【cp閲覧注意】#5_最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった

  • 1練乳グラブジャムン25/08/18(月) 12:10:58

    続きモノになります。
    初めての方は初期スレからご覧いただくとより楽しめるかと存じます。
    諸々の注意書きも初期スレにありますので併せてご確認ください。

    このスレはコメントフリーです。
    是非とも盛り上げていただければ幸いです。
    いつもコメントしていただいている方、ありがとうございます。
    大変励みになっております。
    引き続きよろしくお願いします。

  • 2練乳グラブジャムン25/08/18(月) 12:12:58

    初期スレ

    【cp閲覧注意】最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった#1|あにまん掲示板●注意点1・原作最終話、No.431の後日談です。このため本作は、原作に継続するナンバリングで記載します。(第一話がNo.432、第二話がNo.433、と進みます)・原作コミック最終巻までのネタバレが…bbs.animanch.com

    収録No


    ~導入編~

    ■No.432 相談事

    ■No.433 怖くなってしまうのは

    ■No.434 困ったときは


    ~拡大編~

    ■No.435 それは偽物だろ

    ■No.436 第一回 恋仲発展プロジェクト会議

    ■No.437 まだ足りない

    ■No.438 第二回 恋仲発展プロジェクト会議


    ~準備編~

    ■No.439 喜ぶ顔が好きだから

    ■No.440 silent communication

    ■No.441 麗日お茶子・ドレスアップ

  • 3練乳グラブジャムン25/08/18(月) 12:14:16

    過去スレ#2

    【cp閲覧注意】#2_最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった|あにまん掲示板続き物です。初めての方は初期スレからご覧いただくことを推奨いたします。諸々の注意書きも初期スレにありますので、併せてご確認ください。初期スレhttps://bbs.animanch.com/board…bbs.animanch.com

    収録No


    ~準備編~

    ■No.441 麗日お茶子・ドレスアップ(続き)

    ■No.442 realized

    ■No.443 緑谷出久・ドレスアップ

    ■No.444 イメージトレーニング

    ■No.445 第三回 恋仲発展プロジェクト会議

    ■No.446 星空のひとつ

    ■No.447 全力の包囲網

    ■No.448 麗日お茶子・スタイルアップ

  • 4練乳グラブジャムン25/08/18(月) 12:15:46

    過去スレ#3

    【cp閲覧注意】#3_最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった|あにまん掲示板続きモノになります。初めての方は初期スレからご覧いただくとより楽しめるかと存じます。諸々の注意書きも初期スレにありますので併せてご確認ください。このスレはコメントフリーです。是非とも盛り上げていただけ…bbs.animanch.com

    収録No

    ~準備編~

    ■No.449 麗日お茶子・メイクアップ


    ~舞台編~

    ■No.450 Pumpkin carriage

    ■No.451 絶妙なタイミング

    ■No.452 全国共通で笑顔を作る合言葉

    ■No.453 大義名分の嵐

    ■No.454 何もしなくて済むのが最善

    ■No.455 やりたかったこと

    ■No.456 傍目には

    ■No.457 何度も見たはずだろ

  • 5練乳グラブジャムン25/08/18(月) 12:16:54

    過去スレ#4

    【cp閲覧注意】#4_最終巻No.431の続きを、命削って全力で書いたらこうなった|あにまん掲示板続きモノになります。初めての方は初期スレからご覧いただくとより楽しめるかと存じます。諸々の注意書きも初期スレにありますので併せてご確認ください。このスレはコメントフリーです。是非とも盛り上げていただけ…bbs.animanch.com

    収録No

    ~舞台編~

    ■No.457 何度も見たはずだろ(続き)

    ■No.458 周りをみんな笑顔にしてしまう

    ■No.459 最高の調味料は

    ■No.460 あっ(察し)

    ■No.461 One slash Two

    ■No.462 Melty

    ■No.463 また絶対に

    ■No.464 思い出すために

    ■No.465 一番早いのは誰?

  • 6練乳グラブジャムン25/08/18(月) 12:52:08

    ■No.465 一番早いのは誰?(続き)

    ※SIDE 緑谷


    今すぐ走って逃げ出したいような気分だ。
    でも手を繋いでるからそれも出来ない。
    そういえばさっき、クレープ半分こしたんだよ。
    一番特別な人と、この子と、クレープを、麗日さんと……

    いやいやいや、マズいって。
    よく考えたら何やってるんだ。
    手を繋いで、クレープ半分こして……これもう、やってることが完全に恋人同士じゃないか。
    そういえば小さい子供を眺めて子供何人欲しいみたいな話もしたし、いま結婚式の話してるし、いや本当にちょっと待って、何だこれ。

    何でそんな話が自然に出てくるんだよ。

  • 7練乳グラブジャムン25/08/18(月) 13:24:31

    「あ……あっははは……ごごご、ごめんね、デク君」
    「え?」
    麗日さんが、他所に目線だけ移しながら、空いた片手で髪をくしくしといじっている。

    「あの。えっと。私が。けっけけ、結婚式がどうの、なんて話したから……なんか、あの……なんか、変な感じになっちゃって……!」
    「あ……あああ、いやいやいやいや! ごめん、僕も同じ話してたし! 麗日さんが謝ることじゃないっていうか!」
    「へ、変な意味やないからっ! 世間話、世間話だよね!」
    「大丈夫! 分かってる! 世間話! 大丈夫だから! 僕の方こそごめん!」

  • 8練乳グラブジャムン25/08/18(月) 14:28:47

    お互いに謝りあって、ようやく再び歩き出せた。

    「あー、あはは……私、へ、変な話、しちゃったなあ」
    「いや、それはもう、たまたま結婚式してる人、見ちゃったせいだし……」
    「はは……ははは……え、えーと……今日、晴れてよかったよね……」
    「うん、ほんとに……ずっといい天気で助かった……」
    「ね、ね~。雨降ったら、食べ歩き、出来なかったもんね……」
    「そうだよね。いろいろ美味しかったし……あー……晴れて良かったなあ……」

  • 9二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 15:06:26

    構わんヤれ(何をとは言わん)

  • 10二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 15:09:18

    教会「仕方ねえなあ、俺の方から行ってやるよ!」

    神社「待て待て!お茶子ちゃんなら神前式もアリだろ!」

  • 11練乳グラブジャムン25/08/18(月) 15:39:33

    二人で、手を繋いで、宿への道を歩く。
    お互いに、相手の顔を見ることが出来なくて。
    今日一番、何を話せばいいかが、分からなくて。
    何故かすごく、繋いだ手が熱くって、誰の手かを意識してしまって。

    麗日さんは、誰が好きなんだろう。
    誰と結婚するんだろう。
    ウエディングドレスを着た麗日さんは、どれだけ綺麗なんだろう。

    そのとき、隣にいるのが……僕だったらいいのに。

    麗日さんと手を繋いで歩く、宿への坂道。
    ただ宿へ向かうその道が、どこか、違う世界に続いてるように感じられた。


    ―――― to be continued

  • 12練乳グラブジャムン25/08/18(月) 16:32:09

    結婚式目撃エピソードでした。
    この回を書いてた時の裏話なのですが、実はもっと早く会話を終わらせる予定でした。
    ……が、何故かキリよく二人の会話が終わらず、延々とこんな会話を続けてくれるので、話をまとめるのが苦労しました。

    さてようやく宿に行けました。
    まだ舞台編は続きます。
    引き続きお付き合いよろしくお願いします。

  • 13二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 16:42:36

    押せよそこは! と誰もが突っ込みを入れたくなるもだもだ感よ…だからこそ今こうなってるわけだけど
    ここからどう転ぶのかな

  • 14練乳グラブジャムン25/08/18(月) 19:00:37

    ■No.466 ひとりぼっちの二人

    ※SIDE 緑谷


    宿に到着し、みんなに連絡した。
    先にチェックインを済ませてくれという事だったので、お言葉に甘えることにする。
    フロントで、麗日さんと、それぞれチェックインの手続きを行う。
    預けていたキャリーケースも渡してもらえた。

    実は、少々勘ぐってしまっていた。
    まさか一部屋じゃないよな……と。
    みんなで僕と麗日さんを、からかっているのではないか、と。

    でも部屋は、ちゃんと男性と女性で一部屋ずつ分かれていた。
    僕の前に鍵が置かれ、隣で麗日さんも鍵を受け取っている。

  • 15二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 19:09:41

    アハハ勘が合ってればなんか先読めてきたぞ〜?

  • 16練乳グラブジャムン25/08/18(月) 19:24:49

    フロントの人に、同室の飯田君がまだ来ていないことを確認され、後から来るという旨を伝える。
    隣で麗日さんが、梅雨ちゃんと芦戸さんの予定について話している。
    もう疑いようがない、ちゃんと飯田君たち、みんなの予約も入っていたんだ。
    少しでもクラスメイトを疑ってしまった事を、申し訳なく思った。

    「ところで、お食事はお部屋でお召し上がりいただくのですが、皆さん一緒にお召し上がりと伺っております。緑谷様と飯田様のお部屋に運ばせていただきますが、宜しかったですか」
    「はい、よろしくお願いします」
    せっかく集まるのだ。みんな一緒に食べた方が良いに決まっている。
    最初は宴会場だと聞いていたことを思えば、随分こじんまりしてしまったけど。
    男部屋でいいのかと一瞬思ったが、女性の部屋に入り浸るのも憚られた。

  • 17練乳グラブジャムン25/08/18(月) 19:54:06

    「じゃあ麗日さん、また後で」
    「うん、荷物置いたら、そっちの部屋に行くね。何号室?」
    「ここだよ。麗日さんは?」
    「ほい。こちらです」
    お互いにキーを見せあうと、同じ階だった。番号も近そうだ。
    考えてみれば、一緒に食事をするんだし、部屋を近くするのは当然か。

    「同じ階だし、一緒に行こうか」
    「そうだね」
    エレベーターに乗り、客室に向かう。
    部屋番号の書かれたプレートを頼りに進むと、お互いの部屋は、ちょうど廊下を挟んで向かい合わせだった。

    「じゃあデク君、荷物置いたらそっち行くね」
    「うん、分かった」

  • 18二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 19:57:48

    ふひひひひひ

  • 19二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 20:17:19

    部屋に入ると、落ち着いた和室の部屋だった。
    奥の寝室と、手前の居間との二間に分かれており、既に寝室には布団が敷かれている。
    疲れた人はそのまま休めるようになっているのだろう、二間あるからこそできる準備だ。
    布団はきちんと二枚。自分と、飯田君の分だ。
    三枚無いところをみると、かっちゃんのキャンセルは準備をする前に間に合ったのだろうか。

    一般的な旅館の和室は一部屋一間だと思う。
    襖があり、二間ある部屋は、かなり豪華なイメージがある。これは色々と手配してくれた飯田君に感謝しないと。
    窓の外には、今日歩いてきた街並みと、遠くに景観のいい山々の景色が広がっていた。
    窓を開ければ心地よい風が吹き込むだろう。

  • 20二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 20:41:27

    2枚あるなら2人寝れるな!(誰ととは言わない)

  • 21練乳グラブジャムン25/08/18(月) 20:58:01

    荷物を置いて一息つく。16時を過ぎたところだった。
    駅を降りてから、まだほんの少ししか経っていないような気がしている
    電車で移動し、およそ半日、街中を歩いた。
    多少は疲れているはずなのに、疲労も一切感じていない。

    ふと、左手を見る。
    麗日さんとずっと繋いでいた手。
    まだその手の温もりが残っている。
    今日一日のことを思い出す。

    一緒に歩いた道。
    一緒に入った足湯。
    一緒に食べた食事。
    一緒に選んだお土産
    そして、一緒に半分こしてくれたクレープ。

    ずっと隣で、眩しいほどの笑顔を見せてもらった。
    時折いい匂いがして、心を落ち着けるのに必死だった。
    会話の度に耳を揺らす声音が、風鈴のように素敵だった。

    本当に……夢みたいに、最高の時間だった。

  • 22練乳グラブジャムン25/08/19(火) 00:11:39

    ふと、やりたかったことを思い出す。
    携帯を取り出し、壁紙の設定画面を開く。

    さっき撮った写真。
    クレープを中心に置いた、麗日さんとのツーショット。
    最高に素敵な麗日さんの笑顔。
    それを設定する。
    これでよし。
    いつでもこの笑顔が手元で見られる。

    「ねえ、デクくん?」
    「ぉぅうわぁ!?」
    突然声をかけられて、文字通りひっくり返った。
    いつの間にか麗日さんが部屋に入っていた。
    おそらく部屋に入る前に声をかけてくれたのだろうが、全く気付かなかった。

  • 23練乳グラブジャムン25/08/19(火) 05:09:09

    「ご、ごめん……そんな驚くと思わんくて」
    「いや、僕の方こそ。考え事してて……ごめんね」
    あまりの驚きに、心臓が早鐘を打っている。
    ついさっきまで手を繋いで歩いていたのだと思うと、妙に緊張して仕方がない。
    携帯の画面見られてないよね……?

