【ホラーSS】怖い噂を確かめよう②

  • 11◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 20:35:53

    ブルーロックには“怖い噂”があるらしい

    どこからか笑い声が聞こえるとか、
    足音が増えるとか

    それが嘘か真か、俺達は確かめることになった

    ……でも、そんなこと誰が言い出したんだっけ


    *『怖い噂』と『キャラ』は安価で決定するよ
    *更新遅いからのんびり待っててね
    *キャラは1~30巻の表紙から選んでね
    *キャラの怖さ耐性はスレ主の独断と偏見で決定
    *描写は静かで怖い雰囲気が多め。優しかったり、切なかったり
    *荒らし、誹謗中傷禁止
    *アンチ、スレチ、キャラsage、腐コメ禁止
    *ホスト規制に巻き込まれがち、良ければ保守してもらえると嬉しいな

  • 21◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 20:37:03
  • 31◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 20:47:34

    【真】

    何も、起きなければいい。

    そんなふうに、思っていた。

    でも、モニターを見つめて、たった数秒。
    俺の思いは、無惨に砕け散った。

    「………え?」

    画面の一つに、違和感が走った。

    チラついていた砂嵐の中に、
    白い線が浮かび上がる。

    最初は、ノイズかと思った。
    けど、違った。

    白い線は、文字の形をしてた。

    まっすぐに、並んでる。

    言語の枠に、収まらない。
    でもどこか、整っている文字。

    意味なんか、まったくわからない。

    でも、頭が勝手に、理解しようとする。

  • 41◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 20:49:22

    「……っ……なんだ、これ……」

    気づけば、目を逸らせなくなっていた。

    訳の分からない文字が、
    脳に直接食い込んでくるような感覚。

    やばい。

    これ、本当に、ヤバいやつだ。

    「………あ、…………」

    知らない言葉が、頭の中で形を取り始める。

    それが、何なのかも、分からないまま。

    気づけば、身体の力が抜けていて―――
    視界が、歪む。

    ノイズが、頭の中で膨らむ。
    耳鳴りが、鋭く鳴った。


    その瞬間。


    「立て」

    ぐい、と腕を掴まれた。

  • 51◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 20:51:39

    反射で振り返ると、冴がいた。

    無表情のまま、俺の腕を掴んで、引っ張る。

    「え、……あ、………?」

    返事をする余裕なんて、なかった。

    冴に引っ張られるまま、
    俺はモニタールームから連れ出された。

    ドアが、背後で静かに閉まる。


    そして。


    「………あ、れ…」

    一気に、頭の中が、静かになった。

    あのモニターの文字が、
    何を意味していたのか、もう思い出せない。

    言葉も、形も、輪郭すら残っていない。

    ただ、ぞっとする寒気と、
    どこかに落としてきた何かだけが、
    俺の体の中に、確かに残ってた。

  • 61◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 20:54:33

    「…………助かった、のか……?」

    ぼそりと呟いた俺に、冴は何も答えない。
    ただ、ゆっくりと呼吸を整えていた。

    額に、小さな汗が滲んでる。

    あの冴が、表情を歪ませているのが、
    逆に現実味を持って、恐ろしく見えた。

    俺は何か、とんでもないものに、
    触れかけていたのかもしれない。

    今も頭の奥に、読めないけど、
    忘れられない残響が残っている。

    「……これ、洒落になんねぇな……」

    そんな言葉しか、出てこなかった。


    冴の方を見ると、静かに口が動いた。

    「……だから言っただろ。落ち着けって」


    その言葉に、
    ぞっとするほど、救われた気がした。

    【第十八夜:閃堂秋人・糸師冴】

  • 71◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 20:56:44

    >>8

    どんな『怖い噂』を『誰が』確かめに行く?


    ※怖い噂は自由に書いてね

    ※キャラは1話につき1~4人まで

    ※同じキャラを何回選んでもOK!

    ※安価から外れてもしっかり書くよ

    ※残りはあと二夜!

  • 8二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 20:57:02

    噂 深夜フランス棟でときどき声が聞こえる
    その声からの質問に嘘をついてはいけない
    キャラ シャルル 士道 ロキ

  • 91◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 20:58:50

    >>8 スレ主のエミュの都合でごめんだけどキャラは1~30巻から選んでね

  • 10二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 21:02:40

    あっほんとだすみません!!
    安価なかったことにしてください

  • 11二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 21:12:02

    ブルーロックはかつてそういう界隈でかなり有名な自殺の名所だったらしい。ベテラン霊能力者からBLTVのクレームで「なんて場所に立てているんだい!!」とお説教を喰らうレベル。
    メンバーは凛、世一、カイザー、ネス、

  • 12二次元好きの匿名さん25/08/01(金) 21:22:46

    まだ受け付けてましたらお願いします!

    五角形のベッドのどれか一つの下に隠し階段があって地下にはブルーロックマンの中身が閉じ込められている
    メンバーは國神、潔、蜂楽、千切

  • 131◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 21:26:21

    >>10 こちらこそごめんね。エミュできるようになったらまたよろしくね!


    >>11 あくまで真偽はまだ分からないことを前提に噂として書くね。場所とかはこっちで決めるよ。


    >>12 うん大丈夫、ちょうどぴったり!


    二十夜分リクエストありがとね

    締切も兼ねてお礼です

  • 141◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 22:01:05

    >>11【第十九夜:糸師凛、潔世一、ミヒャエル・カイザー、アレクシス・ネス】


    ブルーロックは、自殺の名所だったらしい。


    そんな噂を、俺たちは確かめに来た。


    「……噂が本当なら、幽霊の一人や二人は出てくるよな」


    適当な廊下を歩きながら、俺は独り言を呟く。


    前回は声しか聞けなかったから、

    本物の幽霊が出るなら、是非とも会ってみたい。


    そのほうが、きっと“面白い”。


    「凛、マジで勘弁して。そういうこと言うと、ほんとに出るからさ……」


    「黙れ、お前に権限なんざねぇんだよ」


    「……はいはい。凛って幽霊の話になると、いつもの5割増しくらいで自我が強くなるんだよなあ……」


    潔がブツブツ喋ってるが、無視する。

    そもそも、返事をする必要がない。


    その横で、顔色が悪ぃクセに、

    変にイキがってる馬鹿が、口出ししてきた。

  • 151◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 22:02:39

    「なんだ、世一。もしかしてお前、ビビってるのか?幽霊ごときで怖がるなんて、子ウサギみたいで可愛いなあ。ついつい踏み潰してしまいそうだ」

    「死人みたいな顔色して、そっちの方がビビってんだろ」

    「世一は冗談が好きみたいだな」

    青薔薇が、潔と無駄な言い合いをしてる。

    「カイザー、僕怖いです……。ていうか、お前歩くの遅いんですよ、早く歩きなさいクソ世一」

    「いや、マジでさ。なんで着いてきたんだよお前ら……。絶対別行動の方がスムーズだって…」

    青薔薇の背後に、
    腰巾着がぴったり貼り付いてる。

    引っ付いてきた腰巾着の腕を、
    青薔薇がうんざりした顔で押しのけた。

    「ネス、離れて歩け。暑苦しい」

    「あう……ごめんなさい、カイザー。でもカイザーの腕が震えてたから、怖いのかなって思ったんだ」

    「クソ黙れ、震えてない」

    ……聞くだけ無駄だ。

    俺はイライラしながらも、
    ブルーロックの廊下をゆっくりと歩いていた。

  • 161◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 22:03:47

    「……で、どこが“名所”なんだ」

    「さっきから探してるけど、何もなさそう」

    潔が、俺の後ろから言う。

    「っていうか、“名所”ってなんだよ。物騒すぎるだろ……」

    「死んだやつが多ければ名所だろ。花でも置いてあんなら分かりやすいんだけどな」

    「花……お供え……」

    青薔薇が小声で呟いたが、
    聞こえなかったことにした。

    「流石にそんなのあったりしないよな……?」

    「さあな」

    俺は、そう答える。

    廊下はしんとしていて、
    遠くで機械のうなる音だけが響いていた。

    扉を何枚か開けて、空室を覗いていく。

    食堂。
    会議室。
    ロッカールーム。

  • 171◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 22:05:15

    何もない。
    ただ静かで、冷えている。

    「なあ、凛。正直、どこが名所っぽいとか分かんの?」

    「知るか、んなもん適当に歩いてれば見つかる」

    「適当に歩いて見つけたくないんだけど……。できるなら真っ直ぐ部屋に戻りたい……」

    「ごちゃごちゃうるせぇ。お前のせいで幽霊が逃げんだろうが」

    「いや、出る前提かよ……!」

    潔が情けない声を出してるのを背に、
    俺は迷わず、曲がり角を曲がる。

    その先には、薄暗く続く通路があった。

    人気はない。
    静かで、何の音も聞こえない。

    空気の流れが、
    どこかで止まっているような感覚。

    「……ここ、他と雰囲気が違うな」

    思わず、呟いたが、
    誰も、何も答えなかった。

  • 181◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 22:06:32

    足音が、やけに響く。


    どこかのドアが少しだけ開いていて、

    まるで、誰かが覗いているように見えた。


    目を細めて、近づく。


    息を詰めるような空気の中で、

    背後から腰巾着の声が割って入った。


    「……ここ、空気が重たくないですか?」


    コイツでも分かるくらいなら、

    間違いなく、ここは“なにか”がある。


    気づけば全員が黙っていた。


    冗談を言うやつもいない。


    ふざけた笑いも、ない。



    誰かが昔、ここで命を絶ったというのなら―――


    その空気が、まだ残っていたとしても、

    別に、不思議じゃない。


    dice1d2=1 (1)

