- 1二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 09:54:00
概形置いときますね
皐月賞、日本ダービーを圧倒的な強さで勝ち進んだタキオンは、2冠を達成したウマ娘になった。最初はクラシック三冠への興味も薄かったけれど、異次元の走りに狂わされたトレーナーの情熱が、タキオンの決心を揺るがせた。プランBに移行する選択肢も放棄して、自分の足で速さを追求すると決意を固める。可能性に賭ける根性が、菊花賞を前にしてタキオンに芽生えてきた。
菊花賞前日、カフェにプランBの放棄を伝えた。カフェは無表情に見えて、少しだけ嬉しそうにそれを聞き届けた。「アナタの実験に付き合いたくはありませんから」、そう言った声は心なしか弾んでいるようでもあった。
そして迎えた菊花賞、タキオンは自分でも驚く程の好タイムで1着を勝ち取った。月桂杯辞退の問題児だと批判的な目を向けてくる観客を置き去りにして、見事クラシック三冠の栄誉をその手で掴み取ったのだ。
問題児と思っていたウマ娘の真摯な走りに、観客の見る目は変わっていく。言語化できない熱を胸に抱えながら、呼吸を整えて珍しく自分からトレーナーの元へ駆け寄る。満面の笑みを浮かべたトレーナーは、何故か全く違う方向を見ながらタキオンを労った。そこで初めてタキオンは、『トレーナーの目はもう見えていない』という事実に気がついた。胸を焦がしていた熱も、一気に冷やされて消えていった。 - 2二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 09:55:01
トレーナーの失明は視神経の不調によるものであり、一度完全に脳と目の繋がりが絶たれた以上、もう二度と光を見ることはできない。専属契約時に目のことは聞いていたし、弱視とは不便だなあと少し同情もしていたが、まさかトレーナーの視力が完全に消えるなんて思いもしていなかったわけで。この瞬間にタキオンは酷く狼狽して、トレーナーを連れて病院に駆け込む。しかし、突きつけられたのは『視力の完全な喪失』という無情な医学的判断であった。
盲目となっては、流石に働くこと自体が不可能。トレーナーは辞職せざるを得なくなり、タキオンは1人戦いの場に残されることになった。当然1人ではレース出走登録もできず、これ幸いと三冠ウマ娘との契約を狙う他トレーナーが雨後の筍のように湧いてきた。どうしていいか分からず、彼女にできたのは研究室に引きこもって蹲ることだけだった。
心身の疲労のせいで、座ったまま眠るように意識を失う。何時間後だろうか、自分の名前を呼ぶ声と肩を叩かれる感覚で目を覚ました。カフェが1冊のノートを持って傍らに立っていた。「預かり物を持ってきました」と言って、それをそっと差し出した。 - 3二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 09:55:57
文字を読む気になど到底なれない。放っておいてくれと頼んだが、珍しくカフェは引き下がらない。しつこい、そう感じる前に感情が沸点を超えた。彼女が悪いわけではないのに、怒りに任せて友人にかけるべきでない言葉が口をつく。──「君に何の関係がある」「さっさとそれを持って出ていけ」と。彼女との関係が拗れる可能性を、一切検討もしなかった。
カフェは、しかし怒る素振りを見せなかった。深い悲しみを湛える黄金色の瞳が潤み、それから瞼の奥に隠された。「どうかノートを読んでください」。お願いします、と彼女は頭を下げた。見たことのない程に下手に出るカフェが怖くて、乱雑にノートをひったくった。ぱらり、と1枚捲り、すぐさま手は止まった。
そこにあったのは、これからシニア期最後までのレース予定。そしてページの1番下、『有馬記念』と緑のマジックで書かれたその横に『ここまで予約済』と添えられていた。 - 4二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 09:56:51
「アナタのトレーナーさんは、私にそのノートを預けてくれました」。震える手で辛うじてノートを支えるタキオンへ、カフェは静かに話し始めた。「私にしか頼めないと、そう言ってくれたんです」。
「私はノートの中身を知りません」。そう言って、カフェは湯気の立つカップを差し出した。紅茶の甘い香りが鼻を擽る。「でも、アナタにとって必要なことが書いてあったのでしょう」。まるでタキオンの心を読んだかのような、自信に満ちた推測だった。
更にページを捲る。毎日の食事、トレーニングメニュー、レース場ごとの特徴と注意点……選手としての活動に必要となる膨大な量の情報が、1冊のノートにこれでもかと詰め込まれている。タキオンが1人になっても、ノートを見れば情報を得られるように。
読み進めていくにつれて、文字の大きさは不均一になっていった。文字の間隔もばらばらで、所々重なってさえいた。ほとんど見えていなかったのだろう、そんな中でトレーナーはタキオンに情報を残した。光が消え、闇に包まれていくことに恐怖しながら、それでもトレーナーの責務を全うせんと己を奮い立たせたのだ。 - 5二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 09:57:42
