【cp閲覧注意】#2_最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった

  • 1練乳グラブジャムン25/08/02(土) 05:47:12

    続き物です。

    初めての方は初期スレからご覧いただくことを推奨いたします。

    諸々の注意書きも初期スレにありますので、併せてご確認ください。


    初期スレ

    https://bbs.animanch.com/board/5382854/?res=189

  • 2二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 05:54:07

    たておつ
    地道に読んどるで

  • 3練乳グラブジャムン25/08/02(土) 06:07:01

    ■No.441 麗日お茶子・ドレスアップ (続き)

    ※SIDE 麗日


    「ナイス耳郎ちゃん、私も完璧に忘れてた! 今ならまだ店開いてるよね。ちょっと待って、すぐ調べるから!」
    三奈ちゃんがサッとスマホを取り出して検索を始める。

    「お茶子ちゃん、恥ずかしがらずに教えて。勝負下着、どんなの持ってる?」
    「ええええ!? な、つ、梅雨ちゃん!? な、ななな、そんな、そんな、しょしょしょっ」
    全く予想外の質問に、顔が真っ赤になっていくのが分かる。

    梅雨ちゃんは真剣な表情で聞いてくるが、勝負下着だなんて、そんなモノあるわけない。
    私はずっとデク君一筋で、彼氏なんて居たことが無い。
    当然、勝負下着なんて必要無いわけで。
    持ってるかと聞かれても、まずどういうモノが勝負下着に該当するのか、それすらもよく分からない。

  • 4二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 06:24:00

    もう妊娠出産まて続けてくれ(強欲)

  • 5練乳グラブジャムン25/08/02(土) 06:43:17

    「この反応は一つも持って無いヤツだよ! マジでやばいよ!」
    「響香ちゃん、ヤバイって何が!?」
    「大丈夫、近くに店あった! でも今日は20時閉店、今すぐ行くよ!」
    「一番最初に気付くべきだったね。ほらお茶子、勝負下着買いに行くよ!」
    「ちょっと待って!? そもそも勝負下着って何!? まだ袋開けてない綺麗なヤツならちゃんとあるよ、デパートで買ったやつがちゃんと」
    「お茶子ちゃん、それは勝負下着じゃないわ」
    キリっとした梅雨ちゃんにバッサリ否定される。

  • 6練乳グラブジャムン25/08/02(土) 06:46:22

    「違うの!? じゃあ勝負下着って何!?」
    「勝負下着ってのはね、男がめっちゃ喜んで、理性が飛んでケダモノになっちゃう、えっちのための下着のことよ!」
    「はああああああぁぁぁっっっ!?」
    何となくそうかも、と予想はしていたが、三奈ちゃんの表現があまりに火の玉ストレートすぎる。

    「子連れで行けるお店に売ってるような豆鉄砲で、緑谷の理性を崩せるわけないでしょ!?」
    「緑谷さんの理性は戦車並みの重装甲でしてよ! 大砲が必要ですわ! 対戦車ミサイルかロケットランチャー並みの火力が無くては!」
    「ほら、分かったら行くよ!」

    ぐいぐいと手を引かれていく。
    会計に行っていた葉隠さんも合流して、行先変更に即座に納得している。

    「待って!? なんも分からんって!?」
    「いいからすぐ動く! こんな問答してる時間も惜しいんだから!」
    「待って、待って!? 私、勝負下着なんて、そんなのいらんて!」

    「「「「「 い る に 決 ま っ て る で し ょ ! ! 」」」」」

  • 7練乳グラブジャムン25/08/02(土) 07:38:06

    駄々をこねる要救助者を一喝するように、五人同時に声が揃った。
    「一番重要じゃない!」
    「いやいやいやいや、だって! 勝負下着って、そんなん何に使うんよ!?」

    「緑谷君を落として、えっちするために使うに決まってるでしょ」
    「えっちする時に興奮してもらわなかったら、どうすんのよ」
    「殿方とえっちするためには必要不可欠でしょう?」
    「緑谷みたいなタイプは、攻めすぎなくらい攻めないと、えっちに持ち込めないって」
    「お茶子ちゃんは、緑谷ちゃんと、えっちしたくないの?」
    「みんな、人のいる往来でその単語使うのやめよう!?」

  • 8二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 07:45:29

    みんなフルスロットルで可愛い

  • 9二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 07:55:32

    いいぞもっとやれ(ゲス顔

  • 10練乳グラブジャムン25/08/02(土) 08:12:01

    手を引かれて歩くが、どこへ連れていかれてしまうのか、誘拐されるような不安が襲う。
    「待って、待って、ほんとに待って!? なんで!?」
    「理由は説明したでしょ」
    「いやだから全然分からな」
    「いいから! 説明なんか後、さっさと歩く!」
    「想定外の事態ですわ、一刻を争います!」

  • 11練乳グラブジャムン25/08/02(土) 08:31:37

    あれよあれよという間に店に着く。

    【18歳未満お断り】の紙が貼られた妖しい外観の店舗に、全く躊躇いなく入っていく友人達。
    手を引かれるまま店内に連れ入れられる。
    暖色系の照明と艶黒い壁紙が、アダルティな店内を演出していた。

    店中に並ぶ、初めて見る下着の山。
    そのどれもが見たことも無いデザインで、端的に言えば刺激が強い。
    子供も通りがかる、デパートの下着売り場に陳列することは避けたい商品であることは一目で分かる。

    店の奥には下着の他にも、生地の薄い……コスプレ衣装だろうか、セーラー服やナース服みたいなモノが並んでいる。
    更にその奥には衣服ではない、何か小物を入れているであろう箱が陳列されていたが、それが何かを考える前に顔を背けた。

  • 12練乳グラブジャムン25/08/02(土) 08:58:26

    「ほら探すよ。麗日、スリーサイズ教えて?」
    「そ、そんなん、いきなり……い、いくつやったかなあ?」
    覚えてはいるが、すっとぼけるしかない。
    みんなの気が変わって帰ることを祈るばかりだ。

    「問題ありません、サイズはこちらの紙に控えてあります。皆さんこのサイズで着れるものを探してください」
    百ちゃんが紙を取り出した。
    BWHのアルファベットと数値、更にはカップ数まで書かれている。
    間違いなく私のサイズだった。

    「合ってるぅ!? 百ちゃん、なんで知っとるんよ!」
    「細かいこと気にしなくていいから、早くお茶子も探して」
    「待って!? 絶対おかしいって、なんで私のサイズが」
    「あーはいはい。この前、麗日に聞いたじゃん」
    「響香ちゃん、私、自分のスリーサイズなんて話したことないよ!?」
    「酔ってて忘れたんでしょ」
    「ヒーローはお酒飲まへん!」

  • 13練乳グラブジャムン25/08/02(土) 09:25:25

    わけが分からない。
    でも誰も説明してくれない。
    私の制止も疑問もどこ吹く風、全く聞き入れてくれない。
    皆、卑猥な下着が並ぶ売り場をズンズン進み、ぱっぱと下着を手に取っていく。

    「麗日、これはどう?」
    「え……ええええ、スケスケぇぇ!?」
    渡されて反射的に持ってしまったが、布が透けている。
    手にした指の色も輪郭もくっきりだ。
    こんなの着たら大事なところが丸見えになっちゃう。

    「こっちとかどう?」
    「布めっちゃ小さい!?こんなん紐やん、何も隠せないよ!?」

    「パンドルショーツは?特別感はかなりあると思うけど」
    「何これ!? ふんどし!? どうやって穿くの!?」

    「こっちのショーツはどう? 穴空いてるけど。流石に攻めすぎ?」
    「ひゃああああああああああ!? なにこれ無理無理無理無理!」

  • 14練乳グラブジャムン25/08/02(土) 10:37:04

    見ているだけで恥ずかしい。顔から火が出そうになる。
    「ちょっと待って!? こんなん持ってきて、何でみんな平気なんよ!?」
    「必要なことだから」
    「救助活動中に恥ずかしいとか言ってる人いないでしょ。同じよ」
    「実際似たようなもんだしね」
    「訳わからんよ!?」

    スーパーで野菜や魚でも見繕うような顔で、直視もできない下着を漁る友人達。
    次々と渡されたブツを抱えたまま、頭を抱えてしまう。
    「……何でみんな平気なん? 救助活動って何なん? みんな持ってるん? 持ってるのが普通なん? 何に使うん? 今までそんな話全然しなかったやん? 何やこれ、私がおかしいんか?」
    あまりの状況に頭が混乱する。

    店内で大騒ぎをしてしまっている自覚もあるが、他にお客さんも見当たらず、店員も我関せずだ。

  • 15練乳グラブジャムン25/08/02(土) 11:49:50

    「これはどう? 黒だからエロい感じ出ると思うけど、これじゃ普通すぎる?」

    「ブラどうする? フロントで紐結ぶタイプだと、解いてもらえるとこ見えるよ」

    「Tバックは? ベタすぎるかな」

    「麗日タイツ好きだし、網タイツとかガーター付けてみたら?」

    これまでの人生で一度も見たことがない、卑猥な下着がぽいぽいと渡される。
    両手に大量の下着を持たされ、あまりの羞恥に卒倒しそうになる。

    「待って、これ本当にどういう状況!?」
    「いいから。お茶子ちゃん、どれがいいかしら?」
    「麗日さん、好みとかあります?」
    「もしくは緑谷の好みは?」
    「初えっち、どう進めたい?」
    「分からん! 分からん! 分からへんて!」

  • 16練乳グラブジャムン25/08/02(土) 13:23:34

    どうしてこんな場所にいるのか、何が起こっているのか。
    選ぶどころじゃない、頭が混乱し過ぎておかしくなりそうだ。

    「どうする? お茶子こんなんだし、決められないでしょ。さっきみたいにもう全部買っとく?」
    「時間無いし、全部買って、家で試してもらおうっか」
    「やめてえええぇぇぇ! こんなん持って帰れへんよ!」
    とんでもない提案がされる。断固拒否だ。
    家にこんな下着が大量にあったら、羞恥でおかしくなってしまう。
    誰にも見られないのだとしても、自宅にこんなものを置いておけない。

  • 17練乳グラブジャムン25/08/02(土) 14:08:19

    「みんな今日どうしたん!? 何でこんな事になっとるん!? こんなんどれも買われへん! 買われへんよぉ!」
    あまりの恥ずかしさに涙が零れてきた。
    店の中だというのに座り込んでしまう。
    そんな私の有様に呆れたのか、皆は少しトーンダウンしてくれた。

    「……お茶子ちゃん、信じて。私達は、悪ふざけでこんな事をしているわけではないわ。私達みんな真剣なのよ」
    梅雨ちゃんが優しく諭してくれる。
    真剣なのは分かる、正直ドン引きするほどに。
    みんな、からかっているようには微塵も見えない。
    むしろ本当に災害救助でもしているかのような、必要な事だけに特化した動きをするときの、切迫した緊張感がある。

  • 18練乳グラブジャムン25/08/02(土) 15:16:57

    だからこそ意味が分からない。
    何でみんな、こんな必死になって、私の勝負下着なんて選んでるのか。

    「……麗日、よく考えて」
    三奈ちゃんが私に目線を合わせて、肩に手を置いてくれた。
    その手は優しいが、また一段と際どいブツが握られているのが怖い。
    ホタテ貝のようなデザインがされたコレは何なんだろうか。

    「もし。もしもだよ。将来、緑谷とそういう関係になれたら、どうする?」
    「ど……どうするって……何が……」
    「見せる下着、何でもいい?」
    「何でもって……わけじゃない……と思うけど……」

  • 19練乳グラブジャムン25/08/02(土) 15:21:08

    瞳の奥を覗き込むような、まっすぐな視線で、告げられた。

    「ガッカリされてもいいの? キレイだねって、褒めてもらいたくないの?」

    「――――っっっっっ!」
    胸を拳銃で撃たれたような、凄まじい衝撃が襲った。

    好きな人に肌を見せて、ガッカリされるなんて、死んでも嫌だ。
    女としてこれほどの悲劇はない。
    叶うことなら、キレイだねって褒められたい。
    女性として当たり前すぎる願望。

  • 20練乳グラブジャムン25/08/02(土) 15:25:26

    反射的に、デク君の顔が脳裏に浮かんだ。

    「うぅぅぅ……」
    こんな下着、見るのも恥ずかしい。
    選ぶなんてとても出来ない。
    着るなんて以ての外だ。

    ……それでも。

    ガッカリされるのだけは嫌だ。それだけは絶対に嫌だ。

    褒めてもらいたい。喜んでほしい。
    心の底から湧いてくる想いがあった。

  • 21練乳グラブジャムン25/08/02(土) 15:28:11

    「麗日ごめんね。無理させてる自覚はあるんだ。でもね、一つも無いと、いざって時に困るよ?」
    「一つも持ってないんでしょ? 全部買うのが無理なら、一個だけ選ぼう?」
    「私ら奢るからさ。一個だけ。選んでみようよ」
    「……一個だけ?」
    「そう、一個だけ。お茶子が一番キレイになれるやつ、探そ?」

    一番キレイに……それなら探せるかもしれない。
    えっちなのは無理だけど、キレイになれるものなら。

    「レジ行かなくていいから。奢りだからこっちが買ってくるし、決まったらすぐ店出ればいいから」

    なんでみんな、こんなに親切なのか。
    親切すぎて、ほとんど有難迷惑だけど……
    疑問は尽きないが、とにかく一個だけ選ぼうという気持ちにはなった。

  • 22練乳グラブジャムン25/08/02(土) 15:37:18

    「ぅぅ……」
    みんなが持ってきてくれた下着の山。
    正直この中から選ぶのはハードルが高すぎる。
    もうちょっと、普通の、自分でもギリギリ着られるものを選びたい。

    「ちょっと……探す……」
    眩暈を覚えつつ、フラフラとした足取りで立ち上がり、並んだ下着を見ていく。

    透けているのはダメ。
    布が少なくて紐みたいのもダメ。
    穴が開いてるなんて論外だ。

  • 23練乳グラブジャムン25/08/02(土) 15:49:34

    デク君の顔を思い出す。

    私だって女の子だ。
    好きな人に喜んでほしい、褒めてもらいたいという気持ちはある。

    でも……どうしても、恥ずかしい気持ちだって、ちゃんとあるわけで。

    いざそういう関係になれたとしても……恥ずかしいものは、恥ずかしい。
    最後まで、隠すところは隠していたい。

  • 24練乳グラブジャムン25/08/02(土) 16:03:29

    ちゃんと隠せるやつ。
    それでいて可愛いやつ。
    いつもよりキレイになれるやつ。

    店内に直視できない下着が並ぶ。
    それでも何とか自分が着れそうなものを探す。

    みんなこんなの着てるんだろうか。
    百ちゃんとか背も高くてスタイルいいし、どれも似合いそう。
    梅雨ちゃんは持ってるのかな。
    恥ずかしがってる私がおかしいんだろうか。

  • 25練乳グラブジャムン25/08/02(土) 16:44:21

    そんな事を考えながら見ていたときに、ふと、視線が止まった。

    ブラとショーツのセット。色は白。
    布面積もちゃんと大きく、普通の下着と変わらない。
    花柄の装飾が多めにされており、可愛い部類に入る気がする。

    特徴的なのは、ブラの下から腰のあたりまで、透けたレースの布が垂れ下がっていること。
    まるで小さなワンピースだ。

    お腹の部分はレースで透けるが、本来そこは普通の下着でも隠されようがない。
    局部が透けたり全体的に細くなったりすることに比べれば、真逆のアプローチ。
    レースの布がある分、普段着ているものよりも、布面積の総量は増えているといえる。
    ちょっとショーツの横が紐で結ぶ形なのと、股下から後ろ側が若干細すぎる気もするが……まあ、そこはまだ妥協できる。