  • 191◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 22:46:35

    【嘘】

    ドアの前で一度、足を止める。

    深く息を吸って、そっと扉を押すと、
    音もなく扉が開いた。

    「…………」

    中は、空っぽだった。

    椅子も、机も、ベッドもない。
    埃すら、ない。

    ただの空白だ。
    無機質で、静かで、何もない。

    「……おい。何か見えるか?」

    「いや……何も」

    「どうやら、噂はハズレみたいだな」

    青薔薇が、どこか安心したかのように呟く。

    その言葉を聞いて、俺は舌打ちした。

    ―――くだらねぇ。

    根も葉もない、ただの噂か。

  • 201◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 22:48:21

    「………帰る」

    俺がそう言って、踵を返したときだった。

    「……ネス、俺の腕を掴むなと言ってるだろ」

    青薔薇の苛立ち混じりの声が、
    ふと、背後から聞こえた。


    「…………え?」

    腰巾着の声が、小さく震えていた。

    その響きが、部屋の空気を変えた。

    「……カ、カイザー……僕、いま……カイザーのそばにいないです……」

    「は?」

    短く吐いたその声は、
    さっき苛立ちではなく、驚きに満ちていた。

    青薔薇は、その場で、動かなくなった。

    「……う、そ、だろ……?」

    潔が、息をのんだ音がした。

    俺は、ゆっくりと振り返った。

  • 211◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 22:51:08

    青薔薇が、部屋の中央で立ち尽くしていた。

    誰かに掴まれているように、
    不自然に、腕が下がっていた。

    俺には、その“誰か”は見えなかった。

    見えない“手”が、
    コイツの手首を捉えて、離さない。

    まるで、何かに引き止められているようだった。

    「……カイザー……っ!」

    腰巾着が駆け寄ろうとしたが、
    足がすくんだように、動けない。

    潔は言葉を失い、
    喉の奥で呻くような音を漏らしている。

    俺はただ、それを見ていた。


    青薔薇のこめかみに、汗が伝う。

    その顔は引きつっていて、
    いつものムカつく薄ら笑いの欠片もなかった。

    ほんの、数秒の出来事だった。

  • 221◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 22:54:30

    何かが離れるように、
    青薔薇の腕が、軽く揺れる。

    そして、まるで何もなかったように、
    自由を取り戻した腕を、見つめていた。

    「……………」

    「…………ッ……!」

    腰巾着の目が、大きく見開かれてる。

    そばにいた潔は、
    言葉が出てこないようだった。

    俺は、ゆっくりと踵を返す。

    「……もう行くぞ」

    淡々とそう言って、部屋を出る。

    誰も俺を止めなかった。


    ―――失望から、一気に“楽しさ”に変わる。

    そういう“噂”の夜だった。

  • 231◆DGCF6cUlCqNA25/08/01(金) 22:56:20

    足音だけが、静かに、廊下へ響いていく。

    後ろから聞こえてくる、
    慌ただしい息遣いと沈黙が、
    不自然に空気を歪めていた。

    腕を掴んだのは、一体誰だったのか。

    そんな思いにふけながら、
    俺は、歩みは止めなかった。

    自殺者らしき奴はいなかった。

    それでも確実に、“何か”がいた。

    それがなんであろうと、
    俺の心を満たしてくれる存在であるなら、
    今日、ここまで足を運んだ甲斐があった。


    ……きっと、明日はいい日になる。

    背後にアイツらとは違う気配を感じながら、
    今日も俺は一人、笑っていた。

    【第十九夜:糸師凛、潔世一、ミヒャエル・カイザー、アレクシス・ネス】

  • 241125/08/01(金) 23:09:02

    センキュースレ主!!

  • 25二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 00:20:02

    さすが、怨霊200体引き連れてる男は違うなぁ...(白目)

  • 26二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 00:29:18

    良い感じに嘘と真があってドキドキする…

  • 271◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 09:09:44

    >>24 こちらこそリクエストありがとう!


    >>25 嘘も真も楽しめる最強の男…


    >>26 後半バランスが良くなってきたね!ブルーロックって実はやばい場所なのかな…


    今日もぼちぼち更新していくよ。最後までよろしくね!

  • 28二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 17:23:51

    保守

  • 291◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 17:56:53

    >>28 保守ありがとう!

    >>12【第二十夜:國神錬介・潔世一・蜂楽廻・千切豹馬】


    「……で、これが例の“噂”ってわけか」


    俺は、目の前に広がる部屋を見渡して、

    小さく、息を吐いた。


    部屋に配置された、四つのベッド。


    五角形で、無機質。

    どれも、同じ形。


    見慣れているはずなのに、今夜は違って見える。


    「ふーん、地下か~。絶対なにかあるって感じするよね~」


    蜂楽が、ひょいと片足で、

    ベッドの端をつついている。


    「ちょっ……お前、そういうのフラグだって……!」


    潔が、小声で注意しながらも、

    その視線は落ち着かないまま、

    ベッドの周囲を歩いていた。

  • 301◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 17:59:18

    「國神……あれ、動いてないよな……?」

    俺の背後から、小さな声。

    「……ああ、動いてない。安心しろ、千切」

    背中にぴたりと張り付いている千切は、
    懐中電灯の光を、肩越しに照らしながら、
    俺の背中にさらに体重を預けてくる。

    もう慣れた。
    こいつは怖がる時は、だいたい俺の後ろにいる。

    「ねえ國神。地下ってことはやっぱ下から音がしたりするんじゃない?聞こえたりしない?」

    蜂楽が、床に耳を当てようとして、
    すぐに潔に止められた。

    「やめとけ!なんか聞こえたらどうすんだよ!」

    「にゃはは♪それって最高じゃん!」

    蜂楽は冗談めかして笑うが、
    その瞳はわずかに緊張している。

    俺にはわかる。
    こいつは、怖いと感じないわけじゃない。

  • 311◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 18:01:30

    「……ブルーロックマンって、AIだよな」

    潔が、ぽつりと呟いた。

    「人間じゃないはずなのに、閉じ込められてるって……意味わかんねえ」

    その言葉が、部屋の静けさに落ちた。

    誰も、すぐには返さなかった。

    俺は懐中電灯を、もう一度掲げ、
    ゆっくりと、ベッドの下を覗く。

    一つ一つ、形は同じでも、
    何かが違うような気がする。

    「どれか一つに、地下への階段がある……か」

    俺の言葉に、三人とも改めてベッドを見た。

    「でもこれ、どれも普通っぽいよね」

    蜂楽が屈んで覗き込むが、
    特別なものは見当たらない。

    「何もなきゃ、それでいい。順に調べる」

    俺はそう言って、
    一番左のベッドの横に膝をついた。

  • 321◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 18:04:00

    「うわ……ホコリ溜まってるな」


    千切が、顔をしかめながら、俺の横にしゃがむ。


    「潔、そっち見てくれ」


    「ああ、わかった」


    「蜂楽は右側な」


    「りょーかい!」


    それぞれが一つずつ、

    ベッドの下を確認していく。


    沈黙が続く。


    物音ひとつない部屋で、

    俺たちの小さな動きだけが響いていた。


    息を潜めながら、俺はそっと手を伸ばした。


    「……この下に、何があるんだ?」


    問いは、誰かに向けたものじゃなかった。


    ただ、自分の胸の奥に向かって、

    静かに落としただけだった。


    dice1d2=1 (1)

