【cp閲覧注意】最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった#1

  • 1練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:20:48

    ●注意点1
    ・原作最終話、No.431の後日談です。このため本作は、原作に継続するナンバリングで記載します。(第一話がNo.432、第二話がNo.433、と進みます)
    ・原作コミック最終巻までのネタバレが含まれます、ご注意ください。
    ・御趣向の合わない方は、閲覧をご遠慮いただくことでご自愛ください。
    ・作者は2025年5月にアニメを見始めてヒロアカを知った超新規のクソニワカです。コミック最終巻を読了しましたが、ファンブックやその他媒体は目を通せておりません。このため原作設定との乖離が予想されます。世界線が違うとご解釈ください。

  • 2練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:22:47

    ●注意点2
    ・作者は作家でもなければ普段から本も読まないクソ雑魚パンピーです。読み終わったときの感動を原動力に、勢いだけで書いています。表現の稚拙さはご容赦ください。
    ・一部オリキャラが登場します。大した役ではありませんが念のためご注意ください。
    ・生成AIは一切使っていません。良くも悪くも人間が書いたものとご了承ください。
    ・誰が喋ってるか分からないセリフにつきましては、読まれた方のご判断にお任せいたします。
    ・全部書き終わっているので、傷病等なければ失踪はしません。たぶん。

  • 3練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:24:59

    ●注意点3
    ・コメントは自由です。どのタイミングでも、どうぞ忌憚のないご意見、ご感想をお寄せください。
    ・どう考えても1スレでは終わりません。190を超えたら新スレを建ててURL掲載させていただきます。
    ・このような場所で皆様と交流させていただく事自体が初めての事です。暗黙のルールを逸脱する等、至らぬ点が多々あるかと存じます。都度ご指摘いただければと存じます。
    ・一人でも多く、出茶推しがこの世に増えることを願っております。
    ・閲覧は自己責任でお願いします。糖尿病になろうと頭を撃ち抜きたくなろうと作者をぶん殴りたくなろうと、どうなろうと一切責任は持ちません。


    夜間や日中は投稿できませんので、その間は保守のご協力を賜りたく、どうかよろしくお願いします。
    いっしょけんめい かきました。

  • 4練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:27:33

    ◾️No.432 相談事

    ※SIDE 飯田


    雄英の応接室。
    懐かしい母校の雰囲気を楽しみつつ、旧友である緑谷君と共に仕出し弁当をつついていた。
    「飯田君、今日は本当にありがとう」
    「なに、お安い御用さ。いつでも呼んでくれ」
    今日は雄英の学生に対して実技指導を行うため、授業協力に来ていた。
    昼食は久しぶりに母校の学食を嗜みたい気持ちもあったが、プロヒーローがいると質問攻めにされやすい。
    満足に食事が取れないことも度々ある。それを慮っての仕出し弁当だろう。

  • 5二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 19:28:05

    期待

  • 6練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:31:32

    「先日の祝賀会から一カ月ほどか。雄英での君に会えて嬉しい」
    率直な気持ちだ。
    仕事で雄英を訪問させてもらう機会は久しぶりで、新鮮な気持ちだった。
    後輩達の元気な姿を見て、自分も活力を貰ったように感じる。

    轟君のチャート2位をお祝いした祝賀会が、つい先日のことのようだ。
    食事をしながら、他愛のない話が続く。
    お互いに話題は尽きない。仕事のこと。生活のこと。最近のヒーロー界隈のこと。

    そんな、ありふれた話をしていたときだった。

  • 7練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:33:29

    「ああそうだ……あの……実は飯田君に、ちょっと相談したいことがあって……」
    頬をかきながら、どこか照れくさそうにしている。
    彼がこんなことを言い出すのは珍しい。
    「なんだ? 遠慮はいらない。緑谷君の頼みなら、僕は何でも聞くぞ」
    「頼み……というか、相談というか……」
    あはは、と乾いた笑いを零しながら、なかなか本題が出てこない。

  • 8練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:35:49

    「僕でよければ、どんな相談でも聞こう。だが話したくないなら、話さなくても構わない。緑谷君の話したいタイミングで構わないさ」
    任せてくれ、と胸を張る。無用な詮索もしない。
    緑谷君の力になりたいのは、偽らざる本心だった。
    「えっと……この間、祝賀会あったよね。ほとんど同窓会だったけど。轟君のお祝いした」
    「ああ。久々に皆に会えて、とても楽しかった」

    「それで、その……お開きになった、あの後なんだけど……」
    緑谷君の顔がどんどん真っ赤に染まっていく。
    「その……麗日さんと……二次会に、行きまして……」
    「そうだったのか? 知らなかった」

  • 9練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:36:52

    「あ、あああのあの! ごめんね、飯田君も誘えば良かったかもしれないんだけど、でもタイミングが悪かったというか、今更みんなを呼び戻すのは憚られたというか。あの日僕全然麗日さんとは話せてなかったから、少しくらい話ておきたいなって思って、ほんとちょっとでよかったんだけど! あの、決して皆を忘れてたわけでもなくって、飯田君も居てくれて全然良かったんだけど、その、ごめんね! ちょっと話に夢中になってたら、もう改めて呼ぶ時間でもなくって、悪いなって思ってたんだけど! でも久々に麗日さんと話してたら、時間がすぐ経っちゃって、気が付いたらもう終電間際で、ええっと、ほんとごめんね!?」
    両手をわたわたとさせながら、必死に説明してくれる。
    なんだか微笑ましい気持ちになった。

  • 10練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:38:41

    「僕のことは構わない。今日も話せているし、全然気にしないでくれ」
    「あ、ありがとう……でもやっぱり、ごめんね」
    手元のお茶に手を伸ばし、一口飲む。
    緑谷君も同様にお茶を啜り、一息ついた。
    少しは落ち着いてくれただろうか。

    「それで、相談というのは?」
    「その……えっと……あの日、祝賀会の前に、かっちゃんに言われたんだけど。みんな特別は、誰も特別じゃない、って」
    「ああ、それはそうだな」
    爆轟君は口調こそ悪いが、よく人を見ているし、芯をとらえた発言をする事がある。

    「それで、なんかあの日、ずっとそれが残ってて。僕にとって、元A組のみんなは、本当にみんな特別なんだけど。でも、かっちゃんの言う事も一理あるかな、って思ったときに、僕ってA組の誰も特別じゃないのかな、とか考えちゃって……」
    もじもじとしながら、俯いて言葉を続ける。
    教員というより少年のようだ。あの頃と同じように。

  • 11練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:40:16

    「それで、その……僕にとって、一番特別なのって、誰なのかな、って思ったら、その……」
    茹蛸のように赤くなった旧友は、蚊の鳴くような小さな声で続けた。
    「……麗日さん、が……一番、特別なのかな……って、思って……」
    彼はこちらを見ていない。ずっと俯いている。
    誰の顔も見れないほど恥ずかしいのだと、愚鈍な自分でも分かる。
    勇気を振り絞って話してくれたのだ。

    「そうか。君は麗日君が……」
    在学中から、もしかして、という気はしていた。二人はとても親しかったから。
    きっと他の皆も薄々感付いていただろう。
    だが、人の恋路に踏み込むのは無粋な気がして、自分からは触れなかった。

  • 12練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:41:17

    「いいことじゃないか。もし君たち二人が結ばれたなら、僕は友人として、心から喜ばしい」
    「そ、そう……?」
    「ああ、もちろんだ」
    偽りのない本心だった。
    自分から見てもお似合いの二人。

    もし二人が交際を始め、うまくいけば。
    いずれ結婚式が挙行されるのではなかろうか。
    そうなれば、何としても参列させてもらいたいと思う。
    仕事の予定を調整し、急なヴィラン犯罪でキャンセルする事の無いよう、サイドキックやチームアップを検討し、万全の準備を整えなければ。

  • 13練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:42:36

    服装も大事だ。二人の門出に相応しいよう、一番いい礼服を買おう。
    ネクタイや靴も最高の物を揃えねばならない。
    いや待て、結婚式であれば、誰よりも新郎を立てる必要がある。
    あまり気合を入れ過ぎて、過度に目立ってはいけない、程度が大事だろう。
    買う時は店員さんによく相談しなければ。

    披露宴はどのような形式になるだろうか。
    許されるなら参列者の方々に、新郎新婦の紹介をする機会をもらえないだろうか。
    二人がどれだけ素晴らしい人間か、親友として伝えずにはいられない。
    スピーチの他に、余興も必要だろう。
    どのようなものがいいだろうか。
    最後には元A組の皆と、緑谷君を胴上げしてあげたい。

  • 14練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:44:39

    ……と、そこまで考えたところで、気が早すぎる事に気付いた。
    二人はまだ付き合ってもいないんだ。
    まだまだ先の話だ、いま考えても仕方ない。

    それでも、想像するだけで、とても楽しく、幸福な気持ちになる。
    もし実現すれば、それはもう、自分にとっても最高の一日になるだろう。

    「いい事じゃないか、恥ずかしがることはない。応援するよ」
    爆豪君も実にいいアシストをしたものだ。
    今度個人的に感謝を伝えたい。

    だが、そこでふと疑問が沸いた。
    彼の悩みは何だ?

  • 15練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:46:02

    「では、二次会で麗日君と話せたのは僥倖だったんじゃないか。悩む必要がどこにあるんだ?」
    「そうなんだけど、その後が……実は、そうでもなくて」
    「何かあったのか?」
    「その……」
    緑谷君が消沈し、言い淀む。
    もしかしてケンカでもしたのだろうか?
    だが、緑谷君と麗日君の人となりを知る自分としては、この二人が短時間でケンカをするとも思えない。

  • 16練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:47:31

    「実は……麗日さんと、次に逢う約束……し忘れちゃって」
    そういうと、彼は叱られた子犬のように項垂れた。
    確かに約束が無ければ、次に逢えるのはいつになるか分からない。

    「つまり、次に逢う約束を取り付け、麗日君と付き合いたい、という事だな」
    「そ、そのっ! 付き合いたい、とまで言っちゃうと、大袈裟なんだけど。でも、もっと仲良くなれたらな、って……思っ……ちゃったりして。でも、約束してないから、どうしようかな、って……」
    「とりあえず、逢って話ができればいいのだろう? ならば、普通に呼び出してみてはどうだろうか?」

  • 17練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:49:33

    「それだよ飯田君! 普通って何!? 普通が分からないんだよ!? 普通の呼び出しってどうやるの!?」
    「普通は普通だろう? たとえば……」
    「たとえば!?」
    ……そこでふと、何も具体案が無いことに気が付いた。
    たとえば? たとえば何と誘うか。

    ……遊びに行こう、とか?
    無難だが、よく考えたら、付き合ってもいない異性に、この誘い方はあまりしない気がする。
    異性を誘うなら、やはりデートか?
    いや待て、男女で遊ぶのがデートという言葉の定義ではないのか?
    ならば遊びに行こう、というのは、デートしよう、と同じか。
    いきなりそれはハードルが高そうだ。

  • 18練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:52:20

    やはり呼び出すには口実、理由がほしい。
    休日一緒に遊ぼう?
    元クラスメイトという繋がりはあるから、出来ない話ではない。
    だが、そもそも個性カウンセリングなどで忙しい『ウラビティ』を、ただ遊びに行こうと呼び出すのも憚られるのではないか。
    世間は休日でも、『ウラビティ』が休日とは限らない。

    そもそもヒーローは休日の方が仕事が増える傾向にある。
    ……では仕事を口実にしてはどうだろうか。
    いやダメだ、それでは仕事の話になってしまう。

    緑谷君が望んでいるのは、仲を進展させるための会話だろう。仕事以外で逢いたい。
    そもそも本当に仕事があればまだしも、架空の仕事をでっち上げるわけにもいかない。
    「うーーーん……」

  • 19練乳グラブジャムン25/07/30(水) 19:58:33

    解釈を広げるべきか。
    逢うのはあくまで手段と考えれば、目的は仲良くなることだと言い換えることが出来る。
    麗日君と仲良くなる方法。
    広義な表現をすれば、女性と仲良くなる方法……

    無難にプレゼントだろうか?
    だが何も理由なくただ物を贈るのも不自然ではなかろうか。
    そうなると誕生日かクリスマスといった記念日を待たなければいけなくなってしまう。
    だが付き合ってもいない異性から、そんな日にいきなりプレゼントなどされても驚いてしまう。
    「う~~~~む……」

  • 20練乳グラブジャムン25/07/30(水) 20:05:35

    よく考えたら、自分も特定の女性と恋仲になった事はない。
    どうすれば女性と仲が深められるかなど、自分がまず学んだほうがいいのではないか。
    今すぐレシプロターボで書店に走り、恋愛指南について綴られた書籍を探すべきではないか。

    「……すまない緑谷君。普通に誘えと言ってなんだが、これは難しい問題だな」
    「でしょ? ……どうすればいいのか、全然分からなくて」
    緑谷君ががっくりと肩を落とす。
    ……情けない。友人の役に立ちたいというのに。
    何かいい方法が無いだろうか。

  • 21練乳グラブジャムン25/07/30(水) 20:10:27

    「ごめんね飯田君、変な相談して」
    「いや、そんな事は無い。むしろ僕が不甲斐なくて、申し訳ないばかりだ」
    「……はぁ。なんでこんな歳まで何もしなかったかな……」
    「年齢は関係ないだろう。特に君達の場合は、状況が過酷だったじゃないか」

    そう。何よりあの頃は大変な時期だった。
    歴史的な戦い、そこからの復興。
    多くの建物が瓦礫と化し、避難民で溢れかえっていた。
    恋をしても、その想いを伝えるのは憚られたし、成就したとしても、出かける先もない。

  • 22練乳グラブジャムン25/07/30(水) 20:15:12

    この二人に限らず、全国的にそういう風潮だった。
    被害の無い地域でも、結婚式場などは廃業するところが多かったと聞く。
    ましてやヒーローともなれば、自分の幸福の前にまず人助けが優先される。

    もちろんあの頃に結ばれた人も多いだろうが、時期を待った人も多いだろう。
    二人が八年間も想いを秘めていたのは、二人の性格もあるだろうが、時勢的に仕方ない部分もあったように思う。
    緑谷君も、自分の気持ちを自覚したのは最近のようだが、それだって、恋愛のことなど考えている暇がなかったせいなのではないか。

  • 23練乳グラブジャムン25/07/30(水) 20:20:25

    「今は具体策が出せなくて申し訳ないが、いい方法を思い付いたら、すぐに連絡させてもらうよ」
    「うん。ありがとう、飯田君」
    お弁当を食べながら、思考を巡らせる。
    いったいどうすれば、緑谷君と麗日君の仲を進展させられるのか。

    ふと、目の前の親友の顔が、これまで助けてきた人達と重なった。
    親とはぐれた迷子、道に迷ったお年寄り、大事な落とし物を探している人。

    そうだ、自分はよく知っている。
    程度の差はあるし、悩みの種類は異なっていても。


    これは、助けを求めている人の顔だ。


    ―――― to be continued

  • 24練乳グラブジャムン25/07/30(水) 20:39:40

    とりあえず、このまま次も投下してしまいますね。
    なるべく今日中に3話まではお見せしておきたいので…

  • 25練乳グラブジャムン25/07/30(水) 20:42:02

    ◾️No.433 怖くなってしまうのは

    ※SIDE 蛙吹


    今日は月一の女子会の日だった。
    電車を降りて改札をくぐると、足早に目的の居酒屋に向かう。
    暖簾をくぐり、見知った級友の姿を探した。
    すぐに見つかり、慌ただしく席に向かう。