    「ねえデク君、LINK見た?」
    「え?」
    そういえば通知が入っていたけど、壁紙の変更を優先していて確認していない。
    皆の予定はどうなったのだろうか。

  • 24二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 06:02:55

    壁紙を付き合ってもない女子とのツーショットにするとはデクくんやりますなぁ…ニヤニヤ

  • 25練乳グラブジャムン25/08/19(火) 06:40:35

    【元A組グループ】

    飯田天哉
    『すまない。ヒーロー協会から急な呼び出しがあって行けなくなった。キャンセルの連絡は宿に入れておいたよ』


    「えええええええ!?」
    来るはずの男性メンバー、最後の一人が消えた。
    ちょっと待ってくれ、という気持ちが沸き上がる。


    【元A組グループ】

    デク
    『嘘でしょ? 飯田君が企画してくれた旅行なのに!』
    飯田天哉
    『本当に申し訳ない。埋め合わせは必ずさせてもらうよ』
    セロファン
    『仕事入っちまったか。まあ仕方ないよな』
    デク
    『そうだよね、無理言ってごめん。お仕事頑張ってね』

  • 26練乳グラブジャムン25/08/19(火) 07:57:50

    「……はぁ。一人ぼっちかあ」
    断腸の思いでコメントしたが、残念な気持ちは変わらない。
    これで今日、この部屋で寝るのは自分一人だ。
    途端に寂しさが押し寄せる。
    今日は修学旅行みたいに、みんなで布団に入って、意識が落ちるまで話そうと思っていたのに。
    せめて今日来る予定だった、かっちゃんと飯田君と話したかった。

    「みんなと話しながら夜更かししたかったな……飯田君だけでも来てくれたら……」
    項垂れていると、更にLINKの通知音が鳴った。

  • 27練乳グラブジャムン25/08/19(火) 08:08:19

    【元A組グループ】

    梅雨ちゃん
    『ごめんなさい。いま呼び出しが掛かってきたの。私も次の駅で、帰りの電車に乗り換えてとんぼ返りするわ』
    Pinky
    『こちらも小森ちゃんから応援要請あり! ごめんね!』
    ウラビティ
    『うそでしょ!?』
    デク
    『こんな事ある!?』
    烈怒頼雄斗
    『急な出動はヒーローあるあるだ、どうしようもねえよ』
    Pinky
    『私も行きたかったー! 皆、気持ちは一緒だよ。お土産話よろしく!』

  • 28練乳グラブジャムン25/08/19(火) 08:25:25

    隣の麗日さんに視線を移す。
    「あはは……私も一人ぼっちだ。夜は女の子トークしたかったな」
    とても残念そうだ、すごく寂しそうに見える。

    これではお互い、一人暮らしのアパートと変わらない。風情のいい旅館も、急に色褪せてしまったように感じられた。

    とはいえ麗日さんに、じゃあこの部屋で一緒に、なんて事は口が裂けても言えない。
    もちろん何かするつもりなど毛頭無いのだが、そんな提案をすること自体が、非常識極まりないような気がしてならない。

  • 29練乳グラブジャムン25/08/19(火) 09:11:33

    「あ、そうだ。デク君。食事ってこっちの部屋だよね。こっちの方が景色良くていいね」
    「そうなの?」
    「うん。ちょっと見てみる?」
    そう言われると気になる。向かいの部屋に行って見せてもらう事にした。
    入るときに、女子の部屋だよな……と少し躊躇ったが、今は誰もいないし、普段は男女関係なく様々な人が泊まっている。
    別に窓の外を見るだけなのだし、気にせずお邪魔することにした。

    少々緊張して入ったが、部屋の隅にぽつんと麗日さんの荷物が置かれているだけで、自分のいる部屋とレイアウトは一緒だった。
    奥の寝室には布団が三枚敷かれている。

  • 30練乳グラブジャムン25/08/19(火) 11:52:34

    ただ、窓の外の景観はそれほどでもない。
    すぐ正面が、山壁が全面にそびえ立っており、木々が茂っている。
    圧迫感がある、とまでは言わないが、遠くが見えないという意味で、どこか閉塞感を感じた。
    先ほどまで自分がいた部屋の景観を見てしまったから、尚更そう感じる。

    「これは……確かに僕の部屋の方が景色良いね」
    「でしょ? これはちょっと残念やね」
    「……もし良かったら、部屋替わろうか?」
    どうせ誰もいないし、まだ部屋に入っただけで、何も使っていない。荷物だけ移せば、部屋を交換するのはすぐ終わる。
    麗日さんに少しでもいい景色を楽しんでほしかった。

    「ええよ、そんな。どうせ食事はそっちで楽しめるんやし。ご飯食べ終わったら、日も落ちて外真っ暗だろうし」
    とりあえず戻ろう、という事で、先程までいた、自分の部屋に移る。

  • 31練乳グラブジャムン25/08/19(火) 12:17:45

    窓際、広縁の座椅子に、二人で向かい合うように腰かける。
    何となく、二人で外の街並みに目を向けていた。

    道行く人々。浴衣姿の人もいる。
    子供連れの家族が楽しそうに歩いているのが印象的だ。
    パトロールをしているヒーローや警官の姿もあった。

    「本当に、いいところだよ……みんな来れればなあ」
    「そうだよねえ。ほんと、それだけは残念やったね」
    のどかで落ち着いた時間を楽しみながら、残念な気持ちが募る。

  • 32練乳グラブジャムン25/08/19(火) 12:19:17

    しばらく二人で他愛のない会話を続けていると、部屋の備え付け電話が鳴った。

    「なんだろう。ちょっと待ってて」
    麗日さんを広縁に残し、電話を取る。
    「はい、もしもし?」
    『お休みのところ失礼いたします。フロントの者ですが』
    「はい、なんでしょうか?」
    『お夕飯は皆さまお揃いになってから、というお話しでしたが、先程お連れ様が全員キャンセルとなってしまったようでしたので』
    「ああっ、そうか、そうですね、はい。すみません、ご連絡してなくて」
    『いえ、大丈夫でございます。それで、改めてお夕飯のお時間についてなのですが。先にご入浴されるお時間もあるでしょうから、だいたい何時くらいからスタートが宜しいでしょうか?』

  • 33練乳グラブジャムン25/08/19(火) 12:47:13

    「あ、先にお風呂入った方がいいですか?」
    『基本的にはお客様の自由ですので、どちらでも構わないのですが……ただ、お食事後にそのままお休みになられる方も多いので、先にご入浴いただく方がよろしいかと』

    確かに、食べてから動くのは億劫かもしれない。
    そのまま寝てしまって、せっかくの温泉を堪能できなかったら勿体ない。
    先にお風呂を済ませてしまう方が良い気がする。
    食後に入りたかったら、また入ればいいわけだし。
    「あ~……ちょっと待ってもらっていいですか?」

  • 34練乳グラブジャムン25/08/19(火) 13:25:38

    受話器に手を当て、麗日さんに伺いをたてる。
    「麗日さん、ちょっといい?」
    「どうしたん? 宿の人だよね?」
    「そう、フロントから。食事の時間なんだけど、お風呂入った後の方がいいよね?」
    「あ、そっか……うん、そうだね、先にお風呂済ませちゃおうか」
    「食事の時間どうする? 18時くらいから用意してもらう感じで、その前にお風呂行ってこようか」
    「うん、そうしようよ。時間的に丁度いいよね」

    宿の人に時間を伝え、受話器を降ろす。
    「じゃあ、お風呂行こうか。18時集合ということで」
    「そうだね、折角の温泉だし。日本三大名泉を堪能してこよう」

    二人で気を取り直し、お風呂に向かう事にする。
    麗日さんも準備のため、部屋を後にした。

  • 35練乳グラブジャムン25/08/19(火) 14:43:52

    タオルを用意し、浴衣に着替えながら、思考を切り替える。

    確かにみんな来れなくなってしまった。
    でも逆に考えてみれば、麗日さんまでキャンセルにならずに済んだ。
    本当に一人で取り残されたら目も当てられないところだった。

    今日一日、嫌な顔一つせず、ずっと一緒にいてくれた麗日さん。
    おかげで本当に楽しかった。
    この旅行が楽しめているのは、全部麗日さんのおかげだといっても過言じゃない。

    彼女の信頼に応えなければならない。
    間違っても、決して変なことはしまいと心に誓い、部屋を後にした。

  • 36二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 14:53:55

    それは変なことじゃないからしてもいいぞ(野次)

  • 37練乳グラブジャムン25/08/19(火) 16:19:37

    ※SIDE 麗日


    デク君の部屋を後にし、向かいの女子部屋に戻って、入浴の準備をする。
    先に浴衣に着替えた方が楽だと思い、服を脱ぎ、下着の上に浴衣を羽織った。

    キャリーケースを開け、着ていた服を仕舞い、スパバッグを取り出す。
    部屋に置いてあったタオルとバスタオル。持ってきた化粧落とし、化粧水と乳液、メイク用品などを入れていく。

    ふと、キャリーバッグの隅に、勝負下着の小分け袋が目についた。
    絶対に持ってきて、と念押しされ、しぶしぶ持参していたものだ。

    夜の女子会のときに着て、みんなにお披露目会して。
    お喋りして盛り上がって。
    そうして、先日服を買ってくれたときのお礼を伝えて……
    今夜はそうやって楽しむものだと思っていた。

  • 38練乳グラブジャムン25/08/19(火) 17:45:13

    結局使うこともなかった。
    女の子同士で話したかったな。

    本当に仕方ないけど、こういうこともある。
    みんなお仕事を頑張っているんだ。

    デパートで買った普通の下着をスパバッグに入れて、キャリーケースを閉じる。
    少し残念な気持ちを残しつつ、部屋を後にした。


    ―――― to be continued

  • 39練乳グラブジャムン25/08/19(火) 18:01:34

    コメントしていただいている皆様ありがとうございます。
    楽しんでいただければ幸いです。

    宿に到着しましたので、ここで下呂のデートコースをご紹介します。
    Google MAPなんかでも写真など見られますので、興味ある方はご参考にしてみてください。
    ただ、あくまでお話はフィクション、現実の店舗様は何の関係もないので、その点だけご理解ください。

    ●デートコース
    ・下呂駅
    ・道端(桜苑)
    ・下呂大橋
    ・田の神の足湯
    ・ゆあみ屋(温泉プリン)
    ・かなれ(牛串、お団子、五平餅)
    ・ビーナスの足湯(未入浴)
    ・NITAROU(わらび餅)
    ・鷺の足湯
    ・湯島庵(飛騨牛にぎり3貫)
    ・かえるの滝
    ・市営下呂温泉駐車場(クレープ、近い橋の傍でキッチンカー ※創作の店)
    ・桜苑(お土産のキーホルダー※創作の土産品)
    ・結婚式を挙げている宿(※創作の宿)
    ・和室二間のある宿(※創作の宿)

  • 40二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 19:25:40
  • 41練乳グラブジャムン25/08/19(火) 20:58:38

    ■No.467 自覚してしまったら

    ※SIDE 緑谷


    お風呂は大きく、内風呂に加えて露天風呂があった。
    せっかくだからと露天に入ったが、とても心地よい。
    意識していなかったが、日ごろの疲れが溜まっていたのだろうか。
    疲労がお湯に溶けていくような感覚に、意図せず長い吐息が漏れる。

    肌を触ると、自分のものではないかのようにスベスベしている。
    本当に気持ちがいい。最高にいい温泉だ。
    旅行を企画してくれた飯田君はもちろん、他のみんなにも楽しんでほしかった。
    こうしてお風呂場で話すのも楽しそうだし。
    また企画して、今度こそ、みんなと来たいと思う。

  • 42練乳グラブジャムン25/08/19(火) 22:02:28

    ふと、左手を見やる。
    今日一日、麗日さんとずっと繋いでいた手。
    自分の身体にも関わらず、そこだけ浄化されたかのような、大切なものになったような錯覚を覚える。
    この後部屋に戻れば、おいしい料理がやってくる。

    そして、風呂上がりの麗日さんがやってくる。
    湯上り姿の麗日さん。
    きっと日中とはまた違って、魅力的なんだろうな。

    ――その瞬間、下腹部に血流が集まる気配を感じた。
    無意識だった。

  • 43練乳グラブジャムン25/08/20(水) 00:18:20

    生理現象とはいえ、情けなくなってくる。
    なんでこんな無駄に元気なんだ。
    落ち着け、落ち着け、緑谷出久。
    さすがに男湯の大浴場で股間を大きくするのはマズい。
    いや、股間を大きくするのは、どこであってもマズい事には変わらない。
    だがその中でも、男湯という場所はマズさの限度を超えている。そんな気がする。
    他人からしたら超怖い存在だぞ。

    深呼吸して心を落ち着かせる。
    でも左手の温もりが思い起こされると、そして麗日さんの浴衣姿を思い描くと、どうしようもなく緊張してしまう。
    そして、そんなつもりは無いのに、股間が元気になっていく。

  • 44二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 00:19:50
  • 45二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 05:55:41

    練乳さんも勿論面白いけど一々画像のチョイスが面白いんだよw

  • 46練乳グラブジャムン25/08/20(水) 06:29:18

    本当に勘弁してほしい。
    このままじゃ風呂から出られなくなるぞ。

    苦心した末に、ふと、まわりの男性客を見ることにした。若い人もいれば、お年寄りもいる。
    そして、失礼を承知で……ちらり、ちらり、と、その男性器を見る。
    幸いここは男湯だ。
    利用客の数だけ男性器が見られる。自分には全く興味のないソレが。

