- 1◆GiMcqKsVbQ22/04/15(金) 20:49:28
晴れの日には日向ぼっこ。晴れの日は私のお気に入りの日。暖かいから。
「ミーク、日向ぼっこかな?」
そう声をかけてくるのはアプリトレーナーさん。私の担当トレーナー、桐生院トレーナーと仲が良く互いに切磋琢磨しあってるトレーナーさん……らしい。
「はい……暖かいです」
私は何を考えているかわからないとよく言われるけれども、彼はそんな私の考えをいとも容易く把握してくれる。
「今日はこれから寒くなるらしいから場所を移したほうがいいかもしれない」
「はい。ありがとうございます」
そう言われて立ち上がると日に当たりすぎて少しのぼせていたのかバランスを崩してしまう。
「おっと、危ない」
前に倒れかけた私を、トレーナーさんが受け止めてくれる。おかげで地面にファーストキスを奪われずに済んだ。 - 2◆GiMcqKsVbQ22/04/15(金) 20:50:08
「大丈夫?」
受け止められる際に抱き締められるような形になってしまったので、自然と相手の身体つきがわかってしまう。強張った筋肉、太い腕、厚い胸板。どれも私のような女には縁遠いもの。
「……ミーク?」
外でなんらかの作業をしていたのだろうか、男性特有の汗の匂いが逞しい筋肉に造られた高い体温で揮発しているからなのか、鼻の奥を刺すように広がる。
トレーナーの甘い匂いとは違う塩っぽい感じ。理科の実験でやったアンモニアがこんな匂いだったかも。けど、なんだか癖になって……。
そのあと調子が悪いことを疑われて寮まで送り届けてもらった。トレーナーから体調を伺う電話が入ったけど「大丈夫です……むんっ」と返しておいた。 - 3◆GiMcqKsVbQ22/04/15(金) 20:50:48
あの日からあのことが頭から離れない。あの匂い、あの体温、あの身体……。
「……ーク…………ミーク!」
「は、はい」
トレーナーが心配そうに私の顔を見上げている。少しぼーっとしすぎたかもしれない。反省。
「ミーク、大丈夫ですか?体調が戻ってないなら無理をしなくても……」
「体調が悪いわけじゃ……ないです………」
以前トレーナーさんに思っていること、考えていることはどんどん伝えるといいと言われたことを思い出す。なので今の状態をトレーナーに伝えることにした。
「───ということが、ありました。それからなんだか、匂いや体温が頭から離れなくて………」
「なるほど………ちょっと待ってください」
トレーナーがカバンから「ウマ娘の気持ち」と言う本を出す。それらしいページを捲り、読み進めている。 - 4◆GiMcqKsVbQ22/04/15(金) 20:51:52
「ありました!ウマ娘は外部からの刺激に敏感に反応してしまうことがあるため、注意が必要と書いています!」
「汗の成分はほとんど尿と同じ、凝縮すればつん裂くような刺激臭に変わります。私たちが平気に思うものでもストレスになったり体調を崩す原因になるようですね」
でも、あれは……
「嫌な感じでは、なかったです…………」
「ふむ。それではえーっと、こっちですかね?異性の汗にはフェロモンが含まれていて、ウマ娘には人間にはない「副嗅球」というフェロモンを受容する器官によりにより男性の放つ性フェロモンを受容することがある、とのことです」
「それにより体内のホルモンバランスが崩れてしまい体調に異変をきたすことがある、とのことです。やはり少し休んだ方が良さそうですね」
フェロモン、漫画なんかで見たことがある。動物がメロメロになってるようなシーンだったような気がする。この変な感覚はフェロモンのせいなのだろうか。私の中にどこかそんなもので片付けたくない自分がいた。 - 5◆GiMcqKsVbQ22/04/15(金) 20:52:51
「なるほど。桐生院トレーナーの言うことも一理ありますね」
私が相談を持ちかけた相手はゼンノロブロイ、図書委員であり知識が豊富な娘。なんだかシンパシーを感じる気がするから話しやすい。
「しかし世の中にはこんな説があります。相性の良い異性の体臭はいい匂いに感じてしまうものだと。身内の異性の匂いに嫌悪を感じるのは近親交配をさせないためだとか。これがフェロモンによるものだとしたら納得がいきますね」
彼女は難しい話をペラペラと話していく。一度話し出すと止まらないのでこのまま聞くのがベスト。
「つまり、相手の男性を異性として魅力的に思っているから良い匂いだと思ったわけです」
「……………………っ!?!?」
寝耳に水とはこのことだろうか。とんでもないことを聞かされた気がする。いや、聞かされた。絶対聞かされた。 - 6◆GiMcqKsVbQ22/04/15(金) 20:53:27
