- 1二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 17:21:02
僅かに数センチ先の隔たりから、声が響く。
狭い告解室の中では音が数度反射し、悪戯に神経を逆撫でる。
内容は関係ない。
傍から聞けば些細なミスだったり、本人が恥ずかしい暴露だったり、普通に犯罪だったりを吐き出されるが……正直、どうでもいい。
所属も関係ない。
トリニティ自治区内の住民が最も利用してはいるが、ティーパーティに正義実現委員会、救護騎士団、果てはシスターフッドの一部生徒も利用しているが……正直、何でもいい。
ただ人が話す声が、音が、無性に嫌悪感を与えるだけなのだ。
「――神に立ち返り、貴方の罪は許されました。神の平和の内にお帰りなさい」
厳かだが慈愛に満ちたような、そんな何時もの声を作り上げ決まり文句を口に出す。
何処か晴れやかで、付き物が落ちたかのような感謝の言葉を最後に信徒は部屋を後にする。
……そんな言葉でさえも、虫唾が走る。 - 2二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 17:22:13
十九時。
備え付けられた時計が指し示した時刻で、本日の当番が終了した事に一つ息を吐く。
今日も敬虔な信徒の一人として応対出来たと、張り詰めた糸が緩められるのを感じた。
「マリー? もう教会を閉める時間ですよ」
「――サクラコ様!」
司祭室の扉が叩かれ、その先から発せられる声に思わず色めき立ってしまう。
万一にでも扉を当てないよう、鍵を外してからゆっくりと開き私は小さな独房から解放される。
私に分かる慈しみの微笑みを向けられながら自然と、細められたローズ色の瞳に吸い寄せられてしまう。
けれども違和感を感じさせぬよう、私はサクラコ様に対して精一杯の笑顔を向けて答えた。
「ありがとうございます、サクラコ様。次の信徒様が来る心用意をしていまして……」
「……あまり、無理をしてはいけませんよ? それに、告解室の司祭当番も別の方に代わって貰っても」
「お心遣い、ありがとうございます。ですがこれも、サクラコ様の様な立派なシスターに成る為の試練だと私は受け取っていますから」
「そう、ですか……ならマリーの憧れに恥じぬよう、私も精進しなくてはなりませんね?」
思案するように暗い影を落としたお顔は、一転して茶目っ気を溢れた笑顔を見せそう答えてくれた。
だから私も、不肖ながら淑やかに笑みを返して応えた。 - 3二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 17:23:14
一先ず寮に帰る様にと、サクラコ様に言われ一足先に教会を出る。
笑顔でその場は答える事が出来た物の、思わず教会を見つめ上げてしまう程度には戻る気にはなれなかった。
しかして誰を待つ訳でも無く、門前に立ち尽くすのは迷惑極まり無いだろうて。
不承不承ながら、私は帰路へ着く。
「……」
然程時間もかからずに着いた寮では、まず寮長に挨拶をし入浴時間の終わりを確認します。
同時に、事前に取り分けて貰っていた夕餉を受け取り私は一人の自室へと戻ります。
……他信徒とすれ違う度に突き刺さる、好奇と憐憫の混じったような視線にはとうの昔に慣れている。
集団生活の歯車から一人だけ浮き上がるような生活だと、自室の扉を背にしながら嗤ってしまう。
運んできた夕餉に手をつける事無く乱雑に机に置き、着替える事もせずに掛け布団の中に自分の身を隠す。
外から聞こえる人の声を遮る為に、体の内側で暴れる苛立ちに振り回されない為に。
誰にも気付かれぬようにと、祈りながら。
私は静かに眠りについた。 - 4二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 17:24:19
私は何も初めから、人が嫌いだった訳では無かった。
切っ掛けはとても些細な話だった。
丁度一年前、私がシスターフッドの体験会に足繫く通っていた頃の話だ。
来年入学する組織への体験会。
私ほど熱心な子は他には余り見られなかったが、立派なシスターへといち早く成りたかった私は当時の友人たちに背を押されながら毎日のように通っていた。
簡単な雑務から始まり、ボランティアやちょっとした荒事にまで駆り出されるようになり、当時の私はシスターフッドの一員に成れたと思って舞い上がっていた。
