- 1二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 19:56:51
- 21◆iT7WvLBL2aBf25/08/19(火) 19:57:51
前スレ
Let the right one in.【SS・オリキャラ有】|あにまん掲示板薄暗い路地に立ち、空を見上げる。ビルに切り取られた空は狭くて、星の輝きはくすんでいた。見たということは、私には目があって。見上げたということは、私には顔があって。立っているということは、私には身体があ…bbs.animanch.comLet the right one in. Part2【SS・オリキャラ有】|あにまん掲示板最短で最適私が信じる私の道迂遠で胡乱白鷺が誘う迷い道bbs.animanch.comLet the right one in. Part3【SS・オリキャラ有】|あにまん掲示板常に市民に奉仕する気持ちで常に市民の声に耳を傾けて常に市民に誠実な対応をbbs.animanch.com - 3二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 19:58:19
立て乙
- 41◆iT7WvLBL2aBf25/08/19(火) 19:59:20
お盆休みを満喫していたら大変な事故が起きてしまったSSの続きを書いていきたいと思います
- 51◆iT7WvLBL2aBf25/08/19(火) 20:09:56
まずは相談事から。
先日の生放送で、新規生徒として白尾エリさんが追加されるとの発表がありました。
このスレを以前から読んでいただける方はご存じでしょうがエリというオリキャラを登場させていまして……名前が被ってしまってどうしましょう、という相談です。
今の所二通りプランがありまして
1.オリキャラの方のエリを別の名前に置き換えて続きを書いていく
2.完結するまではエリで通して、その後別媒体(笛など)にアップする際に名前を置き換える
のいずれかになるかなぁ……と考えています。
どちらが良いですかね……? - 61◆iT7WvLBL2aBf25/08/19(火) 20:17:25
私としては2で行きたいと思っていますがどうでしょう……?
- 71◆iT7WvLBL2aBf25/08/19(火) 21:05:19
このまま待っているのもなんなので、一先ず書き進めていきますね
- 81◆iT7WvLBL2aBf25/08/19(火) 21:32:40
あ、それからもう一つ!
こちらのスレ
オリ生徒とか概念先生とか描いてみる|あにまん掲示板オリ生徒スレをまた読み始めて熱量のあるうちにいろいろ描いてみたいのでリクエスト頂ければ描きます。なければ適当に何か描きますまだスレ立ててないけどこんなの考えてたーみたいなやつでもキャラシートのっけてく…bbs.animanch.comでカノンとエリのイラストを描いていただきました!
わぁい!
- 9二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 21:42:14
別にそのまんまで良いと思うけどなぁ
もし作中で関わったときに分かりやすくしてもらえれば - 10二次元好きの匿名さん25/08/19(火) 21:59:21
変えなくていいんじゃね派
- 111◆iT7WvLBL2aBf25/08/19(火) 22:39:16
モモフレンズの限定グッズを買った帰り道、トリニティ総合学園の学生、城島ルカはD.U.の夜道を歩いていた。寒さで頬と鼻を赤らめて、長い髪が揺れる。
まったく充実した一日だったと、ルカは右手に持った戦利品で膨らんだビニール袋を見ながら思った。特にファッションブランド「ローレライ」とピンキーパカのコラボぬいぐるみを買えた時は、思わず叫びかけた。コラボの初報が出て以来ずっと欲しくて探していたのに、トリニティの学区内ではどの店舗でも品切れで、半ばあきらめかけていたのだ。
補習授業部のあの方には、感謝しないといけないわね。ルカは脳裏に人当たりが良い笑顔を浮かべたおさげの少女を思い浮かべた。「シャーレの当番に行ったときに、まだグッズが残っているのを見かけた」と彼女が氷の魔女に話しているのを偶然立ち聞きすることが無ければ、ルカが今日D.U.に来ることは無かっただろう。 - 121◆iT7WvLBL2aBf25/08/19(火) 22:40:32
ルカはモモフレンズのキャラクターの中でピンキーパカが一番好きだった。カバだかカピバラだかカモノハシだか、今一つ判然としないあやふやな姿(彼女自身はアルパカだと信じている)が可愛らしく思えて、グッズを見かける度つい買ってしまう。そのおかげで寮の部屋が少々手狭になって来てきたのが、最近の悩みだ。
同好の士を探して、戦利品を共有するとか?
トリニティにはビッグブラザーのファンクラブが存在すると風の噂で聞いた。いっそ自分も音頭を取ってピンキーパカのファンクラブを作ってみるべきかもしれない。ルカはそんな事を思いながら、大通りを歩く。
彼女が居るのはD.Uの中でも郊外に近い区画であり、手の入っていない廃ビルがちらほらと見受けられ、中心街に比べるとやや寂れた雰囲気がある。遠くにはサンクトゥムタワーがまるで灯台の様に煌々とそびえていた。
早く帰ろう、とルカは思った。買い物に夢中になって、少し遅い時間になってしまった。今から帰ると寮の門限に間に合うかは五分五分といった所。なんとしても間に合わせるべく、彼女は急いでいた。
高校生にもなって門限が必要だとは思わないが、だからといって無視するのは気位が許さない。
何より、折角楽しい一日だったのだ。最後にケチをつけたくはなかった。 - 131◆iT7WvLBL2aBf25/08/19(火) 22:47:10
二十四時間営業のジムの横を通りすぎたルカは、そこにあった横道に入った。そこを通る方が、駅までの道筋は短くなるからだ。
横道に入った途端に辺りは暗くなった。ビルとビルの間にできた細道に街灯はなく、ビルの窓から漏れる灯りが心許なくアスファルトを照らしている。その暗さは、よからぬ事を企む手合いが身をひそめるのにうってつけだ。
ルカは横道を早く抜けてしまうべく歩みを早め、それと同時に肩から提げていたアサルトライフルに手を添わせた。トラブルに巻き込まれないに越したことはない。だがいざという時は……幼少期から学ばされてきた護身術を試すいい機会になるだろう。
来るならきなさい、と彼女は眼前に広がる暗闇を見据える。こんなところでたむろしている様なゴロツキに後れを取るつもりはなかった。 - 141◆iT7WvLBL2aBf25/08/19(火) 22:48:45
- 151◆iT7WvLBL2aBf25/08/19(火) 22:59:58
ルカが今日はいくつ予備の弾倉を持ってきたかを頭の中で数え始めた時、何かが聞こえた。文字に起こせば「とさ」だとか「ぱさり」部屋に戻ってコートを床に脱ぎ落した時の様な、軽い何かが落ちた音だ。
ルカは思わず立ち止まり、辺りを見渡した。そしてすぐに、前方に誰かが立っている事に気が付いた。つい数秒前まで、居なかった筈の誰かが。