  • 47練乳グラブジャムン25/08/20(水) 07:20:13

    数多くの男性器をチラ見していくうちに、自分の股間からは力が抜け、平常時の姿に戻ってくれた。
    一息ついて、落ち着く。
    自分がノンケであることに感謝した。
    あとは余計なことを思い出す前に、さっさと上がることにしよう。
    再び股間がそそり立ってしまったら、出る頃にはのぼせてしまう。

    身体を拭き、脱衣所で扇風機の風を浴びながら、心を落ち着けた。

    麗日さん。
    僕のヒーロー。
    そして、大好きな女の子。

    傷つけたり、怖がらせるなんて論外だ。
    優しくしたい。誠実でありたい。
    誰より大切にするために。

  • 48二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 07:34:32

    誰かノスタル爺呼んでくれ

  • 49練乳グラブジャムン25/08/20(水) 07:59:16

    ※SIDE 麗日


    最高のお風呂だった。
    全身がスベスベになって、お肌が蘇ったように感じる。
    本当なら、もっとゆっくり、時間ギリギリまで入っていたかった。
    しかし、もっと優先することがあって、少し早めにお風呂を出ていた。

    脱衣所で浴衣を纏い、鏡の前で気合を入れる。
    手元にはいくつかのメイク道具が並んでいる。

  • 50練乳グラブジャムン25/08/20(水) 08:27:20

    普段なら、お風呂上りはすっぴんだ。
    だが、今日は違う。
    まだこれから人と会う。
    それも、一番好きな人に。

    三奈ちゃん達に教えてもらった、すっぴん風メイク。
    今までそんな用が無かったから、やってこなかった。
    ほとんど練習出来ていないが、やるしかない。

    別に、何か期待しているわけじゃない。
    でもデク君には、少しでも良い自分を見てほしい。
    ちょっとでも綺麗だと、可愛いと……そう思ってくれたら、嬉しいから。
    それに……昼間に褒めてもらった分、風呂上りにメイクを落としたらガッカリされた、なんていうのも、困るし。

    化粧水。それから乳液。ここまでは普段と一緒だ。

    十分浸透したら、つけたまま寝れるパウダーで肌を整えて。
    まつげにマスカラ。
    眉はパウダーでふんわりと。
    ナチュラルカラーのリップ。

  • 51練乳グラブジャムン25/08/20(水) 09:13:26

    ……上手く出来てるかな。
    綺麗だなって、可愛いなって……思ってもらえるかな。
    ガッカリだけはされたくない。

    顔を右に左に傾けてよくチェックする。
    ……うん、たぶん大丈夫。
    というか、これ以上どうやったらいいか分からない。


    荷物をまとめて、お風呂を後にし、部屋に戻る。
    デク君のいる方ではなく、女子部屋の方だ。

    荷物を置きに来ただけだった。
    用が済んだらすぐに隣の部屋に移動する。
    タオルを物干しにかけ、化粧品などをキャリーケースに戻していく。

    携帯で時間を確認する。
    もう18時になる、そろそろ行かないと。

    だが同時に、携帯を見たからこそ思い出す。
    壁紙をまだ変えていなかった。

  • 52練乳グラブジャムン25/08/20(水) 10:32:36

    憧れがカタチになった写真。
    最高に幸せだった瞬間。
    あの写真に設定しない理由なんて何も無い。

    設定画面を開き、写真を選ぶ。
    クレープを食べたときの、デク君との最高のツーショット。
    すっごく優しい笑顔をしたデク君と、幸せいっぱいの私。

    これを見るだけで温かい気持ちになる。
    自然と顔が緩んでしまう。


    荷物の片付けは済んだ。
    携帯の設定も終わった。
    もう行こう……と思った、その時だった。

    ふとキャリーケースの隅に、持ってきていた勝負下着の袋が目についた。
    さっきも目にした袋。
    今日はもう用が無いもの。

    なのに何故か、その袋に目が止まる。

  • 53練乳グラブジャムン25/08/20(水) 11:42:19

    (将来、緑谷とそういう関係になれたら、どうする?)
    何故か、買った時の会話が頭に蘇る。

    (ガッカリされてもいいの? キレイだねって、喜んでもらいたくないの?)
    そんなの、褒められたいし、喜んでほしいに決まってる。

    (一個だけ。お茶子が一番キレイになれるやつ、探そ?)
    あのとき選んだ、一番いいと思うもの。

  • 54練乳グラブジャムン25/08/20(水) 12:10:30

    でも、今日はその日じゃない。
    まだ付き合ってもいないんだ。
    こんな下着に用なんか無い。

    夜の女子会で、みんなに見せるだけ。
    それで盛り上がって、ちょっとからかわれて、でも皆に褒めてもらって。
    ちょっと自信をもらって、終わる。
    そのために準備したはずだった。
    それ以外の理由なんか無かった。

    でも、なぜか色々と、不思議な事が重なって。
    今ここにいるのは、デク君と私の二人だけだ。

  • 55練乳グラブジャムン25/08/20(水) 12:39:04

    そっか、二人っきりなんだ。

    ……二人っきり。


    ドキッと、胸の奥が小さく跳ねた。
    ……なんで?

    (将来、緑谷とそういう関係になれたら、どうする?)
    (ガッカリされてもいいの? キレイだねって、喜んでもらいたくないの?)
    また、三奈ちゃんの言葉が蘇る。

    まだデク君とは付き合ってもいない。
    寝る部屋だって別々だ、ご飯を食べたら、この部屋に戻ってくる。
    今日はその日じゃない。

  • 56二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 12:39:56

    そもそも避妊具とかないだろうしな

  • 57練乳グラブジャムン25/08/20(水) 13:00:59

    心配しなくても、デク君は本当に優しい人だ。
    天地がひっくり返ったって、女性に乱暴するような人じゃない。
    過去一度たりとも、デク君に怖いことをされたことなんか無い。
    今日だってずっと紳士的で、誠実で、優しかった。

    デク君に何かされる心配は絶対に無い。
    逆に自分から誘惑するなんてことも、絶対に出来ない。
    自分にそんな勇気があったら、八年もしまっておかない。

    だから、絶対に、今日はその日じゃない。

    それなのに、何故か緊張する。
    絶対に無いと、分かってる。


    ……だけど。
    二人っきりなのは、間違いないんだ。


    さっきより、一際大きく、胸が跳ねた。

  • 58練乳グラブジャムン25/08/20(水) 14:48:37

    頭の中で、勝手に冷静に現状が整理されていく。

    昼間もずっと二人っきりだった。
    でもあの時は、まだ誰かが来るんだ、という、賑やかな旅行への期待感があった。
    もうすぐ誰かが来て、デク君と二人だけの時間は終わるんだと思ってた。

    でも、それは覆った。
    みんなキャンセルになってしまって、宿にもその連絡が入ってる。

    もう絶対に誰も来ない。
    ずっと二人っきり。
    この旅行が終わるまで、もう誰も私達の間には入らない。

  • 59練乳グラブジャムン25/08/20(水) 16:12:22

    これからデク君の部屋に行く。
    デク君が一人だけいる部屋に。

    行かないという選択肢はない、行かなきゃご飯が食べられないんだ。
    ちゃんと二人分用意してくれているんだ、全く食べないなんて選択肢もありえない。

    そして、もし仮に……今夜、この部屋が空っぽのままでも……咎める人はおろか、それに気付く人も、誰もいない。
    どうしよう、なにこれ、何でこんな事に……好きな人なのに。

  • 60二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 17:00:39

    過去一度たりとも怖いことをされたことがないって評価めちゃくちゃ好き
    目の前で早口ブツブツされてる時も自分のデータをノートにまとめたページを見せられた時も自傷全開の戦いを見てる時も黒鞭が暴走した時も黒デクにガン逃げされた時も「デクに怖いことされた」とは一切思ってないお茶子なんだよな 理解者や

  • 61練乳グラブジャムン25/08/20(水) 17:45:33

    いまの状況を自覚すればするほど、どんどん鼓動が早くなる。
    冷静に状況を整理する自分と、その状況に混乱する自分がいて……

    これから、男の子の部屋に行く。
    大好きなデク君が、一人だけいる部屋に。
    女の子である私が、一人で、こんな薄い浴衣一枚の姿で。
    他に誰もいないのに。
    あの部屋には、お布団が敷いてあって。
    二人っきりなのに。
    デク君と私、二人だけなのに。

    心臓が早鐘を打って、爆発するんじゃないかというほど激しく動いている。
    とんでもなく緊張してくる。

    あり得ない。私は必ずこの部屋に帰ってくる。
    今日はその日じゃない。絶対違う。
    まだ付き合ってもいない。それどころか気持ちを伝えてもいない。
    デク君は絶対に変な事をしない。
    私にもそんな勇気はどこにも無い。
    だから絶対に、絶対に、絶対に変な事にはならない。

  • 62練乳グラブジャムン25/08/20(水) 18:53:40

    ご飯を食べるだけ。
    ちょっとお話するだけ。
    それがどうやったら、私が部屋に戻ってこないなんて事態が起こるのか?
    ありえない。
    絶対にありえない。

    分かっているのに、温泉で温まった身体が、なぜか入浴時より火照っていく。
    勝負下着が入った袋から目が離せない。
    なんで? いらないのに。
    今日はその日じゃないのに……

    こんな恥ずかしい下着なんて着なくていい……年頃の男女が二人っきり。
    まだ付き合ってないんだから……他に誰もいない、誰も気がつかない、誰も止めない。
    ご飯を食べるだけ……お布団が敷いてある部屋で、浴衣一枚で。
    絶対にありえないのに……大好きなデク君と、ずっと二人っきり。

    頭の中がぐるぐるして、考えがまとまらない。
    目の前にある勝負下着の袋が巨大化したみたいに、ほかの物が何も視界に映らない。

  • 63二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 18:59:22
  • 64練乳グラブジャムン25/08/20(水) 19:44:14

    そっと、周囲を見渡す。
    当たり前だが、部屋の中には誰もいない。
    その、誰もいないことを確認したかった。

    誰もいない。
    誰も見ていない。
    今しかない。
    もし着るなら今が最後のチャンス。
    後悔してからじゃ遅い。
    ガッカリされたら取り返しが付かない
    誰にもバレない。
    一番キレイになれるもの。

    そんな言葉が次々と頭に浮かんでは流れていく。

    おそるおそる、何かに導かれるように、キャリーケースから勝負下着の袋を手に取る。
    かさっ、という小さな袋の音が、やけに響いた。

  • 65練乳グラブジャムン25/08/20(水) 20:15:49

    そのまま、そっと扉に近づく。
    静かに、そうっと、慎重に、音がしないように。
    部屋の鍵とチェーンをかける。
    静かにドアノブを回して、絶対に開かないことを確認する。
    広縁に向かい、窓の鍵を確認して、開かない事を確かめる。
    更にカーテンを閉める。ついでに障子も閉めて、完全に部屋を閉じる。
    更に更に、念のため、奥の部屋へ。襖も閉める。
    自分以外に誰もいない、絶対誰にも見られない安全圏をつくる。

    そこまでやってきて、そっと、勝負下着の袋を開いた。

    「……いや、そういうんじゃないから。いや全然アレちゃうし」
    何故か少し震えた声。
    浴衣の帯を取りながら、誰にも聞こえない独り言が漏れる。

    「別にな、期待しとるとか、そんなんちゃうねんから」
    浴衣を脱いで布団に落とす。
    デパートで買った、何の変哲もない下着を身に着けた、自分の身体に目を向ける。
    なんとなく……色気も素っ気もないような気がする。

  • 66二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 20:26:34

    見えないところもオシャレするのもまた男女問わず心意気だと思います

  • 67練乳グラブジャムン25/08/20(水) 20:30:24

    「ただな……その、困るやん」
    さっきお風呂上がりに着たばかりの下着を脱ぎながら、独り言が続く。

    「デク君も男の子なんやし、その……」
    一糸まとわぬ姿になってから、勝負下着を手に取った。
    何故か顔が茹だっていくのが、自分でも分かる。

    「もしかしたらやけど、その……何がっていうと……えーと……その、何だろ……いや、困ること、あるやん」
    おそるおそる、ショーツをあてがい、腰の横で紐を結ぶ。
    手が震えて、うまく紐が結べない。

  • 68練乳グラブジャムン25/08/20(水) 21:08:23

    「も、もし、その…………そう! チラッと! チラッと、見えたりとか……そしたら、困るやん……うん! うん、うん、うん!」
    手だけじゃなく声も震える。
    紐が細い。本当にこれで良かったんだろうか。

    「そうや、浴衣やもん。隙間から見えることもあるやん。なんか、チラ見えしとるような、そんな人いっぱい居るやん。湯上りの、なんや、自販機の前とか。だら~っとはだけて、下着見えとるようなオバちゃんとかおるやん。あー恥ずかしい。嫌やホンマ」
    ブラに手を通す。手を後ろに回して、頑張って蝶結びを作る。
    ホックじゃなくて紐で結ぶタイプだから難しい。
    このやり方で合ってるんだろうか。
    ズレを整え、手を下ろすと、レースがふわっと腰になびいた。