そんな折、事件が起きた。
それがどの先輩から言われた事だったかは、今でも思い出せない。
ただきっと、司祭を行うのが面倒だと思った先輩に押し付けられたのだろうと推測は出来た。
簡単な聖句や決まり文句だけを教えられ――それすらあやふやなまま――未熟な私は司祭の役目を任命されてしまったのだった。
初めは慣れないながらも何とか司祭として立ち振る舞う事が出来た。
確か、応援もされたし、何気ない雑談のような場としても使われたような気もする。
それも全て定かではないけれど。
そこそこの人数の告白を聞き遂げ、私でも出来ると自身が付いてきた頃……○○は現れた。
男だったか、女だったか。それすらも定かではなく。
思い出そうとしても、出来の悪いモンタージュのようにしか思い出せない。
けれど確かに思い出せる事は、私はその場で人身売買に関する犯罪の告白を聞いてしまったことだった。 - 5二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 17:24:28
一体何があったんだ
- 6二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 17:25:36
酷く、戸惑った。
摘発もされておらず、時効という事で後は自身の心が軽くなれば良いと、自分本位の考えしか話して無かったのを思い出せる。
けれども、敬虔な信徒なのか、形式に則って残りは此方から許しの言葉を投げかけるだけになった。
……私は何も、言えなかった。
今考えるなら適当に決まり文句を吐き出し、先輩方に相談でもすればよかったのだと思う。
だが、あろう事か。
私は告解者に対し【司祭】ではなく、【伊落マリー】として対応してしまった。
何を言ったのだろうか。でも確か、綺麗事を無残に吐き出していたようにも思える。
その言葉を聞いた告解者が激昂したのは言うまでもない。
告解室の扉が開かれ、司祭室の扉が乱雑に叩かれるのを鮮明に思い出せる。
まるで化け物が責め立てるように言葉を吐き散らしながら、只管に叩いて、叩いて、叩いて――。
ぎいと、扉が開いてしまったのだった。
司祭室の鍵について説明を受けていなかった私は、その存在を知らなかった。
僅かに生まれた隙間から漏れ出る光が絶望の兆しに見えて。
そこにかけられた手が見えた頃には、あれ程までにうるさかった言葉が欠片も聞こえて来なくて。
椅子に座っていた私は震えながら、扉の先に立つ何者かに只怯えながら見上げる事しか出来なくて。
『――!!』
「いやっ……!!」 - 7二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 17:26:48
……室内は、完全に闇の帳に包まれていた。
窓から差し込む月明りも分厚いカーテンで遮られており、僅かに窓辺を照らしているだけだった。
近くに置いたスマホを探そうと辺りを見渡した所で、私は静かに溜息を吐いた。
「本当、情けないですね……」
シーツを軽く撫で、そこまで面倒な事態に成っていない事に安堵するも、掛け布団は流石に駄目になった。
どうせこの後は清掃の時間だ……そう自身を納得させ、動きやすい体操服に着替えてすっかり冷めてしまった夕餉を取る。
漫然と食べ進め、恐らく全て胃に詰め込んで再度手を合わせた。
着替えた時に手繰り寄せたスマホで、現在の時刻を確認する。
時刻は午前二時。
タイミングバッチリだと己の気持ちを奮い立たせ、洗濯物を抱えて浴場へと静かに向かって行った。 - 8二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 17:29:12
うお、更新過ぎとるやん
復帰勢をフリーザでボコボコにするのが今めっちゃ楽しいんや
ちょっと待っとってな…… - 9二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 17:31:36
心がギューってする
- 10二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 17:40:26
誤爆してるっピ
- 11二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 17:58:03
人攫いマリー?
