【SS &🎲】共に分け合っていこう

  • 1螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/05(火) 19:31:48

    ※とある楽曲を元にしています。何か気づいてもネタバレになるので心の中に留めておいてください。

    遠い、遠い昔の噺。
    人が智を超えて、神の座を望んだ時代のこと。
知恵を持ちすぎた羊たちは己を見失い、
その傲慢に、神は静かなる怒りを下された。
    裁きは、言葉なくして訪れた。
命は果実よりも脆く、光よりも速く失われていった。
天は地も裂け、沈み出したとき。
人々はようやく、自らの罪の深さに気づいた。
    彼らは跪き、赦しを乞うた。
けれど神は耳を貸さず、声は虚空へと消えた。

    その折、王国に仕える占い師に、天の声が降りた。
    「霧深き東の辺境、名もなき村のひとりの少女。
糸を織り、針を打つその者こそ、
滅びゆく世界を救う【メシア】なり」
    王は命じ、使いを走らせた。
少女はただの針子に過ぎなかったが、
その瞳は深く澄み、ただひとつ――
「祈りの場を与えてほしい」と願ったという。

  • 2螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/05(火) 19:33:26

    そして、少女は神に最も近き場所へと赴いた。
空よりも高く、風よりも遠い、【アイの塔】。
    塔の頂で、少女は静かに祈った。
声は風に乗り、星々の間を抜け、
やがて神の御許へ届いた。
    『世界が こんなにも罪深くても
    それでも 誰かが 生きたいと願っています。
    その願いを わたしが引き受けます。
    だから、どうか――
    この世界を、もう一度だけ、愛してはくださいませんか。』
    そのとき神は、はじめて心を動かされた。
    神は少女の祈りに応え、九つの栄光を授けた。
    【華やぐ波】──すべてを洗い清める水の光。
    【炎の宴】──生命の熱と歓びの揺らめき。
    【恵みの陽光】──万物を育む朝の祝福。
    【安息の闇】──恐れを包む、やさしき夜。
    【揺蕩う大地】──揺れど安定する、世界の土台。
    【雷鳴の囃子】──命の叫び、空の音。
    【旋風のロンド】──変化と循環の風の舞。
    【白銀の園】── 熱も時も閉ざす、白き永遠の楽園。
    【マグマの胎動】──深く、いまだ目覚めぬ創造の源。
    それらは、世界に最初に与えられた祝福の名残。
失われた調和を取り戻す鍵であった。
    少女は栄光を抱き、塔の祭壇にて祈りつづけた。
その祈りによって、滅びかけていた世界は、
十五年という時を与えられ、生をつなぐことができた。
    少女の名は、記録されていない。
ただ「初代メシア」として、いまも語り継がれている。
    そしていまも、
アイの塔の頂には祭壇があり、
その中央には光が灯っている。
それは世界の命を示す灯火。
誰かが祈りを捧げる限り、
この世界は、終わらずにいられるのだ。

  • 3螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/05(火) 19:34:49

    滅びゆく世界を守るため、十五年に一度、王国に信託が降りる。
    それは、誉れ高き次の【メシア】を告げる信託である。
    そして、今日。
    その誉れ高き神託が降りた。

  • 4螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/05(火) 19:36:49

    ここは二十ちょっとの子供と数人の大人で構成される、小さな村。
    様々な理由で親を失った子供たちが大人の知恵を借りて、手を取り合って生きている。
    そして、村にある小さな小屋で一人の少年が本を読んでいた。
    「ハァー!やっぱこのお話は興味深いなぁ!」
    少年の名前は緑谷出久。十年ほど前に幼馴染の少年と共に両親を失い、この村に移住してきた。
    「【アイの塔】かぁ…、凄いなぁ、僕もいつか行ってみたいなぁ…」
    少年が夢中になりながら読書をしていると、小屋の時計がボーン、ボーンと時間を知らせた。
    「あ、もうこんな時間か…。そういえば今日、かっちゃんと狩に行く予定が…」
    予定時刻は朝の七時、現在時刻は朝の八時と一時間の遅刻である。
    「ま、ままま、まずい!!!!」

  • 5螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/05(火) 19:39:19

    「クソデク、テメェ!!!」
    少年が森に着いた頃には、幼馴染は既に狩を終わらして帰ってきていた。
    「かっ、かっちゃん!おはよう!そしてごめんなさい!」
    少年は綺麗な角度で謝罪をするも、幼馴染の少年は怒りは冷めないままだった。
    「まァたクソ本読んで遅刻したなァ!!!」
    「ク、クソ本じゃないよ!!ちゃんと名前とシリーズ名があって」
    「ンなんどォーでもいんだよ!!仕事忘れてまで本を読むなつってんじゃ!!」
    「ウッ!おっしゃる通りです…」
    少年は何もいえず、まごまごしているとポンッと肩を叩かれる。
    「爆豪、あんま虐めてやるな」
    「あ!轟君おはよう!」
    「おはよう、緑谷」
    肩を叩いたのは少年の親友の一人である、傷の少年であった。
    どうやら自分の代わりに幼馴染の狩を手伝っていたようだ。
    「僕の代わりに狩に言ってくれてありがとう」
    「別に大丈夫だ、狩は得意だし」
    「別にテメェの手伝いなんざ無くても一人で出来たわ!!」
    幼馴染の少年は烈火の如く反論した。
    三人が談笑に花を咲かせていると少年の名前を呼ぶ声がした。
    「おーい!デクくーん!」

  • 6螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/05(火) 19:40:50

    少年を呼んでいたのは少年と仲の良い針子の少女であった。
    少女はそばに来るも息を切らしており、喋れる様子ではなかった。
    ある程度落ち着いたのを見計らって少年はどうしたのか尋ねた。
    「麗日さん!どうしたの?」
    「なんか王国の使者が、来てデク君に用事があるって…」
    「ええ!?王国の使者が!?」
    王国とは、この世界で最も大きく、【メシア】が祈ったことで残った唯一の国である。
    そんな王国の使者がこんな小さな村に来る意味が全員分からなかった。
    「お前なんかやらかしたんか」
    「そ、そんな!?何もしてないよ!」
    「でもただごとじゃねえだろ、こんな小さな村に来るなんて」
    「そうだね、そろそろ次の【メシア】が決まる年だし何もないといいんだけど…」
    少年たちは急いで村の入り口へと向かった。

  • 7螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/05(火) 19:44:48

    少年たちが村の入り口に着くと既に噂が広まっており、村中の子供たちが集まっていた。
    「わあ!本当にいる…!」
    入り口には高級そうなローブに身を包んだ男が三人ほど立っていた。
    少年が話しかけるのを躊躇っていると、使者の一人が少年の方に視線を向け、二人の視線が、寸分の狂いもなく交差した。
    その瞬間、時間がわずかに止まったように感じられた。
    「あ、緑谷が来たぞ!」
    その声に少年の意識が現実へと引き戻される。
    少年は急いで使者の元へと走った。
    「あ!あの!僕に何か用でしょうか…!」
    使者達は誰一人と答えない。
    ただ静かに少年を見つめてくる。まるで、何かを精査するように。
    皆が謎の重苦しい空気に耐えていると、先頭にいた使者がゆっくりと口を開いた。
    「君に、次の【メシア】の信託が降りた」