  • 69二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 21:09:03

    ちゃんと結ばないと後で誰かと一緒にいる時にほどけてしまって気が気じゃない思いをしますよ…誰とは言いませんが…フフ…

  • 70練乳グラブジャムン25/08/20(水) 21:18:01

    「チラッとでも、見えたときに……が、がっかりされたら……困るやん」
    胸元から下、純白のレースがかけられた自分の身体を見ながら、何かとても悪いことをしているような気になってきた。

    「いや、本当にちゃうよ? み、見せたいわけじゃないから。全然違うから。逆やで。チラッと見えたときに困るから、こうしとるんやで。期待とかそんなんちゃうし。ほんとちゃんちゃら可笑しいわ」
    私はなぜ独り言などブツブツ呟いているのか。
    なんでこんなに勝手に口が回るんだろう。

    急いで浴衣を羽織る。
    首元から足先まで、一分も隙間が無いように、しっかり合わせて。
    絶対に見えないように。

  • 71練乳グラブジャムン25/08/20(水) 21:45:45

    「そうやて。これは、万が一、チラッと見えた時のためや。落ち着け私。チラ見えは完全には防げないから、仕方ないんや」
    帯を締め、深呼吸。
    心臓がバクバクしている。
    緊張しすぎて、深呼吸した息が震えてる。

    「万が一があるから、仕方ないんよ。備えあれば嬉し泣き、っていうやん。あれ違ったっけ? まあええか。とにかく、万が一、チラッと見えたときのためやから」
    何かが間違っている気もするが、多分気のせいだ。
    深呼吸を繰り返す。
    吐く息が震えている。
    ダメだ、まだ落ち着けない。

    「そもそも、見せるつもりなんて無いし。期待とかしてないし。そんなんちゃうし」
    そうだ、絶対に見られてはいけない。
    こんな、えっちな下着を着ているところを見られたら、恥ずかしくて死んでしまう。

  • 72二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 23:18:37
  • 73二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 00:53:12

    お茶子の期待を期待と認められないのそりゃそうだよねって思うし、でもデク受け入れるのは問題なさそうの…あーかわいい
    青山くんに好きなの?☆って聞かれたときの言い訳の仕方と一緒なのいいね

  • 74練乳グラブジャムン25/08/21(木) 06:19:06

    呼吸を整えながら、脱いだ下着をまとめて、キャリーケースに入れる。
    行く前に忘れ物は、と部屋を見渡し、クローゼットから、茶羽織を取り出す。
    生地の厚いそれを羽織ると、衣類が増えたせいか、少しだけ気持ちが落ち着いた。

    「……大丈夫、落ち着いた。うん、私は大丈夫」
    まだ心臓が凄い動きをしている。
    なんでこんなに緊張するんだろう。

    ご飯を食べるだけ。
    ちょっとお喋りして、それだけ。
    デク君が私に乱暴なんて、するはずがない。
    私にそんな勇気なんかあるわけない。
    何も緊張する事はない。

  • 75二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 06:51:33

    デクだって男だから……

  • 76練乳グラブジャムン25/08/21(木) 07:00:41

    意識するから、緊張するんだ。
    落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせる。

    「……よし、ご飯食べよう」

    電気を消し、部屋を出る。
    扉を閉めるとき、ふと室内が目に入った。
    誰もいない空気の冷たさと、明りの無い暗闇だけが、そこにあった。
    何もおかしなことはない、至極当たり前のこと。

    なのに、なぜか。

    一抹の寂しさが、胸に残った。


    ―――― to be continued

  • 77二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 07:07:21

    ニヤニヤしながら読んでますが正直気持ち悪い声出そうになったw

  • 78練乳グラブジャムン25/08/21(木) 07:13:03

    いつもコメントいただいてる皆様ありがとうございます。

    僕もすっごい楽しませてもらってます。

    >>45

    ほんとその通りで、このスレは皆様のリアクションありきで完成してます。

    ご協力ありがとうございます。


    次回の裏話。

    夕飯の献立考えるのが大変でした。

  • 79練乳グラブジャムン25/08/21(木) 07:29:06

    ■No.468 フルスロットルのフルコース

    ※SIDE 緑谷


    18時になり、部屋に戻ってから室内電話を使い、夕飯の支度をお願いしていた。
    もうすぐ麗日さんも来るだろうと予想してのことだ。

    既に準備は整い、給仕の人が始まるのを待っている。

    連絡した方がいいか、と思ったところで、麗日さんが入って来た。
    そうっとスリッパを脱ぎ、慎重に入ってくる。
    「あれ、麗日さん。なんか顔赤いけど。大丈夫?」
    「ふぇっ!? そ、そうかな!? ちょっとお風呂入りすぎちゃったかも!?」
    明後日の方を向きながら、ポリポリと頭を掻いている。

  • 80二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 08:01:46

    いっちまえ、ついでにお茶子ちゃんも食べてしまえ

  • 81練乳グラブジャムン25/08/21(木) 08:30:03

    そして……入口から動かない。
    いや、動いてはいるのだが、す、す、す、と足を刷らせて、超小股で歩いてくる。
    ペンギンみたいだ、全然進んでこない。

    「……お客様? お食事のご準備出来ております、どうぞ」
    「は、はい。ありがとうございます」
    仲居さんに促される。
    それでも麗日さんは、す、す、す、と超小股での歩みが変わらない。

    「……麗日さん? なんか、変な歩き方してるけど、どうしたの?」
    「はひゃぁ!?」
    僕の言葉に、麗日さんがびくっと跳ねた。

  • 82二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 08:51:03

    そりゃこんな顔にもなる

  • 83練乳グラブジャムン25/08/21(木) 10:50:02

    「ど、どうもしないから!」
    「……いや、だって……もしかして、足が痛いとか?」

    手を貸そうと、すっと立ち上がり、一歩踏み出す。
    「わあああああああああああ!? ストップ、ストップ、ストップ!」
    手をバタバタさせて防がれた。

    「え? 本当にどうし」
    「ダメダメダメダメ、来ちゃダメ! 絶対来ちゃダメ! 座って! お願いだから座って! ね、ほんとに! ほら、ご飯じゃん! デク君、食べようよ、座って座って!」
    何をそんなに慌ててるんだろう。
    ご飯の準備をしている仲居さんも、きょとん、とした顔をしている。
    それでもなお、す、す、す、と超小股で、進む速度は変わらない。

  • 84練乳グラブジャムン25/08/21(木) 12:20:23

    「……麗日さん、何かあったなら教えて? 転んでどこか痛めたとか?」
    明らかな挙動不審に、僕と仲居さんの両方から視線が向く。
    みるみるうちに顔が赤くなっていく。

    「だ……だって……み、見えたら……困るんやもん……っ」
    「見えたらって、何が?」
    「えっと、その、歩くと……浴衣がズレるから! あ、足とか、見えちゃうでしょっ!?」
    真っ赤になった麗日さんが、ヤケクソとばかりに声を張った。
    仲居さんが微笑し、微笑ましいものを見るように、ご飯をよそい始める。

  • 85練乳グラブジャムン25/08/21(木) 12:57:15

    でも僕の疑問は解消しない。
    「うん……でも、足くらいなら、いいんじゃない? 今日、スカートだったよね?」
    「あ、あ、足くらいって!? ダメだよ、そんなこと言っちゃ! 見えたら恥ずかしいやん!」
    「……一緒に足湯、入ったのに?」
    「それでも今はダメなのっ!」

    麗日さんが自分の身体を守るように、両肘を掴む。
    「で、デク君っ!? 女の子が隠してたら、それは! 見ちゃいけないんやって! そういうとこ、気を付けようね! デリカシー! デリカシーっていうものやっ!」
    「ご、ごめんなさい……」

    反射的に謝ってしまったが、そういうものなんだろうか。
    一緒に足湯に入ったのに、足が見えると困るってどういうことだ?
    お風呂上りだと気分が変わるのだろうか……わけが分からない。
    これが女心というものなのか?

  • 86練乳グラブジャムン25/08/21(木) 14:56:54

    「……あの、料理の事って聞いても大丈夫ですか」
    間が落ち着かず、仲居さんに話を振る。

    「はい、承知いたしました。まず手前のお造りですが、地元野菜を使ったお造りとなります。ほうれんそうのお浸し、セロリとアボガドの和え物、山芋入りの鶏ささみつくね、鰻の青じそ巻き、アスパラの酢味噌和え、マムシの叩きとなっております」
    細長い器に載せられた品々を指される。これが前菜なんだろう。

    「マムシ? デク君知っとる?」
    「……ヘビ? ですよね?」
    「ヘビ!?」
    麗日さんが歩きながら、心配そうな顔をしている。
    「はい。ヘビではありますが、料理用に養殖されたものになります。火は通っておりまして、ニンニク醤油で味付けをしております。お味は鶏肉より淡白な感じかと。あまりヘビを食べているという感覚は無いかと存じます」
    確かに見た目は鍋に入れるつみれのようだ。言われなければヘビとは分からない。

  • 87二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 15:11:19

    メニュー考えたのと見つけたのと注文した人達……

  • 88練乳グラブジャムン25/08/21(木) 15:33:47

    「マムシは血行促進の効果があって、女性の冷え性にもよく効くんですよ」
    「そうなんや……まあ、こんな機会でもないと、食べる事なんかあらへんか……」

    「お刺身ですが、まぐろ、カツオ、アジ、ブリとなっております。赤身魚は鉄分が多く、血行促進や体力向上に効果があるとされています」
    「お刺身美味しそうですね」
    せっかくのお料理だ。携帯を出し、写真を撮っていく。

    「隣が茶碗蒸しになっております。鶏肉、ほうれん草、山芋、高麗人参、銀杏などが入って、具沢山となっております」
    「へえ~、美味しそう」

  • 89練乳グラブジャムン25/08/21(木) 16:43:38

    「焼き物は生牡蠣になっております」
    「すごく大きな牡蠣ですね」
    「殻ごと網に載せていただいて、焼いていただければと思います。生でそのままお召し上がりいただいても大丈夫ですので、焼き加減はお好みで大丈夫です」
    殻も半分取ってあり、プルプルの大きな牡蠣が見えている。そのままでも食べられそうだ。
    五つも並んでいるし、一つは生で食べたりと、焼き加減を変えても良いかもしれない。

    「隣が、すっぽんの唐揚げです。すっぽんは女性のお肌にいいんですよ」
    「そうなんですか?」
    「はい。すっぽんは低カロリーでコラーゲンも多く、女性におすすめなんですよ。シミの原因になるメラニンの生成を抑えて、肌のターンオーバーが早まるので美肌効果があると言われていますよ」
    「そうなんや……」
    ようやく席に着いた麗日さんが、感心したように頷いた。

  • 90二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 17:58:22

    作者のお茶子への理解度がすごい
    脳内で漫画にしてみても違和感ないお茶子感、すごいっす

    しかし精力増強特化料理の乱れ打ちは一体誰の発案だ

  • 91二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 17:59:10

    誰だよこんな滋養強壮に良さそう(意味深)なメニュー考案してしかも見つけてきたやつは

  • 92練乳グラブジャムン25/08/21(木) 18:05:21

    「右上のお鍋は、創作料理になっております。ニラ、セロリ、ニンニク、舞茸、干し椎茸、玉葱といったお野菜と一緒に、ラッコのお肉をお召し上がりいただけます。すき焼き風になっておりますので、卵に浸けてお召し上がりください」

    「ラッコ?」
    麗日さんと顔を見合わせるが、二人でふるふると首を振る。麗日さんも知らないようだ。

    「ラッコって食べられるんですか?」
    「海外ではたまに振る舞われるそうです。今日は、是非調理してほしいと、お客様がアラスカからご郵送いただいて、持ち込まれてのご要望ですが」
    「お客様って、誰が……」
    再び麗日さんと顔を見合わせ、お互いに首を振る。

    誰か食べたかった人が送ったのだろうか。こんな料理もあるぞと教えたかったとか。
    海外から送ってきたとなると、相当食べたかったんだと思うけど。
    後でグループLINKで聞いてみようか。
    まあ、毒を持ってるという話は聞いたことが無いし、食べられる気はする。
    鹿とか熊なんかも食べるっていうし、ジビエみたいなものだろうか。

  • 93二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 18:08:25

    男と女…ラッコ、何も起きない筈がなく…

  • 94二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 18:31:30

    ヒロアカは一応近未来世界だけど現代日本でラッコ肉はレッドリストに入っててアラスカの一部でだけ狩猟解禁されてたのをよく調べてそうなスレ主さん、

    動物関係は口田くん、食品関係は砂藤くん、物流、海外にツテがありそうなヤオモモ、心操くんの協力があってそう

  • 95二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 19:04:35

    追いついたぜぇ
    これが処女作とはな…
    文才が爆発してる!