- 12二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 17:59:08
さてどうなるのか
- 13二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 22:21:52
働かざる者食うべからず、とまでは言わないが。ここシスターフッド寮では炊事洗濯清掃の仕事を当番で回している。
カフェテリアでの炊事も、大量の衣服と格闘する洗濯も、複数箇所周らなければならない清掃も出来なくはない作業だった。
……ある一件を境に私は浴槽清掃係に立候補する事になったのだが、また別の話だ。
「さて……始めましょうか」
洗濯物は固めてある所に分けて入れ、粗相をしてしまった部分に関しても既に水洗いしてあるので問題は無い。
……既に何回やったのかなんて、覚えていないのだから。
「……よしっ! まずは脱衣所から」
沈み込んでいきそうな気持ちを無理矢理掬い上げ、掃除用具を手にして磨いていく。
備品の補充やタオル置き場の清掃、忘れ物が無いかなどの確認をして確実に熟していく。
鳥の鳴き声すら響かない丑三つ時。
風情の欠片も無い人工的な太陽の下、まるで独りになったかのような寂寥感を覚えるが……それと同時に、深く安堵する気持ちが確かに有った。
無心に床を、鏡を、棚の中を。
日々の汚れを落として行き、清潔になった脱衣所を見て一息ついた。 - 14二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 22:23:06
お次は、浴室。
今日はお湯を抜いて清掃を行う日ではない。
床掃除を終えてシャンプー等の洗面用品の補充を終わらせれば、ゆっくりと湯船に浸かれそうだと浮足立ちながら電動デッキブラシのスイッチを入れた。
手に馴染んでしまったデッキブラシの振動を感じつつも、丁寧に端から汚れを落として行く。
一組織が毎日使う場所で、どうしても日々の汚れは付いて行ってしまう。
でもだからこそ、日々の清掃の大切さと言う物が身に染みて行くのだ。
「……」
なんて、心にも無い事だ。
ただ単純に、こうして一人で作業しているのが好きだという事を言い換えているに過ぎない。
皆の寝静まる夜にしか作業できない事も相まって、浴室清掃は不満の多い当番だった。
だから、都合が良かったのだ。私にとっても、皆に取っても。
事情を知らぬ者は、私の事をシスターの鏡だと見当違いの事をぬかす。
事情を知っている者は、私に無理をしていないかと要らぬ気づかいを押し付ける。
腹立たしくは無い。
けれど、私は。あの夜、昼に。
随分と、おかしくなってしまったのだろうと、思う。
「ふう……」
手慣れた清掃は速やかに完遂出来た。
時刻はまだ、四時すら回っていない。
朝日はまだ昇らなかった。 - 15二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 22:24:07
「――はあ~」
立ち昇る湯気と湿度と汗の三拍子でびしゃびしゃになった体操服を脱ぎ捨て、掃除をした者に与えられる特権を享受する。
なんて悪い子なのだろうと、ポカポカした思考のまま、湯船に全身を浮かべる。
プールでは無いの。
きっと皆に見られれば行儀が悪くはしたないと窘められるだろう。
だけど誰も居ない。だから私は自由なのだ。
「……ふう」
瞼で電光を遮り映し出される網膜、お湯に揺蕩う解放感と全てを包むような紅茶の香りが得も知れぬ理想郷を感じさせてくれた。
微睡さえ与えてくれる揺り篭だが、流石にお風呂で眠ってしまうのは不味い。
離れたくない心を理性で引きはがし、湯船から上がる。
「……もう一度、髪を洗いませんとね」
確かに幸せなのだが、こればっかりは玉に瑕だ。
渋々と洗い直し、再度湯船に浸かる事無く私は浴室から出た。
まだ負けたことは無いが、欲望に負ける可能性は有るのだ。
ならば根本の原因から潰すのが賢明と言う物だろう。
誰に対する言い訳かを内心で繰り返し、後ろ髪を引かれる思いで自室へと帰って行った。 - 16二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 22:25:09
