- 1125/07/28(月) 09:55:06
半神より何処かへと向かう旅の話。
向かう先は天か地か。セフィロトを駆け上がると同時に落ちるはクリフォトの先。
昏き森では無く煉獄より始まった此方の旅路。我らが向かうは至高天か嘆きの川か。
※独自設定&独自解釈多数、オリキャラも出てくるため要注意。前回までのPart>>2にて。
- 2125/07/28(月) 09:57:32
■前回のあらすじ
物質界の超越者たるゲブラーの戦いにより意識を失ったミレニアムの最強、美甘ネル。
代わりに加わったのは正体不明、制御不能なミレニアムNo.2、一之瀬アスナ。
信を置けずとも始まるのはキヴォトス三大校主催による晄輪大祭。
次期生徒会長の白石ウタハが知るのはミレニアムの外の世界。
揺籃は崩れ落ち、世界へ羽撃くは世界を変え得るかの存在。
トリニティとゲヘナ。両校が睨み合う最中に理解したものは一体何か。
▼Part8(スレタイが間違ってます)
【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」Part7|あにまん掲示板失われた『マルクト』を見つける話。撒かれた『未知』が芽吹き始める。この旅は何のために始まったのか。『二週目』の旅路が始まったその意味とは。スレ画はPart6の144様に書いて頂いたもの。告げるがいい、…bbs.animanch.com▼全話まとめ
【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」まとめ | Writening■前日譚:White-rabbit from Wandering Ways コユキが2年前のミレニアムサイエンススクールにタイムスリップする話 【SS】コユキ「にはは! 未来を変えちゃいますよー!」 https://bbs.animanch.com/board…writening.net▼ミュート機能導入まとめ
ミュート機能導入部屋リンク & スクリプト一覧リンク | Writening 【寄生荒らし愚痴部屋リンク】 https://c.kuku.lu/pmv4nen8 スクリプト製作者様や、導入解説部屋と愚痴部屋オーナーとこのwritingまとめの作者が居ます 寄生荒らし被害のお問い合わせ下書きなども固…writening.net※削除したレスなどを非表示にする機能です。荒しっぽい方へのミュート機能も備えておりますので見やすくなると思います。
- 3125/07/28(月) 10:02:39
※埋めがてらの小話27
スレ主は基本的に酔いながら書いてます。
矛盾が無いよう努めておりますが、あまり信用しないで下さい。
一応ロジックに矛盾が無いよう目を凝らしてはおりますが、正直自分があまり信用ならない―― - 4125/07/28(月) 10:05:17
※埋めがてらの小話28
ゲブラーが作れるものはイェソド、ホド、ネツァクのセフィラ目線における一年生組の機関です。
三年生組とマルクトが接続できればティファレト、ゲブラー、ケセドの二年生組の機関を作れる可能性はありますが、少なくとも現状は不可能。
神の如き機能を『神』と見出すか人間の『科学』と見出すかは、『マルクト』を起点に何処へ進んだのかに依るのかも知れません。 - 5125/07/28(月) 10:06:34
※埋めがてらの小話29
この話は『マルクト』および全てのセフィラが消滅するまでの話です。
故に、原作の『預言者』たちとこの『セフィラ』たちとは明確に発生も起源も異なります。
パヴァーヌ二章から妄想した結果なので原作への繋がりだとか無視してください。
繋げようとしたらヒマリから人間味が失われるので……私は好きですがマイノリティだと思うので納得性を付与できないだろうと考えてはおります。 - 6125/07/28(月) 10:08:36
※埋めがてらの小話30
現時点における最大の謎は『会長の正体』です。
謎が解けた方にとっては答え合わせが続くので退屈かも知れませんが、正直『超能力によるギミック』じみたことをしているので論理的解消からは破綻してます。
あくまでこれはミステリーではなく『チート能力と対抗する生徒たち』の話なので、ロジックを組み立てるより気楽に構えてください。一応現状はロジックエラーを起こしていないつもりではありますが……。 - 7125/07/28(月) 10:09:43
※埋めがてらの小話31
会長は調月リオの死を許容してます。
死んでも良い。死んだら死んだでも問題ない。その両方で。 - 8125/07/28(月) 10:11:39
【本車両はトリニティ自治区方面へと続きます。ゲヘナ方面へお乗りのお客様は2番線よりお乗り換えをお願いいたします】
電車の中に響く音声。ウタハがそれを耳にしたところで、隣の会長が薄く笑った。
「面倒だよねぇ正直。僕ら三大校の交友のための体育祭だなんて……。どうせまた、ゲヘナかトリニティが一位を取るんだろうけどさ」
「二年前も?」
「そうさ。ミレニアムに入るような学生はみんな運動苦手がほとんどだからねぇ。運動得意な学校だけにやらせればいいのに」
晄輪大祭。キヴォトスが誇る他学区間での交友会を兼ねた体育祭。
歴史を見るに主催としてはゲヘナ、トリニティ、アビドスの三校が行い、他の学園が自由参加で己が名声を上げるために参加するための行事であったらしい。
しかし、アビドスの急激な凋落とミレニアムの急激な発展によって捻じ込まれてしまったのが二年前とのことらしい。
そんな変化に直撃した病弱な会長はうんざりとしたような笑みを浮かべていた。
「あの時は僕にとっての『会長』だったけど、そりゃもう困り切ったものだったよ。そういうのが嫌でミレニアムに来た生徒もいたのにさ」
「確か……成績は下から数えた方が早かったとか……」
「ドベだよ。普通に」
会長が眉を上げて答える。
そんな嘲るような表情からして相当に荒れたのだろう。実際の所、運動が得意というわけでもないウタハにしても突然キヴォトス規模での体育祭の運営側に組み込まれて参加を義務付けられたら嫌気が差すだろう。つまりはミレニアムにおいてそんな認識だった。晄輪大祭という行事は。
「まぁでも、今年は荒れるだろうねぇ」
「というと?」
「僕たちじゃなくてゲヘナとトリニティさ。関係が死ぬほど悪化したからねぇ……」
会長は遠い目をしながらぼそろと呟いた。「すぐに分かるよ」と。
その言葉にウタハも敢えては追及しなかった。すぐに分かるなら、知って頭を悩ませる時間が短い方が良いからだ。 - 9125/07/28(月) 10:13:48
だから代わりに言った。
「楽しみにするさ」
「その方が良いよ……。一応『避難場所』は用意したから……」
「不穏だね……」
「僕だって正直行きたく無いんだよ……。はぁ、なんでかなぁ……」
どうやら会長をして酷い状況にあるらしい。
少々珍しい本気の会長の溜め息に戦々恐々としながらも、電車の窓から流れゆく景色を眺め続けた。
トリニティ総合学園。
二年おきに行われる晄輪大祭において今年の開催校。
古き歴史を持つその学校は、最も新しきミレニアムサイエンススクールとは対極に位置していると言っても過言ではない学校である。
「トリニティ……私は初めてなんだけれど、どういう学校なのかな?」
「あー、『安定している』が一番かな」
不意に呟いた言葉に対して律儀に返す会長。
憂鬱過ぎて素にでもなっているのか、嫌味や皮肉のひとつも返って来なかった。
「まず、トリニティはキヴォトスの各校と比べて際立った特徴がひとつある。それは『生徒会長』が三人いることだ」
「責任を分担している――だったかな?」
そう、と会長は頷いた。
「トリニティは元々数多の学校、数多の派閥がひとつに合わさった連合なんだ。その中で実権を持つのはフィリウス派、パテル派、サンクトゥス派の三大組織――『ティーパーティー』と呼ばれる生徒会を築いているんだ」 - 10125/07/28(月) 10:15:28
ティーパーティーは三組織間で持ち回りにて運営されるらしい。
今年はフィリウス、来年はパテル、再来年はサンクトゥスといったように、毎年度決まった順でホストとなる派閥代表を回しているとのことだった。
「特に今年度は酷かったからねぇ……。去年まであんなに仲良かったのに。ゲヘナとトリニティ……」
「本当に何があったんだい?」
「見てもらった方が早いさ」
会長がそう言ったところで電車が止まる。
ふと会長が笑って席を立った。
「すぐに分かるさ。本当に頭が痛くなる……」
「それは……」
会長をして『頭が痛くなる』などと、いったいどれだけ酷い状況なのか。ウタハは天才的な頭脳を以てして考えないよう極めて務めた。
(会長になるって言ったの……間違いだったかな……?)
いったいどんな化け物が他校に存在するのか。
というよりそもそも、いま目の前にいる『ミレニアムの生徒会長』ですら化け物じみている。
ならば他校はどうなのか。
ゲヘナは? トリニティは? こちらの『会長』と同じぐらい正体の分からぬ存在ならば、到底やり合える気がしない。
そんなことを思いながら電車の席を立つと、会長はウタハに笑いかけた。
「ま、ゲヘナの生徒会長は君たちと同じ『一年生』だからね。歳はまぁ、近いし。君にとってのヒマリやリオと同じものだよ」
「それは……全部を理解しようなんて思わない方が良いということかな?」
「そ、いわゆる『天才』ってやつ……なのかもね」 - 11125/07/28(月) 10:17:05
もしくは『天災』。抗うなんて考えない方が良い存在。
会長が話せば話すほどに膨れ上がる不穏さではあったが……ともかく。電車を降りた先に広がるのは真新しい建造物群と、遠くに見える古都の風景。
トリニティ総合学園。
キヴォトスにおいても裕福な家系のみが入れるという特級のお嬢様学校である。
古くも荘厳な校舎。端末に映し出される競技場はいずれも伝統を誇る堅牢なコロシアム跡地。
「まだ時間もあるし軽く食べてから向かおうか! まっずい伝統料理がたくさんあるからね!」
「それは……会長命令かい?」
「当然!」
会長は酷く意地悪そうな笑みを浮かべて頷いた。
「酸いも甘いも旨いも拙いも知ってこその発明だろう? 全部を体験するんだ『ウタハ』。全てを見て全てを受け入れ全てに抗い作るんだ。君だけに作れる何かを」
「ははっ……。いつもの説教かな?」
「そ、僕にはたくさん言いたい事があるんだよ。何かひとつでも残ったらいいなぁ~なんて思って。だから、頭の片隅ぐらいに残ってくれたら良いって最近は思うようになったんだ」
それは酷く老いたような口調でもあった。死に逝く者の残す言葉。いずれ消える者の声。
「前に言われなければこんなこと、気付くこともなかったと思ったんだけどさぁ」
笑う会長は先に降りた保安部の後に続いて行く。
そして案内されるは晄輪大祭運営委員会事務局。そこには、ティーパーティーのホストと護衛が待っていた。
----- - 12125/07/28(月) 10:18:31
ウタハと会長が通されたのは競技場脇に設置された晄輪大祭運営本部の会議室であった。
中には優雅に紅茶を飲むフィリウス派の長であり今年度の『ホスト』を務める人物と、その護衛を行う数名の銃器を携えた部下たちの姿。
やけに物々しいその中で、ホストは会長に瞳を向けて口を開く。
「よくいらっしゃいました。ミレニアムの『会長』と……」
「こっちは僕の助手で次期生徒会長。今年度中には交代するつもりだから顔合わせに連れて来たんだ」
「そうでしたか。ええと、お名前は……」
「私は白石ウタハ。あまり人と話すことに慣れているわけでは無いから、多少の無礼を働いてしまったら済まない」
ウタハがそう言うと、ホストは微笑を浮かべた。
「いえ、お気になさらず。悪意を持っているならまだしも、そうでなければ私たちは思い合える――ですから、問題ありません」
「それは助か――」
「ウタハちゃん。今のは『悪意を持っていると思わせないでね?』って警告だからね?」
「うっ――善処するよ……」
早速言葉に詰まると、ホストはたおやかに笑いながらも会長の言葉を一切否定しなかった。
ホストもホストで相当に曲者らしい。不用意な発言は控えるべきなのかも知れない。
そう考えていると、会長はホストに向かってこんなことを言っていた。
「それで、この部屋の中で一番安全なのはどこかな?」
安全? 随分妙な言い方だ。まるでこれから危険が訪れるような言い回し。
ホストは笑顔のまま部屋の奥の机を指し示すと、会長は頷いてウタハの手を掴んだ。
「じゃあ僕たちはあの隅に隠れていよっか」
「こ、晄輪大祭の話し合いが始まるだけではないのかい……?」
「まぁまぁ」 - 13125/07/28(月) 10:20:08
とりあえず言われるがままに部屋の隅の机の下に隠れて様子を伺う。
すると、会議室の外からこんな声が聞こえて来た。
『キヒヒッ! 相も変わらず古臭いなトリニティは! 我がゲヘナを少しは見習ってほしいものだな!』
『古臭い以前にほとんど灰になったじゃ――いえ、やったのは私だけど……』
『いっそトリニティもぶっ壊してやるのはどうだ? もちろんお前が突然錯乱したというシナリオだ!』
『やるわけないでしょ……。外で待ってるから、早く済ませて』