  • 96練乳グラブジャムン25/08/21(木) 19:18:41

    「手前のご飯は、あさりとシジミの炊き込みご飯になっております」
    「うわぁ、これも美味しそう」
    「貝がたっぷりやね」

    「隣のお吸い物は、鰻の肝吸いになっております。ラッコ、鰻、マムシの骨と、すっぽんの甲羅などから御出汁を取っておりますので、疲労回復に良いかと思います」
    「肝吸いって何ですか?」
    「鰻の胃を中心とした、内蔵を具材としたお吸い物です。鰻屋さんではよく振る舞われますね」

    「デザートに、蜂蜜のスムージーとなっております。こちらは後ほどお持ちさせていただきます」
    デザートまで付くのか。どれもすごく美味しそうだ。

  • 97練乳グラブジャムン25/08/21(木) 19:19:43

    「それでは、火を入れさせていただきます」
    焼き牡蠣とラッコ鍋の下にある固形燃料に火が入れられ、ゆらゆらとした炎が見える。
    単純かもしれないが、こういうのがあると、旅館のご飯だっていう感じがして楽しい。

    食べる前に、二人一緒に仲居さんに写真を撮ってもらう。
    美味しそうなご飯を前にして楽しそうにしている一枚。
    これも素敵な想い出だ。

    「じゃあ麗日さん、食べようか」
    「うん、めっちゃ美味しそうやし」

    手を合わせて、二人で声を合わせる。
    「「 いただきまーす 」」

  • 98二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 19:41:53

    そういえば丁度布団2組分ありましたよねその部屋?

  • 99練乳グラブジャムン25/08/21(木) 20:15:59

    ※SIDE 飯田


    【A組グループ】
    デク
    『今日の料理だよ』


    18時過ぎ。
    夕飯が始まったのだろう、緑谷君から写真が届いた。

    「なあ、オイラすっごい気になってるんだけどさ……今更だけど、あのメニューよかったのか?」
    「なにが?」
    「やり過ぎってなくらい、精付くものしか入ってねえだろ」
    「ひとつ残らずだもんな」
    「無理言ってお願いしまくって、どうにか特別対応してもらったからな」

    「なんであそこまで必死だったんだ? 普通に飛騨牛のコースで良かったんじゃねえの? 絶対美味いだろ」
    「……地獄の結婚式を回避できる可能性が、少しでも上がるなら、って思って」
    首を傾け、斜め下の地面に視線を向けつつ、耳郎君が答えた。

  • 100二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 20:18:18

    そこまでお膳立てするなら避妊具の一個ぐらい渡しといた方が良いのでは?(チガウソウジヤナイ

  • 101練乳グラブジャムン25/08/21(木) 20:19:13

    「なんだよ、地獄の結婚式って」
    「緑谷が別の女と結婚して、お茶子と私達が祝い客として参列してる式」
    「うっわ……えっっっぐぅぅぅ……」
    その状況を想像したのか、切島君は吐きそうなほど顔をゆがませた。
    おそらく自分の顔も歪んでいるだろう、それほどに恐ろしい式だ。

    緑谷君が誰と結婚しようと、祝福したい気持ちはある。
    だが、隣に想い叶わなかった麗日君がいるとなれば話は別だ。
    麗日君の気持ちを慮れば、どんな気持ちで参列すればいいか、皆目見当がつかない。
    「確かにそれは地獄だ……俺達全員、顔引きつってるぜ?」
    「何としても回避したいな……」

    「あいつら、このメニュー見て何も思わねえのかな」
    「あの二人なら気付かない、というか気にしなさそうではあるけど……」
    「ぶっちゃけ、こんなのって迷信じゃない? チョコレートに催淫効果があるとか、色々あるけどさ……緑谷をその気にさせる量ってどのくらい? ドラム缶一杯食べさせたって、緑谷がオオカミになることって無くない?」
    「……まあ、確かに」
    「相手はあの緑谷だしな」
    芦戸君の言葉に、尾白君と心操君も頷いた。

  • 102練乳グラブジャムン25/08/21(木) 20:22:33

    「ウチだって、こんなの食べたくらいで女に手ェ出すヤツなら苦労しないって、分かってはいるんだけどね……こんな迷信でも縋りたくって」
    「それで必死に食材集めしてたのか。海外まで行ったの誰だっけ、耳郎と上鳴、心操と常闇、あと蛙吹だっけ」
    「そうよ。セルキー船長に相談したら、ラッコ鍋を強く推されたから。獲れたてが一番だけど、冷凍でもいいから、って」
    「ああ、アラスカまで行った。極寒の地での交渉だった。得難い体験だったな」
    常闇君が、感慨深げに頷いた。

    「ラッコがムード盛り上げるのか?」
    「尾白ちゃん、私もよく知らないんだけど……船長によると、『ラッコ鍋を食べれば、いざとなったら殺し合い始めるような仲のノンケの男同士でもくっつく』って」
    「なんだそりゃ。殺し合いする男同士って、それもうただの敵同士だろ」
    「ラッコにそんな効果があるのか?」
    「……まあ、ムードを盛り上げる効果は不明だが、健康を害するものは何も入っていない。精が付くというのは、疲れが取れるということでもあるだろう。問題は無いのではないか?」
    「あいつらも忙しいし、知らず知らず疲れてるだろうしな。油モノや糖質が沢山出てくる、とかよりは全然ヘルシーだし、身体に良さそうではあるんだよな」
    障子君は献立に疑問は無いようだ。砂藤君も賛同してくれている。

  • 103練乳グラブジャムン25/08/21(木) 20:26:40

    「でもさあ……オイラが気になってるのは、上手く行くかどうか、じゃなくてさ……」
    「峰田君は、何が気になるんだい?」
    「なあ飯田……これ、もし…………いや、ごめん、何でもないわ。オイラが気にする事じゃねえし」

    言葉を濁す峰田君。
    何が気になるのだろうか。
    食べ合わせが悪い食材も特になさそうだし、調理しているのは腕利の料理人さんだ。
    具合が悪くなる、などという可能性も極めて低いだろう。

    上手くいくかどうかは分からない。
    上手くいかなかったとしても、それは仕方ない。

    ……何か、僕達が見落としている点でもあったのだろうか。


    ―――― to be continued

  • 104二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 20:30:34

    アザラシがラッコを勧めてくれたのか…

  • 105二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 20:40:59

    くっ付いたと思ったらいきなり産休にならない?

  • 106二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 23:54:04

    どうした峰田

  • 107二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 01:12:50

    この料理たち、精力増強料理なんだ…
    スレ主よく調べたなw

    お茶子ちゃんは下着が心許ないからってあからさますぎるw
    峰田はどした?

  • 108練乳グラブジャムン25/08/22(金) 05:15:32

    >>100

    それを渡したらバレてしまうから渡せないんだ……


    峰田くんはうまく行っちまったパターン、つまり、>>105を気にしています。


    >>95

    ありがとうございます。

    楽しんでいただければ嬉しいです。


    >>90

    キャラの掘り下げ大丈夫かがすっごい不安要素だったのでありがたいです!


    いやほんと皆様のコメント楽しませてもらってます。

    いつもありがとうございます。


    さてここから舞台編終了までが、推敲ランキング一位、最も力入れて書き直しまくった箇所になります。

    お楽しみいただけるか不安ではありますが、引き続きお付き合いよろしくお願いします。

  • 109練乳グラブジャムン25/08/22(金) 06:24:37

    ■No.469 ヒーローの本質

    ※SIDE 緑谷


    とても美味しい夕飯だった。
    どれを食べても絶品だ。
    ラッコも初めて食べたけど、とても美味しかった。
    もっと獣臭いかと思ったけど、全然そんな事もなかった。
    ラッコがそういうものなのか、料理人さんの下拵えが上手いのかは分からないけど。

    食事中、目の前に座る麗日さんに、何度も目を奪われる。
    お風呂上りで化粧も落としてサッパリしているはずなのに、昼間に勝るとも劣らず素敵だと思う。

    髪の隙間にのぞく首元。
    浴衣の袖からのびる腕。
    風呂上りに上気した肌が、浴衣の隙間から覗いている。

  • 110練乳グラブジャムン25/08/22(金) 06:25:47

    意識してはいけないと思いつつも、下腹部に血液が集まっていく。
    机があって良かった。さすがにこんな姿を見せるわけにはいかない。
    生理現象なのだからどうしようもないのだが、何故今日はこんなにも……

    食事に集中して、会話を楽しんでいると、次第に股間も落ち着いていった。
    そうだ。意識しすぎるな。
    食事が終われば、麗日さんは部屋に戻る。
    この時間を大事にするなら、平常心でいなければ。

  • 111練乳グラブジャムン25/08/22(金) 07:20:49

    食事が済んだ頃、仲居さん達がやってきた。
    料理を下げてくれている最中、この後どうしようかと試案していた。

    この後、麗日さんは部屋に戻る。
    名残惜しいが、片付けが済んだらお開きだ。いや、少しくらいは話してもいいかもしれない。
    ただ、男のいる部屋に長居させるわけにもいかないから、程度が大事だろう。

    そんな事を考えながら、食器が下げられているのを眺めていた、そのときだった。


    全く予想していなかった、太鼓を叩いたような重い音が、窓の外から聞こえた。
    聞き間違いかと耳を澄ませた次の瞬間、何かが弾けたような、大きな音が続いた。

  • 112二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 07:57:10

    >>111

    ワイの中ではドキドキが止まらない

  • 113練乳グラブジャムン25/08/22(金) 07:59:13

    瞬時に全身が総毛立った。
    麗日さんと一瞬だけ視線を交わし、まさか、と二人で窓に駆け寄る。
    浴衣がズレることを気にしていた麗日さんも、そんな事はお構いなしだ。

    事件か、事故か。いずれにせよ何か起きたのでは?
    今日は街中にヒーローが多かったが、どうなっているのか。

    二人で外を見回す。
    日が落ちて薄暗い街並み。もうすっかり夜の景色だ。
    周囲の建物はそのままだ、火の気もない。怪我人の姿もない。
    一見すると何もない。

  • 114練乳グラブジャムン25/08/22(金) 08:29:09

    いや、道行く人が、足を止めて、同じ方を向いている。

    何がある?
    同じように顔を向ける。
    小高い丘のような山稜があるだけだ。
    山々には夜の闇が落ちて、山稜は黒いシルエットしか見えない。
    あの方向から音がしたのか?

    丘の向こうから、小さな光が昇った。
    白い光が尾を引きながら、ゆらゆらと空に向かっていく。
    あれはなんだ?

    白い光が、ふっと消えた。

    消えた? どこに行った?

    そう思った、次の瞬間。


    大きな炸裂音と共に、夜空に眩い光を放つ、大輪の花が咲いた。

  • 115二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 08:32:47

    花火だ~!!

  • 116練乳グラブジャムン25/08/22(金) 09:17:11

    ※SIDE 飯田


    「部屋の位置的に、見えているはずだよな」
    上鳴君の言葉に、上がった花火の位置を確認し、旅館のある方角に目を向ける。
    「さすがにあの丘よりは高く上がる。宿との間に障害物はない。必ず見えているはずだ」

    今日一日、携帯の画面越しではあったが、様々なアシストをしてきた。
    みんなの機転の高さには驚かされた。

    だが、携帯の連絡だけならば、わざわざ僕らが岐阜県までやってくる理由は無い。
    今日ここに、こうして集まっている最大の理由が、まさにこれだった。

  • 117練乳グラブジャムン25/08/22(金) 10:19:11

    「スケジュール的には、ご飯が終わって片付けが行われている時間かと。丁度いい時間のはずです」
    「ほんとに見えてるかな?」
    「さっき本部から確認の連絡が来たよ。向こうの温泉地側からも、ちゃんと見えてる。大丈夫」
    「部屋の位置関係的には、緑谷ちゃんのいる部屋でご飯を食べているはずよね。宿としてはそっちオススメという事にしていたし」
    「わざわざ景観の悪い部屋に変更する人はいないでしょうし、おそらく大丈夫ですわ」
    「この花火が、少しでも二人の想い出作りに寄与できれば嬉しいが」
    本心だった。
    二人に幸せになってほしいと思った。
    仲良くなりたいけれど、どうすればいいか分からないと……そう悩んでいた緑谷君の顔が浮かぶ。

    今日のデートは楽しんでくれただろうか。
    二人の大切な思い出になっていれば、これに勝る幸せは無い。

  • 118練乳グラブジャムン25/08/22(金) 10:57:18

    かつてステインと対峙した時の事を思い出す。命がけで助けてくれた緑谷君の姿。
    あれを機に自分は変われたのだと思う。
    どれだけ時が経とうと、どれだけ礼を尽くそうと、彼への感謝が絶えることは無い。

    二人にとって一番大切な人と、素敵な思い出を作ってほしい。
    そのために、皆で協力して、この日のために様々な準備をした。
    大勢の人に協力を依頼した。
    この地で絶対に事件が起こらないよう、警官やヒーローを集めた。検問も行った。
    グループLINKで毎日相談し、周到に計画した。

    そして、これが最後の大仕掛け。
    暗い夜空を照らす、灼熱に輝く大輪の花。
    平和でなければ打ち上げることが出来ないもの。
    そういう意味では、この花火は、平和の象徴といえるだろう。

  • 119練乳グラブジャムン25/08/22(金) 12:05:00

    「あ~、もう一回温泉入りたかったなあ」
    「俺達は昨日入ったじゃねえか。これが終わったら解散だ」
    「大部屋で最後の作戦会議して、楽しかったよな」
    「何が作戦会議だ、ほとんど飲み会だったじゃねえか」
    「いいじゃねえか爆豪。お前が一番美味そうに飲んでたろ」
    「うっせえ、触れんな」