  • 331◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 19:03:05

    【嘘】

    「……やっぱり、何もないな」

    俺の言葉を聞いて、四つ目のベッドの下から、
    顔を出した蜂楽が、軽く笑う。

    「だと思った~。でも、こういうの、ちょっとワクワクするよね」

    千切が、俺の腕にしがみついたまま、
    口元だけで笑う。

    「もう慣れてきたのか?」

    「ちょっとだけ……でも、怖いのは変わらない」

    「無理はするな」

    俺は、千切の手を軽く握り返した。

    潔は最後にもう一度、何もない空間を見回して、
    ふぅと、息をついた。

    「……とりあえず、今回はハズレってことだな」

  • 341◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 19:14:11

    「んじゃ、寝る前にちょっと練習しに行く?なんか目が冴えちゃったし」

    蜂楽が、笑って言うと、
    潔も、肩をすくめて応じた。

    「まぁ、体動かして帰った方がスッキリするかもな」

    「俺も、もうちょいボール蹴りたい」

    千切が、俺の横でふわりと笑う。

    「うん、じゃあ決まりね!」

    蜂楽が先頭を切って、軽やかに部屋を出た。


    廊下を抜け、無人の練習場へと向かう。

    明かりはほんのり点いていて、
    夜でもプレーできる環境は整っている。

    「……あれ?」

    潔が、扉の前で足を止めた。

    「どうした?」

    俺が一歩前に出た、そのとき。

    練習場の扉が、音もなく、ゆっくりと開いた。

  • 351◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 19:16:38

    「……っ!」

    驚いた千切が、俺の背中に隠れる。

    「……え」

    扉の向こう、照明の端の影の中に。

    ―――ブルーロックマンが、立っていた。

    距離は、近い。
    ……いや、近すぎる。

    「……なんだよ、これ……」

    潔が、ぽつりと呟く。

    蜂楽も、声を失い、口を開けたまま動かない。

    ブルーロックマンは、無言で、
    じっと、こちらを見ていた。

    音もなく、ただこちらを見つめている。

    目のないはずの顔が、
    俺たちの顔を順番に追って。

    最後に、ほんの少しだけ、首を傾けた。

  • 361◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 19:18:28

    「……」

    その動作の意味は、分からない。

    けれど、どこか、
    “観察されている”ような感覚だけが残る。

    「……消えた?」

    千切の声に振り返ると、
    ブルーロックマンの姿はもうなかった。

    「……あれ、いま、絶対いたよね?」

    蜂楽が、目を凝らして呟く。

    「うん、いた。間違いない……」

    潔が頷く。

    俺も、何も言わずに視線を下ろした。

    「……帰ろうか。今日の練習は、いい」

    誰ともなくそう言って、
    誰も逆らわなかった。

    俺たちは、無言で歩き出した。

  • 371◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 19:19:39

    部屋に戻る足取りは、
    いつもより、ずっと静かだった。

    誰もが、もうこれ以上、
    余計なことを考えたくなかった。


    今日は、噂は【嘘】だった。


    けれど、それでも。


    ―――絶対、何かが変だった。

    【第二十夜:國神錬介・潔世一・蜂楽廻・千切豹馬】

  • 381◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 19:23:11

    噂の検証は今回は一旦終わり
    夢十夜が好きで夢はやったから次は夜かなーと思って書いてみたけど結構楽しかった!
    最後は一~二十まで嘘と真が逆だった場合を書くよ
    ダイス前は同じだから省略して、ダイス後からそれぞれ書くから良かったら最後までよろしくね!

  • 39二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 20:03:25

    書いてくださってありがとうございました!
    結果が逆の方も楽しみにしてますね!

