【閲覧注意・🎲】ここだけ不知火カヤの中身が、大体ボンドルド卿だった世界線 Part.20

  • 1ホットドリンク大好き25/08/18(月) 23:40:10

    【あらすじ】
    困った子ですね、ヴェルギリア。
    ここで『私達』が勝たなければいけないことは、貴方が一番分かっているはずですが。

  • 2ホットドリンク大好き25/08/18(月) 23:41:37
  • 3ホットドリンク大好き25/08/18(月) 23:44:40
  • 4ホットドリンク大好き25/08/18(月) 23:46:01
  • 5ホットドリンク大好き25/08/18(月) 23:48:29
  • 6ホットドリンク大好き25/08/18(月) 23:50:11
  • 7ホットドリンク大好き25/08/18(月) 23:52:08
  • 8二次元好きの匿名さん25/08/18(月) 23:57:30

    保守

  • 9ホットドリンク大好き25/08/19(火) 00:06:14

    保守

  • 10ホットドリンク大好き25/08/19(火) 00:09:59

    保守

  • 11二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 09:00:17

    保守

  • 12二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 15:00:16

    保守

  • 13二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 21:00:22

    保守

  • 14二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 03:00:19

    保守

  • 15ホットドリンク大好き25/08/20(水) 04:44:56

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    アツコ:
    「─── 悪って、何なのかな?」

    その日の茶会でアツコが呈したのは、本当に本質的な問いだった。
    ヴェルギリアにとって、極めて本質的な。

    ヴェルギリアは顎に手を当てて、少し考えを整理し答えた。

    ヴェルギリア:
    「・・・例えば、ここに茶菓子があるな。」

    アツコとヴェルギリアを挟むようにティアードスタンドがあり、そこには贅を尽くした茶菓子が盛り付けられていた。
    ベアトリーチェの教育方針から、こういった無駄なものは多く手に入れることが出来た。

    ヴェルギリア:
    「これを、私が誰かに与えてやるとする。
    それで ソイツが悪党なら、それを隠して自分だけで愉しもうとするだろう。
    もし もっと質の悪い悪党なら、『隠している』事実を利用して善人に無理やり食わせ、共犯に仕立て上げて支配しようとするだろうな。」

    アツコ:
    「それは、マダムのように?」

  • 16ホットドリンク大好き25/08/20(水) 04:45:57

    ヴェルギリア:
    「お、分かってるな。 ハハッ!」

    ヴェルギリアの首が、戒めのチョーカーによって絞まった。
    ヴェルギリアは首を引っ掻くようにして苦しそうにする。

    ヴェルギリア:
    「おげ・・・あ”ぁ”・・・クソババアめ・・・。 相変わらず、器の小さい・・・。」

    アツコ:
    「ごめんなさい、私のせいで・・・。」

    アツコは席を立つと、ヴェルギリアの背中を擦った。
    物理的な効果はないはずだが、不思議と手の温かみを感じて呼吸が楽になった。

    ヴェルギリア:
    「へへっ、いいんだよ。 あの高慢ババアは、偶には飼い犬に噛み付かれるべきなんだ。」

    更に首輪が絞まったが、ヴェルギリアは痩せ我慢で効いていないフリをした。
    アツコの前では、強がりたかった。

  • 17ホットドリンク大好き25/08/20(水) 04:47:13

    ヴェルギリア:
    「・・・ふぅ。
    ところで今日も茶菓子を持ってくんだよな。 いつものバスケットで良いか?」

    アツコ:
    「あ、うん。」

    話を変えたいヴェルギリアの意図を察したらしいアツコが追従する。
    ヴェルギリアは机の下からバスケットを取り出すと、流れるような所作で卓上の茶菓子を詰めていった。
    その途中で、ハタと動きを止める。

    ヴェルギリア:
    「そういえば、お前もうすぐ誕生日だろう?」

    アツコ:
    「そうだね。」

    あまり興味なさげにアツコは答えた。
    むしろ、ヴェルギリアの方がアツコの誕生日を気にしていた。

  • 18ホットドリンク大好き25/08/20(水) 04:48:13

    ヴェルギリア:
    「プレゼントが、ある。」

    アツコ:
    「・・・私は、何も返せないのだけど。」

    アツコは一方的にプレゼントを貰うことに抵抗があるらしかった。
    ただのロイヤルブラッド(人形)だった頃に比べて、随分 味がするようになってきたものだとヴェルギリアは思っていた。

    ヴェルギリア:
    「いいんだよ。 下が上に捧げ物をするのは、当たり前のことだからな。」

    アツコ:
    「・・・。」

    アツコは何も言わなかった。
    ただ、少し哀しそうな目でヴェルギリアを見ていた。

  • 19ホットドリンク大好き25/08/20(水) 04:49:25

    ヴェルギリア:
    「お前は・・・こういう方が好きだろう?」

    ヴェルギリアはアツコの前に一つの箱を置いた。
    それは、初心者向けの化粧箱だった。
    幾らかの基本的な化粧類に、それらの使い方を纏めたマニュアル手帳が付属している。

    化粧品は、ヴェルギリアが自由に手に入れられる無駄な物の一つだった。

    アツコ:
    「わぁ・・・。」

    アツコが目を輝かせる。
    しかしそれは、別に化粧品が好きだからというワケではなく、この化粧箱が多人数で使い回せそうなことに対する喜びだということは分かっていた。
    アツコがそういう人間だと分かっていたからこそ、ヴェルギリアは この一人用なのに無駄に大きい化粧箱を選んだのだ。

    アツコ:
    「・・・ありがとう。 サッちゃんが喜ぶと思う。」

    ヴェルギリア:
    「・・・。」

    ヴェルギリアは眩しそうに目を細めた。
    ─── 持ち帰った茶菓子は常に皆と分け合い、贈り物は自分よりも他人が喜ぶ物ような物の方が好き。
    それは確かに、ヴェルギリアが思う善人の形だった。

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  • 20二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 14:15:58

    みんなで食べるとおいしいよね

  • 21二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 21:01:10

    保守

  • 22ホットドリンク大好き25/08/21(木) 01:15:45

    ────────────────────

    ヴェルギリア:
    「─── 何やってんだ、あの馬鹿・・・。」

    ベアトリーチェと似た姿となり、同じような無数の眼を手に入れたヴェルギリアの視界に、怪物と化したベアトリーチェが映っていた。
    ヴェルギリアが知っている枯れ木のような形態より、ずっと生命力に溢れ、何よりデカい。

    ─── それが、アリウスの街を破壊しながら暴れていた。

    ヴェルギリア:
    「・・・幾ら何でも頭が悪過ぎるだろ。」

    ヴェルギリアはベアトリーチェが幾つも奥の手を持っていることを知っていた。
    だからこそ、アンブロジウスは勿論、かの【聖女】バルバラまで用意してあったはずなのに、何故ベアトリーチェが単騎で出ているのか理解に苦しんだ。

    これだからカビ臭い古典文学しか読まない老害はダメなのだ。
    最近の漫画やらゲームやらを触りだけでも知っていたら(これらはベアトリーチェの教育方針に反するので自由に手に入らず、仕方が無いので余所から奪って手に入れた)、ラスボスが自力で戦おうとしている時点でメタ的には負け展開だと分かるものを。

    ヴェルギリア:
    「クソッ、こっちにも首絞めさせろ。
    さもなくば今からでも『簡易複製(リダクション)』した私を差し向けて滅多撃ちしてやろうか・・・。」

    言ったは良いものの、出来ないことは分かっていた。
    こっちもこっちで、拡張した能力をフルに使って、現在進行形で怪物二人と渡り合っているのである。

    余所に回せる手勢など、あるはずも無かった。

  • 23ホットドリンク大好き25/08/21(木) 01:17:18

    ヴェルギリア:
    「・・・落ち着こう。
    アイツが酒と自分と権能に酔いやすいのは、昔から だったじゃないか。」

    ヴェルギリアはベアトリーチェの過去の醜態を思い出して、精神を落ち着けることにした。
    そう・・・あれは忘れもしない。
    偶々良いワインが手に入ったとかでウキウキで栓を開けて呑み始めたのは良いものの、一杯か二杯程度で持ち前の暴れ癖を発揮し始め、給仕をさせられていたヴェルギリアと殺し合いのような喧嘩をしたのだ。

    ・・・。
    思い出したらムカムカしてきた。
    なんで下戸の酒呑みに付き合わされた挙句、半殺しにまでさせられないといけないのか。
    しかも、翌日になったら全く前日のことは覚えてなかったし。

    ヴェルギリア:
    (まぁ・・・私を半殺しに出来るんだから、あっちは あっちで上手くやるだろ。)

