【cp閲覧注意】#3_最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった

  • 1練乳グラブジャムン25/08/08(金) 12:25:59

    続きモノになります。
    初めての方は初期スレからご覧いただくとより楽しめるかと存じます。
    諸々の注意書きも初期スレにありますので併せてご確認ください。

    このスレはコメントフリーです。
    是非とも盛り上げていただければ幸いです。

  • 2練乳グラブジャムン25/08/08(金) 12:27:45

    初期スレ

    【cp閲覧注意】最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった#1|あにまん掲示板●注意点1・原作最終話、No.431の後日談です。このため本作は、原作に継続するナンバリングで記載します。(第一話がNo.432、第二話がNo.433、と進みます)・原作コミック最終巻までのネタバレが…bbs.animanch.com

    収録No


    ~導入編~

    ■No.432 相談事

    ■No.433 怖くなってしまうのは

    ■No.434 困ったときは


    ~拡大編~

    ■No.435 それは偽物だろ

    ■No.436 第一回 恋仲発展プロジェクト会議

    ■No.437 まだ足りない

    ■No.438 第二回 恋仲発展プロジェクト会議


    ~準備編~

    ■No.439 喜ぶ顔が好きだから

    ■No.440 silent communication

    ■No.441 麗日お茶子・ドレスアップ

  • 3練乳グラブジャムン25/08/08(金) 12:29:05

    過去スレ#2

    【cp閲覧注意】#2_最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった|あにまん掲示板続き物です。初めての方は初期スレからご覧いただくことを推奨いたします。諸々の注意書きも初期スレにありますので、併せてご確認ください。初期スレhttps://bbs.animanch.com/board…bbs.animanch.com

    収録No


    ~準備編~

    ■No.441 麗日お茶子・ドレスアップ(続き)

    ■No.442 realized

    ■No.443 緑谷出久・ドレスアップ

    ■No.444 イメージトレーニング

    ■No.445 第三回 恋仲発展プロジェクト会議

    ■No.446 星空のひとつ

    ■No.447 全力の包囲網

    ■No.448 麗日お茶子・スタイルアップ

  • 4練乳グラブジャムン25/08/08(金) 13:11:45

    ■No.449 麗日お茶子・メイクアップ

    ※SIDE 麗日


    軽く食事を済ませ、私と百ちゃんは、美容室に向かうタクシーの中にいた。
    拳藤さんとはエステのお店で別れていて、今は百ちゃんと二人だ。

    「でね、ビフォア、アフターで数値で出されたんやけど。本当に細くなってたんよ」
    エステの効果はすごかった。
    終わって鏡の前に立った時に、一瞬自分じゃないと錯覚するほどだった。
    数値で見ても明らかにスタイルが変わっていた。
    特にバストサイズが若干上がっていたのには、目が飛び出るんじゃないかというほど驚いた。
    エステが終わった後、アンケートは死ぬほど詳細に、べた褒めして書いた。

  • 5練乳グラブジャムン25/08/08(金) 15:13:35

    「そういうものですから。あのお二人は、特に結果を出すことに特化しておりますわ。私から見ても、麗日さん、綺麗になっておりますわよ」
    「はは、ありがと……なんか、すっごい気持ちよかったんだけど……物凄く疲れた」
    ただ横になっていただけのはずだが、一日中戦い続けた後かのような、すごい倦怠感が全身に満ちていた。

    「一気に全部やったので、身体への負担も大きいでしょう。初めてなら特に負担は大きいかと。もちろん、揉み返しなどは最小限にする腕はお持ちですが。一晩ぐっすり休めば、リフレッシュされるかと」
    「そういうもんなんか……」
    これが本当に仕事なのか、という混乱が、疲れに拍車をかけている気がする。

  • 6練乳グラブジャムン25/08/08(金) 15:47:56

    タクシーが止まり、車を降りる。目の前にあるのは美容室だ。
    「……ねえ百ちゃん? ……本当に、こんな仕事あるの? 美容師の練習台って……」
    今日何度目かの疑問が口を突いて出た。

    「またですの? ちゃんと正式な手続きでお仕事を依頼したではありませんか」
    「それはそうなんやけど……明日旅行やろ? エステと美容院って、あまりにタイミングが良すぎるというか……」
    「そう言われましても、それは麗日さんのご都合でしょう? 金曜日しか空いていないと仰ったのは、あなたではありませんか」
    「そうなんやけど……でも本当に、なんで金曜日の仕事だけ全部リスケになったんやろ……」
    「不思議な偶然もあるものですわねぇ」
    「こんな偶然あるんやろか……」

    まるで魔法でもかけられているかのようだ。
    不思議な事ばかり起こっているのに、納得するしかない状況が完璧に整えられている。
    世界が意志をもって動いているかのような錯覚。
    現実に対しての理解が追い付かず、頭を抱えながら店に入った。

  • 7二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 16:29:38

    好き過ぎる

  • 8二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 16:53:14

    かわいいが過ぎる

  • 9二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 16:54:52

    緑谷の方もなんかあるかな

  • 10練乳グラブジャムン25/08/08(金) 17:03:05

    美容師さんが現れ、自己紹介をされる。
    二人ともマスクをしていて、素顔は伺えないが、優しそうな雰囲気があった。
    「クリエティ様、ウラビティ様。今回はご協力ありがとうございます。本日は、私、かみきr、んっ、ん゛ん゛っ!」
    喉が詰まったのか、咳払いが入った。

    「……失礼しました。私、カミキ、と。隣の鈴木が、練習として、一連のサービスをさせていただきます。私がウラビティ様をご担当し、鈴木が、クリエティ様のご担当となります。よろしくお願いいたします」

    席につき、背後にカミキさんが立った。鏡越しに会話が始まる。
    「ではウラビティ様。本日は、どんな感じにしましょうか?」
    「え、希望とか聞いてくれるんですか?」
    練習台だと聞いていたから、好き勝手に弄られるのかと思っていた。

    「勿論です。お客様のご要望をお聞きし、ご満足いただけるよう配慮することも、練習のうちで御座いますので」

  • 11二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 17:12:07

    苗字聞いただけでお茶子もしってるぐらい有名な人なのか…ヤベエな

    保守&応援

  • 12練乳グラブジャムン25/08/08(金) 17:46:41

    「隣から失礼します、私の方からお願いさせていただいてもよろしいでしょうか。ウラビティさんの方は、カラーとスタイルはこのままで大丈夫ですので、カットはシルエットを整えるようにしていただけますか。髪が痛んでいると思いますので、スキャルプケアとトリートメントを重点的にお願いします。とにかく、自然で綺麗な髪にしていただければ。こちらから気になっている点は以上です。プロの視点で何か気になるところがあれば、あわせてお願いします。麗日さん、それでいいですよね?」
    「え、は、はい……」
    考える間も無く、百ちゃんに全部言われた。
    まあ、いきなり大きくスタイル変えられても困るから、百ちゃんの指示通りでいいけど……

    「なんか百ちゃん、今の全部、前もって考えてなかった?」
    「そうですわね、タクシーで見ていた時に。お疲れのようでしたし、申し上げたのですが……お邪魔だったでしょうか?」
    「いや、全然ええんやけど……」
    何故だろうか、不自然なくらい準備がいいように思えてしまう。
    でも、昔から百ちゃんは、きちっとするのが上手かったし……

  • 13練乳グラブジャムン25/08/08(金) 18:32:23

    「畏まりました。そうですね……お見受けしたところ、ウラビティ様は骨格が丸いので、いわゆる丸顔にあたります。いまの髪型はフェイスラインに沿ってサイドが流れており、これによって小顔効果が出ております。仰られるとおり、大きく変える必要は御座いません。とてもお似合いのヘアスタイルだと思います」
    「あ、そうなんですか」
    昔からこの髪型だったし、あまり意識したことはなかった。

    「ではカットは軽く、整えるようにさせていただきますね。トリートメントですが、普段お使いのものとかありますか?」
    「え? あ、えっと……普段、やってなくって。たまに美容院に行ったときにお願いするくらいで」
    「では、私の方でお選びしてよろしいでしょうか」
    「はい。お願いします」
    トリートメントなんて、正直何も分からない。

    「うん、そうですね……確かにクリエティ様のご要望のとおり、触って見たところ、全体的に傷んでいる感じです。ダメージケアを重点的に行うのが良いと思いますが、いかがでしょう」
    「あ、はあ……それでお願いします」
    傷んでいるのは何となく腑に落ちた。
    普通のOLさん等に比べたら、ヒーローをやっている自分の髪が痛んでいるのは、至極当然と思える。

  • 14二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 18:40:45

    自分を勘定に入れてない奴らの集まりだしなヒーローは

    作中で家庭がうまく行ってそうなのロックロックさんぐらいだったし…(他にもいるだろうけど)

  • 15練乳グラブジャムン25/08/08(金) 19:42:29

    「カラーはお使いですか?」
    「いえ、とくに染めてはいないんですけど」
    「では保護の効果から、トリートメント後にグロスカラーはいかがでしょうか」
    「えっと……すみません、グロスカラーってなんでしょうか?」
    染めたことが無いからカラーなんてよく分からない。

    「グロスカラーというのは、簡単にいえば、色を加えずにツヤ感や質感を向上させるものになります。トリートメントで髪の内部をしっかり補修させていただいた後に、グロスカラーを使わせていただくと良いかと。今の髪色をそのまま活かしながら、くすみを抑えて透明感を出すことで、より健康的で美しい髪に見えますよ。傷みやすいお仕事の方の場合、髪のダメージを抑える効果も期待できます」
    「あ、そうなんですか……じゃあ、それもお願いします」
    やったことが無いから分からないが、髪が痛まないようになるのは嬉しい。

  • 16練乳グラブジャムン25/08/08(金) 20:20:52

    「その他にご要望以外ですと……眉カットはいかがでしょう。今よりほんの少し、横に流れるような感じにするのがよろしいかと」
    「あ、お願いします……私ちょっと眉太くて。狸顔というか、なんというか……細くした方がいいんだろうな、って……」
    「ご安心ください。眉は、決して細ければ良いというものではありません。ある程度の太さがあった方が、表情が伝わりやすく、魅力的に感じやすいという論文も御座います」
    実は少しコンプレックスだったのだが、即座に見透かされたようだ。

    「人の顔には、その人に合った魅力の出し方というものが、必ずあります。少々整えさせていただくだけで、無為に細くするつもりはありません。本人が気にしている所は、実は他人から見るとチャームポイントだったりするのです。ウラビティ様の魅力を、しっかり引き出せるよう、微力を尽くさせていただきます」
    「はい……あの、ありがとうございます」
    何故か褒められたような気がした。
    私の魅力か……よく分からないけど、そんなものがあるなら、是非引き出してもらいたい。

  • 17練乳グラブジャムン25/08/08(金) 20:58:48

    「承知いたしました。では、本日お使いする物についてですが――」

    あれを使って、これを使って、どういう成分で、どういう効果で……と説明してくれるが、正直何も分からない。
    オススメに対して、はい、はい、とただ返事を返すことしか出来なかった。

    エステの疲れもあるのだろう、倦怠感でぼーっとしている間に施術が進む。
    髪を洗われ、乾かしてカットし、眉を整え、フェイスマッサージが入り、トリートメントに移る。
    隣で百ちゃんも同じように受けている。

    ……やっぱり、こんな仕事あるわけないと思うのは、私の考え過ぎなんだろうか。

  • 18練乳グラブジャムン25/08/08(金) 21:21:09

    髪を櫛で梳かされながら、髪に薬液が馴染んでいく感覚に身をゆだねていた。
    ぼーっとした頭に、ふと疑問がよぎる。

    あれ? この美容師さん、どこかで見たことがあるような……?

    「あの……ちょっと気になったんですけど」
    「どうされましたか?」
    「えっと……美容師さん、カミキさん、でしたっけ。どこかで見たことあるな、って思って……テレビとか雑誌とか、出られたことありますか?」
    「……たまに間違われます。著名な美容師に似ていると。光栄な事です」
    ということは、違う人か。
    まあ考えてみれば、メディアに出るほど有名な人が、こんな所で練習台を求めているはずもない。

  • 19二次元好きの匿名さん25/08/08(金) 22:34:06

    やっぱお茶子も知ってるレベルか…

    これ出久sideはどうなってんだろ

  • 20練乳グラブジャムン25/08/08(金) 22:36:13

    「ご安心ください、腕には自信が御座います。著名な美容師に勝るとも劣らないと自負しております」
    にっこり微笑み、髪を梳いてくれる。

    腕に自信があるというのは本当なのだろう、物凄く気持ちがいい。
    カットの時もそうだったが、髪を引っ張られたり、絡まったりするような抵抗感を全く感じない。
    常に優しく丁寧に繊細に。一本一本に至るまで、綺麗に髪が整えられていく心地よさ。
    女性として至福のひと時かもしれない。
    自然に瞼が落ちていき、心地いい溜息が漏れる。


    「――以上で終了です。ウラビティ様、お疲れ様でした」
    「はぇ……?」
    気が付けば、サービスは全て終わっていた。

    「あ……す、すみません。私、寝ちゃって……」
    眼をこすって、眠気を飛ばす。
    まずい、お仕事だというのに意識が飛んでいた。
    カラーとか、いつやってもらったかも覚えていない。

  • 21練乳グラブジャムン25/08/09(土) 05:28:03

    「いえいえ。リラックスしていただけたようで、安心いたしました。仕上がりの方ですが、いかがでしょうか?」
    「へ……ぅぇぇええええっ!?」

    顔を上げ、鏡に写る自分を見て戦慄した。驚くなんてレベルじゃない。
    毎日の仕事で痛んでいたとは思えないほど、驚くほどしっとり、滑らかで健康的な髪になっている。

    枝毛や癖毛など微塵も無く、前髪や毛先に至るまで、完璧に整えられていた。
    綺麗に均一に纏まって、軽くしなやか、自然に馴染む。
    首を左右に回してみるが、どこにもおかしな箇所が見当たらない。
    動きに合わせて自然に広がり、止まればナチュラルに纏まる。
    それでいてペタンとせず、ふわりと空気を含んだボリュームもあり、どの角度から見ても自然で立体的。

    自分の手で少し梳いてみる。
    しっかり乾いているのに、驚くほどしっとりして、きめ細かい手触り。
    水のようにサラサラと流れて、意志を持ったかのように美しく纏まる。

  • 22練乳グラブジャムン25/08/09(土) 06:47:14

    ……なんなの、これ。

    自分の頭に付いているのに、自分の髪だとは信じられない。
    普段通っている美容院でやってもらった時と、明らかに全然違う。
    髪だけじゃない。眉も上手く整えられて、髪と顔との、全体のバランスが非常に良くなっている。
    顔のマッサージもされていたが、フェイスラインも整えられている。エステでも良くなったが、更にシュッとしていた。

    「……お気に召していただけたでしょうか?」
    「へっ!? あ……はい。すっごい……すっごく良くなってます」
    「ありがとうございます」
    「……あの、今回のお仕事って……練習台、ですよね? その……練習、いるんですか? えっと……え? 練習とか……絶対いらないですよね、これ……」
    本心だ。どう考えたって、この人に練習台なんて絶対いらない。

    こんな上手い美容師さん、見たことが無い。とんでもない技術だ。
    一流も一流、超一流の技術ではないだろうか。日本一上手いんじゃないかとすら思う。
    この人が近所に店を構えてくれたのなら絶対に通いたい。
    周辺の店舗の倍、いや三倍の値段であっても、たちまち予約も取れない人気店になると思う。

    「お褒めにあずかり光栄です。私も良い練習をさせていただきました」
    鏡の中の私は、驚愕に口をあんぐりと開けて、わけの分からない顔をしているのに対し。
    カミキさんは、とても嬉しそうに、にっこりと笑った。

  • 23練乳グラブジャムン25/08/09(土) 09:57:03

    それからアンケートを書いて店を後にした。
    アンケートは自分の語彙力の限界まで褒めまくってビッシリ書いた。
    カミキさんがどこに店を構えるつもりか尋ねたが、海外を転々とするのだと聞いたときには物凄いショックだった。
    近くにあってほしかった。値段なんか無視して絶対に毎月通うのに。


    移動するタクシーの中で、私は百ちゃんにひたすら謝り続けていた。
    「ごめんね百ちゃん、本当にごめんね。百ちゃんがカミキさんにやってもらえれば……」
    「まだ気にしてらっしゃるんですか?」
    「だって、百ちゃんの所に来たお仕事なんに……」
    隣で百ちゃんも練習台になっていたが、終わった後に愕然とした。
    明らかに私と比べて、仕上がりの完成度に差があったからだ。

