【閲覧注意?】山猫記

  • 1セナの角しゃぶり太郎25/08/14(木) 21:08:31

     トリニティのカズサは悪逆非道、中学の末年、若くして名を不良に連ね、ついで頭領に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗すこぶる厚く、自警団に甘んずるを潔しとしなかった。

    いくばくもなく団を退いた後は、故郷、トリニティに進学し、人と交を絶って、ひたすらスイーツに耽った。

    不良となって長く膝を俗悪な正実の前に屈するよりは、キャスパリーグとしての名を早急に消そうとしたのである。

    しかし、異名は容易に忘れられず、挑戦状は日を逐うて多くなる。

    カズサは漸く焦躁に駆られて来た。

    この頃からその容貌も峭刻となり、肉付きぷよぷよで、眼光のみ徒らに炯々として、曾て首領に登第した頃の痩躯の美少女の俤は、何処に求めようもない。

    数日の後、貧乳に堪えず、友人の美食のために遂に節を屈して、再び店へ赴き、特大メロンパフェを奉ずることになった。

    一方、これは、己の体重に半ば絶望したためでもある。

    部活の同輩は既にダイエットに成功し、彼女が昔、鈍物として歯牙にもかけなかった宇沢レイサの挑戦を拝さねばならぬことが、伝説の不良キャスパリーグの堪忍袋を如何に傷つけたかは、想像に難くない。

    彼女は怏々として楽しまず、狂悖の性は愈々抑え難くなった。

    一月の後、私用で旅に出、シャーレのオフィスに宿った時、遂に発情した。

    或る夜半、急に顔色を変えて寝床から起上ると、何か訳の分らぬことを叫びつつそのまま下にとび下りて、闇の中へ駈出した。

    彼女は二度と戻って来なかった。

    金曜日の公式動画を検索しても、何の手掛りもない。その後カズサがどうなったかを知る者は、誰もなかった。

  • 2セナの角しゃぶり太郎25/08/14(木) 21:10:02

     翌年、トリニティ自警団、騒音のレイサという者、勅命を奉じてシャーレに使し、途に百鬼夜行の地に宿った。

    次の朝未だ暗い中に出発しようとしたところ、キキョウが言うことに、これから先の道に反吐が出るような品性下劣な淫乱人喰猫が出る故、旅人は白昼でなければ、通れない。今はまだ朝が早いから、今少し待たれたが宜しいでしょうと。

    レイサは、しかし、供廻の多勢なのを恃み、キキョウの言葉を斥けて、出発した。

    守月の光をたよりに林中の草地を通って行った時、果して一匹の卑し猫が叢の中から躍り出た。

    猫は、あわやレイサに躍りかかるかと見えたが、忽ち身を飜して、元の叢に隠れた。

    叢の中から人間の声で「あぶないところだった」と繰返し呟くのが聞えた。

    その声にレイサは聞き憶えがあった。

    驚懼の中にも、彼女は咄嗟に思いあたって、叫んだ。

    「そ゛の゛声゛は゛、我゛が゛友゛、キ゛ャ゛ス゛パ゛リ゛ー゛グ゛で゛は゛な゛い゛で゛す゛か゛!?」

    レイサはカズサと同年にトリニティの学び舎に登り、友人の少かったレイサにとっては、最も親しい友であった。

    クッソうるさいレイサの性格が、峻峭なカズサの性情と衝突しなかったためであろう。そうかな?そうかも…

     叢の中からは、暫く返辞が無かった。

    しのび泣きかと思われる微かな声が時々洩れるばかりである。

    ややあって、低い声が答えた。

    「如何にも自分は伝説のキャスパリーグである」と。

  • 3二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 21:10:47

    >この頃からその容貌も峭刻となり、肉付きぷよぷよで

    一応矛盾はしてないけど痩せぎすになった原典から逆になっておる

  • 4セナの角しゃぶり太郎25/08/14(木) 21:11:14

     レイサは恐怖を忘れ、車から下りて叢に近づき、懐かしげに久闊を叙した。

    そして、何故叢から出て来ないのかと問うた。

    カズサの声が答えて言う。

    「自分は今や異類の身となっている。どうして、おめおめと故人の前にあさましい姿をさらせようか。かつ又、自分が姿を現せば、必ず君に畏怖嫌厭の情を起させるに決っているからだ。しかし、今、図らずも故人に遇うことを得て、愧赧の念をも忘れる程に懐かしい。どうか、ほんの暫くでいいから、我が醜悪な今の外形を厭わず、曾て君の友カズサであったこの自分と話を交してくれないだろうか。」

