【SS注意】『あたしだけのトレーナーさん』

  • 1二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 22:52:34

    「トレーナーさん、おはようございます!」

    明るい声と同時に、勢いよくドアが開いた。
    入ってきたのは、いつものように尻尾をぴょこぴょこ揺らしながら笑顔を見せるシオン。手にはバンダナで包まれた弁当箱が二つ。

    「おはよう、シオン。今日も元気だね」
    「はいっす! で、これ――今日も作ってきたっすよ」

    机の上に置かれた弁当からは、ほのかに湯気と香りが漂ってくる。卵焼き、ウインナー、マカロニサラダ。お馴染みの品揃えだが、彩りが前より鮮やかだ。

    「ありがとう。でも毎日大変じゃない?」
    「全然っす。むしろ、トレーナーさんに食べてもらえる方が嬉しいんすから」

    にこにこしながら箸を渡してくるその仕草が、自然とこちらの口元を緩ませる。一口食べれば、優しい味が広がった。

    「……うん、今日も美味しいよ」
    「えへへ……やったっす」

    そんな穏やかな時間が流れていたのに、ふとシオンの耳がぴくりと動いた。彼女の鼻先が微かに動き、こちらの周囲の空気を探るようにクンクンと嗅ぐ。

    「……トレーナーさん、なんか今日、いつもと違う匂いがするっす」
    「え、そう?」
    「うん……甘酸っぱいっていうか、柑橘っぽい感じ」

  • 2二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 22:54:02

    俺は一瞬考え、昨日の出来事を思い出す。たまたま廊下で他の娘とぶつかって、落とした香水瓶を拾う時に腕に少しかかった――あれか。

    「ああ、多分昨日、他の娘の香水がちょっと掛かっちゃったんだよ」
    「……他の娘?」

    その一言で、空気がわずかに張り詰めた。シオンの耳がぴたりと止まり、表情から笑顔が消える。

    「その娘って……誰っすか?」
    「いや、本当に偶然で――」
    「偶然でも、そんなに匂いが残るくらい近くにいたってことっすよね」

    声が少し低くなる。彼女は机に肘をつき、俺の顔を真っ直ぐ覗き込んできた。その瞳は、笑っていない。

    「シ、シオン?」
    「……他の娘の匂いがするトレーナーさんなんて、嫌っす」

    言葉と同時に、尻尾が俺の椅子の脚に絡みつく。ふわふわした毛並みの感触とともに、ゆっくり、じわじわと締め付けるような圧。

    「トレーナーさんは……あたしだけのもんっす」

    背筋をなぞるように、ひやりとした緊張が走った。

    「……あたしのことだけ見てればいいんすよ」

    低く、甘く、でも有無を言わせない囁き。言葉の余韻がまだ耳にこびりついているうちに、シオンは俺の身体から尻尾を解いた。ホッと息を吐きかけたその瞬間――

  • 3二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 22:55:02

    カチャリ

    乾いた小さな音が、トレーナー室の空気を変えた。顔を上げると、シオンがドアの前に立ち、ドアノブに手をかけたままこちらを振り返っている。鍵穴の中には、しっかりと鍵がかかった証拠の金属光沢。

    「……シオン、それって」
    「鍵、閉めたっす」

    何でもないように言うが、その笑顔は妙に静かで、背筋をひやりとさせる。目元だけが笑っていない。

    「今日は……あたしとトレーナーさんだけの時間にするっす。他の誰にも、絶対に邪魔させない」
    「……でも、そろそろ練習の時間が」
    「平気っす。ちょっと遅れても、あたしが倍練習すればいいんすから」

    そう言ってシオンはゆっくり歩み寄ってくる。
    床板がきしむたびに、閉ざされた室内の静けさが際立った。そして、目の前まで来ると、彼女の尻尾が再び俺の腰に回りつく。柔らかくてふわふわなのに、その締め付けは意外なほど強い。後ずさりすれば、すぐ後ろに机の角。もう逃げられない。

    「……匂い、まだ残ってるっすね」

    シオンの耳がぴくりと動き、鼻先が俺の首筋へ近づく。次の瞬間、ひたり、と微かな体温が触れた。そのまま彼女は深く息を吸い込み、まるで匂いを確かめるようにゆっくり吐き出す。