暗がりになれてきたルカの目が、その誰かの輪郭を捉えた。少女だ。ルカと同じくらいの年頃の少女。彼女の赤い瞳が、ルカをまっすぐ見つめている。そう、赤い瞳だ。周りに灯りはほとんど無いのに、そのほんの少しの光を受け止めて優しく輝いている。まるで大粒のルビーが二つ、闇の中に浮かんでいる様だった。 - 161◆iT7WvLBL2aBf25/08/19(火) 23:23:29
「たすけて……」
少女がルカの方に歩み寄る。季節を間違えたような薄手の夏服に、弱弱しくやつれた顔。足取りはおぼつかなく、ふらふらと上体が揺れている。
「え……」
ルカは面食らった。この横道で誰かに出会ったときに起こりえること……例えばいきなり撃たれるだとか、下卑た笑い声を浴びせられるとか、そういうことは予期していた。しかしこれは、完全に想定外だ。
「どうかなさったの……?」
「たすけて……」
ルカは思わず一歩後ずさった。明らかにただ事ではない雰囲気を前にして、足が竦んだ。だがすぐに、持ち前の勝気さが顔を出した。
この子は犯罪に巻き込まれて、傷ついているのかもしれない。それを見ないフリをしてこの場を去ることはできない。その選択肢を一瞬でも思い浮かべた自分自身にも腹が立った。
ぱん、とルカは両手で頬を叩き、少女の方へと駆けよった。 - 171◆iT7WvLBL2aBf25/08/19(火) 23:31:22
「しっかりなさい!」
「おねがい、たすけて……」
ふらり、と少女の身体が一際危なっかしく揺れる。ルカは両手を広げると、少女をしっかりと抱きしめた。
少女は驚くほど細かった。抱きしめた勢いで骨を折ってしまわないか、ルカが思わず心配になってしまう程だ。それに、とても冷たい。まるで氷塊のように、少女の身体は冷えきっている。
「貴女、大丈夫なの?」
「ささえて……うまくたてないの……」
「これで良いかしら?一体何があったの?」
「……」
ルカは少女の身体に腕を回したまま、尋ねる。少女は答えない。
答えたくないのかもしれない。余程ひどい目に会ったのだろうか?
ルカの中で、嫌な想像が膨らんでいく。それを振り払うように、彼女は首を大きく振った。 - 181◆iT7WvLBL2aBf25/08/20(水) 00:33:27
「病院……いえ、先にヴァルキューレ……?」
どうするべきか、ルカは思い悩む。ただ、どうするにしても、少女をこんな場所に置いておくわけにはいかないだろう。だが、どうすれば……
──そうだ、さっきのジム!
ルカはぱちんと指を鳴らした。
この横道に入る時にジムがあったはずだ。あそこなら、この少女を休ませておけるだろう。距離もそう遠くない。運んでいけるはずだ。幸い体力には自信がある。
護身術を学んできて良かったと、ルカは思った。
「これから貴女を、休めるところに運んでいきます。よろしいですか?」
「……ありがとう」
「いえ、当然のことですから!ちょっと失礼しますわね……!」
ルカは力強く言い切ると、少女を背負い上げた。
抱き締めた時に予感した通り、彼女は軽かった。まるで、風船でも持ち上げたかのよう。これならば、問題なくジムまで行けるだろう。
少女は安心したかのように、ルカの方へ顎を乗せた。
「ほんの少しの辛抱ですからね!」
「……本当に、ありがとう」
少女のか細い声を聴いて、ルカは胸が痛んだ。この子をひどい目に合わせた輩が、きっとどこかに居るのだろう。
ルカはその誰かの事を思って彼女は憤慨し……
そして首筋に鋭い痛みを感じた。 - 191◆iT7WvLBL2aBf25/08/20(水) 00:38:56
書き溜めが尽きたので今夜はここまで
- 20二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 09:01:47
- 21二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 15:30:19
不穏~
- 221◆iT7WvLBL2aBf25/08/20(水) 20:11:53
イベストを読みたいので今夜の更新は少なめになります
- 231◆iT7WvLBL2aBf25/08/20(水) 20:13:52
そしてこれも何かの縁ということで…
エリさんの募集を回そうかと
いざ…… - 241◆iT7WvLBL2aBf25/08/20(水) 20:15:08
- 251◆iT7WvLBL2aBf25/08/20(水) 20:16:08
- 261◆iT7WvLBL2aBf25/08/20(水) 20:17:13
……これも因果ですかね
自我失礼しました - 271◆iT7WvLBL2aBf25/08/21(木) 00:01:15
ルカは初め、撃たれのだと思った。
ある程度口径の大きい弾丸……ライフル弾が当たった時の痛みに似ていたからだ。だが、それだと銃声が無いのが妙だ。
自分の首筋を見る事は不可能なのに、ルカは首を折り痛みの出所を確かめようとした、だがすぐに、少女の頭がぶつかりそれ以上深く曲げる事は出来なかった。
「あ゛、ぐ……うぅ……!?」
痛みに脚をもつれさせ、ルカは壁にぶつかる。ルカが背負った少女の身体が強張り、彼女の頭が一層強く押し付けられる。
それでルカは、ようやく気付いた。
「っ……貴女、なにを……!」
少女が、首筋に噛みついている。少女の口が動く感触がして、首筋の痛みが一層強くなる。ぬるりとした温かいもの溢れ出て、滴り落ちる。
「痛、ぁ……あ、やだ、離して……!!」
少女を振り落とそうと、ルカはその場でぐるぐると回る。
だが、少女は落ちない。腕と両足をルカの身体に回して、しっかりとしがみついている。 - 281◆iT7WvLBL2aBf25/08/21(木) 00:02:53
ルカは滅茶苦茶に手を振り回し、少女の身体を手当たり次第に殴りつけるが、少女は怯みもしなかった。
「だれか……!む、ぐ……!?」
ルカが助けを求めて叫ぼうとすると、少女の手が伸びてきて口元と、ついでに鼻を覆った。
息ができない。ルカは必死に空気を求めて必死に喘ぐ。彼女の目が見開かれ、横道の入り口に向かってよろめきながら進む。一歩、二歩。じれったくなるほどゆっくりと足を踏み出す。だが、それまでだった。
ルカの目の前でぐるりと世界が回り、遠くに見える街の明かりが激しく瞬いた。彼女はバランスを失い、前のめりに倒れる。
そして、もう、何も分からなくなった。 - 29二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 09:03:38
つよい(確信)
- 30二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 17:24:41
大丈夫…じゃないよなこれ
- 311◆iT7WvLBL2aBf25/08/21(木) 23:23:07
雲の切れ間から月が顔を出す。その青白い輝きに照らされて、少女はルカを見下ろしていた。
「……ごめんね」
少女が小さく呟く。その足下で、彼女の影が伸びあがり、蠢いた。
「うるさい」
そう吐き捨てると、彼女は四つん這いになってルカに、覆いかぶさった。吐息は荒く、まるで御馳走を前にした獣の様。そして彼女は、首筋の傷に口を押し付け、そこから溢れる血を啜った。
ぴちゃり、ぴちゃり。犬がミルクを飲むような音。時折こくんと喉を鳴らして飲み込んで、また啜る。ルカの血は甘く、とかしたバターの様に濃厚で、身体の芯から温まる。
飢えが、満たされていく。