  • 26練乳グラブジャムン25/08/02(土) 17:22:12

    とにかく布面積が増えるのはありがたい。
    喜んでほしいと思うが、やっぱりどうしても恥ずかしい。
    普通の下着姿より隠せる部分が増えるなら、その方がいいのでは。

    これでいいのか迷うが……まだ他に比べて、過激さが抑えられている気がする。
    総評して、今選べる中では一番まともな気がした。

    「お茶子ちゃん、それにする?」
    「……うん」
    「レース付きだね。可愛いくていいじゃん」
    「大砲というには、いささか火力不足かと思われますが……」
    「でも逆に、緑谷ってエロに突っ切るより、こういう可愛い系の方が喜びそうじゃない?」
    「それもそうですわね……火砲ではなく電子兵装というわけですか」
    よく分からない評価だけど、みんなも概ね好意的なようだ。

  • 27練乳グラブジャムン25/08/02(土) 18:01:10

    「試着どうする?」
    「聞いてみよっか」
    そのとき、閉店を告げる音楽が、店内に流れ始めた。

    「流石に今から試着は無理だね」
    「買わない選択肢だけは無いよ、いったんコレにしよう?」
    「そうだね。じゃあ、これ買ってくるよ」
    「いや、そんな……お金……」
    「気にしないでって。まだこれから靴見なきゃいけないんだから、すぐ行って。私も会計済ませたら向かうから」

  • 28練乳グラブジャムン25/08/02(土) 18:36:28

    そういって、響香ちゃんが下着を持ってカウンターに向かってしまう。

    何で平気な顔してるんだろうか。
    買うのが恥ずかしくないのだろうか。
    そういえばスポンサーって何だろうか。

    放心して脱力している私の手を、百ちゃんが握ってくれた。

    「百ちゃん……」
    力なく、百ちゃんの方に顔を向けた。
    百ちゃんは優しく、けれども力強く、口にした。

    「靴屋さんの閉店時間が迫っています、すぐに参りましょう。その後は化粧品です」

  • 29練乳グラブジャムン25/08/02(土) 18:42:50

    ――――時は過ぎ、23時。

    長い買い物を終え、居酒屋で遅い夕飯にありついていた。
    食事は出され、お腹も空いているが、気が疲れすぎて正直もう食欲も無い。

    「後ほどタクシーを手配します。麗日さんのご自宅に、荷物を運び込むのもお手伝いしますわ」

    傍らには、まるで業者の仕入れかと見紛うほどの、大量の荷物があった。
    デパートで買った大量の服に、何足もの靴。更に化粧水をはじめ大量の化粧品類。ハンドバッグもいくつもある。
    その中には、羞恥にまみれて買った一着も含まれている。

  • 30練乳グラブジャムン25/08/02(土) 19:03:19

    「香水だけ間に合わなかったけど、どうする? なくてもいい?」
    「私がCMで起用された時に頂いた試供品がありますわ。明日朝一で、全部事務所にお届けします。使うかどうかは、実際に試して頂いて、それから後で判断しましょう」

    「ねえ……なんで……こんなことに……」
    私の疑問は晴れないままだ。
    「今度の旅行、緑谷君も来るでしょ」
    「しっかり綺麗になって、アピールしよ?」
    「私ら集まれるの、この女子会だけだしさ。今日、いきなり連れ回してごめんね」

    「みんな……」
    みんなの心遣いに泣きそうになる。
    やっぱり前回の大号泣が影響していたんだ。それしか考えられない。

    「みんな、この前、ごめんね……ありがとう……」
    「いいってことよ! しっかりアピって、更に向こうへ! Plus Ultra! ってね!」
    葉隠さんの服が、明るい声と共に動いた。

  • 31練乳グラブジャムン25/08/02(土) 19:12:53

    「うん、頑張る……お金、ちゃんと返すから」
    「あ、お金はマジでいらない。気持ちだけ受け取っとくよ、返される方が面倒だから」
    「でも響香ちゃん……」
    「お茶子ちゃん。そう思うなら、あなたが緑谷ちゃんと上手くいくように頑張るのよ」
    「そうですわ。また明日以降に試着して、写真を送ってくださいまし。数があるから大変でしてよ」
    「ほら、もう遅いし。ご飯食べて、早く帰ろう?」
    「うん……ありがとう」

    戦場を渡り歩いたような買い物の後で、気疲れは残っていたけど。
    少しだけ食欲が戻っていた。


    ―――― to be continued

  • 32二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 20:16:05

    おっしゃ!風呂食ってくる!練乳グラブジャムンさんの他の作品とかあったら見てみてぇわ!

  • 33練乳グラブジャムン25/08/02(土) 20:16:52

    コメントくれてる人ありがとう。読んでくれて嬉しいわ。

    個人的にも好きなエピソードでしたが、いかがでしたでしょうか?
    ご趣向に合えば嬉しいです。

  • 34練乳グラブジャムン25/08/02(土) 20:20:41

    >>32

    文章書いたの初なんだ。

    他には無いんでコレに全力投球です。

  • 35二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 22:08:35

    >>33

    皆ヒーロー活動並みに真剣なのが楽しかったw

  • 36練乳グラブジャムン25/08/02(土) 22:53:57

    ■No.442 realized


    【誤爆は爆死刑!クソナードと麗日救済グループ】

    Pinky
    『麗日の服は一旦OK! 化粧品とかも揃えといたよ』
    烈怒頼雄斗
    『お疲れさん。これで麗日の準備は完了か?』
    かみなり
    『まだ改造手術があるんじゃねえ? これからか』
    八百万百
    『ボディメンテは直前に行います。あらゆる人のコネと人脈をお借りして、施術士を手配中です』

  • 37練乳グラブジャムン25/08/02(土) 23:16:03

    シュガーマン
    『なあ、いま気になったんだけど、緑谷の私服ってどんなのだ?』
    インビジブルガール
    『そういえば前回の議題にはお茶子の事しか出てなかったね』
    八百万百
    『失念しておりました。議題として提出いただいておらず、大丈夫なものかと』
    Ⅸ黒い鳥Ⅸ
    『緑谷、この前の同窓会はスーツだったな』
    大・爆・殺・神・ダイナマイト
    『そりゃ仕事してるときはスーツだろ』
    飯田天哉
    『僕も先日、雄英に伺わせてもらったが、スーツ姿だった』
    アニマ
    『訓練中はスーツの上にアーマーだったよ』

  • 38二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 00:22:18

    文章書いたの初めてって本当?って疑うクオリティ!
    すごい楽しませてもらいました、続き楽しみに待ってます!

  • 39二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 00:23:51

    なんだろう、出久はお茶子より手強そうだぞ

    頑張れ男子、君らにかかってる

  • 40練乳グラブジャムン25/08/03(日) 05:59:11

    焦凍
    『じゃあ、私服は? 誰か知ってるか?』
    テイルマン
    『卒業してからは知らないな』
    セロファン
    『まさか未だにクソダサTシャツ着てねえよな?』
    グレープJ
    『あれもネタとしては面白かったけどな?』
    烈怒頼雄斗
    『さすがに着てこねえだろ。いい大人だぞ』
    かみなり
    『まあ、あのTシャツはデート着じゃあねえわな』
    心操人使
    『かといってスーツで温泉地に来られても困るけど』

  • 41練乳グラブジャムン25/08/03(日) 06:01:21

    八百万百
    『ちょっと男性陣の皆様!? 至急、緑谷さんをコーディネートしていただけますか!?』
    かみなり
    『コーディネートっつっても、麗日の改造手術みたいな案出せねえぞ』
    焦凍
    『髭の脱毛とかやらせんのか?』
    青山
    『あれ何回も通わないとダメらしいよ』
    Pinky
    『緑谷本人はそのままでいいから、とりあえず服だけ何とかして!』
    イヤホン=ジャック
    『あのTシャツで来られたら、いくらなんでも麗日が可哀想!』
    テンタコル
    『そうはいっても、どういう服がいいんだろうな?』
    テイルマン
    『いざ聞かれるとよく分からないな』

  • 42練乳グラブジャムン25/08/03(日) 06:06:20

    イヤホン=ジャック
    『飯田、轟、心操! あんた達がコーディネートして!』
    飯田天哉
    『僕らが?』
    梅雨ちゃん
    『そうね、お願いしたいわ』
    イヤホン=ジャック
    『この間の祝賀会、あんた達の服がデート着のイメージに近い感じだった! 緑谷と仲いいし、服買いに行けるでしょ!』
    かみなり
    『俺らみんな私服ダメかよ』
    イヤホン=ジャック
    『そうじゃなくて、デート着としてってこと! 清潔感あって、真面目で誠実そうに見えるから、イメージが合ってるってこと! あの祝賀会に着てきたような服選んでくれればいいの!』

  • 43練乳グラブジャムン25/08/03(日) 06:09:29

    焦凍
    『俺は服とかよく分からねえから、マネキンが着てるの選んだだけだぞ』
    飯田天哉
    『僕も普通に選んでいるだけだが』
    Pinky
    『それでいい、普通でいいの。シンプルなシャツにパンツ、軽く引っ掛ける上着を選んで、整えてあげて。自分の服を買う感じで選んでくれればそれでいい。迷ったらマネキンと同じで大丈夫』
    飯田天哉
    『僕は構わないが、それこそ、君達女性陣に選んでもらった方がいいのではないか?』
    イヤホン=ジャック
    『そうしたいけど! それをするのが難しいでしょ』
    インビジブルガール
    『緑谷が女子と服買いに行けるなら、それこそ麗日と行けばいいってなるよ』

  • 44練乳グラブジャムン25/08/03(日) 06:13:54

    心操
    『ちょっと待ってくれ。女は友達と一緒に服買いに行くかもしれねえけど、男って友達と行くこと、あんまり無いぞ。どう誘えばいいんだ』
    Pinky
    『旅行の服買いたいって言って、みんなで選べば誘いやすいでしょ。ZAPAとかGQとかコニクロでいいから!』
    焦凍
    『分かった、それで誘ってみるか』
    Pinky
    『ごめん切島、なんか嫌な予感がするから、あんたも一緒に行ってくれる?』
    烈怒頼雄斗
    『俺も?』
    Pinky
    『緑谷にバレないようにフォローお願い』
    烈怒頼雄斗
    『分かった、俺入れて5人か。やるだけやってみるぜ』


    ―――― to be continued

  • 45練乳グラブジャムン25/08/03(日) 06:19:00

    >>38

    ありがとう、本当に初なんだ。

    だから何かしら穴があったりすると思うけど、細かいところは気にしないでくれると助かるんだ。


    >>39

    というわけで、これから丁度緑谷のリアクションが始まるので、どうぞお楽しみください。


    お二人とも保守ありがとう!

  • 46練乳グラブジャムン25/08/03(日) 06:26:16

    ■No.443 緑谷出久・ドレスアップ

    ※SIDE 緑谷


    待ち合わせ場所に到着すると、轟君、飯田君、切島君、心操君の姿が見えた。
    既にみんな来ていたようだ。

    「ごめんね、遅くなっちゃって」
    「いや、まだ時間前だ。間に合っているよ」
    「それにしても、みんなどうしたの? 旅行の買い出しなんて」
    「服だよ服。温泉地だしさ、いっちょ気分の上がる、男らしいヤツをさ」
    「緑谷はどんな格好で行こうと思ってるんだ?」

  • 47練乳グラブジャムン25/08/03(日) 06:28:15

    服か。なら僕はみんなの買い物に付き沿う形になるかもしれない。
    正直服には困っていなかった。

    「服なら、このTシャツ気に入ってるし、これ着ていこうかな、って。あとサンダルで」
    そういって今着ている『ひしょち』と書かれたTシャツを見せた。
    涼し気でいいと思っている、自慢の品だ。
    行くのは温泉地だし、ちょうどいいだろう。

    みんな驚いた顔をしている。
    こんなにピッタリのTシャツがあるとは知らなかったのかもしれない。

  • 48練乳グラブジャムン25/08/03(日) 09:03:11

    「……あっぶねえ」
    切島君が遠くの方を向いて、何か恐怖したような顔をした。

    「どうしたの? 誰か危ない人でもいた? 走って転びそうになった子供とか?」
    「あ? あ……ああ、そうだな。盛大に事故りそうになってるヤツがいた。虫取り少年が特撮の怪人と鉢合わせするような……まあ大事故はたったいま回避出来た……はずだ。大丈夫だ。気にすんな」
    「よく見てるね、さすが烈怒頼雄斗」
    「ところで……緑谷、お前の趣味を責める気はねえんだが」
    ごほん、と轟君が咳払いをした。

    「たまにはイケてる服っつうかさ、違う服を着てもいいんじゃねえか?」
    「でも、旅行先って温泉地でしょ。こういうTシャツが合うと思うんだけど」

  • 49練乳グラブジャムン25/08/03(日) 09:06:33

    「まあ緑谷、そう言わずにさ。たまには男のオシャレってものをしてみようぜ」
    「轟君、私服オシャレだと思うけど」
    「お前の話だよ……」
    「じ、実はだな緑谷……その、俺もいい年だからな。そろそろ異性にモテたいし、そのための服というのがほしいと思っている」
    「心操君が!? チャートには表れてないけど、ナイトハイドは女性人気も高いのに、知らないの?」
    「いや……その……俺自身には、あまり……」
    何か凄く苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
    よほど思い詰めているのだろうか。

    「まあまあ、人気と実体は異なるもんだしさ。振り向いてほしい女は別にいるって察しろって」
    確かに、切島君の言う通りかもしれない。
    いくら人気があっても、気になる人がいるなら、その人に見てもらえなければ意味がない。

  • 50練乳グラブジャムン25/08/03(日) 09:10:04

    「俺もほら、そろそろ相手探せって親がうるさくてよ。いい機会だから服買おうかなって思ってさ。緑谷も気になる女の一人や二人いるんじゃねえの?」

    そういわれて、ふと脳裏に麗日さんの姿が浮かんだ。
    「あ……いや……僕は、その……ど、どうだったかな」
    まだこの気持ちは、飯田君にしか話していない。
    咄嗟に答えに詰まった。

    「どうだったって、緑谷は気になる女、一人いるんだろ? うら」
    「轟いいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
    「あん? ――ぁ…………」
    心操君の声に、突然轟君が押し黙った。

  • 51練乳グラブジャムン25/08/03(日) 09:12:58

    「え!? 心操君、いま轟君に洗脳かけた!?」
    「かっ、か、かけるわけねえだろ!? 俺の個性は仕事にしか使わないんだよ!」
    それもそうだ。心操君は一貫して、仕事にしか個性を使わない。
    学生時代も訓練中にしか使わなかった。昔から続いている、鋼のように固い意志だ。

    「でも轟君、なんか今、おか」
    「おいおいおいおい轟! それに緑谷も! こんなところで話し込んでても埒あかねえぜ! とりあえず店入ろうぜ店! な!?」
    切島君に肩を組まれ、轟君と一緒にバシバシ叩かれる。
    とりあえず店に入ることにした。

  • 52練乳グラブジャムン25/08/03(日) 09:15:26

    「そういえば飯田君もカッコいい服がほしいの?」
    「飯田はあれだ、ほら……飯田がそういう、デート着みたいな服選ぶの詳しいらしくて」
    「なにっ!? あ、いや、ああ……そうだな、自覚は無いが、少々心得がある……気がする……」
    「飯田君、真面目で誠実だし。インゲニウムの人気も高いもんね」
    アドバイザーという事なら納得だった。