  • 8螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/05(火) 19:54:24

    少年は理解が出来ず呆然としてしまった。
    「今、なんて…?」
    王国の使者は振り返り、後ろにいた者に手で合図を送る。
    するとその使者は懐から紙を取り出して読み上げた。
    『遠くそびえるアイの塔に登り、九つの祝福を授かる者あらん。
その者は、風に揺れる翠の髪と、曇りなき瞳を持つだろう。
細き身には幾多の傷を刻みながら、なお救いを願い、祈りを捧げん。
その祈りは新しきメシアを導き、滅びゆく王国に十五年の光と命をもたらすであろう。』

  • 9二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 20:23:04

    もう面白い引き込まれる

  • 10螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/05(火) 20:35:32

    「ようするに緑谷が次の【メシア】に選ばれたってことだな!」

    体躯のいい少年が大きな声で言った。

    その一言を皮切りに、皆が一斉に少年を祝福しだす。

    「デク君おめでとう!!」

    「凄いじゃねえか!緑谷!」

    「さすが緑谷君!!」

    「緑谷おめでとう」

    「おめでとう緑谷ぁ!!」

    「あ、ありがとう…?」

    少年はまだ理解が出来ていなかった。

    幼馴染に叩いて現実か確認してもらおうと探すも、幼馴染は王国の使者と話していて頼めそうになかった。

    賛美の声に、少年はじわじわと次の【メシア】に選ばれたことを自覚しだす。

    「本当に僕が【メシア】に選ばれたの…?」

    少年は震える手で頬つねった。

    痛みを感じる。目は覚めない。

    これは、現実だ。

    「本当に僕が…?僕なんかが…?」

    皆が笑ってそうだと答える。しかし少年は怖かった。

    期待に応えられるだろうか。祈りなんて、そんな大きなこと、自分にできるのか。

    「緑谷」

    低いが聞き取りやすい声に名前を呼ばれる。

    「先生…」

    先生は膝をついて下を向いたまま両手で少年の手を握った。

    「緑谷、おめでとう」

    先生の表現は見えなかった。

    しかし声は震えていて、喜んでくれていると少年は思った。


    少年はまだ知らなかった。

    先生の震える声の奥にあるものが、ただの喜びだけではないことを。

    dice1d1000=528 (528)

  • 11二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 20:39:50

    うほほほ(普通に話したら元ネタを話しそうだからなんとか押さえている状態)
    スレ主SS上手い

  • 12二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 20:44:49

    懐かしいなと思って元ネタ調べたら9年前…?

  • 13二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 20:51:45

    >>12

    え……?と思って検索して遠い目になった

  • 14二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 20:53:18

    曲は知ってたけど聞いたことなかったからこれを機に聴きに行ったんだけど良すぎてやばい

  • 15二次元好きの匿名さん25/08/05(火) 20:55:48

    なんの🎲なんだろう…

  • 16螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/05(火) 23:37:54

    王国の使者はから信託を告げられた後のこと。
    少年は先生と代表の使者と共に、村の最奥に位置する教会に来ていた。
    小さな村には不相応なほど立派な教会。
    ステンドグラスからはキラキラと光が差し込んでおり、非毛氈をカラフルに染め上げている。
    「あの、本当に僕が【メシア】でいいんですか?」
    少年は自信なさげに王国の使者に訊いた。
    村には少年よりも強い子や体の大きい子、綺麗な子、年上の子がいる。少年が格別優れているものはないはずだ。
    「…初代【メシア】は緑色の髪をしていた」
    「え」
    「緑は、自然の色だ。祝福は自然」
    使者はゆっくりと歩みを進め、ステンドグラスに描かれた絵を見上げた。
    そこには、緑の髪の少女が灯りの灯ったトーチを掲げている絵が描かれていた。
    「そして自然は、選ぶことなく、すべてを受け入れる。
咲く花も、枯れる葉も。
強さも、弱さも。
その全てが、この世界を支えている」
    使者は少年に視線を戻し、穏やかに微笑んだ。
    「君がなぜ選ばれたのか、今は分からないかもしれない。
だが、君を選んだのは人ではない。
占い師でもない、王でもない。
    世界が、君を選んだんだ」
    少年の足元に、ステンドグラスを通した光が柔らかく落ちる。
その光は、確かに、あたたかな緑色をしていた。
    少年はまだ戸惑っていた。
    けれど、胸の奥に何かが少しだけ、あたたかく灯った気がした。

  • 17螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/06(水) 00:08:53

    「少年、君はどこまで【メシア】のことを知っている?」
    王国の使者は少年の正面に立ち、真っ直ぐに少年を見つめている。
    少年は自分が知っていることを全て話した。
    物語のこと、九つの祝福があること、【アイの塔】で祈ること。知っていることは、全て。
    「…そうか。勉強熱心な子が【メシア】に選ばれてくれて嬉しいよ」
    使者は嬉しいのか息をついて微笑んだ。
    「それで君は、【メシア】を受け入れてくれるのか」
    王国の使者の声は穏やかだったが、その言葉の裏に隠された重みを、少年は直感的に感じ取った。
    一瞬、たった一瞬だけ、教会の空気が変わったような気がした。
まるで、ステンドグラスの光までもが静かに色を潜めたような、そんな錯覚。
    少年は唇を噛んだ。
「はい」と答えるには、あまりにも軽すぎる気がして、何度も言葉を考えた。
    でも、選ばれたのだ。
選ばれてしまったのだ。
誰かがやらなければならないのなら、自分がやるしかないのだ。
    少年はゆっくりと、でも確かに顔を上げた。
迷いを押し込めるように、両の拳を握りしめて言った。
    「…やります。世界を守れるなら、十五年なんて一瞬ですよ!」
    自分でも驚くほど明るい声が出た。
くしゃっと笑った自分に、ほんの少しだけ救われる気がした。
    王国の使者はそれを見て安堵したように息を吐いた。
    「ならば【アイの塔】までの道中の金膳は全て、王国が持つ。安心して向かうといい」
    出発は一週間以内であれば大丈夫だ。と言って王国の使者は教会から去っていた。
    教会に扉の閉まった音だけがこだまする。
    その音がやけに耳に残るものだった。

