

    >>152

    それはちょっと思ってた

    ちょい厳しい言い方になるが見たいのはあくまでスレ主のSSであって、絵を描いてくれてる人はともかくそれ以外の文章が目立ってると一読者としては気になる

    特に考察ってのは中々デリケートな部分だからなあ、塩梅が分からないからROMるのも手だと思う

  • 154二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 19:58:08

    >>152,>>153

    ごめんなさい。

    今後は控えますね。


    それはそれとしてその人とは明確に別人です。

  • 155125/08/09(土) 22:45:01

    (やっぱり……ここにも居ないのね)

     茨に覆われた見えざるネツァクは、トラックの中央で傷ついたフィールドの修繕を行っていた。
     あらゆる物体を組み替え変性させる自身の機能。その使い方を、かつて誰かが教えてくれたことを思いだしたのだ。

     セフィラとは機械であり道具。決して人ではないが故に、『人間』に使われることこそが至上命題。
     それも正しく、役割に沿った使い方を望み続けた。その中で『意識』に刻みつけられたのは『あの子』の影である。

    『こんにちは、ネツァク』

     初めて会った時、確か『あの子』はそう言ったのだ。『マルクト』を介さず、直接セフィラに話しかけてきた不思議な存在。
     憶えているのはたったそれだけ。声も形も何一つ記録から抹消されてしまっている。

     『あの子』は誰よりもセフィラを理解していた。嘆きの『声』を慰撫して寄り添う異能。
     セフィラの機能を完璧に引き出すばかりか、新たな使い方をも提案してくれたのだ。傷付けるためではなく、人を守るための使い方を。

     『あの子』こそがマルクトと共に全てのセフィラを最果てへと導く真の預言者だった。
     なのに一体何処へ行ってしまったのか、それを覚えている者すら何処にも居ない。

    (何処にいるの……? 何処に行ってしまったの……?)

     フィールドの整備を終えたネツァクは自らの機体を分解し、地中に張り巡らせた根を通じて別の競技場へと機体を再構築。
     出現して辺りを見渡すが、『人間』たちがいるだけで記録に引っかかる者は何処にもいない。

     その時だった。

    《ネツァク》
    《っ……!!》

     誰かが根に触れて話しかけてきた。マルクトではないと何故だか分かる。

  • 156二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 01:38:21

    保守

  • 157二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 04:32:19

    保守

  • 158125/08/10(日) 10:00:19

    (いる、いる、いる――『あの子』が、そこに――!!)

     身体を分解して移動を試みる。しかしミレニアムの外ではすぐに変性を完了させられない。身体の分解と再構成を行うもなかなか進行せずにやきもきする。その間にも『声』は聞こえ続ける。

    《ここは駄目だよ。ミレニアムに戻らないと帰れなくなるから》
    《待って、ねぇ! あなたに会いに来たの!! どうして居なくなってしまったの!? どうして誰も覚えていないの!? どうして……どうしてわたくしに『人の心』を教えたの!?》

     深層より蘇り始める記録の欠片。
     あの頃の『自分たち』は確かにミレニアムに居たのだ。ミレニアムの倉庫の中に。

     あの時のセフィラの機体は皆一様に巨大だった。そのためミレニアムの倉庫で過ごせたセフィラはたった三体のみ。

     不思議な子だった。
     人間でありながらセフィラと直接意思の疎通を取ることが出来る不思議な『声』を持つ存在。

     『ただの一度』も交戦することなく、一声かけられただけで皆が目を覚ました。
     『あの子』のことを嫌うセフィラなんて一体もいなかったのだ。だから今度こそはこの呪われた旅路も終わるのだと、果て無き苦痛からの解放に機械でありながら希望を抱いたのだ。

    『こんな姿だったら、もっと一緒にいられたのにね~』

     セフィラを集める度に彫像を作ってくれた。
     誰も覚えていないけど『望まれた』から。一緒に居られると思ったからセフィラたちは彫像を模して現れたのだ。
     機能を削ってでも身体も小さくして、もう一度会えるとただ信じて……。

     なのに……『預言者』は消えた。
     『マルクト』も殺されて何もかもが消えてしまった。旅なんかどうでもいい。セフィラの機能も役割も捨てて良い。あの子にもう一度だけ会えるなら、それだけで――!!

    《ばいばい。さよなら》
    《待って――!!》

  • 159125/08/10(日) 10:01:31

     公園に出現できたネツァクは周囲を見渡すが、そこにはもう、誰も居なかった。

     呆然と立ち尽くす。
     それからネツァクはその身体を組み替えて、あの頃の自分の姿を作り始める。人の姿を模倣する。

     足元まで伸びる長い緑髪からは咲き誇る花びらが覗いている。
     足の裏から地中へ続く根は切り離せないため歩けない。ただ、『あの子』に喜んでもらうためだけに作った身体。何の役にも立たない見せかけだけのダミー端末。

    《ホド。わたくしは帰るわ》
    《了解。引き続き監視を続ける。帰投せよ》

     誰も覚えていないだけで、消えてしまったわけでは無かった。
     たとえ会ってくれなくとも、『意識』のバグでは決してない。いまはそれだけで良いのかも知れないと、ネツァクは顔を伏して、それから身体を分解する。

