【SS】「ふたりだけのヒミツ、ひと夏のピクニック」

  • 1二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 19:55:02

    「トレーナー!ドライブ行こっ♡」
    「えっ、また!?ついこの前行ったばかりじゃ…」
    「うん。でもあたし、また行きたい気分なの♡」

    そう言ってフサイチパンドラは、にっこりと笑いながら俺のスケジュール帳を覗き込んでくる。ちょうど今日は午後からフリー、パンドラの調整も順調。反論の余地は、正直、ない

    「分かった。じゃあ今回は最初から行き先を決めよう。前みたいに車の中で迷子になるのは避けたい」
    「え~?それもまた楽しかったじゃん♡」

    そう言って俺の腕にしがみつく彼女。もうこの時点で俺の中での“デート強行カウント”は二桁に届きそうだ

    「で、今回はどこに行きたいの?」
    「ふふーん、それはね――」

    彼女が差し出したのは一枚のチラシ。どうやら今日は近郊で開催されている夏のナイトマーケットらしい。屋台やライブ演奏、縁日みたいな催しまであるらしい

    「夜の屋台って、ちょっとワクワクしない?」
    「確かに、それはちょっと面白そうかもな」

    彼女の瞳がきらきらと輝いている。これはもう断る理由がなくなった

  • 2二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 19:56:03

    「じゃあ、ドライブしながら会場向かおう。ちょうど夕方になるくらいに出ればいいかな」
    「やったー♡その前にアイス寄ろ?暑いし♪」
    「はいはい…予定が増えていくな」
    「なに味がいい?」
    「俺は無難にチョコでいいよ」
    「つまんなっ!でも、チョコ好きなとこも可愛いんだよねぇ♡」

    コンビニの駐車場。助手席でアイスを片手に嬉しそうに笑うパンドラ。ちょっとだけ溶けて指に垂れたアイスをぺろりと舐めて俺にウィンクを飛ばしてくる

    「なに色気出してんだよ」
    「え?色気出てた?ヤバ♡今日も罪な女だわ~♪」

    そう言って大げさに髪をかき上げる彼女に思わず吹き出してしまう

    「ちゃんとティッシュ使えよ、ベタベタになるぞ」
    「おっ、まさかの“お母さん”ムーブ♡」
    「そういう意味じゃない!」

    彼女のペースに巻き込まれるのはいつものことだけど、今日も絶好調らしい

    会場に着く頃にはすっかり日も落ち、提灯の灯りが辺りを照らしていた

  • 3二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 19:57:03

    「わ~、雰囲気いいねぇ!」
    「結構賑わってるな。人混みに気をつけてな、はぐれないように」

    そう言って俺が差し出した手をパンドラは無言でぎゅっと握り返してきた

    「……あたし、もうはぐれてるかも」
    「え?」
    「だって、心がさ、完全にアンタに持ってかれてるから♡」
    「……パンドラ」
    「なーんてねっ♪よし、じゃあまずは金魚すくいからいこっか!あたし、あれ一回やってみたかったんだ~!」

    照れ隠しなのか、それとも本気なのか。よくわからないけれど、その後も彼女は終始楽しそうだった。金魚すくいでポイを破り、輪投げで豪快に外し、かき氷で頭をキーンとさせて、そんな姿に気がつけば俺も笑顔になっていた。

    「……楽しかった?」
    「うんっ♡すっごく!」
    「本当に?またどこにも連れてってない気がするんだけど」
    「それでもいいの!一緒にいるだけで楽しいもん♪」

    寮へ戻る前、車の中でそう言ってくれる彼女の笑顔は今日見たどの光よりも眩しかった

    「ねえ、次のデート、どこ行こっか?」
    「いや、まずはトレーニングの予定組もうか」
    「え~!そこは夢見せてよ~♡」

    楽しそうに笑うパンドラの隣で、俺は次の休日をこっそり確保し始めた

  • 4二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 19:58:04

    ナイトマーケットから数日後。パンドラとのトレーニングは再開していて、彼女は以前と変わらず真面目にメニューをこなしている、ように見えてやっぱり

    「ねぇ、トレーナー」
    「はい、今日はもう三度目の“ねぇ”だよ?」
    「じゃあ四度目で“ねぇねぇ♡”って言ったら、さすがに構ってくれる?」

    バランスボールの上でぴょこぴょこと跳ねながら、パンドラは俺を見つめてくる。視線を外せばふくれるし、見つめ返せば笑う。ほんと手のかかる

    「構ってるよ十分に。ほら次のメニュー、インターバルランだから」
    「え~~~、あたし今、感受性トレーニング中なのに~」
    「どこに感受性入れてんだよ」