    「ケロ。遅れてごめんね、少し仕事が長引いて」
    「お、梅雨ちゃん来たね。これで全員揃ったし、始めよっか」
    「遅刻は全然気にしてないよ~。いつも誰が遅れてもおかしくないし」

    飲み物を頼み、乾杯を交わす。

    いつもの和やかな空気。いつものように会話が弾む。
    仕事の近況。芸能人やヒーローの噂話。新しく出来たお店のこと。新作の映画。
    どれだけ話しても、話題は尽きない。

    そうして自然と、先日の祝賀会のことが話題になっていたときだった。

  • 26練乳グラブジャムン25/07/30(水) 20:45:31

    「そうだ、お茶子ちゃん。この間の祝賀会、ゴメンね」
    透ちゃんがお茶子ちゃんに対して、申し訳なさそうに切り出した。
    「へ? 何が?」
    「だって、緑谷君とお話しする時間、取れなかったでしょ」
    「あ、それ私も気になってた。あの日お茶子、緑谷と話してなかったもんね」
    「な、なんでデク君がっ!? いいよ、そんなっ!」
    「いいってことよ、お姉さん達分かってるからさ」
    「恋バナさせてよ~。ほんとは緑谷と話したかったんでしょう? 隣に座りたかったんでしょう?」
    三奈ちゃんがお茶子ちゃんにしなだれかかった。

  • 27練乳グラブジャムン25/07/30(水) 20:48:23

    「えっと……それが、その……ぇへへ……」
    お茶子ちゃんはいいことがあったのか、自然と笑みをこぼして、嬉しそうにしている。
    「え、何その笑い!?」
    三奈ちゃんが眼を見開いて詰め寄る。
    「これは何かあった顔でしてよ!」
    「何だ? 何かあったな!? 話せ、私らに全部話せ!」
    「さあ全部ゲロっちまいなァ。自白は罪を軽くするぜ?」
    「その、実は……祝賀会の後、デク君と合流して」
    恥ずかしそうにモジモジとするお茶子ちゃんの話に、みんなの顔が、ぱあぁっと明るくなる。
    透ちゃんは見えないけど、ジェスチャーが物語っていた。
    「ほう! いつの間に!?」
    「なに、こっそり二人だけの合図でもしたの!? アイコンタクト!?」

  • 28練乳グラブジャムン25/07/30(水) 20:50:48

    「そ、そんなんちゃうて! ほんま、たまたま、偶然で……そ……それで、二人で、一緒に二次会行ったんよ……」
    「やったじゃんお茶子!」
    「これはようやく進展来たかな!?」
    「二次会ってどこ行ったの!? まさかお持ち帰りされちゃった!?」
    「ちちちち、違うよ!? お持ち帰りとか、そそそっそ、そんなんじゃないよ!? 普通に居酒屋さんで、お話しただけだよ!?」
    真っ赤になって手をばたばたさせている。
    「お持ち帰りされてないんかい。されなよ」
    「せめて緑谷さんも、お洒落なバーなどご案内して差し上げればよろしいのに」
    「バーに来てノンアルしか頼まない男女も嫌だけどね」

  • 29練乳グラブジャムン25/07/30(水) 20:53:17

    「それでそれで、何話したの!?」
    「え、ええっと……さ、最近やってる事とか。雄英のこととか。轟君よかったね、とか……」
    思い出すだけで幸せなのか、顔がにやけている。
    「たくさんお話し出来たのね。よかったわね、お茶子ちゃん」
    お茶子ちゃんが幸せそうにしていると、まるで弟たちの成長を見ていた時のような、温かい気持ちになる。
    娘を見守る母親はこんな気持ちなんだろうかと思う。

    「それで、それで? 他には!?」
    「『これは、しまっておくの……大切に……』っからの! 進展はあったの!?」
    三奈ちゃんが、ジェスチャーを交えて、お茶子ちゃんの物真似を披露する。
    いつかの更衣室のやり取りが思い出された。
    からかわれて頬を染めるお茶子ちゃんの様子が、とても可愛らしい。

  • 30練乳グラブジャムン25/07/30(水) 20:57:53

    「あの……それは、その……えっと……」
    皆から眼をそらす。
    「言えたか!? ついにオープンできたか!?」
    「いや、その……まだ……しまったまま……だったりして」
    「そっかあ……」
    明らかに落胆した空気が全員に漂った。

    「いつまでしまっておくつもりですの? 具体的なステップを考えてもよいかと」
    「……そう言われても、そんな急には……」
    真っ赤に照れて恥ずかしそうにしている。
    同性の自分から見ても、こういうところ、本当に可愛らしいと思ってしまう。
    「急でもないでしょうに」
    「まあ、お茶子、奥手だもんねえ」

  • 31練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:03:13

    「……で? 二次会して、それから?」
    「それからって……終電の時間来ちゃったから、そのまま帰っちゃって……」
    「そっか……じゃあ、次に逢うのはいつなのかしら?」
    「へ?」
    「さすがに次に逢う予定くらいは決めたんでしょ?」
    「……そ、それが…………約束するの、忘れちゃって……」
    私を含め、全員が絶句した。
    騒がしい店内にあって、この卓だけ沈黙が流れる。

    「あ……あんた何してんの!?」
    「だってぇ! 久しぶりにお話しするの楽しかったし、胸いっぱいやったし……私バカやぁぁぁ……」
    机に突っ伏して後悔を嘆いている。
    一番大事な課題を忘れてしまった学生を彷彿とさせた。

  • 32練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:08:14

    「お酒入って無かったでしょ?」
    「アルコールも無いのにのぼせ上ってたんですか」
    「そんなん言わんといてぇ……ほんと、ここからどうすればええんやろ……」
    さっきまでの幸せそうな表情はどこへやら、いまは机に突っ伏して打ちひしがれている。
    一緒に過ごした時間が楽しかったからこその後悔だろう。

    「とりあえず緑谷に連絡して、遊ぶ日決めればいいんじゃない?」
    「そんなのできない! できないよ!?」
    「どうしてですか?」
    「理由が無いよ!? 何て誘うの!?」
    「一緒にデートしましょ、でいいんじゃないい?」
    「そんなん無理やて! ……デク君もしかしたら、もう彼女おるかもしれへんやん」

  • 33練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:13:06

    「そんな素振りなかったんでしょ?」
    「いたら麗日さんと二次会になど行かないのでは」
    「彼女いるか聞けばいいじゃん」
    「……そんなの、聞けへんよ」
    コップを両手で包むように持ち、その中に視線を落とすお茶子ちゃん。

    「なんで? 」
    「……怖いもん。もしおったらどうすればええの? 聞けないよぉ」
    ふつふつと、その瞳に涙が宿る。
    「ああああ! お茶子泣かないで!」
    「大丈夫だよ。緑谷君に彼女なんかいないよ! 微塵も気配感じないよ!」
    「ほらハンカチ」
    「う……うん……」
    お茶子ちゃんが鼻をすする。
    「お茶子さん、大丈夫ですわ! 大丈夫ですから!」
    「そうだよ、緑谷だよ!? 彼女なんているわけないじゃん。気になる女がいたって、声なんてかけられないでしょ、あの性格なら」

  • 34練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:15:18

    「……気になる子、おるんやろか」
    「ああああ! いない、いない、絶対いないって! もしいるとしても、それ、お茶子のことだって!」
    「ほら、思い出して! 二次会楽しかったんでしょ!?」
    「そうだよ!? 祝賀会の後、二次会にいったのはお茶子ちゃんだけだよ! 自信持って、お茶子ちゃん!」
    「お茶子さん。全部、もしかしたら、の話ですわ。もしもの話に心を痛める必要はありません」
    「そうだよ! 女は度胸! そして女は愛嬌! 好きになってもらうには、笑ってないと!」
    「うん……がんばる……うぅぅ~~」
    俯いて落ち込んでいる。本当に好きなんだろうな、と思う。

    「でもお茶子ちゃん、これからどうするの? 緑谷ちゃんと、もっと仲良くなりたいんでしょ?」
    「うん……仕事で会う事はあるんだけど……」
    「仕事じゃあなあ……」
    「終わった後に飲みに行くのが関の山にならない? それも難しいだろうけど」
    「実際のところ、お茶子さんも緑谷さんも忙しいですし……どうしたものでしょうか」

  • 35練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:17:18

    「でもさあ……緑谷って、なんか押しに弱いイメージあんだよね。押せばイケそうな気がするんだけど」
    耳郎ちゃんが虚空を見つめつつ、ぽつりと呟く。

    「あ、めっちゃ分かる。なんか、グイグイ来られたら、無碍に出来なくて、そのままズルズル最後まで行っちゃうタイプだと思う」
    「そう。しかもさあ、緑谷って誰にでも優しいじゃん? 本人何も思ってなくても、勘違いする子絶対出てくるでしょ」
    「緑谷、個性とか相性とか考える前に、本能で飛び出していくもんね。で、『大丈夫? 助けに来たよ』って手ぇ出してくるんでしょ?」
    芦戸さんが声真似をしつつ手を出している。
    「ああ~、やばい。それ、普通の女は弱いやつだと思う」
    「しかも下心ゼロでそれやってくるからね。実際ほら、壊理ちゃんとか凄い懐いてたし」
    「天然タラシじゃん」

  • 36練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:20:31

    「ルックスだっていい方だと思うんだよね。いや顔の好みとかは置いといてもさ? ちゃんと鍛えてるわけだし。あいつ外見的にマイナス要素って見つからなくない?」
    祝賀会のときに見た緑屋ちゃんを思い出す。
    「そうね。この間の祝賀会のとき、緑谷ちゃん、結構カッコよくなってたわ」
    「ああ~~っ! それすっっっごい思った! なんかさ、高校時代って割と子供っぽい顔してたのに、全然違くなかった? なんか男っぽくなったっていうか!」
    「背も伸びてたよね?」
    「そういえば、確かに伸びていましたね。雰囲気も大人びて、整った顔立ちになっていました」

  • 37練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:23:25

    「緑谷って教師やってるんでしょ? 教員免許取りに大学行ってるはずだけど、そこで出会い無かったのかな?」
    「無いって考える方が無理じゃない? 大戦の英雄サマだよ? 教科書に名前載ってる人が同じクラスに座ってたら、絶対意識するでしょ!?」
    「緑谷ちゃんの担当教科は歴史よ。クラスメイトからすると、歴史を学びに学校行ったら、歴史に名を残している人がいたって状況よね」
    「それ絶対気になるヤツじゃん」
    「バレンタインとか凄そうですね。どうだったんでしょうか」

    「私らが知らないだけで、大学から付き合ってる人とかいても不思議じゃないよね」
    「あ……いま思いついた。ちょっと本気になった女なら、緑谷を落とすの凄い簡単そう」
    「どんな?」
    「サークルとか適当に理由付けて飲みに行くでしょ。酔いつぶれたフリして、『緑谷君送って~』って頼めばいい。緑谷は絶対に断らない。後は二人になれる場所にさえ行けば、押し倒しちゃえばOK」

  • 38練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:28:13

    「ちょっと芦戸さん、破廉恥でしてよ」
    「でも緑谷って、迫られたらそのまま受け入れそうじゃない?」
    「相手を傷付けるって思ったら、拒めなさそう」
    「泣き落しも効きそうだしね」
    「ねっ! で、最後までヤっちゃいそう」
    「ある日いきなり、結婚しましたって、招待状届いたりすんの」
    「ああでも、結婚式の招待状が来るのは、なんかすっごい、ありそうな気がしますわ」
    「でしょう? ああいうタイプが、誰も知らない間にいきなり結婚するじゃん」

  • 39練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:30:16

    「……うぅっ……ひくっ……うううぅぅぅぅ」
    はっとして目をやれば、卓の隅で、お茶子ちゃんがポロポロと大粒の涙を流していた。
    会話に盛り上がっていて見ていなかった。
    「あああああああっ!? ごめんお茶子! 違うよ!? 全部嘘! 全部嘘だから!」
    「そうです、妄想です! 妄想、妄想! 何の根拠もない、ただの妄想でしてよ!? 」
    「やだ……やだぁ……あぁぁ……」
    「ごめんね、お茶子! 大丈夫だから! 取られないから! ね!?」

    慌てて肩に手をやり落ち着かせる。
    「お茶子ちゃん、落ち着いて! 大丈夫よお茶子ちゃん!」
    「やだよぅ……デク君……デク君が……けっこ……あぁ……あああああああああっ!」
    ついに声をあげて泣き出してしまった。
    「ごめんごめんごめん! 本っ当にごめん! あんたの前で配慮が無かった!」
    「あいつに出会いなんて無いって! サークルとか行かずに一人でヒーローオタクしてたって!」

  • 40練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:32:12

    「ああ、あああっ、どうしよう、どうしよう梅雨ちゃん! やだよ、そんな招待状! 私っ、出席も欠席も出来ないよ!? もし来たらどうしよう。どうすればいいんだろう。私っ、デク君の、そんな、お祝い……出来な……っ! しなきゃ、いけないのに……ぁぁぁあああっ!」
    「大丈夫よっ、大丈夫よお茶子ちゃん!」
    肩を叩きながら慰める。
    「来ない来ない来ない! 絶対来ない! そんな招待状、絶っっっ対に! 来ないから! ねっ!? 妄想! 妄想だよ!?」
    「麗日さん、タオルハンカチを生成しましたわ。これ使ってくださいまし!」
    「落ち着こうお茶子。落ち着く。ね。ほら、祝賀会の二次会思い出して? 二人っきりで話せたんでしょ? どんな話したっけ? ほら、教えて?」

    みんなと一緒に慰めながら、心底思う。

    お茶子ちゃんは本当に、羨ましくなるくらい。
    一途な、素敵な恋をしている。

  • 41練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:34:29

    好きなら、はやく想いを伝えればいい。
    ……そんな正論を振りかざすのは簡単だ。

    でも、それがどんなに正しいのだとしても。
    その正論は、やはり、乱暴なんじゃないか、と思うのだ。

    もし、そんな正論だけで全てが解決するなら、誰も恋に悩んだりしない。


    もし断られたら?
    友達としか見れないと拒絶されたら?
    他に好きな人がいたら?