  • 401◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 21:06:08

    >>39 こちらこそここまで読んでくれてありがとう!期待に添えるように気合い入れて書き切るね。

  • 411◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 21:20:42

    【第一夜:潔世一・黒名蘭世】※前スレ9番参照
    【真→嘘だった場合】

    流れる水のなかに、
    確かに、黒いものが見えた気がした。

    でもそれは、ただの―――

    「……髪の毛、一本だ」

    黒名の声に、そっと目を凝らす。

    銀色の排水口に引っかかっていたのは、
    長く伸びた、ただの一本の黒髪だった。

    「…………、これだけか……」

    ふっと、身体の力が抜けた。

    何も問題がないかどうか、念のため、
    シャワーはそのまま、流しっぱなしにしてみた。

    それでも、水のなかに、何も変化はなかった。

    髪の束も。
    何かの気配も。

    もちろん、現れない。

  • 421◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 21:22:07

    「……なあ、黒名」

    「どうした?」

    「これ、普通に誰かの髪の毛が落ちてただけだよな?」

    「ああ、そうだな。俺も、そう思う」

    水音だけが、ぽつぽつと、浴場に響いていた。

    恐る恐る立ち尽くしていた俺たちは、
    ゆっくりと顔を見合わせて、微笑んだ。

    「ほんっと勘弁してくれよ……俺、寿命縮んだ……」

    「良かった。良かった……」

    黒名が笑いながら、腰に手を当てて息をつく。

    俺もそれに釣られて、肩の力が抜けた。

    もう、戻ろう。

    そう思って、シャワーを止めた。


    ―――その時だった。

  • 431◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 21:23:36

    ふうっ……


    「………え?」

    「い、ま……」

    風もないはずの空間で。
    空調も止まってる、この真夜中の浴場で。

    確かに、感じた。

    ―――吐息だった。

    耳たぶに触れるくらい近い、かすかな、息。

    俺は息を呑んで、黒名の方を見る。

    黒名も、俺を見ていた。

    目を大きく見開いて。

    何も、言えずに。
    口を、開いたまま。

  • 441◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 21:24:41

    「……いま、吹かれたよな……?」

    「……っ、俺たちじゃない!絶対違う!」

    次の瞬間、
    俺たちは、何も言わずに走り出していた。

    バシャッと水を蹴って、椅子を倒して、
    二人でびしょ濡れの足で、脱衣所へ飛び込んだ。

    開け放たれたドアの先に、
    暗い廊下が見えたときは、
    全身が安堵と冷気で震えていた。

    「………なあ、潔」

    「言うな、俺もわかってる………」


    噂は―――“嘘”だった。


    でも、それだけじゃ、なかった気がする。

    【第一夜:潔世一・黒名蘭世】

  • 451◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 21:56:26

    【第二夜:糸師冴・潔世一・國神錬介・糸師凛】※前スレ19番参照
    【真→嘘だった場合】

    扉は、思ったよりもあっさり開いた。

    軋む音と共に、
    ひんやりとした空気が流れ出てくる。

    それはまるで、長いこと閉じられていた空間が、
    静かに息を吐いたような、そんな感覚だった。

    ゆっくりと、中に踏み込む。

    俺を先頭に、三人が続いた。

    「……何も、ねぇな」

    部屋は、思いのほか狭かった。

    四方を無機質なコンクリートで囲まれた、
    ただの小部屋。

    棚も、設備も、何もない。

    人が過ごしていた痕跡も、
    物が置かれていた形跡もなかった。

  • 461◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 21:58:17

    「……良かった……」

    潔世一の小さな声が、背後から漏れる。

    張り詰めていた空気が、わずかに緩んだ。

    「なんだよ、肩透かしかよ……」

    凛が、わずかに苛立ちを含んだ声で呟き、
    大きく舌打ちをした。

    國神錬介は無言で一歩下がり、
    静かに息を吐いていた。

    俺は一歩だけ進んで、壁に触れてみた。

    ざらついた手触り。
    埃の匂い。

    ………やっぱり、ただの部屋だ。


    噂は―――嘘だったらしい。

  • 471◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 22:00:23

    「調査終了だな。帰るか」

    そう言って、俺は踵を返す。

    凛が先に部屋を出て、潔世一がそれに続いた。

    國神錬介も、
    照らしていたスマホのライトを消す。

    最後に、俺が扉に手をかける。

    ギィ……と、鉄の軋む音が、再び部屋に響いた。


    そのときだった。


    カリ……カリ……


    乾いた、けれど鋭い音が、
    すぐ近くから聞こえた。

    「…………」

    俺の手が、止まる。

  • 481◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 22:02:45

    カリ……カリ……カリ……

    壁の向こう側。
    内側から、何かが爪で引っ掻いているような音。

    低く、ゆっくり、だが確かに。

    誰かがそこにいて、
    そこから出ようとしているような、そんな音。

    「……おい」

    声をかけたが、廊下に出ていた凛は振り返らず、
    他の二人も気づいた様子はなかった。

    聞こえたのは、俺だけらしい。

    「……気のせいか」

    そっと、扉を閉める。

    閉ざされた空間のなかで、
    まだ、あの音が続いている気がした。

    振り返る気には、なれなかった。

    俺はただ、何もなかったはずの部屋を背に、
    静かに、その場を立ち去った。

    【第二夜:糸師冴・潔世一・國神錬介・糸師凛】

  • 491◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 22:30:04

    【第三夜:オリヴァ・愛空、ドン・ロレンツォ、馬狼照英】※前スレ33番参照
    【嘘→真だった場合】

    「―――あれ、なんか……変じゃね?」

    最初に気づいたのは、たぶん俺だった。

    さっきまでと、絵の空気が違う。

    同じ、構図。
    同じ、男。
    同じ、石段。

    なのに―――

    頭上に、“刃”があった。

    鋭く、細く、まっすぐに、
    男の首を狙うように、ぶら下がる銀の直線。

    重力に逆らっているような、不自然な“刃”。

    ギロチンだと、直感で分かった。

    「……おい、お前ら、あれ……」

    言いかけた、その時だった。

  • 501◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 22:32:18

    絵の中から、声がした。

    ……いや、声というよりも、“囁き”。

    男が座ったまま、口を動かしたように見えた。

    動いているのは、絵のはずなのに―――

    『……これより、判決のやり直しを行う』

    その瞬間、空気が凍りついた。

    ロレンツォの冗談も、バロちゃんの悪態も、
    全部、喉に消える。

    「……動いた……?」

    俺の問いに、誰も答えなかった。

    そして、ギロチンの刃が、音もなく、落ちた。

    すっ、と。

    ただ、それだけだった。


    だけど―――

    男の首は、静かに胴から離れて、
    石段に、コロン、と転がった。

  • 511◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 22:34:29

    転がる音はなかったのに、足元が震えた。

    絵の中に、赤黒いものが広がっていく。

    それは、油絵の中の“赤”なんかじゃない。
    湿り気を含んだ、濃くて重たい、何かだった。

    額縁の下から、それが一滴、廊下へと垂れた。


    ………ぽたり


    俺は、動けなかった。

    そして、もう一度、声がした。

    『………執行の立ち会いに、感謝する』

    ゆっくりと、言葉を区切るように。

    落ち着いた、
    静かな礼儀正しささえ感じる声だった。

  • 521◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 22:35:34

    でも、それはつまり―――

    俺たちは、この判決を“確定”させるために、
    必要だった、ってことだ。

    死刑執行に立ち会う、第三者。

    冷たい鉄と、血の匂いのなかで、
    それを、見届ける役目だった。

    「……俺たち、何を……」

    そう呟いたときには、
    もう絵は、元の静かな肖像画に戻っていた。

    首のある男が、静かに座って、
    何事もなかったように、こちらを見ていた。

    ……俺たち三人の顔を、見ていた。

    まるで、さっきの執行を、忘れさせないように。

    【第三夜:オリヴァ・愛空、ドン・ロレンツォ、馬狼照英】

  • 531◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 22:58:26

    【第四夜:潔世一・蜂楽廻・雷市陣吾・我牙丸吟】※前スレ44番参照
    【嘘→真だった場合】

    ぺた……

    ぺた……

    足音は、近づいてきていた。

    遠くから、ゆっくりと。
    確実に、まっすぐ、こちらに。

    照明の下、長く伸びた影が、
    曲がり角の向こうにちらつく。

    俺たちは誰も、声を出さなかった。

    ただ、廊下の奥から現れた、
    “それ”を見つめていた。

    「………………え」

    思わず、声が漏れた。

    見えた顔が、俺に“似ていた”。

    輪郭も、髪も、立ち姿も、ほとんど俺だった。

    でも、違う。
    何かが、根本的に違っていた。

  • 541◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 23:00:58

    目だ。
    目が、俺じゃなかった。

    「……おれ、じゃない……」

    声に出して、初めて実感した。

    あれは、俺“に似た何か”だ。

    そして―――
    俺はいま、凛と同列でランキング1位。

    ランキング一桁のヤツと遭遇したら、
    ここは、壱号棟。

    ……俺たちは、迷い込んだんだ。


    ぴしゅっ、と乾いた音がした。
    近くで、誰かがボールを蹴っていた。

    その弾む音が、どこかおかしかった。

    リズムが狂っている。
    速すぎたり、遅すぎたり。

    笑い声も聞こえる。

    けどそれも、
    笑っているようで、どこか壊れていた。

  • 551◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 23:03:20

    音が、混線してる。
    ノイズが走ったみたいな、耳障りな不協和音。

    それらすべてが、俺の中で、
    “危険だ”と警告していた。

    「……やばい……、引き返すぞ……!」

    俺は蜂楽の腕を、反射的に掴んでいた。

    「えっ、潔――」

    「いいから来い!!」

    雷市が、「クソがッ!」と叫んで、
    我牙丸の腕を掴む。

    全員が、一斉に走り出した。


    ―――チームA。

    ここにいるのは、そういう連中なんだ。

    会ってしまったら、戻れない。

    勝てるかどうかじゃない。

    ここにいること自体が、間違いなんだ。

  • 561◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 23:06:02

    俺たちは、元来た道をひたすらに駆ける。

    どの角を曲がってきたのか、
    何本目の廊下だったかも覚えてない。

    でも、ただ一つ。

    奇跡みたいに―――帰ってこれた。

    いつもの、見慣れた廊下に。

    「……はあ……っ、はあ……っ」

    しゃがみ込んで、肩で息をする。

    スタミナ自慢の雷市でさえ、
    膝に手をついて、何度も深呼吸してた。

    誰も、笑ってない。

    静かな空気のなか、蜂楽が呟いた。

    「……もしさ。チームAと戦って、負けたら……今度は俺たちが、チームAになってたのかな?」


    誰も、答えなかった。

    ………答えなんか、聞きたくなかった。

    【第四夜:潔世一・蜂楽廻・雷市陣吾・我牙丸吟】

  • 571◆DGCF6cUlCqNA25/08/02(土) 23:39:04

    今日はここまで。
    書きたいことはすぐに思いつくんだけどそれを文字に起こすのにどうしても時間がかかっちゃっていつも遅くてごめんね。
    明日で終わるか謎だけど、ぼちぼち更新するよ
    それじゃあ、おやすみなさい。

  • 58二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 01:24:13

    今日も更新お疲れ様です!
    楽しく読ませてもらってるのでスレ主のペースで無理せずやってね

  • 591◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 09:30:42

    >>58 ありがとう!そう言ってもらえると安心するよ!それじゃあ今日も更新していくからよろしくね

  • 601◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 09:38:53

    【第五夜:二子一揮・剣城斬鉄】※前スレ55番参照
    【嘘→真だった場合】

    0秒。

    スマホの画面が、午前3時を示します。

    その瞬間―――

    鏡が、ゆっくりと“歪み”ました。

    波紋のように、揺れるわけではありません。

    けれど確かに、僕たちの姿が、
    少しずつ、変わっていきます。

    光が滲むように、輪郭が崩れて、
    髪の色が、白くなりはじめました。

    「あ……」

    思わず声が漏れます。

    髪は細く、少しだけ薄く。

    肌にはしわが刻まれ、
    目尻が柔らかく下がっていく。

    それは、時間の流れそのものでした。

  • 611◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 09:40:46

    劣化ではなく、老い。

    映っているのは、未来の僕たち―――

    年老いた、二人の男の姿でした。

    「……老衰、でしょうか」

    ふと、そう思いました。

    鏡の中で眠っている二人は、
    穏やかな顔をしていました。

    安らかに、苦しみもなく、
    何かを終えた人間だけが見せる、静かな寝顔。

    「……おじいちゃんになった俺もかっこいいな」

    斬鉄くんが、ぽつりとそう言いました。

    僕は、苦笑しながら、
    それでも、心の中で頷いていた。

    怖いはずでした。

    “死んだ自分が映る”なんて話、
    ぞっとするものだと思っていました。

    けれど今、鏡に映っているその姿は、
    怖さよりも、不思議な安心感を与えてくる。

  • 621◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 09:41:48

    “いつかこうなる”
    “でも、今はまだ”