そこから少しばかりの仮眠を取り、私の一日は始まる。
朝餉を取り、空っぽになった器に黒い感情が溜まって行くのを感じながら他信徒と会話を行う。
学友の勉学を手伝ったり、シスターフッドの活動で街に向かったり。
そんな何時もの変わらない日常が始まったと思っていた。
ボランティアの途中、唐突にサクラコ様が話しかけてくるまでは。
「マリー? 少しよろしいですか」
「サクラコ様? 私であれば何時でもお呼び立てください!」
「……ありがとうございます。実はですね、信頼できる方に一週間ほど連邦捜査部シャーレへお手伝いしに行って貰おうと思っているのですが……マリーは予定、空いています?」
「一週間、ですか……」
一週間、サクラコ様と離れることになるのはかなりの苦痛だ。
……だが、一つ。たった一つだけ聞き捨てならない文言が有ったのは分かっている。
思い上がりも甚だしく、少しばかりの恐怖を感じてしまうが聞かずに居られなかった。
まるで祈る様に胸元で両手を組み、サクラコ様に問うた。
「あ、あの……私は、サクラコ様に……どれくらい、信頼されていますか?」
まるで予想だにしなかったように、サクラコ様は瞼を瞬かせていた。
そして、言葉を噛み砕き理解した後は柔らかく微笑んで私の頭を優しく撫でてくれた。
……蕩けてしまいそうで、ふわふわする。
「余り、明言してしまうのはシスターフッドの長として示しが付かないので……ここだけの話にして下さいね?」
「ふぁ、は、はい……」
「ふふっ、このお話を相談したのはマリーが初めてですよ……これ以上の明文化は不味いですから……ね?」
「は、はい……!」 - 17二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 22:26:11
分かっている。
こんな言葉に何の意味も説得力も拘束力も無い事なんて。
分かっている。
自分がこう聞けばサクラコ様がこう答える他無いなんて。
分かっている。
シスターフッドの長であるサクラコ様が一年の私が決して一番では無い事なんて。
けど、だけれども……!
「分かりました! 不肖、マリー。サクラコ様の命に必ずや答えてみせます!!」
「……えっと、そこまで気を張り詰めなくても良いのですが」
「大丈夫です! マリーに任せてください!!」
「…………頼りにしていますよ」
「はいっ!」
己の偶像の為ならば、命を捨てられるのが聖職者と言う生物では無いでしょうか。 - 18二次元好きの匿名さん25/08/03(日) 22:27:40
ダウンキャンプしねえとフリーザだと勝てねえ……私が弱いから……
でもおかげで続きが書けた、ありがとうフリーザ
やっぱ〇んでくれフリーザ
構成としましてはマリールートとサクラコ様ルートの二パターンがあるけどどっち見たいかな? - 19二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 08:27:19
マリールート
- 20二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 08:37:24
可能なら両方、片方だけならマリールートがいいな
この独白が一番の味だと思う - 21二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 18:27:36
保守
- 22二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 18:48:27
うお、生き残っとるやん
ハートの付き方からして見限られたもんやと思って完全にゲームの気分やったわ
つまり一切書けてねえ、待っとってな - 23二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 19:09:23
楽しみにしとるでー
結構好きな概念なんや - 24二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 19:11:53
