- 1広の肋骨しゃぶり太郎25/08/20(水) 18:29:45
広は力尽きた。
プロデューサーの鬼…悪魔…でも、そういうところが好き。
きょう未明広は学園を出発し、扉を越え階段を越え、十米はなれた此のグラウンドにやって来た。
広には父も、母もある。プロデューサーもある。
広は、NIAの衣裳やら小道具やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。
先ず、その品々を買い集め、それから力尽きた。
広には竹馬の友があった。チナヌンティウスである。
今は此の天川の市で、アイドルをしている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
三日くらい逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちに広は、まちの様子を怪しく思った。
ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。
のんけな広も、だんだん不安になって来た。
路で逢った毒チワワをつかまえて、何かあったのか、二日まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈はずだが、と質問した。
手毬は、ぬい化して答えなかった。 - 2広の肋骨しゃぶり太郎25/08/20(水) 18:30:49
しばらく歩いて学園長に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。学園長は答えなかった。広は両手で学園長のからだをゆすぶって質問を重ねた。
学園長は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「プロデューサーは、人を走らせます。」
「どうして走らせるの?」
「脂肪を抱いている、というのですが、誰もそんな、脂肪を持っては居りませぬ。」
「たくさん走らせたの?」
「はい、はじめは月村手毬を。それから、てまぬいを。それから、毒チワワを。それから、ヒシミラクルを。それから、オグリキャップを。それから、太り気味の手毬を。」
「おどろいた。プロデューサーは乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。トレーニングが足りない、というのです。このごろは、広ちゃんの体力をも、お疑いになり、少し昼寝をしている美鈴には、人質(手毬)ひとりを差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば校庭十周に処されます。きょうは、六十周走らされました。」
聞いて、広は興奮した。「ふふ、プロデューサーは鬼畜。そんなことされたら死んじゃう。でもそういうところが好き。」
広は、ドMな女であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ学園にはいって行った。広は力尽きた。たちまち彼女は、普通科の生徒に保健室まで連れていかれた。
プロデューサーは広に会いに行った。
「篠澤さん、流石に体力が無さすぎます。」
「枕がデカすぎます!」
通りすがりのアリスはモモイに連れていかれた。 - 3広の肋骨しゃぶり太郎25/08/20(水) 18:32:09
「ともあれ、篠澤さんには強化合宿をしてもらいます。」
「ふふ、ままならないね。私は、ちゃんと死ぬ覚悟はできてるよ。命乞いなんかしない。ただ、――」と言いかけて、ヒロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、
「ただ、私に情をかけたいつもりなら、合宿までに三日間の日限を与えてほしい。たった一人の星南会長に、ことねを持たせてあげたい。三日のうちに、私はことねの身柄を会長に引き渡して、必ず、ここに帰って来る。」
「やめてあげてください。」と暴君は、憐憫の声で低く制した。
「私は約束を守る。私を、三日間だけ許して。星南が、ことねの帰りを待ってる。そんなに私を信じられないなら、この学園にチナヌンティウスというアイドルが居る。私の無二の友人だよ。千奈を、人質としてここに置いて行く。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を校庭十周にして。」
それを聞いてプロデューサーは、残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。
「まあ、倉本さんも篠澤さんと同じくらい虚弱ですから、少しトレーニングをさせるのもいいかもしれませんね。」
竹馬の友、チナヌンティウスは、白昼、学園に召された。暴君プロデュオニスの面前で、佳き友と佳き友は、三日ぶりで相逢うた。
広は、友に一切の事情を語った。チナヌンティウスは無言で青ざめ、広をポカポカ叩いた。広は力尽きた。
チナヌンティウスは、縄打たれた。広は、すぐに出発した。初夏、カンカン照りの空である。広は力尽きた。 - 4広の肋骨しゃぶり太郎25/08/20(水) 18:33:11
広はその夜、爆睡したあと十里の路をタクシーに乗って急ぎに急いで、藤田家へ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、ちびたちは外に出て学校へ行っていた。ことねも、きょうはバイトをしていた。
よろめいて歩いて来る広の、広う困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく広に質問を浴びせた。
「なんでも無い、よ。」広は無理に笑おうと努めた。
「学園に用事を残して来た。またすぐ学園に行かなきゃ。明日、ことねを会長に引き渡す。早いほうがいい。」
ことねは逃げ出した。
広は、また、よろよろと歩き出し、タクシーに乗ってことねを追いかけ、捕まえて監禁し、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
眼が覚めたのは夜だった。広は起きてすぐ、星南の家を訪れた。
そうして、少し事情があるから、ことねを引き取りに来てほしい、と頼んだ。
星南は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、地下室の完成まで待ってくれ、と答えた。
広は、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。
星南の星南も剛直であった。なかなか承諾してくれない。
夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか星南をなだめ、すかして、説き伏せた。取引は、真昼に行われた。
ことねの、星南への引き渡しが済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。
拉致に協力していた十王の使用人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺え、陽気に歌をうたい、手を拍った。
広も、満面に喜色を湛え、しばらくは、プロデューサーとのあの約束をさえ忘れていた。 - 5広の肋骨しゃぶり太郎25/08/20(水) 18:34:12
祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ(意味深)華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。
何処かから聞こえてくる「エッチなのは駄目!しけぇ!」の声に気付く者さえ、誰もいなくなった。
広は、一生このままここにいたい、と思ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。
ふふ、ままならないね。
広は、わが身に鞭打ち、ついに力尽きた。
あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。