    ヴェルギリアは考えることを止めた。
    考えるのがバカらしくなったとも言う。

    幸いにしてベアトリーチェの戦闘センスは、ヴェルギリアも(非常に遺憾だが)認めるところである。
    気付いたらやられてました・・・なんていうことにはならないだろう。

  • 24ホットドリンク大好き25/08/21(木) 01:25:41

    ヴェルギリア:
    「むしろ、こっちが やられるかも・・・なっ!」

    ヴェルギリアは一歩後ろに下がる。
    すると次の瞬間、ついさっきまでヴェルギリアが立っていた場所の真下から、コンクリート製の建物を発泡スチロールか何かのように砕いてミカが現われた。

    更に、ヴェルギリアは頭を下げる。
    すると次の瞬間、ついさっきまでヴェルギリアの頭があった場所に光線が走った。
    背後では いつの間にかカヤが射線を確保していて、肘部の必殺兵器(スパラグモス)に陽炎が揺らめいていた。

    半ば暴走のような形になっているミカと意思疎通をとるのは難しいだろうに、見事な連携である。

    ヴェルギリア:
    「ハハッ、最高だな!
    お前ら二人とも、立派な怪物だよ!!」

    ヴェルギリア ─── 黒いベアトリーチェが、その肉食の歯を剥き出しにして嗤った。
    その脳裏からは、先程までの つまらない思考は抜けていた。

    あるのはただ、目の前の敵に勝利したいという欲望だけ。

  • 25ホットドリンク大好き25/08/21(木) 01:27:23

    ヴェルギリア:
    (・・・結局、これはアツコには言えなかったな。)

    どこか、自分を理解して欲しいという欲望が、アツコに対してあった気がする。
    価値観が違ったからこそヴェルギリアとアツコは相容れなかったが、それでも互いに互いを理解しようとする努力はしていたつもりだった。
    その点、アツコは自分を偽らなかったが、ヴェルギリアには どこか自分を良く見せようと虚勢を張ってしまうところがあった。

    ─── 悪とは、己の欲望を我慢できない欠陥品であると、終ぞ吐露できなかった。

    自分が、持ち帰った茶菓子を自分一人で隠れて食べてしまうような低俗な存在であると知られたくなかった。
    ベアトリーチェに似た、無駄な高慢さが それを必死に隠そうとした。

    そして、少しでも善(規格品)に ─── アツコに近づこうとした。

    ヴェルギリア:
    (なぁ、アツコ。 『私達』は結局、高位の存在に成りたいだけのケダモノなんだよ。)

    ベアトリーチェは、「崇高」に至る道の中に『高位の存在』のビジョンを見出した。
    対してヴェルギリアは、アツコや(一人を除く)アリウススクワッドの中に『高位の存在』のビジョンを見出した。

    程度や方向性の差はあれど、結局本質的には同じだった。
    他人を喰らい、成長を続け、また他人を喰らう。
    その欲望に際限はない。

    ─── この どうしようもなさこそが、悪の本質だとヴェルギリアは考えていた。

    ────────────────────

  • 26二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 09:00:18

    保守

  • 27二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 15:00:21

    保守

  • 28二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 21:00:24

    保守

  • 29二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 03:00:18

    保守

  • 30ホットドリンク大好き25/08/22(金) 06:40:51

    ────────────────────

    トリニティ生徒A:
    「12時の方角から大軍 ─── !」

    トリニティ生徒B:
    「3時の方角からも同じく ───」

    トリニティ生徒C:
    「こちら後方支援部隊! 敵対勢力に攻撃を受けている! 援軍求む! 繰り返す───」

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    ハスミ:
    「─── 攻撃を受けている箇所に援軍を向かわせて下さい。 遊軍は勿論、予備戦力も全て投入して構いません。」

    正義実現委員A:
    「しょ、承知しました!」

    ハスミの指示を受けて、周囲がバタバタと動き始める。
    やがて誰もいなくなると、ハスミはふと溜息をついた。

    ハスミ:
    「このままでは、先に力尽きるのは我々ですね・・・。」

    ???:
    「まぁ・・・なんとかなりますよ。 曲がりなりにも ここにはトリニティの戦力が全て集まってるワケですし。」

  • 31ホットドリンク大好き25/08/22(金) 06:42:31

    ハスミが視線を向けると、苦笑いしているイチカと目が合った。
    今回の作戦では、自身の副官のような立場を任せていた。

    重荷を背負わせていることは分かっている。
    しかし、能力的には不足ないはずだった。

    ハスミ:
    「・・・そうですね。 少し、悲観的になりすぎていたようです。」

    ハスミは楽観的過ぎるとも言える言葉に頷いた。
    イチカも現状の困窮は理解しているはずである。

    ハスミ:
    「ではまず、現状を整理しましょう。
    先刻、大きな地響きと共に、地平線を塗りつぶすような形で巨大な金属質の樹木が幾つも出現しました。
    そして、そこから無限とも言える数の敵が出現し、我々を襲撃し続けている・・・ここまでは良いですね?」

    イチカ:
    「最近そういうのと縁があるっすね。 へへっ。」

    実際、先日のユスティナ聖徒会の亡霊と似たような性質を持つ敵だった。
    ─── いくら倒そうと、無尽蔵に湧き出る敵。
    ただ、今回のものは幾らか物理的だが。

  • 32ホットドリンク大好き25/08/22(金) 06:44:13

    ハスミ:
    「そうですね。
    そういう縁に恵まれたおかげでしょうか、いまのところ生徒達に大きな動揺は見られません。
    『前のものと似たようなものだろう』という慣れが大きいのでしょう。」

    イチカ:
    「怪我の功名ってヤツっすね~。」

    ハスミ:
    「とはいえ、良いことばかりでもありません。
    相手が本当に無尽蔵だった場合、先に我々の弾薬が尽きます。
    もし有限であるなら、弾薬を節約しつつ相手の出血を強要する戦術を採れるのですが・・・。」

    イチカ:
    「─── そこまで行くと、賭けの要素が大きい。
    万一、相手が有限であれば最小の損傷で勝利できるが、逆に無限であれば一方的に押し潰される・・・っすか。」

    やはり、状況を見る目はある。
    頭に血が昇ってさえいなければ、ではあるが。

  • 33ホットドリンク大好き25/08/22(金) 06:45:35

    イチカ:
    「・・・いっそ、原点に立ち返って『突撃!』なんてのは どうっすか!」

    イチカが おどけた笑顔で言う。
    恐らく、冗談で言ったつもりなのだろう。
    しかしハスミの脳裏には天啓の如く閃くものがあった。

    ハスミ:
    「・・・悪くないかもしれませんね。」

    イチカ:
    「・・・はい?」

    ハスミは近くに置いていた地図を広げる。
    そこには幾つか、元の地図データには無い書き込みがあった。

    イチカ:
    「ハスミ先輩、これは・・・?」

    ハスミ:
    「『とある筋』からの情報を基に、図書委員会のウイさんに調べて頂いたカタコンベの地図・・・。
    その中でも出入り口だけを特筆して記して頂いたものです。 カタコンベ自体の地図は別にあります。」

    ハスミは地図を指でなぞる。

    ハスミ:
    「この地図にある出入り口と、先刻あらわれた金属質の大樹達の情報を整合すると見えてくるものがあります。
    ─── この樹海は、我々をカタコンベの入り口に到達させないように伸びている。」

    地図には、蛇のように並んだカタコンベの入り口が示されていた。

  • 34ホットドリンク大好き25/08/22(金) 06:48:32

    ハスミ:
    「そして、それに注力する あまり厚みを持てていない。
    ・・・この陣形は、我々の一点突破を想定していません。」

    イチカ:
    「いや、そんなのは誰も想定してないと思いますよ!?」

    イチカの言葉遣いが少し荒くなる。
    まさか ここまで本気にされるとは思ってもみなかったのだろう。

    だが、ハスミには勝算があるように見えた。
    この現象を引き起こしたのがハスミの考える旧い友人であれば、彼女は『想定外』に弱いはずだった。
    そして、一般的に今回の手は愚策である。

    ─── 彼女が負けるときは、いつも誰かが愚策を打ったときだった。

    ハスミ:
    「やりましょう、イチカ。
    どの道、どこかで賭けをしなくてはいけない戦いです。
    勝利するにしても敗北するにしても、やるのであれば前のめり に行くべきだと思いませんか?」

    イチカ:
    「ハスミ先輩・・・。」

    イチカは目を見開いた。
    そして少しの間 沈黙する。

  • 35ホットドリンク大好き25/08/22(金) 06:53:38

    イチカ:
    「・・・そうっすね。
    いいんじゃないっすか?
    どうせ今回の出撃自体もダメ元みたいなもんですし。
    やるなら・・・そうっすね。 古くさいやり方ですけど、華がある方が良いかもしれないっす。」