どうやらゲヘナの生徒会長が来たらしい。
そしてその声でじゃきりと銃を構えるトリニティの護衛たち。物々しさが一息に増して、それから扉が開いた瞬間、ホストが叫んだ。
「今です!」
直後、開かれた扉に向かって言葉を交わすまでもなく一斉に掃射される。
もちろんゲヘナ側も撃たれるだけじゃない。問答無用で撃ち返してきて、会議室は突然戦場へと早変わりした。
「な、何が起こっているんだい!?」
がなり立てる銃声に耳を押さえながらウタハが叫ぶと、会長はそっとウタハに耳打ちをした。
「とんでもなく仲が悪いんだよねぇ。今のゲヘナとトリニティ」
「各校の生徒会長同士が出合い頭に撃ち合うって……一体何があったんだ!」
手榴弾が投げ込まれて室内で爆発。聞こえて来るのは先ほどまでの優雅さを投げ捨てたホストの罵倒と、銃弾と共に返されるゲヘナの生徒会長の嘲笑。
仲が悪いどころではない。もはや憎悪か何かの因縁に塗れているとしか思えず、同時に何故そんな状況で晄輪大祭を開催しようとしたのかすら疑問に思えてきた。
すると会長は、銃弾が飛び交うその中でひとまず何があったのかを説明し始めた。 - 14125/07/28(月) 10:22:27
「今年の6月まではゲヘナもトリニティも本当に仲が良かった……というより、関係が改善していたんだよ。それこそ連邦生徒会が仲介に入って恒久的な和平条約を締結させようってするぐらいには」
「ああ、元々仲が悪かったんだっけか……」
ウタハの脳裏を過ぎるのはキヴォトス史の座学である。
何百年も昔、ゲヘナとトリニティは戦争を行っていたらしい。
誰が始めたのか、どちらから始まったのかも分からず、互いが互いに何故戦争をしているのかすら分からないほど長引いてしまった暗黒時代。分派が多く散り散りになっていたトリニティはゲヘナに対抗するべく一致団結し、そして出来上がったのが現在のトリニティ総合学園の原型であるとされている。
そんな成り立ちのせいか、何百年も経った今においても遺恨は残っているらしいのだが、会長が言うにはそんな確執すら溶けかけたのが今年の6月までのことであったらしい。
「エデン条約。これが結ばれれば両校は古い遺恨を捨て去って共に仲良く手を取れるはずだったんだけど、よりにもよって調印式の前日にゲヘナで大きなクーデターが起こったんだ」
「クーデター? どうして……」
「よく分からないんだよねぇ……それがさ」
会長もやや困惑気味に肩を竦める。
反トリニティ派が当時のゲヘナ生徒会長に反旗を翻したのかとも思ったが、会長が語ったのは妙な話であった。
「クーデターを起こしたのは当時の生徒会長の側近で、ゲヘナの治安維持組織を担う生徒だったらしいんだけど……生徒会長側と相打ちになったらしいんだ」
「うん? 成功したわけではなかったということかい?」
「そうらしいよ? それで、クーデターを起こした側と起こされた側、双方が疲弊しきったところで突然出てきたのが今のゲヘナの生徒会長。万魔殿の『議長』だね」
つまりはいま嬉々としてホスト陣営目掛けて銃撃戦を指揮している人物である。
話を聞くにクーデターを起こした側とも起こされた側とも無関係らしいが、漁夫の利を得た人物ということだろうか?
「ね? 意味分からないでしょ?」 - 15125/07/28(月) 10:23:48
会長の苦笑にウタハも苦笑で返した。
突然現れて全てをかっさらった謎の人物。それが議長であるらしい。
「しかも就任した直後に前生徒会長派の生徒をダースじゃ足りないぐらい退学処分を下した上で、校則を片っ端から書き換えたってんだからやりたい放題だよね。退学だよ? 人権の剥奪なんて本当に徹底してるよね」
「はは……本当に悪魔みたいだね」
「もちろんそれだけじゃない。もっと怖いのはここからで……彼女、全ての暴力を合法化したんだ」
「なんだって?」
暴力の合法化。即ち、強盗だろうがなんだろうが一切咎めないという狂気の校則である。
会長だってそこまではやらない。試合という形に落とし込んでの制定はしていたが、それより酷い無秩序の体現を議長はやらかしたのだと言う。
「それで治安は一気に悪くなった……んだけど、どうなったと思う?」
「それは……まさか不満の声が上がらなかったとでも?」
会長は引き攣った笑みを浮かべた。それが答えだった。
「無政府主義の実験場か何かかと思ったよ。暴力を抑制するルールを撤廃した代わりに市民へ銃器の保障を行ったんだ。おかげで今やゲヘナじゃ全市民がギャングを追い払える火力を持ってるし、素行の悪い客に対して店側が発砲することも許されている。逆に劣悪な店には客側が店を爆破してもお咎め無しさ。狂ってるよね……」
だからこそ、と会長は続けた。
双方が武力を持つが故に発生する謎の秩序。攻撃されないために大人しくする客と、攻撃されないためにきちんとしたサービスを提供する店。極めて危うい砂上の秩序が築かれ始めたのだと言う。
「それでもまぁ、一応ある程度力を持った部活だとか人物に対しては指名手配もかけてはいるようだけど……正直効果を示しているわけじゃない」
ほぼ野放し。
そんな地獄みたいな環境で掲げられたのは『自由と混沌』――
皆が無法たる狂気の世界でやりたい放題やり続けるという理解不能な秩序であった。 - 16二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 11:00:41
外にはこう伝わってるんだな
- 17二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 13:51:07
会長の「終わったことを知る」というのもかなり限定的なのだろうか。
ミレニアム内に限定されてるとか、千年紀行を中断してから、あるいはその途中からとか。
だとしてもあのSSと同じことが起こってるなら、過去の在籍者から分かることもあると思うけども……
会長といえど、人の身を若干逸脱してるだけで、過去のこととはいえ、しかも期間が限定されていたとしても、起こったこと全部頭に入れられるほど人外でも無いか。 - 18二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 14:21:46
リオが死んでも良い理由が神秘の薄さにあるのなら(それほどまでに神秘が弱いなら)、リオが会長になることでミレニアムの神秘を薄めて何がしかを解決する、みたいな方向にも行きそう。
ヒマリの下半身付随も本当に起こるなら、千年紀行の途中じゃなくて非存在に到達した結果であって、「脚のない幽霊」の暗喩で半ばこの世のもので無くなっていることを表していたり? - 19二次元好きの匿名さん25/07/28(月) 18:04:51
ふむ…
- 20二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 01:20:47
ほしゅ
- 21二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 01:21:48
というか、出会い頭に銃撃されるって、マコト様何やったの?すでに出会い頭に銃撃しまくったの?
- 22二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 07:03:34
アレな発言をしたとか…?
- 23二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 07:42:31
このキヴォトスにおいては
「生徒会長というのはただの役職じゃないんだよ。自治区の象徴で『神性』の影響を伝播させる存在なんだ」
と会長が言ってる。
マコト様がその点でどこまで自覚的にやってるかは分からないが、ゲヘナの前生徒会長とのアレコレがあったことから、あくまでも「自由と混沌」の象徴としてポジショントーク(言葉だけでなく行動も)し続けるだろうし……
トリニティと仲良くする以外なら何やってもおかしくないか……
科学的な紅茶の淹れ方を要求するなり披露するなりしたのかな????? - 24125/07/29(火) 08:09:21
「けれども気になるね。仲が悪い理由は分かったけど、仮にも学園のトップがあんな出会い頭に撃ち合いを始めるほどなのかい?」
ウタハがそう言うと、会長は肩を竦めた。
「さっきも言ったように、ゲヘナの治安が一気に悪化したんだ。犯罪を抑止する法が無くなった。それで……もしゲヘナの隣の自治区が裕福な生徒が多かったとして、ゲヘナの不良たちはいったい何処に向かうと思うかなぁ?」
「まさか……」
「そう、トリニティの治安も急激に悪化した。ゲヘナから大量に雪崩れ込んできた犯罪者たちにカツアゲされたり身代金目的の誘拐が起こったりとめちゃくちゃだ。元よりトリニティの治安は良かったからね。犯罪者に取ってもフィーバータイムってやつなんだよねぇ」
あわれトリニティ。乱獲されるカカポのように次々と被害に遭っているらしい。
ならば治安回復のためにトリニティ側が出来ることは一体何か――そこで話はエデン条約へと戻るのだと会長は続けた。
「トリニティはエデン条約を再締結させてゲヘナ・トリニティ間で運用できる治安維持組織が欲しい。ゲヘナ側は二校に架かる治安維持組織を絶対に作りたくない。議長も結局はひとりだからね。流石にトリニティみたいに政治闘争へ送り込める人員がいないんだよ。それで揉めに揉めて今に至る、って感じかなぁ」
ちらりと机から顔を出して部屋の様子を伺うと、双方何人かを残して倒れ伏す戦場の中、息を切らせて各生徒会長が叫んでいた。
「何も出来ないそちらに代わって治安維持をして差し上げると仰っているのですゲヘナの角付き――っ!!」
「海水魚と淡水魚をまとめて湯だった鍋に放り込むような愚行だと何故分からんお花畑の羽付き――っ!!」
「まったく平行線だねぇ……。そろそろ始めない? 晄輪大祭の運営業務をさ」 - 25125/07/29(火) 08:10:46
会長がそう言うと、議長もホストも荒く息を吐きながら頷いた。
「そうだな。挨拶はこのぐらいで充分だろう」
「そうですね。続きはまたいずれ」
ホストがポケットからベルを取り出して鳴らすと、外で待機していたと思しき両校の治安維持組織に属する生徒たちが中へと入り、手慣れた様子で人員の回収と壊れた調度品の搬出を行い始める。
トップ同士のいがみ合いに慣れているのか、慣れるほどに付き合わされているのか。
治安維持組織間も仲が良いとは言えないものの、どこか気まずさが勝っているように見える。
それからあっという間に原状回復させられた会議室に改めて全員が席に着くが、会長の隣に座るウタハは早速頭を抱えたくなった。
(チーちゃんも、こんな気持ちだったのかな……)
どこもかしこも問題だらけな惨状を前に、少しだけ我が身を省みるウタハであった。
----- - 26125/07/29(火) 08:12:30
「ウタハも今頃会長の隣で職務を全うしているのでしょうね」
「はぁ……何事もなければいいけど……」
トリニティの景観を眺めながらウタハとチヒロが競技場へ向けて歩いていた。
その後ろにはネルとウタハを除いた特異現象捜査部の面々。リオも怪我は治り切っていなかったが、マルクトの用意した車椅子に乗っており、コタマはアスナに手を引かれて振り回されている。
その様子を遠巻きに眺める『かの存在たち』は、互いのみで通ずる独自ネットワークにて会話を行っていた。
《雛鳥の状況はどうだ?》
《異常なし。周辺に潜在的危険因子も発見されず》
《わたくしたちで今度こそマルクトを守らなければならないものね》
誰も居ない鐘楼の上にはイェソド。
噴水の上に立つホドの姿は誰にも見えず、道路を闊歩するネツァクの姿もまた、誰にも見えていない。
もちろんそれだけではない。
《ふらふらきらきら知らない『世界』。ミレニアムに『お外』があるのは不思議だね!》
《あまり遠くに行かないようにティファレト。あたしたちはミレニアムの中じゃないとスペックが落ちるんだから》
空の上にはティファレトの影。ゲブラーはホドによって小型トラックの姿に偽装された状態で道路の上を走行中。
トリニティへ向かったマルクトを追って第九から第五セフィラも現地入り。
どう考えなくてもロクでも無いことが起こる前触れでしかないのだが、それを指摘できる人間は何処にもいない。
それに、セフィラの機能はミレニアムの外という『異世界』においては機能に変容あるいは制限がかかってしまう。
『王国』の『瞳』と『喉』はまともに機能せず、『勝利』も『峻厳』も作れる物がトリニティ基準に変わってしまっている。 - 27125/07/29(火) 09:16:05
《報告。女王が監視カメラの範囲外へ移動》
《分かった。俺が行こう》
ホドの報告を受けて即座にイェソドが姿を消した。意識を先行させて実体を移動させる根幹の技術群。
その『脚』もミレニアムの内部と比べれば遅く、転移から転移の間に何十秒かの時間を要するものである。
ビル群を駆けまわること三分。マルクトと預言者たちの姿を見つけたイェソドは、ビルの上へと転移して眼下の様子を監視する。そこで「おや?」と違和感を覚えた。
(預言者の数がひとり減っているな……。いったい何処へ……)
「あれ~? 何かいる気がしたんだけどなー」
(ッ!!)