「さて……私はもう帰ります」。しばらく経ってから、カフェはそう告げた。帰ろうとする彼女を呼び止めなかったのは、或いは初めてのことだったのかもしれない。ドアの閉まる音がして、足音が遠ざかっていく。
ノートを閉じる。カフェの用意してくれたカップを手に取る。温かい、そう感じた瞬間だった。堰を切ったように涙が溢れ出す。止めようのない奔流が染み込んで、袖の質量を増やしていく。嗚咽を漏らす中で、トレーナーの献身が幾つも思い起こされた。
タキオンの心身の健康を第一に考えてくれた。我儘を言っても付き合ってくれた。トレーナーがいなければ、アグネスタキオンというウマ娘は志半ばにして折れていた。……幼い頃からの夢に挑む上で、欠かすことのできない恩人であることを、やっと自覚するに至った。 - 6二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 09:57:52
- 7二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 09:58:24
文章読め
- 8二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 09:58:36
ちゃんと読みなさい、元々ある程度見えてたんだぞ
- 9二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 09:58:48
お前は何を言ってるんだ
- 10二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 09:59:44
目が見えていても文字が読めない奴もいる、彼はこう言いたいのだよ
- 11二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 09:59:57
- 12二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:00:19
2行で矛盾するな
- 13二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:01:24
失明しかけの弱視って実際どうなんだろうね
メガネとかで何とかなるのかな - 14122/04/17(日) 10:01:32
- 15二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:03:32
どうしてそこを人に任せるの!!!!
- 16二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:03:38
[悲報]あにまん民文字が読めない
- 17二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:03:43
- 18二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:04:18
ここまで書けるのにどうして……
- 19二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:04:21
この書き方だとタキオンの実験とかじゃなく単に持病が進行して見えなくなったって感じ?
- 20二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:04:36
まって
俺たちを置いていかないで
これからタキオンはどうなるんだ
いやわかるけど、わかるけど! - 21二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:05:58
俺も最初タキオンの実験のせいで盲目になるやつかなーと思ってたけど普通に病気だったみたいだね
- 22二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:07:02
- 23122/04/17(日) 10:07:10
我が名は1 家のネット環境からこの地に来た そなたたちは良SSを量産すると聞くあにまん民か?
- 24二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:07:20
素晴らしい概念なので荒らしは削除などして管理してくれ
...なんでそこまで書ききってぶん投げるんですか? - 25二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:08:29
- 26二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:10:25
タキオンが視力回復の研究をするよ
- 27122/04/17(日) 10:10:42
タキオンの実験は一切無関係のつもりです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
- 28122/04/17(日) 10:15:26
それもまた1つの完成系だろう!!! 書くんだ22!!!! ありふれた終わり方が悪いなんてことあるか!!!!! おまえの想像を文字にして私にぶつけてくれ!!!!!! 私は真摯に苦悩するタキオンに飢えている!!!!!!!