    「麗日さんが気に病むことではありませんわ、お仕事なのですから。別に変な髪型にされたわけでもありませんし、普通の美容院に行ったのと変わりませんわ」
    「そうは言ったって、差があり過ぎるんやもん……申し訳なさすぎるよ……」
    百ちゃんの言うとおり、別に鈴木さんだって下手というワケではなかった。
    ただ、カミキさんの腕が異常過ぎた。上手いというレベルを超えている。それほどの技術力だった。
    練習が必要なのは鈴木さんだけだろう、素人の私にだって分かる。
    あれではまるで、超一流の師匠が手本を見せ、その隣で新人の弟子が学んでいたかのようだ。

  • 24練乳グラブジャムン25/08/09(土) 10:40:41

    「さ、着きましたわ」
    今日最後の仕事。
    ネイルサロンの、ヒーロー業を対象にしたモニタリングだ。

    「……百ちゃん。ごめん。本当に、本当に何度もごめんね……これ、本当にお仕事だよね?」
    「はい、そうですが?」
    「そうだよね……そうなんだよね……いやでも、さっきの人、カミキさん? ヤバいってあれ……絶対練習なんていらんよ? 美容師さんだけじゃないよ、エステも凄かったよ……双子で息ピッタリで……モニターとか練習台とか、本当にいる? 絶対いらんって……あの人達は、事業にいったいなんの不安があるんや?」

    頼むから嘘だと言ってほしい。
    こんなお仕事があるなんて、どうしても信じられない。
    何か裏で画策してるんじゃないかと思えてならないし、もし何か私のためを思ってのことなら、死ぬ気でお礼をしなければならない。

  • 25練乳グラブジャムン25/08/09(土) 11:16:25

    「麗日さんがお喜びになってくださるのは嬉しいですし、信じられない、という気持ちも分かりますわ。ただ、これだけは断っておきますね」
    百ちゃんが一拍置いた。

    「今日のお仕事は、どれも正式に依頼が発行され、ヒーロー公安委員会で承認され、私のところに回って来た、正真正銘、嘘偽りのない、本物のお仕事ですわ。後で謝礼もちゃんと振り込まれます。どうしても信じられないというのでしたら、依頼した店舗でも、許可した公安でも、警察でも何でも好きに調べて頂いて構いませんわよ?」
    そういって、優しく微笑む百ちゃん。
    私がお仕事だって信じられないせいだろうか……その微笑が、完全犯罪を達成した知能犯のように見えてしまう。

    でも、百ちゃんの言葉通り、本当にお仕事なのだろう。
    用意された書類は全部本物だ。
    エステの身流さん姉妹も、美容師のカミキさんも、依頼を受けてくれてありがとう、という口ぶりだった。

    これが仮に女子会みんなの気遣いで、何らかのトリックを使って行っているのだとしても……じゃあ、どうやったら同じことが実現できるか、と考えると全く分からない。
    店舗に口裏合わせて動いてもらうにしても、そのためのお金はとんでもない金額になる。
    何より公文書偽造なんて絶対に不可能だ。悪戯で自分の事務所が廃業になるようなリスクを取れるはずがない。
    信じられないが、信じるしかない。

  • 26練乳グラブジャムン25/08/09(土) 12:21:24

    「付け加えますと、今日という日が空いていたのは、私ではなく、麗日さんのご都合でしてよ?」
    「うう……そうなんだよね……ごめんね、分かっとるんやけど……どうしても、あまりにも都合がよすぎるというか……ごめんね百ちゃん、疑うなんておかしいって、分かっとるんやけど……ほんと、どうしても信じられなくて……」

    そうなのだ。
    そもそも今日という日を指定したのは私の方だ……今日の仕事が全部リスケになったからだけど。

    もしこれを意図的にやったとしたら?
    百ちゃんやA組の皆が、私のスケジュールをこっそり完璧に把握して、取引先を調べ上げ、全部裏で説き伏せて、仕事の日付を変えさせて……まあ確かに、そこまでやれば可能かもしれない。

    でも、いくら何でも、そこまでするだろうか?
    そもそも何のために?
    そんな途方もない苦労をしてまで、この仕事を私に受けさせて、百ちゃん達に何のメリットが?
    ……そんなメリットどこにも無い。
    女性ヒーローなんて大勢いる。別に私である必要は無い。

  • 27練乳グラブジャムン25/08/09(土) 12:26:02

    考えれば考えるほど混乱する。
    でも、やっぱり偶然だと思うしかない。
    頭を抱えて、必死に納得しようとする……のだが、手に触れるしっとりサラサラの髪が、細くスベスベになった全身の肌が、納得させてくれない。

    たまたま旅行の前日に仕事が全部リスケになっただけ……
    たまたま私の都合が合っただけ……
    たまたま空いた日に舞い込んだ仕事の内容が、エステと美容院とネイルサロンだっただけ……
    たまたまこの仕事の翌日に、デク君のいる旅行が計画されていただけ……

    ……ダメだ。
    私の全身、全ての細胞が、『こんな仕事があるわけない、そんな偶然あるわけない』、と大絶叫している。
    自分の中の常識と、現実に起こっている事に乖離があり過ぎて、混乱が全く収まらない。

  • 28練乳グラブジャムン25/08/09(土) 14:12:09

    百ちゃんに手を引かれて、店舗に入る。
    「クリエティ様、ウラビティ様、お待ちしておりました」
    店に入ると、綺麗な女性が出迎えてくれた。

    ネイルサロンという事もあり、目の前の女性の手先に目がいく。
    とても繊細なアートとデザインの施された、綺麗な爪をしていた。

    「オーナーの二重爪です。今日はモニタリングのお仕事、よろしくお願いいたします」
    「遅くなって申し訳ありません。じゃ、ウラビティさん? お、し、ご、と。よろしくお願いいたしますわ」
    「百ちゃん……二重爪さん……これ、私だけ受けるんですよね……?」
    「はい、ネイルエステ未経験の女性ヒーローという事でお願いしております。クリエティ様は、既に何回か、ネイルをお受けになられていたかと」
    「ええ。ですので私は、チームアップの付き沿いですわ。モニタリングはそちらのウラビティさん一人でお願いいたします」
    あまりに申し訳なさすぎる。
    百ちゃんのところに来たお仕事なのに、美味しいところを全部横取りしているようにしか感じない。
    今度何かで絶対恩返しをしよう。

  • 29練乳グラブジャムン25/08/09(土) 14:26:03

    「承知いたしました。ではウラビティ様、こちらへ」
    促されるまま、店舗の席へ案内される。
    百ちゃんは待合席のあたりに残り、雑誌に視線を落としている。

    「見た感じですが、所々痛んでおられますね。ネイルは普段何かされていらっしゃいますか?」
    机の上で両手を確認されながら、ヒアリングを受ける。
    あまり気にしていなかったが、何処かでぶつけたのだろうか、白く変色している箇所などがあった。
    「いえ、特には何も付けたりしていません。あと、私の個性、指先にあるので……寝るときは手袋付けるんですけど、逆に起きてる時は、仕事中も戦闘中も、ずっと手は出しっぱなしで……」

  • 30練乳グラブジャムン25/08/09(土) 14:38:42

    「なるほど、承知いたしました。では、まず私の個性で、爪の修復をさせていただきますね」
    「個性ですか?」
    「細胞修復です。ネイルの傷を修復して、いったん本来の状態に戻させていただきます」
    「あ、それ助かります。是非お願いします」
    変色してしまったところが治るならありがたい。

    「そのあと、ファイリングで、爪の長さや形を整えさせていただきます。次にキューティクルクリーンといいますが、甘皮処理を行います。それからバッフィング、これは表面を磨き上げる工程になります」
    丁寧に説明してくれるが、正直何が何だか分からない。

    「マニキュアやアート、装飾等は、いかがされますか?」
    「あ、えーと、どうなんでしょう……仕事柄、指先の個性使わなきゃだし……せっかくやってもらっても、どうしてもぶつけたり引っかいたりで、痛めちゃいそうなんですけど……」
    「でしたら、ナチュラルに仕上げましょうか。マニキュアは、ダメージがあった時に悪目立ちする事があるので、クリアのトップコートで保護するのが、ナチュラルで見た目にもケアにも相応しいかと。お仕事等でダメージがあっても、さほど目立ちません」
    「そうですね……じゃあ色は付けなくていいので、それで。すみません、よく分からないので、お任せします」

  • 31練乳グラブジャムン25/08/09(土) 15:17:07

    「承知いたしました。それではいったん、そちらの席に移動していただけますか?」
    ソファのような、リクライニングを示される。
    「あれ、この机でやるんじゃないんですか?」
    「足の爪を先にやらせていただければと。手をやっている間に乾きますし、時間も短くなりますから」
    確かに足は、乾くまで靴下も履けないだろうし、先にやった方が良さそうだ。
    逆に手なら乾かしながら帰ることもできる。

    「足もやってくれるんですか?」
    ネイルというと、てっきり手だけだと思っていた。
    「もちろんです。当店は、両手両足、全てのネイルをケアさせていただきます。足は遠慮したいという事でしたら、手だけでも構いませんが」
    「いえ、じゃあ……せっかくなので、足もお願いします」
    正直いらないような気もしたが、これはお仕事。
    なるべく沢山やってもらった方がモニタリングの責務を果たせそうだ。

  • 32練乳グラブジャムン25/08/09(土) 15:25:55

    ふかふかのソファに座り、靴と靴下を脱いで座る。
    眠るように倒されると、足の洗浄が始まった。足の指の間まで、綺麗にされていく。
    施術前に必要なんだろうか。
    何か揉まれている。ところどころ痛い。
    「痛いところありませんか?」
    「ちょっと痛いくらい……いや、全然大丈夫なんですけど……あれ? なんでマッサージ?」
    「血行促進を兼ねております。ネイルはその周辺環境も合わせてケアすべき、と考えております」
    そんなもんなんだろうか。
    ネイルなんてやったことが無いから分からない。
    それにマッサージなら、さっきエステを受けてきたばっかりだけど……と言いかけてやめた。
    気持ちいい事には変わりない。


    施術を受け、足の爪を手入れされながら、ぼーっとしていた。
    エステを受け、髪を整え、いま爪の先まで綺麗に整えられている。

  • 33二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 16:20:07

    ……本当に、こんなお仕事があるんだろうか。

    世界のすべてが、これは仕事だと訴えてくる。
    でも私の中の常識は、こんなバカみたいな話があるわけないと叫んでいる。

    身体中に倦怠感が漂い、頭は混乱でグルグルしている。

    足のネイルが終わると、そのまま両脇に、キャスターの付いた机がやってきた。
    キャスターが固定され、手を載せる。
    手を洗い、揉みほぐされ、指の爪が、一枚一枚、丁寧に修復され、磨き上げられていく。

    小さな刷毛で、優しく爪が塗られる。
    透明なトップコート。
    艶が出て光を反射して、とても綺麗だ。

  • 34二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 16:22:55

    ……こんなお仕事、あるのかなあ。

    目の前で高度なマジックを見せられて、これは魔法ですと言われて、信じるしかなくなっているような。
    絶対に違うと分かっているのにタネが分からない時の、訳の分からない感覚。

    店内には、落ち着いた、リラックスする音楽が流れている。
    これはお仕事。モニタリングの勤めを果たさなければならない。

    だから、起きていなければいけないのに。

    いつしか、私の意識は、心地よい微睡みの中に落ちていった。

  • 35練乳グラブジャムン25/08/09(土) 18:10:13

    ※SIDE 飯田


    「皆さん、遅くなりました」
    車が止まり、八百万君が姿を見せる。

    夜、河原の空き地。
    そこに、僕ら元A組のメンバーが集合していた。
    八百万君が来たことで、緑谷君と麗日君を除き、元A組全員が集まっている状態だ。

    「ヤオモモ、お疲れ様! お茶子ちゃんどう、綺麗になった?」
    「バッチリですわ。髪切さんの手配、本当に助かりました。素晴らしい仕事をしていただきましたわ」
    八百万君と葉隠君が、ハイタッチを交わしている。

    「お茶子、気付いてなかった?」
    「しきりに疑問を感じている様子でしたが、気付きようがありません。全て正規の手続きを踏んでいるのですから」
    「まあ実際、本当に仕事を作って、本当に書類回して……何もかも全部本物だもんねぇ」
    「嘘は一つもないもんね。そこに統一された大勢の意思があるだけで」
    「ケロ。いま、お茶子ちゃんは?」
    「だいぶお疲れの様子でしたが、日頃の疲れが表面に出ただけだと思われます。しっかりとご自宅に送り届けましたので、今頃はグッスリお休みいただいているかと。明日には回復されているはずですわ」

  • 36練乳グラブジャムン25/08/09(土) 18:18:13

    「……なあ、女子達は、何したの?」
    「ふっふっふ、企業秘密と言っておこう!」
    「明日の麗日さんを楽しみにしていてくださいまし」
    尾白君が聞いてくれたが、僕も同じ気持ちだ。
    いったい何をしたのか、疑問は晴れない。

    「そういえば、皆さん、こちらの準備は?」
    「先ほど、こちらも全ての準備が完了したところだ。八百万君の到着を待って、移動する予定だった」
    「あとは明日を待つだけだよ」
    「まあ、それではもう少し急いだ方が良かったでしょうか」
    「そんなに待ってたワケでもないし、気にすんな」
    「駄弁ってたら来た、って感じだよ」
    「ヤオモモ、十分早かったよ」

    「一応明日のために、携帯のモバイルバッテリーなんかも持ってきたぞ。車でも充電可能だけど」
    「砂藤、準備万全だな」
    「でもよく考えたら、上鳴がいるんだよな。だから、こんな物いらなかったかもしれねえけど」
    「あって困ること無いよ。またアホになるかもしれないし」
    「なあ耳郎……俺最近そんなことねえぞ?」
    「とりあえず皆、一旦解散だ。ここでこうしていても仕方ない、戻ろう」

    号令をかけ、皆が自分の車に戻っていく。

  • 37練乳グラブジャムン25/08/09(土) 18:36:00

    ふと気になって、空に視線を向けた。
    遠くの空まで、雲は無い。
    明日はいい天気になりそうだ。

    ……僕らには、大したことは出来ないかもしれない。
    それでも最大限に考え、頑張って、大勢の人の協力を得て、今日まで準備してきた。


    夜空を見上げながら、親友の顔を思い浮かべる。

    緑谷君。麗日君。
    待たせたな。
    君たちは知る由もないだろうが、いま、全ての準備は整った。

    そう、ここまではただの準備に過ぎない。
    ここからが本番だ。いよいよ始まる。

    日の出とともに、君たちにとって最高の舞台が、幕を上げるだろう。


    ―――― to be continued

  • 38練乳グラブジャムン25/08/09(土) 19:20:05

    なんか>>33>>34が名前消えてますが、きちんと本編ですのでご安心ください。


    コメントくれてる人、いつもありがとうございます。


    最後に飯田君がネタバレしてるのでぶっちゃけますが、これにて準備編が終了し、舞台編が始まります。ここからが書きたかった部分になりますので、どうか引き続きお付き合いください。

  • 39二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 19:33:50

    ヒャッホウい!遂にだぜ!

  • 40練乳グラブジャムン25/08/09(土) 20:59:14

    ■No.450 Pumpkin carriage

    ※SIDE 麗日


    いつもより早く目が覚めていた。
    昨日、初めてエステを受けたせいか、その後も色々やったせいか。
    帰ってすぐにグッスリだった。

    今日の寝起きはとても良かった。
    ここのところ、変な悪夢に魘される事もあったけど、今日はそれもない。
    やっぱり疲れが溜まっていたんだろうか。
    昨日、仕事が名目とはいえ、実際は丸一日リフレッシュさせてもらったのと同じだ。
    今は体調も気分もいい、絶好調だ。

    百ちゃんにはどれだけ感謝しても足りない。
    謝礼金とか、こっちが払うべきじゃないのか。
    今度何かでよくよく御礼をしないと。

  • 41練乳グラブジャムン25/08/09(土) 21:14:39

    アラームはセットしていたけど、早く目が覚めたのはありがたい。
    目的地の下呂温泉までは、静岡駅から三時間もかかる。
    新幹線も朝早くのものに乗らなければいけない。
    早めに準備を始めよう。

    冷蔵庫の残り物で、簡単に食事を済ませる。
    現地で美味しいものが待っているだろうし、到着はお昼前くらい。
    今はお腹が膨れれば何でもいいだろう。

    シャワーを浴びて、身支度を整える。

    みんなに買ってもらった服。
    毎晩写真を撮って、女子会のグループLINKで決めたコーデ。
    いつも適当に着ているものに比べて、明るくて、華やかな感じがする。
    お出かけの服というより、なんだか気合の入ったデート着にしか見えないけど……

    でも、せっかく皆で決めたものだ。
    デク君に少しでも綺麗に見てもらえるなら、それが一番いい。
    今更変える理由も無いし、袖を通す。

  • 42二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 21:29:15

    うひょー!遂に当日…めちゃくちゃ楽しみだ…!