背後から聞こえた声に驚いたイェソドは、振り返ることなく尻尾の先端に備わった第三の目を後ろに向けた。
そこにいたのは先日加わった七人目の預言者。
名前は知らないが敵ではないということだけは分かっている。
イェソドの姿は現在ホドによる干渉を受けて見えなくなっているのだが、どうやらそれを察知して来たらしい。
「ま、いっか! 別に嫌な感じとかじゃなかったし!」
それだけ言うとその預言者はビルの屋上から『飛び降りた』。
(飛び降りることの出来る高さなのか……?)
疑問に思い飛び降りた先を見ると、預言者は器用にビルの窓縁に足をかけながらラダーを降るように、一階飛ばしで緩急を付けながら地面に着地。車椅子に乗っていた預言者が驚いて転げ落ち、飛び降りた預言者は他の預言者たちに窘められているようであった。
(相も変わらず何を話しているかは分からんが……俺の役割はそれではない) - 28125/07/29(火) 09:17:53
そう思いながらも覗いていると、マルクトの進行方向と交差する形で伸びる路地に武装した危険因子の集団を確認した。見たところ無力な二人を複数人で囲んで捕縛した、という状況だろうか。悪意や敵意を抱いていることから拐取の現場なのかも知れない。
ここで重要なのは、件の集団の進行を見逃せばじきにマルクトたちと鉢合わせてしまうということだ。
(仕方があるまい)
イェソドは内心溜め息を吐きながら転移を開始する。
あくまで姿を消したまま、出力も意識だけは残すように抑えた上で尾の先端をゆっくりと振り回しながら歩み続ける危険因子とプラスアルファの前へと出現する。
当然誰も気が付かない。
そんな集団に目がけてサマーソルトを放つように尻尾を目標へと振り上げると、直後、空気砲のような電流が走った。
「んぎゃあ!?」
路地に悲鳴が上がってバタバタと痙攣しながら倒れていく目標群。もちろん意識は残っているため問題は無いはずだ。
「な、何が……ってか誰が……?」
「た、助けとかじゃ、な……」
何やら呻いていたが、イェソドは危険を排除できたことを確かめて頷いた。
(よし、問題ないな)
それから再び転移を行い高所を取る。
それが、この日トリニティで起こった『最初の』特異現象であった。
----- - 29二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 15:01:09
キヴォトスゆえの引き金の軽さからか……
あとマコト様が道化モードじゃなかった…… - 30125/07/29(火) 20:58:23
キヴォトスの空には、広告用モニターを付けた飛行船が飛んでいる。
映し出されたのはクロノスジャーナリズムスクールによる放送。落ち着いた様子のキャスターが淡々と原稿を読み上げていた。
【本番組をご覧の皆様、こんにちは。ニュースクロノスの時間です】
【この放送はキヴォトス陸上大会の聖地『アスレチックスタジアム』の中継室からお送りしています】
【本日はキヴォトス大運動会――即ち、「晄輪大祭」の開催日】
【トリニティ総合学園主管の本大会は、これまでとは異例の複数スタジアムに分かれての競技となります】
【トリニティ方面での渋滞が予想されるため、おでかけの皆様および選手の皆様は余裕を持った移動を心掛けることをお勧めします】
【また、競技スタジアムが複数に分かれることから、クロノスジャーナリズムスクールの中等部から高等部にかけて複数のチャンネルより独自の放送が発信されます】
【面白い、見やすいなど、気に入ったチャンネルがございましたらチャンネルの概要欄よりチャンネル登録と高評価をお待ちしております】
【本放送および交通状況については引き続きニュースクロノスにて】
【――さて、開会式を締めくくる選手宣誓が行われるようです。現場の方へとカメラを移しましょう】
キャスターの言葉と共に映像は『アスレチックスタジアム』の檀上へと移る。
ネット上で複数ライブ配信をしているクロノスチャンネルもそうだ。各チャンネルは各々の配信の色が出るような賑やかしを行い、チャンネル登録者数がぽつりぽつりと増えていく。
そのうちのひとつが捉えたのはクロノス中等部に属する生徒二人が運営するチャンネルであった。 - 31125/07/29(火) 20:59:34
【おおっと! いま選手代表のお二人が檀上へと登りましたぁ!】
【今年の選手代表は……百鬼夜行連合学院の「七稜アヤメ」選手と、ゲヘナ学園の「空崎ヒナ」選手ですね】
【緊張状態にあるトリニティ・ゲヘナ間に対して代表選手にゲヘ――モガッ!? ムガガぁ――っ!!】
【…………ええと、シノンちゃんが実行委員会に連れていかれてしまったので私が引き継ぎます。このまま檀上にご注目ください!】
その音声と共にカメラがよりズームになって檀上に立つ二人の生徒にフォーカスが当たる。
ひとりは笑みを浮かべるように口角を上げて選手一同へと顔を向ける百鬼夜行連合学院の生徒。
もうひとりは目元にうっすらと隈を浮かべながらも無表情にマイクの位置を調整するゲヘナ学園の生徒だ。
二人が同時にマイクへ向かって声を上げた。
「選手一同を代表して宣誓します」
「選手一同を代表して宣誓する」
「「私たちは晄輪大祭に参加するものとして」」
「正々堂々、スポーツの精神に則り、ひとつひとつの競技に全力で取り組むことを誓います」
「正々堂々、スポーツの精神に則り、ひとつひとつの競技に全力で取り組むことを誓う」
つつがなく終えた選手宣誓にアスレチックスタジアム中で歓声が上がった。 - 32125/07/29(火) 21:00:48
百鬼夜行連合学院代表選手は口角を上げながら檀上を降りていき、自らの居るべき列へと並ぶと横に立つ少女が潤んだ目で笑いかけた。
「やっぱりアヤメはすごい……。私だったら絶対口ごもって何言うのか忘れちゃう……」
「…………そんなことないよ」
ゲヘナ学園代表選手は相も変わらず無表情で列へ並ぶと、隣に立つ少女が鼻息を荒くしながらひっそりと捲し立てた。
「ちゃんと委員長の活躍はカメラに納めましたから!」
「今すぐ出して。隠し撮りなんて止めて」
「ああっ!」
そして、開催式の閉幕と晄輪大祭の始まりを示すかのように、そのチャンネルでは締めの言葉が流れるのであった。
【晄輪大祭、間もなくスタートです! チャンネルはそのままで】
晄輪大祭――開幕。
----- - 33125/07/29(火) 21:45:32
「おや、ついに始まったようですね」
空に打ちあがる花火を見ながらヒマリが呟く。どうやら開会式が終わったらしい。
それに「そうだね」と頷くチヒロ。リオの車椅子を押すマルクトもどうやら興奮しているようで、初めて見るものへ頬を僅かに綻ばせていた。
「リオ、リオ。見てください。あれは神輿というものでしょうか?」
「百鬼夜行ね。応援に来ているようだわ。向こうにはそう言った風習があると聞くわね。健体康心、無病息災……そう言うものを祈ってとのことらしいわ」
「ならば私もリオが元気になるようにリオを担ぎます」
「……そうね。私が元気になれるように……」
マルクトの言葉に意味も無く意味深な雰囲気を醸し出し始めたリオにチヒロが「ちょいちょい」と手を振った。
「なんでそんなに儚げなのよ……」
「儚げ? 陽射しが眩しかっただけなのだけれど……」
「全快したら外に出ること。怪我してなくても引きこもってるんだからちゃんと外に出て自室に帰るようにして」
「今までそんなこと言わなかったじゃない。どうして急に……」
「マルクト、リオを黙らせて」
「はい」
車椅子の後ろからマルクトの手が伸びて、ああ言えばこう言うリオの口を塞いだ。
むぐぐ、と声を鳴らしながら憎らし気にチヒロを睨むリオ。チヒロは一切受け取らずに溜め息を吐いて周囲を見渡し――足りない影に気が付いた。
「あれ? コタマとアスナは?」
「おや、いませんね。盗聴器でも仕掛けにいったのでしょうか?」
「はあぁぁぁぁぁ……」
ヒマリの言葉に今日一番大きな溜め息を吐くチヒロ。
目を離せばすぐこれだ。多くの学校が参加するキヴォトス一大行事で余計なトラブルは起こして欲しくないのは当然のことであろう。 - 34125/07/29(火) 21:47:25
そんなときだった。
口を押さえられたリオがもごもごを声を上げた。
「ほっほいいはひあ?」
「ちょっといいかしら? と仰ってます」
「手を離していいよマルクト……。で、なに?」
「さっきの通報なのだけれど、嫌な予感がするのよ」
リオが言い出したのはここまで来る道中のこと。
近道のために入った路地が交差する地点にて、何故だか倒れている集団を見つけたが故に晄輪大祭運営委員会へと通報した時のことであった。
「見たところ、あれはゲヘナの誘拐犯と捕まっていたトリニティ生徒のように思えたわ。その全員が『強い電撃を浴びた』かのように痙攣していた。これは――」
「関係ない、私たちには、絶対!」
チヒロは言論を統制するかの如く捲し立てた。
「む、無差別かも知れないし、『電撃』だって色々あるでしょ? それにセフィラたちはミレニアムから離れようとしなかったんだよ? ね、ねぇマルクト?」
「はい。基本的に我々は要因が分からずともミレニアム外では何らかの不調を果たすなので『意図』がなければ出ることは無いです」
「ちょっとまっ――」
「やだ!!」
チヒロは叫んだ。リオの言葉を遮ってまで声を上げた。
「今日は休みのつもりだったよ――!? ただのんびり観光しようと思って、次の戦いに向けて羽を伸ばそうって思って――!! まだ確証は無いし誰にも見つかってないならホドが上手いことやってるってことでしょ!? じゃあ! もう! いいじゃん!!」
「チヒロ……」
狂乱の叫びをあげるチヒロに寄り添うリオ。それから口を開いた。
「誰が一番見つけやすいと思うかしら?」
「ふ、ぐぅぅぅぅ……っ!!」 - 35二次元好きの匿名さん25/07/29(火) 22:00:38
チヒロが平穏を求めて子供っぽくなってるのめっちゃ可愛い
- 36二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 00:15:25
保守
- 37二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 05:56:41
良くないんだよなぁ…
しかもこれ>>28見る限りまだ起きるんだよなぁ…
- 38二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 06:33:16
どうでもいいことだけど、シノンはこのときクロノスにいないんじゃ
原作時空で1年生だから - 39125/07/30(水) 07:40:37
- 40二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 10:45:06
リオ……
神秘が弱いから……
回復も遅い……?