    そんな確かな、時間の証明でした。

    ―――もし、何も映らなかったら
    それは、僕たちがもう死んでいるということ。

    けれど今、ちゃんと“未来の死”が見えている。

    つまり僕たちは―――

    「……生きてるんですね、僕たち」

    「………?当たり前だろ?」

    「いえ、ちょっと……確認したくなっただけです」

    冗談のように言って、
    僕は、鏡から目を逸らしました。

    斬鉄くんも、ひとつ背伸びをして、明るく笑う。

    いつの間にか、指の震えはおさまっていました。

    生きている。
    そして、まだ、しばらくは生きられる。
    そのことを、静かに、噛み締めていました。

    【第五夜:二子一揮・剣城斬鉄】

  • 631◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 10:33:41

    【第六夜:凪誠士郎・御影玲王・剣城斬鉄】※前スレ66番参照
    【嘘→真の場合】

    歩くリズムは、崩れなかった。

    照明がまた、
    ピッ、と小さく音を立てて、点滅する。

    斬鉄が、レオに絡むような調子で喋ってて、
    レオはそれに、「斬鉄っていつも元気だよな」
    とか、そんな感じで返してた。

    俺はその会話を、横から聞いてて、
    たまに返事をしたり、相槌を打ったりするだけ。

    さっきまでと、同じ。

    何も変わってないはずだった。


    なのに―――


    『ねえ、レオ』


    声がした。

  • 641◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 10:35:08

    一瞬だけ、すべてが止まった。

    俺も、斬鉄も、レオも。


    それは、“誰かの声”だった。

    だけど、俺の声でも、
    斬鉄の声でも、レオの声でもない。

    女でも、男でもないような。
    低いようで、高いような。

    何かの“間”から、漏れたような声。

    はっきり聞こえたのに、
    すぐ思い出せなくなる種類の音だった。

    レオが、ピタッと口を閉じた。

    たぶん、察したんだと思う。


    “返事しちゃ、ダメ”って。

  • 651◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 10:36:38

    俺は、ゆっくりと二人を見る。

    斬鉄も珍しく、口を閉じたまま前を見ている。

    三人とも、言葉を失ったみたいに、
    一気に静かになった。

    ペタ……、ペタ……、と歩く音だけが、
    廊下に続いていく。

    風が、背中を撫でた気がした。

    誰かが、すぐ後ろにいるような気配がして、
    けれど、振り返る勇気はなかった。

    何も、言わない。
    何も、聞こえない。

    でも、確かにそこに“いた”と思う。

    そのまま、数十歩。

    何かに試されているような時間だった。

  • 661◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 10:37:48

    気配は、ふとした瞬間に、消えた。


    何もなかったように、空気が戻る。

    そのとき初めて、レオが、息を吐いた。

    「………………こわかった……」

    抑えた声で、ぽつりと呟く。

    俺は、小さくうなずいた。

    「うん、怖かったね」

    斬鉄は、何も言わず、
    前を見たまま、歩き続けていた。

    静かなまま、でも、ちゃんと三人で。


    返事をしなかった僕たちは―――


    たぶん、それだけで、正解だった。

    【第六夜:凪誠士郎・御影玲王・剣城斬鉄】

  • 671◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 11:14:38

    【第七夜:乙夜影汰、オリヴァ・愛空、閃堂秋人】※前スレ76番参照
    【嘘→真だった場合】

    湯船の水面が、また、ぴくりと揺れた。

    音は、しない。

    風もないのに、水がごく自然に、
    “何か”を知らせるみたいに、波打ってる。

    「……また、揺れた」

    誰が言ったのか、分からない。

    けど、そのとき―――


    ガコッ


    何かが“外れた”ような、金属の音がした。

    湯船の底が、抜けた。

    あまりに唐突で、あまりに静かな崩落だった。

    水が一気に吸い込まれて、
    そこにぽっかりと、黒い穴が現れる。

  • 681◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 11:17:49

    底のはずの場所に、真っ暗な闇。

    ただの空洞じゃない。
    ずっと奥まで、続いてる。

    地の底?
    それとも、もっと深く?