  • 43二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 21:45:02

    鏡の前で、旅行のための、最後の準備。

    (可愛く見られるためだよ!)

    みんなに教えてもらった、メイクの方法。
    わざわざ丁寧に紙に書いてくれて、やり方のイラストまで付けてくれている。

    クッションファンデーションでベースを作って。
    ハイライトで立体感を出して。
    チークで頬上に血色をよくして。
    アイラインを少しだけ長めに。
    マスカラでまつ毛を強調して。
    ピンクとブラウンでアイシャドウ。
    艶のある、ピンクのリップを引く。

    派手過ぎないように。
    ナチュラルで清潔感があるように。

  • 44二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 21:50:18

    ……これでいいのかな。
    上手く出来てるのかな。
    ちゃんと綺麗になれてるかな。

    慣れない事をしている自覚はある。
    いつもの簡単お手軽メイクで、気楽に出かけたくなる。
    それでも、たまには、皆が教えてくれたメイクを頑張ってみようという気になっていた。
    昨日、あんなに綺麗にしてもらったわけだし……服も違うし。

    今日は皆に会う。
    その中にはデク君もいる。
    じゃあ、ちょっとでも綺麗に見てもらいたい。

    自分では良くなっているような気がするけど……客観的に大丈夫か、よく分からない。

    デク君は、こんな私を見て、どう思うだろう。

  • 45二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 21:55:01

    ……褒めてくれたら嬉しいな。

    さらっと褒めてくれる時もあれば、あんまりそういうことを言わない時もある気がする。
    今日はどっちだろう。

    香水は、百ちゃんにもらった中で選んで、爽やかな柑橘系が好みだった。
    つけ過ぎは絶対にダメ。足りないくらいがちょうどいい。
    数滴だけ手に取って、首周りに馴染ませる。

    最後に、イヤリングをつけて。
    普段なら絶対に身につけない装飾品。
    いらないかもと思ったけど、みんなからは「絶対つけて」って言われていたし。

  • 46練乳グラブジャムン25/08/09(土) 21:56:53

    準備が終わったところで、鏡に映る自分を確認する。

    普段とは違うように思う。
    子供っぽさが減って、なんだか、女性らしさが増したような。
    いつもより、少しだけ、自信が持てる。

    この私なら……デク君にも、少しは意識してもらえるかな?

    いや、でも、過度な期待はしないでおこう。
    皆と遊ぶ旅行なんだ。
    デートに行くわけじゃないんだから……

  • 47二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 21:58:06

    デートだよ!

  • 48練乳グラブジャムン25/08/09(土) 22:03:08

    ヒーローコスチュームはメンテナンス中で、今回は持っていけない。
    急遽発目さんから連絡が来て、木曜日に予備まで全て回収されていた。
    オフとはいえ、コスチュームを持たないと少し不安だが、仕方ない。

    用意していたキャリーケースと、細かい手荷物の入ったバッグを持って、家を後にする。
    このバッグもみんなに買ってもらって、コーデに合わせて選んだものだった。
    少し小さい気もするが、小ぶりで女性らしさが感じられ、服にもよく合っていた。

  • 49練乳グラブジャムン25/08/09(土) 22:07:50

    駅に着くと、こんな朝早くから、パトロールをしているヒーローが目に付いた。
    みんな頑張ってお仕事をしている。
    同業者として、コスチュームも持たずに遊びに行く自分が、少しだけ申し訳なくなった。

    改札をくぐり、新幹線のホームに向かう。
    ホームにはキャリーケースを持つ家族連れや旅行客のような人の他にも、仕事だろうか、スーツを着た人も大勢いた。

    厳しい目つきで周囲を伺っていた人がいたけど、どうしたんだろう。仕事仲間が遅れている、とかかな。
    土曜日でも、こんな朝早くから仕事をしている人はいるものだと実感する。

  • 50練乳グラブジャムン25/08/09(土) 22:11:51

    新幹線の到着を待ちながら、今日の旅行に想いを馳せる。

    行き先は、岐阜県の下呂温泉。
    日本三大名泉のひとつだという。
    今までの人生で、一度も行ったことのない場所だ。

    最初は全員で集まる予定で立てた計画。
    けれど、どうしても皆、都合があったり、仕事が入ってしまったりして。
    参加できる人は、どんどん減ってしまっていた。

    残念だけれど、仕方ない。
    前回の祝賀会のように、みんな揃う事の方が珍しい。
    ヒーローとは、そういう職業だ。
    祝賀会だって、結局途中で出動になったし。

  • 51練乳グラブジャムン25/08/09(土) 22:17:07

    それでも。
    デク君はキャンセルしてない。だから今日、きっと来てくれる。
    その一事だけで、私が向かうには、十分な理由になる。

    あの祝賀会の二次会以降、ぱったり会う機会も減ってしまっていた。
    雄英からは仕事の連絡も無かったし、ヒーロー活動中はタイミングが合わず一緒になる事も無かった。
    いままで仕事ではよく会っていたのに、不思議なくらい、顔を合わせる機会が無かった。

    今日、数か月ぶりに、デク君に逢える。
    期待と不安が、胸に渦巻く。

    大丈夫かな。
    ちゃんとお喋りできるかな。
    いや、きっと大丈夫。

  • 52練乳グラブジャムン25/08/09(土) 22:26:35

    アナウンスが流れ、新幹線がホームに滑り込んでくる。
    これに乗れば、楽しい旅行の始まりだ。

    新幹線の窓ガラスに、薄っすらと自分の姿が映っている。

    みんなに買ってもらって、選んだ服。
    エステで整えてもらったスタイル。
    サラサラにしてもらった髪。
    整えてもらったネイル。
    一所懸命に頑張ったメイク。

    いつもと違って見える。
    率直にいって、とても綺麗になっていた。

    ……これ、本当に私なのかな。
    なんだか、魔法でもかけられたみたい。

  • 53練乳グラブジャムン25/08/09(土) 22:30:16

    普段より着飾った私の前で。
    普段は乗る事の無い、新幹線の扉が開いた。


    まだ人生で一度も行ったことのない場所への招待。
    そこで、デク君が待っている。

    そう思うと、なんだか楽しみで。
    ちょっとだけ、胸が高鳴って。

    なんとなく。
    せっかくだし。

    カボチャの馬車に乗るような気持ちで、その一歩を進めた。


    ―――― to be continued

  • 54二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 22:32:52

    うぉおおお!イケぇええええ!!!イケぇえええ

  • 55練乳グラブジャムン25/08/09(土) 22:44:31

    >>43

    >>44

    >>45

    何故かまた名前消えてましたが、こちらも本編ですのでご安心ください。


    >>47

    一番ほしいツッコミをありがとう!

    基本この二人はツッコミ不在で進むのでよろしくお願いします

  • 56練乳グラブジャムン25/08/09(土) 23:14:50

    ■No.451 絶妙なタイミング

    ※SIDE 緑谷


    下呂駅の改札をくぐり、周囲を見渡す。
    見知ったクラスメイトの姿はなく、携帯を確認したが、まだ到着の連絡は来ていない。
    どうやら、僕が最初に到着したようだ。

    駅を出ると、右手に大きく『歓迎 下呂温泉』と書かれた観光案内所が目に留まった。
    初めて見る景色に、非日常にやってきたという事実を実感する。

  • 57二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 23:15:57

    うぉおおおおおお!緑谷視点Kitaaaaaaaa!!!!!

  • 58練乳グラブジャムン25/08/09(土) 23:16:42

    駅前に停まっていた、宿泊先の宿名が書かれたマイクロバスを見つけた。
    そのまま宿に載せていってもらうことも、大きな荷物だけ預かってもらうことも出来ると、事前に連絡をもらっていた。

    最初はみんなと合流して街を散策する予定だ。
    キャリーケースを預け、番号札を受け取る。身軽になって動けるので有難い。
    車内には発車を待っている人はおらず、車の奥には、他にもキャリーケースが沢山あった。
    おそらく他の宿泊客のものだろう、みんな考えることは一緒なようだ。

    お昼過ぎであれば、そのまま乗って宿に行く人も多いと、荷物を預けたときに運転手の人が話していた。
    街を散策して疲れたなら、帰りは乗らせてもらってもいいかもしれない。

  • 59練乳グラブジャムン25/08/09(土) 23:20:16

    駅前のベンチに腰掛ける。
    とりあえず到着し、駅前にいることを、グループLINKに報告する。

    手元にあるのは手荷物ひとつ。
    昨日の晩、富山のホテルで、アーマーは発目さんに回収されていた。
    メンテナンスのためとはいえ、わざわざ富山まで来てくれたのには頭が下がった。

    こんな風に皆と遊ぶは久しぶり、というか旅行なんて初めてのことだ。今から心躍る。
    幸いなことに、今日まで自分の予定を空けておくことができた。
    急な予定が入りそうにもなったが、無事に今日を迎えられた。

  • 60練乳グラブジャムン25/08/09(土) 23:24:23

    クラスメイトの多くは来れなくなってしまったが、それも仕方ない。
    とにかく今日は七人は集まれるんだ。

    今日参加する人の、その中の一人の顔が浮かぶ。

    麗日さん……
    あの同窓会以来、まだ顔を合わせる機会には恵まれていなかった。
    今日また逢えると思うと、それだけで胸の内が温かくなり、少しソワソワしてしまう。

    山の谷間に吹く風が心地よい。
    その風に身を委ねて心を落ち着ける。
    こんなのんびりした時間も楽しいものだと思う。

  • 61練乳グラブジャムン25/08/09(土) 23:26:08

    周囲の景色を楽しみつつ、風を浴びてリラックスしていると、聞きなれた声が耳に届いた。


    「デクくーん」

    つい三ヶ月前に祝賀会で会った声。
    二次会で、二人っきりで話した、忘れるはずもない、よく覚えている声。
    一番逢いたかった、特別な人の声。

    麗日さん。
    立ち上がり、その名を呼ぼうと、声のした方に顔を向けて、





    喉の奥から、声が消し飛んだ。

  • 62二次元好きの匿名さん25/08/09(土) 23:34:05

    ウホホホ、見惚れちまったかナードくん?

  • 63練乳グラブジャムン25/08/09(土) 23:57:24

    とんでもなく綺麗な女性が手を振っている。

    よく知った麗日さんの声だった。
    あの髪型は麗日さんだ。
    背の高さも麗日さんだ。
    あの特徴的な指先は、間違いなく麗日さんのものだ。

    だが、おかしい。
    歩いてくるあの女性は、間違いなく麗日さんだと、いくつもの特徴から判断できる。
    にも拘らず、自分がよく覚えている麗日さんと、今、歩いてくる女性の認識が、一致しない。
    見覚えがあるのに見覚えが無い。
    記憶の中にある映像と、目の前の光景の差に、頭がバグっている。

  • 64練乳グラブジャムン25/08/09(土) 23:58:50

    肩と鎖骨が覗く、白い清楚さを感じさせる服。
    風に揺れる、薄桃色の長いスカートと、艶やかな髪。
    花柄のメッシュが編まれた靴。
    モデルさんのように細い、腕や腰のライン。
    白に近いベージュの、小さな肩掛けのバッグ。

    あれは誰だ……ヴィランが化けたんじゃないか?
    いや絶対に違う。ヴィランじゃない。
    仮にコピー系のような個性を持ったヴィランだったとして、麗日さんと同じ、瓜二つの姿になることは出来るだろう。
    でも、どんなに精巧にやったって、コピーは本人以上になれない。
    『麗日さんより綺麗で可愛い麗日さん』になんて、絶対になれない。

    ……じゃあこれは誰だ?
    麗日さんなのに、麗日さんじゃない。
    日本語がおかしい。でもそう表現するしかない。

  • 65練乳グラブジャムン25/08/10(日) 00:00:09

    「……デク君。えっと、久しぶりやね」
    目の前に来た女性が、少し照れくさそうな笑顔で、僕の名を呼ぶ。

    「う……ん。麗日さん……? 久しぶり……」
    やっとの思いで声を絞り出す。
    心臓がおかしな動きをしている。
    身体がガチガチに固まって、関節の動きがおかしくなっていく感覚。

    なんだこれ、自分は何をされている? 突発性の病気か? 何らかの個性攻撃か?


    「デク君?」
    間違いなく麗日さんだ。
    でも、前に会った時とはまるで違う。

    こんな、モデルさんみたいにサラッサラの髪をしていたっけ?
    そもそも顔全体が可愛くなってない? でもどうやって?
    なんか痩せた? 細くなってない?
    いやでも、むしろ出るところは出て、より大きくなっているような? そんなことある?
    肌が白くなった? 陽の光のせい? 服が違うからそう見える?
    瞳がぱっちりして、唇とかぷっくりしてるし、これお化粧?


    なんだこれ、どうなってる、何が起きてる。
    自分の記憶と、目の前の現実に、違いがありすぎる。
    何があったらこんな事が起こるんだ?

    自分の頭がおかしくなったんじゃないのか?
    脳のどこかに血栓でもできて、視覚障害が起こっているんじゃないのか?
    このままぶっ倒れるんじゃないか?

  • 66練乳グラブジャムン25/08/10(日) 00:02:43

    「……どうしたの?」
    「へ?」
    「だって、ずっと黙ってるから」

    こてん、と麗日さんが首をかしげる。

    首の動きにあわせて、艶やかな髪が、さらりと揺れた。
    髪の隙間から耳が覗き、つけたイヤリングが陽光をキラリと反射する。
    ふわりと漂う、甘酸っぱい香り。
    僕の顔を映す瞳、滑らかな唇、ぱちくりと上下する瞼。

    たったそれだけの仕草に、心臓が殴られたように跳ねた。
    息をのむほどの美しさ。

    風に揺れる髪をかき上げる、か細い手。
    その指先までが煌めいて見える。
    全身余すところなく魅力的だ。

    「ん~?」
    顔を近付け、僕の顔を覗き込んでくる麗日さん。

    ――ちっ、近いぃ!?

  • 67練乳グラブジャムン25/08/10(日) 00:06:07

    まずい、直視できない。
    手を伸ばせば、すぐ触れられる距離。
    そこに、こんなに素敵な人がいる。
    こんなに綺麗で可愛い、麗日さんが、この手に収まりそうなほど、こんなに近くに――

    「――ちょ! ちょちょちょっっっと! ごめん! ちょっと待って!」
    「へ?」
    「トイレ! トイレ行ってくるから! ちょっとだけ待ってて!」
    「あ、うん」
    「すぐ戻るから! ほんとすぐだから、ごめん!」

    返事も待たず、脱兎の如く駆け出して、視界の届かないトイレに逃げ込んだ。

  • 68練乳グラブジャムン25/08/10(日) 00:38:17

    トイレの洗面台で水を勢いよく流し、顔に水をぶっかけて、乱れた呼吸を整える。

    ……危なかった。
    なんか、無意識に肩とか掴みそうになってた気がする。
    脳がバグりすぎて、理性が飛びかかってたかもしれない。
    数ヵ月ぶりに再開して、いきなり嫌われるところだった。

    早く戻らなきゃいけないのは分かっている。
    でも、今はまだ戻れない。

    さっきの麗日さんの姿を思い返す。
    陽の光を味方につけて、文字通り、本当に輝いているようだった。

    ……いったい何が起こってるんだ?
    なんであんなに綺麗になってるの?
    おかしいって、絶対何かおかしいだろ?

    思い出すだけで、水を被って落ち着き始めた心臓が、再びバクバクとおかしな動きをし始める。

    ……やばい。
    やばい、やばい、やばい。
    本当にやばいって。

    どう表現したらいいか分からないけど、とにかくやばい。

  • 69練乳グラブジャムン25/08/10(日) 00:54:00

    あの麗日さんの前で、普段通り平常心でいられる自信が全く無い。
    祝賀会後の二次会では、まだ普通に話せていたのに。

    頼む、お願いだ。今すぐ誰か来てくれ。
    かっちゃん、飯田君、梅雨ちゃん、八百万さん、芦戸さん。
    今日来れる人、誰でもいいから、とにかく今すぐ合流してくれ。
    一人であの麗日さんの隣にいたら、心臓が持たない。
    宿に着く前に死ぬんじゃないかという気がする。

    クソナードと罵るかっちゃんの声が聞こえた気がする。
    分かってる。もうそれでいい。今だけはクソナードって認める。
    だからかっちゃん早く来てくれ。


    藁にも縋る思いで携帯を開く。
    LINKに一件の新着コメントがあった。

  • 70練乳グラブジャムン25/08/10(日) 07:05:51

    【元A組グループ】

    大・爆・殺・神ダイナマイト
    『エッジショットから応援要請があって行けなくなった。宿にキャンセルの連絡は済ませてある。悪いな』


    「なんでだよ! バカヤロー!」
    思わず洗面台をぶっ叩いた。
    あまりにタイミングが悪すぎる。

    ああもう、なんでこうなるんだよ!
    いや分かるよ、分かってるよ?
    かっちゃんが悪いんじゃないって事くらい僕だって分かるよ?
    でもさ、タイミングってものがあるんじゃない!?
    なんで今だよ!?
    僕は今、これまでの人生で、最もかっちゃんに助けを求めていたんだぞ!?
    今まで色々な事件があったけど、こんなに助けてくれと思ったこと無いよ!?

