マリー「あなたがたの敵を愛し、迫害する者のために祈れ」

  • 1二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 18:54:51

    トリニティ総合学園の礼拝堂は夜更けの静けさに沈んでいた、ステンドグラスの向こうでは月明かりが淡く揺れ、祭壇の上で灯る一本の蝋燭が孤独に震えている

     その光の前に伊落マリーは膝をつき、祈祷書を開いていた、細い指がページをめくるたび紙の擦れる音だけが響き、彼女の口元から紡がれるのはルカによる福音書の一節

    『あなたがたの敵を愛し、迫害する者のために祈れ』

     その声は澄んでいて、夜の空気を静かに震わせた――その背後から低く笑う声がした

    「……敵を愛せ、か、聖書ってやつは人間の性格をだいぶ甘く見てるな」

     マリーは振り返った、礼拝堂の入り口に先生が立っていた、月明かりに照らされたその姿は、額から頬へ走る大きな傷跡と片方だけ濁った左目を際立たせる。首元から覗く火傷の痕が蝋燭の光に揺れた

    「先生……まだ起きていらしたのですか」

    「眠れねぇ夜ってのは昔話の神様みてぇにしつこく付きまとうもんだ」

     先生は歩み寄り、マリーの隣に腰を下ろした。蝋燭の火が二人の顔を近く照らし出す

  • 2二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 18:56:01

    >>1

    「お前は相変わらず神に熱心だな」


    「ええ、神は私の支えですから」


     マリーの声は静かだったが、その瞳は熱を帯びていた。先生は鼻で笑いもたれながら祭壇の十字架を見上げた


    「……俺の母親もな、日本神話ばっかり教えてきやがった。夜な夜な神拝詞を唱えさせてよ、天照大神はお前を見ている、だとさ」


    「素敵なお母様ですね」


    「いや、ろくでもねぇよ。太陽神の加護なんざ受けてたら、あんな家にはならなかっただろうしな」


     先生の口調は乾いた冗談のようでいて棘があった、マリーは眉を寄せた


    「……家のことを、教えてくださらないのですか」


    「教えても聖書にゃ載らねぇ話だぜ」

  • 3二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 18:57:38

    >>2

     それでもマリーは彼の沈黙を破るのを待った。蝋燭の炎が小さく揺れ、やがて先生は口を開いた


    「父親は酒に溺れたクズで、母親は夜ごと男に抱かれて小銭を稼いでた。俺も……その手伝いをさせられた。神は何も言わなかったよ、お前の聖書みたいに慈しめとも、罰するともな」


     マリーは息を呑んだ、先生は続ける


    「だからな、俺は自分の手であの二人を地獄に送った、イザナミが黄泉に堕ちたってやつよりも、よっぽど惨めな終わり方だったな」


    彼は自らの顔を指差す


    「この傷はな、俺が両親を愛と憎しみで殺した時に自分でつけたんだ。神なんてものを信じていれば、こんな汚れた手は持てなかったかもしれないな」


     そう言って笑ったが、その笑いには痛みが滲んでいた。マリーは祈祷書を閉じ、そっと先生に向き直った


    「……神は時に黙しておられます。けれど、それは見捨てたのではなく、私たちに選ばせるため……と、私は信じています」


    「選ばせる……ね。八百万の神なら、まず酒でも飲ませて適当に流すだろうさ」

  • 4二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 18:59:29

    >>3

    「ふふ……先生の神様はずいぶん気楽なのですね」


    「お前の神様は窮屈すぎる」


     言葉が交わるたび、二人の距離は少しずつ縮まっていく。マリーの心の奥底で、熱がゆっくりと膨らんでいく


     ――なぜ、こんなにも彼を自分だけのものにしたいのか。それは、彼が孤独だから。生まれた家に愛されず、神にも見放されたと信じてしまった人。それでも他人のために身体を張り、傷だらけになりながら立ち続ける人。そんな存在を、誰のものにも渡したくない。彼が世界に居場所はないと思うなら、せめて自分がその唯一の居場所になる、そう決めたから


    「……先生」


    「ん?」


    「神は信じる者を試すために、わざと沈黙されることがあります……私も、同じことをするとしたら」


     先生が答える前に、マリーは膝立ちになり、彼の首へ顔を近づけた、その瞳は、祈りのときの優しさではなく、独占欲に濡れた光を帯びている

  • 5二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 19:01:08

    >>4

    「……マリー?」


    「これは、私の信仰の形です」


     そう囁くと、マリーは先生の首筋に歯を立てた。柔らかな唇の後に、確かな痛みが走り、血の匂いと、蝋燭の火が揺れる音だけが礼拝堂を満たす


     先生は驚きと戸惑いの中で、彼女の細い肩に手を置いた


    「おい……何してやがる」


    「……神様に祈るだけじゃ足りません。私は先生を――この世で誰よりも、私のものにしたいんです」


     その声は甘く、しかし熱に溺れていた。先生は苦笑し、静かに言った


    「……お前の神様も俺の神様も、きっと今ごろ笑ってるな」


     蝋燭の火が小さく揺れ、礼拝堂は再び静けさに包まれた

  • 6二次元好きの匿名さん25/08/13(水) 19:10:23

    くっ!?この言葉しか出てこないぜ!!!

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