  • 18螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/06(水) 00:23:40

    先生は使者が去った後でも何も喋らなかった。
    少年は心配になり、顔色をうかがった。
    「あの、先生…?」
    先生の目は髪の毛に隠れて見えない。
    先生はゆっくりと口を開いた。
    「これから沢山、大変なことがある。きっと、お前でも挫けてしまうようなことが、沢山」
    先生は先代の【メシア】が決まった時に生きていた人だ。
    少年はふと気になり、先生に伺った。
    「先生は【メシア】のことで何か、知っているんですか?」
    「…知らないよ、【メシア】のことなんて。知っていたとしても言わない」
    先生が前髪を弄ったおかげで目が見えるようになった。
    そこにはいつもと変わらない、少年たちを想ってくれる、暖かい目。
    少年は先生の目から目を、離せなかった。
    「先生、僕は大丈夫です。何か辛いことがあっても、みんなが待っていてくれると分かってるから」
    だから先生、泣かないで。
    少年はどうしても、先生が泣いてるようにしか思えなかった。
    涙は流していなくとも、悲しんでるように思えてしまった。
    先生は何も言わなかった。
ただ、少年の頭をそっと撫でた。
    その手は少し震えていたが、どこまでも優しかった。

    先生、僕が【メシア】の仕事をできたら先生は泣きやみますか。

  • 19螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/06(水) 00:26:37

    その日の夜、少年は夢を見た。

    懐かしい、幼い頃の夢だ。

    夢には村の人もいた。


    それは誰との思い出?

    (村には青山と心操を追加してあるA組とミリオ、エリちゃん、相澤先生、マイクがいます。その中から一人選んでください)

    >>22

  • 20二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 00:30:47

    かっちゃん

  • 21二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 01:09:30

    かっちゃん

  • 22二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 01:16:31

    かっちゃん

  • 23二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 01:31:47

    一択草

  • 24二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 01:48:35

    怒涛のかっちゃんに笑った

  • 25螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/06(水) 02:57:01

    (オールかっちゃんで笑ってしまいました。自分だけレスをするのは寂しいのでどんどんレスしてください、お願いします!)
    それは両親を失った時の夢だった。
    両親を失った当時、二人は五歳だった。
    元々住んでいた村は今よりは大きい村だったが、冬場は食料問題に悩まされていた。
    あの日の惨劇を、いっそ笑えてしまえば、楽になれたのだろうか。
    今でも簡単に思い出せる。
    あの、凍てつくような空気に肺が、喉が締め付けられるような感覚を。
    もうすぐ大寒波が来るらしく、大人たちは家に篭り、冬を超える準備に勤しんでいた。
    十五年の入れ替わりの年に生まれた二人は、村の長老たちから『いつか世界を救う子だ』と言い聞かされて育っていた。
    なぜかは分からない。ただ、それが当然のように語られた。
    この村には二人と近い年齢の子供はおらず、いつも二人で遊んでいた。
    両親を失った日も変わらず、二人は一緒にいた。

  • 26螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/06(水) 02:58:17

    いつものように、小川のほとりでチャンバラをしたり川に石を投げてどれだけ跳ねるか競ったり。
    「これで俺の164勝な!デクよっえ〜!」
    「違うよ、かっちゃんが強すぎるんだよ!」
    いくら幼馴染の少年と勝負しようと、必ず自分が負けていた。
    不貞腐れて空を見上げる。
    空には灰色の雲がゆっくりと流れ、風はもう冬の匂いを運んでいた。
    はぁぁ、と息を吐けば、空気が白く染まるのが変に面白くて。
    さっきの勝負のことなんて忘れて二人で大きく息を吸い、数秒口を両手で塞ぎ、思いっきり息を吐き出して。
    ケラケラと笑って、幼馴染の少年がもう一回と言って二人で息を止めた時。
    村の方から爆発音がした。
    そのとき村から立ち上った煙の色を、今でも鮮明に思い出せる。
    急いで村の方に走る。
    近づくほど増していく見慣れないもの。
    焦げた木と、血の匂いと、叫び声。
    鼻をつんざくような血と、硝煙の匂いに思わず吐きそうになった。

  • 27螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/06(水) 03:00:55

    村についた時には既に手遅れな状態であった。
    踏み荒らされた草花、焦げて抉れている地面、壁や天井にまで飛び散った血や臓器の跡。地面に倒れた人たちは誰一人として、動かなかった。
    幼馴染の少年と別れて家のドアを勢いよく開ける。
    「お母さん!!!」
    返事はない。
    「お母さんどこ!!!ねぇ!!お母さん!!!」
    玄関、リビング、洗面所。家の中には誰もいなかった。
    もしかしたらお母さんは無事なのかもしれない。
    そんな、淡い希望を抱いて裏手の庭を見に足を踏み出したとき。
    幼馴染の少年が玄関で、呆然と、立ち尽くしているのが見えた。
    普段の、過激な地獄の鬼を想像させるような態度が嘘のようだった。
    幼馴染の少年は小さな震えた声でお母さん、お父さんと零していた。
    そして、幼馴染の少年の隙間から、自分の母親の死体を見えたとき。
    自分も動けなくなった。

  • 28螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/06(水) 03:02:38

    どれくらい時間が経ったのだろう。
    数秒かもしれないし、数分かもしれない。
    新しい犠牲者の悲鳴に現実に戻される。
    まだこの惨状は終わりではないのだと。
    幼馴染の少年は少年の腕をぐっと引くと、押し込まれるようにして木箱に潜り込む。
    蓋はわずかに開いたまま。暗闇の中、呼吸音を殺す。
    外からは、鉄の靴が床を踏み鳴らす音と、男たちの無遠慮な笑い声。
    「ちっ、しけてんなこの村は」
    「そういうな、王国からの援助のない村は基本こんなもんさ」
    「まぁ援助がないおかげで簡単に殺せたんだけどな」
    男達はゲラゲラと品がない笑い声をあげている。
    こんな、こんな奴らに自分達の親が殺されたのか。
    恐怖が怒りと憎しみに入れ替わる。
    それは幼馴染の少年も同じようだった。
    隣で息を潜めながらも、歯を食いしばってやるせない憎悪をいなしている。
    許せない、許せない、許せない!
    今すぐ暴れて復讐してやりたいが今の自分たちでは叶わないことなんて百も承知である。
    男たちの話し声が遠くに行ったのを確認し、二人は木箱から這い出る。
    今すぐ両親の遺体を埋葬したいがそんな余裕はない。
    幼馴染の少年は台所の戸棚を開けて、水の入った瓶を二つ、干し肉をいくつか。そして包丁を一本。
    彼はそれらを躊躇なく手に取り、少年に瓶と食料を手渡した。
    まずこの村から離れる。
    安全な場所を探さなくてはならないのだ。

  • 29螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/06(水) 03:05:48

    その日から、全てが変わった。
    寒さは変わらず、飢えも喉の渇きも変わらず、けれど心の中には、今までとは違う空洞ができた。
    夜になると、必ず誰かの泣き声が聞こえる。
    それは風の音に紛れて、自分のものなのか、隣にいる幼馴染のものなのか分からなくなった。
    大人たちに教わった最低限の知識と、わずかな物資と、ふたりの小さな足。
    世界はあまりにも広く、そして、冷たかった。
    「かっちゃん、僕たちこれからどうしたらいいのかな」
    そう呟いた声が、凍った風にかき消された。
    幼馴染の少年が何か言っている。
    口元は動いているのに、音が届かない。
    声が遠ざかるように、世界が霞だす。
    そこで、目が覚めた。

    あの後、相澤先生に拾われて村に連れてってもらえて。
    自分たちは運が良かったのだろう。
    「あのとき、かっちゃんは何を言ってくれたんだっけ…」

  • 30二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 04:42:22

    あぁ、こう繋げるのか……!続きすごく楽しみ!!