    知った事かクソナード、という幻聴が聞こえた気がする。
    ……いや幻聴じゃないな、この場にいたら絶対言われてるし。

  • 71練乳グラブジャムン25/08/10(日) 07:23:27

    っていうかエッジショットの応援要請って何だよ?
    こんな土曜日の昼間に何の応援を要請したんだ?
    ヴィランだよな? 買い物とか飲み会の要請じゃないよな?

    いや、どっちにしろ無理だ。
    エッジショットは文字通り、かっちゃんの命の恩人だ。
    何かあれば、遊びの予定など放り出して向かうだろう。
    僕だってオールマイトに頼まれたら同じようにする。

    そう考えると、納得するしかない。

    くっそ……かっちゃんは頼れない。
    頼みの綱が早くも一つ切れた。

    そうっと、外の様子を伺う。
    麗日さんは宿のマイクロバスに荷物を預けたのだろう、キャリーケースは持っていなかった。
    一人、あたりの景色を眺めながら、ぽつんと取り残されている。

    急激に押し寄せる、凄まじい罪悪感。
    とんでもなく悪い事をしている気分になる。

    そうだ。
    せっかくの旅行中に、なにを一人にさせているんだ、緑谷出久!
    どんなに綺麗になっていたとしても、あれは麗日さんだ。
    変に意識するからいけないんだ。
    頭を冷やせ!

  • 72練乳グラブジャムン25/08/10(日) 07:48:58

    蛇口の水をすくい、もう一度、思いっきり顔にぶっかけた。
    特別な人。
    もっと話したいと思った人。
    その人がいるんだ、話しをしに行こう。

    そうだ、どうせ皆もすぐに来る。
    一緒に話せるのは、今しかないかもしれない。
    みんなが合流した後じゃ、もう話せないかもしれない。
    実際、祝賀会の最中は話せなかったんだから。

    「……戻ろう。落ち着いた。もう大丈夫、超落ち着いた」
    何一つ落ち着けていないのは分かっているが、とにかく自分に落ち着いたと言い聞かせる。
    自分の量頬をぱちんと叩き、気合を入れる。

    大きく深呼吸をひとつ。
    吐く息が震えているが、知った事か。

    ヴィランとの決戦に向かうような気分で、トイレを後にした。

  • 73練乳グラブジャムン25/08/10(日) 08:17:09

    「デク君、どうしたの。なんか濡れてない?」
    「うん、水被ってきた……今日ちょっと暑くて」
    「……そんなに?」
    戻った僕の姿に、麗日さんは驚いた様子だ。
    でも麗日さんは何もおかしくない。
    いきなり水被ってくれば、そりゃこういう反応にもなる。

    けど僕だって、嘘をついてるワケじゃない。
    麗日さんの隣にいるだけで顔が火照って体温が上がってくる。

    とにかく、なんとか誰か合流するまで、平静を保たないといけない。
    そうでなければ、今日は宿ではなく病院に泊まることになるかもしれない。

    「そ、そうだ! みんなに麗日さんと合流したよって伝えないと」
    「そうだね、教えてあげよっか」

    携帯を取り出して、グループLINKにコメントを入れる。

    どうすればいいか何も分からないまま。
    頼むから誰か助けてくれ、と願いながら……


    ―――― to be continued

  • 74練乳グラブジャムン25/08/10(日) 09:42:10

    ■No.452 全国共通で笑顔を作る合言葉

    ※SIDE 飯田


    河原の空き地。
    昨日と同じ場所に、僕らA組メンバーは集合していた。

    「いま麗日さんの乗った電車が来たよ。緑谷君は変わらず、駅を出て北側のベンチに座ってる」
    口田君から、二人の現在地の共有が入る。
    それを基に、大きく印刷された下呂駅周辺の地図に、二人の位置を示すマグネットを置いた。

    八年前の戦いで覚醒し、その後も鍛え続けた口田君の個性は、声の届かない距離の動物にもテレパシーを送り、情報共有ができるようになっていた。

    この能力を駆使した、数十羽の種類も違う鳥達をが、入れ替わり立ち替わり、距離も角度もバラバラで行う監視。
    もちろん鳥だけでなく、野良猫や、果ては昆虫までも彼の目となる。
    やられていると知らなければ、人間に気付けるようなものではない。
    喋っている内容までは分からず、映像があるわけでもない。
    しかし、位置だけならば把握は容易だという。
    屋外での監視や尾行において、口田君ほど優れたヒーローも、そうはいないだろう。

  • 75練乳グラブジャムン25/08/10(日) 12:07:49

    「ようやく合流か。いよいよ始まるな」
    「ええ、腕が鳴りますわ」
    「もう俺はいいだろ。不参加の連絡入れとくぞ」
    「ああ、大丈夫だと思う」
    皆が気炎を上げる中、爆豪君はLINKにコメントを入れた。

    「あ、緑谷君が離れた……トイレに行ったみたい」
    「何やってんだあいつ」
    「一人の時に済ませとけよ」
    「ん~……ひょっとして、お茶子ちゃんが可愛くなってて、驚いちゃったとか?」
    「そんな、思春期のガキじゃあるまいし」

    好き放題に実況される緑谷君。
    正直、覗きをしているようで、悪いことをしてしまっている、という気はする。
    ただまあ、会話も聞こえないし、映像があるわけでもない。
    僕らに伝わっているのは位置だけだ。
    文字通り、陰ながら見守らせてほしい。

    「来た! 緑谷からLINKだよ!」
    芦戸君の声に、皆一斉に携帯を手にする。

    「では諸君、作戦開始だ! 一度に全員の既読が付かないよう、一人の携帯を複数人で回して確認してくれ」
    「コメントする人と内容、すぐ調整するよ!」

  • 76練乳グラブジャムン25/08/10(日) 12:32:05

    【元A組グループ】

    デク
    『麗日さん到着です』
    飯田天哉
    『では、今は緑谷君と麗日君が一緒か』
    ウラビティ
    『そうだよ~』
    Pinky
    『じゃあ緑谷さ、今日の麗日どんな感じか教えて?』
    インビジブルガール
    『あ、知りたーい。お茶子の私服どんな感じ?』


    「さあ緑谷、麗日のこと、ちゃんと褒めてね?」
    「今のお茶子ちゃんなら大丈夫なはずだよ」
    芦戸君と葉隠君が、期待した声を上げる。

    「さすがに基本くらい分かってるだろうなクソナードが」
    「俺達は分からねえけど、そんなに麗日すげえの?」
    「マジで改造手術してきたんか」
    「超一流のプロに、完璧に仕上げていただきました。見違える、といっていいですわ」
    「期待してるわよ、緑谷ちゃん」
    女性陣はよほど自信があるのだろう。

    さあ、緑谷君はどうくるか。
    固唾をのんで、コメントを待った。

  • 77練乳グラブジャムン25/08/10(日) 12:49:43

    ※SIDE 緑谷

    返されたLINKのコメントを見て、どうしたものかと考えていた。
    麗日さんがどんな感じか、教えてほしいとコメントが入っている。

    どんな感じ?
    どんな感じかって、そりゃあ……

    ちら、と麗日さんに目線を向ける。

    ……とんでもないことになってるよ?
    みんな、腰抜かすよ?

    明るい太陽の下、なお眩しいその姿。
    惚れた贔屓目もあるのかもしれないが、本当に、言葉にできないくらい綺麗で、可愛い。
    自分が隣に立っているのが申し訳なくなるレベルだ。

  • 78練乳グラブジャムン25/08/10(日) 13:12:31

    今更ながら、飯田君達に感謝したい。
    この麗日さんの隣に、普段のTシャツでは立っていられなかった。
    あれではいくら何でも不揃いすぎる。
    一緒に買い物に行ってよかった。
    ギリギリ助かったという気がしてならない。

    携帯の画面に目線を戻す。
    皆のコメントが、この麗日さんに対する感想を求めている。

    ……でも、この衝撃を、いったいどうやって皆に伝えればいいのか。
    どんなに言葉を尽くしても伝えられる気がしない。
    いまの麗日さんを言葉にするのは難しすぎる。

    絶対に、見た方が早い。
    というか、見れば分かる。

    ……そうだよ、見てもらえばいいんだ。

    そうすれば、僕が早く誰か来てほしいと願っていることも、もしかしたら伝わるかもしれない。
    そう考えて、コメントを入力した。

  • 79二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 13:13:19

    お、ぉおお…どう来るか?

  • 80練乳グラブジャムン25/08/10(日) 13:15:32

    ※SIDE 飯田


    【元A組グループ】

    デク
    『分かったよ。麗日さんの写真撮って送ればいいかな?』


    「クソナードおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
    手にしていたペットボトルを粉々に爆散させて、爆轟君がキレた。

    「分かったじゃねえよ、何も分かってねえよアイツ! そうじゃねえんだよ!」
    「褒めろよ、女がオシャレして来てるんだからさ!」
    「緑谷あいつ、マジほんっとさあ!」
    「どうでもいいときは誰だって褒めてくれるのに、肝心な時に限って! 緑谷君、こういう時こそ褒めてよ!」
    「なんでこんなにニブいんだよ! 昔から全っ然変わらねえ!」

  • 81練乳グラブジャムン25/08/10(日) 13:19:38

    本人のいない所で炸裂する罵詈雑言。
    緑谷君が、かつてこれほどクラスメイトに罵倒された事は無いだろう。

    「諸君、僕も思うところはあるが、落ち着こう。ここに記載していないだけで、麗日君本人には、きちんと褒め言葉を掛けているかもしれない」
    「そうかもしれねぇけどよ」
    「この反応だと、絶対に何も言ってないだろ。緑谷だし」
    「でも、一言も褒めてもらえなかったら、お茶子が可哀想だよ」
    みんなで顔を見合わせる。

    「写真……なるほど。皆さん、私にいい考えが。お任せくださいまし」
    「ヤオモモ、どうするの?」
    「何かいい手があるか?」
    「まずは緑谷さんに便乗し、写真を撮っていただきましょう」
    「それでどうするの?」
    「その写真を元に、更に発言を促すのですわ。これなら緑谷さんもコメントしやすいので、麗日さんにもお喜びいただけるかと」
    「よし、それでいこう」
    「……それに、ただ撮って終わりにはさせません。緑谷さん、その写真という、あなたの一手。私が最大限に利用して差し上げますわ……お覚悟を」
    八百万君が、不敵な笑みを浮かべ、携帯をタップした。

  • 82練乳グラブジャムン25/08/10(日) 13:27:05

    【元A組グループ】

    八百万百
    『それならば、お二人一緒の写真を送ってください。合流の確認になります。いかがですか?』
    インビジブルガール
    『それいいね。一緒に映った写真ちょうだい』
    シュガーマン
    『集まった人間が集まっていれば、みんなどんな感じか一発で分かるしいいな』
    心操人使
    『そっちの写真見て仕事頑張るよ。よろしく』


    「これで良いでしょう」
    不敵に笑う八百万君。
    策を巡らす軍師のようで、非常に頼りになる。

    「合流の確認になるとか、また面白い理由付けたな」
    「でも実際その通りだし、いいんじゃね?」

  • 83練乳グラブジャムン25/08/10(日) 13:35:39

    もちろんここから先、誰も合流するつもりなど無い。
    自分もまだ参加予定の枠に入っているが、タイミングをみて不参加の連絡を入れるつもりだ。
    僕らはここでリアルタイムに相談しあい、適宜適切なコメントを入れていくだけだ。

    「いきなりツーショットとか攻めたな」
    「でも、いい手だと思うよ」
    「あいつ自分で写真撮るって言い出したからな」
    「見事なカウンターだ、八百万」

    盛り上がるクラスメイトを見ながら、自分も気分が高揚していくのが分かる。

    さあ緑谷君、君が言い出したことだ。
    八百万君の指示通り、写真を撮るといい。

    僕も正直、今の君達がどんな姿か気になっている。

  • 84練乳グラブジャムン25/08/10(日) 13:38:30

    ※SIDE 緑谷


    「一緒の写真?」
    てっきり麗日さんの写真だけでいいかと思ったが。
    「合流の確認かあ。まあ見るだけで確認できるもんね。さすが百ちゃん」

    みんなと一緒に写真を撮るのはいい。
    何の抵抗もないし、旅の思い出にも是非欲しい。

    ……ただ、今だけは困る。

    何せ相手は麗日さんだ。
    それも普段の麗日さんじゃない、今日の麗日さん。
    こんな綺麗になってる、好きな人とのツーショット。

    ……心臓が破裂するぞ。

  • 85二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 13:38:49

    クソナードさん、ブーイングの嵐で草

    いや、わかるけどさぁあああ


    そしてヤオモモさん超絶ファインプレー

  • 86練乳グラブジャムン25/08/10(日) 13:43:23

    とはいえ、撮らないわけにもいかない。
    写真を、と言い出したのは自分だし、旅行の思い出としても是非欲しい。
    それに個人的にも、麗日さんとのツーショット写真なんて、喉から手が出るほど欲しい。

    写真を撮るなら、やはり自撮りだろうか。
    でもそれだと密着しすぎる。
    さすがに、それは麗日さんも困る気がする。

    ふと、すぐ近くを歩く人が目についた。

    そうだ、旅行の写真なんだ。
    周りの風景が写っていなければ、どこの写真だか分からない。
    密着して自撮りをするよりは、誰かに頼んだ方がいい気がする。
    誰か撮ってもらえそうな、話しかけやすそうな人を探す。

    「すみません。もし、いま大丈夫なら、写真撮ってもらってもいいでしょうか?」
    「ええ、いいですよ」
    地元の人だろうか、立ち止まって携帯を触っていた男性に声をかけると、快くOKしてもらえた。

    「じゃあ、あの観光案内所が写ってればいいですかね」
    「そうですね、それでお願いします。麗日さんも、それでいいよね?」
    「うん、いいよ。あの、すみません。お願いしまーす」

    立ち位置を確認し、男性に携帯を渡し、麗日さんの傍へ。

  • 87二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 13:44:45

    ナードェ…

  • 88練乳グラブジャムン25/08/10(日) 13:45:34

    そっと、隣に立つ。
    腕や肩が触れてしまわないよう、慎重に。
    変に近付き過ぎず、でも一緒にいることが感じられる、自然な距離感。

    目線を前に向けても、隣から甘酸っぱい、いい匂いが漂ってくる。

    ちら、と麗日さんを見やる。
    何度見ても、その横顔が、本当に可愛くて、どうしても緊張してしまう。

    ……落ち着け、落ち着け緑谷出久。
    写真を撮るだけだ。
    普通に撮ればいい、普通に。

    前を向く。
    携帯を構える男性から声がかかった。


    「はい、チーズ」


    ―――― to be continued

  • 89練乳グラブジャムン25/08/10(日) 14:16:16

    と言うワケで、ナンバータイトルを回収したところで次回に続きます。
    いつもコメントありがとうございます。

    また爆豪誤字った……検索置換までしたのに何で残ってるんだ。
    拙作ではありますが、引き続きお楽しみいただければ幸いです。

  • 90二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 14:35:46

    よっしゃ!風呂食ってくる!