少女は傷口から顔を離して立ち上がり、辺りを見渡す。やがて拳大の石を見つけると、それを拾い上げ、近くのビルの窓に狙いをつけて投げた。がしゃん、と大きな音がして、ガラスが粉々に砕ける。
少女はそれを見届けると、その場から駆け出した。 - 321◆iT7WvLBL2aBf25/08/21(木) 23:33:06
この後のシーンがちょっと納得いく形に纏まらないので、続きはまた明日です……
- 33二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 08:07:32
なんかちょっとえっち…
- 34二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 16:38:55
- 351◆iT7WvLBL2aBf25/08/22(金) 23:16:45
──
────
エイミがそれを見たのは、駅に向かってD.U.の大通りを歩いている最中のことだった。
彼女の進む少し先に警備会社のロゴが付いたバンが止まり、中からロボットの警備員が降りてくる。そんなごくありふれた光景。エイミがそれを思わず目で追いかけたのは、彼らがビルの間の路地に入っていったからだ。
エイミは暫し足を止めた後、警備員たちの後を追うように路地に入った。
何故そうしたか、と聞かれても彼女は答えられないだろう。
強いていえば、予感。路地。暗い路地。それは朝におこなった調査と合致したシチュエーションであり、だからこそなにかある気がした……そんな効率とは程遠い動機に、彼女は背中を押されたのだ。
「部長」
「はい、どうしました?エイミ」
「ごめん、ちょっと寄り道」
「ふむ、あまり遅くならない様にするんですよ」
エイミはヒマリに通信を入れると、歩みを早める。 - 361◆iT7WvLBL2aBf25/08/22(金) 23:40:10
警備員たちにはすぐに追いついた。人数は二人。片方は路地に立ってビルの壁面を見上げ、もう片方は頭をゆっくり左右に振って路地を見渡している。
「あー、ちょっといいかい?」
路地を見渡していた方のロボットが、エイミを認めて声をかけてくる
「君、学生証見せてもらえるかな?」
「それ強制?別に良いけど……何があったの?」
ベルトにぶら下げた学生証を手渡しながら、エイミはさりげなく話題を振る。
「アレだよアレ!」
エイミの声を聞きつけて、壁面を見上げていたロボットが上の方の一点を指差した。
──守秘義務って断られると思ってたけど。まあ、効率的に話が進むなら良いか。
彼女は内心拍子抜けしながら、ロボットの指さす先を見上げた。
五階建て程度のテナントビル。その三階部分の窓が割れている。
石でも投げ込まれたのだろうか。大きな穴が開き、その穴から蜘蛛の巣のようにヒビが走っているのが見て取れた。 - 371◆iT7WvLBL2aBf25/08/23(土) 00:19:36
「さっきビルの警報装置が作動してね!それでウチに通報が来て、来たらこの通りだよ!」
壁を指差したロボットが、顔のモニターを点灯させた。簡単な線と円で形作られた、記号的な怒り顔。きっと夜中に急に駆り出されたのだろう。
彼に内心同情しつつ、エイミは口を開いた。
「犯人は、わかってるの?」
「それがさっぱりだよ」
もう片方のロボットがエイミに学生証を返しつつぼやいた
「こんなものがあったけれど、これだけじゃねぇ」
そういってロボットが見せたのは、白いビニール袋だった。エイミの知らないブランドのロゴがプリントされており、袋の口からはアルパカだかカバだか、今一つ判然としないぬいぐるみが顔を出している。 - 38二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 10:10:48
ルカの…?
- 391◆iT7WvLBL2aBf25/08/23(土) 18:24:52
- 40二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 00:10:57
- 41二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 09:59:01
草
- 421◆iT7WvLBL2aBf25/08/24(日) 11:44:43
「まあ、悪戯かな。まったく、困ったものだよ」
「ふぅん……」
警備員が話すのを聞きながら、エイミは腕を組んで思案する。視線の先は、警備員の持つビニール袋だ。
──置き忘れるようなものでは無いよね、これ。
これが電車であれば、置き忘れるということも起こりえるだろう。だがここは街中で、人通りの少ない裏路地だ。初めから置いていくつもりだった、あるいは置いていかざるを得なかった。そう捉えるのが妥当だろう。
──じゃあ、その動機は何?
「ねえ、この辺り少し見ても良いかな?」
「うん?まあ構わないけど……この後ヴァルキューレを呼ぶから、あまり散らかさないでくれよ?」
「わかった、気を付ける」
警備員に一声かけたエイミは、スマホを取り出しライトを点け、路面を照らす。彼女は目を凝らし、袋の持ち主が“そう”せざるを得なかった理由……あるいはその痕跡を探し始めた。 - 431◆iT7WvLBL2aBf25/08/24(日) 11:47:52
──それは、程なくして見つかった。
- 441◆iT7WvLBL2aBf25/08/24(日) 13:05:13
アスファルトに、黒ずんだシミがある。高い所から水滴が落ち、はじけて飛沫を散らしたような形のシミだ。
エイミは近くでしゃがむと、シミに指を伸ばしてそっと触れた。ぬるりとした生乾きの感触がして、彼女の指先に粘性のある液体が擦り付けられる。そうしてみると、それが暗い赤色をしている事が分かった。鼻に寄せて息をすると、錆びた鉄の匂いがする。味まで確かめようとは思わなかった。そうするまでもなく、正体はわかったから。
「……血」
エイミは光源代わりのスマホを傾け、路地の先を照らす。そうすると、同じようなシミが点々と続いているのが見て取れた。
彼女は立ち上がると、それを追って歩き出す。痕跡を見失わない様に目を凝らし、足取りは慎重に。だがその追跡も路地の終点、駅前の広場に出るまでだった。ここから先は人通りも多く、地面の痕跡を辿るのは難しい。
仕方ない、とエイミはヒマリに通信を入れた
「……部長。いま私がどこにいるかわかるよね」
「ええ、もちろん」
「じゃあ、この路地を通ったか調べて欲しい。できる?」
「……なにかありましたか?」
「手がかり、見つけたかも。それで……できる?できない?」
「エイミ、エイミ。質問が違いますよ」
「……はぁ。どれくらいかかる?」
「エイミが帰ってくる頃には、終わっていますよ」
「じゃあ、おねがい。詳細はその時に話すね」
エイミは通信を切ると、駅に向かって歩き出した。 - 451◆iT7WvLBL2aBf25/08/24(日) 13:21:47
一日が終わろうとしている。夜が更けていく。
空には、月が輝いていた。 - 46二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 22:36:03
うわ…
- 47二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 22:43:10
ルカはどこに…?