    俺は、覗き込んだ。

    その時、『……アハハ』と、微かな声がして、
    すっと、白くて細い“手”が伸びてきた。

    「うわっ……」

    思わず驚いた俺は、普通に避け損ねた。

    そして、その腕が、俺の手首をがっちり掴んだ。

    ひんやりしてる。
    けど、力は強い。

    「おー……結構力あるじゃん……!」

    ぐい、と引っ張られる。

    軽くじゃない。
    本気で“引きずり込む”気らしい。

  • 691◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 11:19:30

    「ちょ、おい乙夜!?大丈夫か!?」

    「やべ、マジで持ってかれる……!!」

    そのとき、愛空と閃堂が、
    両側から、俺の肩を掴んだ。

    「こっちが引っぱりゃいいだろ!三人いれば勝てる!」

    「そーだそーだ!男三人VS女の子の幽霊!パワーバランス余裕だろ!」

    俺は笑いそうになる。

    なんだこれ、変な構図すぎる。

    でも、必死に引っ張ってると―――

    穴の奥から、
    “女の子”が浮かび上がってきた。

    腕。
    肩。
    首。

    白くて細くて、濡れていて、
    まるで水に溶けてるみたいに、静かな輪郭。

    そして、顔が見えた。

  • 701◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 11:21:08

    目が、空洞だった。

    黒くて深くて、
    そこから、赤い液体が静かに流れてた。

    「……え、可愛いんだけど」

    ぽろっと、言葉が出た。

    うん、目が空洞でも、
    元は絶対、可愛い顔立ちだし。

    それと同時に、女の子の頬が、
    ほんの少しだけ赤くなった気がして―――

    次の瞬間、
    ふっと空気に溶けるように、消えた。

    空洞も、消えてた。
    湯船は元通り、水が溜まっている。

    俺は、その場に座り込んで、
    大きくため息をついた。

    「……照れ屋さんだったのかな。そういうの、ちょーアガるわ」

    二人とも無言だったけど、
    たぶん、同じこと思ってた気がする。

    【第七夜:乙夜影汰、オリヴァ・愛空、閃堂秋人】

  • 711◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 11:58:46

    【第八夜:潔世一・蜂楽廻・千切豹馬・國神錬介】※前スレ82番参照
    【嘘→真の場合】

    近づいて、石をよく見てみた。

    指でなぞってみると、
    ところどころ欠けているのが分かる。

    刻まれていたはずの何かは、
    相変わらず読み解くことができない。

    風雨にさらされて、風化して、
    たぶん、ずっと昔からここにある。

    「うーん……やっぱり読めない……なんか、彫ってあるっぽいんだけど………」

    俺がそう言うと、
    蜂楽が横から覗き込んできた。

    「これ……なんか埋まってない?」

    蜂楽が、指差した先。

    石の脇、草に隠れて、
    何か、木の棒が見えていた。

    「……これって、卒塔婆?」

    手を伸ばして、土を掻き分ける。

  • 721◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 12:03:38

    表面はすこしぬめっていて、
    土に染み込んでる感じだった。

    それでも、掴んで、引っこ抜こうとした。

    「っ……ぐ……!」

    手に力を込めた瞬間、ぬるりと根元が抜けて、
    その反動で、俺は後ろに尻もちをついた。

    「いてて……」

    蜂楽と千切の笑い声が聞こえた。

    國神は何も言わず、俺の腕を引っ張ってくれた。

    尻もちをついたまま、木の棒を見上げる。

    確かに、そこには何か書かれていた。

    ひらがなじゃない。
    漢字とカタカナが混ざっていた。

    崩れて読みづらい、震えるような筆跡で―――

    ■■■■ヲココニ祀ル

    ■■■■ハイツモミテイル

  • 731◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 12:04:44

    名前の部分は、掠れて読めなかった。
    でも、書いてある意味は、分かった。

    ここには何かが“祀られていた”。

    それは、ずっと“見ている”。

    噂は、真実だった。


    その瞬間、風が吹いた。

    さっきまで生ぬるかった空気が、
    一気に冷たく、肌に刺さるような風に変わった。

    「……っ!」

    風に混ざって、音がした。

    声だった。
    はっきりと、耳元で。

    『カエレ』

    誰の声かは分からない。

    でも、全身の皮膚が総立ちになるのを感じた。

  • 741◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 12:05:48

    蜂楽が、小さく息を呑む。

    千切が、「……今、聞こえたよな?」と呟いた。

    國神も、黙ったまま、背後に目をやっていた。

    全員、同じ声を聞いたのだと分かった。

    「っ……逃げろ!!」

    誰が言ったかも分からない。
    だけど俺たちは、同時に、走り出していた。

    草を蹴って、土を踏んで、倉庫の裏を離れる。

    振り返らずに、ただまっすぐ。

    あの場所に、俺たちが踏み込んではいけない、
    “何か”があると、分かったから。


    きっと、ずっと、あの場所で、
    今日も俺たちのことを、じっと見ている。

    【第八夜:潔世一・蜂楽廻・千切豹馬・國神錬介】

  • 751◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 13:41:46

    【第九夜:オリヴァ・愛空、ドン・ロレンツォ、ミヒャエル・カイザー】※前スレ95番参照
    【嘘→真だった場合】

    ロレンツォの指が、黒い本の表紙をつまんだ。

    ぐっ、と力を込めると、ゆっくりと本が開く。

    ―――その瞬間。

    目の奥に、何かが突き刺さったような、眩暈。

    視界がぐらぐらと揺れて、
    足元の重力が、ぐにゃりと溶けていく。

    「っ……ぐ……」

    声が、出なかった。

    開かれたページには、何も書いてない。

    ただ、真っ黒な、闇のような色が、
    どこまでも続いているだけ。

    でも、それが“深い”のだと分かった。

    紙じゃない。
    そこは、穴だった。

    ………“黒い世界”だった。

  • 761◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 13:43:59

    ふと横を見ると、
    ロレンツォが、額を押さえていた。

    さっきまでの軽い表情が消えて、
    眉が歪んでいる。

    カイザーも、片手で目元を覆いながら、
    わずかにうずくまっていた。

    「……おい、大丈夫か……?」

    自分の声が、自分の耳に届かないくらい、
    頭の中が、ぎゅう、と圧迫される。

    このまま、この本を見ていたら―――

    多分、俺たちは本当に、
    ここに“引きずり込まれる”。

    闇の中を、ずっと、彷徨うことになる。

    終わらない暗さのなかで、出口も見つからず、
    考えることも、喋ることも忘れて、
    ただ、沈んでいく。

    「……そんなの、ゴメンだ」

    息を吐きながら、足元に力を込める。

  • 771◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 13:45:34

    ぐらぐらと揺れる視界の中、
    ロレンツォの手にある本を狙って、
    俺はそのまま振りかぶるように、手で叩いた。

    バシン、と乾いた音がして、
    黒い本が、床に落ちた。

    すると、まるで自分の意志で動くように、
    パタン、と本は閉じた。

    閉じた瞬間―――

    眩暈が、すっと引いた。

    頭が軽くなり、空気の重さも、消えた。

    ロレンツォが、
    きょとんとした顔でこちらを見た。

    「……ちょーっとヤバかったかも?」

    「ちょっとどころじゃねえよ……」

    息を整えながら、そう返す。

    ロレンツォは目を見開いたまま、
    猫みたいに何度か瞬きをしていた。

  • 781◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 13:46:34

    カイザーは、黙っていた。
    ただ、無言で踵を返し、出口の方へと歩き出す。

    俺とロレンツォも、それに続く。

    誰も、もう一度本を開こうとは思わなかった。

    資料室を出る直前、
    ふと背後から、かすかな音が聞こえた。

    ――う、……ぅ、あ……

    誰かが呻いていた。

    あの黒い本の中で、
    声だけになった“誰か”が、まだそこにいる。

    ページの奥。
    真っ黒な世界の、どこかに。

    それを思うと、背中が冷たくなった。

    「……次は、もっと明るい噂がいいな」

    誰にも届かないくらい、小さな声で呟いて、
    俺は、扉を閉めた。

    【第九夜:オリヴァ・愛空、ドン・ロレンツォ、ミヒャエル・カイザー】

  • 791◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 14:20:22

    【第十夜:糸師冴、ミヒャエル・カイザー、ドン・ロレンツォ】※前スレ105番参照
    【嘘→真だった場合】

    銀の取っ手に指をかけて、
    ゆっくりと力を入れる。

    ゴン、と鈍い音を立てて、冷蔵庫の扉が開いた。

    その瞬間、頬に、冷気が触れた。

    深くて、湿った風。

    普通の冷蔵庫の冷たさじゃない。


    中は―――真っ黒だった。

    照明は点いてるはずだ。
    機械音も、微かに聞こえていた。

    それなのに、冷蔵庫の中だけが“闇”だった。

    物が入っていないとか、
    見えにくいとか、そういうことじゃねえ。

    本当に、“闇そのもの”が、そこにあった。

    ……暗さ、じゃない。

    黒さ、だった。

  • 801◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 14:21:59

    俺は一歩も動かず、冷気と向き合った。

    視線の先から、何かが滲んでくる。


    ―――声だった。


    『………………たすけて』

    掠れて、細く、震える声。

    誰かが、冷蔵庫の中から、呼んでいた。


    『ここから……出して……』

    ロレンツォも、カイザーも、黙っていた。

    けれどその沈黙が、答えを示していた。

    声は、一度きりでは終わらなかった。


    『……お願い……たすけて、たすけて……』

    何度も、何度も、繰り返される。

    女か、男か、子供か、大人かも分からない。
    でも、その懇願は、確かに人間のものだった。

  • 811◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 14:23:47

    手を伸ばせば、触れられるかもしれない。

    だが、その先で何が起きるかは、
    誰にも分からなかった。

    ……そして俺は、分からないものには、
    この手を差し伸べることができない。

    「……助けてあげられない」

    小さく、独り言のように呟いた。

    声は、そこで止まった。

    静かに、そっと、扉を閉める。

    冷蔵庫はまた、銀色の“棺”に戻った。

    その場に、誰も言葉を発しなかった。


    無言の時間が、しばらく続いた。

    ロレンツォは、
    珍しく口を閉じたまま、後ろを見た。

    カイザーは何も言わず、
    黙って目を伏せていた。

  • 821◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 14:26:20

    俺は静かに、背を向けた。

    「……帰るぞ」

    誰も、反論しなかった。

    冷蔵庫から聞こえた声。
    あれは、間違いなく人間の声だった。

    だが、“あれ”はもう、すでに闇に囚われて、
    助けを懇願するだけの存在に成り果てていた。

    「………俺たちには、どうすることもできない」

    だから、俺たちは食堂を出た。

    何も持たずに。

    何も残さずに。

    ただ、“あれ”が存在するということだけを、
    胸の中に、そっとしまって。

    【第十夜:糸師冴、ミヒャエル・カイザー、ドン・ロレンツォ】

  • 831◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 18:45:44

    【第十一夜:雪宮剣優・乙夜影汰・烏旅人・氷織羊】※前スレ117番参照
    【真→嘘だった場合】

    どれくらいの時間が経ったんだろう。

    気づけば、誰も何も話していなかった。

    部屋は静かで、ただ青白い光が、
    モニターのフレームを淡く照らしていた。

    目の前には、無数の黒い画面。

    いくら待っても、何も表示されない。

    「……あれ、絶対来ると思ったんだけどなー」

    乙夜くんが、
    スマホを下ろして、肩をすくめる。

    少しだけ、残念そうな顔をしていた。

    「なんや、なんも起きんやん。……はー、怖がって損したわ」

    烏くんが、大きく息を吐いて、腕を組む。

    その動作に、少しだけ安堵が混じっていた。

  • 841◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 18:47:04

    「でも、何もないってのも、それはそれで不気味やなぁ」

    氷織くんが、ふっと笑いながらそう言った。

    確かにそうだ。

    これだけの数のモニターがあるのに、
    すべてが、沈黙したままというのも―――

    それはそれで、気味が悪い。

    「……帰ろうか」

    ぽつりと誰かが言った。

    皆、うなずいた。

    俺たちは、ドアの方に向きかけた。

    その時―――

    右上の隅。

    天井近くの、小さなモニターが、
    ふいに、ふっと光った。

    「………あ」

    振り返った乙夜くんが、画面を指差す。

  • 85二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 18:47:18

    このレスは削除されています

  • 861◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 18:49:43

    そこには、ただ一言だけ、
    白い文字が浮かんでいた。

    “また明日”