  • 91練乳グラブジャムン25/08/10(日) 16:01:35

    ■No.453 大義名分の嵐

    ※SIDE 飯田


    【元A組グループ】

    デク
    『合流した写真だよ』


    緑谷君から送られてきた写真は、駅前であることがよく分かる一枚だった。

    にっこりと笑った麗日君。
    緑谷君は対照的に硬い表情をして写っていた。

    「なんつー顔してやがんだ、あのクソナードは」
    「証明写真じゃねえんだぞ」
    「もっとくっつければいいのに」
    「肩でも抱けよ」
    「緑谷にそんなこと出来るわけないと思うが……」
    「つーか緑谷、なんか頭濡れてねえか?」

  • 92練乳グラブジャムン25/08/10(日) 16:09:34

    「でもでも! 見て! お茶子めっちゃ可愛い!」
    「ね! これお世辞いらないよ!? ほんとにただ思ったまま感想言えばOKだよ!」
    「いや本当だよ。これマジで麗日か? ……お前ら何したの?」
    「祝賀会のときにこんな人間いなかっただろ」
    「いや確かにさ、髪切ったり化粧すりゃ変わるけど……いくらなんでもコレは変わり過ぎだろ」
    「……容姿の進化……人智を超えた再構築、か」
    「まさか本当に改造手術したんじゃねえよな?」
    「はっはっは! いいぞ、もっと私達を讃えよ!」
    「女って怖えぇな……」
    そのとおりだった。
    ありきたりな表現かもしれないが、大変身といって差し支えない。
    緑谷君の表情が固くなってしまうのも頷けた。

  • 93練乳グラブジャムン25/08/10(日) 16:36:24

    みんなの感想も同意だが、個人的に何より喜ばしかったのは、あの時一緒に買った服を着てきてくれたことだ。
    麗日君は格段に綺麗になっているが、緑谷君もきちんとデートに相応しい装いになっている。

    「何はともあれ、お茶子ちゃんの写真が来たんだから、これで攻勢に出れるよ!」
    「肝心なことは緑谷に言わせるぞ。発言を促すコメントを入れていこう」
    「逃げるんじゃないわよぉ、緑谷ァ……!」

    二人の姿が分かり、みんなもやる気が増しているように見える。
    本当に頼もしい仲間達だ。

    そうとも、今日このときのために、みんなで準備してきたのだ。
    どんどん面白くしていきたい。

  • 94練乳グラブジャムン25/08/10(日) 17:36:08

    ※SIDE 緑谷


    【元A組グループ】

    インビジブルガール
    『ねえ、なんかお茶子変わってない?』
    テイルマン
    『確かに雰囲気が違うな』
    Ⅸ黒い鳥Ⅸ
    『緑谷、そちらでは何も思わないか?』
    イヤホン=ジャック
    『そうだよね。なんかいつもと違うっていうか?』
    ピンキー
    『緑谷から見てどう? 一緒にいると分かるでしょ?』


    皆から返ってきたコメントは、あまりに信じられないものだった。

    何か変わってる?
    雰囲気が違う?

    ……それだけ? 嘘だろ?

    その程度しか分からないのか?
    写真じゃよく伝わらないのか?
    こんなにしっかり撮れてるのに?
    なんでみんな、こんなにニブいんだ。

  • 95二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 17:42:16

    >>94

    緑谷ブーメラン直撃の事言ってて草

  • 96練乳グラブジャムン25/08/10(日) 17:58:18

    写真を見せても分からないなんて、これもう、どう伝えればいいんだ。
    コメントを求められても困るよ。

    見ればわかるじゃないか。
    スタイルも違う、髪も違う、服だっていつもと全然違うのに凄く似合ってる。
    もはや別人といっても差し支えない。
    頭の天辺から足の先まで全部綺麗で、とんでもなく可愛いくなってるじゃないか。

    ………………そんなことを、ここに書けって? ……僕に?
    できるわけないだろうが、そんなこと!


    そんな恥ずかしいことを書いたら、隣の麗日さんにも伝わってしまう。
    ただでさえ緊張して困っているのに、輪をかけて気まずくなる。
    この後どうやって一緒に歩けばいいんだ。

    っていうか何でまだ誰も来ないんだよ!?
    車で向かってる人とかいないの!?

    ああもう、みんな写真をよく見てよ、写真を!
    見れば絶対分かるじゃないか!
    分かるだろ? 分かってよ!

    何で伝わらないのか、イライラしてきた。
    ちゃんと写真を見れば分かるんだよ、写真を見れば!

    ……うん、そう書こう。

  • 97二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 18:04:31
  • 98練乳グラブジャムン25/08/10(日) 18:16:29

    ※SIDE 飯田


    【元A組グループ】

    デク  『こっちでも変わらないよ、写真で見たまんまだよ』


    「クソナードおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
    地面をえぐる大爆発が起きた。
    どこにも影響のない場所を選んでいるのは、爆豪君も最低限の冷静さを保っていたおかげか。

    「ヘタれてんじゃねえぞ、クソナードが!」
    「緑谷、お前ぇが褒めなきゃ意味ねえだろうが!」
    「お茶子ちゃん、すっごい頑張ってるのに!」
    「バカか!? バカだろ! いくら何でもこれはバカだって!」
    「さすがに空気読めよ……」
    「キレイになってる、ってコメントするだけでいいんだがな」
    「なんでこんな綺麗なパスもらってて決められねえの!?」
    「……なあ、これバレてるんじゃね? 逆にオイラ達を監視して、わざとやってるんじゃないかなアイツ」

  • 99二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 18:18:03

    ヒーローが逃げるなぁあああああ

  • 100二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 18:24:51

    なんかもうオールマイト並にウラビティを神格化してるとこるのか

    前提として「麗日さんが、僕を好きになるわけない」が勝ってるのか

  • 101練乳グラブジャムン25/08/10(日) 18:36:57

    「割とマジでどうするよ。次で緑谷スリーアウトだぜ? もう爆豪が直接殴りに飛んでっちまうぞ」
    「まだ始まってないのに麗日がキレて帰るんじゃねえかと心配になるな」
    「さすがに麗日君も怒ったりはしないと思うが……」

    ここまでくると、緑谷君に褒め言葉を出させるのは、かなり難しいだろう。
    我々が褒めてしまうという手もあるが、コメントの流れ的にはおかしい。
    とりあえず、会ってすぐに褒めさせる作戦は失敗となってしまったか。

    「いったん、今褒めてもらうのは諦めましょうか……本人にだけ褒めるのと、オープンなLINKに書くのは、抵抗感も違うでしょうから……」
    「まあ、もしかしたら、今日どこかで褒めてあげれるかもしれないもんね」
    「それより、ここからどうするかだな……とりあえず移動開始してもらわねえとだけど」

    確かに、いつまでも駅前に居てもらうワケには行かない。
    僕らは誰も合流しないのだ。
    このまま待ってもらっても、日が暮れたって誰も来ない。

  • 102練乳グラブジャムン25/08/10(日) 18:46:50

    「待って。移動を開始してもらうなら……私に、考えがあるわ」
    考え込んでいた蛙吹君が口火を切る。
    「どうするんだ?」

    「かなり危険な賭けになるわ。もしこれを提案して、通らなかったら、正直取り返しがつかない。でも、この一手が通れば……絶対に今日一日が上手く行くはずよ」
    「……自信はあるのかい?」
    蛙吹君が携帯を見せる。

    「みんな、知恵を貸して。私は今から、このコメントをしようと思ってる。この内容で大丈夫か、チェックをお願い。もしこれで良いなら、みんなにはアシストをお願いしたいわ」
    皆が内容を確認し、顔を見合わせ……無言で頷き合った。

  • 103練乳グラブジャムン25/08/10(日) 19:14:53

    蛙吹君が、絶対に今日一日が上手く行く、と言い張るだけのことはある。
    これはまさしく切り札、最強のジョーカーだ。しかも最初に切るのが最も強い。
    確かにこれが通れば、我々のサポートなど不要といっていいほど、状況は良くなる。

    「これはやるしかないな」
    「是が非でも通すべきだろ」
    「ああ、これさえ決まれば……」
    「必ず成功させましょう」

    作戦は決まった。
    すぐにコメントする人選を行い、順番を整え、実行に移す。

    褒めさせるのは出来なかった。
    確かに無理やりだったかもしれない。
    だが、これで終わりにはしないぞ。

    僕ら全員の知恵を結集して、必ず君達二人を、いい雰囲気にしてみせる。

  • 104二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 19:20:00

    A組がplus ultraしてる………ッ!!

  • 105練乳グラブジャムン25/08/10(日) 19:35:58

    ※SIDE 緑谷


    【元A組グループ】

    飯田天哉
    『駅前でただ待っていても暇だろう。僕はまだ時間がかかるし、先に観光を楽しんでくれないか』
    Pinky
    『そうだね。着いたら連絡するから、先行ってて~』
    梅雨ちゃん
    『二人だけで街を歩くなら、手を繋いでおくといいわ。トラブル防止になるから』


    「「 ええええぇぇ!? 」」
    予想もしていない梅雨ちゃんのコメントに、二人で素っ頓狂な声が上がった。
    麗日さんと顔を見合わせるが、すぐに顔が赤くなっていくのを感じて、お互いに顔を背けてしまう。

  • 106練乳グラブジャムン25/08/10(日) 19:39:00

    【元A組グループ】

    デク
    『何言ってるの梅雨ちゃん!? 麗日さんに迷惑だよ!』
    ウラビティ
    『ダメだよ、デク君困っちゃうよ!』
    Ⅸ黒い鳥Ⅸ
    『蛙吹は何もおかしなことは言ってないと思うが?』
    八百万百
    『とてもいいご提案ですわ。人通りの多い観光地ですから、その方が何かと良いでしょう』
    Pinky
    『お茶子がナンパとかされたら困るでしょ? 緑谷知らないかもだけど、ナンパって断るのも大変なのよ。怒らせるのも嫌だし、しつこいのも困るし、無いのが一番いいの』
    イヤホン=ジャック
    『いま緑谷しかいないんでしょ? 守ってあげてよ』


    「ナ、ナンパ!?」
    確かにその可能性は否定できない。
    麗日さんは、贔屓目無しに、魅力的な容姿をしていると思う。
    実際、ヒーロー『ウラビティ』は、その容姿も含めて人気が高い。
    特に今日の麗日さんは、何故かとんでもなく綺麗なのだ。
    声を掛けたくなる男はいるかもしれない。

    しかし……手を繋ぐ?
    そんな事をしてもいいのか?
    恋人同士がすることじゃないか。

  • 107練乳グラブジャムン25/08/10(日) 19:41:28

    【元A組グループ】

    飯田天哉
    『僕も蛙吹君達と同意見だ。トラブルは防止できるに越したことはない』
    インビジブルガール
    『麗日は親しみやすいから、声掛けやすいんだよね。だから心配』
    焦凍
    『よく分からないが、手をつなぐのは迷惑なのか? 俺も親父とお母さんを案内するときは手を貸してるんだが、もしかすると迷惑だったんだろうか』
    大・爆・殺・神ダイナマイト
    『んなわけねーだろ、何も間違ってねえよ。おいクソナードも見習え。お前もういい加減にしやがれ』


    麗日さんと二人で、LINKの画面を開いたまま、顔を見合わせる。
    何かコメントを打とうとするが、否定する材料が何も出てこない。
    その間にも、みんなのコメントがどんどん追加されていく。

  • 108練乳グラブジャムン25/08/10(日) 19:46:50

    【元A組グループ】

    アニマ
    『轟君すごいよ、尊敬する』
    烈怒頼雄斗
    『爆豪落ち着け。あ、気にしなくていいから』
    イヤホン=ジャック
    『ほんとに轟は立派だよ。ねえ緑谷もそう思うでしょ?』
    かみなり
    『緑谷、先生やってるんだろ。生徒に観光地では気を付けろって言わない?』
    グレープJ
    『もしかしてオイラ達が変に茶化したり、からかったりするとでも思ってるのか? みんないい大人だぜ? 誰もそんな事しねえよ』
    セロファン
    『安全のためなんだから、深い意味なんて無いだろ。シートベルトと一緒だぞ』
    心操人使
    『むしろヒーローが安全を軽視する方が問題だよな』
    テイルマン
    『俺つい先日、道で迷子の手を引いて親御さん探してたよ。俺は何か恥ずかしいことをしたのか?』

  • 109練乳グラブジャムン25/08/10(日) 20:11:27

    まるで示し合わせたかのように、皆の意見が一致している。

    っていうか、どうしたんだ?
    そもそも今日は皆、仕事や用事があるんじゃ?
    何でこんなに返事が早いんだ。


    【元A組グループ】

    デク
    『みんなコメント早くない!?』
    イヤホン=ジャック
    『そりゃ現地に行けない分、レポート楽しみにしてるから。事務所で随時チェックしてるよ~』
    大・爆・殺・神ダイナマイト
    『安全軽視してるヒーロー兼教員なんていたら、誰だってすぐ何か言いたくなるわ』
    テンタコル
    『緑谷、気にするのはそこじゃないだろう? トラブルを防止する方法を考えてくれ』

  • 110練乳グラブジャムン25/08/10(日) 20:28:40

    みんなの意見は筋が通っているような気がする……ここまで言われると、さすがに断るのは不自然に思えてきた。

    観光地の人混みで、女の子を守る。
    それはとても尊い行為だと思う。
    グループLINKには、大量の『大義名分』が連なっている。

    自分だって本心では、麗日さんと手を繋げたら嬉しい。
    当然だよ、好きな女の子なんだから。

    でも、麗日さんに嫌な思いはさせたくない。

    悩みがあったりする人の手を握ってあげるのと、衆人環視の中で手を繋いで歩くのは、全然話が違う。
    人目も憚らず手を繋ぐなんて、どう考えたって恋人同士がすることだ。

    ……にも拘らず、困った事に、断るための理由が無い。
    断るための尤もらしい理由が、何一つ思い浮かばない。

  • 111練乳グラブジャムン25/08/10(日) 20:42:51

    「じゃ……じゃあ……手、繋ぐ?」
    「そ……そうだね。何かあると困るもんね」

    おずおずと手を差し出す。

    「あの、その……イヤなら、無理しなくても!」
    「……ううん、大丈夫」

    俯きながら、真っ赤に頬を染めた麗日さんが、そっと手を差し出してくれた。

    指先から、そっと静かに、ゆっくりと。
    壊れ物に触れるように、優しくその手に触れる。
    触れた指先から、甘いくすぐったさが生じた。
    掌を重ねると、その手の暖かさが伝わってくる。
    指先にある肉球の、ぷに、とした感触が、他の誰でもない麗日さんの手だと主張してくる。
    声には出せないが、震えるほどの幸福感が胸に溢れてくる。

    女の子の手。麗日さんの。
    祝賀会の夜以来。
    あのときは我に返って、すぐに手を放してしまった。

    好きな女の子と手を繋いでいるという事実に、自分の顔が紅潮していくのが分かる。
    やばい、いま絶対に変な顔してる気がする。
    目の前の麗日さんは、俯いて、瞳を合わせてくれない。
    人前で恥ずかしいんだろうか、耳まで真っ赤になっている。

  • 112二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 20:53:36

    あぁぁ…甘い…そして、いい…

  • 113二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 20:59:15

    もう…ダメ…尊すぎて…死ぬ…

  • 114練乳グラブジャムン25/08/10(日) 21:00:31

    緊張をほぐしてあげないと。
    こういうとき、気の利いた男は何を言うべきなんだろうか。
    何か、何か気の利いた……

    「……麗日さん、手スベスベだね」
    「ふえっ!?」
    驚いた麗日さんの髪が跳ねた。
    思わず素直な感想が口から出てしまったが、しまったと思った時にはもう遅かった。
    いまのは完全にセクハラだったんじゃないか、と焦りが出てくる。

    だが麗日さんは怒ることもせず、落ち着いて僕の手をとると、その感触を確かめていた。
    「……デク君は、手、傷だらけだ」
    「あ……そうだね……」
    綺麗な麗日さんの手と比べて、申し訳ない気持ちになる。

  • 115二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 21:03:10

    これはアレですね手繋ぎデートですね

  • 116練乳グラブジャムン25/08/10(日) 21:05:57

    「いっぱい頑張った証だね。なんか好きだな、私」

    そのとき、不意に学生時代の想い出が、フラッシュバックのように脳裏に蘇った。
    目の前にいる彼女の笑顔は、かつて入学直後、心が救われた時の笑顔だった。

    (がんばれって感じで、なんか好きだ私)

    麗日さんと出会うまで、『デク』は蔑称だった。
    受け流していたけど、言われて良い気分になった事は無かった。

    でも、あのとき。
    彼女の笑顔と言葉で、それは覆った。
    意味が変わった。救われた気がした。

    そうして自分は、ヒーロー名を決めた。
    蔑称だった渾名は、頑張れ、と自分を奮い立たせるヒーローの名前になった。
    周囲からそのヒーロー名を呼ばれる度に、頑張れ、と励まされているようで。

  • 117練乳グラブジャムン25/08/10(日) 21:09:28

    胸の内を支配していた緊張と気恥ずかしさが、すっ、と小さくなっていく気がした。
    代わりに、繋いだその手から、麗日さんに対する、愛しさと、感謝の気持ちが沸きあがってくる。
    ずっと緊張で暴れていた心が、落ち着いていくのを感じた。

    「……ありがとう、麗日さん」
    いまのぶん。そして、これまでのぶんを含めた感謝だった。

    「へ? なんで?」
    麗日さんにしてみれば、お礼を受ける意味が分からないのだろう。
    だが、細かく説明するつもりはなかった。分からなくてもいい。
    昔と変わらず、自分を救ってくれた女の子に、ただ感謝を伝えたかった。