    言いながらも彼女の調子が悪いわけではないことは分かっている。むしろ以前より身体のキレは良い。そして彼女は走り出す直前にくるりとこちらを振り返る

    「ご褒美、用意してくれてるよね♡」
    「……結果次第だな」
    「うぅわ~~~ケチ~♡ でも、好き♡」
    「走れぇぇぇ!」

    パンドラはけらけらと笑いながらトラックを駆け出していった。結局その日は気持ちの良い疲労感とともにトレーニングを終え、彼女を寮へと送り届ける頃にはすっかり陽が落ちていた

  • 5二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 19:59:05

    「ね、トレーナー」
    「また“ね”か?」
    「いいじゃん、あたしの口癖なんだから♡」

    そう言って助手席で揺れる彼女。車内は寮の近くだというのに、彼女はすぐにドアを開けようとしなかった

    「今日はさ、このまま帰るのやだなって思って」
    「疲れたろ?ゆっくり休んで、また明日に備えるべきだって、トレーナーは言いたい」
    「言いそう~。マジで言いそう~。でも、そうじゃないんだよね」

    彼女は指先で窓ガラスをなぞり、そこに小さくハートを描いた

    「また、ふたりでどっか行きたいなって、思ってた」
    「そっか」
    「でね?次は、あたしだけが知ってる場所がいいなって思った」

    不意に彼女の声色が真面目になる

    「他の誰にも話してないような特別な場所。あたしがトレーナーに見せたい風景。ふたりだけの秘密」

    その言葉に、俺は少しだけ言葉を失った。今までだって特別な時間はあったはずだ。けれど、それはどこか「楽しい時間」止まりで。彼女の口から「秘密」という言葉が出たことで距離がまた少し、変わった気がした

  • 6二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 20:00:06

    「それは、どんな場所なんだ?」
    「ん~、教えな~い♡」
    「なんでだよ!」
    「今言ったら“秘密”にならないでしょ♡ちゃんと予定空けといてよ?」

    パンドラはウィンクと共に指を一本立てる

    「今度のドライブは、ふたりだけの特別編。あたしのトレーナーに、もっともっと好きになってもらうんだから♡」
    「もう十分、好きだぞ?」
    「は!?ちょ、なにそれ、え、急に、まって」
    「いや、お前が言えって空気出してきたんだろ」
    「いやいやいや、言っていいやつとダメなやつあるじゃん!? え、そういうの、心の準備とか……っ!」

    パンドラは耳まで真っ赤にして慌て出す。まるで誰かさんのイヤイヤ期が逆流してきたみたいに

    「可愛いな」
    「~~~~っ♡ アンタってほんとずるい!!」

    そう言ってパンドラは、また俺の頬をぷにぷにと突いてくる

    「絶対惚れ直させてやるからねっ♡覚悟しててよっ♡」

    助手席のドアを開けて、彼女は軽やかに降りた。手を振って走っていく後ろ姿は、夕闇の中でもひときわ目立っていた

    「ふたりだけの秘密か」

    その言葉を繰り返しながら、俺はゆっくりとエンジンをかけた。次の休みは、ちゃんとスケジュールを空けておこうと思いながら

  • 7二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 20:01:06

    週末の朝。太陽はすっかり昇っているのに、集合時間は「8時きっかり」だと念を押されていたせいで、俺は15分前から栗東寮の前で車を停めて待っていた。すると、ぴったり8時ちょうどに彼女は姿を現す

    「おっはよー、トレーナー♡」
    「おはよう。時間ぴったりだな」
    「えっへん♪今日のあたしはやる気しかないんだから!」

    夏らしい涼しげなワンピースに、麦わら帽子。ひらりと揺れるスカートの裾と、にこにこ笑う顔がまぶしい

    「で、行き先は?」
    「ん~♡ 内緒♡」
    「いやいや、運転する俺が知らないのはまずいでしょ」
    「ナビには入れてあるよ~。このメモリに“ヒミツの場所”って名前で登録しといたから♡」
    「めっちゃ気になるんだけど」