会長は死んでも良いと思ってると公開されたけど、リオの神秘が弱すぎて「願い」が効きにくすぎるが故に、『自分では助けられない』と独白してるほどだから……
千年紀行の達成のためにはリオは「不要」(障害にもなり得る。これまでセフィラを捕らえられてきた理由でもあるが。)だからリオの死を見越してるってだけで……
嫌いだからとか価値が低いからとか興味がないみたいな理由で死んでも良いと思ってるわけじゃないと思うんだ……
普通に悲しんでくれると思うんだ…… - 41二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 15:38:58
むしろ曲がりなりにも理由あったのか……
- 42125/07/30(水) 22:12:31
念のため保守
- 43125/07/30(水) 23:21:53
頭を抱えるのも無理はない。
学内だけではなく企業とのやり取りも行っているチヒロはエンジニア部の中で最も多忙である。
マルクトとの出会いによりその多忙さは更に極まっている。
医務室で目が覚めてから完治するまでも研究こそ行っていなかっただけで仕事はしていた。
故に、休みを取る時は何が何でも絶対に取る。そうでなければやっていられない。
(分かってる。分かってるけどさぁ……!!)
言ってしまえば今のセフィラたちは透明化して瞬間移動しまくる迷惑極まりない守護天使だ。
それでも現実を受け入れられないチヒロは縋るようにマルクトを見た。
「ま、マルクト……? ゲブラー戦から色々変わったって言ってたでしょ? ミレニアムの外でも魂の観測と『精神干渉』は……」
「出来ません。あくまでミレニアム限定です。声を届かせるにはミレニアムにセフィラたちと一緒に戻るか、機械体に戻ってセフィラに直接触れ、その状態を維持するほかありません」
「変わらないよねぇ……!!」
内心さめざめと泣き続けてやりたい気持ちが溢れていたが、分かっている。仕方ない。やるしか、ないのだ。
「イェソド……」
「そうね。『瞬間移動』は厄介だわ」
「それからホド。後は見つけ次第。『波動制御』の透明化を一斉に解除したらトリニティで混乱が起きるから、位置情報だけ確認して手探りで探していく。マルクト、イェソドを捕まえるのに良い方法ない?」
「そうですね。イェソドは最も過保護ですので、私がピンチになれば近くに来るかと思います」
「今更だけど、過保護なセフィラって人間臭過ぎない? とはいえ、ピンチかぁ……」 - 44125/07/30(水) 23:23:27
誰かに襲わせる、というのも胸糞が悪いしイェソドが来る前に自分が我慢できないだろう。
そう思ってヒマリとリオを見ると二人は頷いた。
「当然です」
「マルクトを誰かに襲わせるのが合理的ね」
「二人とも……」
「ち、ちがっ――なんてことを言うのですかリオ!? 私は当然反対ですからねチーちゃん!?」
慌てたように手を振ってリオを睨むヒマリ。
そこでマルクトが口を挟んだ。
「でしたら、飛び降りなんて如何でしょうか?」
「飛び降り――っ!? ってそっか。ひとりで落ちる分には問題無いんだっけ?」
今のマルクトは人間体でさえなければセフィラとの接続で得られた追加機能を使うことが出来る。
ティファレトとの接続で得たのは自身にかかる重力を操作する機能。他者には使えないため極力軽装備にする必要はあるが、ゲブラーとネツァクで得た追加機能を組み合わせれば装備の切り替えも容易に行える。
「私ひとりであれば怪我もしませんが、イェソドなら恐らく心配してやってくるはずです」
「じゃあとりあえず……高い場所でも探す?」
「死に場所を探しに行くのもなんだか憂鬱ね」
「リオ、あんた……」
ノンデリオにげっそりとしながらも、チヒロたち四人はマルクトの飛び降り現場に適切そうな高い場所を探しに向かった。
----- - 45二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 01:01:43
保守
- 46二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 09:14:24
待機ですよ
- 47125/07/31(木) 09:16:56
「おやぁ? ウタハちゃん何だかグロッキーだねぇ? 大丈夫?」
会長に呼び掛けられてウタハは手元の紙面から目を離す。
目元を押さえて頭を上げると、ペンを片手に書類の内容を精査する会長の姿がある。
「いや……こんなに多くの書類を目にするのは初めてでね……」
親指の付け根をぐりぐりと揉み押しながら首を回すと、会長は「まぁねぇ?」と同意した。
「ミレニアムじゃ基本的にデータされてるからねぇ? ま、紙媒体の良さは相手の環境に依存しないってところだけど、慣れないと疲れるよねぇ~? ニヒヒッ」
「まったくさ。外の広さを実感しているよ……」
そして再び手元の紙へと視線を落とす。いまウタハが確認しているのは競技に関する備品管理の書類であった。
晄輪大祭実行委員会、事務室。
ホストと議長は既に現場へと向かっており、残っているのは会長とウタハ、それから各校の生徒会部員たちが数名。ゲヘナとトリニティの部員たちが互いに睨みを利かしているが、表立って争うことはなく妙な緊張感が続いている。
まさに一触即発。そんな中で会長は大きく伸びをすると、周囲を見渡しながら意地の悪い笑みを浮かべ始める。嫌な予感がしたウタハが「会長?」と言いかけた――次の瞬間だった。
「ゲヘナとトリニティ、今年はどっちが総合優勝取れるんだろうねぇ~?」
「「――ッ!!」」
突然投げ込まれた一言で空気が変わる。
トリニティ生がゲヘナ生を睨みつけながら叫んだ。
「そんなの――今年もトリニティに決まってますわ!!」
「なんだと!? 我ら新生ゲヘナが羽付きに負けるわけがない!!」
当然の如く始まるのは喧々囂々の口喧嘩。その中に「まぁまぁ」と割って入る会長。ウタハは即座に出入口付近まで距離を取る。 - 48125/07/31(木) 09:17:59
「いやぁ! やっぱりお互い士気が高いっていうのはいいねぇ~? でもさ、そんな君たちだからこそ分かるんじゃないかな? もしも自分たちが二位に転落したら、自分たちの尊敬する生徒会長がどれだけ落ち込むかって……」
その言葉を受けて両校の生徒たちは一瞬表情を曇らせる。そこに生まれた間隙を突くように、会長はニンマリと笑みを深めた。
「自分たちのリーダーこそ最高……そうだろう? だったら勝たないと、『何が何でも』。『みんな』で笑って『合法的に』勝てるよう……さぁ、『みんなで仲良く笑い合いながら頑張ろう』!」
両校の生徒の瞳にゆらりと熱が入った気がした。
絶対に青春などでは決してないタイプの熱意の高まりを感じた気がした。
「さ、お互い握手でもして健闘を祈ろうよ。いいかい? こうやって笑うんだ」
あまりに含みが多すぎる言葉は過ぎた毒か、あるいは薬か。
ゲヘナとトリニティ。険悪だった生徒たちは学校を越えて微笑みながら互いに握手を交わし始める。
「そうですね。ここは『仲良く』仕事に取り掛かりましょう」
「そうだな。お互い『協力』するべきだもんな」
その様子を満足げに眺めた会長は、自分の仕事を手伝っていた保安部の面々へと向き直って無言で退出を促し始めた。当然ウタハにもだ。早足でウタハの近くまで歩いて行くと、ウタハは会長に耳打ちされた。
「よし、さっさと出よう。巻き込まれたら怖いし」
「いやいや会長、あの、どうして火に油を注ぐようなこと……」
「え? いやだってじれったいだろう? 燻るよりかは健全じゃないか。それにみんな笑ってるし」
「牙を剥き出しにするタイプの笑顔だね」
そうしてウタハは会長と共に事務室を出ると、会長はさっそく自前の端末で今日のタイムスケジュールを確認し始めた。 - 49二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 16:53:01
「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」を促した?会長??
まあ、良くも悪くも全力で取り組むのは、良い青春の1ページになるだろうから、良いか。
良いか?????? - 50125/07/31(木) 23:01:01
念のため保守
- 51二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 03:35:59
会長、以前本人も自覚してない才能を発掘する能力があることも提示されてたけど、神秘に書いてあるのかな?才能の方向性。
神秘の元ネタが悪魔だったり天使だったり古い神々だったりするわけだから、それぞれの神格の権能みたいなのが割とはっきり記述されてるのかな? - 52二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 09:22:42
うーむ…
- 53125/08/01(金) 09:51:29
会長は画面にいくつか操作を加えると、それから端末をウタハに渡す。
「とりあえず今日の競技の中でゲヘナとトリニティが管轄する競技に印をつけて置いたから頭に入れてね。さっき煽ったから確実に工作されるだろうからさ」
「煽らなければ良かったんじゃないかな?」
「そうはいかないんだよねぇ……。『期待』されてたしさぁ」
「期待?」
タブレットを受け取りながら首を傾げるウタハ。
会長は辟易とした様子で肩を竦めて見せた。
「ほら、ホストも議長も事務室に着くなりすぐに部下を置いて出て行ったでしょ? 直前まで撃ち合いしてたってのに自分たちの部下を置いてさ。当然空気は最悪になるよねぇ? 僕たちはまだ残っているのに。……じゃあ、僕たちに求められているのは何かな?」
「うん……そうだね……」
ウタハは政治なんて分からない。この手の機微はヒマリやチヒロあたりが得意だろうが、ひとまず考えてみて自分なりの答えを口にしてみた。
「……やっぱり、仲裁かな?」
「30点」
「うぅん……手厳しいね」
「三分の一は当たってるって意味だよウタハちゃん」
そして会長は指を一本立てた。「仲裁」と。
「足りない二つのうちの一つは『無視』。一切関与しないって形で空気になることだよ。自分たちは何も見てませんってやつさ。それでもうひとつが『容認』かな」
「ゲヘナとトリニティの争いを認めるってことかい?」
「そう」
会長が指を二本と続き三本目を立てる。
中立的容認、つまりは『どちらにもつかないけど争いだけは認める』という立場である。 - 54125/08/01(金) 09:54:38
「晄輪大祭は進めるけど工作だとか何とかは証拠を残さないように頑張ってね、って立場かな。あと僕たちに迷惑はあんまりかけないでねって威圧も兼ねてるから、『ミレニアムそのもの』を相互確証破壊兵器の立ち位置にさせるって目論見とも言えるけどね」
「……済まない。あまりピンと来ないかな」
「はぁ……もうちょっと自覚が欲しいところかなぁウタハちゃんにはさ」
会長が溜め息を吐きながら肩を落とす。
それから言った。『ミレニアム』とは何なのかを。
「いいかい? 僕たちは『キヴォトス三大校』の一角なんだよ? 要は『ミレニアム』がゲヘナかトリニティのどちらかについた瞬間、均衡は崩れて『キヴォトス最大の連合』が生まれるってわけさ。特にキヴォトス全土における技術提供の発信源はミレニアムなんだから、僕たちが何処かに与した時点で何処かの学校目線だと無視できない脅威になるんだって。怖いねぇ、政治闘争って!」
皮肉気に口角を上げる会長であったが、ミレニアムの立場についてはウタハにもよく分かった。
トリニティとゲヘナ、三大校の二柱が敵対した時点で巻き添えを食らうようにミレニアムも面倒な立場に叩き落とされたのだ。
両校が良好であれば技術提供の根本たるミレニアムは添えるだけ。政争に巻き込まれることもなかっただろう。ウタハはそこに少々の同情を感じた。会長の『ミレニアム内での傍若無人振り』にも。
「勘違いしてそうな顔してるねウタハちゃん」
表情でも読まれたのか、会長の発した言葉に顔を上げるウタハ。
会長は溜め息を吐きながらウタハの肩を叩いた。
「面倒だとは思ったけれど、裏を返せば好き勝手やっても特に問題ないってことだよ。何せホストも議長も『わざわざ』僕たちの前で銃撃戦をやってくれるぐらいにはこっちの理解力に背中を預けていないからね。彼女たちが意図するところに気付いても良いし気付かなくても良いぐらいには僕たち無関係なんだから」
そもそも、と会長は続けた。
「仲間でも身内でもない人は赤の他人でしょ? だったらストレスなんて溜め込む方が馬鹿を見る。僕が『身内』にマウントを取り続けるのは単にそれが楽しいからさ!」
「なるほど、ロマンだね?」
「……納得されても困るんだけどなぁ?」 - 55二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 14:18:22