     後で考えれば不思議だったが、その時、レイサは、この超自然の怪異を、実に素直に受容れて、少しも怪もうとしなかった。

    彼女は同僚に頼んで車列の進行を停め、自分は叢の傍に立って、見えざる声と対談した。

    都の噂、旧友の消息、レイサが現在の地位、それに対するカズサの祝辞。

    中学時代に親しかった(?)者同志の、あの隔てのない語調で、それ等が語られた後、レイサは、カズサがどうして今の身となるに至ったかを訊ねた。

    草中の声は次のように語った。

    「今から一年程前、自分が旅に出てシャーレのオフィスに泊った夜のこと、一睡してから、ふと眼めを覚ますと、戸外で誰かが我が名を呼んでいる。

    声に応じて外へ出て見ると、声は闇の中から頻りに自分を招く。

    覚えず、自分は声を追うて走り出した。

  • 5セナの角しゃぶり太郎25/08/14(木) 21:12:37

    無我夢中で駈けて行く中に、何時しか途は山林に入り、しかも、知らぬ間に自分は左右の手で地を攫んで走っていた。

    何か身体中に〇欲が充ち満ちたような感じで、軽々と岩石を跳び越えて行った。

    気が付くと、股のあたりに毛を生じているらしい。

    少し明るくなってから、谷川に臨んで姿を映して見ると、既に怪猫となっていた。

    自分は初め眼を信じなかった。

    次に、これは夢に違いないと考えた。

    夢の中で、これは夢だぞと知っているような夢を、自分はそれまでに見たことがあったから。

    どうしても夢でないと悟らねばならなかった時、自分は茫然とした。

    そうして懼れた。全く、どんな事でも起り得るのだと思うて、深く懼れた。

    しかし、何故こんな事になったのだろう。分らぬ。全く何事も我々には判らぬ。

    理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ。

    自分は直ぐに死を想うた。

    しかし、その時、眼の前を一人の先生が駈け過ぎるのを見た途端に、自分の中の人間は忽ち姿を消した。

    再び自分の中の人間が目を覚ました時、先生の体は私の液に塗れ、あたりには先生の服が散らばっていた。

    これが先生の初経験であった。」

  • 6二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 21:13:08

    >守月の光をたよりに林中の草地を通って行った時

    閃光弾をこんなところで浪費するな

  • 7セナの角しゃぶり太郎25/08/14(木) 21:14:19

    レイサは内心、お兄ちゃ…先生の初体験の相手は私ですけどね…と暫し優越に浸った。

    カズサは続ける。

    「それ以来今までにどんな所行をし続けて来たか、それは到底語るに忍びない。

    ただ、一日の中に必ず数時間は、人間の心が還って来る。

    そういう時には、曾ての日と同じく、人語も操れれば、複雑な思考にも堪え得るし、過酷することも出来る。

    その人間の心で、怪猫としての己の残虐な行いのあとを見、己の運命をふりかえる時が、最も情なく、恐しく、憤ろしい。

    しかし、その、人間にかえる数時間も、日を経るに従って次第に短くなって行く。

    今までは、どうして怪猫などになったかと怪しんでいたのに、この間ひょいと気が付いて見たら、己はどうして以前、人間だったのかと考えていた。

    これは恐しいことだ。今少し経たてば、己の中の人間の心は、獣としての習慣の中にすっかり埋もれて消えてしまうだろう。ちょうど、古いアリウスの礎が次第に歴史に埋没するように。

    そうすれば、しまいに己は自分の過去を忘れ果て、一頭の怪猫として狂い廻り、今日のように途で君と出会っても故人と認めることなく、君の服を裂き喰ろうて何の悔も感じないだろう。一体、獣でも人間でも、もとは何か他のものだったんだろう。

    初めはそれを憶えているが、次第に忘れてしまい、初めから今の形のものだったと思い込んでいるのではないか?