    「でもそうなると、僕は特に買わなくてもいいかなあ」
    「なにぃ!?」
    「だって、デートする相手もいないし」
    「何言ってんだ、これからするんだろ」
    「え?」
    轟君は真顔だが、僕はデートをする予定なんて無い。
    そもそも何故そんなことを?
    「そりゃ緑谷もそのうち彼女ができたらデートくらいするもんな。あと轟、ちょっと、考えて話そうぜ。な?」

  • 53練乳グラブジャムン25/08/03(日) 09:19:37

    「……そういえば、緑谷君は、誰か想い人などいないのか?」
    「あ、えっと……」
    飯田君は先日話したし、僕の事情を知っている。
    気を遣って濁して伝えてくれているけど、麗日さんのことだとすぐ分かった。

    「そうだぜ。お前だって気になる女の一人くらいいるだろ」
    「ああ。文字通りデート着でも買うつもりで選んでみてはどうだろう?」

  • 54練乳グラブジャムン25/08/03(日) 09:23:51

    確かに、麗日さんと一緒に歩くのであれば、新しい服を買ってもいいかもしれない。
    「じゃあ、ちょっとだけ……」
    「俺ら奢るから、好きな服選べって」
    心操君の言葉に驚き、目が丸くなった。

    「ええ!? いいよそんな。むしろ僕はアーマーも皆に出資して貰っちゃった立場だし、僕に奢らせてよ。僕の服なんて無くてもいいから」
    「いやいやいや! それはダメだ! 絶対にダメだ!」
    「緑谷が真っ先に買え! 俺達なんかどうでもいいんだ!」

  • 55練乳グラブジャムン25/08/03(日) 09:24:51

    「そんなに!?」
    「ああ。マジでだ。アーマーなんて過去のことは忘れようぜ、気にするな」
    「いや、そんなわけにいかないよ!? あれとんでもない開発費が」
    「いいんだよマジで。ほんといいから。一番出資したのは爆豪だし。とにかくお前が買わねえって選択肢は無しだ」
    「まずお前が買え! とりあえず買えって! 金とか気にしなくていいから!」
    「奢りが嫌なら自費でいい。とにかく緑谷君に服を買ってほしいんだ!」
    みんな親切にも程がある。
    やっぱり元A組の皆は特別だ。

  • 56練乳グラブジャムン25/08/03(日) 09:27:47

    背中を押されるような気分になりつつ、服を探していく。
    新しい服か……
    「うん、これとかいいんじゃない?」
    Tシャツに『ゆあがり』と書かれている。温泉地にとても合いそうだ。

    「いやそれはダメだ!」
    「なんでこんなTシャツがこんな所に売ってるんだよ!?」
    「本当にこういうの探すの得意だな君は!」
    「え、ダメ? 温泉地にすごく合いそうなのに」
    「虫取り少年が温泉小僧になっても変わんねえよ!」
    「あっちはマッドサイエンティストが五人集まって知恵絞ってんだぞ!? わかってんのか!?」
    「轟君、何の話!?」

  • 57練乳グラブジャムン25/08/03(日) 09:39:53

    「デートでも着れるような、カッコいい服を探すんだよ」
    「せめてこっちの、無地の黒Tにしようぜ?」
    切島君が、ごく普通のTシャツを手に取った。

    「でもそれだと面白みがないかなって」
    「いいんだよ、笑いとか取ったりしなくて!」
    そうなのかな。ファッションなんだから、楽しんだ方が良いと思うんだけど。
    でも、確かに『ゆあがり』じゃあ、カッコいいという感じではないかもしれない。

  • 58二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 09:46:34

    ヤバい…めっちゃ面白いなこのスレ…

  • 59練乳グラブジャムン25/08/03(日) 10:07:49

    カッコいい感じというと、どういう服だろうか。
    ハンガーにかけられたTシャツをめくっていき、目が留まる。

    「じゃあ……こっちとかどう?」
    これもTシャツだが、龍の刺繍が入っている。
    やはりカッコいいというと、こういう感じになるんじゃないだろうか。

    「いやだから何だよこの服!? どこにあったんだコレ!?」
    「なんでこんな服があんの!? 何なのこの店!? こんな奇天烈なもの探したって滅多に置いてねえぞ!」
    「どういう客層に向けて置いたのだろうな……」
    刺繍の入ったTシャツが戻される。

  • 60練乳グラブジャムン25/08/03(日) 10:36:49

    「でもそうなると、カッコいい服って、どういう服なんだろう……」

    そうして探しながら、『根性』と書かれたTシャツを見つけた。
    「コレとか、カッコいいかな」
    「お、根性か……案外アリかもしれねえな」
    「いや、無いだろ。切島まで感化されんなって」
    「この際ハッキリ言うが、緑谷君。文字入りは避けようか……」

    「とりあえずあれだ、もういったん飯田が選ぼう! もう、そうしようぜ!」
    「ああそうだな、そのための飯田だ」
    「分かった。なら緑谷君、こっちはどうだ? 普通のポロシャツだが」
    襟が付いている白いポロシャツを渡される。見た目にも涼しそうだ。
    でもシンプルで少し寂しい印象を受ける。

    「でもこういうのって飯田君の方が似合うんじゃない?」
    「いやいいんだ、そういうオーダーなんだ。とにかく飯田のセンスに任せろって」

  • 61練乳グラブジャムン25/08/03(日) 11:03:57

    「パンツどうするよ?」
    「ズボンなら、この短パンも楽そうでいいかな」
    「いやだから緑谷、待てって。ラフすぎるんだよ」
    「温泉地なら、ラフでいいんじゃない?」
    「……そうなんだけど、そうじゃねえんだ。短パンじゃ上とも、たぶん隣とも合わねえんだよ」
    苦虫を嚙み潰したような切島君。こんな表情はなかなか見ない。

    しかしみんなファッションに詳しいんだと感心する。
    自分は無頓着だから、分かる人は素直に尊敬してしまう。

  • 62練乳グラブジャムン25/08/03(日) 11:06:34

    「緑谷君。短パンより、こちらのスラックスの方がいいのではないか。スッとして見えるぞ」
    飯田君が持ってきてくれたパンツを腰の辺りに当ててみる。

    「う~ん、でもなあ……」
    正直、自分に似合うかというと、自信が無い。
    飯田君にはよく似合いそうだが。

    「……なんか、僕のイメージじゃないような」
    「いや、いいって! めっちゃ似合ってるって!」
    「ほらお前この前の祝賀会、スーツで来てたじゃん!? あんときのお前めっちゃカッコよかったから! あんな感じにしようぜ!?」
    「そんなに? ……でも、スーツなら普通にあるし」
    「スーツじゃなくて私服な!? 私服でもスーツっぽく、こう、シンプルに纏めて、シュッとしよう!」

  • 63練乳グラブジャムン25/08/03(日) 11:07:50

    「そうそう! 緑谷おまえルックスいいんだから!」
    「そんなお世辞いいよ。身の程は弁えてるよ」
    苦笑する。気持ちは有難いが、僕はイケメンって柄じゃない。
    悲しいかな、ここにいる四人の友人とは比べるまでもない。

    「緑谷君、お世辞じゃなくて本当だ!」
    「爆豪にも言われたろ、もっと自分を高く見積もろうぜ!?」
    「緑谷のルックスが一番好みだって女、絶対いるって!」
    「そんな人いるわけないじゃん」
    「母ちゃん泣くようなこと言うんじゃねえ!」

  • 64練乳グラブジャムン25/08/03(日) 11:11:29

    「でも実際、僕にそんな浮いた話なんて、あったこと無いし」
    「お前が気付いてねえだけで、あるんだよ! ずっとフワフワ浮きっぱなしの、桃色のヒ」
    「轟いいいいぃぃぃぃぃ!」
    「なんだ、――ぁ………」
    心操君の声に、再び轟君が沈黙する。

    「え!? 心操君、やっぱり轟君に洗脳かけたよね!?」
    「だだだ、だからかけねえって! かけるわけねえだろ!? 俺の個性は仕事にしか使わないんだよ!」
    「いやだって轟君が」
    「まーったく轟は! 急に考え込んでどうしたんだ!? いい服でも見つけたか!?」

  • 65練乳グラブジャムン25/08/03(日) 11:15:25

    再び切島君がバシバシ叩いている。
    「ん……いや、わりぃ」
    「ねえ、いまのって洗脳解除じゃ」
    「そんなわけねえだろ!? だいたい轟に洗脳かけてどうするんだ? こんな場所で。何もメリット無いだろ!?」
    それもそうだ。
    こんな場所でポリシーを破って轟君に洗脳をかけたって、なんの意味もない。
    心操君も何の指示もしていない。

    ……じゃあやっぱり勘違いなのか?
    どう見ても洗脳されてたように見えたんだけど。

  • 66練乳グラブジャムン25/08/03(日) 11:19:11

    「とにかく緑谷、お前にも浮いた話くらいあるだろ!? 思い出してみろよ!」
    「そうだよ。緑谷って、大学行ってたろ? 教員免許取りに。バレンタインとかどうだったんだ? チョコとか貰えたんじゃねえの?」
    「あ~、バレンタインか……確かにチョコ貰ったけど。でもあれ、絶対モテてるとかじゃないよ」
    轟君の言葉に、大学のときの記憶が蘇る。

    「何かあったのか?」
    「なんか、みんなで計画してたのかな。朝から学校中でみんな凄い睨み合ってたんだよね。何してるんだろうと思ってたら、放課後になって、物凄い大勢の人から、一斉に凄い量のチョコ渡されて。いや、もちろん貰えたのは、すごく嬉しかったんだけど。他の学年や、他の学科の人も大勢いて、ほぼ学校中全員分くらいじゃなかったかな」

  • 67二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 12:17:37

    轟が本番でもやらかしそうで怖い…頼むぞ心操くん…

  • 68練乳グラブジャムン25/08/03(日) 12:38:13

    「お前それ、冗談抜きでモテまくってただけじゃねえの?」
    「絶対違うよ。量もだけど、中身もおかしかったんだよ? チョコに本命って書いてあったり、母の命の恩人ですって手紙入ってたり、助けてくれてありがとう、とか……逆に義理って書いてあるのが一つも無かったんだよ」
    「ぶん殴るぞテメェ!」
    「モテまくってるじゃねえか!」

    「いや絶対違うって。だって学校中から渡されて、義理より本命が多いって、どう考えたっておかしいでしょ」
    バレンタインの本命チョコなんて、生涯に一つでも貰えれば人生に悔いがないほど嬉しいだろう。
    それが数百個も一度に来るはずがない。

    「しかもさ、一度も話したこともない、助けたこともない、名前すら知らない子が、助けてくれてありがとうなんて手紙書いてくるんだよ。おかしいじゃん。しかも女子だけじゃなくて、何人か男子までいたんだよ? ……あれたぶん、みんなで計画して、悪ふざけか何かやってたんだと思うよ」
    見ず知らずの他人に手紙を添えての本命チョコ……そんなことあり得ない。
    その上、友達でもない、男性からのチョコ……これが悪ふざけじゃなかったら何なのか。
    恋愛に鈍い僕でも、流石にそのくらいは分かる。

  • 69練乳グラブジャムン25/08/03(日) 12:39:48

    「……お前、自分が高校時代に何したか思い出してみ?」
    高校時代? みんなと楽しく学校生活した事しか記憶に無い。
    学園祭にでも来ていたんだろうか。でもやっぱり、話したりした覚えは無いし……
    あの戦いのことだろうか? でもそれはA組の皆や他のヒーローも一緒だし、やっぱり心当たりが無い。

    「緑谷、その学校中から貰った大量のチョコはどうしたんだ?」
    「どうやっても持ちきれなかったから、大学にタクシー呼んで家まで運んだよ。あとは周りの友達が食べるの手伝ってくれたかな。くれた人には申し訳なかったんだけど、本当に凄い量だったし……全部食べたら死んじゃうからって」
    部屋の大半を占拠した大量のチョコを思い出す。
    最初は半年くらいチョコレートだけ食べる生活になるかと思ったくらいだ。

  • 70練乳グラブジャムン25/08/03(日) 12:44:36

    「ちなみに緑谷君、大学時代にお付き合いした女性はいないのか?」
    「そんなのいないよ」
    あんな悪ふざけの対象にされていたくらいだ、彼女なんているわけがない。

    「飲み会の誘いとか、凄かったんじゃねえの?」
    「そういえば、なんか頻繁に飲み会に誘われたなあ。お酒に弱い女の子に限って誘ってくるんだよね」
    あれもよく分からなかった。
    僕もお酒は飲んだが、そんな頻繁に飲みたいとも思わなかった。好きでも嫌いでもない、という感じだ。
    お酒好きは、お酒に強い人というイメージがあったけど、女性の場合は弱いほどお酒が好きなのかもしれない。

    「完全に狙われてるじゃねえか……酔いつぶれた女どうしたんだよ?」
    「毎回、周りの女の子が送っていったよ。僕に送ってほしいって毎回頼まれたんだけど、男の僕が女性を送っていくのはマズイからって、酔ってない子に猛反対されたなあ」
    「周りが牽制し合ってたわけか……」

  • 71練乳グラブジャムン25/08/03(日) 12:47:40

    「なあ緑谷……本当に今まで彼女がいたこと無かったんだよな?」
    「いないよ、何も無かったんだから」
    「じゃあ、キスしたとか、どっかデートしたとか、そういうのも無いのか?」
    「彼女がいたことも無いのに、そんなのあるわけ無いよ」
    女性経験なんて全く無い。
    手を繋いで歩いたことすらない。
    この歳で恥ずかしいかもしれないが、本当のことだ。

    「……お前、望めば大学でヤりたい放題だったんじゃねえの?」
    「どういうこと?」
    「こっちが聞きてえよ! なんなんだよ、お前がどういうことなんだよ!?」
    切島君が泣きそうな顔をしている。
    僕は何か悪い事でもしてしまったんだろうか。

  • 72練乳グラブジャムン25/08/03(日) 13:38:05

    「いや、結果オーライだ。僕らには何の問題も無い。今日ここで、心置きなく服を選べるというものだ」
    「そうだな……まあ何でもいいから、とりあえず服買おうぜ。緑谷、この上着なんかどうだ。生地が薄いから涼しいし。そこのマネキンも着てるが、悪くねえんじゃねえか?」
    轟君から、紺色の襟がついた上着を渡される。
    色は暗めだが、確かに生地は薄いし、涼しそうな印象を受ける。

    「とりあえず飯田が持ってきてくれたやつもあわせて、試着してみようぜ」
    「そうだな、ほら緑谷、着てこいって」
    「うん……まあ、みんながそう言うなら」

  • 73練乳グラブジャムン25/08/03(日) 13:40:07

    「あいつらがどんな改造手術してくるか分からねえけど、やるだけやっとかねえと」
    「ああ。このままだと俺達が火達磨にされる」
    「火達磨か。いざとなったら氷で防げねえかな……」
    「物理じゃねえよ、精神攻撃だよ」

    試着室で着替えている間、切島君、心操君、轟君が何やら相談している声が聞こえてくる。
    きっとヒーロー活動の話だろう、僕も追いつけるように頑張っていかないと。

  • 74二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 14:04:05

    この勢い面白すぎる。心操くんファインプレーお疲れさまです
    …かっちゃんは出久の大学時代のこれを知ってたから前スレの目的アンケートがあの回答だったのかな
    そこまで至らせないと駄目だと思って

