- 1二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 21:25:47
「────この前の映画、やっぱりすごかったよね」
「……うん、ラヴかったわ……色んな意味でね……」
トレセン学園のカフェテリア
授業とトレーニングを終えた夕方、ふたりで並んで座りカフェオレを啜りながらあの“伝説的な一作”を思い返していた。ラヴズはスプーンでミルクフォームをいじりながら、ふと遠い目になる
「夢に出たわ、鮫の目が……あれ、ぜっっったいわざとだったでしょ」
「いや、俺も叫びかけたから……」
思わず吹き出す。そう、あの映画は恋愛ドラマとして始まり終わってみればジャンルは“愛と戦慄と鮫とゾンビ”ラヴズにとっては苦手なホラー成分が満載だったわけだがそれでも決して目を逸らさずに見続けた彼女はやっぱり真面目で強かった
「でも、手を繋いでもらえて……ちょっとだけ救われたかも」
「うん……俺もラヴズの手あったかくて落ち着いた」
「ふふっ……もう、そんなこと言うと照れちゃうじゃない……」
スプーンを唇に当てながら、小さく笑う彼女。その笑顔はこの間の怯えた表情とはまるで違っていて、でもどちらも“ラヴズオンリーユー”なのだと思う
すると突然、彼女がぱっと顔を上げて言った
「じゃあ、次はトレーナーくんのおすすめ映画に行こうよ!」
「え、俺の?」
「もちろん! だって、この前は私の推し監督だったでしょ? 今度は、トレーナーくんが見たいのを一緒に観たいな♪」 - 2二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 21:27:01
その提案は嬉しかったけれど、少し悩む。自分の“趣味”は彼女の好きなロマンティックコメディとはちょっと毛色が違う
「……じゃあ、コメディとかどうかな。あんまり難しくないやつ。ラヴズも笑えると思うよ」
「いいわねそれ! たくさん笑えるの今の私に必要な気がするわ!」
ぽんと胸に手を当てながら真面目な顔でうなずくラヴズ
「それで、怖いシーンはないのよね?」
「うん、たぶん……予告編には鮫もゾンビも出てなかった」
「『たぶん』って……絶対って言って?」
「絶対、絶対……!」
「よろしい♡」
彼女はひときわ甘い声でそう言いながら嬉しそうにカップを手に取った
「ねぇ……また、次も手、繋いでくれる?」
「え、また怖くなるの?」
「違うわよ! ……笑いすぎて、つい、ね? 震えちゃうかもしれないじゃない」
そう言って、わざとらしく目元を潤ませてみせるラヴズに俺は思わず吹き出す
「はいはい、じゃあ次もちゃんと繋ごうか」
「えへへ、楽しみ♡」
小さな笑顔がカフェの窓に差し込む夕陽に照らされて、きらきらと輝いていた - 3二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 21:28:06
映画館を出たのは夜の9時過ぎ
思った以上に笑った。肩が震えるほどに。涙が出るほどおかしかったシーンもあったし、何より隣でずっと笑い声をこらえていたラヴズが、終盤でついに吹き出してしまったところが一番可愛かった
「……トレーナーくん、顔、赤くない?」
「そりゃ、腹抱えて笑ったからな……お腹痛いし」
「もう、笑いの沸点が低すぎよ? あそこまでウケてるの、私とトレーナーくんくらいだったわよ」
「じゃあ、おあいこだな」
そんな風に笑い合いながら、俺たちはトレセンの寮に向かって歩く。真夏の夜風は生ぬるくて、けれどどこか心地いい。あたりはもう静かで、聞こえるのは蝉の声と、ラヴズのサンダルの音
……それと、少しだけ俺の心臓の音も
「……今日は、ありがとうね」
ふと、ラヴズが口を開いた
肩が触れるほどの距離で並んでいた彼女はそっと横目でこちらを覗き込んでいた
「誘ってもらって、すごく楽しかった……すっごく笑えた」
「うん、俺も。ラヴズの笑い声すっげぇ元気出た」
「えっ……なにそれ……ズルいわねそういうの……」
照れたように、けれど嬉しそうに彼女は前を向く。そして、おもむろに歩く足を止めた。見上げれば、もうすぐ寮の門
「……あのさ」
「うん?」
「……まだ、ちょっとだけ。一緒に歩いてもいい?」
返事を待つまでもなく、彼女はそっと俺の手を取って歩き出した。ぎゅっと握るわけじゃない。けれど、触れた部分がじんわりと温かい - 4二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 21:29:11
それは、帰る時間が惜しいというサイン。言葉にしなくても伝わる気持ち
「……もう少しだけ、ね」
そう言ったラヴズは口元をゆるめて夜道を踏みしめた
小さな公園のベンチに腰掛けてふたり並んで空を見上げる。流星は流れないけど星がぽつぽつと瞬いている
「……ねぇ、次はホラーじゃないけどちょっとしっとりしたやつ見てみようか」
「意外。ラヴズ、そういうの苦手じゃないの?」
「……苦手だけど……トレーナーくんが横にいてくれるなら、たぶん平気」
「そっか」
隣からそっと肩にもたれかかってくる重み。緊張じゃなくて、信頼と安心が混ざった温もり