    たった、それだけだった。

    映像も、QRコードもない。

    ただ、黒い背景に、白い文字で。

    ―――また、明日

    それだけなのに、背筋がすっと冷えた。

    「……どういう意味、これ」

    誰かがそう言ったけど、誰も答えられなかった。

    明日、何かが起こるのか。

    明日になれば、
    本当にQRコードが表示されるのか。

    それとも―――

    明日になったら、もう戻ってこれないのか。

  • 871◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 18:51:21

    わからない。

    何も、わからない。


    でも、ただひとつ、確かだったのは。

    明日、“この部屋には来ちゃいけない”。

    それだけは、どうしてか、はっきりとわかった。

    まるで、その言葉そのものが、
    この部屋にいる“何か”からの、忠告のようで。


    モニターの光が、
    もう一度だけ、かすかに瞬いた。

    俺たちは、誰も言葉を交わさず、
    静かにモニタールームを後にした。

    その背中を、いくつもの黒い画面が、
    音もなく見送っていた。

    【第十一夜:雪宮剣優・乙夜影汰・烏旅人・氷織羊】

  • 881◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 20:51:57

    【第十二夜:二子一揮・蟻生十兵衛・我牙丸吟】※前スレ124番参照
    【真→嘘だった場合】

    ふと、耳に届いたのは―――鳴き声でした。

    かすかに、遠くから。

    ……けれど、それは確かに、
    生きているものの声でした。

    僕たちは顔を見合わせ、そっと足音を殺して、
    声のする方へ向かいました。

    廊下の突き当たり。
    小さな物音と、こつこつという爪の音。

    暗がりの中から、ふらふらと現れたのは、
    一匹のタヌキでした。

    汚れてはいたけれど、元気そうな様子。

    でも、どこか、怯えているようで。

    それでも僕たちに気づくと、警戒するどころか、
    小さく鳴きながら、足元に擦り寄ってきました。

    「……タヌキ、ですね」

  • 891◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 20:53:52

    「人懐っこくて可愛いな」

    我牙丸くんが、ふっと目を細めます。

    「このタヌキも、元はここにいたのかもな」

    蟻生くんの言葉が、どこか胸に残りました。

    まるでこの子が、
    「何か」を訴えているようで―――

    僕は、そっとしゃがみ込み、頭を撫でました。

    毛並みはごわついていて、
    耳は少し切れていました。

    野生として生きるには、
    少しだけ優しすぎる顔をしていた。

    「森から迷い込んできたんでしょうか」

    僕がそう言うと、
    タヌキはまた、小さく鳴きました。

    その声は、悲しいというより、
    どこか懐かしい響きを持っていて。

    まるで昔から、
    自分はここにいたのだと伝えるようでした。

  • 901◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 20:55:56

    「殺された動物たちって、もしかして……こういう、ただ生きていただけの存在だったのかもしれませんね」

    「……ノットオシャだな」

    蟻生くんがぽつりと、そう返しました。

    言葉の棘の中に、確かな優しさを感じました。

    「俺たちが来た意味は……たぶん、これだったのかもしれない」

    我牙丸くんが、ぽつりと呟きました。

    それを否定する人は、誰もいませんでした。

    僕はそっと、タヌキを抱き上げました。

    ふわりと軽くて、胸の奥に、
    何かが、じんと染み込むような感覚がしました。

    外へ続く廊下を進みます。

    冷たい風が吹いて、
    タヌキの尻尾がふるふると揺れました。

    「僕たちにできることを、しなければ」

    「ああ、そうだな」

    蟻生くんが、小さく頷きます。

  • 911◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 20:57:10

    我牙丸くんが、真剣な眼差しで呟きました。

    「噂が嘘であっても、現実に起こっていることには、きっと意味がある」

    ―――その言葉には、とてつもない重みがある。

    僕たちは裏口の扉を開けました。

    夜の風が、森の匂いを運んできます。

    地面にそっと降ろすと、
    タヌキはしばらくじっと僕たちを見上げて―――

    ふいに、小さく鳴きました。

    そして、闇の向こうへ。

    茂みに身をひそめるようにして、
    静かに走り去っていきました。

    その後ろ姿が、どこか誇らしげに見えたのは、
    気のせいではなかったと思います。

    僕たちはしばらく、その場に立ち尽くしました。

    そして、それぞれ、静かに一礼して、
    夜のブルーロックへと、戻っていきました。

    【第十二夜:二子一揮・蟻生十兵衛・我牙丸吟】

  • 921◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 21:50:43

    【第十三夜:ドン・ロレンツォ、オリヴァ・愛空、糸師凛、士道龍聖】※前スレ135番参照
    【嘘→真だった場合】

    カラン、カラン―――

    神社に置いてあるでっかい鈴みたいな音が、
    闇の中から響いてきた。

    最初は気のせいかと思った。

    でも、確かに耳に残る、金属の擦れたような、
    揺れるような、妙に長い余韻。

    「………聞こえた?」

    「今の……音、だよな?」

    愛空が、俺の横で立ち止まる。
    その声は震えていたけど、気持ちは分かる。

    だって、俺も思わず口笛を止めてたし。

    「……っ、見ろ。出てきたぞ」

    前方の、霧がかってた場所。

    そこに、はっきりと“形”が現れた。

    赤黒い、木の柱。
    もうぼやけてなんかいねぇ。

  • 931◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 21:53:29

    確かにそこに、“鳥居”が立っていた。

    けど、奥は……なんにも見えなかった。

    くぐった先には何もない。
    ただ、底なしの闇。

    それが、口を開けて待ってるみたいに、
    不気味に沈んでる。

    「嘘だろ……本当にあるとは思わなかった……」

    「これ、笑えねーやつだろ」

    愛空と、1億6000万の声が、低く沈む。

    でも、俺が一番怖かったのは、
    その瞬間、“それ”が出てきた時。

    鳥居の奥、真っ暗な空間から、
    ぬうっと何かが現れた。

    ゆっくりと。
    ……ゆっくりと。

  • 941◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 22:18:12

    でっっかい。
    多分、3メートルはある。

    神主みたいな格好してて、
    でも顔には、何か文字がびっしり書かれてる。

    墨か、血か、分からない。

    ただただ、黒くて赤くて、意味不明な記号が、
    皮膚に貼りついてるみたいだった。

    「……なに、アレ」

    誰が呟いたのか、覚えてない。

    そいつは動かない。

    ただ、鳥居の向こう側で、
    こっちをじっと見ていた。

    まるで“見定めてる”みたいに。

    俺たちに“連れていく価値があるか”って、
    勝手に測ってるっぽかった。

    「………!」

    カラン―――

    また、鈴の音が鳴った、そのときだった。

  • 951◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 22:19:47

    2億4000万が、ふらりと前へ踏み出した。

    「………は?」

    1億6000万が、ぽかんとした顔をしてる。

    でもアイツは、
    まるで何かに魅入られたみたいな顔をしてた。

    その手が、ゆっくりと上がる。

    “それ”へ向かって、触れようとしてる。

    「ッ、おい馬鹿、やめろ!!」

    愛空の叫び声が響いた。

    同時に、腕を掴んで、思いきり引き摺り戻す。

    「ふざけんな!何やってんだお前!!消える気か!?」

    「……アイツの行く先に、何があるのか知りたかった」

    声は、静かで、無感情。

    でも、言葉の奥にある“なにか”が、
    妙に怖かった。

  • 961◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 22:21:09

    「ふざけんなってマジで……!」

    愛空が肩を掴んで、必死に説得していた。

    そして、気がつけば―――

    鳥居も、闇も、“それ”も、
    すべてが跡形もなく消えていた。

    いつもの廊下。
    いつもの空気。

    ただ、妙に静かすぎるほどの夜。

    「……帰ろー、今日はちょっとシャレになんなかった」

    俺がそう言うと、誰も逆らわなかった。

    それが何だったのか、誰も知らない。

    でも、あの鈴の音だけが、
    今も耳に、微かに残ってる。

    まるで、「また来いよ」って、
    呼んでるみたいに。

    【第十三夜:ドン・ロレンツォ、オリヴァ・愛空、糸師凛、士道龍聖】

  • 971◆DGCF6cUlCqNA25/08/03(日) 22:22:28

    今日はここまで!完結は明日か明後日かな
    明日から仕事だからまたゆっくり更新に戻るよ。最後までよろしくね!
    それじゃあ、おやすみなさい

  • 98二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 01:31:00

    スレ主今日もおつかれ!
    逆バージョンも面白いね
    スレ主のホラー描写すき

  • 991◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 09:21:57

    >>98 ありがとう!楽しんでいただけて幸いだよ

    褒めてもらえると嬉しくなっちゃう!ありがと、最後まで頑張るね!