  • 75練乳グラブジャムン25/08/03(日) 14:12:45

    その後もいろいろと服を買え、最終的に、普通のTシャツに、襟のついた上着、スラっとしたパンツの組み合わせになった。

    「なんか、僕のイメージじゃないような……俳優さんとかモデルさんみたいな格好じゃない?」
    「いや……だいぶ、いいんじゃねえか?」
    「ああ、特に問題は無いように思う。少なくとも俺的にはこれでいいと思う」
    「やるだけやったよな。改造手術には及ばねえけど、及第点というか」
    「あのハリネズミのようなイラストは忘れよう。僕にも何をするつもりか見当が付かない」
    「みんな、何の話?」
    「……俺らが先日見た、恐怖映像の話だ」
    「絶対にオペ室でメス入れるつもりだよな、アレは。フィクションだと思いたい」
    変なヴィランでもいたんだろうか。

  • 76練乳グラブジャムン25/08/03(日) 14:20:02

    「とりあえず、これと同じ感じで、いくつか選んでこよう」
    「おう、頼む委員長」
    「そういえば、結局僕の服ばっかり選んでもらっちゃったけど、みんなの服は?」
    「あー……俺らのか」
    「……まあ、俺はこれでいいか」
    心操君が、すぐそばにあったTシャツを手に取った。
    「んじゃあ俺はこれでいいかな」
    「俺も」
    轟君と切島君も、すぐそばにあった無地のTシャツを手に取った。

  • 77練乳グラブジャムン25/08/03(日) 14:27:28

    「そんな簡単に決めていいの!?」
    「いいんだよ、気にするな」
    「だって心操君、モテたいから服欲しいって」
    「ああ、これが丁度いいんだ」
    「すごく適当に見えるけど?」
    「あー……緑谷の服選んでるときに、自分のも探してた。これで大丈夫だから心配すんな」

    みんな物凄く適当に、どうでもいい服選んでるようにしか見えない。
    でも、どうでもいい事にお金を使うような人達じゃない。
    ……ということは、これは僕の勘違いなのだろうか。

  • 78練乳グラブジャムン25/08/03(日) 14:51:31

    よく分からないまま会計を済ませ、僕だけ荷物が多い状態になってしまっている。
    最初の想定とは真逆の有様だ。


    店を出たところで、飯田君がこっそり耳打ちしてきた。
    「ところで緑谷君。今度の旅行だが、是非とも今日買った服を着てきてくれ。それとサンダルは避けてくれ、出来ればいい靴を。最悪、歩きやすいようにスニーカーで」
    「うん、そうするつもりだけど」
    「すまないが、必ず頼む。その服装なら、麗日君も喜んでくれる……はずだ」
    麗日さんの名前をだされてドキッとする。
    そういえば旅行には麗日さんも来るんだ、いまのところキャンセルにもなっていない。

  • 79練乳グラブジャムン25/08/03(日) 15:11:56

    「あまり力になれなくて悪いが、これが僕からの応援だと思ってほしい」
    「わかったよ。今日、飯田君いっぱい選んでくれたもんね。必ず着ていくよ」
    そうだ、友達の心遣いだ。
    この前、変な相談をして困らせてしまっていた。
    飯田君も気にかけていてくれたのだろう。

    そう思うと、手提げ袋の中の服が、とても尊いもののように思えた。
    みんなとの旅行だ。これを着ずに何を着る。

    もう旅行まで一か月もない。
    今からとても楽しみに思えてきた。


    ―――― to be continued

  • 80練乳グラブジャムン25/08/03(日) 15:34:07

    コメントくれてる人、本当にありがとうございます。励みになっております。
    他所は知らないけど、このスレはコメントフリーです。
    虚空に向かって投下してても虚しいだけなんで……

    感想でもツッコミでも何でも、お好きに出し合ってください。
    その方が盛り上がると思いますので。

  • 81練乳グラブジャムン25/08/03(日) 18:29:34

    ■No.444 イメージトレーニング

    ※SIDE 麗日


    帰ってから、ベッドに横になり、ぼーっとしていた。

    今日も疲れた……お風呂にお湯は溜めたが、入るのが面倒くさい。

    コチ、コチ、と時計の針の音が聞こえる。

    部屋に置いたカレンダーが視界に入る。
    旅行の日につけた、赤いマルが目立っている。

    「デク君……また話せるやろか」
    旅行中に訪れてほしい、甘い一時に想いを馳せる。
    みんなと一緒にいたら、また話せないかも?
    二人で抜け出して、ベランダかどっかで、また話したいな。
    ちょっとでもいいから。

    部屋は静かだ。
    自分のため息が反響してしまうほどに。
    テレビをつければ賑やかしくらいにはなるだろうが、そんな気分でもない。

  • 82練乳グラブジャムン25/08/03(日) 19:17:39

    (麗日さんと、もっと、話したいって思った。これからも、もっと、君と――)

    同窓会の二次会に行く前のやり取り。
    思い出すだけで胸が高鳴り、口元が緩み、頬が染まるのが分かる。

    すっごく嬉しかった。
    そういう意味なのかな、って勘違いしたくなるほどに。
    今までの人生で一番嬉しかったかもしれない。

    (気が合うね!)

    嬉しくて繋いだ手。
    人通りが多くて、すぐに気恥ずかしくなって放しちゃった。
    ああもう、なんで放してしまったんだろう。
    お店までの間だけでも、ずっと繋いでいればよかった。

  • 83練乳グラブジャムン25/08/03(日) 19:57:26

    部屋の隅に置かれたままの、初めて買った勝負下着の袋に視線を向ける。
    あれからまだ一度も着ていない。
    その時まで着なくていいのだから、別に着る必要は無いのだけど。

    それでも。
    みんな真剣に探してくれた。
    最後に選んだのは自分だけど、友達の表情を覚えてる。

    悪ふざけじゃなかった。
    私をからかってるわけでもなかった。

    顔を見れば分かる。
    あれは、困っている人を助けるときの顔。
    ヒーローの顔だった。

  • 84練乳グラブジャムン25/08/03(日) 21:10:09

    だからこそ、意味がわからなかった。
    悪ノリなら理解できる。
    からかっていたなら腑に落ちる。

    でもそうじゃない。本気だった。
    本気で、一分一秒に追われる中で最善を尽くす動きをしていた。
    お金も全部出してもらっちゃった。今度何かで返さないと。
    前々回の女子会で、デク君と次の約束が取り付けられなかったと嘆いたのを思い出す。
    私はそんなに悲壮な顔をしていたんだろうか。
    そして旅行が入ったから、みんな頑張ってくれてたのか……

  • 85練乳グラブジャムン25/08/03(日) 22:09:05

    ふと、なぜこんな危険物を、未だに出しっぱなしにしているのかと思い至った。
    袋に入ったままだとはいえ、片付けるべきだ。

    あの日は気疲れし過ぎて、帰ってからすぐに寝てしまったので仕方がないとしても、そのままにしておく理由はない。
    他の服もそのまま出しっぱなしだが、それでも、こんなものを出しっぱなしにしていいわけがない。
    とりあえず片付けよう。
    何かの間違いで誰かの眼に触れたらとんでもない事になる。

    タンスの奥深くにしまっておこう。
    気怠さを感じつつも立ち上がり、勝負下着の入った袋を手に取った。

  • 86練乳グラブジャムン25/08/03(日) 22:42:08

    ……これを着たらどうなるんだろう。

    怖いもの見たさのような、興味の芽生え。
    着てもいいのだろうか。
    いや、自分のものだし、ダメってことは無いんだろうけど。
    そういえば時間がなくて、試着をしていなかった。
    着た感じがどうなるのかは、私にも分からない。

    部屋のカーテンを確認する。
    閉まってる。微塵も隙間が無い。
    次に玄関。
    大丈夫、鍵もチェーンも掛けられている。

    「……お風呂、入らなきゃいかんしなあ」
    そう、今日はまだ入浴を控えている。
    疲れているが、疲れているからこそ入った方がいい。
    そして当然だが、お風呂に入るなら服を脱がなきゃいけない。
    誰でもそうだ、どうしようもないこと。

  • 87練乳グラブジャムン25/08/03(日) 23:47:37

    勝負下着を袋のまま洗面所に持っていき、扉を閉める。
    お風呂に入るために、服を脱いでいく。
    いつもの動作。
    脱いだ物はネットに入れて洗濯機に放り込む。
    後はお風呂に入るだけ。

    「……これも、洗濯やな」
    勝負下着を袋から出してみる。
    買ったばかりで、まだ洗っていない。
    だから、これも同じように洗濯機に放り込めばいい。
    それはいい……それはいいのだが。

  • 88二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 23:57:40

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  • 89二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 23:59:10

    A組のみんながかなり頑張っていて嬉しいぞ
    やっぱデクモテるよな…大戦の英雄様だし…
    お茶子がんばれ…

  • 90練乳グラブジャムン25/08/04(月) 06:23:18

    「……でも、確認は必要やんな?」
    そうなのだ。困ったことに、あのときは試着をしていない。
    あのとき選べるものの中では、一番可愛いものを選んだつもりだった。
    でも、本当に喜んでもらえるか、がっかりされないか、確認が出来ていない。

    もしかしたら、全然可愛くないかもしれない。
    それは困る。
    とても困る。
    非常に困る。
    お金を出してもらった皆にも申し訳ないし、またあんなお店に行く勇気は無い。

    「か、確認やから……確認するだけやから」
    おかしい、何故か緊張する。
    一人で試着するだけなのに。 

  • 91二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 06:41:03

    そういやデクは下着大丈夫か?まさかオールマイトの顔がでかでかと前面にプリントされたトランクスとか履いてこないよな?

  • 92練乳グラブジャムン25/08/04(月) 07:17:54

    股下にショーツをあてがい、腰の横で紐を結ぶ。
    こういうタイプは初めてだ。
    普通に蝶結びでいいんだろうか。

    ブラに手を通す。
    レースが付いているけど、特に邪魔にはならなかった。
    手を後ろに回して、頑張って結びを作る。ホックじゃなくて紐だから難しい。
    上手く出来ているか分からないが、とりあえず今はすぐ脱ぐし、問題無い。
    手を下ろすと、レースがふわっと腰になびいた。
    普通の下着と大きく違うのはここだ。

  • 93練乳グラブジャムン25/08/04(月) 07:54:54

    洗面所の鏡で確認する。見慣れた自分の姿。
    違うのは下着だけ。
    身に着けた勝負下着を、身体を捻ってチェックする。
    「う~ん……」
    ひとまず、危惧していたほどの過激さはなかった。

    ブラとショーツは、装飾は多いと思うけど、ちゃんと大事なところも隠せている。
    普通のお店に置いてあるものと比べても、それほど極端に違うわけでもない。
    目を引くのは、やはりブラの下に広がるレース。
    透けた布が、お腹と腰、ショーツの上に薄くかかっているのが、何故かえっちな雰囲気を漂わせている。
    隠しているのに、隠さない時よりえっちに感じるのは、何故なのか。

  • 94練乳グラブジャムン25/08/04(月) 07:57:29

    でも雰囲気以上に、お腹を少しでも隠してくれるのは、ありがたい。
    私のお腹には、乱暴に刺された傷が残っている。
    いまでも少し痛む傷。
    その傷がついたことは受け入れているし、今更恨んでもいないし後悔も無いが、それとこれとは話が別だ。
    隠せるものなら隠しておきたい。

    レースをめくれば傷があるが、下ろせば傷はほとんど見えない。
    こうしてみると、この下着を選んだのは、ベストな選択な気がしてきた。

  • 95練乳グラブジャムン25/08/04(月) 12:06:32

    「よし……お風呂入ろ」
    とりあえず、試着はした。
    おかしなところもなかったし、思わぬ副次効果も見つかった。
    勝負下着というには平凡な気もするが、これ以上は私にはハードルが高い。
    とりあえず返品する必要は無さそうだと分かったので良しとしよう。
    洗濯機を回し、浴室へ向かう。

  • 96練乳グラブジャムン25/08/04(月) 12:08:55

    湯舟に入っていると、身体の疲れが抜けていくのを感じた。
    面倒でもお風呂に入るのは大事だと実感する。

    頭の中に、さっき身に着けた勝負下着の姿がよぎる。

    ……いったい、アレをいつ着るんだろう。

    まだ付き合ってもいない。
    しまったままの想いを伝えてもいない。
    現状、着るタイミングがどこにも無い。

  • 97練乳グラブジャムン25/08/04(月) 12:11:47

    仮に付き合えたとして、おうちデートとか、そういう時だろうか。
    でも、あんなもの着ていたら、めっちゃ期待しているように思われるんじゃないか。
    気合入り過ぎだって、引かれるんじゃないだろうか。
    そうなると、最初は普通の下着にしておいた方がいいんじゃないのか。

    (ガッカリされてもいいの?)
    三奈ちゃんの声が蘇る。
    そうだ、最初が普通だと、いきなりガッカリされるかもしれない。
    なら最初が肝心だ、最初にちゃんと着ていないと。

  • 98練乳グラブジャムン25/08/04(月) 12:31:30

    でもそう考えると、あの下着はそこまで普通と変わらないような気がする。
    レースが付いて、紐で結ぶタイプだけど、逆にいえばそれだけだ。
    隠すところはしっかり隠している。
    透けてるわけでも穴が開いているいわけでもないし。

    「う~ん……」
    身体を動かし、湯船に深く収まる。
    鼻だけ出して、口まで沈んで、ぶくぶくと泡を立てながら、考えを巡らせた。

  • 99練乳グラブジャムン25/08/04(月) 12:57:02

    やっぱり、皆の持ってきた、もっとえっちな感じがする方が良かったのかも?
    百ちゃんのいうとおり、火力不足? だったのかも?
    だからといって、スケスケだったり、穴が開いているのは、いくらなんでも……

    デク君はどういうのが好きなんだろう。
    好みがあるなら、それに合わせるのが一番早いけど。
    でももし、穴開きが好きだと言われたら……う~ん、いくら何でも、いきなりそれは着れない気がする。
    じゃあスケスケが好きだったら……いや、あれは全部丸見えだし、やっぱり着れない。

  • 100練乳グラブジャムン25/08/04(月) 14:37:16

    でもデク君は、そんなに過激なものは求めてないんじゃないか。
    そんなイメージがある。
    それこそ普通の……今回買ったやつで、十分喜んでくれるんじゃなかろうか。

    あれ待って? そもそもデク君って、女性経験あるの?
    あるようには見えなかったけど……あったら、すごく嫌だなあ……
    上手じゃなくてもいいから、二人とも初めてでするのが、なんかいいなあ。

    「うぅ~……」
    ぶくぶく。ぶくぶく。

  • 101練乳グラブジャムン25/08/04(月) 14:59:11

    あれ? え、ちょっと待って?
    そもそも、えっちって、どうやるの?
    いや、アレをお股に入れるっていうのは、さすがに分かる。
    分からないのは、そこに至るまでの流れだ。

    まず裸にならなきゃ始まらない。でも最初は服着てるはず。
    じゃあいつ脱ぐの? どうやって? どっちが先?

    ……男の子が先に脱ぐんじゃない?
    先に……え、デク君が私の前で、自分から服を脱ぐ? そんなイメージ無いなあ……
    じゃあ私が脱がすの? いや、そんなの無理だって。

    だいたいデク君、脱いだらどんな身体してるんだろ。
    腹筋とか絶対割れてるよね、鍛えてるし。
    お腹触ったら、硬かったりするのかな。

  • 102二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 15:08:36

    割れた腹筋の感触って気になるよね

    男でも気になるわワイの肉体ちっとも仕上がってないから余計に

  • 103練乳グラブジャムン25/08/04(月) 17:17:03

    それに、下まで脱いだら……あ、アレが。
    ……いや、いやいやいやいや。それ、ちょっとマズくない?