    いや、そんな事はどうでもいい。己の中の人間の心がすっかり消えてしまえば、恐らく、その方が、己はしあわせになれるだろう。だのに、己の中の人間は、その事を、この上なく恐しく感じているのだ。

    ああ、全く、どんなに、恐しく、哀しく、切なく思っているだろう!

    己が人間だった記憶のなくなることを。この気持は誰にも分らない。誰にも分らない。己と同じ身の上に成った者でなければ。

    ところで、そうだ。己がすっかり人間でなくなってしまう前に、一つ頼んで置きたいことがある。」

  • 8セナの角しゃぶり太郎25/08/14(木) 21:15:24

    レイサはじめ一行は、息をのんで、叢中の声の語る不思議に聞入っていた。声は続けて言う。

    「やらないか♀」

    「恥ずかしいことだが、今でも、こんなあさましい身と成り果てた今でも、己は、レイサをレイサしている様を、夢に見ることがあるのだ。

    岩窟の中に横たわって見る夢にだよ。

    嗤ってくれ。不良に成りそこなって猫になった哀れな女を。」

    レイサは昔の少女カズサの〇癖を思出しながら、戦慄していた。

     時に、守月、態度冷やかに、白露は地に滋く、提督に跨る時津風は既に暁の近きを告げていた。

    人々は最早、事の奇異を忘れ、粛然として、この怪猫のまな板を嘆じた。

    カズサの声は再び続ける。

  • 9二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 21:15:27

    1のコテハンが強すぎて内容が入ってこない

  • 10二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 21:16:33

    ちょいちょいツッコミどころあって笑ってしまうんだよな
    どうなるんだ

  • 11二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 21:17:22

    一月の後遂に発情したとこでツボって読めない

  • 12セナの角しゃぶり太郎25/08/14(木) 21:17:48

    「何故こんな運命になったか判らぬと、先刻は言ったが、しかし、考えように依れば、思い当ることが全然ないでもない。人間であった時、己は努めて人との交を避けた。人々は己を倨傲だ、尊大だといった。

    実は、それが殆どソロ過酷のためであることを、人々は知らなかった。

    勿論、曾ての郷党の鬼神といわれた自分に、自尊心が無かったとは云わない。しかし、それは臆病な自尊心とでもいうべきものであった。己は過酷によって名を成そうと思いながら、進んで師に就いたり、求めて戦友と交って切磋琢磨(意味深)に努めたりすることをしなかった。

    かといって、又、己は俗物の間に伍することも潔しとしなかった。共に、我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心との所為である。

    己の珠に非ざることを惧れるが故に、敢えて刻苦して磨こうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々として瓦に伍することも出来なかった。己は次第に世と離れ、人と遠ざかり、憤悶と慙恚とによって益々己の内なる臆病な自尊心を飼いふとらせる結果になった。

    人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の〇癖だという。己の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。ネコだったのだ。

    これが己を損い、友人を苦しめ、先生を傷つけ、果ては、己の外形をかくの如く、内心にふさわしいものに変えてしまったのだ。今思えば、全く、己は、己の有っていた有り余るばかりの〇欲を空費してしまった訳だ。

    人生は何事をも為さぬには余りに長いが、何事かを為すには余りに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事実は、性技の不足を暴露するかも知れないとの卑怯な危惧と、刻苦を厭う怠惰とが己の凡てだったのだ。

    己よりも遥かに乏しい才能でありながら、それを専一に磨いたがために、堂々たる詩家となった者が幾らでもいるのだ。怪猫と成り果てた今、己は漸くそれに気が付いた。

  • 13セナの角しゃぶり太郎25/08/14(木) 21:19:00

    それを思うと、己は今も胸を灼かれるような悔を感じる。己には最早人間としての生活は出来ない。まして、己の頭は日毎に怪猫に近づいて行く。どうすればいいのだ。己の空費された過去は?