    そう考えた時に、どれだけの恐怖に襲われるかは……
    どれだけ、その人を好きかによって、決まるんだと思う。


    好き、という気持ちは。

    好きであるほど、伝えられない。


    それが片想い。

  • 42練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:36:30

    ナンパがいい例だ。会ったばかりの何とも思っていない相手なら、簡単に何でも言える。
    逆に毎日顔を合わせているような相手なら、そう簡単に想いを伝えられるはずがない。


    だからこそ、お茶子ちゃんは羨ましい。

    八年以上も続く、一途な片想い。
    こんなに怖くなるほど想うことが出来ているのなら。
    その恋が実ったら、いったいどれほどの幸せに満たされるのか。
    きっと、他の人には、絶対に分からない。

  • 43練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:43:12

    どうすれば、お茶子ちゃんと緑屋ちゃんの仲を進展させてあげられるか。
    慰めながら必死に頭を回すけど、妙案が出てこない。

    自分の無力さが恨めしくなるほどだ。


    ふと、お茶子ちゃんの顔が、これまで助けてきた人達と重なった。

    迷子の子供。怪我をした人。救助を待つ人。

    そうだ、私達はよく知っている。
    程度の差はあるし、悩みの種類は異なっていても。


    これは、助けを求めている人の顔だ。


    ―――― to be continued

  • 44練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:50:16

    これ誰もみてねえかなあ……一人でスレ埋めてっていいのかスッゲエ不安になるけど良いんだろうか。


    >>5

    期待してくれてありがとう、貴方のために書いたと思うことにする

  • 45練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:51:47

    ◾️No.434 困ったときは

    ※SIDE 飯田


    緑谷君と話してから数日。
    インゲニウムの事務所で、チームアップの準備を進めていた。
    ここ最近は個性カウンセリングのため、クリエティ、ウラビティ、フロッピーとのチームアップが多いが、これは別口だ。

    災害を想定した訓練の要請があったので、海難救助に強いフロッピーと、音感探知に長けたイヤホン=ジャックにチームアップを要請したのだ。
    災害時には、警察、消防、行政との連携。各ヒーロー事務所の持ち味を生かした、役割分担が重要になる。
    あくまで訓練だが、だからこそしっかりと執り行いたいと思ってのチームアップだった。
    数日前からこちらに来てもらい、訓練に向けて仕事を進めていた。

  • 46練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:53:08

    「二人とも、今日のところはもういいぞ」
    「そう? まだ何かやる事あれば回してくれていいよ」
    「いや、もうだいぶ揃ったよ」

    仕事は順調で、準備も資料もほとんど出来上がっていた。
    あとは明日、職員を含めて皆を集め、会議室で決議をとれば、消防に提出できる。そうなれば訓練本番を待つだけだ。

    既に他の職員も帰宅している。
    久々に旧友3名が事務所に残っているという状況だった。
    ヒーローとはいえ、女性二人だ。早めに帰れるならその方がいい。

  • 47二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 21:53:10

    >>44

    期待してるぞ面白いよ

  • 48練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:55:08

    「あ、そうだ。飯田ちゃん。こんな時に悪いんだけど……少し時間あるかしら」
    「どうかしたのか? 何か不備があったとか」
    「違うの。えっとね……仕事とは関係ない話になっちゃうんだけど」
    「構わない、話してくれ」

    もう自分の仕事もほとんど片付いている。
    あとは数件のメールを返したら、自分も帰ろうと思っていた。
    「……緑谷ちゃんの事なんだけど」
    「緑谷君が、どうかしたのか?」
    先日会った時のことが思い出される。特に不調も見られず元気そうだった。
    相談された悩みはあったが。

  • 49練乳グラブジャムン25/07/30(水) 21:58:04

    「ああそっか、飯田なら緑谷のこと詳しいじゃん」
    「……なんだ?」
    「あのね、知っていればでいいんだけど。緑谷ちゃん……いま、お付き合いされている女性はいるのかしら」
    「……いないはずだが。何かあったのか?」
    彼に特定の相手はいない。
    それは知っている。
    というかむしろ、麗日君と付き合いたいと切望していることを知っている。

  • 50二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 21:59:18

    そういうスレだと思ってロムってたけど発言した方がよかった?

  • 51練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:02:50

    「飯田になら話しても大丈夫でしょ。ちょっと聞いてくれる?」
    「ああ、聞かせてくれ」
    緑谷君に関わることなら是非聞いておきたい。
    何か力になれるなら協力は惜しまない。

    「あのさ、私らつい先日、お茶子とご飯行ったんだ。その時に聞いたんだけどさ。轟のチャート二位をお祝いした祝賀会あったじゃん。あの後、お茶子と緑谷、二人で二次会に行ったんだって」
    つい先日、緑谷君から聞いたばかりだ。

  • 52練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:05:22

    「それでね、お茶子……たぶん飯田も気付いてたと思うけど。お茶子さ、ずっと緑谷のこと好きだったのよ」
    「そうだったのか。いや、何となくそんな気はしていたが」
    「まあバレバレだったからねえ……」
    予想が確信に変わった。二人は間違いなく両想いだ。

    「で、二次会行けて、お茶子は嬉しかったっていう……まあそれ自体は、楽しい時間で良かったね、って話なんだけど」
    「お茶子ちゃん、緑谷ちゃんに気持ちを伝えるどころか、次の約束も出来なかったのよ」
    「そう! 肝心なことを全然切り出せなくて。そのまま時間がきて、さすがに終電無くなりそうだからって、緑谷に駅まで送られて。で、そのままバイバイしちゃったってワケ」
    「その時のことを後悔していたのよ。せめて次の約束くらい取り付けておけば、って嘆いてたわ」

  • 53練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:06:47

    耳郎君と蛙吹君の肩が落ちる。
    彼女らも、友人にうまくいってほしいと願っていたのだ。
    「緑谷も緑谷よ。終電近くまで一緒にいる時点で察しなさいよ」
    「そうか……麗日君が」
    緑谷君も同じ悩みを抱えていた。

    「それで、飯田に聞きたいんだけどさ。緑谷がいまフリーなら、緑谷の好きな人って知ってる? いや、絶対お茶子でしょって思ってるんだけど、確証が無くて」
    「ああ……そうだな……」

    話していいものだろうか。
    人の恋心など、おいそれと誰かに話すべきではない気もする。
    でもいま、麗日君の気持ちを、二人から聞いてしまった。
    両想いなのだ。うまくいってほしい。

  • 54練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:08:19

    「……実は僕も、緑谷君から全く同じ相談を受けていたんだ」
    「どういうこと?」

    そこで、先日会った時の話をした。
    麗日君と二次会に行って楽しかったこと。
    麗日君のことを特別だと意識していること。
    次の約束をし忘れたのを悔いていること。
    遊ぶ口実が欲しくて困っていたこと。


    「なにそれ!? もう~、早く言いなさいよ! じゃあもう解決じゃん」
    耳郎君の顔がぱっと明るくなり、ニコニコで携帯を取り出す。

    さっと血の気が引いた。
    「ちょっと待った、何するつもりだ!?」
    「響香ちゃんストップ!」
    「何って……LINKで二人に教えてあげれば解決でしょ。緑谷もフリーだし。両想いなんだから、おめでとう、付き合いな、って」

  • 55練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:12:11

    「それはダメだ!」
    「響香ちゃん、さすがにそれは酷いわ!」
    「え……え、なんで? その方が早いじゃん。両想いなんだよ? さっさとくっつけばいいじゃん、躊躇う理由無いでしょ」
    耳郎君は携帯を持ってドン引きしている。何がいけないのかわからない、という表情だ。

    「その……うまく言えないのだが。我々が伝えてはいけない気がする」
    「そうよ。響香ちゃん、聞いて」
    蛙吹君は落ち着いている。こういう時、彼女は頼りになる。
    僕が言葉に出来ないこのモヤモヤを、うまく言語化してくれるかもしれない。

  • 56練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:14:41

    「響香ちゃん、二人の身になってみて。好きな人が、自分の事を好きでいてくれるって分かったら、それは確かに嬉しいわ。でもそれは、相手から直接伝えてほしいものよ。それが一番嬉しいもの。友達から伝え聞いても、本当かどうか分からないし、結局確かめなきゃいけない。もし本当だったとしても、何で自分に教えてくれなかったのかな、って思わない? それはとても寂しいわ」
    「あ……」
    耳郎君も合点がいったようだ。

    「そうだよね……ごめん、私最低だ」
    「いや、耳郎君。落ち込むことはない。友を思ってのことだと分かっている。いい情報に喜んで、少し空回りしてしまっただけだろう?」
    「ごめんね響香ちゃん。本当は私も、響香ちゃんと同じ気持ちよ。いますぐ連絡して教えてあげたいわ……」
    今度は蛙吹君が気落ちしていった。

    「だって……」
    蛙吹君が、心底困った顔で、ぽつりと。
    どうしようもない真実を口にした。

    「……だって、あの二人……放っておいたら、絶対に進展しないでしょう?」

  • 57練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:16:08

    その一言で、一気に部屋の空気が重くなった。

    そう、絶対に進展しない。
    それは恋愛経験など無い自分にも確信できるほどに。
    他の人物ならいざ知らず、あの緑谷君と麗日君なのだ。

    二人とも、相手を尊重する……といえば聞こえはいいが、尊重しすぎて、全く行動に移せない。
    当事者の事だ、手を出すべきではない、と思う。普通であれば。
    だがあの二人に限っては、放っておけば何も進展しないのは火を見るよりも明らかだ。

  • 58練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:18:14

    「……あれ? え、ちょっと待って? これ、詰んでない? ここからどうすればいいの?」
    「どうすれば、というのは……」
    「だって私達から伝えるのはダメで、放っておいても進展しないでしょ? あの二人は間違いなくこのまま平行線を辿るよ? それこそアラサーどころかアラフォーになっても未婚だよ?」
    「そうね……それに緑谷ちゃん、押しに弱い所があるのよね。もしグイグイくるタイプの子が現れたら。自分を好きだって言ってもらえたら。その好意を無碍にできないと思うの」
    「緑谷、ああ見えてモテる要素多いもんね」
    「ああ……その通りだな、同意するよ」

    友人として見ても、緑谷君はいい男だと思う。
    誰にでも優しく親身で、わが身も顧みず助けに行く。
    彼の精神性は自分の手本でもある。
    いつどこで、緑谷君に心奪われる女性が現れても、何も不思議はない。
    片思いが実らないのは仕方ないとしても、両想いで破局するのは悲しすぎる。

  • 59練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:20:26

    「もし緑谷ちゃんが、お茶子ちゃん以外の子と結ばれてしまったら……お茶子ちゃん、とても悲しむわ」
    「つい先日、どれだけ悲惨な事になるか、目の前で見ちゃったもんね……」
    「あの後、もしそうなったら、って考えてたんだけど……どうやって慰めればいいか、見当もつかないの」
    「慰めようがないもの……女子会の空気、凄い事になるわよ」
    「それに緑谷ちゃんの結婚式、私達、どうやって乗り切れば……」
    「ぅぁぁ~……やっばぃ、それ……地獄だって……」
    二人には何やら思い当たる節があるのか、葬式のように消沈している。

  • 60練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:22:36

    「……やっぱ、多少は怒られるの覚悟で、私らから話す? 地獄は回避できるし……」
    耳郎君がスマホを振る。

    それしかないのか。
    だが、そうしたくない。

    最悪の事態を防ぐためにも、なるべく早く結ばれてほしい。
    しかし、つい先ほどのやり取りが蘇る。
    本人に伝えてもらった方が嬉しいと、二人の気持ちを尊重した蛙吹君。
    自覚して項垂れた耳郎君。

  • 61練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:24:10

    いまここで、緑谷君と麗日君に、お互いの気持ちを伝えてしまうのは簡単だ。
    「そうね……本当は、私達から伝えるなんて、したくないけど……」
    だが……それでは寂しい。
    一度は最低だと自覚した行為を、肯定したくない。

    こんなとき、どうすればいいのだろうか。
    級友が悩んでいる。最低だと自覚した行為をしようとしている。
    何とか止めたい。だが妙案が浮かばない。
    親友を応援したい。本当にこんな方法しかないのか。

  • 62練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:25:52

    困った。
    何かないか。
    誰かいないだろうか。
    何とかしてほしい。
    誰か知恵を貸してほしい。

    こんなとき、どうすればいい?
    困った状況を打開できる……そんな、頼りになる……
    「……ヒーロー」
    「は?」

    ぽつり、と口にでた言葉。
    「……そうか。そうだ。ヒーローだ」
    「ヒーロー? なにが?」
    とっさの思い付き。無意識に口から出た言葉。何も決まっていない。
    それでも、光明が差した気がした。

  • 63練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:27:44

    「ヒーローだよ! 誰かが困ったときは、ヒーローが解決すればいいんだ!」
    立ち上がり、腕を広げて主張する。
    「そりゃ解決してくれるヒーローがいればいいけど……なに? 恋愛相談してくれるヒーローでも探すの?」
    「恋愛相談は結婚相談所の管轄よ? それに、緑谷ちゃんとお茶子ちゃんは、出会いに困っているわけではないわ」
    「ヒーローならいるじゃないか! 僕たちはヒーローだよ!」

  • 64練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:29:08

    「……まあ私ら、職業ヒーローだけどさ……解決できないよ」
    「専門外だものね……」
    二人はまだ気付いていない。
    だが自分はもう、気分が高揚し始めていた。
    「二人とも。ヒーローはここにいる三人だけじゃないぞ!」

    この方法なら、必ず解決できる。
    その確信があった。

    (いい方法を思い付いたら、すぐに連絡させてもらうよ)
    以前相談を受けたとき、緑谷君に自分が告げた言葉。

    すまない、緑谷君。あれは嘘だ。
    いい方法は思いついた。だが、君に連絡はしない。
    それが最もいい方法だからだ。

  • 65練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:31:26

    「忘れていないか? 緑谷君と麗日君の幸福を願い、知恵を絞ってくれる。そんなヒーローを、僕らは大勢知っているじゃないか。僕らだけでダメなら、より多くのヒーローを頼ればいい! チームアップと同じだ!」

    学生時代を思い出す。
    あの頃、みんなと共に過ごした日々が、胸に蘇る。
    一緒に駆け抜けた青春が蘇ってくるような、そんな高揚感が満ちてきていた。

    「元A組のヒーロー全員に、相談しよう!」


    ―――― to be continued

  • 66練乳グラブジャムン25/07/30(水) 22:39:11

    なんとか今日、3話まで投下できました。

    案外時間かかりますね……


    >>47

    あざっす!