- 481◆iT7WvLBL2aBf25/08/24(日) 23:39:20
すみません、少し体調悪いので明日の更新お休みするかもしれません
- 49二次元好きの匿名さん25/08/25(月) 08:50:03
お疲れ様です
- 50二次元好きの匿名さん25/08/25(月) 18:20:10
保守
- 51二次元好きの匿名さん25/08/25(月) 22:13:38
お大事に
- 521◆iT7WvLBL2aBf25/08/25(月) 23:22:40
気圧由来の頭痛だと思っていたら普通に発熱がありました
ウケる
すみませんが、体調が戻るまで更新頻度落ちます - 53二次元好きの匿名さん25/08/26(火) 08:24:36
それはそれは
お大事に - 54二次元好きの匿名さん25/08/26(火) 16:44:16
保守
- 551◆iT7WvLBL2aBf25/08/26(火) 20:09:58
保守ありがとうございます
解熱剤で発熱と頭痛を誤魔化し作業しています
それでこのままお待たせするのもなんなので…質疑応答やら小ネタの開示なので場を繋ごうかと
何か質問あれば答えられる範囲で答えるのでお気軽にどうぞ - 56二次元好きの匿名さん25/08/27(水) 00:38:54
大洲カノンの得物(「特にこれといったカスタムの施されていない、シンプルな外観の拳銃」×2)って、モデルは決めてあるんですか?
- 571◆iT7WvLBL2aBf25/08/27(水) 08:05:35
- 581◆iT7WvLBL2aBf25/08/27(水) 17:05:51
体調も少しずつ戻ってきました
明日くらいから再開できれば、と思います - 59二次元好きの匿名さん25/08/27(水) 23:42:18
保守
- 60二次元好きの匿名さん25/08/28(木) 08:39:17
- 61二次元好きの匿名さん25/08/28(木) 17:55:26
健康は大事
- 621◆iT7WvLBL2aBf25/08/28(木) 22:34:51
──夢を見た。
まだワイルドハントの寮で生活していたころの夢。ずっとあこがれていた学校で、大好きなものを学ぶ日々の追憶。
夜鍋してシナリオを書いたこともあった。撮影のロケーションを探して一日中歩き回ったこともあった。一週間かけて撮影したシーンを泣く泣くカットしたこともあった。寮監隊に追い回されて必死に逃げ回ったこともあった。
過去の日々、思い出にしてしまった記憶。未だに夢に見るのは、未練か、後悔か。あるいは…… - 631◆iT7WvLBL2aBf25/08/28(木) 23:15:03
アラームが鳴り響く。一日の始まりを告げる、無機質でけたたましい電子音。
「んん……」
顔のすぐ近くで騒ぐスマホに、カノンは不機嫌そうに唸ると布団を頭まで被った。
──眠い。まだ、寝る……
彼女はそのまま布団の中から腕だけを伸ばして、スマホを手で探る。だが、あてずっぽうに振り下ろされる手は、何もない布団を叩くばかり。そうする間にも、アラームは起きろと騒ぎ続ける。
「………う゛―……」
痺れを切らしたカノンは、のっそりと上半身を起こしてスマホを手に取った。そうして画面をタップし、アラームを止めた。その時に、ちりと目を擽られた様な感覚がして、彼女は首を回す。カーテンの隙間から、くっきりとした朝日が部屋に伸びてベッドにまで届いていた。
「まぶし……」
ぐしぐしと目を擦り、カノンは起き上がった。眠気はすっかりどこかへ行ってしまっていた。 - 641◆iT7WvLBL2aBf25/08/28(木) 23:16:18
見ていた夢の記憶も、また同じように。
- 651◆iT7WvLBL2aBf25/08/28(木) 23:25:24
今日は、何の仕事入れてたっけ……?カノンはお腹を掻きながら、まだ鈍い頭で思い出そうとして……
「……ああ、休みじゃん」
すぐに、今日をオフにしていたことを思い出した。
大きな儲けがあったから、一日休んで家事に当てる。そう思って寝たはずなのに、普段仕事がある日と同じように起きてしまった。
寝ときゃよかったな。カノンは細やかな後悔を抱きつつ、シャワーを浴びるために風呂場に向かった。 - 66二次元好きの匿名さん25/08/29(金) 08:41:52
まぁ早起きは3文の得って言うし
- 67二次元好きの匿名さん25/08/29(金) 16:24:40
たまにはそんな日もあって良い
- 681◆iT7WvLBL2aBf25/08/30(土) 01:03:13
──まあ、考え様か。
寝間着を脱ぎつつカノンは思う。前向きにとらえれば、早起きしたおかげでやれることも増えたのだ。そう思って行動することは、少なくとも悪くは無いだろう。
まずは洗濯からだ。床に散らばった着替えの中からまだ新しい下着を見繕いつつ、カノンは一日の予定を立て始めた。 - 691◆iT7WvLBL2aBf25/08/30(土) 01:05:19
この先、少しお時間いただきます
- 70二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 08:58:51
- 711◆iT7WvLBL2aBf25/08/30(土) 15:40:44
- 72日本語って難しいよね25/08/31(日) 00:29:11
- 73二次元好きの匿名さん25/08/31(日) 10:13:51
⭐︎⭐︎
- 74二次元好きの匿名さん25/08/31(日) 17:54:20
保守
- 75二次元好きの匿名さん25/08/31(日) 20:48:10
- 76二次元好きの匿名さん25/09/01(月) 00:04:51
保守
- 77二次元好きの匿名さん25/09/01(月) 08:49:26
保守
- 78二次元好きの匿名さん25/09/01(月) 18:21:02
どうなるかな
- 791◆iT7WvLBL2aBf25/09/01(月) 23:39:00
割れた窓から、朝日が差し込んでいる。
キリノはそれを真剣な表情で見つめていた。
「うーん……」
唸りながら、彼女は視線を床に向ける。拳大の石と、それに混じったガラスの破片が差し込む光を反射してキラキラと輝いていた。
「……おそらく悪戯でしょう。近隣への聞き込みと見回りを強化しますね!」
「たのむよ本当に……」
キリノの言葉を聞いたロボットの警備員はやれやれと首を振った。
朝一で、生活安全局に通報があった。ビルの窓が誰かに割られたというものだった。電話を取ったフブキに上手く言い包められ押し付けられて、キリノは一人現場に赴いたという次第だ。
──今日も一日、頑張りましょう!