    ハスミ:
    「・・・貴方には苦労を掛けますね。」

    イチカ:
    「いいっすよ。 地獄に行くなら ご一緒するっす。
    それに・・・勝ったら大昔の『騎兵隊』みたいじゃないっすか。 カッコイイっす。」

    ハスミ:
    「ありがとうございます。
    ・・・とはいえ無策で突っ込むのも芸がありません。
    シスターフッドの皆さんに お願いして、あの樹海の中にいるはずの方々を探して貰ってきて下さい。
    見つかった端から、回収の為に突撃を繰り返す形で行きます。
    最後にカタコンベに入り込めれば、我々は賭けに勝ったということで。」

    イチカ:
    「承知っす。」

    イチカがシスターフッドに指示を出す為に退場する。
    ハスミは それを見送ると空を仰いだ。

    ハスミ:
    「・・・後は神のみぞ知るところですね。」

    ────────────────────

  • 36二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 15:02:23

    保守

  • 37二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 23:41:38

    保守

  • 38二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 06:00:27

    保守

  • 39二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 12:00:16

    保守

  • 40ホットドリンク大好き25/08/23(土) 15:02:09

    ────────────────────

    影を這うように進む。
    現れたヴェルギリアの『簡易複製(リダクション)』、その頭を片手で掴んで勢い良く地面に めり込ませた。

    ・・・やはりオリジナルより随分と弱い。
    ステータス的には殆ど同じはずだが、やはり判断能力が低いようだ。

    ───とはいえ、その無尽蔵に生み出せる兵力という性質が厄介なことに変わりは無い。

    早くヴェルギリアを仕留めなければ。
    仲の良い友人ではあるが、それを割り切って排除に動けるだけの冷酷さがカヤにはあった。

    ───── (衝撃音)

    地面に、振動が走った。
    どうやらミカが、激しく暴れているようだ。

    カヤも それに合わせるように地面を蹴ろうとし───

  • 41ホットドリンク大好き25/08/23(土) 15:07:10

    カヤ:
    「───これは・・・狼煙(ロアサイン)?」

    僅かに忍び込ませていた防衛室スタッフから、意識のネットワークを伝って緊急信号が発せられたのを感じた。
    咄嗟に近くの建物を掴んで跳躍の勢いを〇す。
    鈍い音と共に、強靭な鉄筋コンクリート製の壁に蜘蛛の巣のような亀裂が走った。

    カヤは黒い仮面の耳当て部分に手を伸ばし、狼煙に載せられた情報を検分する。

    カヤ:
    「・・・あぁ、『蛇の目』が出てしまいましたか。
    まさか あのベアトリーチェが、自らサオリを相手にするとは・・・。」

    ヴェルギリアは勿論、ベアトリーチェも知らない話だが、カヤの想定ではベアトリーチェが自らサオリを仕留めに掛かるのは最悪のシナリオの一つだった。
    なぜなら、カヤが経験した揺り返しの中で、『ミカかサオリが何等かの理由で脱落した場合』カヤは必ずベアトリーチェに敗北しているからだ。

    そして、サオリは少なくとも”単騎では”絶対にベアトリーチェに勝てない。
    これも、揺り返しの経験から来る確信だ。

    つまり、過程はどうあれベアトリーチェとサオリが一対一で向かい合った時点で、チェスで言うチェック状態なのである。
    ヴェルギリアからすれば ただの権能に酔ったバカの暴走だが、カヤからすれば『決定的な成功(クリティカル)』だった。

    カヤは迷わず踵を返した。

    カヤ:
    「もし、私が到着する前に サオリさんが『捕食』されてしまえば───」

    『チェックメイト』。
    その言葉は、敢えて口には出さなかった。
    ────────────────────

  • 42二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 00:58:35

    滑り込みセーフ!

  • 43二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 09:00:36

    保守

  • 44二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 15:00:41

    保守

  • 45二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 21:00:17

    保守

  • 46二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 23:21:31

    追いついた!!!
    たのしみ

  • 47ホットドリンク大好き25/08/25(月) 02:49:27

    ────────────────────

    ヴェルギリア:
    「・・・あ? カヤの野郎の・・・圧力が、消えた??」

    不意にカヤから来るプレッシャーの消えたヴェルギリアが最初に感じたのは、優勢に転じたことに対する歓びよりも得体の知れない困惑だった。
    ここの盤面でカヤが消える意図が分からない。
    自分は何か見逃しているのか?

    ヴェルギリア:
    (だが・・・まぁ、ここが有利になったことは事実か。)

    少し考えたが、アツコとの対話で自分とベアトリーチェが大分バカなことを察しているヴェルギリアは、あまり深く考えないことにした。
    『迷えば敗れる』。
    ”この時間軸ではまだ会っていない”友人から、学んだことである。

    ヴェルギリア:
    「・・・『戒律の守護者達』よ。」

    ヴェルギリアは ここで、温存していた手札を切った。
    黒いベアトリーチェの姿をしたヴェルギリアの背後に、無数のユスティナ聖徒会の『複製(ミメシス)』が出現する。

    ヴェルギリア:
    「─── 征け。」

    ヴェルギリアは自身の『簡易複製(リダクション)』相手に暴れている、神秘の炎に染まったミカを指差した。
    亡霊の靴音が、焼け焦げたアリウスの街に響く。

  • 48ホットドリンク大好き25/08/25(月) 02:51:57

    ヴェルギリア:
    (・・・よし。 これで数分は持つはず。)

    ヴェルギリアはカヤの援護を失ったミカを、大量の罠を仕掛けた地点に誘い込むと、そこに自身が制御できる全兵力を集中させた。
    力だけの相手なら、足止めは難しくなかった。

    ヴェルギリア:
    (カヤの馬鹿が何を企んでるのか知らないが・・・今のうちに『儀式』を始めてしまおう。)

    既に準備こそ出来ているが、最高の効果を得るにはベアトリーチェではなくヴェルギリアが儀式を行う必要があった。
    アリウスの教祖的立場にいるベアトリーチェだが、その本人が『信仰』に向いていないことは、ヴェルギリアが誰よりも知っていた。

    ヴェルギリア:
    (それにしても運が良い・・・。
    まさかトリニティ連中が来る前に、余裕を持って儀式を始められるとは。)

    そこまで考えて、もしかしたら今回こそカヤに勝てるかもしれないという予感じみた欲望がヴェルギリアを支配した。
    全身に興奮が走るのを感じる。

    ヴェルギリア:
    (もし・・・カヤが消えた理由が”事故ってる”からだとすれば・・・。)

    ─── 勝てる。
    その考えに至った時、神経に稲妻が走ったような快感を感じた。

    勝った後に起きる都合の悪いことなど、この瞬間だけは全て忘れられた。
    あのカヤに、勝つ。
    それだけで、この周回、いや命を捨てる価値がある。
    これで終わったって構うものか。

  • 49ホットドリンク大好き25/08/25(月) 02:53:43

    ヴェルギリア:
    (そうと決まれば、さっさと───)
















    ???:
    「マシロを攫ったのは、お前か?」

    ヴェルギリア:
    「─── は?」

    不意に”いるはずのない”存在の声を聞き、ヴェルギリアの思考は停止した。
    それは致命的な隙だった。

  • 50ホットドリンク大好き25/08/25(月) 02:58:37

    ───── 銃声

    ヴェルギリアは頭部に銃弾を受け、倒れるように仰け反る。
    そしてそのまま、日の光で照らされる影のように消えた。

    十数メートル離れた建物の屋上に、再び現われる。
    痛むのか、頭部の撃たれた部分に手を当てていた。

    ヴェルギリア:
    「・・・剣先、ツルギ。」

    ツルギ:
    「・・・仕留め損なったか。」

    ツルギと睨み合いながら、しかしヴェルギリアの頭は混乱に支配されていた。
    想定では最悪でも未だカタコンベにいるはずの存在が、何故か目の前にいるのである。
    『蛇の目(スネークアイズ)』を引いたのは間違いなかった。

    ツルギ:
    「・・・全て、返してもらう。 結束も、誇りも、後輩も。」

    ツルギの背後には、いつの間にか無数の軍隊が展開されつつあった。
    それも、どこか勢いに乗ったトリニティの軍勢である。

  • 51ホットドリンク大好き25/08/25(月) 03:01:01

    ヴェルギリア:
    (何が・・・起こった?
    なんでコイツらがもう ここにいる??)

    有り得ないことが起こっていた。
    いくらあのナチュラルサイコパスが肝心な時の勝負に弱いからといっても、それだけでは説明がつかないほど、トリニティの動きは早かった。
    何か、とんでもない助けがあったとしか思えない。

    ヴェルギリア:
    (何だ・・・? 何を見逃している??
    カヤだけじゃない・・・『私達』は何を相手にしているんだ???)