  • 4二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 22:56:02

    「やっぱり……他の娘の匂い。気に入らないっす」
    「……それは、昨日の――」
    「聞きたくないっす。偶然でも、そんなの嫌」

    尻尾の力がさらに増す。腰が引き寄せられ、距離がほとんどゼロになる。顔を上げたシオンの瞳は、真っ直ぐに俺を射抜いていた。甘さと同じくらい、強い独占欲が光っている。

    「……全部、あたしの匂いで上書きしちゃえばいいっすよ」

    耳元に落ちる声は、吐息と一緒に熱を帯びて肌を撫でる。背中を走るぞくりとした感覚。鍵をかけられた部屋は、外の音すら遮断され、息づかいと心臓の鼓動だけがやけに大きく響く。

    シオンは俺の肩に手を置き、さらに身を寄せた。鼻先が頬をかすめ、耳元を通り過ぎて首筋へ。

    その瞬間、俺はようやく気付く。この部屋から、今すぐには出られない。そして彼女は、出すつもりがない。

    「……ん、やっぱりここっすね。トレーナーさんの匂いが一番濃い場所」

    首筋にかかる温かい息が、ぞわりと肌を撫でる。シオンはそこから動かず、ゆっくりと自分の額を預けてきた。尻尾はまだ腰をしっかりと抱え込んだまま、微妙に力を緩めたり強めたりしている。

    「……こうしてると、あたしだけのもんって感じがして、安心するっす」

    囁くように言いながら、彼女は顔を上げる。至近距離にある瞳は、さっきよりも少し柔らかくなっていたが、底に沈む熱は消えていない。

    「……トレーナーさんは、あたしのこと……ちゃんと見てくれてるっすよね?」
    「もちろんだよ。俺は――」
    「『もちろん』って、簡単に言わないでほしいっす。ちゃんと、ずっと、あたしだけを見ててほしいんすよ」

    そう言うと、シオンは俺の胸に耳を押し当てた。静かな室内に、互いの心音が重なって響く。

  • 5二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 22:57:04

    「……ねぇトレーナーさん。このまま、練習なんて行かなくてもいいっすよ。今日は……あたしのためだけに時間、使ってほしいっす」

    甘えたような声なのに、拒否を許さない圧が滲む。尻尾の締め付けはほんの少し緩んだが、それでも完全には解かれない。

    「分かったよ。今日は、シオンのための時間にする」
    「……っ! やった……!」

    ぱっと笑顔が咲く。その瞬間、尻尾が嬉しそうにふわふわ揺れ、腰を抱えたまま小さく跳ねた。

    「じゃあ……まずは、トレーナーさんの匂い、全部あたし色に染め直すっす」

    そう言って、シオンは再び首筋へ顔を寄せ、今度は深く、長く息を吸い込んだ。外の世界は鍵ひとつ隔てた向こう側にあるはずなのに、この部屋だけは、彼女の領域になっていた。

    どれくらい経っただろう。時計は見ていない。けれど、外から差し込む光の角度が変わり、部屋の中の影が長く伸びている。

    シオンはずっと俺のそばから離れなかった。最初は首筋や肩に顔を寄せ、俺の匂いを確かめるようにしていたが、やがてそれは、手を絡める仕草や膝を重ねる距離へと変わっていった。

    「……ほら、もう他の娘の匂いなんて、どこにも残ってないっすよ」

    そう言いながら、彼女は俺のシャツの襟を軽く摘まんで鼻先に近づけ、満足そうに微笑む。その笑みには、最初に見せた鋭さはもうなく、柔らかい甘さだけが残っている。

    「これで、あたしだけのトレーナーさん……完全に完成っす」

    俺が何か言おうとすると、シオンはその言葉を小さく首を振って遮った。そして、尻尾で俺の腰を再び抱き寄せる。

    「もう少し……このままでいいっすよね?」

  • 6二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 22:58:05

    逃げ道のない問いかけ。でも、不思議と拒む気にはなれなかった。彼女の体温も、耳元で聞こえる静かな呼吸も、この部屋の空気に溶け込んでいる。

    鍵のかかったドアの向こうでは、きっと練習の声や足音が響いているはずだ。だがここは、完全に隔絶された小さな世界。

    「……ね、トレーナーさん。今日みたいな時間、また作ってもいいっすか?」
    「ああ……でも、やっぱり練習も――」
    「……あたしが許すときだけ、っすよ」