キリノは一人、拳を握る。 - 80二次元好きの匿名さん25/09/01(月) 23:49:21
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- 811◆iT7WvLBL2aBf25/09/01(月) 23:51:20
お待たせしました。
明日から本格的に再開していこうかと思います - 82二次元好きの匿名さん25/09/02(火) 08:38:42
はい
- 83二次元好きの匿名さん25/09/02(火) 16:42:04
保守
- 84二次元好きの匿名さん25/09/02(火) 23:17:44
キリノはどうなるかねぇ
- 851◆iT7WvLBL2aBf25/09/02(火) 23:36:07
──
────
寮のベッドで目を覚ました時には、9時を回っていた。
学校はとっくに始まっている。寝過ごした事を悔いるより先に、ルカは戸惑いを覚えた。
「……昨日どう帰ってきたっけ」
門限を気にしながらD.U.を歩いていたことは覚えている。けれど、そこから先の記憶がどうにもあやふやだった。ルカはもぞもぞと起き上がり、カーテンが引かれて薄暗い部屋を見渡す。ルームメイトが居らず広々とした部屋には、あちこちにモモフレンズのグッズが置かれている。テレビ台の上に置かれたピンキーパカと目が合って、彼女は思わず微笑んだ。
……そう、ピンキーパカだ。あれを帰った帰り道、私は近道をしようとして……
欠けていた記憶が、唐突に蘇る。びくんとルカの肩が跳ね、それから恐る恐る首筋に手を伸ばした。指先が慎重に肌をなでて、やがて小さなかさぶたを探りあてた。乾いて盛り上がった血の感触に、産毛が逆立つ
「やっぱり……」
ルカの身体が強張る。あの時襲われた事は……あの痛みや、血の流れる感触は夢ではなかったのだ。
──でも、それにしては傷の治りが早いような?あの時の感触からすると……それこそ縫合が必要な気もしたのに。
ルカは小さな疑問を抱きつつ、カーテンを掴むと何の気なしに開け放った。
一筋の陽光が、窓から飛び込んでくる。淡くも温かな冬の朝日が、ルカを包み込み…… - 861◆iT7WvLBL2aBf25/09/02(火) 23:37:23
「──あ?あ……ああ゛ぁあぁああ゛!?!?」
- 871◆iT7WvLBL2aBf25/09/02(火) 23:38:26
ルカは、絶叫した。
──痛い!痛い!痛い!!
何百本という針を刺されような。生皮を無理矢理引き剥がされたような。煮立ったお湯をかけられたような。
ルカの思いつくあらゆる痛みの例えが、ひとまとめになってなった様な苦痛が、襲ってくる……!
「い、ぎ……あぁあ゛!?あ……あぁあ゛!!!!」
ルカは床に崩れ落ちた。そのまま手足をがむしゃらに動かして陽射しから逃げ出そうとする。振り下ろす脚が、テレビ台を蹴り飛ばした。振り回す手が、モモフレンズのグッズをなぎ倒した。その甲斐あって……彼女は、部屋の暗がりに逃げ込むことに成功していた。
光が届かなくなった途端、痛みは急激に引いていった。そんなもの、初めからなかったかのように。 - 881◆iT7WvLBL2aBf25/09/02(火) 23:44:34
「……何、何……!?なん、なのよぉ……!!」
ルカは部屋の隅にうずくまり、しゃっくりを上げた。彼女は震える手でベッドの毛布を引っ張り下ろし、それを被る。
毛布の作り出す暗闇の中で、ルカは自らを抱きしめた。
何もわからない。なのに、何かが起きているのは確か。それが彼女には恐ろしくてたまらなかった。
誰かに助けを求める事すらしたくはない。それをきっかけに、また何か起きてしまったら?そんなもしもが、怖い。ぎゅっと腕に力を込めて、身体をなるべく小さく丸めて……彼女は泣きながら震えていた。 - 89二次元好きの匿名さん25/09/02(火) 23:57:13
Oh…
- 90二次元好きの匿名さん25/09/03(水) 09:00:10
つらい
- 91二次元好きの匿名さん25/09/03(水) 15:36:59
痛い…
- 921◆iT7WvLBL2aBf25/09/03(水) 15:47:53
今更ですが、流血や痛い描写があるので閲覧注意を付けておくべきだったかと
次スレ立てる時は付けておきます - 93二次元好きの匿名さん25/09/03(水) 23:07:30
- 941◆iT7WvLBL2aBf25/09/03(水) 23:45:01
おそらくはそうなりますねー
- 951◆iT7WvLBL2aBf25/09/04(木) 00:17:58
ああ、それからもう一つ
更新の頻度ですが2、3日お待たせすることになってもある程度書き溜めて更新した方が良かったりしますか? - 96二次元好きの匿名さん25/09/04(木) 10:04:30
保守
- 97二次元好きの匿名さん25/09/04(木) 19:27:04
スレ主のやり易い方でやってもらえれば
- 981◆iT7WvLBL2aBf25/09/04(木) 23:20:15
──
────
家賃の振り込みは、簡単だった。
通り掛けに目に留まったATMを操作し、振込先の口座を指定し、支払いを求められる分の万札を入れる。あとは機械に任せてしまえばいい。
「ふぅ……」
ATMが金を飲み込み、じぃじぃと音を立てる。液晶画面にはデフォルメされた札束に羽根が生えて飛んでいくアニメーションとゴシック体の「手続き中」の文字が流れている。
カノンはポケットに手を突っ込み、空を仰いだ。
──もう少し、劇的なモンだと思ってたんだけどな。
カノンは支払いの時に自分が叫ぶかもしれないと思っていた。叫ばないにしてもガッツポーズの一つくらいは取るかもしれないとも思っていた。家賃は、ここしばらくの悩みの種で、そのためにあぶない橋もわたって来たのだから。
なのに、いざその瞬間を迎えても、カノンの胸には何の波も経たない。ただ唇の隙間から長い溜息を漏らし「終わった」という実感を噛み締めるだけだ。
きっとこれのせいだ。傷の目立つ年代物のATMに目線を戻しながら、カノンは思った。こいつの操作があまりにも簡単だから、感傷を差しはさむ余地が無いのだ。 - 991◆iT7WvLBL2aBf25/09/04(木) 23:38:35
「……なーんて」
まるで詩人だな、とカノンが苦笑するのと同時に、ATMが取引明細を吐き出す。彼女はそれをとってポケットに押し込むとゆっくり歩きだした。
よく考えれば、家賃の支払いはこれっきりで終わりではない。来月になればまた同じようにやってくることだ。その度に喜ぶのも変な話だろう。
……いや、そもそも払い続けられるのだろうか?今月だってだいぶ苦労したのに、来月も同じことをやるのか?その次の月も、その先もずっとずっと。そうしていつか限界が来て、その時は……
「……今更だろ」
弱気が顔を出しそうになって、カノンはゆっくりと頭を振った。
それは最初から分かっていた事だ。それを天秤に乗せて、その上で寮から出ることを決めたのはカノン自身だ。選択には責任が伴う。学校の庇護を外れた時点で、自分の尻は自分で持つしかないのだ。
カノンは背を屈め、道を歩く。吹き付ける風は、冷たい。カノンはフードを摘まむと、目元まで引き下ろした。
「あ、カノンさーん!」
そこに、声が響いた。 - 100二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 08:02:50
世知辛いねぇ
- 101二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 16:28:38
おや、キリノか?