    「……あいつら、今日どっかで告白出来たかなあ」
    「そうなってくれれば嬉しいけど、さすがに一日じゃ無理じゃない?」
    「一日の最後に花火見ながら告白って、やっぱ難しいかなあ」
    「決議取った中では一番いいんじゃないか、って話だったけど」
    「まあ、私らが何やったとしても、最終的には二人の問題だしね」
    「ケロ。そうね。どっちにしろ、楽しんでくれればいいわ」
    「告白は出来なくても、どこかで次のデートの約束さえ取り付けてくれれば、今回の作戦は上出来だよな」
    「ああ、それさえ達成できれば十分だ。あの二人なら、後は自然と上手くいくだろう」

  • 120練乳グラブジャムン25/08/22(金) 12:32:43

    僕らが用意できたのは、それほど凄い花火じゃない。
    どれだけ協力があったってお金には限りがあるし、花火は高価だ。
    スイッチ一つで点火するような仕掛けはない、手動着火だ。
    玉の大きさだって川幅の制限があって、それほど大きくない。
    着火位置が見せられないために、低い位置での演出も出来ない。
    ただ打ち上げるだけ、と言えば、それまでだ。

    それでも何とか頑張って、およそ一時間ほど打ち上げ続けられるだけの量を集めた。
    何とか単調にならず、飽きないように。
    可能な限り、種類も演出レパートリーも考えた。専門家に相談もした。
    今日という日の締めくくりに、僕達から渡せる、最後の贈り物。
    部屋から見ているのだろうか。音だけでも聞こえているだろうか。

  • 121練乳グラブジャムン25/08/22(金) 12:51:33

    緑谷君と麗日君の、初めてのデート。
    二人が共に望んでいた時間。

    でも、お互いに多忙で……何よりも、奥手で。
    相手を尊重しているからこそ、少しの我儘も口にできない二人。
    遊びに行こう、とすら言い出せない二人。
    誰よりも優しい二人であるがために、ずっと叶わなかった、二人だけの時間。

    ならば僕らが、その時間を作ってみせようじゃないか。

    みんなで旅行という方便。嘘で騙したのは間違いない。
    二人の他に誰も来なかったことで、残念な思いをさせてしまったかもしれない。
    その非難は甘んじて受けよう。
    それでも、二人には仲を深め、どうか素敵な思い出を作ってほしかった。

    余計なお節介、と笑われるだろうか。
    だが、他ならぬ彼が教えてくれた事だ。

  • 122練乳グラブジャムン25/08/22(金) 12:59:12

    「余計なお節介ってやつは、ヒーローの本質なんだろ?」

    夜空に向かって、ぽつりと呟く。
    打ち上げられる花火の音で、誰にも聞こえない独り言。

    人の恋路への干渉など、最初から最後まで、余計なお節介以外の何物でもない。
    二人とも、こんな事しなくていい、と怒るかもしれない。

    それでもいい。
    それでも、僕らは手を差し伸べよう。

    それがヒーローの本質だからだ。

  • 123練乳グラブジャムン25/08/22(金) 13:39:15

    携帯に送られてきた、今日一日の、二人の写真。
    照れくさそうで、でも楽しそうで、とても嬉しそうな。
    そんな親友の顔を沢山見せてもらった。

    これが僕らへの報酬だ。

    どれだけ大変だったとしても、やってよかった。
    とても温かい気持ちにしてもらった。

    轟君、爆豪君が、順に着火していく。
    周囲の僕らは、用意したプログラムを確認し、点火する花火とタイミングを、二人に伝える。
    ベストなタイミングで、花火が上がる。
    その一発一発が、僕らの想いだった。

    もっと仲良くなってほしい
    幸せになってほしい。
    素敵な思い出になってほしい。

    その気持ちだけで、みんな今日まで頑張ってきた。

  • 124二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 13:45:37

    ヤバい、泣きそう

  • 125練乳グラブジャムン25/08/22(金) 14:31:43

    大きな閃光と音が、何度も夜空に広がる。
    多彩な色が夜空を美しく飾る。

    これは協力してくれた全ての人が、二人のために、平和な一日をプレゼント出来たことの証明だ。
    今日一日、何の事件も起こらず、街は平和そのものだった。
    だからこそ、この花火は空に昇る。

    ここにいるみんなが、二人に対して、それぞれの想いがあった。
    感謝であり、労いであり、激励であり、応援であり、親愛であり。

    僕らの想いを込めた光が、白糸を引きながら、夜空に昇っていく。

    夜空を照らす、大輪の花。閃光と轟音。
    それこそが、僕らの気持ちを代弁していた。
    ほんの少しでもいい。
    二人の想いが通じ合う手助けになれば。

  • 126二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 14:43:28

    なんだよ、もぉ〜えっ◯なの想定してたのにこういうの弱いんだよ〜ナミダジョバジョバジョバ

  • 127練乳グラブジャムン25/08/22(金) 15:03:10

    言葉を届ける必要は無い。
    誰も、二人に僕らの暗躍を伝えることはない。

    それでいい。
    感謝はいらない。
    知らないままでいい。
    謝礼ならもう貰っている。


    緑谷君。麗日君。
    かけがえのない友よ。

    どうか、幸せになってくれ。


    ―――― to be continued

  • 128練乳グラブジャムン25/08/22(金) 15:49:38

    ■No.470 時間を止めてほしいと願うほど

    ※SIDE 緑谷


    「今日は、ヒーロー協会の有志の方が開催されたイベントがあるそうで、花火が上がると聞いておりますよ」
    仲居さんが食器を片付けながら説明してくれた。

    「そうなんですか?」
    「だいたい一時間ほど打ちあがるという話でした。こちらのお部屋からはよく見えますね。ごゆっくりお楽しみください」
    そういって、仲居さんは最後の食器を下げ、部屋を後にした。
    部屋には僕と麗日さん、二人だけが残される。

    眼下に眼を向けると、街中を歩く人たちも、足を止めて花火に眼を向けている。
    警察官とヒーローが、夜警を行っている様子も見えた。
    犯罪もトラブルもどこにも無く、ただ平和に花火を楽しむ人々が、そこにあった。
    一瞬だけ緊迫した空気は、街の安全を確認した瞬間に霧散していた。

  • 129練乳グラブジャムン25/08/22(金) 16:18:41

    とても綺麗な花火だった。
    様々な色が上がり、形も変わり、次はどんなものが上がるのかと、楽しみになってくる。
    その期待を裏切らず、間断なく、大きな大輪の花火が上がっている。

    「ねえねえ、デクくん。電気消した方が綺麗じゃない?」
    言われて気が付いた。部屋が明るいままだ。

    「そうだね。じゃあちょっと待ってて。せっかくだし窓も開けよっか」

    部屋の明かりを落とすと、夜空の美しさがより鮮明になった。
    そっと窓を開ける。
    夜風とともに、大きな花火の音が、室内にも響いてきた。

  • 130練乳グラブジャムン25/08/22(金) 17:31:40

    陽の落ちた空には、星が輝いている。
    ビルや街頭が少ない田舎町のせいか、標高が高いせいか。
    普段よりも、遥かに多くの星が空に煌めいていた。
    そこに、幾度も大輪の花が咲く。

    麗日さんと二人、並んで、一緒に花火を見る時間。
    ただその美しい閃光と音に顔を向けていた。

    多種多様なその色に、なぜかふと、A組の皆の姿が浮かんだ。
    皆と一緒に観れたら楽しかっただろうな、という気持ちが芽生える。
    その気持ちに嘘は無い。

    けれど同時に、この素敵な景色を、麗日さんと二人だけで観れていることに、また特別な幸福を感じた。
    みんな来ないでくれて良かった……なんて、本当に申し訳ないことを思ってしまうほどに。

  • 131二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 17:32:54
  • 132二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 17:54:53

    >>102

    海外まで行くとは…このわちゃわちゃ感が好き!

    後、海外に行ったペアが好きすぎる。梅雨ちゃんとセルキー船長の絡みいい!

  • 133練乳グラブジャムン25/08/22(金) 17:59:00

    「花火、綺麗だね……」
    「うん……すごい綺麗……」

    会話が続かない。
    何か喋った方がいいかと思ったとき、口田君の言葉が思い出された。

    無理に喋らなくてもいいと。
    一緒に同じ景色を見る。その時間が、立派なコミュニケーションなのだと。

    その言葉に甘えることにした。
    麗日さんと二人で、静かに、この綺麗な花火を観ていたい気分だった。

  • 134二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 18:03:14

    横顔が美しそう

  • 135練乳グラブジャムン25/08/22(金) 18:15:16

    いつの間にか、左手が繋がれていた。
    昼間の時と同じように。
    繋いだのは、僕から? 麗日さんから? 分からない。

    宿の室内でトラブルの心配なんか無い。いま、手を繋ぐ理由は無い。
    ……それでも、ただ、この手を繋いでいたかった。


    こっそりと、隣の麗日さんに視線を移す。
    薄闇の中、花火の光に、ぱっと照らされる横顔。
    本当に、なんて綺麗で、可愛くて。
    こうして隣にいてくれることに、たまらなく感謝したくなる。

    その手に伝わる体温を感じながら、外の花火に目を戻す。

    子供の頃から、花火を見たことは何度もあった。
    いま目の前で咲く花火よりも、規模の大きな花火を、いくつも見たことがある。

    それでも、今日ほど綺麗だと思った花火は無い。
    間違いなく、人生で一番といっていい。

    この花火は、何故こんなにも綺麗なんだろう。
    繋いだ手の温もりが、何故こんなにも愛しいんだろう。

    この夢のように素敵な時間が、永遠に続けばいいと、心から思いながら。

    満天の星空に上がる、閃光の大花を観続けていた。

  • 136二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 18:19:44
  • 137練乳グラブジャムン25/08/22(金) 19:06:53

    ※SIDE 麗日


    いつか、デク君と一緒に、星空を眺めたいな、と思っていた。

    けれど、いま目の前にある光景は、それ以上だった。
    もう、言葉に出来ないほど素敵で。

    星が煌めく夜空に、何度も花火が昇る。

    なんて綺麗なんだろう。
    こんな素敵な景色を、デク君と二人っきり。
    手を繋いで観られるなんて、夢にも思わなかった。

  • 138二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 19:10:37

    そういや、お茶子ちゃんの好きな物に:和食、星空

    てあったなぁ

  • 139練乳グラブジャムン25/08/22(金) 19:13:37

    そっと、隣の想い人を見上げた。
    花火に照らされた横顔。
    胸が、きゅう、っと締め付けられる。

    ああ……やっぱり、私は、この人が。
    ……緑谷出久が、好き。
    どうしようもなく、そう実感する。

    あの祝賀会の二次会で、前より少し打ち解けた。
    今日一日、いっぱい話せた。
    それでも決定的な想いは、まだ伝えられていない。


    (この気持ちは、しまっておこう)

    まだ雄英一年生だった頃、仮免試験の時に決めたこと。
    でも、いつまでしまっておくんだろう。
    自分はこの気持ちを、いつ伝えればいいんだろう。
    誰か答えを教えてほしい。
    外の花火が、答えを教えてくれたらいいのに。

    外に視線を戻す。
    灯いては消えていく、色とりどりの華。
    人の一生は花火みたいだ、と例えたのは誰だろう。

  • 140練乳グラブジャムン25/08/22(金) 19:36:16

    ヒーロー稼業は、以前より安全になったとはいえ、いつ自分が事故に遭うかも分からない。
    あの戦いで、生きてるのが不思議なほど傷ついたデク君。自分も死んでいたはずだった。
    今こうして見ている景色は、本当に色々な奇跡の上に成り立っている。

    いつまでもチャンスがあるわけじゃない。
    この花火みたいに、今日という一日は一瞬でなくなってしまう。
    ある日突然、彼は誰か別の女性と一緒になってしまうかも。


    (未来なんて何かせな変わらんやろ)

    昔、サー・ナイトアイさんに、私自身が言ったこと。
    でも私は何もしないまま、もう何年もの時間が経過している。
    あんな立派な人に……心底申し訳なくなる。

    花火の光が広がる度に、色々なことが思い出された。

    勇気がほしい。
    この怖さを乗り越えられるだけのものが。

  • 141練乳グラブジャムン25/08/22(金) 19:44:22

    星空に、いくつもの花火が上がる。
    すごく綺麗だ。うっとりするほどに。
    隣にデク君がいる。
    一緒に、その手を繋いで、この綺麗な景色を観ていられる。
    なんてロマンチックで、幸せな時間なんだろう。

    心の底から、じんわりと、幸せな気持ちが満ちていくのを感じる。

    この時間が永遠に続いてほしい。
    終わってほしくない。
    このまま時間を止めてほしい。

    そう願わずにはいられなかった。


    ―――― to be continued

  • 142練乳グラブジャムン25/08/22(金) 20:01:55

    一挙二話、花火を贈るA組のみんなと、知らずに見ている二人でした。

    コメントしていただいた皆様ありがとうございます。


    >>136

    すみません、この爆笑したナイスな画像の元ネタ教えてください。

    他は大体分かるのですが、コレだけ全く初見でした。

  • 143練乳グラブジャムン25/08/22(金) 20:50:07

    ■No.471 Dream Out

    ※SIDE 緑谷


    ひときわ大きな花火が上がった。
    そのまま麗日さんと、次の花火を待つ。
    しかし、外はさっきまでの時間が嘘だったかのように、花火の音は消えている。
    足を止めていた人たちも、ちらほらと歩きだしている。

    時計を見ると、9時を過ぎていた。
    仲居さんが話していた、花火の終わる時間。
    「麗日さん……花火、終わっちゃったね」
    「……うん」

  • 144二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 20:58:44

    >>142

    ヤングエースup連載 『帰ってください!阿久津さん』長岡太一先生著


    です!