    不意に、ヴェルギリアは盤面にカヤ以外の指し手の存在を感じた。
    そうでないと、今の盤面に説明がつかないことが多過ぎる。

    ヴェルギリア:
    「・・・あぁ、クソッ! やってやるよ!!」

    未知への恐怖を振り払うように、ヴェルギリアは声を張り上げた。
    懐から極彩色に輝く短刀を取り出すと、掌を深く切り裂く。
    そして、血の滴る腕を高く掲げた。

    ヴェルギリア:
    「『色彩』よ!
    全ての生命を灰色に帰す捕食者よ!!
    私は私を捧げる(シャグ=ナホス・イクタス・ゼル=グァリエ)!
    私は貴方の僕、世界を喰らう貴方の顎(ラグナ・カル=フォスス・ウルド=ニス)!!」

    空から、極彩色の星が堕ちた。
    ────────────────────

  • 52二次元好きの匿名さん25/08/25(月) 12:00:41

    保守

  • 53二次元好きの匿名さん25/08/25(月) 18:00:32

    保守

  • 54二次元好きの匿名さん25/08/26(火) 00:00:20

    保守

  • 55二次元好きの匿名さん25/08/26(火) 06:00:35

    保守

  • 56ホットドリンク大好き25/08/26(火) 06:36:20

    ────────────────────

    サオリ:
    「─────!!」

    ベアトリーチェ:
    「狂犬病にでも罹りましたか、野良犬。」

    蠢く黒い霧を纏い、赤い眼光を爛々と輝かせる、半ば怪異と化したサオリに対し、ベアトリーチェは心底 冷え切った口調で吐き捨てた。
    全身を突き刺すように感じる殺意より、ベアトリーチェにとっては飼い慣らしていたはずの飼い犬に噛まれている事実の方が ずっと不快だった。

    ベアトリーチェ:
    「貴方には、それなりに期待していたのですがね。」

    一時期、本気でヴェルギリアを始末しようと検討していた時期がある。
    それは一重に、サオリの方が ずっと兵器としての完成度が高かったからだ。

    特筆した強みは無いが、精神が安定している上に身体も強い。
    特出した戦闘能力は無いが、指導者としての才がある。
    そして何より、口答えせずに言うことを聞く。

    ヴェルギリアがカタログスペックばかり高い欠陥兵器だとすれば、サオリはスペックこそ控えめだが信用性の高い実戦的な兵器だった。

    あまりにもヴェルギリアが不快なので血迷った結果ではあるが、可能性の話だけをするならサオリを厚遇し、多くの権限と仕事を割り振る道もあった。
    それをしなかったのは、確信じみた『相容れない』という感覚があったからだ。

  • 57ホットドリンク大好き25/08/26(火) 06:38:05

    少なくとも、ヴェルギリアにはそれがなかった。
    認めがたいが、『同族』という意識すらある。

    そして残念なことに、その感覚は正しかったことになった。
    サオリはアリウススクワッドの保護が履行されたことによって防衛室に靡いたが、ヴェルギリアは何よりも求めているはずの自由を約束されてもカヤに靡かなかった。

    人生の汚点とまで考えていた失敗作が、ここ一番の大勝負で唯一信用できる駒になるというのは かなり皮肉で、ベアトリーチェにとっては屈辱的な話だった。

    ベアトリーチェ:
    「・・・楽に〇ねるとは思わないことです。」

    思ったより自分が苛立っていることも、ベアトリーチェを更に不快にさせた。
    まるで自分がサオリに本気で期待していたかのようだ。

    ベアトリーチェ:
    (・・・フンッ、まさか。)

    サオリは、ただの捨て駒だったはずだ。
    トリニティとゲヘナを奪れたら上々程度で、自らが偉大な存在に成る過程を考えれば、どうあっても使い捨てなければ面倒になる。

  • 58ホットドリンク大好き25/08/26(火) 06:41:03

    ・・・そうだというのに、どこかで自分を敬って欲しいという気持ちが無かったか。
    血を分けたヴェルギリアより、自ら教育を施したアツコより、サオリにこそ自分のような大人になって欲しいと考えていた節があった気がする。

    独りよがりで、奇妙な感情だった。

    ベアトリーチェ:
    (最初から、貴方は私に捕食される運命だったのですよ。)

    どこか自分を納得させるように呟いた。
    この野良犬が、自分を慕うことなどあるはずがないのだ。

    サオリの足元に、赤い茨を這わせる。
    呆気ないほど簡単に捉えることが出来た。

    僅か数秒の隙。
    しかし致命的な隙。

    ベアトリーチェはそれを、残念にすら思った。
    心のどこかで避けてくれないかとすら期待していた自分に、吐き気がした。

    しかし、迷いはない。
    既に、『鎌首』はもたげている。
    後は、引いた弓から矢を放つように、張り詰めたエネルギーを解放するだけだ。

    そうして足の止まったサオリを呑み込もうとし ───

    ────────────────────

  • 59二次元好きの匿名さん25/08/26(火) 14:17:13

    早めの保守がてら作った雑コラを

  • 60二次元好きの匿名さん25/08/26(火) 22:39:43

    保守

  • 61ホットドリンク大好き25/08/26(火) 23:22:23

    >>59

    実際問題、カヤにボンドルド卿の仮面を そのまま被せると、完全に雑コラになるのが悩みだったりする。

  • 62二次元好きの匿名さん25/08/27(水) 06:00:19

    保守

  • 63二次元好きの匿名さん25/08/27(水) 12:00:15

    保守

  • 64二次元好きの匿名さん25/08/27(水) 18:00:16

    保守

  • 65二次元好きの匿名さん25/08/28(木) 00:00:17

    保守

  • 66ホットドリンク大好き25/08/28(木) 05:59:23

    ────────────────────

    ───── 銃声

    ベアトリーチェ:
    「・・・。」

    ベアトリーチェは動きを止めた。
    否、止めたというより止まらざるを得なかった。

    今、確かに自らの頭部を何かが貫いた。
    動きを止め、権能を修復に回さないと手遅れになりかねなかった。
    そして何より、動きを止めてでも下手人を早く見つけないと、サオリと連携されて厄介なことになりかねなかった。

    サオリ:
    「───── !!」

    サオリが拘束から脱する。
    機を逃した形になるが、そんなことは どうでも良くなっていた。

    ベアトリーチェ:
    (私としたことが、野良犬に気を取られ過ぎたようです。)

    ベアトリーチェは幾つもある瞳で下手人を捜した。
    建物の影、藪の中、下水道・・・ ───

  • 67ホットドリンク大好き25/08/28(木) 06:00:37

    ベアトリーチェ:
    「・・・あぁ、貴方でしたか。」

    そして廃墟同然となった教会の屋上に、下手人を見つけた。

    ベアトリーチェ:
    「─── ヒヨリ。」

    ヒヨリ:
    「え、えへへ・・・。」

    現在のベアトリーチェの巨体をもってしても遠く離れた距離に、対物ライフルを構えたヒヨリがいた。
    ベアトリーチェにとって、声を拾う上では距離などは大した問題にはならなかった。

    ベアトリーチェ:
    「貴方のような愚図に不意を打たれるとは・・・。
    こうも物事が上手くいかないと、怒りで頭がおかしくなりそうですよ。」

    ベアトリーチェは、標的をサオリからヒヨリに変えた。

    ヒヨリ:
    「わ、私には・・・これくらいのことしか出来ませんから。」

    ヒヨリはサオリの方を見た。
    かなり離れているが、確かに目が合った。

  • 68ホットドリンク大好き25/08/28(木) 06:01:48

    サオリ:
    「・・・ヒヨリ?」

    憎しみの黒い霧が晴れ、サオリ本来の澄んだ青い目が覗く。
    その目には確かな困惑と、絶望の色があった。

    ヒヨリ:
    「─── でも、サオリ姉さんなら、アツコちゃんを助けられるはずです。」

    その言葉を最後に、ヒヨリはベアトリーチェに呑み込まれていった。

    サオリ:
    「っ! ヒヨリ!!」

    ???:
    「いけません、サオリ。」

    正気に戻り、捨て身でベアトリーチェに向かっていこうとするサオリを、何者かが後ろから引き留めた。
    振り返ると、黒い仮面を被ったカヤがサオリの手を掴んでいた。

  • 69ホットドリンク大好き25/08/28(木) 06:02:56

    サオリ:
    「放せ! ヒヨリがっ───!」

    カヤ:
    「今 貴方が向かって行っても、いたずらに捕食されるだけです。 ─── 耐えて下さい。」

    半ば狂乱した様子を見せるサオリに対し、カヤは無機質すぎるほど冷酷に言い放った。

    サオリ:
    「だがっ!」

    カヤ:
    「・・・失礼。」

    それでも言い募ろうとするサオリに対し、カヤは腕を強く引くと そのまま首に手を回した。
    万力のような力で固定し、サオリをアリウスの街の路地裏に引き摺り込む。