    《今は会ってくれなくとも、いつかは……》



     と、人の姿になって消えたネツァクの姿を木陰から覗いていた者が居た。
     一見すればただのロボット市民。懐から携帯を取り出して通信を繋ぎ、今見た光景を話した。

    【あ~、それネツァクだねぇ。帰ってくれて何よりだよ】
    「引き続き警戒に当たります」
    【どうも、おつかれぇ~】

     そうして通話を切る会長。
     晄輪大祭運営委員会事務局にて大きく伸びをして、それからウタハに声をかけた。

  • 160125/08/10(日) 10:05:07

    「ティファレト、イェソド、ネツァクが帰ったってさ。もう残ってるのホドとゲブラーだけだし、あとはもう大丈夫そうだねぇ」
    「今の電話は……会長の諜報部隊か何かかい?」
    「まぁね。普段はミレニアムの中に変なのが入って来ないよう監視してもらってたんだけど、今回は流石に出張して貰ったんだよ」

     そうウタハに言ったが、半分は嘘である。
     二年前に作った民間情報機関『エキストラ』は二年前からキヴォトスの各地に派遣していた。

     送り込んだ人材も自分が『エキストラ』なんて気付いていない。だから誰にも気付かれない――はずだった。

    (まさか役割を実行した瞬間にバレるなんてね)

     連邦生徒会長。正体不明の存在。しかして分かるのは人間ではなく『半神』であるということだけ。
     内面に生じた僅かな変化にも関わらず気付かれたため、今夜会いに行くとメッセージを伝えさせたが……正直会いに行くのが怖かった。

     自分がどれだけセフィラたちの機能をフルスペックで使いこなしたとしても、問答無用で消しに来られたら確実に対処できない。
     何より、彼女の『やったこと』の答え合わせをすることこそが真に恐ろしいものだった。自分の予想が合っていれば、彼女は致命的なミスを犯している。本人すらも望まぬうちに苦痛に種を撒き散らしてしまっているはずだ。

     だから必ず止めなくてはいけない。それを伝えられるのは自分だけなのだから。

    「会長……それより、あれ。止めなくていいのかい?」
    「うん? まぁ……しょうがないよねぇ……」

     顔を上げて事務局の中を見渡すと――いや、見渡す以前に先ほどから聞こえて来るのは議長とホストの罵り合いだった。

    「マッチポンプのいいところだなぁ!? なぁにが収めてやっただ! 自分で爆弾を撒き散らして何とかしたなどど笑わせてくれる!」
    「被害者ぶるのが得意なのですねゲヘナは。なるほど、それが自由と混沌とやらですか」

  • 161125/08/10(日) 10:06:18

     議長とホストが顔を突き合わす羽目になったのはゲブラーが作り出した銃や爆弾のせいである。
     あちらこちらの競技場で立て続けに爆発やら何やらが起こったために競技後の整備に時間がかかってしまい、結果としてスケジュールを組み替える必要が出て来てしまったのだ。

     何とか捌き切ったものの、おかげで昼食も摂れていない。そのためか議長もホストも喧嘩しながら業務を行っていた。

    「ふん、まぁいい。何故なら次の500メートル走では小細工など打たずとも打たれようとも勝利が確定しているのだからなぁ!!」
    「大した自信ですね? ゲヘナにトリニティを越える有力な選手がいるのですか?」
    「キキッ……その澄まし顔も今だけだぞ? 何故なら――」

     議長がそう言いかけた時、事務局に駆け込んできたのはゲヘナ生徒会の部員であった。何故だかやけに笑顔である。

    「議長! ヒナ風紀委員長の妨害を果たしました! 今や第四競技場で立ち往生です!」
    「なっ、まっ、今か!? やつはこっちに来ていないのか!?」
    「はい!」
    「なにぃ!? ま、待て……では500メートル走は誰が走るというのだ!」
    「ヒナ委員長も気にされておりましたが、もちろん言ってやりましたよ! 委員長の代わりに議長が走るから問題ないと!」
    「なにをやっているのだお前はぁ!!」

     愕然として頭を抱える議長と、「あれ、もしかしてまたなんかやっちゃいましたか?」とでも言わんばかりにきょとんとしている部員の構図は見ていて同情を禁じ得ないものだった。

    「ふふ、どうやら頼みの綱は切れてしまったようですね? そのまま地獄へ戻れば良いのでは?」

     ホストが優雅に笑って紅茶を口に含む。そのタイミングで事務局に走り込んできたのはトリニティ生徒会の部員であった。

    「大変ですシオリ様! 剣先ツルギが緊張のあまり気絶しました!」
    「ごほぉっ!? な……では誰が500メートル走に出るというのですか!?」
    「い、いま代わりの者を探して――」
    「キキッ、ならばホストであるお前が出ればよかろう?」
    「なっ――」

  • 162125/08/10(日) 10:09:10

     議長の思わぬ提案に硬直するホスト。そこに議長は畳みかけた。

    「ああ、別に代走を探しても良いぞ? お前はこの羽沼マコト様に負けることを恐れてプルプルと子犬のように震えながら代走探しに奔走したのだと喧伝してやるがなぁ?」
    「~~~~っ!」

     怒りに震えるホストは、それからどん、と机を叩いて立ちあがった。

    「いいでしょうやってやりますよ!! 私が出れば良いのでしょう!?」
    「キヒャヒャヒャヒャ!! よかろう! 三大校の生徒会長の中で私が最も優れているのだとその空っぽの脳みそに叩き込んでやるわ!」
    「……え、なんか僕も出る流れになってない?」

     ふと気が付いて議長とホストに視線を向けると、どちらもこちらも見ていた。

     ――走る? 僕が? 何故そんな面倒なことを?