スレタイが人食いマリーに見えた
- 25二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 22:55:41
連邦捜査部シャーレ。
確か、外部から来た大人が顧問をしている新しい部活だったか。
生徒会長の失踪と同時期に現れた事から、置き土産だとかそもそも権力の簒奪をした結果だとか。
そんな他愛無い噂が降って思い出されるが頭を振って取り繕う。
何だっていいのだ。
例えどのような人物だろうが、高々一週間程度の付き合いになるだけで。
立派なシスター像の輪郭を描きながら挨拶を交わし、簡単な書類仕事のサポートを行う。
確かにサクラコ様が危惧した通り、信頼できる人物でなければ推薦し難い仕事だろうと思った。
各学園の情報、特にゲヘナに関する書類等々もあり、素行が悪い生徒であれば情報の改竄を行ったりする恐れがある。
仮にそうなってしまえば、サクラコ様の面目丸潰れだと言うのに。
……それにしても、この人はうるさい。
当たり障りのない問いに笑顔で答えて行けば、ずけずけとパーソナルスペースを踏み荒らすような質問ばかりを投げて来る。
思わず零れ出そうになる舌打ちを押さえ、優しいシスターを必死に取り繕う。
サクラコ様に対する強い畏敬の念を抱きながら、その日の業務は終わった。
たった一日で酷く疲弊してしまったが、これはサクラコ様から与えられた試練なのだろう。
この程度熟せなければ、サクラコ様のような……。
『“マリーは本当にサクラコを尊敬しているんだね”』
「……」
そんな、薄っぺらな言葉一枚ではない。
個人に憎悪を募らせるなどシスターとして有ってはならないが、今日だけは許して欲しいと切に願った。 - 26二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 22:57:06
二日、三日目と彼は慌ただしい日々を過ごしていた。
行き先を告げぬままシャーレを飛び出し、ふらふらになりながら帰ってくる。
……所詮、噂は噂で。彼、先生は所謂立派な大人と言う者らしい。
私に対する軽口か無ければ尊敬の一つでも抱けたかも知れないが……如何せん、私達の距離は近すぎる。
苛立つ神経に蝕まれながら、外面だけでも取り繕えている事を深く感謝して欲しいものだ。
主が居なくなった室内で、私は一つ溜息を溢しながらそう思った。
「……なんて、傲慢なのですかね」
違う。
これは恐らく、嫉妬だ。
シャーレの手伝いをしていて分かったが、先生はあまり生徒の手伝いを良く思っていない。
私の時間を奪っている事に関しても初日、散々謝罪された。
それなのに、だ。
サクラコ様を頼り、あまつさえサクラコ様もその期待に応えたいと言う信頼関係が構築されている事実に気付いてしまったのだ。
決して長くは無い筈のその付き合いで、一体どのように関係を深めたのか知りたくて、聞きたくて。
……でも、気付きたくは無かった。
切実に。 - 27二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 22:58:18
二十時。
普段であれば眠っている時間帯。
僅かに胡乱で来た頭をコールタール染みたインスタントコーヒーで無理矢理現世に縛り付ける。
思わず渋顔を浮かべてしまう程の味わいだが、不本意ながら意識が覚醒していく。
ちびちびとコーヒーを流し込みながら作業を進めていると、先生は帰って来た。
……眠たそうだの、疲れていそうだの言われてしまうがどの口が言っているのだろうか。
横目で流し見るが、ヨレヨレになり埃だらけのワイシャツや疲れの溜まった笑顔が嫌に目立つ。
「……一回シャワーでも浴びて寝たらどうです?」
“えっ?”
そうして、普段であれば決して口に出すことの無い内心がまろび出てしまった。
不味いと思った時には既に遅く、先生も普段とは酷く異なる物言いに瞬きしながら此方を見つめて来ていた。
「――ご、ごめんなさい! 言われた通り少し眠気が襲って来ていまして……少し、仮眠してきますね?」
“あ、うん……ごゆっくり?”