  • 1001◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 10:20:25

    【第十四夜:蜂楽廻・潔世一・千切豹馬・國神錬介】※前スレ147番参照
    【嘘→真だった場合】

    風が、ふわっと吹いた。

    夜のスタジアムに、
    芝の匂いが濃く流れ込んでくる。

    その時、なんとなく、
    俺は顔を上げて―――そして、気づいた。

    「……見て、あそこ」

    スタンド。

    誰もいないはずの観客席に、
    ぼんやりと“人影”が浮かんでた。

    「ッ……!」

    潔が、小さく声を飲んだ。

    千切りんが、國神の袖をぎゅっと掴んだ。

  • 1011◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 11:37:55

    「……スタンド、埋まってる……?」

    数えきれない。
    輪郭もはっきりしてない。

    でも、確かにそこに“いる”。

    目を凝らせば、
    影たちは全員、ピッチを見てた。

    「……応援してる、ように見えるな」

    國神が、低く呟いた。

    怖い、って思わなかった。

    ちょっと不気味だったけど………
    なんというか、すごく真剣で。

    ただひたすら、
    何かを見守るような、そんな気配だった。

    「ねえ……聞こえない?」

    「……なにが?」

    俺の言葉に、潔がぴくりと肩を上げる。

  • 1021◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 11:39:20

    タッ、タッ、タッ―――


    ピッチに、足音が響いた。

    「走ってる……誰か、いる……」

    「でも、誰もいないぞ……!」

    「國神……なあ、俺たち、今どこに立ってる?」

    千切りんの問いに、誰も答えられなかった。

    確かにフィールドの端にいたはずなのに―――
    足元に、白線があった。

    センターライン。
    その向こうから、誰かが走ってくる気配がした。


    ―――パァンッ


    ボールを蹴る音。

    鋭く、空気を切って跳ねる。

  • 1031◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 11:40:57

    ぶつかる音。
    跳ね返る音。

    叫ぶ声。
    スパイクの擦れる音。

    「……試合、してる……?」

    潔が、呟いた。

    誰もいないのに。
    でも、確かにそこには、“熱”があった。

    「……あっ」

    その時、何かが決まった。

    俺たちは、全員分かった。

    風が吹いて、ネットが揺れたから。


    ―――ゴール

    その瞬間、スタンドの影が立ち上がり、
    一斉に歓声をあげた。

    声は聞こえなかったけど、確かに“湧いた”。

  • 1041◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 11:43:35

    「うわー………」

    千切りんが小さく呟いていた。

    俺は、ただ見てた。

    その光景が、なぜか美しくて。

    こんな夜に、誰もいないスタジアムで、
    誰かが、試合をしていた。


    「……終わった?」

    潔が、ぽつりと呟いた。

    気づけば、影はどこにもいなかった。

    さっきまでの音も消えて。

    ピッチには、俺たちだけが立ってた。

    「……なあ、あれって」

    「わからねぇ……でも、確かに“何か”がいたな」

    國神の声も、どこか静かだった。

  • 1051◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 11:45:16

    「ねぇ、潔」

    「……どうした?」

    「俺さ、ちょっと羨ましいな。見えない試合、すっごく楽しそうだった」

    俺の言葉に、潔は苦笑いした。

    千切りんは、國神の背中から離れないまま、
    じっと、空を見上げてた。


    風が、また吹いた。

    今度は、ちょっと優しかった。

    俺たちはそのまま、少しだけ黙って、
    フィールドに立ち尽くしていた。

    何もいないはずの夜。

    でも、確かに誰かが“戦っていた”のを、
    忘れないようにそっと、目を閉じた。

    【第十四夜:蜂楽廻・潔世一・千切豹馬・國神錬介】

  • 1061◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 13:33:09

    【第十五夜:糸師凛・二子一揮・七星虹郎・黒名蘭世】※前スレ157番参照
    【嘘→真だった場合】

    誰が俺の後ろにいるのか、本当は知ってる。

    歌声。
    足音。
    空気の震え方。

    気づかない間に、ソイツの癖が出る。

    間違えようがねぇ。

    だけど俺は、名前を“間違えた”。

    「七星虹郎」

    すぐに、背後の気配が揺れる。

    後ろから、わずかに息を飲む音がする。

    「……違います、凛さん」

    その横から、震えた声が聞こえた。


    俺は“わざと間違えた”。

    そしたらどうなるか、知りたかった。 

  • 1071◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 13:36:16

    ―――その瞬間、部屋の空気が変わった。

    時間が歪むような、
    奥行きの感覚がなくなるような。

    視界が、揺れる。
    目を閉じてるはずなのに、何かが見える。

    部屋の中に、白っぽい何かが蠢いてる。

    ガリガリの子供みたいな影。

    ………いや、“人間だったもの”か。

    そいつがこっちに来て、俺の手に触れた。

    ひやりとして、骨っぽくて、
    力は弱いのに、やけに深く引っ張られる感覚。

    ぐい、と腕を引かれて、バランスが崩れる。
    片手をついた床が、酷く冷たい。

    身体の感覚が戻る。
    だけどまだ、俺を引き摺ろうとしてる。

    そいつは笑ってた。
    いや、笑ってるように“見えた気がした”。

    だから、つられるように、俺も笑った。

  • 1081◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 14:43:11

    ―――その時だった。

    『違う』

    男か女かも分からない声が、はっきり聞こえた。

    その瞬間、子供がふっと消えた。
    力も、気配も、全部。

    俺は床に手をついたまま、小さく舌打ちし、
    ゆっくりと目を開けた。

    部屋はいつも通り、埃臭くて狭いだけの空間。
    コイツらは、ただ突っ立っていた。

    「……正解は、お前だろ」

    俺が問うと、チビは「……ああ」と答えた。

    田舎モンが少し唇を噛んで、
    「なんでわざと間違えたんですか……?」
    と訊いてくる。

    「……凛くんが、そうしたかったから。そうでしょう?」

    前髪が、静かに答えた。

  • 1091◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 16:08:31

    ―――正解だ。

    理由なんざいらねぇ。
    興味が湧いたなら、それに従うだけだ。

    それなのに―――

    「……つまんねぇな」

    それだけ呟き、空気が重くなった部屋を出る。

    一度だけ振り返ると、埃の漂う空間の真ん中に、
    まだ“誰か”の気配があった。

    見えないけど、感じる。


    “違う”と、静かに告げたあの存在。

    俺の選択が、間違っていたのか。
    それとも、俺の考えを知っていたのか。

    いずれにしても、あの声は俺を拒絶した。

    ……行けると思ったのにな。
    あと、きっと、もう少しだった。

    次は―――どうやったら、行けるんだ?

    【第十五夜:糸師凛・二子一揮・七星虹郎・黒名蘭世】

  • 1101◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 16:33:58

    【第十六夜:千切豹馬・國神錬介・潔世一・蜂楽廻】※前スレ165番参照
    【真→嘘の場合】

    國神が、ドアノブに手をかけ、
    そっと押し開けた。

    扉が、低い音を立てて開く。

    ……そこにあったのは、
    見慣れたロッカールームだった。

    「…………なんも、ないな」

    潔が、ぽつりと呟いた。

    照明は薄暗いけど、壁に並ぶロッカーも、
    ベンチも、いつもと変わらない。

    「……猫の声、しないね」

    蜂楽は、首を傾げながら、
    ロッカーの隙間を覗き込んでいる。

    俺も、そっと國神の背から離れて、
    足元をぐるっと見回した。

    埃も、何も、落ちていない。
    床は、綺麗なまま。

  • 1111◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 16:35:28

    「もしかして、もうどこかに行っちゃったとか?」

    蜂楽が、少しだけ残念そうな声を出す。

    「最初から、いなかったんだろ」

    潔が言うと、蜂楽は、ぷぅっと頬を膨らませた。

    「えー、でも昨日の夜、誰か聞いたって……」

    「そういう噂って、よくあるじゃん。誰が言ったかも分かんないってやつ」

    「……だな」

    國神が、低く同意する。

    ゆっくりと部屋を見回してから、
    照明のスイッチを確認し、軽くうなずいた。

    俺も、ロッカーの影に耳を澄ませてみる。

    でも、風の音も、何かの気配も、何もなかった。
    ただ、静かだった。

    落ち着いていて―――
    ちょっと、拍子抜けするくらい。

    「…………猫じゃなくて、よかったかもな」

    思わず、そんなことを口にした。

  • 1121◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 16:36:37

    「え?」

    潔が振り向く。

    「ほら……“猫の鳴き声じゃない何か”だったら、怖いだろ。そうじゃなくて、よかったって話」

    「なるほどね~」

    蜂楽が、ふふっと笑う。

    「まあ、いてもいなくても、猫なら歓迎だけどな」

    「そういうもんか?」

    「そういうもんだよ」

    その声が響いた、次の瞬間だった。

    カタン、と音がした。

    小さくて、乾いた音。

    俺たち四人が同時に振り向いたのは、
    ほぼ、反射だった。

    音のした方向―――それは、俺のロッカー。

    「……今の、お前のとこだよな」

    潔が、訝しげに言う。

  • 1131◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 16:37:53

    「え、まさか千切りんのロッカーにいたりして!」

    蜂楽の声が、楽しそうに跳ねる。

    「開けてみよう」

    國神が一言だけ呟いて、歩き出した。

    躊躇いなく、ロッカーの取っ手を握って開ける。

    ……中から、何かが落ちた。

    それは、小さな猫の首輪だった。
    赤いベルトに、鈴のついた、ごく普通のやつ。

    「……え?」

    思わず、声が漏れる。

    「……千切、お前の?」

    潔が尋ねるけど、俺はゆっくりと首を振った。

    「いや……見たことない」

    國神がしゃがみ込み、そっと拾い上げた。
    鈴が、小さく震えて鳴った。

    「傷も汚れもない……新品みたいだな」

  • 1141◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 16:43:41

    「誰かのいたずらかなあ」

    蜂楽が言ったけど、
    誰の顔にも、笑みはなかった。

    でも、俺は―――

    「……猫、本当にいたのかもな」

    そう、思ったんだ。

    この首輪を残して、どこかへ行った。
    そう考えれば、少しだけ温かい気持ちになれた。

    「もしまた会ったら、ちゃんと名前、つけてやりたいな」

    俺がそう呟くと、國神が笑った。

    「そうだな」

    鈴が、小さく、また鳴った。
    風もないのに、音だけが、ふっと響いた。

    でも、それだけだった。
    それ以上、何も起こらなかった。

    だから俺たちは、
    首輪を手に、静かに部屋を後にした。

    【第十六夜:千切豹馬・國神錬介・潔世一・蜂楽廻】

  • 1151◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 20:34:45

    【第十七夜:二子一揮、馬狼照英、オリヴァ・愛空、ドン・ロレンツォ】※前スレ184番参照
    【嘘→真の場合】

    空気が、ふと、揺れた気がしました。

    冷たい空気の、そのもっと奥に―――
    うすぼんやりと、白い光が滲んでいた。

    「……なんか、いる」

    愛空くんの声が、珍しく低くなります。

    白い光は、奥の席のひとつ。

    明かりの届かない、食堂の隅に。

    「マジかよ……」

    馬狼くんが、一歩前へ出ます。

    「……あれって、まさか」

    ロレンツォくんも、
    息を飲むような声を出しました。

  • 1161◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 20:37:08

    僕は、そこへ懐中電灯を向けました。

    けれど、そこにいるものは、
    はっきりとは映らなかった。

    “白い影”は、確かに椅子に座っていました。

    背筋を伸ばして、動かない。
    輪郭も、はっきりとしません。

    ふわりと滲んだ光の中に、
    人の形が、かろうじてあります。

    「……顔、見えるか?」

    愛空くんが、僕の肩越しに囁きました。

    「いいえ……でも、なんとなく」

    影は、こちらを見ていました。

    瞳も、口元も、わからない。

    けれど―――笑った、ような。

  • 1171◆DGCF6cUlCqNA25/08/04(月) 20:42:57

    そう、思った瞬間でした。

    影が、ふっと、立ち上がります。

    何も言わずに、何も動かずに。
    ただ、白い光がすこし、揺れました。

    そして―――
    そのまま、ふわりと消えていきました。

    「っ、いま……!」

    「……消えたな」

    馬狼くんが、低く呟いた。

    僕たちは、しばらく動けませんでした。

    何も起きなかった。
    でも、確かに“いた”。

    「……なんか、悲しそうだったな」

    愛空くんの言葉が、ぽつりと零れた。

    「別に害はないみてぇだが……なんなんだ、あれ」

    馬狼くんが、腕を組んだまま、
    視線を食堂の奥へ投げます。

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