保守
- 56二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 22:27:25
大気
- 57二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 04:46:40
保守
- 58125/08/02(土) 08:01:00
会長は何だかしっくりこないといったように苦笑する。
遅れてウタハは気が付いて、思わず微笑んでしまう。
「チーちゃんじゃなくて悪かったね、かな?」
「いやごめんよ。実のところ僕もまだ掴めていないんだ、君たちとの距離感がねぇ? セミナー会長としての僕、起業支援家としての僕、ミレニアム生徒会長としての僕に、一人でいるときの僕。そして、君たちと関わる時の僕。一番最後の顔はまだ慣れていないんだよねぇ……」
「会計とはどうなんだい?」
「ぐっ……嫌なとこ突くなぁ~ウタハちゃんは」
困ったような顔と笑み。何故だかその姿は、会長の体躯の小ささを改めて気付かされるものだった。
「あの子はさ、本当に馬鹿なんだよ。能力だけはあったから夢を捻じ曲げて利用して何度も騙して、あの子だって騙されたって気付いているのに何でか僕を友達なんて言うんだ。都合が良すぎて笑っちゃうよねぇ?」
「…………」
ウタハは何も言わなかった。
これは会長の独白で、それに対して答える資格を持つ者はメト会計ただひとりなのだろうから。
「あー、ほら。そんなことよりタブレット。ちゃんと見て、仕事だよ」
会長の言葉に従うように渡されたタブレットを付けると、そこには晄輪大祭のタイムスケジュール。競技名の隣には丸印の中に『ゲ』の字と『ト』の字、それから『ミ』の字が書かれている。
「それぞれの競技の準備スタッフを書いておいたから覚えておいて。ゲヘナとトリニティが準備している競技は確実に何か仕込まれるだろうから要注意。一応レーンがあるようなものは全部ゲヘナもトリニティもまとめて端に追いやったけどさ」
「そこは流石にしっかりしているんだね。ちなみに両校の隣は?」
「SRT特殊学園。知ってる? 今年に開校した連邦生徒会長直下の特殊部隊養成学校。練成完了は来年になるだろうけど、ヴァルキューレからトップクラスの成績を持った生徒たちを育てているらしいから何かあっても大丈夫でしょ」
「それなら問題無いか……分かった」 - 59125/08/02(土) 08:33:26
タイムスケジュールを見ると、午前は個人競技が集中しており12時に昼休憩が挟まれるらしい。
現在午前8時。9時から各競技場で競技が始まる。
12時から13時が昼休憩で、そこから16時まで団体競技が続き、オオトリを飾るのが例年通りの学校別リレー競争――ではない。
「全校一斉フルマラソン……? えーと、確か……」
「トリニティスタジアムからアスレチックスタジアムに向かってみんなで走る『妨害前提』のマラソンだね。最終得点がゴールした生徒の順位によって割り振られるバーリトゥードデスマラソン」
「全校にとっても狙い目の最終競技だったかな?」
「自分の所属校以外全員倒してゴールすれば捲れるからねぇ? ゲヘナとかトリニティ以前に全校が色々仕込んで来るだろうさ」
ルートは伏されているものの、スタートとゴールは告知されているために全力で妨害工作が行われていることだろう。
「あ、ちなみにルートも公然の秘密だよ? 参加する全校に対してこっそり僕が教えちゃったから」
「その言い振り……生徒会長レベルというよりも草の根で広めたってことかい?」
「ご明察。面白くなりそうだろう?」
「同意だね会長。今でこそ大人しいけど、盤外戦術ならエンジニア部の得意分野。新素材開発部を前に『えげつない』と言わせしめた仕込みのノウハウが役に立ちそうだね」
部活対抗戦を思い出してふと笑うウタハ。
今でこそセフィラとの戦いに全てを費やしているが、思えばそもそも毎日研究と開発をして、資料や金銭に困れば新素材開発部を襲撃しては和気藹々と回収をしていたことを思い出す。
マルクト――いや、その前から。未来から来た後輩と出会う前の『日常』から見れば、今もなお『非日常』は続いているのかも知れない。
(そうか、随分と変わっていたんだね。私たちの『日常』は) - 60125/08/02(土) 08:55:53
晄輪大祭で賑わう通りを歩くウタハの胸中を過ぎったのは懐古の情だったのかも知れない。
ベンチに座ってパフェを食べようとする生徒や、屋台で買ったと思しき焼きとうもろこしを食べる生徒。
競技会場へ向かいながら友人たちと談笑する生徒にカメラで自撮りする生徒たち――皆が今日と言う日に浸っていた。
私たちもあの中にいたのだ。
今でこそセフィラとの戦いに身を費やしてひたすら前へと走り続けているが、ミレニアムの危機なんて知らずに歩くような速さで同じ明日が来ることを盲目的に確信しながら過ごしていた日々があったのだ。
別に悪いことでは決してない。前も、今も。
ウタハはマルクトたちとセフィラを集める今の状況を悪いこととは思っていないのだ。
確かに命の危険はあるし、この前だって死にかけた。
キヴォトスに住まうとって意識することの無かった『死』を肌身に感じた場面も増えてきた。
でも、みんな生きてる。
終わってから「大変だったね」なんて呆れ顔で笑って、次は絶対に怪我をしないよう万全を尽くすこの日々に充実感を覚えていないと言ったら嘘にはなるが……同時に一切気が抜けない日々だったのも確かだである。
良きにせよ悪しきにせよ、私たちの日々は留まることなく変わり続けている。
なればこそ、今一度何も知らなかったあの時のように『日常』の中で盤外戦術の限りを尽くす青春の日々へと回帰するのも悪くは無い。
ルールの穴を全力で突きに行く。
何せその手のハッキングを得意とする者が自分たちの部活には大勢いるのだから。
「そうだ。セフィラたちを連れて来て晄輪大祭を引っ掻きまわすのも……」
「それやったら流石に僕も見逃せないからね? ほんとに」
「ふふっ、冗談さ。いくらヒマリたちであっても流石にそんなことするわけな――」
『わ、私のパフェがぁ!! 空に! 空に!』
唐突に聞こえた声に顔を向けると、ベンチに座ってパフェを食べていた生徒の手から、パフェがゆっくりと空に向かって上昇し始めていた。 - 61125/08/02(土) 08:56:54
まるで『見えない手』が取り上げてしまったかのように、ふわふわと宙に上るパフェ。
取り返そうとぴょんぴょん飛び跳ねるも、背の小ささも相まって赤いツインテールがふりふりと揺れるだけで指先が掠ることすらない。
ウタハも会長も、思いがけない出来事に硬直し無言で空へと昇るパフェを眺めていた。
パフェに合わせて視線を上に。10階建てのビルぐらいの高さまで昇ったところでぴたりと止まり、それからレーンに乗せられたかのように等速直線な動きで何処かへと飛んでいく。
『ま、待ってぇ!! 私のパフェ~~!!』
謎の力でパフェを取り上げられた生徒が銃を担いで泣きながらパフェを追いかけていく。
その様子を、ウタハと会長は唖然とした表情で眺め続けていた。
「…………ねぇ、ウタハちゃん」
「な、何かな……?」
棘の混じった声にウタハはひたすら会長から目を背け続けるが、視線の先は空飛ぶパフェだ。『特異現象』だ。思い当たる節があるせいで冷や汗が垂れる。
「あれ、何だと思う?」
「てぃ、ティファレト……かな?」
「出ちゃってるじゃん! ミレニアムから!! セフィラが! 晄輪大祭だよ!? 連邦生徒会長も来るんだよ!?」 - 62125/08/02(土) 08:58:37
がしりとウタハの服を掴む会長。横目に伺うと会長はめちゃくちゃ焦っていた。見た事も無いぐらいに。
「なんでいま出て来ちゃうかなぁ……!! EXPOだって何とかやり過ごしたのになんでよりにもよって晄輪大祭でさぁ!! 流石にバレたら揉み消せないって他学区じゃあさぁ!!」
「か、会長……?」
「しょうがない……ウタハちゃん、『クォンタムデバイス』は持ってる?」
「いや、ラボに置いてあるけど……」
「じゃあ10分で持って来させるから捕まえるよ。チヒロちゃんたちにも連絡!」
「しかし、部室もラボもセキュリティが――」
「会計ちゃんに全部破ってもらうから! 書記ちゃんにラボの中とか全部見せるけど『エンジニア部の部長』として全部飲み込んでもらうよ?」
「う、あ、あぁ……分かった」
会長は頭をガリガリと掻きながらウタハの手から端末を奪い取って各所へ連絡を送り始める。
それからウタハに「屈んで」と命じ、言われた通りにすると会長はウタハの背中に飛び乗った。
「会長!?」
「そろそろ眠くなりそうだから移動は君に任せるよ。顔隠しておけば僕だってバレないでしょ。指示は出すからとりあえず飛んでったパフェを追って」
「運動は苦手な方なんだけどね……」
「僕よりマシだろう? ほら、走った走った!」
ウタハはジャケットを頭まで被った会長を背負って走り出す。
かくして、多くの学校が集う晄輪大祭にて隠れたセフィラを探し出すという狂乱の一日が始まった。
イェソドの確保に画策するチヒロ班。ひとまずティファレトを追うウタハ班。そして何も知らずに盗聴器を仕掛けに行ったコタマ班。
その裏で、当然何も知らないゲヘナの議長は策を練り始めていた。
煩わしいトリニティを蹴落とすための、胡乱で雑な計略を。
----- - 63二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 12:18:36
この会長も、先生と出会ってたら先生ラブ勢になってたんだろうか……
- 64二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 16:57:11
というか何してんのティファレト…
- 65125/08/02(土) 17:31:41
言われて確かにと思いましたが、会長は先生みたいな無辜の善人がぶっ刺さりそうですね……。そ、存在しないメモロビが見えてきそう……
- 66125/08/02(土) 20:34:10
晄輪大祭の只中を練り歩く八名の集団。彼女たちが進む姿を怪訝な表情で見る群衆。
それもそのはず。晄輪大祭というイベントである以上、生徒たちのほとんどが体操服を着ているのだが、物々しく銃を手に歩くその頭には服装にそぐわない軍帽。そしてその先頭を歩む生徒は体操服の上から軍服モチーフのコートを肩にかけていた。
万魔殿、議長――羽沼マコトである。
「キヒヒッ! 平凡な群衆とは言えど、やはりこのマコト様の姿を目で追わずにはいられないらしいなぁ?」
「その通りです議長!」
「カリスマが溢れてます議長!」
全肯定する万魔殿の部員に気分を良くした議長が笑みを浮かべる。
実際は珍妙な格好をした集団でしかないのだが、そんなことをわざわざ告げる部員はいなかった。
「例の計画はどうなっている?」
「はい! トリニティ側の玉入れ用のお手玉を全て爆弾にすり替えました!」
「よくやった。風紀委員長の方は?」
「はい! お弁当に入っていたツナマヨサンドイッチを全て梅干し入りのおにぎりにすり替えました!」
「上出来だ! キッキッキ……空崎ヒナの落ち込む姿が思い浮かぶよなぁ?」
選手として競技に参加しながら行う治安維持活動。
ようやく昼食にありつけたと思ったところで蓋を開ければ梅干しおにぎり。ツナマヨサンドイッチの口であるにも関わらず、だ。
「他に報告は?」
「はい! すり替えの際に風紀委員と交戦がありましたが、被害は軽傷者三名で済みました!」
「ふむ……後で見舞いに行ってやるか。他は?」
「おにぎり作りが思いのほか楽しかったです! それとヒナ風紀委員長のサンドイッチが非常に美味しかったです!」
「キキッ、食後すぐに運動するのは身体に悪いからお前は30分ほど休むといい」
「はっ!」
命令を下すとその部員は列から離れて木陰のベンチで一息吐き始める。
ついでに他の面々の顔色を見るが、体調の悪そうな者はいなかった。気力に満ちており問題ない。 - 67125/08/02(土) 20:40:43
むしろ顔色が悪いのは自分の方だろう、と議長は思う。
学区外の諜報活動と情報統制に人員を割いた結果、ゲヘナの復興業務がほぼワンオペになってしまったのだ。
おかげでまとまった睡眠を何か月も取れていない。
一時間の休憩を日に五回は取っているため合計の睡眠時間はやや少ないぐらいだが、何せ書類の精査と学園の運営には気を使う。眠っていてさえ仕事をする夢ばかりだ。こんな業務を押し付けてきた風紀委員長に行う嫌がらせぐらいしか娯楽が無い。
だが、これも三年生になるまでの辛抱だ。
今年度でゲヘナを復興させ、来年度で優秀な人材を集めて教育を施せば、再来年度には万魔殿の皆と好きに遊びながら歪なキヴォトスを手中に収める計略へと専念できるはずである。
そのためにはまず、キヴォトス三大校としてのゲヘナの格を落としてはならない。