    助手席に乗り込んだ彼女は、自分でシートベルトを締めながら上機嫌に笑っていた

    道中、車内ではひたすらパンドラのご機嫌タイム

    「この前のドライブさぁ、ガソリンスタンド寄ったでしょ?」
    「うん、寄ったな」
    「すっごいどうでもいいんだけど、ああいう何気ない日常って、あたし、けっこう好きなの♡」
    「じゃあ今度は洗車デートでもするか?」
    「やば、それめっちゃキュンとするやつ♡泡でトレーナーの顔洗ってあげようかな」
    「それは遠慮したい」

  • 8二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 20:02:07

    そんな他愛のない話をしながら、車は徐々に山の方へ。標識には“展望台”の文字が見え始め、やがて小道に入る

    「ここ、本当に車通っていいのか?」
    「うん、ちゃんと許可されてる場所だよ。あ、そこ曲がって!」

    彼女の指示通りに進み、やっとのことで車を停めた先には――

    「ここは?」
    「ふふっ。着いたよ、あたしだけの、トレーナーだけの場所♡」

    目の前に広がっていたのは、山の中腹にある小さな丘。そこからは街並みが遠くに一望でき、青い空と緑の木々、そして遠くにはちらりと海も見える

    風が吹き抜けて、草の匂いがした

    「……綺麗だな」
    「でしょ? パパとママとも昔来たことがあるんだ。でもね、ここに誰かを連れてきたのは、あんたが初めて」

    パンドラはそう言って、持ってきたレジャーシートを敷いて腰を下ろす。隣に座るよう手招きされ、俺もそれに従った

    「ねぇ、トレーナー。なんで今日ここに連れてきたか、分かる?」
    「いや、分かんない。なんでだ?」

    すると彼女は少し照れたように口を開いた

    「あたし、こういう風に、のんびり時間を過ごすのってちょっと苦手だったんだよね。退屈だなーとか、落ち着かないなーとか、思っちゃって」
    「……うん」
    「でも、トレーナーと一緒だと、そういうの全部、消えるの」

    草をいじる指先が、そっと俺の手に触れる

  • 9二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 20:03:08

    「なんにもないこの場所で、なんにもせずに、ただ一緒にいられるって……今のあたしにとっては、すごくすごく大事なことなんだ」
    「それは」
    「“特別”ってことでしょ?♡」

    パンドラの笑顔は、どこかいつもよりも柔らかかった。ふざけたり、甘えたり、強がったり、そんな彼女ももちろん大事だけど、こうして静かに素直な気持ちを伝えてくれる彼女のことを、俺はやっぱり特別だと思う

    「ありがとうな。そんな場所に、俺を連れてきてくれて」
    「ふふっ、トレーナーが喜んでくれると思って、内緒で計画してたんだよ?」

    と、ポーチから取り出したのはサンドイッチと冷たいお茶

    「今日はあたしの奢り♡ 特製ピクニックランチ!」
    「……まさかこれも、手作り?」
    「へへん♪昨日の夜こっそり寮のキッチンで仕込んだんだから♡」

    少し味が濃かったり、パンがかたかったりするけど、全部が彼女らしい。そして何より美味しかった

  • 10二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 20:04:09

    「あ~、寝っ転がると空がでっかく見えるなぁ」
    「帰りたくなくなるだろ?」
    「うん……」

    そう言ってパンドラは俺の肩に頭を預けた。帽子の影に隠れたその表情は見えないけれど、頬がほんのり赤くなっているのが分かる

    「トレーナー、またここ来てくれる?」
    「もちろん。なんなら毎月でも」
    「ん~♡ じゃあ毎月デートだね♡」

    それはちょっと財布に厳しい気がするけど、言わないでおく

    「この場所はふたりだけの秘密。あたしのトレーナーだけが知ってる秘密……なんだからね♡」
    「はいはい、了解了解」

    何度も聞いたような言葉なのに、なぜか今日は特別に響いた。吹き抜ける風が、彼女の髪をふわりと揺らす。それは夏のどこか一日だけに訪れる、小さな魔法のようだった

  • 11二次元好きの匿名さん25/08/06(水) 20:05:10

    おしまい。パンドラはいいぞ

オススメ

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