「私もトレーナーさんのは…………と、ともかく!俗っぽくいうと恋の症状だと思いますよ。特定の相手のことばかりを意識してしまって他のことが手につかなくなる、というのは」
どんどん危険な言葉が私の中に入ってくる。頭や心臓が沸騰しそうなくらいに熱くなっていく。そろそろお湯が沸かせそうだ。やかんを取りに行こう。
「あれ?ミークさん?どこにいくんですか?」
「やかんを取りに行こうかと………」
「……喉でも乾いたんですか?」
確かに、今ならやかんの水を一気飲みできる気がする。なのでやってみたらできてしまったけど代償に午後の授業中ずっと襲い来る尿意と戦うことになったのは内緒。 - 7◆GiMcqKsVbQ22/04/15(金) 20:54:09
とんでもないことを聞かされた日の放課後、尿意も収まったのでいつも通りに日向ぼっこ。ライブの練習で汗をかいた身体に風が当たって心地いい。
「…………?」
なんだか、周囲が暗くなってきている。気がつくと日は傾いていて、時計の針は円を縦に2分割していた。
「あれ、何か掛かってる……?」
身に覚えのないジャージ。隣には寝息を立てる男性。気温が下がってきて風が吹き付ける今の時間だとこの半袖は寒そうだ。
「…………………アプリトレーナー、さん?」
そうして自分に掛かっているものの正体に気がついた。眠りこけてしまった私が風邪を引かないように彼が自分のジャージを掛けてくれていたのである。その証拠に以前感じたものと同じ匂いが鼻の奥を刺激している。
「………起こさず、待っててくれたんだ」
私はゆっくりしたものが好き。ゆっくりと流れる時間も好き。ぼーっとしてるのも心地いい。そんな私に配慮してくれたのか、彼は無理に起こすことなく大人としての役割を全うした。
「…………だらしない顔」
普段からあまりキリッとしている感じではなく、どちらかというと優しげな印象がある顔。しかし担当ウマ娘のレースを見ている時の真剣な顔は今の表情とはかけ離れた鋭い目つきだったことを覚えている。
「………風邪、引いちゃいますよ」
声をかけてみるも反応なし。つまりしっかり寝ている。今なら何をしてもバレない。彼の身体に顔を近づけ、あの日の匂いをもう一度─── - 8◆GiMcqKsVbQ22/04/15(金) 20:55:21
「ミークーーー!もう夕方ですよー!!」
遠くからトレーナーの声が聞こえて思わず仰け反る。そのときの振動がベンチ越しに伝わったのだろうか、彼の瞼が開く。
「ん………あっ、しまった!もうこんな時間か!っと、ミークも起きてたか。それじゃあ!」
そう言うと彼は早足で駆けていってしまった。
「やべー!今日先輩と飲みの日なのに!初手大盛り焼きそばはもう勘弁だー!」
大きな声で何か情けないことを叫んでいた。ああいうところもあるんだ。いつもかっこいいところしか見ることがないから新鮮な気分。
「ミーク!起きましたか!アプリトレーナーさんが見ててくれるとは聞きましたが、もう、あの人まで寝てしまっていたなんて」
どうやらトレーナーたちが眠っている私を発見したけどもトレーナーは報告の資料を作るため見ていることができなかった、だからトレーナーさんが見守っていてくれたらしい。律儀な人、というのは知っていたから言うまでもない。 - 9◆GiMcqKsVbQ22/04/15(金) 20:56:05
- 10◆GiMcqKsVbQ22/04/15(金) 20:58:20
- 11◆GiMcqKsVbQ22/04/15(金) 20:59:11
過去作まとめはここに
【SSまとめ】主にライスとロブロイ、あとハルウララとかかな?|あにまん掲示板2スレ目も埋まりそうなので3スレ目に移行https://bbs.animanch.com/board/313847/https://bbs.animanch.com/board/410500/もはやラ…bbs.animanch.com前のミーク
【SS】アプリトレーナーさん・・・・・・あの・・・・・・|あにまん掲示板ミーク「今日は暇だったり・・・・・・しますか・・・・・・?」トレーナー「うん?今日は担当とのトレーニングもないし別段急いで出すような書類もないから予定は空いてるね」ミーク「だったらえっと・・・・・・カ…bbs.animanch.com - 12二次元好きの匿名さん22/04/15(金) 23:18:57
見事やな…
- 13二次元好きの匿名さん22/04/15(金) 23:46:44
貴重なミークSSたすかる
- 14二次元好きの匿名さん22/04/16(土) 10:22:53
微力ながら私も支援させていただく