- 102二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 00:38:11
保守
- 103二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 09:38:38
家賃はなぁ
- 104二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 18:56:36
保守
- 1051◆iT7WvLBL2aBf25/09/06(土) 23:45:31
明日から書きます
- 106二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 08:21:08
はい
- 1071◆iT7WvLBL2aBf25/09/07(日) 17:26:30
「……キリノ?」
声の主はキリノだった。高く掲げた右手を振りながらカノンの方に駆け寄ってくる。きっちりと着込んだ、ヴァルキューレの白い制服が眩しい。
……気づかないフリすりゃよかったな。カノンは内心後悔した。
「おはようございます、カノンさん!」
「……おはよ」
カノンの傍で立ち止まったキリノは満面の笑みと共にまっすぐな目を向ける。カノンはそこから目を逸らしフードの端を指で弄ぶ。
会話が途切れる。お互いの出方を伺う気まずい時間が、二人の間に横たわる。
「……ところで」
「……そういえばさ」
二人が再び口を開いたのは、ほぼ同時だった。
声が重なる。カノンは「あー……」と唸り、言葉を引っ込めようとする。
そこにキリノが掌を差し出した。
「どうぞ、お先に!」 - 108二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 17:32:53
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- 1091◆iT7WvLBL2aBf25/09/07(日) 22:22:15
機先を制されたカノンは、観念したように目を細め、それから口を開いた。
「……今日は一人なんだな」
「え?……ああ、フブキですか」
「そうそう。この間一緒に居たやつ」
キリノと一緒に居た小柄なヴァルキューレ生。初対面のカノンから見ても、あまり職務に対する熱意を感じない少女。その姿が見えない事が少し気になったのだ。
「今朝は他にやることがあると言っていましたから……」
「……そっか」
キリノは困り顔と笑顔が半々になった表情を浮かべた。
押し付けられたな、とカノンはなんとなく察した。キリノとクラスメイトだったころに、時々見た表情だったからだ。
真面目で直向きな堅物、だけど直情的で丸め込みやすい。身も蓋もない言い方をすれば、チョロい。
カノンが知る中務キリノは、そういう人物だった。
だからクラス委員であったり、学校行事の実行委員であったりというクラスの厄介事をよく押し付けられていた。その度に、こんな風な困り笑いを浮かべて……それでも持ち前の真面目さで、一生懸命取り組んでやり遂げるのだ。 - 110二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 23:44:04
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- 111二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 08:54:47
- 112二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 18:06:54
緊張の一瞬
- 1131◆iT7WvLBL2aBf25/09/08(月) 22:57:51
「……」
カノンの口元が小さく引き攣る。奥歯を噛み締め、咄嗟に込み上げた言うべきでない言葉を飲み込む。
「そうだ、一つ聞きたいことがありまして」
幸い、キリノはそれに気付いた様子は無さそうだった。彼女はヴァルキューレの校章が入ったタブレットを取り出して、カノンの方に身を乗り出した。
「昨夜このあたりで、怪しい人物を見ませんでしたか?」
「──っ」
キリノの問いかけに、カノンの息が束の間止まる。自分のことを言われているのではないのかと思ったからだ。
学校に通っていない事に、ブラックマーケットの仕事を受けている事。カノンの日常を顧みれば“怪しい”と思われる要素には事欠かないし、何より彼女は昨日この道を通っている。エリの廃ビルからの帰り道なのだ。
カノンの頭の中では、昨日の行動が早回しのフィルムのように目まぐるしく再生されていた。
──何も変な事してないよな?うん、していないと思う……
特に思い当たる節は無かったが、不安はぬぐい切れない。 - 1141◆iT7WvLBL2aBf25/09/08(月) 22:58:57
「……なんかあったの?」
カノンは努めて平静な口調を保ち、探りを入れる。
「実はあっちの方のビルで窓ガラスが割られるという悪戯があったんです」
「ふーん……」
キリノは上半身を捻り、後方に立ち並ぶビル群を指し示した。
カノンは自分に関りが無さそうなことに内心安堵しながら、キリノの指し示す方に顔を向ける。24時間営業のジムの看板が見えて、あの辺りかな?とカノンはあたりを付けた。
「悪い、多分見てないと思う」
カノンは首を横に振った。
「そうでしたか……ご協力ありがとうございます!」
有益な情報は得られなかったが、キリノは気落ちした素振りを見せず敬礼をした。一本芯でも通したみたいに背筋をまっすぐ伸ばし、顎を引いたお手本のような姿勢だ。
きっと、こんな調子でカノンの他にも聞き込みをしていたのだろう。朝早くから面倒だろうに、嫌な顔一つ見せずに。
ざわ、とカノンの心に波が立つ。 - 115二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 23:34:11
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- 1161◆iT7WvLBL2aBf25/09/08(月) 23:37:15
「……すっかり警察って感じじゃん」
「え?」
「……あ」
キリノに聞き返されて、カノンは心の中を言葉にしてしまっている事に気が付いた。彼女はしまった、と頭を抱えそうになりながら口を開いた。
「……いや、ずっと言ってたじゃん。ヴァルキューレ行きたいって」
「ああ、そういう事でしたか!ありがとうございます!」
キリノは笑い、そのまま言葉を続ける。
「カノンさんはどうですか?最近、映画は」
何も含む所のない純粋な疑問を、カノンに投げかけた。
「……そうだな」