その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。広ほどの女にも、やはり未練の情というものは在る。
今宵呆然、歓喜に酔っているらしい星南に近寄り、
「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに学園に出かける。大切な用事があるんだ。私がいなくても、もう会長にはことねが居るから、寂しく無いね。」
星南は、夢見心地で首肯いた。広は、それからことねの肩をたたいて、
「ふふ、ままならないね、ことね。頑張って。」
ことねは全力で抵抗した。
広は笑って使用人たちにも会釈して、宴席から立ち去り、寝室にもぐり込んで、死んだ。AED使用数+1
眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。広は跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。
きょうは是非とも、あのプロデューサーに、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑って力尽きてやる。広は、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。さて、広は、ぶるんと両腕を大きく振って、力尽きた。 - 6広の肋骨しゃぶり太郎25/08/20(水) 18:35:20
若い広は、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。えい、えい、むんと大声挙げて自身を叱りながら走った。屋敷を出て、庭を横切り、門をくぐり抜け、駐車場に着いた頃には、雨も止み、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。
広は額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや人生への未練は無い。星南たちは、きっと佳い夫婦になるだろう。私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐに学園に行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、メクルメをいい声で歌い出した。
ぶらぶら歩いて二米行き三米行き、そろそろ(タクシーまでの)全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、広の足は、はたと、とまった。
見よ、前方の排水溝を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に道路を侵食し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に広のメンタルを跳ね飛ばしていた。
彼女は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟なんかあるわけもなく、当然渡守りの姿も見えない。
流れはいよいよ、ふくれ上り、水溜りのようになっている。広は川村にうずくまり、女泣きに泣きながらあさり先生に手を挙げて哀願した。
「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、学園に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために死ぬのです。」
濁流は、広の叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。
今は広も覚悟した。渡り切るより他に無い。ああ、トレーナーたちも照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。
広は、ざんぶと流れに飛び込み、のた打ち荒れ狂いながら、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、運転手も哀れと思ったか、ついに車を近くに寄せてくれた。
押し流されつつも、見事、タクシーの座席に、すがりつく事が出来たのである。ありがたい。 - 7広の肋骨しゃぶり太郎25/08/20(水) 18:36:34
広は馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。ぜいぜい荒い呼吸をしながら車で峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一台のパトカーが躍り出た。
「待て。」
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに学園へ行かなければならぬ。放せ。」
「どっこい放さぬ。署までご同行願いたい。」
「さては、ことねの通報で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」
警察たちは、ものも言わず一斉にサイレンを鳴らし始めた。
運転手はアクセル全開でコーナーを攻め、「気の毒だが正義のためだ!」と猛然一撃、たちまち、慣性ドリフトを決め、パトカーのひるむ隙に、さっさと走って峠を下った。
一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、広は幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三回座り直し、ついに、力尽きた。
起き上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。
ああ、あ、濁流を渡り切り、パトカーを三台も撒いて韋駄天、ここまで突破して来た広よ。真の勇者、ヒロスよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。
愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。おまえは、稀代の不信の人間、まさしくプロデューサーの思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。
シートを倒してごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った。 - 8広の肋骨しゃぶり太郎25/08/20(水) 18:38:28
私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無い。
ああ、できる事なら私の胸を截ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。
けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。私は、よくよく不幸な女だ。私は、きっと笑われる。私の一家も笑われる。私は友を欺いた。
中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定った運命なのかも知れない。チナヌンティウスよ、ゆるしてくれ。君は、いつでも私を信じた。私も君を、欺かなかった。私たちは、本当に佳い友と友であったのだ。
いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。いまだって、君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。ありがとう、チナヌンティウス。よくも私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。
チナヌンティウス、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、みじんも無かった。信じてくれ!