    「いやいやいやいや! 嫌だよ? 疲れるじゃん? 僕たちが走ってる間に何かあったらどうするの?」
    「会長、任せてください。そのための我ら保安部です」
    「絶対そのためじゃないよ君たち!? ねぇウタハちゃん。ちょっと僕の代わりに――」
    「盛り上がるし、いいんじゃないかな? 走り切らずともスタートを切ってみるのも面白そうだと思うけど……ああ、身体が大丈夫ならの話にはなるけれど」
    「うーーーーーーん…………」

     これまで運動の類いは全力で避けてきたため、そもそもレーンに立ったことすら一度もない。
     別に走れないわけでは無いのだ。体力が無いだけで効率よく身体を動かすことも不可能では無い。

     それに、元々500メートルの選手として登録していたのは美甘ネルである。当然ながら不戦敗で流そうとしていたため、飛び込みで参加しても何かが変わるわけでもなし。

    (なんだか、普通の生徒になったみたいだねぇ……)

     そう思うと何だか妙な気分だった。
     だから浮かれてしまっていたのかも知れない。身の程すら弁えずに。

  • 163125/08/10(日) 10:11:21

    「……10メートルぐらいで棄権するからね?」
    「よし、私もここから全力で応援するよ。業務については任せて欲しい」
    「あーあ。まったく、こんなこと僕がするなんて思いも――」

     その時だった。ぐらりと傾ぐ視界。音が遠くなる感覚。動けなくなる前兆。

    (ああ――またか)

     きっと自分の身体は既に倒れているのだろう。

     五感が失われても、身体が一切動かなくとも、眠ることも気絶することも出来ない『意識』が途切れることだけは決して無い。

     それはいつもの眠気のひとつであり、隠れ蓑としている『生徒会長』というシステムから外れかけることで与えられるペナルティ。

     自分を苛む眠気は二種類存在する。
     これはそのうちの片方で、自分では時間稼ぎしかできない致命的なもの。

    (ちょっとぐらい良いじゃないか。まったく厳しいねぇ?)

     これは二年前のあの日からずっと身体を蝕んでいた。
     名前を隠して役割に遵守し自分の存在を少しでも稀薄にしないと避けられない事象。


     即ち、『テクスチャ』による異物の排除。


     ミレニアムの生徒会長。
     彼女は、この世界からその存在を赦されていない者だった。

    -----

  • 164二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 17:07:43

    ゑ!?

  • 165125/08/10(日) 21:26:22

     ウタハから届いたチャットを眺めたチヒロは、はぁ、と息を吐いて携帯をしまう。
     それからマルクトたちへと視線を向けると、チャットの内容を共有する。

    「ティファレトとネツァクは帰ったって。ネツァクは勝手に帰ったみたいだけど、ティファレトは会長が『クォンタムデバイス』を使って帰したって」
    「『クォンタムデバイス』で? そんな機能があったのですかチーちゃん」
    「作った私だって分かんないよ……。ともかく、可不可で言うなら出来るんだって。それで良くない話がひとつ。会長が持病で倒れてミレニアムに搬送されたってさ」
    「心配ね……」

     リオの声にチヒロは無言で頷いた。

     実のところ、チヒロは病弱属性と会長が上手く結びついていなかった。殺しても死なないだろう皮肉な笑みを浮かべ続けて人を小馬鹿にする態度。小憎たらしいにも程がある。だからこそ、病弱だと聞いても特にピンと来なかったし、これまでもそれらしき兆候が見えなかったために意識の端へと追いやっていた。

     だがどうだろう。実際に倒れたと聞いて、それが視界に入るだけで苛つく存在だとしても見知らぬ誰かではなく何度も顔と声を付き合わせて来た人で…………どれだけ認めたくは無くとも心に陰が出来るのは仕方のないことだった。

    「……とにかく、運営の業務は会長の代わりにウタハが引き継いだから問題ないみたい。残りはホドとゲブラーだけど、どっちも移動能力が優れているわけじゃないからすぐに見つかるだろうって」

     そう言うと、リオが視線を宙に浮かしながらぽつりと呟いた。

    「ホドはネットワークや電子制御に対する順応性が高いセフィラよ。それなら、晄輪大祭の開催地域を監視する上で最も情報が集まる地点に居ると思うわ」
    「でしたら、事務局の近くにいると見るのがよろしいのでは?」

     ヒマリが継いでリオが頷く。その辺りでマルクトがふと声を上げた。

    「ところで……コタマたちは何処に行ったのでしょうか?」
    「さぁ? って、ふと思ったけどセフィラと同じぐらい野放しにしちゃいけないよねあの二人」

     音瀬コタマと一之瀬アスナ。
     『二瀬コンビ』をすっかり放置してしまっていたが、あれらとも合流した方が良いのではなかろうか。

     そう考えているとヒマリがぽん、と手を叩いた。

  • 166125/08/10(日) 21:50:34

    「コタマなら大声で呼べばこちらの居場所に気が付くのでは?」
    「電話すれば?」
    「それが先ほどから繋がらないのです。敢えて無視しているのか、それとも出られない状況なのかは分かりませんが……」