    そう言って、シオンは少しだけ悪戯っぽく笑い、俺の肩にもたれかかった。窓の外の陽は、もう傾き始めている。けれど、この部屋にいる限り――時間は、彼女のためだけに流れていた。

    窓の外はすっかり夕方の色に染まり、オレンジ色の光が机の端を柔らかく照らしている。俺はようやく、長く続いた静かな密室の時間から現実に意識を戻し始めた。

  • 7二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 22:59:05

    「……そろそろ、鍵を――」
    「んー……まだダメっす」

    シオンは俺の言葉を遮るように、尻尾で腰をきゅっと抱き寄せた。その表情は笑っているのに、瞳の奥は真剣そのものだ。

    「この時間を終わらせるのは、あたしがいいって言った時だけっす。トレーナーさんに逃げられるの、嫌だから」

    その声音には、甘えと命令が半分ずつ混じっていた。俺は苦笑しながらも、その視線から目を逸らせない。

    しばらくして、シオンは小さくため息をつき、俺の胸に額を押し付けた。尻尾はまだ腰を抱いているが、締め付けは少しだけ緩んでいる。

    「……でも、そろそろ帰さないと、他の人に怪しまれるっすね」
    「そうだな。練習も終わってる頃だろうし……」
    「……仕方ないっす。今日はここまでにしてあげるっす」

    不満そうに言いながらも、ようやく尻尾が俺の腰から解けた。ドアへ向かったシオンは、名残惜しそうに振り返り、ゆっくりと鍵を回す。カチリ――静かな音が、閉ざされていた世界を解放した。

    廊下の空気が流れ込む。その瞬間、シオンは小さく笑い、俺の耳元にそっと囁いた。

    「……でも次は、もっと長くあたしのもんにするっすから。覚悟しててくださいっす」

    そう告げて、何事もなかったかのように扉を開け、いつもの明るい笑顔に戻った。だが、あの部屋で過ごした時間の熱は、まだ胸の奥でくすぶり続けていた。

  • 8二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 23:00:06

    おしまいです。独占欲が高いシオンが見たくて書いてみました

  • 9二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 23:13:32

    えっちだぁ……

  • 10二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 23:29:14

    日常の何気ないやり取りから、一気に甘さと独占欲が濃密になる展開がすごく魅力的でした。シオンの可愛さと支配力のギャップがたまらなく、密室でのやり取りはドキドキしっぱなし。解放のタイミングすら彼女が握っている描写も最高でした。

  • 11二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 23:36:40

    嫉妬からのつよつよシオン良すぎる
    チカラじゃ絶対勝てない前提での独占されるのがたまらん

  • 12二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 23:46:26

    ほう 独占欲増しシオンですか…
    たいしたものですね
    独占欲を剥き出しにしたウインバリアシオンはエネルギーの効率がきわめて高いらしく
    レース直前に愛飲するオルフェーヴルもいるくらいです余

    それにトレーナー室の密室に尻尾ハグ
    これも即効性のトレウマ食です
    しかも嫉妬心もそえて栄養バランスもいい

    それにしても学園の中だというのにあれだけ密着できるのは超人的な独占力というほかはない余

  • 13二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 23:48:12

    >>9

    シオンの甘くて独占的な部分、しっかり響いたみたいで何より!

    >>10

    わぁ、そこまで読んでくれてありがとう!シオンのギャップや密室でのやり取り、ドキドキしてもらえたなら書いた甲斐があるよ!

    >>11

    嫉妬からのつよつよシオン、やっぱ最高だよね。力じゃ勝てないけど甘えつつも強い…そのギャップを楽しんでもらえて嬉しい!

  • 14二次元好きの匿名さん25/08/20(水) 23:54:45

    >>12

    コメントしてくれてありがとうだ余!確かに独占欲増しシオンは効率抜群ですよね。密室での尻尾ハグや嫉妬のスパイスも入って、トレーナー心への即効性は間違いなしです。

    学園内であれだけ密着できるのも、もはや“超人的独占力”の成せる業ですよね!

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