私は急ぎに急いでここまで来たのだ。濁流を突破した。警察の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。私だから、出来たのだよ。ああ、この上、私に望み給うな。放って置いてくれ。どうでも、いいのだ。私は負けたのだ。だらしが無い。笑ってくれ。
プロデューサーは私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした(※してません)。
おくれたら、身代りを殺して、私を助けてくれると約束した(※してません)。
私はプロデューサーの卑劣を悦んだ。けれども、今になってみると、私はプロデューサーの言うままになっている。私は、おくれて行くだろう。プロデューサーは、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。そうなったら、私は、死ぬよりつらい。
私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。チナヌンティウスよ、私も死ぬぞ。君と一緒に死なせてくれ。君だけは私を信じてくれるにちがい無い。いや、それも私の、ひとりよがりか?
ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。 - 9広の肋骨しゃぶり太郎25/08/20(水) 18:39:38
学園には私の夢が在る。優も居る。星南夫婦は、まさか私を学園から追い出すような事はしないだろう。
正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。
ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉かな。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。
すぐ耳もとで、水が流れているらしい。よろよろ起き上って、見ると、運転手が何か小さく囁きながらOS-1を持っていた。
そのペットボトルに吸い込まれるように広は身をかがめた。ボトルを両手で受け取って、一くち飲んだ。
ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。
歩ける。
行こう。
肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。わが身を殺して、名誉を守る希望である。斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。
日没までには、まだ間がある。私を、待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。
私は、信じられている。私の命なぞは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。
走れ! 篠澤。
私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。
五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。広、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。再び座れるようになったではないか。ありがたい! - 10広の肋骨しゃぶり太郎25/08/20(水) 18:40:41
私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、初星よ。私は生れた時から正直な女であった。ままになってから死なせて下さい。
路行く人を押しのけ、跳ねとばし、タクシーは黒い風のように走った。
校庭で普通科の、その部活のまっただ中を駈け抜け、陸上部の人たちを仰天させ、横乳を轢きとばし、小鹿を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。
一団の生徒会と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。
「いまごろは、あの女も、医者にかかっているよ。」
ああ、その女、その女のために私は、いまこんなに走っているのだ。その女を死なせてはならない。急げ、タクシー。おくれてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。
風態なんかは、どうでもいい。広は、いまは、ほとんど白骨体であった。
呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。はるか向うに小さく、初星の学園のエントランスが見える。エントランスは、夕陽を受けてきらきら光っている。
「あ゛あ゛、広゛ち゛ゃ゛ん゛!!」うめのような声が、車のドアを閉める音と共に聞えた。
広はその音圧により力尽きた。
「誰だ。」広は復活しながら尋ねた。
「ウ゛メ゛ス゛ト゛ラ゛ト゛ス゛だ゛よ゛!!!!広゛ち゛ゃ゛ん゛の゛お゛友゛達゛チ゛ナ゛ヌ゛ン゛テ゛ィ゛ウ゛ス゛様゛の゛お゛友゛達゛だ゛よ゛!!!!」
その若いアイドルも、広の後について走りながら叫んだ。広は力尽きた。
「も゛う゛、駄゛目゛だ゛よ゛!む゛だ゛だ゛よ゛!!走゛る゛の゛は゛や゛め゛て゛!!!広゛ち゛ゃ゛ん゛が゛死゛ん゛じ゛ゃ゛う゛!!!!」
広は力尽きた。 - 11広の肋骨しゃぶり太郎25/08/20(水) 18:42:01
「いや、まだ陽は沈まない、よ。」
「ち゛ょ゛う゛ど゛今゛、千゛奈゛ち゛ゃ゛ん゛が゛救゛急゛搬゛送゛さ゛れ゛る゛と゛こ゛ろ゛だ゛よ゛!!!!あ゛あ゛、広゛ち゛ゃ゛ん゛は゛遅゛か゛っ゛た゛!!!!!ほ゛ん゛の゛少゛し゛、も゛う゛ち゛ょ゛っ゛と゛で゛も゛、早゛か゛っ゛た゛な゛ら゛!!!!!!!!」
広は力尽きた。
「いや、まだ陽は沈まない。」広は鼓膜の張り裂ける思いで、赤く大きいうめパイばかりを見つめていた。走るより他は無い。