    サオリ:
    「ヒヨリ・・・!」

    暴れても拘束が外れないと悟ると、サオリは路地裏の闇から助けを求めるように手を伸ばした。
    遠くから自分達を睨むベアトリーチェの赤い瞳が、一つだけ やけに爛々とした光を放っているように見えた。

    ────────────────────

  • 70二次元好きの匿名さん25/08/28(木) 15:00:21

    保守

  • 71二次元好きの匿名さん25/08/28(木) 21:00:21

    保守

  • 72二次元好きの匿名さん25/08/29(金) 03:00:19

    保守

  • 73ホットドリンク大好き25/08/29(金) 06:39:56

    ────────────────────

    サオリ:
    「─── 何の、つもりだ。」

    カヤ:
    「勝つ為です、サオリ。」

    ───── パァンッ

    乾いた音が、アリウスの路地裏に響く。
    カヤの素顔に、サオリの拳が刺さっていた。

    カヤ:
    「・・・まだ、心は折れていないようですね。」

    しかしカヤは微動だにせず、無機質な目でサオリを検分する。
    そこに何か悍ましいものを見たサオリは、咄嗟にカヤから距離をとった。

    サオリ:
    「・・・私、は・・・アツコを助けに行く。」

    カヤ:
    「えぇ、是非そうして下さい。
    今ならば至聖所(バシリカ)は手薄でしょう。
    貴方がアツコさんを救出することが出来れば、私も助かります。」

    カヤは黒い仮面を被り直した。
    サオリには それが、悍ましい本性を覆い隠す為の「通過儀礼(イニシエーション)」に感じた。

  • 74ホットドリンク大好き25/08/29(金) 06:42:51

    サオリ:
    「・・・お前は、どうする?」

    カヤ:
    「責任を、とります。」

    カヤは背負子の空になった燃料カートリッジを排出し、前もって用意していたらしい隠しチェストから新しい燃料カートリッジを取り出して入れ替える。

    カヤ:
    「─── ヒヨリさんは、私が助けます。」

    サオリ:
    「・・・どうやって。
    お前も見ただろう? ヒヨリはマダムに喰われた。」

    棘のある言葉を口にしながら、しかし微かな希望がサオリの頭を支配していた。
    期待すれば傷付くかもしれないが、期待しなくては戦えない。

  • 75ホットドリンク大好き25/08/29(金) 06:44:47

    カヤ:
    「手は、あるのですよ。
    しかし手が手であるが故に、それは私が為さねばなりません。」

    あまりに抽象的な物言いだったが、短くない付き合いであるサオリには朧気ながらカヤの考えていることを理解することが出来た。

    サオリ:
    「・・・お前、まさか。」

    カヤ:
    「冒涜は何も、ベアトリーチェの専売特許ではないのですよ。」

    カヤは火炎放射器を吹かせて動作を確認した。
    暖色の炎が、その黒い仮面を照らす。

    カヤ:
    「・・・ところで、サオリ。 貴方は『奇跡』を信じますか?」

    ────────────────────

  • 76二次元好きの匿名さん25/08/29(金) 10:22:15

    ついに大人のカードを!?

  • 77二次元好きの匿名さん25/08/29(金) 18:00:23

    保守

  • 78二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 00:00:19

    保守

  • 79二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 06:00:20

    保守

  • 80ホットドリンク大好き25/08/30(土) 07:48:14

    ────────────────────

    ヴェルギリア:
    【どうした? 取り返しに来たんだろう? ─── 全てを。】

    戦闘の余波で瓦礫の山と化した建物の上に、見上げるような大きさの大狼が陣取っていた。
    荒々しい黒い獣毛と、悍ましい無数の赤い瞳を宿した、異形の大狼が。

    トリニティ生徒A:
    「─── 隊列を乱すな! 一斉に掃射しろ!!」

    トリニティ生徒B:
    「─── もう一頭が乱入してきた! 陽動は何をしてる!?」

    トリニティ生徒C:
    「─── 救援を求めます! 幾ら何でも数が多すぎる!!」

    それも一頭だけではなく、アリウスの街を埋め尽くすよう大群だった。
    トリニティの戦力と、巨大な狼の群れが激突する異様な光景が広がる。

    ヴェルギリア:
    【今 私を殺せれば、お前達の勝ちだ。
    ほら、どうした? もっと早く殺してみろ。 じゃないと もっと増えるぞ?】

    未だ原型を留めている建物の影から、瓦礫の山で出来た影から、次々と新たな大狼が生まれる。
    そのペースは、明らかに前線の大狼が消滅するペースよりも早かった。

  • 81ホットドリンク大好き25/08/30(土) 07:50:13

    ───── (咳き込む音)

    戦況を眺めていた大狼が、不意に咳き込む。
    その飛沫は鮮やかな赤色をしていた。

    ヴェルギリア:
    (まぁ、こっちにも余裕があるワケじゃないが・・・。)

    ヴェルギリアは、大狼の身体を震わせて血を吐き切る。
    瓦礫が血で染まり、代わりに幾らか呼吸が楽になった。

    ───── (誰かが瓦礫を踏む音)

    ヴェルギリア:
    【あー・・・みっともない所を見られちまったなぁ・・・。】

    口の中に残った僅かな血を吐き出しながら言う。
    ヴェルギリアの視線の先には、毅然とした表情のハスミが立っていた。

  • 82ホットドリンク大好き25/08/30(土) 07:54:58

    ハスミ:
    「体調が優れないのでしたら、素直に降伏することをオススメしますよ。」

    ヴェルギリア:
    【バカ言え、猫が毛玉を吐くようなもんさ。】

    嘘である。
    本当は内臓を掻き混ぜられているかのような激痛がある。

    上位の存在である『色彩』の力を降ろすというのは、それだけの代償が必要だった。
    別に『色彩』は、人を愛する善神でも何でもないが故に。

    ─── もっとも、『色彩』の方からの干渉であればローリスクかもしれないが。

    ヴェルギリア:
    【・・・さぁ、やろうか。】

    ヴェルギリアは震える足を前に出した。
    動き出してしまえば、幾分か苦痛を誤魔化せるはずだった。

    ハスミ:
    「マシロを、返して貰います。」

    ヴェルギリア:
    【あぁ・・・約束は守るさ。】

    その愚劣とも言える行動こそが、自らの名を高めるはずだから。

    ────────────────────

  • 83二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 15:00:20

    保守

  • 84二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 21:00:21

    保守

  • 85二次元好きの匿名さん25/08/31(日) 03:00:17

    保守

  • 86ホットドリンク大好き25/08/31(日) 08:27:35

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    ヴェルギリア:
    「なぁ、どうすれば お前みたいにキレイに成れるんだ?」

    アツコ:
    「? ・・・えっと、スキンケアとかの話?」

    ヴェルギリア:
    「なんだ、お前。 私にスキンケアが効くとでも思ってんのか?」

    ヴェルギリアの肌は一部が鱗で覆われている上、デフォルトで肌荒れなどに強い。
    軽く洗顔するだけでも、十分なスキンケア効果を得ることが出来た。

    アツコ:
    「貴方の意図が分からない。
    貴方は今のままでも十分にキレイだと思う。」

    ヴェルギリア:
    「まぁ・・・それはそうかも知れんが・・・。 今回は そういう話じゃなくてだな。」

    アツコ:
    「そう。」

    ヴェルギリア:
    「私が言ってるのは内面の話。
    精神的な、誇り高さとか高貴さとかそういうキレイさだよ。」

  • 87ホットドリンク大好き25/08/31(日) 08:28:44

    アツコ:
    「・・・やっぱり、よく分からない。
    貴方は私達とは明らかに違うけど、そういう意味でもキレイだとは思う。」

    ヴェルギリア:
    「・・・アツコ、ミサキの件も そうだが偶にお前は人を見る目が無いよな。」

    アツコ:
    「? そうは思わないけれど・・・。」

    ヴェルギリア:
    「世辞はいいから。
    どうしたら お前みたいに成れるのか教えてくれ。」

    アツコ:
    「私・・・みたいに・・・?」

    アツコは少し考える素振りを見せた。
    少しの間 沈黙の時間が流れる。
    ヴェルギリアが茶菓子のクッキーを、思いの外 美しい所作で口に入れた。
    音も無く咀嚼して、ティーカップを傾ける。