  • 31二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 12:15:32

    どうなる事か……

  • 32二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 12:50:18

    そうか、みんな個性無いのか

  • 33二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 14:55:57

    申し訳ねぇ主のSSのおかげで元ネタ気になったんだが誰か教えてくれるか?

  • 34二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 16:10:00

    このレスは削除されています

  • 35螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/06(水) 18:27:57

    (元ネタは最後に投稿しますのでご安心ください)
    【アイの塔】に向かうまで残り六日。
    少年は今までやっていた仕事を他の人に引き継ぎ、教会で祈りの練習に集中することになった。
    「祝福を灯したトーチを祭壇で掲げればいいんだよね…」
    少年は灯りのともらないトーチを掲げて祈りの体制をとる。
    数秒、もしくは数分経った頃。
    少年は体の力を抜いて倒れ込む。
    王国の使者が去る前に教えてくれたのは二つ。
    一つ、【アイの塔】に入れば十五年間ずっと出られないということ。
    二つ、【アイの塔】に入れば飲食や睡眠を取らなくて済む体になるということ。
    「【アイの塔】は謎がいっぱいだなぁ…」
    「もし時間が余ったら【アイの塔】の研究でもしてみようかな」
    少年は先の未来に思いを馳せていた。

  • 36螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/06(水) 18:29:50

    「あ!いたいた。お〜い!緑谷くん!」
    名を呼ばれて顔を上げると教会の入り口に、この村の子供の中で最年長の青年が立っていた。
    少年は体を起こして青年の元へと走る。
    「遠形先輩!どうしたんですか?」
    「実はね、エリちゃんが風邪を拗らせてしまって今先生の家で休んでるんだ」
    「エリちゃんが!?」
    エリちゃんとは数年前に青年と少年が狩に出かけたときに拾った幼い少女のことである。
    幼い少女はその珍しい容姿を目的とした売買場から逃げてきたらしく、拾い始めの頃は誰にも心を開いていなかった。
    一人静かに丸まって震えることしかできなかった幼い少女。
    村中で全力で構い倒し、愛情を与えたおかげで心を守るために張った棘をじわじわと溶かしてくれたのだ。
    そんな愛しい少女が風邪を拗らせて寝込んでいると言われて少年は我慢などできなかった。
    少年は祈りの練習をしていた祭壇を横目に、焦る気持ちを隠さず青年に詰め寄った。
    「大丈夫なんですか!?先生が看てくれてるなら安心ですけど、僕、今行ってもいいですか!?何か手伝えることがあればーー」
    「落ち着いてくれ!」
    青年は笑ったが、その表情にはどこか、心配を隠しきれない影があった。
    「……正直、ちょっと苦しそうだった。泣き声も出なかったし、熱も下がってない」
    その一言で、少年の胸がギュッと締めつけられるような思いに変わった。
    「行きます、すぐに!」
    祈りのトーチをそっと壁に立てかけ、少年は教会を飛び出した。

  • 37螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/06(水) 18:31:23

    先生の家の小さな戸を開けると、薬草の匂いが鼻を刺した。
狭い寝室の奥、白い布団に包まれたそこに幼い少女はいた。
    「エリちゃん…!」
    呼びかけると、少女はほんの少しだけ首を動かし、目だけを開けた。
焦点が合っていないような、その薄い目が、少年の姿を映す。
    「……で、くさ…」
    しぼり出すような声に、少年の胸がまた締めつけられる。
彼女は、彼の名前を呼んだのだ。
    少女は今でも人混みが苦手で、大声が出せない。
けれど、少年がそばにいると安心するのか、いつも笑ってくれていた。
    その笑顔が、今はなかった。
    少年はそっとベッドのそばに座り、少女の手を握った。
小さな手は、焼けるように熱かった。
    「大丈夫だよ、僕がいるからね。エリちゃん、治ったらまた一緒に絵を描こう」
    優しく囁くと、彼女はかすかにまぶたを閉じ、微かに頷いた。
    その一瞬の動きに、少年は救われたような気持ちになる。
世界は今、崩れかけている。
けれど、この手を離したくない。この命を、絶対に守りたい。
    少年は、もう一度心の中で誓った。
    自分は行く。
この子を、そしてこの村を守るために。
たとえ十五年、帰って来られなくても。

  • 38二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 18:45:38

    スレ主SS上手すぎる…めっちゃおもろい…

  • 39二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 19:03:23

    このレスは削除されています

  • 40二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 19:08:29

    >>39

    心の中に留めておいてって書いてあるから消しておいた方がいいぞ

  • 41螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/06(水) 19:32:47

    >>39

    ネタバレになるので消させてもらいました

    SSが全て投稿し終わったら投稿する予定なのでそれまで気長に待っていただけるとありがたいです

  • 42二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 22:30:21

    ゆっくり楽しませて貰ってます

  • 43二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 22:36:13

    >>40

    >>41

    >>39です。了解しました。思わず先行してしまい、ご迷惑をおかけしました

    完結まで気長に楽しんで待ちます

  • 44二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 01:26:42

    保守

  • 45二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 09:32:36

    ⭐︎

  • 46二次元好きの匿名さん25/08/07(木) 10:00:32

    保守

  • 47螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/07(木) 17:31:47

    【アイの塔】に向かうまで残り二日。
    少年は朝早くから教会へと向かっていた。
    その動作も、今ではすっかり少年の中に馴染んでいた。
    もはや不自然さはなく、この行動にも板についてきたと言っていいだろう。
    幼い少女は少年がずっとそばにいたおかげか、昨日には立てるぐらいには元気になれた。
    少年は晴れやかな気持ちで教会へと足を運んでいた。
    教会の屋根が見え出した頃、少年の足が何かに引っかかり転んでしまった。
    「うわあ!?!」
    少年は受け身を取れず、顔面から地面へと倒れ込む。
    「よお、クソデク」
    「かっちゃん!?」
    少年を転ばしたのは幼馴染の少年であった。
    「急に酷いよ!」
    少年は立ち上がり、体についた泥を払いながら幼馴染に文句を言う。
    しかし幼馴染の少年は知らん顔で話し出す。
    「ついて来い」
    幼馴染の少年に連れられ、少年は教会の裏の森へと入り込む。
    「ねぇ、かっちゃんどうしたの?」
    幼馴染の少年は答えない。
    「かっちゃん、最近変だよ。王国の使者が来てからずっと静かだし、雰囲気もなんか重たいものになってるし…」
    少年の声が届いていないのか、幼馴染の少年はただ、俯いたままだった。