    結構長いんですが、最後までお付き合い頂けますと嬉しいです。


    >>50

    もう皆さん気にせずガンガン好きにコメントしてください。

    自分は一話あたりの投下始めたら、一話終わるまではレス出来ませんが(読み難いと思うので)、皆さん本当に好きなタイミングで発言してもらってOKです。

    個人的には、何の反応もないと、孤独感というか虚無感がハンパないので……

    このスレにおいてはほんと何でもいいんで好きに発言していただけると有り難いです。

  • 67二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 22:54:04

    >>65

    峰田辺りがノリノリで協力するだろうなあいつら漸くかよって血涙流しながら

    とゆうかA組連中はお茶子の気持ちわかってそう轟は怪しいが

  • 68二次元好きの匿名さん25/07/30(水) 22:55:44

    このレスは削除されています

  • 69練乳グラブジャムン25/07/31(木) 06:04:36

    >>67

    先の展開話せないけど、こういう予想してくれるの嬉しいっす。


    >>68

    ぐうの音も出ねえわ、ブラバしてくれ。でも保守ありがとう。

  • 70練乳グラブジャムン25/07/31(木) 07:26:40

    ◾️No.435 それは偽物だろ

    ※SIDE 飯田


    それからすぐにグループLINKを作成した。
    緑谷君と麗日君を除いた、元A組の第二グループだ。
    事情を話したところ、すぐにみんな協力してくれることになった。
    ちなみにグループ名は紛らわしいとコメントの誤爆事故が起こるとして、一目で分かるものに爆豪君によって改められていた。

  • 71二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 11:50:28

    >>68

    「んじゃ、何ヶ月経ちゃ二次創作者になれンだよ?」

  • 72練乳グラブジャムン25/07/31(木) 12:04:22

    【誤爆は爆死刑!クソナードと麗日救済グループ】

    Pinky
    『とにかく両想いは確定なんだよね?』
    梅雨ちゃん
    『そうよ。でもそれを私達から伝えてはいけないわ』
    青山
    『両片思いか。とても素敵じゃないか』
    かみなり
    『どっちでもいいから、さっさと告白すりゃいいのに』
    大・爆・殺・神・ダイナマイト
    『それが出来ねえからクソナードと麗日なんじゃねえか』

  • 73練乳グラブジャムン25/07/31(木) 12:27:05

    烈怒頼雄斗
    『まあ、せめて二次会の後に次の約束くらいは取り付けろ、と思うわな』
    飯田天哉
    『いや、緑谷君は麗日君を大切にしているのだろう』
    アニマ
    『大切にしてるのは凄く分かるんだよね』
    心操人使
    『大事にし過ぎてる、というのが近いか』

  • 74練乳グラブジャムン25/07/31(木) 12:30:21

    セロファン
    『もう何とか騙くらかして、ラブホにでも放り込むとかしないとダメじゃね?』
    Ⅸ黒い鳥Ⅸ
    『憶測だが、たとえ何等かの方法でそのような場所に放り込もうと、緑谷は手を出さないのではないか?』
    烈怒頼雄斗
    『それすげえ同意だわ。あいつホテルから逃げ出す気がする』
    シュガーマン
    『緑谷は何があっても絶対に手を出さないと思う、困った信頼があるな』
    セロファン
    『ここまでくると女に興味無いんじゃないかって疑いたくなるぞ』

  • 75練乳グラブジャムン25/07/31(木) 12:36:21

    グレープJ
    『あ、オイラ実は最初そう思ってた。爆豪狙いのドMなのかなって』
    かみなり
    『おいふざけんな、弁当食ってるのに大爆笑しちまったじゃねえか。どうしてくれんだ。峰田そんなこと絶対思ってなかっただろ』
    ピンキー
    『峰田、それ爆×緑? 緑×爆?』
    イヤホン=ジャック
    『そりゃ爆×緑でしょ』
    インビジブルガール
    『え!? 緑×爆しかなくない!?』

  • 76練乳グラブジャムン25/07/31(木) 12:38:13

    大・爆・殺・神・ダイナマイト
    『ざっけんなド腐れ共コラ! 元クラスメイトで何考えてやがる、ここは何のためのグループLINKだ!』
    八百万百
    『そうですわ。緑×爆の話は別途グループLINKを作りますので、そちらで話し合いましょう』
    大・爆・殺・神・ダイナマイト
    『腐った話を続けようとするんじゃねえ! 作んなそんなグループ!』

  • 77練乳グラブジャムン25/07/31(木) 12:44:53

    飯田天哉
    『そもそもどうやって、二人に気持ちを伝えあってもらうか、という点を話し合いたい』
    烈怒頼雄斗
    『どっちかが電話して、それで伝えりゃいいんじゃね?』
    Pinky
    『そんなのつまんなーい! 夕日の見える海岸とか、もっとロマンチックな場所で告白してほしい!』
    八百万百
    『お洒落なレストランなども、場所としてはよろしいかと』
    テイルマン
    『それ告白っていうかプロポーズみたいになってないか』

  • 78練乳グラブジャムン25/07/31(木) 12:47:04

    Ⅸ黒い鳥Ⅸ
    『夕日の海岸で、正装して花を持ち、片膝ついて愛を語る緑谷か』
    セロファン
    『ヴィランじゃねえか、捕まえろ』
    グレープJ
    『お客様の中にヒーローはいませんか?』
    かみなり
    『お茶吹いたわ。頼むから笑わせるな、俺に弁当を食わせてくれ!』

  • 79練乳グラブジャムン25/07/31(木) 12:50:02

    心操人使
    『まあ緑谷のキャラじゃないよな』
    焦凍
    『姉さんに聞いてみたら、夜景の見える高台がいいと言ってた。夜景の見える場所で、緑谷に正装して花を持ってもらえばいいんじゃないか?』
    テイルマン
    『おい、またヴィランが出たぞ』
    心操人使
    『ヒーローを呼んだ方がいいんじゃないか』
    かみなり
    『なんなの?みんな俺の弁当に何の恨みがあるの?』

  • 80練乳グラブジャムン25/07/31(木) 12:53:21

    梅雨ちゃん
    『でもそんな素敵な場所で告白してもらえたら、お茶子ちゃん凄く喜びそう』
    インビジブルガール
    『分かる! 絶対嬉し泣きしてると思う!』
    セロファン
    『いくら麗日でもヴィランを疑うんじゃね?』
    かみなり
    『もう頼むからヴィランって単語使うのやめてくれる?』

  • 81二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 12:53:31

    このレスは削除されています

  • 82練乳グラブジャムン25/07/31(木) 12:56:33

    アニマ
    『ペットショップとか案外デートスポットになったりするけど、どうだろう』
    テイルマン
    『いいと思うぞ、見てるだけでも案外楽しいし』
    イヤホン=ジャック
    『良い場所で告白って、叶えてあげたい気持ちはあるんだけどさ。現実問題として、緑谷にそんなこと出来なくない?』
    グレープJ
    『心操、もうお前に頼るしかない』
    心操人使
    『緑谷に無理やり喋らせろってか? 直接バラすよりも遥かに最低だろ、絶対にやらないぞ」

  • 83練乳グラブジャムン25/07/31(木) 12:59:35

    シュガーマン
    『ベタだけど、喫茶店で甘いものでも食いながらデートしてもらう、とかどうだ。何回かやってれば徐々に仲良くなるんじゃないか』
    青山
    『付き合っていればそれも簡単なんだと思うよ。でも二人とも忙しいから、そんな時間がまず取れないんじゃないかな』
    シュガーマン
    『そうか、まだ付き合ってないんだもんな。逆に、付き合えば普通にすることか』

  • 84二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 15:49:14

    変に喧嘩腰の人いるけど気にしなくて良いと思うよ
    スレ主の言うとおりブラバすりゃ良いだけの話だし
    二次創作とか書きたくても結局書き上げられない人間だから新たにハマってくれた人がこうして出力してくれるのありがたいわ

  • 85二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 16:14:52

    つーか厚顔無恥とかは普通に荒らしに来てる人の言い方だし消して良いレベルだと思うが

  • 86練乳グラブジャムン25/07/31(木) 17:51:44

    飯田天哉
    『方向性は良いと思う。さらにアイデアを出していこう』
    Pinky
    『二人とも、そもそも時間が取れない、っていうのも問題だよね』
    テンタコル
    『どうせなら、一気に進展させてやりたいな』
    インビジブルガール
    『両片思いだから、きっかけさえあれば一気に進みそうなんだけどね』

  • 87練乳グラブジャムン25/07/31(木) 17:57:33

    セロファン
    『一気に進むというか、あと一歩で全部丸く収まるというか』
    グレープJ
    『現実感の無い方法は無理だって。緑谷がヴィランにならない方法を考えようぜ』
    焦凍
    『緑谷はヴィランじゃなくて教師だろ? あいつがヴィランにはならねえと思うんだが』
    かみなり
    『よしわかった、お前ら今度俺に昼飯奢れよな』
    イヤホン=ジャック
    『あんたは食事の時に携帯触んな!』

  • 88練乳グラブジャムン25/07/31(木) 17:58:42

    うーむ、困った。意見をまとめるのが難しい。
    みんな協力的なのだが、余りに人数が多すぎる。
    良い意見も出ているように思うが、脱線も多い気がする。
    ただ、アイデア段階というのは、そういった脱線話から思考が広がることもある。
    議題のみを話すように強制してしまえば、かえって誰も発言しない状況が生まれてしまいかねない。

    こういう時は、皆が会した会議室であれば議事の進行が執りやすいのだが。
    とはいえ多忙なみんなを、そんなに頻繁に集めるのも難しい。
    話し合いの場は持ちたいが、どうしても回数は絞られるだろう。
    いったん、個別に意見を取りまとめた方が良い気がする。

    しばし逡巡し、八百万君に個別LINKを送ることにした。

  • 89練乳グラブジャムン25/07/31(木) 18:01:44

    【飯田天哉、八百万百】

    飯田天哉
    『八百万君、少しいいだろうか』
    八百万百
    『どうしました?』
    飯田天哉
    『《誤爆は爆死刑!クソナードと麗日救済グループ》で話している件だが、このままでは意見を取りまとめるのが困難に思う』
    八百万百
    『同感ですわ。私もどうしたものかと考えております』
    飯田天哉
    『そこで提案なのだが、一人一人個別に、ヒアリングをしてはどうだろうか。方法は電話でも対面でもLINKでも構わない』

  • 90練乳グラブジャムン25/07/31(木) 18:04:15

    八百万百
    『それは良いですね。誰が誰を担当するか、配分は?』
    飯田天哉
    『女性陣については八百万君にお願いしたい。男性陣はこちらで取り纏める。切島君と心操君に応援を頼んでみようと思う』
    八百万百
    『承知しました。私からも提案なのですが、《誤爆は爆死刑!クソナードと麗日救済グループ》はこのまま自由に発言していただければ良いと思いますが、よろしいでしょうか』
    飯田天哉
    『同意見だ。あちらは全体連絡と、自由にアイデアを出してもらう場として残しておこう』


    話は決まった。
    まずは個別に意見を束ねていこう。
    その上でアイデアを共有し、更によい案を出してもらう。
    これを繰り返していけば、きっと最良の方法が見つかるだろう。


    ―――― to be continued

  • 91二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 18:05:02

    普通が分からないなら尾白君に聞けば良いじゃない!!

  • 92練乳グラブジャムン25/07/31(木) 18:25:09

    フォローやコメントくれてる人ありがとう、マジで感謝してます。
    ご期待に応えられるよう頑張ります

  • 93練乳グラブジャムン25/07/31(木) 19:38:22

    ■No.436 第一回 恋仲発展プロジェクト会議

    ※SIDE 飯田


    かつてエンデヴァーが経営し、現在は轟君のヒーロー事務所となっているビル。その最上階の大会議室。
    そこに、かつてのA組メンバーが集結していた。
    部屋は証明が落とされ、プロジェクターの明かりが部屋を照らしている。

  • 94練乳グラブジャムン25/07/31(木) 19:45:33

    あれから個別に意見を収集し、意見の異なる部分については認識合わせを行って、話を纏めていった。
    率直にいって、普段の仕事と変わらない……いや、それ以上の労力が必要だった。
    ただのグループLINKから始まった恋愛相談とは思えない力の入れようだったが、全員が非常に協力的で、意外なほど早く話が進んだ。
    A組の皆と、これほど早く再開できたのは、皆の協力あってこそだ。

    「皆さんお集まりいただきましたので、これより会議を始めさせていただきます」
    前に立った八百万君が、指揮棒を片手に口を開いた。

  • 95練乳グラブジャムン25/07/31(木) 19:51:58

    「本プロジェクトは、我々共通の友人である緑谷出久さんと、麗日お茶子さんの、恋仲を発展させることを主目的としています」
    プロジェクター画面に、緑谷と麗日の顔写真が映される。
    刑事ドラマの捜査会議みたいだ。

    「事前の証言調査より、緑谷さん、麗日さんが、お互いに対し、双方共に片思い状態であることが確認されています」
    二人の写真の間に、ハートマークの付いた矢印ボックスが表示される。

  • 96練乳グラブジャムン25/07/31(木) 19:56:57

    「我々はこの喜ばしい事実を知り得ています。ですが、緑谷さんと麗日さんは、まだお互いの気持ちを知りません」
    さらにスライドが切り替わる。
    この資料を準備したのは八百万君だが、どれだけ気合を入れて作成してくれたかが伺える。

    「お二人の尊いお気持ちを、外野である私達が勝手に伝えることは許されません。そんな蛮行が許されるのであれば、この会議は不要です」
    うんうん、と何人かが首を縦に振る。
    耳郎君が申し訳なさそうに顔を伏せていた。

  • 97練乳グラブジャムン25/07/31(木) 19:58:23

    「本題に入る前に、今一度、ここにいる全員の意思を統一する必要があると感じています。まず最初に、恋愛の定義と、目的について整理させてください」
    予想していなかったであろう展開に、何人かが怪訝な顔をした。

    「一言で恋愛と言っても、実はその目的は人によって異なります。恋愛の目的は千差万別、人の数だけ存在しますが、大きく4つに区分可能と考えております」

    スライドが切り代わり、四つの四角が表示された。
    「想いを伝えること。交際に至ること。婚姻を結ぶこと。それから……ど、同衾に至ること!」
    八百万が最後のひとつを、頬を染めつつも、多少ヤケクソ気味に言い切った。
    会議室に、ヤオモモ頑張ったな、という空気が漂う。

    「この四つは、それぞれ何をしたいか言い換えることが出来ます」
    八百万君が指揮棒で指しながら続ける。

  • 98練乳グラブジャムン25/07/31(木) 20:04:20

    「想いを伝えること。これは、片思いの終了を目的にしています。上手くいく保障が無かろうと、とにかく良くも悪くも関係を転換させることが目的になります。どちらかというと失恋するのも覚悟の上で、博打に出るという側面が強いでしょうか。例としては、卒業してしまう先輩にダメ元でアタックするような。そんな分類になります」

    「次に、交際に至ること。これは相手と相思相愛になることを目的としています。『想いを伝える』ことと混同してしまいがちですが、こちらは限りなく100%の成功を目指すという点で異なります。失恋することは絶対に避けたいですから、時間をかけて石橋を叩いて渡るような、そんな本気の恋が該当するかと思います」

    「三つ目に、婚姻を結ぶこと。これはどちらかというと、既に交際中の方が願うことが多いでしょうか。お互いに身を固め、生涯他の恋をしないこと、終わらせることが目的になります。自分達二人だけでなく、周囲の人間の理解を得ていくなど、巻き込む関係者が非常に多くなるものです」

    「最後に……同衾に至ること。これは端的にいえば、肉体関係を目的としたものですね。好意的な解釈をすれば、子宝を望む、と考えることもできます。あまりこういった場で出す話題ではありませんが、定義のひとつとして掲載させていただきました」

  • 99練乳グラブジャムン25/07/31(木) 20:10:24

    「この中から、緑谷さんと麗日さんが望まれている、『お二人にとっての恋愛目的』はどれか。ここにいる皆さんに事前調査し、推察される目的を集計したのがこちらですわ」
    画面が切り替わり、円グラフが表示された。
     ・想いを伝える 4票
     ・交際を始める 12票
     ・婚姻を結ぶ  2票
     ・同衾に至る  1票