    私たぶん、ダメだって思っても、絶対に直視しちゃうって。
    目が離せなくなるんじゃ……それは大変なことになる。
    はしたない女の子だと思われる。デク君が先に脱いじゃダメだ。

    じゃあ女の子が先?
    私が自分で脱ぐの? いや絶対無理だよ。
    じゃあデク君が私を脱がしてくれる? え、そんなことするかな?
    でもそういう雰囲気のときは、男の子はオオカミになるっていうし、デク君も獣みたいになっちゃうのかも?
    デク君なら乱暴なことはしないと思うけど……脱がすくらいはしてくれるかも?

  • 104練乳グラブジャムン25/08/04(月) 18:01:28

    上に着てる服を脱がされたら、あの勝負下着が出てくるよね。
    どうなんだろう。
    喜んでくれるのかな。
    ……駄目だ、全然分からない。

    まあ……仮に、ガッカリはされなかったとして、その先。
    下着を付けたままじゃ、えっちはできない。
    ……穴が開いてればできるんだろうけど、それは買ってない。
    だから下着も脱ぐ必要がある。

    自分で脱ぐのは無理。
    デク君に脱がしてもらうしかない。

  • 105練乳グラブジャムン25/08/04(月) 18:31:49

    ……いや、脱がす、という動作とは違くない?
    あれは普通の下着と違う。
    ブラもショーツも紐で結ぶタイプだ。

    だから脱がすときは、紐をほどくはず。

    デク君の指が、私の下着の紐を摘まんで……
    こう……紐を、引っ張って…………するする、って…………

  • 106練乳グラブジャムン25/08/04(月) 19:15:17

    「――っっ!? がばぼっ!?」
    鼻からお湯が入ってきて溺れかけた。
    慌てて身体を起こし、ゲホゲホとせき込む。身体を沈めすぎた。
    呼吸を落ち着け、周囲を見渡す。

    「……え? いや……え……? ……今、私、なに考えてた?」
    脳裏に、直前まで組み上げていた行為の映像が蘇る。
    慌ててお湯で顔を洗う。

    「あー……もう……バカやん……」
    初えっちの妄想とか、バカにも程がある。
    まだ付き合ってもいないのに。
    あんな下着買ったせいだ。

  • 107練乳グラブジャムン25/08/04(月) 20:44:06

    「……出よ」
    長湯し過ぎた。
    完全にのぼせて、全身が凄く熱くなってしまっている。

    まだ付き合ってもいないのに、何考えてるんだろう。
    そんな日は、まだまだ来ない。

    シャワーの温度を下げて、少し冷たいお湯を浴びながら。
    のぼせた頭を冷やすのだった。


    ―――― to be continued

  • 108二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 22:12:41

    良いですなぁ…えっちな妄想…

  • 109二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 22:14:00

    あれ、ひょっとしてデクも同時刻えっ◯な妄想してる?

  • 110二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 22:23:56

    ケーキに更に砂糖をザーッてぶっかけた様な甘さがたまんねえぜ

  • 111練乳グラブジャムン25/08/04(月) 23:36:41

    皆様コメントありがとうございます。

    ニヤニヤしながら見させてもらってます。

    気が合うねェ! な人が多くて嬉しいぜ。


    設定とかに関わる部分で、話しちゃって大丈夫な部分だけレス返させてください。


    >>91

    さすがにそれ履いてたら原作で風呂入った時にネタにされてると思うんだ。

    だから流石に卒業してるかな、と(この世界線では)考えてます。

    でもオールマイトごっこしてた幼少期は絶対履いてただろうなあ。


    >>110

    「グラブジャムン」というお菓子があって、PNの由来にしたんだ。

    興味があったらググってみてくれ。

    このPNに恥じないように頑張るよ。


    まだ本番(意味深)はこれからなので、よろしくゥ!

  • 112練乳グラブジャムン25/08/05(火) 00:07:38

    ■No.445 第三回 恋仲発展プロジェクト会議

    ※SIDE 飯田


    低い、ィィィィン……というマイク音の後に、スピーカーから聞き取りやすい女性の声が響き渡った。

    『皆様、本日はお忙しい中、お集まりいただきまして、誠にありがとうございます』

    ヒーロー公安委員会の大会議場。
    最大収容人数1160名を誇り、階段状になった席は巨大な映画館か劇場を連想させる。
    そこに、全国各地のヒーロー、警察関係者などが一堂に会していた。

  • 113練乳グラブジャムン25/08/05(火) 00:35:48

    僕らA組はステージ上で長机に連座しているため、どれほどの人数が集まっているか、否応なしに実感させられる。
    ホークス、オールマイト、根津校長の他、ルミリオンやシンリンカムイなどの有名ヒーロー、警察のお偉い様方も、スクリーンを挟んだ反対側でステージ上にいた。

    こんな集まりはサミットか、AFOとの決戦以来ではなかろうか。
    知らない人間が見たら、戦争でも始まるんじゃないかと心配になるかもしれない。
    実際、これだけの人材が集まれば、戦争を起こすことも可能だろう。

  • 114練乳グラブジャムン25/08/05(火) 04:21:39

    《緑谷出久と麗日お茶子が想いを伝えあうため、最も相応しい舞台を用意する》

    正面の巨大なプロジェクターに、A組のみんなが決めた目標、スローガンが投影されていた。
    集まる人間全員が大真面目な顔をしてこのスローガンに眼を向けているのは、傍から見れば滑稽な光景に見えるかもしれない。
    大人が真面目に悪ふざけをしたらこうなる、という典型例を見ているようだ。

    事ここに至り、自分の思い付きから始まった企画が、多くの人に伝播し動かしている事に、感動と、ある種の恐怖を感じていた。
    緑谷君から相談を受け、最初は同級生の三人で話していた企みは、いまや国中を巻き込むと表現していいほどの、一大プロジェクトに発展していた。
    まさかこれほどの規模になるとは思っていなかった。
    あれから更にスポンサーも増えたが、今更ながら、資金協力をお願いしておいてよかったと思う。

  • 115練乳グラブジャムン25/08/05(火) 05:58:49

    『緑谷様は、麗日様に。麗日様は、緑谷様に。お二人は、お互いに対して、一途で、とても尊い、恋心を抱いておられます。しかし、お二人とも、まだお互いのお気持ちには気付いておりません。更に、とても多忙なお二人は、これまで、一度のデートもしたことが御座いません』

    「結婚式の紹介ビデオか」
    後ろに座る爆轟君の声が聞こえた。
    スピーカーの大音量にかき消されて客席には届かないが、近くにいる僕らには聞こえる声だった。
    確かにもう喋り方が、そういう風にしか聞こえない。

  • 116二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 06:29:33

    なんか思ってたより大分規模のデカい話になってた。そういや他のA組で恋愛経験ある人はおるんかなこの世界線

  • 117練乳グラブジャムン25/08/05(火) 07:15:00

    『お二人に、楽しいデートをしていただき、素敵な想い出を作っていただく。そして願わくば、お二人の胸に秘められた、大切な恋心。緑谷様から、麗日様に。あるいは、麗日様から、緑谷様に。ご本人様から、自発的に、相手にお伝えいただく。その幸福に満ちた瞬間の訪れを期待して、最大限のお手伝いをすること。それが、本プロジェクトの目的で御座います』
    スライドの映像が切り替わる。
    二人の写真の間にあった矢印が消え、二人を囲むように巨大なハートが描かれた。
    会場のあちこちから、ちらほらと拍手が聞こえた。

    「ここに集まってる連中は、大真面目に何やってんだ、と思わねえのかよ」
    「やめてくれ爆轟、今だけは笑わせんな。俺らの表情、会場から丸見えなんだって」

  • 118二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 07:17:15

    いいぞ。もっとやれ

    後細かいことで非常に申し訳ないんですが誤字だと思うんですが爆豪が爆轟になってます

  • 119二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 07:35:15

    規模でっか…警察関係者ってことは塚内さんもいるのか。ここまで来たら絶対に成功させなきゃアカンやつやな。

  • 120練乳グラブジャムン25/08/05(火) 09:12:50

    『お気持ちを伝えあっていただくのは、あくまで、緑谷様と麗日様のご意思に委ねられます。我々は、素敵なデートをしていただくための、舞台を整えることに注力します……では、具体的に、どのような舞台が必要でしょうか?』
    会場全体に対し、問いかけるような間があった。

    『……それは、犯罪の無い、平和な街です。緑谷様、麗日様は、どちらもヒーロー。何かトラブルがあれば、即座にデートは終了。お二人は犯罪への対応に追われる事となってしまいます』
    語りに間が持たれ、会場内に沈黙が流れた。

  • 121練乳グラブジャムン25/08/05(火) 11:28:47

    『このため本プロジェクトの完遂には、犯罪を捕らえるのではなく、発生する隙も与えない、完璧な警備が必要不可欠です。なお、お二人のアーマーおよびコスチュームにつきましては、メンテナンスの名目で回収し、当日現地には一般人と同じ装備で向かっていただく事になります。警備の重要性がより向上しておりますので、ご理解ください』
    こくこく、と頷く参加者達が見える。この席からは会場の様子がよく見えた。

    『ではここから、警備の詳細な計画についてご説明させていただきます』
    司会の声色が変わり、結婚式の紹介のような喋り方から、会議の司会のようなビジネスライクな口調に変化した。

  • 122練乳グラブジャムン25/08/05(火) 12:32:37

    『本プロジェクトは、デートの舞台として、岐阜県下呂市、下呂温泉を選定しています』
    スライドが切り替わり、本州のおよそ中心部の地図が描かれる。
    岐阜県の山間部、下呂駅に赤丸が打たれ、静岡駅と富山駅から、それぞれ向かう経路が表示された。地図アプリの画像だろう。

    『当日土曜日は、緑谷様が、富山駅より移動。麗日様は、静岡駅より移動を開始し、名古屋でお乗り換え。現地、下呂駅で合流の予定です。御覧のとおり、緑谷様が先に到着する予定になっております。緑谷様が前日金曜日にお仕事があるため、このような別々の移動となっております』

  • 123練乳グラブジャムン25/08/05(火) 14:22:48

    そう、実はどうしても緑谷君の都合をつけるうえで、前日の調整が出来なかった。
    当初の予定では、静岡駅からずっと一緒に移動させよう、と画策していた。

    雄英の方でも苦心してスケジュールを調整してくれたが、どうしても金曜日の富山講演が動かせなかった。
    関係者は全員理解を示してくれたものの、いかんせん、既に講演チケットを配り終えた後であった。
    かなり前から告知していた話でもあり、どうやっても変更が不可能だったのだ。

    このため、静岡駅から一緒に移動させるという画策は叶わなかった。
    時間にして三時間以上、一緒の時間が減ってしまった事になる。
    みんなもそうだが、オールマイトがとても悔しがっていた。
    いまも檀上の反対側で、苦虫を嚙み潰したような表情をしている。

  • 124練乳グラブジャムン25/08/05(火) 15:32:06

    『前日より、この経路上の各駅に、ヒーローと警官を配置します。東海道本線が10駅。これは新幹線が停車する駅を中心にピックアップしています』

    『高山線は39駅、全てに配置させていただきます。これは新幹線と異なり、特急がローカル線と同じ路線を使うため、途中のトラブルでの停車を防ぐ目的があります。各駅を担当するヒーロー事務所については、お手元の資料をご参照ください』
    僕らの手元にも資料があるのでページをめくる。
    警備を行う駅名と、担当するヒーロー事務所、必要な人員数が記載されていた。
    更に所管警察署と、配備される人数も併記されている。

    『お二人が乗車される電車内の警備についてご説明させていただきます。こちらはコスチュームが目立ってしまうため、ヒーローは同乗しません。こちらは警察関係者の皆様のご尽力により、私服警察官が同乗し、目を光らせる予定です』
    画面に電車の座席表のような図が表示され、全車両に配置される警官の位置が表示される。
    ステージ上、スクリーンを挟んで反対側で、塚内さんの顔が引き締まったのが伺えた。

  • 125練乳グラブジャムン25/08/05(火) 17:21:45

    『緑谷様と麗日様の乗る、特急列車。こちらは各10名を配置し、4両全ての車両をカバーします。麗日様が名古屋までお乗りになる新幹線には、40名を配置。こちらは御覧のとおり16両あるため人員が多く割かれています。不信人物の搭乗は、特に厳重な静岡駅および富山駅、および各停車駅の警備段階で防げる想定ではありますが、万が一を考慮しております』
    全ての車両に最低二人以上が同乗していた。座席ではない、デッキにまで人員が配置されている。
    ずっとデッキにいるわけではなく交代で監視するのだろうが、それでもすごい気合の入れようだ。

    「警官乗せすぎだろ。どこの重要人物を護衛するつもりだ」
    「大戦の英雄サマだよ……あと、その彼女候補。上手くいけば未来の嫁さん」
    「これだけの人間を巻き込んでて、ヒーロー不在の電車内で万が一があったら、警察のメンツ丸つぶれになるから力入れてるんだろ」
    後ろの爆豪君、切島君、上鳴君が感想を漏らしている。
    会場に聞こえはしないだろうが、気が気でないから、静かにしてほしい。

  • 126練乳グラブジャムン25/08/05(火) 18:36:04

    『次に、下呂温泉に通じる主要道路の警備についてです。国道と県道がそれぞれ一本、更に複数の市道があります。全ての道路で、前日夜から警察とヒーロー合同の検問を実施。下呂駅周辺への不審車両侵入を取り締まります。こちらも分担はお手元の資料でご確認をお願いします』
    地図が拡大され、下呂駅周辺を映す。街に至る、あらゆる道路に検問のマルが付けられていた。
    ネズミ一匹通すまいという気迫が感じられた。

    『続いて、最も重要となる、市内の警備についてご説明いたします。こちらは市街地のマップです。赤の点がヒーロー、青の点が制服警官、緑が私服警官の配置です』
    網目上に入り組んだ地図の至る所が、赤、青、緑の点で埋め尽くされる。

    『これは、普段の下呂温泉の警備パトロールに比べて、約51倍の人数になります。ただこの数値は、路地裏や公共施設、宿泊施設、高層建築物、周辺の山間部まで、全てを網羅していることをご留意ください。実際に人が移動するであろうと想定される行動圏内であれば、市街地内で目撃するヒーロー数および警官数は、普段より少し多いか、くらいの認識に留められると想定されています』

  • 127練乳グラブジャムン25/08/05(火) 19:29:26

    『本プロジェクトは極秘であるため、一般市民へ影響の無いよう、特にお二人には気付かれないように警備を完遂するのが重要となります。ヒーロービルボードチャートに名前が掲載されているヒーローの方は、現地警備をご遠慮ください。サイドキックやチームアップを頼り、必要な人員の確保をお願いいたします。確保が難しい場合、ヒーロー公安委員会にご相談ください。充当できるよう、手配させていただきます』

    『当日はヒーロー公安委員会の主催で、観光地パトロール訓練イベント、と称したイベントを開催します。広場で屋台を出して住民交流を行うものですが、これにより、市街地にヒーローや警察官が多い理由付けを行います。この広場は御覧のとおり、駅からかなり離れております。観光客の徒歩による行動予測圏内からは大きく離れており、緑谷様と麗日様が来られる可能性は極めて低く、現地住民の方が来場される程度と予測されます。このイベント会場は、警備全体の統括基地としての役割も兼ねており、屋台をカモフラージュに、重要設備は目視出来ない範囲に集約します』