  • 48螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/07(木) 17:33:44

    幼馴染の少年はボソリと呟いた。
    「…戦え」
    「え」
    少年が理解する前に幼馴染の少年は行動に出る。
    幼馴染の少年は少年との距離をぐんっと詰め、右手を大きく振りかぶり少年の右頬を殴り飛ばす。
    少年の体は勢いよく吹き飛ばされ、木に跳ねるようにぶつかってしまう。
    「かはッ!」
    木にぶつかった衝撃で少年の脳が、視界が揺れる。
    しかし幼馴染の少年は少しの隙も見逃さなかった。
    幼馴染の少年は、少年の脇腹を狙って左足を勢いよく回し蹴りする。
    少年は右腕をとっさに立てて防御したが勢いを殺しきれず、そのまま地面に膝をついてしまう。
    「なんで…っ、かっちゃん、どうして…!」
    「防御するだけでしまいかァ!?ああ?!」
    理解が追いつかないまま、体が勝手に反撃を繰り出す。
    少年は勢いに身を任せ、体を倒し幼馴染の少年に向かって蹴りを繰り出す。
    しかし幼馴染の少年はひょいと、簡単に交わしてしまう。
    そのまま少年の足を掴み地面へと叩き落とす。
    だが少年もこのままでは終われない。
    少年は掴まれていない、反対の足で幼馴染の少年の頭を捕える。
    「なっ!?」
    幼馴染の少年は予想外の攻撃に固まってしまう。
    そのまま幼馴染の少年は倒れ込む。
    まさに形勢逆転。少年は勝てる、そう、思った。

  • 49螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/07(木) 17:36:26

    だが、風がふと、すべてを変えた。
    幼馴染の髪が揺れ、前髪がずれ、彼の目があらわになる。
    獣のように鋭いその瞳は、なぜか、泣き出しそうに見えた。
    少年の中で、何かがきしんだ。
    勝ち負けではない。これは、そういう戦いじゃなかった。
    気づいたときには、もう、力は抜けていた。
    幼馴染の少年はその隙を見逃さなかった。
    幼馴染の少年は少年の上に跨り、少年の右腕を捻って拘束する。
    「痛い痛い痛い!かっちゃん、ギブアップ!」
    少年は負けを認めたが、幼馴染の少年は退こうとしなかった。
    「本当に行く気かよ」
    「え?」
    少年は泣き叫ぶように怒鳴る。
    「王国の奴らの話、全部鵜呑みにしてんのか…っ」
    幼馴染の少年の顔は見れない。だが声が震えていた。
    少年はそっと言う。
    「かっちゃん…もしかして僕が行くの、怖い?」
    「…はぁ?!」
    幼馴染は面食らったように大声を上げる。
    だが、それ以上何も言い返せなかった。
    少年は、ぽつりと口を開く。
    「だって…かっちゃん、泣いてる」

  • 50螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/07(木) 17:37:52

    その一言に、幼馴染の少年は言葉を失った。
    幼馴染の少年はゆっくりと少年の上から退き、そしてそのまま座り込んでしまう。
    少年も、幼馴染の少年も喋らない。
    ただ森に、幼馴染の鼻をすする音だけが響く。
    少年は戸惑った。今まで一緒に過ごしてきてこんなことは初めてだった。
    両親を殺された時も、二人で逃げていた時もこんな弱った姿を見せなかった。
    なのに今、何故?
    そこで少年は気づく。
    生まれて十五年。ずっと一緒にいたのだ。生まれた時も、親を殺された時も、村に来た時も。ずっと。
    なのにこれから十五年、離れ離れになるのが怖いのだ。親を失った時の感覚に近い、喪失感が体を襲う。
    「かっちゃん、だいじょぶ。僕は必ず帰ってくる」
    少年は、きっとだいじょぶ、と泥まみれの顔で笑った。
    幼馴染が泣き止むまで、ずっと、その隣で。

  • 51螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/07(木) 19:43:18

    dice1d1000=168 (168)

  • 52二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 00:42:37

    ダイスが怖い

  • 53二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 01:11:15

    ダイス怖すぎてやばいマジで

  • 54螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/08(金) 03:30:54

    村を出発する前日、村では盛大な送別会が行われていた。
    「うわあ、凄い!こんなご馳走いいの?」
    「もちろん!【メシア】様の門出だからな!盛大にやらないとバチが当たるだろ!」
    体躯のいい少年を中心に、村の仲間が沢山の料理を並べていく。
    中には少年の大好物のカツ丼もあった。それを見つけた少年は、キラキラと目を輝かせていた。
    「じゃあ主役の緑谷は中心に立って音頭お願いしま〜す!」
    「えぇ!?」
    陽気な少女に背を押され、少年はたじろぎながらも中央へ。
    少年を中心に、囲うようにして村の仲間が立っている。
    沼の少女がそっと盃を手渡す。
    盃は昔、村のみんなで一から作ったもので世界に一つだけの、特別なものだ。
    少年は緊張しながら、それを掲げる。
    「か、かんぱ〜い!」
    「「「かんぱ〜い!!!!」」」
    乾杯の音と共に、盃と盃がぶつかる澄んだ音が響く。
    飲み物が小さな波を立てて揺れた。

    さぁ、お祝いの始まりだ。

  • 55螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/08(金) 03:31:57

    料理はどれも絶品で少年の食べる手は止まらなかった。
    「おいおい、緑谷がっつきすぎじゃねーか?喉摘まれせて死ぬぞ?」
    背の低い少年が心配そうに少年に言う。
    少年は食べていたものを飲み込み、にかりと笑った。
    「大丈夫だよ、峰田君!ちゃんと噛んでるから。それに、これから食べれなくなるから十五年分は食べておかないと!」
    「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか!そんな緑谷に唐揚げをやろう」
    「え、いいの!?砂藤君ありがとう!」

  • 56二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 10:45:45

    保守

  • 57二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 15:56:58

    保守

  • 58二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 23:06:12

    ほしゅ

  • 59二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 02:09:27

    このレスは削除されています

  • 60螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/09(土) 02:10:44

    (ミスがあったので再投稿です)
    「それではプレゼントの贈呈タイムになります!」
    
「うぇ?」
    
少年の声は、情けないほど間抜けに響いた。
    「さささ、こちらへどうぞ!」
    
呆気に取られている間に、陽気な少女たちが少年を上座へと押しやった。
    「まずは〜、私たちから!」
    
陽気な少女は、背に隠していた包みを差し出す。
    「緑谷、昔を思い出すから寒いのが苦手って言ってたでしょ?だから暖かいローブ!」
    ぱっと見は黄色の分厚いローブ。
    