  • 88ホットドリンク大好き25/08/31(日) 08:29:48

    アツコ:
    「・・・花を育てる・・・とか?」

    ヴェルギリア:
    「そういう習慣的なことじゃなくてだな・・・。
    ・・・ホラ、アレだよ。 もっと何か精神的な指針とか・・・。」

    アツコ:
    「特に、そういうのは無いのだけれど・・・。」

    ヴェルギリア:
    「そうか・・・。 まぁ・・・『天然』の奴は そうだよな・・・。」

    アツコ:
    「アズサなら、答えられるかも。 あの子は強いから。」

    ヴェルギリア:
    「多分、議論の果てに殺し合いになるけど・・・良いのか?」

    アツコ:
    「・・・やめて。」

    ヴェルギリア:
    「だよな。」

    再び沈黙が場を支配する。
    ヴェルギリアは席を立ち、アツコのティーカップに新しい紅茶を注いだ。
    席に戻る。
    二人はティーカップを傾けた。

  • 89ホットドリンク大好き25/08/31(日) 08:31:09

    アツコ:
    「・・・これ、美味しいね。 皆にも飲んで貰いたい。」

    ヴェルギリア:
    「あ~・・・保温ポットに詰めてやるよ。 そしたら回し飲み出来るだろ。」

    アツコ:
    「うん。」

    アリウススクワッドに紅茶を淹れるような環境や余裕は無いので、そういった配慮が必要だった。

    ヴェルギリア:
    「で、どうしたら お前みたいにキレイに成れるかなんだが・・・。」

    アツコ:
    「そう、一つ思いついた事がある。」

    ヴェルギリア:
    「ふぅん?」

    アツコ:
    「思うに、貴方もミサキと同じように自分に自信が無いんだと思う。
    だから、自分に自信が持てるような事をすれば、貴方の思うキレイが手に入るんじゃないかな?」

  • 90ホットドリンク大好き25/08/31(日) 08:32:52

    ヴェルギリア:
    「(舌打ち)・・・まぁ、そうかもな。
    だが、それで具体的に どうすれば良いのか検討もつかん。」

    アツコ:
    「例えば・・・『自分ルール』を設けるのは、どう?
    自分自身を律することが出来れば、それは自分自身を支配している凄い自分にならない?」

    ヴェルギリア:
    「お、いいなソレ。」

    アツコ:
    「なら、試しに今『自分ルール』を設けてみよう? そうしたら、何か変わるかもしれない。」

    ヴェルギリア:
    「そうだな・・・じゃあ、『約束を守る』で。」

  • 91ホットドリンク大好き25/08/31(日) 08:34:40

    アツコ:
    「シンプルだね。」

    ヴェルギリア:
    「お前にとっては そうかもしれないが、私にとっては難しいことなのさ。」

    アツコ:
    「そう。」

    ヴェルギリア:
    「手始めに・・・そうだな。
    アツコ、今日のことは『貸し』にしておいてやるよ。
    何かあったら、今日の貸しのことを私に持ち出せ。
    1回だけ言うことを聞いてやる。 『約束』だ。」

    アツコ:
    「うん、『約束』。」

    ヴェルギリアは紅茶の入った保温ポットを、アツコが持ち帰る用のバスケットに入れた。

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  • 92二次元好きの匿名さん25/08/31(日) 15:01:59

    保守

  • 93二次元好きの匿名さん25/08/31(日) 22:44:00

    ほsy

  • 94二次元好きの匿名さん25/09/01(月) 06:00:22

    保守

  • 95二次元好きの匿名さん25/09/01(月) 12:00:24

    保守

  • 96二次元好きの匿名さん25/09/01(月) 18:00:20

    保守

  • 97ホットドリンク大好き25/09/01(月) 22:27:35

    ────────────────────

    ヴェルギリア:
    【─── あぁ、ウゼェ。
    また『分け身』がバレだ。 ・・・クソッ、ついてねぇ。】

    ハスミと衝突した『分け身』より一回りも二回りも巨大な大狼が、愚痴を吐いた。
    『分け身』と違い、こちらには頭部にベアトリーチェのそれに似た翼の意匠があり、また頭部や脚部の末端に赤い茨が鎧のように纏わり付いている。

    ???:
    「・・・どこを、見てる?」

    ヴェルギリア:
    【・・・っ!】

    ───── 銃声

    小さめのビルほどもある巨大な狼の頭が吹き飛んだ。
    少し、蹈鞴を踏む。
    そして そのまま『分け身』と同じように、しかし遥かに量の多い、滝のような血を吐いた。

    ヴェルギリア:
    【ゲホッ、ヴェッ・・・。】

  • 98ホットドリンク大好き25/09/01(月) 22:30:40

    ツルギ:
    「もう・・・降伏しろ。
    『背伸び』を、し過ぎている。 ・・・それは自分が一番分かっているはず。」

    豆のような人影が、自分より大きな巨人のようにヴェルギリアには見えた。
    しかし、嗤う。

    ヴェルギリア:
    【・・・構うものかよ。 私は、勝ちてぇんだ。】

    ツルギ:
    「なぜ?」

    ヴェルギリア:
    【それが・・・「悪」だから。】

  • 99ホットドリンク大好き25/09/01(月) 22:36:28

    ツルギ:
    「・・・。
    ・・・意味が分からん。」

    分かって貰おうとは思わなかった。
    元々、理屈では戦っていないのだから。

    ヴェルギリア:
    【もっとも・・・───」

    ───── 破砕音と、何か巨大なモノが蠢く音

    ツルギ:
    「!!」

    ヴェルギリア:
    【─── 今、勝つ必要は無いんだがな。】

    地の底から、高層ビルほども背丈がある『大蛇』が現われた。

    ────────────────────

  • 100二次元好きの匿名さん25/09/02(火) 06:00:26

    保守

  • 101二次元好きの匿名さん25/09/02(火) 12:00:28

    保守

  • 102ホットドリンク大好き25/09/02(火) 15:21:18

    ────────────────────

    ベアトリーチェ:
    【─── はぁ。 まだ、そこにいたのですか。】

    地面を割って現われた大蛇が、心底失望した様子の声色を響かせる。
    白い大樹が幾本も寄り集まって出来たような巨体が、ヴェルギリアとツルギ達を睥睨した。

    ベアトリーチェ:
    【ヴェルギリア、貴方は自分の役割が分かっていないようですね。】

    ヴェルギリア:
    【はぁ!?】

    ヴェルギリアはツルギの銃撃を躱すと、そのまま影に潜った。
    そして そのまま、ベアトリーチェの頭部に出来た影に姿を現わす。
    大狼と化したヴェルギリアも小さなビル程の巨体だが、大蛇と化したベアトリーチェと比べると子犬と大型犬ほどの差があった。

    未だ花開かず、蕾のように翼の意匠が螺旋状に絡まった白い大蛇の頭に、黒い大狼が纏わり付く。

    ヴェルギリア:
    【こっちはテメェの計画の粗を何とか修正して回ってたんですけど!
    私がいなかったら、オメェは とっくにゲームオーバーなんだよ、クソババア!!】

    ベアトリーチェ:
    【何を偉そうに。
    ・・・あぁ、そうでした。 貴方は頭の出来が悪かったのでしたね。】

    ヴェルギリア:
    【あぁ!? 今からでも ぶっ殺してやろうか!!?】

  • 103ホットドリンク大好き25/09/02(火) 15:36:05

    ───── 砲撃音

    丁度、ヴェルギリアの頭に血が昇っているところを狙い澄ましたかのように、遠方から砲弾が飛んできた。
    それは神の悪戯か、まるで緻密な計算がされたかのようにヴェルギリアへ吸い込まれていく。

    ─── しかし、その『決定的な成功(クリティカル)』はベアトリーチェにとって不都合だった。

    ベアトリーチェが その尾を地面に叩き付ける。
    すると、地の底から白い大樹が幾本も扇状に伸びた。
    先端が真っ赤に染まった錐状のそれは、確かにヴェルギリアに命中するはずだった砲弾を防ぐ。

    ───── 爆発音

    トリニティのクリティカルは、ベアトリーチェの干渉により無かったこととなった。
    遅れて状況を理解したヴェルギリアが、露骨に顔を顰める。
    大狼のマズルに皺が寄った。

    ヴェルギリア:
    【・・・チッ。】

    ベアトリーチェ:
    【これ以上 役立たずの烙印を押されたくなければ、早く最低限の仕事をすることです。】

  • 104ホットドリンク大好き25/09/02(火) 15:37:28

    ヴェルギリアは少しの間、恨めしそうにベアトリーチェを睨み付けていたが、やがて怒りを飲み込んで影に消えていった。
    ベアトリーチェは大蛇の身体で、器用に溜息をつく仕草を見せる。

    ベアトリーチェ:
    【本当に使えない。
    最後まで付いてきた子供がアレかと思うと、さもしくて涙が出ますよ。】

    ベアトリーチェはそう吐き捨てると、ツルギ達の方に向き直った。
    領主たる貴婦人らしく妖艶に、しかしケダモノ染みた獰猛さを隠しもせずに大蛇の身体を撓らせる。
    その様子は、蛇が鎌首をもたげる様子に似ていた。