    「じゃあ、せっかくだし、行こうか」
    「う、うんっ」
    手を繋ぐ。それは、この子を守るため。それでいいじゃないか。

    ゆっくりと歩く。
    麗日さんが歩きやすい速度を探しながら、歩調を合わせて。
    なるべく負担が無いように、守れるように。

  • 118練乳グラブジャムン25/08/10(日) 21:36:16

    歩調を揃えて歩きながら、大事なことを伝え忘れている事に気付く。
    「……それと、さっきはごめんね」
    「へ、何が?」
    「いや……さすがに僕、挙動不審すぎたというか……」
    頭を掻きながら、先刻までの、あたふたした自分を恥じる。

    のっけから逃げ出して、水を被って。
    オシャレして来てくれた女の子に何も言ってない。

    何をやってるんだ、僕は。
    素直に伝えればいいことじゃないか。
    「……なんか、今日の麗日さん、いつもと違う気がして」
    「…………へ?」
    「何故かは、よく分かんないんだけど。なんか……すごく綺麗で。なんかもう、全部可愛く見えちゃって。それで僕、さっきからずっと、緊張しちゃってて」
    「…………ぁ、ぇ」

    「いやっ! もちろん麗日さんはいつも綺麗なんだけど! 今日は何か違うっていうか、すごく輝いてるっていうか、最初誰だか分かんないくらい、見違えるくらい可愛くて! 髪とかすっごい綺麗でサラサラだし!? なんか痩せたっていうか、スタイル良くなってるっていうか! 頭の天辺から足の先まで全部綺麗で、手の先まで輝いて見えて、その服もすっごい似合ってて! ああもうええっと、ごめん! なんかすっごい変な事言ってる!」
    やばい。
    焦って余計なことまで全部言ってしまっている気がする。

  • 119二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 21:38:14

    2人きりにした方が言えるな…

  • 120練乳グラブジャムン25/08/10(日) 21:40:14

    「あ……はは……そ、そうかな……」
    「うん……その……うん。今日の麗日さん、すごく……すごく、綺麗で、可愛いと思う」
    「あっは……はは……うへ……おぉぅ……そ、そっかぁ。あ……ありがと、ね……」
    真っ赤に染まった顔を伏せて、髪をいじっている。
    そんな仕草も可愛らしくてたまらない。

    「あの……ごめんね。僕に言われても嬉しくないかもしれないけど」
    「いやいや。その、あの……うん。うれ、嬉しい、よ……? ……ぉぉ……はは……」
    ……ダメだ。
    恥ずかしいのと、麗日さんが可愛すぎるので、なんかもうどういう感情か分からないぞコレ。

    麗日さん個性使ってないよね?
    足の裏に地面の感触が全然無いんだけど。

    「えっと……じゃあ、行こうか!」
    気恥ずかしさを振り払うように、道の先を指した。
    「そっ、そうだね! 時間もったいないもんね!」

    お互いに耳まで赤くなりながら、一緒に歩く。
    繋いだ手が、少し熱を帯びたような気がした。


    ―――― to be continued

  • 121二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 21:41:15

    行けぇえええええええええ!!!!!

  • 122二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 22:20:44

    >「うん……その……うん。今日の麗日さん、すごく……すごく、綺麗で、可愛いと思う」

    言えたじゃねえか…

  • 123練乳グラブジャムン25/08/10(日) 22:22:24

    というわけで、お手手繋いだところで次に続きます。
    コメントくれてる人、ほんとありがとう!
    画像のツッコミすげえ笑ったわw
    楽しんでくれたようで何よりです!
    まだまだ続きますので、引き続きよろしくお願いします。

  • 124二次元好きの匿名さん25/08/10(日) 23:03:14

    これこれこれ!!これが見たかったんだよ!!

  • 125二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 03:35:20

    普段から可愛さに美しさが加わったスタイル抜群なお茶子ちゃんが、高級美容フルセット+お洒落バッチリなんて、そりゃデクくんは心臓もたないね…。制服姿や初コスチュームでやべぇってなってたし、がっつり笑顔で顔キュンブサイクになってたしね。

    皆の連携すごく良いしクソナードへの反応草 楽しい

    ちゃんと言えて偉いぞデク!
    続き期待

  • 126練乳グラブジャムン25/08/11(月) 08:06:56

    >>125

    そう、それ!

    デクは普段と一緒、予想の範疇なら大丈夫でも、そこから外れると混乱するんだよね。

    だから素の魅力を限界まで引き上げたら、絶対こういう反応になるよなと思いながら書いてました!

    夜間に保守ありがとう!

  • 127練乳グラブジャムン25/08/11(月) 08:25:10

    ■No.454 何もしなくて済むのが最善

    ※SIDE 飯田


    【元A組グループ】

    デク
    『手繋いだよ』


    短いコメントと共に添えられた写真。
    傷だらけの手と、指先に肉球の付いた手。
    それは間違いなく、重ねられた緑谷君と麗日君の手であった。

    「「「「「「ぃぃぃよっっっっっっしゃあああああああ!!!」」」」」」

    A組のみんなから歓声が上がった。
    鳴りやまない『手を繋げコール』に対し、ようやく応答があったのだ。

    「通ったぜええええ! 蛙吹のジョーカー!」
    「これはデカい! この一手が通ったのはマジでデカいぞ!」
    「神の一手じゃねえ!? コレ出来ただけでも、今回の作戦大成功だろ!」
    「梅雨ちゃん最ッッッ高! 面白くなってきたよ!」

  • 128練乳グラブジャムン25/08/11(月) 08:44:05

    胴上げでも始めかねない勢いだ。
    蛙吹君も照れくさそうにしている。
    だが、確かにそれくらい効果的な手だった。

    「いやしかし、やっと手ェ繋いだよあの二人!」
    「手強過ぎるし長過ぎるって! どんだけ奥手だよ!?」

    普通のカップルなら、わざわざこんなアシストをする必要は無い。
    だがあの二人は別だ。
    高校時代からずっと片思いを続けている超奥手。
    緑谷君にいたっては、自分の気持ちに気付いたのすら、つい最近だ。

    お互いにこれまでフリーだったのが奇跡に近い。
    あの二人のペースに任せていたら、手を繋ぐだけで何年かかるか分かったものじゃない。
    峰田君の「子供が生まれるより、麗日が閉経する方が早いんじゃねえか」という発言には、誰も否定することが出来なかったほどだ。
    ……さすがに発言を咎めはしたが。

  • 129練乳グラブジャムン25/08/11(月) 09:14:35

    「おいオメーら、LINK気をつけろよ!? 絶対に茶化すようなこと書くんじゃねえぞ、あのクソナード、何かあったら手なんざすぐ離すぞ!?」
    「分かってる! 蛙吹から全員で繋いだチャンスだ、絶対にモノにするぞ!」
    「過度なコメントいらねえぞ、二、三件だ!」
    「分かってる、任せといて!」
    「コメントするメンバーと、内容のすり合わせ! シンプルに済ませるよ!」

    みんなの意思は一つだった。
    とにかく二人の仲を進展させたい。
    そのために、みんな集まっているのだ。


    【元A組グループ】

    梅雨ちゃん
    『それでいいのよ。ありがとうね』
    テンタコル
    『観光地にいれば当然だろう』
    インビジブルガール
    『これでナンパの心配も減って安心だね』
    飯田天哉
    『トラブルが無いことを祈っている。僕も仕事が片付いたら向かうよ』

  • 130練乳グラブジャムン25/08/11(月) 10:25:39

    「しっかし……緑谷出久、とんでもねえ難敵だぜ」
    「初回から連続でツーアウトしたからな。逆に難しいだろ」
    「俺達はLINKでしか知らないけど、もしかしたら現地では既にスリーアウトしてたかもしれないぞ」
    「相手の気持ちどころか、自分の気持ちすら気付けねえクソナードだからな……おかげで大学行ってる時はヤバかった」
    「あ、やっぱ緑谷、大学時代に色々あったんだ?」
    「逆だ……色々が無いように気を揉んだ……」
    皆が喜びに沸く中、一人だけ疲れたような表情を見せる爆豪君。
    何か思う所があるのだろうか。

  • 131練乳グラブジャムン25/08/11(月) 11:19:50

    「まだデートは始まったばかりですわ。口田さん?」
    「任せて。二人はいまここ」
    用意した巨大地図の上で、マグネットを動かす。駅から地下道をとおり線路を越え、東へ向かうようだ。

    「周囲の状況は?」
    「大丈夫、変な人はいないみたい。ヒーローも警察官も、あちこちにいるよ。何か起こる兆候も無いし、トラブルの可能性は無いと思う」
    「ヒーロー協会が総力を上げて全力で警備してくれてるし大丈夫だと思うけど、やっぱ現状が分かると助かるな」

    「ここからあいつら、どう移動するかな」
    「さすがに行き先の指示は出来ねえからな、不自然だし」
    「ちょっと早いけど、お昼食べるとか?」
    「セオリー通りの観光なら、こっちに向かいそうだけど?」
    地図を前に、皆で意見を出し合う。

  • 132練乳グラブジャムン25/08/11(月) 12:34:01

    「宿ってどこだ?」
    「今日二人が泊まる宿はここ」
    上鳴君の確認に、耳郎君が場所を指した。

    「最終的に宿を目指しながら移動するよな」
    「その可能性は高い。ただ、宿は線路の西側だ。最後はタクシー等の移動手段を使う可能性も考慮しておこう」
    「まあ口田の追跡があるし、とりあえず移動先にあわせてサポートしていこうぜ」
    街中には、いくつかのデートスポットがある。
    ここに来たらこうするといい、とか、食事で迷ったらこう答えよう、といった作戦はいくつか立ててある。

    しかし同時に、あまり干渉したくないという思いもあった。
    あまり指示ばかりしても邪魔になってしまう。
    これはあくまでデート。
    二人とも、携帯越しの僕らではなく、隣にいる想い人に意識を向けてもらうのが重要だ。
    こちらが何も促すことなく、二人が仲良く、いい雰囲気になってくれれば、それに越したことはない。

    極端な事を言えば、僕らの出る幕など無い方が良い。
    ……というか、普通はデートに他人の出る幕など無いのだが……まあ二人はこれがデートだと気付いていないわけで。

    既に蛙吹君の、神の如き一手が通っている。
    このままいい雰囲気になってほしい。
    可能であれば何もしたくない。少し寂しいが、それが最善だ。

    さあ、二人は、ここからどう動く?
    僕たちは、これから何をするのが最善だろう?


    ―――― to be continued

  • 133練乳グラブジャムン25/08/11(月) 14:39:36

    ■No.455 やりたかったこと

    ※SIDE 麗日


    さっき駅前で褒めてもらった言葉が、頭の中でずっと繰り返し響いてる。

    私は変な顔してないかな。
    せっかく一緒にいるのに、緊張して、恥ずかしくて、お喋りもできない。

    生まれて初めて、大好きな人と……デク君と手を繋いで歩いている。
    個性を使っていないのに、身体が浮かんでいるような感覚。
    歩いているのに、その感覚が全然無い。

    どうしよう……何を話せばいいんだろう……?

  • 134練乳グラブジャムン25/08/11(月) 16:11:44

    ちら、と隣のデク君を伺う。
    デク君の顔は真っ赤だ。たぶん私もそうだけど。
    恥ずかしいのかな。
    だとしたら同じ気持ち。

    私達は、周りから見たら、どんな風に見えるんだろう。

    恋人同士みたいに見えるのかな。
    私は、デク君の彼女みたいに見えるのかな。
    そんな女の子になれてるかな。

    だとしたら、嬉しい。
    もちろん、本当の恋人じゃない。
    でも、もしいつか本当の恋人同士になれたら……

    一緒に、手を繋いで歩いている。
    ただそれだけなのに、まるで夢みたいで、おとぎの国を歩いているように感じる。

  • 135練乳グラブジャムン25/08/11(月) 16:30:36

    もう一度、デク君の顔を伺う。
    脳裏に女子会の会話が蘇る。

    (緑谷ちゃん、結構カッコよくなってたわ)
    (なんか男っぽくなったっていうか)
    (バレンタインとか凄そうですね)

    ……確かに、昔と違って、カッコよくなってるなあ。

    慌てて顔を前に戻した。
    自分の顔が真っ赤に茹っていくのが、自分でも分かる。

    意識すると、心臓の鼓動が早くなる。
    だめ、だめ、だめ。意識しちゃいけない。
    こんな大きな音してたら、隣にいるデク君に聞こえちゃう。

    ……聞こえてないよね?
    不安になって、また隣に目を向ける。

    そういえば、高校以来、私服を見るのは初めてかも。
    あの頃はヘンテコなTシャツを好んでいたけど、この服も似合ってる。
    スラっとしてて、まるでモデルさんか俳優さんみたいだ。

  • 136練乳グラブジャムン25/08/11(月) 17:33:10

    前を向いていても、繋いだ手が、男の人特有の、大きくて筋肉質な感触を伝えてくる。
    暖かくて、優しくて、いっぱい頑張った手。

    昔は何度か手を握ってもらったことがあった。
    でも卒業してから、そんな機会は全く無かった。
    少なくとも卒業してからだから……いや違う、祝賀会の二次会のときにちょっと握ってもらった。
    でも、こんなに長い時間っていうのは、すごく久しぶり……というか、初めてじゃない?

    こうしていると、守ってもらってるような気がして、安心してしまって。
    なんか、デートしてるみたいな……

  • 137練乳グラブジャムン25/08/11(月) 18:32:24

    ああっ! だめ、だめ、だめ。
    すっごい意識しちゃう。

    違うって、これはナンパ対策! トラブル防止!
    変な意味なんか無い、落ち着け私!

    あーもう、さっきから何なんだろう。
    歩いてるだけなのに。
    鏡なんか見なくても分かる、いま絶対に変な顔してる。
    今すぐ走り出して遠ざかりたい。


    ちら、と、再び隣のデク君を伺う
    やっぱり顔が赤い。
    恥ずかしいの? 照れてるの? かわいい。

    男の人のかわいい顔って反則だと思う。
    でも、眉だけキリっとしてて、なんか頑張ってくれてるような。
    かわいいのに、カッコいい。
    この顔見てるだけで、胸がきゅんとする。

  • 138練乳グラブジャムン25/08/11(月) 18:57:14

    頭の中で駅前の会話が蘇る。

    (なんか、今日の麗日さん、いつもと違う気がして)
    (すごく綺麗で。なんかもう、全部可愛く見えちゃって)
    (それで僕、さっきからずっと、緊張しちゃって)
    (もちろん麗日さんはいつも綺麗なんだけど)
    (今日は何か違うっていうか、すごく輝いてるっていうか)
    (最初誰だか分かんないくらい、見違えるくらい可愛くて)
    (髪とかすっごい艶々だし)
    (なんか痩せたっていうか、スタイル良くなってるっていうか)
    (頭の天辺から足の先まで全部綺麗で、手の先まで輝いて見えて)
    (その服もすっごい似合ってて)

    ああ、もう! だめだって!
    いま思い出しちゃダメ!
    恥ずかしいのと嬉しいのとで、顔がおかしくなる!

  • 139練乳グラブジャムン25/08/11(月) 19:27:57

    空いている方の手で自分の顔を覆った。

    大体、なにこれ!?
    なんで手なんて繋いでるの!?

    本当ならここに爆豪君と飯田君、梅雨ちゃんと百ちゃんと三奈ちゃんがいたはずだ。
    男の子三人と女の子四人で、自然と別れて歩く。

    デク君とは、時折話したり目が合う程度の距離になる予想だったのに。
    昔のクラスメイトが集まったら、普通なら絶対そうなるのに。

    それがなんで、一緒に並んで、手を繋いで歩くことになるの!?

    ああもう、梅雨ちゃんのせいだ、みんなのせいだ。
    死にそうなくらい恥ずかしい。

    梅雨ちゃん、私の気持ち知ってるくせに。
    私のこと殺すつもりか。
    あとで合流してきたら、絶対文句言ってやる。

  • 140練乳グラブジャムン25/08/11(月) 20:35:33

    顔を覆っていた手を降ろして深呼吸。

    もう何度目だろう、ちら、と、再びデク君を伺う。
    やっぱり顔が赤い。恥ずかしそう。でもかわいい、目元がカッコいい。

    (すごく綺麗で。なんかもう、全部可愛く見えちゃって)
    (それで僕、さっきからずっと、緊張しちゃって)

    ……え?
    お世辞じゃなくて、本当にそうなの?
    私が……その、綺麗になったって、可愛いって、本当に思ってくれてて……
    それで、本当に……本当に緊張して、そんなに真っ赤になってくれてるの?