「ねえ……トレーナーくん」
「なに?」
「……今日は、帰したくない気分だったのに」
「……それは俺の台詞」
ふふ、と彼女は笑った。寮に戻ればまた日常が始まる。だけどこうして過ごす時間がふたりの「非日常」になっていく
「……じゃあ、今度、私から誘ってもいい?」
「もちろん」
「うん。じゃあその時もまた手、繋いでね」
「繋ぐどころかエスコートもしてもらうかも」
「えへへ、任せて? ラヴズ・オンリーなガイドさんが、つきっきりでご案内するわ♪」
星空の下、ふたりの笑い声が溶けていく
帰り道は、もう少しだけ、続いていた - 5二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 21:30:18
駅の構内から姿が見えなくなっても、しばらくその場に立ち尽くしてしまった。ラヴズオンリーユーの残り香が、どこかまだ頬に触れているようで
「……ふふ、バイバイのあとって、少しさみしいんだよね」
振り返ると、ホームの柱の影からそっとこちらを覗いている彼女の姿があった
「えっ、ラヴズ!? まだ帰ってなかったの?」
「ううん、帰るつもりだったんだけど……なんか、もう一回くらい顔見たくなっちゃって」
制服の袖をきゅっと握って申し訳なさそうに微笑む彼女。その姿は、映画で観たどのヒロインよりも、ずっと胸に響いた
「……ねえ、トレーナー。わたしだけかな。こういうの、嬉しいって思うの」
「嬉しい?」
「うん。帰り際って、“今日のわたし”をトレーナーに届けられる、最後のチャンスでしょ?」
少しだけ背伸びをして彼女がそっと、こちらの胸元に顔を寄せた。まるで言葉じゃなく温度でなにかを伝えてくるように
「じゃあ、これで……ほんとのバイバイ」
小さく手を振って、今度こそ改札を抜けていくラヴズ。さっきよりも一歩だけ、背中が頼もしく見えた - 6二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 21:31:21
「……ほんとのバイバイって言って、ほんとに帰ってくれないかもって思ってたけど」
改札の向こう、もう振り返らない彼女の背中にそっと言った
──それでも、またすぐ会いたくなるんだよな
そんな気持ちを噛みしめながら、今度こそ俺も背を向けた。夜風が、少しだけやさしく吹いた気がした
改札の前、ほんの少しだけ躊躇っていたラヴズが、ふいに口を開いた
「……ねぇ、トレーナー」
「うん?」
「今日みたいに、また一緒に出かけてくれる?」
まっすぐな瞳がこちらを見上げる。それは、名残惜しさでも、遠慮でもなく、確かに“期待”の光を宿したまなざしだった
「もちろん。また映画でもいいし別の場所でも」
「じゃあさ……次は、映画のあとにカフェとか寄ってみたいな。今日、ちょっとだけ名残惜しかったから」
「俺も、正直、思ってた」
「ほんと? ふふっ……よかった。
じゃあ、それ、約束ね?」 - 7二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 21:33:10
指切りをするわけでもなく、スマホに予定を入れるわけでもない。けれど、その“またね”は、何よりもしっかり心に残る約束になった
「じゃあ、また近いうちに予定決めようか」
「うん。……楽しみにしてるね」
ラヴズが小さく手を振りながら、改札の向こうに消えていく。その背中を見送るこちらの胸にも、確かに次回への“ワクワク”が灯っていた
──彼女と過ごす時間は終わるたびに、また始まる - 8二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 21:34:13
おしまい
ここまで読んでいただきありがとうございます - 9二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 21:39:43
乙
自分から誘ってエスコートしてくれるラヴズ良き - 10二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 21:43:50
デート配信してほしい
- 11二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 21:44:51
気の利いた感想とか言えないんですけどすごい笑顔です今
ありがとうございます - 12二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 21:58:38
- 13二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 22:04:48
- 14二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 22:12:58
お褒めの言葉、ありがとうございます。“見事”とまで言っていただけるなんて、彼女のひたむきな思いがしっかり届いた証だと感じています
- 15二次元好きの匿名さん25/08/02(土) 22:38:18
17歳児さんどうしてここに