【SS】第四の女神

  • 1◆rRSKfk6hIM25/08/19(火) 00:39:27

     ――って信じます?ああ、帰らないで。
     いや解りますよ、俺だって他人が言ってたら恋人が出来たノロケか、さもなきゃおハーブでもやってらっしゃるのかと思いますから。
     これは単なる実体験です。アレは忘れもしない四年生、いや三年生の三月。ああ帰らないで、忘れちゃいませんよ。
     なんたって俺の人生を変えた奇跡の出会いなんですから――

  • 2◆rRSKfk6hIM25/08/19(火) 00:40:40

     そう、あの三月の頭。周りは企業説明会で忙しくなりかけてる時期です。しかしトレーナー課程の俺はほぼライセンス試験だけが目標でして。
     難関とは言え、実質的に就活しなくて済む事だけは有り難かったですね。その日も大学で自習してたんです。そしたら昼過ぎに同期から電話ですよ。アイツなんて言ったと思います?

    『説明会でやらかしてヤケ酒呑んだから車で帰れなくなった。電車で迎えに来て運転してくれ』

     ですよ。大人が平日昼間に何やってるんだって思いましたね。ま、仲間うちで動けるのは俺くらいでして、仕方なく向かいました。
     見返りに何を要求してやろうか、なんて考えながら駅を出て、アイツが車を停めた方面を確認したんです。
     バスを待つか、歩いて行くか。とりあえず一つ先のバス停まで歩き出しました。その半ばに大きめの児童公園があったんですよ。

     小学生が数人で元気に遊んでいる脇に一際目を惹く存在――ええ、そうです。それが彼女でした。

  • 3◆rRSKfk6hIM25/08/19(火) 00:41:51

     長身のウマ娘が、皆を見守るように遊具にやんわりと凭れかかっていました。背は170cmに迫るか、いや超えていたかも。
     肩のやや下まで伸ばした髪はヘアピン程度で自然に垂らし、ベージュのワンピースに薄茶色のローファーと、地味ながらどこか品のある出で立ち。初めは走り回っている誰かのお姉さんかな、と思いました。

     それだけのはずなんですが、何故だか目が離せなくてね、俺はしばらく立ち尽くしていたんです。彼女は転んだ子の世話を焼いたり、言っちゃアレですが鈍臭い子のサポートだとか、しっかり“お姉さん”してたんですよ。
     ――俺は彼女に見惚れてたんだって、不覚にもかなり長い間気が付きませんでしたね。俺も小学生の時にあんな人が居て欲しかった、なんて。

     ふと気付くと乗るかどうか迷ってたバスに追い越されてしまって、こりゃいかん急がねば、と背を向けたその時です。

    「もうすぐお別れかあ」
    「みんなと同じとこ行けば良かったのに」
    「あはは、ゴメンね〜」
    「仕方ないよ、トレセン学園行けるのはスゴい事なんだよ」
    「応援してるからな!ぜってー勝って勝って勝ちまくれよ!」

     うん?何か今、奇妙な言葉が?

     トレセン云々に反射的に振り向いて、信じられないモノを見たんですよ。ワンピースの彼女が、自分のランドセルを拾い上げて、背負う姿を。

     俺はね、小六の子に見惚れて憧憬の視線を送っていたんですよ――

  • 4◆rRSKfk6hIM25/08/19(火) 00:42:55

     おっと、人生を変えたって言っても別に□リコンに目覚めたって訳じゃないですからね。変わったのはもっと後です。
     後は大体ご存じだと思いますがね、恥ずかしながら俺、ほら、遭難したでしょう。無人島で。あの時は本当に死を実感しましたよ。

     そこに偶然やって来たのが、はい、ヒシアケボノです。三女神が死地に遣わした助け、いや女神そのものだと言われたら信じてましたね。
     ただね、どこか引っかかる事がありまして。島を出る時に言ったんです。

    「あの……差し支えなければ、髪を解いてみてくれないか。直すのが面倒なら別に、構わないんだけど……」
    「……?コレで良いの?」

     結んだ髪を下ろしたヒシアケボノは正に、あの日の“お姉さん”でしたよ。俺はこれぞ三女神のお導きだと確信したんです――

  • 5◆rRSKfk6hIM25/08/19(火) 00:44:01

     とまあ、こんな所ですかね、俺とボーノの出会いは。ええ、大学の時の話は今までした事ないですね。なんとなく話す機会もなくて。
     今、不意に聞かれて、何と言うか興が乗ってしまって。ああ、ここだけの話にして貰えますか、たづなさん。

     何でって?気恥ずかしいじゃないですか。小学生に見惚れただの――え?何?遅い?