こういう流れになったのは、自分のせい。カノンは舌を噛み切りたくなる衝動を堪えつつ、空を仰いだ。
「……よく分かんないや」
「よく分からない、とは?」
キリノが鸚鵡返しで聞き返して来る。きっと訳が分からないって顔をしてるんだろうな。
でも……仕方ない。だって、それが本音なんだから。
カノンは息を吸って、時間をかけて吐く。白い吐息が空に上っていく。彼女はそれが消えるのを見届けてから、目線を戻した。思った通り、キリノがへの字口をしていた。
「言葉通りだよ……色々あってさ。本当にこれで良かったのかなって迷ってる」
「……えっと、つまり?」
「要はしばらく撮ってないってこと。学校にも行けてないしさ」 - 117二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 08:34:35
青春の暗黒面…
- 118二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 17:59:19
難しいよねぇ
- 1191◆iT7WvLBL2aBf25/09/09(火) 23:54:12
そう言ってカノンは曖昧に笑った。どんな表情をすればいいか、わからなかったから。
「そう、でしたか……」
あまり触れられたくない雰囲気を察したのだろう、キリノもどこか神妙な表情を浮かべている。カノンはそれを見ながらぱん、と掌を打ち鳴らした。
話は終わりだと、有無を言わさず会話を打ち切る。
キリノは何か言いたげに口をもごもごさせるが、結局言葉が見つからなかったのか何も言わず肩を落とした。
「ほら、仕事中なんだろ?いつまでもアタシにかまってる暇ないっしょ」
「……そうですね。でも、えっと……何か悩み事が合ったら相談してくださいね?」
「……まあ、そのうちな」 - 1201◆iT7WvLBL2aBf25/09/09(火) 23:55:12
キリノは深く頭を下げ、カノンから離れていく。その後ろ姿か人混みに紛れるのを見届けて、カノンは細く息を吐いた。
「……大したもんだよ」
キリノはよくやってる。ずっと行きたいと言っていたヴァルキューレに進学して、警官として充実した日々を過ごしているのだから。彼女は夢を叶えたのだ。
──アタシなんかと違ってさ
「本当に、嫌いだ」
さっきは我慢した言葉を、胸のムカつきと一緒に吐き捨てる。その言葉の向けられた先は、果たしてどこだったのか。
カノンは一層フードを引き下ろすと、そのままゆっくりと歩き出した。 - 121二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 08:20:11
溝が…
- 122二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 17:28:30
寂しいねぇ
- 123二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 00:21:42
⭐︎⭐︎
- 124二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 09:34:42
悪い方に転げ落ちちゃいそうで心配だな
- 125二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 18:19:25
保守
- 1261◆iT7WvLBL2aBf25/09/11(木) 22:43:20
次の更新、金曜深夜~土曜午前中くらいになります
- 1271◆iT7WvLBL2aBf25/09/11(木) 23:59:59
- 128二次元好きの匿名さん25/09/12(金) 08:08:20
草草の草
- 129二次元好きの匿名さん25/09/12(金) 17:39:39
好きねぇ
- 130二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 02:32:12
このレスは削除されています
- 131二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 10:27:39
保守
- 1321◆iT7WvLBL2aBf25/09/13(土) 11:52:15
──なんでこうなったんだろうな。
手が震えるのを自覚して、カノンは右手で左手首を握った。そして彼女は暗い表情のまま、記憶を辿り始めた。
まだ小学生か、それより前だったかもしれない。カノンが映画を初めて見たのは、その頃だった。時期はもう判然としないが、何を見たかははっきりと覚えている。テレビで上映していた「エリミネイター」だ。
近未来、高度に発展したコンピューターが人類を支配しようとする世界。人類はレジスタンスを結成し、徹底抗戦を掲げる。これを脅威と認識したコンピューターは、タイムマシンで過去にロボットを送り込みレジスタンス側の主要人物を抹殺させる。ロボットは冷徹に使命を達成していき、遂に最後の標的に対面した。それは重い病に侵された少女だった。
彼女は重い病に侵され、余命僅かだった。彼女は未来から来た排除者を前に少しもひるむことなく「死ぬまでに外を見たい」とロボットに懇願する。ロボットはそれを認め、二人の旅が始まった。旅路で出会った人々や少女の喜びに触れ、ロボットは人間が生きる意味を知る。そして、自分がそれを無慈悲に奪って来たことも。 - 1331◆iT7WvLBL2aBf25/09/13(土) 11:54:53
幼いカノンにとってそれは正直退屈だった。
不器用ながらも少しずつ人間味を獲得していくロボット。病室から外に出て、広い世界に心を弾ませる少女。二人の旅路を彩る、美しい景色。この映画の評価点とされているそれらの映像美もカノンにとってあまりピンとくるものでは無かった。楽しみにしていた子供向けアニメの枠を潰してやってる変なヤツ……それくらいの認識だった。
やがて映画が一区切りしてCMが始まると、やっと終わったとカノンはトイレに立った。放送枠の終了までに後45分程度あるなんてこと、当時は知る由も無かった。
そしてトイレから戻ってきた彼女は、衝撃を受けることになる。 - 1341◆iT7WvLBL2aBf25/09/13(土) 12:46:57
旅を続ける少女とロボットの前に、未来から新たなロボットが現れたのだ。少女との交流で自我が芽生えたロボットが、未来でレジスタンスに寝返ったことにより、彼もまた抹殺対象となったのだ。新たなロボットの激しい追跡が始まる。
カノンの目はテレビの画面に釘付けになった。銃撃に爆発にカーチェイス!派手なアクション!ロボットの戦いに巻き込まれて容赦なく死んでいく人々!何より撃たれても殴れれても車で轢かれても何事もなかったかのように淡々とどこまでも追いかけてくる追跡者!