    その無数にある瞳で、トリニティの全てを検分する。
    やがて満足したのか、僅かに喉を鳴らした。

    ベアトリーチェ:
    【・・・さて、招待には応じてくれたようですね。
    子供といえど、最低限のマナーは持ち合わせているようで安心しました。】

    大蛇が口を開く。
    ノコギリの刃のような、白い肉食獣の歯が無数に並んでいた。

    ベアトリーチェ:
    【─── これは盛大に お持て成ししなくては・・・ね。】

    ベアトリーチェを守るように、無数の『複製(ミメシス)』が姿を現わす。
    アリウスの全てが、トリニティに牙を剥こうとしていた。

    ────────────────────

  • 105二次元好きの匿名さん25/09/03(水) 00:00:40

    保守

  • 106二次元好きの匿名さん25/09/03(水) 06:00:17

    保守

  • 107二次元好きの匿名さん25/09/03(水) 15:00:30

    保守

  • 108二次元好きの匿名さん25/09/03(水) 21:00:24

    保守

  • 109ホットドリンク大好き25/09/04(木) 00:15:33

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

    ヴェルギリア:
    「おーい、アツコ。 今日はケーキが手に入ったぞ。」

    アツコ:
    「そう・・・凄い怪我だけど・・・?」

    ヴェルギリアの半身は切り傷や打ち身で一杯だった。

    ヴェルギリア:
    「あぁ・・・気にすんな。 いつもの酒癖だよ。」

    ヴェルギリアは1ホール丸ごともあるショートケーキを机の上に置いた。

    ヴェルギリア:
    「ほっときゃ治る。」

    アツコ:
    「そうかもね。」

    ヴェルギリアの再生能力の高さは周知の事実だった。

    アツコ:
    「でも、気になるから診せて欲しい。」

    ヴェルギリア:
    「はぁ? ・・・ダル。」

  • 110ホットドリンク大好き25/09/04(木) 00:16:58

    面倒臭そうにするヴェルギリアだったが、決して拒むことはしなかった。

    アツコが部屋の隅から救急箱を取り出し、ヴェルギリアの傷に触れる。
    ヴェルギリアの肩が僅かに震えた。

    ・・・
    ・・・・・・
    ・・・・・・・・・

    アツコ:
    「・・・これで良し。」

    ヴェルギリア:
    「うぇ・・・動き難い・・・。」

    ヴェルギリアの身体の半分以上が包帯やガーゼに覆われていた。
    端から見ると、拘束されているように見えなくも無い。

    ヴェルギリア:
    「・・・悪いんだけど、上手く出来そうにないからケーキを切り分けてくれないか?」

    アツコ:
    「うん、分かった。」

    アツコがケーキを切り分け始める。
    1つはヴェルギリアの分、1つは自分の分、余りは皆の ───

  • 111ホットドリンク大好き25/09/04(木) 00:18:07

    ヴェルギリア:
    「─── あぁ、すまん。 1つ、余計に切り分けてくれ。」

    アツコ:
    「? いいけど・・・。」

    アツコは1ピースのケーキをヴェルギリアに渡す。

    ヴェルギリア:
    「さんきゅ。」

    ヴェルギリアは傷だけの手で それを受け取ると、部屋にある小さな『神棚』に それを供えた。
    アツコは その様子を不思議そうな目で見ていた。

    アツコ:
    「・・・前から思っていたのだけれど、それは何をしているの?」

    アツコが疑問を呈すと、ヴェルギリアは笑って答えた。

    ヴェルギリア:
    「何って・・・神に捧げ物をしているのさ。
    何と言ってもケーキなんて滅多に手に入らないからな。」

  • 112ホットドリンク大好き25/09/04(木) 00:21:13

    アツコ:
    「捧げる・・・。
    ・・・その行為に意味はあるの?」

    ヴェルギリアは席につくと、自分のケーキに手を伸ばした。

    ヴェルギリア:
    「は? あるわけないだろ。
    ただ、”自分がこうされたら嬉しいだろうな”って思うことをやってるだけだし。」

    アツコ:
    「・・・意味が無いのだとしたら、どうして捧げるの?」

    ヴェルギリアはショートケーキのイチゴにフォークを突き刺した。
    そして そのまま口に運ぶ。

    ヴェルギリア:
    「・・・無意味な”犠牲”を敢えて払うのが、『信仰』ってもんじゃないのか?」

    アツコ:
    「・・・。」

    それ以上、ヴェルギリアは何も言わなかった。
    アツコも、何を聞き返すこともなくケーキに手を伸ばす。

    ─── ふと神棚を もう一度見ると、供えられていたはずのショートケーキは いつの間にか消えていた。

    ────────────────────

  • 113二次元好きの匿名さん25/09/04(木) 09:00:28

    保守

  • 114二次元好きの匿名さん25/09/04(木) 15:00:53

    保守

  • 115二次元好きの匿名さん25/09/04(木) 21:00:34

    保守

  • 116二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 03:00:37

    保守

  • 117ホットドリンク大好き25/09/05(金) 05:44:55

    ────────────────────

    ヴェルギリア:
    「─── よぉ、待たせたな。」

    アツコ:
    「・・・。」

    ヴェルギリア:
    「いや~、トリニティ連中に手間取ってな。」

    アツコ:
    「・・・。」

    ヴェルギリア:
    「・・・まぁ、聞いちゃいないか。」

    ヴェルギリアは赤い枝によって磔にされたアツコを仰ぎ見た。
    そして独自の祝詞を唱え始める。

    ヴェルギリア:
    「神よ、今 私が一番大切にしている者を捧げます
    (グ=ラシュ・ネ=フォル ザ=ル=ヴェク・トゥ=ナグ=ラ メ=ルシ=カ・ド=ヴァス)。
    願わくば この者が、貴方の傍に仕える最高の栄誉を賜らんことを
    (ヴァ=ルグ・ネ=ザク トゥ=メル・ガ=ナシュ リ=オス・フェ=ダル=ク ザ=グル・エ=ナス)。」

    祝詞を唱え終えると、ヴェルギリアは極彩色の、儀式用の槍を取り出した。

  • 118ホットドリンク大好き25/09/05(金) 05:48:07

    ヴェルギリア:
    「・・・お別れだ、アツコ。」

    儀式用の槍の穂先を、アツコの脇腹に向ける。
    それは自分が慕った相手への、最期の敬意だった。

    ヴェルギリア:
    「永遠の輝きの中で生きよ(ゼ=ルグ・ア=ナフ ヴェ=リス・トゥ=ガル)。」

    そうして極彩色の刃でアツコの死を確かなものにしようとし ───



    ───── (銃声)



    ─── 銃弾で、その刃は弾かれた。
    穂先は明後日の方向へ向かい、硬質な音色を奏でて地面に突き刺さる。

  • 119ホットドリンク大好き25/09/05(金) 05:49:55

    ヴェルギリア:
    「・・・あぁ、なるほど。
    あのバカが何処に向かったのかと思えば、そういうことだったか。」

    ???:
    「・・・。」

    ヴェルギリアは極彩色の槍から手を放し、ゆっくりと背後に振り返った。

    ヴェルギリア:
    「─── よぉ、サオリぃ。
    なんでお前は いっつも私の邪魔をするかなぁ。」

    サオリ:
    「お前が嫌いだからだ、レディ。」

    そこには、ボロボロの姿ではあるが、確かにサオリが立っていた。

    ────────────────────

  • 120二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 12:00:35

    保守

  • 121二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 18:00:35

    保守

  • 122二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 00:01:06

    保守

  • 123二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 09:00:41

    保守

  • 124ホットドリンク大好き25/09/06(土) 10:38:18

    ────────────────────

    ヴェルギリア:
    「・・・なんだ、随分ボロボロじゃねぇか。」

    サオリ:
    「・・・。」

    ヴェルギリア:
    「そんなんで、私に勝てると思ってんのか?」

    サオリ:
    「・・・お前も ───。」

    ヴェルギリア:
    「あ?」

    サオリ:
    「─── 人のことは言えないと思うが。」

    サオリが その言葉を口にした途端、ヴェルギリアの口から血が溢れ出した。

    ───── (酷く湿った、咳き込む音)