    「更に、事前にお二人と話した方々の証言から、有益と思われる証言をピックアップしております」
     《緑谷出久》
     ・もっと麗日さんと仲良くなれたらなって思う
      (証言者:インゲニウム)
     《麗日お茶子》
     ・次の約束をしなかったことを後悔している
      (証言者:イヤホン=ジャック、インビジブルガール、クリエティ、フロッピー、Pinky)

  • 100練乳グラブジャムン25/07/31(木) 20:19:46

    「これらのヒアリングとデータから、本プロジェクトにおいて、お二人の恋愛目的は、次のように定義できるのではないか、と考えました」

     《想いを伝えあい、交際を始めること》

    「これは本プロジェクトの大前提になる部分です。文は私の起案ですが、認識の齟齬があってはいけません。表現でも、認識でも、異議のある方は挙手をお願いいたします」
    八百万君が挙手を促すが、誰も手を挙げない。

  • 101練乳グラブジャムン25/07/31(木) 20:27:44

    「……いいんじゃね。俺らからすると、もうさっさと結婚して子供でも作れよ、って思うけど。あの二人の目的としてはこれで合ってるだろ」
    上鳴君の発言に、皆頷いた。

    「ところで同衾に票入れたのって誰? 峰田?」
    「オイラじゃねえよ? オイラは二番の交際に入れたし」
    「あん? 同衾に入れたのは俺だ。何かあんのか?」
    「爆豪……あー、いや……何でもない。続けてくれ」

    「では、次の話に移ります。皆さんには、何度もご相談させていただき、お知恵を貸していただきました。そのご意見をまとめていく中で、ある統一見解が出てきたと感じています。ここにいる全員の意思を言語化したものが、こちらです」
    スライドが切り替わり、ひとつの文が表示される。

  • 102練乳グラブジャムン25/07/31(木) 20:39:08

     《緑谷出久と麗日お茶子に、幸せになってほしい》

    「先ほど確認したのは、お二人の目的。これは私達A組、全員の願いですわ。異論のある方はいますか?」
    皆がジェスチャーで異論無いことを示した。
    「ありがとうございます。概ね皆さんの認識も一緒でしたが、意思統一をしたかったんです」

    前置きし、スライドが更に切り替わる。
    「では、想いを伝えられない二人に、我々は何ができるか。」

    《周りで囃し立てて、告白を促す。》

    スライドに乱暴な一文が表示された。
    落胆の吐息と共に、皆の眉根が寄る。

  • 103練乳グラブジャムン25/07/31(木) 20:41:03

    「……おそらく皆様、これは下策であるとお考えでしょう。そのとおりです。こんな方法では、お二人の気持ちを尊重していませんし、我々の願いも十全に果たせません」
    スライドの一文に、大きく×印が付けられる。

    「あくまで、お互いの大切な想いは、お二人から、自発的に伝えていただくべきです。では、そのためには何が必要でしょうか。皆さんのアイデアの中に、その答えがありました」
    一拍おいて、スライドが切り替わる。

  • 104練乳グラブジャムン25/07/31(木) 20:43:59

    「それは、舞台です!」
    八百万君が画面を指揮棒で叩いた。

    「人が、大切な想い人に気持ちを伝えるとき。人は誰しも、最適な場所を考えます」
    スライドに、ドラマの一部を切り取ったような画像がいくつも表示された。
    体育館裏にいる男女、夜景をバックにした二人組のシルエット、公園で語らうカップルなどがあった。

    「お二人に、想いを伝えあい、幸せになっていただきたい。そのために我々が出来る事は、これです。

  • 105練乳グラブジャムン25/07/31(木) 20:45:49

     《緑谷出久と麗日お茶子が想いを伝えあうために、最も相応しい「舞台」を用意する》

    「ムードを高め、お互いを意識せざるを得ない状況。感情を昂らせ、想いが自然と口をついて出てくる。そんな舞台を用意する事こそが、私達がお二人にしてあげられる、最大限のサポートです!」
    誰ともなく拍手が上がった。

    「……あのカオスなグループチャットからよく纏めたな」
    「表現はこの一文でよろしいでしょうか」
    「いいと思うよ。分かり易いし。」

  • 106練乳グラブジャムン25/07/31(木) 20:50:24

    「ここから先は僕が進行しよう。八百万君、ありがとう」
    八百万君が着席し、代わりに僕が前に立つ。

    「事前のヒアリングで、皆には最適な舞台として好ましいデートスポットを挙げてもらった。こちらを見てくれ」
    パソコンを操作し、資料を切り替えた。
    プロジェクターにみんなのアイデアが表示される。
     ・喫茶店
     ・お洒落なレストラン
     ・夕日の海岸
     ・夜景の見える高台
     ・街をデート
     ・ペットショップ
     ・公園
     ・映画館

  • 107練乳グラブジャムン25/07/31(木) 20:53:39

    「これらを参考に、緑谷君、麗日君のために用意する舞台を考えたい。どのような場所で、どのような準備が必要か、案をいただけるだろうか」

    「はーい、夜景がいい!」
    「海岸沿いとかも結構いいと思うんだよね」
    「海岸ってムードあるのか? 実際行くと、ただの海だったりしねえ? 案外殺風景な……」
    「街デートなら結構会話弾むんじゃない?」
    「あ、それだと映画はよくねえって話だぞ。時間のほとんど、会話無いからだって」

  • 108練乳グラブジャムン25/07/31(木) 20:55:01

    あーでもない、こーでもない、と、喧々諤々の意見が出てくる。

    それからしばらく続けてみたが、有益な意見はなかなか出てこない。

    「皆、いったん待ってくれ。ただ場所の希望を挙げるのではなく、どうやってそこに連れ出すか、といった事も考慮して挙げてくれないか」
    その一言で、途端に静まり返った。

    「そう言われるとな……」
    「結局どのプランにしたって、あの二人をデートさせるのが、まず最初にして最大の難関なんだよね……」
    「結局そこなんだよなあ。俺らが一緒に遊んでたらデートにならねえし、かといって俺らが『デートしろ、誘え、いけるいける』、みたいに言っちまうと、バラしてるのと変わらねえし……」
    皆が口を閉ざす。

    ううむ、これは困った。
    場所の前に、どのように二人にデートをさせるか、そこから考えた方が良かったか。

  • 109練乳グラブジャムン25/07/31(木) 20:56:50

    議題を誤ったか、と思った時、ぽつりと、轟君が口を開いた。
    「……なあ。これって、全部やったらダメなのか?」
    「全部?」

    「まあ全部は無理かもしれねえけど。いくつか合わせるのは可能じゃねえかな。街歩いて、カフェ行って、夕日見て、飯食って、夜景見て……みてぇな流れなら」
    「まあそう出来れば一番いいけど……」
    「それにしたって、問題はどうやって、緑谷と麗日にそれをやらせるか、だしな」

    「そうか? 出来そうな気がするけど」
    「どうやって?」

  • 110練乳グラブジャムン25/07/31(木) 20:58:05

    「一日空いてれば、時間取れるわけだし。泊まりで遠出すれば、全部できるんじゃねえか?」

    その一言に、皆が顔を見合わせる。

    泊まりで遠出。
    宿を取ってしまっていれば、そう簡単に中止には出来ない。
    みんなで集まると言えば呼び出せる。
    あとは自分達が行かなければ……

    アイコンタクトだけで結論が出され、全員の声が揃った。


    「「「「「 旅 行 だ ! 」」」」」


    ―――― to be continued

  • 111二次元好きの匿名さん25/07/31(木) 22:50:31

    追いついた。続き楽しみにしてます。

  • 112練乳グラブジャムン25/08/01(金) 05:13:29

    >>111

    あざっす! 期待に応えられるように頑張ります。

  • 113練乳グラブジャムン25/08/01(金) 05:17:54

    ■No.437 まだ足りない

    ※SIDE 飯田


    【誤爆は爆死刑!クソナードと麗日救済グループ】

    飯田天哉
    『今日は集まってくれてありがとう。旅行先についての意見が纏めきれなかったので、ここで自由に案を出していただきたい。どんな場所がいいだろうか』
    烈怒頼雄斗
    『まず宿泊先だろ。やっぱホテルか? 旅館か?』
    ピンキー
    『すっごい高いホテルの最上階スイートルームとかロマンチックじゃない?』
    Ⅸ黒い鳥Ⅸ
    『スイートルームか。確かに雰囲気は良さそうだ』
    かみなり
    『また緑谷のキャラじゃねえ場所だなあ』
    テイルマン
    『ヴィラン出過ぎだろ』

  • 114練乳グラブジャムン25/08/01(金) 05:29:55

    イヤホン=ジャック
    『ちょっと待って、一応最初は私ら全員集合する前提なんだよ? そんな部屋はウソでも取れないでしょ』
    シュガーマン
    『そう考えると、やっぱ普通の旅館みたいな部屋がいいんじゃねえか?和室の。その中でなるべくいい部屋探すって方向で』

    大・爆・殺・神・ダイナマイト
    『ところでお前ら、当日いきなり全員が揃ってキャンセルするつもりじゃねえよな?』
    烈怒頼雄斗
    『だって二人だけにしないと意味無いだろ』
    大爆殺神ダイナマイト
    『全員同時にキャンセルしたら、いくらあのクソナードでも気付くわ。順番考えろや」
    青山
    『確かにそうだね。じゃあさ、当日までに順次抜けてくのはどうだろう。当日に仕事とか理由付けて、最後に数名が抜けて、結果的に二人だけにする』
    セロファン
    『まあ自然を装うなら、そうなるよな』

  • 115練乳グラブジャムン25/08/01(金) 05:35:38

    グレープJ
    『じゃあまず、轟は早めに不参加組だな。オイラも早めに不参加にしておこう』
    焦凍
    『いつ抜けてもいいけど、いいのか?』
    グレープJ
    『そういう腹芸は苦手だろ?』
    焦凍
    『そうか?』
    アニマ
    『じゃあ僕も早めに不参加組にしておくよ。逆に最後まで残るべき人っている?』
    かみなり
    『蛙吹とか最後まで残ってた方がいいんじゃね? 麗日と仲いいし』
    テンタコル
    『そういうことなら、飯田も最後まで残っているといいんじゃないか。俺はいつキャンセルの連絡をしてもいい』
    かみなり
    『まあ最終的に全員キャンセルするんだけどな』
    飯田天哉
    『承知した。爆轟君もいいだろうか』
    大・爆・殺・神・ダイナマイト
    『おう』
    心操人使
    『キャンセルのタイミングはいつでもいいよ。海外にいる事多いし、八百万と飯田で指定してくれたら助かるんだけど』
    かみなり
    『他の連中はそれでいいかも。委員長コンビで順番とタイミング考えてもらえる?』
    飯田天哉
    『分かった。草案を作って相談させてもらうよ』

  • 116練乳グラブジャムン25/08/01(金) 05:47:30

    Pinky
    『二人が泊まる部屋は一つ?』
    大・爆・殺・神・ダイナマイト
    『それもダメだ、ちったあ考えろ。相手はあのクソナードだ。女と同室だなんて知ったら、ベランダか路上で寝るって言い出すぞ」
    インビジブルガール
    『でもでも、二人一緒にしないと、絶対に進展しないよ?』
    シュガーマン
    『一緒にしても進展するか怪しいけど、別室だと可能性はゼロだもんな』

    Pinky
    『ヤオモモ~、なんかいい方法無い~?』
    八百万百
    『整理して考えましょう。旅館に着いてからの行程を予測し、その上で、こちらの思惑にハメればいいのですわ』

  • 117練乳グラブジャムン25/08/01(金) 05:54:37

    セロファン
    『まずフロントで鍵を貰う、とか?』
    八百万百
    『そう、まず鍵を貰います。ここが最初のポイントですわね』
    インビジブルガール
    『同室で鍵が1つだったら、その瞬間に緑谷君は別の部屋を用意してくれと頼んだり、他所のホテルを探したりしそう』
    シュガーマン
    『ならやっぱ、2部屋容易して、鍵は男女で別々に渡す必要があるな』
    八百万百
    『そうですわね。ここは仕方ありません、2部屋押さえる必要がありますわ』
    かみなり
    『問題はそこからどうやって1部屋に2人を押し込むか、だな』
    梅雨ちゃん
    『鍵を受け取った後は、まずは荷物を部屋に運ぶわね。その後は時間を見てお風呂かお食事。どっちが先かは場合による、って感じかしら』

  • 118練乳グラブジャムン25/08/01(金) 06:04:15

    焦凍
    『食事はどこで食べるんだ? 食堂か?』
    Pinky
    『旅館だと、部屋で食べることが多いけど、食堂もあるよ』
    梅雨ちゃん
    『大抵は食事中かお風呂中に布団を敷いてくれるわね』
    烈怒頼雄斗
    『なら先に食事、そこから風呂か?』
    かみなり
    『食堂で飯食って風呂行って、部屋戻ったときに布団敷いてあったらそのまま寝るだろ。会話が無くねえか?』

  • 119練乳グラブジャムン25/08/01(金) 06:17:21

    テイルマン
    『なら風呂の後に食事にさせる方がいいか?』
    シュガーマン
    『食事だけどさ、食堂じゃムード出ないし、割り当てられた部屋で食うなら、二人ともボッチ飯にならねえか?』
    セロファン
    『さすがにそれは悲惨だな。味も半減だぜ』
    八百万百
    『同じ部屋でお食事を楽しんでいただく必要がありますわね』
    焦凍
    『そこは友達だから二部屋一緒に、って宿側に頼んでおけば、一部屋に纏めてくれるんじゃねえか? 運ぶ方も楽だろうし、たぶん受けてもらえるだろ』
    インビジブルガール
    『じゃあ食事は1部屋でお願いするとして、やっぱ問題は食事と風呂の順番かな』

  • 120練乳グラブジャムン25/08/01(金) 06:19:45

    Ⅸ黒い鳥Ⅸ
    『風呂が先なら食事のとき一緒だろう。そのまま下げてもらえば、一応同じ部屋には居る』
    Pinky
    『でもその時って、宿の人が出入りしてて、ムードとかあんまり無いような』
    セロファン
    『逆にお開きムード漂ってそうだよな』
    かみなり
    『今更だけど、こっちの動きを悟られないように、あの二人くっつけるって、クッソ難しいなこれ』

  • 121練乳グラブジャムン25/08/01(金) 06:30:09

    イヤホン=ジャック
    『場所もそうだけど、日時って決まってないよね? いつ決行する? スケジュール押さえないと』
    梅雨ちゃん
    『あまり時間を空けたくないわね。進展無いままズルズルいきそう』
    烈怒頼雄斗
    『再来月くらいか?』
    アニマ
    『二人の予定は空いてるのかな?』
    飯田天哉
    『麗日君の日程であれば、蛙吹君が詳しいのではないか? 僕の方にもスケジュールは共有してもらっているが、蛙吹君の情報が最も正確だと思われる』