それが本当に怖くて、もう二人を見逃してあげて!と拳を握ったのをよく覚えている。
ジェットコースターに乗ったかのような疾走感のまま、映画はラストシーンを迎える。ロボットは追跡者を破壊するが、自身も致命的な損傷を負ってしまう。最後の力で未来の知識である病の治療法データを少女に託し、そして自身は工場のプレス機により自壊することを選ぶ。自身の存在が、少女に危害を及ぼすことが無いように……
その物悲しくも希望が残る結末に、カノンは息を吞んだ。
こんなお話があるんだと、衝撃と感動に打ちのめされたのだ。 - 135二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 21:08:29
見覚えのある超展開…
…『トゥルーマンズ・アキンボ・ショー』(うろ覚え)の監督もしくはその師匠の作品だったりしない? - 136二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 21:22:31
なるほどなぁ
- 137二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 01:07:23
ターミ…ゲフンゲフン
- 1381◆iT7WvLBL2aBf25/09/14(日) 01:41:06
怖くて、悲しくて、ドキドキして……何より、楽しい。映画ってすごいんだ!
その日以来、カノンは映画に夢中になった。
小遣いでサブスクに加入したし、休日は近所の映画館に足繁く通った。そうして目についた映画を片っ端から見漁る日々を過ごした。
「かくも素晴らしき興行師」の酒場で繰り広げられるタップダンスと歌唱シーンに惚れ込んで初めて映画のサントラを買った。
「サヨコVSカノコ」でホラーとジャンプスケアが苦手なことを知ってそれ以来避けるようになった。
「ワイズ・ガンズ・アキンボ・ショー」のアクションシーンがあまりにも格好良くて、拳銃を衝動買いして、結局使いこなせなかったこともあった。
「エリミネーター2」の冒頭で前作に登場した少女が事故死したことがナレーションで語られて、いやお前それはふざけんなよ俳優の事情とかあるにしてもそれはよぉ!とキレ散らかした。
「ミサイルシャークVSレックススパイダー」で話題作に便乗した筆舌に尽くしがたい出来の映画があることを知った。
……そうして映画を見る日々を過ごす中で、やがてカノンは自分でも映画を撮ってみたいと思うようになったのだ。 - 1391◆iT7WvLBL2aBf25/09/14(日) 01:49:57
そんな彼女が芸術の総本山たるワイルドハントへの進学を望んだのは、半ば必然だったといえるだろう。
ワイルドハントに入学したころは、毎日が楽しかった。夜鍋してシナリオを書いたこともあった。撮影のロケーションを探して一日中歩き回ったこともあった。一週間かけて撮影したシーンを泣く泣くカットしたこともあった。寮監隊に追い回されて必死に逃げ回ったこともあった。ずっとあこがれていた学校で、大好きなものを学ぶ日々はそれだけで幸せだったのだ。 - 140二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 10:06:34
- 141二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 18:34:40
悲しいけどそれだけじゃないからね
- 142二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 00:37:53
- 143二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 00:42:17
楽しいことだけできたらいいのに
- 144二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 09:22:49
保守
- 145二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 17:43:23
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- 1461◆iT7WvLBL2aBf25/09/15(月) 23:06:31
だが、その時間も長くは続かなかった。
学業として学ぶということは、評価され点数が付けられるという事だ。それはテストであったり研究発表であったり、それぞれの学校が重んじるものによって形態が変わる。ワイルドハントの場合は、芸術評議会による創造物の査定だ。カノンも評議会からの指示に従い撮影した映画を提出した。
カノンの映画は、そこで酷評を受けた。ストーリーに目新しさがない、安直なパロディが多い、カット割りに工夫がない……その他にも沢山。だがカノンはめげなかった。今回は駄目だったけど、次は良いものを撮ってやろう!そう思ったのだ。
その日から彼女は努力をするようになった。例えば、自分にはまだスキルが足りないと考えて何冊も教本を買い込んで、そこに書いてあることを意識して撮影をするようにした。アイデアの引き出しを増やす為に週に映画を2本は見るようにした。言語化のスキルが必要だと思ったから、見た映画の感想をなるべく詳細に書き出すようにした。 - 1471◆iT7WvLBL2aBf25/09/15(月) 23:07:46
努力した。努力した。努力した。努力した。
頑張った。頑張った。頑張った。頑張った。 - 1481◆iT7WvLBL2aBf25/09/15(月) 23:09:33
……いつしか映画は、評価を取るための手段になっていた。
- 149二次元好きの匿名さん25/09/16(火) 06:59:31
無情…
- 150二次元好きの匿名さん25/09/16(火) 12:42:26
手段と目的が逆転しちゃったか
- 151二次元好きの匿名さん25/09/16(火) 22:30:58
保守
- 1521◆iT7WvLBL2aBf25/09/16(火) 23:15:26
教本を読むたびに、自分には何のスキルも無いと突き付けられるような気がした。勉強の為に映画を見る事は、やがて義務感を伴い億劫になっていった。それでもカノンは必要なことだと自分に言い聞かせて努力を続けた。
……しんどさで軋む心に、気づかないフリをして。
その後査定の機会は数度あったが、いずれも評価は散々なものだった。酷評に次ぐ酷評、貴女には努力が足りないという、無慈悲な勧告。
カノンの部屋は教本で溢れ、週に見る映画は4本に増えた。
努力した。努力した。努力した。努力した。努力した。努力した。努力した。努力した。
努力した。努力した。努力した。努力した。努力した。努力した。努力した。努力した。
努力し続けて……そして、映画と向き合うことが苦痛になった。 - 153二次元好きの匿名さん25/09/16(火) 23:17:00
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- 1541◆iT7WvLBL2aBf25/09/16(火) 23:45:19
ある日、ノルマの映画を見ようとした時に吐き気が込み上げた。それと同時に涙があふれ、立つことができなくなってしまった。
それでカノンは、自分の限界を悟った。
彼女が評議会に提出した休学届は、あっさりと承認された。己の限界に行き当たり、道半ばで膝をつくのは、ワイルドハントではさして珍しくもない話だという。芸術という各人の心の持ちように強く依存する分野な分、他の学校より多いのだろう。手続きの対応をした寮監隊の生徒は、同情するような口ぶりでカノンにそう告げた。
もっとも、カノンはそれをほとんど聞いていなかった。ワイルドハントで学ぶことを諦めてしまったという思いが、心に重くのしかかっていたからだ。自分が本当に映画を好きだったかも、分からなかった。
彼女はそのまま寮の部屋を引き払いD.U.の安普請へ引っ越した。
ワイルドハントからなるべく遠くへ。自分の挫折から目を背けていられるように。
「──はぁ」
ゆっくりと頭を振り、物思いを打ち切る。俯いたまま歩く足取りは重い。
キリノと別れて以来、カノンはあてどなく歩き続けていた。足を止めたら、そのままもっと気分が落ち込むような気がしたから。 - 155二次元好きの匿名さん25/09/17(水) 08:20:40
スランプか…