    ……うそでしょ。本当に?
    ああ、もう、なにそれ、嬉しすぎる。
    ずるいよそんなの。
    きゅんきゅんして、おかしくなる。
    デク君かわいすぎる。

  • 141練乳グラブジャムン25/08/11(月) 20:36:37

    ふと、デク君がこっちを見た。
    視線が合う。

    二人同時に、バッと顔を逸らした。

    ああぁ……見られた、絶対見られた。
    変な顔してるのがバレた。
    せっかくさっき、可愛いって褒めてもらえたのに。

    だめだ、こんなの、何話せばいいか全然分かんない。

    ふと視線を上げると、街頭のカーブミラーに、私達の姿が写っていた。

    手を繋いで、真っ赤になって。あらぬ方向を向いているデク君と。
    目元は困ってるのに、口元がニヤニヤしそうなのを無理に我慢してぐにゃぐにゃになり、茹蛸みたいに赤くなった、私のとんでもなく変な顔。

  • 142練乳グラブジャムン25/08/11(月) 20:39:09

    ――恥っずかしぃ!?

    何この顔!?
    変なんてもんじゃない、完全におかしい人だよ!?

    だいたいなんで手繋いでるのに別の方を向いてるの?
    なんで何も喋らないの?
    なんで二人とも真っ赤になってるの?
    子供じゃないんだよ!?

    こんな変な二人組、他にどこにもいないよ!?
    見たことも無いよ!?
    ナニコレ!? どんな二人!?

  • 143練乳グラブジャムン25/08/11(月) 20:40:31

    「で、デク君っ!」
    「は、はいっ!?」
    耐えられなくなって名前を呼んだ。
    突然の私の声に驚いたデク君が、少し上ずった返事をしてくれた。

    「あ……あの! ……え……っと……」
    何か喋らなきゃと思って声をかけたけど、何も考えてなかった。
    どうしよう、と思いながら、目線をデク君に向ける。

    真っすぐに私を見下ろす、想い人の顔がすぐ近くにあった。
    「……あ……えっと……あの……あれ……?」

    やば、近い。
    どうしよう。
    頭がフリーズして、何も出てこない。
    手、繋いでるし。

  • 144練乳グラブジャムン25/08/11(月) 20:42:05

    「……どうしたの、麗日さん?」
    「ぁ……ぇ……?」
    どうしたのって……え? どうすればいいんだろう?

    だって、手繋いでて。
    私、すっごい変な顔してるから。
    デク君が私を真っ直ぐ見つめてて。
    だめだよ、こんな顔見ちゃ、恥ずかしいから。

    「……何かあったの?」
    「なんでもないからっ!」
    恥ずかしすぎて、上ずった声が出てしまう。
    瞳をぎゅっと閉じて、顔を伏せて前を向き、足を前に出す。

    無理だってこんなの、何も考えられないっ!

  • 145練乳グラブジャムン25/08/11(月) 20:44:42

    「あ、麗日さん待って」
    いきなり両肩を掴まれ、ぐいっと寄せられた。

    「――――っっっ!?」
    心臓が爆発したみたいに跳ねた。
    悲鳴を上げなかったのが奇跡に近い。

    「大丈夫?」
    「え? ……え?」
    大丈夫って、何が?
    デク君の手が、いつの間にか私の肩にあって。
    正面にデク君の顔があって。

    こんなの、何も大丈夫じゃない。
    心臓が口から飛び出そうで。

    え、私、何されるの……!?

  • 146練乳グラブジャムン25/08/11(月) 20:48:12

    「いや、ほら……」
    肩から手が離れる。
    デク君が指す先にあるものに眼を向ける。

    ……信号機。赤だ。赤が点いてる。
    車通りは多くないが、危ないことには違いない。

    ようやく自分が何をしていたか理解する。

    「ご……ごめ、ん……」

    やばい、何も見えてなかった。

    ……仮にもヒーローでしょ、私。
    こんな場所で信号無視とか何やってるの?
    バカじゃないの?

    浮かれた気持ちが水をかけたように静まり返り、とてつもない自己嫌悪に襲われる。

    「…………やば……」
    冷静になった途端に、どっと疲れが押し寄せてきた。

  • 147練乳グラブジャムン25/08/11(月) 21:08:51

    肩を落として項垂れると、今日のために準備した、ピンクのスカートと花柄メッシュの靴が視界に入った。

    …………何やってるんだろう、私。

    頑張ったのに。
    褒めてもらえたのに。
    初めて手を繋いで歩くことが出来たのに。

    ずっと緊張して。
    全然お喋りできなくて。
    歩くことすら上手にできなくて。

    私がこの旅行でしたかったのは、こんな、緊張して黙っちゃうようなことじゃなかった。
    こんなハズじゃなかったのに……

  • 148練乳グラブジャムン25/08/11(月) 21:14:11

    「麗日さん、電車移動長かったから、疲れたのかもね。ちょっと休もうか」

    デク君に手を引かれ、すぐ傍のお土産屋さん、その店先にあるベンチに腰掛けた。

    「ちょっと待ってて」
    すぐ側の自販機で、水を買ってきてくれた。
    「はい、水……でよかったかな。先に聞けばよかったね。別のが良ければ、もう一個買ってくるけど」
    「ううん、大丈夫……お水でいい、ありがとう」

    水を受け取って、喉に流す。
    ひんやりした感覚が心地よい。
    一息つくと、いくらか落ち着いた。

    ……やっぱりデク君は、優しいなあ。

  • 149練乳グラブジャムン25/08/11(月) 21:17:03

    「…………デク君、ごめんね」
    「へ? 何が?」
    「さっき、デク君が緊張してる、って聞いてから……私も、なんか恥ずかしくて、緊張してしもうて……」

    きょとん、とした顔のデク君。
    少ししてから、急に笑い出した。

    「もう……笑わんといてよぉ……」
    恥ずかしいのもあるが、情けなくて、本当に申し訳なくなる。

    「いやだって。僕も全く同じだったから。何話せばいいか、全然分からなかったし」
    そういって、また笑い出した。


    目の前で笑ってるデク君を見ていたら、何だか私も笑えてきた。

    二人そろって緊張して、二人そろって恥ずかしがって。
    さっきのカーブミラーに映った姿が思い出される。

    すごく変な二人。何やってたんだろう。
    ほんと、バカみたいだ。

    一回笑うと、もうダメだった。
    よく分からないけど、なんか可笑しくって。
    笑いが収まるまで、二人でずっと笑ってた。

  • 150二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 21:18:21

    あぁぁ…甘い…いい雰囲気…

  • 151練乳グラブジャムン25/08/11(月) 21:20:07

    ひとしきり笑ったら、気恥ずかしい緊張感と、自己嫌悪の疲労感が、どこかに消えていた。
    なんかスッキリして、元気が出てきて。

    話したいことが、たくさん浮かんでくる。
    聞きたいことが、山ほどある。

    「――ああ、そうだ。デク君、あのね。この前、個性カウンセリングいった保育園に、面白い子おったんよ」
    「へえ、どんな?」
    「それがね――」
     
    そうだ、思い出した。
    ずっと、こうしたかったんだ。

    デク君と二人で一緒に、笑いあって、楽しくお喋りする。
    それが、今回の旅行でやりたいことだった。

    せっかく二人きりなんだ。
    緊張してちゃ、勿体無い。
    二人とも恥ずかしかったんだって、もうバレちゃったし。
    思いつくまま、いっぱい話しちゃおう。


    ―――― to be continued

  • 152練乳グラブジャムン25/08/11(月) 21:27:41

    というワケで、なんかすっげえチラチラ見てくるお茶子さんでした。

    今更ながらですが、ちょっとご相談です。
    ぽつぽつ投下していくのと、
    時間指定して一気に投下するのと、
    どちらがいいでしょうか?

  • 153二次元好きの匿名さん25/08/11(月) 23:06:14

    隙あらば四六時中連投し続けてほしい(強欲)

  • 154二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 01:37:03

    >>126

    そうですよね!免疫ない時はお茶子ちゃんが近づくのも挨拶するのも照れてたもんね。そんな磨かれたお茶子+好きな人だと自覚したフィルターなんてデクくんにクリティカルですよ。

     でもこのデクくん、女子達に言われてたみたいに押しに弱そうと思われるし、わかるって思うけれども、実は好きなもの(オールマイトやヒーロー)・信念(望まれてなくても助ける・踏み込む、蓋ぶっ壊れるまで叩く)のエネルギーが凄まじい、意外と自分を通す男なんですよね…。(爆豪の事務所誘いを一刀両断するような)

     だからこそ、無意識に惚れてる人いるのになびかないし、勢いに乗れば褒めれちゃう男だと思うので、よくやったデク!になる。なんてったってデクくんから見たお茶子ちゃんは、勇敢で優しくて髪型似合ってて素敵な人なので。行くって決めたらグイグイ行けそうな素質もある、ロールキャベツ男子…


    >>128

    やっと手繋いだ、はほんとにそうだけど、実はこの2人、皆の知らないとこで手を握るだけで心が和らぐしたり、気が合って手を握り合ったりしてるんですよ。緊急時なので仕方ないドラマCDいれると、更に「握って離さないで」的なこともデクくん言ってたりするんですよ。つきあってませんが。…どゆこと?(混乱w)


    終始お茶子ちゃんが恋する乙女で可愛い…。某ボカロ曲思い出した(ピンクのスカート)

    お互いに緊張して話せなくてって打ち明けて笑い合うの、良いね…。ほんと、気が合う2人なの最高


    長々と失礼しました。投稿はポツポツのほうが、保守にもなるし、コメント挟みやすいかも?と思いますが、スレ主のやりやすいペースで良いかと。続き楽しみにしてます。

  • 155練乳グラブジャムン25/08/12(火) 06:26:08

    >>154

    長文コメさんくす!

    ニヤニヤしながら見させていただきました。

    ドラマCDとか存在すら知らなかった……チェックしてみるかな。

    夜間保守もありがとう。


    ではこれまでどおり、イケるタイミングで投下していきますので、引き続きよろしくお願いします。

  • 156練乳グラブジャムン25/08/12(火) 07:55:45

    ■No.456 傍目には

    ※SIDE 麗日


    手を繋いで、一緒に歩く。

    さっきまでと違って、会話も弾んでいた。
    周りの景色も輝いて見えて、デク君の顔もよく見える。

    恥ずかしさは変わらないけど、もうバレちゃってるし。
    なんかもう、吹っ切れたというか、恥ずかしがってちゃ勿体ないというか。
    なんでもやってやれー、という気持ちになっていた。

    時折、思い出したように赤くなるデク君が、見ていて本当に、かわいくて、楽しい。

    (なんか、今日の麗日さん、いつもと違う気がして)
    (すごく綺麗で。なんかもう、全部可愛く見えちゃって)

    さっきの嬉しい言葉が、何度も頭の中でリピートされてる。
    きっと私も、何度も変な顔になっているんだろう。

  • 157練乳グラブジャムン25/08/12(火) 08:27:47

    それでも、何度でも聞きたい。
    もっと私を見てほしい。
    そしてその、照れたような困ったような、かわいい顔を、もっと私に見せてほしい。
    私の心のアルバムに残しておくんだ。

    心が弾んで、足取りが軽くて。
    繋いだ手のひらから、幸せな気持ちが沸き上がってきて。
    最高に楽しい気分だった。

    もっとデク君の面白い顔を見たいという、悪戯心が沸いてくる。

    もうこの際、腕でも組んでみようか?
    どんな反応するんだろう?
    どうせまだみんな来ていないし、今だけは二人っきりだし。
    いや……さすがに攻めすぎかも……

  • 158練乳グラブジャムン25/08/12(火) 10:08:45

    景色を眺めていると、携帯が鳴った。
    見ると、いくつかコメントが入っている。


    【元A組グループ】

    インビジブルガール
    『二人とも、いま何してるの~?』
    イヤホン=ジャック
    八百万百
    『当日で申し訳ありません。私も急な仕事で行けなくなってしまいました。緑谷さん、麗日さん、お楽しみ中恐縮ですが、旅行の思い出に、写真など送っていただければ励みにさせていただきます』
    Pinky
    『ヤオモモお疲れ! 私も写真見たーい!』


    「うそ、百ちゃんも来れないの!?」
    「八百万さんの事務所、凄い人気あるしね……個性で何でも作れるし」
    「あ~あ、残念だなあ」
    「でもその分、写真撮ってあげようか。駅前でしか写真撮ってなかったし」
    「うん。来れなかった人多いし、写真送ってあげよう」

    デク君が携帯を取り出し、あたりの風景を撮っていく。
    確かにこの位置は景色がいいし、写真を撮るにはうってつけだろう。
    すぐ人のために動くこういうところ、なんかいいなあ、って思いながら、その姿を眺めていた。

  • 159練乳グラブジャムン25/08/12(火) 10:36:28

    ※SIDE 飯田


    携帯に送られてきた写真を前に、A組の皆の口元に、ニヤリとした笑みが浮かんだ。

    「予想通りだな、緑谷のやつ」
    「ええ。奥手で恥ずかしがりな緑谷さんのことです。こういう、ただの風景写真を送ってくることは分かっておりました」
    「ごめんね~緑谷君。私達のコメントは布石だったのだ!」
    「本当に、面白いくらい簡単に引っかかってくれたな」
    眼に怪しい光を携え、ふっふっふ、と悪い笑みを浮かべる面々。

    「さっきは写真という素敵な一手をありがとうな、緑谷。全力で利用してやるぜ」
    「じゃあまずは耳郎、手はずどおりにコメントを頼むぜ」
    「オーケー。面白くしていくよ?」
    悪ふざけを楽しむ顔をした人達が、そこにいた。

  • 160練乳グラブジャムン25/08/12(火) 11:06:04

    ※SIDE 麗日


    【元A組グループ】

    イヤホン=ジャック
    『ねえ、出来れば二人も一緒に写ってくれると嬉しいんだけど』
    かみなり
    『そうだな、緑谷と麗日の様子が知りたい』


    「「一緒に!?」」
    画面を見て、デク君と同時に声が上がった。
    思わず顔を見合わせ、視線が合う。気恥ずかしくて顔をそらした。

    響香ちゃんも何を言い出すんだろう。
    一緒の写真はさっき送ったのに。

  • 161練乳グラブジャムン25/08/12(火) 12:00:53

    【元A組グループ】

    心操人使
    『確かに風景だけじゃ、仲間の写真って感じはしないもんな』
    青山
    『君達がどう旅行しているかが分かると嬉しいな』
    大・爆・殺・神ダイナマイト
    『おい出久。みんな場所だけならネットの画像で間に合ってるってよ』
    烈怒頼雄斗
    『そこまで言わねえけど、誰か写っててほしいとは思うよな』
    インビジブルガール
    『私も旅行気分味わいたーい。二人が楽しそうにしてるところ頂戴~』


    楽しそうにって……また無茶苦茶なお願いをされている。

    でも確かに、旅行の写真ってそういうものかもしれない。
    知ってる人が誰も写って無かったら、それはただの風景写真だ。
    それならネットで探せばいい写真はいくらでもある。
    自分が逆の立場でも、楽しそうなクラスメイトを見たいと思う。

  • 162練乳グラブジャムン25/08/12(火) 12:39:43

    それに……一緒に写った写真は、私もほしい。
    確かに駅前でも撮ったけど、デク君との想い出は、多ければ多いほど嬉しい。

    だから、ちょっと頑張ってみる。

    「デク君、みんなの言う通りだよ。写真撮ろうよ」
    「うん、そうだね。ちょうどいい場所だし、撮っておこう」

    デク君が携帯を片手に、誰か頼めないかと探している。
    ちょうど通りがかったヒーローに近寄った。


    「あれ……風間君じゃん、久しぶり!」
    デク君が凄く嬉しそうに声をかけている。
    私には面識がないけど、知ってる人だろうか。
    デク君よりも背が高く、がっしりとした身体をしている。
    顔はまだ学生の面影が残る、若々しさを感じさせるヒーローだった。

    「えっ、緑谷先生!? うわぁ、お久しぶりです!」
    「久しぶりだね。こんな所で会うなんて思わなかったよ」

  • 163練乳グラブジャムン25/08/12(火) 13:29:23

    その口ぶりで察しがついた。
    おそらくデク君が教員になった以降の、雄英の卒業生なのだろう。
    身長差と顔立ちのせいか、デク君の方が生徒に見えてしまう。

    「風間君はこの辺で働いてるの?」
    「いえ、普段は別のところです。今日は観光地の警備訓練イベントということで、事務所がチームアップを依頼されまして。サイドキックの僕も、こちらに駆り出されたんです」
    そういって、屈託のない笑顔を見せてくれた。
    警備訓練? そんなイベントあったっけ?