     微笑むヒマリに溜め息を吐くチヒロ。
     手綱の握り方を掴めていない問題児二人、もしくは敵対していた問題児二人。

     仕方がないと思いながらチヒロはマルクトへと視線を向けた。

    「マルクト。拡声器出せる?」
    「はい。少々お待ちください」

     マルクトは器を掬うように両手の平を前へ出すと、ずもももも、と言わんばかりに手の平から拡声器がせり上がって来る。
     生成された電池式の拡声器をヒマリが取ると、「では」と笑って掴んだ拡声器を空へと向けた。

    【コタマー! 今すぐ電話してくださーい!】

     ヒマリの声が空へと響く。当然ながら常人であれば届かないだろう声。しかしコタマなら聞こえるはずだとチヒロは思った。



     ――それから五分、何の応答も無しに続いた時間。マルクトがふと呟いた。

    「来ませんね……。聞こえていないのではないでしょうか?」
    「コタマだよ? どうせあちこちに盗聴器仕込んでるんだからひとつぐらい拾っているでしょ」
    「では敢えて無視しているということですか?」
    「……はぁ」

  • 167125/08/10(日) 21:51:34

     電話できない状況なのか、それともコタマ以上にアスナが暴走しているのか。
     チヒロはこめかみを押さえながらヒマリに向かって手を伸ばす。

    「貸して、拡声器。ちょっと呼んでみるから」
    「え、ええ。分かりました。呼び出せる方法に何か心当たりが?」
    「分かんないよそんなの……。でもまぁ、ちょっと脅してみる」

     怪訝そうに眉を顰めるヒマリの手から拡声器を取り上げて、チヒロは口元へと拡声器を近づけた。

     大きく息を吸う。それから空に向かって拡声器の電源を入れる。そして――

    『アスナ!! コタマを連れて三分以内にここに来なさい!! あんた来なかったら酷い目に合わせるからねッ!?』

     キィィーーン、とハウリング混じりに響く声。
     ふぅ、と溜め息を吐くチヒロが周囲を見渡すと、ヒマリは恐る恐ると言った様子で口を開いた。

    「ち、チーちゃんママ……」
    「誰がママだって!?」
    「ご、ゴミはちゃんと片づけるわ……」
    「あんたは言われずとも片付けなさいって!!」
    「チヒロはエンジニア部のママだったのですね……?」
    「違うからね!? 同い年だから私たち!?」

     ヒマリとリオとマルクトの言葉に叫ぶチヒロ。
     それからすぐに現れたのは息を切らせたアスナと何故かズタボロになっているコタマの二人。

    「はぁ、はぁ……わ、悪いことしてないよリーダー……?」
    「ああもうなんなのあんたたちは――!?」

     およそ望まぬ方向での位が上がり続けるチヒロが叫ぶもともかく、軌道修正するように空気を読まないリオがアスナに手首を掴まれて引きずり回された様子のコタマに話しかけた。

  • 168二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 02:23:23

    保守

  • 169二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 08:48:23

    コタマ大丈夫か?

  • 170二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 09:01:25

    チーちゃんママにオギャりたい気持ちとチーちゃんおかんに叱られたい気持ちと心がふたつある

  • 171125/08/11(月) 12:42:12

    「ホドとゲブラーを探しているのだけれど見かけなかったかしら?」
    「たす……て……」
    「あ、それならさっき噴水広場にいたってコタマが言ってたよ!」
    「そう、なら行きましょう」
    「ねぇ……コタマ『助けて』って言ってない?」

     引きずられ続けてズタボロになったようなコタマから零れた声を聞き咎めると、アスナは「はて?」と言わんばかりに首を傾げた。

    「え? そんなことないよ? 私たち競技に参加してただけだし……。ね? コタマ!」
    「し……しぬ……」
    「ほら! 『死ぬ』って言ってるじゃん! 何して来たのあんたたち?」
    「えーと……二人三脚と玉入れと棒倒しと綱引きかなぁ……。なんかすっごい爆発してた!」
    「あぁ……だからか。それは流石に可哀想かな……」

     競技が始まる度に遠くで聞こえていた爆発音。コタマはアスナに引きまわされて地獄めぐりのような状況だったのだろう。
     それは流石に同情を禁じ得ない。アスナを窘めようと口を開きかけた時、アスナが「あとね!」と言葉を続けた。

    「大聖堂へ盗聴器を仕掛けに……」
    「ちょ、ちょっとアスナさん!? それは内緒ですって!」
    「あれ? そうだっけ?」
    「…………前言撤回。アスナ、今日一日コタマの面倒見てあげて」
    「任せて!」
    「死にますぅ!!」

     ひとまず、アスナとコタマに合流出来てホドの居場所もコタマが知っている。
     あと少しでセフィラたちも全員回収できるし、晄輪大祭もじきに終わりを迎える。

     時刻は15時。トリを飾る最後の競技まであと1時間半だった。

    -----

  • 172125/08/11(月) 14:24:20

    《ねぇホド。この『異界』の解析は済んだ?》
    《肯定。『トリニティ』の解析を完了。ここでは当機に割り当てられた機能が十全に発揮できず》

     機械の身体で空を仰ぐホド。このトリニティと呼ばれる『異界』は異常性の塊であった。

     本来互換性の無いシステムが無理やり捻じ曲げられて接続されたような奇妙さ。
     ゲブラーに頼まれなければ調べることすらなかっただろう。故にホドはこう決定づけた。キヴォトスとは地獄の坩堝である、と。