    「イベントの名前適当すぎンだろ」
    「ぶっ! ……あぶねえ。爆豪、頼むから笑わせんな」

  • 128二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 19:37:05

    緑谷side楽しみ

  • 129練乳グラブジャムン25/08/05(火) 20:47:20

    『サイドキックおよびチームアップへの依頼につきましては、こちらのイベントを理由に招致してください。緑谷出久様、麗日お茶子様に対して、不必要な干渉をしたり、過剰に視線を向けることは、デートを阻害する要因となってしまうため、厳に慎む必要があります』

    『当日現地警備に当たる方には、お二人については触れず、イベントへの協力と、下呂温泉周辺の警備を強化することのみをお伝えください。我々が目を向ける対象はお二人ではなく、違法行為を起こさんとする犯罪者です。目的を間違えないよう、十分にご注意をお願いします』
    確かに、周りの人間が二人を意識してしまっては本末転倒だ。
    なるべく自然体でいるためにも、この案内は必要だろう。

  • 130練乳グラブジャムン25/08/05(火) 21:24:41

    『ここからは、更に詳細な警備内容についてご説明させていただきます。まず――』

    その後も細かい内容が続いた。
    身に着ける持ち物、万が一ヴィランや一般の犯罪者発見時の対応、緊急連絡先。
    当日までの準備、前日の緑谷君の護衛(極秘)、駅周辺の重要設備、警察署の場所、温泉街のパトロールの時間割、検問での対処法、交代のスケジュール、経費の請求先……
    基本的に資料に記載があるとはいえ、内容は多岐にわたった。

    次々にスライドが切り替わり、膨大な資料をめくっていく。
    時間がどんどん過ぎていく。
    本格的な警備計画がどれだけ大変か実感させられる。

  • 131練乳グラブジャムン25/08/05(火) 21:53:46

    『――以上となります。もし何かご質問やご確認事項がありましたら、ヒーロー公安委員会までご相談下さい。最後に、ヒーロー公安委員会、会長のホークスより、一言、締めのご挨拶をさせてください』

    司会に促され、ホークスが壇上に立った。

    『えー、発起人の皆様を差し置いて、私から一言というのも、大変僭越なのですが……ま、堅っ苦しい挨拶は不要と思いますので、ざっくばらんに申し上げますね』
    いきなり砕けた、飄々とした態度になる。いつものホークスだ。

    『緑谷出久と麗日お茶子を、くっつけるのは簡単です。ただ相手に気持ちをバラせばいい。こんな会議も警備もいりませんよ』
    いきなり全否定だ。
    でもそのとおりだ。
    ただくっつけるだけなら、こんな簡単な事は無いのだ。

  • 132練乳グラブジャムン25/08/05(火) 22:33:28

    『でもね……それじゃあ面白くない。面白くないんですよ、そうでしょう? そんな方法じゃ、二人とも嬉しくないし、僕らだって面白くない。だから皆さん、こうして集まってくださったんでしょう?」
    面白くない、というのは語弊があるかもだが、そのとおりだ。
    もっといい方法があってほしいと願って、大勢の人に相談した。

    「聞けばこの二人、高校時代からずーっと両片思い。デートの一回すらしたことがない。今時、天然記念物並みに面白い二人ですよ。ほんと、何でまだくっついてないんでしょうね』

    「だからクソナードなんだよ……」
    「心底同意だけど、勘弁してくれ爆豪。笑っちまう」

  • 133練乳グラブジャムン25/08/05(火) 23:05:33

    『せっかくこんな面白い逸材が揃ってるんです。面白い事をしたいじゃないですか。我々は、二人の気持ちをバラさらない。二人をけしかけたりもしない。我々が何を考えているか、我々が何をしているかも知らせない。二人は何も知らない』

    『この難しい条件下で、もし二人がくっついたら。それ、クッソ面白くないですか?』
    ニヤニヤとした笑いを浮かべて、心底楽しそうにホークスが語る。

    『舞台を整えましょう、我々の力で! 犯罪を抑止し、二人が何の心配もなく、丸一日ただイチャついてデートできる環境を提供しましょうよ!』
    ホークスが身を翻す。まるで舞台役者だ。

  • 134二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 23:08:51

    大戦の英雄様とはいえ警備が天皇並だな…51倍ってなんだよ51倍って…

  • 135練乳グラブジャムン25/08/05(火) 23:16:39

    『皆さん、今回の話が来たとき、どう思いましたか? デートの舞台を作るって何だよ。それヒーローの仕事か? 警察の仕事か? って思いませんでした?』
    確かに、普通はそう思うだろう。
    僕だってこんな仕事が来たら、何だこれは、と思わずにはいられないと思う。

    『その疑問に、ずばりお答えしましょう……ハイそのとおりです、と! これこそが我々の仕事です、と! 何故かって? 決まってるでしょう!』

    一拍の間をとり、ホークスがひときわ大きな声で、静まり返った会場に言葉を響かせた。


    『デートは平和な時にしか出来ないじゃないですか』

  • 136練乳グラブジャムン25/08/05(火) 23:40:11

    その一言に、気のせいだろうか。
    会場に集まった人々の顔が、少しだけ、引き締まったように感じた。

    『皆さんの家族や友人が、楽しく遊んだり、安心してデートしたりできる、平和に暮らせる街を作る。それが我々の仕事でしょう? 大捕り物なんか要らない、ヒーローも警察も暇な社会こそが、我々の目指す理想じゃないですか』

    『我々のことなど何も知らずに、平和に、呑気に笑ってる人の顔。それを見て、実は自分達のおかげなんだぜ、と思いながら、こっそりニヤニヤさせてもらうのが、我々の仕事の面白いところじゃないですか』

    ニヤニヤというのはともかく、中身は凄く共感できた。
    何のトラブルも無い、平和な街のパトロール。
    楽しそうな人々の顔を見ながら、時折挨拶を交わして、何もなかったと安堵して事務所に戻る。
    確かにあれは、事務所の席に着いたときに、思わず頬が緩んでしまう、いい瞬間だ。

    ふと、なぜホークスがこんなに喜々として、この計画に賛同してくれているのか、分かった気がした。
    二人と知り合いだからという理由もあるだろうが、それだけじゃない。
    きっと彼が目指す理想に近かったからだろう。

  • 137練乳グラブジャムン25/08/06(水) 00:53:16

    『これだけの規模と人数で、こんな小さな温泉街すら守れない? そんなバカなこと無いでしょう? 我々はそこまで無能じゃありませんよ。皆さん、緑谷と麗日は、全く知らない他人という人も少ないでしょう? 我々の力で、バレずに成功させましょう! やり遂げてみせましょうよ。緑谷出久と、麗日お茶子の初デート!』

    誰ともなく、拍手が巻き起こった。
    会場にいた人達の気持ちが、ひとつになったようだった。
    少なくとも僕にはそう感じた。

    公安から回ってきた、ただの警備の仕事。悪ふざけみたいな目的。
    多くの人の認識はそんなものだったろう。
    それが、なにかとても面白い、大切なことの前触れのように感じられたのではないか。

  • 138練乳グラブジャムン25/08/06(水) 00:55:03

    会議が終わり、集まった人々が帰るとき、大勢の人に声を掛けられた。

    一緒に頑張ろう。やってやろうじゃん。心配するな。任せておけよ。

    そんな、暖かい言葉を沢山もらえた。
    実際、これだけの人員を動員しても犯罪が発生してしまうようでは、普段の治安など望むべくもない。
    ヒーローが暇な社会を目指すという、現会長ホークスの意気込み。
    自分達の力が試されていると、多くの人が思ってくれているようだった。


    大勢の人の協力を得て、本当に心強く思いながら、旧友の顔を思い浮かべる。

    緑谷君、麗日君。
    もう少しの辛抱だ。

    もうすぐ君達にとって、最高の舞台が整うだろう。


    ―――― to be continued

  • 139練乳グラブジャムン25/08/06(水) 07:01:50

    コメントくれてる人、読んでくれてる人ありがとう!

    いろんな方がおっしゃるとおり、ヤベエ規模になってます。

    みんな大真面目に何やってるんでしょうね。


    >>116

    スレタイのとおりNO431の続きのつもりで書いてるから、原作で描写された以上のものは無いんだ。

    つまりいまのところ全員、恋愛経験は無しなんだ……


    >>118

    誤字チェックしたつもりでしたがご指摘ありがとうございます。

    残りの方は急遽チェックして直したので、たぶん大丈夫かと。

  • 140練乳グラブジャムン25/08/06(水) 08:02:23

    ■No.446 星空のひとつ


    ※SIDE 麗日


    綺麗な草原だった。
    抜けるような青空に、鳥が飛んでいる。

    ヒミコちゃんはいない。
    代わりに、離れたところで、可愛らしい子犬が、元気に走り回っている。
    見ているだけで優しい気持ちになる。


    すぐ傍に、お茶をするような机と椅子があった。

    近付いてみると、美味しそうお菓子とティーセット、そして一冊の本が置かれていた。

    本をめくる。
    写真だ、私の顔が写っていた。
    楽しそうに笑っている。

  • 141二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 08:03:18

    誤字チェックついでにずっと気になってたんだけど、緑谷が緑屋になってることもあるし、飯田くんの一人称って俺だと思うんだよね
    元々僕だったのを意識して俺に直したって話を初期にしてるので結構重要なキャラ設定だと思う
    楽しく読んでるけど全体の完成度が高いほど細かい粗が目立ってしまうのはもったいないので…水さしてごめんね〜

  • 142練乳グラブジャムン25/08/06(水) 10:39:12

    パラパラとページをめくる。
    全部同じ顔だが、ページが進むほどに、腐食するように黒ずんでいく。
    写真の中で、私は黒く染まって、笑いながら泣いている。

    ……気持ち悪い。

    本を閉じる。
    あたりはすっかり日が落ちて、星も無い漆黒の夜空に置き換わっていた。
    そして、鳥も子犬もいなかった。


    子犬。子犬はどこだろう。とても大切な子犬。
    いた。動きを止めて蹲っている。
    子犬は大きな犬になっていた。でも同じ犬だと分かる。
    慌てて駆け寄る。

    大丈夫かな。

    手を伸ばした瞬間、犬は形を変えて、真っ黒い巨大な怖いものに変質した。
    ずっと逃げている、あいつだ。
    全身に鳥肌が立ち、悲鳴を上げて後ずさる。

  • 143練乳グラブジャムン25/08/06(水) 12:05:38

    なんでこんなところにいるの!?

    逃げる間もなく捕まり、私の身体が乱暴に持ち上げられる。
    どす黒い腕に、胸を貫かれた。
    氷のナイフを突き立てられたような冷たい感覚に、眼を見開いて苦悶の声が漏れた。

    胸に突き立てられた黒い腕が引き抜かれ、私の身体が、無用な包装紙のように乱暴に放り投げられる。

    体を起こして視線を向けると、怖いものが、何かを持っている。
    私の胸から引き抜かれたもの。
    キラキラした光の粒。
    一つだけじゃない、いくつもある。


    やだ、やめて!

    怖いものが持っている、夜空の星のような、小さな光。
    私のだ。
    私の、大切なもの。

    おねがい、やめて!

    怖いものが、星のように輝くそれを、ニタニタ嘲笑って眺めている。
    上に下に乱暴に振り回し、角度を変えて観察している。

  • 144練乳グラブジャムン25/08/06(水) 12:12:48

    やだ、やだ、おねがい、やめて、かえして!

    慌てて手を伸ばす。
    下卑た嘲笑があたりに響き渡った。
    怖いものが、踊るように喜び、手の届かない位置に持って行ってしまう。

    かえして、かえして!

    子供のように泣き喚いた。
    縋るようにしがみつき、手をのばし、でも返してくれない。

    ぶんぶんと振り回し、ぽんぽんと放っては掴み、どこまでも乱暴に扱われる。

  • 145練乳グラブジャムン25/08/06(水) 12:14:35

    やめて、やめて、やめて!

    このままじゃ壊される。
    とっても大事なものなのに。

    かえして、おねがい、かえして!

    ぼろぼろ泣きながら、必死に懇願する。
    私の宝物。何より大切なもの。どうしても失いたくないもの。

    怖いものが、にっこりと微笑んだ。
    そっと私の前に、その手の星を差し出してきた。

    慌てて手を伸ばす。


    手が届く直前で、ぐしゃりと乱暴に潰された。

  • 146練乳グラブジャムン25/08/06(水) 12:17:52

    「――――ぁっっっ!」

    目が覚めた。
    見慣れた自室が視界に入る。

    「ぁ……ぁ…………ぅぁ………………」

    ……気持ち悪い。すっごい気持ち悪い。
    ベッドの上で吐きそうになるほどに。
    心臓が全力疾走したように、変な動きをしている。


    「はっ……はぁ……はぁ……ぁ……」

    なにこれ……また変な夢でも見た?
    夢……ああ、いいや、思い出さなくて。
    疲れがたまっているんだろうか。

    髪も額も汗で濡れていた。
    パジャマもベタっと湿っている。
    最悪の寝起きだった。

  • 147練乳グラブジャムン25/08/06(水) 12:19:39

    洗面所に向かい、乱暴に水を飲む。
    吐きそうなのは収まったが、気持ちの悪さは残っている。

    鏡に写った自分。見ていられないほど酷い顔をしている。
    立っていられず、水の入ったコップを持ったまま、ぺたん、と床に座り込む。

    「はぁ……は……ふぅ……」
    水を飲みつつ、ゆっくり呼吸を整えていく。
    気持ち悪いのが、だんだん落ち着いていった。

    時計を見やる。
    夜中の三時を過ぎたところだった。
    早起きにしたって限度がある。

  • 148練乳グラブジャムン25/08/06(水) 12:21:45

    ……もう一度寝よう。
    疲れているなら、なおさら寝た方がいい。
    起きたらシャワー浴びればいいや。

    コップを戻し、ベッドに戻り、布団をかぶる。

    水を飲んで落ち着いたせいだろうか、すぐに睡魔がやってきた。
    微睡んで、意識が落ちていく。


    ……どうせなら、楽しい夢を見たい。
    デク君と一緒に……お散歩するような……

    ……きっと……楽しい……
    すごく……すご…く…………


    ―――― to be continued

  • 149二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 12:24:06

    続き期待

  • 150練乳グラブジャムン25/08/06(水) 12:45:49

    >>141

    誤字チェックほんとごめんなさい。何度もやったつもりでしたが不十分だったようです。本当に気を付けます……


    飯田君の一人称ですが、これ結構重要だと思うのでご説明させてください。


    添付は原作No.386の画像ですが、同じ話の中でも両方使っていたりして、統一されていませんでした。

    「俺」を使うのは意識的に、素では「僕」呼称になってしまうと説明されていました。

    作中で両方使っている事を踏まえると、場面に応じてあえて両方使うのが、本来のキャラ的には最も適切かもしれません。

    ……が、このスレでは、あえて「僕」で統一しました。

    これには理由が3つあります。


    まず、8年後にあたるNo.430、No.431では、どちらの呼称も使っていませんでした。(一人称呼びのセリフが無い)

    このため判断は読者側に委ねられているかなと思います。


    次に、あれから更に成長し、独立して立派なヒーローになった飯田君が「俺」呼称を続ける必要は薄くなっているのではないかと考えました。

    「迷子」を意識したセリフが多かったこと、個性カウンセリングに同行して小さい子供に接する機会が増えているのであれば、8年後の現在は「俺」よりも「僕」を使う方が多いのではないか、と考察しました。