- 29二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:17:35
- 30122/04/17(日) 10:18:36
その発想はなかった いいね、HarryHarry
- 31二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:18:50
- 32二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:31:00
タキオンの育成ストーリーを初めて見た時は衝撃だったな
足が弱いことを自分で克服してから初めてトレーナーに話してくるというのは、かなり新しいというか、なかなか見ない構成だと思う。普通はトレーナーに話し、2人で脚を治すというか改善策を見つける…という形にするのではないだろうか。しかしそうはならず、彼女はトレーナーという自身をサポートする位置にある人間にも黙って、それによって誤解されても構わないとひとりで自分の弱い脚を克服した
トレーナーは彼女にとって最大の問題であるタキオンの脚についてはなにも関与してないんだ
けれど、だからといってタキオンがトレーナーを信頼してないわけじゃないというのがすごく驚いた。
むしろ彼女は自分に寄せられた狂気のような信奉を受け入れ、それを信じている。どこまでも介入させてくれないくせに、トレーナーに対して確かな信頼を傾けている。
これを愛おしい、いじらしい、そう言わずしてなんと言おうか、いやもう言葉には言い尽くせない
あのときの感動をこのスレを見て思い出した - 33二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 10:32:15
- 34122/04/17(日) 10:43:09
- 35122/04/17(日) 10:44:05
いや幻覚ではないな 申し訳ない、素晴らしい情動だぞ あとはそれをSSにするんだ
- 36122/04/17(日) 11:17:06
その後を思いついたので、また概形置いときますね
「美しい青空の広がる、阪神レース場。ターフも絶好の良バ場となりました!」
その日、阪神レース場に詰めかけたファンの数は、収容最大人数である8万人を優に超えていた。渡り廊下にまで溢れかえったファンが、しかし誰一人として騒ぎを起こすことなく整然としてレースの開始を待つ。大規模な群衆が形成されているとは思えない、奇跡的なまでに整えられた観客は、言うまでもなく『奇跡』を目の当たりにするべくレース場へ足を運んできた。
「阪神に集いし英雄たちを紹介しましょう。3番人気はこの娘です、アメリカンボス! 今年既に2つの重賞レースを制した実力派が、初のG1タイトルを獲得すべく阪神の舞台に帰ってきました」
時々、レース場では奇跡が起こる。神に讃えられしウマ娘が、レースを見世物からスポーツへ変えてみせた。芦毛は走らない、そんな俗説は、2人の芦毛ウマ娘が巻き起こした特大の社会現象に飲み込まれて消えた。『有り得ない』は存在しないのだ。故に人は夢を見る。 - 37122/04/17(日) 11:18:55
「そして2番人気、こちら1番人気との差はごく僅かでございました! しかし戦績という面において、かのウマ娘にも勝るといえるでしょう! 2番人気、テイエムオペラオー! 王者の帰還に阪神が一層湧き上がります」
かのウマ娘もまた、奇跡を巻き起こした。強固に閉ざされた道をこじ開けて、あたかも海を割ったモーゼの如く、そのか細い抜け道こそが己の歩むべき覇道であると証明してみせた。そして彼女は史上初となる年間無敗を達成、当然このG1レース──大阪杯にも最有力候補として出走する。
そのはず、だった。
「さあ、いよいよ1番人気。クラシック戦線に彗星の如く現れたニューヒロインは、並み居る強豪を寄せ付けませんでした」
テイエムオペラオーは夢を見た。自分がトレーナーとの二人三脚で歩んできた覇道というものは、何も1本だけの唯一無二ではない。『覇王』は決して1人とは限らない。自分ではない『覇王』が凄まじいスピードで駆け抜けていき、やがて偶像から神話へと変貌していく夢を、オペラオーは明確に認識した。
夢ではないのかもしれない。よしんば夢だとしても。それは予知夢というべきだったのか。見えない3本目の脚へ寄り添い、傍から見れば一人二脚としか見えないだろう。それでもそのウマ娘は、誰かと共にあった。
「僅か3度の戦いで神話になりました、そのウマ娘! 菊花賞以来の登場となったアグネスタキオン、堂々の1番人気!」
彼女は数分ぶりに瞳を外気へ晒した。深く昏く、しかし強烈な光を放つ瞳が、ライバル達に与えるのは活気か絶望か。異次元から現れた怪物が、見る者を魅了する。──大阪杯が、来る。 - 38122/04/17(日) 11:20:52
以上です。これのタキオン視点ください あと菊花賞からの約6ヶ月の道のりを克明に記録したSSもお願いします
- 39122/04/17(日) 11:23:49
ところでなんですけど、タキオンの瞳や脚が強烈な光を放って見る者の目を眩ませるのは、トレーナーに届くほどの光を追い求めるが故なんですよね タキオンが折れない限り、タキオンは無限に進化していけるんですね これも誰か書いてください
- 40二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 12:47:11
えっ続きはないんですか!?