    《やっぱりねー。あたしも軽く見て回ったけど、あと二年もしないうちに滅ぶわ。この世界》
    《存在臨界点。意図的な加速?》
    《毒を以て毒を制す、って感じじゃない? 『Divi:Sionシステム』みたいな?》
    《……断定不可》

     『Divi:Sionシステム』――それは本来互換性を持たない『個』を『群』として運用するための『名もなき神の技術』である。

     因果も世界も越えて互いを結びつける鎖、もしくは呪い。
     仮にこのキヴォトスも似たような状態にあるのだとすれば、この『箱庭』に集められた世界は全てが劇毒と推察される。

     滅びゆく世界を集められたのか、滅びるべき部分のみを切り取られたのかは未だ分からず。

    《あなたもそろそろ帰った方が良いかもよ? あたしはまだ大丈夫だけど、下層のあなたたちはあたしたちより『捻じれ』やすいんだから》

     ゲブラーの言葉に頷くホド。
     そもそもセフィラはその一体一体が世界に匹敵するほどの『意識』と『願い』を内包している。

     そして『意識』とは『器』という実体を持つ方が力を持つ。実体なき『意識群』であるセフィラは『異界』に染まりやすいのだ。

     唯一の例外は内包する『意識』が疑似人格と抱えた犠牲者の合計人数がたった二人の『マルクト』だったが、今の女王は『女王の代弁者』であり本体ではない。影響があるのか無いのかも分からないため健診が必要だった。

  • 173二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 14:27:26

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  • 174125/08/11(月) 14:28:49

    《我らが女王の状態を確認次第、帰投する》
    《おっけー。あたしは最後にでっかい花火を上げてから戻るからヨロー》

     通信が途切れて、それから自分の前に立つ存在へと視線を向ける。

     アシュマ、女王の代弁者。
     かの存在がホドの機体に触れ、それから声が響いてきた。

    《帰りましょう、ホド》
    《――解析完了。女王の代弁者に異常なし。了解、帰投――》
    《あ、待ってください! その前にゲブラーは何処にいますか?》

     その質問にホドは答えた。ゲブラーの居場所と、それから最後に言っていた言葉を。
     マルクトは妙な表情を浮かべていたが、どうやら話はそれで充分らしい。

    《帰投する。イェソド》
    《ふん……》

     音もなく現れたイェソドがホドの脇に現れて舌打ちに似た不快な感情をぶつけられる。
     イェソドによる転送機能。かくしてホドの姿はトリニティから掻き消えた。



     これで残るセフィラはゲブラーのみ。
     だが、ホドから語られたゲブラーの位置を聞いたマルクトはそれどころではない状態だった。

    「どうしましたかマルクト?」

     ヒマリから尋ねられ、マルクトは動揺する心を必死で落ち着かせながら静かに口を開く。

  • 175125/08/11(月) 14:44:21

    「ゲブラーが向かったのは全校一斉フルマラソンのルートとのことです。その……最後に『でっかい花火』を打ち上げる、と……」
    「「…………」」

     ぽかんと口を開ける一同。
     しばらく全員固まって、それからチヒロが叫んだ。

    「絶対駄目なやつだそれ!!」
    「本当に、本当にセフィラたちが済みません……」

     流石のマルクトもこれには頭を下げる。
     そこでヒマリが微笑みながら携帯を仕舞った。

    「ウタハには連絡しておきました。そろそろ返信が――」
    「話は聞かせてもらったよ!!」
    「ウタハ!?」

     噴水広場に現れたウタハと、その後ろを歩くセミナーの部員たち。チヒロが驚いて声を上げる。

    「巡回をしていたんだ。皆に会いに行こうと思っていたからちょうど良かったよ」
    「ただ会いに来ただけではないのでしょう?」
    「その通りだよリオ。今のゲブラーはカメラに映らない。目視だと軽トラックに見える状態なんだ。それと、これを」

     ウタハからリオが受け取ったのは『クォンタムデバイス』であった。
     会長がアップグレードを施してティファレトの確保に使ったものである。

  • 176125/08/11(月) 14:46:01

    「なるほど……。晄輪大祭を中断させることなく捕まえるのなら私たちは――」
    「ひ、ひぃ!? 嫌ですよ私は!! もう競技には出たくありません!」
    「やった! 一緒に頑張ろうねコタマ!」
    「助けて! アスナさんに殺されますぅ!!」
    「あの……参加するつもりは無いわ。先回りして捕まえるつもりなのだけれど……」

     がたがたと震え始めるコタマはともかく、リオは改めてウタハへと視線を向けた。

    「『クォンタム』使い方は?」
    「私じゃ検討も。運営の仕事もあるしさ。だから競技の開始までに何が出来そうか調べてくれないかな」
    「分かったわ」
    「ウタハ、他に気を付けることはある?」

     チヒロがそう言うと、ウタハは困ったような表情で肩を竦める。

    「少なくともゲヘナとトリニティが罠をありったけ仕掛けてくるだろうね。会長が唆しちゃったから……」
    「あいつ……! 大人しく寝ていればいいのに……っ!」
    「いやぁどうだろう? 会長が何かしなくてもそうなってたと思うよ今回は」
    「となると……本格的に対人戦が発生しそうですね」