「良いか! ゲヘナは前回の晄輪大祭ではトリニティに敗北を喫している! エデン条約などという愚策をネチネチズルズル引きずり続ける腐った監視社会の羽付き共にだ! いっそ侵略してゲヘナの分校にしてやりたいところだが、今は未だ雌伏の時……。故に、まずはこの晄輪大祭で本当のゲヘナを見せ付けてやらなくてはならない! 何をしてでもだ!」
「「はっ!」」
二年前の晄輪大祭。情報統制ついでに調べてみればこれがまぁ酷かった。
なかよしこよしで手を繋いでゴールテープを切るような間抜けさ。競争の本質を致命的に履き違えた愚かしい末路。
自らの全力を賭すことに価値があるのだ。
それを理解できなかった『彼女』に非を求めるのは難しくとも、今のゲヘナは『自由と混沌』――引っ掻き回して最後に勝つのがゲヘナであると世界に見せ付けてやらねばならない。 - 68125/08/02(土) 21:22:18
「諸君、トリニティに対して他に出来る妨害工作の案を出せ!」
「議長! トリニティの走るレーン上に地雷を敷設するのは如何でしょう?」
「採用する! 今すぐ人員を再編し作業に取り掛かれ!」
指示を受けた部員がすぐさま手元の端末から必要な工数と人員を割り出す。
しかし、その顔色が若干曇ったのを議長は見逃さなかった。
「問題か?」
「は、はい……。晄輪大祭の運営および工作班から必要人員を割り出したのですが……その、作戦遂行のための人員が足りず……」
まごまごと答える部員。そこに横から口を挟む別の部員。
「運営側の人員から補充して、抜けた穴をサツキ議員とイブキ議員に賄ってもらうのはどう?」
「だ、駄目でしょ流石に! イブキ議員に仕事をさせるなんて、せっかく晄輪大祭を楽しんでるのに!」
「じゃあ……やっぱり地雷敷設の人員を削る方が……」
「それはならん」
議長の言葉は鶴の一声だった。
全員の視線を受けて議長は静かに息を吐く。
「必要な人員を削ればボロが出る。十人必要だと試算出来たのなら、それは十人必要なのだ。下手に減らせば計略に支障が出る」
「で、ではこの案はやはり廃棄すべきで――」
「私の護衛から人員を補填できないか?」
「「――ッ!!」」
その言葉に動揺する一同。それは議長にとっても分かり切った反応だった。 - 69125/08/02(土) 21:34:22
なにせ『とにかく』襲撃される。下手に街を歩こうものなら退学処分という極刑に処した雷帝派閥がわらわら集まって来て鉛玉の雨を浴びせかけられるのも必然。じきにキヴォトスから出て行くことになるだろうが、そのせいで最後の花火と言わんばかりにめちゃくちゃ襲い掛かって来る。
いま外を出歩けているのも各学区の治安維持組織が警邏に回る『晄輪大祭』だからだ。
それでも危険なのだ。何なら風紀委員長への嫌がらせの一環で『護衛を連れずに歩く』を行うぐらいには狙われる。
「い、いけません議長! それでは簡単に拉致られてしまいます!」
「まぁヒナもいるしあいつに私を助けさせればいいだろう」
「当てにし過ぎです! それにここから人員を割くとなると議長の『お世話係長』が足りなくなります!」
「な、なにぃ……? というかなんだその役職は! いま初めて聞いたぞ!」
「晄輪大祭に向かうバスの中で話し合って決めたのです! 議長の負担を減らすべく寝食全てをお世話する係が必要だと」
「う、うぅむ……き、決めたのか。じゃ、じゃあ仕方ないな……」
むしろ負担になっているとは流石に言えなかった。
自由と混沌。自由……そう、自由であるべきだ。知らんところで勝手に妙な役職が生まれるのも自由。
そもそも風紀委員会が勝手に規則を作り始めたときも「それも自由、か」と見逃したのだから追及は出来ない。
そんなときだった。議長の脳裏に電撃が走る。
「ならば私が直接地雷を仕掛ければ良いではないか!」
議長は邪悪な笑みを浮かべた
自分だって今は万魔殿の議長ではあるが、元は情報部。
工作、諜報、改竄――現場作業の類いも別に苦手としていない。苦手なのは戦闘ぐらいだ。 - 70125/08/02(土) 21:49:22
そう思って一同を見渡すと、皆が口々に議長を讃えた。
「流石です議長!」
「どこまでもついていきます議長!」
「晄輪大祭を乗り越えたら休暇を取りましょう議長!」
「議長の業務は我々で何とかしますので一日ぐらい寝てください議長!」
皆の期待と信頼を感じて頷いた。
「ではこれより、私が手ずから羽付き共に鉄槌を下してやろう!」
「「はっ!」」
本末転倒のような倒錯劇。その先頭を歩む議長に続くは普通に議長の健康状態を心配している部員たち。
そんな一幕を外から見ていた生徒は、今しがた聞いたゲヘナの工作内容を電話で伝えた。
【その、ゲヘナが自分たちの工作活動を何故か往来の場で話していたのですが……】
「いったい何なのでしょう……ゲヘナの生徒会長は……?」
報告を受けたのは、同じく外に出てカフェテリアで紅茶を飲むティーパーティーのホストにしてフィリウス派の代表である。
ゲヘナの生徒会長、かの存在は悩みの種でしかない。
エデン条約締結直前に起こったクーデターと、それに伴う政権の混乱を横から全てかっさらった謎の人物。
どれだけ諜報員を送り込んでも、あの日何があったのかなんて完璧な情報統制によって何一つ分からず、正体を見破られた手駒たちが手紙を渡されてトリニティへ送り返される毎日である。
その手紙も「コーヒーの質が悪い。どうやらティーパーティーとは名ばかりで上品な味が分からないらしい」だの「海水混じりの紅茶を飲んで味覚が狂ったか?」だのと挑発的な文面ばかり。
対抗するようにこちらもゲヘナの諜報員を見つけ出しては「繊細な紅茶の香りをお楽しみいただけなかったようですね」などを書いた手紙を持たせて送り返しているが、ゲヘナの諜報活動は病的なまでに量が多い。ひとり見かけたら百はいると言わんばかりで流石にうんざりしていた。 - 71125/08/02(土) 21:57:08
それに――あの議長だ。
エデン条約の締結をのらりくらりと躱しながらも決して致命的な言質は取らせない屈指の政治家。
責任問題すらあやふやにし、何なら自分たちこそ被害者であると狂った論理を展開する癖に民意を保つ扇動家。
危険なんてものじゃない。何ならいまゲヘナからトリニティへと流れ込んでいる不良たちだって『学籍が無い』のだ。
ゲヘナによる侵攻だと訴えたくとも、学籍が無い以上その管轄はヴァルキューレおよび連邦生徒会。退学処分なんて極刑を下す事例がそうそう存在しないが故に発生するバグであり、あの『議長』はそれを一度に大量生産したのだ。
(狂ってます……。理解が出来ません……)
そこまでしてエデン条約を阻止したかったのか。
平和を願う和平条約も今や暴走し続けるゲヘナに首枷をつけるためのものにまで貶められた。
そんな事態を引き起こしたあの『議長』が、往来で? トリニティの妨害工作を普通に話している?
頭が痛くなる。何も考えていない愚物なら対処は楽だが、どれだけ詰めても詰め切れない狡猾さを有している。
つまるところ、ゲヘナの生徒会長が最悪たる所以は『疑心暗鬼を誘発させる』ということにあるのだ。
(本当に何も考えていないのですよね……? 私たちに聞かせることが目的では無いのですよね……?)
カフェテリアで飲む紅茶の味が感じられない。
眉間を押さえながら同席する護衛たちへと指示を飛ばした。
「とりあえず仕掛けられたお手玉の爆弾をゲヘナのものと取り換えてください。もちろん中身の精査もお願いします。それから、他の競技用具全てに改めて点検を」
「はい」
ティーパーティーの部員が連絡を送る様を見ながら、テーブルに並ぶクッキーを一口。
普段であれば香りをも楽しむ優雅な時間だが、今に限っては頭を回すための糖分補充以外の意味を為してはいない。 - 72125/08/02(土) 22:30:41
それから数分後、現場に向かわせた部員から報告が上がって来た。
【シオリ様。お手玉の中に爆弾はありましたが……その、全てでは無いです】
「はぁ……」
これだ。往来の場で「全部に仕掛けた」と言っておきながら実態が違う。
代わりに判明したのは全ての学校のお手玉がすり替えられていることと、むしろゲヘナ側のお手玉の方が爆弾の比率が高いという事実。
これがただのミスなのか、それとも何も考えずに交換していたら被害が増すという『計略』なのかが分からない。
下手に読み切ろうとすれば確実に裏を掻かれる。その上で全てを確認するなら時間も人員も奪われ続ける。ゲヘナに関わったが最後、訳も分からぬままに損しかしないという事実。
かといって現状を放置すればトリニティの治安は悪化し続ける。
病原を制圧し管理するためにはゲヘナに関わらざるを得ない。つまりは最悪の状況だ。
深い溜め息を吐きながらティーカップに口を付けると、次なる報告が上がって来た。
「あの……棒引きに使われる棒の両端に細工がされており、爆弾にされていたと連絡が……」
「ゲヘナ以外であるという可能性はありますか?」
「いえ……わざわざゲヘナの校章が印字された上にメモが挟まれておりまして、そこには『点検ごくろう!』と書いてあったと……」
「っ、はぁぁぁぁ…………!!」
ティーカップを叩き割りたい衝動に駆られて、寸で堪える。
無警戒に往来で話していた計画なんて『知られても良い表層』に過ぎなかった。だから嫌なのだ。薄汚い角付き共が。
ああいう手合いは仲間でさえも騙し切り策とやらを完遂するに違いない。
そもそもで言えば、トリニティ総合学園が生まれたきっかけである数百年前の第一回公会議にしたってゲヘナによるトリニティ侵攻があったからだ。議長が度々口にする「アリウスですら見捨てた貴様らが」というフレーズにしたってゲヘナがいなければそんなことにはならなかった。
根本的に和平なんて有り得ない両校の最初にして最後の和平条約を結べるタイミングがエデン条約だったのだ。 - 73125/08/02(土) 22:48:40
ゲヘナの前生徒会長だったらこんな事態には陥らなかった。愛を理解し善行に遵守するあの人柄。裏も表も無く善き存在であろうとする志。そんな彼女が突然『飛び級で卒業』なんて信じられなかった。確実にあの『議長』が何かをして、キヴォトスの平和を打ち崩したのだ。
ならばこちらも、ただ攻められるだけではいけない。
「皆さん、ゲヘナは私たちの脅威です。この晄輪大祭で何をしでかすつもりか分かりませんが、少なくともゲヘナに衆目が集まることは避けねばなりません」
部員たちは静かに頷いた。
公平中立を謳うクロノスだって注目を集められれば偏向報道を容易く行う。
仮にゲヘナが総合優勝を果たしてカメラが集まったその時、あの議長は何を言うのか。
いや、何を言おうが絶対にそんな事態を起こしてはならない。今年も晄輪大祭の一位はトリニティが守り切る。ゲヘナにインタビューなんてさせてはならない。
「トリニティを……ひいてはキヴォトスを守るべく、『どんな手を使ってでも』ゲヘナを叩き落とします。よろしいですね」
「「はい!」」
そして、ティーパーティーの現ホストはチェス盤を動かすように策を練り始める。
ゲヘナの混沌をトリニティの秩序によって調伏する、そのために――
――そんな状況を、よりにもよって理外の存在が見てしまっていた。 - 74125/08/02(土) 22:59:29
《重いと軽い。くるくる交換プレゼント! 当たりは重くて軽いは外れ?》
強奪したパフェと共に並走するティファレト。なんだか色鮮やかでそれを持つ皆が笑っていたから自分も近くまで引き寄せてみたのだ。
空の熱に甘露を垂らす球体。とろける茶色。甘い匂い。
それが近くにあるだけで、ティファレトは胸が弾むような気持ちになった。
《知らない色と知らない形! あなたはそう考える? ティファレトの元の人?》
疑似人格。それは命を落とした者たちからのみ得られる情報。
ティファレトの『先頭を立つ』疑似人格は幼い子供であった。千年紀行の只中で唯一生き残り、挺身の真理を得た子供の人格。
無知で無垢で、純粋で傲慢な魂。その働きを真似することでティファレトはティファレトと成る。
《ネツァク! ネツァク!》
ホドの繋いだネットワークを介してネツァクへと呼び掛けると、返事はすぐに気だるそうなネツァクの意識がティファレトへと届く。
《なにかしら?》
《重いが正解! 軽いは間違い! 全部重いに変えちゃおう!》
《…………イェソド。わたくしを運んでくださる?》
《いま行く》
短い通信を終えた後、ティファレトはパフェと共に空を飛び続ける。
先ほどから自分を追いかけ続ける『見られては行けない眼』から逃れるように。
----- - 75二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 03:14:24
保守
- 76二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 04:09:40
雷帝を善人だと思ってるのが怖い、外から見ればそうなのか…?