  • 145練乳グラブジャムン25/08/22(金) 21:03:46

    終わってほしくなかった。
    麗日さんと手を繋いで、ずっと観ていたかった。
    でも物事には終わりがくる。

    冷えた夜風が入り込んでいた。
    「窓、閉めるね」
    「…………うん」

    右手で窓を閉め、そのままカーテンを閉めた。
    途端に、月明りと星々に照らされていた部屋は、ほとんど暗闇に覆われる。

    そういえば電気を消していたんだ。
    いったん電気をつけるか、それともカーテンだけ開けるか……

    そう声を掛けようと、麗日さんの方を見たとき。


    今日一番、心臓が跳ねた。

  • 146二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 21:05:38
  • 147練乳グラブジャムン25/08/22(金) 21:38:02

    寝室から漏れだす暖色の薄い明りが、麗日さんの姿を浮かび上がらせていた。
    小柄な身体。
    耳にかかるサラサラの髪。薄い浴衣に包まれた肢体。隙間から除く白い肌。
    なぜか寂しそうな表情。
    そして、繋がれた手。

    目の前の光景に目を奪われる。
    身体が硬直する。
    喉の奥から言葉が消えた。
    何も喋れなかった。

    心臓の鼓動が早くなる。

    今日やる事は全て終わっていた。
    足湯に入って、食べ歩いて、観光して、クレープを半分こして、お土産も買い、温泉で疲れを癒し、料理に舌鼓を打ち、たくさん話した。
    満天の星空と、綺麗な花火も見終わった。

    最高の一日だった。これ以上なんて望めないくらいに。

  • 148練乳グラブジャムン25/08/22(金) 21:49:40

    それでも、まだ麗日さんとの手は繋がれていた。
    あとはこの手を放し、また明日、と声をかけて床につく。

    それで今日という日は終わる。終わってしまう。
    いままでの人生で最も幸福を感じた、永遠に続いてほしいと願った、今日という日が終わる。

    それでいいんだ、手を放そう。
    彼女を部屋の前まで見送って、今日を終わりにしよう。

    そう思うのに、手が全く動かない。繋がれたままだ。
    なぜか喉が乾いていく。

    ダメだ、何してる。すぐに手を放せ。
    そう思っているのに、手が動かない。

    麗日さん……『デク』をヒーローの名前にしてくれた人。
    黒鞭が暴走したとき、しがみついて止めてくれた。

    僕が責任と恐怖に押し潰されて、学園に帰れなかったとき、連れ戻してくれた人。
    屋上で必死に叫んでくれた。
    今でも鮮烈に覚えている。
    大勢の人に敵意を向けられて、それでも立ち向かってくれた。

  • 149練乳グラブジャムン25/08/22(金) 21:59:02

    (そうやって出ていった彼がいま、どんな姿か見えていますか!?)
    (特別な力はあっても! 特別な人なんていません!)
    (まだ学ぶことが沢山ある、普通の高校生なんです!)
    (ここを! 彼の! ヒーローアカデミアでいさせてください!)

    あのとき麗日さんは、僕のために、どれだけの勇気を振り絞ってくれたんだろう。
    あのとき僕がどれだけ嬉しかったか。どれだけ救われたか。
    きっと、どんなに時間をかけて、どんなに言葉を尽くしても、伝えきれはしないだろう。

    麗日さん……ずっと助けてくれた。誰よりも大切な人。僕のヒーロー。
    やっと自分の気持ちに気付けた、愛しくてたまらない人。
    僕にとって、一番特別な人。

  • 150二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 22:03:51

    いけ、いけ、いけ、いけ、いけ…!
    もっとだもっと…!

  • 151二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 22:33:09

    puls ultra(意味深)しろ!

  • 152練乳グラブジャムン25/08/22(金) 23:10:13

    そうだ。だから絶対に傷つけちゃいけない。
    悲しませたり、怖がらせたりしたくない。

    麗日さんが、こんな暗い部屋で、男に手を掴まれている。
    そんな状況が、もう許せない悪行だ。
    その手を放せ、緑谷出久。今すぐに。ヒーローが何をやっている。

    左手から伝わる、愛しい人の体温。
    その手の柔らかさと温かさが、心に染みてくる。
    ずっとこの手を握っていたい。

    薄暗い部屋の中、麗日さんの姿だけが瞳に映っている。
    この身体を引き寄せて、思い切り抱きしめられたら……

    ふざけるな。どれだけ怖がらせてしまうか。彼女の心に傷をつけるつもりか。
    そんな事してみろ、生かしておかない。窓から飛び降りて頭を割ってやる。

  • 153練乳グラブジャムン25/08/22(金) 23:34:19

    呼吸が荒くなる。
    放したくない。一緒にいたい。あと少し、ほんの数秒だけでも。

    ダメだ、ダメだ、ダメだ。早く手を放せ、緑谷出久!
    麗日さんを怖がらせるな。一ミリも傷つけるな。悲しませたら絶対に許さない。
    いままでどれだけ助けてもらったと思っているんだ。

    ずっと支えてくれた。久しぶりに会えた祝賀会。
    やっと自分の気持ちに気付いたのに、一瞬で過ぎ去ってしまった二次会。
    駅で見送ったとき、胸の奥には寂しさが残った。
    次の約束もできなかった。
    もう一度逢いたかった。

    今日の駅前での再会。
    見違えるほど綺麗になっていた。
    一緒に手を繋いで街を歩けた。なんて幸せだったか。

  • 154練乳グラブジャムン25/08/22(金) 23:35:57

    手を放せ。
    今日が終わってしまう。
    部屋に送れ。
    次はいつ逢える。
    一人で眠れ。
    こんなに近くにいるのに。

    頭の中がグチャグチャだ。
    振りほどかなきゃいけないのに、力が入らない。


    どれだけ葛藤していただろう。
    ふと、麗日さんの頬を、一筋の涙が伝った。

    全身に冷や水を浴びせられたようだった。
    熱い劣情と冷たい理性のせめぎ合いが、一瞬で決着する。


    ――怖がらせるな。


    反射的に、繋いでいたその手を――――――


    ―――― to be continued

  • 155二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 00:16:14

    こんなもん見せられたら興奮しすぎて今日寝れねえんだがどうしてくれるんだ

  • 156二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 03:12:14

    続きが…気になりすぎるっ!!

  • 157練乳グラブジャムン25/08/23(土) 04:48:44

    皆様いつもご拝読ありがとうございます。


    >>144

    元ネタ承知しました、タイミングみてチェックしておきます。


    引き続きお付き合いよろしくお願いします。

  • 158練乳グラブジャムン25/08/23(土) 04:50:31

    ■No.472 ガラスの靴

    ※SIDE 麗日


    花火の終わりが、夢の終わりのように感じた。
    童話のシンデレラは、魔法が解ける鐘の音を聞いたとき、こんな気持ちだったのかな。

    窓が閉じ、カーテンが閉められた。
    魔法の舞台が、幕を下ろすように。
    さっきまでの素敵な景色はこの部屋からなくなった。
    今日という日の魔法が終わる。

  • 159練乳グラブジャムン25/08/23(土) 04:52:50

    ああ……終わっちゃう。

    胸の奥がぎゅぅっ、と痛くなった。
    胸がいっぱいになるほど幸せな今日の想い出が、急に寂しさばかりを連れてくる。

    デク君と一緒に歩いた。この手を繋いで。
    ずっと好きだった。
    ずっと憧れて、ずっと想い続けて。

    傷だらけの手。その傷と同じくらい辛い思いをして、頑張って、乗り越えてきた人。
    その傷を少しでも癒してあげられたら。

    今日やっと、再びその手を繋げた。ずっと繋いでいられた。
    こんな日が訪れるなんて思わなかった。

  • 160二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 05:35:33

    寝られずにいたら続き来てて歓喜 俺の興奮を救ってくれ

  • 161練乳グラブジャムン25/08/23(土) 06:04:19

    一緒に選んだキーホルダー。ウラビティを選んでくれた。
    幼馴染のダイナマイトも、チャート2位のショートも、仲良しのインゲニウムも、大好きなオールマイトもあったのに。
    一緒に歩いたことを、思い出すためと言ってくれた。
    帰った後も、今日を思い出してくれるための、ウラビティ。私のキーホルダー。
    たまらなく嬉しかった。お店の中で泣き出しそうになるほどに。

    一緒に半分こしたクレープ。
    ずっと恋焦がれた夢が叶った瞬間。
    すごく、すごく幸せで、涙が溢れてくるほど美味しかった。

    お風呂上りの、頑張ったメイク。ちょっとでも綺麗に見てほしくて。

    並んで観た花火。すごく綺麗だった。繋いだ手から幸せが感じられて。

  • 162練乳グラブジャムン25/08/23(土) 06:37:26

    この時間が永遠に続いてほしいと思った。
    終わるのが怖かった。
    でも終わってしまった。
    あの祝賀会の二次会みたいに。

    もうやる事は何もない。デク君だって毎日疲れてる。
    寝かせてあげなきゃいけない。
    嫌われたくない。
    でもこの手を離したら、今日の魔法は解けてしまう。
    部屋に戻りたくない。

    人の喜ぶ顔が好きだった。
    だから、一番好きな人の邪魔はしたくない。
    困らせることなんて、したくない。

    (これは、しまっておくの)
    ずっと好きだった。
    ずっと、ずっと、目の前にいるこの人が。
    それはたぶん、最初に逢った、雄英の入試のときから。
    初めて助けてくれたあの時から。ずっと一途に、あなただけが。

    (しまっておくの、大切に)
    胸が締め付けられる。
    手を離したら終わってしまう。夢のような一日が。

    私は皆が笑ってるのが好き。
    一番好きな人には、一番笑っていてほしい。
    だから、ずっと痛む、この胸の切なさも、しまっていた。

  • 163練乳グラブジャムン25/08/23(土) 08:05:15

    好きな人の邪魔にならないように。
    好きな人が夢を叶えられるように。
    好きな人がお仕事を頑張れるように。

    その姿を見て、私も頑張れるように。

    邪魔なものは、しまっておけばいい。

    これまでと変わらない。
    しまったまま、この部屋を出ればいい。
    隣の部屋に戻って、一人で眠る。
    誰もいない、暗い部屋に。

    そんなの嫌だ、戻りたくない。
    ずっと好きだった人が、いま目の前にいるのに。

    世界で一番、一緒にいたい人。
    まだ手が繋がれている。
    この手を放して戻る? なんで? ずっと繋いでいたいのに。

    シンデレラは鐘の音を聞いたとき、どうして舞踏会から帰れたの?
    王子様が目の前にいたのに。その手を繋いで踊っていたのに。
    何を考えていたの? わけがわからない。

  • 164練乳グラブジャムン25/08/23(土) 09:05:22

    しまっておくんだ。
    デク君を寝かせてあげなきゃ。困らせちゃいけない。
    部屋に戻って一人で泣けばいい。
    私はここにいちゃいけない。

    ……だって、もしかしたら、デク君には他に好きな人がいるかも。

    その考えがよぎった途端に、胸がぎゅうぅっ、っと締め付けられた。
    心を雑巾のように乱暴に絞られたかと思う、うずくまりたくなるほどの痛みだった。
    錯覚じゃない、本当に感じる痛みと苦しさ。


    デク君が他の女性と一緒に歩いてる空想。
    私じゃない、他の女の子と手を繋いでいる。
    ――嫌だ。

    その子に笑顔を向けている。
    ――嫌だ。

    僕の彼女なんだ、と紹介される。
    ――嫌だ、嫌だ。

    結婚式に出てほしいと、悪夢のような招待状が届く。

    そんなの嫌だ、絶対に耐えられない。
    胸が張り裂けて死んじゃう。
    想像するだけで、こんなに苦しい。
    もし本当に好きな人がいたら? 知りたくない。怖くてたまらない。

  • 165練乳グラブジャムン25/08/23(土) 09:11:08

    ずっと、しまっている想い。
    私を見てほしい。私が隣を歩きたい。一緒に同じ時間を過ごしたい。

    ……そんな夢が叶ったらどれだけ幸せか、いままで知らずにいれたのに。
    知りたくなかったのに。
    だから、しまっておけたのに。
    友達のままでいられたのに。

    なのに、今日は、その夢が叶っていたから。
    どれだけ幸せなことか、もう知ってしまったから。

    ずっと手を繋いで、一緒に歩いて。
    同じものを見て、同じものを食べて、笑いあって。
    いっぱい話して、いっぱい写真撮って。
    あんなに美味しいクレープを半分こして。


    大好きなデク君が、ずっと私だけを見てくれた、今日という一日。
    ずっとその手の温もりを感じられた、夢のような一日。
    甘い暖かさに包まれた、そんな幸福を知ってしまったから。

  • 166練乳グラブジャムン25/08/23(土) 09:36:49

    部屋に戻りたくない。まだ一緒にいてほしい。

    しまっておこう。困らせちゃいけない。でも一緒にいたい。
    私はただの友達かも。そんなの嫌だ。
    誰か他の子が好きなのかも。そんな残酷なこと知りたくない。