「や゛め゛て゛!!走゛る゛の゛は゛、や゛め゛て゛!!!い゛ま゛は゛広゛ち゛ゃ゛ん゛の゛命゛が゛大゛事゛だ゛よ゛!!!!千゛奈゛ち゛ゃ゛ん゛は゛、あ゛な゛た゛を゛信゛じ゛て゛た゛!!!!!校゛庭゛に゛引゛き゛出゛さ゛れ゛て゛も゛、平゛気゛だ゛っ゛た゛!!!!!!プ゛ロ゛デ゛ュ゛ー゛サ゛ー゛さ゛ん゛が゛、さ゛ん゛ざ゛ん゛千゛奈゛ち゛ゃ゛ん゛を゛走゛ら゛せ゛て゛も゛、『篠澤さん、早く来てくださいませ~!』、と゛だ゛け゛答゛え゛て゛、倒゛れ゛ち゛ゃ゛っ゛た゛よ゛!!!!!!!!!!!」
広は力尽きた。
言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、広は走った。
広の頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。
ただ、佑芽のわけのわからぬくらい大きな力にひきずられて走った。
陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、広は疾風の如く保健室に突入した。間に合った。
「待って。千奈を死なせちゃだめ。広が帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」と大声で保健室の生徒たちにむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかり、生徒は、ひとりとして彼女の到着に気がつかない。
すでに救急隊員が担架を用意し、点滴を打たれたチナヌンティウスは、徐々に運ばれてゆく。 - 12広の肋骨しゃぶり太郎25/08/20(水) 18:43:09
広はそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を渡ったように生徒を掻きわけ、掻きわけ、
「私だよ、お医者さん!運ばれるのは、私だよ。広だ。彼女を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫んだつもりであったが、そもそも広の声はか細く、聞き取り辛いので、結局佑芽が話を付けた。
ついに寝台に昇り、死にゆく友の両足に、齧りついた。生徒は、どよめいた。早く運べ。治療しろ、と口々にわめいた。チナヌンティウスの救い帯は、ほどかれたのである。
「チナヌンティウス。」広は眼に涙を浮べて言った。
「私を殴って。ちから一ぱいに頬を殴って。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無い。殴って。」
チナヌンティウスは、辛うじて取り戻した意識で首肯き、保健室一ぱいに鳴り響くほど音高く広の右頬を殴った。
広は力尽きた。
殴ってから優しく微笑ほほえみ、
「篠澤さん、私を殴ってくださいませ。同じくらい音高く私の頬を殴ってくださいませ。私はこの三日の間、何度も貴女を疑いましたわ。生れて、はじめて貴女を悪魔かと思いましたわ。貴女が私を殴ってくれなければ、私は篠澤さんと抱擁できませんわ。」
広は腕に唸りをつけてチナヌンティウスの頬を殴った。
千奈は力尽きた。ついでに広も力尽きた。
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
生徒の中からも、歔欷の声が聞えた。暴君プロデュオニスは、生徒の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をしかめて、こう言った。
「お二人とも、体力が無さすぎます。追加トレーニングです。」
広は力尽きた。 - 13二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 18:47:51
広が裸になってない?!
- 14二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 18:49:08
なんだこれは(なんなんだこれは)
- 15二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 18:55:25
ヒロスが遅れてチナヌンティウスに刑を執行されるのも、暴君に愛が届かず2人仲良く殺される展開も初めて見た。
ヒロスとチナヌンティウスよ。安らかに眠れ - 16二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 19:32:23
感動した
- 17二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 20:08:13
ちょくちょく挟まる他校の生徒たちは何なんだ
- 18二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 20:17:35
プールじゃなくてよかったなヒシミー
- 19二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 20:19:25
- 20二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 22:20:55
途中まで集中して読んでたのにスレ主のクソみたいな名前で途中から頭が混乱してきた
- 21二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 22:54:26
久方ぶりの初星文学で感動し…なんだこれは…
- 22二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 23:15:00
走れメロスも二次創作なんだよね
こんなテンションで書いたのかなあ - 23二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 00:54:52
しれっと轢き飛ばされる推定アコで草