- 41二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 12:49:50
- 42122/04/17(日) 14:43:07
今更でほんとうに申し訳ないが、大阪杯のグレードはアプリ準拠(誰が走ってもG1)で頼みます……ほんとは2017年からG1昇格だったはずなんですけど……
- 43122/04/17(日) 15:27:20
続きを思いついたので置いておきます
【──私は今年の有馬記念をラストレースとする】
激闘の熱が冷めやらぬ阪神の地で、生中継が映し出した映像は、きっと各所に強烈な驚きをもたらしているだろう。何せクラシックにおいて三冠を達成した圧倒的な強者が、次の1年で引退するのだ、そんな前例は今までにない。かの皇帝も怪物も、いわゆるシニア期を複数年戦った上で勇退している。
「驚いたな」
テレビの方を向き、しかし目の焦点は何処にも合っていない。中性的な体つきの人間が、ベッドに横たわったままでぽつりと零した。それは独り言のつもりだったろうが、同じ部屋にいたウマ娘は流すことなくその一言を拾う。
「そうですか? 私には、アナタの予定通りに事が進んでいるように見えますが」
「そう見える?」
「とても」
鋭い娘だ、それとも自分が分かりやすいだけなのか。肩を竦めて彼女への返答とする。横目で一瞥して、黒髪のウマ娘はカップを傾けた。苦そうなコーヒーの香りがふわりと漂う、生憎香りだけで種を特定できるほどにコーヒーに詳しくはない。
「最良の判断、とでも言いたげですね」
「……違うかな」
「いえ。私もこれが最善だと思います」
タキオンを担当するトレーナーはいない。より正確に言えばいなくなってしまった。トレーナー──ベッドに横たわるこの人間が、不治の盲目に苛まれたために専属契約を続けられなくなった。
トレーニングメニューからレース予定まで、視力が僅かなりとも残っているうちに組んでおいて良かった。完全に視界が闇に包まれた今となっては、心の底から安堵している。ただ、タキオンが新たなトレーナーを見つけるのであれば、それを否定する気もなかった。カフェにノートを預けたとき、もしいらないと言われたら燃やしておいてくれと頼んだのだが、受け取ってくれたと聞いたときは本当に嬉しかった。『タキオンは私と戦ってくれるんだ』、そう思うと心が弾んだ。
だが、常識破りの策を講じている自覚はある。この作戦が効力を発揮できる期間は短い。それこそ、せいぜい1年機能してくれれば万々歳といったところか。可能な限りのデータを用いてノートを作ったけれど、数年後のタキオンの成長度合いを完全に予測するなど不可能にも近い。絶えず傍で支えられるトレーナーは、いるに越したことはないのだ。 - 44122/04/17(日) 15:29:12
「奇策を継続しても……良いことはありません」
「カフェ、君には悪い事をしたね」
「……突然なんですか」
「いや、もっとタキオンと戦う機会を作れたはずなんだよ」
カフェの瞳が揺れた。見られることなんてないのに、隠すように瞼を閉じて、気持ちを落ち着けようと再度カップを傾ける。一息でいつも以上の量を飲み干して、大きく息を吐き出した。
「……アナタに非はないでしょう」
「どうだろう。……だからさ、悔いのないようにしてね」
トレーナーにとって、盲目となるのは覚悟していたことだ。学生時代から落ちていく視力と付き合ってきたのだ、覚悟を決めるには充分な時間があった。
唯一悔やまれるのは、もうあの閃光が目を眩ませてはくれないことだ。脳まで焼け付くようなあの衝撃は、視覚を失った瞬間にもう二度とトレーナーに訪れないことが約束されてしまった。カフェが同じ目に遭うわけがないけれど、先に立たない後悔をした身として、一言伝えておきたかった。