  • 122練乳グラブジャムン25/08/01(金) 06:44:11

    テイルマン
    『なんで飯田が麗日のスケジュール共有されてるんだ?』
    飯田天哉
    『個性カウンセリングのチームアップがあるからだ。蛙吹君、八百万君にも共有されているよ』
    テイルマン
    『そういえば個性カウンセリング一緒にやってたな』
    梅雨ちゃん
    『お茶子ちゃんの方はある程度分かるけど、緑谷ちゃんの予定は分からないわ。誰か分かるかしら』
    セロファン
    『緑谷だけ俺らと違って、教員だしな』
    グレープJ
    『なあこれ、オイラ達だけじゃ無理だろ。雄英に確認取らなきゃ分からなくね?』


    この峰田君の発言をきっかけに、僕らの暗躍は、次の局面に進んだ。


    ―――― to be continued

  • 123練乳グラブジャムン25/08/01(金) 12:08:19

    ■No.438 第二回 恋仲発展プロジェクト会議

    ※SIDE 飯田


    「それでは、第二回、恋仲発展プロジェクト会議を始めさせていただきます。」
    前回の会議から一週間。
    緑谷君と麗日君を除くA組メンバーは、再び轟君の事務所に集合していた。

    だが、集まっていたのはA組のメンバーだけではなかった。
    そこには新たに、雄英の根津校長とオールマイト、ヒーロー公安委員会の会長であるホークスの姿があった。
    思いがけない大物の登場に、事務所の職員が何事かと驚いていたほどだ。

  • 124練乳グラブジャムン25/08/01(金) 12:12:06

     《緑谷出久と麗日お茶子が想いを伝えあうため、最も相応しい舞台を用意する》

    プロジェクターには、前回決定した、この会議の目的が映し出されている。
    短絡的な行動に走らないためにも、このスローガンを全員で共有することは、非常に重要だ。
    初心忘るべからず。常に意識していきたい。

    「八百万君、また進行を頼めるだろうか」
    全員揃ったことを確認し、八百万君に開始を促す。
    「分かりました。それでは、始めさせていただきます」
    前回と同じように、八百万君が前に立つ。その隣に根津校長も立った。

  • 125練乳グラブジャムン25/08/01(金) 12:15:14

    「前回の会議では、旅行という方向性が決定しました。その後の議題として、日程と場所の問題が保留となっておりました」

    「また日程の確保においては、緑谷さんのスケジュールを抑えるため、雄英にコンタクトを取らせていただきました。結果、根津校長はじめ、雄英の教職員、全員の協力を得ることに成功いたしました」
    「教職員、全員っスか?」
    「今日ここには僕と八木君だけ来てるけど、他の先生方も知っているよ。みんな喜んで協力してくれたよ」

  • 126練乳グラブジャムン25/08/01(金) 12:17:28

    そう、前回の会議から僅か一週間で、協力者はA組の範囲を超えていた。
    最初はA組のみんなでと考えていたが、二人に悟られぬように舞台を整えるためには、我々の力だけでは不可能だという結論に至ったのだ。

    「更にヒーロー公安委員会の協力もいただけることになりましたわ」
    「やあやあ、皆さんお久しぶり。よろしくね」
    ホークスがひらひらと手を振っている。背後には秘書か護衛か、黒服を着た職員が数名立っている。

    「先程から気になっていたが、ホークスも協力してくれるのか?」
    「僕が頼んだのさ」
    常闇君の問いに、根津校長が答えた。

  • 127練乳グラブジャムン25/08/01(金) 12:20:38

    「続けますね。既にグループLINKでお伝えしている内容も含まれますが、今一度整理させていただきます」
    八百万君がスライドを進めた。

    「日程は画面に記載のとおりです。目的地は、岐阜県にある下呂温泉になります。静岡駅から電車で三時間ほど。ここを舞台として準備を進めます」
    プロジェクターに、デートを決行する日付と、地図が表示された。

    「オイラよく知らねえんだけど、良いところなのか?」
    「日本三大名泉の一つじゃねえか。マジで最ッ高の温泉だぜ、超行きてえ」
    「上鳴、あんたの趣味はいいから……」

  • 128練乳グラブジャムン25/08/01(金) 12:25:29

    「まず日程ですが、現時点で、この日に緑谷さんと麗日さんの予定はありません。正確には飯田さんと娃吹さんから、個人的に遊ぼうと仮予定を入れて確保していただいています。ここにいる全員のスケジュールも空いている事が確認取れていますので、この日程で決定したいと思います。問題ありませんね」
    皆が首肯する。

    「次に場所です。この場所に選定した理由は色々ありますが、最大の理由は警備になります」
    「警備?」
    「その通りだよ、上鳴君。この作戦を実行する上で、すごく大事な事なんだ」
    根津校長が口を開く。

  • 129練乳グラブジャムン25/08/01(金) 12:31:08

    「もしデート先で犯罪が起きれば、緑谷君も麗日君も、即座に飛び出していくだろう? そうなれば、もうデートは御終いだ。今回の話を聞いたときに、真っ先に考えたよ」
    「そうか……あいつらの強さはどうでもよくて、そもそも絶対に犯罪やトラブルが起こっちゃいけないわけか」
    「そのとおり。しかも二人に、自分たちが警備されていると気付かれてはいけない。二人に気兼ねなく楽しんでもらうためには、『気付かれないように警備する』。これが重要になるのさ」
    「普通に警備やるより難易度クソ高いな……」

  • 130練乳グラブジャムン25/08/01(金) 12:34:27

    「根津校長の仰る通りです。お二人にデートを楽しんでいただくためには、犯罪が起こらない環境が必要です。そのためには警備が必要。ただしお二人に気付かれてはいけない……この条件を踏まえてしまうと、最初の案にあった海岸沿いという場所については、警備難易度が高いことから、候補から下げられました。下呂温泉は、警備可能かつデートに相応しい観光地として選択されています」
    「ロマンチックだと思ったんだけどなぁ」
    「雰囲気は良くても、流石にしょうがねえよ……海岸沿いで気付かれないように警備とか、相当厳しいって」

  • 131練乳グラブジャムン25/08/01(金) 12:38:40

    再びスライドに戻る。
    「下呂温泉は、岐阜県の山間部にあり、全周を山々に囲まれています。駅周辺の地形もそれほど広くありません。観光地ではありますが、普段警備パトロールを行っているヒーローも数名ほどです」

    「また、メインとなる温泉街に至る道も国道と県道が一本ずつ、その他は交通量の少ない小さな道がある程度。鉄道も一車線しか走っていません。このため街中、周辺道路および沿線上の警備が各段に容易になる、というのが今回の選定理由になります。場所についてですが、異論があればお出しいただければと思います」

  • 132練乳グラブジャムン25/08/01(金) 12:41:13

    「……まあLINKで聞いてたし、場所はいいけどよ。警備はどうするんだ? 俺らで手分けしてやるか?」
    「そうだね、私たちで手分けしてやれば……」
    「それは無理。君達は『仕事や別の用事でキャンセルした』事にして参加しないんだろう? 君達には、現地での警備ができない」
    根津校長から釘が刺さる。

    「付け加えると、君たちを含め、ヒーロービルボードチャートに入ってくるような有名ヒーローを大勢投入することも出来ない。そんなことをすれば逆に騒ぎになるからね。だから、チャートには上がってきていない、比較的知名度の低いヒーローを主体に、街の警備を行う必要がある」

  • 133練乳グラブジャムン25/08/01(金) 12:43:28

    「……あれ、ちょっと待てよ? ってことは、もしかして、このプロジェクトのメンバー、もっと増える?」
    「ご明察です。私たちの作戦には、大きな欠点がありました。それは、万全に準備をしようとすればするほど、お二人の恋心が、公然と大多数の人に知れ渡ってしまう事です」

    「もちろん通常であれば、このような事はプライバシーの侵害も甚だしく、とても許されるものではありません。しかし、本プロジェクトに限ってのみ、この点は優先順位を大きく下げております」

    そう、この点は相談され、僕も考慮した。
    しかし、もっと優先する事があると結論付けた。

    「その理由としましては、緑谷さんと麗日さんの間に、特別な感情が芽生えていることは、多くのヒーローや一般人に至るまで、広く存じている事だからです」

  • 134練乳グラブジャムン25/08/01(金) 12:55:02

    スライドに、雄英側から提供してもらえた、何枚かの写真が投影される。

    集まる群衆。
    ボロボロの緑谷君と、彼を守るように佇むA組の皆。
    そして、雨の中、学校の屋上で叫ぶ麗日君。

    AFOとの決戦前、緑谷君を連れ戻した時の写真だ。
    おそらく警備システムが撮っていたものだろう。

    「この光景を見た事のある人であれば、お二人の間に恋心があると聞かされても、誰も驚かないでしょう。人の恋心は大切なプライバシーではありますが、この二人に関しては、周知の事実といっても差し障りないかと。実際、本当に両片思いなのですし……むしろ仲を進展させるため、広く協力を要請することを重視したいと考えました」

  • 135練乳グラブジャムン25/08/01(金) 12:57:21

    「まあ、クラス全員が察してたくらいだしな」
    「というか、あの場にいた全員が察したわよ」
    「いくらヒーローっていっても、何とも思ってない男の子のために、あんなこと出来る女の子いないもんね……」
    「あんだけ必死に叫んでもらって、何も思わない男もいるわけねえもんな」

    「……思ったんだけどさ。なんでこの状況で、あの二人はお互いの気持ちに気付いてないワケ?」
    「……だから、クソナードと麗日なんだよ」
    切島君の疑問に、頭を抱えた爆轟君が答えた。
    何の説明にもなっていないはずの言葉だが、この上ない説得力があった。

    「警備については、僕とホークス君の方で進めておくよ。都度相談させてもらうし、詳細が決まったら報告するから、今日のところは、いったん警備の事は頭から外してくれていい」
    根津校長が次を促した。

  • 136二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 13:50:01

    うまいくいくのか楽しみ

  • 137練乳グラブジャムン25/08/01(金) 17:55:25

    「ありがとうございます。では場所と日程は、こちらで確定させていただきます。宿の手配等は、これから選定しますので、またグループLINKで相談させてください」
    皆が合意してくれた。
    後ほど全体のグループLINKで、温泉旅行がある旨を伝えよう。
    緑谷君も麗日君のことだ、きっと賛同してくれることだろう。

    「では、次の議題に移らせていただきます。これは女性陣から出てきたアイデアですが、麗日さんをより美しくする必要がある、と考えています」
    更にスライドが切り替わる。
    八百万君から重要な議題があるとは聞いていたが、これは僕にも予想外だった。

    「緑谷さんを本気にさせるため。麗日さんには、今一度魅力的な女性に生まれ変わっていただきます」
    画面にピクトグラムのような、人型のアイコンイラストが大きく示された。

    「こちらが、女性側で考えた、麗日さんのアップデート箇所になります」
    八百万君がスライドを進めると、男性陣の何名かが「うっ」、と小さな呻き声をあげた。

  • 138練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:16:31

    イラストに山のような注釈線が注がれ、アップデート項目がおびただしいほど記載されている。

    全身いたるところに美白、スリムアップ、脱毛の注釈が突き刺さっていた。
    頭部はヘアから始まり、眼下、口元、顎ラインなどの項目が並び、指先にまでネイルケア、下半身には浮腫み解消などの文字が並ぶ。
    文字通り頭の天辺から足の先まで余すところがない。
    いかにして実現するつもりなのか、バストアップなどという項目まである始末だ。

    「改造手術でもするつもりかよ……特撮の怪人とか作ろうとしてねえよな?」
    上鳴君が冗談のように言葉を放つが、誰も笑いもしない。
    これら全ての項目を実現するなど、とても現実的とは思えない。
    全身にメスでも入れるつもりか、さもなくば変な薬でも盛るか、何かしらの個性で変異させるのではと心配になる。

    女性陣は真剣そのものだが、男性陣は唖然としている。
    ホークスまで真顔で絶句しているが、こんな表情は初めて見た気がする。

  • 139練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:18:52

    「女性陣で、およそ最低限必要と思われる項目を列挙しました」
    八百万の発言に、男性陣がお互いに目を合わせる。

    いま最低限と言ったか?
    この注釈線が刺さりまくり、ハリネズミのようになったイラストが?
    唖然とした皆の口が、更に大きく開かれる。

    「ですが、女性視点だけに偏っていては、思い至らぬ点があって然るべき。見落としがあるはずです。麗日さんをより魅力的にするため、特に男性視点での意見をお願いいたします。何かありませんか?」
    八百万君が、確信を持った口調で意見を求めるが、誰も声をあげない。

    このイラストに、まだ線が足りないというのか。
    むしろこれ以上、人体に変更可能な箇所がどこにあるのか、見当もつかない。

  • 140練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:22:15

    「……よく分かんねえけど、もうこの時点でやり過ぎじゃねえの? こんだけやったら原型留めてねえだろ」
    「やり過ぎなわけないよ! 相手はあの緑谷だよ!?」
    「どんだけ綺麗になっても、やり過ぎなんて事、絶対ないから!」
    切島君の発言に、女性陣から非難の声が上がる。

    「峰田さん、いかがでしょう。女性の魅力を考察されるのはお得意かと。何でも構いません、忌憚のないご意見を頂戴したいですが」
    「いや……え、えぇ……あの……ごめんなさい。これで良いと思います、はい」
    話を振られた峰田君が、脂汗を流している。
    流石の彼でも引くほどの内容のようだ。

  • 141練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:25:03

    「……ではこの場では、いったんボディに関しては保留といたします。アイデアが浮かんだら、すぐご連絡ください」
    絶対に誰もアイデアなんて出せないだろ、という空気が、男性陣の間に満ちた。

    「では次に、麗日さんの服装について。女性として魅力的な服装についてご意見をお願いします」
    スライドが切り替わる。
    帽子、上着、スカート、パンツ、ベルト、靴、装飾品に至るまで、それぞれが何種類もあり、おびただしい数の写真が表示される。

    「画像が小さく申し訳ありませんが、服は合わせることで変化しますので、必要最小限に絞り込んだものをご提示させていただいております」
    大真面目なのだろうが、あまりに画像が小さすぎる。
    こんなモザイクアートのようなものを見せられても何も言えない。
    意見を求めているのか絶句させたいのか分からない有様だ。

  • 142練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:28:12

    「特に、緑谷さんの好むヘアスタイルや服装をご存じの方、是非情報をお出しください」
    そういえば、緑谷君の好みとはなんだろう。
    どういう女性が好きなのか、話し合ったことはなかった。
    皆の表情を伺うが、「そんなの知らないぞ」と顔に書いてある。

    「峰田さん、いかがでしょう?」
    「また俺!?」
    峰田君が腕を組んで考え込む。

    「いや……あいつそういう話、あんまり乗ってこなかったし……それに、どれも好きそうだったぞ」
    「どれも好きとか、何でもいいじゃ困るの!」
    葉隠君の声が響く。表情は見えないが、おそらく真剣そのものなのだろう。
    「そういうのが一番困るんですよ!」
    「そうそう! ちゃんと言ってほしい!」
    「ええぇ~……そう言われても……」

  • 143練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:30:45

    峰田君だって困るだろう。
    隠しているのではなく、本当に知らないのだ。
    かくいう僕も、緑屋君がどのような容姿を女性に求めているかなど、全く心当たりがない。
    集中砲火を受けた峰田君が、何とか言葉を絞り出す。

    「じゃあ……髪型は、あまりいじらずに、今のままが一番良い……んじゃないかな……」
    「では服装は?」
    「いや分かんねえって!?」
    遂に峰田君がギブアップした。
    よく耐えた方だと思う。

    「……もうさ、緑谷に直接聞いたらどうなんだ?」
    「それやっちゃうと、そのままの恰好で麗日が出てきたときに勘付かれちゃうでしょ……」
    耳郎君の言葉に、上鳴君も「それもそうか……」と押し黙った。

  • 144練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:33:34

    「なあ八百万、力になれなくて悪りぃんだけどよ……やっぱ服とかは、女同士で買い物に行って、試着とかしながら選んだ方が早いんじゃねえか?」
    「轟さん……私達、女性陣の感性だけで大丈夫でしょうか」
    「いや、むしろ俺達の出る幕がねえっつうか……正直これ見せられても、よくわかんねえよ」
    轟君の率直な意見に、女性陣の気炎が下がる。
    表裏のない彼だからこそ、本当に分からない、というのが伝わったのかもしれない。

    「案外男って、イメージ通りで来られるより、ギャップというか、普段見てない姿に弱かったりするから……女同士で似合う服買って来るのが、一番良いんじゃねえ?」
    切島君の言葉に、女性陣も顔を見合わせて沈黙した。

    「お茶子さんの改造計画に、かなりのお時間を割くと思っておりましたが……少々予想外な結果になってしまいました」
    改造? いま確かに、改造と言ったか?