     後ろ?

  • 6◆rRSKfk6hIM25/08/19(火) 00:45:02

    終了 千載一遇、唯一無二の稀有な出会いってロマンがありますよね

  • 7◆rRSKfk6hIM25/08/19(火) 00:46:06
  • 8二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 01:08:33

    こういうの読みたかった!!!!!おっきくて同年代といたらお姉さんに見えるヒシアケボノありがとうございます!!!!!!!

  • 9二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 01:12:18

    不意打ちの展開と、最後のぞくっとするオチが効いてて面白いですね。ノリと語り口が軽妙で引き込まれました。

  • 10二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 01:18:02

    もうさ、最初は大学での普通の一日みたいな感じだったのに、急に無人島とか出てきて「え、何これ!?」ってなったよね(笑)
    で、ボーノとの出会いとかマジで運命じゃんって思ったんだけど、ちょっと笑えるくらいユーモアもあって、「おいおい女神現るって心の中で叫んだわ!」みたいな感じ。
    語り手の軽いノリとかお茶目な視点が最高で、読んでてめっちゃ楽しかった!最後の「遅い?」で思わず吹いちゃったし、読後感もすごく良かったな〜。

  • 11二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 01:22:39

    ほう 髪下ろしボーノですか…
    たいしたものですね
    髪を下ろしたヒシアケボノはエネルギーの効率がきわめて高いらしく
    レース直前に愛飲するアグネスデジタルもいるくらいです

    それに特大タッパの小学生にランドセル
    これも即効性のトレウマ食です
    しかも大オチもそえて栄養バランスもいい

    それにしても衣装不遇だというのにあれだけ自給できるのは超人的なSS力というほかはない

  • 12二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 01:26:35

    えっっ 幼少期ボノと多忙ボノトレがすれ違ってたって運命じゃないか???
    物心ついた時からちゃんこ鍋目指してたボノちゃんはそりゃ女神に見えるよなって 女神だと思わなくとも情景の念を込めるのは無理ないよなって

    この馴れ初めインタビューを微笑みながら見守ってたボノちゃんはどうなるんでしょうねぇ、おっもい影落としながらも曇りひとつない笑顔でにこやか佇んでるんだろうな

  • 13二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 05:39:32

    3年前小学生ボーノ概念よすぎか?

  • 14◆rRSKfk6hIM25/08/19(火) 10:00:03

    感想ありがとうございます!

    >>8

    入学前のボーノは一体どんな子だったか想像が……意外と膨らまない……大きくて良い子だとしか……だかそれがいい!

    >>9

    どんでん返しは好物の一つです 後ろにいたのは……誰だったのでしょうね……?

    >>10

    本人のいない所で担当の推し語りをするトレーナーってイイですよね……♡

    >>11

    特に理由はないが必然性のある流れ弾がデジたんを襲う――!!

    >>12

    実は馴れ初めって「恋人・夫婦の」出会いエピを指すんですよね……まあこの二人なら良いか……

    >>13

    私もそう思います!中学年くらいまでは平均身長くらいだとしてももギャップがあって良いですね!

  • 15二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 10:22:11

    >>別に□リコンに目覚めたって訳じゃないですからね。変わったのはもっと後です。

    もしもしオマワリサン?

  • 16◆rRSKfk6hIM25/08/19(火) 18:42:45

    >>15

    感想あり……違〜うww!

    でもボーノって背は高いけど顔立ちは幼さが残るからガチ恋にはなりにくいかも?

スレッドは8/20 04:42頃に落ちます

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