だが目を凝らすと、花や鳥の刺繍が隅々までびっしりと縫い込まれていた。
それは、安全と平和を願う印。
    見た瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなり、視界が少し滲む。
    「緑谷さんが無事、職務を終えられますよう、私たちで一つずつ、手縫いでしたのです」
    
「私と耳郎が提案、それでヤオモモが設計して……」

    「全体の形を作ったのが葉隠と梅雨ちゃん!」
    
「刺繍のデザインはぜーんぶお茶子ちゃんが決めたんだよ!」

    「ちょ、三奈ちゃん! それは言わんくてええからぁ!!」
    少年はこみ上げるものを抑えきれず、笑みを浮かべた。
    
「すごく嬉しいよ……ありがとう!」
    少女たちは照れくさそうに頬を染めた。
    「次はオイラからだ!お前が寂しくないよう、オイラ秘蔵のエロ」

    「峰田君最低」
    村の一角でドッと笑いが起こり、宴の空気はさらに和らいでいった。

  • 61二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 02:12:50

    このレスは削除されています

  • 62二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 02:14:14

    このレスは削除されています

  • 63螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/09(土) 02:15:28

    「次、私いい……?」

    
視界の下から、小さな声がした。

    「エリちゃん!もちろんだよ」

    
「デクさん……おめでとう」

    幼い少女は、涙をこらえながらも祝福の言葉を口にした。

    「エ、エリちゃん泣かないで!これは誉れ高きお仕事なんだ、泣く必要はないんだよ」

    「でも……【メシア】のお仕事が終わったら、王国で暮らすんでしょ……?」

    少女の頬を、光るしずくがつっと伝った。


    この村に来たばかりの頃は、怯えて声すら出せなかった少女。

    その姿を思い出し、少年は成長を噛みしめた。

    
胸の奥で、静かに決意が固まる。

    「大丈夫だよ、エリちゃん。【メシア】の仕事が終わったら、必ず村に帰ってくるから」

    「ほんと?」


    「ホントさ…だから泣かないで?目が腫れちゃうよ」

    少年はしゃがみ込み、そっと小さな涙を拭った。

    「……ウン。じゃあ、これ。あげる」


    dice1d3=2 (2)

    エリちゃんは何をくれた?

    1 手紙

    2 手作りお守り

    3 >>64

  • 64二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 05:43:39

    健気だ…
    いい子だ…

  • 65二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 12:53:22

    ブワッ。( ゚இωஇ゚)゚。

  • 66二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 21:10:16

    ほしゅ

  • 67二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 01:27:32

    エリちゃん…

  • 68螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/10(日) 02:40:06

    「わあ!嬉しい!ありがとう、エリちゃん!」

    少年は、受け取った瞬間に顔をほころばせ、幼い少女へと優しく微笑んだ。
    「……無事に、帰ってきてね」

    その声は小さいのに、胸の奥までまっすぐ響いた。
    「もちろんだよ!」

    少年の返事は、ためらいのない笑顔と一緒だった。

  • 69螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/10(日) 02:43:04

    「緑谷」
幼い少女と戯れていると、頭上から自分の名を呼ぶ声がした。
    
「あ、先生!」
    村の先生は、少し照れくさそうに頭をかきながら言った。
    
「本当は成人した時に渡すつもりだったんだがな……腕を出せ」
    少年は言われるまま腕を差し出す。
    
先生は懐から、手のひらに収まる小さな包みを取り出した。
    
中から現れたのは、赤い宝石が一粒ついた革紐のブレスレット。

    その色は、あの幼馴染の瞳を思い起こさせた。
    「これは一人前祝い……そして、この村の家族の証だ」

    「家族……」
    視線を落としたまま呟くと、再び名前が呼ばれた。

    「周りを、見てみな」
    顔を上げて辺りを見渡す。
    そして少年は
息を呑んだ。
    
腕、耳、足首、首元、村の誰もが同じ飾りを身につけていた。
    
空気がふっと止まり、全員の視線が少年に注がれる。
    「……あ」

  • 70螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/10(日) 02:44:25

    「緑谷出久」

    先生はまっすぐに言った。
一拍置き、ゆっくりと。
    「お前がどこにいようと、どれだけ離れていようと……俺たちはお前と共にいる」
    その言葉に賛同するように、村の仲間たちはニッと微笑んだ。

    先生の声が胸の奥深くまで染み込み、熱を帯びる。
    
何かを言おうと口を開く。けれど、喉が詰まって声にならなかった。
    
ただ、胸の奥がじんわりと温かくなり、目の奥がかすかに滲む。

    だから代わりに、少年はぎゅっとブレスレットを握った。
    しんと静まっていた広場に、やがて笑い声と楽の音が戻ってくる。

    村は再びどんちゃん騒ぎになり、誰かが疲れて倒れるまで宴は続いた。
    
この日の光景も、仲間の笑顔も、少年は生涯忘れることはないだろう。
    離れていても、この飾りがあれば寂しさは耐えられる。
    そう、強く思えた。

  • 71二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 09:45:02

    ⭐︎

  • 72二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 11:46:21

    保守

  • 73二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 19:49:20

    保守

  • 74二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 22:33:59

    (இωஇ`。)

  • 75螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/11(月) 01:30:55

    時は過ぎ、出発の日が来た。
    
空は白く澄み、鳥のさえずりが微かに響く。
    
昨夜の送別会の温もりは、目を閉じればすぐに蘇る。
    「……楽しかったな」
    少しでも早く【アイの塔】に着くため、少年は誰の見送りもなく門をくぐろうとした。
    「……行ってきます」
    返事はない。それでも、言葉にしておきたかった。
    「頑張ろうな、緑谷」
    あり得ない返事に、少年の足が止まる。
    「……え?」
    振り返れば、傷の少年が立っていた。

    「行かないのか?みんな待ってるぞ」

  • 76螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/11(月) 01:32:54

    傷の少年は門を指差した。

    
門の前には、手を振る仲間たちの姿があった。

    「おせーぞ、緑谷ぁ!」

    
「緑谷くん、おはよう⭐︎」


    「これから頑張ろうな!」


    「デク君、大丈夫?」

    次々と飛び込んでくる声と笑顔。知った顔、懐かしい声、まさかの面々。

    針子の少女が、小さな少年に手を差し伸べる。

    
戸惑いながらも、その手を取る。

    そして、彼女の隣から幼馴染が歩み出た。

    
「言ったろ、デク」

    その笑顔に、心の奥で何かがほどける。

    「…あ」

    幼い日々の記憶が鮮やかに蘇る。


    二人で生き抜いた日々。


    思い出せなかったあの言葉が、今ははっきりと響く。

    「『何があっても、一緒だ』ってな」

    「……っうん!」

    胸の奥が熱くなる。


    この仲間たちとなら、何があっても怖くない。

    少年はそう、心から思えた。


    少年少女は進む。

    滅びゆく世界を守るために。

    健やかなる時も、病める時も、ただ信じて。


    dice1d1000=557 (557)