  • 145練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:36:29

    「……ところで、ひとついいかな」
    オールマイトが手を上げて申し出た。
    「このプロジェクトを進めるにあたっての、費用面についてなのだが。もしよければ、我々にも協力させてくれないだろうか」
    予想外の言葉だった。
    皆で顔を見合わせ、眉をひそめている。

    もう皆働いている。収入だって悪くないだろう。
    わざわざ出資などしてもらわなくても、お金で苦労はしていない。
    緑谷君と麗日君のための費用なら、自分達で工面できる。

    「せっかくのお申し出ですが、我々だけで賄えるかと……」

  • 146練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:37:57

    「緑屋少年と麗日少女のためなんだろう? 私も何かしたいんだ。こんな事くらいしか出来ないが……服でも警備でも、宿代でもいい。何かの足しにしてほしいんだ。是非とも使ってもらえないだろうか」
    「僕の方からも出させてね。スポンサーってことで」
    「こんな機会だからね。遠慮せず、気の早いご祝儀みたいなものだと思って、協力させてほしい」
    オールマイトの言葉に、ホークスと根津校長が続いた。

    断るのは簡単だ。
    だが、断る方が失礼なような気がした。
    みんなと顔を見合わせるが、仕方ない、いいんじゃないか、という表情で頷きあった。

  • 147練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:39:50

    「……では、大変恐縮ではございますが。皆様のご厚意に甘えさせていただいても、宜しいでしょうか」
    「もちろんだ。協力させてくれて嬉しいよ、いい舞台にしよう」
    オールマイトが喜んで応じてくれた。

    考えてみれば、オールマイトはその人生を人助けに捧げてきた人物だ。
    過去の大怪我で、満足に食事もできない身体になってしまったと聞く。
    これといった趣味も聞いたことが無い。
    お金はあっても使い道が無い、こういう用途で使えるのなら本望……という所だろうか。

    根津校長の場合は、そもそも資産が凄まじい額だろうし、本当にご祝儀感覚なのかもしれない。
    ホークスは……単純に楽しいんでいるのだろう、隠そうともせずニヤニヤしている。

  • 148練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:41:05

    その後も細かい調整を決めていき、滞りなく会議は終わった。
    かくして僕らの暗躍は、更なる協力者とスポンサーを得て、次のフェーズに進むことになった。


    緑谷君、麗日君、待っていてくれ。

    僕らが必ず、君達を最高の舞台に連れていってみせる。


    ―――― to be continued

  • 149練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:45:57

    ■No.439 喜ぶ顔が好きだから

    ※SIDE 麗日


    どこか分からない草原にいた。
    青空にたくさんの鳥が飛んでいる。

    あたりを見渡すと、ヒミコちゃんの姿があった。
    お腹の傷が、主張するように、少し痛んだ。

    何か話したいことがあるの?
    でも、もう聞いたような……

    とにかく、何か話そうとして、一歩踏み出す。

    その途端に、青空も、草原も、ヒミコちゃんも、ふっと消えてしまう。
    代わりに、なにも無い、怖気のするような暗闇の空間が広がっている。
    まるで、たった一歩で別次元に飛ばされたような。

  • 150練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:47:02

    自分の居場所も分からない。
    どっちに進めばいいかも分からない。

    暗闇の中、背後から、真っ黒いものが迫ってくる。
    身の凍るような悪寒を全身に浴びて、思い出す。

    そうだ、逃げなきゃ。
    何を呆けていたんだろう。
    あれから逃げないと。

  • 151練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:54:24

    立ち向かうなんて考えられない。
    あれはヴィランなんかとは違う。
    悪意のある人間とは全く異質の、恐怖の塊だ。

    暗闇の中を、必死に逃げる。
    ニンゲンかどうかも分からない、正体不明の何かから。
    恐ろしくてたまらない、真っ黒いものから。
    絶対に追いつかれないように、暗闇の中を、必死に。

    あれはヒミコちゃんじゃない。知っている誰かでもない。
    絶対に捕まっちゃいけない。
    あれに捕まったら全てが終わる。私が私でなくなる。本能でわかる。

  • 152練乳グラブジャムン25/08/01(金) 18:56:47

    気が遠くなるほど長い時間走っていた。
    数時間か、数日か、数か月か。あるいは何年も。

    ずっと追いかけられ続けていて。
    ずっと逃げ続けて。
    もう息は切れ切れで、精魂尽き果てて、足もまともに前に出ない。

    それでも逃げる。
    逃げて逃げて、見ないようにして、それでも迫ってくる。


    足がもつれて転んだ。
    震えて立てず、もう走れない。
    動く腕を使って、懸命に這って逃げる。

    逃げなきゃ、逃げなきゃ。
    真っ黒いものが、どんどん迫ってくる。

    じりじりと距離が狭まり、やがて足元から、真っ黒い何かに飲まれていく。

    こないで、こないで、こないで!

  • 153練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:02:12

    堪えようのない恐怖に、喉が裂けるほどの悲鳴を上げた。
    両手のワイヤーを放ち、滅茶苦茶に個性を使って、手あたり次第に物を投げつける。
    そのどれもが、何の効果も無かった。

    どうにもできない。何も効かない。
    私の全身に絡みつく、真っ黒な怖いもの。
    そいつがニタニタと嗤いながら、耳元に近づいてくる。


    だめだ、聞いちゃいけない。
    その囁きを聞いたら全てが終わってしまう。

    最後の抵抗に耳を塞ぐ。
    両目を閉じて、あらんかぎりの悲鳴を上げる。

    でもお構いなしに、そいつは口を開いて、呪詛を紡ごうとしてくる。

    聞きたくない、それだけは嫌だ!

    お願い! やめて、やめて、やめて――!

  • 154練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:06:21

    「――――っっっ!」
    目が覚めた。
    見慣れた自室が視界に入る。

    「……は……はぁ、はぁ……はぁ……」
    何か、凄く怖い夢を見ていた気がする。

    どんな夢だっけ……いや、別にいいか。
    怖い夢なんて、思い出さなくても。


    「……あぁ、最悪や……」
    寝起きから最悪な気分だった。

    部屋のカレンダーを見やる。
    マルが付けられた日。旅行に行く日だ。
    そうだ、皆と一緒に温泉に行くんだ。

    グループLINKに、旅行の話が来ていた。元A組の皆と一緒に温泉旅行。
    すぐに梅雨ちゃんと予定を変更して、一緒にOKの返事をした。
    泊まりで遊びに行く事なんて今まで無かった。
    すごく楽しみで、カレンダーにマルを付けたんだった。

  • 155練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:08:34

    また、皆に会える。
    きっとデク君にも逢える。
    気分を切り替えていこう。

    デク君に逢えたらどんな話をしよう。
    やっぱり、まずはお仕事の話になっちゃうのかな。
    お仕事の話もいいけど、他にもっと話したい事がある。

    もっと……あれ?
    ……私は、本当は、どんな話がしたいんだろう。

  • 156練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:10:13

    先日の女子会の会話が頭に浮かぶ。

    (ルックスだっていい方だと思うんだよね)
    (緑谷ちゃん、結構カッコよくなってたわ)
    (同じクラスに座ってたら、絶対意識するでしょ)
    (大学から付き合ってる人とかいても不思議じゃないよね)

    ぎゅうっと、胸が締め付けられる。

    わかってる。みんなに悪気なんて無い。
    ただデク君を褒めてくれただけだ。

  • 157練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:12:12

    これは、私が今まで、ずっと考えないようにしてた可能性だ。
    怖くなってしまうから。

    デク君に、他の女の子が現れてしまう可能性。
    それは、これまでの色々なものが無くなってしまうようで。

    ずっと続いてる片思い。
    叶わずに終わる時って、どのくらい辛いんだろう。

    自分のことなのに、わからない。
    考えたくない。
    考えたって、どうしようもない。

    この恋が叶うかどうかなんて分からないんだから。

  • 158練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:13:42

    どうせ考えるなら、楽しい空想をしよう。

    遊園地で、デク君と二人で、手を繋いで歩いて。
    二人で一緒に、クレープ半分こ。
    ほら、とっても幸せそう。

    もしそれが叶ったら、どれだけ嬉しいんだろう。
    昔からずっと憧れてる情景。
    どれだけ頭の中で空想しても、その瞬間が訪れたら一体どれだけ嬉しいか、想像もできない。
    私はきっと、舞い上がるほど喜ぶんだろうな。

  • 159練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:14:55

    あの戦いを経て。
    私たちはやりたい事――やるべき事を見つけて。
    それぞれが選んだ道を、尊重して笑い合う。
    それはとても贅沢で――

    人の喜ぶ顔が好きだった。

    それは言い換えれば、人が困ったり悲しんだりする顔は見たくない、ということでもあって。


    だから。

    一番好きな人を困らせるなんて……絶対にしたくない。

  • 160練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:17:47

    「……着替えて……仕事行かなきゃ」

    しまっておこう。

    ずっと抱えている想いも。
    わけのわからない怖さも。
    胸を締め付ける切なさも。

    全部、しまっておけばいい。


    ―――― to be continued

  • 161練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:28:43

    ■No.440 silent communication


    ※SIDE 緑谷


    雄英高校の訓練場。
    その一つである森林地帯に、訓練の立会いに来ていた。
    教科担当は歴史だが、アーマーが届いてヒーロー活動に復帰してからは、こうして訓練の補助をする機会も増やしてもらっていた。
    いまもアーマーを付けて立ち合いに来ている。

    生徒達を前に、隣に立つ相澤先生が声をあげた。

    「ではこれより、捜索救助訓練を始める。今回は特別講師として、プロヒーローのアニマに来てもらっている」
    「みんな、よろしくね」
    相澤先生の号令で、コスチュームに着替えた生徒の顔に緊張感が宿った。
    対して、紹介された口田君は、親しみやすい笑顔でひらひらと手を振っている。

  • 162練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:39:50

    今回の訓練は捜索訓練。
    内容としては、口田君の放つ『要救助者』の札を付けた鳥を探し、捕まえて鳥籠に入れるものだ。
    口田君の指示で、適切な場所に飛んで行ってくれる。
    意図的に逃げることはしないが、人間ではなく鳥を探すということで、難易度はかなり高い。

    ペットや小さい子供の捜索、強いて言えばヴィランの痕跡調査などにも繋がる訓練だった。
    戦闘訓練のような派手さはないが、その分、支援型の個性の人と協力したり、考えて動くことも多い。
    口田君の派遣は、障子君の事務所に依頼したところ、快く応じてもらえた。

  • 163練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:42:56

    一通りの説明を終え、口田君が複数の鳥を放つ。
    一定時間後に生徒が散開した。

    「じゃあ俺は、あいつらの様子見に行ってくっから。緑谷は口田のサポートだ。ここに残って、何かあれば動いてくれ」
    「はい。生徒の方、お願いします」
    相澤先生が瞬く間に遠ざかっていく。
    片足が義足だとは感じさせない軽やかさだ。

  • 164練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:44:31

    「今日はありがとうね、口田君」
    「全然いいよ。久々に雄英に来れて嬉しかったし」

    訓練中とはいえ、今はやることもない。
    モニターはチェックしているが、時折生徒が移動する姿が横切ったり、相談しているところが映るだけだ。
    戦闘訓練でもないし、それこそトラブルが無ければ終わるまで僕の出番は無いだろう。
    自然と世間話に花が咲く。

    口田君は事もなげに僕との会話を続けている。
    複数の動物とコンタクトを取りながらのはずだが、流石という他ない。

  • 165練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:46:51

    「緑谷君も、先生やるの楽しそうだね」
    「うん、とっても……と、言いたいところなんだけどね」
    脳裏に、先日、元気のない気落ちしている生徒の顔が浮かんだ。
    声をかけたが、放っておいてと拒まれてしまった。

    「何かあったの?」
    「いや……生徒との接し方というか。悩みがあるみたいなんだけど、なかなか話してくれない子がいて。気になって声掛けたんだけど、僕、結構ガツガツ踏み込んじゃうタイプなのか、それが嫌だったみたいで……いいから放っておいて、って避けられちゃって。どう接したらいいかな、って」
    「先生らしい悩みだね」

  • 166練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:49:52

    口田君はしばし逡巡し、思いついたように
    「緑屋君、ひとつ問題出してみてもいい? クイズみたいな簡単なやつ」
    「問題? うんいいよ、なに?」
    「じゃあ、そうだな。例えば……窓際に座って、一人で、ぼーっ、と外を見ている人がいたとするよ。この人とコミュニケーションを取るとき、緑屋君なら、どうする?」
    口田君の想定をイメージする。

    窓際で、一人で外を見ている人。
    その人とコミュニケーションを取るにはどうすればいいか。

    「……普通に、声をかければいいんじゃないかな?」
    「でもその人は、静かに景色を楽しんでいるだけかも。邪魔になっちゃうかもしれないよ」
    「あ、そっか……じゃあ話しかけたら邪魔だから、近付かないでおくのが正解なのかな」
    「でも、もしかしたらその人は、悩みを抱えて、困っているかもしれないよ。そもそも、それだとコミュニケーションにならないし」
    「え……ええ?」

    なんだそれ。
    声をかけても、かけなくても、どっちもダメじゃないか。
    どうすればいいんだろう。

  • 167練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:51:56

    前者ならお邪魔をするべきじゃない。でも、後者なら話は変わってくる。
    話を聞いてあげるとか、手を握ってあげるとか、何とか助けてあげる必要がある。
    「……それどうやって見分ければいいの? 表情?」
    「そんなの無理だよ。プロファイリングのプロでも、全ての人を完璧に見分けるなんて出来ないし。この問題の人は、ただ外を見てるだけなんだから。表情からは分からない、っていう設定だよ」
    「ええぇ……?」

    ますます分からない。
    話しかけたら邪魔になるかもしれない。
    でも放っておいたら、コミュニケーションにならない。困っているのに助けられないかもしれない。
    しかもこの想定では、表情からどちらか読み取れない人の場合だ。

  • 168練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:56:13

    「話しかけたらダメってことは……でも、筆談とかでもないよね」
    「うん。喋れないとか、そういう事じゃない。普通の人だよ。どうする? 実は簡単だよ」
    「簡単? 本当にぃ? えええぇぇ……?」
    簡単だって? 滅茶苦茶難しいぞ、これ。

    話しかけちゃいけない。放っておいてもいけない。
    どっちを選んでもダメ。
    喋らなければいいというわけでもないから、筆談は違う。
    ならジェスチャーで意思疎通を……いや違う、そういう事じゃない。

    ……どうする? どうすればいいんだ?