    そして最大の理由は、悲しいかな、大人の事情です。

    漫画の吹き出しではなく文章で読んでいく都合上、一人のキャラで一人称が複数あると、誰が喋っているか分かりにくくなる、という性質があります。

    更に、「俺」を使うキャラは多いので、「俺」に寄せると今以上に混ざって読みにくくなってしまうのでは、と考えました。


    というわけで、このスレ内での飯田君の一人称については、今後も「僕」呼称で続けさせてください。

    もしかしたらファンブックや何かの媒体等で、8年後の一人称について明記されているかもしれませんが、すみません未チェックです。

    いずれにせよ違和感は残ってしまうかと思いますが、この世界線の解釈ということでご容赦いただければと存じます。

  • 151練乳グラブジャムン25/08/06(水) 14:50:42

    ■No.447 全力の包囲網

    ※ある日のグループLINK


    【元A組グループ】

    ウラビティ『ごめん。旅行の日だけど、個性カウンセリングのお仕事入っちゃった。私も行けないや』


    【誤爆は爆死刑!クソナードと麗日救済グループ】

    大・爆・殺・神・ダイナマイト
    『どこのクソ団体だ! 麗日に仕事ぶち込みやがったのは!』
    八百万百
    『雄英の根津校長には連絡済みです。いま最優先で調査いただいていますわ』
    イヤホン=ジャック
    『私の方でもサイドキックに情報収集させてる!』
    ケロちゃん
    『お茶子ちゃんが過去に行った個性カウンセリングのリストよ。再依頼ならこの中にあるかしら?』
     ウラビティ訪問先List.pdf

  • 152二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 17:43:54

    このレスは削除されています

  • 153練乳グラブジャムン25/08/06(水) 17:47:37

    Ⅸ黒い鳥Ⅸ
    『ホークスに連絡した。ヒーロー公安委員会に届け出のあった当日のスケジュールを調べてもらっている』
    八百万百
    『根津校長から連絡あり。新規依頼の保育園でしてよ。URLこちらです』
     hhh.onenne-hoikuen.corn
    かみなり
    『よりによって新規の保育園かよ! 雄英とも公安とも繋がりないぞ、どうする!?』
    グレープJ
    『心操、頼む! 日付変えさせてくれ!』
    心操人使
    『いや、さすがに無理。あとポリシーに反するから、出来たとしてもやらない。ついでに、いま海外だ』

  • 154練乳グラブジャムン25/08/06(水) 18:30:17

    梅雨ちゃん
    『ルミリオンに連絡したわ。彼が一度訪問してる。HPにあった』
    イヤホン=ジャック
    『いや上鳴、落ち着いて。公安とは繋がりあるはずだよ。少なくとも絶対に、仕事頼むのに申請いるじゃん』
    飯田天哉
    『ああ。いったん常闇君からの報告を待とう』
    Ⅸ黒い鳥Ⅸ
    『確認が取れた。どうやら公安職員が、いつもの調子で許可してしまったそうだ。ただ、いずれにせよ内容は誤っていないからどのみち公安としては申請は許可せざるを得なかったそうだ』
    Ⅸ黒い鳥Ⅸ
    『そこでホークスから、園を丸ごとヒーロー公安委員会の別イベントに招待するという提案が出た。イベントはこれから作るそうだ。園の個性カウンセリングはリスケしてもらう。これでどうだ?』
    インビジブルガール
    『お茶子ちゃんの予定が空けば何でもOK! とりあえずそれで!』
    Ⅸ黒い鳥Ⅸ
    『御意』

  • 155練乳グラブジャムン25/08/06(水) 19:47:05

    【元A組グループ】

    ウラビティ
    『ごめん。さっきの話だけど、個性カウンセリングの日付、間違いだったみたい。私行けるよ』


    【誤爆は爆死刑!クソナードと麗日救済グループ】

    烈怒頼雄斗
    『常闇ナイス!』
    Pinky
    『さすが! ホークスすごいね!』
    Ⅸ黒い鳥Ⅸ
    『仕事そっちのけで最優先で対応してくれたぞ』
    大・爆・殺・神ダイナマイト
    『会長が何やってんだ』
    セロファン
    『面白がってるだけじゃねえの?』
    飯田天哉
    『だとしても有難い。常闇君、よく御礼を伝えておいてくれ』

  • 156練乳グラブジャムン25/08/06(水) 21:21:24

    ※またある日のグループLINK

    【元A組グループ】

    デク
     『ごめん、僕は仕事入ってキャンセルかも。講演の依頼来ちゃった』


    【誤爆は爆死刑!クソナードと麗日救済グループ】

    かみなり
    『今度は緑谷かよ!?』
    八百万百
    『根津校長に確認しましたが、学校側は知らないそうです。緑谷さん宛に直接連絡が来たみたいですわ』
    テンタコル
    『仕事受けすぎだろ』
    八百万百
    『ご安心を。オールマイトが珍しく激怒したそうで、緊急で根回し中との事です。おそらく直ぐにリスケされますわ』

  • 157練乳グラブジャムン25/08/06(水) 22:05:16

    テイルマン
    『オールマイトがキレたのか』
    Pinky
    『緑谷少年が幸せになるんだー、って、すごく喜んでたしね。スポンサーもしてくれてるし、私らより思い入れ強いんじゃ?』
    イヤホン=ジャック
    『立場的にも教頭先生だし、学校に許可なく教職員に仕事持って来られると困るっていうのもあるんじゃない? 緑谷は特に忙しいだろうし』
    テンタコル
    『部下の管理は上司の仕事でもあるからな』
    烈怒頼雄斗
    『実際オールマイトからしたら、緑谷って息子同然だろ。本人は知らねえけど緑谷にとっては大事な日だし、すげえ人数が動いて準備してるわけだし、なんなら金まで出してるわけだし。それで仕事の邪魔までされてれば、まあキレるのも無理無いんじゃねえか』
    セロファン
    『仏の顔も3度までっていうけど、1度で3発入ったか』

  • 158二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 23:21:06

    やっぱ2人とも忙しいんだな…
    なんでピンポイントで依頼が来るんだ…

  • 159練乳グラブジャムン25/08/06(水) 23:23:30

    【元A組グループ】

    デク
    『何度もごめん。学校に話通ってなかったみたいで、講演はリスケになったよ。僕行けまーす』


    【誤爆は爆死刑!クソナードと麗日救済グループ】

    ケロちゃん
    『本当に早かったわね』
    八百万百
    『緑谷さんに限っては、既に雄英の全職員に協力依頼がされています。絶対に仕事が入らないようにしてくださいますわ』
    Pinky
    『あーびっくりした。ヒヤヒヤさせないでよ』

  • 160二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 23:31:37

    二人とも仕事熱心だからな。
    ある意味今回の計画で一番予想できないのこの二人かも、、、

  • 161二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 23:54:23

    >>150

    不躾指摘だったのに詳しく説明ありがとう!このスレではそういう設定とする旨理解しました

    ちゃんと考えてる人みたいなので見解を聞きたいんだが、決戦後から430話までの8年間に爆豪はデクのことを何て呼んでたと思う?

    内容全然関係なくて申し訳ないから邪魔だったら消してスルーしてくれ

    こんだけアホみたいに大掛かりな計画になったのに肝心の2人が多忙なのワロタ 続き楽しみにしてる

  • 162二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 05:52:18

    俊典さんがAFO以外にキレるって相当やで出久はん…

  • 163練乳グラブジャムン25/08/07(木) 06:10:13

    心操人使
    『オールマイトから激怒の電話が飛んだのか』
    かみなり
    『そういやオールマイトって怒ったの見たこと無くない?』
    シュガーマン
    『いつも優しかったよな。ヴィラン相手でも笑って戦うっていうスタイルだったし、分かりやすく怒ったイメージが無い』
    インビジブルガール
    『ねえ、深く考えるのやめない? オールマイトが怒ったところ想像したら、めっちゃ怖くなったんだけど』
    Pinky
    『私もゾッとした。この話これでおしまいにしよ』

  • 164練乳グラブジャムン25/08/07(木) 08:07:37

    ※またまた、ある日のグループLINK


    【お茶子ちゃん応援グループ※女子限・お茶子ちゃん招待禁止!】

    インビジブルガール
    『みんな朗報! 髪切容美(かみきりようみ)さんの手配ができたよ! 金曜日にお弟子さんと来てくれるって!』
    Pinky
    『やった! あの天才カリスマ美容師、絶対呼びたかったの!』
    ケロちゃん
    『個性がクイック・アイだったかしら。カット中もドライヤー中も、常に髪の一本一本まで全部見分けるっていう。あの葛飾北斎と一緒だって聞いたわ』
    イヤホン=ジャック
    『一年先の予約も取れない人じゃん!? どうやって!?』

  • 165二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 08:10:31

    なんか凄そうだ

  • 166練乳グラブジャムン25/08/07(木) 10:22:46

    インビジブルガール
    『オールマイトのファンだって聞いたから、ダメ元で交渉してみたの。オールマイトとお食事できるようにセッティングするからお願いします、って。それでOKもらった。オールマイトは学校に連絡して了解もらったから大丈夫! 協力できることが増えて嬉しいって、むしろ喜んでくれた!」
    Pinky
    『でかした葉隠!』
    八百万百
    『こちらもエステティシャンの手配が完了しました。身流整良(みながれせいら)さん、細良(さいら)さん姉妹です』
    インビジブルガール
    『それ東京のすっごい有名店の人じゃない!? 双子の人でしょ!? 血行促進とか、そんな感じの個性だっけ?』
    八百万百
    『個性は流体化だったかと。色々なコネを使ってお願いさせていただきました』
    イヤホン=ジャック
    『どっちも東京の人だよね。東京まで行くの?』
    インビジブルガール
    『ううん、来てもらうよ』
    八百万百
    『近郊の店舗をそれぞれ一日貸し切り、設備も運び込む形にしています。万事抜かりなく手配済みですのでご安心を』

  • 167練乳グラブジャムン25/08/07(木) 12:27:19

    Pinky
    『ヤオモモさすが! ネイルサロンは?』
    八百万百
    『ネイルについては地元に良いお店がありまして、ずいぶん前から決まっております。二重爪彩(にじゅうそうあや)さんのところで手配済みです』
    Pinky
    『どんな個性の人だっけ?』
    八百万百
    『細胞修復ですわ。医療系で重宝される個性ですが、二重爪さんはネイルケアに用いているそうです。痛んだネイルも綺麗に出来るとあって、非常に高い人気を誇っております』
    ケロちゃん
    『みんなありがとう。百ちゃん、金曜日、よろしくお願いね』
    八百万百
    『お任せを。決戦前日の最後の準備。抜かりはありません』


    ―――― to be continued

  • 168練乳グラブジャムン25/08/07(木) 12:42:37

    コメントくれてる方、呼んでくれてる方、ありがとうございます。

    誰か見てくれてると思うと安心して投下できます、感謝しております。


    >>161

    設定面にも関わるのでご回答を。

    かっちゃんの呼び方は3種類ごちゃ混ぜかな、と思います。

    基本はデク、キレたりツッコミ入れるような時はクソナード。なんかしんみり、深い話するときは出久、と呼んでる気がします。

    No430と431ではデク呼びしかしていませんので、基本はデク呼びが定着してるのかなと思います。


    もしかしたら8年間にそれ以外の呼び方はしなくなった可能性もありますが、ただ機会は減っても折に触れてクソナードとも出久とも呼んでほしいので、このスレではこの基準で書いております。

  • 169練乳グラブジャムン25/08/07(木) 15:03:50

    ■No.448 麗日お茶子・スタイルアップ

    ※SIDE 麗日


    「ねえ……本当に、こんな仕事ってあるの?」
    落ち着いた雰囲気の店舗で、施術着に着替えながら、何度目になるかも分からない疑問を口にする。

    「実際あるのですから、こうして来ているのでしょう?」
    「お仕事に文句言っちゃうかあ。偉くなったねえ、ウラビティさん?」
    「そんなんちゃうて……」
    一緒に来ている百ちゃんと拳藤さんの声が、カーテン越しに聞こえてくる。

  • 170二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 17:53:25

    サラッと割と凄そうな個性が……いや逆にプラフェッショナルか

  • 171練乳グラブジャムン25/08/07(木) 18:26:11

    「でも、全身エステの体験モニターって……こんな仕事、聞いたこと無いよ?」
    「ヒーロー業に対しての効果検証とヒアリングが目的だと、説明があったじゃないですか。これは正式な手続きで依頼されたお仕事ですし、人員を揃えるためのチームアップのお願いでしてよ?」
    「うん……そうなんやけど……」

    そうなのだ。
    これは仕事の依頼で、提示された書類は全て正規のものだった。
    本物の店舗さんから、ヒーロー公安委員会に提出された依頼書。
    その依頼書が公安委員会で承認されたことを示す許可証、そこに捺された会長の認印。
    その仕事が公安委員会からクリエティの事務所に回され、事務所間で交わされた契約書。
    全て完璧に揃っていた。

  • 172二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 18:28:27

    まあ、半分公務員半分芸能人みたいな仕事だから美容も大事だわな(`・ω・´)

  • 173練乳グラブジャムン25/08/07(木) 19:31:58

    最初は、明日の旅行にあわせて、百ちゃんや皆が、こんな事してるのかと勘繰った。
    先日の服と同じく、私をいじくりまわして、デク君にアピールさせようとして、楽しんでいるんじゃないか、と。

    ……けど、それは不可能だ。
    いくらなんでも、全身エステのフルコースなんて、まともに頼んだらすごいお金が必要だ。
    さすがに皆もそこまでやるとは思えない。
    何よりも、ヒーロー公安委員会の印鑑なんて偽造したら、公文書偽造で立派な犯罪になってしまう。

    実は、あまりに現実感が無い依頼だったので、絶対に何かの間違いだと思って、徹底的に調べた。
    が、書類はどこからどう見ても本物で、過去に処理した書類と見比べても、何の違いも無かった。
    疑いようのない、本物の書類だった。

  • 174二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 19:57:00

    さすがに公安もグルとは思うまい。

  • 175練乳グラブジャムン25/08/07(木) 20:23:54

    ヒーローには一般企業や店舗からも様々な仕事が依頼される。
    そして、ヒーローに仕事を頼むときは、ヒーロー公安委員会に届け出て、承認を受ける必要がある。
    昔はもっと緩く、直接事務所に依頼できたらしいが、いつからかこの制度になった。
    少なくともホークスが会長に就任した現体制では必須事項だ。
    現行犯とか突発的なものは別にして、基本的には申請がいる。

    今回のように、百ちゃんの事務所に依頼を出す場合、まずその旨をヒーロー公安委員会に届け出て、承認してもらえなければ、そもそも仕事の依頼ができない。
    非合法な仕事の撤廃、極端な報酬差の是正、公安側でヒーローの業務実績を一元管理する……など、意図は多々あるそうだが、要はヒーローと企業、双方を守るための施策だ。

  • 176練乳グラブジャムン25/08/07(木) 20:35:47

    審査も緩く、よほど変な内容や常識外れの金額でもなければ、基本的には承認される。しかもほとんどの場合で即日承認だ。
    申請さえしておけば文句は出ない、カタチだけの制度……それが世間一般の認識だった。

    しかし、だからこそ届け出をしないと、ヒーローと企業双方に厳しい罰則が下る。
    仕事の内容に関わらず、未申請の方が後々面倒になるのだ。
    偽造なんて未申請より更にリスクが高い。
    そんな事するくらいなら最初から素直に申請した方がいいに決まってる。
    百ちゃんがそれを知らないハズが無いし、書類はどう見ても本物。
    だからこそコレは信じるしかないわけで……

  • 177練乳グラブジャムン25/08/07(木) 21:25:34

    「八百万さん、化粧品のCMとかもやってるもんね」
    「ええ、その延長みたいなものでしょうね」
    「そっか……そういうもんなんか……?」
    腑に落ちないが、そんな事もあるんだろうか?