    一人の部屋は嫌。誰もいない部屋は嫌。魔法が終わってほしくない。
    戻らなきゃ。デク君に嫌われたくない。一番好きな人の笑顔に水を差したくない。
    でも戻りたくない。今日が終わってほしくない。あとちょっとだけ一緒にいて。


    ふと見上げると、デク君の顔には困惑の表情が浮かんでいた。
    何かを凄く悩んで葛藤しているような。

    ああ、迷惑かけてしまってる。
    ごめんなさい。
    早く出ていかないから。こんなところで黙って固まってるから。

    私は皆が笑ってるのが好き。
    一番好きな人が笑ってくれるのが一番好き。

    困らせちゃダメ。嫌われたくない。早く部屋を出なきゃ。戻りたくない。

  • 167練乳グラブジャムン25/08/23(土) 09:44:23

    今日一日の記憶が何度も頭を駆け巡る。
    駅前で、綺麗だって褒めてくれた。嬉しかった。
    手を繋ぐとき、気恥ずかしそうだった。
    それでも私を守るために、頑張ってくれた。すごく嬉しかった。

    満天の星空に打ち上がる花火を観た。
    楽しくて、幸せで、とってもロマンチックで。
    今日という一日が、すごく楽しかった。

    ごめんねデク君。もう出ていくから。おやすみって言うから。
    嫌だ、そんなこと言いたくない。


    もう最後の花火があがった。
    終わりの鐘は鳴っている。
    今日という魔法は終わったんだ。

    けれどまだ、添えられるように繋がれた、この手が残っている。
    あまりに簡単に離せてしまう、二人の手のひら。

    それでも、この儚い繋がりが、最後に残ったガラスの靴のようで……

  • 168二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 10:38:39

    緑谷君は泣いている女の子を放っておくような男じゃないよな
    お茶子ちゃんの憂いを晴らしてくれると信じているよ

  • 169練乳グラブジャムン25/08/23(土) 10:56:34

    いつだって私を大切にしてくれて。
    いっぱい傷ついて、頑張ってきたこの手に、まだ触れていたい。

    あんな暗くて寂しい部屋に戻りたくない。
    独りぼっちは嫌。
    この手を放したくない。
    もっと触れていたい。
    友達のままでいたくない。
    一人の女の子として見てほしい。
    私だけを想ってほしい。
    あなたの一番になりたい。
    誰よりあなたの傍にいたい。
    その胸に飛び込んで、思いっきり抱きしめてほしい。

    全部ただの我儘だ、『困らせたくない』の正反対。そんなの分かってる。
    だから、しまっておくんだ。

    ずっと伝えたかった、あなたが好きだって。
    そしてずっと一緒にいてほしい。

    でも、そのたった一言が、どうしても言えなくて。
    いつも動けなかった。
    奥歯がガチガチと震えて、喉から声が消えてしまう。

  • 170練乳グラブジャムン25/08/23(土) 11:39:51

    ごめんなさい、と断られたら?
    他に好きな人がいたら?

    その瞬間に私の心は壊れてしまう。
    知りたくない。怖くてたまらない。

    好きで、好きで、どうしようもなく好きなのに。
    怖くて、怖くて、どうしようもなく怖くてたまらない。

    デク君が他の女の子と親しくしているだけで、不安になって。
    スキンシップの激しい子がいると、すごく嫌で、心がざわついて。
    何でもないんだって分かると安心して。


    高校時代のクリスマスだって、バレンタインだって、チャンスなんていっぱいあった。
    でも、結局伝えられなかった。
    この気持ちは、しまっておこうって決めたから。
    邪魔をしたくなかったから。それ以上に怖かったから。

    いつも、どうしようもなく怖くなって。
    いつだって、自分でも情けなくなるくらい臆病で。
    なんでこんなに怖いんだろう。勇気が出せないんだろう。

  • 171練乳グラブジャムン25/08/23(土) 11:45:46

    そんな私も、しまっておけばいい。

    この手を離したら、最後の魔法が解けてしまう。
    ガラスの靴が消え去って、夢が覚めてしまう。

    ここまできても、まだ私は想いを口にできない。
    好きだって伝えたいのに。
    きっと大丈夫だって、何度も何度も、精一杯、勇気を振り絞るのに。

    それでも、奈落の底に落とされるような、とんでもない怖さに、声が出せなくて。

    いいんだ、勇気が足りないなら、しまっておこう。
    臆病な自分も、ずっと抱いてる恋心も、知りたくない恐怖も。

  • 172練乳グラブジャムン25/08/23(土) 12:09:23

    全部、全部、しまっておこう。
    この手を離して、しまっておこう。

    この手を離して。
    この手を離すの。

    もういいから。
    しまっておけばいいだけ。


    …………離れたくない。
    ダメだって分かってるのに。

    それでも、どうしても……
    …………一緒にいたい。



    自分でも気付かないうちに、瞳から、涙が零れ落ちた。


    次の瞬間。

    繋いでいた手が、離されていた。


    ―――― to be continued

  • 173二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 12:27:25

    緑谷ァ・・・?

  • 174練乳グラブジャムン25/08/23(土) 15:45:03

    ■No.473 true


    ※SIDE 麗日


    その手に感じていた温もりが消えた。
    最後の魔法が。

    デク君に手を離された。
    私が離したんじゃなくて、デク君に離された。

    それは、最後に残ったガラスの靴が砕けたようで。


    瞬間、全身が総毛立った。

    すぐ背後に『怖いもの』がいる。
    ついに追いつかれた。
    ずっと逃げ続けていた真っ黒いそれが、必死に遠ざけていたものが、夢の世界の幻が、産声をあげて現実に現れようとしている。

    奈落に落とされるような宣告を、ほらもう一秒後に告げられるぞ、と『怖いもの』が囁いてくる。

  • 175練乳グラブジャムン25/08/23(土) 15:47:22

    ――タダノトモダチ――
    ――ゴメンナサイ――

    「ぃゃあぁっ!?」

    あまりの恐怖に、逃れるように反射的に、目の前にいる人にしがみついた。
    こんなの幻だとか幻聴だとか、考える余裕すら無かった。

    「う、麗日さん!?」
    困惑するデク君の声が聞こえる。

    やばい、抱き着いちゃった!
    どうしよう、どうしよう、どうしよう!?
    なにやってるの、迷惑かけちゃってる、早く離れなきゃ、嫌われちゃう、どうしよう、いやだ、助けて!

  • 176二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 15:52:24

    !?

    ……緑谷の理性がッ!!(※違う

  • 177練乳グラブジャムン25/08/23(土) 16:18:48

    しまっておくんだ。
    しまっておけばいい。
    しまっておかなきゃ。

    この怖いものも、この切ない胸の痛みも、一人で眠る寂しさも。
    全部、全部、全部、何もかもしまっておけばいい、それでいい!

    どれだけ思っても、『怖いもの』は嬉々として踊り、囁いて。
    胸に秘めた、私の大切な宝物を、勝手に取り出していく。

    ――やめて、やめて、やめて! いまそんなもの見せないで!

  • 178練乳グラブジャムン25/08/23(土) 16:26:08

    横顔を見つめては頬を染めた学生時代の日々。
    いまもコスチュームのポケットに忍ばせているお人形。
    特別だって言ってもらえて胸が高鳴った二次会。
    服を買って応援してくれた友達の顔。
    楽しみにマル印を付けていたカレンダー。
    手を繋いで歩いた街並み。
    半分こしたクレープの写真。
    二人で観た夜空の花火。

    ――全部まとめて、グチャグチャにされてしまう悪夢。

    「ああっ、ああああ! やだ、やだあっ!」

  • 179二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 16:28:18

    ーーーお布団2組用意しておきますね(殴

  • 180練乳グラブジャムン25/08/23(土) 16:28:41

    助けて、怖いよ!
    デク君の浴衣を掴んで泣き叫ぶ。
    奥歯がガチガチと鳴り、全身がぶるぶる震えた。

    しまっておくんだ。
    拒絶されたら、私の宝物が全部壊されちゃう。

    「どうしたの!? 何かあったの!? 落ち着いて、大丈夫だから!」

    あんなに綺麗な花火だった。
    きっとデク君も楽しんだ。水を差したくない。

    何やってるの私、バカじゃないの!?
    こんなところで泣いてちゃいけない。
    しまっておくんだ。

    怖くてたまらない。誰か助けて。お願い、誰か。デク君、助けて……!

  • 181練乳グラブジャムン25/08/23(土) 16:32:57

    気が付くと、デク君が私の手を握ってくれていた。
    「ほら、大丈夫だよ……どうしたの?」

    その手が優しくて、温かくて。
    もう一度繋いでくれたことが嬉しくて。
    私を心配してくれる顔が優しくて。
    この手を握っているときだけは、怖いのが消えていて。
    迷惑かけたくないのに、まだ離れたくなくて。
    泣いちゃいけないのに、涙がぽろぽろ零れて。
    嫌われたくないのに、笑顔が作れなくて。


    思考も感情も滅茶苦茶で。
    もうどうすればいいのか、何も分からなくて。

    (もっと好きに生きてね)

    誰かの言葉が頭に響いて、ふっ、と、頭が真っ白になった。

    思考も何も無く。
    ただ、いけないワガママだけが、口に出てしまっていた。

    「……離れたく、ない…………まだ、一緒にいて……?」

  • 182二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 16:39:35

    緑谷、好きな子にこれ言われて理性保てる?

  • 183練乳グラブジャムン25/08/23(土) 16:54:52

    ※SIDE 緑谷


    僕の胸に顔を埋めて。
    痛いほど強く僕の手を握って、その手が震えていた。

    「……わかった。離れないから。一緒にいよう?」
    こくん、と頷く麗日さん。

    「本当は……僕も、麗日さんと離れたくなかったんだ。でも、ごめんね……ずっと手を握ってたら、怖がらせちゃうかと思って……手、離しちゃって」
    ぶんぶんと首を振ってくれる。

    「僕からもお願い……もう少し、一緒にいてくれる?」
    大きく、こくん、と頷いてくれた。

  • 184練乳グラブジャムン25/08/23(土) 17:12:54

    繋いだ手のひらが小さくて。
    その震えを取り除いて、安心させてあげたくて。

    どうしようもなく、抱きしめたい。

    「……ごめん、嫌なら言って? すぐ離すから」

    細いその背中に、そっと手を回す。
    拒絶はなかった。
    逆に、麗日さんの腕が僕の背中に回されて、より強く抱き着かれる。

    「……僕も、まだ一緒にいたかったんだ」
    小柄な柔らかい身体。
    クラクラするほどの甘い香り。
    「花火が終わって、麗日さんを部屋に帰してあげなきゃって思ったけど……どうしても、手を離したくなくて」

  • 185二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 17:22:24

    早く押し倒せ!!!!

  • 186練乳グラブジャムン25/08/23(土) 17:27:12

    世界で一番愛しい人が、自分の腕の中にいる幸福感。
    「さっきの花火だって……麗日さんと、二人で一緒に観れたのが、すごく嬉しくて……みんな、来ないでくれてよかった、なんて……すごい、申し訳ないこと思っちゃったくらいで……」

    想いが溢れてくる。
    「今日一日が、ずっと、夢みたいで……駅で逢った時から、ずっとドキドキしっぱなしで……手を繋いでるだけで、舞い上がるほど幸せで……半分こしたクレープとか、本当にすごい嬉しくて」

    気のせいだろうか。
    胸の内を吐露するほどに、麗日さんの震えが、だんだん収まっていくように感じる。
    「僕にとって、麗日さんは、一番特別な人だから」

  • 187練乳グラブジャムン25/08/23(土) 17:28:53

    あの祝賀会のときに気が付いて、二次会のときに、確信に変わった、自分の気持ち。
    世界でたった一人、麗日さんに対してだけ起こる、自分の胸の高鳴り。

    気付いて自覚したのは最近だ。
    でも昔からずっと、この気持ちは心の奥底にあった。
    自分の気持ちにも気付けなかった、愚かな自分。
    かっちゃんに罵倒されるのも無理はない。

    そうだ。
    あのときは伝えられなかった。
    もう一度、ちゃんと伝える機会がほしかった。
    だから飯田君にも相談した。
    いまが一番いいタイミングじゃないか。

  • 188二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 17:34:47

    お、おお?遂にか?

  • 189練乳グラブジャムン25/08/23(土) 17:56:12

    「麗日さん」

    その愛しい顔を、真っすぐ見つめて。
    この想いが本物だって、確信して。

    「あなたが好きです」

    麗日さんの瞳が、まん丸に見開かれた。
    大きく息を吸って、呼吸が止まって、信じられない、といった表情で。

    「僕は、麗日さんが好きです。一人の女の子として、他の誰よりも一番、あなたが好きです」

    もう一度。
    はっきり、分かるように。
    何の勘違いもさせないように。

    あなたを大切にします、という気持ちを込めて。

  • 190練乳グラブジャムン25/08/23(土) 17:59:41
  • 191二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 18:56:24

    偉いぞ緑谷、一度こうだと決めると強いなやっばり
    そして主さん、いつも素敵な話をありがとうございます。毎日笑いながらドキドキしながら読み進めています

  • 192二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 20:34:12

    今のスレ主への率直な気持ち

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