     ヒマリの言葉で思い出すのはミレニアムEXPOでの一件。
     あれもセフィラではなく人との戦いであったがあくまで情報戦のようなもの。今回は本格的に戦闘が始まりそうであった。

     そこでチヒロがいつものようにパン、と手を打って注目を集めた。
     やることは変わらない。いつものように、普段通りに、慣れたように始めるのは状況の確認とセフィラ確保のための作戦会議。

    「それじゃ、晄輪大祭最後の作戦を練るよ!」

    -----

  • 177二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 18:22:28

    コタマギリギリ生還

  • 178125/08/11(月) 18:36:13

     トリニティには競技場として指定されたフィールドがいくつも存在していた。
     しかし、厳密な意味で『競技場』と呼べるのはトリニティ総合学園の始まりでもある第一回公会議よりも遥か昔に作られた総合訓練場――現在では『トリニティスタジアム』と呼ばれる太古の広場である。

     幾度となく補修工事が行われ今なお現存するキヴォトス最古の建造物。
     そこには晄輪大祭のために各地から集った大勢の選手たちが集まっていた。

    【本番組をご覧の皆様、こんにちは。ニュースクロノスの時間です】

     飛行船から聞こえて来るのはクロノスジャーナリズムスクールの生徒会組織が運営する報道番組、ニュースクロノス。
     キヴォトス最大の放送と報道を一手に担う学校から発信される映像には、各校の順位が映し出されていた。

    【現在の順位を発表します。一位、トリニティ総合学園。892点。僅差で二位、ゲヘナ学園。864点。続いて三位、SRT特殊学園。800点――】

     告げられていく順位から上がるのは競技場に集まる選手たちの士気である。

     最後の競技、全校一斉フルマラソンは点数の変動が何よりも高い。場合によっては五位の学校が一位に躍り出ることすら有り得る。故に、トリニティは逃げ切りを。ゲヘナは宿敵トリニティを下すことを。それ以外の学校はミレニアムを除く三大校への挑戦を心に抱く。

    【最後に勝利を勝ち取る学校は果たしてどの学校になるのか。晄輪大祭最終種目、まもなく開始です】

     そんな放送を聞きながら、工作に励む万魔殿の部員のひとりが空を仰いだ。
     五名からなる爆破工作員。トラップを仕掛けながらふと呟く。

    「ヒナ風紀委員、結局参加しないって……」
    「も、もしかして私が妨害したから……?」
    「でも議長も言ってたじゃん。『たとえあいつが居なくとも我が計略に狂いはない!』って」
    「だったら大丈夫かな……」

     三年生になる彼女たちだが、議長を務める羽沼マコトの存在はたとえ年下であろうとも極めて大きなものであった。
     世界を変えた救世主にして悪魔たちを統べる議長。神算鬼謀の策略家であり駒の動かす天才。その手にかかれば全てが終わるまで、自分たちが一体何の役割を担っていたのかも分からぬままに自然と役割を果たしてしまうゲヘナの王。

  • 179125/08/11(月) 18:38:03

    「でもさ、なんでヒナちゃんと議長ってあんなに仲が悪いんだろうね」
    「あ、それ思った。なんかあったのかなぁ?」

     あの日、圧倒的な暴力によって全てを灰燼と化した空崎ヒナの下で共に戦った身としては少々腑に落ちないところがあった。
     雷帝を討ったあの日からたった一か月で議長が変わり、そこから始まる雷帝派閥の粛清。あれを機にゲヘナではヒナ派とマコト派に分断されたのだが、当然ながらヒナ派の人気は凄まじかった。

     しかし、よく分からないままに巻き込まれていた一年生や二年生と違って三年生たる自分たちは覚えている。偽りの楽園が失墜し本当の自由を得た空前絶後の交代劇を。誰よりも自由を求めて戦った羽沼マコトの演説を。

    「議長って頭はキレるけど今はのんびりしちゃってるからね~」
    「うん、普段は結構浅慮だよね。色んなものに飛びつきがちだし」
    「でもその方がいいよね。助けてもらっておいてなんだけど、一応私たち先輩だし」
    「ヒナちゃんには沢山ついてったし、私たちだけでも議長を支えないとね」