  • 77二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 08:07:20

    保守

  • 78二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 08:34:05

    本当になんのダイスなんだ…
    いいやつなのか悪いやつなのか

  • 79二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 16:56:47

    まじで先が怖い

  • 80二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 23:30:40

    マジでダイスが怖い

  • 81螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/12(火) 01:55:52

    (諸事情で本日投稿ができなくなりました。明日には再開できると思うので暫くお待ちいただけると嬉しいです)

  • 82二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 02:22:21

    結末は知ってるんだけど、🎲があるから展開変わりそうで予測ができないでもそこがいい

  • 83二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 09:39:04

    元ネタ知らないから先の展開分かんなくてドキドキする

  • 84二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 18:58:27

    >>82

    それな、ダイスがどう関わるか予想できない

  • 85スレ主のコテハンで変な声出た25/08/12(火) 19:31:42

    🎲が吉となるか凶となるか

  • 86二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 23:14:51

    スレ主のコテハンビクッとするよね

  • 87二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 01:55:58

    ホントじゃん、よく今まで誰も触れなかったね

  • 88二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 10:55:56

    ;:(´◦ω◦`):;
    元ネタ知ってるから楽しみで怖い、ダイスが何か分からないが幸せであれ

  • 89二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 11:07:32

    保守

  • 90二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 20:22:43

    保守

  • 91螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/14(木) 01:04:05

    (遅くなってしまい、申し訳ございません。投稿再開しますね)
    時は昼を過ぎた頃だった。
    
一行は、あてのない砂漠を進んでいた。
    
村を出て間もなく木々は姿を消し、残ったのは、見渡す限りの黄褐色の地平線。
風が砂を巻き上げ、頬に細かな痛みを残す。
    
一歩ごとに靴底が沈み、足が重くなる。
    「あっち〜…」
    
黒髪の少年が額を拭う。
    
「【アイの塔】のおかげで世界は保たれているが、王国が言うに年々緑が減っているそうだ」

    「マジかよ、責任重大じゃん」
    笑い交じりの声も、すぐに熱風にさらわれていった。
    このままでは誰かが熱中症で倒れるのもそう、遠くないだろう。
    少年はまとめ役の少年に声をかけた。
    「飯田君、休めそうな場所を探すのを手伝ってくれない?」
    「もちろんだ」
    笑って承諾してくれたことに少年は安堵する。
    そして体の向きを変え、目を窄めて遠くを見ようとした。
    まとめ役の少年は額に手をかざし、地平を探った。
    だが手を下ろして悔しそうに首を振った。
    「…ダメだ緑谷君。この辺りに休めそうな場所はない」
    少年も残念そうに笑う。
    「そっか…飯田、君探してくれてありがとう」
    「ああ。また、何かあったらいつでも頼ってくれ」

  • 92螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/14(木) 01:05:33

    少年の胸を、じわじわと焦燥が締めつけていた。
    幼馴染と二人で逃げ延びていた頃、同じように砂漠を歩いた記憶がある。
    昼は灼熱、夜は氷のような寒さ。
    そのせいで、何度死を覚悟したことか。
    「…かっちゃん、【アイの塔】まであとどれくらいかかる?」
    幼馴染の少年は懐から地図を取り出した。
    「王国から渡されてる地図じゃだいぶ先だ」
    「そっか…」
    少年は幼馴染の言葉に落胆する。
    【メシア】が【アイの塔】にたどり着く前に死ぬなど、あってはいけない。
    その時、幼馴染が地図を指で叩いた。
    「でも、このまま進めば小さいが森がある。この大きさじゃ獣もいねぇだろ」
    少年達はその言葉に歓喜した。
    「いよっし!あと少しだ!みんな、頑張るぞ!!」
    「「おー!!」」

  • 93螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/14(木) 01:27:01

    森は、地図で見た通り確かにそこにあった。
    黄褐色の世界を突き破るように、深い緑が塊となって横たわっている。
    「「森だー!!」」
    少年達は走って森へと向かう。
    足を踏み入れた瞬間、昼の熱が嘘のように消えた。
    涼しい。
    思わず誰かが息をつき、誰かが笑った。
    砂漠で焼かれた肌に、この影はあまりにも優しい。
    「あ゛〜、いぎがえるぅ…」
    少年は苔むしていた倒木の上に座り、空を見上げる。
    木々の隙間から見える空は既に赤く染まっていた。
    「今日はここで夜を明かそうか」
    少年が仲間に伝える。
    「了解だ、緑谷」
    「オッケー⭐︎」
    仲間は荷物を下ろし、夕飯の準備を始めた。
    砂漠を抜けた者たちだけが知る、短い安息の時間が訪れた。

  • 94二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 10:42:15

    ほしゅ

  • 95二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 17:34:40

    保守

  • 96二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 22:51:54

    今はゆっくりしなさい……

  • 97螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/15(金) 02:51:55

    この日の夕飯は、温かいものを食べたいという意見でシチューに決まった。
    
少年は明るい少年と並び、具材を切る係を任された。
    
包丁がまな板を叩く、軽やかな音が心地よい。
    「なぁ緑谷、【メシア】の仕事が終わったら何したい?」
    
明るい少年が野菜を切りながら問いかける。
    
「やっぱ王国で暮らす?【メシア】の特権でできるんだろ」
    「【メシア】の仕事が終わったらか……」
    
少年は手を止め、しばし考え込む。
    王国の使者が去る前に聞かされたことがある。
    
任務を果たした【メシア】は、【アイの塔】から出た後に王国への移住権を与えられる。
    
王国は一時的に訪れることはできても移住できるのは住人と結婚した者か、この権利を持つ者だけだ。
    幼いころ、両親に連れられて一度だけ訪れた王国。
    
色とりどりの草花が咲き、図書館には世界中の本が並び、服屋には選びきれないほどの服が溢れていた。
    
市場では新鮮な食材が並び、水はどれだけ飲んでも減ることを知らない。

    冬でも凍えることのない丈夫な家。
    あの日、幼い自分は夢中で目を輝かせた。

  • 98螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/15(金) 02:53:13

    だが今はもう、心は揺れなかった。
    
村を出る前日、幼い少女と交わした約束がある。
    少年は目を開き、ゆっくりと答えた。
    
「……僕は、村に帰るよ。みんなと一緒に」
    どんなに珍しい本よりも、どんなに綺麗な景色よりも、どんなに安全な家よりも。
    仲間と笑い合いながら過ごす村こそ、自分にとっての一番の幸福だった。
    