挨拶もそこそこに、急いでその場から離れる。
走らず、しかし歩きと言えない程の速度で仮眠室へと足を進める。
既に作り上げている自分の空間に飛び込み、毛布に包まり必死に目を閉じる。
……動悸が激しい。
カフェインが体を回って鼓動を速めているに過ぎないのだ。 - 28二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 22:59:22
だから、そう。
僅かに睡眠を取るために、静かになって欲しいと祈るのは。
とても、自然なことだ。
毛布の中でコーヒーの香りが充満する。
閉じた視界がグルグル廻り、鼓動が只管激しく主張する。
だから、もう。祈る事しか出来なかった。 - 29二次元好きの匿名さん25/08/04(月) 23:02:18
ふふ……大枠しか出来てなかったから全然うまく描写出来てる気がせえへんで……
目標のシーンまで書けたらええんやけどな
あとサクラコ様ルートの場合は事件のあらましから書いてく気やったからマリールート完結後にちょびっと書いてくかも知れへん
まあ落ちとるやも知れんから、未来のことは分からん - 30二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 03:22:56
早速ボロが出そうになってて草
この後どうなるもんかなー - 31二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 12:25:06
保守
- 32二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 21:16:07
保守
- 33二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 21:19:07
この雰囲気が好きよ
- 34二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 00:33:55
アングラマリーのSSだって!?これは逃してはならない!
- 35二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 00:38:02
続き楽しみにしてます!
なんかこう…必死に外面を保ってる子ってイイですよね - 36二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 05:08:32
早めの保守
- 37二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 13:20:22
大枠できてるなら期待して保守
- 38二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 17:08:16
四日目。
先生の身辺警護と言う形でシャーレから足を伸ばすこととなったのだが。
案の定と言うべきか、私達は戦闘に巻き込まれていた。
先生が組織衝突の仲裁を行おうとしたのだが、敢え無く失敗。
銃を持ち出し乱闘になったのだが……それにしては両者共に此方を攻撃する比重が大きい様に思える。
もしかしたら何らかの陰謀に巻き込まれてしまったのかも知れないが、何でもいいか。
要は先生を守り切ってこの場を鎮圧するのが仕事だ。
シスターフッドから支給されたアサルトライフルを握り、遮蔽から身を乗り出し駆けながら一人二人と手元の銃を狙い撃つ。
銃を取り落とし無防備になった者は、敵対している相手に蜂の巣にされていく。
別の遮蔽に隠れながら一息つく。
思ったよりも上手くいったが、想定していた以上に此方に注意が向いている。
……インカムからも私を窘めるような言葉が耳鳴りのように聞こえてきたから、電源を落として懐に仕舞う。
戦闘は、嫌いじゃない。
人の声は全て銃声と爆発音によって掻き消され、イラつく存在を察知して自らの暴力をぶつけてもそこに正当性が生まれる。
所詮、私も獣なのだ。
清廉潔白の聖女を目指そうとも、薄汚い私がそれを認めない。許さない。
自嘲気に嗤い、マガジンのリロードは巻子していた。
気が付くと、私は考え無しに乱闘の中心部へと駆けていた。 - 39二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 17:09:16
撃って、撃たれて。
銃弾が全身を殴りつけるが、まだ動くことは出来る。
だが、このままでは先に限界が来てしまう。
気絶した一人を蹴り上げ、即席の盾としてその影に隠れる。
強い不快感。問答無用で付き飛ばしたくなる衝動を抑え、人越しに伝わる衝撃が止むのをじっと待つ。
集中して撃たれたせいで舞い上がった砂埃の中に、地面に転がっていた銃を投げ捨てる。
動く影に反応して放たれた銃弾を確認し、漸く盾にした人を突き飛ばした。
立っているのは残り八人。
とりあえず目の合った奴の銃と頭を撃ち抜いて、残り七人。
遮蔽――ではなく、一人に向かい突撃し銃弾を気絶するまで叩き込む。
ぐらりと倒れる相手の襟を掴み、砲丸投げの要領で近くに居た人に投げつける。
投げられた相手を踏みつけながら、アサルトライフルに残った弾丸を全て叩き込む。
残りは――。
「っ……!」
人数を数える前に、銃弾が複数から叩き込まれた。
咄嗟に近くの看板に身を隠したが、このままでは不味い。
考えている余裕など、無かった。 - 40二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 17:10:22
次の瞬間には手榴弾が投げられるかも知れない。
次の瞬間にはロケットランチャーが向けられているかも知れない。
次の瞬間にはグレネードランチャーが撃ちこまれるかも知れない。
だから私は、最も強くて――最も頼りに出来ない愛銃を抜いた。
まるで散歩にでも出かけるかのような自然体で、看板からその身を晒す。
そして、銃を此方に向け、撃ってくる存在に対して冷静に撃ち返していく。
「……一つ」
目を開けていられない程のマズルフラッシュと衝撃が止まる事無く襲い来るが、私だってこの程度では止まれない。
「二つっ……!」
ピタリと撃ち切ったが、まだ目の前に敵は居る。
既に用意していたマガジンを交換し、残った二人も狙い撃つ。
「三……四つ!」
最後の一人が倒れ伏すと同時に、大きく息を吐き出した。
全身が酷く痛む。このまま同じように倒れて、地面と挨拶したい所だが……まだ、休むわけにはいかない。
“マリー! 大丈夫なの!?”