     後輩で英雄。あの日起こった出来事について一切の口外を禁じられているが故に、あの偉大なる功績も時間の彼方に消えていくのかも知れない。

     だからマコト派についたのだ。
     英雄をただの人へと戻し、何でもない日常へと返すそのために。

    「……あれ?」

     ひとりが顔を上げた。
     工作班は五人のはず。しかし、ここにいるのは四人だけ。ひとりの姿が見当たらない。

    「どこ行ったんだろう? 固まって動けって言われて――」
    「こんにちはー!」
    「っ!?」

     不意に聞こえた緊張感の無い誰かの声。慌てて銃を構えながらそちらを見やると、見覚えの無い人物が立っていた。

  • 180125/08/11(月) 18:40:18

    「妨害? とか、そういうの、駄目なんだって! だから……『襲撃』しに来たよ?」

     屈託なく笑うその人物に怖気が走った。

     ――まずい。多分とんでもなく強い。

    「今すぐ議長に報告――」
    「だーめ」

     銃声。短い悲鳴。発した号令は誰にも届くことなく気付けば地面へと沈められていた。
     薄らぐ視界の彼方では、仲間たちが正体不明の何者かに襲われていた。

    「ぎ、議長に……ほうこ、く……」

     うわ言のように呻きながら胸元の通信機に手を伸ばす。

     その手が蹴り飛ばされた。

    「ごめんね? 晄輪大祭はちゃんと終わらせないといけないんだって。だから駄目」
    「くそ……くそぉぉぉ!!」
    「ばいばい。知らない人」

     向けられた銃口から弾丸が放たれる。
     そして――万魔殿の部員は意識を失った。



    【ゲヘナの人倒したよー。次はトリニティの人だっけ?】
    「はい、次の地点はここです」

  • 181125/08/11(月) 19:13:33

     アスナから報告を受けたコタマは、すぐさま次のポイントをメールで送って向かわせる。
     どことも知らぬ裏路地で、散々仕掛けた盗聴器から各校の動きを正確に傍聴していた。

    「ゲヘナとトリニティ以外は問題なさそうですね。ウタハさんが見回りを強化してくれてますし……」

     聞こえる音から一応運営事務局に詰めるウタハにも連絡を入れる。
     保安部はミレニアムの治安維持を務める組織だ。何処に何人手配すればいいか分かれば各校の工作員は容易。

    「チヒロ、そちらはどうですか?」
    【設置完了、ってとこかな? 工作しようと近付いたんならすぐにでも爆破できるよ】



     コタマからの連絡を受けたチヒロは、スイッチを片手に路地を後にする。
     隣を歩くヒマリが愉快そうにチヒロを見やった。

    「物理的に爆破だなんて、なんともハッカーらしくはありませんね?」
    「トラップなんて新素材開発部相手にいくらでも仕掛けたでしょ……。毒ガスでも撒けっての?」
    「いえ、ただもう少し時間があれば、と」

     今回用意した爆発物は、会長がアップグレードした『クォンタムデバイス』から生成したものだった。
     会長が一体何をどうやって使ったのかは結局分からず、何とか見つけたのは爆発物と見えない縄の生成コマンドのみ。もっと時間があればチヒロも更に多くのコマンドを見つけることが出来たであろうが仕方が無かった。

    「とりあえず次のポイントに行こっか」
    【あ、五分後ぐらいにトリニティの工作員が現場に来ます。今すぐ逃げてください】
    「了解。……やっぱコタマ、味方にいると助かるね」
    【な、なんですか急に……】

     通信から聞こえる戸惑ったような声にチヒロは笑う。

  • 182125/08/11(月) 22:55:09

    「なんでも。ほら行くよヒマリ。マルクトにも頑張って貰ってるし」
    「ふふ、そうですねチーちゃん」

     爆薬の入った鞄を背負い直して速やかにその場を離れる二人。
     それからきっかり五分後、爆発と悲鳴が空に昇っていく最中、ビルとビルの間を重力なんて忘れてしまったように飛び走るひとりの姿があった。マルクトだ。銃も持たず軽やかに空を翔るマルクトは、ビルの屋上に着地しては一息で100メートルほどの区間を滑るように飛びながら耳元の通信機でリオへと通信を繋げる。

    「こちらマルクト。目標の地点に到着します」
    【そのビルの五階にレースを妨害するための武器が仕掛けられているわ。セキュリティは特にかかっていなかったからすぐに辿り着けるはずよ】
    「分かりました、リオ」

     屋上から室内に入り目的地へ向かうと、そこには布地が掛けられた何かが置いてあった。
     布地を掴んで引き剥がすと、中から現れたのは遠隔式のガトリング砲。マルクトは即座にガトリングへ触れて構造を解析する。

    (遠隔使用するための仕掛け以外は特になし……弾薬を抜くだけで問題なさそうですね)

     弾薬に詰まった火薬を全て水に変性して無力化する。若干の時間はかかるが、火力の高すぎるトラップのみに選別すれば無力化するぐらいの時間はある。

     問題はゲブラーだ。
     カメラには映らず目視では軽トラックにしか見えない状態になっているため、まだ見つかっていなかった。

     近くにいることは確実なのだろうが、捕捉出来ない以上こうしてレースの道中にある武装を無力化することで何とかおびき寄せられないか試すぐらいしか出来ることがない。

     とにかく見つけさえすれば問題ないのだ。
     いたずら程度にちょっとした妨害をしてくることは有り得なくもないが、流石に反撃をしてくることは無いと断言できる。

     そうして火薬の変性を行ったとき、背後からこちらに向かってくる足音が聞こえた。
     マルクトは振り返らずに金色の瞳を輝かせる。手の平から生み出された配線が床を伝うように部屋の出入口の方へと伸びていく。そして――

    「え、だ――きゃあ!」
    「な、何この紐!? むぐぅ!?」

  • 183125/08/11(月) 23:04:06

     やってきたトリニティの工作員二人を縛り上げてマルクトは一息つく。
     練習の甲斐あってか、セフィラたちから得た機能を組み合わせて使うことに慣れ始めていた。

    「無力化に成功。次はどこに行けばよろしいでしょうか?」
    【ちょっと待ってちょうだい。いまウタハから連絡が来たわ】
    「では屋上にて待機します」

     マルクトは再び屋上に向かって走り出す。
     その位置情報はリオの持つ『クォンタムデバイス』の光点となって映し出されている。

    「どうしたのかしらウタハ」
    【ああ、ちょうど巡回に出て貰っていた保安部から連絡があってね。コース付近に不審な軽トラックが止まっていたらしいんだけど、監視カメラに映っていなかったからその共有さ】