花を愛でるような優しさで手を取られた。カフェがコップを持たせてくれたらしい。硬い金属と小さく細い手、相反する2つの感触が掌から伝わってくる。これまでの人生経験というのは凄いもので、カップさえ持たせてもらえたら、飲み物を飲むくらいなら今でもできる。中身はトレーナーの好きな、少しだけミルクを入れたコーヒーだった。
「天皇賞・春……タキオンさんは出るのでしょう?」
「あの子次第かな。予約はもうしてあるけど」
「ならそこで勝負です」
力強い言葉だった。トレーナーは満足気に頷いた。
タキオンは良い友達を持ってくれた。残りの数ヶ月を走りきるための精神的な支えとして、カフェ以上の適任はいない。願わくば2人が後悔なしにレースを走って、ライバル同士不足のない戦いができるように。 - 45二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 22:50:13
保守
- 46二次元好きの匿名さん22/04/17(日) 23:05:07
もっと読みたい
この物語を - 47122/04/18(月) 08:27:04
続き書けそうなので保守
- 48122/04/18(月) 19:41:56
例によって概形置いときますね
「何をしてるんですか……風邪を引きますよ」
学園での最後の調整を終えて、クールダウンをしていたカフェは、見慣れたウマ娘が練習場の一角に突っ立っているのを見つけた。もう立派に冬といえる気温だ、動きもせずにじっとしていたら体は冷える。
「1週間後には……本番です。よもや風邪で走れないなんてなったら、あの人悲しみますよ」
「……この場所はね。私とトレーナー君との出発点なんだ」
カフェの方を振り返らずに、タキオンはぽつぽつと話し始めた。元生徒会長と併走したこと。その走りに見せられた、若きトレーナーがいたこと。常軌を逸したアプローチをされて、思わず大笑いしてしまったこと。そのどれもをタキオン本人から聞いたことはないけれど、『そういうことがあった』と知っている。色々な人から話は回ってくるのだ──元生徒会長然り、『友人』然り。
「彼の瞳は狂気を孕んでいる。あの頃からずっと、今でも」
2人は互いに魅せられ合った。互いの奥底に潜む狂気に当てられて、共に深みへと嵌っていった。天高く昇っていこうとするウマ娘が大半だろうに、真逆の方向へ突っ走っていくのは流石の相乗効果といえる。
この想いは、決してタキオンからの一方通行ではない。トレーナーもまた、視力を完全に失いながらも未だタキオンのレースを追いかけ続けている。彼は『目』を失ってなどいない、そこには見る者の目を眩ませる超高速のプリンセスが焼き付いている。……羨ましいと内心思っているのは、本人達にはとても言えないが。 - 49122/04/18(月) 19:46:36
「さて、私は部屋に戻ろう。君は例によって5分後の出発だろ? 君の出発が遅れたらいけないから、必然的に私は急がないといけないわけだな!」
「……一緒に、行きますか?」
瞬間、タキオンが唖然とした。まるで普通の感性を持ったウマ娘が、想定外の事態に直面したかのように。失礼な反応だ、折角知己を誘ってあげたというのに。ふくれっ面でじとりと睨むカフェへ、珍しい程に慌てつつ会話を繋ぐ。
「いや、驚いた。うん、君から誘ってくるなんて初めてじゃないか?」
「そんなことないです……アナタから誘う方が多いのは、事実ですけど」
九分九厘、タキオンが強引に連れ回そうとする。カフェが乗るか反るかは、前者2割後者8割といったところか。怪しげな実験に付き合う気は毛頭ないが、それ以外の用事──例えば一緒に昼食とか併走とか、そういったことなら結構付き合ってきたと自負している。