  • 169練乳グラブジャムン25/08/01(金) 19:59:16

    「……隣に座って、同じ景色を見るんだよ」
    答えの出せない僕を哀れに思ったのか、口田君が正解を教えてくれた。

    「もちろん、あんまり近すぎるとダメだけど。机の向かいに座るとか、そんな距離感かな。相手の方は見なくていいんだ。相手に話しかける必要もない。隣に座って、相手が見ているものと、同じものを、ただ一緒に見るだけ。その時間が、コミュニケーションなんだよ」
    「……それでいいの? 喋らなくても」
    「無理に喋らなくていいよ。何でもかんでも、何か会話をしなきゃ、って思うと、自分も疲れちゃうし、相手も大変でしょ」
    「確かに、そうかも……」

    でもイメージしたら納得できた。
    窓際で外を見ている人。
    その隣に行って、同じように景色を眺める自分。
    別に何も邪魔をしているわけじゃない。
    もし何か話したいことがあるなら、ぽつりと話してくれるかもしれない。

  • 170練乳グラブジャムン25/08/01(金) 20:00:31

    「黙っていたいときって、誰にでもあるよ。美術館で絵を見てるときとか、そうじゃない?」
    美術館の風景が頭に思い浮かんだ。

    「じっと絵を見てる人がいたら、その人の隣に立って、そのままずっと、同じ絵を見続けるんだ。もし一緒に、それこそ30分もその絵を見続けたら……そうしたら、もうその人とは、少し仲良くなれたように感じない?」
    「……ああ、確かに。うん、そんな気がする」
    もし30分も、誰かと同じ絵を見ていたら。
    きっとその人とは、そのあと何か話すことになっても、少し打ち解けて話せる気がする。

  • 171練乳グラブジャムン25/08/01(金) 20:02:33

    「まあ、そんな時間はあんまり取れないかもしれないけど。もしよかったら、参考にしてみてね」
    「いやいや、すごくいい話で! 勉強になったよ。ありがとう、口田君」
    そうか、話すか話さないか、何かするかしないか、の二択で考える必要は無いんだ。

    ただ隣にいる。
    それがコミュニケーションになることだってある。
    そうやって、心を近付けていくことだってある。
    本当に、すごくいい話を聞けてしまった。

  • 172練乳グラブジャムン25/08/01(金) 20:10:38

    ふと、脳裏に麗日さんの姿が浮かんだ。
    一緒にいるときはいつも会話が弾んで、いろんな話をしてしまう。そんな居心地の良さがある。
    だから逆に、黙って一緒にいるという時間は、記憶に無かった。

    もし麗日さんと二人一緒に、心穏やかに、同じものを見ているような……そんな時間が訪れたら?

    言葉を交わしてないのに、お互いの心が近づいていくような。
    もしそんな時間があったら、それはとても幸せな時間だと思う。

  • 173練乳グラブジャムン25/08/01(金) 20:13:40

    その後も訓練は滞りなく終わった。
    口田君には重ねてお礼を伝え、是非また来て欲しいとお願いした。
    生徒の訓練にもなったし、僕自身も勉強になった。

    口田君もそうだけど、みんな社会に出て、色々な経験を積んでいると実感する。
    外部講師は積極的に招こう。
    自分も皆に、沢山教えてもらうことがあると再認識した。


    ―――― to be continued

  • 174練乳グラブジャムン25/08/01(金) 21:07:04

    だいぶ駆け足ですがここまで投下できて一安心です。

    次スレは明日立てるのがいいかなあと考えてます。


    個人的に次のエピソードはかなり好きなので、お楽しみ頂ければと思います。

    スレ跨ぐ事になるのが少し残念ではありますが、ここから先はどこで跨いでも一緒かなあと思うので、引き続きお付き合いください。


    >>136

    ありがとう、楽しみにしてて!

  • 175二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 21:48:13

    話が好みすぎる
    がんばってくれ

  • 176練乳グラブジャムン25/08/01(金) 22:25:14

    ■No.441 麗日お茶子・ドレスアップ

    ※SIDE 麗日


    今日は一ヶ月ぶりの女子会の日だった。
    電車を降りながら、先日の女子会を思い出す。

    「……今日は皆に謝らんとなあ」

    まさか、自分があんなに大泣きするとは思っていなかった。

  • 177二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 23:06:44

    楽しませてもらってます。

  • 178練乳グラブジャムン25/08/01(金) 23:36:02

    デク君と、私じゃない、誰かの結婚式。
    その招待状が手元に届く。
    想像しただけで胸が張り裂けるほど痛んで、耐えられなかった。

    まだそんな悪夢のような郵便物は届いていない。
    だから泣く必要なんてなかった。
    折角の楽しい女子会を、私のせいでお通夜状態にしてしまった。
    もっと心を強く持たないと。
    ちゃんと謝って、それから、今日は旅行の話をしよう。

    何着ていこう、どこを見て回ろう、お風呂は気持ちいいかな……
    そんな話をするだけでも、きっと楽しい事だろう。

  • 179練乳グラブジャムン25/08/01(金) 23:40:07

    「お茶子さん、来ましたわね」
    駅の改札をくぐると、既にみんなが揃っていた。
    だが、何か普段と様子が違う。

    五人とも腕を組み、あるいは腰に手を当て、肩幅に足を開いて立っている。
    その眼は炎が宿ったかのように力強く、これからヴィランとの決戦に向かうかのような気迫に満ちている。
    威風堂々という言葉がピッタリな仁王立ちで、人数もあって特撮の戦隊ヒーローのようだ。

    雰囲気に一瞬気圧されたものの、すぐに近寄って声をかける。

  • 180練乳グラブジャムン25/08/01(金) 23:43:30

    「みんな先に来てたんだ。でもお店じゃなくて駅で待ってるなんて。あの、この前はごめんね。私、ちょっと取り乱しちゃって」
    「全く気にしていません、そんな話はどうでもいいですわ。すぐ行きますわよ」
    「へ?」
    「お茶子ちゃん、今日はご飯は後よ!」
    「まずは服を買いに行こう! こっち!」
    みんな、本当にどうでもいい、という感じだ。
    先日の事は許してくれたのだろうか。

    手を引かれ、ずんずんと早足で進む友人達と、歩調を合わせて進む。
    服を買うのは構わないけど、みんなの気迫が凄い。
    「え? ねえ、服はいいんだけど、なんで急に?」
    「ご飯屋さんは遅くまでやっていても、服とかのお店は閉まっちゃうでしょ」
    「時間との勝負です。服の次は靴、できればベルトや鞄もそれ専用のお店で探したいですわ。それから化粧品類」
    「え、そんなに? 服だけじゃないの? 夕方だよ? 今から?」
    「今しかないじゃん!」

  • 181練乳グラブジャムン25/08/02(土) 05:17:02

    特売セールでもやってるのかな? 平日のこんな時間に?
    「みんな、ほしい服があるの?」
    「何言ってるの、麗日の服だよ」
    「私の?」
    「他に誰もいないでしょ」
    「え? 待って、なんで急に? そんな話してなかったやん」
    「してなかったっけ?」
    「そういえば麗日さんには連絡が漏れていたかもしれません」
    「まあいいじゃん、とにかく服買いに行こう!」

  • 182練乳グラブジャムン25/08/02(土) 05:19:15

    訳も分からないまま、デパートの一角に到着する。
    即座に散開して、わき目も振らず服をあさり始める友人達。
    示し合わせたかのように統率の取れた動きだ。

    とりあえず近くの響香ちゃんに近づく。
    「あの……分かんないんだけど、なんで急に私の服なんて? もしかして前回の女子会で取り乱しちゃったから、かな……ほんとに、ごめんね」
    「ああ、そういうのじゃないから。全然気にしないで」

  • 183練乳グラブジャムン25/08/02(土) 05:23:18

    こちらには眼もくれず、真顔で一心不乱にハンガーをずらして、服をチェックしている。
    怒っているようではない。
    ただ、何故そうしているのかが分からない。
    「とりあえず麗日、このパンツどうかな」
    響香ちゃんに薄いベージュのパンツを渡され、腰のあたりにあてがわれる。

    困惑しつつ試着室に向かわされる。他のみんなも続々と服を持ってきた。
    「……パンツスタイル、似合ってはいるけど」
    「緑谷ちゃんの趣味かしら?」
    「どうだろう。もっと締めて足のライン出る方がいいかな?」
    「でも男受けいいのはスカートだよ? 緑谷君はどっち派?」

    急にデク君の名前が出て、どきっ、としてしまう。
    「デ、デク君は関係無いんじゃないかな?」
    「あるに決まってるでしょ。次、このスカート試して」
    「この上着とベルトも合うんじゃないかな。ちょっとこれも着てみて」
    「こっちのワンピースもいいと思うわ」
    「あっちに帽子あったけど、いる?」
    「迷うより先に持ってこよう」

  • 184練乳グラブジャムン25/08/02(土) 05:24:35

    次々と渡される服の山。
    着せ替え人形にでもされたような気分だ。

    「ねえ、なんで急にこんなに? 私何も分からないんだけど」
    「麗日お願い、時間無いから。とりあえず早く試着して?」
    「お茶子ちゃん、分かんなくてもいいから、早く着ましょう?」
    「なんで? なんで皆そんなに必死なん? 今度の旅行のため? 一緒に温泉行くだけだよ?」
    「ああもうっ! いいから早く着なさい、時間がありませんのよ!?」
    「はっ、はいいぃ!?」
    百ちゃんの勢いに押されて、更衣室のカーテンを閉める。
    ……なんであんなに必死なんだろう?

  • 185練乳グラブジャムン25/08/02(土) 05:27:25

    何度も着替えを繰り返し、皆の前に現れる。
    その度に新しい服が渡され、回収され、眼が回る忙しさだ。

    私だって女の子だ。
    こうしてお店で新しい服を手にして、袖を通すのを楽しく感じる気持ちは人並みにある。
    けれども今は、その楽しさを感じている余裕は全く無い。
    新しい服を買うのを楽しんでる、という空気ではないのだ。
    何故かみんな、災害時の救援物資調達をしているような、緊迫した空気を纏っている。

    「これダメだね、こっちの方がいい」
    「これも違うね、返してくる」
    「合うっちゃ合うけど、どういう系がいいかな」
    「でもお茶子童顔だし、やっぱ下はパンツよりスカートの方がよくない?」
    「あ、分かる。カッコいい女より、可愛い女目指した方が合いそう」
    「そうなるとスカートだね。ロングでいいよね?」
    「うん、今回短いのはいらない」
    「そうだね、様子見て長さ調節すればいいし」
    「上の方で止めて、こうすると……うん、いいね。足長く見える」

  • 186練乳グラブジャムン25/08/02(土) 05:29:59

    なんで皆こんなに真剣なんだろう?
    原因として思い当たるのは、やはり前回の女子会でやらかした大号泣だけだ。
    でもそれは違うと言われているし、そもそも泣いたから服買うっていうのも違う気がする。
    訳が分からない。

    「ワンピースどう? ありじゃない?」
    「ありだと思う、違う色も持ってきて」
    目まぐるしく服が渡され、皆も慌ただしく動いている。
    まるでファッションショーのモデルでもしているみたいだ。

  • 187練乳グラブジャムン25/08/02(土) 05:32:49

    「このあたり、だいぶ良いと思うんだけど……」
    「合わせてもまた変わるし、選ぶの難しいよね……」
    「バッグとの色の合い方とかも考えたいし、ちょっと今すぐ決めるのは厳しいわ」
    「皆さん、19時を過ぎました。もう時間がありません」
    いつの間にか凄い時間が経っていた。

    「ここで絞るのは無理だね、とりあえず良さそうなの全部買おう! 後で家で着てからLINKで写真送ってもらって、それで判断していこう」
    「そうね。当日の天気とか気温でも、コーデ変わるし。選択肢あった方がいいよね」
    「じゃあ、とりあえずこれ全部会計してくるね!」

  • 188練乳グラブジャムン25/08/02(土) 05:34:41

    みんなのやり取りに驚愕した。
    目の前にある服の山は一着や二着ではない。
    「ちょっと待って、全部!? そんな、すごい金額になるよ! そ、そんなお金持ってないよ!?」
    「お金は気にしないで、スポンサー付いてくれてるから」
    「スポンサーって何!? 百ちゃんのこと!? そんな奢ってもらう訳にいかんよ!?」
    「いいから、いいから」

    制止も聞かず、葉隠さんに服を纏めて持っていかれてしまう。
    「いや、ちょっと、ほんと待って!? そんなに買ってもらうワケにいかな」
    「あーーーーーっ! ヤバイ! 忘れてた!」
    突然、隣で響香ちゃんが叫んだ。

    「なに響香ちゃん、どうしたの!?」
    「服で思い出した! ウチら、アレのこと全然考えてなかった!」
    「アレって何ですの?」

    「 勝 負 下 着 ! ! 」

  • 189練乳グラブジャムン25/08/02(土) 05:37:08

    「なあぁっっっっ!?」
    響香ちゃんの口から、とんでもない単語が飛び出してきた。

    「響香ちゃん!? こんなところで何言ってるの!?」
    周囲の眼が気になって、キョロキョロしてしまう。
    いまの発言が他所の誰かに聞かれてはいないかと思うと心配で仕方がない。

    「なんてこと! 私としたことが、痛恨のミスですわ! こんな大事なことを忘れていたなんて!」
    「一大事だわ、当日になって気付くなんて!」
    「百ちゃん!? 梅雨ちゃん!?」

  • 190練乳グラブジャムン25/08/02(土) 05:55:52

    次スレ


    【cp閲覧注意】#2_最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった

    【cp閲覧注意】#2_最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった|あにまん掲示板続き物です。初めての方は初期スレからご覧いただくことを推奨いたします。諸々の注意書きも初期スレにありますので、併せてご確認ください。初期スレhttps://bbs.animanch.com/board…bbs.animanch.com

    タイトル長いので、ナンバリングを頭に持ってきました。


    こちらのスレは、皆様ご自由に埋めちゃってください。

    頂戴したコメントはニヤニヤしながら見ております。


    >>175

    同好の士がいてくれて嬉しいです。貴方のために書いたようなもんさ!


    >>177

    ありがとう! ここからが楽しいと思います。引き続きお付き合いください。

  • 191二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 11:25:12

    見てるよ
    A組がわちゃわちゃしてるの大好きだから楽しい

オススメ

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