    「なに? もしかして、謝礼金が少ない?」
    「いや、お金は別にええんやけど……」
    そう、この仕事は私がお金を払うのではなく、逆に貰う立場なのだ。
    それほど高額ではないとはいえ、こんなの、お金払ってでも受けたい人が山ほどいるだろう。
    店舗側からの仕事の依頼なのだから当然なのだが、それが疑問に拍車をかけている。

    「いい加減に納得してくださいよ。今日は空いていて、ご協力いただけると仰ったではありませんか」
    「うん……会議二つと個性カウンセリング、夜も対談が一個入ってたんやけど、なぜか全部リスケになっちゃって」
    「おかげで私の仕事を受けていただけました。助かりましたわ」
    そうなのだ。百ちゃんも拳藤さんも、更には店舗の人までも、あくまで私の予定に合わせて、今日の実施にしてくれたのだ。

  • 178練乳グラブジャムン25/08/07(木) 22:03:30

    「……二人はたまに、こういう仕事来るの?」
    「ここまでガッツリ長時間というのは初めてですが、たまに似たようなものはありましてよ。ねえ拳藤さん」
    「うん。マウントレディさんとか、ウワバミさんとかと仕事してると、ちょくちょくあるよ」
    「そうなんか……そういうもんなんか……」

    納得できないまま、着替えを終え、カーテンを開ける。
    「あれ!? 百ちゃん達、着替えは?」
    二人とも着替えておらず、来たときの私服のままだ。

    「私達は別メニューでしてよ。私はハーブティーの効果測定、拳藤さんはハンドクリームの効果測定です」
    「ええっ!? ちょっと待って、それ絶対マズイって!」
    どう考えても内容の質が違いすぎる。

  • 179練乳グラブジャムン25/08/07(木) 22:38:09

    「何が?」
    「メニューが違いすぎや! 私だけ凄い良い思いするやん!?」
    「それは仕方ありませんわ。そのコースは、一度もエステを受けたことのない女性ヒーロー、というのが、モニターの条件でしてよ?」
    確かにそれは依頼書にも書いてあった。

    「普段から受けてる人だと、効果が分かりにくいんでしょ。だから未経験者を募集したんじゃない?」
    「お店としては宣伝に用いりたいのでしょうね」
    「でもでも、だって! これ、百ちゃんのところに来たお仕事なんに!」
    「だからこそ責任を持って、相応しい人材をアサインしたのではありませんか。これで私が私欲丸出しで、ウソをついてそのコースを受けていては、事務所の信用にキズがついてしまいますわ」
    「それは……そうかもしれんけど……!」

    狼狽える私をよそに扉が開き、スタッフの方が入ってきた。
    「お着替え終わりましたか?」
    「あの……でも……」
    「はい、大丈夫ですわ。では、ウラビティさん? お、し、ご、と。よろしくお願いしますね?」
    百ちゃんの、あくまで仕事だという圧を受けつつ、更衣室を後にした。

  • 180練乳グラブジャムン25/08/08(金) 05:43:45

    施術室に通されると、二人の施術師に迎えられた。
    瓜二つの顔に、髪をそれぞれ右と左にサイドテールに結んでおり、一目で双子と分かる。
    「本日は、エステサロン身流のご依頼を受けていただき、ありがとうございます。本日施術を担当させていただく、身流整良と申します」
    「同じく、細良と申します。よろしくお願いいたします」
    「はい、よろしくお願いします……」
    現実感が無いまま挨拶を交わす。
    髪を向かって右に結んでいるのが整良さん、左に結んでいるのが細良さんか。
    ……絶対分からなくなる気がする。

  • 181練乳グラブジャムン25/08/08(金) 06:42:48

    「では施術前に再度確認ですが、麗日様は、ヒーロー業をされていて、まだこういったエステのご経験は無い、ということでよろしかったでしょうか」
    「はい、ヒーロー名はウラビティです。こういったエステみたいのは、ちょっと今まで受けた事は無くって……マッサージとかはあるんですけど」
    ヒーローは身体が資本だ。マッサージや柔軟、筋トレなどは行っている。
    ただ、美容に関するメンテナンスみたいなものは、あまりやってきていない。

    「ありがとうございます。ではモニターの条件はクリアされていますので、ご依頼のとおり、後ほどアンケートをお願いいたします」
    「はい、それはもう……頑張って書かせていただきます」
    自分が仕事として貢献できるポイントはそこしかない。
    とにかくビッシリ埋めて、百ちゃんと、お店の役に立とう。

  • 182練乳グラブジャムン25/08/08(金) 08:00:28

    「では本日の施術内容のご説明をさせていただきます。まず今から、全身のマッサージをさせていただきます。ストレッチに近いもので、揉みほぐすのではなく、身体を開いていく感じですね」
    「開く?」
    「人間の身体って、放っておくと、どんどん丸まっていくんですよ。腰の曲がってしまったお年寄りや、猫背になってしまった人が分かりやすいかと。あれって、身体が丸まってるんです。逆に、背中を反っている人って、いなくないですか?」
    「ああ……確かにそうですね」
    「ですので、丸まった身体を開いていく、というのが大切になります。背筋を伸ばし、胸を張って、踵を揃えて、スッと立つ。それが人間として、キレイな立ち姿ですよね。モデルさんやアナウンサーさんのイメージです」
    「なるほど……」
    確かに、どれだけ痩せていても、猫背でいては魅力半減だ。

  • 183練乳グラブジャムン25/08/08(金) 08:23:06

    「全身のマッサージが済みましたら、次にスチームサウナとなります」
    「スチームサウナ? あの温泉とかにあるヤツですか?」
    「そうですね、あのイメージに近いです。ハーブを用いた蒸気で、全身のデトックスを促します」
    汗で悪いもの出そう、ってことか。

    「その後、オイルマッサージになります。皮膚に染み込ませ、筋肉の緊張を更に和らげ、リンパ管の老廃物を流れやすくします。オイルとチタンを用いて、全身のリンパを流していきます」
    「チタン?」
    「チタン金属です。美顔ローラーなど、見たことありませんか?」
    すぐ傍の棚に近寄ると、スッと、先端に丸いローラーが付いたものを取り出してくれた。

    「ああそれ、顔とかコロコロする……」
    「そうです。色々種類がありますので、全身の各所に合わせて使わせていただきます」

  • 184練乳グラブジャムン25/08/08(金) 12:09:50

    「最後に全身のオイルをふき取りますが、このときに脱毛を行います。といっても、普通に剃るだけですので、お肌や毛根にダメージが入ることはありません。剃毛といった方が正確ですが」
    「ああ、助かります。お願いします」
    脱毛は興味があるが、痛かったりするのは避けたい。普段も剃るだけにしているし、そうしてくれると助かる。
    個人的にも、明日明後日がキレイでいられればいいし……

    「また施術中は、適宜、私たち二人の個性、流体化を使わせていただければと思います。これは固体を温度変化を待たず液体にする個性でして、固まったセルライトの除去、詰まったリンパの改善、固まった筋肉の緊張緩和、血行促進と老廃物の排出を促す効果を目的として使います」
    「そんな個性あるんや……」
    「一般的には、鉄や氷を冷たいまま液体にするような個性と認知されていますが、私達は施術に応用しております。個性を使わなくても施術は出来ますが、痛みを少なく、より高い効果を期待出来ますので、ご了承いただけるとありがたいのですが。もちろん施術への個性使用について、認可は受けております」
    「はい、使ってもらって大丈夫です。お願いします」
    あくまで仕事で来ているのだ。
    変なことをされるわけでもないし、とりあえず全部YESと答えておいた方が役に立てるだろう。

  • 185練乳グラブジャムン25/08/08(金) 12:12:18

    「では、まず最初に、各所の計測をさせていただきますね」
    「計測?」
    「はい。バスト、ウエスト、ヒップ、それから太もも、ふくらはぎ、二の腕を、メジャーで太さを測らせていただきます」
    「え……そんなところまで測るんですか」
    ちょっと怖いというか、恥ずかしいというか。
    あまり知りたくない数値が出てきそうだ。

    私の不安を予想してか、整良さんがニコッと笑った。
    「施術前と、施術後で、どれだけ効果が出たか、数値で確認するためのものです。お金を払っても効果が出ていなかったら、イヤじゃないですか。今回はモニターですし、店舗側に記録は残しませんので」
    「ああ……そういう事なら、はい」
    確かにどのくらい効果が出たかは、数字で見れば一発だ。よほど自信があるんだろうか。

    服の採寸のように体のあちこちを測られ、それからマッサージが始まる。
    確かに普通の寝転がって受けるものと違っていた。
    胸を反らしたり、肩甲骨に深く指を入れられたり、お腹を押されたり……マッサージというより、整体に近い気がする。
    疲れた身体が解れていくようで気持ちがいい。

  • 186練乳グラブジャムン25/08/08(金) 12:13:52

    「では、スチームサウナに移らせていただきますね。こちらにご移動お願いします」
    中心に穴が空いた椅子だった。トイレの便座のようだが、便座よりは穴が小さい。
    「椅子でやるんですか?」
    てっきりサウナ用の部屋があるのかと思っていた。

    「そのとおりです、ここからハーブを入れた蒸気が出てきます。こちらに体育座りのように座っていただけますか」
    言われるままに座ると、美容室で髪を切る時につけるような、大きなクロスを被せられた。
    ビニールのような、アルミホイルのような、かなり気密性の高いクロスで、首から下が、椅子まで全て覆われる。
    なるほど、これで蒸気を閉じ込めるわけだ。


    「では、これから蒸気が出て参ります。ちょっと熱いかもしれませんので、お気を付けください。それと、ハーブの匂いが強いので、ちょっと臭いかもしれません」
    「はい…………あ、本当だ」
    見えはしないが、椅子から蒸気が出て来たのが分かる。
    火傷する程ではないが、かなりの高温だ。確かにこれはサウナになる。
    ハーブの香りもするが、密閉されているせいか、それほど強い匂いでもない。

    「熱すぎるとか、匂いでご気分悪いとか、ありませんか?」
    「ええ、大丈夫です」
    ぼーっと蒸気を浴びながら、ゆっくり時間が過ぎていく。
    身体が温まって、代謝が良くなっていくのが分かる。
    クロスで見えないし、蒸気の水気もあって判別できないが、自分の身体は相当汗ばんでいるだろう。
    首から上は涼しいが、頭からとめどなく汗が出てきている。
    二人が時折、ぽんぽんと顔の汗を拭きとってくれるのが心地よかった。

  • 187練乳グラブジャムン25/08/08(金) 12:15:29

    「それでは、スチームサウナの方、止めさせていただきますね」
    だいぶ時間が経ってから、ようやくスチームサウナが終わった。
    首から上は涼しかったとはいえ、それでものぼせたような感じになってきたので助かった。
    蒸気が止まり、クロスが外されると、ムワッとしたハーブの強い匂いが漂った。
    もしこれがずっと続いていたら、少し臭いと思うかもしれない。

    首から下は、お風呂に入ったかのように、全身びしょ濡れだった。
    施術着もぐっしょりと湿っている。透けてはいないし、女性スタッフだからいいのだが。
    座ったまま、濡れた身体を両側からタオルでぽんぽんと拭いてもらえた。
    タオルの柔らかさが心地よい。

    「施術着ですが、いったんお着替えされますか? このあとオイルマッサージとなりますので、また濡れてしまいますが」
    「あ~……問題無いなら、このままで大丈夫です」
    身体が蒸されて、全身だるいし、頭もぼーっとする。
    正直、着替えるのは面倒だった。

    施術台に戻され、うつ伏せに寝転ぶ。
    正直このまま寝てしまいそうだ。
    「お疲れでしたら、寝てしまっても大丈夫ですよ」
    「あ~……助かります」
    仕事だから寝るわけにいかないと思いつつ、寝てしまえるのは助かる。
    ただ、この後のアンケートの事を考えると、しっかり起きていたい。

  • 188練乳グラブジャムン25/08/08(金) 12:17:16

    身体にオイルを垂らされて、二人の手でゆっくりと塗り広げられる。
    身体が左右同時にやってもらえて、とても気持ちがいい。本当に息ピッタリだ。

    「痛いところや、触れてほしくないところ、気になるところがありましたら、言ってくださいね」
    「あ、はーい……」
    トロッとした感触と、ぽかぽかした感じ。
    さっきのスチームサウナの影響か、オイルの効果か、それとも個性を使っているのか。
    身体が水みたいに溶けていく感覚だ。

    背中を塗り終わったら仰向けにされ、全身がオイルに浸される。
    「では浸透させますので、このまま数分お待ちください」
    薄いビニールの布団のようなものをかけられる。
    身体がぴっちりして、パックをされているようだ。
    身体は十分温まっているが、肌だけが更に熱く火照っていくのを感じる。

  • 189練乳グラブジャムン25/08/08(金) 12:20:21

    「それではこれから、リンパ流していきますね」
    チタンの金属で、右足を絞られるように撫でられていく。

    「はい………………あ、いたたたた……」
    ふくらはぎの、向う脛のあたりで、小さく痛みが走った。

    「ここ詰まってますね。なるべく痛みのないようにしますが、耐えられないようでしたら言ってください。大丈夫ですか?」
    「あ、はい。大丈夫です。痛気持ちいいくらいです。全然やってもらっちゃっていいので……」
    「では、続けさせていただきますね」
    正直、痛い。だが、耐えられないほどではない。実際気持ちがいい。


    「……はい。いま右足だけ行いましたが、どうでしょうか?」
    「へ…………ぇええっ!?」
    目視で確認して、冗談抜きで驚いた。
    肉眼で分かるほど細くなっている。明らかに右足の方がスラっとしている。
    ラインも綺麗になっていた。

    「詰まっていると浮腫みに繋がります。こうして流してあげれば、しっかり細くなれるんですよ」
    「こ、こんなに効果あるんや……」
    エステなんて受けたことが無いから知らなかった。

  • 190練乳グラブジャムン25/08/08(金) 12:21:38

    「もちろん個人差がありますが、普段やっていない人は、効果が出やすいかもしれません。ウエストも細くなりますし、バストアップ、ヒップアップ効果もありますよ。フェイスラインも整います」
    うーん、確かに仕事ばっかりだ。
    運動もしているからいいと思っていたが、それだけでは足りなかったのか。

    「では、このまま全身を行っていきますね」
    施術が再開され、痛気持ちいい感覚が与えられる。
    脚や腕、お腹や胸、鎖骨から首、顔全体も解きほぐされていく。

    自分が綺麗になっていく感覚。
    エステにはまる人がいるというのも頷ける。
    やり過ぎはよくないが、たまにはいいな、と思う。

    いつか、デク君とデートできる日が来たら……
    その時に、また受けてみたいなあ。


    ―――― to be continued

  • 191練乳グラブジャムン25/08/08(金) 12:32:36
  • 192二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 18:53:57

    めっちゃ素晴らしい文をありがとう…毎日楽しみにしてます…!

  • 193二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 23:36:46

    これは良スレ。pixivとかにまとめて欲しいレベル

  • 194二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 01:18:40

    スケールがどんどん大きくなって笑ってしまう、のに皆が真面目で他人の幸せに奔走してるのグッとくる
    続きも楽しみにしています

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