適当に廃棄した列車砲ですらキヴォトス崩壊クラスのモノだったのに - 77二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 04:19:45
- 78二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 05:45:59
ここ同一時空だったっけか
- 79二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 10:54:54
そうなん…?
- 80125/08/03(日) 17:18:36
車椅子に乗るリオは、路上から眼前に建つ10階建てのビルを眺める。
周囲には誰も居ない。代わりにその屋上から顔を覗かせるのはチヒロとヒマリと、それからマルクト。身投げを模したイェソドの呼び出し作戦ではあるが、マルクトなら問題ないと知っていても気が気でないのが実のところであった。
【リオ。周辺に誰も居ませんね?】
「ええ、監視カメラの類いからもここは死角。飛び降りても大騒ぎにはならないわ」
車椅子に乗っているからという理由で飛び降りる地表へと配置されたリオであったが、そもそも気にかかることがひとつあった。それは自分の身体が何故だか怪我をしやすくなっているということだ。
色々とおかしいのだ。この負傷の具合は。
ゼウスに庇わせたウタハが最も負傷が軽度で、ヒマリに庇われた自分がここまでの重症を負っている。
もっと言えば庇ったヒマリも自分よりかは軽傷である。何故ここまで差が出るのか。
(まさか……『廃墟』だったから……?)
例えばの話である。
『廃墟』は特別怪我が重症化しやすい、という可能性は無いだろうか。
武器の威力が上がると言うよりも自分たちの身体が脆くなる可能性だ。
(ヒマリはミレニアム最高の神性だと、マルクトは言っていたわね……)
会長のレポート。それからゲブラーの話した『テクスチャ』への影響力。
そこから導き出されるのは、『明星ヒマリは廃墟の中でも死に難い』ということではないだろうか。
願いの箱庭、祈りが届く『テクスチャ』。
銃で撃たれても軽傷で済むのが『テクスチャ』による影響を受けてのものであるとすれば、『廃墟』は『テクスチャによる影響力を受け辛い場所』ということも考えられる。
(神性が高いとキヴォトスという『世界』にかけられた『攻撃』に対する抵抗力を維持できる……? いえ、それだけだと足りないわ)
ゲブラーの攻撃は閉鎖環境におけるサーモバリック爆弾と同等の力を有していた。
むしろヒマリだけでなくチヒロやコタマも含めて全体的に『怪我が軽すぎる』のかも知れない。 - 81125/08/03(日) 19:04:44
ならば何故か。考えられるのはひとつである。
(千年紀行――私たちはセフィラを集める度に自分たちの『神性』による影響力が増している……?)
そうであるなら、自分の神格は何なのか。
派生して考えるなら、古代に存在した『旧人類』に近づいているとも言えるのでは無いだろうか。
だとすれば、ケテルへと臨む頃には一体自分の身体はどうなっているのだろうか。
きっと、『誰よりも死にやすい』と考えるのが合理に沿うだろう。
「…………何とか、手立てを考えないと行けなっ――ひゃあ!!」
そう呟いて顔を上げた瞬間現れたマルクトに驚いて腰を抜かす。
飛ばされてきたのだ。イェソドに。すぐさまヒマリたちが居るであろう頭上を見ると、屋上からヒマリたちがこちらを覗いていた。続いて着信。電話に出る。
【リオ、イェソドに触れることは出来ましたが……今更ながらマルクトが触れないと意味がありませんね、これ】
「た、確かにそうね……。けれども、ヒマリたちが触れたということは連続して『瞬間移動』が出来なくなっているということではないの?」
【そうですね……。とりあえず私たちも降りますので待っててください】
通話が途切れてリオは目の前のマルクトへと視線を向ける。
どうやってイェソドを捕まえるか思案しているように見えた。
「マルクト、何か手はあるかしら?」
「……思いつきません。『魂の星図』が見えないので『精神感応』による直接干渉も行えません」
マルクトの瞳が金色に染まるが、やはりミレニアムの中でないと使えないようである。
そこでふと思い浮かんだ……というより気になったのが、いまマルクトは接続で得た機能を何処まで使えるのかということだった。
尋ねてみると、マルクトはゆっくりと瞳を閉じた。 - 82125/08/03(日) 23:07:33
「周囲への探査機能……半径5メートル。視覚情報は得られますが、音については人間と同程度です」
次に手の平を下に向けると、手の平から鉄製の棒が生成される。
そのまま続けて棒から白い薔薇の花弁が生えていく。生成機能と変性機能も働いてはいるが、いずれも平時より時間がかかっている。
「重力緩和機能も問題なく……。あらかじめ棒を作っておいて飛ばされた瞬間に棒伝いに変性・接触でイェソドにアクセス……は、あまり現実的ではありません」
「……だったら、乗り移りの方はどうかしら? イェソドから得た器物操作機能は?」
「あれも一度乗り移ると再接続の類いが使えなくなるので有効ではないかと」
「違うわ。イェソドに直接乗り移るのよ」
「っ!」
マルクトが驚いたように目を見開く。
しかし、リオの見立てでは恐らく可能なはずである。セフィラの機体の制御権を奪えずとも精神の『接触』は行えると考えられた。
「マルクト、あなた……方向さえ分かれば対象が見えなくても意識を送り込むことは可能かしら?」
「……試してみる価値はあります」
もちろん試すにしてもいくつか条件がある。
まず、セフィラへ乗り移るにおいてマルクトは恐らく自身の意識の全てを送り込む必要があるだろう。
中途半端な送り方では届かない可能性があり、一度見られて失敗すれば対策される可能性がある。全力を尽くすべきなのは間違いない。
そうなると次に問題となるのが意識を送り込んで無防備になったマルクトの本体である。
ティファレトから得た重力緩和も意識的に発動させる必要があるため、自らの意識を本体から離脱させた時点で使用不可能になることは十二分にあり得る。10階の高さから無防備で落ちて……死ぬことは無いにせよ確実に怪我は負う。機械体であっても自傷紛いの負傷は流石にヒマリたちが止めるだろう。
そんなことを考えているとヒマリとチヒロの二人がビルから降りて来て合流と相成った。 - 83125/08/03(日) 23:08:52
「どうやら、何か思いついたようですねリオ」
「ええ、聞いてくれるかしら? 私の案を」
件の案を話してみると、ヒマリは「なるほど」と笑みを浮かべた。
「乗り移りを試す価値はありそうですね。チーちゃん。三階ぐらいからなら私とチーちゃんでキャッチできますよね?」
「まぁ……出来るんじゃない? 二人がかりだったら」
「では、三階から飛び降りましょう。リオ、他に注意すべき点は?」
「そうね……。ホドは監視カメラをハッキングして私たちの動向を知っている可能性が高いわ。イェソドがマルクトの保護に来たのはイェソドの独断と思うもの。ホドは私たちの声まで聞こえていない。だから飛び降りても問題ないマルクトの救助に来たと考えられると思うの」
ミレニアムの外だからこそ、恐らく他のセフィラたちも自らの機能に何らかの制約が追加されていると感じたのだ。
(だとしたら……、セフィラたちにとって『ミレニアム』とは何を意味するのかしら……)
きっとキヴォトスの一地方以上の意味が課せられている。
ミレニアム、セフィラ、そして『廃墟』――
この世界には自分たちの知らない重大な『秘密』があるのかも知れない。
『私はさ、世界の謎ってやつに興味がある』
エンジニア部結成当初、チヒロの言っていた言葉が何故だか脳裏を過ぎる。
世界の謎。恐らく私たちはそれに近づいている。恐らく知る必要の無かった重大な何かに近づいてしまっている。 - 84125/08/03(日) 23:09:57
「どうしましたかリオ?」
「いえ……その、怖気づいただけよ」
「ならいつも通りですね」
あまりにあんまりなヒマリの言葉にリオは思わず項垂れる。
が、ともかく大事なのは自分たちが『何に』向かっているのかということだろう。
リオはそう納得して、『意識』を未来へと向け続ける。
起こり得る全てを予測して、ただひたすらに『起こり得る未来』への対処を行い続ける。
(全ては『或るがままに起こる』――。それなら、起こる全ては予測不能などではない)
カチリ、と時計の針が傾ぐような音が聞こえた気がした。
それは時計仕掛けのように、決まった道筋のみを辿る音――より深い根源から何かが聞こえたような気がした。
「試しましょう? マルクトの、その機能を」
新たなる可能性を見出すために、リオたちは次なるイェソドの捕獲計画へと移っていくのであった。
----- - 85二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 03:39:20
保守
- 86二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 09:11:31
捕獲計画進行中…
- 87二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 17:04:01
待機ー
- 88125/08/04(月) 22:56:11
念のため保守
- 89125/08/04(月) 23:42:49
特異現象捜査部の面々がセフィラ回収に向けて奔走する中、そんなことに全く気が付いていない者がいた。
トリニティ総合学園の中を堂々たる振る舞いで歩く二人のシスター……いや、偽シスターの二人組。コタマとアスナの問題児コンビである。
「それにしてもアスナさん……よくシスター服なんて見つけましたね」
「なんか置いてあったよ! どう? どう?」
「ふっふっふ……流石です。おかげで大聖堂にも潜入できました」
ほくそ笑むコタマ。わざわざこんなところまで来た理由なんてひとつだけ。即ち盗聴器の設置。
普段は人目に付くようなことの全般が苦手なコタマも、仕掛ける手口は大胆そのものである。
コタマの『耳』とアスナの『勘』、二つ合わさればもはや潜入できない場所は無い。
そうして一仕事終えて大聖堂から脱出し、物陰に隠れてシスター服を脱ぎ捨てる。もちろん服にも工作を済ませる。裏地にピンで留めたのはゲヘナのブラックマーケットで流通している小型の盗聴器。トリニティとゲヘナの仲が悪いと聞いていたためミレニアムが疑われることは多少なりとも避けられるだろう。
「あとはトリニティの校舎内ですが……流石に下調べ無しでは難しいですね。今回は諦めましょう」
「それじゃ次はどこ行くの? 潜入なんて初めて! ワクワクするよね!」
「アスナさんも何かやりたいことはありますか? せっかく手伝ってもらいましたし、私も何か手伝いますよ?」
「うーん……そろそろ身体を思いっきり動かしたいかなー」
「せ、戦闘は駄目ですよ? 闇討ちならともかく、アスナさんがしたいのは正面戦闘ですよね……?」
ネルにも迷惑がかかる、と伝えるとアスナは思いのほか素直に頷く。
どうにもアスナは野性的な面が濃く見える。ゴールデンレトリバーがそのまま人になったような、人懐っこい大型犬。主人と認めた者への愛情と献身。内側から溢れて持て余しているエネルギーの発散先さえ見つけてやればアスナを御せるとコタマは考えていた。
(そろそろ発散先を見つけないと暴走しそうですね……。なんだか先ほどからうずうずしちゃってますし……)
学園の敷地内から速やかに脱出して大通りに戻りながら考えていると、ふと、良い案が浮かんで声を上げた。 - 90二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 02:24:51
保守
- 91二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 08:00:40
コタマの思いついた良い案とは
- 92125/08/05(火) 09:43:14
「そうです。アスナさん、晄輪大祭の選手として出場するのは如何でしょう?」
「個人競技だもんね!」
「え、あ、はい。ミレニアム生の大半は殆ど嫌々参加してますし個人競技なら代われると思いますよ」
少々戸惑いながらも頷くコタマ。
アスナと話していると時折会話が飛ぶのだ。本来間に入るはずの言葉のラリーをスキップするような、妙な感覚。
「ちょうど選手っぽい生徒が居たので聞いてみましょうか? こっちです」
道中で聞こえた音を思い出しながら進む先は競技会場付近の休憩スペース。
大聖堂へ向かう時にちょうど見かけた――というより『耳かけた』というか、とにかくいつもの癖で盗み聞いたのは、絶望的な表情を浮かべて選手になったことを後悔していた生徒と、それを懸命に励ます生徒の二人組。晄輪大祭に対するミレニアム生の苦悶を代表するようで記憶に残っていた。
「やはりまだ居ましたね。あの方なら代わってくれますよ」
「行ってくる!」
走り出すアスナを見送ってコタマは満足そうに頷いた。
ただ頼む・聞くだけと言ったところで盗聴に関係ないものなら荷が重い。趣味に狂っているから人間皆がジャガイモに見えているだけで、盗聴と関係の無い時は億劫で苦手のまま。アスナの人柄なら問題なく事が済むだろう。
そう思ってアスナから距離を置く。
何だかんだと言っても晄輪大祭。出ている屋台も山海経や百鬼夜行といった普段目にしない食の数々。あんかけ焼きそばや焼き饅頭、ミレニアムの食文化には無いものばかり。
コタマはアスナの分の焼き饅頭も買いながら、紙袋で渡されたそれをひとつ摘まんで口に含む。
口にしたのは小豆餡の入った『おやつ』ではなく、昼食として食べられる野菜餡をベースにしたものである。
「たまには良いかも知れませんね。外に出るのも」
例えるならチョコバナナクレープしか食べた事のなかった頃に初めて口にする総菜クレープと言ったところか。
悪くない。むしろ良い。普段頼むかと言えば頼まないが、こうした機会に恵まれた時こそ食べる物の意外性や否や。また一つ世界が広がったような気がする。 - 93125/08/05(火) 09:44:35
そんな饅頭がたくさん入った紙袋を抱えながらアスナの元へ向かうと、泣いて喜ぶ二人の生徒と嬉しそうにこちらを見るアスナの姿はそこにはあった。
――何故でしょうか。嫌な予感がします。
「ねぇねぇコタマ! 頑張ろうね!」
「……はい?」
――頑張ろうね? 何を? 私が?