もうそんな日々は来ない。ふとカフェの脳裏をそんな思考がよぎった。静謐な毎日が数年ぶりに帰ってくると思うと、不思議なことにあまり嬉しいとも感じなかった。騒がしいのは好かないが、しかし今更落ち着くのも何か違和感を覚えてしまう。
「友人からの申し出だが、すまないねぇ。5分前に出発するよ」
「そう言うと思いました」
アナタが受けてくれたことはありませんでしたから。そう言って部屋へ戻っていくカフェが、何処か寂しげな、或いは拗ねているようにも見えた。果たして気のせいか否か、案外どちらも有り得そうだ。
タキオンもまた、部屋へと戻る。同室のウマ娘は、既にレース会場へ向かっている。真っ暗な居室だけがお出迎えをしてくれるわけだ。感謝の言葉でもかけてみようか、あの部屋に立ち入る機会はもう多くないことだし。 - 50二次元好きの匿名さん22/04/18(月) 19:52:46
え?何?製本する際に表紙を担当すればいいの?
- 51122/04/18(月) 21:27:32
「この地下通路を歩くのも、これで最後か」
他の出走するウマ娘は、皆パドックへ向かった。このレース場で最も人口密度の低くなった道の中で、独り言は僅かに反響したあと寂しく消え去るはずだった。
「……ジュニア級の頃、この通路のことを13階段と言ってましたね」
「ああ、言った。あの頃の私にとっては、本当にそうなり得たからね」
意外にも拾ってくれたカフェの言葉で、2年前の記憶を思い返す。いつ最期の時がやってくるのか。首元に鋭利なナイフを突きつけられているような、酷く底冷えのする感覚を連れて、レースに出走していた時期もあった。
「でも今は違うさ。思うに死刑囚は、13階段を登りきることで死ぬ用意を整える。たまにいる『余程の変人』は、生の苦しみからの解放手段として死刑を捉える。だからこそ、この通路は私にとって13階段たり得ない」
「……」
「苦しんでこそ生だろう、極楽は死だろう! このレースを走りきった私は、また新たな苦難に挑むんだ。効率化は好きだが、楽をするのはその限りでもなくてね」
見えない3本目の脚に頼る日々が、苦しくなかったなんて言わない。トレーナーの残してくれた『基礎』を、自ら進化させていかなければならなかった。本来であれば担当トレーナーの仕事であることを、タキオンは実際の練習と両立させていた。1人で考え、1人でレースに出て、1人で強くなる。傍から見れば、そんな異質なウマ娘だったのだろう。
誰もが1人では強くなれない。タキオンを近くでずっと支え続けた『もの』を、ほんの数名のウマ娘だけが知っている。そうしたウマ娘達は、タキオンを侮ることはなかった。『如何に三冠馬とて、トレーナー抜きでは衰えていくだけだ』──そんな大勢の意見を他所に、彼女に勝つ方法を模索してきた。期待にも似たその挑戦を真っ向から受け止めるかのように、タキオンはこの1年間完璧にも近い走りを見せつけてきた。
「心配せずとも、私は『死なない』さ。我が友よ」
そして今日もタキオンは走る。二人三脚で構成してきた研究の成果、その集大成を披露するために。……そのために、タキオンは満員の観客の元へと歩いていく。1歩を踏みしめるような足取りに、一切の迷いは乗っていなかった。 - 52122/04/18(月) 21:30:53
おわり 書き切れて満足よ、また何か書いてみたいね
- 53122/04/18(月) 21:36:31
いま絵を描いてあげるって言ったか?? 是非欲しいぞ
- 54二次元好きの匿名さん22/04/18(月) 22:24:13