     端末に送られてきたのは三分前の映像と位置情報である。どうやらこの場所にゲブラーが居たらしい。

    【撒かれたけど範囲は絞れたからね。いま別動隊を向かわせているから、マルクトにも来て欲しいんだ】
    「……ちょっと待ってちょうだい。それ、本当にゲブラーかしら?」
    【それはどういう……】

     とウタハが通話越しに言いかけたとき、ウタハの方から人の声が聞こえて来た。
     どうやら保安部員とやりとりをしているらしい。しばらく待つと、ウタハから再び声が返って来た。

    【君の嫌な予感はよく当たるみたいだ。『二台目』と『三台目』が見つかったよ。どちらもカメラに映らない軽トラック】
    「やはりそうなのね……」

     そう、ゲブラーは『何でも』作れるのだ。
     光学迷彩処理か何かを施した自動運転式の軽トラックか何かを作成していてもおかしくはなく、実際その通りであったらしい。

     先ほどまでそのような車が見つかっていなかったことからついさっき作り出されたものだと思われるため、台数はそう多くは無いはずだ。

  • 184125/08/11(月) 23:21:31

    「いっそアスレチックスタジアムに張り込んだ方が良いかも知れないわね。運営としてはどうかしら?」
    【問題無いよ。色々調べてるけど、コース上にゲブラーが仕掛けた爆薬や地雷はなかったから、マラソンを妨害する意図は無さそうだからね】
    「じゃあ全員でアスレチックスタジアムに集合しましょう。観客席を取っておいてちょうだい」
    【分かった】



     そしてリオからの通信を切るウタハ。運営事務局はアスレチックスタジアムの中にあるため観客席まで歩いてすぐだった。

     事務仕事をセミナーの部員に任せると、保安部を連れてすぐさま向かう。
     保安部にはゲブラーのことを『テロリスト容疑がかかった存在』と曖昧にぼかして伝えてあった。何かするかも知れないから晄輪大祭を無事に終わらせるために捜索を手伝って欲しい、と。

    「代行、例の車ですが一台捕まえることが出来ました」
    「本当かい? 中は無人だったかな?」
    「はい、自動運転でした。トラックの荷台も改めたのですが、中には打ち上げ花火の発射台が入っていたとのことでした」
    「花火? ……まさか『でっかい花火』って本当にその通りだったってこと……?」

     肩透かしを食らったようで困惑するウタハ。
     しかしよくよく思い出してみればゲブラーの疑似人格は祭儀から真理へと辿り着こうとした人格。祭儀というのだから祭りも好きなのかも知れない。

     もう追わなくていいんじゃないかとすら思い始めて来たが、かといって上空でサーモバリック爆弾相当の爆発でも起こされたら直接的な怪我人が出ずとも大混乱に陥るのは間違いなし。花火を上げるなら上げるで常識的なものに納めてもらう必要はある。

     そう考えていると、困惑した様子の保安部がおずおずと口を開いた。

    「ええと、代行。『でっかい花火』というのは……?」
    「うん? ああ……、犯行予告が来たんだ。最後にでっかい花火を打ち上げるってね。てっきりスタジアムを爆破するのかと思ったんだけど、結局どのぐらいの規模の花火を上げるつもりなのか分からないからどのみち警戒は必要だね」

     そう言うと、何故か保安部たちはウタハを見てきょとんとした表情を浮かべる。
     なぜそんな顔をしているのか分からず首を傾げると、その保安部員は苦笑しながら「済みません」と訳を話してくれた。

  • 185125/08/11(月) 23:24:14

    「なんてことは無いんですけど、なんだか会長にそっくりだなと思いまして」
    「会長に? 私が?」
    「はい、その煙に巻いたような口振りと言いますか、何か隠しているんだろうなぁと思わせるような素振りだとか……。まぁ、会長が選ばれた方なら不思議でもないと思いますか……」
    「それは、光栄に思えばいいのかな……? なんだか微妙な気持ちにさせられるんだけど……」

     困ったように言うと保安部員たちは忍び笑いを漏らした。

    「というか、別に私相手に敬語は使わなくていいよ。あまり目上や年上の相手と話すのが慣れていないだけで、君たちの方が先輩だろう?」
    「仕事中なのでお気になさらず。保安部内ではそうしたルールなのです」
    「ふふ、そうか。プロフェッショナルの流儀というものだね?」
    「はい。我々は部長の手であり足であり、ミレニアムを守る駒ですので」

     そこは会長ではなく部長、つまりはセミナー会計なのかと突っ込みかけたが、どこか誇らしげな表情を見ればわざわざ言うのも野暮だった。

    「……さて、アスレチックスタジアムは衆人環視。この『祭り』を壊すつもりが無いのなら恐らくスタジアムの周囲で待機しているはず。頼んだよ、みんな」

     そしてウタハは耳元の通信機を付け直しながら、運営用の特別観客席へと腰を落とした。

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  • 186二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 02:27:23

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  • 200二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 02:53:44

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