ざわめく心臓の音が聞こえる。何か致命的なものを間違えた『音』が聞こえる。
アスナと話していた生徒『二人』は、救世主でも見たかのような目でこちらを見て頭を下げた。
「本当にありがとう! あんな競技、ただの生贄だし!」
「もう罰ゲームだよねあれ! 代わってくれるなら喜んで!」
どうして、『二人』が感謝を自分たちに伝えるのだろうか。
選手は『一人』なのだから、『二人』がさも自分のことのように喜ぶなんておかしい。
そんな疑問の答えは、アスナの口からいともたやすく吐き出された。
「代わってくれたよ! 『二人三脚障害物競争』の参加権!!」
「……はい?」
「……はい?」
レーンの上。アスナと足を結んだ状態で立っている自分に気が付いた。
(ににん、さんきゃく……しょうがいぶつ、きょうそう……?) - 94125/08/05(火) 09:45:47
――それは……なんですか?
何故『二人三脚』という障害に『障害物競走』を重ねているのか分からない。
(そもそも、二人競技? だから私も参加させられてるんですか?)
一之瀬アスナを御しきれる。それがそもそもの間違いだった。
アスナは放っておいて良いものでは決してない。好きに利用できるものでは決してないのだ。
レーンの先に見えるのは『まず』まきびし。ただでさえ転びかねない二人三脚でまきびしを撒くとは殺意が高かすぎる。
そして網。その先には回転する丸太やら何やら。難関たるキヴォトスニンジャアスリートを模したステージを模った訳の分からないステージが眼前の先へと続いている。
「頑張ろうねコタマ! 私たちで一位を取ろうよ!」
「いや、あの、え? なんですこの暗黒金持ちが主催したデスゲームみたいな競技は?」
首を傾げるコタマ。そこで流れるクロノスの音声。
【さぁ! 始まりました『二人三脚障害物競争』! ゴール出来るわけが無いで有名な、極めて平等な競技です!】
「平等以前に競技として成立するかを考えてくれませんか!?」
【ブックメーカーによる予想も出てます! オッズはミレニアムが最高! 有望株は今年新設のSRT! 次いでトリニティ! どんでん返しは起こるのかぁ!!】
「競走馬か何かですか私たちは!!」
コタマが叫ぶが時すでに遅し。
レースの開始を告げるスターターも何故か手には単発式の空砲では無くサブマシンガンを空に向けて構えており、いよいよ以て頭がどうかしてしまっているとしか思えない。 - 95125/08/05(火) 09:47:25
「いちについてー」
「他の参加者の顔ちゃんと見てますか!? 今にも死にそうな顔してますよアスナさん以外!!」
「よーい」
「いやちょ、まっ――」
「どん!」
ズダダダ、と撃ち鳴らされる銃声。凄まじい勢いで引っ張られる足。空が見えた。
「アスナ、いっくよー!」
「とまっ、とまれぇぇぇ!!」
市中引き回しの如く引きずられるコタマと、それを一切省みることなくまきびし地帯へと突っ込んでいくアスナ。その後ズタボロになったコタマと満足げに笑うアスナがカメラに映し出されるが、それはもう少し先の話である。
《なるほどね。生贄、挺身……この祭りはそういうものなのね》
そして、この惨事を見て悪い学習をしてしまった者がいた。ゲブラーである。 - 96二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 11:32:04
まっずい
- 97二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 13:42:23
更なる番外編として、偽りの楽園を焼き尽くした地獄の解放者、もとい知名度皆無な天下無敵のゲヘナのリーダー、羽沼マコト議長を描きました
姿としては三年生時とほぼ変わりませんが、雷帝を討ったあの日とその後のハチャメチャ議長、異なる二面性を重ねたデザインにしています
新たなる地獄を象徴する衣、あるいは連日の襲撃と自業自得でいくら直してもズタボロな制服
業火に抱かれてなお焼け残った白銀の髪、あるいはイブキの美容師さんごっこの尊い犠牲となったまばらなマコトヘアー
そして背には、仲間と共に勝ち取った自由と混沌の証を
- 98二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 13:44:32
- 99二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 14:22:23
まさかの雷帝を討てのFA
- 100125/08/05(火) 17:53:40
- 101125/08/05(火) 22:31:15
《戦い、闘争、試合……。力を起源とする祭儀は音を起源とする祭儀に次いで根源に近いんだから、そりゃまぁどんな『テクスチャ』であっても存在するよね》
この『テクスチャ』に現存する人類の耐久力は既に預言者たちから学習済みである。
殺傷兵器が殺傷に至らない。だからこそ殺し合いの用途では使われず、こうした祭りに使用されるのだろう。
先ほどから競技場の駐車スペースからドローンと受信機を生成して周囲の観察に務めているが、何処もかしこも爆発音や銃声が聞こえて来る。つまりはそういうことだろう。
《大きな音を打ち鳴らして戦う太古の祭儀の再現。それならあたしも手伝ってあげるか!》
ゲブラーは駐車スペースから走り出す。ホドによる偽装のおかげで誰が見ても小型トラックにしか見えず聞こえず、誰も不審には思わない。
公道に出て競技場の近くを通る度に、ゲブラーは片端から武器や爆弾を競技場の中へと生み出し続ける。
マシンガン、ガトリング、大砲爆弾火炎放射器各種様々。山のように積んでおけば必要な誰かが使うだろう。
しばらく銃火器をばら撒いていると、空中のドローンが妙な光景を捉えた。
埋められた地雷を掘り返して、すぐ脇の地面に埋め直していたのだ。
《地雷が足りないってこと? ま、あたしが足してあげればそれでいいでしょ!》
件の競技場に近付く頃には作業していた現存人類は立ち去っていたため、ゲブラーは直接地雷を埋設することにした。それはもうありったけに。
もちろん爆発の威力は抑えている。
直接命を捧げるような祭儀で無いことは分かっていたため、何メートルか吹っ飛ぶ程度に火力は低めで。 - 102125/08/05(火) 22:32:45
《よし、他にも足りなさそうな場所があったら分けてやろう! せっかくの『異界』なんだし、好きにやるなら今だけでしょ!》
そうしてゲブラーは再び走り始めた。
セフィラとは――本質的に『この』キヴォトスに混乱をもたらす存在である。
それはキヴォトスが多くの世界を同時に内包するが故に機能不全。『ミレニアム』の外に別の世界が存在するという『異常』。
『ミレニアム』をルーツとするセフィラたちだからこそ、『ミレニアム』の中では時に儀式、時に課題、時に試練としての役割を担うセフィラたちもタガが外れてしまう。
(まぁ、流石に殺人だとかそういう禁忌に触れることは『出来ない』んだけどさ……。『強硬策』を取られる前に対処可能って実績は残しておかないとさぁ?)
タクシーの中で若干強まった眠気に抗いながら、会長は『クォンタムデバイス』の調整を行い続けていた。
セフィラがトリニティに大挙して何か色々としでかしている――冗談みたいな状況だが冗談ではない。
どうしてこんな異常行動を示しているのかなんてすぐに分かった。
マルクトの死だ。それも『器』だけではない。存在を構築する『名前』『器』『意識』のうちの二つを消滅させられた。
特に『意識』だ。滅ぼす手段は『自分』ですら分からない。
最も破壊しやすい『器』はともかく、客観性と言う防護機能に守られた『名前』までなら破壊する手段を知っている。
けれども『意識』の破壊? それは自分の知らないケテルを除いた全てのセフィラでは決して行うことが出来ない。
だからこそ警戒する。セフィラにかけられた『呪い』の解呪を行わずして直接根底から破壊する『本当の死』を。
(晄輪大祭が終わったら……話をしようか、『連邦生徒会長』――!)
「確かめたいことがある、とのことです。連邦生徒会長」
「…………ミレニアムの生徒会長さん、かぁ」 - 103125/08/05(火) 22:34:13
連邦生徒会長のための個人車両、いつもと同じ運転手であったはずなのに語り出したその内容はまるで別人。
ミレニアムの生徒会長――かの存在の正体は連邦生徒会長ですらも分からない。
ひとつ言えることは、いまこの車両を運転している運転手は全く同じ姿かたちで中身に異物が混ざっているということか。
あの『会長』に聞きたいことは沢山あった。
どうして『憶えている』のか。もしくは『識っている』のか。
何をどうやって『存在のすり替え』を行っているのか。明らかにおかしい。セミナーの『会長』は。
「ひとつだけ良いかな? 会長さんに伝えて欲しいの」
「伺いましょう」
「もしも誰かが死んじゃうようなことがあったら、私は『無理やり』なんとかするよ? 晄輪大祭が終わるまでに解決してね。無理だったら『私』……頑張るから」
「…………差し出がましいことではありますが」
『名も無き』運転手は口を開いた。
「悲しいものですね。だってあなた、『一回目』でしょう?」 - 104125/08/05(火) 22:35:15
「――っ!」
「ああ、ご安心下さい。流石に私の空想までは報告しません。ただちょっと、『私は』SFが好きだっただけです。きっかけあっての当て推量。――っと、話し過ぎるのもよくありませんね。例えあなたが『一回目』と並行して数を重ねていたとしてもこの世界に住む方々にとっては『一回目』しか無いのです」
何も、言えなかった。
察しが良ければ気付いてしまう。それほどまでに自分の態度は明らかだったらしい。
それは苦痛だ。知らなくても良いことを知ってしまうことは、どうしようも出来ない現実を知ってしまうのは苦痛でしかない。
だから――今まで何度言ったか分からぬ言葉を口にした。
「…………私の、ミスでした」
世界は苦痛に満ちている。
それを癒すために、正すために、『私』は先へと進み続けなければならない。
晄輪大祭。午前の部。現在時刻は11時30分。
もうじき最後の個人競技が始まる時刻であった。
----- - 105二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 06:59:03
この連邦生徒会長もミスしてるの…