「物好きというのは私が想像していた以上に多くいるものだねぇ」
今日はレースの翌日の休養日。アグネスタキオンは誰にもなくそう呟いて、持っていた紙袋を自室の机に置いた。
その際に響いた「ドスン」という音が示す通り、袋の中には色とりどりの封筒がぎっしりと詰め込まれている。
タキオンはその中の一つを無造作に手に取って、封を開けた。
中には一枚の便箋が入っていて、広げると可愛らしい丸文字がびっしりと並んでいた。どうやら女性が書いたものらしい。
”弥生賞の頃から応援していました。勝った時のあのニヒルな目つきが素敵で……”
タキオンは苦笑いした。これはいわゆるファンレターというものだ。
オグリキャップやトウカイテイオーといったアイドルウマ娘には毎日のように山ほどの手紙が届くが、かつてのタキオンにファンレターというのは縁遠いものだった。
素行不良に長い休養期間───理由はいろいろだろうが、月に数度何通か届く程度だったそれは、近頃急激に数を増やしていた。具体的には、彼女が”プランB”を諦めてレースに復帰した頃から。
”タキオンさんの走りに勇気をもらいました”
”妻や息子も応援しています”
以前ならば大した感慨も持たなかったのだろうが、感情がウマ娘に及ぼす影響を知った後だと存外悪い気がしない。
2、3通ほど目を通したらデジタルにでも頼んで保管しておくつもりだったが、気づけば届いた中の半分ほどを読み終えてしまっていた。
「さて、次は……おや?」
袋に手を突っ込むと、右手が掴んだ感触に違和感があった。
引っ張り出してみると、手に握られていたのは何の変哲もない茶封筒。しかし、それはやけに分厚かった。他の手紙の数倍はある。
学園のチェックを通ったものだけが渡されたから、危険物の類は入っていないはずだ。
「そんなに書くことがあったのかい……?少し恐怖を感じるねえ」
便箋にすれば何枚分だろうか。ファンレターにしては些か愛が重すぎやしないだろうか。
少しの不審とそれを上回る好奇心を胸に、タキオンは封を開けた。 - 55二次元好きの匿名さん22/04/18(月) 22:37:41
「……おや?」
中に入っていた紙を広げると、そこに記されていたのは文字ではなく、おびただしい量の点の群れ。
経験で分かった。これは点字の手紙なのだ。手書きの文字と違って一文に要する文字数が多いからここまで分厚くなったのだろう。
タキオンは顔を顰めた。手紙の主はなんと非常識なのだろうかと。
こちらから送るならともかく、普通のウマ娘は点字など読めるはずがないのだから誰かに頼んでワープロにでもするのが筋というものだろう。
当のタキオンも知識としては持っているが、ソラで読めるほど習熟する前に勉強をやめてしまった。
───さて。この手紙、どうしたものか。
部屋のどこかを探せば点字の本はあるだろうが、それを引っ張り出してまでこの文量を読み進めるのは骨が折れる、
しかし、一目では分からないこの手紙の内容には興味をそそられた。
「ふぅン……」
手間と好奇心を天秤に掛けると───心は僅かに好奇心に傾いた。
結局、本棚の隅に眠っていた本を引っ張り出して五十音表とにらめっこしながら、タキオンはこの不思議な手紙を読み始めた。 - 56二次元好きの匿名さん22/04/19(火) 10:32:10
いいスレだ...
- 57二次元好きの匿名さん22/04/19(火) 21:03:57
保守
- 58二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 08:34:07
このレスは削除されています
- 59二次元好きの匿名さん22/04/20(水) 20:25:30
めっちゃ良かった