「あっ、せんせ――」
勝手に飛び出し、勝手に通信を切り、悪い事をしたと思いながら声に反応して。
咄嗟に駆けだしていた。 - 41二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 17:11:31
見えてしまったのだ。
路地裏から爆発しそうな弾頭を担いだ何者かが此方を狙っている姿を。
弾倉に残った最後の一発で輩の手元を撃ち抜き、既に定まっているであろう照準を狂わす。
だが、この戦闘でのツケが回って来たかのように、弾頭は私の足元目掛けて飛んできた。
「――うぁ……? うぅ……」
頭が、ゆれる。
耐えがたい耳鳴りに襲われている、きがする。
痺れる手足、視界も霞む――いまは、なんじ? - 42二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 17:12:45
「あっ――」
ぞわりと、全身に悪寒が走る。
何かが、誰かが。私の体に触れた。
「――やっ、いやっ! やだっ!!」
藻掻く、足掻き、暴れる。
おかげで気配は遠くに離れたが、私は近くに転がっていたマグナムを掴み私に触れた人間に向けた。
……向けてしまった。
「………………ぁ」
“……”
銃口の先には、先生が居た。
神妙な表情で、銃口を見つめている。
血の気が引き、握っていたマグナムを落としてしまう。
「あ、あの……これは……」
必死に、弁明の言葉を捻り出そうとするが、一語足りとも浮かんでこない。
このままではシスターフッドが――サクラコ様に、迷惑が。
先程とは違う痺れが全身を駆け巡る。
滲みだした視界の先で、先生は両手を下ろして――笑った。 - 43二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 17:13:59
“ありがとう、マリー。君のおかげで助かったよ”
「…………え?」
“うん! 後始末はヴァルキューレに頼んであるから……お昼も近いし、マリーは何食べたいかな? 私の懐が許す限りなら何でもいいよ!”
そんな事を、言った。
𠮟責でも、憐憫でも、詰問でも無くて。
思わず開きそうになった口は、先生の軽いウィンクによって遮られた。
そういった動作一つ一つが、私の内面を透けて見られているようで、怖くて――少しだけ、安心した。
「……では、鴨南蛮そばで」
“そばか~、いいね……い、一応聞いておくんだけど、飛びぬけて値を張るお店とかじゃないよね? わ、私でも払えそうかな?”
「ただのおそば屋さんですよ?」
“……以前サクラコに教えて貰った店に行ったんだけどね、予想外の出費をくらってしまってね”
「そ、それは……」
もう、先程の空気は霧散していた。
けれども、先生の労わる気持ちだけは痛いほどに伝わって来て。
不思議と、その声には。不快な気持ちは湧いてくることは無かった。
(本当に……不思議な方ですね……)
他者のパーソナルスペースに入り込もうとするその意思は、何も変わっていない。
しかし何故かそれすらも、どこか心地いいと思えてしまう私が居た。 - 44二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 17:15:22
手癖で戦闘書くなっていつも言ってんだよね
ともあれこれで起承転結の半分や、やっとこっから書きたい展開に入れるで~
ほなまた