    ヴェルギリアは大量の血を吐くと、不敵な笑みを浮かべてサオリに向き直った。

  • 125ホットドリンク大好き25/09/06(土) 11:04:31

    ヴェルギリア:
    「・・・ハンデだよ、ハンデ。」

    よく見ればヴェルギリアも大概ボロボロであり、その態度が虚勢であることは傍目でも明らかだった。

    ヴェルギリアは口元の血を乱暴に袖で拭うと、杖代わりにしていた大型の散弾銃を握り直す。

    ヴェルギリア:
    「(咳き込む音)・・・じゃ、やろうか。 今更 言葉なんて要らないだろうし。」

    サオリ:
    「・・・そうだな。」

    二人は、銃口を向け合った。

    ・・・。

    奇妙な、沈黙の時間が流れる。
    直ぐ近くで起こっているはずの戦争が、やけに遠くに感じた。

  • 126ホットドリンク大好き25/09/06(土) 11:06:11

    ヴェルギリア:
    (・・・何度目かな、こうして お前と銃口を向け合うのは。)

    ヴェルギリアは ふと、そんなことを思った。

    こうして銃口を向け合うのは、なにも今回が初めてでも無かった。
    むしろ、彼女達がアリウススクワッドと呼ばれるずっと前から、幾度も互いに銃口を向け合った仲ですらある。
    だからこそ、理解したかった。

    ヴェルギリア:
    (どんな気分なんだ? 『家族』を守る為に戦うってのは。)

    結局、それを美しいと思いつつも、最後まで理解は出来なかった。
    戦いに、己の欲望を満たす以外のものがあると、終ぞ感じることが出来なかった。

    ・・・。

    ───── 何処かで瓦礫が崩れた。

    次の瞬間、重なった銃声が響いた。

    ────────────────────

  • 127二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 18:01:00

    保守

  • 128二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 01:36:07

    このレスは削除されています

  • 129二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 09:00:21

    保守

  • 130ホットドリンク大好き25/09/07(日) 11:21:56

    ────────────────────

    ハスミ:
    「─── キリが ありませんね・・・。」

    ハスミは途方もない『複製(ミメシス)』の大群を見ながら、ポツリと呟いた。
    以前 戦った相手ということもあって、大きな混乱もなく戦えているが・・・連戦である。
    予備戦力との交代では誤魔化しきれないほど、全体に疲労が蓄積し始めていた。

    ハスミ:
    「あちらと違って、こちらの弾薬は有限です。 ・・・早く決着を付けなければ。」

    結局、無限の兵力と戦うときの要点は そこだった。
    核となる大将を倒してしまえば、一気に大量の軍勢は消え去る。
    兵力が無限と言えば聞こえは良いが、実際は1対多のリンチを数で誤魔化しているだけに過ぎない。

    イチカ:
    「そうっすね。 ・・・で、どうやってアレ倒します?」

    ハスミ:
    「・・・。」

    傍に控えていたイチカが遠くを眺める仕草をしながら言った。
    その視線の先には、アリウスの街を縦横無尽に暴れ回る、高層ビルが幾つも連結したかのような超巨大な大蛇がいた。
    それは最早、怪獣と言って差し支え無かった。
    相手は、1対多の1を怪獣にすることで、無限の兵力の弱点を実質的に克服していた。

  • 131ホットドリンク大好き25/09/07(日) 11:24:04

    ハスミ:
    「・・・砲兵隊は まだ動けますか?」

    イチカ:
    「ナギサ様 直轄の砲兵隊が、まだ。」

    ハスミ:
    「クラスター弾およびナパーム弾の使用を許可すると伝えて下さい。」

    イチカ:
    「えっと・・・つまり違法兵器の使用許可ってことで良いっすか?」

    ハスミ:
    「その通りです。」

    イチカ:
    「・・・ま、相手も実質 反則 使ってるようなもんっすもんね。 分かりました。」

    イチカが砲兵隊に命令を伝達する為に出て行く。
    そのタイミングで、ハスミの手持ち無線機に連絡が入った。

  • 132ホットドリンク大好き25/09/07(日) 11:25:29

    ハスミ:
    「・・・はい、こちら指令本部 ───」

    ???:
    『─── ハスミか?』

    その声を、ハスミは良く知っていた。

    ハスミ:
    「・・・ツルギですか?」

    ツルギ:
    『そうだ。 話がある。』

    前線で直接戦闘をしているはずのツルギからの連絡。
    ハスミはただならぬものを感じた。

    ハスミ:
    「・・・なんでしょう?」

    ツルギ:
    『・・・これは勘だが ─── 』

    ・・・。

    奇妙な沈黙があった。
    まるで、口にすることを躊躇っているかのような・・・。

    ツルギ:
    『─── このままだと全滅する。』

  • 133ホットドリンク大好き25/09/07(日) 11:27:17

    ハスミ:
    「・・・なにを言っているのですか。
    確かに劣勢であることは認めますが、戦力を集中させれば十分に ───」

    思わず語気が強くなる。
    それに対してツルギは言い聞かせるように冷静な口調で言った。

    ツルギ:
    『・・・あの怪物から、本気を感じない。
    明らかに、手を抜いている。 ・・・つまり、時間を稼いでいるということ。』

    ハスミ:
    「・・・。」

    それは、ハスミも感じていることだった。
    あの大蛇は、その巨体から もっと効率的な手を打つことが可能なはずだった。
    例えば、代行の代行として全体指揮をとっているハスミを戦闘不能にする。
    それだけでも、トリニティの戦闘継続能力は大幅に減少する。
    しかし、それを敢えてやってこない。
    そこには確かに、『手を抜く』『時間を稼ぐ』という意図が見え隠れしていた。

    ハスミ:
    「・・・では どうしろと言うのですか?
    戦力の集中による突破が不可能だと言うのであれば、退却せよとでも?」

    それが不可能だということは、ツルギも分かっているはずだった。
    ここでの退却はトリニティの敗北を意味し、遠からず内部分裂を引き起こす。
    そうなってしまえば、トリニティは無数の小学園に別れてしまう。
    数百年前に、逆戻りだ。

  • 134ホットドリンク大好き25/09/07(日) 11:29:41

    ツルギ:
    『・・・そうだ。』

    しかし返ってきたのは、肯定の言葉だった。
    頭に血が昇るのを感じる。

    ハスミ:
    「・・・ツルギ、貴方は ───」

    ツルギ:
    『─── ただし。』

    強い言葉が出る前に、ツルギの強い語気に遮られた。
    少し、頭が冷える。

    ツルギ:
    『・・・退却するのは、お前と お前の周りの委員会メンバーだけだ。』

    ハスミ:
    「・・・何を、言っているのですか?」

    今度は完全に頭から血の気が引いた。
    そんなこと、考えるだけでもゾッとする。

    ハスミ:
    「私に、友軍を見捨てろと?」

    ツルギ:
    『・・・そうだ。 後の指揮は私が執る、だから ───』

  • 135ホットドリンク大好き25/09/07(日) 11:30:41

    ハスミ:
    「─── そんなこと、出来るはずがないじゃありませんか!」

    思わず、叫ぶ。
    近くに控えていた委員会メンバーの肩が跳ねたのが分かった。
    しかし叫ばずにはいられなかった。

    ツルギ:
    『・・・頼む。』

    暫くして返ってきたのは、聞いたことも無いほど弱々しい幼馴染みの声だった。
    思わずハッとする。
    もしかすると、ツルギは自分よりずっと精神的に弱っているのかも知れない。

    ハスミ:
    「すみません、つい ───」

    ツルギ:
    『─── ・・・私は、最強だ。 ・・・だから、逃げられない。 私が逃げたら・・・皆が逃げる。』

    それは余りにも弱々しい本音の発露だった。
    一人の少女が背負うには余りに重い、数百年の歴史と誇り。
    それに押し潰されている幼馴染みの弱音は、ハスミの心を動かすのに十分過ぎた。

  • 136ホットドリンク大好き25/09/07(日) 11:32:11

    ツルギ:
    『酷いことを頼んでいるのは・・・分かる。
    ・・・だけど、こんなこと・・・ハスミ、お前にしか ───』

    ハスミ:
    「─── ・・・大丈夫ですよ、ツルギ。
    ・・・分かっています。 それよりも、私は貴方に謝らなくてはなりません。
    私は余りにも、貴方の苦労を分かっていなかったようです。 ・・・副委員長、失格ですね。」

    ツルギ:
    『・・・そんなことは、ない。
    私は お前に、助けて貰ってばかりだ。 ・・・だから、今回も頼む。』

    ハスミ:
    「はい、任されました。」

    ツルギ:
    『・・・ありがとう。』

    その言葉で通信は切れた。

    ハスミ:
    「・・・。」

    やるべきことは、分かっていた。
    酷く驚かせてしまった委員会の子に、謝りつつ指示を与える。

    ハスミ:
    「近辺の正義実現委員会を集結させて下さい。 我々は後の展開に備え、一時退却します。」
    ────────────────────

  • 137二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 18:00:18

    保守

  • 138二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 00:00:32

    保守

  • 139二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 06:00:19

    保守

  • 140二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 12:00:46

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