    己は堪らなくなる。そういう時、己は、向うの山の頂の巖に上り、空谷に向って吼える。この胸を灼く悲しみを誰かに訴えたいのだ。己は昨夕も、彼処で月に向って咆えた。誰かにこの苦しみが分って貰えないかと。

    しかし、先生は己の声を聞いて、唯、懼れ、逃げ出すばかり。

    リオもチェリノもホシノもナグサも、一頭の怪猫が怒り狂って、哮っているとしか考えない。

    マリーと交わりサクラコに伏して嘆いても、誰一人己の気持を分ってくれる者はない。ちょうど、人間だった頃、己の傷つき易い内心を誰も理解してくれなかったように。

    己の過酷の濡れたのは、夜露のためばかりではない。」

    漸く四辺の暗さが薄らいで来た。

    木の間を伝って、何処からか、暁角が哀しげに響き始めた。

    最早、別れを告げねばならぬ。酔わねばならぬ時が、近づいたから、と、カズサの声が言った。

    「だが、お別れする前にもう一つ頼みがある。それは我が部員たちのことだ。彼女等は未だトリニティにいる。

    固より、己の運命に就いては知る筈はずがない。

    君がシャーレから帰ったら、己は既に死んだと彼女等に告げて貰えないだろうか。

    決して今日のことだけは明かさないで欲しい。厚かましいお願だが、彼女等の孤弱を憐れんで、今後とも道塗に飢凍することのないように計らって戴けるならば、自分にとって、恩倖、これに過ぎたるは莫ない。」

  • 14セナの角しゃぶり太郎25/08/14(木) 21:20:12

    言終って、叢中から慟哭の声が聞えた。レイサもまた涙を泛かべ、欣んでカズサの意に副いたい旨を答えた。

    カズサの声はしかし忽ち又先刻の自嘲的な調子に戻って、言った。

    「本当は、先ず、この事の方を先にお願いすべきだったのだ、己が人間だったなら。飢え凍えようとする友人のことよりも、己の拙い過酷の方を気にかけているような女だから、こんな獣に身を堕とすのだ。

    そうして、附加えて言うことに、レイサがシャーレからの帰途には決してこの途を通らないで欲しい、その時には自分が酔っていて故人を認めずに襲いかかるかも知れないから。

    又、今別れてから、前方百歩の所にある、あの丘に上ったら、此方を振りかえって見て貰いたい。自分は今の姿をもう一度お目に掛けよう。

    勇に誇ろうとしてではない。我が醜悪な姿を示して、以って、再び此処を過ぎて自分に会おうとの気持を君に起させない為であると。」

    レイサは叢に向って、懇に別れの言葉を述べ、車に乗った。

    叢の中からは、又、堪え得ざるが如き悲泣の声が洩れた。

    レイサも幾度か叢を振返りながら、涙の中に出発した。

    一行が丘の上についた時、彼女等は、言われた通りに振返って、先程の林間の草地を眺めた。

    停車する前に余所見をした為、一行は事故を起こして車から投げ出された。

    忽ち、一匹の怪猫が草の茂みから道の上に躍り出たのを彼女等は見た。

    怪猫は、レイサをレイサした。

    その後、なんやかんやで二人は幸せなキスをして終了した。

  • 15二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 21:21:11

    めでたしめでたし

    良い話だった

  • 16二次元好きの匿名さん25/08/14(木) 21:31:23

    いやー面白かった
    中島敦キム・ヨンハ説、興味深いですね

  • 17二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 00:35:37

    >>7より

    「レイサは内心、お兄ちゃ…先生の初体験の相手は私ですけどね…と暫し優越に浸った。」


    つまりレイサと先生が近親でかつ初めての夜を過ごしているって事でOK?

  • 18二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 01:48:51

    急に時津風が提督に跨っててツボに入った

  • 19二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 02:35:08

    >>13

    マリーと交わり…

    マリーと交わり!?

  • 20二次元好きの匿名さん25/08/15(金) 02:56:22

    いつだったかのメロスセイアスレの人か?

スレッドは8/15 12:56頃に落ちます

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