    しかし見れば、確かに今日は警官やヒーローの姿が多いような気がする。
    観光地だからそんなものかと思っていた。

  • 164練乳グラブジャムン25/08/12(火) 14:14:43

    「緑谷先生は、彼女様とデートでしょうか?」
    「「はぇっ!?」」
    デートという単語に、私とデク君、二人同時に変な声が出た。
    デク君の顔が真っ赤になる。
    私も頬が上気していくのを感じていた。

    「いやあの、風間君、これはその」
    「すっごい綺麗な人ですね。さすが緑谷先生です」

    さらっと褒められた。更に顔が熱くなる。
    なにこのイケメン。
    最近の子ってみんなこうなの?

  • 165練乳グラブジャムン25/08/12(火) 14:32:58

    「いやいや、違うから! 彼女でもデートでもないから!」
    デク君が必死に説明する。
    そのとおりなのだが、改めて明言されると寂しくなる。

    もうちょっと、こう……上手い言い方してほしいなあ、とか、思ってしまう。
    具体的にどう、というのは、私も思いつかないけど。

    「え、でも……」
    風間君の視線が、私達の繋がれた手に注がれている。
    そりゃ男女で手をつないで歩いているのだから、デートに見られても仕方がない。

    「これは防犯のためだって! ほら、女の子なんだから、ナンパされると困るでしょ! トラブル無い方がいいでしょ!?」
    「こんなところで……ナンパ……?」

    視線を斜め上に上げて考え込んでいる。
    小さく何かを察したように微笑すると、納得したように微笑んだ。
    「いえ、確かにトラブルは無い方が良いですよね。失礼しました」

  • 166練乳グラブジャムン25/08/12(火) 15:20:30

    「……あの、本当に違うからね? 雄英の同級生だから。今日はA組の同窓旅行で、これからまだ他にみんな合流するからね?」
    「はい、大丈夫ですよ。分かりまし…………え、同級生?」
    さっきまでの笑顔はどこへやら、怪訝な顔をされ、私に視線が注がれる。

    「うん、そうだけど?」
    「え……? いや、俺、伝説の元A組の皆様は、全員存じて……あれ? すみません、B組の方ですか?」
    「A組だよ。風間君、何回か授業でも外部講師で来てもらってるよ」
    「え……すみません、こんな綺麗な人いましたっけ?」

  • 167二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 15:32:47

    プロヒーローデクよ、ヒーローが逃げるな

  • 168練乳グラブジャムン25/08/12(火) 15:57:06

    「あの……ウラビティです」
    「はああぁぁ!?」
    おずおずと名乗ると、信じられないモノを見たように驚かれた。
    眼を見開き、口元を抑え、一歩二歩と後ずさり、その視線が、私の頭から足までを、何度も往復している。
    ……なんだろう。

    「あの、風間君……?」
    「いや……え……ええ? あの……ちょ、ちょっとすみません!?」
    携帯を取り出して、画像検索が開かれる。
    入力される『ウラビティ』の文字。
    出てきた画像と、私の顔とを、交互に見比べられる。
    「……本当に、ウラビティさん……? ああでも、本当だ……特徴は確かに……」

  • 169二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 16:36:20

    …めちゃくちゃ失礼じゃないか風間君

  • 170練乳グラブジャムン25/08/12(火) 17:07:16

    「ああそうだ、忘れるところだった。それで風間君。よかったら、写真撮ってくれない?」
    「へ……ええ、もちろん。喜んで」

    考え込んでいた彼が、役目を思い出したかのように、デク君の携帯を受け取った。
    適度な距離を取り、角度を調整して、笑顔をつくる。

    「緑谷先生、ウラビティさん。ご確認お願いします」
    風間君から返された携帯を、二人で確認する。
    橋の中腹で並んで写る私達と、背後に温泉街、遠くに緑の生い茂る山々。橋の下を流れる川が光を反射して、綺麗に写っていた。
    涼し気な風が感じられる、とても素敵な写真だった。

    「うん、ばっちり。風間君、ありがとう」
    「……ところで、緑谷先生。ひとつだけ、よろしいでしょうか?」
    「なに?」

    彼はにっこりと笑い、一言。

  • 171練乳グラブジャムン25/08/12(火) 17:15:23

    「とてもお似合いですよ」

    どきりとした。
    デク君が真っ赤になっている。たぶん私もだ、鏡なんか見なくても分かる。

    「だ、だだ、だから! そういうんじゃないから!」
    自分達二人なら我慢できても、人に言われるとやっぱり恥ずかしい。

    「ええ、分かっています。では、自分はパトロールに戻ります。緑谷先生、お会いできて嬉しかったです」
    「あ、うん……僕も嬉しかったよ。パトロール頑張ってね」
    「はい! 緑谷先生もウラビティさんも、今日は仕事を忘れ、安心してご観光ください。それでは!」

  • 172練乳グラブジャムン25/08/12(火) 18:02:48

    そういうと、風間君は張り切ってパトロールに戻っていった。

    恩師のいる場所で、事件など起こさせない。自分が必ず防いでみせる。
    最後の言葉には、そういう意気込みが滲み出ていた。

    「……自慢の生徒さんやね、緑谷先生?」
    「うん、風間君は凄く優秀だったから。僕が教える事なんて殆ど無かったよ」
    背中を見送るデク君の視線は、とても優しくて。
    いい先生をやっていることが伺える。

    「自分が育てた生徒だ、って自慢していいと思うけど?」
    「そんな偉そうなこと言えないよ。僕は彼に実技訓練してないし」
    「……でも、いきなり目の前で検索されたのは驚いたけど」
    「あ、ごめんね……なんか彼、真面目すぎるというか、ちょっと不器用というか、ストレートなところがあって。相変わらずだったよ」
    「ヒーロー科って、癖の強い人多いもんね」
    「いや最近思うけど、ヒーロー科だけじゃないよ?」
    二人で笑いあった。

  • 173練乳グラブジャムン25/08/12(火) 18:04:04

    「それで麗日さん、とりあえず、これからどうしようか?」
    そう、これまでは、とくに何も考えずに、駅から真っ直ぐ歩いてきただけだった。
    行き先が決まっていない。
    のんびり街をお散歩してもいいけど、それにしたって向かう先は決めておいた方が良い気がする。

    少し考え、行きたい場所があったことを思い出す。


    「ね、デク君。足湯行こうよ」


    ―――― to be continued

  • 174練乳グラブジャムン25/08/12(火) 18:28:01

    コメントくれてる人ありがとうございます。
    次はお茶子が暴走します。

  • 175二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 18:33:50

    次も期待
    デク茶早くくっつけ(n回目)

  • 176練乳グラブジャムン25/08/12(火) 19:01:09

    ■No.457 何度も見たはずだろ

    ※SIDE 緑谷


    川を渡り、南に移動して。
    小さい公園のような場所に、四角い足湯があった。
    丁度ご年配のご夫婦が出たところだった。

    「デク君、あったよ足湯! 入ろ、入ろっ!」
    「うん。僕も足湯ってあんまり入ったこと無いし、楽しみだったんだよね」
    「いやぁ~、下呂温泉だもんね。これは是非とも堪能したかったんだよ。だから今日はタイツやめといたんだ」
    よく見れば、確かに今日は素足のようだ。
    スカートが長かったのもあって気付かなかった。

  • 177練乳グラブジャムン25/08/12(火) 19:40:32

    「下呂温泉は、美人の湯、とも言われていてね、泉質がいいんだよっ」
    「でも麗日さん、肌キレイだと思うけど」
    「うぇっ!?」
    麗日さんの髪が跳ね、頬が染まっていく。

    しまった、思ったことをそのまま言い過ぎたかもしれない。
    「ああ、ごめん……今のセクハラだったかな?」
    「あ、あはは。うへ。いやいや、いいよ、ありがとね。ほら、早く入ろうよ」
    「うん、そうしよう」
    恥ずかしそうではあったが、気にしないでくれたみたいだ。正直助かる。

  • 178練乳グラブジャムン25/08/12(火) 19:52:28

    腰かけて靴を脱いだ。
    「あ、でも……タオル、キャリーケースの中だ。出し忘れちゃった」
    麗日さんが靴を脱ぐのをためらい、手荷物を確認していた。

    「僕持ってきてるから、よかったら使って」
    「いいの?」
    「麗日さんがよければ、全然いいよ」
    「じゃあお言葉に甘えて、入っちゃおう」
    にっこりと笑ってくれた。
    そんな顔を見ると、準備していてよかったと思う。

    ズボンの裾をまくり、靴下を取る。
    お湯に足を浸けると、心地よいお湯の温度と、何とも言えない心地よさに包まれる。
    「は~~~……」
    足先から疲れが溶けていくみたいだ。

  • 179練乳グラブジャムン25/08/12(火) 19:53:49

    「これすごいね麗日さん、お湯が普通と全然違うよ」
    ほんのりトロみがあるというか、ヌルりとしてるというか。
    足をこすり合わせると、スベスベしているというか、触り心地が良くなっている。

    これは確かに肌に良さそうだ。
    美人の湯と言われるだけのことはある。

  • 180練乳グラブジャムン25/08/12(火) 20:05:05

    見ると、麗日さんは、向かいで靴を脱ぎ終わったところだった。
    さっきタオルを探していたせいだろう。
    お洒落な靴だし、スニーカーより脱いだり履いたりするのが大変そうだなあ、と思って眺める。

    「んしょ」
    麗日さんが靴下を取ると、スカートの先から足先があらわになった。
    小さな足に、整えられた五指の爪が艶をもっている。

    ふと違和感が生じた。
    何か、とんでもなく悪いことをしているような、見てはいけないモノを見ているような。
    ……あれ?
    大丈夫か、これ?

  • 181二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 20:06:21
  • 182練乳グラブジャムン25/08/12(火) 20:25:55

    麗日さんがスカートをつまみ、その裾が、するする、とたくし上げられていく。
    日焼けしていない白い肌が陽の下に晒され、膝頭までが顔をのぞかせた。

    すべすべとした、手触りの良さそうな肌。
    マシュマロみたいに柔らかそうなふくらはぎ。
    膝から足首まで魅力的なラインが形成され、いいようのない色香を醸し出している。

    違和感が大きくなる。心臓の鼓動が早くなる。
    ……待って。
    やばい、なんだこれ。

  • 183練乳グラブジャムン25/08/12(火) 20:29:07

    麗日さんが片膝を曲げて、階段を下りるようにして、足先がお湯に向かう。
    スカートが膝上の少し上に移り、太ももが、ほんの少し覗く。
    ちゃぽ、と小さい音を立てて、ゆっくりと、足先からお湯に浸かっていく。

    なぜか自分の身体が硬直し、目の前の光景から目が離せない。
    ……ちょっと待って。
    まずいってこれ。

  • 184練乳グラブジャムン25/08/12(火) 20:31:18

    「あっ、温か~い」
    心地よさそうな麗日さんの声が耳を打った。
    もう一方の足をお湯に浸し、スカートの位置を整えて、腰を下ろした。
    スカートが膝頭までめくられ、奥の太ももが薄っすらと覗く。
    お湯に浸かった膝から下の足を、ゆっくりと動かして、お湯をくぐらせている。
    木枠で組まれた足湯の暗い背景を背に、麗日さんの細い足が、まるで白鯉のように泳いでいる。

    「あ~~、気持ちいい~~~。これいいね~」
    「うん……」
    ふにゃっとした笑顔の麗日さん。
    ガチガチに固まっている僕。

    まずい、本当にまずい。
    まともに返事も出来ない

    目の前の一連の光景に、心臓が、バクバクと変な動きをしている。
    なぜか喉がカラカラに乾いて、思わず生唾を飲み込んだ。

    たぶん今自分は平静を装うために顔が固まってると思う。
    ついでに下腹部に血流が集まるのが分かった。

    本当に勘弁してくれ、そこが硬くなるとマズいんだよ。

  • 185練乳グラブジャムン25/08/12(火) 20:34:56

    いや待て、落ち着け、落ち着け緑谷出久。
    このままじゃ永遠に足湯から出られなくなる。

    そうだ、学生時代を思い出せ。
    麗日さんの足なんて何度も見てきたはずだろ。
    眼を閉じて、記憶を思い出せ。


    毎日見ていた制服姿……は、常にタイツを履いていたな。
    ヒーロースーツ……は、コスチュームで覆われている。

    あとは……あとは……


    ―――― 麗日さんの素足なんて、まともに見たこと無かった!

  • 186練乳グラブジャムン25/08/12(火) 20:40:07

    ダメだ、思い出すんじゃなかった、逆効果だ!

    体育祭のチア姿や文化祭の衣装などで、膝が見えたことはあったと思う。
    でもこんなふうに足先の爪まで露わになったのは初めてじゃないか?
    そりゃそうだ、人間誰だって、普段は靴を履いているんだから、足の先まで見える機会なんかそうそう無い。
    普通の学校なら水泳の授業をするところ、僕らは救助訓練が殆どだったし!
    そんなときはジャージかコスチュームだ。

    いや待て、雄英にもプールはあったんだ。
    使う機会は少なかったけど、ちゃんと水泳の授業もあった。
    だから見た事はあるはずだ。

    そうだ、あるはずだ……けど、だいたい男子と女子で固まるし、そんなに近付くこともなかった。
    林間合宿の前にプールでトレーニングしてた時もあったけど、でもあの時は女子は遊んでて男子はトレーニングで……やっぱり別行動して分かれてた。

    ああっ、ダメだ!
    いずれにせよ、こんな至近距離で素足を見たことなんて、絶対に無い!

  • 187練乳グラブジャムン25/08/12(火) 20:43:26

    お湯に浸かる、健康的な白い素肌。
    美術館の彫刻みたいに芸術的なライン。
    足の爪まで綺麗に整えられている。
    何か、隠しておかなければいけないものを、眼にしてしまっているような。

    そもそも、もういい加減に緊張にも慣れてきたとはいえ、それでも今日の麗日さんは、普段と違って、すごく綺麗なんだ。
    さっき風間君にもビビられたくらいには別人だ。
    目線を合わせられない。

    心臓の動きが更に激しくなる。
    足湯に入ってるだけだろ。
    なんでこんなにドキドキするんだ?
    好きな人だからそう思うのか?

  • 188練乳グラブジャムン25/08/12(火) 20:44:40

    ……あれ? 女性と足湯って入っていいんだっけ?
    そりゃ法律上問題無いんだから、入っていいんだよな。
    いや……だったらこれもう、法律がおかしいんじゃないか?
    足湯って本当に健康に効果ある?
    逆に心臓止まったりしない?

    駄目だ、全然落ち着くことが出来ない。
    何か、他のことを考えよう。

    ……そうだ、みんなに写真を送らないと。

    とはいうものの。
    この状態の麗日さんを、写真で撮って送るのか?

    ……え? それ、ダメじゃない?

  • 189練乳グラブジャムン25/08/12(火) 20:45:47

    なんか……滅茶苦茶に魅力的ではあるんだけど。
    この至近距離で撮った麗日さんの、素足の写真というのは……あまり大勢の人に見せるべきではないというか。

    うん……なんというか、やめておいた方がいいというか……嫌だな。

    少し考え、自分の足の写真を撮って送ることにした。
    たぶんダメ出しされるけど、今は気が紛れれば何でもいい。

    「とりあえず、みんなに写真送っといたよ」
    「うん、ありがとう」

    いったん携帯を触ったおかげか、いくらか落ち着いた。

  • 190二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 20:46:30

    それは独占欲という

  • 191練乳グラブジャムン25/08/12(火) 20:58:13
  • 192二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 21:11:50

    ありがとう・・・

      本当にありがとう・・・・

  • 193二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 21:14:53

    あぁぁ…緑谷の気持ち分かるなぁ…そして、スレ主の文章力に感謝…!

  • 194二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 21:19:21

    今こんな感じ

  • 195二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 21:33:35

    もうこれだけが楽しみであにまんに通ってるぐらいある

  • 196二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 22:08:50

    命削らず長生きしてもっと供給してくれ…(懇願

  • 197二次元好きの匿名さん25/08/12(火) 23:22:52

    高校時代のお茶子って夏はタイツ履いてないし寮の私服ではショートパンツしょっちゅう着てたけど今それを思い出すことができても逆効果になりそうだなこのデクw

  • 198二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 01:39:50

    >>197

    確かに寮でショートパンツで素足だったよなって思った。けど、足先はスリッパ履いてたから確かにそんなに見る機会なかったかも、とも気づいたわ


    続き期待

  • 199二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 02:25:47

    デクよ、別人、は少し失礼な気もしなくはないが…。
    普段からは何もしてないかのような言い方…。
    風間君とやらは失礼すぎる!麗日ウラビティは普段から可愛い美人さんなんだよ!更に綺麗に磨きがかかってるだけなんだよ!と言いたい(ヤバい)
    いや、ウラビティは美人かっこいい、か。

    デクウラビティがお似合い?それはそう(何様)

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