「そっ、か…そうだよな!」

    明るい少年は一瞬、声を詰まらせたが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。
    
その笑顔に釣られて、少年も笑う。
    「上鳴君は?どうするの?」
    
「俺?…俺も、みんなと一緒にいることを選ぶなぁ」
    二人は振り返り、仲間たちを見る。
    
焚き火の明かりの中で、幼馴染とまとめ役の少年が進路について語り合っている。
    
火をくべる傷の少年と赤髪の少年。
    
干し肉を切る黒髪の少年と針子の少女。
    
食器を並べる黒衣の少年と金髪の少年。
    
それぞれが、笑い声と湯気の中で動いている。

  • 99螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/15(金) 02:54:22

    「…頑張ろうな、緑谷」

    
「うん」

    気づけば日はさらに傾き、焚き火の赤だけが二人の顔を照らしていた。

    
隣の明るい少年の表情は、もう闇の中に溶けかけている。

    耳を澄ますと、どこかで梟が低く鳴き、木々の葉が風に揺れて囁いていた。

    
焚き火の香ばしい匂いと、湿った土の匂いが混じり合い、胸の奥まで沁みこんでくる。

    
砂漠を渡る前の夜とは、まるで別世界のような安らぎがそこにあった。


    共に帰ろう。暖かな思い出に満ちた場所へ。


    dice1d1000=73 (73)

  • 100二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 11:52:00

    保守

  • 101二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 19:44:22

    保守

  • 102二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 23:12:43

    うん、うん……

  • 103螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/16(土) 00:34:59

    時は回り、明け方。
    
焚き火の灰は冷え、東の空は淡い紫色に染まっている。
    
少年たちは、涼しいうちに砂漠を越えるため、黙々と支度をしていた。
    
「いいか、お前ら。ここから真っ直ぐ進めば大きな村に出る。そこを目指すぞ」
「「了解!」」
    
元気な声の奥には、まだ眠気が隠しきれない。
    荷物をまとめ終えた少年は、背伸びをしてから仲間たちを振り返った。
    
その中で、一人だけ動きが遅い黒衣の少年が目に入る。
    
「常闇君、大丈夫? 眠そうだけど…」
    
肩を軽く叩くと、黒衣の少年はゆっくり顔を上げた。

    「…あぁ、緑谷か。早起きに少し、慣れていなくてな」
    黒衣の少年の
目は半分しか開いていない。

    「まとめるの、僕も手伝うよ」
    
「いいのか?」
    
「もう終わってるし、二人でやったほうが早いでしょ」

    黒衣の少年は数秒考え、ため息のような声で言った。
    
「……すまん、頼む」
    
「もちろん!」

    少年はにっと笑い、拳を小さく突き上げた。

  • 104螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/16(土) 00:37:58

    少年のおかげもあって、黒衣の少年はあっという間に支度を終えられた。
    他の仲間たちもすでに荷をまとめ終え、二人を待っていた。
    「すまない、待たせた」
    「全然!大丈夫」
    針子の少女は小さく笑いながら、胸の前で両手をひらひらと振った。
    二人は顔を見合わせ、ほっと息をつく。
    赤髪の少年が周囲をぐるりと見回し、全員が揃っているのを確かめると、ぐっと空に拳を突き上げた。
    「ぃよっっしゃ!行くぞぉー!」
    「「おー!」」
    こうして、仲間たちは砂漠越え二日目の一歩を踏み出した。

  • 105二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 09:34:20

    町まで頑張れー!

  • 106二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 17:26:17

    保守

  • 107二次元好きの匿名さん25/08/16(土) 22:57:14

    保守

  • 108螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/17(日) 02:10:59

    日が高くなるにつれ、砂はじりじりと焼けつくように熱を帯び、靴底越しに火傷しそうな感覚が伝わってきた。
    
地平の向こうから砂嵐が迫り、視界はすでに霞んでいる。
    
喋る余裕など、とっくに消え失せていた。

    水筒の水はもう半分を切っている。
    その沈黙を破るように、誰かが低くつぶやいた。

    「…なぁ、俺たち、本当に真っ直ぐ進めてるのか?村なんて影も形もねぇぞ」

    その声は砂嵐にかき消され、すぐに溶けていった。
    少年は顔を覆うように手を広げ、細めた目で前方を睨む。
    
地図では、もう村に着いていてもおかしくないはずだ。
    
しかし一向に見えない。もしかしたら道を間違えているのかもしれない。
    少年の眉間にしわが寄る。
    そのとき、黒髪の少年が叫んだ。
    
「おい!誰かいるぞ!」
    
皆が一斉に顔を上げる。
    
黒髪の少年が指差す先、揺らぐ砂塵の向こうにはラクダと、地面に蹲る人影があった。
    仲間たちが戸惑いに足を止める中、少年だけは駆け寄った。

    そして、それに触発されるように仲間たちも後を追う。
    「大丈夫ですか!?」
    
蹲る人の前に膝をつき、声をかける。
返事はない。
    少年は肩に手を添え、そっと揺さぶった。
    相手は小さく身を震わせ、やがてゆっくりと瞼を開く。

    「うっ…んん…ハッ!」
    
勢いよく体を起こし、むせ込む。
    
しばらく咳き込んだのち、訝しげに少年を見つめる。
    
「……君は、誰だ?」
    「僕は緑谷出久です!訳あって仲間たちと旅に出ているんです。あなたは?」

  • 109二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 11:17:03

    保守

  • 110二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 17:28:52

    このレスは削除されています

  • 111二次元好きの匿名さん25/08/17(日) 22:26:02

    砂漠で迷ったらあかん……

  • 112二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 06:41:43

    |q •ㅿ•̀ )シンパイだよ……

  • 113二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 14:48:36

    保守

  • 114二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 22:07:00

    保守

  • 115二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 06:02:57

    村の人だったりするかな?

  • 116二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 14:15:18

    保守

  • 117二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 21:58:59

    保守

  • 118二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 07:03:23

    村の人で案内してもらえるといいが

  • 119二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 16:32:34

    保守

  • 120二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 20:41:13

    保守!
    元ネタを知っていますがねぇ……これ本当に神だよ。

  • 121螟「縺ァ縺ゅl縺ー繧医°縺」縺25/08/20(水) 22:37:03

    (お久しぶりです、スレ主です。
    ただいま夏風邪をこじらしており、いい文章が書けないでいます。なんとか今週中には治すのでしばらく待ってくれると嬉しいです)

  • 122二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 06:44:32

    気にせずゆっくり療養されてくださいな

  • 123二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 09:56:16

    保守
    スレ主さんゆっくり休んでください

  • 124二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 18:18:06

    保守

  • 125二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 23:47:25

    保守
    お大事に…

  • 126二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 08:11:25

    保守

  • 127二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 17:19:28

    ほしゅ

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